第5部〜箱庭の世界〜
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『兄』と『妹』
ーーザウデ不落宮・最深部ーー
地面に足を付いて、また指を弾く
中央に開いた穴の中に、迷わず飛び込んだ
飛び込んだ先は、あの時と同じ、青い空間
早く会いたくて、その中を、真っ直ぐに走って行く
少し走っていると、見慣れた赤い隊服と、銀色の髪が見えてきた
「アレ兄…っ!!」
声をかければ、私の方を向いて腕を広げてくれる
昔から変わらない仕草が嬉しくて、そのまま腕に飛び込んだ
『全く……そんなに走っては危ないぞ?』
私を抱きしめながら、二年前までとは少し違う……昔と同じ、優しい声でアレ兄はそう言ってくる
『お兄様』から『アレ兄』呼びに戻ったのは、ここに来てすぐだった
……こっちの呼び方の方がやっぱり落ち着く
「だって……来るの遅くなっちゃったから……」
顔を上げると、困ったように優しく微笑みながら、アレ兄が見下ろして来ていた
『ははっ、怒ったりせんよ。呼び出されていたのだろう?』
「あれ?知ってたの?」
『カープノス……と言ったか?あやつが知らせてくれてな』
「カープノス……それならそうと私に言っておいてよ……」
少しムッとしていると、アレ兄が優しく頭を撫でてくる
ユーリとはまた少し違う手の感触に目を細めた
『お前は相変わらず、撫でられるのが好きだな?』
「アレ兄も、それ毎回聞いてくるよね?」
『お前の反応見てると、どうしても聞きたくなるのだよ』
笑いながらアレ兄はまだ頭を撫でてくる
アレ兄だって、撫でるの好きなくせに
「いいじゃん、別にー!撫でられてると落ち着くんだもん」
『ははっ、最近のアリシアは、本当に子どものようだな?』
「うー……それ、さっきもユーリに言われたんだよなぁ……そんなに子どもっぽい?」
似たようなセリフに少しムッとして、声のトーンが落ちた
そんなつもりは全くないのに……
『いいではないか。……お前は少し、大人になるのが早かったのだから、しばらく子どもに戻ったとて、誰も文句など言わぬさ』
ほんの少しだけ、寂しそうな声でアレ兄が言ってくる
「……けど、ユーリ酷いんだよ?みんなの前でそれ言うんだもん……ちょっと恥ずかしいからやめて欲しかった」
ちょっと声のトーンを上げてそう言った
……危ない、『また』失言しかけてた……
『ユーリ君の事だ。自慢したかっただけであろう?そんなアリシアを知っているのは自分だけなのだと』
クスクスと笑いながら、アレ兄は言ってくる
「……なんでわかったの?」
『私でもそうするだろうからな?子どものようにはしゃぐお前ほど可愛い者はおらん』
かなり真剣な顔で言われてしまって、呆けてしまった
あまりにも冷たい時期が長くて忘れていたけど……
アレ兄も、ユーリやお父様と同じでそう言う人だった
『まぁ……だとしても、お前が嫌がっていれば話している途中でも、私ならやめるがな?』
ほんの少し首を傾げながら、そう言ってくる
……嫌がってもやめてくれなかった事の話は、しないでおこう
それは、アレ兄が一番、気にしていることだから……
「嫌……って程じゃないけど……せめて、私が居ないところでして欲しいなーって。聞いてるの、恥ずかしいんだもん」
『そんな反応も見たかったのではないか?お前は何をしていても可愛らしいからな』
平気で可愛いを連呼してくるアレ兄に、ちょっと呆れてしまう
毎回毎回、そんなに言わなくても……ちゃんと、そう思ってくれてるって伝わってるのに
「それにしても、やだなぁ……折角、やりたかった事とかぜーんぶ終わって、のんびりしてたのに……また厄介事だよ……」
話題を変えたくて、小さくため息をつきながらアレ兄に寄りかかった
『それは……また面倒だな』
「しかも、用事があるのはここの下なんだよ?この下、私嫌いなのに……」
ほんの少し頬を膨らませる
行くしかないのはもう分かってるんだけど……
それでも嫌なんだよなぁ……
『全く……あやつらめ……まだアリシアを休ませてあげていたって良いではないか』
「でしょ?ずーっと頑張ってたんだから、後もう一、二年くらい休ませてくれたっていいじゃんね?」
『そうだな。……だが、アリシアの場合は、何年経っても「後もう少し!」と言いそうだな?』
クスッと笑いながらそう言ってくる
……確かにそれは否定出来ない……
言い返せなくて視線を逸らせて膨れていると、急に頬を突っついてくる
『なにも膨れなくてもいいだろう?私は別にそれがダメだとは言っていないぞ?……その役目、代われるものなら代わってやりたいくらいだ』
少し寂しそうなアレ兄の声にハッとした
……しまった、今のは完全にやらかしだ
『……アリシア、そんな顔をするな。この状況は、私がいけなかったのだからな』
「……アレ兄のせいでもないじゃん……」
少しだけ気まずくなって、アレ兄の肩に顔を押し付けた
自然と、抱きつく腕にも力が入っていた
『私がお二人に伝えなかったのがそもそもの原因だ。それさえなければ……お前が早くに大人になる事も、一人で全てを背負う必要もなかったのだからな』
「……アレ兄にだって、立場があった。それを維持したまま私『達』を守るのは難しかったと思うし……捨ててしまえば、動向がわからなくなってた……アレ兄が、この選択をしていなかったら……私だって、今頃……」
『何度も言っているだろう?そんな事にはならん。例え、どんな選択をしていたとしても……お前だけは、守り抜いていたと』
ほんの少し、アレ兄の腕にも力が込められた
……ダメだなぁ……アレ兄の話聞いてから……また、恨みそうになってる……
……そんな相手、もうどこにもいないのに
『……それよりも、だ。アリシア?前回ここに来てから今日来るまでの間……何をしていたのか、話してくれんか?』
この話をもうしたくないらしく、兄アレは明るい声で問いかけてくる
少しアレ兄から離れて顔を上げると、微笑みながら私を見つめてきていた
「……うん、そうだね!」
ニコッと笑いながら答えた
私だって、暗い話はもうしたくない
アレ兄とは……後、半年程度しか、会話ができないんだから
残された時間は……できるだけ、楽しい話だけをしていたい
……少しでも、アレ兄が安心できるように……
……私なら、もう大丈夫だって、ちゃんと伝わるように
ーーーーー
『……お前ら、いい加減にしておけよ?』
呆れ気味に、カープノスがため息をつくのが聞こえた
あれから何時間経過したかわかんねえが……陽はすっかり落ちている
相当話し込んでいるのか、シアはまだ帰ってきていない
……そのおかげで、オレは散々、いじられまくったんだけど……
『ええ〜……もう少し聞きたいんだけどなぁ』
不服そうにアルタイルは頬を膨らませる
顔立ちはともかく、仕草は一番、シアにそっくりだ
……つーか、まだ話さないとだめか?
いい加減しんどいんだが……
『ははっ!やめておいた方がいいぞ?いつアリシアが帰って来て、ユーリくんを問い詰めているお主らにキレるかわからんぞ?』
豪快に笑いながら、ライラックさんが声をかけてくる
『うっ……それもそうだね……』
その言葉で、ようやくカペラたちはオレから離れた
「ふふ、お疲れのようね?ユーリ」
椅子に座って頬杖をついてると、ジュディが声をかけてくる
「ったく……全員揃って問い詰めて来やがって……」
「あら、あなただけ独り占めはずるいじゃない?」
ニコニコと笑ってくるジュディにただ苦笑いを返した
「ところで……いつ帰って来るんでしょうか?」
少し不安げにエステルが呟くと、ベガの瞳が濃く染まる
『……もう来るよ』
ベガがそう言った瞬間、後ろから抱きつかれた
「お、帰って来たな?」
少し後ろを向くと、相当楽しかったのか満面の笑みを浮かべたシアの顔が目に映る
ホント、あの人のとこから帰って来るといつもこうやって笑ってんな
「随分とまぁ嬉しそうね〜アリシアちゃん」
微笑ましそうにしているおっさんに、シアはただ頷いた
「ユーリ、アレ兄から伝言あるけど……」
アリシアはそう言いながら首を傾げてくる
……またか
「今度はなんて言ってたんだよ?」
「『泣かしたらぶっ飛ばす』って」
「……シア、何話したんだよ?」
苦笑いしながら小さくため息をついた
毎回毎回、アレクセイと何話してんだか知らねえけど……
……あの人、オレに敵意剥き出しすぎやしねえか?
「別にそんなこと言われるような話はしてないんだけど……」
肩を竦めながら、シアは困ったように笑った
『……アリシアが『アレ兄』って呼んでるの……久しぶりに聞いた……』
シアの呼び方に驚いたのはベガ達だけでなく、エステル達もだった
「アレクセイのこと、そんな風に呼んでいましたっけ……?」
そういや、エステル達の前じゃ、『お兄様』としか呼んだことなかったな
「彼と仲がよかった頃はそう呼んでいたんですよ
……その感じだと、仲直りはできたようだね?アリシア」
ほんの少し懐かしそうにしながら、フレンがシアを見つめる
そんなフレンに、シアはただ笑って返した
「あ、そうだ……アレ兄に一つ、頼み事されたんだった」
「ん?何頼まれたんだ?」
そう問返すと、何故か少し気まずそうに顔を背ける
「……次はユーリとフレン、連れて来てくれって」
ほんの少し、嫌そうにムッとしながらシアが答える
「……は?」
予想外の言葉に驚いた
それは、フレンも同じだった
「……えっと……なぜだい?」
恐る恐るフレンが問いかけると、シアは視線をフレンに向けた
「『直接言いたい事あるから』、だって。……みんなにバレちゃった話、しなきゃよかったなぁ……」
ため息をつきながら、オレの肩に顎を乗せてくる
「……アレ兄独り占めしてたかったのに……」ボソッ
オレでさえ、ギリギリ聞き取れる程度の小さな声でそう呟いた
もう十分過ぎるくらい、独り占めしてたと思うんだが……?
「たまにゃあの人だって、他の奴と話したいんじゃねえか?」
少し膨らませている頬を撫でながら問いかける
「……わかってるよ、それくらい。アレ兄が残って居られる内に……アレ兄の心残り、取り払ってあげておかないと、今度は本当に怨念になっちゃうし……それは嫌だ」
「んじゃ、そんなに嫌そうにすんなって。な?」
そう言うと、シアは小さく唸る
「……ま、それもそうだよねえ……たまにはアレ兄貸してあげないと」
少しオレから離れながら、シアはニコッと笑った
いや、貸すって……あの人モノ扱いしていいのかよ……
『……なら、俺も』
「シリウスは絶対ダメ!」
便乗しようとしたシリウスの言葉をシアは遮った
『何故だ!?』
「ベガやリゲルならともかく……シリウスはアレ兄相手に、大剣全力で振りかざすでしょ。アリオト達も、アレ兄相手に喧嘩ふっかけるの目に見えてるし……」
ジトーっとシアはシリウス達を見つめる
その通りだったのか、揃って気まずそうにシアから顔を背けていた
『はっは!諦めろ、シリウス。私でさえ、アリシアは会わせてくれないのだからな?』
少し寂しそうに笑いながら、ライラックさんがシリウスを見た
「あー……いや、それちょい違うんすよ、な?シア」
「……お父様達はアレ兄が断ってるの。『まだ心の準備できてないから』って」
少し困ったように笑いながら、シアは答える
『あら……会おうとはしてくれていたのね?それじゃあ、彼の準備ができるのを待ちましょうか』
クスクスと笑いながらアイリーンさんはそう言ってシアを見つめる
「というか、カープノス……アレ兄に連絡してたなら教えてよ……遅れちゃったの、怒られるかと思ったじゃん」
シアの言葉に少し驚いた
レグルスには説明不足だなんて文句言ってるが、カープノスも割かし抜けてるよな……
『……それは、すまん』
少し気まずそうにカープノスは顔を背ける
『はいはーい、ちょーと待とうか……?』
右手を上げながら、アルタイルが声をあげた
「どうしたの?アルタイル」
『えーっと……カープノス……?狭間にいるのが力のあるアリシアならともかく……私達同士じゃ白匣 の機能使えなきゃ連絡取れないのに、なんで私達と同じ状態になって狭間にいるアレクセイと連絡取れてるの……?』
恐る恐る、アルタイルは問いかける
『というか……サラッと聞き流しちゃってたけど、なんでアリシアとも連絡取れてるのさ?今はアリシアが狭間に居ない限り、遠くに居たら話すこと出来ないはずなのに』
カペラがジトーっとカープノスを見る
……まずいな、それは確かに隠してたことだ
シアも含めて、三人揃って顔を背ける
『……三人とも、何故顔を背けるのですか?何か……わたくしたちに言えない事でも?』
「素直に話しておいた方がいいんじゃない?」
どこか楽しげなペテルギウスとリタの声に、少し肩が跳ねる
……こりゃ大人しく言った方が良さそうだ
チラッとシアとカープノスを見ると、どうやら同じ考えのようで、二人とも目が合った
『……俺の白匣 は、お前たちのとは少し違うからな』
面倒くさそうに、カープノスが口を開いた
『あら、初耳ですわね?どう違うのかしら?』
『……通信用の白匣 、それが組み込まれている。……要は、狭間を経由しなくとも、同じく通信用の白匣 を持っている奴なら、俺と会話ができる』
カープノスが言い終わると、何かを殴る音が響いた
驚いて音のした方向を見ると、シリウスがテーブルに拳を当てていた
ありゃ完全にキレてるな……
『な・ぜ・そ・れ・をっ!!黙っていたっ!?』
『必要なかったからだ。そもそもこれは、当時まだ眠りについていなかった、初代との連絡用だったんだ。初代が眠っている間は、俺らはマナを経由して会話ができたし、後の当主達は皆、ちゃんと力を持っていたから、使う機会などなかったんだ』
キレてるシリウスに対して、不機嫌そうにカープノスは答える
いや、だから……その態度は火に油だろ……
『あら……では、その通信用の白匣 の片方は何処にあったのかしら?』
不気味な笑みを浮かべながら、ペテルギウスがカープノスに更に問いかける
……ホント、仲悪いんだな……
『……アリシアとユーリが持ってるペンダントだが?』
カープノスがそう言った瞬間、視線がこっちに集まった
「そんなに見られても困るんだが……」
「ユーリっ!あんた、知ってたわけ!?」
苦笑いしたオレに、リタの怒声が飛んできた
……まぁ、そうなるよな……
「オレも知ったのは半年前だよ。急にカープノスの方から声掛けてくっから焦ったわ」
「あ、あんたねぇ……っ!!知ってたなら教えなさいよっ!!」
「……あーあ、リタまでキレちゃった……」
気だるそうにそう言いながら、シアがまた抱きついてきた
「アリシアっ!!あんたもよ!!なんで教えてくれなかったわけっ!?」
「いや、だって……言ったらカープノス通して、みんな揃って『帰って来いっ!』って言うじゃん?ペテルギウス達はそこから気配辿れちゃいそうだし……連れ戻されるの嫌だな〜って」
シアの言葉に、シリウスとリタがワナワナと拳を震わせはじめた
「シア、それ今火に油だっての」
「……あっ」
シアがしまった!と顔を顰めた瞬間、勢いよく扉が開いた
扉の方を見ると、あの日と同じようにレグルスが肩で息をしながら立っていた
オレらが声をかける前に、レグルスはオレとシアの後ろにすっ飛んで来た
「レグルス?どうし」
『アリシア、帰って来ていたのですね?』
ドスの効いた声に、シアの顔が強ばった
もう一度扉の方を見ると、鉄扇を片手にアリオトがニコニコと笑いながらこっちを見て来ている
……キレてる奴が増えたな……
「あ、あはは〜……えと……ただいま?」
『ええ、おかえりなさい。……それで?アリシア?何か……話す事がありますよね?』
引きつった声のシアに、アリオトは笑顔を崩さずに問いかける
……こりゃシリウス達が怯えんのも無理ねえな……
マジでおっかねえわ……
『レグルス様も、まだお話は終わっていませんよ?……四人とも、そこを動かないで下さいね?』
ゆっくりと、アリオトが近づいてくる
いやまぁ、キレられる事をしたのは確かだが……
……この二人、大人しく怒られる気はあんのかね……
「アリシア……どうするつもりだ?」
「うぇ……さすがにあのアリオトに怒られるのはやだなぁ……というか、なんで私の方に来るのさ……カープノスの方行っておいてよ……一緒に飛ぶ人数増えると結構しんどいんだけど……」
「そうは言うが……カープノスがアリオトから逃げ切れると思うか?」
「いやまぁ、それはそうだけど……二手に分かれた方が絶対いいって……」
「……この状況で、今からカープノスの方へ行けと?」
オレの後ろで二人は小声で話している
……怒られるつもりはねえ訳か……
チラッとカープノスを見ると、シアの方を見つめていた
カープノスが小さく頷くと、シアがため息をついたのが聞こえた
それと同時にシアが指を弾く
すると、カープノスの傍にレグルスが移動した
レグルスの腕を掴むと、カープノスが右手を上げる
「「逃げるが勝ちっ!!」」
シアとレグルスがそう叫んだのと同時に指を弾く音が二つ聞こえ、視界が歪んだ
食堂から、シアと再会したあの日、カープノスに連れられて来たあいつのサボり場に風景が変わった
あの時と違うのは、レグルスも居ることだな
「っと……お前らな……大人しく怒られる気はゼロかよ……」
苦笑いしながら三人を見ると、嫌そうに顔を顰めていた
「アリオトの鉄扇、痛いし……」
「何もあそこまで怒られるようなことはしておらんだろ」
『大体、白匣 に関して無頓着だったあいつらが悪い』
そっくりな反応を見せる三人に思わずため息が出た
「つか、二手に分かれんじゃなかったのか?」
「……あの時、レグルスと普通に話しちゃったから……」
「アリオトは地獄耳だからな……多分聞こえていただろう」
シアとレグルスは揃ってため息をつく
『だからアリシアが移動しそうな場所に飛んだんだ。……ここなら、見つかることもないからな』
呆れたように二人を見つめながら、カープノスが言った
なるほどね……そうゆう訳か
「でも、どうすんだ?あっちの状況わかんねえと、戻るに戻れねえだろ?」
そう言うと、三人揃って目を見開いていた
「ふむ……それもそうだな……」
「というかレグルス、なんでアリオトに見つかってるのさ……『あれ』使えばバレないじゃん」
「仕方なかったのだ。使う前に、アリオトが来てしまったのだからな」
「『あれ』ってなんだ?」
シアとレグルスの会話に首を傾げる
なんか見つからない方法でもあんのか?
『……初代は気配を消せる。ユーリも見ただろ?あの日、その場に居なかったはずの初代が現れたのを』
カープノスにそう言われて思い出した
そういや、『あれ』を倒しに行った日の朝、リタがびびってたな……
『初代、俺とそれを使えば、バレずに済むんじゃないか?』
「む……それもそうか……なら、我とカープノスで様子を探りに行くとするか。……お主らは待っているといい」
レグルスがそう言うと、カープノスがまた腕を掴んでいた
「ん、わかったよ」
シアが答えると、カープノスが指を鳴らして二人が消えた
「ったく、合流して早々大騒ぎだな?」
そう言いながら腰を下ろした
「だね〜……」
オレの隣に座ると、シアが右肩に頭を乗せて来た
「……あ、そう言えば、アレ兄からの伝言、もう一個あったんだ」
「ん?まだあったのか?」
そう問いかけると、シアがクスッと笑った
「『怪我させるなよ』って」
「……話したんだな?ザウデの地下に行くこと」
「ん、話した」
「その伝言、ホントにそれで全文なのか?」
シアの肩に右手を回しながら問いかける
前に一度、やたら長い伝言を端折って伝えて来たことあっからな……
「んー……正確に言うと……『私の大事な妹に怪我をさせるなよ?大切なものを守る為なら、刺し違えてでもとどめを刺そうとする程、無鉄砲な妹なのだから、そんな状況をつくるのも許さぬし、仮にそうなったら……死ぬ気で止めろ』……だった、かな?」
「……さすがに端折りすぎだろ……」
「……後、『お前は唯一、私がアリシアに触れることを許した者なのだから、もし怪我でもさせたら……アリシアに止められようが八つ裂きにする』って」
……思っていた倍は長い伝言だな……
「ったく……言われなくともそうするっつーの。オレだってもう御免だぜ?シアの捨て身はな」
苦笑いしながらそう答える
いつの間にか、認められてたのはいいが……
何もそこまで脅して来なくてもいいだろ……
「そんなこともうしないって言ったんだけどね?ヨームゲンでの出来事、まだ根に持ってるみたい」
「そりゃそうだろうな?オレだって、まだ忘れたつもりはねえぞ?」
「うっ……あれは……ちょっと自暴自棄になってたのもあるし……もう絶対しないってば」
少し気まずそうに、シアは答える
「……そうだったな。またそうならないようにすんのも、オレの役目だな」
シアの頭に軽く頭を乗せる
いつの間にか、こうしているのが当たり前になっちまって、こうしてねえと落ち着かないんだよな
「………けど、最近、またちょっと心が揺らいでる」
少し声のトーンを落として、シアが呟く
「…なんかあったか?」
「アレ兄と話してるとさ……時々、アレ兄が気にしてること、無意識に口走っちゃうんだよね……
そうすると、いっつも寂しそうに笑うんだ。『私のせいで』……って
……アレ兄が本当に悪かった訳じゃないのに……」
悲しそうな声で、シアが言う
今の今まで聞きづらくて聞いて来なかったが……さすがにもう、聞かないといけないだろう
「なぁ?なんであの人……あんな事したんだ?」
「……評議会の中でも、ラグナロク家に対する意見は割れてたんだって」
少し話しづらそうに、シアはゆっくりと口を開く
「いくつかあったみたいなんだけど……過激だったのは、自分たちの手に収めたい派……それと、葬り去りたい派」
小さく呟かれた言葉に耳を疑った
そんなことまで考える馬鹿がいただなんて、思ってもいなかった
「……あの時、お父様達を見捨てたのは……その、葬り去りたい派の人達……
あのふざけた計画立ててるの、たまたま聞いちゃったんだって、アレ兄
……すぐにお父様に言おうとしたらしいけど……その派閥の人に、聞いてたの見られちゃったみたいで、二択を迫られたって言ってたよ」
「……二択、か?」
「……騎士団を辞めるか、計画に手を貸すか」
静かに、シアは答える
「騎士団を辞めてしまえば、過激な派閥の人達の動向が探れなくなる……だからと言って、手を貸すなんて、言語道断……
……かなり……悩んだみたい、だよ?
……で、出した答えは……条件付きで、手を貸すこと」
「その、条件って……?」
「……私だけには、手を出さない事。……あの人達が葬り去りたかったのは……貴族籍を持っていながら、下町の住民を優先しようとするお父様とお母様だったみたいだから……私にさえ、手を出さなければ……って」
「よく通ったな、その条件……あん時には、シアもライラックさんくらいには刀振れてただろ?」
「そこは……その人たちも、気にしたみたい……だから、言ったんだって
『たかが16の小娘一人に、何ができると?まともに力も使えない彼女など、脅威にはならないでしょう?』……って
全員が納得したわけじゃないみたい……なんだけど、それでも、アレ兄の実力と、騎士団長って役職の人間の手は借りたかったみたい……」
「……アレクセイも考えた訳だな。シアを守るために」
そっと頭を撫でる
顔はよく見えねえけど……きっと、泣きそうだろうから
「……何度、引き返そうとした事か……って、言ってた。何度も何度も……引き返しそうとして……それでも、引き返してしまえば、約束を破った事になるから……私を、守れなくなるから……必死で、振り返らないように、してた……って、アレ兄も、泣きそうにして言ってた」
「……けど、その後、シアに対して酷い要求ばっかしてきたのはなんでだ?あの人もそれ後悔してたんなら、後で事情をシアに話しときゃ」
「私が、恨む相手が……アレ兄だけに、したかったんだって……」
少しオレの言葉に被せるように、小さく、それでもハッキリと、シアが答える
「怨霊は、恨んだり、憎んだりする対象の数が多ければ多いほど、生まれやすい
……私は星暦、本家の一人娘……いつかは、当主として立つべき人間で……そういうものを、排除する役目がある」
そう言うシアの声が、震え始める
「……そんな私が、それを生み出したり、なんてしたら……きっと、後で後悔して……自分で自分が許せなくなって……例え刺し違えてでも、自分の怨霊を排除しようとするだろう?って……他の誰かに頼らず……たった、一人で……って……っ
だから、『私』だけを……恨んで、くれたら……って……そうすれば、少なくとも、そんなもの、生み出さなくて、済むはずだと……思った……って……っ」
とうとう泣き出したらしく、シアはそれ以上、口を開かなかった
……ったく、この兄妹は……
「……アレクセイも、人の事言えねえじゃねえか
……自分犠牲にして、シアを守ろうとするなんてな」
シアの頭の後ろに右手を当てて軽くオレの方に押すと、すんなりオレの胸に額を当ててきた
左腕で抱きしめながら、頭を撫でる
言葉足らずなところも、大切な人を守るために自分が犠牲になるのも厭わないところも、アレクセイそっくりだな
……ホント、他人に影響されやすいな、シアは
「それ知ってて、今の今までよく泣かずにいたな?」
「……って………アレ、兄が……っ、お、父様…っ、とっ……お母……様っ…に、言うな……って……っ、自分で、ちゃんと……っ、伝える、から……っ、それまで、内緒…って……っ」
しゃくりをあげながら、途切れ途切れにシアが答える
おいおい……大泣きじゃねえか……
「内緒って言われてたのに、オレに話してよかったのか?」
少し苦笑いしながら問いかける
「…っ……ユーリ、に……っ、言っちゃ、ダメ…って、アレ兄……っ、言って……ない、もん……っ」
「……それなら、いいんだけどな」
そう答えて、シアの頭に軽く顎を乗せた
さて……どうしたもんかねえ……
『……おい、ユーリ』
どう泣き止ませようか考えてると、頭の中でカープノスの声が響いた
この感じ……オレにだけ話しかけてきてんな
「(なんだよ?今ちょい手が離せねえんだけど?)」
シアから視線を外して、少し空を見ながら声をかける
『……知っている。聞いてたからな』
「(……盗み聞きしてたのかよ……)」
『仕方ないだろ……話しかけようとしたら、お前たちが話していたのだから』
不機嫌そうな声に思わずため息が出そうになった
「(へいへい、そりゃ悪かったよ……んで、どうしたんだよ?)」
『……その泣き虫姫が泣き止んだら教えてくれ。……俺らが代わりにアリオトに怒られておいてやるから』
「(……バレたんだな?様子見に行ったの)」
『初代がドジりやがったんだ。……はぁ……本当に、初代もアリシアも、手がやける……』
「(そりゃ同感だわ……ま、泣き止んだら連絡するわ)」
『……ああ、頼む』
カープノスとの会話を終えて、シアに視線を戻すと、まだ肩が震えてる
こりゃしばらく泣きやみそうにもねえな……
……ま、一人で泣かれるよりはよっぽどいいか
今は……泣きたいだけ、泣かせてやればいい
泣き続けるシアの頭を撫でながら、ただただ黙って、泣き止むのを待った
ーーザウデ不落宮・最深部ーー
地面に足を付いて、また指を弾く
中央に開いた穴の中に、迷わず飛び込んだ
飛び込んだ先は、あの時と同じ、青い空間
早く会いたくて、その中を、真っ直ぐに走って行く
少し走っていると、見慣れた赤い隊服と、銀色の髪が見えてきた
「アレ兄…っ!!」
声をかければ、私の方を向いて腕を広げてくれる
昔から変わらない仕草が嬉しくて、そのまま腕に飛び込んだ
『全く……そんなに走っては危ないぞ?』
私を抱きしめながら、二年前までとは少し違う……昔と同じ、優しい声でアレ兄はそう言ってくる
『お兄様』から『アレ兄』呼びに戻ったのは、ここに来てすぐだった
……こっちの呼び方の方がやっぱり落ち着く
「だって……来るの遅くなっちゃったから……」
顔を上げると、困ったように優しく微笑みながら、アレ兄が見下ろして来ていた
『ははっ、怒ったりせんよ。呼び出されていたのだろう?』
「あれ?知ってたの?」
『カープノス……と言ったか?あやつが知らせてくれてな』
「カープノス……それならそうと私に言っておいてよ……」
少しムッとしていると、アレ兄が優しく頭を撫でてくる
ユーリとはまた少し違う手の感触に目を細めた
『お前は相変わらず、撫でられるのが好きだな?』
「アレ兄も、それ毎回聞いてくるよね?」
『お前の反応見てると、どうしても聞きたくなるのだよ』
笑いながらアレ兄はまだ頭を撫でてくる
アレ兄だって、撫でるの好きなくせに
「いいじゃん、別にー!撫でられてると落ち着くんだもん」
『ははっ、最近のアリシアは、本当に子どものようだな?』
「うー……それ、さっきもユーリに言われたんだよなぁ……そんなに子どもっぽい?」
似たようなセリフに少しムッとして、声のトーンが落ちた
そんなつもりは全くないのに……
『いいではないか。……お前は少し、大人になるのが早かったのだから、しばらく子どもに戻ったとて、誰も文句など言わぬさ』
ほんの少しだけ、寂しそうな声でアレ兄が言ってくる
「……けど、ユーリ酷いんだよ?みんなの前でそれ言うんだもん……ちょっと恥ずかしいからやめて欲しかった」
ちょっと声のトーンを上げてそう言った
……危ない、『また』失言しかけてた……
『ユーリ君の事だ。自慢したかっただけであろう?そんなアリシアを知っているのは自分だけなのだと』
クスクスと笑いながら、アレ兄は言ってくる
「……なんでわかったの?」
『私でもそうするだろうからな?子どものようにはしゃぐお前ほど可愛い者はおらん』
かなり真剣な顔で言われてしまって、呆けてしまった
あまりにも冷たい時期が長くて忘れていたけど……
アレ兄も、ユーリやお父様と同じでそう言う人だった
『まぁ……だとしても、お前が嫌がっていれば話している途中でも、私ならやめるがな?』
ほんの少し首を傾げながら、そう言ってくる
……嫌がってもやめてくれなかった事の話は、しないでおこう
それは、アレ兄が一番、気にしていることだから……
「嫌……って程じゃないけど……せめて、私が居ないところでして欲しいなーって。聞いてるの、恥ずかしいんだもん」
『そんな反応も見たかったのではないか?お前は何をしていても可愛らしいからな』
平気で可愛いを連呼してくるアレ兄に、ちょっと呆れてしまう
毎回毎回、そんなに言わなくても……ちゃんと、そう思ってくれてるって伝わってるのに
「それにしても、やだなぁ……折角、やりたかった事とかぜーんぶ終わって、のんびりしてたのに……また厄介事だよ……」
話題を変えたくて、小さくため息をつきながらアレ兄に寄りかかった
『それは……また面倒だな』
「しかも、用事があるのはここの下なんだよ?この下、私嫌いなのに……」
ほんの少し頬を膨らませる
行くしかないのはもう分かってるんだけど……
それでも嫌なんだよなぁ……
『全く……あやつらめ……まだアリシアを休ませてあげていたって良いではないか』
「でしょ?ずーっと頑張ってたんだから、後もう一、二年くらい休ませてくれたっていいじゃんね?」
『そうだな。……だが、アリシアの場合は、何年経っても「後もう少し!」と言いそうだな?』
クスッと笑いながらそう言ってくる
……確かにそれは否定出来ない……
言い返せなくて視線を逸らせて膨れていると、急に頬を突っついてくる
『なにも膨れなくてもいいだろう?私は別にそれがダメだとは言っていないぞ?……その役目、代われるものなら代わってやりたいくらいだ』
少し寂しそうなアレ兄の声にハッとした
……しまった、今のは完全にやらかしだ
『……アリシア、そんな顔をするな。この状況は、私がいけなかったのだからな』
「……アレ兄のせいでもないじゃん……」
少しだけ気まずくなって、アレ兄の肩に顔を押し付けた
自然と、抱きつく腕にも力が入っていた
『私がお二人に伝えなかったのがそもそもの原因だ。それさえなければ……お前が早くに大人になる事も、一人で全てを背負う必要もなかったのだからな』
「……アレ兄にだって、立場があった。それを維持したまま私『達』を守るのは難しかったと思うし……捨ててしまえば、動向がわからなくなってた……アレ兄が、この選択をしていなかったら……私だって、今頃……」
『何度も言っているだろう?そんな事にはならん。例え、どんな選択をしていたとしても……お前だけは、守り抜いていたと』
ほんの少し、アレ兄の腕にも力が込められた
……ダメだなぁ……アレ兄の話聞いてから……また、恨みそうになってる……
……そんな相手、もうどこにもいないのに
『……それよりも、だ。アリシア?前回ここに来てから今日来るまでの間……何をしていたのか、話してくれんか?』
この話をもうしたくないらしく、兄アレは明るい声で問いかけてくる
少しアレ兄から離れて顔を上げると、微笑みながら私を見つめてきていた
「……うん、そうだね!」
ニコッと笑いながら答えた
私だって、暗い話はもうしたくない
アレ兄とは……後、半年程度しか、会話ができないんだから
残された時間は……できるだけ、楽しい話だけをしていたい
……少しでも、アレ兄が安心できるように……
……私なら、もう大丈夫だって、ちゃんと伝わるように
ーーーーー
『……お前ら、いい加減にしておけよ?』
呆れ気味に、カープノスがため息をつくのが聞こえた
あれから何時間経過したかわかんねえが……陽はすっかり落ちている
相当話し込んでいるのか、シアはまだ帰ってきていない
……そのおかげで、オレは散々、いじられまくったんだけど……
『ええ〜……もう少し聞きたいんだけどなぁ』
不服そうにアルタイルは頬を膨らませる
顔立ちはともかく、仕草は一番、シアにそっくりだ
……つーか、まだ話さないとだめか?
いい加減しんどいんだが……
『ははっ!やめておいた方がいいぞ?いつアリシアが帰って来て、ユーリくんを問い詰めているお主らにキレるかわからんぞ?』
豪快に笑いながら、ライラックさんが声をかけてくる
『うっ……それもそうだね……』
その言葉で、ようやくカペラたちはオレから離れた
「ふふ、お疲れのようね?ユーリ」
椅子に座って頬杖をついてると、ジュディが声をかけてくる
「ったく……全員揃って問い詰めて来やがって……」
「あら、あなただけ独り占めはずるいじゃない?」
ニコニコと笑ってくるジュディにただ苦笑いを返した
「ところで……いつ帰って来るんでしょうか?」
少し不安げにエステルが呟くと、ベガの瞳が濃く染まる
『……もう来るよ』
ベガがそう言った瞬間、後ろから抱きつかれた
「お、帰って来たな?」
少し後ろを向くと、相当楽しかったのか満面の笑みを浮かべたシアの顔が目に映る
ホント、あの人のとこから帰って来るといつもこうやって笑ってんな
「随分とまぁ嬉しそうね〜アリシアちゃん」
微笑ましそうにしているおっさんに、シアはただ頷いた
「ユーリ、アレ兄から伝言あるけど……」
アリシアはそう言いながら首を傾げてくる
……またか
「今度はなんて言ってたんだよ?」
「『泣かしたらぶっ飛ばす』って」
「……シア、何話したんだよ?」
苦笑いしながら小さくため息をついた
毎回毎回、アレクセイと何話してんだか知らねえけど……
……あの人、オレに敵意剥き出しすぎやしねえか?
「別にそんなこと言われるような話はしてないんだけど……」
肩を竦めながら、シアは困ったように笑った
『……アリシアが『アレ兄』って呼んでるの……久しぶりに聞いた……』
シアの呼び方に驚いたのはベガ達だけでなく、エステル達もだった
「アレクセイのこと、そんな風に呼んでいましたっけ……?」
そういや、エステル達の前じゃ、『お兄様』としか呼んだことなかったな
「彼と仲がよかった頃はそう呼んでいたんですよ
……その感じだと、仲直りはできたようだね?アリシア」
ほんの少し懐かしそうにしながら、フレンがシアを見つめる
そんなフレンに、シアはただ笑って返した
「あ、そうだ……アレ兄に一つ、頼み事されたんだった」
「ん?何頼まれたんだ?」
そう問返すと、何故か少し気まずそうに顔を背ける
「……次はユーリとフレン、連れて来てくれって」
ほんの少し、嫌そうにムッとしながらシアが答える
「……は?」
予想外の言葉に驚いた
それは、フレンも同じだった
「……えっと……なぜだい?」
恐る恐るフレンが問いかけると、シアは視線をフレンに向けた
「『直接言いたい事あるから』、だって。……みんなにバレちゃった話、しなきゃよかったなぁ……」
ため息をつきながら、オレの肩に顎を乗せてくる
「……アレ兄独り占めしてたかったのに……」ボソッ
オレでさえ、ギリギリ聞き取れる程度の小さな声でそう呟いた
もう十分過ぎるくらい、独り占めしてたと思うんだが……?
「たまにゃあの人だって、他の奴と話したいんじゃねえか?」
少し膨らませている頬を撫でながら問いかける
「……わかってるよ、それくらい。アレ兄が残って居られる内に……アレ兄の心残り、取り払ってあげておかないと、今度は本当に怨念になっちゃうし……それは嫌だ」
「んじゃ、そんなに嫌そうにすんなって。な?」
そう言うと、シアは小さく唸る
「……ま、それもそうだよねえ……たまにはアレ兄貸してあげないと」
少しオレから離れながら、シアはニコッと笑った
いや、貸すって……あの人モノ扱いしていいのかよ……
『……なら、俺も』
「シリウスは絶対ダメ!」
便乗しようとしたシリウスの言葉をシアは遮った
『何故だ!?』
「ベガやリゲルならともかく……シリウスはアレ兄相手に、大剣全力で振りかざすでしょ。アリオト達も、アレ兄相手に喧嘩ふっかけるの目に見えてるし……」
ジトーっとシアはシリウス達を見つめる
その通りだったのか、揃って気まずそうにシアから顔を背けていた
『はっは!諦めろ、シリウス。私でさえ、アリシアは会わせてくれないのだからな?』
少し寂しそうに笑いながら、ライラックさんがシリウスを見た
「あー……いや、それちょい違うんすよ、な?シア」
「……お父様達はアレ兄が断ってるの。『まだ心の準備できてないから』って」
少し困ったように笑いながら、シアは答える
『あら……会おうとはしてくれていたのね?それじゃあ、彼の準備ができるのを待ちましょうか』
クスクスと笑いながらアイリーンさんはそう言ってシアを見つめる
「というか、カープノス……アレ兄に連絡してたなら教えてよ……遅れちゃったの、怒られるかと思ったじゃん」
シアの言葉に少し驚いた
レグルスには説明不足だなんて文句言ってるが、カープノスも割かし抜けてるよな……
『……それは、すまん』
少し気まずそうにカープノスは顔を背ける
『はいはーい、ちょーと待とうか……?』
右手を上げながら、アルタイルが声をあげた
「どうしたの?アルタイル」
『えーっと……カープノス……?狭間にいるのが力のあるアリシアならともかく……私達同士じゃ
恐る恐る、アルタイルは問いかける
『というか……サラッと聞き流しちゃってたけど、なんでアリシアとも連絡取れてるのさ?今はアリシアが狭間に居ない限り、遠くに居たら話すこと出来ないはずなのに』
カペラがジトーっとカープノスを見る
……まずいな、それは確かに隠してたことだ
シアも含めて、三人揃って顔を背ける
『……三人とも、何故顔を背けるのですか?何か……わたくしたちに言えない事でも?』
「素直に話しておいた方がいいんじゃない?」
どこか楽しげなペテルギウスとリタの声に、少し肩が跳ねる
……こりゃ大人しく言った方が良さそうだ
チラッとシアとカープノスを見ると、どうやら同じ考えのようで、二人とも目が合った
『……俺の
面倒くさそうに、カープノスが口を開いた
『あら、初耳ですわね?どう違うのかしら?』
『……通信用の
カープノスが言い終わると、何かを殴る音が響いた
驚いて音のした方向を見ると、シリウスがテーブルに拳を当てていた
ありゃ完全にキレてるな……
『な・ぜ・そ・れ・をっ!!黙っていたっ!?』
『必要なかったからだ。そもそもこれは、当時まだ眠りについていなかった、初代との連絡用だったんだ。初代が眠っている間は、俺らはマナを経由して会話ができたし、後の当主達は皆、ちゃんと力を持っていたから、使う機会などなかったんだ』
キレてるシリウスに対して、不機嫌そうにカープノスは答える
いや、だから……その態度は火に油だろ……
『あら……では、その通信用の
不気味な笑みを浮かべながら、ペテルギウスがカープノスに更に問いかける
……ホント、仲悪いんだな……
『……アリシアとユーリが持ってるペンダントだが?』
カープノスがそう言った瞬間、視線がこっちに集まった
「そんなに見られても困るんだが……」
「ユーリっ!あんた、知ってたわけ!?」
苦笑いしたオレに、リタの怒声が飛んできた
……まぁ、そうなるよな……
「オレも知ったのは半年前だよ。急にカープノスの方から声掛けてくっから焦ったわ」
「あ、あんたねぇ……っ!!知ってたなら教えなさいよっ!!」
「……あーあ、リタまでキレちゃった……」
気だるそうにそう言いながら、シアがまた抱きついてきた
「アリシアっ!!あんたもよ!!なんで教えてくれなかったわけっ!?」
「いや、だって……言ったらカープノス通して、みんな揃って『帰って来いっ!』って言うじゃん?ペテルギウス達はそこから気配辿れちゃいそうだし……連れ戻されるの嫌だな〜って」
シアの言葉に、シリウスとリタがワナワナと拳を震わせはじめた
「シア、それ今火に油だっての」
「……あっ」
シアがしまった!と顔を顰めた瞬間、勢いよく扉が開いた
扉の方を見ると、あの日と同じようにレグルスが肩で息をしながら立っていた
オレらが声をかける前に、レグルスはオレとシアの後ろにすっ飛んで来た
「レグルス?どうし」
『アリシア、帰って来ていたのですね?』
ドスの効いた声に、シアの顔が強ばった
もう一度扉の方を見ると、鉄扇を片手にアリオトがニコニコと笑いながらこっちを見て来ている
……キレてる奴が増えたな……
「あ、あはは〜……えと……ただいま?」
『ええ、おかえりなさい。……それで?アリシア?何か……話す事がありますよね?』
引きつった声のシアに、アリオトは笑顔を崩さずに問いかける
……こりゃシリウス達が怯えんのも無理ねえな……
マジでおっかねえわ……
『レグルス様も、まだお話は終わっていませんよ?……四人とも、そこを動かないで下さいね?』
ゆっくりと、アリオトが近づいてくる
いやまぁ、キレられる事をしたのは確かだが……
……この二人、大人しく怒られる気はあんのかね……
「アリシア……どうするつもりだ?」
「うぇ……さすがにあのアリオトに怒られるのはやだなぁ……というか、なんで私の方に来るのさ……カープノスの方行っておいてよ……一緒に飛ぶ人数増えると結構しんどいんだけど……」
「そうは言うが……カープノスがアリオトから逃げ切れると思うか?」
「いやまぁ、それはそうだけど……二手に分かれた方が絶対いいって……」
「……この状況で、今からカープノスの方へ行けと?」
オレの後ろで二人は小声で話している
……怒られるつもりはねえ訳か……
チラッとカープノスを見ると、シアの方を見つめていた
カープノスが小さく頷くと、シアがため息をついたのが聞こえた
それと同時にシアが指を弾く
すると、カープノスの傍にレグルスが移動した
レグルスの腕を掴むと、カープノスが右手を上げる
「「逃げるが勝ちっ!!」」
シアとレグルスがそう叫んだのと同時に指を弾く音が二つ聞こえ、視界が歪んだ
食堂から、シアと再会したあの日、カープノスに連れられて来たあいつのサボり場に風景が変わった
あの時と違うのは、レグルスも居ることだな
「っと……お前らな……大人しく怒られる気はゼロかよ……」
苦笑いしながら三人を見ると、嫌そうに顔を顰めていた
「アリオトの鉄扇、痛いし……」
「何もあそこまで怒られるようなことはしておらんだろ」
『大体、
そっくりな反応を見せる三人に思わずため息が出た
「つか、二手に分かれんじゃなかったのか?」
「……あの時、レグルスと普通に話しちゃったから……」
「アリオトは地獄耳だからな……多分聞こえていただろう」
シアとレグルスは揃ってため息をつく
『だからアリシアが移動しそうな場所に飛んだんだ。……ここなら、見つかることもないからな』
呆れたように二人を見つめながら、カープノスが言った
なるほどね……そうゆう訳か
「でも、どうすんだ?あっちの状況わかんねえと、戻るに戻れねえだろ?」
そう言うと、三人揃って目を見開いていた
「ふむ……それもそうだな……」
「というかレグルス、なんでアリオトに見つかってるのさ……『あれ』使えばバレないじゃん」
「仕方なかったのだ。使う前に、アリオトが来てしまったのだからな」
「『あれ』ってなんだ?」
シアとレグルスの会話に首を傾げる
なんか見つからない方法でもあんのか?
『……初代は気配を消せる。ユーリも見ただろ?あの日、その場に居なかったはずの初代が現れたのを』
カープノスにそう言われて思い出した
そういや、『あれ』を倒しに行った日の朝、リタがびびってたな……
『初代、俺とそれを使えば、バレずに済むんじゃないか?』
「む……それもそうか……なら、我とカープノスで様子を探りに行くとするか。……お主らは待っているといい」
レグルスがそう言うと、カープノスがまた腕を掴んでいた
「ん、わかったよ」
シアが答えると、カープノスが指を鳴らして二人が消えた
「ったく、合流して早々大騒ぎだな?」
そう言いながら腰を下ろした
「だね〜……」
オレの隣に座ると、シアが右肩に頭を乗せて来た
「……あ、そう言えば、アレ兄からの伝言、もう一個あったんだ」
「ん?まだあったのか?」
そう問いかけると、シアがクスッと笑った
「『怪我させるなよ』って」
「……話したんだな?ザウデの地下に行くこと」
「ん、話した」
「その伝言、ホントにそれで全文なのか?」
シアの肩に右手を回しながら問いかける
前に一度、やたら長い伝言を端折って伝えて来たことあっからな……
「んー……正確に言うと……『私の大事な妹に怪我をさせるなよ?大切なものを守る為なら、刺し違えてでもとどめを刺そうとする程、無鉄砲な妹なのだから、そんな状況をつくるのも許さぬし、仮にそうなったら……死ぬ気で止めろ』……だった、かな?」
「……さすがに端折りすぎだろ……」
「……後、『お前は唯一、私がアリシアに触れることを許した者なのだから、もし怪我でもさせたら……アリシアに止められようが八つ裂きにする』って」
……思っていた倍は長い伝言だな……
「ったく……言われなくともそうするっつーの。オレだってもう御免だぜ?シアの捨て身はな」
苦笑いしながらそう答える
いつの間にか、認められてたのはいいが……
何もそこまで脅して来なくてもいいだろ……
「そんなこともうしないって言ったんだけどね?ヨームゲンでの出来事、まだ根に持ってるみたい」
「そりゃそうだろうな?オレだって、まだ忘れたつもりはねえぞ?」
「うっ……あれは……ちょっと自暴自棄になってたのもあるし……もう絶対しないってば」
少し気まずそうに、シアは答える
「……そうだったな。またそうならないようにすんのも、オレの役目だな」
シアの頭に軽く頭を乗せる
いつの間にか、こうしているのが当たり前になっちまって、こうしてねえと落ち着かないんだよな
「………けど、最近、またちょっと心が揺らいでる」
少し声のトーンを落として、シアが呟く
「…なんかあったか?」
「アレ兄と話してるとさ……時々、アレ兄が気にしてること、無意識に口走っちゃうんだよね……
そうすると、いっつも寂しそうに笑うんだ。『私のせいで』……って
……アレ兄が本当に悪かった訳じゃないのに……」
悲しそうな声で、シアが言う
今の今まで聞きづらくて聞いて来なかったが……さすがにもう、聞かないといけないだろう
「なぁ?なんであの人……あんな事したんだ?」
「……評議会の中でも、ラグナロク家に対する意見は割れてたんだって」
少し話しづらそうに、シアはゆっくりと口を開く
「いくつかあったみたいなんだけど……過激だったのは、自分たちの手に収めたい派……それと、葬り去りたい派」
小さく呟かれた言葉に耳を疑った
そんなことまで考える馬鹿がいただなんて、思ってもいなかった
「……あの時、お父様達を見捨てたのは……その、葬り去りたい派の人達……
あのふざけた計画立ててるの、たまたま聞いちゃったんだって、アレ兄
……すぐにお父様に言おうとしたらしいけど……その派閥の人に、聞いてたの見られちゃったみたいで、二択を迫られたって言ってたよ」
「……二択、か?」
「……騎士団を辞めるか、計画に手を貸すか」
静かに、シアは答える
「騎士団を辞めてしまえば、過激な派閥の人達の動向が探れなくなる……だからと言って、手を貸すなんて、言語道断……
……かなり……悩んだみたい、だよ?
……で、出した答えは……条件付きで、手を貸すこと」
「その、条件って……?」
「……私だけには、手を出さない事。……あの人達が葬り去りたかったのは……貴族籍を持っていながら、下町の住民を優先しようとするお父様とお母様だったみたいだから……私にさえ、手を出さなければ……って」
「よく通ったな、その条件……あん時には、シアもライラックさんくらいには刀振れてただろ?」
「そこは……その人たちも、気にしたみたい……だから、言ったんだって
『たかが16の小娘一人に、何ができると?まともに力も使えない彼女など、脅威にはならないでしょう?』……って
全員が納得したわけじゃないみたい……なんだけど、それでも、アレ兄の実力と、騎士団長って役職の人間の手は借りたかったみたい……」
「……アレクセイも考えた訳だな。シアを守るために」
そっと頭を撫でる
顔はよく見えねえけど……きっと、泣きそうだろうから
「……何度、引き返そうとした事か……って、言ってた。何度も何度も……引き返しそうとして……それでも、引き返してしまえば、約束を破った事になるから……私を、守れなくなるから……必死で、振り返らないように、してた……って、アレ兄も、泣きそうにして言ってた」
「……けど、その後、シアに対して酷い要求ばっかしてきたのはなんでだ?あの人もそれ後悔してたんなら、後で事情をシアに話しときゃ」
「私が、恨む相手が……アレ兄だけに、したかったんだって……」
少しオレの言葉に被せるように、小さく、それでもハッキリと、シアが答える
「怨霊は、恨んだり、憎んだりする対象の数が多ければ多いほど、生まれやすい
……私は星暦、本家の一人娘……いつかは、当主として立つべき人間で……そういうものを、排除する役目がある」
そう言うシアの声が、震え始める
「……そんな私が、それを生み出したり、なんてしたら……きっと、後で後悔して……自分で自分が許せなくなって……例え刺し違えてでも、自分の怨霊を排除しようとするだろう?って……他の誰かに頼らず……たった、一人で……って……っ
だから、『私』だけを……恨んで、くれたら……って……そうすれば、少なくとも、そんなもの、生み出さなくて、済むはずだと……思った……って……っ」
とうとう泣き出したらしく、シアはそれ以上、口を開かなかった
……ったく、この兄妹は……
「……アレクセイも、人の事言えねえじゃねえか
……自分犠牲にして、シアを守ろうとするなんてな」
シアの頭の後ろに右手を当てて軽くオレの方に押すと、すんなりオレの胸に額を当ててきた
左腕で抱きしめながら、頭を撫でる
言葉足らずなところも、大切な人を守るために自分が犠牲になるのも厭わないところも、アレクセイそっくりだな
……ホント、他人に影響されやすいな、シアは
「それ知ってて、今の今までよく泣かずにいたな?」
「……って………アレ、兄が……っ、お、父様…っ、とっ……お母……様っ…に、言うな……って……っ、自分で、ちゃんと……っ、伝える、から……っ、それまで、内緒…って……っ」
しゃくりをあげながら、途切れ途切れにシアが答える
おいおい……大泣きじゃねえか……
「内緒って言われてたのに、オレに話してよかったのか?」
少し苦笑いしながら問いかける
「…っ……ユーリ、に……っ、言っちゃ、ダメ…って、アレ兄……っ、言って……ない、もん……っ」
「……それなら、いいんだけどな」
そう答えて、シアの頭に軽く顎を乗せた
さて……どうしたもんかねえ……
『……おい、ユーリ』
どう泣き止ませようか考えてると、頭の中でカープノスの声が響いた
この感じ……オレにだけ話しかけてきてんな
「(なんだよ?今ちょい手が離せねえんだけど?)」
シアから視線を外して、少し空を見ながら声をかける
『……知っている。聞いてたからな』
「(……盗み聞きしてたのかよ……)」
『仕方ないだろ……話しかけようとしたら、お前たちが話していたのだから』
不機嫌そうな声に思わずため息が出そうになった
「(へいへい、そりゃ悪かったよ……んで、どうしたんだよ?)」
『……その泣き虫姫が泣き止んだら教えてくれ。……俺らが代わりにアリオトに怒られておいてやるから』
「(……バレたんだな?様子見に行ったの)」
『初代がドジりやがったんだ。……はぁ……本当に、初代もアリシアも、手がやける……』
「(そりゃ同感だわ……ま、泣き止んだら連絡するわ)」
『……ああ、頼む』
カープノスとの会話を終えて、シアに視線を戻すと、まだ肩が震えてる
こりゃしばらく泣きやみそうにもねえな……
……ま、一人で泣かれるよりはよっぽどいいか
今は……泣きたいだけ、泣かせてやればいい
泣き続けるシアの頭を撫でながら、ただただ黙って、泣き止むのを待った
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