第4部~星暦の行方と再会そして…~
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あー!スッキリした!!」
アリシアとシリウスのほぼ一方的な戦いが始まって数十分、ようやく満足したらしいアリシアがそう言って刀を納めた
「ようやく満足したみたいだな」
窓の縁で頬杖をついていたユーリがほんの少し体を起こしながら、彼女に声をかける
その声に、アリシアは窓の側に寄った
「ずっと見てたの?」
首を傾げながらアリシアは問いかけた
「そりゃな。怪我でもされたらどうしようかと思ってた」
そう言って、ユーリはアリシアの頭を撫でた
「シリウス相手じゃ、私絶対負けないから」
ニコッと笑って、アリシアは答えた
「んで?そのシリウスはどうしたんだよ?」
ユーリが問いかけると、アリシアは少し後ろを向いて指さした
その方向を見ると、シリウスは地面に突っ伏して、完全に伸びているようだった
「……おーい、シア、やり過ぎじゃねえか?」
そう言って苦笑いすると、アリシアは振り返る
「取り憑かれてもないのに、ユーリに怪我させたシリウスが悪いっ!」
ニコッと満面の笑みを浮かべて、アリシアは答えた
そんな笑顔を見せられたら、ユーリはそれ以上何も言えなかった
「はいはい……わかりましたよ」
そう言って、ユーリは振り返る
部屋の中では、待っていることに飽きた面々が、朝食を並べているところだった
「アリオト、終わったらしいから、シリウスのヤツ、見てやってくんねえか?」
ユーリがそう声を掛けると、アリオトが窓の側に近寄って来た
『……アリシア、少しやり過ぎですよ?』
倒れているシリウスを見ると、彼女は小さくため息をついた
そのまま窓から飛び出すと、シリウスの元へと駆け寄って行く
「ほれ、アリオトにも言われたろ?」
「むぅ……なんかちょっと納得いかないっ!」
小さな子どものようにそう言って、アリシアは頬を膨らませる
「……ほら、早く中入って来いよ」
困り気味に笑いながら、ユーリはアリシアに手を差し出す
力を使えばわざわざ窓から入る必要もないが、せっかく差し出された手を取らない訳にもいかず、アリシアは大人しくユーリの手を取った
「よ……っと!」
「わっ!?」
アリシアの手を掴むと、ユーリは勢いよく彼女の手を引き、浮いた体を姫抱きにした
「もうっ!びっくりしたじゃん!」
ユーリの腕に納まったアリシアは顔を見上げながら、文句を言った
その声にライラック達は振り向いた
「油断大敵だぜ?シア」
クスクスと笑いながらユーリは彼女を見下ろした
「あ、アリシア!おかえりなさい!」
「あんたらねぇ……イチャつくなら後にしなさいよ」
ニッコリと笑ったエステルに対し、リタは少し呆れ気味にそう言った
「ええ……これ私が悪いの?」
少し納得いかなさそうに、アリシアは頬を膨らませた
『ははっ!仲がいいのは良い事だ』
『ふふ、そうですね』
どことなく嬉しそうにライラックとアイリーンは笑った
「ほーら、朝飯用意してくれてっから、さっさと座りに行くぞ?」
アリシアを降ろすと、彼女の手を握って歩き始めた
大人しくアリシアはついて行き、先程と同じ場所に座った
「にしても、本当に元気ね〜……」
少し困ったように笑いながら、レイヴンはアリシアを見た
「あら、この方が彼女らしいわ」
「うむ、そうなのじゃ!」
ジュディスとパティはアリシアを見ながら微笑む
「とりあえず食べよ!ボクもうお腹ペコペコだよ…」
カロルがそう言ったのを合図に、一同は朝食を食べ始めた
少し離れたところで、リゲルが羨ましそうに見ていた
『うー……』
小さく唸っていると、アリシアが少しリゲルの方を向く
「……リゲル、もう少しの辛抱だよ」
そう言ってアリシアはニコッと笑った
『……どういう意味……?』
少し不機嫌そうに、リゲルは問いかける
「どうって……んー……」
そう言って少しだけアリシアは目を瞑る
ユーリとフレンは少し首を傾げて彼女を見た
ゆっくりと開かれた目は、ほんの少しオレンジ色が濃くなっていた
その瞳をリゲルの方へとアリシアは向ける
「カープノスは、ちゃんとやってくれるよってこと」
ニッコリと笑うと、再び目を閉じる
もう一度開いた時にはいつもの色へと戻っていた
「そういう予言か?」
ユーリの問いにアリシアは笑って返した
『……力の無駄遣い……』
ボソッとベガは呆れたように呟く
「無駄じゃなくて、有効的だと思うけどなぁ。ベガだって、気になってるでしょ?」
クスッと笑ってアリシアは言う
『カープノス、少しいいですか?』
不意にアリオトの声が聞こえてくる
カープノスが窓に近づくと、アリオトは外に出るように手招きする
面倒くさそうに、カープノスはアリオトについて行った
「アリシア……やっぱり少し、やり過ぎたんじゃないかい?」
苦笑いしながら、フレンは隣にいるアリシアを見た
「……かな?」
アリオトがカープノスを呼んだことで、ほんの少し彼女の中でもやり過ぎたかもしれないという感情が芽生えた
「ったく、程々にしといてやりゃよかったのに」
困り気味に笑ってユーリは言う
アリシアは何も言わず、ただ苦笑いして肩を竦めた
少しすると、カープノスがレグルスの傍に、シリウスとアリオトを連れて現れた
カープノスは少し乱暴にレグルスの隣にシリウスを座らせた
「シリウス、無事か?」
項垂れているシリウスに、レグルスが問いかけた
『……生きてはいる』
ほんの少し顔を上げて、シリウスは呟いた
「アリオト、どういう状態だ?」
レグルスの問いに、アリオトは困ったように笑って肩を竦めた
『怪我は殆どしておりませんでした。こうなっているのは……アリシアに怒られたから、ですね』
アリオトがそう言うと、シリウスはテーブルに肘をつき、頭を抱えた
『くそ……っ、あの時もっと手加減しておけば……っ、いや、そもそも、タイマンがまずかったのか……?』
ブツブツとそう呟くシリウスに、レグルスはこめかみを押えた
「あーらら、だいぶショック受けてるわねえ…」
シリウスを見ながら、レイヴンは肩を竦めた
「シア、いい加減許してやったらどうだ?」
さすがに彼が可哀想になったユーリは、アリシアにそう問いかける
「………ユーリがそう言うなら………」
少し不服そうにしながらも、アリシアはスっと息を吸った
「シリウス!仕方ないから許してあげる!」
そう言うと、シリウスがガバッと顔を上げた
嬉しそうな表情に一同は呆れ返った
『ほんと、シリウスってライラック以上の親馬鹿だよねえ』
アルタイルは苦笑いしながらシリウスを見た
「それじゃ、彼も無事なようだから、さっきの質問、答えてくれるかしら?」
ジュディスはそう言ってアリシアを見た
「ん……あー……そう、だったね」
気まずそうに、アリシアは口篭る
少しして、意を決したように口を開いた
「…じゃあ、レグルス、シリウス、お父様……三人に質問。……直感で答えてよ?」
三人を見ながら、アリシアは首を傾げる
『「……ああ」』『うむ』
「………自分と同じ顔、同じ実力の敵が、自分の仲間と戦ってたら……どっちに勝って欲しい?」
普通なら聞かないであろう質問を、アリシアなは三人に投げた
「……はあ?」
当然と言うべきか、ユーリは間の抜けた声が思わず出た
「それは……な?」
レグルスは少しシリウスとライラックの二人を見る
三人は頷くと、その場にいた全員が思ってもいなかった答えを言った
「…同じ顔の奴だな」
『……同じ顔のヤツだ』
『自分と同じ顔したやつ一択だな』
『いやいやいやいや!!!なんでよ!?!!』
三人の答えにすかさずアルタイルがツッコミを入れた
レグルスの後ろでは、カープノスがやりやがったとでも言いたげに、頭を抱えていた
「……言うと思った……」
ため息をつきながら、アリシアは三人を見る
「……ちなみにだけど、私も同じ答えだよ」
気まずそうに視線を背けながら、アリシアは言う
「「いや、なんで!?!!」」
両隣のユーリとフレンはアリシアを見ながら驚きの声を上げた
「いやー……だって、ねえ?」
同意を求めるように、アリシアは三人を見た
「自分と同じ顔して、実力も同じ奴が負けでもしたら……その者に自身も勝てないだろ?」
『たたでさえ負けるのは嫌だが……自身が戦ってもいないのに、負ける事が確定するのは腹が立つ』
『しかもそれが、負けたくない相手なら尚更だな』
「戦ってもない上に、負けたくないって思ってる相手に負けられでもしたら、嫌だよね」
さも当然とでも言いたげに四人はそう答えた
「あのー……それって、もし負けそうになってたら……どうすんです…?」
恐る恐るエステルが問いかける
「……それは、な?」
「『『「仲間の方を止める“な/かなぁ…”」』』」
四人は揃って同じ言葉を口にする
「……なんか、頭痛くなってきた……」
そう言って、リタは頭を抱えた
アリシアが負けず嫌いなのは百も承知の上だったが、まさかそこまでとは考えてさえいなかった
それは、リタ以外もそうだった
『負けず嫌いも……ここまで来ると大問題ですね……』
『はは……レグルス様と同じ時代に産まれなくて、よかったな、ポルックス』
『……そうだけど……アリシアも同じなのは笑えないよ……』
ポルックスの呟きに、レグルス達五人とアイリーン以外が青ざめた
それもそのはず、星喰みの怨霊は今、アリシアと同じ姿をしているのだから
「え……それ、ユーリでも倒せなくないっ!?」
カロルは慌てて、アリシアに問いかけるる
「あー……いや……うん……えっとね……」
何かを言いかけたが、アリシアはその先を言おうとはしなかった
言うのが恥ずかしいのか、視線を上に逸らせながら頬を搔く
だが、言わなければ話は進まない
少し深呼吸してから、アリシアは再び三人に視線を戻した
「……じゃあ……もう一個質問、ね。自分と同じ顔、同じ実力の敵、今度は…………自分が一番、大切な人と戦おうとしてたら……どっち?……せーのっ!」
言葉を挟まれないようにアリシアはすぐに言うよう促した
「大切な人だな」
『それは大切な人だ』
『大切な人一択だな』
「……三人に同意」
アリシアはそう言って両手で顔を隠し俯いた
だが、ユーリから見れば耳まで真っ赤に染まっているのがしっかりとわかる
『だからなんでそうなるの!?』
カペラは半分呆れ気味に声を上げた
「考えても見ろ。一番大切な人だ。……万が一があったらどうする?」
『いくら同じ顔、実力でも、それは許容できんな』
『アイリーンが私と同じ奴に負けるのは、さすがに嫌だな』
三人は顔を見合わせながら、そう答えた
『……カープノス、貴方、知っていたのですわね?』
ペテルギウスは、レグルスの後ろで頭を抱えているカープノスを見る
『………初代のこの性格は、初代が当主として表に出ていた時は、皆知っていた。だから、なるべく怨霊に初代の形を取らせないようにするのが、当時の決まりだった。……でないと、対処するのが余計に面倒だからな………』
当時を思い出したのか、カープノスは更に頭を抱えた
「……なるほどね、それでユーリか」
呆れたようにため息をつきながら、フレンはアリシアを見た
「…………まぁ………うん……」
くぐもった声でアリシアは答えた
「それに、確かに我も負けず嫌いは認めるが……大切な者なら、別に負けてもいいと思えるからな」
これ以上喋りそうにないアリシアの代わりに、レグルスは口を開いた
『……そうだな。むしろ、自分が勝って、その者が傷つく方が耐えられん』
『同感だ。彼女になら、負けても何とも思わん』
シリウスとライラックはそう言って顔を見合わせた
『……はぁ……いくらレグルス似たとはいえ……この性格は、アリシアに似て欲しくなかったんだが……』
シリウスはそう言って頭を抱えた
『はっはっは!!致し方ないだろう。この髪の色を受け継いでしまったのだからな』
ライラックはそう言って、自身の髪に触れながら笑った
「……笑い事じゃないよ、お父様………もう……一生黙っておくつもりだったのに……」
顔から両手を退けながら少し顔を上げる
ムッと膨らませた頬は、未だに赤く染まっていた
「……ああ、だからいつも、フレンに負けると悔しがる癖に、オレの時は楽しそうにしてたのか」
ユーリが思い出すようにそう言うと、アリシアの肩が跳ねた
それを横目で捉えたユーリは新しいおもちゃを見つけた子どものように、意地の悪い笑みを浮かべる
「……顔、まだ真っ赤だぜ?シア」
彼女の髪を耳に掛けながら、ユーリはニヤッと笑う
「〜〜〜~っ!!!もう……っ!!ユーリのバカっ!!!」
アリシアはそう言うと、ユーリの胸に顔を埋めた
「ふふ、あんまりいじめちゃ、可哀想よ?」
クスクスと笑いながら、ジュディスはユーリを見た
「あんまり赤いもんでつい、な」
まさか自分の元に逃げてくるとは思っていなかったユーリは、少し困ったように苦笑いした
『でも、それなら対処は、しやすいかもね』
リゲルはそう言ってユーリを見た
『『あれ』が、アリシアの全部を、模倣してるんだったら……『あれ』はユーリに、攻撃しずらいだろうから、ユーリが牽制してくれてれば、僕らは守るだけで済むから』
その瞳は、真っ直ぐにユーリに向けられていた
『それが、そうとも限らないのよ、リゲル』
リゲルの言葉に、少し困ったようにアイリーンが笑った
「それ、どうゆうことよ?」
彼女を見ながらリタが首を傾げた
『ふふ……確かに負けてもいい、とは思えても、だからと言って、手を抜くつもりはないってことよ』
困り顔で笑いながら彼女は言った
「言われて見りゃ……確かに全力で向かって来てたな」
青い世界であった出来事を思い出しながら、ユーリは苦い顔をした
「それは……まぁ、そうだな」
『あくまでも『負けてもいい』と思える、と言うだけの話だからな』
『勝ちに行こうと全力は出すだろう。……まぁ、怪我させるまでやるかどうかは、その時次第だがな』
レグルス達はそう言って顔を見合せた
『うっわ……タチ悪っ……』
若干引き気味にカペラが三人を見た
『それ知ってたら、アリシアを『あれ』になんて、近づけさせなかったのに……』
アルタイルはそう言って、ムスッとしながら頬杖をついた
『そうですわね。何故二人とも教えて下さらなかったのですか?』
ペテルギウスは少し睨み気味に、アリシアとシリウスを見た
シリウスは気まずそうに顔を背ける
「………け…………じゃん………」
引っ付かれているユーリでさえ聞き取れないか細い声で、アリシアは何か呟いた
『え、今、なんて?』
キョトンとして、アルタイルはアリシアを見る
「……い……………言えるわけないじゃんっ!!バカーーーっ!!!!!」
ユーリから離れ、ペテルギウスの方へ顔を向けながら、アリシアは叫んだ
突然声を上げた彼女に、傍にいたユーリとフレンは唖然として彼女を見ていた
「意味わかんないこと言ってるのも、タチ悪いのもわかってるしっ!?大体私だって意味わかんないのに、そんなの人に言えるわけないじゃんかぁぁっ!!?」
少し早口でアリシアは答える
相当恥ずかしかったのか、耳まで赤く染め、ほんの少し涙目で訴える
『……全くもってその通り、だな…
…気づいてから数百年経つが……オレだって未だに理解できてないぞ……?!幾ら負けず嫌いでもそこまで考えんだろ…っ!』
そう言って、シリウスは頭を抱えて項垂れた
『えぇ……そう思ってるなら諦めたら……?』
『「それは嫌だっ!!!」』
カペラの言葉に、二人は同時に声を上げる
「考えただけでも、なんかムカッとするのに…っ!!諦めるとか、絶対無理っ!!!」
『理解できずとも、それは許せないのだ!!……くっそ!!!何故レグルスとライラックは平気なんだ…っ!!!』
レグルスとライラックをシリウスは睨みつける
いつの間にか、シリウスもほんの少し顔を赤らめていた
「いや……何故かと言われても……そういう性分なのだから、致し方ないだろう?」
困り気味にレグルスは答えた
『ははっ!そうだな。そういうものだと諦めてしまえば、存外楽だぞ?』
少し楽しそうにライラックは笑う
『ライラック、笑い事ではないのですよ?あなたのその性分のせいで、何度苦労したと思っているのですか?』
小さくため息をつきながら、アイリーンはジト目でライラックを見る
「レグルスと髪色同じなだけで、性格まで似るって方がタチ悪いって……っ!!!!あー……もう………ホントヤダ………穴があったら入りたい……っ!!!」
そう言って、アリシアはテーブルに突っ伏して足をジタバタさせた
「一番精神的にダメージを受けているのは、アリシアね」
困り気味に微笑みながら、ジュディスはアリシアを見た
「……まぁ……こりゃ、確かに、一番タチ悪いのはレグルスだよな」
テーブルに突っ伏しているアリシアの頭を撫でながら、ユーリはレグルスを見た
「そうなるのか?カープノス」
自身の後ろで頭を抱えているカープノスにレグルスは問いかけた
『どう考えてもそうだろ!?俺が今までどれだけ苦労してきたと思ってるんだ、初代!?』
顔を上げてカープノスはレグルスに詰め寄った
『この状態になってからも、初代のその性分を継いでしまった奴らを牽制してきたんだぞ?!どんだけ大変だったと思っているんだ!!!
ただでさえシリウスもライラックも止めるのに苦労したと言うのに、アリシアまでそうとは聞いていないっ!!!!』
「うーむ……別にこの性分を引き継がせたつもりは一切ないのだが……」
『『尚タチが悪いだろっ!?!!』』
レグルスの返答に、シリウスとカープノスの叫びが重なった
『………これ、どう収集つければいいの?』
大きくため息をつきながら、カペラは三人の傍にいるアリオトを見た
『……とりあえず……』
アリオトはそう呟くと、鉄扇を手に持ち、三人の頭を叩いた
『『「っ!?!!」』』
『三人とも、うるさいですよ?』
驚いてアリオトを見た三人に、彼女はニコッと笑いかけた
表情こそ笑ってはいるものの、その顔からは怒りが感じ取られた
彼女が怒っていることに気づいた三人は口を閉ざした
「何度見てもおっかないわ……」
四人を見ながらレイヴンは肩を竦めた
『……アリシア、あなたもレグルス様のこの意味のわからない性分を継いでしまった、という事はわかりました
……とは言え、だからと言って、彼に託そうとするのは、少し意地が悪いのではないですか?』
三人が静かになったのを確かめると、アリオトは少し厳しい口調でアリシアに問いかけた
「………別に、それだけの理由ではないよ……」
少し顔を上げ、ムッとしながらアリシアは答える
『では、他に何か理由がある、と言うのですか?』
アリオトは尚アリシアに問いかけた
答えない事は許さないとでも言いたげに、鉄扇を片手に持ち、彼女を見つめる
「………言ったじゃん、私の姿した『あれ』に、本気になれるのは、ユーリだけって」
「その意味がわかんないから聞いてんのよ」
アリシアの答えに、すかさずリタが反応した
「……ユーリは、なんでかわかるんじゃない?」
ほんの少しユーリの方へ顔を向けながら、アリシアは問う
未だに赤い頬を見て、ユーリはクスッと笑った
「……ま、言いたいことはわかるけどな?」
赤い頬を撫でながら、少し困ったように肩を竦めた
「あら、何故かしら?」
何か面白いものでも見つけたかのように、楽しげな声でジュディスは問いかけた
「あん?…いや、まぁ……な?」
ジュディスの方を見て、ユーリは言葉を濁した
「なによ?ハッキリ言いなさいよ」
不機嫌そうに、リタがユーリに詰め寄る
『ふふ……それは、そうよ』
クスクスと笑いながら、アイリーンが口を開いた
『だって、倒すべき敵が、自分が最も大切な人の姿形……声も口調も仕草も性格も、全てを真似ていたら……腹立たしいわよね?』
ユーリを見ながら、彼女は優しく微笑んで首を傾げた
そんな彼女の視線から逃れようと、ユーリは顔を背ける
『……なるほど、そういう事ですか』
納得したらしいアリオトは少しため息をつきながら、鉄扇をしまう
「……つまり、アリシアとユーリの利害が一致しているわけ、だね」
どこか呆れたようにフレンはそう言ってユーリを見た
「……仕方ねえだろ、『あれ』見た瞬間、腹立っちまったんだから。全力でぶっ飛ばさねえと気が済まねえんだよ」
少し不機嫌そうにユーリは答え、ほんの少しフレンの方を向く
アリシア同様に、ユーリの頬も少し赤く染まっていた
『ええ……そういう考えになるものなの……?』
少し呆れたようにアルタイルは呟いて、ユーリをジトッと見つめた
『あら、なるものじゃないかしら?私は彼の気持ちがよく分かるわよ?』
ニコニコと笑顔を浮かべて、アイリーンはアルタイルの方に顔を向けた
『アイリーンはそう言う性分だからな。おかげで、私を模倣した怨霊の浄化は楽だったな』
懐かしそうにクスッと笑いながら、ライラックは彼女の肩に手を回した
『私は毎回大変だったわよ?いつも手加減はしてくれないんだもの』
ライラックの顔を見上げて、彼女は彼の額を軽く小突いた
『そうは言うが……私と手合わせする時よりも本気で戦っていたじゃないか』
『それはそうよ。本物のあなたには怪我をさせたくなかったもの』
少し不機嫌気味に、アイリーンは答えた
そんな彼女に、ライラックは苦笑いしていた
「……なんか、ユーリとアリシアみたいだね」
不意にカロルが、二人を見ながらそう呟いた
「言われてみれば……確かに似てますね」
ライラックとアイリーンの二人と、ユーリとアリシアの二人を交互に見ながら、エステルは同意した
「そうね。ライラックがアリシア、アイリーンはユーリね」
クスクスと笑いながら、ジュディスはライラックとアイリーンを見ていた
「まさにお似合いってことよ。……いい加減、諦めたらどうよ?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、レイヴンはフレンに問いかける
当の本人は、アリシアの隣で不機嫌そうに顔を顰めていた
「レイヴンさん……それとこれとは話が別です」
不機嫌な声で、フレンは答えた
「フレンも諦めが悪いのう」
「それ、パティが言う…?」
フレンを見ながら言ったパティに、カロルは呆れ気味にそう言った
「……とにかく、だ。『あれ』がそこまで模倣しているという想定で動くしかないが……」
静かにそう言いながら、レグルスはアリシアを見る
『あの様子では、暫く話すのは無理そうですわね』
少し困ったように微笑みながら、ペテルギウスは頬に手を当てた
視線の先にいるアリシアは未だにテーブルに突っ伏したままだった
『あらあら……困ったわね』
『ふむ……』
苦笑いしているアイリーンの隣でライラックは腕を組んで、アリシアを見つめる
少しすると、無言で立ち上がって彼女の元へと近寄った
『アリシア』
アリシアの肩に手を乗せながら、ライラックは名前を呼ぶ
少し面倒くさそうにアリシアは顔を上げて、ライラックの方を振り返った
『久々に……少し動かんか?』
ニッと笑いながら、ライラックは指を鳴らした
すると、軽装から隊服、アリシア同様に腰に刀を下げた姿へと変化した
最もよく知っている姿に変わった事に、一瞬アリシアは驚く
が、少しすると、どこか嬉しそうにニッと笑った
「……そうしよっかな」
小さくそう呟くと、アリシアは立ち上がる
『『ちょっと待ったぁぁっ!!!』』
二人を制止するように、カストロとポルックスの二人が立ち上がりながら叫んだ
『だめだめだめだめ!!!それは絶対だめ!!』
『二人の手合わせは、シリウスよりタチ悪いだろ!?!!』
少し青ざめながら二人はアリシアとライラックを見つめた
『はっはっ!加減はするさ』
ライラックはそう言うやいなや、アリシアの手を引いて窓の方へと向かった
『あっ!ちょっと!!ライラックっ!?!!』
アルタイルは慌てて立ち上がるが、時すでに遅く、二人は窓から飛び出していた
『えぇ……今度はライラックとアリシアか……』
『……とりあえず、僕外で結界、張っておくね』
リゲルはそう言うと、二人の後を追って、窓から飛び出した
『……シリウス、止めなくていいの?』
深くため息をつきながら、ベガはシリウスに問いかける
『オレが止めた所で、あの二人が言うことを聞くと思うか?……それに、アリシアも体を動かせば、少しはマシになるだろ……』
既に二人を止めることを諦めていたらしいシリウスはそう言って、窓へ近づいた
シリウスが動いたのに合わせ、カストロ達も窓へ近づいて行った
「あの……二人が手合わせするのは、そんなにまずいのです?」
エステルは首を傾げながら、シリウス達に問いかける
『あの二人はね……相手が他の人なら加減ができる癖に、二人になった途端、加減って言葉、忘れちゃうんだよ』
窓の縁で頬杖をつきながら、カペラは答える
『アリシアが双剣で戦えるようになってから、
『あの二人、周りの事なんて考えねえから、しょっちゅう木なぎ倒してたよな』
『術技平気で使い始めちゃうからね……アリシアはもう、そこの心配する必要ないわけだし……』
『……いつか、怪我しそう、だったよね』
困ったようにアルタイルとカストロ、ポルックス、ベガはそう言ってため息をついた
四人の言葉にユーリ達も青ざめた
慌てて彼らも窓に寄るが、二人は既に刀を抜いていた
『行くぞ!アリシア!』
「今日こそ絶対勝つんだからっ!」
二人はそう言い合うと、同時に相手目掛けて走り出した
ーーーーーー
ユーリ達が心配して見守ること数分…
二人は楽しげに刀を交えていた
カキンッと刀の当たる音が、辺りに響き渡る
『ははっ!!昔よりも速度が上がっているな!』
楽しそうに笑いながら、ライラックは刀を振る
「む……またそうやって子ども扱いするんだから……っ!!」
ムッとしながらアリシアは答えながら、ライラックの刀を受け流す
その顔はどこか楽しそうだった
『む?そんなに子ども扱いされるのは嫌か?……ならば…っ!』
そう言ってライラックはアリシアから少し距離を取ると、瞳が濃いオレンジ色に変化した
『この名を以ちて裁け……』
『……!!おい、ライラック…っ!!』
詠唱を始めたライラックを慌てた様子でカープノスが呼び止めるが、彼にその声は届かなかった
『リリジャス!!!』
アリシア目掛けて、雷が落ちる
当たるか当たらないかギリギリの所で、アリシアはそれを回避した
「危なっ!?お父様がその気なら……っ!」
ライラックを見つめるアリシアの瞳も、濃いオレンジ色へと変わる
「足元注意だよ!!出でよ!岩槍!!」
『ちょっ!?アリシア!?!!』
アルタイルが声を掛けるが、アリシアは聞く耳を持たなかった
「ロックランス!!」
アリシアが唱えると、ライラックの足元から岩の槍が現れる
ライラックはそれを後ろに飛んで回避する
『うっわっ……ついにやりやがったな……』
若干諦め気味にカストロがため息をつく
「まさに大暴れねぇ……」
「これ……ほんとに手合わせなの……?」
引き気味にレイヴンとカロルは呟いた
『ははっ!!術の精度も上々だな!!』
「もうっ!笑い事じゃないって!!手合わせの時は術使うの禁止って、お母様に言われてたでしょっ!!」
笑うライラックに、アリシアは突っ込んで行く
「あっ!!おい!!シア!!」
突っ込んで行く彼女にユーリは少し窓から身を乗り出し、焦って声を掛けるが、アリシアはそんなのお構い無しに、ライラックだけを見ていた
「風迅剣っ!!!」
刀が当たるギリギリを、今度はライラックが避ける
『おっと……!技の速度も上がっているな!……ならば、これも躱せるか?!』
そう言って、ライラックはアリシアに向かって行く
『……っ!!ライラック!!それはっ!!』
何かに気づいたアイリーンが、悲鳴に近い声で叫びながら、窓から身を乗り出した
『獅吼旋破っ!!!』
ライラックの放った技に、アリシアは目を見開いた
「あ、やばっ……!!」
小さく呟きながら、刀でガードしつつ後ろに飛ぶ
『あっ!!!』
ライラック自身もまずいと感じたらしく、焦った顔をするがもう遅い
攻撃自体はガード出来たものの、勢いそのままに、アリシアは後ろへすっ飛ばされた
「ぅわっ!!?!!」
「シアっ!?!!」
慌ててユーリは窓から飛び出し、彼女の方へとかけて行った
アリシアは空中でクルッと一回転し、足を地面に付けると刀を地面に突き刺した
壁に当たるギリギリのところで、彼女の体は止まる
「ーーっ!!!もうっ!!それは危ないじゃんかぁ!!」
顔を上げて、ライラックを少し睨みながらアリシアは叫ぶ
そして、再びライラック目掛けて突っ込もうとする
「バッカ!!お前っ!!もうやめとけって!!」
そんなアリシアを、ユーリが腕を掴んで引き止めた
「え?なんで??」
キョトンとした顔で、アリシアはユーリを見て首を傾げた
その瞳の色は、もう元の色に戻っていた
「『それ以上は怪我するからだよ!馬鹿!!』」
リゲルとユーリの声が辺りに響いた
『ライラック!!!あなたという人は……!!』
ズカズカとアイリーンはライラックに詰め寄って行く
『ははは……いやぁ、アリシアが強くなっている事が嬉しくなって、つい、な?』
苦笑いしながら、ライラックは頬を掻いて、アイリーンから目を背ける
ライラックの瞳の色も元に戻っていた
『つい、じゃありませんっ!!加減すると、最初に言っていたじゃありませんかっ!!』
ライラックを睨みつけながら、彼女は説教を始めた
「……そんなに怒られることした……?」
恐る恐る、アリシアはユーリに問いかける
「あんだけ大暴れしといて、怒られねえとでも思ったのかよ、アリシア?」
呆れ気味にため息をつきながら、ユーリはアリシアを少し睨む
「えー……だって、このくらいいつもの事だし……それに、いつもよりはまだ暴れてなんて」
「充分大暴れしてたろっ!?技はともかく術まで使いやがって!!怪我してたらどうするつもりだったんだよ?!」
アリシアの言葉を遮るように、ユーリが怒鳴る
突然怒鳴られ、驚いたアリシアの肩が跳ねた
「いや、それは……アリオトとエステルいるし……」
「そういう問題じゃねえっての!」
コテンッと首を傾げながらそう言うアリシアをユーリが叱っていた
『……はぁ……全く……あの二人は……』
怒られているアリシアとライラックを見て、シリウスは大きくため息をついて項垂れた
『本当に困ったものです』
シリウス同様にアリオトもため息をついた
『ところで……レグルス様は何をしているのでしょうか?』
カープノスを見ながら、ペテルギウスが問いかけた
アリシアとライラックの手合わせが始まってから、一度も彼の声を聞いていなかった
『……初代なら、さっきからずっとあそこで大笑いしてるぞ?』
アリシアとライラックに視線を向けたまま、カープノスは自身の左斜め後ろを指さした
ペテルギウスがそちらへ目を向けると、声を殺して笑っているレグルスの姿が見えた
『……レグルス様?何がそんなに面白いのでしょうか?』
ニコニコと笑いながら、彼女は問いかけた
「……ふ……っ、いや、あやつらの元気が、あまりにもいいものでな……っ、ははっ!」
『笑い事じゃないんだけど!?!!』
声を出して笑い始めたレグルスに、アルタイルがすかさずツッコむ
「はははっ……そう怒るなアルタイル。……青年とアイリーンも、そのくらいにしておくといい」
笑いすぎて、目元に溜まった涙を指で掬いながら、レグルスは窓に近寄り、ユーリとアイリーンに声をかけた
「なんでだよ?」
『そうですよ、レグルス』
不服そうに二人はレグルスの方を向く
「ははっ、例え今の攻撃が当たっていたとしても、アリシアは怪我すらしていなかったぞ?何せ、二人はまだ本気など出していないんだからな」
楽しそうに笑いながら、レグルスはそう言って二人を見た
ユーリ達は驚きながら、二人を交互に見た
『はっはっはっ!!さすがに、気づいておったか。私はまだ、本気の半分程度しか出していなかったぞ?』
「えー……半分しか出してくれなかったの?私七割くらいは本気だったのに……」
ライラックの答えに、アリシアは不服そうに頬を膨らませながら、刀を納めた
「え…?アレで半分と七割なの……?」
若干引き気味にカロルが呟いた
それはユーリ達も思ったことだった
『昔は三割しか本気を出していなかったのだから、かなり成長したと思うぞ?』
嬉しそうに微笑みながら、ライラックも刀を納めた
『でもさ?二人が手合わせする時って、いっつも木なぎ倒してたじゃん』
不思議そうにカペラは首を傾げた
『ははっ、それはアリシアの術の精度が今ほど完璧ではなかったからだな。不安定な術を出すものだから、周りへの被害が大きかったのだ』
「それに、あの時は、私は全力出してたしね
……まぁ、その時に比べたら、まだちゃんとお父様と戦えた訳か……」
笑いながら言うライラックに対し、アリシアはまだ少し不服そうに呟いた
「全力って……あんた、あの不安定な術、父親に向かって発動させてたわけ?」
呆れ気味にリタはアリシアに問いかける
「お父様が使わなきゃ、私だって使わなかったよ?」
首を傾げながら、アリシアはそう答えた
その答えにリタはただ項垂れた
「あーぁ……にしても、また勝てなかったなぁ……今日こそは勝つつもりだったのに」
ムスッとしながら、アリシアはライラックを見た
「お前なぁ……」
大きくため息をつきながら、ユーリは呆れた顔でアリシアを見つめた
『ははっ!!私に勝てるようになるのは、まだまだ先になりそうだな?』
アリシアに近づき、彼女の頭の上に手を乗せながら、ライラックは笑う
「ライラックさんも、こいつが怪我したらどうするつもりだったんすか?」
そう言って、ユーリは視線をライラックへ向けた
『心配せずとも、この子に怪我などさせんよ』
ニッコリと微笑みながら、ライラックはユーリにそう返した
彼の答えに、ユーリはもう一度ため息をついた
「ライラックさん……その自信はどこから出てくるんですか……」
フレンはそう呟いて大きくため息をついた
「でも、考えようによっては、彼女が戦っているところを見られて、よかったと思うわよ?」
呆れている一同を見回しながら、ジュディスが言う
「どういう事なのじゃ?」
その言葉に、パティは首を傾げた
「憎悪は彼女の全てを模倣しているのでしょう?それなら、実力だって同じなはず。私たちは、今の彼女がどれだけ強いのかを知らなかったのだから、本気でなくとも、今の実力を知れたのはいい事だと思うの」
そう言ってジュディスは微笑んだ
確かに彼女の言うことも一理ある
「んー……そりゃそうだけんどもよ?いきなり、おっぱじめんのは、どうかと思うのよ」
「はい……びっくりして、心臓止まるかと思いました……」
が、だからと言って、急になんの説明もなく起こった戦闘に、肝が冷えたのは事実だ
「あー……うん、それはごめんね?」
頬を掻きながら、苦笑いしてアリシアはそう言った
「……アリシアも落ち着けたようならば、話し合いの続きを始めるとするか」
レグルスはそう言って、外にいる五人を手招きした
「……ほら、行くぞ、シア」
まだ少し不服そうにライラックを見る彼女の手を引いて、ユーリは窓の方へと歩き始めた