第4部~星暦の行方と再会そして…~
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ーーー1時間後ーーー
「………悪ぃ、もう、大丈夫だ」
そう言って、ユーリはゆっくりと顔を上げる
まだ目の赤さは残っているものの、先程までの不安げな表情は残っていなかった
「全く……溜め込みすぎなんだよ、君は」
背に当てていた手を退かしながら、呆れ気味にフレンはそう告げた
「そうね。もう少し頼ってくれてもいいと思うの」
ユーリの頭から手を退けると、ジュディスはゆっくりと立ち上がる
「私たち、そんなに頼りないかしら?」
胸の下で腕を組み、首を傾げながらユーリに問いかける
「いや、そうゆう訳じゃねーけど……」
バツが悪そうに言いながら頬を掻く
その頬はほんのりと赤くなっていた
「ジュディス、ユーリの場合、頼るのが照れくさいだけだよ」
答えないユーリの代わりに、膝に肘を置き、頬杖をつきながらフレンがそう答えた
「ばっ!?フレンっ!!!」
そう言ってフレンを見たユーリの頬は明らかに真っ赤に染まっていた
「んー、まぁ、そんなとこだとは思ってたわよ。…ユーリも可愛いとこあんじゃないのよ」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたレイヴンは、ユーリの頭をぐしゃぐしゃと撫でた
「ちょっ?!おい、おっさん…っ!!!やめろって!!」
レイヴンの手から逃げるように、ユーリは体を後ろに引いて、レイヴンを睨みつける
が、自分の視界に入った三人の表情が、どこか安心したかのように見え、少し驚いた
「ようやく、いつもの君らしくなったね」
「そそ、大将はそうでなくっちゃ」
「ふふ、でも、たまにはああいう彼も、いいかもしれないわね」
ポカンとしているユーリに対して三人はそう言ってクスクスと笑い始める
「〜〜〜っ!!くっそ…っ、好き勝手言いやがって……っ!」
未だに赤い頬を隠すように下を向いて、頭を掻く
やはりこの三人には、どう足掻いても勝てそうな気がしなかった
「……本当に悪かったよ。…なるべく、頼るようにするわ…」
謝罪の後の言葉は聞き取れるかどうか怪しいくらい小さな声だったが、三人にはしっかりと聞こえていたらしく、少し満足そうに笑顔を浮かべた
「その言葉、忘れちゃダメよ?」
意地悪げにそう言って、レイヴンはニヤリと笑った
「わかってるって」
そう言って顔を上げたユーリの頬からは、ようやく赤みが抜けていた
「さて……そろそろ四人と合流しようか」
そう言ってフレンが立ち上がる
それに続くようにレイヴンとユーリも立ち上がった
「リタのやつ、ブチ切れてねぇといいが……」
肩を竦めながらそう言って、苦笑いする
「扉開けたらファイアーボールが飛んできたり…なんてね?」
ケタケタ笑いながら、レイヴンは扉の方へと足を進める
「あら、それじゃおじ様が扉を開けたら、一番に当たってしまうわよ?」
クスッと笑いながら、ジュディスが後に続く
「二人とも…流石のリタでも、そんなことはしないと思うけど……」
苦笑しながら、フレンも続いた
「……ラピード、お前にも心配かけたな」
ユーリは足元に伏せたままのラピードの傍にしゃがみ、そっとその背を撫でた
すると、ラピードはゆっくりと顔を上げた
「……傍にいてくれて、ありがとな」
「…ゥワンッ!!」
ユーリの言葉に短く吠えると、スっと立ち上がった
「んじゃ……怒られに行くとしますかね」
そう言ってユーリも立ち上がり扉に向かって歩き始める
今度こそ、いつもと同じ表情を浮かべて
ユーリは扉を開けた
「って、お前ら……なんでそんなとこに座ってんだよ」
扉を出てすぐ、ユーリは呆れた顔で真正面を見た
エステル達は、何故か扉の前の壁の側で、地べたに座り込んでいた
「……もう本当に大丈夫なわけ?」
ユーリの問いには答えず、不機嫌そうな声で利他が問い返してくる
「本当に大丈夫だ。……悪かったよ、心配かけて」
ほんの少し困ったように笑いながら、肩を竦めて謝った彼に、今度こそ大丈夫だと確信を持てたのか、リタはゆっくりと立ち上がる
「ったく……あんたらがいつまで経ってもあたしらのとこに来ないから、そろそろ部屋に突撃してやろうかと思ってたのよ」
腕を組みながらリタはそう言ってユーリを見つめる
「ホント、リタ止めるの大変だったんだからね!」
ムッと頬を膨らませながら、カロルはユーリを見上げた
「のじゃ。いつ扉を吹っ飛ばしてもおかしくなかったのじゃ。頑張ったうちらに感謝するのじゃ」
パティはそう言って立ち上がる
「いつまでもウジウジされてるより、よっぽどいいでしょ?」
リタはそう言って文句を言ってくる二人を見た
そんなリタに対し、エステルはクスッと笑う
「でも、リタが一番心配してましたよね?」
ニコニコと笑顔を浮かべながらエステルは立ち上がって、リタの方を向いた
「『あの三人だけで本当に大丈夫なのかしら』って、ずっと扉の方チラチラ見てましたもんね」
エステルの言葉に、リタは頬を赤く染めた
「べ、べべっ!!別に心配なんてしてないわよ…っ!!」
そう言って、ふいっと顔を背けた
「こいつがいつまでもあんなんじゃ、アリシアも心配するって思っただけで……っ!!」
「『も』ってことはやっぱり心配してたんじゃ」
カロルのツッコミに、リタはカロルの頭を思い切り殴った
「……うっさいわよ…っ!!」
「いったぁ……っ!酷い!!何も殴ることないじゃないかっ!!」
痛みで目に涙を溜めながら、カロルはリタを睨みつける
当の本人は素知らぬ顔で、明後日の方向を向いていたが…
「あはは……ともかく、ユーリが元気になってよかったです」
苦笑いしながら、エステルはユーリの方を見て言う
先程までと違い、無理にいつも通りを装っていない彼に安堵していた
「ふふ、次また無理したら、今度はエステル達にお願いしようかしら?」
クスクスと意地悪げに笑いながらジュディスが言う
「お、ジュディスちゃん、そりゃいい考えだわ」
ニヤニヤとこちらもまた意地の悪い笑みを浮かべて、レイヴンが同意した
「それは勘弁してくれ」
本当に嫌そうな顔をして、ユーリは後ろにいる二人を見た
「なら、もう溜め込まない事だな」
そう言って、フレンはユーリの肩に手を置いた
「へいへい…わかってますって」
言いながら、ユーリは手をひらひらとさせた
「で……どうしようか?レグルスに言われた時間まで、後一時間くらい残ってるけど」
カロルはそう言って首を傾げる
約束した休憩時間はまだ一時間は残っている
先程の部屋に戻ったとて、待つことに変わりはない
「とりあえず、どっかの部屋に入って、さっきの話、整理しましょ」
リタの提案に一同は頷き全員が入れそうな部屋を探した
先程までユーリ達がいた部屋の二つ先の部屋、広いテーブルと椅子……恐らく食堂だったのであろう部屋にユーリ達はいた
「んじゃ、まとめるわよ」
リタはどこから取りだしたのか、紙をテーブルに広げると、そこに文字を書き始める
「まず、星暦について
この名称がついたのは星喰みを退けた後の話で、エステル同様、
満月の子との違いは、エアルの消費量の大小だけ……だったわね」
「ええ、そう言ってました」
リタの質問にエステルが頷いた
「ここで一つ疑問が浮かんでくる。なんで同じように
そう言ってリタは仲間たちに視線を向けた
「確かに……言われてみばそうだよね」
腕を組みながらカロルは首を傾げた
「うむ……エアルの消費が多くても少なくても、世界にとって害には違いないと思うのじゃ」
パティもまた、腕を組みながら首を傾げた
「星暦には、まだなんか秘密があるって事か?」
ユーリの問いかけに、リタは頷いた
「あたしはそう思ってる。……で、ここでフェローが創ったヨームゲンでのデュークの言葉……」
「 『お前の本来の役目は……エアルの循環を始祖の隷長と共に正し、乱す『もの』を排除することだろう』ってやつ?」
レイヴンの言葉にリタは再び頷いた
「そ、この『エアルの循環を正す』ってところが満月の子と星暦の違いなんじゃないかと思ってる」
そう言って、再び紙に目を向け、文字を書き足していく
《如何にも、その通りだ》
すると、今の今まで姿を見せなかったイフリート達が姿を見せた
どこか関心気味に、彼らはリタを見ていた
「その通りってことは…」
《確かに星暦の力も世界にとっては害となるもの……しかし、彼らはその事を知ると、力の使用を控えるようになったのじゃ》
《本当に使わなければならない時……自身や、大切な者が命の危機に面した時のみ、彼らはその力を使ったのです》
《そして彼らは、我らと共にエアルの乱れを正していた。大きな乱れは
三体は代わる代わる口を開いた
イフリートとウンディーネは、どこか懐かしそうで、ほんの少し寂しさも混ざったような声だった
「……決定的な違い、だね」
静かに、フレンが口を開いた
「あぁ……
フレンの言葉に同意するように、ユーリは頷いた
一見些細な違いかもしれないが……これはとても、大きな違いだった
気まづそうに、エステルは俯いた
「……どうして、わたしの祖先は、忠告を受け入れられなかったのでしょう……」
悲しそうに、彼女は呟いた
もし、祖先が忠告を受け入れていれば、違う未来があったのではないかと
《そなたが気にする事ではない。…当時の満月の子らは、その力あってして人々の主導者となったのだ。それを手放すのは惜しかったのだろう》
ウンディーネは慰めるようにそう言ってエステルに寄り添った
《そなたが心優しいのは知っておる。気にするなと言っても無駄かもしれぬが……》
《人とは権力にしがみつき、手放したくないと思う者が多くいます。皆が皆、あなたのように考える事ができなかったのは、仕方のないことです》
《それに、満月の子らを滅ぼし
……その時にお主がいなかったら、世界は滅んでいた》
少しキツめの口調ではあるが、シルフとイフリートもまた、エステルを慰めようとしていた
「……そう、ですね。過去を悔やんでも、起きてしまったことは変えられませんから…」
そう言って、エステルは顔を上げる
ほんの少し、悲しそうにしながらも、彼女は微笑んでいた
「そうそ、結果的にはなんとかなった訳だし、それでいいのよ」
頭の後ろで手を組みながら、レイヴンはそう言って、エステルを見た
「話戻すわよ?……星喰みを退けた後、星暦の当主の中でも秀でた者が、自分の子孫を守る為に星となって、子孫が力を使う時に補助をしていた
……これは多分、ザウデの
これって、世界に害は本当になかったの?」
紙に文字を書き終わると、リタは精霊たちを見た
《レグルスはもう話さぬかもしれぬから言うが……星の力とは当主達の生命エネルギーの塊、世界のエアルに支障が出るものではない》
リタの問いにイフリートが答えた
「生命エネルギー…って、でも、そんなに長く続くものなの?」
不思議そうにカロルは首を傾げた
《彼らだけでは長く続きはしません。これはアムリタを使って、生き長らえてきたレグルスがいてこそできた事なのです》
カロルの問いに、シルフが答える
《奴が永い時の多くを眠って過ごした理由の一つに、アムリタで増幅すぎたエネルギーを星に分ける為でもあったのだ
……千年もあれを使用し続けていれば、もっと異形な姿になっていてもおかしくないが、奴は比較的、人の姿を残したままだ
それは、過剰な分を分けていたからだろう》
「腕四本も十分異形だと思うんだけど……」
最初にレグルスに会った時のことを思い出して、カロルは身震いした
「星暦についてはこんなとこね」
そう言ってリタはペンを置こうとする
「いいえ、もう一つ謎が残っているわ」
話を終わらせようとしたリタを静止したのはジュディスだった
「彼女、満月の子の力は、星暦にとって毒だと言っていたじゃない?殆ど性質は変わらないのに、何故そう言ったのかしら?」
そう言って彼女は首を傾げた
言われてみれば、確かにその通りだ
「……確かにそうさねぇ……レグルスからそんな話は出てこなかった」
ジュディスの方に顔を向けながらレイヴンは言った
「イフリート達は何か知りませんか?」
エステルが自身の周りにいる精霊達に問いかける
《……恐らくじゃが……それは姫を守るために、ライラックがそう伝えたのじゃろう》
少し考えた後、ウンディーネが口を開いた
《お主らも知っての通り、姫の体はエアルに対して異常なまでに脆かった。満月の子の力はエアルを多量に消費するもの……姫の側でその力を使われれば、彼女の体への負担が大きくなる。故に、毒だと、ライラックは伝えたのだろう》
《そしてそれは、レグルスさえ知らない事だったのでしょう。私たちも満月の子の力が星暦にとって毒だと聞いたことはありませんでしたから》
「あれ……?でも、みんなヤケにアリシアがエステルと一緒にいるの、嫌がってなかった?」
不思議そうにしながらカロルは首を傾げて問いかける
星暦にとって毒だということを知らなかったのであれば、何故嫌がったのか、それが不思議だったのだ
《……それは、星暦にとって毒だからではなく、姫にとっては毒だったからです。星暦全体には毒でなくとも、彼女にとってはそうでしたから》
そう言ってシルフは肩を竦めた
「なるほどな……確かに、それならレグルスがオレらにその話をしなかったのも納得できる」
「そうね。……これで、わからなかったところがだいぶ補填されたわ」
そう言ってリタは椅子の背にもたれかかり、天井を見上げた
「でも……そうなると、やっぱりあたしは、アリシアがこの事実を知らなかったとは思えないのよね」
「あら、何故かしら?レグルスだって、歴史とは風化するもの、って言っていたじゃない?」
「そうだったとしても、秀でた当主の力は、残すために空に打ち上げる必要があるのよ?それを知らなかったら、残す事なんてできないじゃない」
天井に向けていた顔を、ジュディスの方に向けながらリタは言う
「む……確かにリタ姐の言う通りなのじゃ」
「あの子、しきたりとか関係なしに隠し事多かったから……あたしらにまだ話していない事があるんだと思う」
「……ま、それはシアが戻ってきた時に、本人に問いただすとしようぜ」
ユーリの言葉に、渋々ながらリタは、分かった、と呟いた
アリシアが事実を知っていたかどうかを確かめる術はない
であれば本人に直接聞いた方が早いだろう
「そういえば……ユーリ、確か空間の狭間にいるアリシアを見た時、星も一緒だったって言っていたよね?」
何かを思い出したように、フレンがユーリに問いかける
「ん?あぁ…『シリウス』ってシアが言ってたから、間違いないと思う」
「最初に聞いた時、何故星が残っているのか気になっていたんだ。あの時彼女は、確かに『星の力と』って言っていたから、彼女が消えれば彼らも消えると思っていたんだ」
「……言われてみりゃそうだな……」
星が残っていた事に全く疑問を持っていなかったユーリは、初めてその違和感に気づいた
「でも、今の話を聞いて腑に落ちた。星の力が生命エネルギーなのだとしたら、それを供給しているレグルスさんが生きている限り、彼らが消えることはないのだろうって」
「そうなるわね。……それも書いておきましょ」
そう言ってリタはペンを取ると、紙にフレンの言葉を描き始めた
「後まとめておきたいことは……やっぱり『白雷』の事でしょうか?」
ユーリの手元にある刀を見ながらエステルが言う
「んー……星暦の事と比べると、そんなにまとめるような事もないけど……一応まとめましょうか」
先程の会話を書き留め終わったリタは、新しく紙を取り出した
「宝刀は『白雷』で『黒雷』がその写し……二振りには
だから、写しであっても本物と同じ事ができる…だったわね」
「それと、『黒雷』はエアルの流れを鎮める事もできる、だな」
リタの言葉に補足を入れるようにユーリは告げる
「そうだったわね。……んで、ちょっと気になるのは、『白雷』じゃエアルを鎮める事ができないのかってこと」
そう言いながら、ペンの先をユーリに向ける
「写しが流れを鎮められるのに、本物はそれができないって、ちょっと違和感ない?」
「ん……まぁ、確かにそうだが……」
《それは恐らく、耐久の問題だろう》
「耐久?」
イフリートの言葉にリタは首を傾げる
《宝刀は我ら
《一つの刀に多くの力が加わればその分脆くなってしまう……だから、宝刀本体にはエアルを鎮める力は付けなかったのじゃ。その代わりに写しにその力を付けたのであろう。復元出来るのであれば、壊れてもまた作ればいいだけのことじゃからのう》
「……あいつ……本当に説明不足しすぎじゃないかしら」
イフリートとウンディーネの答えに、リタはレグルスに対し、若干の怒りを覚えた
《あの方は言葉足らずな事が多いですから……本当に聞かれた事しか答えないことが多々あります。気になった事は聞けば教えてくれるでしょう》
シルフは少し困ったようにそう言った
「……ま、いいわ。あんたらのお陰でわかったし……」
イフリート達の説明を書き足して、リタはペンを置いた
「さてと……まとめたい事はこのくらいかしらね」
「はい。あ、でも…レグルスのことはいいんです?」
首を傾げてエステルは問いかける
「あいつの事はまとめてもしょうがないでしょ?どうせさっき聞いた話以外にもゴロゴロ聞いてないことが出てくるだけだし、あの子に関係する事が出てくるとも限らないんだから」
エステルの問いに、リタは興味なさそうに答えた
「ま、それもそうさねぇ……んで、約束の時間まで後どのくら」
レイヴンがそう言いかけた時、辺りに大きな地響きが鳴った
大きな音と共に地面が揺れる
「わわっ?!!え、えっ!?なに?!!」
驚きながらカロルは辺りを見回す
「この音……何が落ちたんでしょうか…?」
「ええ……それも、一つや二つではないわね」
ジュディスはそう言って、耳に手を当てる
「………ええ、そう……ありがと」
「バウルか?」
ユーリの問いかけに、ジュディスは頷いた
「空から何か落ちてきたみたい。……それも幾つも」
「何かって……一体何が」
フレンが問いかけようとした時、扉が勢いよく音を立てて開いた
ユーリ達が驚いて振り返ると、そこにはレグルスが肩で息をしながら立っていた
「……まずいことになった」
息を切らせながら、レグルスは言う
「まずいことって……一体何よ?」
立ち上がりながらレイヴンが問いかける
「……空に打ち上げていた星たちが落ちてきたのだ」
その答えにまだ座っていた者たちも勢いよく立ち上がる
「なっ……!?」
「幸いな事に、エネルギーを貯めている機関はどれも損傷していないようだが……空間の狭間に行く為の機能が全て損傷し起動不可能なようだ……
これでは、彼らは自力でそこに行くことができない」
「ということは……今、空間の狭間には、アリシアと星喰みの憎悪しかいないってこと……?!」
「……そういう事になる」
レグルスの答えに全員が息を呑む
彼の反応からして、その状態がどれだけ危険なのかは聞かずともわかった
「なら、急いで……!!」
『待て』
突然辺りに響いた声に、ユーリは動かそうとしていた足を止めた
レグルスが振り返ると、彼の後ろから見慣れない男が歩いてくる
真っ黒な短髪に仏頂面、背はジュディスと同じくらいだろうか
そして彼の瞳もまたアリシアと同じオレンジ色だった
ほんのりと透けている体を見て、リタが少し硬直した
「カープノス…無事だったか」
ホッと安堵の息を吐いたレグルスに、彼は呆れ気味に鼻を鳴らした
『ふん……墜落くらいで消えるようなやわな奴が、あの中にいるわけないだろう』
心外だと言わんばかりに彼は顔を顰めていた
《カープノス……そなたは変わらんのう……もう少し愛想というものを覚えてはどうだ?》
半ば呆れ気味にウンディーネは言うが、彼は知るかと言わんばかりに顔を背けた
『……っと、こんな事をしてる場合ではない。……初代、最悪な状況だ。…お前たちもよく聞け』
真剣な表情で、カープノスは言葉を続けた
『……憎悪が動き出した』
その言葉に、その場にいた全員が体を硬直させた
……その言葉の意味を、理解したくなかった
「まさか…!時期が早すぎるのではないか?!」
声を上げたのはレグルスただ一人だけだった
『事実だ。アリシアと狭間にいたシリウス、ペテルギウス、アルタイル、カペラ、カストロ、ポルックスが奴の力を少しずつ削っていたが……』
「ちょ、ちょい待ち!!力を削るって一体どうやって…?!」
言葉を遮られたのが不服だったのか、カープノスはレイヴンを睨んだ
が、説明してくれなければユーリ達にはわからない
その事に気づいた彼は面倒くさそうにため息をつきながら、ユーリ達を見た
『奴は恨みや憎しみの感情の中に、誰かを信じたい気持ちや願いを持っていた。……そういったプラスの感情を、引き剥がしていたのだ。そうすれば、奴の力が弱まるからな』
「だが……まだ引き剥がしている最中だろう?完全に恨みと憎しみだけの存在にならなければ動かぬはずなのに、何故奴が動いた?」
レグルスの問いに、カープノスが首を振った
『もう引き剥がしは完了している。……俺らが思っていた以上に、恨みと憎しみの感情の方が多かった』
カープノスの答えにレグルスは唇を噛んだ
また……自分は何もできないのかと
『……奴は狭間から出ようとしている。あの空間から出る方法は二つ。一つは俺ら星の狭間へ行き来する為の機能、そしてもう一つは……』
ここで彼は言いづらそうに口篭る
だが、言わなければ何も始まらない
何かを覚悟したかのように、口を開いた
『アリシアの新しい体』
その答えに、ユーリは目を見開いた
そして……その先の言葉を彼は聞きたくなかった
もし、彼女がそれを知っていたのだとすれば、彼女が何を考え、何をするか……
それが、嫌でもわかってしまったからだ
『空間の狭間には、一年半前から、さっき言った七人しかいなかった。俺は世界の様子を監視し、ベガ、リゲル、アリオトは、世界に散ったアリシアの力の欠片を探していたからな
……だから、これから先、話すことはシリウス達から聞こえた会話であって、俺が見た事ではない』
悔しそうに顔を歪めて、カープノスは語り出す
『……俺が聞いた会話では、奴は初め、シリウス達を狙ったようだ。……だが、あいつらは元当主……それも、それぞれが最強だと言われた奴らだ。憎悪なんぞに引けは取らない
……それに気づいた奴は、まだ当主となって日の浅いアリシアに目を付けた
が……あの子もそこまで甘くはない。こちら側の体の準備が出来次第、すぐに元に戻れるようにと、僅かに残していた火、水、地、風、光、闇の力を、世界に散らした。それと同時に、俺らの空間の狭間へ行く為の機能を壊しやがった
……それが機能しなくなれば、俺らは地に落ちるっつーのにな。……で、狭間にいたシリウス達もそっから追い出された
……だから、今、あっちがどうなっているかは、誰にもわからない』
カープノスの口から出た言葉は、ユーリが予想していたものと、ほぼ同じだった
ギリッと奥歯を噛み締めて、テーブルを思い切り殴る
それが、彼女が自分を犠牲にしようとする癖に対する怒りなのか、悲しみからなのかはわからないが
「……まずいな……アリシアの元には、力は一つも残っていないのか?」
『いや……聞こえた会話じゃ、カストロかポルックスのどっちかが残ってるはずだ。最後の方は雑音が酷すぎて、よく聞き取れなかった』
その答えに、レグルス腕を組んだ
「……どちらかが残っているのならば、まだ大丈夫であろう」
小さく呟かれた言葉に、一番最初に反応したのはユーリだった
「本当か……っ?!!」
「ああ…カストロとポルックスのどちらかであれば、光と闇……カストロであれば、光で寄せ付けないようにできるであろうし、ポルックスであれば、闇に同化して見つけられなくできるだろうからな」
『まだ大丈夫』……その言葉に、ほんの少しユーリは安堵した
だが、一刻を争う自体なのは事実だ
『……最初に散った力の欠片はアリオト達がもう見つけ、お前らが来るのを待っている。後に飛ばした方も……多分、シリウス達が持ってるだろう。行くなら早くしろ』
ぶっきらぼうにカープノスはそう告げる
「早くしろって……どこにあるかもわからないのに、どうすればいいのさ」
ムッとしながら、カロルは彼を見るが、反論された事が気に食わなかったカープノスに睨まれ、フレンの背に隠れた
『はぁ……俺がお前らを連れて行く。さっさとバウルとかいう
面倒くさそうにそう言って、親指で廊下の先を指した
「全く……カープノス、お主は本当にもう少し愛想を覚えよ」
諭すように言ったレグルスの言葉に、グッと喉を鳴らし、ほんの僅かに気まづそうに彼は顔を背けた
そんな彼に、レグルスは大きくため息をついた
「……このままでは何も事態は動かん。行かぬのか?」
レグルスはそう言って、ユーリ達を手招きする
「……あんたはどうすんだよ?」
「無論、我も共に行くつもりだが?」
《いけません……っ!!》
レグルスの答えに反応したのはシルフだった
《あなたはまだ、姫の体の再生を行っている途中…っ!!それなのにっ!》
シルフの言葉を静止するように、レグルスは右手を上げた
「案ずるな。我ができることはもう終わっている。後は時を待つのみだ」
レグルス答えにシルフはまだ何か言いたげだったが、それ以上、何も言えなかった
「だが、再生途中の体だけを置いて行くのは不安だな……。フェロー……いや、今はイフリートであったな。お主ら、彼女の体を守ってやってはくれぬか?」
レグルスの言葉に、イフリート達はどこか嬉しそうに頷いた
《よかろう、レグルスよ。姫の体……我らが守ろう》
そう言うが早いか、四体は姿を消した
「という訳だ。ついて行っても構わぬだろう?」
腕を組み直し、首を傾げながらレグルスはユーリに問いかけた
どこか、アリシアに似た仕草に少し戸惑うが、彼女の方が彼に似たのだという言葉を思い出し、その考えを押し出そうと頭を振る
「……ああ、構わない」
「よい。……では行こう。手遅れになる前にな」
そう言ってレグルスは歩き出した
ユーリ達もその後に続いていく
終始無言だったが、そんな中、フレンがポツリと呟いた
「……本当に、アリシアは無茶ばっかりするね」
呆れ気味に、それでも自分が知っている彼女のままなのだと、どこか安心したかのようにそう口にした
「ホント、自分を犠牲にする事しか考えないんだから……帰って来たら絶対文句言ってやるんだから…っ!!」
怒りながらも、少し嬉しそうにリタも言う
「そうね、帰って来たらまず、お説教からね」
クスッと笑いながらジュディスは言った
「ええ、心配かけた分、みんなで怒りましょう」
そんなジュディスの言葉に、エステルも頷いた
「不義には罰を、だからね!いっぱい怒ろう!!」
「のじゃ!!」
そう言ったカロルとパティもどこか嬉しそうだった
「…ホント、愛されてるねぇ、アリシアちゃんは」
レグルスのすぐ後ろを歩いている、ユーリの真後ろで、レイヴンはそう言って頭の後ろで手を組んだ
「……ユーリ、きっと大丈夫よ」
ユーリにだけ聞こえる声で、レイヴンはそう言った
きっと、彼はまた、一人で不安を溜め込もうとしているから
そうならないように、大丈夫だと、声をかけた
「……おっさんに言われなくてもわかってるっての」
そう言ってレイヴンの方にユーリは顔を向けた
不安そうな影はあるものの、どことなく嬉しそうな表情をユーリは浮かべていた
「無理無茶すんなって言っても、言うこと聞かねーのがシアだ。今更そんな心配したって無駄な事くらいわかってるって」
そう言ってユーリは肩を竦めた
不安な事には変わりない
だが、自分が知っている彼女と全く変わっていないことが、不安以上に嬉しくあった
「……そ、ならよかったわ。帰って来たらうんと叱ってやりましょ」
「おぅ、元よりそのつもりだ」
そう言ってユーリは笑った
そんなユーリにレイヴンは少し安堵した
思い詰めていた時の彼ではなく、いつもの彼だと
「……全く……誰に似たのやら……」
そんな会話を聞きながら、先頭を歩くレグルスは深くため息をつく
『初代だろ。あの無鉄砲でお転婆、おまけに仲間の為なら危険も顧みない性格は、初代そっくりじゃないか』
隣にいるカープノスは彼にだけ聞こえるようにそう言って、彼を睨んだ
『おかげで随分、俺らはアリシアに手を焼かされた』
「……性格まで、我に似ずともよかったのだかな…」
そう言ってレグルスは苦笑いした
そうこうしている内に、彼らはバウルの元へと辿り着いた
「んで、オレらはどうすればいい?」
船に全員が乗り込むと、ユーリはカープノスに問いかけた
『……俺があいつらのいる場所に飛ばす。俺が得意とするのは空間移動だからな。……普通に行くより早く着く』
「うへぇ……そんな事までできちゃうのね」
『アリシアが一番苦手な分野だがな。……順番は……』
「あんたが決めてくれ。オレら誰からがいいとかわかんねぇし」
『………では、まずベガの元へ向かおう。彼女が一番、最初に欠片に辿り着いていたからな』
カープノスはそう言うと目を閉じる
『……行くぞ』
彼がそう言った瞬間、バウルとフィエルティア号がその場から姿を消した
ーーーーーーーーーーーー
あれから……どのくらい時間が経ったかな?
真っ暗なこの空間じゃ時間の感覚なんて、全くわからない
きっと……今頃、シリウス達も、ユーリ達も……怒ってるだろうなあ……
……でも、『あれ』を倒す為には、必要な事だったから
怒られるのは承知の上だけど……
『……ねぇ、アリシア』
「ん?なぁに?」
『……本当に、一緒にいるの、僕でよかったの?』
「なんでそんな事聞くのさ」
『だって……僕よりもーーーーーの方が……』
「あー!もう、またそんな事言って…いいんだよ、こっちの方が、私が落ち着くから」
『そう…?ならいいんだけどさ』
ーーーーーをギュッと抱き締める
うん、やっぱり『こっち』の方が落ち着く
『……ねぇ』
「んー?」
『……さっきの話、あれ話したらみんな怒るじゃない?』
「……話しても話さなくても、みんな既に怒ってるって……怒られるってわかった上で行動してるから、大丈夫だよ」
『……なんか、アリシアの無茶が加速してる気がする……』
「えー?そうかなぁ?」
『そうだよ…!!全くもう!みんなに心配かけて…!!……ちゃんと、みんなに怒られてよ?』
「あはは……まぁ……逃げないように努力はするよ」
苦笑いして、ーーーーーを更に強く抱き締める
……大丈夫、きっと、大丈夫
ユーリなら……きっと………