運命
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ユーリたちが最初に向かったのはゾフェル氷刃海だった
そこには、歪みで見たのと同じ光の玉がふよふよと浮かんでいた
それに寄り添っていたのはウンディーネだった
「ウンディーネ、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をしながらエステルがお礼を言うと、ウンディーネは気まづそうにはすっとその場から消えた
「さて…どうすればいいのだろう」
光の玉を見つめながらフレンは考え込む
移動中、ユーリからレグルスの忠告を聞いたものの、肝心な戻し方については誰も教えて貰っていないことに気づく
頼りになる精霊と星はそれぞれの場所に散っていて頼ることが出来ない
「…にしても、星まで保護に回ってたとは流石に思わなかったな」
苦笑いしながら、ユーリは呟く
精霊だけでは繋ぎ止めるとこが出来ず、星が力を貸してくれていたのだ
アリシアの欠片の属性で見つかったのは全部で十
火、水、風、地、闇、光、雷、氷…そして、守護と治癒
火にはイフリートとシリウスが
水にはウンディーネとペテルギウスが
風にはシルフとアルタイルが
地にはノームとカペラが
闇にはシャドウという精霊とポルックスが
光にはルカという精霊とカストロが
雷にはボルトという精霊とプロキオンという星が
氷にはセルシウスという精霊とアークツルスという星が
治癒にはアリオトが
守護にはリゲルがついている
「ペテルギウスに聞いてみませんか?」
エステルがそう提案するが、ユーリは首を横に振った
「あいつなら、シリウスのとこまで行っちまったみたいだよ。ったく…本当に肝心な時に反応しねぇんだな……」
苦笑いしながら、ユーリはアリシアを連れて光の玉に近づく
手を伸ばせば触れられるくらいの場所に来ると、彼女のネックレスが強い光を放った
「…っ!!!?!!」
余りの眩しさにユーリは目を閉じた
……そして、そのまま暗闇に飲み込まれて行った
「ユーリっ!?」
光が収まると、その場所には倒れ込んだユーリの姿があった
慌てて彼らはユーリに駆け寄る
「ちょっ、どうなってんのよ…!?」
「わかりません……とりあえず、アリシアを」
『いけません!』
唐突に辺りに甲高い声が響く
ユーリが宝剣を持っていることで星の声が直接聞こえていたのだ
「あなたは…ペテルギウス、かしら?」
『ええ、そうです。私はペテルギウス。…申し訳ありませんが、しばらくそのままにして頂けますか?』
「え?なんで??」
『……お話中、だからです』
カロルの問いかけにペテルギウスは端的に説明する
その説明に理解出来なかったのはカロルとパティだけだった
「さて……まーた隠れんぼか?」
暗闇の中で苦笑いしながらユーリは周囲を見回す
どこを見ても何も見えない
ただただ広がる暗闇の世界
「こりゃ…骨が折れそうだな……」
そう言いながら表情を緩める
道標などなくても、見つけ出せる自信があったからだ
何か聞こえないか、静かに聞き耳をたて、少しでも空気が動かないだろうかと身体で風を感じとろうとする
しばらくそうしていると、小さく泣く声が聞こえた
ユーリは迷わずにその方向へ走った
徐々に大きくなるその声には聞き覚えがあった
『うぅ………ひっく……』
「……なーに泣いてんだよ、シア」
声の元に辿り着けばそこにはアリシアの姿があった
が、その姿は今のアリシアと言うよりも昔の…まだ出会ったばかりの頃の彼女と同じ姿だった
『……っ!!!……ユーリ…………?』
彼女は顔を上げて首を傾げる
「オレ以外に、誰かいると思う?」
そう言った時に、彼は自分の声に違和感を感じた
少し高い気がする……そう感じてよく見ると、身体が小さくなっていることに気がついた
多少驚いたもののアリシアの姿も幼いことに、恐らく子どもの頃のトラウマか何かを思い出しているのでは、と考えた
『ユーリ…………ユー…リ……っ!!』
そう言いながら、彼女はユーリに飛びつく
ほのかに感じた体温はいつも以上に低かった
『うぅ………寒いのやだよ……怖いよ……っ』
しゃくりを上げながら彼女は涙を流す
ユーリたちと出会った翌年の大雪の日に父親とはぐれて雪の中迷子になり、死にそうになった出来事を彼は思い出した
ここに居る彼女はその恐怖が一番根強く残っているのだろう
「大丈夫だよ。オレがいんだからさ」
そう言って暖めるように背に手を回して抱き締める
『でも……ユーリが………っ』
「オレ、シアより体温高いし、このくらい平気だって。それに…こうしてた方が暖かいだろ?」
心配そうに歪められた彼女の頬に、ニカッと笑いながらユーリは唇を落とす
「離さないって、ちゃんと言ったろ?」
『…………ユーリ…………』
「ほら、帰ろうぜ?みんな待ってるし、ここよりずっと暖かいぞ?」
そっと頭を撫でながらユーリはあやす様に言う
『………………うん…………帰ろう、ユーリ』
嬉しそうに微笑むと、彼女の身体が強い光を帯びる
その眩しさにユーリは目をつぶった
抱き締めた手は、離さずに
「………うっ…………」
「!!ユーリ!!」
目を開けると、心配そうに顔を歪めた仲間たちの姿が彼の目に入る
ゆっくりと身体を起こしながら頭を振る
「………シアは?」
自分の腕の中に居たはずの彼女が居ないことに、ユーリは周りに問いかける
「今、ジュディスとリタがバウルのところに連れて行きました。…まだ、目は覚ましていませんが、欠片がアリシアの中に戻ったんです」
傍に居たエステルがそう説明しながら、ユーリに治癒術をかけた
「ユーリ、一体何があったんだ?」
「…………暗闇ん中に、あん時のシアがいた」
「あの時……?」
フレンの問いかけにユーリが答えると、レイヴンが首を傾げた
「前に言ったろ?シア…寒いとこ駄目だって。…死にかけてしばらく経って会いに行った時のシアが居たんだよ」
そう補足すると、フレンが驚いた顔をした
「それじゃあ……レグルス様が言っていたことは……」
「…多分、そういうことだな。シアのトラウマとか不安とか…そう言うの全部に対処して来いってことだろ」
ふぅ…と短くため息をつきながら、ユーリは立ち上がった
「次、行こうぜ。……後、次からフレンがシア連れて来てくれ。また倒れてシアが怪我でもしたら、リタに殺されそうだ」
そう言って、苦笑いしながらユーリはバウルの元に向かって歩き始めた
残された五人と一匹は少し困ったように顔を見合わせてから、バウルの元に戻り出した
次に向かったのはテムザ山の山頂だった
光の玉が浮かんでいるその傍にはノームがいた
彼はユーリたちを見ると、あとは頼んだと言いたげに姿を消した
『ユーリ!やっと来たね!』
ベガが嬉しそうに声をかけてくる
「遅くなって悪かった」
空に向かってユーリはそう声をかける
『それじゃあ……頼んだからね!』
ベガはそう言うと気配を消した
「ユーリ」
アリシアを抱き抱えたフレンが、ユーリの隣に立つ
「ああ……フレン、目つぶっとけよ」
ユーリはそう言って、光の玉に手を伸ばす
そして、先程と同じよう強い光に包まれて、そのまま暗闇に引きずり込まれた
「……さて、今度はなんだ?」
見えるのは暗闇……だが、微かに煙の匂いがする
それと何が焼ける匂い…
嫌な予感を持ちながらも足を進める
どうやら坂道らしいここは、上に行けば行くほど何が焼ける匂いが強くなる
そして、少しずつ色がついていく
「……テムザ山……か?」
少し見慣れた風景に思わず声を出した
紛れもなくここはテムザ山…だが、見慣れている景色とは少し違う
あちらこちらに人の死体や、魔物の死体……そして、煙が上がっている
全体を見渡せそうなその場所に、アリシアは佇んでいた
「シア」
ユーリが名を呼ぶと、彼女は驚いたように振り向く
相当泣いたのか目は赤く腫れ、涙の伝った痕が頬に残っている
『……ユーリ…………』
「なんでそんなに泣いてんだよ?」
隣に寄り添うと、涙の痕を親指で優しく拭う
『…………暗きものの………記憶を見たの』
「暗きもの?」
『……人魔戦争を起こした、始祖の隷長………とても、悲しんでたの………』
そう言いながら、ユーリに寄りかかった
『……彼も悲しかったの、人と共存を望んでいたのに、裏切られて拒絶されて………それで、人を滅ぼそうとした………そんな記憶と、感情を………』
「……いつ、最初に見たんだ?」
『…………お兄様に捕まってた時………聖核の一つに、暗きものの聖核があったみたい……』
「…そっか……んで、オレにも言えずにいたんだな」
そう言って彼女を抱きしめる
優しく頭を撫でながらコツンと額を合わせる
『……ユーリ………私………』
「シア、お前が見たのは過去だ。今ではないし、助けてやれなかったのはお前のせいじゃない。…それは、わかるだろ?」
『でも………!』
「暗きものの感情をオレは知らねえ。だけどな、シアが考えてることくらいは分かってるつもりだよ。……もっと早くに出会えていれば、変わったんじゃないか……そう思ってんだろ?」
アリシアの言葉を遮ってユーリが言うと、彼女は力なく項垂れた
「シア、過去は過去だ。オレらにはどうにもしてやれない。…けど、過去を忘れないことは出来るだろ?」
優しくそう言うと、彼女は少し驚いたように顔をあげる
「……墓、作ってやろうぜ?んで、毎年墓参りに行けばいい。違うか?」
『…………ううん、違く、ない………ユーリの言う通りだよね』
アリシアの顔に薄らと笑みが浮かぶ
「うっし、んじゃ、帰ろうぜ?ここじゃ墓も作ってやれねえだろ?」
パチッとウインクをしながら、ユーリは彼女を見つめる
『うん!』
アリシアが嬉しそうに微笑むと辺りが光に包まれた
「……いってぇ………」
ゆっくりと起き上がりながらユーリは頭を抑えた
「強く頭ぶつけていたみたいだもの。大丈夫かしら?」
目の覚めたユーリに最初に声をかけたのはジュディスだった
「……ああ、なんとかな」
「次は何が見えたのよ?」
エステルが治癒術をかけていると、レイヴンが問い掛けてくる
「人魔戦争の先頭に立ってた始祖の隷長の記憶を見たって言ってたな」
その答えに、レイヴンは顔を顰めた
彼からすれば思い出したくないからだろう
「悲しかったらしいぜ、その始祖の隷長もな。人に拒まれ裏切られ……信じられなくなったんだと」
「……やっぱりわかり…あえないのでしょうか?」
エステルは首を傾げながら問いかける
その問いに返せる者はいなかった
難しいことは誰もが理解していたからだ
「…いつか、そういう日が来るように、オレらが頑張りゃいいんだろ?」
ゆっくりと立ち上がりながらニヤリとユーリは笑う
「……な?シア」
フレンが抱き抱えているアリシアの頬をそっと撫でながら彼女の名を呼んで微笑む
一瞬、彼女が微笑んだようにユーリとフレンは見えた
「……全く、僕の前でそうゆうことするの、やめてくれないかい?」
「なんだよ、嫉妬か?」
冗談交じりにユーリが笑うと、フレンは怪訝そうに顔を顰めて、彼女を連れて先にバウルの元に戻って行く
そのあとを苦笑いしながらユーリが追いかけた
次に来たのはレレウィーゼだった
ここにはシフルとアルタイルがいる
『お!ユーリさん!待ってたよー!』
《ようやく来ましたね》
二体の声がレレウィーゼに響く
「ユーリ、モテモテなのじゃ!」
「おいおい…冗談よしてくれよ」
ユーリは苦笑いすると、光の玉に向かって歩き始める
「なんか……大分躊躇しなくなったよね……」
ユーリを見つめながらカロルはポツリと呟く
「……アリシアの記憶がかかっているからね。必死なんだよ」
フレンはそう言って、ユーリの後を追いかける
二人は頷き合って合図を送ると手を光の玉に伸ばした
「…………隠れんぼは終わりにしたのか?」
目を開けてすぐに、ユーリはそう言って目の前に見える人影を見つめる
『…………隠れんぼなんて、してないもん』
むっと頬を膨らませてアリシアは振り向きながらそう言う
「ははっ、悪かったよ。…んで、なんでそんな辛気臭い顔してんだよ?」
そう言いながら隣に立つ
崖のかなり下の方で微かに水が流れているのが目に入る
『…………ここ、私たちの故郷だったから……』
「そうなのか?」
『ん……でも、もう村の後とか、見えなくなっちゃった…』
寂しそうに崖の下を覗き込みながら、彼女は静か呟く
『……この下………クロームがいた所よりももっと下の方にあるんだって。……でも、長い年月の間、水に削られて……降りれないんだって』
寂しそうに手を伸ばしながらアリシアは言う
「……そんなに手伸ばしてたら、落ちるぞ?」
そっと後ろから抱きしめながら、ユーリは言う
『…………落ちたら、行けるのかな………私、レグルス様たちが生きた場所を見てみたい……』
伸ばした手を握りしめながら、胸の前にもっていく
本は残っていても、風景は見ることが出来ない
彼女は文字から伝えられることだけでなく、風景も見たかったのだ
「落ちたりしたら死んじまうだろ?…それに、カープノスやアリオトに頼むとか、シフルに手伝ってもらうとか、今なら方法は沢山あるだろ?」
『……………そう、だよね………』
「っつーか、落ちられたらオレが困る。……お前が居なくなるとか、もうゴメンだぜ」
ユーリはぎゅっと抱きしめる腕に力を入れる
離さないように、彼女が落ちてしまわないように
『……ふふ、それもそっか』
クスリと笑うとユーリの手に自身の手を重ねた
『…………ユーリ、帰ったらさ、一緒にここに来てくれる?』
「いいぜ。シアが行きたいところになら、いくらでもついて行ってやるさ」
ニッコリと優しくユーリが微笑むと、アリシアも嬉しそうに微笑んだ
「…………おい……」
目が覚めたユーリは大きくため息をついた
「む?起きたかの?」
真上からパティの声が響く
身体にかかる重みから、上に乗られているのは明白だった
「邪魔だっての……」
「あぅ……」
勢いよく起き上がると、パティがユーリの上から転げ落ちる
「ユーリ、頭痛くないです?」
「ん?…ああ、そういや痛くねぇな」
「シルフにお礼言いなさいよ?あんたが地面に激突する前に支えてくれてたんだから」
リタはそう言いながら傍にいたシルフを見る
《誰も助けてあげようとしないものですから…それに、あなたに万が一のことがあれば、姫が泣きます》
少し顔を逸らしながらシルフは答えた
「それでもサンキュな、シルフ」
ユーリがそう言うと、彼女は姿を消した
「アリシア、さっき少し笑ってたよ」
カロルはどこか嬉しそうにそう言った
「余程いいことでもあったのかしら、ね?」
微笑みながらジュディスはユーリに問いかける
彼は答えようとはせずに肩を竦めて立ち上がった
それを合図にバウルへと戻った
次はついたのはエレアルーミンだった
「相変わらず目がチカチカすんな」
眩しそうに目を細めながら、ユーリは周りを見た
「ユーリ、さっさとやろう」
フレンはスタスタと光の玉の方へ歩いていく
「おりょ…?フレンちゃんの方が張り切ってない??」
「……オレ、後何回連続でぶっ倒れればいいんだよ……」
大きくため息をつきながら、ユーリはフレンの隣に並んだ
「…………あれ、多分休ませる気ないわよね?」
二人から離れた場所でリタが呟く
「みたいね」
「…あたしでも、流石に休ませた方がいいと思ってんだけど…」
ジト目でフレンを見つめながら、リタはため息をついた
「……シア、何してんだよ?」
『…………大分世界も変わったんだなぁって思っちゃって』
アリシアはグシオスが以前いた水面の上に立って遠くを見詰めている
「だな。魔導器はエアルで動かなくなったし、始祖の隷長の数も減った。代わりにマナと精霊が生まれた」
『…………それで、良かったのかなって、未だに思っちゃうんだ………』
力なくそう答えて、アリシアは項垂れた
「少なくとも、やらなきゃ今頃この世界は滅んでた。それに、リタやお前のおかげで精霊たちが手伝ってくれて、マナも使えるようになってきてる。オレは良かったと思ってるぜ?」
そう言いながらユーリはアリシアの元に歩み寄る
『……ユーリやみんながそう思ってくれても……』
「納得してねぇのは確かにいるだろうな。…でもよ、そういう奴らは自分で行動しようとしない奴らだ。そんな奴らにどうこう言われる筋合いねぇだろ?」
アリシアの隣に並ぶと、そっと肩を抱いた
『……ユーリ…』
「人間、生きてりゃなんだって出来るんだぜ?」
な?と言ってユーリは微笑む
『……ん、そうだよね。私たち、なんでもしてきたもんね』
ゆっくりと彼の方を見て微笑み返す
そして、ユーリの肩に頭を乗せる
『……ユーリ』
「ん?」
『目が覚めたら……色んなところに連れて行って欲しいな。私が見てない世界……新しい世界を見たい。ユーリと一緒に』
「そのくらい、いくらでも連れてってやるよお嬢さん」
嬉しそうに微笑んでユーリはそっと手を繋いだ
「……………呑気だな、お前ら………」
起き上がったユーリは仲間たちを見て呆れ気味にため息をついた
「あ、ユーリ!目覚めたんだね!」
ござの上で飲み物を飲みながら、カロルが顔だけを向けた
ユーリが一人アリシアの意識を連れ戻そうとしている間、仲間たちはのんびりくつろいでいたのだ
目が覚めてすぐにそんな光景が見えたら呆れるのが普通だろう
「ったく……次行くだろ?」
「いや…今日はもう休もう」
フレンがそう言うと、ユーリは意外そうに首を傾げた
「精霊たちから、かなり体力使うからもう休ませてあげなさいって怒られたのよね」
ジュディスは少し困ったように微笑みながら、フレンを見た
「オレはまだ平気だぞ?」
「休めって遠回しに言われてんのよ」
リタが呆れたように苦笑いしながら言葉を繋げた
この半年、殆ど動かなかった彼に対する精霊たちなりの配慮なのだろう
「明日すぐ動けるように、今日はフェルティア号で休みましょう?」
エステルがそう言うと全員立ち上がってバウルの元に向かって歩いていく
「ユーリ」
フレンは名前を呼びながらアリシアをチラッと見る
「……サンキュな、フレン」
そう言いながら彼からアリシアを受け取る
最後に抱えた時よりも少し体温が上がったように彼は感じた
「船室で寝かせてあげなよ」
まだ船の中に戻っていなかったカロルがそう声をかける
「おう、そうするわ」
二人を残してユーリは船の中に入って行った
「……少しの間、二人きりにさせてあげようか」
少し嫌そうにしながらもフレンは肩を竦めた
「だね!」
カロルはニコッと笑うと、他のメンバーにそのことを伝えに行った
船室に入ってすぐにベットの上にアリシアを寝かせると、ユーリはそのベットの縁に腰掛けた
そっとベットの上に散らばった髪を掬い上げるとその髪束に唇を落とす
ふんわりと香る甘い匂いに嬉しそうに口角を上げた
「……シア」
小さな声で名前を呼びながら髪束を離して頬に触れる
その目が開かれることはまだない
だが、欠片が一つだけだった時に比べ大分落ち着いたような表情になっていた
「…なぁ、今…どんな夢見てんだ?」
返事が返ってくることはないとわかりながらも、ユーリは問いかける
彼女が今、何を見ているのかが知りたかった
あわよくば、その夢の中に自分が出て来ていることを願っていた
彼女の手に触れた自身の指をそっと絡めて手を繋ぐ
すると、アリシアの指が一瞬動いた
「……………シア………?」
ユーリが首を傾げると、アリシアの手に少し力が入った
同時に薄らと目を開く
ユーリが目を見開いて驚いていると、アリシアはゆっくりと彼の方を見る
「…………ユ………リ…………?」
掠れた声で小さく彼の名を呼ぶ
「っ…!!シア……」
少し泣きそうな目で微笑みながら、彼女を呼ぶと嬉しそうに微笑む
「……わり、起こしちまったか」
コツンと額を合わせるながら問いかけると、小さく首を横に振った
何か言おうと唇を少し動かすが、肝心の声は出てこない
「…まだ寝てろよ。欠片、集まりきってねえんだしさ。……大丈夫、オレは何処にも行かねぇよ」
あやす様に声をかけながらユーリは頭をそっと撫でる
すると、アリシアは空いた手でユーリの服を軽く引っ張る
眠い時に彼女がよくするその癖は抱きしめながら寝てほしい時の合図だった
「ったく…甘えたがりだな」
そう言いながらも嬉しそうに口角を上げて、彼女の隣に寝そべる
嬉しそうにアリシアも笑うとユーリの胸元に抱きついた
「おーお、フレンに見られたらオレ殺されそうだわ」
苦笑いしながら、彼女の背に手を回す
「……………ユ……リ」
「ん?」
「…………すき………」
たった二文字そう言って、満面の笑みでユーリを見上げる
「…知ってるよ。…オレも、アリシアが大好きだ」
優しくそう言うと彼女の額に口付けする
それを聞いたアリシアは嬉しそうに微笑んでゆっくりと目を閉じた
そして規則正しい寝息が聞こえてくる
「…………はは…っ、そうだよな。……シアがオレを忘れるわけ、ねえよな……」
若干自嘲気味に苦笑いする
半年間、ずっとそれを気にして塞ぎ込んでいたことが酷く情けなく感じていた
自分の腕の中で眠っている彼女を愛おしそうに見つめながら頬を撫でる
そうしているうちに徐々に眠くなったユーリは、そのまま眠りについた
「全く………戻って来ないと思ったら………」
大きくため息をつきながら、フレンは二人の幼なじみを見る
完全にアリシアの方から抱きついたのだと、フレンは見ただけでわかった
そっと二人に掛け布団をかけて、ベットの傍にしゃがみこむ
「……一体、いつの間に起きたんだい?」
軽く彼女の頬を撫でながら、少し寂しそうに微笑む
こうして見てしまうとやはり諦めるしかないのだと、彼は痛感する
「…………君が幸せなら、それでいいんだけどね」
彼女の頬から手を離すと、今度はユーリの頭に手を置いた
「……アリシアを泣かせる、なんて、僕が許さないからな?」
フレンはそう言っていたずらっ子のように笑う
そして、静かに船室を後にした
そこには、歪みで見たのと同じ光の玉がふよふよと浮かんでいた
それに寄り添っていたのはウンディーネだった
「ウンディーネ、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をしながらエステルがお礼を言うと、ウンディーネは気まづそうにはすっとその場から消えた
「さて…どうすればいいのだろう」
光の玉を見つめながらフレンは考え込む
移動中、ユーリからレグルスの忠告を聞いたものの、肝心な戻し方については誰も教えて貰っていないことに気づく
頼りになる精霊と星はそれぞれの場所に散っていて頼ることが出来ない
「…にしても、星まで保護に回ってたとは流石に思わなかったな」
苦笑いしながら、ユーリは呟く
精霊だけでは繋ぎ止めるとこが出来ず、星が力を貸してくれていたのだ
アリシアの欠片の属性で見つかったのは全部で十
火、水、風、地、闇、光、雷、氷…そして、守護と治癒
火にはイフリートとシリウスが
水にはウンディーネとペテルギウスが
風にはシルフとアルタイルが
地にはノームとカペラが
闇にはシャドウという精霊とポルックスが
光にはルカという精霊とカストロが
雷にはボルトという精霊とプロキオンという星が
氷にはセルシウスという精霊とアークツルスという星が
治癒にはアリオトが
守護にはリゲルがついている
「ペテルギウスに聞いてみませんか?」
エステルがそう提案するが、ユーリは首を横に振った
「あいつなら、シリウスのとこまで行っちまったみたいだよ。ったく…本当に肝心な時に反応しねぇんだな……」
苦笑いしながら、ユーリはアリシアを連れて光の玉に近づく
手を伸ばせば触れられるくらいの場所に来ると、彼女のネックレスが強い光を放った
「…っ!!!?!!」
余りの眩しさにユーリは目を閉じた
……そして、そのまま暗闇に飲み込まれて行った
「ユーリっ!?」
光が収まると、その場所には倒れ込んだユーリの姿があった
慌てて彼らはユーリに駆け寄る
「ちょっ、どうなってんのよ…!?」
「わかりません……とりあえず、アリシアを」
『いけません!』
唐突に辺りに甲高い声が響く
ユーリが宝剣を持っていることで星の声が直接聞こえていたのだ
「あなたは…ペテルギウス、かしら?」
『ええ、そうです。私はペテルギウス。…申し訳ありませんが、しばらくそのままにして頂けますか?』
「え?なんで??」
『……お話中、だからです』
カロルの問いかけにペテルギウスは端的に説明する
その説明に理解出来なかったのはカロルとパティだけだった
「さて……まーた隠れんぼか?」
暗闇の中で苦笑いしながらユーリは周囲を見回す
どこを見ても何も見えない
ただただ広がる暗闇の世界
「こりゃ…骨が折れそうだな……」
そう言いながら表情を緩める
道標などなくても、見つけ出せる自信があったからだ
何か聞こえないか、静かに聞き耳をたて、少しでも空気が動かないだろうかと身体で風を感じとろうとする
しばらくそうしていると、小さく泣く声が聞こえた
ユーリは迷わずにその方向へ走った
徐々に大きくなるその声には聞き覚えがあった
『うぅ………ひっく……』
「……なーに泣いてんだよ、シア」
声の元に辿り着けばそこにはアリシアの姿があった
が、その姿は今のアリシアと言うよりも昔の…まだ出会ったばかりの頃の彼女と同じ姿だった
『……っ!!!……ユーリ…………?』
彼女は顔を上げて首を傾げる
「オレ以外に、誰かいると思う?」
そう言った時に、彼は自分の声に違和感を感じた
少し高い気がする……そう感じてよく見ると、身体が小さくなっていることに気がついた
多少驚いたもののアリシアの姿も幼いことに、恐らく子どもの頃のトラウマか何かを思い出しているのでは、と考えた
『ユーリ…………ユー…リ……っ!!』
そう言いながら、彼女はユーリに飛びつく
ほのかに感じた体温はいつも以上に低かった
『うぅ………寒いのやだよ……怖いよ……っ』
しゃくりを上げながら彼女は涙を流す
ユーリたちと出会った翌年の大雪の日に父親とはぐれて雪の中迷子になり、死にそうになった出来事を彼は思い出した
ここに居る彼女はその恐怖が一番根強く残っているのだろう
「大丈夫だよ。オレがいんだからさ」
そう言って暖めるように背に手を回して抱き締める
『でも……ユーリが………っ』
「オレ、シアより体温高いし、このくらい平気だって。それに…こうしてた方が暖かいだろ?」
心配そうに歪められた彼女の頬に、ニカッと笑いながらユーリは唇を落とす
「離さないって、ちゃんと言ったろ?」
『…………ユーリ…………』
「ほら、帰ろうぜ?みんな待ってるし、ここよりずっと暖かいぞ?」
そっと頭を撫でながらユーリはあやす様に言う
『………………うん…………帰ろう、ユーリ』
嬉しそうに微笑むと、彼女の身体が強い光を帯びる
その眩しさにユーリは目をつぶった
抱き締めた手は、離さずに
「………うっ…………」
「!!ユーリ!!」
目を開けると、心配そうに顔を歪めた仲間たちの姿が彼の目に入る
ゆっくりと身体を起こしながら頭を振る
「………シアは?」
自分の腕の中に居たはずの彼女が居ないことに、ユーリは周りに問いかける
「今、ジュディスとリタがバウルのところに連れて行きました。…まだ、目は覚ましていませんが、欠片がアリシアの中に戻ったんです」
傍に居たエステルがそう説明しながら、ユーリに治癒術をかけた
「ユーリ、一体何があったんだ?」
「…………暗闇ん中に、あん時のシアがいた」
「あの時……?」
フレンの問いかけにユーリが答えると、レイヴンが首を傾げた
「前に言ったろ?シア…寒いとこ駄目だって。…死にかけてしばらく経って会いに行った時のシアが居たんだよ」
そう補足すると、フレンが驚いた顔をした
「それじゃあ……レグルス様が言っていたことは……」
「…多分、そういうことだな。シアのトラウマとか不安とか…そう言うの全部に対処して来いってことだろ」
ふぅ…と短くため息をつきながら、ユーリは立ち上がった
「次、行こうぜ。……後、次からフレンがシア連れて来てくれ。また倒れてシアが怪我でもしたら、リタに殺されそうだ」
そう言って、苦笑いしながらユーリはバウルの元に向かって歩き始めた
残された五人と一匹は少し困ったように顔を見合わせてから、バウルの元に戻り出した
次に向かったのはテムザ山の山頂だった
光の玉が浮かんでいるその傍にはノームがいた
彼はユーリたちを見ると、あとは頼んだと言いたげに姿を消した
『ユーリ!やっと来たね!』
ベガが嬉しそうに声をかけてくる
「遅くなって悪かった」
空に向かってユーリはそう声をかける
『それじゃあ……頼んだからね!』
ベガはそう言うと気配を消した
「ユーリ」
アリシアを抱き抱えたフレンが、ユーリの隣に立つ
「ああ……フレン、目つぶっとけよ」
ユーリはそう言って、光の玉に手を伸ばす
そして、先程と同じよう強い光に包まれて、そのまま暗闇に引きずり込まれた
「……さて、今度はなんだ?」
見えるのは暗闇……だが、微かに煙の匂いがする
それと何が焼ける匂い…
嫌な予感を持ちながらも足を進める
どうやら坂道らしいここは、上に行けば行くほど何が焼ける匂いが強くなる
そして、少しずつ色がついていく
「……テムザ山……か?」
少し見慣れた風景に思わず声を出した
紛れもなくここはテムザ山…だが、見慣れている景色とは少し違う
あちらこちらに人の死体や、魔物の死体……そして、煙が上がっている
全体を見渡せそうなその場所に、アリシアは佇んでいた
「シア」
ユーリが名を呼ぶと、彼女は驚いたように振り向く
相当泣いたのか目は赤く腫れ、涙の伝った痕が頬に残っている
『……ユーリ…………』
「なんでそんなに泣いてんだよ?」
隣に寄り添うと、涙の痕を親指で優しく拭う
『…………暗きものの………記憶を見たの』
「暗きもの?」
『……人魔戦争を起こした、始祖の隷長………とても、悲しんでたの………』
そう言いながら、ユーリに寄りかかった
『……彼も悲しかったの、人と共存を望んでいたのに、裏切られて拒絶されて………それで、人を滅ぼそうとした………そんな記憶と、感情を………』
「……いつ、最初に見たんだ?」
『…………お兄様に捕まってた時………聖核の一つに、暗きものの聖核があったみたい……』
「…そっか……んで、オレにも言えずにいたんだな」
そう言って彼女を抱きしめる
優しく頭を撫でながらコツンと額を合わせる
『……ユーリ………私………』
「シア、お前が見たのは過去だ。今ではないし、助けてやれなかったのはお前のせいじゃない。…それは、わかるだろ?」
『でも………!』
「暗きものの感情をオレは知らねえ。だけどな、シアが考えてることくらいは分かってるつもりだよ。……もっと早くに出会えていれば、変わったんじゃないか……そう思ってんだろ?」
アリシアの言葉を遮ってユーリが言うと、彼女は力なく項垂れた
「シア、過去は過去だ。オレらにはどうにもしてやれない。…けど、過去を忘れないことは出来るだろ?」
優しくそう言うと、彼女は少し驚いたように顔をあげる
「……墓、作ってやろうぜ?んで、毎年墓参りに行けばいい。違うか?」
『…………ううん、違く、ない………ユーリの言う通りだよね』
アリシアの顔に薄らと笑みが浮かぶ
「うっし、んじゃ、帰ろうぜ?ここじゃ墓も作ってやれねえだろ?」
パチッとウインクをしながら、ユーリは彼女を見つめる
『うん!』
アリシアが嬉しそうに微笑むと辺りが光に包まれた
「……いってぇ………」
ゆっくりと起き上がりながらユーリは頭を抑えた
「強く頭ぶつけていたみたいだもの。大丈夫かしら?」
目の覚めたユーリに最初に声をかけたのはジュディスだった
「……ああ、なんとかな」
「次は何が見えたのよ?」
エステルが治癒術をかけていると、レイヴンが問い掛けてくる
「人魔戦争の先頭に立ってた始祖の隷長の記憶を見たって言ってたな」
その答えに、レイヴンは顔を顰めた
彼からすれば思い出したくないからだろう
「悲しかったらしいぜ、その始祖の隷長もな。人に拒まれ裏切られ……信じられなくなったんだと」
「……やっぱりわかり…あえないのでしょうか?」
エステルは首を傾げながら問いかける
その問いに返せる者はいなかった
難しいことは誰もが理解していたからだ
「…いつか、そういう日が来るように、オレらが頑張りゃいいんだろ?」
ゆっくりと立ち上がりながらニヤリとユーリは笑う
「……な?シア」
フレンが抱き抱えているアリシアの頬をそっと撫でながら彼女の名を呼んで微笑む
一瞬、彼女が微笑んだようにユーリとフレンは見えた
「……全く、僕の前でそうゆうことするの、やめてくれないかい?」
「なんだよ、嫉妬か?」
冗談交じりにユーリが笑うと、フレンは怪訝そうに顔を顰めて、彼女を連れて先にバウルの元に戻って行く
そのあとを苦笑いしながらユーリが追いかけた
次に来たのはレレウィーゼだった
ここにはシフルとアルタイルがいる
『お!ユーリさん!待ってたよー!』
《ようやく来ましたね》
二体の声がレレウィーゼに響く
「ユーリ、モテモテなのじゃ!」
「おいおい…冗談よしてくれよ」
ユーリは苦笑いすると、光の玉に向かって歩き始める
「なんか……大分躊躇しなくなったよね……」
ユーリを見つめながらカロルはポツリと呟く
「……アリシアの記憶がかかっているからね。必死なんだよ」
フレンはそう言って、ユーリの後を追いかける
二人は頷き合って合図を送ると手を光の玉に伸ばした
「…………隠れんぼは終わりにしたのか?」
目を開けてすぐに、ユーリはそう言って目の前に見える人影を見つめる
『…………隠れんぼなんて、してないもん』
むっと頬を膨らませてアリシアは振り向きながらそう言う
「ははっ、悪かったよ。…んで、なんでそんな辛気臭い顔してんだよ?」
そう言いながら隣に立つ
崖のかなり下の方で微かに水が流れているのが目に入る
『…………ここ、私たちの故郷だったから……』
「そうなのか?」
『ん……でも、もう村の後とか、見えなくなっちゃった…』
寂しそうに崖の下を覗き込みながら、彼女は静か呟く
『……この下………クロームがいた所よりももっと下の方にあるんだって。……でも、長い年月の間、水に削られて……降りれないんだって』
寂しそうに手を伸ばしながらアリシアは言う
「……そんなに手伸ばしてたら、落ちるぞ?」
そっと後ろから抱きしめながら、ユーリは言う
『…………落ちたら、行けるのかな………私、レグルス様たちが生きた場所を見てみたい……』
伸ばした手を握りしめながら、胸の前にもっていく
本は残っていても、風景は見ることが出来ない
彼女は文字から伝えられることだけでなく、風景も見たかったのだ
「落ちたりしたら死んじまうだろ?…それに、カープノスやアリオトに頼むとか、シフルに手伝ってもらうとか、今なら方法は沢山あるだろ?」
『……………そう、だよね………』
「っつーか、落ちられたらオレが困る。……お前が居なくなるとか、もうゴメンだぜ」
ユーリはぎゅっと抱きしめる腕に力を入れる
離さないように、彼女が落ちてしまわないように
『……ふふ、それもそっか』
クスリと笑うとユーリの手に自身の手を重ねた
『…………ユーリ、帰ったらさ、一緒にここに来てくれる?』
「いいぜ。シアが行きたいところになら、いくらでもついて行ってやるさ」
ニッコリと優しくユーリが微笑むと、アリシアも嬉しそうに微笑んだ
「…………おい……」
目が覚めたユーリは大きくため息をついた
「む?起きたかの?」
真上からパティの声が響く
身体にかかる重みから、上に乗られているのは明白だった
「邪魔だっての……」
「あぅ……」
勢いよく起き上がると、パティがユーリの上から転げ落ちる
「ユーリ、頭痛くないです?」
「ん?…ああ、そういや痛くねぇな」
「シルフにお礼言いなさいよ?あんたが地面に激突する前に支えてくれてたんだから」
リタはそう言いながら傍にいたシルフを見る
《誰も助けてあげようとしないものですから…それに、あなたに万が一のことがあれば、姫が泣きます》
少し顔を逸らしながらシルフは答えた
「それでもサンキュな、シルフ」
ユーリがそう言うと、彼女は姿を消した
「アリシア、さっき少し笑ってたよ」
カロルはどこか嬉しそうにそう言った
「余程いいことでもあったのかしら、ね?」
微笑みながらジュディスはユーリに問いかける
彼は答えようとはせずに肩を竦めて立ち上がった
それを合図にバウルへと戻った
次はついたのはエレアルーミンだった
「相変わらず目がチカチカすんな」
眩しそうに目を細めながら、ユーリは周りを見た
「ユーリ、さっさとやろう」
フレンはスタスタと光の玉の方へ歩いていく
「おりょ…?フレンちゃんの方が張り切ってない??」
「……オレ、後何回連続でぶっ倒れればいいんだよ……」
大きくため息をつきながら、ユーリはフレンの隣に並んだ
「…………あれ、多分休ませる気ないわよね?」
二人から離れた場所でリタが呟く
「みたいね」
「…あたしでも、流石に休ませた方がいいと思ってんだけど…」
ジト目でフレンを見つめながら、リタはため息をついた
「……シア、何してんだよ?」
『…………大分世界も変わったんだなぁって思っちゃって』
アリシアはグシオスが以前いた水面の上に立って遠くを見詰めている
「だな。魔導器はエアルで動かなくなったし、始祖の隷長の数も減った。代わりにマナと精霊が生まれた」
『…………それで、良かったのかなって、未だに思っちゃうんだ………』
力なくそう答えて、アリシアは項垂れた
「少なくとも、やらなきゃ今頃この世界は滅んでた。それに、リタやお前のおかげで精霊たちが手伝ってくれて、マナも使えるようになってきてる。オレは良かったと思ってるぜ?」
そう言いながらユーリはアリシアの元に歩み寄る
『……ユーリやみんながそう思ってくれても……』
「納得してねぇのは確かにいるだろうな。…でもよ、そういう奴らは自分で行動しようとしない奴らだ。そんな奴らにどうこう言われる筋合いねぇだろ?」
アリシアの隣に並ぶと、そっと肩を抱いた
『……ユーリ…』
「人間、生きてりゃなんだって出来るんだぜ?」
な?と言ってユーリは微笑む
『……ん、そうだよね。私たち、なんでもしてきたもんね』
ゆっくりと彼の方を見て微笑み返す
そして、ユーリの肩に頭を乗せる
『……ユーリ』
「ん?」
『目が覚めたら……色んなところに連れて行って欲しいな。私が見てない世界……新しい世界を見たい。ユーリと一緒に』
「そのくらい、いくらでも連れてってやるよお嬢さん」
嬉しそうに微笑んでユーリはそっと手を繋いだ
「……………呑気だな、お前ら………」
起き上がったユーリは仲間たちを見て呆れ気味にため息をついた
「あ、ユーリ!目覚めたんだね!」
ござの上で飲み物を飲みながら、カロルが顔だけを向けた
ユーリが一人アリシアの意識を連れ戻そうとしている間、仲間たちはのんびりくつろいでいたのだ
目が覚めてすぐにそんな光景が見えたら呆れるのが普通だろう
「ったく……次行くだろ?」
「いや…今日はもう休もう」
フレンがそう言うと、ユーリは意外そうに首を傾げた
「精霊たちから、かなり体力使うからもう休ませてあげなさいって怒られたのよね」
ジュディスは少し困ったように微笑みながら、フレンを見た
「オレはまだ平気だぞ?」
「休めって遠回しに言われてんのよ」
リタが呆れたように苦笑いしながら言葉を繋げた
この半年、殆ど動かなかった彼に対する精霊たちなりの配慮なのだろう
「明日すぐ動けるように、今日はフェルティア号で休みましょう?」
エステルがそう言うと全員立ち上がってバウルの元に向かって歩いていく
「ユーリ」
フレンは名前を呼びながらアリシアをチラッと見る
「……サンキュな、フレン」
そう言いながら彼からアリシアを受け取る
最後に抱えた時よりも少し体温が上がったように彼は感じた
「船室で寝かせてあげなよ」
まだ船の中に戻っていなかったカロルがそう声をかける
「おう、そうするわ」
二人を残してユーリは船の中に入って行った
「……少しの間、二人きりにさせてあげようか」
少し嫌そうにしながらもフレンは肩を竦めた
「だね!」
カロルはニコッと笑うと、他のメンバーにそのことを伝えに行った
船室に入ってすぐにベットの上にアリシアを寝かせると、ユーリはそのベットの縁に腰掛けた
そっとベットの上に散らばった髪を掬い上げるとその髪束に唇を落とす
ふんわりと香る甘い匂いに嬉しそうに口角を上げた
「……シア」
小さな声で名前を呼びながら髪束を離して頬に触れる
その目が開かれることはまだない
だが、欠片が一つだけだった時に比べ大分落ち着いたような表情になっていた
「…なぁ、今…どんな夢見てんだ?」
返事が返ってくることはないとわかりながらも、ユーリは問いかける
彼女が今、何を見ているのかが知りたかった
あわよくば、その夢の中に自分が出て来ていることを願っていた
彼女の手に触れた自身の指をそっと絡めて手を繋ぐ
すると、アリシアの指が一瞬動いた
「……………シア………?」
ユーリが首を傾げると、アリシアの手に少し力が入った
同時に薄らと目を開く
ユーリが目を見開いて驚いていると、アリシアはゆっくりと彼の方を見る
「…………ユ………リ…………?」
掠れた声で小さく彼の名を呼ぶ
「っ…!!シア……」
少し泣きそうな目で微笑みながら、彼女を呼ぶと嬉しそうに微笑む
「……わり、起こしちまったか」
コツンと額を合わせるながら問いかけると、小さく首を横に振った
何か言おうと唇を少し動かすが、肝心の声は出てこない
「…まだ寝てろよ。欠片、集まりきってねえんだしさ。……大丈夫、オレは何処にも行かねぇよ」
あやす様に声をかけながらユーリは頭をそっと撫でる
すると、アリシアは空いた手でユーリの服を軽く引っ張る
眠い時に彼女がよくするその癖は抱きしめながら寝てほしい時の合図だった
「ったく…甘えたがりだな」
そう言いながらも嬉しそうに口角を上げて、彼女の隣に寝そべる
嬉しそうにアリシアも笑うとユーリの胸元に抱きついた
「おーお、フレンに見られたらオレ殺されそうだわ」
苦笑いしながら、彼女の背に手を回す
「……………ユ……リ」
「ん?」
「…………すき………」
たった二文字そう言って、満面の笑みでユーリを見上げる
「…知ってるよ。…オレも、アリシアが大好きだ」
優しくそう言うと彼女の額に口付けする
それを聞いたアリシアは嬉しそうに微笑んでゆっくりと目を閉じた
そして規則正しい寝息が聞こえてくる
「…………はは…っ、そうだよな。……シアがオレを忘れるわけ、ねえよな……」
若干自嘲気味に苦笑いする
半年間、ずっとそれを気にして塞ぎ込んでいたことが酷く情けなく感じていた
自分の腕の中で眠っている彼女を愛おしそうに見つめながら頬を撫でる
そうしているうちに徐々に眠くなったユーリは、そのまま眠りについた
「全く………戻って来ないと思ったら………」
大きくため息をつきながら、フレンは二人の幼なじみを見る
完全にアリシアの方から抱きついたのだと、フレンは見ただけでわかった
そっと二人に掛け布団をかけて、ベットの傍にしゃがみこむ
「……一体、いつの間に起きたんだい?」
軽く彼女の頬を撫でながら、少し寂しそうに微笑む
こうして見てしまうとやはり諦めるしかないのだと、彼は痛感する
「…………君が幸せなら、それでいいんだけどね」
彼女の頬から手を離すと、今度はユーリの頭に手を置いた
「……アリシアを泣かせる、なんて、僕が許さないからな?」
フレンはそう言っていたずらっ子のように笑う
そして、静かに船室を後にした