第4部~星暦の行方と再会そして…~
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ーー翌日ーー
一夜明け、一同は再び食堂に集まっていた
今ここにいないのは、レグルスと
『結局、勝負はつかなかったな』
食堂で席に座っていたライラックはどこか残念そうに呟いた
『100分けか……まぁ、いずれ決着はつけようじゃないか』
その隣に座るシリウスも少し残念そうにそう答えていた
『いやもう勘弁してくんない……?』
二人の前で突っ伏していたアルタイルが嫌そうな顔で二人を見た
『そうだよ、二人とも……昨日のあれはやり過ぎだって!』
『カペラの言う通りだわ……あの勢いじゃ、集落吹き飛ばしそうだったしゃねえかよ』
『ぼくらじゃ止められないんだから、もう少し自重してくんない?』
不機嫌な顔をして、三人は二人を睨みつけた
『本当に、貴方方は加減というものを知らなすぎですわ。アリシアが来なければ、今頃この辺りは更地になっていましたわ』
呆れたようにペテルギウスはそう言ってため息をついた
『二人とも……まだ、反省が足りないようですね……?』
ニッコリと笑いながら、アリオトが鉄扇片手に二人を見て首を傾げた
『ばっ!!何もそこまで言ってないだろ!アリオト!!』
「朝から何アリオト怒らせてるのさ……」
昨日同様、ユーリとフレンの間に座ったアリシアは、呆れ気味に二人を見つめていた
「ずーっと音が響いてて……ボク、ちょっと怖かった……」
「いつ巻き込まれるかとヒヤヒヤしました……」
どこか遠くを見ながら、カロルとエステルが呟く
「あら、私は少し楽しそうだと思ったわよ?」
クスッと笑いながら、ジュディスが二人を見た
「ジュディスちゃんは肝が据わってるわねぇ…」
若干引き気味にレイヴンは笑っているジュディスを見ていた
「やめとけジュディ、ありゃ楽しそうで済むレベルの話じゃねえから」
「む?ユーリ、なんでそんなこと言うのじゃ?」
「シアが止めに行くのについて行ったんだが……下手すりゃ本気で世界滅ぼしかねねぇ勢いで術技ぶっぱなしてたからな……手合わせっつーか、マジの戦闘だったな」
ユーリはそう言って苦い顔をしながらライラックたちの方を見た
「というか……アリシア、よくそんな戦闘止められたわよね」
リタはそう言って、首を傾げながらアリシアを見た
『……まさかアリシアに、カープノスと同じ事をされる日が来るとは思わなかったな……』
『はっはっは!あれはあれで存外、楽しいものだな』
ガックリと項垂れるシリウスとは対照的に、ライラックは楽しそうに笑っていた
「お父様ってば……笑い事じゃないんだよ?あれやるのだって、結構疲れるんだからね」
ムッと頬を膨らませながら、アリシアはライラックを見つめた
「カープノスと同じって……アリシア、まさか……」
恐る恐る、フレンがアリシアに問いかける
「……アリオトが言った通り、ありゃ見るもんじゃねえわ……延々落ち続けるって、見てるだけでおっかねえわ……」
小さくため息をつきながらユーリが呟くと、フレンとレイヴンが顔を強ばらせた
「……おっさん、アリシアちゃんを怒らせるのだけはやめとこ……」
少しアリシアから距離を取るように離れながら、レイヴンは呟く
「失礼だなぁ……私だって、みんなに対してそんな事しないよ。あれやるのは、シリウスとお父様くらいだって」
心外だと言わんばかりに不機嫌そうな顔をして、アリシアはレイヴンを見た
なんの事かわからないエステル達は首を傾げていた
『……朝から元気だな、お前ら』
そんな話をしていると、呆れたようなカープノスの声が聞こえてくる
扉の方を向けば、呆れた顔をしたカープノスとアイリーンが立っていた
『二人とも、
リゲルがそう言って首を傾げると、カープノスは少し不機嫌そうに顔を顰めた
『……駄目だ、狭間の機能は完全に修復不可だ。……アリシア、お前、ワザとだろ?』
若干睨み気味にカープノスがアリシアを見る
「あ、バレた?」
あっけからんとアリシアはそう答える
その答えに、カープノスとアイリーン以外が目を見開いた
『ちょ、アリシア!!なんでそんなこと!』
カタンッと音を立てながらアルタイルが立ち上がる
「だって……もう、必要ないでしょ?」
キョトンとした顔をして、アリシアが首を傾げる
『必要ない、とは……?』
「じゃあ聞くけどさ?私達、今から『あれ』倒しに行くんだよ?みんながそうしてたのって、レグルス同様、いつか『あれ』を倒す為だった訳じゃん?倒した後も、狭間に残る必要……ある?」
ほんの少しだけ、寂しそうにアリシアは問いかける
彼女の問いに、答えられる者はいなかった
全員が、そんな必要はないのだとわかっていた
わかっていても……彼女の前で、そう答えたくはなかった
そう答えてしまえば、彼女が更に悲しむと思って、誰も何も言えなかった
狭間に行けないという事は、今までのように、どこでも彼女と対話する事ができないと言うことだから……
「正直、ちょっと迷ったけど……でも、そうでもしないと、みんないつまで経っても眠りにつこうともしないでしょ?……そろそろ休んでもいい頃だよ」
「あんたね……それ、そんな顔して言うもんじゃないわよ」
呆れたようにアリシアを見つめながらリタは言う
寂しそうに微笑んでいるアリシアはリタの方を向いて少し肩を竦めた
「ったく……寂しいなら無理してそんなことすんなっての」
ユーリはそう言って隣にいるアリシアの頭を小突いた
「そりゃ寂しいけど……けど、いつまでもずっーっとこのままってわけにもいかないでしょ?」
『そりゃそうだけどさぁ……』
『……あたしたちの意見、聞いてくれても、いいと思う……』
ムッと頬をふくらませながら、ベガはアリシアを見つめる
そんなベガに、アリシアはただ肩を竦めただけだった
『……まぁ、どうするかは後でもいいだろ。どの道、初代次第だからな』
まだ少し不機嫌そうにしながらも、カープノスはそう言って、話題を終わらせようとした
「で?肝心のそのレグルスはどうしてるのよ?」
明朝集合、と言った本人の姿がないことに、リタは少し不機嫌そうに問いかける
「ここにいるが?」
不意に聞こえた声にリタが驚いて振り返ると、昨日と同じ場所に、今の今までいなかったはずのレグルスの姿があった
『えっ!?レグルス様っ、いつからそこにいたの?!』
驚いたのはリタだけでなく、他の者たちも同じだった
「ずっとここにいたが?お主ら、朝から元気だな」
少し呆れたように、レグルスは全員を見回した
「……さて、揃っているようならば」
「……うん、行こっか」
レグルスの言葉に繋げるように、アリシアはそう言って立ち上がった
驚いていた彼らも、慌てて立ち上がる
『……ザウデ不落宮でいいんだな?アリシア』
「ん、そうだね」
二人はそう言うと、同時に指を鳴らした
ーーザウデ不落宮、最深部ーー
一昨日と同じ場所に一行は現れる
狭間の入口は、まだ閉じたままだ
「アリシア、お主はポルックスと共に闇に紛れておるのだぞ?」
レグルスはアリシアの方を見ながらそう声をかける
「ん、わかってるよ。レグルスがカストロとリゲルと一緒にいるんでしょ?」
ほんの少し首を傾げながら、アリシアはレグルスを見返す
「うむ。二人が力を使い始めるのを合図としよう」
「了解〜」
彼女がニコッと笑って答えると、レグルスは頷いた
「そういや……シア、なんでここを最後にしたんだ?」
ふと疑問に思ったことをユーリが問いかける
レグルスの話では、彼女の力の欠片は、彼女に縁のある地に散ったはずだ
アスピオ跡地にはタルカロンがある為、それもわかるし、
それでも、この場所だけは納得がいかなかった
ここは、彼女を虐げた男が息絶えた場所で、同時に、彼女達星暦を排除しようとした仕掛けが施されていた場所であったから……
一瞬アリシアは目を見開いたが、すぐにクスッと笑う
「……ここを最後にしたら、ちょっとくらい、会えるかな、って思ったからかな」
少し寂しそうに笑いながら、アリシアは答える
「会えるって……誰に?」
不思議そうに、カロルが首を傾げる
「……お兄様」
少し言いづらそうな声で言われた言葉に、フレン達は驚いた
まさか彼女の口から、その言葉が出るとは思ってもみなかった
「……最後にちゃんと伝えておきたかったなって
私は大丈夫だよ、って、ちゃんと言ってあげたかったなぁ……って」
小さく、聞き取れるかもあやふやな声で、彼女は呟く
「ここにいたら、もしかしたら、化けて出てきてくれるんじゃないかなーって。『またそうやって無茶して』って言いながら……まっ!さすがにダメだったけどね?」
寂しそうな顔から一変、普段と変わらない笑顔を浮かべながら、彼女は首を傾げた
それでも、その声には寂しさが滲み出ていた
「……あんた、あんな事されて、よくそう言えるわね」
「そりゃあ……まぁ……思うところがないわけじゃないけど……でも、本気で死んで欲しいと思ってたわけじゃなかったから」
『アリシア……』
ライラックはアリシアに近づくと、そっと頭に手を置いた
置かれた手の重みを感じながら、アリシアは軽く目を閉じて俯いた
「……大好きだった……優しくて、心配症で、私を大事にしてくれたお兄様が……大好きだった……
もっと前に……ちゃんと、そう言って、あげればよかった……そうしたら……もしかしたら、今も……傍に居て、くれたかもしれないのに……」
呟かれた言葉は、傍にいたユーリやライラックでさえ、ギリギリ聞き取れるくらいの小さな声だった
アレクセイの死を彼女が後悔していた事自体はユーリも知っていたが、そこまで彼を思っていたことは知らず、ほんの少し驚いていた
「……さて!さっさと始めよっか?」
顔を上げた彼女は、普段と変わらぬ声でそう問いかけ、一同を見回した
「……ああ、そうだな」
その話にもう触れて欲しくなさそうな雰囲気の彼女に、ユーリは頷いて返す
「開ける前にアリシアよ、最後に少しいいか?」
レグルスは彼らから少し離れた位置で、昨日と同じようにアリシアを手招きしていた
少し苦笑いしながら、彼女は無言で彼に近づいていく
アリシアが傍に行くと、二人はコソコソと何か話し始めたが、その声はユーリ達には届かなかった
『……やっぱ不安だな……』
ボソッとカストロが二人を見つめながら呟く
『だよねぇ……カープノス、あれ何してるかわかんないの?』
カペラは苦い顔でカープノスを見つめた
『……何故俺に聞く』
『だって、カープノスはレグルス様の見張り役でしょ?なんかわかるかな〜って』
頭の後ろで手を組みながら、カペラは首を傾げる
そんなカペラに、カープノスはため息をついた
『いつから俺は初代の見張り役になったんだ……わかるわけないだろ。いつだって唐突に何か仕出かすんだぞ?行動全てを把握できるわけがない』
不機嫌そうにカープノスはその問いに答えた
『あら、貴方でも知らない事があるのね?』
『……煩いぞ、ペテルギウス』
クスクスと笑うペテルギウスをカープノスが睨みつける
バチバチと二人の間には火花が散っていた
『……二人とも、こんなとこでまでその不毛な喧嘩、しないでくれない?』
今にも言い合いを始めそうな二人を、呆れ気味にため息をつきながら、リゲルが見る
それに同意するように、ベガが頷いた
『今……そんなこと、してる場合じゃない……』
ムッと頬を膨らませてそう言うと、二人は互いに顔を背けた
「あんたらも呑気ね……こんな時まで喧嘩なんて」
そんな二人を見ながら、呆れたようにリタがため息をついた
『ふふ、それがこの二人なのよ、リタ』
『ははっ!二人は場所も時も関係なく、言い合いしたがるからな?』
どこか楽しそうに笑うライラックに、二人はほんの少し顔を赤らめた
『というか、ベガ?きみもついてくるの?』
少し不思議そうにリゲルが問いかける
『そうですわね……貴方は戦闘はできないのだから、待っていた方がよいのでは?』
『……あたしだけ、仲間外れは嫌……それに、戦えずとも、攻撃が飛んでくるタイミングくらい……予測できるもん……』
ムスッと不服そうにしながらベガは答える
『ええ、そうね。あなたは私といましょう』
アリオトが優しく微笑みながら、ベガの傍に寄った
「ところで……あの二人の話し合い…長かない?」
遠慮気味にレイヴンはそう言いながら、アリシアとレグルスの二人を指さした
二人はまだ、何か話し合っていた
「何話してるか、気になるね」
二人を見ながらカロルが首を傾げる
『そうだけどさぁ?……今のあの二人に声掛けられる人、いる?』
アルタイルの問いかけに、一同は口を噤んだ
昨日信じると言ってしまった手前、少し気が引けてしまっていた
「そんなに心配そうにしなくっても、大丈夫だって」
話を終えたらしいアリシアが、レグルスに白雷を渡しながら振り返り、ニコッと微笑んだ
「……言い合いをしている暇があるなら、戦闘準備くらいしとかぬか…?」
対してレグルスは白雷を受け取りながら、呆れ気味に顔を顰めて振り返った
そんな二人の表情に、カープノスとユーリは少し違和感を持った
二人とも普段と変わらぬように見えるが、アリシアは少しいたずらっ子のような笑顔を浮かべているし、レグルスはどこか不安げなようにも見える
「では……開けるぞ?」
だが、そんな事も考えている余裕はなく、レグルスは指を鳴らそうと構える
慌てて彼らは武器を取り出して戦闘態勢に入る
レグルスが指を鳴らすと、一昨日と同じ場所に、入口が開いた
「じゃ、行こっか」
黒雷を抜きながら、アリシアはそう言って入口に向かって足を踏み出した
ーー????ーー
「想像していたよりも……暗い、ですね……」
中に入ったエステルは不安そうに辺りを見回す
ユーリが前回入った時よりも、辺りの暗さは増していた
暗い、と言うよりも、『黒い』が正しいのかもしれない
辺りは真っ暗でも、互いの存在だけは見えるのだから
『……ぼく……もう……』
怯えた様子でポルックスは俯く
少し震えているポルックスの傍に、アリシアが近づいていった
「……ん、そだね。じゃあレグルス、合図お願いね?」
アリシアはレグルスに声をかけると、彼と共に闇に紛れた
「すごいのじゃ……完全に見えないのじゃ」
少し驚きながら、パティが辺りを見回す
「あんまりキョロキョロしてんなよパティ。どっから出て来るかわかんねえぞ?」
ユーリはそう言って、ただ前方を睨みつける
何故だか、その方向から来るような気がしていたのだ
一同が警戒していると、カツン……カツン……と誰かの足音が辺りに響き始めた
全員が音のした方向を見ると、先程闇に紛れたはずのアリシアの姿が目に映る
彼女との違いは、瞳の色だけだ
あまりにも似すぎていて、ユーリ以外が息を飲む
彼らが驚いて固まっていると、『憎悪』はゆっくりと口を開いた
《……どうしてみんな……私を拒絶するの?》
聞こえた声は、アリシアの声そのままだった
寂しそうな顔で、声で、『憎悪』は尚、問いかけてくる
《ねぇ、どうして?信頼も希望も、簡単に崩れてしまうのに……簡単に恨みや憎しみに変わってしまうのに、どうしてそれを拒絶するの?》
真っ黒に染まった瞳で、『憎悪』はフレン達を見回す
『憎悪』に見つめられ、フレン達は背筋が凍るような感覚を覚えた
『あれ』を直視し続けてはいけないと、頭が警鐘を鳴らす
それでも、目を背けるわけにはいかなかった
ここに来たのは、『あれ』を倒すためなのだから
《こんな世界に、なんの価値があるの?誰かを傷つけても平然とできる人がいて、傷つけ合う事しかできないこんな世界……消してしまったって、いいでしょう?》
そう言って『憎悪』は首を傾げる
「てめぇ……それ以上、シアのフリしてんな事言ってんじゃねえよ」
真っ直ぐに『憎悪』を睨みつけながら、ユーリが口を開いた
「そういう奴がいるっつーことは否定しねえよ。そういう側面がある事も、否定しねえ
けど、それだけがこの世界じゃねえだろ。誰かと笑い合ったり、喜んだり、楽しんだり……そういうのも含めての世界だ。裏切られようが傷つけられようが、前向いて生きてるヤツだっていんだ
てめぇの感情だけで、勝手に世界滅ぼそうとなんざしてんじゃねえ」
ユーリの怒りの籠った声に、フレン達がハッとする
今は怯んでいる場合ではない
なんとか気を持ち直して、各々武器を構え直す
『……その通り、だな。私の娘なら、そのような事は決して言わぬ』
ユーリの隣に並びながら、ライラックも『憎悪』を見据えた
《……そう、それでも拒絶するんだ……なら…》
静かに、『憎悪』は目を瞑り右手をゆっくりと顔の側まで上げる
パチンッと弾くと、『憎悪』の手の中に、二振りの刀が現れた
《……ねぇ、ユーリ》
刀の切っ先をユーリに向けて、『憎悪』は目を開け、少し泣きそうな、寂しそうな顔をしてユーリを見つめる
《「……私を、殺して?」》
聞こえた言葉とその顔に、ユーリの中で何かが切れた
刀の柄を力強く握ると、『憎悪』に向かって一歩踏み出した
「ユーリっ!?」
フレンが驚いて名前を呼ぶが、そんな事も気にせず一気に距離を縮めると、勢いよく刀を振った
目を見開きながらも『憎悪』はそれを防いだ
「その顔で……っ!!『その言葉』を言ってんじゃねえ!!」
怒りの籠った表情で、ユーリは『憎悪』を睨みつける
そんなユーリを見て、急に『憎悪』は笑い出す
《……あははっ!『あの時』は怒らなかった癖に、怒るんだ?そんなに、『この言葉』が嫌い?》
どこか楽しげに『憎悪』は笑う
『憎悪』が言った言葉は
……ユーリが最も耳にしたくなかった言葉だった
もう二度と聞きたくなかったその言葉を、彼女と同じ声で、あの日と似た顔で言われ、耐えられなかった
「怒ってんのはてめぇにだっ!シアの姿真似してるってだけで腹立ってるっつーのに、あいつの言葉まで真似すんなっ!!」
刀を重ねて、押し合いながらユーリは『憎悪』に怒鳴る
《あはっ!!なんだ、そんなことで怒ってるの?そんなに、この子が大事?》
尚も笑いながら、『憎悪』はユーリの刀を弾き返した
刀を弾き返され、ユーリは後ろに飛んで『憎悪』と距離を取った
《やっぱり、取り憑くなら『この子』がいいけど……また隠れんぼしてて、簡単に見つからなさそうだし……》
そう言いながら、『憎悪』は後方にいるレグルスを見た
《……君にも私の苦痛、わかるよね?レグルス?》
ジッとレグルスを見ながら、『憎悪』は首を傾げた
「……わからんな。そんなもの」
静かにレグルスは口を開く
《……変なの。満月の子に同胞を狩られまくっていたのに、なんで?君だって、世界を守ろうと頑張っていた、大事な同胞を狩られたこんな世界、憎くて憎くて仕方ないんじゃない?》
不思議そうに『憎悪』は更に首を傾げた
「…我が何を言っても、お主には一生……消えるその瞬間になっても、理解などできぬだろうな」
レグルスはそう言って、白雷を掲げる
「……カストロ、リゲル」
レグルスが二人の名前を呼ぶと、同時に力を使う
「「…〜〜〜〜…」」
二人が力を使い始めた瞬間、レグルスとアリシアの歌声が、辺りに響く
《あはははっ!浄化の歌?そんなの、歌わせないよ!》
そう言って笑うと、『憎悪』はレグルスの元に向かって行こうとする
それを、ユーリとライラックが遮った
『この先は通さんっ!!』
そう叫びながら、ライラックは刀を振る
《…お父様も、私を拒絶するの……?》
行く手を遮るライラックに、『憎悪』はどこか悲しげに問いかける
ほんの一瞬、ライラックに躊躇いが生じるが、それでも尚、その場から引こうとはしなかった
引く気がない事を悟った『憎悪』は後ろに下がって、二人から距離を取った
《……そう……なら……やっぱり、全て無に返さなきゃ…!!》
そう言った『憎悪』の足元に、何かの術式が展開された
『あれは……まさか!』
『まずいな……っ!』
組み立てられている術式を見て、何かに気づいたアイリーンとカープノスが、アリオトとベガの前に並んで立つ
『上……来る……!』
ベガの声に、フレン達が身構えた
《……永劫に続く憎しみよ、矢となり降り注ぎ、我が前に立ち塞がる全てを屠れ……!ヘイトリッドレイン!!》
『憎悪』が唱えた瞬間、彼らの頭上から赤黒く染まった矢が降り始めた
回避しようとフレン達が構えるが、その前にカープノスが指を弾く
降り始めた矢は一瞬で消え去り、代わりに『憎悪』の頭上に現れた
降り注ぐ矢を回避しようともせずに、『憎悪』はその場に留まって笑い出す
《あはっ!そうきたか!けど、何度もはできなさそうだね?》
『憎悪』が見つめる先にいたカープノスは膝をついて、肩で息をしていた
『カープノス…っ!無理しすぎ…っ!!』
ベガの泣きそうな声が辺りに響いた
『……っ、あれの初撃は……、簡単に、回避できん…っ、俺が動けなく、なっても……っ、支障は、ない、だろ…っ?』
『……とにかく、あなたも下がりましょう。少なくとも……あなた達には、もう防ぐ手段はありませんから』
アリオトはそう言うと、二人を連れて更に後ろに下がった
「今のを連発されんのはちと勘弁願いたいわねぇ……」
後方に下がる三人を横目で見ながら、レイヴンが顔を顰める
『最初からあれを使ったってことは……あいつ、それしか遠距離攻撃できなさそうだね』
『ええ、そうですわね。あれは一度使えば術式の性質上、それ以外の術式が使用できなくなりますから』
「性質、です?」
カペラとペテルギウスの言葉に、エステルが反応した
『あれは自分の中の負の感情を使って、発動する術なの。一度使えば、対象者が息絶えるか、自身で解除するか……あるいは、自身が息絶えるかしなければ、最初から詠唱しなくとも術が発動させる事が可能なの。
……ただし、一度発動させると、次の発動までにはだいぶ時間がかかるのだけれど』
困ったように小さくため息をつきながらアイリーンが答えた
『……アリシアの姿で、それは……やって欲しく…なかったな……』
そう呟いたアルタイルの手は小さく震えていた
『……あれ、を……相手にしろ、と……?』
大剣の柄を握りながらも、シリウスは絶句していた
シリウスには、『憎悪』とアリシア本人との見分けが、殆どつけられなかった
それは、エステルとリタ、カロルとパティも同じだった
『……戦える自信の無い方は、今すぐにアリオトのともまで後退した方がよいと思いますわ』
シリウスを横目で見ながら、ペテルギウスは小さくそう告げた
悔しそうに唇を噛みながら、シリウスはアルタイルを連れて後ろに下がった
「……そう、ですね……足でまといになりかねませんから…」
少し悔しそうにそう言って、エステルが後方に下がっていく
カロルとパティも顔を強ばらせたまま後ろに下がった
「これは……完全に、ユーリ頼み、ね……」
武器を構えたままジュディスが悔しそうに顔を歪めて呟いた
「……ああ、そうだね…」
ジュディスの呟きに、フレンも呟いて返した
他の面々が驚き、躊躇っている中、一人怯えも戸惑いもせず、ただ睨みを効かせていたユーリを、フレンは見つめる
今なお怒りの籠った表情で『憎悪』を睨みつけているユーリを、ほんの少し尊敬した
もし仮に……彼女が愛したのが自分だったとして、ユーリと同じように行動できたかと問われれば、フレンにはそれはできなかっただろう
《……ねぇ、ユーリ?そこ……退いてよ?》
ユーリを不機嫌そうに見つめながらそう言って、『憎悪』は突っ込んでくる
「はっ!誰が退くかってーのっ!!」
刀の重なる金属音が辺りに響く
《……おかしいなぁ……この子の事が大事だって言ってるくせに、どうしてそんなに容赦なく刀を振れるの?普通は、もっと躊躇うでしょ?》
後ろに飛んで、ユーリから距離を取りながら、ほんの少し『憎悪』は首を傾げた
「ニセモノ相手に躊躇うわけねえだろ」
『憎悪』を睨みつけながら、ユーリは短く答えた
《…変、だなぁ?違いなんて、わからないくらい、ちゃーんと上手に似せられてるはずなんだけど……?》
自身の体を見ながら、『憎悪』は不思議そうな顔をした
「全部真似たっつーならわかるだろ?
幾ら似せようが、オレがシアを見間違えるわけねえってこと」
そう言いながらユーリは切っ先を『憎悪』に向ける
《……嫌なんだよなぁ、君。この子の真似したせいで、戦いづらいんだよねぇ……それに、まともに君と戦うと、どう足掻いても勝てそうにないし……》
厄介だとでも言いたげにため息をつきながら、『憎悪』はフレン達の方を見た
《……アリシアも、レグルスもダメ……って、言うなら……》
小さく呟いた瞬間、『憎悪』は体の向きを変えて、フレンの方に駆け出した
「っ!!ちっ!!」
ユーリは舌打ちしながら、フレンの方に駆け出した
少し遅れてライラックもそちらに走り出す
突然『憎悪』が向かって来たことに、フレンは目を見開いた
向かって来る『憎悪』の姿はいつもと変わらぬ彼女のままだ
「フレンっ!!」
ほんの少し呆けてしまっていたフレンの思考をユーリの声が引き戻した
ハッとして、フレンは剣と盾を構える
《君たちに取り憑くしか、なさそうだね?》
ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべて、『憎悪』はフレンを見る
アリシアが絶対に見せないであろう笑みに、背筋がゾクッとし、動けなくなってしまった
フレンと『憎悪』の距離は近い
ユーリとライラックは間に合いそうになかった
『憎悪』がフレン目掛けて刀を振った、その時
『あ……っ!!駄目!!』
ポルックスの声が、辺りに響いた
瞬間、フレンと『憎悪』の間に見慣れた赤い長髪が現れる
「〜〜〜……」
二人の間に割って入ったアリシアは、歌いながら、『憎悪』に刀を振った
『馬鹿……っ!!出て来たら駄目じゃんっ!!』
カペラの悲鳴じみた声が響く
《あははっ!!もう隠れんぼは終わりかな?》
アリシアの刀を後ろに飛んで避けながら、『憎悪』は笑って彼女を見る
怪訝そうに『憎悪』を見つめながらも、アリシアは歌う事はやめない
「シア!!もういいから早く隠れ……」
ようやく二人の元にたどり着いたユーリがアリシアを見て、目を見開いた
何かに気づいたようで、驚いた顔をしてアリシアを見る
「〜〜〜〜〜……」
歌いながら、アリシアは少しいたずらっ子のような笑みを浮かべてユーリを見て、人差し指を口の前に持って来た
「……はっ、あいつらの言う通り……ホント、タチがわりぃな…」
困ったような笑みを浮かべて、ユーリは小さく呟く
近くで聞いていたフレンには、その言葉の意味がわからなかった
『『あれ』の標的が切り替わったか……フレンくん、まともに奴に相手できない者は、全員後退させた方がいいだろう』
フレンの隣に来たライラックはそう声をかける
彼もまた、少し困ったような笑みを浮かべていた
「……そう、ですね……」
フレンは小さく呟くと、残っていた面々を引き連れて後ろに下がり、ライラックもほんの少し距離を取った
自分達ではどうにもできないのだと、痛感してしまっていた
『あのバカ……っ!おい、ポルックス!!さっさと連れ戻』
叫ぼうとするカストロの肩に、レグルスが手を置いた
「〜〜〜〜〜〜…」
歌いながら、好きにさせてやれとでも言いたげに、ゆっくり首を横に振る
レグルスの制止を、カストロは渋々受け入れ、大人しくまた『憎悪』を見つめた
《……ねぇ、アリシア?そろそろ受け入れてくれてもいいんじゃない?》
『憎悪』はジッとアリシアを見つめて声をかける
《君だって……君になら、私の全てが、理解できるでしょう?……ううん、理解しているはずだって、思うけど?》
どこか自信ありげに言う『憎悪』にアリシアは少し、困った顔をした
歌っている為、言葉を返すことはないが、『憎悪』相手に首を振って、刀を構えた
刀を構えた彼女を見て、後方にいたシリウスは目を見開いた
彼女が刀を握っていたのは左手だった
普段なら、必ず右手なはずなのに……
そんなことを考えてる暇もなく、『アリシア』は駆け出した
『憎悪』相手に、何度も刀を振る
《……っ!!!》
さすがの『憎悪』もこれには対処出来ず、左手の刀を手放した
《…っ………あは……っ!弱点なんて、お見通しってわけだね?》
右手に刀を持ったまま、『憎悪』は後ろに飛んで『アリシア』の攻撃を回避した
一瞬、視線が後ろに向いたのをユーリは見逃さない
『あの時』と同じように距離を詰めて、刀を振った
『憎悪』は『あの時』のアリシアと同じように、目を見開いてユーリを見る
ほんの少しだけ、『憎悪』が寂しそうにユーリに微笑みかける
一瞬、ユーリの中で迷いが生じそうになった
『…迷わないで、ユーリ』
迷いそうになった瞬間、頭の中で彼女の声が聞こえた
白雷は今はユーリの手元にないが、それでも、確かに聞こえていた
「(大丈夫、わかってるって、シア)」
少し不安げなその声に、ユーリは声には出さずに返す
そして、勢いそのままに『憎悪』に刀を振り下ろした
攻撃がモロに当たった瞬間
《アアアアァァァァアアッ!!!!!!》
先程までのアリシアの声から一変、ドスの効いた低い叫び声が辺りに響いた
余りの叫び声の大きさに、ユーリ達は耳を塞いだ
《何故……何故ッ!!!何故屈シナイ……ッ!?何故、我に身ヲ委ねナイ…ッ!!》
ユーリから距離を取りながら、『憎悪』は怒り狂っていた
『上、来る!!!』
ベガが上を見上げてそう叫んだ瞬間、再び先程と同じ術が発動した
『「絢爛たる光よ、干戈を和らぐ壁となれ……フォースフィールド!!」』
「災害警報、お住まいの地域は荒れ模様!テンペスト!!」
『吹き飛ばしちゃえ!ハヴォックゲイル!!』
エステルとアリオトが術を展開した瞬間、タイミングよくレイヴンとアルタイルの術が発動し、赤黒い矢を吹き飛ばした
「へぇ……中々やるじゃない」
少し関心気味にリタはレイヴンを見て呟いた
「たまにはおっさんもいい仕事するのじゃ!」
「ちょ、パティちゃん……たまにはって何よ」
ニコニコと笑顔で言うパティに対し、レイヴンは少し不服そうに返した
「あの……まだ発動には時間がかかるんでしょうか…?」
そんな三人を横目に、エステルは遠慮気味にシリウス達に問いかけた
『いえ、後もう少』
《サセヌ……ッ!!サセヌぞ!!!!》
答えようとしたペテルギウスの声を『憎悪』がかき消した
『憎悪』は真っ直ぐにユーリ目掛けて突っ込んでくる
先程の叫び声をすぐ傍で聞いてしまったユーリは、すぐに動けそうにはなかった
地面に膝をついて、右手で頭を押さえていた
『ユーリくん!!』
ライラックが慌てて駆け寄ろうとするが、間に合いそうにはない
ほんの少し顔を上げて、恨めしそうに、ユーリは『憎悪』を睨みつけた
取り憑かれるわけにも、殺されるわけにもいかない
どうやつて回避すべきか、回らない頭で考えていると、襟元を誰かに引っ張られた
「ぅお…っ!?」
驚いて振り返ると、『アリシア』の姿が目に入った
ユーリの襟元を掴んだまま、『彼女』は後ろに飛んだ
「〜〜〜!!………今だ!!『アリシア』!」
振り返りながら叫ばれた声は、カストロの傍にいるはずの、レグルスのものだった
一同が驚いていると、パチンッと乾いた指の鳴らす音が響く
その音と同時に、どこからともなく金色の鎖が現れ、『憎悪』にまとわりついていく
《ーーーっ!!!!》
逃れようと『憎悪』は必死で足掻くが、逃れることはできない
『……今の、声……レグルス様……?』
ポツリと、リゲルが呟く
『…い、いや……でも、レグルス様はこっちに』
カストロがそう言いかけた瞬間、二人の間を『レグルス』が駆け抜けた
「……レグルスの……バカーー!!!!!」
二人の力の間を抜けたレグルスの姿が、アリシアへと変わった
それを見た『アリシア』がパチンッと指を鳴らすと、今度は『彼女』がレグルスの姿へと変化する
その様子を、一同はポカンとして見つめていた
そんな中、ライラックとユーリだけが、少し困ったように二人を見ていた
「バカバカバカっ!!動くタイミング遅すぎっ!!後一秒でも遅かったら私、飛び出してたよ!?」
若干涙目になりながら、アリシアはレグルスに詰め寄って行く
「そうは言うがな?あれよりも早く動いておれば、奴に隙が生じなかったかもしれんぞ?」
ユーリの襟元から手を離して、腕を組みながら、レグルスは首を傾げた
「それでユーリとフレンに何かあったらどうするつもりだったのさ……っ!だから逆にしようって言ったのにっ!!」
「馬鹿者、お主の方が我よりも数段力が強いのだから、お主が動いては浄化できなくなると再三言ったであろう?」
ほんの少しレグルスを睨みながら見つめていたアリシアだったが、文句を言うのを諦めたのか、小さくため息をつくと、『憎悪』の方を向いた
「……まぁ……結果的に、二人とも無事だったからいいけどさ……それよりも、今は……」
アリシアがジッと『憎悪』を見つめると、『憎悪』の姿が、アリシアのものから、徐々に真っ黒な、球体のような形へと姿を変えて行く
《何故、何故……ッ!!!何故受け入レヌ!!何故拒絶スる!!貴様は一番……我ニ近イ所にイタハズなノニ……ッ!!》
『……え?』
『憎悪』の言葉に、ポルックスが小さく声を漏らした
アリシアはただ黙って『憎悪』の言葉を聞いていた
《我ノ気持チを共有シテいたハズダ…ッ!全てヲ憎ンデイタハズだ…ッ!!全て憎ミ、消し去リタカッタはズだ……ッ!ナノに、何故拒絶スる!?何故我を受け入レナイ!?》
『憎悪』の言葉にアリシアは呆れたように小さくため息をつくと、ゆっくりと口を開いた
「……君と気持ちの共有、なんて私してないけど?」
《っ!!!!!》
「……まぁ、理解できない、とは言わないし……そう思ったことがあったことも、否定はしないよ」
小さく、それでもハッキリとアリシアは答える
その答えに、シリウス達は驚いた
確かに評議会の人間を彼女は恨んでいた
それでも、世界そのものまで恨んでいた素振りなど、一度も見たことはなかった
「……けど、今はそう思っていないから。……私はみんながいるこの世界を壊すつもりも、壊させるつもりもない。私にとって、大事な場所も、大事な人も……もう、誰にも奪わせない」
そう言って、アリシアは『憎悪』に白雷を向ける
《何故……ッ!!何故ダッ!?》
「……だって、私は星暦……太古の昔から、世界を守り続けた一族の当主。……君に、取り込まれる訳にはいかないよ」
真剣な表情で、彼女は『憎悪』を見つめる
その隣に、レグルスが並んだ
「お主の境遇には同情しよう。誰かを憎む事も否定はせん。だが……関係の無い、多くのものを巻き込む事だけは許容できぬ。この世は、お主だけのものではないのだからな」
アリシア同様に、レグルスも黒雷を『憎悪』に向ける
「……さて、アリシアよ、まさか忘れてはおらぬよな?」
少し意地の悪い笑みを浮かべて、レグルスはアリシアを見た
「忘れるわけないでしょ?もう子どもじゃないんだから
……私だって、当主だよ」
『憎悪』を見据えたまま、心外だと言いたげに顔を顰めて、アリシアは答えた
「……ああ、そうであったな」
どこか嬉しそうで、同時に少し寂しそうにレグルスは微笑んで視線を『憎悪』に戻した
二人は軽く深呼吸をすると、同時に口を開いた
「「永き時を越え、再びこの地に戻りし古代の因縁よ……今こそ、その時を止めん」」
《ッ!!ヤめ……ッ!!》
「「太古の怨念よ、静かに、安らかに眠れ……
エターナルスリープ」」
二人が静かに言葉を紡ぐと、『憎悪』を中心に辺りが光に覆われる
余りの眩しさに、一同は目をつぶった
「……バイバイ……ーーーーーーーーーー」
アリシアが、小さく何か呟いていたが、それを聞き取れる者はいなかった