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すれ違い
~野営にて~
「フーレンー!」
フレンが焚き火用の薪を集めていると、唐突にアリシアが呼ぶ声が聞こえる
「ん?どうしたんだい、アリシア」
フレンが手を止めて、アリシアの方を向くと、少し言いにくそうに俯いている彼女の姿が目に入る
「…剣の稽古、ちょっと付き合って欲しくて」
遠慮気味に肩を竦めながら、彼女はそう言う
「なんだ、そんなことか。もちろん構わないよ」
全く気にしない、というようにフレンは笑いかける
「本当っ!?やった!ありがとう!」
それに、アリシアは嬉しそうに笑顔を見せ、子供のようにはしゃぎ出す
「カロル、ちょっとアリシアと剣の稽古してくるね」
集めた薪をカロルに渡しながらフレンはそう告げた
「あ、うん!夕飯出来たら呼びに行くよ!」
その薪を受け取りながら、カロルはフレンとアリシアに笑いかける
「ありがとう、それじゃまた後で」
ニコッとフレンは笑うと、アリシアの手を引いて、少し離れた場所へと向かって歩き出した
レイヴンやジュディス、カロルはそんな2人を微笑ましそうに見つめていた
……が、
「………」
その2人の様子をユーリは若干睨み気味に見つめていた
ユーリが2人の関係を良くないように思っていることが、見ただけでわかるくらいに不機嫌さが滲み出ていた
「あー、あんちゃん?あからさまに不機嫌になんの、やめてくんない?」
レイヴンが振り向きながら、遠慮がちにユーリに話しかけるが、当の本人の耳には全く入ってきていないらしい
じっと2人が向かった方向を睨みながら、座り込んでいる
その姿に、半ば諦め気味にレイヴンは深くため息をつく
「諦めなさいよ。最近、アリシアがフレンとばっか剣の稽古してるから拗ねてんでしょ」
呆れ気味にリタは肩を竦めて、レイヴンを見ながらそう言う
「…うるっせぇよ」
たった一言そう言うと、ユーリは2人から顔を背ける
そう、ここ最近やけにアリシアはフレンと一緒にいることが多いのだ
彼女と幼なじみのフレンとユーリは、2人とも彼女のことが昔から好きだ
だから、何かある事にどちらが彼女に喜ばれることを出来るかと競い合っていた程だ
それは今も変わらなく、よく競い合っているのだが…
最近、ユーリは何故かアリシアから避けられている
彼女がどこ行くのにも大体フレンが一緒だし、稽古もついこの前まではユーリと一緒にやっていたのに、それすら無くなった
あからさまに避けられているこの状況に、彼が不機嫌にならない方がおかしいだろう
「そんなに気になるのならシア姐に直接聞けばいいのじゃ」
「それか一緒にいるフレンね」
パティとジュディスが苦い顔をしながらユーリにそう提案する
「フレンにゃもう聞いたっつーの……答えちゃくんなかったけどな
シアは声かけようとすっと逃げられちまう」
が、そんなこととっくに実行していたようで、困ったように頭を掻きながら答えた
「フレンはなんて言ってたんです?」
エステルは首を傾げながらユーリに問いかける
「…自分の行動を見つめ直してみたらわかるんじゃないかい?だとよ」
何のことかさっぱりだと言いたげに肩を竦めながらユーリは答える
「…?ユーリ、アリシアになんかしたんですか?」
若干咎めるような口調でエステルは話しかける
「んな記憶ねぇんだけどな……ま、考えてもわかんねぇし、後でまたフレンのやつを問い詰めるだけだ」
パキッと指を鳴らしながらユーリは言う
「ほ、程々にしてくださいね?」
不安そうに顔を歪めてエステルはユーリを見詰める
「わーってるよ……オレ、夕飯作ってくるわ」
そう言いながらユーリは立ち上がり、支度をしに歩き出す
「あ、私も手伝います!」
エステルはそう言うと、先に歩き出したユーリのあとを追って、夕飯を作りに行ってしまった
その2人に聞こえないように、小声で残ったメンバー達は話し出す
「……ねぇ、原因ってもしかして……」
最初に言い出したのはカロルだった
「少年、おっさんも同意見よ…」
カロルが最後まで言葉を言う前に、分かってるというようにレイヴンがカロルの肩に手を置く
「あら奇遇ね、私も予想ついたわ」
ジュディスもわかっていたようで、苦い顔をしながらカロルの方を向く
「珍しく意見が合うわね、あたしもよ」
リタも腕を組みながらそう答える
「うちもわかったのじゃ」
彼らはそう言い合って、仲良さげに夕飯の支度を始めた2人を見つめた
気付いていないのは、どうやら当の本人達だけのようだ
「さて……どうしたものかねぇ……」
苦い顔でユーリとエステルを見つめながら、レイヴンは大きなため息をついた
~一方その頃~
「アリシア」
剣の稽古の途中、手を止めて彼女の名前を呼ぶ
「ん?なに??フレン」
キョトンとした顔で彼女は首を傾げながら、僕を見つめてくる
「最近ユーリと一緒にいないようだけど、いいのかい?」
苦笑いしながらそう問いかける
「うっ………」
すると、返事に困ったのか言葉に詰まって項垂れてしまう
アリシアと一緒に居られる時間が増えたのは僕的にはすごく嬉しい
だが、彼女がユーリのことを好きなのを知ってる手前、素直に喜ぶことが出来ない
「僕といると、いらない勘違いされるんじゃないかい?」
「だっ……だって………」
歯切れが悪そうにアリシアは呟く
「さては、ユーリがエステリーゼ様と最近ずっと一緒にいることに怒ってるのかな?」
「……フレン?ちょっと新しい奥義の実験台になってくれる?」
ここからだと表情はよく見えないが、機嫌が悪くなったことはわかる
「なんだ、やっぱり気にしていたんだね」
「……うるさいよ、フレン」
そう言いながら奥義は出して来なかったものの彼女は斬りかかってくる
余程怒っているようでいつもの様なキレがないし、むしろ剣に振り回されているような感じだ
さらっと交わして彼女の剣を片方弾き飛ばす
「っ…!」
慌てて僕から距離を取って剣を取りに行こうとするが、腕を掴んでそれを遮る
「まったく…そんなんじゃ魔物も倒せないよ?」
肩を竦めながら腕の中にいるアリシアにそう言う
「うー………」
「……そんなにエステリーゼ様とユーリが気になるのなら、ユーリに首輪でもつけておけばいいんじゃないかい?」
半分冗談交じりに言うと、大きくため息をつく
「…それが出来ないから昔から困ってんじゃん……フレンから言ってよ…」
半分涙目になりながら、アリシアは僕を見上げてくる
「嫌だよ、僕だって君が好きなんだから」
アリシアの目元に溜まりかけていた涙を親指でそっと拭いながら言う
「あはは……これがユーリだったらどんだけ嬉しいか……」
力なく笑いながらアリシアは呟いた
「…あからさまに残念そうにしないでくれないかい?流石に傷つくよ」
「嘘だね、全然そんなふうじゃないよ」
苦笑いしながら彼女は言う
そして、さっと僕から離れると先ほど飛ばした剣を取って鞘に収める
「さてと、そろそろ戻ろっかな…カロルが心配するし」
先ほどの悲しそうな顔はどこへいったのか、ニッと笑いながらアリシアは僕の方に振り返った
「それもそうだね」
彼女にならって僕も剣を収める
先にテントの方へと戻って行く彼女の後ろ姿を、ただ黙って見つめる
彼女の頭の中にはユーリの事しかないと思うと胸が痛むが、昔からずっと好きだったことを知っているし、告白して断られたのも事実だ
だから、今は彼女の幸せを望むよ
……ユーリっていうのが、癪だけどね
「たっだいま~!」
いつものように笑いながら焚き火の近くにいたカロル達に話しかける
「あら、おかえりなさい」
「稽古どうだった?」
戻って早々そう聞かれ、少し肩を竦める
「うーん…全然ダーメ、やっぱ集中出来ないや」
「魔物と戦わせたらすぐ負けそうなレベルだよ」
いつの間に後ろにいたのか、苦笑いしながらフレンがそう言う
「…うっさいフレン、黙って」
ギロリとフレンを睨みつける
フレンだけを睨んだはずなのに、周りに居たカロル達も驚いてしまった
「こっちの嬢ちゃんも不機嫌なことねぇ……」
レイヴンがお手上げだというように呟く
「あ、アリシア!それにフレンも!丁度今夕飯出来たとこなんですよ!」
「ほら、お前達も夕飯だぞー」
仲良さそうに並んで歩いているユーリとエステルにズキッと胸が痛んだ
「やっとなのじゃ!シア姐も行こうなのじゃ!」
「え?あぁ……うん、そうだね」
パティに手を引かれ、渋々ユーリとエステルの方に行く
「…おい、フレン、ちょっと後で話あんだけど?」
ユーリの横を通り過ぎたところで、フレンに話しかける声が聞こえた
「…わかった。夕飯食べ終わってからね」
後ろでそんな会話をしているのが聞こえる
なーんでユーリはフレンにキレてるんだか……
「早く食べましょうよ」
「ありゃ、珍しくリタがもう来てる」
「最近、全く一緒に食べようとしないあんたに言われたくないわよ」
「にゃはは~それもそか」
普段食べるよりも研究、と言って中々食べに来ないリタに珍しいと言うと、案の定な答えが返ってきた
苦笑いしながらリタとパティの間に座る
「…いいの?こっちで」
「んー?なーにが?」
リタはチラッとユーリとエステルの方を見て言うが気づかないフリをした
「はぁ…ま、あんたがいいならいいけどね」
そう言ってご飯を食べ始める
リタに続いてみんなも食べ始めたので私も食べるが、あまり手が進まない
ここのところずっとなのだが心配かけたくないし、いつも通り食べているようにしている
なんとなくチラッと彼の方を見るが、見てから後悔した
彼女といる時の方が私といる時よりも幸せそうなのだ
やっぱり彼の傍にはもういられないのだろうか…
「シア姐?」
パティの呼び声に隣を見ると、心配そうに見つめている彼女の姿が目に入った
「…あ……ごめんね……どうしたの、パティ?」
「いや…呼んでんのパティじゃなくて、あんたの幼なじみ2人だけど」
「……へ?」
ユーリとフレンの方を見ると2人とも少し呆れたような顔をして、私を見ていた
「シア…お前本当に聞いてなかったのか?」
「え…?あ…ごめん……ぼーっとしててなんも聞こえてなかった」
あはは…と誤魔化すように苦笑いする
ふーっと息を吐いて、フレンが話し出す
「最近、あまり食事に手がついていないけれどどうしたんだい?って聞いたんだよ」
「今だってほとんど食べてねーだろ?」
「あー………バレてた?」
「むしろバレてねえと思ってたのかよ…」
いつも通り接してくるユーリに更に胸が苦しくなる
でも、それだけはバレるのが嫌なわけでなんとか隠そうとする
「あ、あはは……あんま食欲ないのよね…まぁ……あんまり気にしないでよ」
「ダメですよ!ちゃんと食べないと体が持たないですよ!」
苦笑いしながら言うと、ユーリとフレンでなく、エステルが反論してきた
「へーきだってば、そんなこと言ったらリタだって食べない時あるじゃん」
隣にいるリタをチラッと見る
「ちょっ!あたしを巻き込まないでよ!」
私だけ怒られるのは不公平だもん、と小声でリタに言う
どうやらエステルの矛先はリタに向いたようで、リタに対して説教が始まった
エステルだけでも矛先を変えられたのはいい方だ
問題はこの2人の方だ
「でも、最近剣の動きが鈍っているじゃないか」
「術の精度もかなり落ちたよな?」
「うっ………」
痛いところを突かれて言葉に詰まってしまう
「もう少し、ちゃんと食べたらどうだい?」
「それとも、食べたくない理由でもあんの?」
言い返せないでいると、咎めるような2人の声が聞こえる
不調な理由をわかっているのに聞いてくるフレン、人の気持ちも知らないで文句ばかり言ってくるユーリ
そんな2人に、少しだけ腹が立った
「…別になんも理由なんてないよ、本当に食欲ないだけだから」
そう言って席を立ってテントとは逆方向に足を向けた
「アリシア?」
不思議そうにフレンが声をかけてくる
「…ちょっと散歩してくるだけよ、すぐ戻る」
振り向かずにそう言って進むが、途中で腕を掴まれた
「こんな時間に1人で、しかもまともに戦えないのに出歩くなんて感心しねぇな?」
振り向かずとも、ユーリが止めたのだと声でわかった
「…私の勝手でしょ?ほっといてよ」
いつもよりも少し冷たい声でユーリそう言えば、彼は驚いた顔をする
腕を掴む手の力が抜けたのを確かめるとそのまま振り払う
「……何も知らないくせに」
そう呟いて1人、散歩へ出かけた
ポカーンとしてシアが去って行った方向を見つめる
あんな冷たい声……初めて聞いた……
「あの…ユーリ?アリシアになんかしたんです?」
「いや…なんもしてねえと思うんだけど…」
そう言うとリタが大きくため息をついた
「あんた…本当に気づいてないの?だとしたら相当鈍感か、どうしようもない馬鹿よ?」
「気づいてないって、何にだ?」
リタの質問に首を傾げると、あちこちからため息が聞こえてくる
「…アリシアが苦労してる理由がすごいわかった」
「じゃのう…シア姐が可哀想なのじゃ」
「あー…おっさんもあんまこうゆうこと言えた立場じゃないんだけど…流石に気づいてあげなきゃ可哀想よ?」
口々に同じような事を言い出すから頭ん中は『?』だらけだ
それは、どうやらエステルも同じみたいだが……
「はぁ……本当は君が気づくまで待つつもりだったんだけどね…これ以上は彼女が可哀想か…」
やれやれとフレンが口を開く
「まず一つ目、最近避けられている気がするって前に言ってただろう?」
「?あぁ、言った」
真剣そうに俺を見つめながら言うフレンに、首を傾げながら答える
「避けていたのはあながち間違いではないよ。ただ、君が嫌いだからじゃないけどね」
「はぁ?どうゆうことだよ」
頼むから遠まわしに言わずに直接言ってくれよ
そう思っているとジュディが少し怒り気味に口を開いた
「わからないかしら?アリシアはあなたが最近、ずっとエステルと2人でいることに嫉妬してたのよ?」
「……は……?」
自分でもわかるくらい間抜けた声が出てしまった
「オマケに、君ときたらエステリーゼ様と楽しそうにしているしね。アリシアは君がエステリーゼ様の方が好きだって勘違いしているよ」
「……は……はぁ!?」
オレが!?エステルを!?
ない、それは死んでもない
昔からシア以外と付き合おうと思ったことねえぞ!?
「それと、勘違いされているようだから言っておくけど、僕とアリシアは付き合ってなんていないし、この前告白したけど君のことが好きだからって断られているよ」
さらっとフレンに言われ、硬直してしまう
「……誰が、誰を好きだって…?」
多分、今鏡見たら相当間抜けた顔してるんだろうな
とか思いつつ聞き返すが、その聞き返しが鬱陶しかったのか、リタがキレ気味に答えた
「だぁぁ!もう!アリシアはね!ユーリ!あんたのことが好きだって言ってんの!」
ビシッと指を差されながらそう言われる
「アリシア…結構頑張ってアピールしてたと思うけどなぁ…」
「そうね、ユーリの為にって甘いお菓子作ったりしてね」
カロルとジュディの言葉が心にグサッと突き刺さる
……言われてみりゃ確かにそんな気もしなくはない…
「それなのに…あんたときたら…っ!」
相当怒りが溜まっていたのか、リタの足元に術式が浮かび上がる
「り、リタ!それはダメです!」
「あぁ!もう!どいて!エステル!」
術を放とうとしたリタに、エステルはすかさず抱き着いてそれを中断させた
……若干エステルが寂しそうに見えるのは気の所為だろうか?
「…で、2つ目だけど…食欲ないのは恐らくそのせいだろうね。術の精度とか、剣の動きが鈍いのもね」
フレンの言葉が再び心にグサッと刺さる
確かにエステルとよく一緒に行動するようになってから、シアの食欲や戦闘技術が落ちていた気がする
「っ…!オレ、ちょっとシア探しに」
ドガーンッ!!!!!
シアを探しに行こうと立ち上がった時、ものすごい爆音が響き渡った
「何何何何!?どうしたってのよ!?」
ガタッと音を立てながらレイヴンが勢いよく立ち上がった
「ねぇ…今音がした方向って、アリシアが向かった方向じゃない?!」
リタが半分悲鳴のような声でそう言う
「ま、まさかぁ、そんなわけ…」
『グォォォォォ!!!!』
「「……………」」
やはり先ほど彼女が向かった方向から聞こえてくる
しかも今度は魔物の唸り声だ
「行ってくる…っ!!!」
「あ!ユーリ!1人でなんて危ないよ!」
カロルの静止する声が聞こえたがそんなのお構い無しに走り出す
頼むから無事で居てくれ…!!
「っ……!メテオスウォーム!!」
ドガーンッ!!!
『グォォォォォ!!!!』
「っ~~!!!」
ガキィッン
「この!お前と戦う気なんてないんだって!」
あぁ、最悪だ
ただ散歩してただけなのに魔物に絡まれるなんて…
しかも全く術も技も効かないときた
「こりゃ大ピンチかな…?」
詠唱を始めようとするとチャンスだと思ったのか長い尻尾を振り回してきた
『グォォォォォォォォォォ!』
間一髪のところで剣でガードするが、衝撃に耐えきれずそのまま吹っ飛ばされてしまう
「きゃっ…!?」
うまく受け身を取れずに地面に叩きつけられてしまった
「っ……はっ……」
両足と右腕を思い切りぶつけてしまったようで、思うように動かない
痛みで意識が飛びそうになる
朦朧としている中、魔物がゆっくりと近づいて来るのが見える
「ははっ……打つ手なし……だね……」
自傷気味に笑う
あーぁ、あの時ユーリの忠告をちゃんと聞いてればよかったと今更後悔する
が、そんなことを言っても後の祭りだ
「…ごめん……ユーリ…………好きって……言えなかった……ね……」
覚悟を決めて目を瞑る
どうせもう動けないのだ、食うなり踏み潰すなり好きにしてくれ
飛びかけた意識の中、最後に聞こえたのは魔物の悲鳴と誰の声だった
「シアーーっ!!!どこ行った!?」
音が聞こえてきた方向を彼女の名前を呼びながら駆け回る
いくら呼んでも返事はなく、無視されているのか、あるいは聞こえていないのか…
それとも最悪の事態が起こってしまったのか
柄にもなく不安に押しつぶされそうになる中
『グォォォォォォォォォォ!』
「きゃっ…!?」
「っ!シアっ!!」
大分近くから2度目の魔物の唸り声と、シアの悲鳴が聞こえた
声が聞こえてきた方向に向かって全力で走る
木の間をすり抜けると、少し開けた空間に出た
その中心当たりにシアは倒れていて、魔物が間近まで迫っていた
「くそっ!」
間に合ってくれ…!
そう願いながら距離を徐々に縮めていく
もう少しで彼女に手が届きそうな距離まで近づくと
「……め………ユーリ……………きって……………かった…………ね……」
掠れた声でところどころ聞き取れなかったが、確かにオレの名前を呼んでいた
「シア…!!喰らえっ!絶破烈氷撃っ!!」
『ギャォォォン………』
とりあえず魔物を吹っ飛ばしてから真っ先に彼女の元へ行く
「シア!おい!返事しろって!」
抱き上げて名前を呼ぶが、目を開ける気配はない
幸い息はちゃんとしているから最悪な事態からは免れたようだ
ほっと安堵するが、肝心の魔物はまだ倒せていない
気絶しているだけだろうから、早くここから離れなければ
彼女の剣を拾って鞘に納め、抱き抱え早足でその場を立ち去った
なんとも運のいいことに、森を抜けるまで、魔物は追ってこなかった
「ユーリっ!アリシアはっ!?」
森を抜けてすぐにフレンと合流した
「気失ってるだけみたいなんだが…オレにはよくわかんねぇや」
シアの顔を見つめながら言う
「…両足と右腕を強打しているようだね…エステリーゼ様に見てもらった方がいい」
流石騎士団長と言うべきか、見ただけですぐにシアの状態がわかったようで、悲痛そうに顔を歪める
「わかった、エステルはテントか?」
そう聞くと首を横に振る
「いや、君たちを探しに出ていってしまってるよ
僕が探して来るから、先にテントに戻っててくれ」
フレンの言葉に頷き、まっすぐにテントへと足を進めた
テントにつくなり、布団にシアを寝かせる
だいぶ焦りも落ち着いてくると、今度は胸がズキッと締め付けられる
焦っていた時は気づかなかったが、思っていたよりも彼女の体は傷だらけで、服もあちらこちら破れている
不幸中の幸いなのは、顔に傷がついていないことくらいか……
「……シア……」
小さく呟きながら、そっと彼女の頬に触れる
怪我をしているせいでなのか、熱が出ているようで、少し熱く額には汗が滲んでいた
汗を拭くためにタオルを取りに行こうと立ち上がり進もうとした…
が、服の裾を引っ張られる感覚がした
振り向くと、シアがうっすらと目を開けてオレのことを見上げているのが視界に入った
「……シア?目、覚めたのか?」
ゆっくりとしゃがんで彼女の頭を優しく撫でる
「……ん……」
どうやら目は覚めているようだ
安心してほっと息をつく
「ちょっと待ってろよ、もう少ししたらエステル来るからさ」
「…う…ん……」
優しく声をかけると、シアは掠れた声で小さく呟きながらゆっくりと頷いた
「オレ、タオル取ってくっからさ」
そう言って立ち上がろうとしたが、シアに手を掴まれる
「……や………」
寂しそうに顔を顰めながら小さく呟く
「シア?」
オレが首を傾げると、ゆっくり首を横に振った
「…や…だ……ここ……いて……」
「…は?」
自分でもわかるくらい間抜けた声が出た
ここ最近オレを避けていたシアがいきなり甘えだしてくるもんだから、流石に思考が追いつかない
「あー…あのな?そうは言っても汗拭かなきゃ風邪引いちまうだろ?」
言い聞かせるように頭を撫でる
「…いい……風邪……引いても……」
が、どうしても嫌らしく、少しだけ握られる手に力が入った
「よくねぇだろ…」
はぁ…と頭を抱える
振り払えない程強い力で握られているわけではない
だからといって振り払えるかは別問題だが……
「すぐ戻って来るって」
「や………一緒に……いて……」
「おいおい…マジかよ…」
いよいよ困った
更に熱が上がったのか息が上がっているし、頬も少し赤くなってきていた
そんな状態で上目遣いで言われたらいろいろ崩壊しそうだ
ましてや付き合ってはいないが両想いだとわかっている女だぞ…
「……だめ……?」
軽く首を傾げて聞いてくるその仕草がやけに可愛くて
「っ!?//…たく…エステル来るまでだかんな…?」
ついにオレが折れた
恐らくもうすぐしたらエステルも戻ってくるだろう
そんな長時間じゃねーし、煽って来なきゃ我慢くらい出来るわと、心の中で悪態をつく
「あー、でもやっぱ、流石に汗拭いておかねーとエステルに怒られそうだわ」
そう言って服の袖で軽く彼女の額の汗を拭う
すると、少し嬉しそうにシアは目を細める
「傍に居てやっからもう少し寝てろよ」
「んー……」
こりゃ本人の意思関係なく寝るな…
そっと頭を撫でると嬉しそうにふにゃりと笑う
本当行動の1つ1つが可愛すぎるだろ
「…ね…?ユーリ…?」
眠そうな声でシアが呼んでくる
「ん?どうした?」
そっと頬を撫でると、その手にシアは自分の手を重ねて来た
それだけでも驚いたが、次にシアの口から出た言葉に更に驚いた
「……好き……」
「っ!?!!/////」
突然の発言に硬直する
当の本人はそんなことお構い無しに眠りについていた
「……あー……ったく……人の気も知らねぇで…」
ははっと苦笑いする
「ユーリっ!!」
シアを見つめていると、テントの外からエステルの声が聞こえてきた
「…目覚めたら覚えとけよ?」
多分容赦出来ねーから
心の中でそう呟き髪にキスして、入ってきたエステルと交代した
エステルに大体の説明をしてテントを出る
後は彼女に任せれば問題ないだろう
外に出るとフレンとレイヴン、ジュディにラピードが焚き火の近くに座っていた
後の3人は恐らくもう一つのテントで寝ているのだろう、時間も時間だしな
「お、青年、嬢ちゃんの様子どうよ?」
オレに気づいたおっさんが心配そうに聞いてくる
「なんとも言えねぇ感じだな」
「全く…一体何と戦ったというんだ…」
「魔物の名前まではわかんねぇけどだいぶデカいやつだったぞ。後少しつくのが遅かったら踏み潰されてたぜ…」
フレンの横に腰掛けながら答えていく
「1人でそんな魔物と戦おうなんて無謀な子ね。少しお説教が必要かしら?」
流石のジュディも少し怒っているようで怪しい笑みを浮かべながら言う
「っつーかフレン、戻って来んのおせぇよ」
「仕方ないじゃないか、かなり遠いところまでエステリーゼ様は行ってしまってたんだから」
困った顔をしてフレンは言う
「そうね、私たちも探しまくったくらいよ」
ジュディも補足するよう言う
「でも、少し遅くて良かったんじゃないの?」
ニヤニヤしながら聞いてくるおっさんに嫌な予感を感じながらも、あくまでも普通に接した
「あん?なんでだよ?」
「誤魔化してもおっさんにはお見通しよ。テントから出てきたとき、ちょっと顔赤かったわよ?なーに言われたのよ?告られた?それともk」
「今すぐ八つ裂きにしてやろうか?」
カチャっと剣の柄に手をかける
するとパタパタと両手を顔の前で振って、冗談っ!と連呼しだした
「それで?実際のところはどうなの?何かしら嬉しいことはいわれたんでしょう?」
「…まぁ、な」
「へぇ、何を言われたんだい?」
「……」
無言で頭を掻く
こう改めて思い出すとガラにもないが恥ずかしくって中々言い出せない
だが、言わなきゃ言わないでうるさいから言おうとしたその時
「寝る前に好きって言ったのは覚えてるけど…」
「!?シアっ!?」
何事も無かったかのようにシアはテントから出てきた
「アリシア、もういいのかい?」
「ん、とりあえずは…ね?」
「でも、無理は駄目ですよ?当然戦闘も当分禁止です!」
「えー……」
「『えー』じゃありません!治癒術で治しましたけど、それでも体にかかった負荷は消せないんですよ!」
「もう…わかったよ…」
むすっと膨れて顔を背ける
いや、お前が悪いだろ…
「で、ユーリ!」
「…なんだよ」
彼女の顔を見てらんなくてふぃっと背ける
が、それは嫌らしくオレの目の前に来て腰を下ろす
「好き」
「……それ、さっきも聞いた」
「…付き合って?」
「っ!?/////」
まさかの言葉に頭が働かない
周りにいるフレン達も硬直している
こんなに大胆なやつだったか…?
「どっち?」
「…はっ、断る理由がねーよ」
そう答えるとニコっと笑って抱きついてきた
「…僕の居ないとこでにして欲しかったかな」
フレンはふーっとため息をついて苦笑する
やはりショックだったのだろう
「青年、あまり嬢ちゃん妬かせることしちゃダメよ?」
「わーってるよ」
「アリシアもね」
「うん!」
「それじゃあ、私達ももうねましょう?」
エステルの言葉にみんな賛同してそれぞれのテントに戻って行く
「さてと、オレらも戻るとしますかね」
「だねー」
「ほら、お前が退いてくんないとオレ、戻れないんだけど?」
未だに離れる気配のないシアの頭を撫でながら言う
「んー…」
どうやら離れる気はないみたいで抱きついてる腕に更に力を入れてきた
どうしようかと考えているとふとシアがテントから出てきた時のことを思い出した
眠っていた割には早すぎる気がする
「…なぁ?お前もしかして、オレがテントから出た時寝た振りしてたか?」
「っ~~!!////」
わかりやすいくらい耳まで赤くなっていた
なるほど、だから中々離れないのか
そんな行動に思わずにやけてしまう
「へぇ、期待してたってわけか」
耳元で低くそう呟けばビクッと反応する
「ホント、可愛すぎるわ」
「っ////ゆっ…!?」
顎を持って無理矢理顔をあげさせ、触れるだけのキスをする
軽く触れてすぐに離れる
「流石にまだしねーよ、怪我人に手出せねぇさ」
「うー……///」
「でも怪我治ったときにゃ
覚悟しとけよ?」ニヤッ
(や、やっぱり無理だっ!今すぐにでも引き離しに!)
(おやめなさいっての青年!)
(何よ、やっと想いが通じ合ったとこで邪魔するの?)
(あら、それも面白いんじゃないかしら?)
(お前ら見てたのかよ……)
~あとがき~
どもっ!
今回は付き合う前の2人を書いて見ました!
2人に嫉妬させたかっただけです←
最後のはきっとこの人達はこっそり見てるだろうなー
っと思ったのでw
ではでは、短いですがこの辺で!
また他のお話しでおあいしましょう♪
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