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下町少女の恐怖
カチッカチッ
静かな部屋の中に時計の音と、ユーリの呼吸音だけが聞こえている
ベッドの脇の椅子に座ってユーリの左手を握っている
ユーリが戻って来てから4日目、まだ目覚めそうにはない
帝都がエアルで包まれたあの日、ユーリ達が解放してくれたお陰で、私達は下町に戻って来れた
その次の日には、ユーリと兄さん達は元騎士団長を倒すためにまた帝都を離れた
あたしも行きたかったが、ユーリと兄さんに猛反対されて、渋々待つことにした
そして…数時間後、兄さんが血相を変えて帰ってきた
………ユーリが居なくなったっと……
帰って早々に言われた
目の前が真っ暗になって、体から力が抜けてその場にへたりこんでしまった
そっと兄さんが大丈夫だって、絶対見つけるからと抱き締めてきてくれたけど、頭の中は真っ白だった
でも、あたしを心配して兄さんが探しに行けないのは嫌だから、なんとか頷いて兄さんを送り出した
それから、少ししてドアがノックされた
まだあまり働いていない頭を動かして、なんとかドアを開けると、見知らぬ男の人がユーリを背負って立っていた
色んな情報が一気に沢山流れ込んできて混乱するが、とりあえず中に入って貰って、ユーリをベッドに運んで貰った
ユーリの体温は低くて、ちゃんと呼吸しているのに、していないんじゃないかと思うくらいだった
腹部を見ると、応急手当はしてあるものの、包帯から血が滲んでいた
相当深い傷なんだろう
ユーリを運んでくれた男の人にお礼を言うと、ついでだと言って帰ってしまった
とりあえず、兄さんに連絡しなくては…
と思ったが、今何処に居るかなんてわからないからリーナを頼れない
それに………兄さんに伝えれば、確実にユーリの仲間にも連絡が行く
そうしたら、あの桃色髪の少女が駆けつけるのが目に見えていた
彼女は優れた治癒術士だと、手紙に書いてあったし、ユーリの怪我を治しに来るだろう
いや、それはいいんだ
むしろ治して貰った方がいいだろうし…
でも、空に現れたあの黒い物体
ユーリ達が向かった場所から大きな音がなったのと同時に現れた
………もしかしたら、また旅に出るんじゃないかって
また、危ないからって置いていかれるんじゃないかって
そして、また大怪我するんじゃないかって
恐怖と不安で、とても連絡を入れる気になれなかった
幸い治癒術なら少しは使える
少しずつでもあたしがやろうって決めた
だって……そうすれば、ユーリはあたしの傍に居てくれるから……
それから毎日ずっと治癒術をかけた
夜は遅くまでずっと起きてたし、ユーリの傍から離れるなんてほぼ0だった
たまにご飯食べたりした程度で……
そんな生活は4日目の昼になろうとしていた
未だに起きる気配のないユーリ
もしかしたら目を覚まさないんじゃないかって思ってしまう
「……ユーリ…………早く目………開けてよ………」
ベッドに顔を埋めながら小さく呟く
左手を握っている、手に力が入る
……怖いんだ
両親のように、今度はユーリが居なくなってしまうことが
「………ぅ………ん………?シア…………?」
名前を呼ばれて、ガバッと起き上がる
治癒術でだいぶ傷口は塞がっているものの、やはり少し痛いらしくて、ちょっと顔を歪めている
驚いて私が動けずにいると、ゆっくりと体を起こして、トンっと壁に寄りかかる
そして、両手を広げておいでってしてくる
本当は怪我人に無理させる気なんてなかった
でも、あたしの心はそれに勝てなくて
負担をかけない程度にユーリに抱きつきに行っていた
「ユー………リ………っ!!よかっ……た……っ!!」ヒック
今まで我慢していた涙がつぅっと頬を伝う
傷口に響かない程度に腕に力を入れる
いつもみたいに強くないけど、そっとユーリも抱き締めてくれる
「シア………ごめんな、心配かけてさ」
そう言いながら、ユーリは泣いているあたしの頭を優しく撫でてくる
少し掠れた声だけど、またユーリの声が聞けた
いつものように、あたしの名前を読んでくれた
あまり力は入っていないけど、また抱き締めてくれた
それが……それだけで、嬉しかった
ごめんね、ユーリ……
もう少しだけ、このままで居させて…
もう少しだけ、泣かさせて……
もう少しだけ、甘えさせて……
もう少しだけ、あたしのわがままを聞いて……
「ユーリ、お腹空いてるでしょ?」
暫くして、ユーリからちょっと離れて目元に溜まった涙を指で拭いながら聞く
「まあ流石に、な?」
「待ってて、今おかゆ作って来るよ!」
ニコッと笑って言う
流石にまる3日間何も口にしていないのに、普通にご飯食べてりしたら胃がびっくりするだろうしね
おう、という短い返事を聞いてからキッチンに向かった
「ん、ごちそうさま」
「お粗末さま」
おかゆを持って来ると、相当お腹が減ってたらしく、すぐに食べきってしまった
そんなにガッツいたらおかゆにした意味無いじゃん…と苦笑いする
でも、それだけ元気になってくれたのが嬉しかった
「シア、サンキュな」
「ん?お礼言われるようなことしてないよ?」
そう言って食器を片付けようとして立ち上がろうとすると、ユーリに腕を引っ張られた
突然過ぎて対応出来ず、そのままベッドに倒れ込んでしまう
ユーリにぶつかりはしなかったものの、寝転んだ状態で抱き締められる
「ユーリ……?」
「目の下、隈出来てる。まともに寝てねぇだろ?」
親指で目元をなぞりながら聞いてくる
言われてみれば、寝るのも忘れていた気がする
「オレもこのままもっかい寝るからさ、一緒に寝よう?」
ふわっと優しく微笑んで言ってくる
ユーリの体温が心地よくて、ほぼまる3日寝てなかった頭は既に限界が近かった
コクンと頷いてユーリの胸元に顔を埋める
ここが1番安心するのだ
ゆっくりと襲ってきた睡魔に身を任せて、目を瞑った
「ったく、心配だからって無理しすぎたよ」
腕の中で眠りについたシアの頭をそっと撫でながらボソッ呟く
いつも無理無茶は駄目だと、彼女は言うが、それはお前もだろとツッコミたくなる
だが、今回ばかりは仕方ないだろう
彼女を心配させるようなことをしたのは自分だ
それに、恐らく彼女が腹部の傷口をある程度治してくれたのであろう
文句なんて言えるわけがない
いや、そもそも言うつもりもないのだが
「さてと……どうすっかな…」
シアのことだ
きっとまだ誰にも伝えてないだろう
……気持ちがわからないわけじゃない
むしろ、痛いほどよくわかる
オレが逆の立場だったら絶対伝えない
……伝えられるわけがない
こんな怪我をするような奴らのところに戻したくない
でも、だからと言って伝えないわけにはいかない
まだやらなければいけないことが残っているのだ
ラピードが居ればすぐに伝えに行かせられたのだが……
「……ユー…………リ…………」
不意に名前を呼ばれて驚く
起こしてしまったのかと思ったが、どうやら寝言のようだ
ほっと一息つくが、シアの体が少し震えている気がした
「…?シア…?」
そっと顔にかかった髪を退かすと、目から涙が流れていた
「……や…………いか……ない………で…………」
「っ!!」
震えて、掠れた声でそう呟いた
寝てはいるのだ
ただの寝言…
だけど、夢の中で怯えている
いや、オレの目が覚めても、眠っている時も、シアはずっと怯えていたのかもしれない
それだけ今回のことはシアに恐怖を与えてしまったのだろう
昔から、オレやフレンが少しでも怪我すると心配して、泣くことだってあったくらいだ
それなのに今回のこの大怪我だ
シアが怯えてしまうのも無理ないだろう
「シア……大丈夫、大丈夫だから」
眠っているから恐らく聞こえてはいないだろう
それでも、大丈夫だと声をかけながら抱き締めて頭を撫でる
少しでも落ち着くように
少しでも安心出来るように
しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてくる
少しは落ち着いたようだ
「……やっぱ、置いてけねぇな……」
苦笑いしながら呟く
ものすごく危険な旅になることが、既に予想出来ている
だから、置いていこうと思っていた
シアまで、危険な目に合わせたくなかった
だが、ここまで心配して怯えているシアを、1人置いて行くなんてオレには出来そうにない
それに今回置いて行ったら、今度はフレンやオレに何を言われようが、勝手に結界の外に出て行ってしまいそうだ
以前に増して危険となった外を1人で出歩かせるとか、想像しただけで寒気がする
フレンには怒られそうだが、それはもう仕方ないだろう
未だに少し涙の溜まったシアの目元にそっとキスをする
「………約束……だったしな?」
そう呟いて、オレももう1度眠りについた
「……ん………?」
目を覚ますと、時計は7時を指していた
夕飯を作らねば……と思ったが、窓からは日が差している
どうやら、丸半日眠っていたようだ
起き上がろうと思ったが、そこで抱き締められていることに気づいた
少し顔を上げると、すぐ傍にユーリの顔が見えた
そう言えば昨日一緒にベッドで寝たっけ……と思い出す
規則正しい寝息と心臓の音が聞こえているので、ほっとする
コツン、ともう1度ユーリの胸元に顔を埋める
素肌から直接伝わってくる体温が暖かい
このままじゃまた眠りそうだったから少し顔を離すと、お揃いで買ったペンダントが見えた
今の今まで気が動転していて、全く気づかなかった
「……ちゃんとこれ、付けてくれてたんだ……」
ペンダントに触れながらボソッと呟く
彼の事だから、失くしたらいけないとか言って、懐にしまっているものだと思っていた
付けていてくれたことが嬉しくて、少し口元が緩む
その瞬間、一瞬だけだが視界が真っ暗になった
気づいた時には、体の向きが変わって少し天井が見えていた
突然のことに唖然としていると、聞きなれた声が上から聞こえてきた
「なーにニヤニヤしてんの?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべてユーリが見下ろしていた
「ふぇっ!?あ、えっ!?な、なんで!?だって、さっきまで寝てたじゃん…!!」
「あん?シアより先に起きてたぜ?反応が可愛いから寝た振りしてたけどな」
ちょっと嬉しそうに笑いながらユーリはそう言ってくる
「っ~~~!!!//////」
恥ずかしなって顔が赤くなるのがわかる
起きていたことに気づかなかったのも恥ずかしいし、今までやった事やら言ったことも全部聞かれていたわけだ
この状態に耐えられなくてジタバタ抵抗するが、それでユーリを退けられたら今まで苦労していないだろう
「顔真っ赤、本当可愛いわ」
「っ!!//////ユーリのバカッ!!//いじわるっ!///」
「ふーん……バカとか言うのはこの口か?」
あたしの顎に手を添えて、無理矢理あげたと思えば、一瞬にして唇が重なる
触れるだけ、でも長くって
息が苦しくなって、少し口を開いたら案の定、ユーリが舌を入れてくる
これはまずい
このままだと昼まで行為が続きそうだ
ほんの数回しか体を重ねていないが、ユーリが1度しだしたら止まらないことは、嫌という程身にしみていた
なんとかしてなる離れようと踠くが、ユーリの力にかなうわけもなく……
深い口付けの感覚に思考は停止しそうになるしでいよいよ本気でまずい
ようやく離れた時には少し息があがってしまっていた
「ふぁ…………もうっ!ユーリ!」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ、こうするとついしたくなって、な?」
悪戯っぽく笑いながらユーリはあたしの頬を撫でてくる
「傷治っていないんだからだーめっ!」
「まだしないっての」
「……そう言っていつもしようとするじゃん……」
はぁ……っと呆れ気味に言うと、今回は本当にそんな気は無かったらしくて、すぐに上から退いてまた隣にゴロンと寝転んだ
それと入れ違いに、あたしは体を起こす
「ふ……んーっ!……さてと……ご飯作り行く前に……」
ユーリの方を向いて腹部にまた治癒術をかけ始める
「ったく、もう平気だっての」
「だーめ、それで傷口開いたらやだもん。もー少し大人しくしてて」
これをかけ終わったら多分、恐らく、もう傷口が開くことはないだろう
あたしがものすごく心配していたのをユーリはわかっているみたいで、それ以上何も言っては来なかった
「ん、これで終わり」
「サンキュ、シア」
かけ終わるとユーリは優しく頭を撫でてくる
兄さんもそうだけど、ちょっと子供扱いされてる気がする…
……まぁ、嬉しいからいいんだけどね
「あたし、ご飯作って来るね、お風呂入りたかったら入って来てもいいよ。もう完全に塞がってるからね」
「ん、了解」
そう言ってもう一度、軽くベッドの上で伸びをしてから降りようとする
「あ、そうだ」
「ん?まだ他にもなんかあったか?」
あたしの方を向いたユーリの頬に軽く口付けする
突然だったからか、驚いた顔をして固まっている
「おはようの代わりっ!ご飯作って来るっ!」
ニコッと笑ってからベッドから飛び降り、駆け足でキッチンに向かった
これは後で気づいた事だが……
よくよく考えてみれば、ユーリに自分からキスをしたのは初めてな気がする
シアが出て行ったドアの方を向いたまま固まってしまった
しばらくして、ようやく頭が働き始める
「………シア…………今、何した……?」
自分の頬に触れながらボソッと呟く
何をしたも何も…あれは確実にキスだ
そう気づくと自分でもわかるくらい顔が熱くなる
初めて……本当、付き合ってから初めて、シアからキスされた
それが嬉しくて嬉しくて、思わず口元が緩む
「………本当、可愛すぎだわ//」
本当に、何があっても絶対に、手放したくない
……だからこそ、危ない目にも合わせたくないのだが……
かと言って、これ以上心配させて泣かせるのも、正直なところごめんだ
それに昨日、寝る前に覚悟は決めた
……何が何でも、オレが全力でシアを守りきればいい話だ
あいつらはきっと、連れていくことに反対しないだろう
…フレンを除いてだが…
ま、フレンになんと言われようが、連れて行くと決めたんだがな
「さてと……風呂に行くとでもしますかね」
ようやく落ち着いたところで、シア同様背伸びをし、ベッドから降りる
そして、部屋を出てから真っ直ぐに風呂へ向かった
「お、美味そうだな」
風呂からあがって、髪を拭きながらリビングにきた
もう朝食は出来上がっていて、美味しそうな匂いがしている
椅子に座ると、シアが紅茶を持って来て、いつものように真向かいの椅子に座る
「それじゃ…」
「「いただきます」」
シアの合図で2人揃って食べ始める
「ん、やっぱオレ、シアの作ってくれる飯が1番好きだわ」
食べながらそう言うと、嬉しそうに目を細める
「それならよかった!……でも、あたしはユーリの作ってくれるご飯の方が好きだなぁ」
ニコニコと嬉しそうにそう言ってくる
本当、笑ってる時が1番可愛いと心から思う←
そんな他愛のない話をしながら、ペロッと完食しきった
「ごちそうさんっと」
「お粗末さま、さてと……お皿片付けなきゃ」
そう言って立ち上がると、シアは片付けを始める
「いいよ、そんくらいオレがやっとくからさ、シアも風呂入って来いよ
どうせオレに付きっきりで入ってねぇだろ?」
そう声をかけると、ビクッと肩があがった
「………バレた?」
深刻そうな顔をして聞き返してくる
「バレバレだっての…」
「あ、あはは………つい、寝るのと一緒に忘れてて……ね…?」
気まづそうに苦笑いして言う
…というか、寝ずに看病してたわけじゃなくて、心配で寝んの忘れてたって方だったんだな……
「ご、ごめんっ!じゃあお願いっ!」
そういうが早いか、そそくさと風呂に走って行った
「ったく……あわてんぼうなお嬢さんなことで」
ふっと苦笑いしながら呟く
そういや、昔からオレやフレンが風邪引くと、自分のやらなきゃいけないことを忘れてずっと看病してくれていたっけか……
……まさかここまでになるなんて思わなかったな……
そんなことを考えつつ、コップに残った紅茶を飲み干して食器を片付け始めた
洗い物も終わって、リビングのソファでくつろいでいると、シアが戻って来た
「洗い物までしてくれたんだ…ありがとう、ユーリ」
オレの隣に腰掛けながらそう言ってくる
「別にそれくらい構わねぇさ」
笑ってそう言うと、シアも微笑んでくる
風呂上がりで少し頬が赤くなっているからか、ちょっと色っぽく感じる
……直視してたら襲いそうだわ……
反射的に少し顔を反らせてしまう
「?ユーリ、どうかした?」
不思議に思ったのか、首を傾げて聞いてくる
「…何でもねぇよ………それよか、ちょい話あんだけどさ」
話題を変えようとちょっと真剣な顔して言うと、何が言いたいかわかっているのか、少し表情が固くなった
「……なに………?」
何処か不安そうな声で聞いてくる
恐らく、また置いて行かれると思っているのだろう
「あのさ、オレ、まだやんなきゃいけねぇことが残ってんだ」
「……うん…」
「んで、その旅もきっと危険なだと思うんだよ」
「…………うん……」
そこまで聞くと俯いてしまう
泣きそうになっているのが顔を見なくてもわかる
……以前なら、ここまでにはならなかっただろう
この半年前後で少し心配をかけすぎてしまったなと後悔する
しばらく沈黙した後、ゆっくり口を開いた
「それでも良けりゃ、一緒に来るか?」
「……へ……?」
顔を上げて、驚いた顔をしてオレを見つめてくる
「本当はシアに怪我させたくねぇし、危険な目に合わせたくもねぇ
でも、これ以上お前に心配かけさせて、オレの居ねぇとこで泣かれんのも嫌なんだわ」
苦笑いしながらシアの頭を撫でる
まだ少し湿っている髪
それでいて絡まりそうになく、さらさらとしている
手でそっと髪をとかしながら、唖然としているシアにもう1度聞いた
「絶対に守りきれる自信はねぇけど、オレが傍にいる限りは何が何でも守ってやる。危険だらけだけどそれでも良いか?」
そう言うと、パァッと笑顔になって飛びついてくる
オレの首に手を回して抱き着いてくるシアの腰に手を回して抱き締める
まだ少し体温が高い
髪からは、シャンプーの甘い香りがほのかに香ってる
「うん……っ!それでも、行きたい……っ!!」
ちょっと涙声になりながら、嬉しそうにそう言ってくる
本当に可愛い
いやもう、可愛いを通り越してる
愛おしいって言った方が正しいかもしれない
「ははっ、なら決まりだな」
そっとまた頭を撫でる
しばらくの間、その状態から動かなかった
「ね、ユーリっ!」
「ん?」
名前を呼んで、ちょっとオレから離れたと思ったら、少し泣いた痕のある顔で、今まで見たことないくらいの笑顔で
「ありがとうっ!ユーリ大好きっ!!」
って言って、また頬にキスしてくる
…心配かけすぎて、なんか変なスイッチ押した気がするが、嬉しいからいいか
そっと涙の跡を指で拭いながら言う
「約束だったしな、次は連れてくってさ
…シア、愛してるよ」
お返しと言わんばかりに、唇を重ねる
今回は嫌がったりする様子もなく、すんなり受け入れてくる
甘い香りが一層強くなった気がする
そんないい香りをさせた、愛しい女に手を出さないわけもなく
気づいたらソファに押し倒していた
「ふぁ……///…ユーリ……?」
「……悪ぃ、やっぱあいつらに連絡入れる前に…な?連絡入れた瞬間押しかけられそうだしさ」
そっと頬を親指で撫でながら言うと、元々少し赤かったが、更に顔を赤らめる
そして、珍しいことを言ってきた
「ん………じゃあ、今日はいいよ…?///その代わり、いーっぱい愛して…?///」
両腕を広げて恥ずかしそうにしながらも笑顔で言ってくる
初めてそうやって甘えてきてくれたのが嬉しくて、ついついにやけてしまう
「あんまそういうこと言われると、手加減出来ねぇんですけどねぇ、お嬢さん?」
ニヤッと冗談混じりに言うが、本気であまり余裕が無い
すると、ニコッと笑って
「ユーリ……なら、いいよ…っ?///」
なんて言ってくるから、いよいよ理性が崩壊した
「その言葉、忘れんなよ…?」
「ん……//自分で言ったもん、忘れないよ//」
「んじゃ……とことん付き合ってもらうから、覚悟しとけよ?シア」
そう言ってまた、深く口付けする
離れられそうにねぇな…と心ん中で苦笑する
こんだけオレのことを思ってくれるシアを、手放せなんて出来そうにもない
フレンには怒られそうだか、そんなのもどうでもいい
絶対に守り通す
何があっても、絶対に
でも、今だけは
そんなこと考えずに、2人の甘い時間に浸らせて欲しい
~3日後~
「ふぁ………もう朝かぁ………」
欠伸をしながら起き上がる
隣に居たはずのユーリはもう起きてるみたいで、キッチンからいい匂いがしている
ユーリが一緒に行こうと言ってくれた次の日、リーナに頼んでカロルというこの前チラッと見かけた大きな鞄を持った子に手紙を出した
ユーリが無事なことと、あたしがついて行くことになったと知らせると、喜んでいる感じの返事が届いた(主にあたしがついて行くことに)
ユーリはちょっと不機嫌そうになったけどね……
リタって天才魔導師がまだ調べ物をしているからって、2日後に迎えに来るとも、手紙には書いてあった
それを見てユーリがガッツポーズしてたのは見なかったことにした←
……まぁおかげで、終始体を重ねてる時間の方が長かったけどね……!
覚悟しとけよ?って言われたけど、流石にやりすぎだ!って怒ったのは、つい昨日の夜の話だ
いつの間にか着ていた寝巻き(多分ユーリが着せたんだろう)を脱いで、いつも着ている服に着替える
着替え終わって、リビングに行くともう既に朝ご飯をユーリが作っていてくれた
「おはよーさん、シア」
あたしを見るなりニコッと笑って言ってくる
「おはよう、ユーリ」
それに答えるようにあたしも笑って言う
「んじゃ、食べようぜ?」
椅子に座ると、今日はユーリの合図で食べ始める
……うん、やっぱりユーリの方が料理上手いと思うの
「ふふ、やっぱユーリのご飯好き~!」
ニコニコしてそう言いながら食べていると、ユーリも嬉しいのか笑顔になる
「そりゃあよかったよ」
ニッと笑ってそう言ってくる
少しして食べ終わると、ちょっと真剣な顔してユーリが口を開く
「……シア、もう1度確認しとくけど…本当にいいんだな?」
「…うん、もちろんっ!」ニコッ
「マジで危ねぇかも知んないんだぜ?」
「んー……だって、ユーリ居るから平気平気っ!」
笑顔でそう言うと、ちょっと呆れたような、それでいて嬉しそうな顔になる
「ははっ、それもそうだな、守るって言ったしな」
そっと頬を撫でながらそう言ってくる
大きいのに、細くて、あったかい手
そんなユーリの手で撫でられるのが嬉しくて目を細める
「さ、片付けて出掛ける準備しねぇとな
オレ、皿洗っとくから、準備頼むわ」
「うんっ!」
ユーリの手が離れると同時に立ち上がって、部屋に1度戻る
戻って、鳥かごを開けて中からリーナを出して兄さん宛の手紙を持たせる
「リーナ、しばらく兄さんのところに居てね?それか、宿屋の女将さんのところ!わかった?」
そう言うとピピッと鳴いて窓から飛び立った
それを見送ってから、準備を始める
と言っても、必要なものは昨日揃えてある
昨日揃えたものを持って、壁に立てかけてあるあたしの双剣を手に取る
これを使うのはいつ以来だろう
最後に使ったのは、兄さんと一緒に稽古した時だった気がする
手入れだけはちゃんしていたから、問題はないだろう
剣の扱いを教えてくれたのは兄さんだ
だけど使っているものはユーリの愛刀と同じもの
あたしにはこっちの方が使いやすい
腰に付けて窓を閉めたのを確認してからリビングに戻ると、洗い物を終えたユーリが、壁に寄りかかって待っていた
「お待たせっ!」
「んじゃ、行くとしますかね」
そう言って右手を差し出してくる
ニコッとしてその手をとって、恋人繋ぎにする
あたし的にはこっちの方が落ち着くんだ
2人並んで外に出て、1度振り返る
「「いってきます!」」
誰もいないが、そう言ってドアを閉めた
「あっ!ユーリっ!!」
広場につくと、もう集まっていたみたいでこの前見かけた人達が居た
「おっ!!本当に連れて行くのねっ!おっさんちょっとうれ」
「手ぇ出したら串刺しだからな?おっさん」
鞘のついたままの刀を向けながらユーリは言う
「いいのかしら?連れて行っても」
「フレンに怒られませんか…?」
ユーリ……何も教えてくれないから誰が誰だかわかんないや……
…まぁ、早く行かないと色々まずいしね……
「いんや、やばい。っつーことでさっさと行こうぜ?」
「ゥワンッ!」
「!ラピード!!元気だった?」
ユーリがみんなと話してるとラピードが寄って来た
相変わらずもふもふだぁ
「シアー、ほら、フレンに見つかる前に行かねぇとやばいぞっ?」
「うっ……そうだった……ラピード、後でもふらせて!」
「ワンッ!」
そう言うと、ユーリに手を引っ張られて走り出す
他の人たちも慌ててついてきてるみたい
結界を出る前にチラッと振り返って小さく呟いた
「行ってくるね、下町のみんな」
~後日~
「にしても、やっぱ空飛んで移動ってすっごく楽だねっ!」
「ふふ、楽しそうにしてくれて嬉しいわ」
あれから、自己紹介したり、今までの旅の話聞いたり、これからすることを聞いた
意外とみんなフレンドリーですぐ仲良くなれた
特にジュディスとは、歳が1つしか変わらないから凄く仲良くなれた
で、今は始祖の隷長を探す為に空で移動中!
少し前までだったらこんなこと、考えられなかったなぁ
そんなことを考えながら眺めてると、遠くから見覚えのある影が見える
「……あれ?」
「あら、どうしたのかしら?」
「あ、いや……あたしが飼ってる小鳥と同じ……というか……うん、あそこに見えるのあたしが飼ってる小鳥のリーナだ……」
「はっ!?シアっ!それ本当かよっ!?」
ちょっと離れたところに居たユーリがそれを聞いて慌てて近寄って来た
手を伸ばすと、やっぱりリーナで手紙を持っている
……嫌な予感しかしない
「……ユーリ、開けたくない、これ、開けたくないっ!」
ちょっと涙目になりながら訴える
だっていつもの倍くらいあるんだもんっ!
めっちゃ分厚いんだもんっ!
「あー……でも、ほら、開けなきゃ開けないで怒られるぜ…?」
ユーリも書いてあることが想像ついているからか、ちょっと開けたくなさそうだ
でもユーリの言う通り、開けなきゃ開けないで怒られるのが目に見えている
渋々開けると案の定、手紙の最初から怒ってる
《アリシア?結界の外に出るのは駄目だとあれほど言ったろっ!?なんで勝手に行くんだっ!?それに、ユーリと2人でだったらまだしも、なんで彼らもなんだっ!?何度も駄目だとあれほど……………………》
「……ユーリィ………兄さんが本気で怒ってる、やばいよこれぇ…」
いよいよ本気で涙が出てくる
もう読みたくなくて、ユーリに抱きつく
「ありゃあ、ついにフレンちゃんから手紙来ちゃった感じ??」
ちょっとおどけた声でレイヴンが言ってくる
いや、彼がおどけた声なのはいつもか…
「なによ、フレンって怒ったらそんなに怖いわけ?」
「……怖い、で済めば苦労しねぇんだよな」
「え……そ、そんなに?」
「……怖いんじゃないの……面倒なの……いや、確かに怖いけどさぁ……」グスッ
兄さんほど怒ったら大変な人はいないよ……
ユーリも怒ったら怖いけどね……
「あら、じゃあ帰る?」
「それは万が一にでもねぇな、シアを帝都に1人で居させたら、次は勝手に1人で行くのが目に見えてっからな」
「でも、彼女がフレンに怒られるわよ?」
「いやぁ……多分、あいつが怒ってんのは…」
そう言って、抱き着いてたあたしを離して持ってた手紙を取ると、パラパラとめくり始める
なんだろうと思って、少し顔をあげる
すると、めくっていた手がぴたっと止まって苦笑いしだす
「……だよな、やっぱオレにだよな……」
ボソッと呟いて手紙を読み始めた
《…まぁ、アリシアにはこのくらいにしておいて…ユーリ。僕は君に何度も言ったのに、何故連れ出したりしたんだい?次会った時……覚えていてくれよ?》
「あ、あの……それは一体……どうゆう意味なんです……?」
「あん?まぁ…ようは無言で斬り掛かるから気をつけろよってことだろ」
手紙を閉じて紙とペンを取り出すと返事を書き始めたけど、すぐに書き終わったみたいだ
何を書いたか気になって、背伸びしてみると、そこにはたった一言……
《受けて立つっ!》
「ちょっ!ユーリっ!!喧嘩吹っかけてどうするのっ!?」
慌てて止めるけど、時既に遅く……
リーナは手紙を持って帰って行った
「もうっ!兄さん更に怒らせてどうするの?!」
「へーき、へーき。問題ねぇっての」
「……それで怪我したら怒るよ……?」
ムスッとしてユーリを見ると、大丈夫だってのって言いながら頬にキスしてくる
「まーた始まったよ……ユーリのご機嫌取り……」
「あはは……仲良しでいいじゃないですか」
「そうゆうことは人がいないとこでしなさいよ、バカップル」
「ふふ、仲良しね」
「アリシアちゃーんっ!おっさんも」
「それ以上近寄ったらぶった斬るぞ、おっさん」
「あ、あはは……」
ムスッとしてたことも忘れて、ユーリとレイヴンのやり取りを見守る
もうだいぶ慣れてきた
兄さんはあー言ってたけど、みんないい人だし、楽しい人ばっかだって思う
まだ、始まったばかりだし、これから危ないこともいっぱいあるだろうけど、これから先がとっても楽しみだ!
~スキット:見つかりました…~(会話のみ)
「見つけたぞっ!」
「うおっと!あっぶねぇな…」
「受けて立つっ!と言ったのはユーリだろっ!?アリシアを勝手に連れ出して…!!」
「お前はシアの保護者かっ!っつーのっ!」
「兄なんだから当然だろっ!?」
「残念っ!シアはオレの彼女なんでねっ!オレと一緒ならいいだろっ!っと!」
「いいやっ!駄目なものは……っ!駄目だっ!!」
「……何?あの喧嘩」
「これは……フレンちゃん、もしかして……」
「……うん、極度の心配性」
「心配性………と言うよりも……アリシア大好きって感じがします……」
「うふふ、彼もあなたが大事なのね」
「……妹としてだけどね……多分……」
「た、多分って……」
「女将さんも心配していたんだぞっ!?ユーリが帰って来たらっ!説教だってっ!言ってねっ!」
「おいおい…それは勘弁だぜっ!!?」
「大体っ!会わせるなって!何度も言ったのにっ!!」
「ったくっ!あん時のはっ!不可抗力だっつーのっ!!それと!少しはシアの意見尊重してやれっ!馬鹿兄貴っ!!」
「そう言うのであればっ!!もっとちゃんとした理由を考えているくれないかっ!?馬鹿彼氏っ!!」
「……アホくさ……何なのよ……」
「これは……おっさんもどうにも出来ないわ……」
「ユーリ…?フレン…?穏便に行きましょう?穏便に…!」
「エステル……あれ、聞こえてないよ……」
「ここは、アリシアの出番かしら?」
「……あたしでも無理………」
ユーリ、フレン以外ため息をつく
(もう………融通の聞かない兄さん、嫌い)
(なっ……!!)
(あ、石化した…)
(妹ちゃんからの嫌い発言は効果ありありねぇ……)
(……シスコンね、完全に)
(フレン!今治癒術を…!!)
(治癒術で治るのかしら?)
(……シア、機嫌直してやれよ、お前に嫌われんのが1番傷つくんだぜ?こいつ)
(…知らない、ユーリいじめるから知らないもん)
(……こりゃしばらくこのままだな……)
※この後、アリシアを説得してなんとか復活したとか…
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