第4部~星暦の行方と再会そして…~
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扉を開けた先は歩いて来た廊下よりも、更に暗かった
が、先程までとは違いそこは広い部屋になっていた
ユーリ達が中に入るとパチンッと乾いた音が辺りに響いた
すると、急に辺りが明るくなる
突然の出来事に一行は目を閉じる
目が慣れ、ゆっくりと目を開けた彼らの視線の先には、帝都のお城の玉座の間のような広い空間と玉座、そして……
「な、何よ…っ!あれ……っ!!」
骸骨……ではないが、四つの腕がある人とはとても形容し難い存在が、そこに座っていた
突然目の前に現れた異形の存在に一行は息を飲んだ
「……ようやく、ここまで辿り着いたか」
異形な存在はそうゆっくりと言葉を発した
その声は、彼らをここまで案内した声と全く同じだった
「その声……あなたが、レグルス……なのですか?」
怯え気味にエステルは問いかける
すると、異形な存在はゆっくりと頷き立ち上がる
「如何にも。我こそが星暦の初代当主、レグルスだ」
その見た目とは似つかない凛と澄んだ声で、彼はしっかりとそう告げた
驚きのあまりユーリ達が何も言えずにただ彼を見つめていると、何か考えるように彼は腕を組んだ
「ふむ……この姿では話しづらいようだな。…ならば」
そう言うと彼の体が光始める
強い光にユーリ達は再び目を閉じる
光が収まり目を開けると、先程まで異形の姿のレグルスが立っていた場所に、一人の青年が立っていた
アリシアによく似た赤色の肩で切り揃えられた髪にオレンジ色の瞳、そして……
彼女とよく似た顔の青年だった
「シア姐そっくりなのじゃ……」
「我が似ているのではなく、アリシアが我に似たのだ」
ポツリと呟いたパティに対し、レグルスは呆れたようにそう告げた
「…それはそうとお主ら、いつまでそこで呆けているつもりだ?」
小さいため息をつきながら、彼はユーリ達を見回した
「……いや、わりぃ……そもそもあんたが生きてるだなんてオレらも思ってなかったからな」
「……ふむ、それもそうか。他の者らは実体など持っておらぬからな。無理もないか」
ようやく口を開いたユーリの答えに、納得したように彼は言う
「よ……良かったわねリタっち……ガイコツじゃなくて」
「べ、べべっ!別にあたしはそんな心配してないわよ…!!」
引き攣った笑顔を浮かべながらそう告げたレイヴンの腕を、リタは全力で殴った
「いでっ?!!ちょっ!!殴ることないじゃない!!」
殴られた箇所を擦りながらリタを見るが、当の本人はそっぽを向いていた
「はぁ……埒が明かんな……ともかく全員こっちに来て座れ。このままでは話もできんではないか」
ため息混じりにそう言ってレグルスが指を鳴らすと、玉座しかなかった部屋が長い机と椅子のある部屋へと変化する
一同は驚きながらも、彼の言う通りにそれぞれ椅子に腰掛けた
「…あんた、ホントになんでも出来んだな」
関心気味にユーリが言うと、レグルスは少し顔を顰めた
「なんでも、という訳ではない。この屋敷は我が招いた者しか我の場所に辿り着けないよう、臣下たちが造った場所だ。…我の力などではない」
心外だとでも言いたげに彼はそう答えた
「そうだとしても、すごい技術だわ」
「えぇ…!古代文明のすごさを、改めて感じます」
そう言って、エステルは目を輝かせながら辺りを見回した
「さて…では何から話そうか?お主らが聞きたい事も、我が話さなければならない事もあるからな」
机に両肘をつき、手を組んだ状態でレグルスは問いかけてくる
確かに聞きたいことも、聞かなければならない事もある
だが、何から聞いたら良いのかわからないのも事実だ
「…んじゃ、さっきの質問の答え、教えてくれよ」
ユーリはそう言って、机の上に白雷を置いた
「これは星暦の一族に伝わる宝刀の写し…なんじゃないのか?」
じっとレグルスを見つめてユーリは問いかける
「…そうか、お主らはそう聞いているのだな?」
白雷を見つめながら、レグルスはそう聞き返した
「あぁ。確かにそう聞いた」
「……なるほどな。確かに宝刀に写しは存在する。…が、宝刀は『黒雷』ではなく『白雷』だ」
白雷に向けていた視線をユーリに移しながら、はっきりと彼は答えた
「はっ…?!」
「『黒雷』が写し……?!」
ガタンッと音を立てながら、ユーリとフレンは立ち上がり、目の前にある白雷を見つめた
黒雷が宝刀だと、確かにアリシア本人がそう言っており、星たちもそう言っていたはずだ
いかなり白雷が宝刀、と言われても信じ難いものだ
「ああ、そうだ。『黒雷』は『白雷』を似せて我が作らせた写し。これは事実だ。『黒雷』が『白雷』と同じ事が出来ていたのは、二つの刀に埋め込まれた核……
驚いている彼らに対し、レグルスは淡々と続けた
「でも…じゃあ、なんでアリシアや星たちは黒雷が宝刀だって言ったのかな…?」
不思議そうに、カロルは首を傾げる
「ふむ……彼女の場合、当主になったのがそもそも若すぎる。恐らく全てを伝え聞いてはいなかっただろう。どちらが本当の宝刀か知らなかったか、あるいは子孫達が宝刀は『黒雷』と教えていた可能性はある」
「はぁ?なんでそんな面倒な事する必要があるのよ」
「それは、『黒雷』が悪用されぬようにしたかったのだろう」
「悪用なんてできるのかの?」
「出来るとも。確かにあれは写しではあったが、同時に
…考えてもみよ。アリシアの代こそ満月の子らとの諍いはなかったにせよ、他の子孫達はいがみ合っていたのだ
そんな刀があり、かつそこの黒髪の青年が持ってるペンダントがあれば星暦の宝刀と同じことが出来るなどと知られれば、どうなるかなど想像は容易いだろう?」
そう言われ、ユーリ達は納得した
いがみ合っていた時代であれば、隠そうとするのは当然の行為だったのだろう
「それに…先も言ったが、『黒雷』にはエアルの流れを鎮める機能があった。エアルに対し虚弱な彼女を守る為に、彼女に常に持たせて置きたい、と子孫達は考えたのかもしれんな」
確かに、それであればアリシアが黒雷を宝刀と思っていたことも、納得ができる
「白雷が宝刀で、アリシアが知らなかった可能性があるってことはわかったわ。……けどあの子…なんでユーリに白雷の方を託したのかしら………」
ポツリとリタがそう呟く
「それは…ユーリに持ってて欲しかったからじゃないんです?」
そう言って首を傾げたエステルの方を向きながらリタは答える
「どっちの刀でも同じ事ができるって言うんなら、普通宝刀だって思ってる方を渡すんじゃない?あの子、『一緒に帰れない』なんて言っておきながら、本気で死ぬ気なんてなかったんでしょ?」
「……だな。消える間際、オレに『また会えるから』って言ってきたくらいだ。そんなつもり微塵もなかったと思う」
「だとすると、尚更わからないね……何故彼女がそんな行動を取ったのか」
そう言って、三人は腕を組んだ
「あのー……一ついいかしら…?」
考え込んでいる三人に、レイヴンは遠慮気味に声を掛ける
「あ?なんだよおっさん。オレら今考えてんだけど?」
「あ、いやぁ……御三方共、アリシアちゃんが知らないって体で考えてる様だけど……『知ってた』って仮定したらどうよ?」
不機嫌に聞き返したユーリにレイヴンはそう答えた
「『知ってた』…って、宝刀が白雷だってことを?だとしたら、あたしらに黒雷が宝刀だ、なんて言う必要ないじゃない」
リタも不機嫌そうにレイヴンに聞き返す
「んー…そりゃあ、満月の子といがみ合ってないからそういう考えもあるかもしれんけどよ?しきたりだなんだって、言えない事多かったじゃない?それに、俺らが最初に宝刀の話を聞いたのは星達からでしょ?」
「そうね。彼女から聞いたのはその後。つまり、彼女が星たちに話を合わせた可能性はあるわ」
レイヴンとジュディスにそう言われ、三人はようやく納得した
二人の言う通り、アリシアが知らなかった可能性がゼロという訳ではない
知っていた上で言わなかった可能性は大いにある
「確かに…そう考えれば辻褄は合うけど……」
疑問は一つ消えたが、ここで新たな疑問がフレンの中に生まれた
「アリシアにしか反応しない筈の白雷が、ユーリでも反応しているのは何故ですか?」
そう言ってフレンはレグルスを見た
当主でなければ権能は発揮されない、と言ったのはレグルス本人だ
「…それについては我にも詳しくは分からぬ。恐らくアリシアが居なくなり、宝刀がペンダントを持った青年を新しい当主と誤認した可能性はあるが……」
そう言いながら、レグルスは机の上に置かれた白雷を見つめる
すると、一瞬、ほんの僅かに白雷が小さく光ったのがレグルスの目に入る
その光に、ユーリ達は気づかなかった
ただレグルスだけが見えるように、白雷は小さな光を発していたのだ
「…オレ、当主になった覚えはねぇんだけどな?」
白雷を見つめて口を閉ざしたレグルスを横目に、そう呟きながら、ユーリも白雷に目を落とした
白雷は何の反応も示さなかった
そこで何かに気がついたレグルスは肩を震わせる
「……ふ………はははっ!!」
突然、彼は大声で笑いだした
何事かとレグルスから目線を離していたユーリ達は、レグルスを見る
「あの子にしてやられたな……そうか………元より、『そのつもり』だったのだな」
呆れ気味に、でも何処か嬉しそうに笑いながらレグルスは呟いた
「してやられた…とは?」
「…それは、あの子が帰ってきた時、あの子から直接聞いた方がいいだろう」
クスクスと未だに笑いながら、レグルスは答えた
「…さぁ、『白雷』についてはこれが全てだ。他に聞きたいことは?」
困惑する彼らに、レグルスはそう問いかけた
どうやらこの件に関して、彼はこれ以上答えるつもりはないようだ
「…んじゃま、俺から一つ」
誰も口を開かない中、問いかけたのはレイヴンだった
「アリシアちゃんは、星暦は死んだら空に瞬く星となって力を貸してくれると言ってたけんど……お前さんはまだ生きているんでしょ?なんで、他の星達と同じ事ができるのよ?」
「ふむ………それに関してはアリシアの認識が間違っているな。…いや、彼女だけではないかもしれんが……」
話しづらそうにレグルスは腕を組んだ
数秒考えた後、ゆっくりと口を開いた
「……星暦全員がそうなる訳では無い。代々の当主…その中でも力に秀でた者だけがそうなるのだ。星暦の力とは、満月の子らに近い性質だ。彼らとの違いは消費するエアルの量の差だけにすぎん。我らは彼らよりエアルの消費が少ないというだけ……
空に瞬く星となって残る者たちは、未来に生きる子孫を案じ、守りたいと願い、自らの意思で残り、そして生前、自身が得意としていた分野の力の補助をするだけだ
でなければ最初に居た星暦達は力など使えんだろう?」
「確かに……言われてみればその通りですね」
「でも、補助するだけ、という事は星が居なくとも、アリシアは力が使える、という事かしら」
ジュディスの問い掛けに、レグルスは頷いた
「ああそうだ。あの子はエアルに対する耐性が低すぎたが故に、補助なしでの力の行使は上手くなかったが……だが、その問題さえなければ、彼女は歴代の当主の中でも我と同等か、それ以上に力に秀でていたのは確かだ」
どこか残念そうに眉を下げてレグルスはそう言った
「……そもそも『星暦』などと呼ばれるようになったのは、星喰みを封印した後、力ある当主達が星となって残るようになり、子孫達に力を貸すようになってからの話だ。我が一族の歴史からすれば、まだ日は浅い」
「んじゃあ、何でシアはああ言ったんだ?」
「……歴史とは風化するものだ。満月の子らが、自身の歴史をまともに知らなかったのと同様に、我が一族の歴史もまた、時の流れと共に変化してしまったのだろう」
ユーリの問いに、ほんの少し寂しそうにしながら、レグルスは答える
星喰みをザウデ不洛宮で遠ざけててから千年……いや、それ以前から生きてきているであろう彼からしてみれば、正しい歴史が語り継がれないのは当然、寂しいものなのだろう
「そうね。それが歴史というものだと思うわ。でも、貴方は今ここで生きている。なら、貴方自身で正しい歴史を語り継ぐこともできたのではないかしら?」
ジュディスの言葉に、レグルスはゆっくりと首を横に振った
「確かに、我はここに居る。子孫達に我自ら語り継ぐことも出来たかもしれぬ
…だが、我がすべきは、いつか再びこの地に帰ってくる星喰みを、憎悪諸共、滅する事であった
我が一族の……いや、我の唯一の汚点……一族の長として、満月の子らを止める事のできなかった、我自身が責任を取らなければならなかった。故に、アムリタを使用し生き長らえてきた。我ら一族にとって、あれは毒にも等しいものだが…眠りに多くの時間を費やす事で、我は今の状態を保ってきた。そんな状態だったが為に、子孫達に語り継ぐことはできなかったのだ。
だが……星喰み本体はお主らが精霊へと帰し、憎悪は我が子孫が空間の狭間へと連れて行った……星喰みを滅する為だけに生き長らえてきたと言うのに……何とも不甲斐ないものだ」
自身を蔑むように、酷く沈んだ声で、彼はそう告げた
悔しそうに唇を噛みながら、彼は項垂れる
ただ星喰みを倒す事のみを目的に、たった一人ここで生き続けてきた彼にとって、本体を倒されることも、憎悪を子孫が空間の狭間へと連れて行ったことも、全てが予想外だったのだろう
そもそも憎悪に至っては、彼一人でどうにかできる範疇をゆうに超えてしまっていた
仮にユーリ達よりも先に彼が動いていたとしても、星喰みの本体さえ倒せたかどうかが怪しいが……
「……わたしが、言えることではないのかもしれませんが……あなたは何も、悪くないと思います」
項垂れたレグルスに、エステルは静かに声を掛ける
ゆっくりと顔を上げ、彼はエステルを見つめた
「元々の原因を作ったのは、わたしの祖先です。あなたの話を聞こうともしなかった……満月の子が原因です。だから…………ごめんなさい」
そう言って、エステルは頭を下げる
レグルスにとって、それは予想もしてなかった行動だった
彼女自身には関係ない、過去の話であるのに自分に対して頭を下げる少女に、驚きを隠せずにいた
「……お主が謝る事ではない。気にするな。これは、我自身の問題なのだ。……だが、礼を言おう、満月の子よ。奴の子孫からではあるが……千年掛かって、ようやく……その言葉が聞けた」
本当は、満月の子の初代皇帝からその言葉を聞きたかったのであろう
頑なにその言葉を彼は口にしなかったが……千年経って、彼の子孫からその言葉を聞けた
それだけで、レグルスは少し救われた気持ちになっていた
頭を上げたエステルの目には、心のつかえが取れたかのように微笑むレグルスの顔が映った
「…さて、他に何かあるか?」
そう言ったレグルス声は、先程までとは少し違い、ほんの少し優しさも含んだものへと変わっていた
「…いや、今は取り敢えずこのくらいでいい」
レグルスの問にユーリは首を横に振った
「そうだね…宝刀の事、レグルスさんの事…それに、星暦の本当の姿も聞けたことだし」
ユーリの答えに、フレンも同意するように頷いた
「流石に情報量が多すぎるわ……カロルとパティなんて、話についていけてるわけ?」
先程から全く喋らなくなった二人の方を見ながら、リタは言う
「…ボク……もう、限界………」
「むむ……?何がなんだかさっぱりなのじゃ」
カロルは机に突っ伏し、パティは首を傾げているのがリタの目に入る
やっぱりか…と呟きながら、大きくため息をついた
「ふむ……我から伝えなくてはならない事もあるのだが……少し休息するとしようか」
レグルスはそう言って立ち上がる
「いや、続けてくれ。この二人には後でオレが説明する」
立ち上がったレグルスをユーリが静止するが、彼は首を横に振った
「休息は取った方がいい。お主らも今の情報を少しでも整理したいだろう?……それに、お主にまた無理をさせれば、我がアリシアから怒られかねぬ」
「それもそうさねぇ……ただでさえ大将、殆ど休まずアリシアちゃん探してた訳だし……休めって言われてんのに休ませなかったら、俺らにまで飛び火しそうよねぇ」
立ち上がり、頭の後ろで手を組みながら、レイヴンはユーリを見る
「あら、それは困るわ。彼の言う通り、一度休みましょ」
クスッと笑いながら、ジュディスは立ち上がる
「さんせ〜……ボクも休みたい……」
「うちもなのじゃ…」
ジュディスに続いてカロルとパティも立ち上がる
「あたしも今の話、少しでもいいから整理したいわ」
「えぇ、そうですね。……正直、わたしもこれ以上は……」
リタとエステルも立ち上がり、残ったのはユーリとフレンの二人だけだった
「……ユーリ、皆もこう言っているんだ。少し休もう」
そう言ってフレンは立ち上がると、隣に座っていたユーリに手を差し出す
納得いかなさそうに不機嫌な表情を浮かべていたユーリだが、今はこれ以上レグルスも話しそうにないのを悟り、渋々フレンの手を取り立ち上がった
「二時間後にまたこの部屋に来るがよい。……あぁ、屋敷は元の状態に戻っているから、後ろの扉を出た先に幾つか部屋がある筈だ。好きに使ってくれ」
そう言って、レグルスはユーリ達の後ろにある扉を指す
「では、また」
短くそう告げ、彼は自身の後ろにあった扉の中へと姿を消した
「…僕らも行こうか」
中々動こうとしないユーリの手を引きながら、フレンは入ってきた時と同じ扉へと向かう
「お、おい、フレン…っ!」
そこから動きたくなかったのか、あるいは手を引かれるのが嫌なのか、ユーリは足を止め引かれている手を振りほどこうとする
「はいはい、いーからユーリ、さっさと歩きなさいな」
「ほら、行きましょ?」
が、抵抗も虚しく、レイヴンとジュディスに後ろから押され、三人に連行されるかのように扉の外へと出されてしまった
その後をラピードが着いて行った
「ったく……あのアリシアバカ……表情筋とあの無駄に高かった察する能力、この一年でどっかに捨ててきたのかしら」
先に出て行った四人の背を見ながら、リタは大きくため息をついた
「ユーリを休ませる為に、ボクとパティ疲れたフリしたのにね」
先程とは一変、至って元気な声でカロルはそう言ってパティを見た
「うむ。ユーリが不安がって無理してた事くらい、うちにもわかるのじゃ」
ムスッとほんと少し怒り気味に頬を膨らまし、パティもユーリ達が出て行った扉を見つめていた
「ここに着いてから、ユーリがずっと不安そうにしてたこと、やっぱりみんなも気づいてたんですね」
エステルはそう言って、三人の顔を見た
パティ同様リタとカロルもほんの少し怒りの表情を浮かべていた
「そりゃわかるわよ。アリシアとフレン程じゃないけど、あたしらだって付き合い長いんだから」
「全くもう……無理しないって言ったのに…」
ムスッと頬を膨らませて、カロルはそう呟く
「全く、あんな顔してて隠せてるつもりでいたのが不思議だわ」
「全然隠せてなかったですよね」
困ったように笑って肩を竦めながら、隣で腕を組んで怒っているリタを、エステルは見た
「とりあえず、ユーリの事はフレン達に任せて、うちらも休みに行かんかの?」
パティの提案に三人は頷き、残っていた四人も部屋を後にした
扉の外は先程までの何もない長い廊下ではなく、幾つかの扉のある普通の廊下に戻っていた
先程までいた部屋のすぐ側の部屋に、フレン達四人と一匹はいた
「っ……!おい、こらフレン…っ!」
部屋の中にはベッドが三つと中央に丸いテーブルと椅子が三脚あり、ベッド内の一つにユーリは無理やり座らされていた
そのユーリの足元でラピードは伏せる
「はぁ……ユーリ、さっきから君が無理している事、皆が気づいていないとでも思っていたのかい?」
大きくため息をつきながら、フレンは目の前に座らせた幼馴染に問いかける
ピクッとユーリの肩がほんの少し反応した
「あらら……気づいてないって思われてたわけね」
苦笑いしながらレイヴンは頭の後ろで手を組んだ
「心外ね。それに気づかない程鈍感じゃないわよ、私たち」
胸元に右手を当てながら、ジュディスはユーリを見た
「……悪かったな、隠すのが下手で」
プイッとそっぽを向きながらユーリはぶっきらぼうに答えた
「別に隠せとは言ってないじゃないのよ。おっさん達は、無理すんなって言ってんのよ」
レイヴンは中央にある椅子を一脚手に取り、ユーリの側まで来るとその椅子に腰掛けた
「んで?さっきから何無理してんのよ?」
両膝の上に肘を置いて手を組みながら、レイヴンはユーリを見つめた
全く話す気がないのか、そっぽを向いたままユーリは口を閉ざしていた
「あらおじ様、そんなの聞かなくてもわかるでしょ?」
レイヴン同様、椅子をユーリの側まで持ってきて腰掛けたジュディスはニコッと笑いながら、隣にいる彼を見る
「アリシアの身体の事が気になって気になって仕方がないのよ」
「な……っ!?!!」
クスクスと笑いながら言ったジュディスの言葉に、流石のユーリも反応した
驚いた表情で、彼はジュディスを見つめた
「おろ、正解みたいね、ジュディスちゃん
……ま、そんなとこだろうとは思ってたけどねぇ」
ケタケタと笑いながら言うレイヴンを、ユーリは若干睨む
「全く、君って奴は……」
呆れた様な顔をして、フレンはユーリの隣に腰掛けた
「レグルスさんがここへ来いと言って以来、ずっと様子がおかしかったんだから、わからないわけないだろ?」
そう言ってフレンはジト目で幼馴染を見つめる
「………悪かったって」
ほんの少しバツが悪そうな声で、ユーリは再び同じ言葉を口にした
下手に声を出したら自分の中で何かが切れてしまうような気がして、それ以上何も言えなかったのだ
「ホント、ユーリはアリシアちゃんのこと好きよねえ」
どこか微笑ましそうに笑いながら、レイヴンはそう口にする
「ふふ、そうね。彼女も結構わかりやすかったけれど、今のユーリの方がわかりやすいわね」
レイヴン同様ジュディスもまた、微笑ましそうにそう言って笑う
「二人とも…僕の前でそれを言わないでくれ」
今度はフレンが不機嫌になりながら、目の前に座る二人を見た
「あら、脈ナシだって分かりきってるのにまだ諦めていないの?」
意地悪げに言ったジュディスの言葉に、フレンはグッと喉を鳴らした
「フレンちゃんも諦め悪いわねぇ……ユーリがアリシアちゃんの事思ってるのと同じくらい、アリシアちゃんだってユーリが好きなのにねえ」
茶化すようにレイヴンが言うと、フレンの顔がほんのりと赤く染まる
「レ、レイヴンさん!!」
「ははっ、すまんすまん。……でもよユーリ、いっくら心配でも、それで無理すんのはどうかと思うわけよ?」
先程までの笑顔を崩し、真剣な眼差しで、レイヴンはユーリを見つめた
「おじ様の言う通りよ。ただでさえ、今まで無理してきたんだから、これ以上無理をしない方がいいわ」
ジュディスもまた、真剣な目で彼を見る
そんな二人の視線が痛かったのか、ユーリは大きく息を吐いて項垂れた
「……んなこと、わかってるって…」
聞き取れるか危ういほど、小さな声でそう口にした
「…いや、わかってないね。僕が帝都で言った言葉も、さっき扉の前で話したことも、ちゃんと受け止めていないだろ」
少しキツめの口調でフレンは話し出す
「ユーリ、不安がってるのが君だけだと思うな。……僕ら皆そうだ」
ゆっくりと、静かにフレンは言う
「皆、不安で不安で仕方がないんだ。僕らは君みたいに、空間の狭間にいるアリシアの姿だって見ていないんだ。今、彼女がどうゆう状態なのか全くわからない……不安に思わない訳ないだろ?」
ユーリがゆっくり顔を上げると、目に映ったのは不安げな表情を浮かべた三人だった
「それでも、僕らが何も言わなかったのは……君が誰よりも一番不安なのをわかっているからだ。エステリーゼ様もリタも、カロルもパティも……皆それをわかってる。わかっているから、普段通りにしようとしていたんだ」
不安に思っているのは自分だけ……心の中でどこかそう思っていたユーリは驚いた表情で三人を見る
「……なんで……」
「なんでって、そりゃねぇ……俺らまで不安そうにしたら、ユーリ、もっと無茶しようとするでしょ?」
困ったように眉を下げながらレイヴンは首を傾げた
今までの彼を見ていれば、仲間も不安そうにしていれば、自分が頑張らねばと無理無茶をしようとするのは容易に想像ができていた
それが、自分がもっとも大切な人が関わっていることなら尚更だ
「あなたに何かあれば、アリシアが悲しむわ。……あなた、彼女を悲しませたいのかしら?」
ジュディスはそう言ってユーリを見つめる
「……はは…っ、敵わねぇな……」
自嘲気味に笑いながら、ユーリは頭を掻いた
この三人には、到底敵わなさそうだ
「全部お前らの言う通りだ。……そんなにわかりやすかったかねぇ……」
そう言って、ユーリは天井を見上げた
そうでもしないと泣きそうなのがバレてしまいそうだったからだ
「全部表情に出てたぞ。それで隠せてるって思ってるのが不思議なくらいにね」
「……うっせーよ、フレン」
チラッと横目で見た金髪の幼馴染は、また呆れた表情で自身を見つめてきていた
「ふふ、フレンの言う通りね。あのリタだって気づいていたくらいだもの」
クスッと笑いながら言ったジュディスに、ユーリは再び、うっせーよ、と返した
「…それと、おっさんが言えた事じゃないかもしれんけどさ〜……そんなに無理して泣きそうなの誤魔化す必要もないんじゃない?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべながらレイヴンはユーリに言った
「んな……っ?!!」
驚いてレイヴンの方を見たが、失敗だったと気づいたのは、彼に顔を向けてからだった
ほんのりと赤くなった目と薄らと溜まって涙を見たレイヴンが、あらら、と小さく呟いて苦笑いした
「だいぶ前から声震えてるなー、とは思ってたんだけれども……やっぱりねぇ…」
そう言って椅子から立ち上がり、フレンと反対側のユーリの隣に腰掛けると、左手をユーリの頭に乗せた
「そんなに心配しなくとも平気だって。……アリシアちゃんはちゃんと帰って来るわよ」
幼子をあやす様に頭を撫でながら、優しくそう伝える
自分の言葉が、少しでも彼の心に届くように願って
「そうね。確かに私たちに心配掛けることは多いけれど……彼女は強い子だから、きっと大丈夫よ」
そう言ってジュディスは立ち上がってユーリに近づくと、彼の前でしゃがんでレイヴンと同じく頭を撫でた
「……っ!……勘弁してくれって……っ」
そう呟いたユーリの声は震えていた
普段であれば振り払っていたであろう自身の頭を撫でる手も振り払わず、ただ俯いて、右手を額に当てた
泣いている姿なんて見られたくないと思いながらも、意思に反して涙が頬を伝った
「全く……君は本当に、アリシアの事となると弱くなるな」
苦笑いしながら、フレンはユーリの背に右手を添える
「二人の言う通りだ。……心配しすぎなくても大丈夫だ」
優しくそう告げてユーリの背を撫でた
今度こそ、自分の言葉が彼に届くように
自分も好いている赤髪の幼馴染の代わりに、黒髪の幼馴染に少しでも寄り添えるように
「……っ……ホント…っ……勘弁してくれ……っ……!」
溢れる涙は止まらなくて、せめてもと声を押し殺す
泣いている姿を見られたくない、などという気持ちは、今まで積み重ねていた不安に押し潰されていた
一分一秒でも早く、彼女に会いたいという気持ちの裏に、常に多くの不安が付き纏っていた
彼女に忘れられていたら?
記憶が欠けていたら?
新しい身体はどんな状態なのか?
以前よりエアルに弱くなっていたら?
…不安をあげればキリがない
それでも、いつも通りに振舞っているつもりだった
仲間達にこれ以上休めと言われたくなくて
不安に思ってる事など悟られたくなくて
悟られてしまって、彼らまで不安にさせたくなくて
だが、全くいつも通りになんて振舞えてなかった
彼らは気づいていたし、そんな彼を気遣っていた
ユーリがそう気づいたのは、三人に撫でられてからだ
アリシア同様、自分も心配されているのだと、ようやく理解できた
自身を撫でる手を振り払うこともせず、暫く涙を流し続けた