運命
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ユーリとアリシアは二人だけで貴族街にある彼女の家に来ていた
中に入って二階に上がると、彼女の部屋から薄らと光が見えた
ユーリは迷わずにその部屋の扉を開ける
『……待っていました』
暗い部屋の中、女性の姿が光の玉の近くにあった
「アリオト…!」
アリシアは少し驚いたように声をあげた
『流石星暦の家ですね。至る所に彼らの痕跡が残っています。おかげ様でとても近くで守ることが出来ました』
どこか嬉しそうに微笑みながら彼女は呟いた
『ユーリさん、アリシアと一緒にベットのところへ。…また倒れてしまっても支えることは出来ませんから……。この子は、私がそばへ連れて行きます』
「わかった」
アリオトの言葉にユーリは素直に頷くとベットの縁に腰掛けて隣にアリシアを座らせる
『……では、いきますよ』
彼女の掛け声と共に光の玉から強い光が放たれた
『うぅ………ひっく………』
小さな泣き声にユーリは目を開ける
最初の頃に見た暗闇の中に、一箇所だけ光がおりている場所があった
スポットライトのように照らされたそこには、何年か前のアリシアの姿が見えた
ユーリは自分の体を見てみると、昔着ていた服に変わっていることに気づく
そして、少し高めの位置で髪が結ばれていた
「……………まさか…………」
小さく呟くと、アリシアの元に少し小走りで向かった
「シア…どうして泣いてんだ?」
ペタリと地面に座り込んだアリシアに駆け寄って、彼女の前にしゃがみ込みながらユーリは問いかける
『…………ユーリ…………どうしよう………お父様と、お母様……っ………死んじゃった………っ!!』
顔をあげた彼女の目は真っ赤に腫れていた
絶望したような表情に思わずユーリは息を飲んだ
『どうしよう………どうしよう……っ!!私……っ……ちゃんと助けてって……お父様たちも助けてって……っ!言ったのに……っ』
ポロポロと大粒の涙が彼女の目から零れ落ちる
その涙は彼女の服にいくつものシミをつくっていた
「……シア………」
ユーリはかけてあげる言葉が、見つからないでいた
悲しみだけではない
今の彼女の中には憎しみも混じっている
失った悲しみ、聞き入れてもらえなかった憎しみ、そして…
『私……っ……自分で、助けに行って……あげられてたら……っ!!』
不甲斐ないと思う気持ち……
たくさんの感情が入り交じっているのだ
「……シア、ライラックさんたちのことは、お前は何も悪くない」
慎重に言葉を選びながら、彼は声をかける
「お前は自分のせいだって思うかもしれない。…けど、お前は何も悪いことしてない。ちゃんとその時に出来ることをしていた。だから……自分を責めんな」
『……っ!!ユーリは私みたいな経験ないからそんなこと言えるんだ…っ!!!手伸ばしたら届いたのに…っ!すぐに動けたら助けられたのに…っ!!私みたい思いしたことないか』
「アリシア!!」
ユーリの中で何かが切れたのか、ヒステリックをおこし始めた彼女の名を少し強い口調で呼ぶ
ビクッと肩を震わせて彼女は驚いた目でユーリを見つめる
「…オレがそうゆう思いした事ねえって、お前本気で言ってんのか?」
怒り気味にユーリは言葉を繋げていく
「半年前、お前の手掴めなくてレグルスのところに連れて行けなかった時、オレがどんな気持ちになったか、わかるか?!」
『……っ!!!そ……れは…………』
「悔しかった。自分が情けなくて仕方がなかった。…ウンディーネの激流に呑まれようが、お前を離さなきゃよかったって、何度思ったと思う?何度そんな不甲斐ない自分を責めたと思う!?」
ガッと少し強く彼女の両肩をユーリは掴んだ
「散々後悔した!散々お前と同じこと考えた!!自分で自分責めて、全部オレが悪いって勝手に思い込んだ!!…結果どうなったと思う?周りにいた仲間に余計に心配かけたんだよ!オレのせいじゃねえって言ってくれてた奴らに心配かけまくったんだ!」
そう叫ぶように言って、彼女の肩に額を当てる
「……もうそれ以上、自分のこと責めんのやめろ。………心配すんのは、オレだけじゃねえ。オレらと一緒に旅した仲間たちだって心配すんだ。…それに、ライラックさんたちはお前のこと、責めるって思ってんのか?」
『…………だって………………私…………』
「よく考えてみろよ。お前が逃げて責めるような人たちだったか?文句言うような人だったか?………違うだろ。むしろお前を逃がすために、自分を犠牲にするような人だったじゃねえかよ」
アリシアを溺愛していた彼女の父、ライラック……
彼女は彼にとって何よりもかけがえのない宝物だったことは、誰の目で見ても明白だった
ユーリの言った通り……命を掛けて守ってもおかしくないほどに
『…………………………あ……』
思い出したように彼女は小さく声を上げる
「……怒られんぞ。それ以上自分のせいにしようとすりゃ。…今すぐ気にすんなっていうのは無理だと思ってる。けど、少しずつでいい。自分のことを責めんのはこれ以上やめろ」
『………………ごめん………なさい……………』
極めて小さな声で彼女は謝る
「…オレこそ悪かったな。急に大声出したりなんてして」
ユーリはゆっくり顔をあげて、ふっと表情を緩めて彼女をみつめる
アリシアは泣きながら彼に抱き着く
『ごめん……ごめんね………っ…………ユーリの気持ち……考えてあげられなかった……っ!ユーリは私の気持ち……考えようとしてくれてたのに……っ!!』
「なんだよ、今度はオレのことで泣いてんのか?…気にすんなよ」
優しく背を叩いてあやしながらユーリは言う
『だって……っ……私………っ……酷いこと言っちゃった……っ!』
「アリシア」
優しい声で彼女の名を呼んで目元に口付けする
「オレ、そんなこと言われたくらいでお前のこと、嫌いになったりしねえし、手放したりもしねえぜ?」
ふんわりと普段絶対に見せないような優しい笑顔を向けながらユーリは彼女の頬を撫でる
「ほら、もう帰ろうぜ?…んで、墓参りしに行こうぜ?どうせここ最近行ってないんだろ?」
『………一人じゃ………怖かった……から………』
「ったく、それならオレ誘うなり引っ張ってくなりすりゃよかったろ?ライラックさん、天国で拗ねてんじゃねえか?」
冗談交じりにユーリが言えば、アリシアはクスリと笑う
『お父様なら……ありえそう』
「だろ?………帰ろう、シア」
そう言ってユーリは優しく彼女を抱きしめる
笑いながらも涙を流して、アリシアはゆっくりと頷いた
「……………」
目を覚ましたユーリは、ゆっくりと起きあがる
『覚めましたか?』
声の聞こえた方向に向くと、アリオトの姿が映る
「おう……シアは?」
『……眠っています。恐らく、思い出す準備にでも入ったのだと思います』
そう言われ、隣を見るとぐっすりと眠っているアリシアの姿がユーリの目に映る
「…そうか」
そう呟いて、そっと頭を撫でる
『カストロが彼らを先にシリウスの方へ誘導しました。……シリウスの方からこちらに全員行くように促したという連絡もありましたよ』
『……二人で行くんだろ?俺が飛ばしてやる』
「…ありがとな。助かるよ」
そう言って、彼女を姫抱きにする
「……待ってろよ、シア」
ユーリが眠っている彼女に優しく微笑むと同時に、彼の視界が歪んだ
「よっ……と…………。相変わらず暑っついな……」
地面に足がつくと、ユーリはポツリと呟いた
じんわりと汗が滲み出す程の暑さに顔を顰める
《全く……わざわざ星を巻き込んでまで二人きりになる必要はなかったのではないか?》
呆れたようなイフリートの声にその方向を見ると、光の玉の傍に寄り添うイフリートの姿があった
『いいではないか。むしろ我らは大歓迎だぞ?こうして人と関われるのは久しぶりだからな。中々に楽しいものよ』
楽しそうにくくっと喉を鳴らしながらシリウスが笑った
《そういう問題ではないだろうに………まぁ、それは今はいいとしよう。…さあ、最後の欠片に触れるがいい。倒れぬようには配慮してやろう》
「悪いな、イフリート」
ユーリはそう言って彼女を抱えたまま、光の玉に触れた
「……いってぇ………」
そう呟きながらユーリは体を起こした
異常なくらいの体の痛みに少し首を傾げる
「………………は……………?」
自身の手を見て、ユーリは目を見開いた
視界に映ったのはいつだったかに見た紅だった
初めは他人のものだと思っていた彼だったが、体の中から何かが流れ出ていくような感覚にそれが自分のものだと気がつく
「…っ………!!なん……で、だよ……」
腹部を押さえながら少し苦しそうにユーリが呟く
「…くっそ………っ!…こんなとこで…立ち止まって……らんねえんだよ……っ!!」
ユーリはそう叫ぶように言って立ち上がろうとする
『……っ!駄目……っ!!』
探そうとしていた人物の声が聞こえたのと共に、ユーリは再びその場に座らされた
「あ……っ?………シア………?」
自分を引き戻した人物の方に顔を向けながらユーリはその名を呼んだ
『駄目……っ!動いちゃ……駄目だよ……!!』
大粒の涙を流しながらアリシアは必死にユーリを止める
理由がわからないと首を傾げながら、ユーリは彼女を見る
『そんなに怪我してるのに……っ!動いちゃ…っ………死んじゃうよ……っ!!』
お願いだから動かないでくれと言わんばかりに彼の服を掴んで離そうとしない
「……シア………」
自分でも驚く程に掠れた声でユーリは彼女の名前を呼びながら涙の伝った頬に触れる
『やだ……っ!!やだよ……っ!ユーリまで居なくなっちゃ嫌だよ………っ……!!!』
そう言いながら傷を治そうと彼女は手をかざす
だが、いつものように治癒術が使えずにいた
『……っ!!なんで……っ……なんでよ……っ!!このままじゃ……っ!ユーリ…死んじゃうじゃん……っ!!お願い……っ………お願いだからぁ……っ……助けてよぉ……っ……アリオト………っ!!』
少しぼんやりし出した頭でユーリは考えた
そして、一つの答えが頭に浮かぶ
こんな状況になったのは、彼女が自身の死を恐れているからだ、と……
大切な人を失い続けたアリシアにとって、自分の死は恐怖なのだと
『やだ………………やだよ………………ユーリも居なくなっちゃったら……私………私………っ!!!』
俯きながら彼女は必死に助けようと治癒術をかけようとし続ける
地面にポタポタと涙が落ちてシミをつくっていく
これが自分の死を怖がっている彼女の見ている夢のようなものと、ユーリが認識すると自然と今まで感じていた何かが流れ出ていく感覚がすっと消えていった
「……アリシア」
彼女の名を呼びながらそっと治癒術をかけようとしている手に自身の手を重ねる
「大丈夫、大丈夫だから」
『……っ………全然……っ…大丈夫じゃ……っ!』
「よく見てみろって。…な?」
ユーリは自分を見るように彼女を促す
少し躊躇いながら、彼女はゆっくりと顔をあげる
『…………あ……れ………?』
顔をあげた彼女は驚いたようにユーリを見つめる
アリシアの瞳に映ったのは怪我のひとつもないユーリの姿だった
「な?大丈夫だろ?」
ニカッとユーリは彼女を安心させるように笑う
『……なん………で………?』
「おいおい…無事なんだからもーちっと喜べよ」
苦笑いしながらユーリは彼女の頭を撫でる
『だ……だって……さっきまで……っ!』
「そもそも、オレがいつあんな大怪我した?」
彼がそう聞くとアリシアは思い出そうと首を傾げるが、全く思い出せないらしく少し唸った
「…いっつも、お前が助けてくれてたろ?オレが怪我しないようにってさ。……けどさ、いい加減オレに守らさせてくんない?オレだって、お前が怪我してもしもの事があったりなんてすんの嫌だし」
苦笑いしながら彼はそう言った
『でも……っ!』
「アリシア、オレ、そんなに頼りない?」
『……!!ちが……』
「…大丈夫、お前を置いて死んだりしねえよ。お前より先に……死んだりなんてしねえから」
そう言って彼女を引き寄せて腕の中に閉じ込める
「オレ、お前に嘘ついたことあったか?」
少しいたずらっぽくユーリは問いかける
彼女はユーリの腕の中で必死に首を横に振った
『ない………っ!……ついた、こと……ない……っ!』
「だろ?……だから、大丈夫。絶対にお前置いて死んだりなんてしねえ。何があっても絶対に、な」
彼がそう答えると、アリシアはぎゅっとしがみついて、ユーリの胸元で声を殺して泣いた
泣き声をあげずに涙を流し続けるアリシアをユーリは優しく、それでいて離さないようにと強く抱きしめる
「……シア、泣き止んだら帰ろう。向こうでシリウスもイフリートも…みんな、お前が帰ってくんの待ってるからさ」
そう声をかけた彼にアリシアは静かに頷いた
「………………ろ…………かユーリ……!!!!」
そんな叫び声と共に爆音が辺りに響いた
「おわっ!?!!!な、なんだっ!?」
あまりの衝撃にユーリは飛び起きる
周りを見れば、あからさまに怒った様子のリタと呆れたような雰囲気の仲間たちの姿があった
「……はぁ……宥めてる間に追いつかれたか」
大きくため息をついて頭に手をあてながら、ユーリは苦笑いして項垂れた
追いつかれることは承知の上だったが、まさかこんなに早くに追いつかれるとは思っていなかったのだ
「全く、勝手に行動して…探したじゃないか」
呆れ気味にそう言いながらフレンはユーリの傍に立った
「お前とリタがおっさん追っかけまわしてたのがいけねーんだろ?」
冗談交じりに笑いながら彼はそう返した
「うっ………否定できない………」
悔しそうに歯ぎしりして少し顔を赤らめながらリタは呟く
「そうだとしても、何も言わずに二人で行くのはどうかと思うの」
そう言ったジュディスは微笑んでいたが、その目は笑っていなかった
「それはオレが悪かったよ…」
素直にそう言って彼は肩を竦めた
「勝手に行動したんだから、ちゃんとアリシアの欠片集め終わったんだよね?」
「当たり前だろ?流石にそんな手抜きしねえよ、カロル先生」
「それでは…ようやく、戻ったんですね…!」
嬉しそうにエステルは手を合わせてユーリとアリシアを見る
『……いや、もう少しだな』
そんな期待をかき消すようにシリウスの声が響いた
「な、なんでなのじゃ…!?」
『まだアリシアの中で整理している途中だからだ。……いつ目が覚めるかは、アリシアと………ユーリ次第、だな』
「あのなぁ……なんでそこでオレ出てくんの?」
少し呆れたようにユーリはシリウスに問掛ける
その問いはそこに居た誰もが思ったことであった
『…それは、自分で考えてみるのだな』
シリウスがそう言うと、その場から彼の気配がなくなった
「……なんで星って、自分の言いたいこと言ったらいなくなんのかしらね」
不服そうにリタは空を睨みながら呟く
「さぁな……。シアも相当困ってたしな」
ユーリは肩を竦めると、彼女を姫抱きにして立ち上がる
「……とりあえず帰ろうぜ。帝都に」
その言葉に、仲間たちは納得いかなさそうにしながらも首を縦に振った
中に入って二階に上がると、彼女の部屋から薄らと光が見えた
ユーリは迷わずにその部屋の扉を開ける
『……待っていました』
暗い部屋の中、女性の姿が光の玉の近くにあった
「アリオト…!」
アリシアは少し驚いたように声をあげた
『流石星暦の家ですね。至る所に彼らの痕跡が残っています。おかげ様でとても近くで守ることが出来ました』
どこか嬉しそうに微笑みながら彼女は呟いた
『ユーリさん、アリシアと一緒にベットのところへ。…また倒れてしまっても支えることは出来ませんから……。この子は、私がそばへ連れて行きます』
「わかった」
アリオトの言葉にユーリは素直に頷くとベットの縁に腰掛けて隣にアリシアを座らせる
『……では、いきますよ』
彼女の掛け声と共に光の玉から強い光が放たれた
『うぅ………ひっく………』
小さな泣き声にユーリは目を開ける
最初の頃に見た暗闇の中に、一箇所だけ光がおりている場所があった
スポットライトのように照らされたそこには、何年か前のアリシアの姿が見えた
ユーリは自分の体を見てみると、昔着ていた服に変わっていることに気づく
そして、少し高めの位置で髪が結ばれていた
「……………まさか…………」
小さく呟くと、アリシアの元に少し小走りで向かった
「シア…どうして泣いてんだ?」
ペタリと地面に座り込んだアリシアに駆け寄って、彼女の前にしゃがみ込みながらユーリは問いかける
『…………ユーリ…………どうしよう………お父様と、お母様……っ………死んじゃった………っ!!』
顔をあげた彼女の目は真っ赤に腫れていた
絶望したような表情に思わずユーリは息を飲んだ
『どうしよう………どうしよう……っ!!私……っ……ちゃんと助けてって……お父様たちも助けてって……っ!言ったのに……っ』
ポロポロと大粒の涙が彼女の目から零れ落ちる
その涙は彼女の服にいくつものシミをつくっていた
「……シア………」
ユーリはかけてあげる言葉が、見つからないでいた
悲しみだけではない
今の彼女の中には憎しみも混じっている
失った悲しみ、聞き入れてもらえなかった憎しみ、そして…
『私……っ……自分で、助けに行って……あげられてたら……っ!!』
不甲斐ないと思う気持ち……
たくさんの感情が入り交じっているのだ
「……シア、ライラックさんたちのことは、お前は何も悪くない」
慎重に言葉を選びながら、彼は声をかける
「お前は自分のせいだって思うかもしれない。…けど、お前は何も悪いことしてない。ちゃんとその時に出来ることをしていた。だから……自分を責めんな」
『……っ!!ユーリは私みたいな経験ないからそんなこと言えるんだ…っ!!!手伸ばしたら届いたのに…っ!すぐに動けたら助けられたのに…っ!!私みたい思いしたことないか』
「アリシア!!」
ユーリの中で何かが切れたのか、ヒステリックをおこし始めた彼女の名を少し強い口調で呼ぶ
ビクッと肩を震わせて彼女は驚いた目でユーリを見つめる
「…オレがそうゆう思いした事ねえって、お前本気で言ってんのか?」
怒り気味にユーリは言葉を繋げていく
「半年前、お前の手掴めなくてレグルスのところに連れて行けなかった時、オレがどんな気持ちになったか、わかるか?!」
『……っ!!!そ……れは…………』
「悔しかった。自分が情けなくて仕方がなかった。…ウンディーネの激流に呑まれようが、お前を離さなきゃよかったって、何度思ったと思う?何度そんな不甲斐ない自分を責めたと思う!?」
ガッと少し強く彼女の両肩をユーリは掴んだ
「散々後悔した!散々お前と同じこと考えた!!自分で自分責めて、全部オレが悪いって勝手に思い込んだ!!…結果どうなったと思う?周りにいた仲間に余計に心配かけたんだよ!オレのせいじゃねえって言ってくれてた奴らに心配かけまくったんだ!」
そう叫ぶように言って、彼女の肩に額を当てる
「……もうそれ以上、自分のこと責めんのやめろ。………心配すんのは、オレだけじゃねえ。オレらと一緒に旅した仲間たちだって心配すんだ。…それに、ライラックさんたちはお前のこと、責めるって思ってんのか?」
『…………だって………………私…………』
「よく考えてみろよ。お前が逃げて責めるような人たちだったか?文句言うような人だったか?………違うだろ。むしろお前を逃がすために、自分を犠牲にするような人だったじゃねえかよ」
アリシアを溺愛していた彼女の父、ライラック……
彼女は彼にとって何よりもかけがえのない宝物だったことは、誰の目で見ても明白だった
ユーリの言った通り……命を掛けて守ってもおかしくないほどに
『…………………………あ……』
思い出したように彼女は小さく声を上げる
「……怒られんぞ。それ以上自分のせいにしようとすりゃ。…今すぐ気にすんなっていうのは無理だと思ってる。けど、少しずつでいい。自分のことを責めんのはこれ以上やめろ」
『………………ごめん………なさい……………』
極めて小さな声で彼女は謝る
「…オレこそ悪かったな。急に大声出したりなんてして」
ユーリはゆっくり顔をあげて、ふっと表情を緩めて彼女をみつめる
アリシアは泣きながら彼に抱き着く
『ごめん……ごめんね………っ…………ユーリの気持ち……考えてあげられなかった……っ!ユーリは私の気持ち……考えようとしてくれてたのに……っ!!』
「なんだよ、今度はオレのことで泣いてんのか?…気にすんなよ」
優しく背を叩いてあやしながらユーリは言う
『だって……っ……私………っ……酷いこと言っちゃった……っ!』
「アリシア」
優しい声で彼女の名を呼んで目元に口付けする
「オレ、そんなこと言われたくらいでお前のこと、嫌いになったりしねえし、手放したりもしねえぜ?」
ふんわりと普段絶対に見せないような優しい笑顔を向けながらユーリは彼女の頬を撫でる
「ほら、もう帰ろうぜ?…んで、墓参りしに行こうぜ?どうせここ最近行ってないんだろ?」
『………一人じゃ………怖かった……から………』
「ったく、それならオレ誘うなり引っ張ってくなりすりゃよかったろ?ライラックさん、天国で拗ねてんじゃねえか?」
冗談交じりにユーリが言えば、アリシアはクスリと笑う
『お父様なら……ありえそう』
「だろ?………帰ろう、シア」
そう言ってユーリは優しく彼女を抱きしめる
笑いながらも涙を流して、アリシアはゆっくりと頷いた
「……………」
目を覚ましたユーリは、ゆっくりと起きあがる
『覚めましたか?』
声の聞こえた方向に向くと、アリオトの姿が映る
「おう……シアは?」
『……眠っています。恐らく、思い出す準備にでも入ったのだと思います』
そう言われ、隣を見るとぐっすりと眠っているアリシアの姿がユーリの目に映る
「…そうか」
そう呟いて、そっと頭を撫でる
『カストロが彼らを先にシリウスの方へ誘導しました。……シリウスの方からこちらに全員行くように促したという連絡もありましたよ』
『……二人で行くんだろ?俺が飛ばしてやる』
「…ありがとな。助かるよ」
そう言って、彼女を姫抱きにする
「……待ってろよ、シア」
ユーリが眠っている彼女に優しく微笑むと同時に、彼の視界が歪んだ
「よっ……と…………。相変わらず暑っついな……」
地面に足がつくと、ユーリはポツリと呟いた
じんわりと汗が滲み出す程の暑さに顔を顰める
《全く……わざわざ星を巻き込んでまで二人きりになる必要はなかったのではないか?》
呆れたようなイフリートの声にその方向を見ると、光の玉の傍に寄り添うイフリートの姿があった
『いいではないか。むしろ我らは大歓迎だぞ?こうして人と関われるのは久しぶりだからな。中々に楽しいものよ』
楽しそうにくくっと喉を鳴らしながらシリウスが笑った
《そういう問題ではないだろうに………まぁ、それは今はいいとしよう。…さあ、最後の欠片に触れるがいい。倒れぬようには配慮してやろう》
「悪いな、イフリート」
ユーリはそう言って彼女を抱えたまま、光の玉に触れた
「……いってぇ………」
そう呟きながらユーリは体を起こした
異常なくらいの体の痛みに少し首を傾げる
「………………は……………?」
自身の手を見て、ユーリは目を見開いた
視界に映ったのはいつだったかに見た紅だった
初めは他人のものだと思っていた彼だったが、体の中から何かが流れ出ていくような感覚にそれが自分のものだと気がつく
「…っ………!!なん……で、だよ……」
腹部を押さえながら少し苦しそうにユーリが呟く
「…くっそ………っ!…こんなとこで…立ち止まって……らんねえんだよ……っ!!」
ユーリはそう叫ぶように言って立ち上がろうとする
『……っ!駄目……っ!!』
探そうとしていた人物の声が聞こえたのと共に、ユーリは再びその場に座らされた
「あ……っ?………シア………?」
自分を引き戻した人物の方に顔を向けながらユーリはその名を呼んだ
『駄目……っ!動いちゃ……駄目だよ……!!』
大粒の涙を流しながらアリシアは必死にユーリを止める
理由がわからないと首を傾げながら、ユーリは彼女を見る
『そんなに怪我してるのに……っ!動いちゃ…っ………死んじゃうよ……っ!!』
お願いだから動かないでくれと言わんばかりに彼の服を掴んで離そうとしない
「……シア………」
自分でも驚く程に掠れた声でユーリは彼女の名前を呼びながら涙の伝った頬に触れる
『やだ……っ!!やだよ……っ!ユーリまで居なくなっちゃ嫌だよ………っ……!!!』
そう言いながら傷を治そうと彼女は手をかざす
だが、いつものように治癒術が使えずにいた
『……っ!!なんで……っ……なんでよ……っ!!このままじゃ……っ!ユーリ…死んじゃうじゃん……っ!!お願い……っ………お願いだからぁ……っ……助けてよぉ……っ……アリオト………っ!!』
少しぼんやりし出した頭でユーリは考えた
そして、一つの答えが頭に浮かぶ
こんな状況になったのは、彼女が自身の死を恐れているからだ、と……
大切な人を失い続けたアリシアにとって、自分の死は恐怖なのだと
『やだ………………やだよ………………ユーリも居なくなっちゃったら……私………私………っ!!!』
俯きながら彼女は必死に助けようと治癒術をかけようとし続ける
地面にポタポタと涙が落ちてシミをつくっていく
これが自分の死を怖がっている彼女の見ている夢のようなものと、ユーリが認識すると自然と今まで感じていた何かが流れ出ていく感覚がすっと消えていった
「……アリシア」
彼女の名を呼びながらそっと治癒術をかけようとしている手に自身の手を重ねる
「大丈夫、大丈夫だから」
『……っ………全然……っ…大丈夫じゃ……っ!』
「よく見てみろって。…な?」
ユーリは自分を見るように彼女を促す
少し躊躇いながら、彼女はゆっくりと顔をあげる
『…………あ……れ………?』
顔をあげた彼女は驚いたようにユーリを見つめる
アリシアの瞳に映ったのは怪我のひとつもないユーリの姿だった
「な?大丈夫だろ?」
ニカッとユーリは彼女を安心させるように笑う
『……なん………で………?』
「おいおい…無事なんだからもーちっと喜べよ」
苦笑いしながらユーリは彼女の頭を撫でる
『だ……だって……さっきまで……っ!』
「そもそも、オレがいつあんな大怪我した?」
彼がそう聞くとアリシアは思い出そうと首を傾げるが、全く思い出せないらしく少し唸った
「…いっつも、お前が助けてくれてたろ?オレが怪我しないようにってさ。……けどさ、いい加減オレに守らさせてくんない?オレだって、お前が怪我してもしもの事があったりなんてすんの嫌だし」
苦笑いしながら彼はそう言った
『でも……っ!』
「アリシア、オレ、そんなに頼りない?」
『……!!ちが……』
「…大丈夫、お前を置いて死んだりしねえよ。お前より先に……死んだりなんてしねえから」
そう言って彼女を引き寄せて腕の中に閉じ込める
「オレ、お前に嘘ついたことあったか?」
少しいたずらっぽくユーリは問いかける
彼女はユーリの腕の中で必死に首を横に振った
『ない………っ!……ついた、こと……ない……っ!』
「だろ?……だから、大丈夫。絶対にお前置いて死んだりなんてしねえ。何があっても絶対に、な」
彼がそう答えると、アリシアはぎゅっとしがみついて、ユーリの胸元で声を殺して泣いた
泣き声をあげずに涙を流し続けるアリシアをユーリは優しく、それでいて離さないようにと強く抱きしめる
「……シア、泣き止んだら帰ろう。向こうでシリウスもイフリートも…みんな、お前が帰ってくんの待ってるからさ」
そう声をかけた彼にアリシアは静かに頷いた
「………………ろ…………かユーリ……!!!!」
そんな叫び声と共に爆音が辺りに響いた
「おわっ!?!!!な、なんだっ!?」
あまりの衝撃にユーリは飛び起きる
周りを見れば、あからさまに怒った様子のリタと呆れたような雰囲気の仲間たちの姿があった
「……はぁ……宥めてる間に追いつかれたか」
大きくため息をついて頭に手をあてながら、ユーリは苦笑いして項垂れた
追いつかれることは承知の上だったが、まさかこんなに早くに追いつかれるとは思っていなかったのだ
「全く、勝手に行動して…探したじゃないか」
呆れ気味にそう言いながらフレンはユーリの傍に立った
「お前とリタがおっさん追っかけまわしてたのがいけねーんだろ?」
冗談交じりに笑いながら彼はそう返した
「うっ………否定できない………」
悔しそうに歯ぎしりして少し顔を赤らめながらリタは呟く
「そうだとしても、何も言わずに二人で行くのはどうかと思うの」
そう言ったジュディスは微笑んでいたが、その目は笑っていなかった
「それはオレが悪かったよ…」
素直にそう言って彼は肩を竦めた
「勝手に行動したんだから、ちゃんとアリシアの欠片集め終わったんだよね?」
「当たり前だろ?流石にそんな手抜きしねえよ、カロル先生」
「それでは…ようやく、戻ったんですね…!」
嬉しそうにエステルは手を合わせてユーリとアリシアを見る
『……いや、もう少しだな』
そんな期待をかき消すようにシリウスの声が響いた
「な、なんでなのじゃ…!?」
『まだアリシアの中で整理している途中だからだ。……いつ目が覚めるかは、アリシアと………ユーリ次第、だな』
「あのなぁ……なんでそこでオレ出てくんの?」
少し呆れたようにユーリはシリウスに問掛ける
その問いはそこに居た誰もが思ったことであった
『…それは、自分で考えてみるのだな』
シリウスがそう言うと、その場から彼の気配がなくなった
「……なんで星って、自分の言いたいこと言ったらいなくなんのかしらね」
不服そうにリタは空を睨みながら呟く
「さぁな……。シアも相当困ってたしな」
ユーリは肩を竦めると、彼女を姫抱きにして立ち上がる
「……とりあえず帰ろうぜ。帝都に」
その言葉に、仲間たちは納得いかなさそうにしながらも首を縦に振った