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『嫌い』…でも……
ーある日のことー
「よっし!いっちょあがりっ!」
「あ!ユーリ、怪我してますよ。今治しますね」
「………」
戦闘が終わって、当たり前のようにパーティメンバーの怪我を治していく桃色髪の少女、エステル
怪我をしてからすぐに言わないと、たいした怪我じゃなくとも凄く怒る
私も先程の戦闘で腕を怪我してしまっていたが、今彼女の元へは行きたくない
どうしようかと周りを見れば、他のメンバーが野宿の準備をしているのが視界に入る
ここで今日は休むのだろう
バレないように1人、彼らから離れたところへ行く
別に嫌いではない、嫌いじゃないんだ
みんな優しいし、面白いし……
「はぁ………」
空の見えるところに座ってため息をつく
もう何度ついたかなんてわからない
この旅に同行するようになってから幾度となくついている
「あれ?アリシアーー?」
向こうからカロルが呼ぶ声が聞こえてきた
居ないのがバレてしまったみたいだ
まぁ、だからといってすぐに戻るわけじゃないのだが
………知ってるから
こうしていると、探しに来る人が居ることを
「…また1人で勝手に出歩いて……危ないじゃないか」
「……何、兄さん?」
ーーー私と同じ、金色の髪をした兄、フレンが探しに来ることをーーー
「『何?』じゃないよ、みんなが探しているよ」
苦い顔をしながら兄さんは私の隣に腰をおろす
「………まだ戻りたくない」
兄さんからふっと顔を背けながら言う
「はぁ……腕も怪我しているようだし……困った妹だよ、本当に」
苦笑いしながらファーストエイドをかけてくれる
本当、兄さんはなんでも出来るからすごい
治癒術なんて私には使えない
術は使えるけど、どちらかと言えば剣を振ってる方が好きだ
ぼーっとしながら、空を見る
夜の真っ黒な空
『あの人』によく似た黒
「…戻って夕飯食べないかい?」
いつの間にか治癒を終えていたらしく、少し心配そうに聞いてくる
「…いらない」
少し間を置いて首を横に振った
「……わかったよ、食べたくなったらおいで?…食べ終わっても来なかったら、またここに来るよ」
そう言って私の頭を撫でると、兄さんはみんなのとこへ戻る
兄さんと私は正反対なんだ、何もかも全部
兄さんは明るいしいつも笑顔だし、話し上手でいつも人の中心にいる
私は暗いし笑えないし、話すのなんて苦手だし……
………兄さんみたいになりたかった
いつも思うのはそればかり
そしたら、『あの人』にも捨てられなかったんじゃないかって…
膝を抱えてうずくまる
泣いてしまいそうだから
『あの人』の声が聞こえる度に、胸が締め付けられるから
『あの人』が視界にはいる度に、つらくなるから
聞こえないように、見ないようにうずくまる
……『大っ嫌い』な『あの人』の存在に気づかないように
旅の仲間達はもちろん嫌いじゃない
こんな私でも仲良くしようとしてくれる
……でも、私は『あの人』が居るところに、長時間居たく……ないんだ……
うずくまってそんな事を考えていると、不意に肩を叩かれた
驚いて顔を上げそうになるが、なんとか踏みとどまって腕の隙間からチラッと覗く
見慣れた蒼い鎧
ゆっくりと顔をあげると、兄さんが居た
「返事がなから寝ているのかと思ったよ」
優しく頭を撫でながら言ってくる
歳は2つしか変わらないけど、すごい子供扱いされる
兄さんなりに考えて行動してくれているんだろうけど、流石にそろそろやめて欲しい
「…寝てないよ………考え事してた」
「……またかい?」
心配そうに顔を顰めながら兄さんは聞いてくる
「………ん………」
自分でも気づかない間に泣いていたみたいで、頬が少し濡れていた
自分で拭う前に兄さんの手が伸びてきて、優しく拭ってくれた
「そんなにみんなと居るのが嫌かい?」
兄さんの質問に首を横に振る
嫌じゃない、むしろ楽しい
下町で引き篭もってた時よりも遥かに、ずっと……
「そうだよね……アリシアが一緒に居たくないのは……」
そこで言葉を止めてその人に視線を向ける
「………たった、1人だけ………」
兄さんの言葉に続けるようにボソッと呟いて一瞬だけ、『あの人』を見る
私が嫌いで、嫌いで、大っ嫌いな
真っ黒な服に真っ黒な髪の男性
ユーリを………
ーそれから数時間後ー
「……………………」
「アリシア……そんな顔しないでくれ…」
「………じゃあ……兄さん、変わってよ……」
ムスッとしながらベットの上で膝を抱え込み、若干睨み気味に目の前に立っている兄さんを見る
私が今不機嫌なのは役割分担について
ダングレストについた私達は、情報収集をするグループと買出しに行くグループ、そして夕飯を作るグループに分けられたのだけど……
情報収集には兄さん、レイヴン、カロル、ジュディス
夕飯をつくるのはエステル、リタ、パティ
そして……買出しに私とラピード、そしてユーリという分担になってしまった
…なんのイジメですかこれは…
機嫌悪くならない方が不思議だよ…
「はぁ……ラピードが居るから大丈夫だろう?それに、もうみんな行ってしまってるんだから」
ストンッと私の横に腰掛けながら、困ったように肩を竦める
「………じゃあ宿屋に引き篭る。部屋から出ない」
小さな子供のようなわがままを言いながら膝に顔を埋めた
「やることはちゃんとやらないと駄目だろう?いい子だから、我慢して行ってきてくれないかい?」
頭を撫でながら、兄さんは言ってくる
困ったように笑っているのが、少しだけ視界に入った
そんな事言われても…嫌なものは嫌だ
「おーい、シア、そろそろ行くぞー!」
部屋の外から、大嫌いな声が聞こえてくる
「ほら、行っておいで。後でレイヴンさんに頼んでクレープ作って貰うから」
「……わかったよ……でも、クレープはいらない」
何度も何度も言ってくる兄さんが少し鬱陶しくて、渋々立ち上がって部屋を出た
部屋の前にはラピードが居て、大丈夫?と言いたげに体を擦り付けて来た
そのラピードと一緒に宿屋の入口に行くと、遅ぇよとでも言いたげな目をしてユーリが待っている
「行こうぜ?」
「………ん……」
短く返事をして、先に進んだ彼の後を少し離れてついていく
部屋を出て数分も経ってないが、もう帰りたい……
ー 十数分後 ー
ある程度の買い物は済んだ
後はもう帰るだけ
買い物中もそうだけど私達の間に会話は0
時折話しかけられるけど、ものすごく適当にあしらって終わりだ
私はとにかく宿屋に戻りたかった
早く彼から離れたかった
もう少しで宿屋……だったのだが、その手前で何故かユーリが止まってしまった
それに合わせるように私も止まる
なんでそこで止まんのさ…!なんて、心の中で悪態をつきながら彼が動くのを待ったが、一向に動きそうにない
一体なんなんだと思っていると、彼は少しだけ私の方を向いた
「……なぁ、シア。後で話あんだけど…」
不意にほんの少し言いにくそうに言われた言葉にドキッとする
ときめいたとかじゃなくて、不安な方
……なんで、このタイミングなの……
「…………ん………」
私が短く返事をすると、ユーリはまた歩き出した
さっさと動いて欲しくてそう返事をしたけど、生憎だが私に話す気は無い
………本当、なんなのさ………
ずっと放置してた癖に………
ずっとずっと、なんの音沙汰のなかった癖に……
………今更、なんだって言うのさ………
ーーーーーーー
「おーい、戻ったぜ」
そう声をかけながら宿屋へ入ると、エステルが気づいてこっちへ来た
「ユーリ、アリシア、おかえりなさい!」
「おう、言われたもん買ってきたぜ」
そう言って買ってきた物を渡す
シアも買ってきた物をエステル達のすぐ側にあるテーブルに置いた
少しシアを誘って外に行こうと思ったが、オレが誘うよりも早くに部屋へ戻ってしまった
………また、だ
旅に同行させてからずっと
……避けられてる
「……また、部屋に閉じこもってしまったのじゃ…」
少し寂しそうにパティは部屋の扉を見詰める
「ですね……フレンが戻って来たら出てくるんでしょうけど……」
エステルも残念そうにしながら呟く
「あんたが話してたような子じゃないわよね、あの子。どっちかっていえば真逆って感じ」
リタはオレの方を見ながらそう言う
「……帝都出る前は明るかったんだけどな……」
頭を掻きながら言う
そう……少なくとも、オレが帝都を出る前はあんなじゃなかった
明るくて元気で、人懐っこくて……いっつも、オレの傍から離れないようやつだった
「あ、ユーリ!帰って来てたんだ!」
「あら、お早いおかえりね」
「お話出来たかしら?」
「……まったく……」
情報収集からカロル達が帰って来た
来て早々に聞かれたのは『結果』
そもそも、今日の振り分けはオレがシアと話したかったから、みんなが気を利かせてくれたわけだ
…まぁ、結果は惨敗なんだが…
「で?アリシアはまた部屋かい?」
「……おう」
「なら、呼んでくるよ」
小さく息を吐きながらそう言うと、フレンはオレの横を通り過ぎてシアのいる部屋へと向かう
「……なぁ、フレン。お前、本当に何も聞いてないわけ?」
そのフレンの背にそう声をかける
「……何でそんなこと聞くんだい?」
足を止めたフレンはオレの方に顔を向けながら問い返してくる
「普段、なんかあったら速攻で言うシアがお前に何も言ってないなんて、おかしいだろ?」
そう言えば、フレンは少し呆れたようにため息をついてきた
「………前にも言ったろ?『自分で考えろ』ってね」
それだけ言うとフレンはシアを呼びに行ってしまった
……それがわかんねぇから困ってんじゃねぇかよ……
ーーーーーー
部屋のベッドの上でうずくまる
こうしているとあの日々を嫌でも思い出すけど、これが1番落ち着く体制なんだ
ユーリが魔核ドロボウを追いかけて、帝都を出たあの日……
本当は、私も連れて行って欲しかった
なのにユーリは私に見向きもしないで、知らない女の子と行っちゃうし、手紙だってくれない
ショックだった
あれだけ好きだの愛してるだの言ってきた癖に………
そんなの嘘だって、言わんばかりの行動をされて……
ずっと泣いた
1人でずっと泣いてた
帰って来てって
会いたいって
傍に居たいって
料理も家事も、もっと上手くなるからって呟きながら
ただただ泣き続けた
下町のみんなや兄さんに沢山励まされたけど、何を言われたかも覚えていないくらい、あの時の記憶がない
あるのは、ただ泣いていた記憶だけ……
そんな記憶しかないから……
ツラい記憶しか、残っていなかったから……
……もう諦めようって思った
きっと、私じゃ駄目だったんだって
………嫌いになろう、ユーリのことを
そうしたら……もう、ツラくなくなるだろうから……
そう決めて半年近く経ってから、ユーリは姿を見せた
なんで今更帰って来たのかと思ったら、今度はほぼ無理やり、私を旅に連れ出そうとする
ユーリの行動が、理解出来なかった
兄さんが居たから渋々付いてきたけど、特にユーリと話す気にはなれない
だからずっと避け続けてる
……傍にいることが怖い
ただただ怖いんだ
『別れよう』って、言われてしまうこともそうだけど……
……変な期待をしてしまいそうだから……
「アリシア?起きているかい?」
不意に扉をノックする音と共に、優しい声が聞こえた
これは、兄さんだ
「……起きてるよ」
「入っても平気かい?」
「……いいよ」
そう答えると、ガチャッとドアが開いて兄さんが入ってくる
「…その様子じゃ、まだ会話は出来そうにないね」
苦笑いしながら隣に座って頭を撫でてくる
「…………もう、わかんないよ………ユーリが…………何で、今更…………私……ずっと……待ってたのに………!」
溜まっていたものが溢れだす
兄さんの前だからこそ素直になれる
…隠したってバレてしまうから
ポロッと涙が落ちる
それを合図にポロポロと溢れてくる
いくら拭っても止まりそうにない
「ずっと……ずっと、ずっと……っ!帰って来るのも……っ、連絡来るのも……っ、待ってたのに……っ!!ずっと、待って……っ、けど、いくら待ったって……っ、何も……ないから……っ!諦めようって、決めて……っ、もう少しで……、踏ん切りつきそ……っ、だったのに……っ!なんで……っ、今更……っ!」
泣きながら呟く私の言葉を、兄さんはただただ黙って聴きながら、頭を撫でたり、背中をさすったりしながら傍に居てくれる
何も言わないでこうして傍に居てくれるだけでいい
「……アリシア、おいで?」
ふと頭を撫でてくる手が離れたと思ったら腕を広げておいでってしている兄さんが、視界に映る
迷わずその腕の中に飛び込んだ
強く、だけど痛くないようにって優しく抱きしめてくれる
昔から兄さんの腕の中にいると落ち着く
兄妹だからか、あるいは兄さんが親代わりだったからか
「アリシア、気持ちの整理がついたらちゃんとユーリと話してやってくれるかい?シアが話してくれない、話してくれないっていい加減うるさいからさ」
呆れたような、困ったような声で言ってくる
泣いて声がうまく出せなくなってしまったから、代わりにコクンと頷いた
ーーーーーーー
あの後、結局泣き疲れて寝てしまったらしく、兄さんがベッドに寝かせて布団をかけてくれていたようだ
目が覚めた時には、もう夜遅くてみんなも寝ている
もう1度眠りにつこうかと思ったけど、今は眠れそうにない
だから、少しだけ外の空気を吸いに宿屋を出た
橋の上まで来て、淵に寄りかかりながら空を見上げる
真っ黒な空に沢山の光……
とっても綺麗……
ずっと見てると吸い込まれそうなくらいに……
ゆっくりと空に向かって手を伸ばしてみる
……綺麗な星空を、ずーっと見れればいいのに………
…ずーっと夜で、眠りについたままならいいのに……
そしたら……ユーリと向き合わずに、済むかもしれないから……
「こんな時間に1人で何してんだよ、シア」
「…………っ!!」
そんな事を考えていると急に声が聞こえてきた
驚いて振り向くと、そこにはユーリが居た
いつの間に来たのだろう……
驚いてその場から動けないでいると突然、視界が真っ暗になった
……理由なんてすぐにわかった
……ユーリに、抱きしめられてるから……
「……なぁ、なんで最近避けてんだよ……オレの事、嫌いになったのか……?」
消えそうで不安そうな掠れた声で聞いてくる
……でも、私には答えられない……
わからないんだ
もう、ユーリが好きなのか、嫌いなのかが自分でもわからない
答えたくても、答えられなくて言葉に詰まってしまう
どう答えようかと迷っていると、不意に顔を無理矢理あげられてキスされそうになる
どこか悲しそうな表情を浮かべたユーリの顔を見た瞬間、ズキッと胸が痛んだ
「……っ!!」
その瞬間、彼を勢いよく突き飛ばしてしまった
まさか私にそんな風に拒絶されなんて思ってなかったみたいで、彼も驚く
…ねぇ……今、あなたには私がどう見えてるんだろう……?
「…………シア…………?」
掠れた声でユーリは私の名前を呼んでくる
「………ご…………めん…………」
それだけ言って宿屋へ走り出す
気づきたくなかったのに、気づいてしまった
私はまだ、ユーリのことが好きなんだって
大好きなんだって
嫌いに、なれなかった
なれるわけ、なかったんだ
ベッドの中で声を抑えて泣いた
拒絶してごめんなさい
無視してごめんなさい
でも、私は、いつかまた……あなたが私の知らない誰かと、何処かに行ってしまうことが怖いんだ……
ー次の日ー
「ねぇみんな?今日はちょっとノードポリカに行かない?」
朝食の席で唐突にジュディスがそう言った
珍しくジュディスが提案したので、誰も反対はしなかった
バウルで移動している最中、1人空を見ているとジュディスが話しかけてきた
「アリシア、あなた昨日の夜ユーリと何かあったのかしら?」
「…なんで、そう思うの?」
少しぶっきらぼうにそう聞き返した
「ユーリが今朝、相当へこんでいたから。……それと、目の周りが赤くなっているわよ」
そう言いながら、軽く目の下に触れてくる
目の周りが赤いことは知っていた
……冷やしたりしてみたが、消えてなかったんだ……
チラッとユーリの方に目を向けると、確かにいつもよりも元気がない
何事かと兄さんが話しかけてるくらいだ
ユーリに向けた視線を、また空に戻す
「…好きなのでしょ?彼のこと」
見透かしたかのようにジュディスは聞いてくる
「……ん……そうだね………でもね」
ーー怖いんだーーー
小さい声でそう呟く
「あら、何も怖いことなんてないと思うわよ?」
そう言って、そっと頭を撫でてくる
「………ユーリ、何も言わないでエステルと一緒に帝都飛び出して行っちゃったんだ。私のことなんか置き去りで……」
また泣きそうになるのをぐっと堪えながら口を開く
「……連絡もしてくれないし、私なんて……どうでもいいんだって思ってた。……だから、嫌いになって、忘れようって思ったんだ。なのに……戻って来たと思ったら、いきなり旅に半分無理矢理連れ出されて………もう、何考えてんだかわかんない……」
「………それは、彼が悪いわね……」
俯いた私の背中をそっと擦りながら、ジュディスは、よく頑張ったわね、って優しく言ってくれる
「ノードポリカについたら、ストレス発散しましょ?」
「…?」
顔を上げると、ニコッと笑いかけてくれているジュディスが目に入った
………私は彼女の意図を、この時知っておくべきだったのかもしれない……
ノードポリカについてから、ジュディスに連れられ真っ先に向かったのは、闘技場
……なんか、嫌な予感しかしない……
「はいアリシア、あなたの名前でエントリーしたわ」
そう言って渡された紙には…………
『ザ・200人斬り』……と書かれていた……
ーーーーーーーー
「はぁ…………ジュディス………確かにストレス発散にはなるかもだけどさぁ………」
何度ついたかわからないため息をつく
もう出番次だし……
もうこれは腹を決めるしかない
出るからには勝ち残ってやる
意を決して足を進める
とてつもない程熱狂した見物人達
チラッと上を見ると、兄さんがものすごく心配そうにこっちを見ているのがわかる
本当に心配症なんだから…と心の中で苦笑する
腰につけた双剣を抜くと同時に開始の鐘がなった
「ジュディス………っ!後で覚えててよね………っ!!多すぎだわっ!」
「うぉぉぉ!」
「あーもうっ!うっさいっ!牙狼撃っ!!」
恐らくこれでようやく半分くらいだろう
とんでもなく次から次へ出てくる敵に、ついにキレそうだ
……これ、ストレス発散になってるのかな……
むしろストレス溜まってる気がする
敵から少し距離をとる
そして………
「あーもうっ!鬱陶しいわっ!!
木っ端微塵に砕いちゃえっ!ライオットホーンっ!!!」
ほぼ詠唱0で術が発動する
なんか、私はキレるとよくそうなるって、兄さんが言ってた
……原理なんて私も知らないよ?
ーーーーーーー
「にしても、すごいなぁ!200斬りだよっ!?」
興奮気味にシアを見ながらカロルが言う
「あたしには、無理矢理出されたように見えるけど?」
そう言いながら、リタは呆れたようにチラッとジュディの方を見つめた
「「……………」」
「あら、2人してそんな顔をして、やっぱり心配かしら?」
「ジュディス…何故アリシアを出させたんだい…?」
カチャッと剣の柄に手を添えながらフレンは言う
「彼女、かなりストレスが溜まっていたみたいだもの。いい発散法だと思うけれど」
「……だからって何も200人斬りじゃなくていいだろ……」
「私的にはもう少し苦戦するかと思って居たのだけど……思ってた以上に彼女、強いのね」
「いや……あれは完全に怒りに身を任せているというか……」
フレンは心配そうな目をしながらシアに視線を戻す
チラッとオレも彼女を見る
その顔は少し生き生きしていて
………いや、あれは何かにキレてる時の顔だな………
「…何にキレてるんだ……?」
「君にじゃないかい?置いて行った上に連絡寄越さない挙句、久々に帰ってきたと思ったら何も言わずに旅に連れ出そうとするし、だったからね」
ジト目でオレを睨みながらフレンはそう言った
移動中、全くオレが気づかなかったことに痺れを切らしたフレンが、若干怒り気味に話してくれた
「うっ………」
そう言われて言葉に詰まる
…いや、確かにこれは完全にオレが悪い
そりゃ誰だって愛想尽かされたと思うよな……
オレだって同じことされたら絶対そう思う
「そうね、ちゃんと謝ったのかしら?」
「……オレが悪かった。後でちゃんと謝るよ…」
頭を掻きながらそう答えた
「あ!もう少しで終わりそうだよ!」
カロルの声に顔をあげると、既に残りが後少しになっていた
「あぁ…頼むから怪我しないでくれ…」
シアを見つめるフレンの顔が険しい
そりゃそうだよな…フレンにとっちゃ大事な妹だからな
「もーっ!!くたばれっ!!!大地に降り注げっ!メテオスオームっ!!!」
ここまで聞こえてくる彼女の詠唱の声
……やっぱりあれ、キレてるわ……
「ちょ……ちょっと……!あの子、また詠唱なしで術発動させたわよ……!」
若干悲鳴じみた声でリタが言う
…あいつ、なんでキレると詠唱なしで術発動させられんだろうな…
『winnerアリシアー!!!!なんとなんと!!伝説の200人斬りをクリアだぁぁぁ!!!!』
術が収まると同時に、闘技場内に拍手が響き渡った
ーーーーーーーー
「……………………」ムスッ
「アリシア……そんな顔しないでくれよ……」
苦笑いしながら兄さんは頭を撫でてくれる
今は闘い終えて宿屋にいる
部屋にいるのは私と兄さん、それにジュディスだけ
あとのメンバーは自分たちも挑戦したくなったらしくてみんな闘技場だ
確かにストレス発散にはなった
思いっきり吹っ飛ばせたし、いつもよりも派手にやれたし
でも、だからと言って別に出たかったわけじゃない
「あら、逆に怒らせちゃったかしら?」
ジュディスの言葉にふいっと顔を背ける
「……兄さん、少し1人にさせて」
「…わかったよ、ただ1人でどっかに行くのだけはやめてくれ」
「……ん……」
短く返事をすると兄さんはジュディスを連れて部屋を出て行った
兄さん達が部屋を出たところで、ドアに寄りかかる
誰にも、入って来て欲しくなかったから
「……はぁ…………」
ズルズルっとドアの前に座り込みながら、ため息をつく
頭に浮かぶのはユーリのこと
戦っている時にちらっと見た時に、兄さんの横でユーリも心配そうに見ているのが見えた
……なんでそんな目で見てたの……
……散々ほっといた癖に……
「…………シア、居るのか?」
「……っ!」
ユーリの声が聞こえる
どうやらドアの外にいるみたいだ
どう接していいかわからない
どう話せばいいかわからない
もう……わかんないよ……
何を話せばいいかわからないでいると、ユーリもドアに寄りかかったようでトンッと音が聞こえた
「……なぁ、返事してくれよ……」
寂しそうで今にも消えそうな声で呼びかけてくる
返事をしなきゃ……
わかってる、返事をしないといけないことくらいわかってる…
でもこの喉は声を出そうとなんてしてくれなくて……
声を出そうとしても出ない
ドアを開けようにも体が動かない
しばらくして返事がないからか、ドアの前からユーリの気配が消えた
あぁ、またやっちゃった……
前にも同じようなことがあった
あの時は結局、兄さんが仲介に入ってくれたっけ……
でも、今回は頼れない
そんなことを考えてると涙が出てくる
「…………なんでいつもこうなるの…………」
私はただ、ユーリと居たいだけなのに……
ユーリはいつも私を置いて何処かへ行ってしまう
膝を抱き抱えてうずくまる
「……わからないよ……ユーリが……」
小さく、誰に言うわけでもなくボソッと呟いた
「だーれがわかんねぇって?」
突然声が聞こえて、驚いて顔を上げると……
窓の淵に、ユーリが立っていた
「っ!?ユー…………リ…………!?」
「ったく、オレは猿じゃねぇんだけどな」
そう言って苦笑いしながら、ユーリは入って来る
「あー……まぁ、言わなきゃなんねぇことはいっぱいあんだけど………
……ごめんな、1人にさせちまってさ…」
ガシガシと頭を掻きながらバツが悪そうに言ってくる
その目は真剣で、本気で謝ってる時の目をしている
突然のことで頭がついていかない
唖然としているとすぐ傍まで来て、頬に伝った涙を優しく拭ってくれる
兄さんとはまた違った触れ方で
壊れものでも扱ってるんじゃないかってくらい、優しくて
「もう置いてかねぇよ、1人になんてさせねぇ
……だからさ、泣き止んでくれよ」
な?と、ユーリは困った顔をする
あぁ、駄目だ……やっぱり嫌いになんてなれないよ……
自由奔放で、皮肉屋で、なんでもかんでも自分1人でいつも抱え込むけど
本当は優しくて、困った人をほっとけなくて、心配症で……
そんなユーリが、私は好き
ユーリが私を嫌いになったわけじゃないってわかったのが、嬉しくて
声なんか使い物にならないから、言葉の代わりにめいいっぱい抱きついた
ちょっと驚いてたけど、ユーリはすぐに抱きしめ返してくれる
兄さんと違って思いっきり抱きしめてくる
少し痛いけど、そこがユーリらしい
久々に感じたユーリの温もりが懐かしすぎる
「シア、本当にごめんな…」
「…………か…………」
「ん…?」
「バカ……バカバカバカぁぁぁ!!!ユーリのバカぁぁ!!!」
そう叫ぶと、ユーリは肩をビクッとさせた
「何も言わないで…っ!知らない子と出ていくから……っ!!嫌われたと……思ったじゃんかぁあぁ……っ!!」
そう言いながら思い切り泣いた
「オレがお前を?まさか、んなわけねぇよ。連れ出して怪我させたくなかったんだよ
……まぁ、置いてきたら置いてきたで、フレンに怒られたんだがな…」
若干言いづらそうにユーリは言った
兄さんが怒ったのは、多分……私がユーリの後を、1人で追いかけると思ったからだろう
実際、1人で行こうとしたし…
下町のみんなに止められたけど、ね……
「本当にごめん。マジで反省してる」
そう言って優しく頭を撫でてくる
こうやって頭を撫でられる感覚も久しぶりで……
「…シア、オレ、お前のこと本当に愛してるよ。もう絶対、1人にさせねぇから」
そっと親指で頬を撫でながら、ユーリは優しく声をかけてくれる
……それが、何よりも嬉しくて
ユーリに嫌われていなかったことが、何よりも嬉しくて……
「…私も、ユーリ大好き…っ!」
顔を上げて精一杯笑顔を作って言う
ユーリも優しく微笑んでくれる
そして、どちらともなく唇を重ねる
やっぱり、私はユーリが大好きだ
ーーーーーーーーー
(仲直り出来たかい?アリシア)
(うん!兄さん、ありがとうっ!)
(あはは、僕は何もしていないよ。……ユーリ?またアリシアを泣かせるようなことをしたら、本気で怒るからね)
(ったく…妹思いのお兄さんだことで……もう泣かせやしねぇさ)
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