運命
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〜それから二ヶ月後〜
静かな部屋にアリシアの呼吸音だけが響く
欠片を揃えてから早二ヶ月……彼女はまだ目を覚まさない
そんな彼女の傍でユーリは彼女を見つめて座っていた
ここは貴族街にある彼女の家
星たちから、こちらの方がいいだろうと言われユーリは若干渋々といった様子でアリシアを連れて来ていた
ほぼ毎日のように誰かしらがお見舞いに来る
この二ヶ月、それが途絶えることはなかった
必ずユーリ以外の誰かがこの家にいた
この日は珍しくユーリ一人だけだった
どこかつまらなさそうに彼女の髪をくるくると指に絡めていた
「…………起こす、っつてもなぁ…」
ポツリとユーリは呟いてベットの縁に顎を乗せる
アリシアに起こしてくれると信じていると言われたものの、実際どうすればいいのか、ユーリにはわからないでいた
ただ声をかけるだけでは駄目だということは既に確認済みだ
それ以外にも手を繋いでみたりキスしてみたりと色々試していたが、全く効果はなかった
「……どうしたらいいんだかねえ…?」
何気なく彼女のネックレスに触れてみる
すると、ネックレスが強い光を放った
「………………こういうことかよ……………」
苦笑いしながら起きあがりユーリは周囲を見回した
強い光に包まれたと思えば目が覚めたのはいつか見たあの空間
違ったのは暗闇ではなかったこと
その風景を見てユーリが真っ先に思い浮かんだのはエレアルーミンの最深部だった
だが、あそことは違い空が見えていた
雲の漂う空と、それを写している水面……
どちらが上でどちらが下か、一瞬わからなくなるような空間だった
「……さて、最後の隠れんぼ開始といきますか」
そう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべて立ち上がる
散々探し回って来た彼にとって、見つけることなど簡単に思えていた
少し歩けば水面に波紋が広がる
たった少し動くだけでも綺麗な円をかいてそれは広がっていく
本来ならばすぐに消えてしまいそうなそれは、どこまでも広がっていった
『じっとする』ということが出来ない彼女のことだ
近くに行けばそれが見えるのではと、ユーリは考えて慎重に歩く
自分の立てた波紋で、彼女の波紋を消さないように
そうして慎重に歩いていると、綺麗に画かれていた円が途中で壊れた
何かほかの誰かの立てた波紋がユーリのそれをかき消したのだ
それが来た方向に、ユーリは迷わず駆け出した
風が波を立てただけかもしれない
だが、もしかしたらと小さな希望を抱いて一心不乱に駆けていく
しばらく走って、ようやくその人影を見つける
いつもと同じ服を着て、赤く染まった髪を風に揺らしながら、探していた人物は空を見上げていた
「……シア」
ユーリが声をかけると、彼女はゆっくりと振り返った
『……ユーリ』
小さな声で彼の名前を呼びながら、アリシアは薄らと笑う
「今の今まで、何見てたんだ?」
『んー……そうだなあ……』
顎に手を当てながら彼女は唸る
『…寒くて怯えてた時にユーリが傍に寄り添ってくれたこととか、暗きものの記憶のことを話した時のこととか……』
どこか嬉しそうにしながら彼女は言葉を繋げていく
『レレウィーゼの谷底にある私たち星暦の故郷に一緒に行こうって話したこと、新しい世界を二人で見に行こうって話したこと……』
そこまで言って表情を曇らせる
『……アスタルのこと、それに私がずーっと自分のことを黙ってたこと…お兄様や、レグルス様たちのこと、両親のこと……一人で悩んでたことを、ユーリが受け入れてくれたこと』
そして、胸の前で手を組んで目を軽く閉じた
『…………それと、ユーリがしてくれた約束』
嬉しそうに微笑みながら、少し頬を紅く染める
「欠片の中での出来事、全部思い出してくれてたんだな」
ユーリが嬉しそうに言うと、目を見開いてゆっくりと頷いた
『……うん。ユーリは…いつも私のこと、一番に考えていてくれたんだなぁって……気づいたんだ』
「おいおい、今更か?」
少し苦笑いしてユーリがアリシアを見つめた
『今更……だよね。ずーっと、傍に居てくれてたのさ』
そう言って彼女も少し苦笑いして彼を見つめた
「本当だな。……オレはこの先もお前を離すつもりねえってのにな」
『…それ、遠回しのプロポーズ?』
「バーカ。ここでするわけねえだろ」
『…………ふふ、そうだよね。ユーリだもん、ここでは言わないか』
アリシアはそう言うと、ユーリに駆け寄ってその胸元に抱きついた
離さないと言わんばかりに服を握り締める
『……ありがとう。私のこと、何度も見つけてくれて』
「どういたしまして。……けど、もう隠れんぼは勘弁な?これ以上は心臓いくらあっても足りなくなりそうだわ」
アリシアの背に手を回して、少し強く抱きしめる
もう二度と、自身の腕の中から居なくならないように、離れないように
「……さ、そろそろ帰ろう。探してる時のあいつらからの手紙あんだ。読んで返事返してやれよ」
『あはは……リタのとか、読むの怖いなぁ……』
クスリとアリシアは笑って、ユーリを見上げる
『……ユーリ』
「ん?」
『………大好きだよ!』
頬を紅く染めながら、満面の笑みで彼女は言った
「…っ!//////」
不意打ちをくらったユーリは驚きで声が出ずにいた
久しぶりに見た彼女の満面の笑みに頬が紅く染まる
そんなことも気にせずに、アリシアはニコニコと笑っていた
「…不意打ちはずりいっつーの…///」
そう呟いて彼女の首元に顔を埋める
「………オレも、大好きだよ。シア」
少し低い声でユーリは彼女の耳元で囁いた
くすぐったかったのか、彼女の肩がピクリと動いた
『…………ユーリ………』
何かを欲しそうにアリシアは甘えた声でユーリの名前を呼んだ
顔を上げて見ると、物欲しそうな顔で彼女が見つめていた
「…それは、向こう帰ってからな?」
ユーリはそっと人差し指をアリシアの唇に当ててウインクをした
少し不服そうにしながらも彼女は微笑んだ
「…………ん」
ユーリはゆっくりと目を開ける
未だに目を閉じている彼女の姿が彼の瞳に映る
「…………シア」
ユーリが名前を呼びながら頭を撫でる
「………ぅ……ん………」
小さくうめき声をあげながら、ゆっくりとその目が開かれた
「……おはよう、シア」
「………おは、よう……ユーリ……」
まだ眠たそうな目でユーリを見つめながら彼女は薄らと笑った
そんな彼女をユーリはただ愛おしそうに微笑みながら見つめ返した
「私………どのくらい、寝てた…?」
「二ヶ月くらい、だな」
「……そんなに、寝てたんだ…」
そう言って少し体を起こそうとする
が、力が上手く入らないらしくそのままユーリの方へ倒れ込んだ
「おっと…まだキツイんだろ?無理すんなよ」
「…ん…………」
小さく呟いたアリシアはまだ眠たいらしく、今にも眠りに着きそうなほどウトウトとしていた
「眠いなりもう少し寝とけ。……起きなかったら、また迎えに行ってやるよ」
そう言ってそっと彼女の頭を撫でる
「…んー…………ユーリ」
「ん?」
ユーリを見上げて口をパクパクと動かそうとするが、肝心の言葉は出てこない
彼が首を傾げると、小さく「なんでもない」と呟いて顔をそむけた
何が言いたかったのか、ユーリは少し顎に指を添えて考える
そして一つの答えにたどり着いた
「シア」
彼女の名を呼ぶと、ゆっくりとユーリの方を向く
向いた瞬間に彼女の唇を自身の唇で塞いだ
それはたった一瞬の出来事だったかもしれないし、もっと長い時間そうしていたかもしれない
ゆっくりと二人が離れる
「……おかえり、アリシア」
彼女にしか見せたことの無い満面の笑みでユーリはアリシアを見つめる
「…………ただいま…ユーリ」
アリシアも負けじと満面の笑みで彼に微笑み返した
〜それから〜
「……本当、散々な言われようだなぁ」
クスッと笑いながら、アリシアはノートのページを捲る
散々な言われようだと言う割には、彼女はどこか楽しそうに何度もページを捲る
「おーい、シア………って、またそれ読んでんのかよ……」
部屋に入ってきたユーリは、呆れ気味に苦笑いしながらそう言って扉にもたれかかった
目が覚めた彼女にそれを手渡してからというもの、ほぼ四六時中と言っていいほどに読み返していたのだ
「だって、嬉しかったんだもん」
アリシアはそう言いながら、ニッコリと彼に笑いかけた
「へいへい……わーったから、ちょっと二人で出掛けませんか?おじょーさん」
ユーリはアリシアの傍に近づくと、取れと言わんばかりに手を差し出す
「んー…出掛けるのはいいけど、私まだ歩けないよ?」
パタリとノートを閉じながら彼女は首を傾げた
目が覚めてから二週間……ほぼ新しいと言ってもいい体に慣れず、あまり動けずにいた
「それでもいいんだよ。ちったあ外出ねえとフレンに文句言われるし、動く練習しねえといつまでも動けねえぜ?」
そう言って、アリシアの承諾もなしに彼女を抱き上げた
「わっ!!!…もー!危ないよ!」
むっとしながらも彼女はユーリの首の後ろに手を回した
「ん?なんか問題あったか?」
キョトンと首を傾げて彼は問いかける
「問題しかないし…心臓に悪い」
「それ、散々心配させたお前が言うか?」
「ユーリだって皆に心配かけさせてたくせに」
「……あれ渡したの、失敗だったな……」
大きくため息をついて苦笑いしながら自分の腕の中にいるアリシアを見つめる
アリシアはアリシアで、不服そうに頬を膨らませながらユーリを見つめていた
「…わかった、オレが悪かったよ。だから機嫌直してくれよ。な?」
コツンと額を合わせながらユーリは言う
「……仕方ないから許してあげる」
クスッと何処か悪戯っ子のように笑いながら彼女は答える
「よし、んじゃ行くとしますかね」
そう言って彼は歩き始める
「どこ行くの?」
ユーリの腕の中でアリシアは首を傾げた
「つくまで秘密、だな」
何処か嬉しそうにニコニコと笑いながら、ユーリは軽くウインクした
「……エフミドの丘……?」
不思議そうにアリシアは首を傾げる
ユーリが連れて来たのは、旅を始めた時に初めて海を見たあの場所だった
不思議そうにしている彼女を横目に彼はエルシフルの墓の隣に彼女を連れて行く
そこにあったのは、エルシフルのそれと似た真新しい墓石だった
「これ…………」
「墓参り、してやろうって言ったろ?」
アリシアは驚いてユーリを見上げる
びっくりしたかと言わんばかりに悪戯っ子のような笑みでユーリはアリシアを見つめる
そして、彼女の表情が驚きから喜びに変わった
「ありがとう!ユーリ!!」
そう言って彼の首元に顔を埋めた
「どういたしまして。……なあ、アリシア」
ユーリはゆっくりとアリシアを下ろしながら少し真剣な目で彼女を見つめる
「なぁに?」
「……目つぶって左手、出してみ?」
ペタンと地面に座って首を傾げる彼女にユーリはそう促した
アリシアは首を傾げながらも言われた通りに目をつぶって左手を出す
彼はその手の指に『何か』をはめる
「………開けていいぜ」
アリシアはゆっくりと目を開く
「……………………え?」
指にはめられた『それ』を驚いた表情で見つめる
そこには、赤みがかった宝石のついた指輪がはめられていた
「ユーリ………これ………!」
「…オレさ、多分無茶すんの変わんねえと思うし、心配かけることこの先も何度もあると思う。…それでも、アリシアのことを思ってる気持ちはずーっと変わんねえ。幾ら心配かけたとしても、絶対にお前のとこに帰って来るからさ。………だから、この先もずっと、オレの傍に居てくれませんか?おじょーさん」
照れ臭そうに頬を赤らめてはにかみながらアリシアの左手をそっと取って指輪のはまった指にキスをした
目を見開いて彼女はただユーリを見つめる
「…返事は?」
少し寂しそうにユーリが問いかける
「…………私、またユーリに隠し事するかもしれないよ…?」
「隠すってことは、オレに心配かけたくねえからだろ?それに、もうお前が話してくれんの待ったりしねえでオレの方から聞きにいくさ」
「……また、無茶するかもしれないよ…?」
「それはお互い様だろ?」
「……また………ずっと眠ってたり、とか……」
「そうなったらまた起こしてやる。…何処に居たって迎えに行くし、探し出してやるよ」
「ユーリ………」
「アリシア、オレはお前がいいの。この先ずっと一緒に居たいって思えんの、お前だけなんだよ。…どんだけ隠し事しようが無茶しようが、アリシアを嫌いになる事はねえし手放す気もねえ。………言ったろ?離さねえって」
その言葉を聞いた彼女の瞳に薄らと涙が溜まる
だが、その表情には寂しさや哀しみの色はなかった
あったのは嬉しそうな笑顔だった
「んで、どっち?」
どこか悪戯っ子のように彼女の頬に触れながら彼は問いかける
「…はい…っ!喜んで…っ!!」
目を細めて笑った彼女の頬に嬉しさで溜まった涙が伝う
指輪のはめられた左手を右手で大切そうに胸の前で握り締めた
「ったく、返事すんの遅いっての」
そう言って苦笑いすると、自分の腕の中に彼女を引き寄せた
「後、泣きすぎ」
「…だって、嬉しいから…。ユーリ、もっとあっさり言ってきそうだったもん」
軽く鼻をすすりながらアリシアは答える
「ははっ、喜んで貰えたなら何よりだな。……けど、いーかげん泣き止んでもらえませんかねえ?オレが泣かせたみたいだろ?流石にフレンに殺されるわけにいかねえんだけど」
そっと彼女の頬に唇を落としてユーリは肩を竦めた
「泣いてるの、ユーリのせいだもん」
目元に溜まった涙を指で拭いながら彼女は見上げて口を開く
「だから、フレンに怒られといて?」
「うっわ、すっげえ言われようだな…」
「大丈夫、殺される前に割って入ってあげるから」
「それ、お前まで巻き込まれかねないだろ…」
「フレンだもん、私のこと斬ったりなんてしないよ」
「……ったく、本当にお転婆なお嬢様だな」
そう言ってユーリは苦笑いしながら彼女の髪を手で解き始める
赤い長髪がするりと彼の指の隙間をすり抜けていく
頭皮に指が触れる度に何処か嬉しそうにニコニコと目を細める
「…………シア」
ユーリはコツンと額を合わせる
「…なあに、ユーリ」
「……ずっと一緒だからな?これから先、何があってもずっと、な?」
「………言われなくても、そのつもり、だよ?」
そう言い合って2人揃って笑い出す
嬉しそうに寄り添いあった2人を歓迎するかのように
花弁が空に舞い上がっていった
静かな部屋にアリシアの呼吸音だけが響く
欠片を揃えてから早二ヶ月……彼女はまだ目を覚まさない
そんな彼女の傍でユーリは彼女を見つめて座っていた
ここは貴族街にある彼女の家
星たちから、こちらの方がいいだろうと言われユーリは若干渋々といった様子でアリシアを連れて来ていた
ほぼ毎日のように誰かしらがお見舞いに来る
この二ヶ月、それが途絶えることはなかった
必ずユーリ以外の誰かがこの家にいた
この日は珍しくユーリ一人だけだった
どこかつまらなさそうに彼女の髪をくるくると指に絡めていた
「…………起こす、っつてもなぁ…」
ポツリとユーリは呟いてベットの縁に顎を乗せる
アリシアに起こしてくれると信じていると言われたものの、実際どうすればいいのか、ユーリにはわからないでいた
ただ声をかけるだけでは駄目だということは既に確認済みだ
それ以外にも手を繋いでみたりキスしてみたりと色々試していたが、全く効果はなかった
「……どうしたらいいんだかねえ…?」
何気なく彼女のネックレスに触れてみる
すると、ネックレスが強い光を放った
「………………こういうことかよ……………」
苦笑いしながら起きあがりユーリは周囲を見回した
強い光に包まれたと思えば目が覚めたのはいつか見たあの空間
違ったのは暗闇ではなかったこと
その風景を見てユーリが真っ先に思い浮かんだのはエレアルーミンの最深部だった
だが、あそことは違い空が見えていた
雲の漂う空と、それを写している水面……
どちらが上でどちらが下か、一瞬わからなくなるような空間だった
「……さて、最後の隠れんぼ開始といきますか」
そう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべて立ち上がる
散々探し回って来た彼にとって、見つけることなど簡単に思えていた
少し歩けば水面に波紋が広がる
たった少し動くだけでも綺麗な円をかいてそれは広がっていく
本来ならばすぐに消えてしまいそうなそれは、どこまでも広がっていった
『じっとする』ということが出来ない彼女のことだ
近くに行けばそれが見えるのではと、ユーリは考えて慎重に歩く
自分の立てた波紋で、彼女の波紋を消さないように
そうして慎重に歩いていると、綺麗に画かれていた円が途中で壊れた
何かほかの誰かの立てた波紋がユーリのそれをかき消したのだ
それが来た方向に、ユーリは迷わず駆け出した
風が波を立てただけかもしれない
だが、もしかしたらと小さな希望を抱いて一心不乱に駆けていく
しばらく走って、ようやくその人影を見つける
いつもと同じ服を着て、赤く染まった髪を風に揺らしながら、探していた人物は空を見上げていた
「……シア」
ユーリが声をかけると、彼女はゆっくりと振り返った
『……ユーリ』
小さな声で彼の名前を呼びながら、アリシアは薄らと笑う
「今の今まで、何見てたんだ?」
『んー……そうだなあ……』
顎に手を当てながら彼女は唸る
『…寒くて怯えてた時にユーリが傍に寄り添ってくれたこととか、暗きものの記憶のことを話した時のこととか……』
どこか嬉しそうにしながら彼女は言葉を繋げていく
『レレウィーゼの谷底にある私たち星暦の故郷に一緒に行こうって話したこと、新しい世界を二人で見に行こうって話したこと……』
そこまで言って表情を曇らせる
『……アスタルのこと、それに私がずーっと自分のことを黙ってたこと…お兄様や、レグルス様たちのこと、両親のこと……一人で悩んでたことを、ユーリが受け入れてくれたこと』
そして、胸の前で手を組んで目を軽く閉じた
『…………それと、ユーリがしてくれた約束』
嬉しそうに微笑みながら、少し頬を紅く染める
「欠片の中での出来事、全部思い出してくれてたんだな」
ユーリが嬉しそうに言うと、目を見開いてゆっくりと頷いた
『……うん。ユーリは…いつも私のこと、一番に考えていてくれたんだなぁって……気づいたんだ』
「おいおい、今更か?」
少し苦笑いしてユーリがアリシアを見つめた
『今更……だよね。ずーっと、傍に居てくれてたのさ』
そう言って彼女も少し苦笑いして彼を見つめた
「本当だな。……オレはこの先もお前を離すつもりねえってのにな」
『…それ、遠回しのプロポーズ?』
「バーカ。ここでするわけねえだろ」
『…………ふふ、そうだよね。ユーリだもん、ここでは言わないか』
アリシアはそう言うと、ユーリに駆け寄ってその胸元に抱きついた
離さないと言わんばかりに服を握り締める
『……ありがとう。私のこと、何度も見つけてくれて』
「どういたしまして。……けど、もう隠れんぼは勘弁な?これ以上は心臓いくらあっても足りなくなりそうだわ」
アリシアの背に手を回して、少し強く抱きしめる
もう二度と、自身の腕の中から居なくならないように、離れないように
「……さ、そろそろ帰ろう。探してる時のあいつらからの手紙あんだ。読んで返事返してやれよ」
『あはは……リタのとか、読むの怖いなぁ……』
クスリとアリシアは笑って、ユーリを見上げる
『……ユーリ』
「ん?」
『………大好きだよ!』
頬を紅く染めながら、満面の笑みで彼女は言った
「…っ!//////」
不意打ちをくらったユーリは驚きで声が出ずにいた
久しぶりに見た彼女の満面の笑みに頬が紅く染まる
そんなことも気にせずに、アリシアはニコニコと笑っていた
「…不意打ちはずりいっつーの…///」
そう呟いて彼女の首元に顔を埋める
「………オレも、大好きだよ。シア」
少し低い声でユーリは彼女の耳元で囁いた
くすぐったかったのか、彼女の肩がピクリと動いた
『…………ユーリ………』
何かを欲しそうにアリシアは甘えた声でユーリの名前を呼んだ
顔を上げて見ると、物欲しそうな顔で彼女が見つめていた
「…それは、向こう帰ってからな?」
ユーリはそっと人差し指をアリシアの唇に当ててウインクをした
少し不服そうにしながらも彼女は微笑んだ
「…………ん」
ユーリはゆっくりと目を開ける
未だに目を閉じている彼女の姿が彼の瞳に映る
「…………シア」
ユーリが名前を呼びながら頭を撫でる
「………ぅ……ん………」
小さくうめき声をあげながら、ゆっくりとその目が開かれた
「……おはよう、シア」
「………おは、よう……ユーリ……」
まだ眠たそうな目でユーリを見つめながら彼女は薄らと笑った
そんな彼女をユーリはただ愛おしそうに微笑みながら見つめ返した
「私………どのくらい、寝てた…?」
「二ヶ月くらい、だな」
「……そんなに、寝てたんだ…」
そう言って少し体を起こそうとする
が、力が上手く入らないらしくそのままユーリの方へ倒れ込んだ
「おっと…まだキツイんだろ?無理すんなよ」
「…ん…………」
小さく呟いたアリシアはまだ眠たいらしく、今にも眠りに着きそうなほどウトウトとしていた
「眠いなりもう少し寝とけ。……起きなかったら、また迎えに行ってやるよ」
そう言ってそっと彼女の頭を撫でる
「…んー…………ユーリ」
「ん?」
ユーリを見上げて口をパクパクと動かそうとするが、肝心の言葉は出てこない
彼が首を傾げると、小さく「なんでもない」と呟いて顔をそむけた
何が言いたかったのか、ユーリは少し顎に指を添えて考える
そして一つの答えにたどり着いた
「シア」
彼女の名を呼ぶと、ゆっくりとユーリの方を向く
向いた瞬間に彼女の唇を自身の唇で塞いだ
それはたった一瞬の出来事だったかもしれないし、もっと長い時間そうしていたかもしれない
ゆっくりと二人が離れる
「……おかえり、アリシア」
彼女にしか見せたことの無い満面の笑みでユーリはアリシアを見つめる
「…………ただいま…ユーリ」
アリシアも負けじと満面の笑みで彼に微笑み返した
〜それから〜
「……本当、散々な言われようだなぁ」
クスッと笑いながら、アリシアはノートのページを捲る
散々な言われようだと言う割には、彼女はどこか楽しそうに何度もページを捲る
「おーい、シア………って、またそれ読んでんのかよ……」
部屋に入ってきたユーリは、呆れ気味に苦笑いしながらそう言って扉にもたれかかった
目が覚めた彼女にそれを手渡してからというもの、ほぼ四六時中と言っていいほどに読み返していたのだ
「だって、嬉しかったんだもん」
アリシアはそう言いながら、ニッコリと彼に笑いかけた
「へいへい……わーったから、ちょっと二人で出掛けませんか?おじょーさん」
ユーリはアリシアの傍に近づくと、取れと言わんばかりに手を差し出す
「んー…出掛けるのはいいけど、私まだ歩けないよ?」
パタリとノートを閉じながら彼女は首を傾げた
目が覚めてから二週間……ほぼ新しいと言ってもいい体に慣れず、あまり動けずにいた
「それでもいいんだよ。ちったあ外出ねえとフレンに文句言われるし、動く練習しねえといつまでも動けねえぜ?」
そう言って、アリシアの承諾もなしに彼女を抱き上げた
「わっ!!!…もー!危ないよ!」
むっとしながらも彼女はユーリの首の後ろに手を回した
「ん?なんか問題あったか?」
キョトンと首を傾げて彼は問いかける
「問題しかないし…心臓に悪い」
「それ、散々心配させたお前が言うか?」
「ユーリだって皆に心配かけさせてたくせに」
「……あれ渡したの、失敗だったな……」
大きくため息をついて苦笑いしながら自分の腕の中にいるアリシアを見つめる
アリシアはアリシアで、不服そうに頬を膨らませながらユーリを見つめていた
「…わかった、オレが悪かったよ。だから機嫌直してくれよ。な?」
コツンと額を合わせながらユーリは言う
「……仕方ないから許してあげる」
クスッと何処か悪戯っ子のように笑いながら彼女は答える
「よし、んじゃ行くとしますかね」
そう言って彼は歩き始める
「どこ行くの?」
ユーリの腕の中でアリシアは首を傾げた
「つくまで秘密、だな」
何処か嬉しそうにニコニコと笑いながら、ユーリは軽くウインクした
「……エフミドの丘……?」
不思議そうにアリシアは首を傾げる
ユーリが連れて来たのは、旅を始めた時に初めて海を見たあの場所だった
不思議そうにしている彼女を横目に彼はエルシフルの墓の隣に彼女を連れて行く
そこにあったのは、エルシフルのそれと似た真新しい墓石だった
「これ…………」
「墓参り、してやろうって言ったろ?」
アリシアは驚いてユーリを見上げる
びっくりしたかと言わんばかりに悪戯っ子のような笑みでユーリはアリシアを見つめる
そして、彼女の表情が驚きから喜びに変わった
「ありがとう!ユーリ!!」
そう言って彼の首元に顔を埋めた
「どういたしまして。……なあ、アリシア」
ユーリはゆっくりとアリシアを下ろしながら少し真剣な目で彼女を見つめる
「なぁに?」
「……目つぶって左手、出してみ?」
ペタンと地面に座って首を傾げる彼女にユーリはそう促した
アリシアは首を傾げながらも言われた通りに目をつぶって左手を出す
彼はその手の指に『何か』をはめる
「………開けていいぜ」
アリシアはゆっくりと目を開く
「……………………え?」
指にはめられた『それ』を驚いた表情で見つめる
そこには、赤みがかった宝石のついた指輪がはめられていた
「ユーリ………これ………!」
「…オレさ、多分無茶すんの変わんねえと思うし、心配かけることこの先も何度もあると思う。…それでも、アリシアのことを思ってる気持ちはずーっと変わんねえ。幾ら心配かけたとしても、絶対にお前のとこに帰って来るからさ。………だから、この先もずっと、オレの傍に居てくれませんか?おじょーさん」
照れ臭そうに頬を赤らめてはにかみながらアリシアの左手をそっと取って指輪のはまった指にキスをした
目を見開いて彼女はただユーリを見つめる
「…返事は?」
少し寂しそうにユーリが問いかける
「…………私、またユーリに隠し事するかもしれないよ…?」
「隠すってことは、オレに心配かけたくねえからだろ?それに、もうお前が話してくれんの待ったりしねえでオレの方から聞きにいくさ」
「……また、無茶するかもしれないよ…?」
「それはお互い様だろ?」
「……また………ずっと眠ってたり、とか……」
「そうなったらまた起こしてやる。…何処に居たって迎えに行くし、探し出してやるよ」
「ユーリ………」
「アリシア、オレはお前がいいの。この先ずっと一緒に居たいって思えんの、お前だけなんだよ。…どんだけ隠し事しようが無茶しようが、アリシアを嫌いになる事はねえし手放す気もねえ。………言ったろ?離さねえって」
その言葉を聞いた彼女の瞳に薄らと涙が溜まる
だが、その表情には寂しさや哀しみの色はなかった
あったのは嬉しそうな笑顔だった
「んで、どっち?」
どこか悪戯っ子のように彼女の頬に触れながら彼は問いかける
「…はい…っ!喜んで…っ!!」
目を細めて笑った彼女の頬に嬉しさで溜まった涙が伝う
指輪のはめられた左手を右手で大切そうに胸の前で握り締めた
「ったく、返事すんの遅いっての」
そう言って苦笑いすると、自分の腕の中に彼女を引き寄せた
「後、泣きすぎ」
「…だって、嬉しいから…。ユーリ、もっとあっさり言ってきそうだったもん」
軽く鼻をすすりながらアリシアは答える
「ははっ、喜んで貰えたなら何よりだな。……けど、いーかげん泣き止んでもらえませんかねえ?オレが泣かせたみたいだろ?流石にフレンに殺されるわけにいかねえんだけど」
そっと彼女の頬に唇を落としてユーリは肩を竦めた
「泣いてるの、ユーリのせいだもん」
目元に溜まった涙を指で拭いながら彼女は見上げて口を開く
「だから、フレンに怒られといて?」
「うっわ、すっげえ言われようだな…」
「大丈夫、殺される前に割って入ってあげるから」
「それ、お前まで巻き込まれかねないだろ…」
「フレンだもん、私のこと斬ったりなんてしないよ」
「……ったく、本当にお転婆なお嬢様だな」
そう言ってユーリは苦笑いしながら彼女の髪を手で解き始める
赤い長髪がするりと彼の指の隙間をすり抜けていく
頭皮に指が触れる度に何処か嬉しそうにニコニコと目を細める
「…………シア」
ユーリはコツンと額を合わせる
「…なあに、ユーリ」
「……ずっと一緒だからな?これから先、何があってもずっと、な?」
「………言われなくても、そのつもり、だよ?」
そう言い合って2人揃って笑い出す
嬉しそうに寄り添いあった2人を歓迎するかのように
花弁が空に舞い上がっていった