第4部~星暦の行方と再会そして…~
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カープノスの力で、一行はフィエルティア号へと戻って来た
次の目的地、フェローの岩場にバウルで向かいながら、レグルスは先程の仮説をカープノスとベガ、 ペテルギウスに話した
『……なるほどな。確かにそう考えれば辻褄は合う。シリウスはともかく、他の奴らがこんな事するはずがないからな』
腕を組みながら、カープノスはそう呟いた
『不覚でしたわ……そこには全く気づけませんでしたわ……』
悔しそうに奥歯を噛み締めながら、ペテルギウスは顔を顰めた
ベガは無言のまま、ジトッとペテルギウス達を見ていた
「……厄介な事になったな。カストロとポルックスのどちらが残っているかわわからぬが……少なくとも、シリウスに多く残滓が取り憑いているのはまずい」
深刻な表情でレグルスは唸った
「あのー……具体的に何がまずいのかしら?」
遠慮気味にレイヴンが問いかける
『……シリウスはペテルギウス達に比べれば、比較的最近まで当主だった奴だ。こいつらに比べれば、まだそこまで戦闘の腕は落ちてないだろう』
『カストロとポルックスは二人一組での戦闘が基本だし、正直、どちらか片方だけがこっちにいるなら、比較的対処しやすいと思う
まぁ、そもそもこの二人なら、残滓は取り憑くのは無理だからね』
『そうなると……やっぱり問題なのは、シリウスだよねぇ…』
カープノス、カペラ、アルタイルの三人は顔を見合せてため息をついた
『…シリウスは、ライラックよりもって、言っていいくらい……アリシアが大事で大事で、仕方ないからね…』
『オマケにボクら、絶対アリシアを守るぞ!って意気込んで、呆気なく負けた上に、守ろうとしてたアリシアに助けられちゃったからね』
『シリウスなら、間違いなく、わたしよりも残滓が多く取り憑いてるね
あの人、そもそも負けること自体が嫌いだし?『あれ』って、そういう感情に取り憑きやすい性質だからねぇ…』
『それに…シリウスは、レグルス様とライラック除けば、一族最強の剣士……腕鈍ってても、強いと思う……』
『……俺は断言するぞ?あの馬鹿なら、確実にやらかす。アリシアの事になると、あいつは見境なく大暴れするからな』
『大暴れ、で済めばよいですわね。下手をすれば、彼が世界を滅ぼしかねないですわ』
カープノス達は口々にそう言うと、全員揃って憂鬱そうに肩を落とした
「シリウスって、確かアリシアもよく名前出してたよね?」
ユーリを見ながら、カロルは首を傾げた
「ああ、『二人目のお父さん』ってよく言ってたな。オレらによく話しかけてきたのも、シリウスだった」
そう答えながらユーリは肩を竦めた
まさかシリウスがそこまでの実力者だったとは、誰も思っていなかった
『……初代、とりあえず俺は、屋敷からアリオトを連れてくるぞ』
レグルスを見ながらカープノスはそう告げた
「……それがいいだろう。用心するに越したことはない」
レグルスがそう頷くと、カープノスはその場から姿を消した
『アリオトさえ来てくれたら、とりあえず最悪な事態の心配はないとして……』
アルタイルはそう言いながら、ユーリを見た
「ん?なんだよ?」
『もう一つ問題なのは……シリウスがどう出るか、なんだよねぇ』
アリシアそっくりな口調で、彼女はそう告げた
「どう出るか…って、同じじゃないのかの?」
アルタイルの言葉に、パティは首を傾げた
『同じならいいんだけど……ねえ?』
アルタイルは同意を求めるようにカペラを見た
『シリウスなら、ボクらみたいに一対大勢、じゃなくて、一対一でやろうとするね、確実に』
困ったように首を竦めながら、カペラは答えた
『それも……多分、ユーリと』
リゲルは心配そうな顔でユーリを見た
「オレか?」
首を傾げてユーリは問い返す
『『自分より弱い奴にアリシアを任せられるか!』が、シリウスの口癖だったからねえ。アリシアがユーリを好きだとか言った日には、そりゃもう……』
『……ボクら、死ぬかと思ったくらいには大暴れだったよねえ……』
どこか遠くを見ながら、アルタイルとカペラは苦笑いした
「アリシアを助ける前に、まずは彼に認めてもらう必要がありそうだね、ユーリ」
クスッと笑いながら、フレンはユーリの肩に手を置いた
「参ったねぇ……。ライラックさんならそうなんのもまだわかるんだが……ま、例えあの人でも、負けるつもりなんざねえけどな?
……ったく、シアのやつ、愛されすぎじゃねえのか?」
ほんの少し面倒臭そうにしながら、ユーリは困ったように笑った
『そりゃ大事だよ!わたし達とちゃんと話してくれたの、アリシアくらいだし』
『まだ産まれたばっかの時からボクらが面倒見てるのって、アリシアくらいなもんだからね』
『わたくし達に取って、あの子は自分の子と同じですもの。……シリウスのように、とまではいきませんがね』
クスッと笑いながら、三人はそう言って顔を見合わせていた
どこか懐かしそうで、そして、少し寂しそうに
「お主ら、懐かしむのもいいが……そろそろ着くぞ」
レグルスの声にユーリ達が振り返ると、フェローの岩場が遠くに見えてきていた
リタの言っていた通り、辺りの気候はぐちゃぐちゃになっていた
雨が降っている場所もあれば、砂嵐が巻き起こっている場所もあり、とても人が住めるような気配では無い
「こりゃ酷いわな…」
その異常な光景に、レイヴンは顔を顰めた
「想像以上ね……マンタイクに人が住めなくなったのもわかるわ」
レイヴン同様、ジュディスも苦い顔で辺りを見ていた
『レグルス様、さすがの僕でも、これは防ぎ切るの、難しい』
ほんの少し申し訳なさそうに、リゲルはレグルスに告げた
「だろうな。我とてこれはさすがに防ぎ切れぬ」
そう言って、レグルスは指を鳴らして刀を取り出した
「さて……届けばいいが……」
そう呟きながら、レグルスは左手で刀を振った
突風が吹き上げ、すぐに止むと、荒れていた天候は収まり、見慣れた砂漠が辺りに見えていた
「あの異常気象が、一瞬で収まるなんて……」
驚きを隠せない様子で、リタは呟いた
「エアルの異常のせいであったからな。エアルさえ鎮まれば、気候も落ち着く」
刀を鞘に納めながら、レグルスはそう答えた
「……さあ、行こうか」
レグルスの言葉に一同は頷いた
ーーーーーー
フェローの岩場につき、船を降りた一行は以前、フェローが居た場所に立つ男の背を視界に捉えた
赤く、毛先だけがピンク色の短髪の男は、一行が近付いてくる気配を感じ取ると、ゆっくりと振り返った
「シリウス」
レグルスがそう声をかけると、彼は悔しそうに顔を顰めた
『……レグルス……オレらは、どこで選択を間違えたんだ……?』
ユーリ達も何度も聞いた声で、彼はレグルスに問いかけた
『憎悪に立ち向かおうとした時か?
星喰みと対峙した時か?
アレクセイに立ち向かうあの子を止められなかった時か?
満月の子の傍に居続けるのを止めなかった時か?
脅され、やってはならぬ事をやろうとするのを止められなかった時か?
それとも……あの子が産まれた、あの日か?』
自身の背にある大剣の柄を握りながら、彼は尚言葉を繋げる
『……言い出したらキリがない。オレらは……オレは、あの子をいつも守れない。自分の子よりも大切なあの子に、いつも何かを背負わせていた……
何故あの子が、こんなにも多くの苦しみを背負わなければいけないんだ?』
そう言いながら、シリウスは大剣を抜いた
「止めぬか!シリウス!」
武器を構えた彼をレグルスは制止する
『レグルス、オレはもう、アリシアにこれ以上、何も背負わせたくない。あの子がこちらへ帰って来ない限り、『あれ』はこちらへ出て来ない。……もうそれで、いいではないか』
どこか諦めたように彼はそう口にした
その言葉に怒りを覚えたのは、レグルスだけではなかった
「シリウス、あんた、シアの事が大事だってんなら、あいつの気持ちも考えたらどうなんだよ?」
レグルスの前に出ながら、ユーリは真っ直ぐに彼を睨みつけた
「あいつはこっちへ戻って来たがってる。それをあんた、邪魔する気なのかよ」
『…戻って来たとして、ユーリ。ならお前はどうすると言うのだ?
『あれ』はオレらの力でさえ、ねじ伏せることが出来なかった。アリシアがこちらへ戻って来てしまえば、狭間は不安定となり、奴は容易にこちらへとやって来る
浄化する為には、レグルスとアリシアを誰かが守らなければならない。……お前にそれができるのか?』
ユーリの問いに、彼は睨み返しながらそう問い返した
「負けてシアに逃がしてもらったってだけで諦めちまってる、あんたよりはマシだろ
少なくともオレは、その程度であいつを守ることを諦めたりなんてしねえよ」
少し挑発するように、ユーリはそう吐き捨てて白雷を鞘から抜いた
「ちょっ!ユーリ!!何挑発してるのさっ!?」
ユーリの言葉に、カロルが慌て気味に駆け寄ろうとするが、それをレグルスが制止した
「やめておけ。……ここは、青年に任せるべきだ」
レグルスは二人を見つめながら、静かにそう告げた
戦闘態勢に入ろうとしていたフレン達も、渋々ながら、彼の言葉に従って、武器を納めた
『……ならば、証明してみせろ。オレと互角か、それ以上だと……!!!』
「言われなくてもそのつもりだっ!!」
二人はそう言い合うと、相手に向かって走り出した
ーーーーーー
辺りには剣のぶつかり合う音が響き渡る
二人の戦闘が始まり数分間……
彼らは互いに、一歩も引かずに、剣を交えていた
そんな二人を、レグルス達は少し離れたところで固唾を飲んで見守っていた
『……互角、でしょうかね……』
小さく、ペテルギウスが呟く
傍から見れば確かに互角に見えるだろう
「いえ……ほんの少し、シリウスの方が優位かと……」
手を出せない事に、ほんの少し苛立ちながら、フレンは言った
「え?そうなの…?」
不安そうにカロルはフレンを見た
「ユーリは刀、対して向こうさんは大剣……技に頼らずに戦うってなると、速さじゃユーリが勝るけども、重量じゃシリウスの方が上だからねえ…
剣同士が当たった時に受けるダメージは、ユーリの方が大きいのよ」
どこか悔しそうにしながら、レイヴンはカロルの問いに答えた
「……悔しいわね…見てる事しかできないなんて……」
両手を握り締めながら、リタはギリッと奥歯を噛み締めた
フレン達が不安そうに見守る中、彼の攻撃を防いだユーリの身体が、若干よろめく
「っ!!ちっ…!さすがに、重いな……」
小さく舌打ちしながら、苦い顔で目の前にいる彼を見つめた
『さっきまでの威勢はどうした?……それでは、アリシアは守れんぞ!!』
そう言いながら、彼は大剣を振り下ろした
間一髪のところで、ユーリは攻撃を後ろに避けた
「…ったく、馬鹿力すぎんだろ……」
顔を伝う汗を右手で拭いながら、ユーリは苦笑いした
『……どうした?もうやめるか?』
彼はそう言って、大剣を右手で構えた
その構え方は、アリシアが片手で刀を振るう時と同じだった
全く同じ姿にユーリは一瞬驚くが、すぐに白雷を構えなおす
「……なるほどね、シアの剣術は、ライラックさんとシリウス譲りってワケだ」
ほんの少し白雷に目を落としながら、ユーリは呟いた
それに答えるように、また、頭の中に声が響く
『ユーリ…ユーリならきっと、勝てるよ』
「……ああ、わかってる」
小さくそう呟いて、ユーリはニッと笑った
彼に視線を戻した瞬間、彼はユーリ目掛けて突っ込んで来た
そのスピードはアリシアには劣るものの、大剣を持っているとは思えない程の速度だった
「「ユーリっ!!!」」
心配する仲間の声が聞こえてくるが、ユーリには、もう負ける気が一切していなかった
ユーリの側まで来ると、彼は大剣を右から振ろうとした
ユーリは当たるか否かのギリギリのところでしゃがんで剣を避けると、そのまま彼の足を蹴り払った
『っ!?!!』
突然の事に、シリウスは体制を崩す
大剣を地面に突き刺して体制を整えられる前に、ユーリは全力で柄に目掛けて白雷を振った
さすがに柄に当てられてしまうと、いくら彼でも握っている事はできなかったらしく、大剣はそのまま宙を舞って、地面へと落下した
「……これで満足か?」
白雷の切先を、膝をついてしゃがんでいる彼に向けながら、ユーリは問いかけた
『……ふっ……まさか、ライラックとアリシア以外でオレが負けるとはな………』
俯いて、どこか悔しそうながらも、今まで放っていた威圧感は、そこにはもうなかった
『………完敗だ』
そう言って顔を上げたシリウスは、真っ直ぐにユーリを見つめた
ようやく終わりかと、ホッと息を吐きながら、ユーリは白雷を納めた
『『シーリーウースーっ!!!!!!』』
その瞬間、ユーリとシリウスの間に、アルタイルとカペラが鬼のような形相で割って入ってきた
未だしゃがみ込んでいるシリウスを見下ろしながら、二人は怒りを爆発させた
『わたしが言えたことじゃないけどさ……!!!馬鹿なの?!何本気で、ユーリ相手にその馬鹿重い剣振りかざしてんのっ!?』
『ユーリさんが避けられたからいいものの…本気で当たってたらどうするつもりだったのさ!?アリシアに怒られるどころじゃ済まないよっ!?』
『い、いや……オレもそんなつもりはなかった……の、だが……』
二人の圧に気圧され、シリウスはわたわたと言葉を濁らせた
『全く、やっぱりやりやがったか』
いつの間に戻って来ていたのか、ユーリの隣にはカープノスが立っていた
「うぉっ!?……あんた、いつからそこにいたんだよ……」
驚きながら、ユーリはカープノスに問いかける
『つい今し方、ですよ、ユーリさん』
カープノスの隣から、アリオトがひょっこりと顔を見せた
「……ああ、あんたも来てたのか」
そう言えばそんなことを言っていたなと思いながら、ユーリは言う
『……ユーリさん、少しこちらへ。カープノス、そこに転がっている大馬鹿者の
アリオトの言葉に、カープノスは頷き、彼女が指さした方へと歩み寄っていく
一方アリオトはユーリの方を見て手招きしていた
首を傾げながらユーリが彼女に近寄ると、不意に左腕を軽く掴まれた
瞬間、左腕に激痛が走る
「〜〜〜っ!?!!」
自分では何ともないと思っていただけに、ユーリは、突然走った痛みに驚いた
『…やはり、ですか……。シリウスは加減と言うものを知らなさすぎるのです』
そう言って深くため息をつくと、アリオトは治癒術を発動させ始めた
ユーリが大人しく治癒を受けていると、フレン達が傍へとやってきた
「全く君は……アリシアに無茶するなと言う割には、自分も無茶して……」
呆れ気味にフレンはため息をついた
「別に無茶なんてしてねえっつーの」
苦笑いしながら、ユーリはそう返した
「あら、突っ込んで来たシリウスの攻撃をギリギリで回避していたのに、それのどこが無茶じゃないのかしら?」
ニコッと笑いながらジュディスは問いかけてくるが、笑っているのは口元だけで、目元は全く笑ってなどいなかった
「シリウスの動き見て、気づかなかったのか?」
少し不思議そうにユーリはそう言って首を傾げた
「気づくって……何によ?」
意味がわからないと言いたげに、リタは問い返した
「……お前ら気づかなかったのかよ……
シリウスのあの動き、シアが片手で刀振るう時と、全く同じだったんだよ」
呆れ気味に笑いながら、ユーリはそう答えた
「え…嘘……ホントに…?」
信じられないと言いたげな目で、カロルは問いかけた
『さすがですわ。よく気が付きましたわね、ユーリさん』
カロルの問いに答えるようにペテルギウスが、ユーリの傍へとやって来て、ニッコリと微笑んだ
『アリシアに片手での刀を振り方を教えたのは、シリウスですわ
あの子は彼の悪い癖も、そのまま覚えてしまったようですが』
クスクスと笑いながら、ペテルギウスはシリウスの方へと顔を向けた
ユーリ達もその方向へ顔を向けると、シリウスはアルタイルとカペラだけでなく、いつの間にか合流した、レグルスとカープノスにも問い詰められているようだった
「……それで?シリウスよ、何故お主はここまでしたのだ?仮に残滓が取り憑いていたとしても、お主ならその意思の強さで抗えたはずではないのか??」
アルタイルの時と同様に、怒りの籠った声でレグルスは問いただしていた
『……いや、まぁ……そうだが……』
どこか言いづらそうに、シリウスは言葉を濁した
『……大方、次いでにあいつの実力を測っておきたかったんだろ?本当にアリシアを任せていいのか、見極めるのにな』
呆れ気味に言ったカープノスの言葉に、シリウスの肩が跳ねた
『……ねえ、カープノス、久しぶりにアレ、やっちゃえば??』
ニコッとドス黒い笑みを浮かべながら、アルタイルはカープノスを見た
『あ、それいいかもしれないね!だいぶ日も落ちてきたし、多分ユーリさん、今日は戦わない方がいいだろうからね』
アルタイルに同意しながら、カペラは空を見上げた
陽は落ち始め、空は紅と黒が入れ替わっている途中だった
「あちゃあ……もうそんな時間かぁ……」
空を見上げながら、レイヴンはそう呟いた
『…カペラの言う通り、引き上げた方がいいでしょう。ユーリさんも……今日はもう、刀を振らない方がいいですから』
左腕に治癒術をかけつつ、アリオトはそう言った
「えっと……そんなに酷いんですか?ユーリの怪我……」
心配そうにエステルは問いかける
『…いえ、目立った外傷はありませんが……
あの大馬鹿者の攻撃をまともに受け止めてしまったせいで、腕に負荷がかかり過ぎているようですね……
少し休んだ方がいいでしょう』
『シリウスの馬鹿力で振り下ろされる大剣の攻撃、ユーリ、真正面から受け止めちゃうんだもん……』
ほんの少し呆れたように言いながら、リゲルがユーリに抱きついた
『シリウスの攻撃、まともに受け止めようとするの……ライラックとアリシアだけだと思ってたのに……無茶しちゃダメだよ、ユーリさん』
そう言って、ベガもユーリに抱きついた
「……やっぱり、あんたも無茶したんじゃない」
リタはそう言って、ため息をついた
「あー……そういう事になっちまう…のか?」
ほんの少し気まづそうに、ユーリはリタから顔を背けた
『…とりあえず、一度屋敷へ戻った方がいいですね。……レグルス様!!』
アリオトはユーリの治療を中断すると、レグルスの名前を呼んだ
「…ん?なんだ?」
『そこの大馬鹿者に制裁を加える前に、返してもらわなければいけないものがあります』
アリオトはそう言って、シリウスを睨みつけた
『……アリシアの欠片、だろう?言われずとも、大人しく渡すさ』
シリウスはほんの少し寂しそうにしながらも、ユーリを手招きした
何も言わずに、ユーリは近づくと、シリウスに白雷を向けた
これまで同様、シリウスの中から出てきた光の玉は白雷の中へと消えて行った
「後少し……だな」
どこか嬉しそうに微笑みながら、ユーリは白雷を見つめた
「……では、戻るとするか」
レグルスの言葉に一同は頷くと、船へと向かって歩いた
『行くぞ、シリウス』
カープノスはそう言って、その場から動こうとしないシリウスの首根っこを掴むと、ズルズルと引き摺って歩き始めた
『お、おい!!カープノス…っ!!』
ジタバタとカープノスの手からシリウスは逃れようとするが、中々彼の手は離れない
『はいはい、シリウスは大人しく引き摺られてようね〜』
『そうそう!拒否権なんてないんだから!』
カープノスの手を引き剥がそうとするシリウスの両手を、アルタイルとカペラの二人が制止していた
『〜〜っ!!おいっ!!さすがに一人でも歩けるぞ!?』
シリウスの悲鳴じみた声も、カープノスには届いていないようだ
「……ねぇ、いつもあんな感じなわけ?」
自分たちの後ろで騒いでいるシリウスの方をチラッと横目で見ながら、リタはユーリから離れないリゲルとベガに問いかけた
『…まぁ、うん…そうだね』
ほんの少し言葉を濁しながら、リゲルはそう言って苦笑いした
『……シリウスはアリシアのこと、大事にしすぎ…。アリシアが自分の言うこと聞かないと、いつも大騒ぎして、怒ったカープノスがああやって引き摺ってる』
呆れ気味にため息をつきながら、ベガはそう答えた
「…それを止めるのも大変だな」
ユーリは苦笑いしながら、肩を竦めた
全員が船に乗ると、カープノスは片手でシリウスを掴んだまま、指を鳴らした
ーーーーーー
屋敷に戻って来た一行は、自由行動をしていた
シリウスはカープノスとアルタイル、カペラに連れられ、屋敷の外に
リタとエステルは最初にレグルスと話した部屋に集められた、
カロルとパティ、ジュディスはペテルギウスと共に夕飯の準備を
それ以外のメンバーは一つの部屋に集まっていた
ベッドの縁に腰掛けたユーリの左腕を、アリオトが彼の目の前でしゃがんで治療しているのを、フレン達は側で見ていた
「それにしても大将、よくあの短時間でアリシアちゃんと同じ動きだってわかったわよね」
椅子に座り、頭の後ろで手を組んだレイヴンは、関心気味にそう言って、ユーリを見た
「シアとは何度も手合わせしてるからな。……あいつも負けず嫌いだから、両手で負けると絶対って言っていいくらい、片手で二戦目始めんだよ」
懐かしそうにそう言いながら、ユーリは苦笑いした
「ははっ……そうだったね。……勝つまでやろうとするのも、しょっちゅうだった」
レイヴンの隣に座るフレンもそう言って、懐かしそうに目を細めた
「なるほどねぇ……そりゃ、動きが同じなのもわかるってもんだわな」
懐かしそうにしている二人を、レイヴンは少し微笑ましそうに見つめた
「全く……だからと言って、あの馬鹿者の攻撃を真っ向から受け止めるのは、少々無理が過ぎたと思うぞ?」
アリオトの隣に立っていたレグルスは、呆れ気味にそう言って、ユーリを見下ろした
「あー……いや、シアの時は余裕だったから、平気だと思ったんだが……予想の数倍は重かったな」
気まずそうに、ユーリはレグルスから顔を背けた
『だめだよ、ユーリ。シリウスとアリシアを比べたら』
『アリシアの力は普通くらい……シリウスは馬鹿力……絶対、比べちゃダメ……アリシア可哀想』
ムッと頬を膨らませながら、ユーリの両隣に腰掛けているリゲルとベガが、ユーリの顔を見上げた
「悪かったよ。最強とは聞いてたが……あそこまで馬鹿力だとは思っていなかったんだ」
肩を竦めながら、ユーリはリゲルとベガを見た
シリウスとアリシアを比べられたのが相当嫌だったのか、二人は尚頬を膨らませたままだった
「……あの、ところで……その彼は今、どうしているんですか?」
ほんの少し遠慮気味に、フレンはレグルスに問いかけた
「……今頃、どこかでカープノス達に制裁されている所だろうな」
そう言いながら、レグルスは窓の方を見つめた
「制裁って、最強って言われてるシリウスに勝てるくらい、カープノスも強いってこと?」
首を傾げながら、レイヴンは更に問いかける
『いいえ。彼は戦闘は不向きです
そもそも、歴代最強の名を持つあの大馬鹿者相手に、戦闘で敵う者は私たちの中にいませんから……少し別の方法なのですよ』
クスッと少し笑いながらアリオトが答えた
「別の方法か?」
『ええ……あまり見るものではありませんが…
説明くらいなら、してもよいでしょうか?』
レグルスの方にほんの少し顔を向けながら、アリオトは問いかける
「我は見せてやってもよいと思うが……お主がそうしたいなら、好きにするがいい」
レグルスの答えにニコッと微笑むと、アリオトは口を開いた
『…カープノスが得意とする空間移動はいくつかの性質に分けられます。
一つ、自身を別の場所へ飛ばすこと
二つ、自身と対象にした者を別の場所へ飛ばすこと
三つ、自身が触れた物だけを、別の場所に飛ばすこと
四つ、自身が見た事のある物を、自身の元へ飛ばすこと
五つ、対象の相手の下、もしくは上に、空間の穴を開け、対象者を別の場所へ飛ばす、もしくは対象者の真上に物を落下させること
…この五つになります』
アリオトは淡々と、言葉を繋げていく
『彼は動く事を極度に嫌っておりますから、戦闘や制裁には、五つ目の性質を使います』
「んー、でもそれって、制裁に使うにはちと不便じゃないの?
別のとこに飛ばしちゃったら、そのまま逃げちまうんじゃない?」
そう言って、レイヴンは首を傾げた
『そのまま使えばそうなります。なので……シリウスの足元と頭上に、同時に空間の穴を開けるのです』
そう答えながら、アリオトはニッコリと笑った
「……えっと……そうなると……つまり……?」
恐る恐る、フレンはレグルスの方を見る
「カープノスがどちらかの穴を塞ぐまで、延々と落ち続ける事になるな」
あっけからんとレグルスは答えた
「怖っ!!延々落ち続けるなんて恐ろしいわ…っ!!」
二の腕を擦りながら、レイヴンは声を上げた
「おっさんの言う通りだな……さすがにおっかねぇわ……」
若干引き気味にユーリは呟いた
『…シリウスはアリシアの事になると、目の前のことが見えなくなるから、頭冷やさせるには、このくらいが丁度いいんだ』
リゲルはそう言うと立ち上がり、窓へと駆け寄った
『……さすがに見えるところじゃ、やってないみたいだね』
窓の外を覗きながら、ほんの少しつまらなさそうにそう呟いた
「だとしても、屋敷からそこまで離れてはいないだろう。……気になるなら見に行くといいと思うが?」
『………そうしよっかな』
数秒考え込んだ後、そう答えたリゲルは足早に部屋を後にした
「確かに……少し気にはなるけど……見たら後悔しそうだね」
リゲルが出て行った扉を見ながら、フレンは苦笑いした
「だな」
ユーリもフレンと同じく、苦笑いしながら、扉を見つめていた
「……そう言えばユーリ」
ふと何かを思い出したフレンは、ユーリをジッと見る
「なんだよ?」
フレンの視線に、若干嫌そうにユーリは問いかけた
「さっきシリウスが突っ込んで来る前、何か言ってなかったかい?」
ユーリを見つめたままま、フレンは問いかける
「…いや?何も言ってねえけど?」
声に出てしまっていたかと、内心苦笑しながら、冷静にそう返したつもりだった
「今、ちょっと考えただろ?」
だが、フレン相手にそれが通用する訳もなく、彼はすぐに聞き返して来た
「んなことねーって。気にしすぎなんじゃねえの?」
話すつもりのないユーリは、フレンの方を見ながらそう言って首を傾げた
が、納得していないフレンは、疑い深そうにユーリの事を見つめたままだった
「……青年が何も言っていないと言うのだから、それでよいのではないか?」
沈黙していた二人に対して、レグルスはユーリを擁護するように口を開いた
「しかし……」
「どちらにせよ、こやつに言う気がなければ、答えは一生出て来ないと思うが?」
反論しようとしたフレンに、レグルスは少し厳しい言葉をかけた
「ま、本当に必要な事なら、ユーリも話してくれるでしょ。話さないって事は、俺らにはあんまり必要じゃない事なんだろうし、気にしても仕方ないんじゃないの?」
未だに納得していないフレンに、レイヴンはそう声をかけた
「……二人がそう言うのであれば……今は聞かない。でも、僕らに取っても必要な事を隠していたら……後で怒るからな?」
納得、とまではいかないが、二人の言葉に、フレンはようやく折れた
「わかってるっての」
右手をひらひらとさせながら、ユーリはフレンから顔を背けた
『……一先ず、このくらいで大丈夫でしょう』
それと同時に、一通り治療が終わったらしく、アリオトがユーリの左腕から手を退けた
左腕を軽く動かすと、先程感じた痛みは殆ど消えていた
「サンキュ」
アリオトを見ながらそう言うと、彼女はニッコリと笑った
『完治しているわけではないですから、今日はもう休んでくださいね』
そう言ってアリオトは立ち上がった
『レグルス様、私もあの大馬鹿者の元へ行こうと思います。…少しくらい何かしておかないと、私の気が済まないので』
そう言って笑いながら、彼女は鉄扇を取り出していた
「…程々にしておくんだぞ?」
諦め気味にため息をついたレグルスに一礼すると、アリオトも部屋を出て行った
「さてと……ユーリももう大丈夫そうだし、おっさん夕飯の支度がどうなってるか、ちょいと見てくるわ」
椅子から立ち上がって、伸びをすると、レイヴンはユーリを見た
「ちゃーんと大人しくしてるのよ?」
「おっさんに言われなくてもわかってるって」
不機嫌気味にユーリが答えると、レイヴンは少し笑いながら、部屋を出て行った
「……僕も、エステリーゼ様とリタの様子を見に行ってくるよ。……しつこい様だけど、ユーリ」
「『ちゃんと大人しくしてるんだぞ?』…だろ?」
立ち上がりながら言うフレンの言葉にに、被せるように、ユーリは口を開いた
言葉を遮られたのが納得いかないのか、フレンは少し顔を顰めた
「んなに言われなくても、ちゃんとわかってるって。心配すんなよ」
ユーリの言葉に、少しムッとしながら、フレンはそれ以上は何も言わずに部屋を後にした
「……んで、あんたらはどうすんの?」
レグルスとベガを交互に見ながら、ユーリは問いかける
「うむ……そうだな……」
腕を組み目を閉じて、レグルスは少し考える
『…あたしは、一緒にいたい』
考え込んでいるレグルスとは違い、ベガはすぐにそう言ってユーリを見上げた
『……ダメ?』
そう言って彼女は首を傾げる
「ダメじゃねーよ」
ユーリがそう言いながら頭を撫でると、ベガは嬉しそうに目を細めた
「……うむ、そうだな……」
レグルスはそう呟くと、目を開いて、ユーリを見つめた
「…青年、少し話さぬか?」
「話すって、何をだ?」
首を傾げると、レグルスはユーリの隣に腰掛けた
「…どうせ、お主は気がついているのだろう?」
レグルスはそう言いながら、ユーリの傍に立てかけられた白雷を見る
どこか優しげな眼差しに、ユーリは何かを察した
「っつーことは、あんたもか?」
レグルスを見ながら、ユーリは少し驚いた声で問いかけた
「気づいてなければ、最初に話し合った時に『あんなこと』など言わぬ」
困ったように笑いながら、レグルスはそう答えた
『……レグルス様、知ってたの……?』
ほんの少し、不安そうな声で、ベガはレグルスに問いかけた
「我が気づいているのはまずいのか?ベガよ」
レグルスの問いかけに、ベガは少しの間、考えるように目を閉じた
『……ううん。レグルス様が、誰にも言わなければ、未来は変わらない』
目を開いた彼女は、そう言って首を横に振った
「そうか。ならば何も言わないでおこう」
白雷に向けていた視線をベガに向けながら、レグルスは答えた
「ベガ。お前、知っててオレに白雷使わせてたんだな」
してやられたと言いたげに、少し笑いながらユーリはベガに視線を落とした
『……だって、そうしないと、未来が変わっちゃうから…』
「別に怒っちゃいねーよ」
しょんぼりと俯いて、肩を落としたベガに、ユーリは優しく声をかけた
「けど、今まで聞こえなかったのに、なんで急に聞こえるようになったんだ?」
不思議そうに白雷を見ながら、ユーリは首を傾げた
『……それは、後で直接、聞いたらいいよ』
ゆっくりと顔を上げながら、ベガはユーリを見た
『でも、ユーリさんだけは、怒らないであげて
…きっと、シリウスが怒り狂うから』
困ったように笑ってベガはそう言った
「ベガよ、それも決まった未来なのか?」
レグルスの問いに、ベガは何も言わず、ただ笑った
肯定と見たレグルスは大きくため息をついた
「全く……今からあやつが怒り狂うと考えると、憂鬱なものだな……」
額に手を当てながら、レグルスは項垂れた
「あんたの苦労も絶えないな」
ほんの少し、憐れむようにユーリは言う
「……今に始まった事ではないがな……どうしたものかな……」
そう言うレグルスの声は、言葉とは裏腹にほんの少し楽しそうな雰囲気だった
「……さて、これ以上は誰かに聞かれてはまずいな」
顔を上げると、レグルスはユーリを見る
「…少し、アリシアの昔の話しでもするか?我が知っている範囲ではあるが」
ニヤッと笑いながらレグルスはそう言う
『…レグルス様、全然アリシアと話してないくせに……あたしの方が、昔のこと、よく知ってるもん』
ムッとどこか不服そうに頬を膨らませて、ベガはレグルスを見る
二人の表情はどちらもアリシアそっくりで
アリシアの方が似た、とは何度も聞いていたが、それでも似すぎたろうと、ユーリは苦笑した
本当に彼女が似たのか、ただ彼らが自分をからかおうとして、彼女の真似をしてるのか、判別するのは難しかった
「……んじゃ、教えてくれよ、あんたらが知ってる、シアの昔の話」
ユーリがそう言うと、レグルスはどこか満足そうに微笑み、ベガは嬉しそうに笑った
三人のアリシアの昔の話しは、ペテルギウスが夕食の支度ができたと呼びに来るまで続いていた
この日は夕飯を食べ終えた後、一同はそのまま眠りについた