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年の変わり目に
「うー……寒っ」
両腕を擦りながらアリシアは身震いした
チラホラと雪が降る中、人気の少かわないオルニオンの街の中を一人歩いていた
「もう……誰も動こうとしないんだから……」
ブツブツと一人文句を言いながらショップに入る
数分して食材の詰まった紙袋を二つ、両手に抱えて出てきた
「重……っ」
少し買いすぎたかと苦笑いしながら袋を見つめる
早く帰ろうと宿屋の方へ身体を向ける
前がよく見えないらしくゆっくりと少しふらつきながら歩いていると、何かに躓いたようで転びそうになる
「うわっ!!?」
転ぶのは百歩譲ってよしとして、落ちた物を拾うのは面倒だなどと呑気なことを考えながら身を強ばらせて目を瞑り、訪れるであろう衝撃に備えた
が、あったのは痛みではなく誰かに支えられる感覚だった
「……あれ、ユーリ…?」
恐る恐る目を開いて、目の前の人物の名を呼んだ
「ったく、買いすぎだっての。そんなに買うんだったら誘ってくれりゃよかったんじゃねえの?」
半分呆れ気味に言いながらアリシアの身体を起こすと、彼女が持っていた袋を一つ取り上げる
「だってレイヴンの相手してたから」
ほんの少し頬を膨らませてムスッとした表情を浮かべる
「言ってくれりゃ着いて来たっての。おっさんなんかより、シアの方が大事だ」
片手に紙袋を持ち直すと、空いたもう片方の手で彼女の頭を撫でる
すると、少しだけ嬉しそうに目を細めた
「さ、寒いし早く戻ろうぜ」
そう言って微笑むと彼女の返事も聞かずに空いている手を引いて歩き始めた
アリシアは引かれた手を重ね直すと、ユーリの指と絡めて恋人繋ぎにする
「うわっ、めちゃくちゃ冷えてんな」
「そりゃねえ……これだけ寒いんだから仕方ないじゃん」
「はははっ、それもそうだな」
冷えた彼女の手を温めるように、ユーリは手を強く握り返した
「にしても、流石年末っていうか…人影ねえな」
キョロキョロと辺りを見回しながらユーリは言う
雪の降る街には二人の影しかなかった
「こんな時まで外に出る人、居ても少ないでしょ」
カラカラと笑いながらアリシアは言う
年の変わるこの日、多くの者は家に籠って家族や恋人、友人と過ごしていた
「ま、それもそうだな」
くくくっ、と喉を鳴らしながらユーリも笑った
「あーあ、もう今年も終わりなんたねぇ」
しみじみと思い出すように言いながら、アリシアは軽く目を閉じた
いくつもあった出来事を思い出しながら薄らと笑みを浮かべた
「だな。色々と有りすぎたせいで短く感じたな」
ユーリが肩を竦めると、アリシアはくくくっと喉を鳴らした
「それはユーリが変に戦っちゃったり、厄介事拾ってくるからでしょう?」
「オレのせいじゃねえっての」
「あははっ、でも、楽しかった」
ニコリと微笑みながらアリシアはユーリを見上げた
「まっ、退屈はしなかったな」
そう言ってユーリも微笑む
そのタイミングで、リゴーン。リゴーン。と年の変わりを告げる鐘の音が響いた
「やべっ、年明けちまったか」
気まづそうにユーリは肩を竦めた
年明けはみんなで、などと言っていた首領の言葉を意図しないで無視してしまったからだ
「怒られる筋合いないよ。食べ物少ないから買いに行こうって言ったのに、誰一人動かなかったんだもん。私のせいじゃないー」
そう言って彼女は少し悪戯が成功した子どものように笑った
「……まあでも、おかげで今年もユーリと二人きりで年越せたし、ね?」
立ち止まって、嬉しそうに笑ったアリシアにユーリは息を呑んだ
出来ることならこのまま二人きりになりたいと思う程に、アリシアは嬉しそうな笑みを浮かべていたからだ
「明けましておめでとう、ユーリ。今年もよろしくね」
「………おう、明けましておめでとう、シア。今年もよろしく、な?」
数拍遅れてユーリは言葉を返す
目を閉じた彼女の唇にそっと自身の唇を一瞬重ねて、直ぐに離れた
「………やべえな、このままどっかに攫っちまいたいわ」
「私は別にいいけど、フレンたちに怒られるよ?」
冗談混じりにクスリと笑ったアリシアにユーリは苦笑いした
一生この笑顔には勝てそうにない
そんなことを思いながらもう一度唇を奪った
道のど真ん中なのに、などと思いながらも、辺りに人がいないからいいかと、彼女は大人しくそれを受け入れた
「……はっ……来年からは、無理言ってでも二人で過ごすとしますかね」
離れて早々にユーリは意地の悪い笑みを浮かべた
「あははっ、もう来年の話??」
「嫌か?」
「ううん、そんなことないよ。でも、ちょっと気が早すぎなのー」
「そうかぁ?シアといる一年なんてあっという間だぜ?」
「んー、まあそれはわかるけどさ」
アリシアがそう言うと、二人揃ってクスクスと笑い出した
まだ先のことを話しながら、繋いだ手を離さないようにしっかりと握り締めて
「新年早々、あのバカップルは……」
遠くからワナワナと拳を震わせてリタが半分睨み気味にその様子を見ていた
「リ、リタ?穏便に行きましょう?ね??穏便に!」
隣でアワアワとしながらエステルが止めに入った
「あら、いいじゃない。折角の新年なんだもの。二人きりにさせてあげたってバチは当たらないわ」
ニコリと微笑みながらジュディスが助言を加えた
「じゃのう。それに最近は二人とも別々の依頼につくことが多かったようじゃから、今日くらい大目に見るべきじゃ」
首を縦に大きく振りながらパティは言う
その声色は何処か自分自身に言い聞かせるような雰囲気だった
「だとしても、道のど真ん中では困るって……」
遠い目で彼らを見つめながらカロルはボソリと呟いた
「そうねえ……いくらなんでもちとあれは問題ね」
やれやれと肩を竦めてレイヴンは苦笑いする
「全く……せめて場所くらいは考えて欲しいものです…」
幼馴染二人に対して大きくため息をつきながらフレンは項垂れた
話題の二人は未だ仲間たちには気づいていないらしく、その場でクスクス笑いながら話し込んでいた
「さ、私たちは宿屋に戻って宴会の続きでもしましょう?」
ジュディスがそう促すと、レイヴンは困ったように笑う
「戻るも何も、あの二人がお酒とか酒のつまみとか明日の朝食の材料とか持ってるから、あの二人を先に連れてかないと始めらんないわよ?」
「……すみません、僕が責任を持って連れて帰ります」
至極申し訳なさそうにフレンは言葉を発して顔をあげた
笑顔、と言えば笑顔なのだが、怒りを堪えたそれはとてつもなく引き攣ったものになっていた
「もう、フレンも…穏便にですよ?穏便に!」
リタに掛けたのと同じ言葉をエステルはフレンにかける
当の本人はまるでわかっていないのか、今にもユーリに殴り掛かりそうな目で彼を見つめていた
「というか、呼べばいいだけじゃないの?」
心底呆れた様子でリタはフレンにそう言うと、二人の方を見る
「そこのバカップルー!!いい加減戻って来いー!!!」
そう言えば、最初に振り返ったのはアリシアだった
しまった、と言いたげに慌てるアリシアに対し、ユーリは不満げに顔を歪めた
中々動こうとしないユーリに対しアリシアが何か耳打ちすると、すんなりと仲間の元に歩き出した
「ごめんごめん!つい話し込んじゃってて」
仲間元に戻って来たアリシアはそう言って肩を竦めた
「うふふ、いいのよ。新年ですもの、ね」
ジュディスはそう言って笑う
「ほら、早く帰って続きしましょーよ!」
レイヴンの掛け声合図に宿屋へと足を向ける
「…あっ!そうだ!」
最後尾を歩いていたアリシアが唐突に声を上げて立ち止まった
それに合わせて何事かと首を傾げながら全員が立ち止まる
「みんな、明けましておめでとう!今年もよろしく、ね!」
満面の笑みで仲間たちを見回しながら彼女は言う
それに合わせて彼らも嬉しそうに微笑む
「明けましておめでとうございます。こちらこそよろしくお願いしますね」
「……明けましておめでと。今年も………よろしく、ね」
「ふふふ、明けましておめでとう。私の方こそよろしくお願いするわ」
「明けましておめでとうなのじゃ!今年もよろしくお願いするのじゃ!」
「明けましておめでとう!これからもよろしくね!アリシア!」
「明けましておめでとさん。今年もよろしくね」
「明けましておめでとう、アリシア。今年こそは無茶を減らして欲しいな」
「おい、フレン、それ今言うことか??」
「今だからこそ、だよ。君にも全く同じ言葉をあげるよ」
仲良さげに挨拶をしていた所を、ユーリのツッコミで一気に二人が口喧嘩の体制に入ってしまった
新年だというのに…などと全員が思いながらも、この二人に口喧嘩するなというのは無理な話かと割り切って苦笑いする
その中でアリシアはただ一人、その様子を微笑ましげに見つめていた
何度新しい年になっても、変わらずにいてくれる二人に安堵しながら次の年も、またその次の年も
今いる仲間たちと過ごせたら……
それだけで充分幸せなんだろうと思いながら
口喧嘩を始めた二人の幼馴染を止めに入っていった
〜あとがき〜
明けましておめでとうございます!
如月です!
年明け一発目は短編です!
…若干出遅れましたがw
今回は新年早々イチャつく二人と、それを遠巻きに見守る仲間たちのお話でしたw
急いでかいたのてあお話自体、普段よりも短めのものになってしまいましたが…w
書きたいところは書けたので個人的には満足です!w
では今回はこの辺りで!
また別のお話でお会いしましょう!
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