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些細な喧嘩
「ユーリの馬鹿っ!もう知らないっ!」
半分涙声になりながら、アリシアはユーリに向かって怒鳴りだす
「はっ!そーかよ、勝手にしやがれ!」
対するユーリも彼女に向かって怒鳴り声をあげた
「……何喧嘩してんの?あの2人」
「さぁ……」
旅の途中、野営の準備をしている最中に唐突に2人の怒鳴り声が辺りに響いた
夕飯やらテントやらを準備し終えていたメンバー達は何事かと声の主達…ユーリとアリシアの方を見た
「ま、まぁまぁお2人さん、そうかっかせずに夕飯でも食べて落ち着かんかい?」
レイヴンは遠慮気味に2人に声をかける
「……私いらない。ちょっとその辺適当に散歩してくる」
そう言ってアリシアは1人何処かへと行ってしまった
元々自由奔放な彼女だが、夕飯の時に席を外すなんて珍しかった
「あ、あの…ユーリ?いいんです?」
「知るか。ほっとけよ」
ユーリは知ったこっちゃないという素振りで、用意されていた夕飯を1人勝手に食べ始めた
彼も彼で自由奔放だが、ここまで勝手な行動をするのは珍しかった
「…ほっとけって言った割には、随分アリシアが行った方向が気になるようだね?」
ユーリの隣に座りながら、フレンは彼の視線を辿った
フレンにそう言われピクッと手の動きが止まるが、うるせぇよとだけ言うと再び何事もなかったかのように食べ始める
他のメンバー達も諦めて夕飯を食べ始めるが、みんなやはりユーリと彼女の喧嘩の原因が気になるらしい
それもそうだ
2人は付き合い始めてからだけでなく、初めて会った時から喧嘩なんて1度もしたところを見たことなんてなかった
だから余計に気になるのだ
まぁ今はそれよりも、とんでもなくイラついているのがわかるこの状況がとても落ち着かないのだが…
「…ねぇ、大将?イライラしてるのはわかるけど、そのイライラの矛先をおっさん達に向けるのはやめてくんない?」
食べ始めてから少しして、ついに痺れを切らしたレイヴンが食べる手を止めてユーリを見詰める
「そうじゃのう、理由もわからんのにそんなにイライラされてもどうしようもないのじゃ」
若干ムスッとしながらパティもユーリを見詰める
「2人の言う通りよ。私達に八つ当たりされても困るわ」
レイヴンが言ったのをきっかけに次々と仲間の口から文句が出てくる
食事中にそんなにイライラされていたら、他のメンバーはたまったもんじゃないだろう
文句を言われても当然だ
「……関係ねーだろ」
ボソリとユーリが呟くとカロルが珍しく反論し出す
「関係なくないよ!ユーリもアリシアも凛々の明星の一員だよ!その2人が喧嘩してるのに関係ないわけないじゃんか!」
「そうです!カロルの言う通りです!」
流石のユーリもカロルとエステルに反論されたのは堪えたのか、はぁ…とため息をついて頭を抱えた
「それで?どうしてまたあんな言い合いするような喧嘩したんだい?」
いつものトーンでフレンは聞くが目が笑っていない
等々観念したようでユーリは渋々口を開いた
「…いや…その……まぁ……あー……なんつーか……」
いつものユーリらしくなくとんでもなく端切れが悪い
頭を掻きながらどう説明しようかと言葉を選んでいるようだ
「何よ?はっきり言わなきゃわかんないわよ!」
半分キレ気味にリタが問いただし始めたが、当の本人はまだどう説明しようかと悩んでいる
「…まさかとは思うけれど、さっきの戦闘のことで喧嘩したんじゃないだろうね?」
フレンがそう言うとわかりやすくピシッとユーリが固まった
そのわかりやす過ぎる反応にメンバー達はほぼ同時にため息をつく
「なによ、文句言って怒らせちゃったわけ?バッカじゃないの」
呆れたようにユーリをジト目で睨みながらリタは言う
「大将…ちょっとは大人になんなさいよ…」
困ったように苦い顔をしながらレイヴンも言う
「確かに危なかったけれど、あれはあの子のせいではないわよ?」
少し怒ったような声でジュディスはユーリを見る
「そうだよ、アリシアのおかげで倒せたのに」
ジュディスに捕捉するようにカロルは頷いた
「そうじゃの、シア姐が目の前の敵を瀕死まで追い込んでくれたからこその勝利じゃったの」
そして、それを更にカバーするようにパティが頷く
「えっと…言っちゃダメかもしれないですけど…あれはユーリの不注意では……」
遠慮気味にエステルが呟く
「あの……エステリーゼ様…それにみんなも…それ以上言わないであげてくれ」
相当心にきたのか肝心のユーリ本人はその場にうずくまってしまっていた
それもそうだ、あれは完全にユーリの油断が招いた出来事だった
~数時間前~
ギガントモンスターを倒す為に、一行はエゴゾーの森に来ていた
森の中をしばらく歩いていると、探していたギガントモンスターが現れた
予想よりも遥かに大きく、少しためらった一行だが、出会ってしまったからには戦わないわけにいかないだろう
普段と同じようにユーリとフレン、ジュディス、そしてアリシアが前衛に出る
中々硬いうえに他の魔物を次々に呼び寄せてくるから非常に厄介だ
倒しても倒しても一向に減らないうえに、ギガントモンスターの体力も中々減らない
こちらの体力が減っていくだけだ
「っだぁぁ!もう!どんだけでてくんのよ!!」
詠唱しながらリタが悪態づく
「はぁ…はぁ…ちょっと…きついです…」
その隣でエステルは肩で息をしながら辺りを見回す
「出てくる魔物はたいして強くないけど……きりがないよ…」
ギガントモンスターの呼び出した魔物を倒しながら、カロルはつらそうに顔を歪める
「ちょっとこれ…ピンチじゃない…?」
更に集まってくる魔物に、レイヴンは苦笑いする
「流石に予想外だわ……」
ギガントモンスターから目を離すこと無く、ジュディスは呟く
「これは……逃げるっていうことを考えた方がいいかも…しれないね……」
息を切らせながら、フレンは隣にいるユーリをチラッと見た
「この状況で、逃げられるかよ?」
ユーリもフレンに相槌を打ちながらチラッと見る
あまりにも敵の数が多すぎて、もうみんなヘトヘトになっていた
「こう……なったら!」
アリシアはそう呟くと、ギガントモンスター達から距離をとり詠唱を始めた
「宙に放浪せし無数の粉塵、驟雨となり大地を礼賛す……!メテオスウォーム!!!!」
詠唱が終わると同時に敵の頭上に大量の隕石が降り注ぐ
邪魔な魔物達は殆ど片付き、ギガントモンスターの体力もだいぶ減らすことが出来た
「っしゃ!今だっ! 天狼滅牙!」
ニッと口元を緩めながらユーリは技を繰り出す
それに続くように他のメンバー達も、ギガントモンスター目掛けて攻撃し始める
「聖なる槍よ、貫け、ホーリィランス!」
「烈震ドロップ!」
「ワオーーーーン!」
「ついでに出てこいっ!フレイムドラゴンっ!」
「黒の追跡!」
「ブラッディローズ!」
「光翔戦滅陣!!」
「ウェルカムディッシュ!!」
『グォォォォォ…………』
バタッ……
アリシアが活路を開いたおかげでなんとかギガントモンスターを倒すことが出来た
「ふぅ……危なかったな……シアのおかげで助かったわ…サンキュな」
クルッとアリシアの方を振り向きながら、ニコッと彼女に向けて笑顔を見せる
当の本人は照れくさそうに頬を赤らめながら首を竦めた
「別にそんな…お礼言われる程のことじゃ…………っ!?ユーリ!危ない!!」
突然、アリシアが悲鳴に近い声でユーリの名を呼びながら、彼の方へと走り出す
「は…?っ!!?!」
何事かとユーリが後ろを振り向ききる前に、アリシアはユーリを自身の後ろへと突き飛ばす
『ギャオォォォ』
ガキィンッ
「かはっ……!?」
「っ!シア!!」
大仕事が終わってみんな油断仕切っていた
先ほどギガントモンスターが呼び出した魔物の残党がまだ茂みに隠れていたらしく、ユーリ目掛けて茂みから飛び出してきた
間一髪、アリシアが間に割って入りなんとかユーリは攻撃を免れたが、アリシアはまともにくらってしまった
「こいつ…!アリシアになんてことすんのよ!吹っ飛べっ!!!」
すかさずリタは彼女を襲った魔物目掛けてファイヤーボールをあてる
「ユーリっ!ここは危険だ!アリシアを連れて安全な場所まで避難しよう!」
「わーってるよ…!」
ユーリはそう言って気絶したアリシアを背負ってみんなと共にその場を離れた
かなり離れた魔物のそこまで多くない地点につくと、ここで野営することに決め、各自準備を進めた
アリシアの怪我はそこまで酷くなく、エステルが治癒術をかけてからしばらくして目を覚ました
目を覚ましてすぐに彼女はみんなに謝ったが、ユーリを除いた他のメンバーは皆気にしてなどいなく、無事でよかったと声をかけた
それからは彼女も野営の準備を手伝うと言っていたが、大事をとってユーリを見張りにつけて、しばらく休ませていたのだった
そして、今に至る
この状況からユーリが何を言ったかは大体みんな想像がついていた
「で、なーに言ったわけよ?」
レイヴンは問い詰めるような口調でじっとユーリを見詰める
「……なんでヘロヘロの癖にオレを庇うようなことしたんだよって…」
いつもの気迫はなく項垂れてユーリは答える
「アリシアのことだから、『だってユーリが…』って言い出したんだね?」
フレンがそう聞くと、力なくユーリは頷いた
「…おぅ…だから、オレの心配よりも自分の体の心配しろよって…」
ユーリがそう言うと、呆れたようにため息をつきながらカロルが口を開く
「それで喧嘩になったんだね?」
再び力なくユーリは頷く
彼の言い分が分からないわけではないが、もう少し彼女の気持ちも考えたらどうなのかと一同は呆れてしまう
「本当、あんたも馬鹿ね。あの子がどんだけあんたを大切に思ってるかわかってるの?」
リタは未だにユーリを睨んだままそう聞く
「…これでもわかってるつもりではいるんだけど…な?なんつーか……シアだって疲労困憊だったわけだし……」
ガシガシと頭を掻きながらユーリは答える
「あなたの言い分は充分理解できるけれど、もっと他に言い方があったんじゃないかしら?」
ジュディスは咎めるように言う
「……ごもっともです……」
相当反省したのか、普段絶対に使わない敬語まで使い始めた
「それじゃあ、ユーリが今することは一つだけですね?」
ニコッと意地悪そうな笑顔を見せながら、エステルはそう言う
「………シア探しに行ってくるわ……」
彼女に促されるように立ち上がって、ユーリはアリシアが向かった方向へ足を踏み出す
「ちゃんと仲直りしてくるんだよ」
「わーってるよ…」
フレンにそう答えると、少し駆け足で彼女を探しにへと向かった
~一方、その頃~
「はぁ………ちょっと言い過ぎちゃったかなぁ………」
アリシアは1人、エゴゾーの森近くの浜辺に座ってため息をついていた
ユーリに散々文句を言われ、彼女も腹が立って思わず言い返してしまったわけだが…
彼が怒っていた理由がわからない程、彼女は子供ではない
だが、どうしても素直にごめんと言い出せなかった
元はと言えば彼が油断してしまったのも原因の一つなのだから
それでもそう言えないのは、あの状況なら誰だって終わりだと思うのが普通だと思ったから
実際ユーリだけでなく、他のメンバーも油断していたし、アリシア自身も、彼の背後にいた魔物を見つけるまで油断仕切っていた
だから彼が悪いとは言いきれないし、責めることも出来ないのだ
「はぁ…………」
何度目かわからないため息をつく
「……どーしよ……」
謝らなければ……、そう思いつつも中々足は動こうとしてくれない
アリシアから行かなければ…恐らく彼は来ないだろうと、彼女は思っているのだ
だが、一向に足は動いてくれない
まるでその場に根が生えてしまったかのように動きそうになかった
そのまま、彼女は膝を抱えてうずくまる
アリシアにも非があったのは事実だ
第一ユーリは気絶してしまったアリシアを背負って逃げた後、目が覚めてもずっと傍に居てくれていたのだ
そんな彼に腹が立ったからといって、『大嫌い』は言い過ぎだったかもしれない、と思っていたのだ
「はぁ………さっきので嫌われたらどーしよ…」
そう呟いたのとほぼ同時に彼女の頬を涙が伝う
もし……嫌われてしまったとしたら……
そう考えただけで、彼女は身震いした
ユーリに嫌われるなど彼女には冗談抜きで耐えられない
それこそ一生家に引きこもるレベルだろう
彼女が1人、そんなことを考えていると不意に後ろから物音が聞こえた
魔物でも出てきたのかと慌てて顔をあげようとした
…が、聞こえたのは彼女にとって、とても聞き慣れた声であった
なぜかまだ離れてからそう経っていないというのにやけに懐かしい感じが彼女はした
「誰が誰に嫌われるって?」
頬につたった涙を拭いてからゆっくり振り返る
そこには、先ほど喧嘩してしまったユーリが困ったような顔をしてそこにいた
「ゆ…ユーリ……」
エゴゾーの森の近くの海辺にアリシアが座っているのをみつけたユーリ
先ほどまで泣いていたようで目が赤くなっている
気まづそうに、彼は頭を掻く
(完全に言い過ぎたな……)
心の中でそう思いながら、少し顔を逸らし気味に彼女に話しかける
「あー…いや、なんつーか……悪かった、少し言い過ぎたな…お前はオレを助けようとしてくれただけだったのにな…ホントごめん」
それを聞いてアリシアはキョトーンとした顔をして固まっている
そんなに素直に謝られるのが珍しかったのか、あるいは謝られるとは思っていなかったのだろう
少ししてから、ハッとしてアリシアが口を開く
「わ…私の方こそ…ごめんね…ユーリが文句言った理由だってわかってたけどつい言い返しちゃって……」
ユーリは彼女の横に座り、彼女の手を引いて自分の腕の中に引き寄せる
一瞬何が起こったのかと戸惑っていたアリシアだが、すぐに状況を把握したようで少し顔を赤らめる
「いいっての、ありゃ完全にオレが悪かったんだからな。シアのせいじゃねぇよ
……助けてくれてサンキュな」
アリシアの頭を撫でながらそう言うと余程嬉しかったのか、彼女はいつの間にか笑顔になっていた
「私の方こそ…背負って逃げてくれたんでしょ?ありがとう、ユーリ」
ユーリに抱きつきながら、アリシアはそう言う
そんな彼女がやけに可愛くて、ユーリは抱き締める腕にいつもよりも少し力が入っていた
「んで?さっき誰が誰に嫌われるって泣いていたんだよ」
「うっ………そ、それは………」
俯いて言いずらそうに口をもごもごさるアリシアの顎をクイッとあげさせて、ユーリは無理やり目線を合わさせる
「っ~~~~///////」
「答えてみ?」
そう耳元で呟くと少し恥ずかしそうに小声で答えた
「……ユーリと言い合いした時に、思わず大嫌いって言っちゃったから……」
消えそうなほど小声で言った
相当気にしていたのだろう
ユーリはクスッと笑ってアリシアの頭をまた撫で始める
「ったく、そんなこと気にしてたのかよ。オレもあん時頭に血のぼってたし、おあいこ様ってことで気にしてねーよ」
「…本当…?」
アリシアは不安そうな顔をしてユーリを見つめる
「本当だっての、気にしてたらこんなふうに抱き締めてなんてねーよ」
彼がそう言えば安心したようで、パッと笑顔になる
「よかった!」
そしてユーリの胸元にまた抱きつく
彼女の体温やら素肌やらが直接伝わってくるからか、ユーリは気が気でいられない
(一応オレも健全な男であって、襲わないという保証はないのだが…)
などと心の中で思う
が、今抱きついている彼女はそんなこと微塵も気にしていないのだろう
ユーリほなんとか平常心を保ってアリシアに話しかける
「さてと、そろそろ戻りませんかね?おじょーさん?夕飯食べずに行っちまったし腹減ってるだろ?」
「あはは……バレた?」
「あんだけ動いた後で腹減ってねーって方が不思議だよ」
「あ、それもそっか」
パッとユーリから離れてアリシアは立ち上がる
それにならって彼も立ち上がるが、彼女は少し、ユーリから距離をとって背を向けたまま、あのね、と声をかけてくる
「もう一度言っておくけど大嫌いは嘘だからね?本当はユーリが大好き!」
クルッと振り返って満面の笑みで彼女はそう言った
その瞬間、ユーリの中の理性というものが音を立てて崩れたわけで……
一気にアリシアとの距離を縮めて、腕を捕まえて唇を重ねる
軽く触れてすぐに離れるがすぐにまた、今度は深く重ねる
しばらくそのまま何度か繰り返していたが、アリシアの方が息苦しくなってきたようでトントンと胸元を軽く叩いてきた
名残惜しそうに、ユーリは離れる
「ふぁ……ユーリぃぃ……いきなりは反則/////」
彼女は少し涙目になりながら上目遣いでそう言う
「はっ……お前のその顔も反則だっての」
「もう…///ほら、戻るなら戻ろうよ///」
アリシアはそう言ってユーリの手を引いて歩き出す
恥ずかしいようだが意地でも手を離したくないらしく、少し手に力が入っていた
「なぁシアー?」
「ん…?なぁに?」
「…愛してる」
「っ~~~//////」
ユーリが耳元でそう呟くと、アリシアは耳まで真っ赤にさせる
(本当、可愛すぎるわ)
(うるっさい…////それよりも、なんで謝りに来たの?)
(…聞くな、それは)
(ふーん……いーや!フレンに聞こう!)
(ばっ!おい!シア!待てって!マジで聞くな!)
~あとがき~
いかがだったでしょうか?
この後の展開は……
まぁなんとなく予想はつくでしょう(笑)
聞かずとも彼らはペラペラと話しちゃいますよね(笑)
レイヴンとかジュディスは特に(笑)
当分このことでユーリは弄られたとか弄られてないとか……(笑)
心配しすぎて喧嘩しちゃった2人を書きたかっただけです、はい←
ではではまた他のお話で会いましょう
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