運命
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水道魔導器が壊れた日のように窓の枠に腰掛けながらユーリはノートをじっと見つめていた
あの日と違うのは首にかけられた二つのネックレスと、その窓から見える景色だった
片方はユーリが元々身につけていた赤い飾りのついたネックレス
もう片方はアリシアがずっと身につけていた少し紫ががった飾りのついたネックレス
彼女が元々身につけていたそれは光が当たっているわけでもないのに、時折キラリと光る
光ったことに気がつくとユーリはその飾りを掌の中でコロコロと転がし、時折太陽に向かって掲げる
長い間アリシアを守り続けてきたそれは、あちこちに小さなヒビが入っていた
それでも尚彼女を守るために砕けまいとしているかのようにも見える
何度も光るそれを、どこか愛おしそうに見つめながら飾りをそっと撫でる
「またこっちに居たのかい?」
ギィと音を立てながら扉が開き、聞きなれた幼なじみの声が聞こえてくる
「…今日、シアの誕生日だろ?こっち居たら…戻って来そうな気がしたんだよ」
まだ寂しさの残った声で振り返らずにユーリは言った
「クゥーン……」
未だに元気の出ない飼い主に、扉の近くに座っていたラピードは心配そうに鳴き声をあげる
「全く……ラピードにまで心配かけて……アリシアに怒られるぞ?」
フレンはラピードに寄り添うようにしゃがんでその背をゆっくりと撫でた
「……わかってるさ、あいつなら、落ち込んでねぇでさっさと迎えに来いって言うってさ……けど、心のどっかで思っちまってんだよ。…シアなら、『驚いた?』って言って、ケロッとした顔で抱きしめてくれるんじゃねえかって、さ…」
空に向かってかざしていたネックレスを持った手をゆっくりと下ろしながら彼は空を見つめる
「…………君らしくない、ね。そうしていつまでもメソメソしているなんて」
「………だな………」
「はっきり言えば、気持ち悪いぞ?」
「おいおい……はっきり言い過ぎだろ?」
ようやく幼なじみを見たその顔には、生きる気力をなくしたかのような表情は消え失せていた
いつものように、困ったように苦笑いしながら、ユーリはフレンを見つめる
「……悪かったな。オレまで心配かけてさ」
そう言って笑ったユーリを驚いた顔でフレンは見た
…が、すぐに少し挑発するかのように笑いながら立ち上がった
「全く…本当だよ。いつまでそうして腐ってるつもりなのかと思ったよ」
そう言いながらユーリに近づいて手を差し伸べる
『取れ』と言わんばかりに差し出された手を、彼は取ってようやく立ち上がり、近くの机にノートを置いた
「…サンキュ、フレン」
そう言って、ユーリは壁に立てかけてあった彼女が持っていて欲しいと頼んだ宝剣を手に取る
久しぶりに持ったずっしりとした重みに、少し懐かしそうに微笑んだ
「どういたしまして。…さぁ、行こう。みんな待ってるよ」
そう言って笑うと、部屋の扉を開け切った
その向こうには、見慣れたメンバーが揃っていた
「なんでよりによって全員集合してんだよ……」
全員の顔を見回しながら、ユーリは呆れたようにため息をつく
が、その顔には嬉しさも混じっていた
「あんたがいつまで経っても立ち直んないから、あたしらが立ち直らせてあげようとしに来たのよ」
ふんっ、と鼻を鳴らしながら、リタが答える
「とか言って、リタっちが一番心配してたくせ………ゴハァッ!!!?!!!」
「…うっさいわよ/////」
余計なことを言おうとしたレイヴンに、容赦のない拳が飛んだ
「ふーん……心配、ね」
「あ、あんたが居なくなると、アリシアが、悲しむのよ。あの子のあんな顔……もう二度と見たくないの……それだけ、本当にそれだけなんだから!」
顔を赤く染めながら、リタは投げやりにそう言った
「ユーリ、ぼくらに心配かけた分ちゃんと働いてよ」
「そうなのじゃ!ユーリが心配で、うちは眠れない日が、あったんじゃぞ!」
「そうね。とりあえずみんな以上に働いてもらわないと、ね?」
いつもと同じ笑顔を見せる彼に安堵しながら、三人は少し楽しそうに声をかけた
「みんな、とても心配していたんですよ。もしも、ユーリが後追いなんてしたらどうしようって…」
「あのなぁ……オレだってそこまでしねえっての……相当心配かけちまってたみたいだな……悪かった」
全員の顔を見回しながら、ユーリは謝る
どの顔にも安堵した表情が浮かべられていた
「それで、何から手つけんだ?」
そう聞くと、彼らは困ったように苦笑いしながら顔を見合わせた
わけが分からずにユーリが首を傾げる
「…あんたさえ大丈夫なら、カルボクラムに行く」
リタがそう言うと、彼は一瞬眉を潜めた
その一瞬をフレンは見逃さなかった
「ユーリ、まだ辛ければ別の場所を」
「いや、いい。……行こう」
そう言ってゆっくりと、ユーリは足を進めた
その隣をラピードは並んで寄り添うように歩く
「…ラピード、心配かけて悪かった。…ありがとうな」
「ゥワンッ!」
ユーリがお礼を言うと、ラピードは嬉しそうにひと声鳴いた
「ねえ、教えてあげた方がいいんじゃないの?」
少し遠慮気味に、レイヴンは後ろに居るリタに問いかける
「いいのよ黙ってて。塞ぎ込んでたあいつが悪いんだから」
リタはそう言うとスタスタと歩き始めた
「…おーお、怖い怖い」
身震いしながら、レイヴンもその後に続いた
「………おい、これどうゆうことだよ」
カルボクラムについて早々、不機嫌な声をあげる
それは、レグルスの歪みが消えることなくその場に残っていたからだ
「だから、先に言った方がいいんじゃないって聞いたでしょーよ」
大きくため息をつきながら、レイヴンはリタを見た
「ふん、ずーっと塞ぎ込んで危なっかしい目してたユーリが悪いのよ」
腕を前で組むと明後日の方向を向いた
リタなりの仕返しのつもりだったのだろう
「レグルスの歪み、イフリートとシルフが無理矢理こじ開けてたらここから動かなくなっちゃったんだってよ」
答えないリタの代わりにカロルがそう言った
「アリシアの身体は、だいぶ前に治し終わったみたいなんですけど…ユーリ連れてくるまでは返せないって言われてしまって…」
少し肩を落としながらエステルは寂しそうに言う
「全く、あんたがいつまでも落ち込んでるせいで遅くなったじゃないのよ」
「……悪かったよ……」
『うむ……ようやく来たな』
ユーリが申し訳なさそうに謝っていると、歪みの中から声が聞こえてくる
レグルスの声だ
『青年、お前一人でここまで来い。……ただし、無事に来れる保証はないぞ』
「ありゃ…随分嫌われてるのかねぇ……」
『嫌っているのではない。…死を覚悟してでもこの子を助ける意思のない者には任せられないだけだ』
どこか拗ねているかのように彼は言葉を繋ぐ
「だそうよ?」
クスッとジュディスが妖しく笑いながらユーリを見る
「みたいだな。…そんな覚悟、とっくの昔に出来てるさ」
そう言うと、歪みに向かって足を進める
「ユーリ!ちゃんと帰って来てよ!」
心配そうにカロルは彼の背に声をかける
ユーリはそれに軽く手を振って答え、歪みの中に姿を消した
「………暗いな」
足を前に出しながら、暗闇を進んで行く
いや、前に進んでいるのかさえ、ユーリにはわからない
進んでいるのか、いないのか、あるいは元に戻っているのか…
それすらわからない程の暗闇の中で、ただただ、アリシアの姿を探しながら歩き続ける
首から下がったネックレスは、彼を励ますかのように薄らと光る
それが、この暗闇の中の唯一の明かりだった
『ユーリ!』
不意に何処かからアリシアの声が聞こえる
ユーリは一瞬立ち止まって辺りを見回してみるが、どこにも彼女の姿はない
再び歩きだそうと足を前に踏み出した時、後ろから服を引っ張られる
振り向くとそこには探していたアリシアの姿が見える
「……シア?」
少し目を見開いてユーリは彼女の名を呼ぶ
『…ねぇ、ユーリ。なんでそんなに頑張ろうとするの?』
首を傾げながら彼女は問いかける
『先に進んでも、何も無いかもしれないよ?……ねぇ、私とここに居てよ……もう、一人はやだよ……』
寂しそうな目でユーリを見つめながら、彼女は服を掴む手に力を入れる
…無事に来れる保証はないとはこういうことかと、一人納得する
「……オレ、お前を一人にした覚えはねぇぜ?それに……シアなら、『見つかるまで探して』って絶対に言うはずだ。…言ったろ?何があっても一人にさせねえって。それに、お前だってオレの傍に居てくれてるじゃねぇか」
引き止めた彼女にそう言いながら、ユーリはネックレスを見せつける
ここに居るのは彼女ではない
そんな確信を持っていた
『………あーあ、バレちゃった。……もう少し真っ直ぐ進むといいよ。きっと、『その子』が教えてくれるから』
悪戯っ子のような笑みを浮かべると、ユーリを引き止めた影は消えた
「………はぁ……流石に趣味悪ぃだろ…」
そう言って苦笑いすると、再び前を向いて歩き始める
暗闇の中を迷いもせずにただひたすらに歩き続ける
どれだけ歩いたかもわからないくらいに進んだ先に、小さな光が見えた
普通なら走ってしまいそうだが、ユーリは落ち着いてゆっくり歩く
何かの罠の可能性を否定出来ないからだ
だが、ユーリの勘はいい意味で外れた
『………来たか』
光の元にはレグルスと……彼に抱えられたアリシアがいた
「……!シア……」
ユーリは近くまで来ると、レグルスの事さえ忘れて彼女の前髪をはらう
瞳は閉じられているが、紛れもなくアリシアだった
そっと頬に触れて親指で目元をなぞる
が、息はしていないようで、その肌は冷たかった
『…ユーリ、と言ったな。そのネックレスをアリシアに返せ』
レグルスは少し呆れた目でユーリを見ながら言う
「……やっぱ、あいつらが見つけられなかった最後の欠片は……ずっとオレのとこにいたんだな」
そう言ってネックレスを外しながら、彼はレグルスを見た
『ああ、そうだ。……余程、通じ合っているのだな』
レグルスは少し関心したように頷きながら、ネックレスを返すように促す
ユーリはそっとネックレスをアリシアの首にかける
すると、一瞬ネックレスが強く光る
眩しさにユーリが目をつぶり、再び開いた時には、彼女はゆっくりと息をしていた
そっと彼が再び頬を撫でると、今度はしっかりと体温が伝わってくる
自分よりも低いが、確かな体温が
「……シア…」
少し寂しそうに微笑みながら、ユーリは彼女の名を呼ぶ
『…まだ、目は開かないだろう。残りの欠片を全て集めるまでは…な』
「……そうみたい、だな。…シアは連れて行っていいんだよな?」
『ああ。…だが、集めるのは骨が折れるぞ』
ユーリにアリシアを渡しながらレグルスは忠告する
「どういう意味だ?」
『……バラバラになった欠片には、それぞれ意思がある。それぞれの気持ちを汲んでやらねば戻ることはない』
「なんだ、そんなことか」
しっかりとアリシアを抱き直しながら、ユーリはいつものような不敵な笑みを浮かべる
「……オレがこいつのことでわからねえこと、あるわけないだろ?」
自信に満ちたその瞳に、レグルスは顔を緩めた
『…全く、とんでもない者に好かれ、好いたものだな……。アリシアを、頼む』
「言われなくてもわーってるさ」
ユーリがそう答えたと同時に、レグルスは片手を上げた
二人を光が包み、その光が消えるとそこに二人の姿はなかった
再び広がった暗闇に、レグルスは薄らと笑う
『…さぁ、我が子孫よ。己の運命に抗ってみるといい。お前が愛した者と、共にな』
レグルスのその言葉は誰に聞かれるわけでもなく宙に消えて行った
「うわっ?!…ったく…カープノスと同じ雑さだな……」
出てきて早々、ユーリは歪みを睨みつける
送ってくれたことに感謝はあるものの、もう少し丁重にして欲しいというのが本音だ
「ユーリ!!」
仲間たちの呼ぶ声に振り返れば、待っていましたと言わんばかりに押し寄せてきた
「アリシア、アリシアは!?」
「ちょっ!!待てリタ!!落ち着け!!」
真っ先に飛びついてきたリタに静止をかけながら、ユーリはアリシアを隠すように庇う
「ちょっと!!なんでよ?!」
「お前らが落ち着いてねえからだろ!?シアを殺す気かっ!!」
彼がそう言って睨めば、ようやく大人しくなる
「……ユーリ、アリシアは……」
どこか不安そうな声でフレンが問掛ける
「大丈夫だよ。…ただ、欠片が集まらねぇと起きないとさ」
「むむ……あと一つ見つかっておらんぞ……?」
「それじゃあ……アリシアは一生……」
パティとカロルは今にも泣きそうな表情で俯く
「後十、だとよ」
ユーリがそう言うと二人は不思議そうに首を傾げる
「あら、十一じゃなかったのかしら?」
「一つはもう戻ってるからな」
嬉しそうに笑いながら彼が言うと、ジュディスとレイヴン以外が驚いた顔をしてユーリを見つめる
「ええ!?ど、どこにあったの?!」
「あんなに探して見つかんなかったのに……まさか、あいつが……!?」
次々と問い掛けてくるが、ユーリはそれに答えようとはしなかった
「……ジュディスちゃん、どう思う?」ボソッ
「………あの子だもの、傍に居なかったわけがないわ」ボソッ
「ま、そうよね。…誰よりも青年のこと、大切にしてたしね」ボソッ
「あら、それ以上に彼も彼女を大切にしていたわよ?」ボソッ
ヒソヒソと話し合うと、二人は微笑みながら囲まれて質問攻めにされているユーリを見る
次々ととまることなく続く質問攻めに困ったような……どこか嬉しそうな表情で肩を竦めながら、彼はアリシアをしっかりと抱いていた
「あなたたち、早くアリシアの欠片を集めに行かなくてもいいのかしら?」
ジュディスがそう声をかけると、ユーリに質問攻めするのをやめてどこか慌て気味にフェルティア号……バウルの元へ駆け出す
まるで誰が一番に移動する準備を出来るかを競うかのように
「最後の欠片、やっぱりユーリのとこにあったんだねえ」
レイヴンはユーリの隣に行くと少しおどけた笑みを浮かべる
「……おう」
「ふふ、相思相愛、だもの。アリシアも恋しかったのよ、きっと」
アリシアの顔を優しく微笑みながら見つめて、ジュディスは言う
少しだけ照れ臭そうにユーリは肩を竦めた
「情けねえとこ、見られちまってたわけだけどな」
「あら、今から挽回するのでしょう?」
そう言って、少し身体を屈めながら彼女はユーリを見上げるように見る
「…当たり前、だろ?」
ニヤッと笑うと、彼もフェルティア号の方へ向かって歩き出す
足元には以前ラピードが寄り添っていた
「ラピードも、アリシアちゃんと青年が心配で仕方なかったわけね」
レイヴンは頭の後ろで手を組みながら、ユーリとラピードの背を微笑ましそうに見つめる
「そうね。一番近くで二人を見て来ていたはずだもの。…当たり前よ」
ジュディスもまた、レイヴン同様微笑ましそうに見つめる
顔を見合わせて頷き合うと、二人もフェルティア号へと歩いて行った
あの日と違うのは首にかけられた二つのネックレスと、その窓から見える景色だった
片方はユーリが元々身につけていた赤い飾りのついたネックレス
もう片方はアリシアがずっと身につけていた少し紫ががった飾りのついたネックレス
彼女が元々身につけていたそれは光が当たっているわけでもないのに、時折キラリと光る
光ったことに気がつくとユーリはその飾りを掌の中でコロコロと転がし、時折太陽に向かって掲げる
長い間アリシアを守り続けてきたそれは、あちこちに小さなヒビが入っていた
それでも尚彼女を守るために砕けまいとしているかのようにも見える
何度も光るそれを、どこか愛おしそうに見つめながら飾りをそっと撫でる
「またこっちに居たのかい?」
ギィと音を立てながら扉が開き、聞きなれた幼なじみの声が聞こえてくる
「…今日、シアの誕生日だろ?こっち居たら…戻って来そうな気がしたんだよ」
まだ寂しさの残った声で振り返らずにユーリは言った
「クゥーン……」
未だに元気の出ない飼い主に、扉の近くに座っていたラピードは心配そうに鳴き声をあげる
「全く……ラピードにまで心配かけて……アリシアに怒られるぞ?」
フレンはラピードに寄り添うようにしゃがんでその背をゆっくりと撫でた
「……わかってるさ、あいつなら、落ち込んでねぇでさっさと迎えに来いって言うってさ……けど、心のどっかで思っちまってんだよ。…シアなら、『驚いた?』って言って、ケロッとした顔で抱きしめてくれるんじゃねえかって、さ…」
空に向かってかざしていたネックレスを持った手をゆっくりと下ろしながら彼は空を見つめる
「…………君らしくない、ね。そうしていつまでもメソメソしているなんて」
「………だな………」
「はっきり言えば、気持ち悪いぞ?」
「おいおい……はっきり言い過ぎだろ?」
ようやく幼なじみを見たその顔には、生きる気力をなくしたかのような表情は消え失せていた
いつものように、困ったように苦笑いしながら、ユーリはフレンを見つめる
「……悪かったな。オレまで心配かけてさ」
そう言って笑ったユーリを驚いた顔でフレンは見た
…が、すぐに少し挑発するかのように笑いながら立ち上がった
「全く…本当だよ。いつまでそうして腐ってるつもりなのかと思ったよ」
そう言いながらユーリに近づいて手を差し伸べる
『取れ』と言わんばかりに差し出された手を、彼は取ってようやく立ち上がり、近くの机にノートを置いた
「…サンキュ、フレン」
そう言って、ユーリは壁に立てかけてあった彼女が持っていて欲しいと頼んだ宝剣を手に取る
久しぶりに持ったずっしりとした重みに、少し懐かしそうに微笑んだ
「どういたしまして。…さぁ、行こう。みんな待ってるよ」
そう言って笑うと、部屋の扉を開け切った
その向こうには、見慣れたメンバーが揃っていた
「なんでよりによって全員集合してんだよ……」
全員の顔を見回しながら、ユーリは呆れたようにため息をつく
が、その顔には嬉しさも混じっていた
「あんたがいつまで経っても立ち直んないから、あたしらが立ち直らせてあげようとしに来たのよ」
ふんっ、と鼻を鳴らしながら、リタが答える
「とか言って、リタっちが一番心配してたくせ………ゴハァッ!!!?!!!」
「…うっさいわよ/////」
余計なことを言おうとしたレイヴンに、容赦のない拳が飛んだ
「ふーん……心配、ね」
「あ、あんたが居なくなると、アリシアが、悲しむのよ。あの子のあんな顔……もう二度と見たくないの……それだけ、本当にそれだけなんだから!」
顔を赤く染めながら、リタは投げやりにそう言った
「ユーリ、ぼくらに心配かけた分ちゃんと働いてよ」
「そうなのじゃ!ユーリが心配で、うちは眠れない日が、あったんじゃぞ!」
「そうね。とりあえずみんな以上に働いてもらわないと、ね?」
いつもと同じ笑顔を見せる彼に安堵しながら、三人は少し楽しそうに声をかけた
「みんな、とても心配していたんですよ。もしも、ユーリが後追いなんてしたらどうしようって…」
「あのなぁ……オレだってそこまでしねえっての……相当心配かけちまってたみたいだな……悪かった」
全員の顔を見回しながら、ユーリは謝る
どの顔にも安堵した表情が浮かべられていた
「それで、何から手つけんだ?」
そう聞くと、彼らは困ったように苦笑いしながら顔を見合わせた
わけが分からずにユーリが首を傾げる
「…あんたさえ大丈夫なら、カルボクラムに行く」
リタがそう言うと、彼は一瞬眉を潜めた
その一瞬をフレンは見逃さなかった
「ユーリ、まだ辛ければ別の場所を」
「いや、いい。……行こう」
そう言ってゆっくりと、ユーリは足を進めた
その隣をラピードは並んで寄り添うように歩く
「…ラピード、心配かけて悪かった。…ありがとうな」
「ゥワンッ!」
ユーリがお礼を言うと、ラピードは嬉しそうにひと声鳴いた
「ねえ、教えてあげた方がいいんじゃないの?」
少し遠慮気味に、レイヴンは後ろに居るリタに問いかける
「いいのよ黙ってて。塞ぎ込んでたあいつが悪いんだから」
リタはそう言うとスタスタと歩き始めた
「…おーお、怖い怖い」
身震いしながら、レイヴンもその後に続いた
「………おい、これどうゆうことだよ」
カルボクラムについて早々、不機嫌な声をあげる
それは、レグルスの歪みが消えることなくその場に残っていたからだ
「だから、先に言った方がいいんじゃないって聞いたでしょーよ」
大きくため息をつきながら、レイヴンはリタを見た
「ふん、ずーっと塞ぎ込んで危なっかしい目してたユーリが悪いのよ」
腕を前で組むと明後日の方向を向いた
リタなりの仕返しのつもりだったのだろう
「レグルスの歪み、イフリートとシルフが無理矢理こじ開けてたらここから動かなくなっちゃったんだってよ」
答えないリタの代わりにカロルがそう言った
「アリシアの身体は、だいぶ前に治し終わったみたいなんですけど…ユーリ連れてくるまでは返せないって言われてしまって…」
少し肩を落としながらエステルは寂しそうに言う
「全く、あんたがいつまでも落ち込んでるせいで遅くなったじゃないのよ」
「……悪かったよ……」
『うむ……ようやく来たな』
ユーリが申し訳なさそうに謝っていると、歪みの中から声が聞こえてくる
レグルスの声だ
『青年、お前一人でここまで来い。……ただし、無事に来れる保証はないぞ』
「ありゃ…随分嫌われてるのかねぇ……」
『嫌っているのではない。…死を覚悟してでもこの子を助ける意思のない者には任せられないだけだ』
どこか拗ねているかのように彼は言葉を繋ぐ
「だそうよ?」
クスッとジュディスが妖しく笑いながらユーリを見る
「みたいだな。…そんな覚悟、とっくの昔に出来てるさ」
そう言うと、歪みに向かって足を進める
「ユーリ!ちゃんと帰って来てよ!」
心配そうにカロルは彼の背に声をかける
ユーリはそれに軽く手を振って答え、歪みの中に姿を消した
「………暗いな」
足を前に出しながら、暗闇を進んで行く
いや、前に進んでいるのかさえ、ユーリにはわからない
進んでいるのか、いないのか、あるいは元に戻っているのか…
それすらわからない程の暗闇の中で、ただただ、アリシアの姿を探しながら歩き続ける
首から下がったネックレスは、彼を励ますかのように薄らと光る
それが、この暗闇の中の唯一の明かりだった
『ユーリ!』
不意に何処かからアリシアの声が聞こえる
ユーリは一瞬立ち止まって辺りを見回してみるが、どこにも彼女の姿はない
再び歩きだそうと足を前に踏み出した時、後ろから服を引っ張られる
振り向くとそこには探していたアリシアの姿が見える
「……シア?」
少し目を見開いてユーリは彼女の名を呼ぶ
『…ねぇ、ユーリ。なんでそんなに頑張ろうとするの?』
首を傾げながら彼女は問いかける
『先に進んでも、何も無いかもしれないよ?……ねぇ、私とここに居てよ……もう、一人はやだよ……』
寂しそうな目でユーリを見つめながら、彼女は服を掴む手に力を入れる
…無事に来れる保証はないとはこういうことかと、一人納得する
「……オレ、お前を一人にした覚えはねぇぜ?それに……シアなら、『見つかるまで探して』って絶対に言うはずだ。…言ったろ?何があっても一人にさせねえって。それに、お前だってオレの傍に居てくれてるじゃねぇか」
引き止めた彼女にそう言いながら、ユーリはネックレスを見せつける
ここに居るのは彼女ではない
そんな確信を持っていた
『………あーあ、バレちゃった。……もう少し真っ直ぐ進むといいよ。きっと、『その子』が教えてくれるから』
悪戯っ子のような笑みを浮かべると、ユーリを引き止めた影は消えた
「………はぁ……流石に趣味悪ぃだろ…」
そう言って苦笑いすると、再び前を向いて歩き始める
暗闇の中を迷いもせずにただひたすらに歩き続ける
どれだけ歩いたかもわからないくらいに進んだ先に、小さな光が見えた
普通なら走ってしまいそうだが、ユーリは落ち着いてゆっくり歩く
何かの罠の可能性を否定出来ないからだ
だが、ユーリの勘はいい意味で外れた
『………来たか』
光の元にはレグルスと……彼に抱えられたアリシアがいた
「……!シア……」
ユーリは近くまで来ると、レグルスの事さえ忘れて彼女の前髪をはらう
瞳は閉じられているが、紛れもなくアリシアだった
そっと頬に触れて親指で目元をなぞる
が、息はしていないようで、その肌は冷たかった
『…ユーリ、と言ったな。そのネックレスをアリシアに返せ』
レグルスは少し呆れた目でユーリを見ながら言う
「……やっぱ、あいつらが見つけられなかった最後の欠片は……ずっとオレのとこにいたんだな」
そう言ってネックレスを外しながら、彼はレグルスを見た
『ああ、そうだ。……余程、通じ合っているのだな』
レグルスは少し関心したように頷きながら、ネックレスを返すように促す
ユーリはそっとネックレスをアリシアの首にかける
すると、一瞬ネックレスが強く光る
眩しさにユーリが目をつぶり、再び開いた時には、彼女はゆっくりと息をしていた
そっと彼が再び頬を撫でると、今度はしっかりと体温が伝わってくる
自分よりも低いが、確かな体温が
「……シア…」
少し寂しそうに微笑みながら、ユーリは彼女の名を呼ぶ
『…まだ、目は開かないだろう。残りの欠片を全て集めるまでは…な』
「……そうみたい、だな。…シアは連れて行っていいんだよな?」
『ああ。…だが、集めるのは骨が折れるぞ』
ユーリにアリシアを渡しながらレグルスは忠告する
「どういう意味だ?」
『……バラバラになった欠片には、それぞれ意思がある。それぞれの気持ちを汲んでやらねば戻ることはない』
「なんだ、そんなことか」
しっかりとアリシアを抱き直しながら、ユーリはいつものような不敵な笑みを浮かべる
「……オレがこいつのことでわからねえこと、あるわけないだろ?」
自信に満ちたその瞳に、レグルスは顔を緩めた
『…全く、とんでもない者に好かれ、好いたものだな……。アリシアを、頼む』
「言われなくてもわーってるさ」
ユーリがそう答えたと同時に、レグルスは片手を上げた
二人を光が包み、その光が消えるとそこに二人の姿はなかった
再び広がった暗闇に、レグルスは薄らと笑う
『…さぁ、我が子孫よ。己の運命に抗ってみるといい。お前が愛した者と、共にな』
レグルスのその言葉は誰に聞かれるわけでもなく宙に消えて行った
「うわっ?!…ったく…カープノスと同じ雑さだな……」
出てきて早々、ユーリは歪みを睨みつける
送ってくれたことに感謝はあるものの、もう少し丁重にして欲しいというのが本音だ
「ユーリ!!」
仲間たちの呼ぶ声に振り返れば、待っていましたと言わんばかりに押し寄せてきた
「アリシア、アリシアは!?」
「ちょっ!!待てリタ!!落ち着け!!」
真っ先に飛びついてきたリタに静止をかけながら、ユーリはアリシアを隠すように庇う
「ちょっと!!なんでよ?!」
「お前らが落ち着いてねえからだろ!?シアを殺す気かっ!!」
彼がそう言って睨めば、ようやく大人しくなる
「……ユーリ、アリシアは……」
どこか不安そうな声でフレンが問掛ける
「大丈夫だよ。…ただ、欠片が集まらねぇと起きないとさ」
「むむ……あと一つ見つかっておらんぞ……?」
「それじゃあ……アリシアは一生……」
パティとカロルは今にも泣きそうな表情で俯く
「後十、だとよ」
ユーリがそう言うと二人は不思議そうに首を傾げる
「あら、十一じゃなかったのかしら?」
「一つはもう戻ってるからな」
嬉しそうに笑いながら彼が言うと、ジュディスとレイヴン以外が驚いた顔をしてユーリを見つめる
「ええ!?ど、どこにあったの?!」
「あんなに探して見つかんなかったのに……まさか、あいつが……!?」
次々と問い掛けてくるが、ユーリはそれに答えようとはしなかった
「……ジュディスちゃん、どう思う?」ボソッ
「………あの子だもの、傍に居なかったわけがないわ」ボソッ
「ま、そうよね。…誰よりも青年のこと、大切にしてたしね」ボソッ
「あら、それ以上に彼も彼女を大切にしていたわよ?」ボソッ
ヒソヒソと話し合うと、二人は微笑みながら囲まれて質問攻めにされているユーリを見る
次々ととまることなく続く質問攻めに困ったような……どこか嬉しそうな表情で肩を竦めながら、彼はアリシアをしっかりと抱いていた
「あなたたち、早くアリシアの欠片を集めに行かなくてもいいのかしら?」
ジュディスがそう声をかけると、ユーリに質問攻めするのをやめてどこか慌て気味にフェルティア号……バウルの元へ駆け出す
まるで誰が一番に移動する準備を出来るかを競うかのように
「最後の欠片、やっぱりユーリのとこにあったんだねえ」
レイヴンはユーリの隣に行くと少しおどけた笑みを浮かべる
「……おう」
「ふふ、相思相愛、だもの。アリシアも恋しかったのよ、きっと」
アリシアの顔を優しく微笑みながら見つめて、ジュディスは言う
少しだけ照れ臭そうにユーリは肩を竦めた
「情けねえとこ、見られちまってたわけだけどな」
「あら、今から挽回するのでしょう?」
そう言って、少し身体を屈めながら彼女はユーリを見上げるように見る
「…当たり前、だろ?」
ニヤッと笑うと、彼もフェルティア号の方へ向かって歩き出す
足元には以前ラピードが寄り添っていた
「ラピードも、アリシアちゃんと青年が心配で仕方なかったわけね」
レイヴンは頭の後ろで手を組みながら、ユーリとラピードの背を微笑ましそうに見つめる
「そうね。一番近くで二人を見て来ていたはずだもの。…当たり前よ」
ジュディスもまた、レイヴン同様微笑ましそうに見つめる
顔を見合わせて頷き合うと、二人もフェルティア号へと歩いて行った