第5部〜箱庭の世界〜
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突然の呼び出し
〜『憎悪』との戦いから約半年後・エフミドの丘〜
崖の傍に座って、ボーッと海を眺める
時折吹く風が心地いい……
あれから半年くらい経った
この半年間、時々暴走するエアルクレーネを鎮めながら、ユーリとラピードと世界を見て周っているけど……
世界は、私の知ってたものとは大きく変わっていた
魔導器 も、今はどちらかと言うと白匣 に近いものになっているし、使用が許可されているものの数もかなり減っていた
そこは、まぁ……エアルの乱れの問題もあるし、そもそも精霊達がまだ人間と馴染んでいないせいもあるだろう
……人が、精霊達を『もの』と考えず一つの新しい生命体だと認知するようになれば……また、少し変わって行くかな
あの日以来、みんなにはまだ会っていない
一度だけ、用事があってカープノスとレグルスには会って、そのついでに、私のネックレスの調整もしてもらった
気が向いたら、そのネックレスを通して、カープノスには連絡したり、カロルにも手紙は送ったりギルドの以来も時々引き受けたりはしてるけど……
一度でもみんなに会ったら……また、私は自分の立場を思い出さないといけない気がして、中々みんなのところに戻る気になれなかった
……今まで背負ってきていたもの、全部下ろしてユーリと一緒に世界を回ってる時間が心地よくって……
……正直、帰るのが惜しい
ずっとこのままって訳にはいかないのも、わかってはいるんだけど……
……それでも、まだ……この穏やかな時間を手離したくないな……
「シアー?あんま崖の傍近寄んなよー?」
そんな事を考えてると、不意にユーリの声が後ろから聞こえる
少し体を捻って後ろを向くと、ユーリとその傍にラピードの姿が見えた
「って……おいおい……んなとこで座ってんなって」
困った顔で笑いながら、ユーリが私を見つめてくる
「別に落ちたりしないって〜。それに、落ちたとこで飛んで上がって来れるし」
「あのなぁ……そうだとしても、オレの心臓が持たねえって、散々言ってるだろ?」
笑いながら答えると、ユーリが私の傍に近寄って来る
「ほら、シア」
近くまで来たユーリが私に向かって手を伸ばしてきた
……もう少し、ここで見てたかったんだけど……
差し出された手を取らないのも嫌で、大人しくユーリの手を取って立ち上がった
「ったく、無理無茶しなくなったと思ったら『これ』だからな。シリウスにでも知られたら、まーた怒り狂いそうだぜ?」
少し意地悪げにそう言いながら、頬をつついてくる
「危ないことしたつもりはあんまりないんだけど……気をつけるよ」
ちょっと肩を竦めながら答えると、ユーリが頭を撫でてきた
……やっぱり落ち着くなぁ、ユーリの手は
「んで、カープノスから伝言あんだけど……」
少し言いづらそうにユーリが口を開く
え、今?このタイミングで??
「……なに……?」
「そろそろ一度、屋敷に来て欲しいんだとよ」
嫌な予感がして恐る恐る聞いた私に、困り気味にユーリが答えた
「げ……このタイミングでの呼び出しって……やな予感しかしないなぁ……面倒事起きてそう…」
ため息をつきながら肩を落とした
エアルクレーネの暴走は、ついこの間鎮めに行ったばかりだし……
私が必要なことで、考えられることと言えば……
……怨霊絡み、しかないんだけど……
そうなると……『あそこ』……かなぁ……
「シアが言うと、ホントにそうなりそうだな……」
「うー……まだ、もう少し、ユーリとラピードだけで居たかったんだけど……」
ほんの少し頬を膨らませると、ユーリが少し驚いたような顔をした
けど、すぐに嬉しそうに微笑んでくる
「ははっ、いつの間にか、オレよりシアの方が帰りたくなくなっちまったな?」
そう言いながら、ユーリが私を抱きしめてくる
「……何も考えなくていいの、思ってたよりも楽だったから……」
小さく呟くように言いながら、ユーリの背に手を回して、胸元に顔を埋めた
正直、当主だとか、使命だとか……そういうの、全部忘れて過ごせてる今が楽で……まだもう少し……荷は下ろしたままでいたい……
「……もう少し……もう少しだけでいいから……忘れてたいなって……」
「……ま、ライラックさん亡くなってから、七年近く当主やら使命やら、背負ってきてたんだしな?そう思うのも無理ねえけど……
けど、いい加減顔見せてやんねえと、ライラックさんも拗ねてるんじゃねえか?」
優しく私の頭を撫でながら、幼子をあやす様に、ユーリは言ってくる
もう……そんな言い方、ずるいじゃん……
「……ユーリが言うなら……一度、帰ってあげよっか」
ゆっくりと、ユーリから離れて顔を上げる
ユーリ自身もあまり戻りたくないのか、少し残念そうに微笑んでいた
「用事が済んだら、また一緒に見て回ろうぜ?…オレもまだ、シアの事独り占めしてたいしな?」
パチッとウィンクしながら、ユーリがそう言ってくる
……ホント、戻るの惜しいなぁ……
けど……切り替えていかないと
その場で軽く伸びをして、頬を軽く叩いた
「……じゃっ、行こっか?」
「おぅ」
ユーリは短く返事をすると、私の腰に手を回してくる
ラピードが私の足元に寄ってきたのを確認して、指を弾いた
ーー星暦の集落・レグルスの屋敷ーー
『「……………」』
食堂に、カープノス達と、エステル達は集まっていた
カープノスとアイリーン、リタにより、白匣 の改良は成功しており、彼らはそれぞれが自由に動き回れるようになっていた
シリウス達は各々、白匣 の埋め込まれた短剣を持ち、各地の小さなエアルの歪みを正し
エステル達は各々がやるべき事をやって過ごしていた
そんな彼らを集めたのは、他の誰でもない、レグルスだ
以前よりもアムリタの使用頻度が落ち、眠っている時間の減った彼は、シリウス達と同じように、歪みを正しながら、再び怨霊が発生しないように見張っていた
そんな彼が、急に全員を集めたのだ
未だ、ここにいないのは、ユーリとアリシア、ラピードだけだった
「フレンちゃんもシリウスも……そんなにおっかない顔しなくてもいいんでない…?」
不機嫌を隠そうともしないフレンとシリウスに、レイヴンが恐る恐る声をかけると、二人は彼を睨みつける
『いくら何でも、遅すぎるだろ!』
「あの二人…どれだけ待たせる気なんだ……!」
あからさまに怒っている二人に、一同はため息をついた
『別に少し遅れてるくらいいいだろ……』
『僕はもう少し、アリシアを休ませてあげてた方が、よかったと思うし……』
頬杖をつきながら、カストロとポルックスは、シリウスとフレンを呆れたように見つめた
「ま、遅いって意見には同意だけど?別に、急ぎってわけでもないんでしょ?」
「ああ。大して急いではおらんな」
リタの問いに、レグルスは頷いた
『だとしてもだ!連絡さえしてきておらんのだったから、もう少し早く来てもいいだろうっ!?』
ガタンッと音を立てて立ち上がりながらシリウスが怒鳴る
『うぇ……シリウス、こんなんでガチギレしないでくんない〜?』
『アルタイルの言う通りだよ……ボクらじゃキミ、止めるの大変なんだけど…』
今にも暴れだしそうな雰囲気のシリウスに、アルタイルとカペラは少し身構えた
「全くですね……僕らがどれだけ心配していたと……っ!」
わなわなと肩を震わせながら、フレンも怒りを露わにする
「フ、フレン…?穏便に行きましょう??ね?ね?」
今にもブチ切れそうなフレンを、エステルが必死に宥めようとしていた
「連絡もせずに、二人とも……どこをほっつき歩いているんだ!!」
そう叫んだフレンを見て、ジュディスが少し首を傾げた
「あら、おかしいわね?あの二人、ギルドの依頼は時々受けていてくれたから、私たちには連絡してきていたのに」
胸の下で腕を組みながら、ジュディスはカロルを見る
一瞬、肩を竦めたカロルが気まずそうに頷くと、ガタンッと大きな音が鳴る
カロルが驚いて音のした方を見ると、フレンが立ち上がって、拳を震わせていた
『気性が荒いのが二人も……これ、止めるの大変だよ……』
どこか嫌そうにリゲルが呟いた
『あら、困りましたわね……』
困った顔をして、ペテルギウスは二人を見つめる
いっそ水でも頭からかけてしまおうかと考えていた時、急にベガが瞳の色を濃くして、上を見上げたのが彼女の視界の隅に映った
『…来る』「『あ・の・ふ・た・り……っ!!』」
ベガの呟いた言葉は、シリウスとフレンにかき消されてしまった
が、それと同時に、少し懐かしい声が部屋に響いた
「誰のこと言ってるの?」
その声に驚いて、シリウスとフレンが声の聞こえた方向に勢いよく顔を向けると、レグルスの傍にユーリとアリシアの姿が見えた
アリシアはほんの少し、首を傾げて目をパチパチとさせていた
「来るのが遅い!!」『帰るのが遅い!!』
フレンとシリウスの二人は、同時に二人に向かって怒鳴った
「うげ……来て早々お怒りじゃん……もう……やっぱもーちょっとのんびりしてたかった」
傍にいるユーリに少し寄りかかりながら、アリシアはユーリを見上げた
「それ、余計に怒らせるだけだぜ、シア?むしろこのくらいで済んでんだから、まだマシだろ?」
「別に無理も無茶も、怒られるようなこと何もしてなかったのにね?」
自分を見つめながら首を傾げるアリシアに、ユーリはただ苦笑いして肩を竦めた
「連絡っ!!」
『なかっただろ!?』
ユーリを見つめていたアリシアは、怒鳴り声に驚いて二人を見た
あからさまに怒っている二人に、少しだけまた首を傾げる
「あれ?私、カープノスにもカロルにも連絡してたし……ちゃんと伝言も頼んでたよね?」
そう言ってもう一度、アリシアはユーリを見上げた
「だな。カープノスの方は口頭だったが……カロル先生にはちゃんと人数分、手紙送ったろ?」
ユーリとアリシアが揃って二人を見ると、二人ともやばい、と言わんばかりに顔を歪めて背けた
カロルに至っては、ダラダラと冷や汗をかいていた
「……どういうことだい?カロル?」
『おい、カープノス!こっちを見ろ!!』
二人の言葉に、フレンとシリウスはそれぞれカロルとカープノスを睨みつける
「……ごめん、フレンとは中々会えないから……渡すの、忘れてた……」
『…ふん、お前は少し、アリシア離れするべきだと思ったんだ』
フレンとシリウスから顔を背けたまま、二人は口を開いた
フレンとシリウスが怒声を上げようとした瞬間、アリシアが指を弾いた
すると、二人の頭上から水が落下する
「はいはい、二人ともー、いい加減大人しくしてよ?レグルスがそろそろキレるって」
ずぶ濡れになった二人を呆れ気味にアリシアが見つめる
『あら、わたくしが手を下すまでもなかったようですわね』
クスッと笑いながら、ペテルギウスはアリシアを見た
『あーあ……アリシアまでそれやるようになったか……』
『けど、カープノスのあれよりはマシじゃない?』
若干引き気味にアリシアを見つめているカストロに、ポルックスは首を傾げた
「今回はカロルが悪いのじゃ。ユーリとシア姐はちゃんと、全員に手紙を書いておったのに、フレンには渡しておらんかったのじゃから」
腕を組んで小さく頷きながら、パティは二人を擁護した
『こちらも悪いのはカープノスですね』
『だな。私らにはしっかりと伝言を伝えて来ていたからな』
アイリーンとライラックはそう言って顔を見合わせた
『え、ちょっと待って……?』
『二人にも……連絡あったの?』
アルタイルとカペラは恐る恐る、二人に声をかけた
『ええ、カープノスから伝言はありましたよ?』
アイリーンが首を傾げて答えると、レグルス以外の星暦達がカープノスの方を見た
『カープノス!?』
『おいこら!おれらも聞いてねえぞ!?』
『……アリシアの親はライラックとアイリーンだけだろ?初代には伝える必要があると思ったから伝えたが……お前らも、いい加減アリシア離れしろ』
怒っている彼らに対し、カープノスが不機嫌そうに答えた
「はぁ……カープノスってば……」
アリシアは小さくため息をつくと、また指を鳴らした
今度はカープノスの頭上から水が落下してくる
「ちゃーんと伝えてって言ったでしょ?……ダメじゃん、言わないのは!」
少し膨れながら、ずぶ濡れになったカープノスを睨み気味にアリシアは見つめる
『…………悪かった………』
アリシアに怒られ、カープノスは小さな声で謝った
「……お主ら…そろそろ話を進めてもよいか?」
ほんの少し、苛立ちながらレグルスはフレンとシリウス、そしてカープノスを見た
「……すみません……」
『すまん……』
『……ああ』
シリウスとフレンの二人はそう言って、椅子に腰を下ろし、カープノスは気まずそうにレグルスから顔を背けた
もう大丈夫だと悟ったのか、アリシアはそのまま、レグルスの隣に座り、ユーリはアリシアの隣に座った
「それで……なんでまた全員集合なの?レグルス」
隣にいるレグルスを見ながら首を傾げる
正直、フレン達もいるとは思っていなかった
「うむ……少々厄介な事が起きていてな?」
ほんの少し、言いにくそうにレグルスが言葉を続ける
「ザウデ不落宮の地下、満月の子の墓所の更に下……そこに溜まっているなり損ないが『また』怨霊となりつつあるようなのだ」
レグルスの言葉に顔を顰めた
やっぱりそれ絡みか……
まぁ予想はしてたけどさぁ……
「うげ……マジ……?私、あんまりあの下、行きたくないんだけど……」
頬杖をつきながら、レグルスを見る
「墓所の下って、なんかあんのか?」
ユーリはそう言って首を傾げる
それは、フレン達も同じで……
……そうだ、みんなは知らなくて当然なんだ
『……あまり言いたくはないのですが……』
『あの下は、魔導器 を捨てることを最後まで拒んだ満月の子の一派の、幽閉地でもあるのですわ』
言いたくなさそうなアリオトの代わりに、ペテルギウスがハッキリとそう答えた
その答えに、ユーリ達が驚いたのが視界の隅に見えた
「恐らく、まだ生き残りもいるだろうな。……『奴』も含めて、な」
私と同じく、レグルスも行きたくないのか頬杖をついて、嫌そうに顔を顰めていた
『……初代もアリシアも、そんなに嫌そうな顔をするな。怨霊が発生しているなら、放っておくわけにいかんだろ?』
気を持ち直したのか、呆れ気味にカープノスが私とレグルスを見てくる
「行きたくないものは行きたくないんだもん……あそこ、怨霊のなり損ないのたまり場じゃん?どんだけ浄化しなきゃいけないのさ……それに……」
「彼処に幽閉された満月の子らは、星喰みが現れても尚、我ら一族を根絶やしにしようとした『奴』の一派だ。あやつらがその事を忘れていたとしても、会うことにいい気はせん。大体……」
「「“『あいつ』/『奴』”に会いたくない!!」」
レグルスと二人、同じ言葉を言いながらテーブルを叩いた
考えていたこと……一緒だったみたいだね
『息ピッタリすぎて怖ぇんだけど……』
『アリシア……ちょっとレグルス様に似すぎてない……?』
若干引き気味なカストロとポルックスの声が聞こえる
似すぎって言われても……私のせいじゃないし…
『ははっ!二人とも諦めろ。怨霊がまた『憎悪』になった方が、後が面倒だろう?』
クスクスと笑いながら、お父様が言ってくる
そりゃ……そうだけどさぁ……
「あーぁ……呼び出しって聞いた時から、なんとなーくそんな気はしてたけどさぁ……
あそこ、ただでさえ怨霊のなり損ないが溜まりやすいのに、『あいつ』がバッカみたいになり損ない作りまくってて浄化が追いつかないし……
『あいつ』は顔合わせる度にネチネチうっさいから嫌なんだよね……
……私、今回パスしちゃダメ?レグルス」
隣にいるレグルスを見ながら言うと、レグルスは首を横に振った
「駄目に決まっている。我とて向かいたくない
が、やらねばならんだろ?」
嫌そうながらも、諭すように私に言ってくる
やっぱダメかぁ……
「あら、意外ね?あなたなら、今すぐにでも向かいそうな事なのに」
ジュディスの声に顔を向けると、ほんの少し不思議そうに首を傾げていた
『……たしかに、いつもなら、ぼくらが言う前に飛び出してるのに…』
不思議だったのはジュディスだけじゃなくて、みんなも同じだったみたい
みんな揃って不思議そうに私を見てきてる
不思議そうじゃないのは、ユーリとレグルスにカープノス、それと……お父様とお母様くらい、かな?
「ここ半年は割とずっとこんなんだぜ?」
私の頭に手を乗せながら、ユーリが答える
「私がやりたかった事は一通り片付けられたからね〜
使命だとかそう言うの、なーんにも考えずに過ごせるの、案外楽で……正直また考えるの、嫌なんだよねえ……」
クスッと笑いながらユーリを見上げる
ちょっとだけ、困ったように笑いながら、ユーリは私を見下ろしていた
『えぇ……ちょっと気抜きすぎじゃない……?』
『……アリシア、肩の荷、下ろしすぎ……』
呆れたようにカペラとベガの二人が私を見てくるのが視界の端に映る
『ははっ!良いではないか!その分少しは大人しくなっているのだから』
楽しそうで、ちょっと嬉しそうなお父様の笑い声が部屋に響く
「確かに無理無茶は減ったけど、若干子どもっぽさが増したよな?」
「そうかな?」
そう言って首を傾げる
そんなに子どもっぽいことをしたつもりはないから、よくわからないんだけど……
「……今この話すっと、レグルスの話が進まなくなっから、後でにしないか?」
苦笑いしながらそう言って、ユーリはみんなを見回した
「そうね。今はそれよりも、その怨霊絡みなのに私達も呼ばれた理由が知りたいわ」
クスッと笑いながら、ジュディスがレグルスの方を見る
「ああ、それも話さねばいかんな。……墓所の下層はダンジョンになっていてな、なり損ない以外にも魔物が多く住み着いておる。我とアリシアだけで進むには、少々無理があるし、こやつらだけを連れて行くと……今度は墓所諸共破壊しかねんからな……
行きたくない場所であるのはそうだが、破壊されるのは少々困るのだ
そこで、お主らを呼んだのだよ。お主らなら、破壊せずに魔物を倒すことができよう?」
レグルスは未だに嫌そうに顔を顰めながらそう答える
「あー……そっか、魔物の問題もあったっけ…
さすがに私も、魔物倒した後で浄化はしんどいなぁ………ホント…行きたくない……」
もう一つ、考えないといけないことが増えて思わずため息が出た
「シア、いい加減諦めて切り替えろって」
ため息をついてると、ユーリが頬をつついてくる
少しムッとしながらユーリを見ると、まだ困った顔をしていた
……これ以上、ユーリ困らせるのもなぁ……
「……はぁ、それもそうだねぇ……」
手を組んで腕を前に伸ばす
ユーリの言う通り、もう切り替えないと
……どれだけ忘れたくても、私は星暦、ラグナロク家当主なんだから
やらなきゃいけないことは……やらないと、ね
「……で?フレン達を連れて行くとして、シリウス達は留守番させておくつもりなの?レグルス」
腕を組みながら、レグルスを見て問いかける
「いや?連れて行くぞ?白匣 の改良が済み、こやつらも多少は浄化ができるようになったからな。なり損ない程度であれば任せられるだろう」
「程度……って、なり損ないの集まり、そんなにヤバい怨霊にでもなりそうなの?」
レグルスの言い方に、ヤバい雰囲気しか感じない
「いや?そちらはそこまで問題ではない。今の状態であれば、こやつらでも浄化できるだろう」
私の問いにレグルスは首を横に振った
「えぇ……じゃあ『何』を相手にするつもりなのさ……」
そうは言ったものの、凡そ検討はつく
怨霊のなりかけ、じゃないんだとしたら……
「……いい加減、『奴』には退場してもらおうかと思ってな」
少し言いにくそうに、けど、ハッキリとレグルスは答えた
その答えに、思わずため息が出た
やっぱりそうだよねぇ……
「はぁ……そうだと思ったよ……まぁ、そろそろ無限になり損ない生成されるのもごめんだし、潮時だよね〜」
「うむ。それに、星喰みもその憎悪もいなくなった今、『奴』を生かしておく理由もなくなったからな。……いい加減、因縁にケリを付けなければならん」
「……それも、そうだね
まーたのんびりしてる時に呼び出されるのも嫌だし、浄化次いでに……サクッと葬ろっか?」
ニコッ笑って言うと、さっき不思議そうにしなかった五人以外が驚いていた
「アリシアちゃん、切り替え早いわねぇ……」
『あーあ……一気にまた無理無茶しそうな雰囲気に逆戻りじゃねーかよ……』
「別に無理無茶なんてしないって。平気平気〜」
少し不安そうにしているカストロに向かって、笑いながら答えた
『すっごく信用ならないんだけど……ベガ、どう?』
アルタイルがジト目で私を見ながら、ベガに問いかけていた
ほんの少し、ベガの瞳が濃くなったのが見える
『……うん、大丈夫……少なくとも、今回は無理無茶、しない』
ハッキリとした声でベガが答える
いやだから……しないって言ってるのに……
『ベガが言うのであれば本当なのでしょうけど……』
『にわかには信じがたい、ですわね……』
ジトーっとアリオトとペテルギウスが私を見てくる
「だーかーらー、もう無理無茶しないって言ってるじゃん?そんなに疑われなくとも、私、レグルスみたいな事はしないって」
大きくため息をつきながら答える
ベガだって言ってるんだから少しくらい、信じてくれたっていいじゃん……
「あんたのその言葉に、あたしら何度騙されたと思ってんのよ?」
呆れたような声のリタの言葉に、思わず肩が跳ねた
「……そう言われると、何も言えないね……」
そう言って、少し顔を背けた
確かに半年前まで無理無茶しまくって来てた訳だし……当然と言えば当然な反応なのか……
『まぁ……信じていいんじゃない?』
『だよな?『あれ』との戦いの時も、本当に無理無茶してなかったしな』
そうしていると、ポルックスとカストロの擁護してくる声が聞こえた
「そうですね。手紙を読んだ感じでは、ここ最近は、本当に大人しいみたいですから」
エステルの声に少し顔を向けると、少し微笑ましそうに私を見て来ていた
擁護してくれるのは嬉しいけど……なんでそんな顔してるんだろ?
「それに、ユーリが一緒なら無理無茶しそうになっても止めてくれんでしょ。そこまで心配する必要もなさそうよね〜」
ケラケラと笑いながら、レイヴンも私を見てくる
「もう早々、しねえとは思うけどな?まっ、そうなったら無理矢理でも止めてやるって」
クスッと笑いながら、ユーリがそれに返していた
……うん、なんかもう言ってもダメそうだし、なんでもいいや……
「で、レグルス?もう行くの?」
気持ちを切り替えて、レグルスに問いかける
「いや、まだ我の刀の修復が終わっておらん。後一週間は時間が欲しいところだな」
「……それ、修復終わってから私呼ぶでもよくなかった?」
ジトーっとレグルスを見る
一週間も時間があれば、もう少し、ユーリと二人で居られたじゃん……
「お主の事だ、どうせ用が済んだらまた青年と放浪し始めるだろ。少しはあやつらを構ってやらんか?いい加減、アリシアに会いたいと騒ぐあやつらを叱るのが我も面倒だ」
呆れ気味に私を見ながらレグルスが言ってくる
うぇ……バレてるし……
「……こりゃさすがに、暫く無理そうだな」
コソッとユーリが耳元でそう言ってくる
チラッと見ると、ちょっと残念そうに眉を下げて笑っていた
「……だーねぇ……火に油注ぐことになりそ」
苦笑いしながら私も小声で返した
『……おいこらアリシア……?今何話してた……?』
怒りの篭ったシリウスの声に顔を向けると、ワナワナと肩を震わせているシリウスの姿が目に入った
今の今まで静かにしてたくせに……
「別に何も?」
こてんっと首を傾げながら、シリウスを見る
……まぁ、この程度じゃその怒りは収まんないよねぇ……
『……お・ま・え・と…言うやつは……っ!!』
そう叫んで、シリウスが大剣の柄を握り締めた
あっ、ガチギレじゃんコレ……
別にそんなに怒らなくたっていいのに……
『バッカ!!シリウス!!ここで抜くなってっ!!』
ガタンッと音を立てながらカストロが立ち上がった
他のみんなも、あわあわとシリウスから離れて行ってる
……もう、仕方ないなぁ……
「ユーリ、ちょっと行って来てい?」
ほんの少し眉を下げながら笑ってユーリを見上げる
「さすがにダメとは言えねえな……怪我すんなよ?」
苦笑いしながらそう言って、頬にキスしてくる
「ん、平気平気〜」
そう言って指を弾いた
瞬間、屋敷の外……前にもシリウスと戦った場所に、シリウスと二人で出た
さて……と
驚いてるシリウスを他所に、刀を抜く
白雷の切っ先をシリウスに向けた
「シリウス、私に勝てたら、さっきの話してあげてもいいよ?」
ニヤッと笑いながら言うと、あからさまにシリウスがキレた顔をした
『〜〜〜っ!!今日という今日は……っ!容赦せんからなっ!!?!』
大剣を構えながら、シリウスが睨みつけてくる
…嘘つき、そう言っていっつも手抜くくせに
「はいはい、わかってるよ」
クスッと笑いながらそう答えて、私も構える
そして、同時に駆け出した
〜『憎悪』との戦いから約半年後・エフミドの丘〜
崖の傍に座って、ボーッと海を眺める
時折吹く風が心地いい……
あれから半年くらい経った
この半年間、時々暴走するエアルクレーネを鎮めながら、ユーリとラピードと世界を見て周っているけど……
世界は、私の知ってたものとは大きく変わっていた
そこは、まぁ……エアルの乱れの問題もあるし、そもそも精霊達がまだ人間と馴染んでいないせいもあるだろう
……人が、精霊達を『もの』と考えず一つの新しい生命体だと認知するようになれば……また、少し変わって行くかな
あの日以来、みんなにはまだ会っていない
一度だけ、用事があってカープノスとレグルスには会って、そのついでに、私のネックレスの調整もしてもらった
気が向いたら、そのネックレスを通して、カープノスには連絡したり、カロルにも手紙は送ったりギルドの以来も時々引き受けたりはしてるけど……
一度でもみんなに会ったら……また、私は自分の立場を思い出さないといけない気がして、中々みんなのところに戻る気になれなかった
……今まで背負ってきていたもの、全部下ろしてユーリと一緒に世界を回ってる時間が心地よくって……
……正直、帰るのが惜しい
ずっとこのままって訳にはいかないのも、わかってはいるんだけど……
……それでも、まだ……この穏やかな時間を手離したくないな……
「シアー?あんま崖の傍近寄んなよー?」
そんな事を考えてると、不意にユーリの声が後ろから聞こえる
少し体を捻って後ろを向くと、ユーリとその傍にラピードの姿が見えた
「って……おいおい……んなとこで座ってんなって」
困った顔で笑いながら、ユーリが私を見つめてくる
「別に落ちたりしないって〜。それに、落ちたとこで飛んで上がって来れるし」
「あのなぁ……そうだとしても、オレの心臓が持たねえって、散々言ってるだろ?」
笑いながら答えると、ユーリが私の傍に近寄って来る
「ほら、シア」
近くまで来たユーリが私に向かって手を伸ばしてきた
……もう少し、ここで見てたかったんだけど……
差し出された手を取らないのも嫌で、大人しくユーリの手を取って立ち上がった
「ったく、無理無茶しなくなったと思ったら『これ』だからな。シリウスにでも知られたら、まーた怒り狂いそうだぜ?」
少し意地悪げにそう言いながら、頬をつついてくる
「危ないことしたつもりはあんまりないんだけど……気をつけるよ」
ちょっと肩を竦めながら答えると、ユーリが頭を撫でてきた
……やっぱり落ち着くなぁ、ユーリの手は
「んで、カープノスから伝言あんだけど……」
少し言いづらそうにユーリが口を開く
え、今?このタイミングで??
「……なに……?」
「そろそろ一度、屋敷に来て欲しいんだとよ」
嫌な予感がして恐る恐る聞いた私に、困り気味にユーリが答えた
「げ……このタイミングでの呼び出しって……やな予感しかしないなぁ……面倒事起きてそう…」
ため息をつきながら肩を落とした
エアルクレーネの暴走は、ついこの間鎮めに行ったばかりだし……
私が必要なことで、考えられることと言えば……
……怨霊絡み、しかないんだけど……
そうなると……『あそこ』……かなぁ……
「シアが言うと、ホントにそうなりそうだな……」
「うー……まだ、もう少し、ユーリとラピードだけで居たかったんだけど……」
ほんの少し頬を膨らませると、ユーリが少し驚いたような顔をした
けど、すぐに嬉しそうに微笑んでくる
「ははっ、いつの間にか、オレよりシアの方が帰りたくなくなっちまったな?」
そう言いながら、ユーリが私を抱きしめてくる
「……何も考えなくていいの、思ってたよりも楽だったから……」
小さく呟くように言いながら、ユーリの背に手を回して、胸元に顔を埋めた
正直、当主だとか、使命だとか……そういうの、全部忘れて過ごせてる今が楽で……まだもう少し……荷は下ろしたままでいたい……
「……もう少し……もう少しだけでいいから……忘れてたいなって……」
「……ま、ライラックさん亡くなってから、七年近く当主やら使命やら、背負ってきてたんだしな?そう思うのも無理ねえけど……
けど、いい加減顔見せてやんねえと、ライラックさんも拗ねてるんじゃねえか?」
優しく私の頭を撫でながら、幼子をあやす様に、ユーリは言ってくる
もう……そんな言い方、ずるいじゃん……
「……ユーリが言うなら……一度、帰ってあげよっか」
ゆっくりと、ユーリから離れて顔を上げる
ユーリ自身もあまり戻りたくないのか、少し残念そうに微笑んでいた
「用事が済んだら、また一緒に見て回ろうぜ?…オレもまだ、シアの事独り占めしてたいしな?」
パチッとウィンクしながら、ユーリがそう言ってくる
……ホント、戻るの惜しいなぁ……
けど……切り替えていかないと
その場で軽く伸びをして、頬を軽く叩いた
「……じゃっ、行こっか?」
「おぅ」
ユーリは短く返事をすると、私の腰に手を回してくる
ラピードが私の足元に寄ってきたのを確認して、指を弾いた
ーー星暦の集落・レグルスの屋敷ーー
『「……………」』
食堂に、カープノス達と、エステル達は集まっていた
カープノスとアイリーン、リタにより、
シリウス達は各々、
エステル達は各々がやるべき事をやって過ごしていた
そんな彼らを集めたのは、他の誰でもない、レグルスだ
以前よりもアムリタの使用頻度が落ち、眠っている時間の減った彼は、シリウス達と同じように、歪みを正しながら、再び怨霊が発生しないように見張っていた
そんな彼が、急に全員を集めたのだ
未だ、ここにいないのは、ユーリとアリシア、ラピードだけだった
「フレンちゃんもシリウスも……そんなにおっかない顔しなくてもいいんでない…?」
不機嫌を隠そうともしないフレンとシリウスに、レイヴンが恐る恐る声をかけると、二人は彼を睨みつける
『いくら何でも、遅すぎるだろ!』
「あの二人…どれだけ待たせる気なんだ……!」
あからさまに怒っている二人に、一同はため息をついた
『別に少し遅れてるくらいいいだろ……』
『僕はもう少し、アリシアを休ませてあげてた方が、よかったと思うし……』
頬杖をつきながら、カストロとポルックスは、シリウスとフレンを呆れたように見つめた
「ま、遅いって意見には同意だけど?別に、急ぎってわけでもないんでしょ?」
「ああ。大して急いではおらんな」
リタの問いに、レグルスは頷いた
『だとしてもだ!連絡さえしてきておらんのだったから、もう少し早く来てもいいだろうっ!?』
ガタンッと音を立てて立ち上がりながらシリウスが怒鳴る
『うぇ……シリウス、こんなんでガチギレしないでくんない〜?』
『アルタイルの言う通りだよ……ボクらじゃキミ、止めるの大変なんだけど…』
今にも暴れだしそうな雰囲気のシリウスに、アルタイルとカペラは少し身構えた
「全くですね……僕らがどれだけ心配していたと……っ!」
わなわなと肩を震わせながら、フレンも怒りを露わにする
「フ、フレン…?穏便に行きましょう??ね?ね?」
今にもブチ切れそうなフレンを、エステルが必死に宥めようとしていた
「連絡もせずに、二人とも……どこをほっつき歩いているんだ!!」
そう叫んだフレンを見て、ジュディスが少し首を傾げた
「あら、おかしいわね?あの二人、ギルドの依頼は時々受けていてくれたから、私たちには連絡してきていたのに」
胸の下で腕を組みながら、ジュディスはカロルを見る
一瞬、肩を竦めたカロルが気まずそうに頷くと、ガタンッと大きな音が鳴る
カロルが驚いて音のした方を見ると、フレンが立ち上がって、拳を震わせていた
『気性が荒いのが二人も……これ、止めるの大変だよ……』
どこか嫌そうにリゲルが呟いた
『あら、困りましたわね……』
困った顔をして、ペテルギウスは二人を見つめる
いっそ水でも頭からかけてしまおうかと考えていた時、急にベガが瞳の色を濃くして、上を見上げたのが彼女の視界の隅に映った
『…来る』「『あ・の・ふ・た・り……っ!!』」
ベガの呟いた言葉は、シリウスとフレンにかき消されてしまった
が、それと同時に、少し懐かしい声が部屋に響いた
「誰のこと言ってるの?」
その声に驚いて、シリウスとフレンが声の聞こえた方向に勢いよく顔を向けると、レグルスの傍にユーリとアリシアの姿が見えた
アリシアはほんの少し、首を傾げて目をパチパチとさせていた
「来るのが遅い!!」『帰るのが遅い!!』
フレンとシリウスの二人は、同時に二人に向かって怒鳴った
「うげ……来て早々お怒りじゃん……もう……やっぱもーちょっとのんびりしてたかった」
傍にいるユーリに少し寄りかかりながら、アリシアはユーリを見上げた
「それ、余計に怒らせるだけだぜ、シア?むしろこのくらいで済んでんだから、まだマシだろ?」
「別に無理も無茶も、怒られるようなこと何もしてなかったのにね?」
自分を見つめながら首を傾げるアリシアに、ユーリはただ苦笑いして肩を竦めた
「連絡っ!!」
『なかっただろ!?』
ユーリを見つめていたアリシアは、怒鳴り声に驚いて二人を見た
あからさまに怒っている二人に、少しだけまた首を傾げる
「あれ?私、カープノスにもカロルにも連絡してたし……ちゃんと伝言も頼んでたよね?」
そう言ってもう一度、アリシアはユーリを見上げた
「だな。カープノスの方は口頭だったが……カロル先生にはちゃんと人数分、手紙送ったろ?」
ユーリとアリシアが揃って二人を見ると、二人ともやばい、と言わんばかりに顔を歪めて背けた
カロルに至っては、ダラダラと冷や汗をかいていた
「……どういうことだい?カロル?」
『おい、カープノス!こっちを見ろ!!』
二人の言葉に、フレンとシリウスはそれぞれカロルとカープノスを睨みつける
「……ごめん、フレンとは中々会えないから……渡すの、忘れてた……」
『…ふん、お前は少し、アリシア離れするべきだと思ったんだ』
フレンとシリウスから顔を背けたまま、二人は口を開いた
フレンとシリウスが怒声を上げようとした瞬間、アリシアが指を弾いた
すると、二人の頭上から水が落下する
「はいはい、二人ともー、いい加減大人しくしてよ?レグルスがそろそろキレるって」
ずぶ濡れになった二人を呆れ気味にアリシアが見つめる
『あら、わたくしが手を下すまでもなかったようですわね』
クスッと笑いながら、ペテルギウスはアリシアを見た
『あーあ……アリシアまでそれやるようになったか……』
『けど、カープノスのあれよりはマシじゃない?』
若干引き気味にアリシアを見つめているカストロに、ポルックスは首を傾げた
「今回はカロルが悪いのじゃ。ユーリとシア姐はちゃんと、全員に手紙を書いておったのに、フレンには渡しておらんかったのじゃから」
腕を組んで小さく頷きながら、パティは二人を擁護した
『こちらも悪いのはカープノスですね』
『だな。私らにはしっかりと伝言を伝えて来ていたからな』
アイリーンとライラックはそう言って顔を見合わせた
『え、ちょっと待って……?』
『二人にも……連絡あったの?』
アルタイルとカペラは恐る恐る、二人に声をかけた
『ええ、カープノスから伝言はありましたよ?』
アイリーンが首を傾げて答えると、レグルス以外の星暦達がカープノスの方を見た
『カープノス!?』
『おいこら!おれらも聞いてねえぞ!?』
『……アリシアの親はライラックとアイリーンだけだろ?初代には伝える必要があると思ったから伝えたが……お前らも、いい加減アリシア離れしろ』
怒っている彼らに対し、カープノスが不機嫌そうに答えた
「はぁ……カープノスってば……」
アリシアは小さくため息をつくと、また指を鳴らした
今度はカープノスの頭上から水が落下してくる
「ちゃーんと伝えてって言ったでしょ?……ダメじゃん、言わないのは!」
少し膨れながら、ずぶ濡れになったカープノスを睨み気味にアリシアは見つめる
『…………悪かった………』
アリシアに怒られ、カープノスは小さな声で謝った
「……お主ら…そろそろ話を進めてもよいか?」
ほんの少し、苛立ちながらレグルスはフレンとシリウス、そしてカープノスを見た
「……すみません……」
『すまん……』
『……ああ』
シリウスとフレンの二人はそう言って、椅子に腰を下ろし、カープノスは気まずそうにレグルスから顔を背けた
もう大丈夫だと悟ったのか、アリシアはそのまま、レグルスの隣に座り、ユーリはアリシアの隣に座った
「それで……なんでまた全員集合なの?レグルス」
隣にいるレグルスを見ながら首を傾げる
正直、フレン達もいるとは思っていなかった
「うむ……少々厄介な事が起きていてな?」
ほんの少し、言いにくそうにレグルスが言葉を続ける
「ザウデ不落宮の地下、満月の子の墓所の更に下……そこに溜まっているなり損ないが『また』怨霊となりつつあるようなのだ」
レグルスの言葉に顔を顰めた
やっぱりそれ絡みか……
まぁ予想はしてたけどさぁ……
「うげ……マジ……?私、あんまりあの下、行きたくないんだけど……」
頬杖をつきながら、レグルスを見る
「墓所の下って、なんかあんのか?」
ユーリはそう言って首を傾げる
それは、フレン達も同じで……
……そうだ、みんなは知らなくて当然なんだ
『……あまり言いたくはないのですが……』
『あの下は、
言いたくなさそうなアリオトの代わりに、ペテルギウスがハッキリとそう答えた
その答えに、ユーリ達が驚いたのが視界の隅に見えた
「恐らく、まだ生き残りもいるだろうな。……『奴』も含めて、な」
私と同じく、レグルスも行きたくないのか頬杖をついて、嫌そうに顔を顰めていた
『……初代もアリシアも、そんなに嫌そうな顔をするな。怨霊が発生しているなら、放っておくわけにいかんだろ?』
気を持ち直したのか、呆れ気味にカープノスが私とレグルスを見てくる
「行きたくないものは行きたくないんだもん……あそこ、怨霊のなり損ないのたまり場じゃん?どんだけ浄化しなきゃいけないのさ……それに……」
「彼処に幽閉された満月の子らは、星喰みが現れても尚、我ら一族を根絶やしにしようとした『奴』の一派だ。あやつらがその事を忘れていたとしても、会うことにいい気はせん。大体……」
「「“『あいつ』/『奴』”に会いたくない!!」」
レグルスと二人、同じ言葉を言いながらテーブルを叩いた
考えていたこと……一緒だったみたいだね
『息ピッタリすぎて怖ぇんだけど……』
『アリシア……ちょっとレグルス様に似すぎてない……?』
若干引き気味なカストロとポルックスの声が聞こえる
似すぎって言われても……私のせいじゃないし…
『ははっ!二人とも諦めろ。怨霊がまた『憎悪』になった方が、後が面倒だろう?』
クスクスと笑いながら、お父様が言ってくる
そりゃ……そうだけどさぁ……
「あーぁ……呼び出しって聞いた時から、なんとなーくそんな気はしてたけどさぁ……
あそこ、ただでさえ怨霊のなり損ないが溜まりやすいのに、『あいつ』がバッカみたいになり損ない作りまくってて浄化が追いつかないし……
『あいつ』は顔合わせる度にネチネチうっさいから嫌なんだよね……
……私、今回パスしちゃダメ?レグルス」
隣にいるレグルスを見ながら言うと、レグルスは首を横に振った
「駄目に決まっている。我とて向かいたくない
が、やらねばならんだろ?」
嫌そうながらも、諭すように私に言ってくる
やっぱダメかぁ……
「あら、意外ね?あなたなら、今すぐにでも向かいそうな事なのに」
ジュディスの声に顔を向けると、ほんの少し不思議そうに首を傾げていた
『……たしかに、いつもなら、ぼくらが言う前に飛び出してるのに…』
不思議だったのはジュディスだけじゃなくて、みんなも同じだったみたい
みんな揃って不思議そうに私を見てきてる
不思議そうじゃないのは、ユーリとレグルスにカープノス、それと……お父様とお母様くらい、かな?
「ここ半年は割とずっとこんなんだぜ?」
私の頭に手を乗せながら、ユーリが答える
「私がやりたかった事は一通り片付けられたからね〜
使命だとかそう言うの、なーんにも考えずに過ごせるの、案外楽で……正直また考えるの、嫌なんだよねえ……」
クスッと笑いながらユーリを見上げる
ちょっとだけ、困ったように笑いながら、ユーリは私を見下ろしていた
『えぇ……ちょっと気抜きすぎじゃない……?』
『……アリシア、肩の荷、下ろしすぎ……』
呆れたようにカペラとベガの二人が私を見てくるのが視界の端に映る
『ははっ!良いではないか!その分少しは大人しくなっているのだから』
楽しそうで、ちょっと嬉しそうなお父様の笑い声が部屋に響く
「確かに無理無茶は減ったけど、若干子どもっぽさが増したよな?」
「そうかな?」
そう言って首を傾げる
そんなに子どもっぽいことをしたつもりはないから、よくわからないんだけど……
「……今この話すっと、レグルスの話が進まなくなっから、後でにしないか?」
苦笑いしながらそう言って、ユーリはみんなを見回した
「そうね。今はそれよりも、その怨霊絡みなのに私達も呼ばれた理由が知りたいわ」
クスッと笑いながら、ジュディスがレグルスの方を見る
「ああ、それも話さねばいかんな。……墓所の下層はダンジョンになっていてな、なり損ない以外にも魔物が多く住み着いておる。我とアリシアだけで進むには、少々無理があるし、こやつらだけを連れて行くと……今度は墓所諸共破壊しかねんからな……
行きたくない場所であるのはそうだが、破壊されるのは少々困るのだ
そこで、お主らを呼んだのだよ。お主らなら、破壊せずに魔物を倒すことができよう?」
レグルスは未だに嫌そうに顔を顰めながらそう答える
「あー……そっか、魔物の問題もあったっけ…
さすがに私も、魔物倒した後で浄化はしんどいなぁ………ホント…行きたくない……」
もう一つ、考えないといけないことが増えて思わずため息が出た
「シア、いい加減諦めて切り替えろって」
ため息をついてると、ユーリが頬をつついてくる
少しムッとしながらユーリを見ると、まだ困った顔をしていた
……これ以上、ユーリ困らせるのもなぁ……
「……はぁ、それもそうだねぇ……」
手を組んで腕を前に伸ばす
ユーリの言う通り、もう切り替えないと
……どれだけ忘れたくても、私は星暦、ラグナロク家当主なんだから
やらなきゃいけないことは……やらないと、ね
「……で?フレン達を連れて行くとして、シリウス達は留守番させておくつもりなの?レグルス」
腕を組みながら、レグルスを見て問いかける
「いや?連れて行くぞ?
「程度……って、なり損ないの集まり、そんなにヤバい怨霊にでもなりそうなの?」
レグルスの言い方に、ヤバい雰囲気しか感じない
「いや?そちらはそこまで問題ではない。今の状態であれば、こやつらでも浄化できるだろう」
私の問いにレグルスは首を横に振った
「えぇ……じゃあ『何』を相手にするつもりなのさ……」
そうは言ったものの、凡そ検討はつく
怨霊のなりかけ、じゃないんだとしたら……
「……いい加減、『奴』には退場してもらおうかと思ってな」
少し言いにくそうに、けど、ハッキリとレグルスは答えた
その答えに、思わずため息が出た
やっぱりそうだよねぇ……
「はぁ……そうだと思ったよ……まぁ、そろそろ無限になり損ない生成されるのもごめんだし、潮時だよね〜」
「うむ。それに、星喰みもその憎悪もいなくなった今、『奴』を生かしておく理由もなくなったからな。……いい加減、因縁にケリを付けなければならん」
「……それも、そうだね
まーたのんびりしてる時に呼び出されるのも嫌だし、浄化次いでに……サクッと葬ろっか?」
ニコッ笑って言うと、さっき不思議そうにしなかった五人以外が驚いていた
「アリシアちゃん、切り替え早いわねぇ……」
『あーあ……一気にまた無理無茶しそうな雰囲気に逆戻りじゃねーかよ……』
「別に無理無茶なんてしないって。平気平気〜」
少し不安そうにしているカストロに向かって、笑いながら答えた
『すっごく信用ならないんだけど……ベガ、どう?』
アルタイルがジト目で私を見ながら、ベガに問いかけていた
ほんの少し、ベガの瞳が濃くなったのが見える
『……うん、大丈夫……少なくとも、今回は無理無茶、しない』
ハッキリとした声でベガが答える
いやだから……しないって言ってるのに……
『ベガが言うのであれば本当なのでしょうけど……』
『にわかには信じがたい、ですわね……』
ジトーっとアリオトとペテルギウスが私を見てくる
「だーかーらー、もう無理無茶しないって言ってるじゃん?そんなに疑われなくとも、私、レグルスみたいな事はしないって」
大きくため息をつきながら答える
ベガだって言ってるんだから少しくらい、信じてくれたっていいじゃん……
「あんたのその言葉に、あたしら何度騙されたと思ってんのよ?」
呆れたような声のリタの言葉に、思わず肩が跳ねた
「……そう言われると、何も言えないね……」
そう言って、少し顔を背けた
確かに半年前まで無理無茶しまくって来てた訳だし……当然と言えば当然な反応なのか……
『まぁ……信じていいんじゃない?』
『だよな?『あれ』との戦いの時も、本当に無理無茶してなかったしな』
そうしていると、ポルックスとカストロの擁護してくる声が聞こえた
「そうですね。手紙を読んだ感じでは、ここ最近は、本当に大人しいみたいですから」
エステルの声に少し顔を向けると、少し微笑ましそうに私を見て来ていた
擁護してくれるのは嬉しいけど……なんでそんな顔してるんだろ?
「それに、ユーリが一緒なら無理無茶しそうになっても止めてくれんでしょ。そこまで心配する必要もなさそうよね〜」
ケラケラと笑いながら、レイヴンも私を見てくる
「もう早々、しねえとは思うけどな?まっ、そうなったら無理矢理でも止めてやるって」
クスッと笑いながら、ユーリがそれに返していた
……うん、なんかもう言ってもダメそうだし、なんでもいいや……
「で、レグルス?もう行くの?」
気持ちを切り替えて、レグルスに問いかける
「いや、まだ我の刀の修復が終わっておらん。後一週間は時間が欲しいところだな」
「……それ、修復終わってから私呼ぶでもよくなかった?」
ジトーっとレグルスを見る
一週間も時間があれば、もう少し、ユーリと二人で居られたじゃん……
「お主の事だ、どうせ用が済んだらまた青年と放浪し始めるだろ。少しはあやつらを構ってやらんか?いい加減、アリシアに会いたいと騒ぐあやつらを叱るのが我も面倒だ」
呆れ気味に私を見ながらレグルスが言ってくる
うぇ……バレてるし……
「……こりゃさすがに、暫く無理そうだな」
コソッとユーリが耳元でそう言ってくる
チラッと見ると、ちょっと残念そうに眉を下げて笑っていた
「……だーねぇ……火に油注ぐことになりそ」
苦笑いしながら私も小声で返した
『……おいこらアリシア……?今何話してた……?』
怒りの篭ったシリウスの声に顔を向けると、ワナワナと肩を震わせているシリウスの姿が目に入った
今の今まで静かにしてたくせに……
「別に何も?」
こてんっと首を傾げながら、シリウスを見る
……まぁ、この程度じゃその怒りは収まんないよねぇ……
『……お・ま・え・と…言うやつは……っ!!』
そう叫んで、シリウスが大剣の柄を握り締めた
あっ、ガチギレじゃんコレ……
別にそんなに怒らなくたっていいのに……
『バッカ!!シリウス!!ここで抜くなってっ!!』
ガタンッと音を立てながらカストロが立ち上がった
他のみんなも、あわあわとシリウスから離れて行ってる
……もう、仕方ないなぁ……
「ユーリ、ちょっと行って来てい?」
ほんの少し眉を下げながら笑ってユーリを見上げる
「さすがにダメとは言えねえな……怪我すんなよ?」
苦笑いしながらそう言って、頬にキスしてくる
「ん、平気平気〜」
そう言って指を弾いた
瞬間、屋敷の外……前にもシリウスと戦った場所に、シリウスと二人で出た
さて……と
驚いてるシリウスを他所に、刀を抜く
白雷の切っ先をシリウスに向けた
「シリウス、私に勝てたら、さっきの話してあげてもいいよ?」
ニヤッと笑いながら言うと、あからさまにシリウスがキレた顔をした
『〜〜〜っ!!今日という今日は……っ!容赦せんからなっ!!?!』
大剣を構えながら、シリウスが睨みつけてくる
…嘘つき、そう言っていっつも手抜くくせに
「はいはい、わかってるよ」
クスッと笑いながらそう答えて、私も構える
そして、同時に駆け出した
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