第4部~星暦の行方と再会そして…~
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二人の戦いが始まって、どれだけの時間が経過しただろうか
実力はほぼ互角……
だが、ほんの僅かにユーリの方が上だった
それは、シリウス達との戦いからの影響だろう
アリシアの攻撃を受け流して、ユーリは僅かに後ろに下がる
「…っ!ははっ!ライラックさんよりかは軽いが……前より重いな」
ほんの少し楽しげに、ユーリは笑う
「だって、向こうじゃエアルに弱いせいで、あんまり体強くなかったし……」
ムッとしながら、アリシアはそれに答える
「そうだったな」
そう言ってクスッと笑うと、再びアリシアに向かって行く
アリシアはユーリの攻撃を躱しながらも、攻撃の手は休めなかった
相変わらずの身のこなしに、ユーリは思わず見惚れそうになりながらも、それでも攻撃を止めない
何度も刀を交えていると、一瞬アリシアの左側の防御が薄くなる
その隙を見逃さずに、ユーリは左手の刀を弾き飛ばした
「…っ!!」
刀を弾き飛ばされたことに驚きながら、彼女はユーリから少し距離を取っていく
「……やっぱり左側って、どうしても意識いかない時があるんだよなぁ……」
小さくため息をつきながら、アリシアは苦笑いした
「ははっ、ライラックさんと同じだな」
それに笑いながら、ユーリは答える
「私の悪い癖だよね。教えられたことそのまま覚えちゃうの」
アリシアはそう言って肩を竦めた
「……これで終わり、って訳にゃいかねーか」
困ったように笑いながら、ユーリはアリシアを見る
「…当然!」
どこか楽しそうにそう言って、アリシアは右手で刀を構えた
シリウスと全く同じ構え方に、思わずユーリはクスッと笑う
「今度はシリウス、だな」
そう呟いて、再び刀を構える
その瞬間、アリシアは一気に距離を詰めてきた
やっぱりシリウスよりも早いな、と思いながら、彼女の攻撃を後ろに飛んで回避する
地面に足がつくと、そのまま今度はユーリが距離を詰める
以前よりも速くなっている動きに、アリシアはほんの少し驚いた
だが、それでも尚、楽しそうに笑う
躱しては攻撃し、また躱す……
しばらく膠着状態が続いたが、最初に隙を見つけたのはユーリだった
アリシアが後ろに回避する際、ほんの一瞬だが、後ろに視線が向く瞬間があった
それをユーリは見逃さない
ほんの少し気が逸れている隙に、距離を詰めて、彼女の刀を弾こうと、自身の愛刀を振った
当然、アリシアはそれに気がついて、少し驚いた顔をして、ユーリを見る
ユーリは防御するものだと思っていた
防御されたとしても、刀は弾き飛ばせる
だが、ユーリの想定と違い、彼女は防御しなかった
彼女の右手に自身の刀が当たる寸前の所で、慌てて刀を少し上げた
アリシアの手ギリギリの所で、ユーリの刀は、アリシアの刀に当たり、彼女の手から刀が弾き飛んだ
そのままの勢いでユーリは自身の刀を後ろに飛ばし、二人はその場に倒れ込んだ
自分たちの後ろで、刀の落ちる音が響いていた
「……おい、ふざけてんのか?アリシア」
アリシアを見下ろして、普段より低い声で、ユーリは問いただす
「別に、ふざけたつもりはないよ?」
少し困った顔をして、アリシアはユーリを見上げた
「じゃあなんで、防御しなかったんだよ。今のは防御できただろ?」
声は荒らげずに、ユーリは尚問い詰める
「……私を模倣した『あれ』なら、きっとそうするよ」
静かにアリシアは答える
彼女の答えに、ユーリは少し目を見開いた
「それが一番有効的でしょ?どうしても……ほんの少し、揺らぐから。……それで攻撃の手が止まったら、『あれ』の思うツボだよ」
目を閉じながら、彼女は言う
「……でも、やっぱりユーリなら大丈夫そうだね」
少し息を大きく吸うと、目を開いてニコッと笑った
「ユーリは、私と同じで負けず嫌いだもんね」
ニコニコと笑いながら、アリシアはユーリを見た
彼が怒っているとわかっていながらも、僅かにあった不安がなくなったことの方が、彼女にとっては何よりも大事だったから
「……バーカ、だからって、んな危ねぇことしてんじゃねえよ」
そう言って、ユーリは彼女の額を軽く弾いた
「もう……怪我したって平気だって、言ったじゃん」
「オレの心情的に嫌なんだっつーの。……ったく、本当にその無鉄砲なところは変わんねえな」
未だ怒った声でユーリは言う
「……ごめんね、ユーリ」
申し訳なさそうに、アリシアはそう言って眉を下げた
怒られるだろうとわかった上での行動だったが、いざ怒られると、胸がギュッと締め付けられていた
「……次また同じことしようとしたら、そんときゃ本気で怒るからな?」
アリシアの目を見つめて、ユーリはそう告げた
「もう二度としないよ。……絶対約束する」
眉は下がったまま、アリシアはそう答えた
「…………はぁ………ホント、心臓にわりぃわ」
いつもの声色でそう言うと、ユーリはアリシアの肩に顔を埋めた
ひとまず怒りは収まったのだろうと、アリシアはホッと息をついた
「…あーぁ、それにしても、やっぱりユーリには勝てないなぁ……」
そう声に出して言うが、そこには悔しさの欠片もなく、それがさも当然とも受け取れた
アリシアの視界には、真っ青な空が広がっていた
どこか、フレンを思い出させるかのような青色に、アリシアはクスッと笑っていた
「……それで、ユーリ。お願いって、何??」
全く動かず、口も開かなくなってしまったユーリに、アリシアは問いかける
その問いかけに、ユーリはゆっくりと顔を上げて、アリシアの目を見た
真剣な表情に、アリシアは少し首を傾げた
「……もう二度と、オレの前から居なくなんなよ?」
ユーリから出た言葉は、全く予想していなかったもので、アリシアは驚いて目を見開いた
彼ならきっと、無理無茶するなと言うだろうと思っていただけに、余計に驚いていた
「お前が傍に居ないと、なんもかんも全部、どうでもよくなっちまうんだよ」
どこか寂しそうに微笑みながら、ユーリはそう言った
「………本当に、それでいいの……?」
少し掠れた声で、アリシアは聞き返す
「当たり前だろ?……前に言ってたろ?フレンとオレは朝と夜の空の色だって」
それは、ユーリとエステルとラピードとで旅を始めた時に、アリシアがユーリに言った言葉だった
驚いているアリシアの目元に、ユーリはそっと触れた
「なら、お前は朝焼けと夕焼けの色だ。……居てくんなきゃ困るだろ?」
そう言って、ユーリは笑った
その笑顔は、いつもアリシアにだけ見せるもので
見開いた目をそっと閉じて、少し泣きそうになりながら、アリシアは笑った
「あはは…っ、それじゃ、居ないと、だめだね……っ、朝も夜も、来なくなっちゃう…っ」
薄らと、彼女の目元に涙が溜まる
「ま、そうじゃなくとも、居てくんねぇとオレが困るけどな」
目元に溜まった涙をそっと指で拭いながら、ユーリは言う
「ホント、いい加減わかってくんねえかねぇ。オレ、シアが居ないとダメなんだってこと。……お前以外じゃ、ダメなんだよ」
優しくそう言って、ユーリはアリシアの頬を撫でた
少し擽ったそうにしながら、アリシアは薄らと目を開く
目の前に見える黒い瞳は、自身がもっとも愛している人のもので
愛おしげに見下ろしてくるその表情は懐かしくて
ユーリじゃなきゃ駄目なのは、アリシアも同じだった
「……約束、してくれるか?」
再びユーリはアリシアにそう問いかけた
「……っ、うん…っ!約束、するよ…っ」
そう答えて、アリシアはユーリの首に手を回した
それを合図に、ユーリはアリシアの唇と自身の唇を重ねた
触れるだけ、それだけでも、懐かしく、少し満たされた気になれた
少しして、二人の唇が離れると、額を合わせて、揃って笑い始めた
楽しげに、二人はしばらく笑っていた
「……んで、どうやってこっから戻るんだ?」
一頻り笑い終えると、ユーリはアリシアを見つめて問いかけた
「……そろそろ力の移動も終わるみたいだし、待ってれば戻れるよ」
ニコッと笑って、アリシアは答えた
「ふーん……なら、もうちょい話すか。聞きたいこともあるしな」
そう言って、ユーリは少し目を閉じた
「……聞きたいこと……って、何……?」
何かを察したアリシアは若干顔を引きつらせた
「何、じゃねえよ。お前……いつから『白雷の中』にいたんだよ?」
目を開いて、ユーリは問いかけた
「あはは……やっぱり気づいてたかあ……」
気まずそうに苦笑いしながら、アリシアは頬を掻く
「オレが気づかねえわけねえだろ?大体、ペテルギウスと戦った時辺りから自己主張してきた癖に、よく気づかれねぇと思ったな?」
ユーリの言葉にアリシアは肩を竦める
「それは……うん、その話もきっと、ベガはしてくれてないよなぁ……」
どこか諦めたように、アリシアは呟いた
「あいつらにも言わなきゃいけねえ事なのか?」
「うーん……言わなきゃいけないっていうか…戻ったら気づかれちゃうっていうか……?」
バツが悪そうに、彼女は答える
「……んじゃ、向こうに戻ったら聞かせてくれよ」
「あー……うん……でもこれ、シリウスが聞いたら怒り狂うだろうなぁ……どーしよ…」
本気で困った顔をして、アリシアは唸った
「…そんなにやばい事でもしたのかよ……」
呆れ気味にユーリはため息をついた
「これに関しては不可抗力だって…!!私もベガも、そんな予定じゃなかったし…!」
少しムッとしながら、アリシアは反論した
「…はぁ、でもシリウスには通用しないよなぁ……」
「そんなに怒るとやばいのか?」
「……ユーリが受けたあの大剣、容赦なく振り回して来るんだよ?」
どこか嫌そうにアリシアは答えた
「……さすがに、そりゃ困るな」
ユーリもまずいと感じたらしく、困った顔をした
実際にシリウスの剣を受け止めたユーリだからこそ、その威力の危険さを感じられていた
「狭間やここならともかく、向こうでそれは、本気で死んじゃうよ……」
苦い顔でアリシアは更にため息を着く
「……ま、さすがにそうなったら、逃げるとしますかね」
そう言いながら、ユーリはアリシアの頭を撫でた
「……一緒に逃げてくれるの?」
「当面の間は、一秒足りとも離れたくないんでね」
問いかけてきたアリシアに、ニッとユーリは笑った
そんな彼に、嬉しそうにアリシアも笑う
同じタイミングで、地面が少し揺れだした
「……時間、だね」
ほんの少し名残惜しそうに、アリシアは呟いた
「またすぐ会えるっての。……目、覚ます時間だぜ?おじょーさん」
「……うん、そうだね」
そう言って、二人はまた笑いあった
「それじゃ、ユーリ、また後で」
「おう、また後で、な」
辺りは光で包まれ、二人はそっと、目をつぶった
ーーーーーー
「………っ………」
ほんの少し痛みを感じながら、ユーリは目覚めて、体を起こした
『あ!ユーリ!!』
一番最初にそれに気がついたのはアルタイルだった
『大丈夫ですか?ユーリさん』
心配そうに声をかけながら、アリオトはユーリに近づき、治癒術をかけた
部屋の中を見回すと、フレン達の姿はなく、そこにいたのは、シリウス達だけだった
「……オレ、どんだけ寝てたんだ?」
『五時間くらい……みんなも、今日はさすがに寝に行かせたよ?』
リゲルはそう言いながらユーリの傍に寄った
ユーリの顔を見上げるその顔はほんの少し心配そうにしていた
「そんなに心配そうな顔しなくても平気だって」
そう言って、ユーリはリゲルの頭を撫でた
「……やはりアリシアが負けた、か」
クスッとどこか楽しそうに笑いながら、レグルスはユーリを見た
「シアも似たようなこと言ってたが……あんたらに共通した性格って、一体なんなんだよ?」
首を傾げて問いかけるが、レグルスは答えるつもりはないらしく、ただ笑顔を浮かべていた
「………ん………」
小さく唸り声を上げながら、隣で眠っていたアリシアが、体を起こした
『アリシア!!』
嬉しそうにカペラが駆け寄るが、当の本人はどこかボケッとしていた
まるで、意識を半分、どこかに置いてきたかのように
『おい、アリシア??』
カープノスが肩を揺らしてみるが、あまり反応がない
「……これ、どうなってんだ?」
レグルスの方を見ながら、ユーリは問いかける
「………青年、白雷を持たせてみろ」
レグルスに言われるがまま、ユーリは傍にあった白雷をアリシアに持たせてみた
すると、白雷が強い光を放った
ユーリ達は眩しさに目を細めたが、すぐに光は収まった
彼らは目を開けてアリシアを見る
閉じられた目を、彼女はゆっくりの開いた
その目は、ユーリが先程まで見ていた綺麗なオレンジ色で
ゆっくりと、ユーリの方を見る
「……おはよう、ユーリ、みんな」
そう言って、あの日と変わらぬ笑顔を向けた
「……ああ、おはよ、シア」
ほんの少し泣きそうになりながら、ユーリはアリシアに返した
『『アリシアーーーーっ!!!』』
「わっ!?」
急にリゲルとベガに飛びつかれ、アリシアはバランスを崩し後ろに倒れた
『もう、毎回毎回やる事が無茶すぎるんだから』
『本当だよ。心配するボクらの事も、ちょっとは考えてよね』
倒れたアリシアの顔を覗き込みながら、アルタイルとカペラは、笑いながらそう告げる
「えー……そんな事言われても、今回は仕方ないじゃん」
体を半分起こしながら、アリシアは苦笑いした
『…まぁ、無事だったわけだ。今回はそれでいいだろ』
ポンッとカープノスは彼女の頭に手を乗せる
『ええ、そうですわね』
ペテルギウスはアリシアの隣に腰掛けて、彼女の頬をつつく
『でも、次は怒りますよ?』
優しく微笑みながらも、アリオトは少しキツめにそう告げる
『んな事言っても、アリシアは言うこと聞かねーだろ』
『そうそう、だって、アリシアだもんね』
アリオトの隣で、カストロとポルックスは苦笑いしていた
「それは……まぁ、うん、努力はするよ」
肩を竦めながら、アリシアはそう答えた
「ホント、愛されてんな、シア」
アリシアに群がる彼らを見ながら、ユーリはそう言って彼女に笑いかけた
アリシアはそれに、笑って返す
そんな様子を、ライラックとアイリーンは少し離れたところで微笑みながら見守っていた
「……よいのか?行ってやらんで」
二人の傍に寄りながら、レグルスは問いかける
『良いのだよ、レグルス。私らが傍に行きでもしたら、あの子はまた泣くだろう?』
『そうですね。それに……まだ、『彼』の怒りは収まっていなさそうですからね』
二人はクスッと笑ってそう答えた
『………で?アリシア』
和やかな空気を壊すように、シリウスは少し低い声で彼女を呼んだ
ビクッとアリシアの肩が跳ねる
「……えと………何??シリウス」
恐る恐る、アリシアが彼の方を向くと、あからさまに怒った様子でシリウスはアリシアを見ていた
『……今、なんですぐにちゃんと起きれなかったのか……説明できるよな?』
怒鳴りそうになるのを抑えながら、シリウスは問いかける
キレかけているシリウスに気づき、ユーリとベガ以外の者たちが、その場から少し離れた
「あー……ベガ、やっぱり話してなかったんだ……」
未だに引っ付いているベガに、アリシアは視線を落とす
『……あたしだけ、シリウスに怒られるの……不公平』
そう言いながら、ベガは顔を上げた
『……だから、怒られておいて?』
そう言って、ニコッと笑うとベガはアリシアから離れた
「酷いなぁ……大体これは不可抗力だし……」
ブツブツと文句を言いながら、アリシアはベッドの縁に腰掛けて、傍にあったブーツを履く
その隣に並ぶようにユーリが座った
「さっきもそんな事言ってたよな?お前、本当に何しでかしたんだよ?」
不思議そうにユーリは首を傾げた
「あー……いや、ほら、さ?白雷って、当主が操られてる状態じゃ使えないじゃん?」
『……それで?』
「いや、だから……浄化の力だけじゃ操られてる判定されて、ユーリがレグルスと連絡取れないかもと思って、少しだけ………ほんとに少しだけ意識も移しておこうって、ベガと話した………んだけど………」
そう言いながら、彼女は目を泳がせた
「……思ってたより、さ?身体が消え始めるの早くって……ベガと二人で焦ってやったら……」
そこまで言って、アリシアはシリウスから顔を背けるように俯いた
「……………七、三…………」
小さな声で、彼女は呟いた
『………は?』
「……意識の割合……白雷七で、狭間が三になっちゃったんだよねえ………」
冷や汗をかきながら、アリシアはそう答えた
『えーっと……それって、つまり……』
『……殆ど白雷に意識残したことになってたのか、お前……』
呆れたようにカープノスはそう言ってため息をついた
「不可抗力だし!!私だって、そんなつもり微塵もなかったし!!」
バッと顔を上げて、カープノスの方を見る
「……ふ……っ」
笑いを堪えようと、レグルスはアリシアから顔を背けた
『笑い事ではありませんよ?レグルス様』
呆れ気味に、アリオトはレグルスを見る
『まぁ……でも確かに怒ることじゃねえよな?』
『そうだよね。そうしてなければ、ユーリも白雷使えなかったし、これは仕方ないよ。……だからさ?シリウス……』
『お前、その手離せって……な?なっ!?!!』
カストロとポルックスの二人は、少し焦り気味にシリウスに声をかける
シリウスの右手は、彼の大剣の柄をしっかりと握りしてめいた
『………なるほどな………
…アリシア……お前というやつは…!!!』
そう言って彼は剣を抜いた
「わわっ!!!ストップ!!シリウス!!ストーップ!!!」
慌ててアリシアは制止するが、当の本人には聞こえていない
『それで意識が全て白雷に持っていかれでもしたら……どうするつもりだったのだっ!!!』
そう言ってシリウスは剣を振り上げた
「〜〜〜~っ!!こうなったら……っ!」
そう言うが早いか、ユーリの手を右手で掴むと、シリウスの剣が振り下ろされる前に指を弾いた
瞬間、二人の姿がそこから消え、シリウスの剣は誰もいないベッドの上に落ちた
『……は?』
驚きながら、シリウスは辺りを見回す
「もう!!!シリウス、危ないじゃん!!」
彼女の声に振り向くと、何故かアリシアとユーリはカープノスのすぐ傍に立っていた
「私今生身だし!!ユーリにも当たりかけたじゃんっ馬鹿!!!」
少し涙目になりながら、彼女は訴えた
隣にいるユーリは、何が起こったか理解出来ずにポカーンとしていた
それは、カープノス達も同じだった
『……アリシア、お前………今、何をした…?!』
シリウスはそう言って、彼女の方に体を向けた
「あ……やっばっ……余計に怒らせたかも……」
苦笑いしながら、アリシアは少し後ずさる
『…お………お・ま・え・なぁ!?!!』
そう叫ぶと、シリウスは彼女目掛けて突っ込んで来る
「うわわっ!!に……逃げるが勝ち!!!」
そう言いながらアリシアはユーリの手を引いたまま扉に向かって駆け出して、再び指を鳴らした
そうすると、また、彼女の姿が消えた
『おいこら!!逃げるなっ馬鹿者っ!!』
シリウスはそう言うと、勢いよく扉から飛び出して行った
「……ふっ……はははっ……!!」
ついに我慢できなくなったらしいレグルスは、目元に涙をためながら笑いだした
『えー……これ、どうなってるの?カープノス』
『……土壇場で、力が開花したんだろ……元々、才能だけはあったはずだからな……』
アルタイルの言葉に、カープノスは項垂れながら答えた
『あらら……アリシアの気配があちらこちらに……』
困ったようにペテルギウスは頬に手を当てた
『……ベガの言う通り、他のみんな、わざわざ別の家に連れて行って、よかった……』
『ね?言ったでしょ?…寝てられないよって』
苦笑いしながら、リゲルとベガは顔を見合せた
『……あれ……?でも、これってさ……』
何かに気づいたカペラがカストロとポルックスを見る
二人も何かに気が付き、カペラと顔を見合せた
『『『アリシアの無茶の規模が広がるだけじゃん!』』』
そして、三人同時にそう叫んだ
「はははっ!全くだな!」
目元にたまった涙を、レグルスは拭いながら三人の言葉に頷いた
『……レグルス、笑っている場合じゃないんですよ?』
アイリーンは、少し怒り気味にそう言って、彼を見た
『アイリーンの言う通りです。これで、彼女にもしもの事があったら……』
アリオトがそう言いかけた時、アリシアがユーリと共にカープノス達の前に現れた
「…っと……もー……シリウスしつこいんだけど……」
ムッと頬を膨らませながら、アリシアは呟いた
「はぁ……お前なぁ……逃げんのは、いいけど、力使い過ぎ、じゃねえのか?」
相当走らされたのか、肩で息をしながら、ユーリは彼女を見た
『そ、そうだよ!!また倒れでもしたらどうするのさ!!』
ユーリの言葉に大きく頷きながらカペラは問いかける
「え?あー……そう言われてみれば……力使ってても、全然痛くも苦しくもないや」
普段であれば、既に左の脇腹に痛みを感じているであろうくらいに力を使っていたが、その痛みは全くないらしく、彼女は不思議そうに首を傾げた
『………!!!!!』
「うわっ……もう追いついて来た……っ!」
少し遠くから聞こえたシリウスの声に、アリシアは嫌そうに顔を顰めた
『……とりあえずさ?ユーリまで巻き込むの、やめてあげたら?』
そう言って、リゲルはジトッとアリシアを見た
「……まぁ、確かに、それもそうだけど……」
チラッとユーリを見ながら、少し困ったように、アリシアは言葉を濁した
「くくっ……アリシアよ!我が青年に用がある。行くなら置いて行け」
どこか楽しそうな声で、レグルスはアリシアにそう告げた
「……だってさ、ユーリ」
「お前……逃げないって選択肢はねえのな……
……わかったよ。怪我だけはすんなよ?」
アリシアの手を離して、ユーリは軽く彼女の頭を撫でた
「はーいっ!」
嬉しそうにアリシアが笑ったタイミングで、扉の向こうにシリウスの影が見えた
彼が見えた瞬間、アリシアは指を鳴らして、再び姿を消した
『〜〜っ!!あのお転婆娘……っ!!』
アリシアが消えたのを視界に捉えたらしいシリウスは、そう悪態づきながら踵を返した
「これ、いつまで続くんだ?」
呆れ気味に、ユーリはカープノス達に問いかけた
『どっちかが折れるまで……かなぁ……』
どこか遠くを見つめながらアルタイルは苦笑いしていた
「……あんたらも、大変だったんだな……」
どこか憐れむように、ユーリは苦笑いする
『……レグルス様、いい加減、何をしたか話して下さいますか?』
いつの間に持っていたのか、アリオトは鉄扇片手にドス黒い笑みを浮かべてレグルスを見ていた
『え?これって、レグルス様のせいなの!?』
驚きながら、ポルックスはレグルスを見た
「アリオト……誤解を生むような事を言うな
……いやまぁ……確かに、半分くらいは我がいけないが……」
後半部分は極小さな声で呟かれていたが、しっかりとその場にいた全員に聞こえていた
『初代……なにしやがった?』
レグルスを睨みつけながらカープノスはといかける
先程まで大笑いしていたのとは一変、真剣な表情で話し始めた
「……あの子の身体を再生させる上で、どうしても、エアルに脆いままで再生させる訳にはいかなかった
あの子の脆さは両親譲りだったからな
だから、どちらかが普通だったらを想定して、初めは再生させようとしたんだが……」
そこまで言ってレグルスは言葉を詰まらせた
どこか言いずらそうに、カープノス達から少し顔を背ける
『させようとしたが……なんですか?』
先を話そうとしない彼に、アリオトが圧をかけた
「………どちらも普通だったら、が、どうしても気になってな?試しにその想定でシミュレーションしてみたんだが……あの子は、我よりも数段強くなれたことがわかったのだ」
レグルスの言葉に、ライラックとアイリーンは少し眉を下げた
『…私らの体が弱いばかりに、あの子に苦労をかけてしまっていたわけだな』
申し訳なさそうにライラックは呟く
「こればかりはお主らのせいではない
……我が、本当にそうであれば……と思ったのは事実だがな
だが、さすがにこれだと、アリシアの無理無茶が拡大するだけだと思い、どちらか片方だけの設定で再生を開始した………はずだったのだ」
『『はずだった』……って………おい、初代、まさか……!!』
「………うむ、そのまさか、だな!『二人とも普通』の想定で、再生させてしまったわ!」
開き直りながら、レグルスは答える
そんな彼に、一同は呆れ返った
『あの時、言葉を濁したのは……こういう事だったのですわね……』
大きくため息をつきながら、ペテルギウスは項垂れた
「ははっ!いやまさか、起きて早々こんなにも動き回るとは思っていなかったがな!」
『笑い事じゃないぞ!?初代!!』
再び笑い始めたレグルスにカープノスが怒りを顕にした
「おいおい……どうすんだよ……」
額に手を当てながら、ユーリは呟いた
ただでさえ自分の言う事を聞いてくれない彼女が、体の負荷を心配する必要もなくなってしまったら今まで以上に暴走する事が目に見えていた
……実際、現在進行形でそうなっているが……
そんな会話をしていると、急にカープノスとユーリの間にアリシアが再び現れた
「うぉっ!?…お前なぁ……ちょっとは出てくるとこ考えろって…………シア?」
ほんの少し様子のおかしいアリシアに、ユーリは不安そうに声をかけた
「………うー……これ、連続して使うと……めっちゃ目……回る……」
ユーリに寄りかかりながら、アリシアは呟いた
「……カープノスもそう……?」
ほんの少し、カープノスの方を見ながら、アリシアは問いかける
口を開くことはなかったが、彼は静かに頷いて返した
「あー……そりゃ、使え、とか、優しくって言われたら、不機嫌にもなるよねぇ……」
うーっと小さく唸りながら、彼女は言う
その言葉に、ほんの少し、カープノスの肩がピクリと動いた
「おいおい……大丈夫か?」
自分に寄りかかっているアリシアの頭を優しく撫でながら、ユーリは問いかける
「しばらく、動きたくない……けどなぁ……そろそろ追いつくだろうし………どーしよ……」
不機嫌そうに顔を顰めて、アリシアはため息をついた
『大人しく怒られろ……とは言えねぇな』
『あの様子じゃ、本気でアリシアの事殺す勢いで攻撃しそうだもんね』
カストロとポルックスは顔を見合わせながらそう言う
二人とも、困ったように顔を顰めていた
『結界張っても、長くは続かないし……』
少し悔しそうに、リゲルは呟く
『水でも掛ければ、少しは頭が冷えますかしら?』
『どうでしょう……なんせ、シリウスですから』
ペテルギウスとアリオトも顔を見合わせて困り気味に話していた
そうこうしていた内に、シリウスの声が屋敷に響いた
『アリシアーっ!!!!』
「うげ……もう来たよ………だいぶ遠くまで引き連れてったはずなのに……」
あからさまに嫌そうにアリシアは顔を歪める
「さて……どうしたもんかねえ……さすがにあの勢いの大剣受け止めんのは、ちとしんどそうだ」
苦笑いしながら、ユーリはそう言って刀を抜こうとする
「やめた方がいいって、また腕怪我するじゃん」
少しムッとしながら、彼女は答えた
「いや、でもな」
ユーリが何かを言いかけた瞬間、シリウスが部屋に入って来た
『アリシア……っ!!いい加減、大人しくしないかっ!!』
正に鬼の形相で、シリウスはアリシアを睨んだ
「だーかーらー……大剣振り回すから逃げるんじゃんかぁ……そんなの当たったら、私死んじゃうって」
半分諦め気味に、彼女はシリウスに言った
『誰のせいで、オレがここまで怒っているんだと……!!』
そう言いながら、シリウスはアリシアに向かって一歩踏み出した
これは逃げられないと、アリシアが呑気に考えていると、不意に視界が遮られた
アリシアの視界を遮ったのはカープノスで
彼はアリシアに触れると指を弾き、彼女に触れていたユーリと三人共に、その場から姿を消した
カープノスの突然の行動に、一同は呆けていたが、シリウスはワナワナと肩をふるわせた
『カ……カープノーーースっ!!!!!』
シリウスの怒りの叫び声は、カープノスには届かなかった
ーーーーーー
「っ!わっ……!」
アリシア達三人は見慣れない丘に現れた
周りは草原で、あるのは一本の大木だけだった
「びっくりしたぁ……カープノス、ここどこ?」
首を傾げながら、アリシアは問いかけた
『……俺が生前、よく来てたサボり場だ。結界の中ではあるが、ここなら誰も来ないからな』
カープノスはそう言って、二人から離れた
「けど、なんでオレらをここに連れて来たんだよ」
『……いい加減、アリシアが可哀想だったからな。それに……お前ら、まだまともに二人で居られてないだろ?
……あの馬鹿は俺が沈めとくから、ここで待ってろ』
そう言って、アリシアを見る顔は、普段の彼からは想像できないくらい、優しげな表情を浮かべていた
「…ありがと、カープノス。……でも、やりすぎ注意だよ?」
ニッコリと、アリシアはカープノスに笑顔を向けた
『善処はする。……ああ、その前に』
指を弾こうとしていたカープノスだったが、何かを思い出してユーリに近づくと、彼に向かって手を伸ばした
『そのペンダント、少し貸せ』
言葉こそぶっきらぼうだったが、その声は今までと違いどこか優しげだった
ユーリは言われるがままにペンダントを渡すと、彼は背を向けた
何をしているか分からず、ユーリとアリシアは顔を見合わせる
少しして、カープノスは振り返ってユーリにペンダントを差し出した
『…設定を少しいじった。今は俺の声だけ届くようにしてある。終わったら声を掛けるから、返してくれ』
「……それ、私に声かければよくない?」
何故ユーリなんだと言いたげにアリシアは首を傾げた
『お前が
ほんの少し怒り気味にカープノスは答えた
「………それは、ごめんね?」
少し申し訳なさそうに、アリシアはそう言って肩を竦めた
『……まぁ、それはいい。……じゃあな』
カープノスはそう言って指を弾いて、その場から消えた
「……あいつ、あんな顔するやつだったか?」
不思議そうに首を傾げながら、ユーリはアリシアに問いかけた
「あー……そっか、ユーリは無愛想なカープノスしか見たことないっけ」
クスッと笑いながら、アリシアはその場に腰を下ろした
「カープノスって、本当は結構優しいんだけど……そういう感情、表に出すのがすごい苦手で不得意なの。でも、たまーに、急に優しくなるタイミングがあるんだよね」
クスクスと笑いながら、アリシアは空を見上げた
真っ黒な空には幾つもの星が輝いていた
「ふーん……で、その優しいタイミングが今来たってことか」
彼女の隣に腰を下ろしながら、ユーリは言う
「きっと嬉しかったんじゃない?カープノスの能力って今まで持ってた人いなかったし、私が同じこと出来るようになって、自分と同じ感覚を持ってくれたのが」
そう言いながら、アリシアはユーリの肩に頭を乗せて、目を瞑った
「……こうするのも、久しぶりだね」
どこか懐かしそうにアリシアは呟いた
「はは、そりゃそうだ」
そう言って笑いながら、アリシアの肩に手を回して、肩に乗せられた頭に自身の頭をくっつけた
「……不思議……ずーっと、声だけは聞いてたのに、なんか、全部懐かしく思える」
「オレはシアの声すら殆ど聞いてないんだぜ?……オレだって、全部懐かしいと思ってる」
アリシアの肩に回した手に少し力を入れながら、ユーリも目を閉じた
今感じている体温が本物であるか確かめるように
「……目が覚めてから、正直、ずっと不安だった。夢だったらどうしようって……」
ゆっくりと目を開けながら、アリシアは言う
不意に震えた声で言われた言葉にほんの少し驚きながら、ユーリも目を開けアリシアを見た
「本当は、まだ私は、『あれ』の傍にいて、ただ夢を見てるだけだったら……って、ずっと思ってた」
彼女の表情は、少し不安そうで、怯えているようにユーリの目には映った
「シア……」
「でも……うんっ!夢じゃないね!…私は今、ちゃんとここにいる」
肩に回された手に、自身の手を重ねながら、アリシアは笑った
ほんの少し眉を下げて、泣きそうにしながら
「……シア、ちょっとこっち向いてみ?」
ユーリの声に、アリシアは頭を上げて、ユーリを見ようとする
一瞬目が合うと、ユーリは一気に顔を近づけて唇を重ねた
突然の事にアリシアは少し驚くが、すぐ嬉しそうに目を細めた
先程と同じように触れるだけだったが、それでも、伝わってくる体温に夢じゃないんだと、アリシアは改めて思った
「……な?夢じゃないだろ?」
唇を離して、ユーリはそう言って優しく微笑んだ
「シアは今、ちゃんとここにいる」
肩に回した手と反対の手で、優しくアリシアの頬を撫でながら
しっかりと、ここにいるんだと、ユーリ自身も確かめるように
「……うん…っ!そうだね……っ!」
目元に涙を溜めながら、アリシアは嬉しそうに微笑む
「さっきの約束、絶対だからな?」
コツンと額を合わせながら、ユーリは確認する
「わかってる…っ、わかってるよ……っ、もう……絶対、居なくならない……絶対……っ、ユーリから、離れないよ…っ!」
あの日と同じように、ゆっくりと頬に涙が伝っていく
違うのは、それが、寂しさや悲しさではなく、嬉しさからのものなことくらいだ
もう一度会えた事も、傍に居られることも、全てが嬉しくて嬉しくて
泣きながらも、アリシアは笑っていた
そんな彼女を、愛おしそうに見つめた
無鉄砲でお転婆で、他人の為なら無理無茶も平気でする癖に、寂しがり屋で泣き虫な彼女が自分の元にいる事が、堪らなく嬉しかった
「……あ、流れ星」
不意に視界の隅で星が流れるのが見えたアリシアは、涙を拭いながら顔を上げた
二人が空を見上げると、チラホラと星が流れていた
「すげえな。こんなに流れることあんだな」
口笛を拭きながらユーリは呟いた
「そう言えば……数百年に一度だけ、この辺りで見られるんだって、昔お父様が言ってたっけ」
流れていく星を見ながら、アリシアはどこか懐かしそうに言った
「へえ……つーか、良かったのかよ?」
「なにが??」
「さっき、ライラックさん達と話さなくて」
首を傾げながら、アリシアを見てユーリは問いかけた
「あー……うん。シリウスが怒るのわかってたし……
それに、顔見たら泣いちゃいそうだったから」
ほんの少し眉を下げてアリシアは苦笑いしながら答えた
「ははっ、それもそうか」
そう言って、今度はユーリがアリシアの肩に頭を乗せる
流れる星を、二人はしばらく、ただ黙って見つめていた