第4部~星暦の行方と再会そして…~
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ー数時間後ー
「…………」
目を覚ましたユーリはゆっくりと体を起こす
ゆっくりと辺りを見回すが、部屋には誰も居らず、明かりも消されていた
すっかり日も落ち、月明かりだけが部屋を照らしている
フレンを探しに行こうと、ベットから降りようとした時、ガチャっと音を立てて扉が開いた
「…あぁ、ユーリ、起きたのかい」
部屋に入ってきたのはここの主であるフレンだ
「…おう。あれからどんだけたった?」
「見ての通り、もう夜だよ。今日予定されていた会議は明日に先送りになった」
そう言いながら、フレンはベッドの縁に座っているユーリの隣に腰を下ろした
「…うん、よく眠れたみたいだね」
ユーリの目元を見ながら、フレンは安堵の息を吐いた
「悪ぃ、心配かけた」
「そう思うのであれば、今後はちゃんと寝てくれ。エステリーゼ様とリタを宥めるの、大変だったんだぞ?」
彼によると、心配したエステルが部屋に押し入り、何度も治癒術を使おうとして、止めるのが大変だったらしい
そんなエステルを見て、怒りが頂点に達したリタがユーリ目掛けてファイヤーボールを打とうとしているのを、レイヴンやカロルが必死に止めていた、と
「…悪かったよ」
「まぁ、リタに一発殴られるくらいは覚悟しておきなよ」
「あいつの場合、殴るよりもファイヤーボールが飛んできそうだわ…」
大きくため息をつきながらユーリは肩を落とした
元々自分が悪いことは百も承知だったが、そこまで怒っているリタのファイヤーボールを受けでもすれば、自身の命が危ない
「それはないと思うけど…そうなったら止めてあげるよ」
苦笑いを浮かべながらフレンは答える
流石のフレンもリタのファイヤーボールは危険だと判断したようだ
「とりあえず、今日のところはもう一度寝たらどうだい?ここのベッド、使って構わないからさ」
「……あぁ、そうだな」
そう短く答えると、ユーリは再び横になった
今寝ればもしかしたら、また彼女の声が聞こえるかもしれないと、ほんの少し期待しながら目を閉じる
すると、再び聞き慣れた声の歌が聞こえてくる
心地よい歌を聞きながら、ユーリは意識を手放した
ー翌日ー
「…んで?ちゃんと眠れたわけ?」
翌朝、どうやら他のメンバーも城に泊まって居たようで、全員が食堂に集まっていた
食堂に入ってきたユーリを見るなり、リタは問いかけた
「あぁ。……心配かけて悪かった」
彼女の問いにユーリはそう返した
「ユーリまで倒れたら元も子もないんだから、これからはちゃんと寝てよね」
ムスッと頬を膨らませながら、カロルはユーリを見つめる
「わかってるよ…しっかり寝るよ」
苦笑いしながら、ユーリはそう答える
「さぁ、ユーリも朝食を食べましょう?」
「食べ終わったら、昨日出来なかった会議の続きをやるそうよ」
そう言いながら、エステルとジュディスが手招きする
「おぅ」
たったひと言そう答え、ユーリも席につき、出された朝食に手をつけた
まともに食事を取ったのはいつぶりだろうか?
「…食べ物が喉も通らないって感じじゃなさそーでおっさん安心したわ」
傍に座っていたレイヴンは薄らと微笑みながらユーリを見る
「別に食いたくなかったわけじゃねーって。飯食ってる時間も惜しかっただけで…」
「どんなに焦っていても、食事だけはしっかり取らんと、まともな判断が出来なくなっていくのじゃ。もし今度しっかりと食事を取らないのであれば、ウチがユーリに食べさせてあげるのじゃ!」
どこか嬉しそうにニコニコと笑いながら、パティは言う
「あら、いいわねそれ」
「そうね。アリシアが知ったら、全員揃って怒られそうだけど…ユーリが全く食事取らなくなるよりはいいでしょ」
パティの提案にニコッと笑いながらジュディスとリタは賛成した
「おいおい…それは勘弁してくれって」
そんな二人にユーリは苦笑いした
「ならしっかり食べるんだな」
「へいへい…わーったよ」
そんな会話をしながらユーリ達は朝食を食べた
「さて…そろそろ会議室に行こうか」
朝食を食べ終わった後、食堂でしばらく談笑していた彼らに、フレンがそう声をかける
「…だな」
ユーリはそう言うと立ち上がり、扉の方へと足を進めた
その後に続くように他のメンバーも食堂を後にして行く
会議室まではさほど距離はなく、数分もしない内に辿り着く
ユーリ達が中に入ると、来ることがわかっていたのか、既にヨーデルが席に着いていた
「おはようございます、皆さん」
「ヨーデル陛下…?!もう来ていらしたんですか?!全員が会議室に集合したらお迎えに上がるとお伝えしたはずでしたが…」
先に会議室内にいたヨーデルに対し、フレンは慌てて彼の元へ寄った
「それでは直ぐに話し合いが始められないでしょう?私もつい先程着いたばかりですから」
ニコリと微笑みながらヨーデルはフレンにそう返した
言いたいことはあるが、この方に何を言っても、そんな些細なこと、と軽くあしらわれるのが目に見えているからか、フレンはそれ以上何も言わず、ヨーデルに一礼すると、昨日と同じ場所に腰をかける
それに倣うように他の面々もヨーデルに一礼してから、昨日と同じ場所にそれぞれ腰を下ろした
「さて…では、昨日の話の続きから始めましょうか」
そう言うと、ヨーデルはユーリの方へと顔を向ける
「昨日お伝えした通り、イフリートがアリシアさんの気配をアスピオ付近で感じています。…それは、ユーリさんも同じ、なんですよね?」
「…あぁ、そうだな」
ヨーデルの問にユーリは短く返す
「イフリートによると、彼女の気配は常に動いているそうです。…ですが、闇雲に動いている、という訳ではないそうなのです」
「どういう事だ?」
ほんの少し首を傾げてユーリは聞き返す
「彼女の気配は同じ場所をぐるぐると回っている様なのです」
「同じ場所…ですか?」
「はい。イフリートも半年ほど前から薄らとはアリシアの気配を感じていたみたいなんです。…そして、気配が感じられる場所は全部で十箇所。アスピオ跡地、御剣の階梯、ザウデ不落宮、レレウィーゼ、エレアルーミン、フェローの岩場、ゾフェル氷刃海、ケーブモック大森林、テムザ山山頂……そして、ユルゾレア大陸……この十箇所をぐるぐると回っているみたいなんです」
フレンの問に答えたのはエステルだった
「ユーリさんが探していたのも、この辺りでしたか?」
「…あぁ、そうだな」
またも彼の問にユーリは短く、そう返す
「星暦に関連してる場所が結構あるわな」
ポツリとレイヴンが呟く
「あら、始祖の隷長繋がりの場所も多いわよ?」
レイヴンの呟きにジュディスが反応する
「気になるのはエアルクレーネがある場所にもあの子の気配が感じられてることね」
顎に手を当てながらリタは少し俯く
「む?なんで気になるのじゃ?」
「今エステルが言ったゾフェル氷刃海のエアルクレーネ、ケーブモック大森林のエアルクレーネ、そして枯れていたはずのフェローの岩場のエアルクレーネ…この三箇所は最近、エアルクレーネの暴走が激しいのよ」
少し困った顔をしてリタはそう告げる
「あれ…?フェローの岩場のエアルクレーネって、随分昔に枯れたから、あんな砂漠が出来たんじゃないの?」
そう言ってカロルは首を傾げる
フェローの岩場にあったエアルクレーネは大昔に枯渇し、もう蘇ることはない…一年半前、彼らはイフリートからそう聞いていたのだ
「それが一年前、急にエアルクレーネが復活したのよ。お陰であの辺一帯の気候がめちゃくちゃ。マンタイクも、つい最近までは人が住んでたけど…今じゃ人が住める状態じゃないのよ」
リタの答えにエステルとヨーデル、ユーリ以外が驚いた
それほどの事が起こっているなど、誰も予想などしていなかった
「他の二箇所もそう。ゾフェル氷刃海は元々周りに人里もないから多少気候が荒れても問題ないけど…」
「問題はケーブモック大森林の方だわなぁ…あっこは近くにダングレストがある。最近、妙に魔物の数が増えてるとは思っちゃいたが…まさかあそこのエアルクレーネがまた暴走してるなんてね」
はぁ…っと大きくため息をつき、レイヴンは頭を抱えた
気候変動が起こるのも問題だが、それと同じくらい、魔物の被害も問題だ
既に何度か魔物の襲撃を受けているし、魔狩りの剣や天を射る矢などの戦闘を中心としたギルドが、街を守るためにケーブモック大森林まで狩りに行くことが増えていた
「エアルクレーネの近くにアリシアの気配が感じられるのも気になるけど…後の二箇所の方も気になるね」
「えぇ、それは私も思っていて…」
そう言いながらエステルは地図を取り出す
「テムザ山ははっきりと山頂から気配が感じられるそうなのですが…ユルゾレア大陸の方は、ざっくりとこの大陸のどこか、としかわからないそうなんです」
そう言って地図の左上、温泉郷ユウマンジュのある大陸に印をつける
「こんなに広い範囲なんだ…」
「むむ…これは…もう少し狭められないと見つけられなさそうなのじゃ…」
地図をじっと見つめながらカロルとパティは頭を抱える
「…ユルゾレア大陸の気配が固定されてねぇのは、あの辺は濃い霧に覆われてるからだろうな」
ここまでずっと沈黙していたユーリがゆっくりと口を開く
「濃い霧…?」
「あぁ。…あの辺には大昔、レレウィーゼの星暦の里がめちゃくちゃにされた後に作られた、もう一つの里があったらしい。んで、一族以外の部外者を里に入れさせないように張られた結界が今も生きてるんだと」
「ちょっと待って…!あんた、そんな話どこで…!!」
ユーリの話を遮るように、リタは声を上げる
それを聞きたいのはリタだけではない
他の面々もそう思っていた
何故彼がそんな事を知っているのか、それが気にならない者はいなかった
「……レグルスが、そう言ってたんだよ」
少しバツが悪そうにユーリは答える
「レグルスって…星暦の初代当主…ですよね?でも彼は…」
「一年半前のあの日、彼女達と共に消えた…その筈よね?」
じっと見つめてくる仲間達にユーリは大きくため息をつく
そして白雷にそっと手を触れる
「っつーわけで、いい加減説明して貰いたいんですがね?」
そう上を向いて声をかける
するとどこからともなく、声が辺りに響く
『ふむ……確かにそろそろ説明が必要か』
その声はあの日、タルカロンの頂上で聞いた声であった
「な、、なんで…?!だって、あの時…!アリシアと一緒に、き、消えた筈じゃ…!?」
半分怯えた声でリタは辺りを見回す
皆リタと気持ちは同じだった
あの日、確かにアリシアは星達と共に星喰みの憎悪を自ら諸共、消し去っていた
その中には当然、彼もいた
確かに黒雷に宿っていたはずなのに、と
「…貴方が、星暦の初代当主殿、なのですね」
どこから聞こえたかもわからぬ声に、ヨーデルは驚いた素振りも見せずに話しかける
『…いかにも。我こそが星暦の初代当主、レグルスである、満月の子の新たな皇帝よ』
「…では、貴方がユーリさんに無理をさせてた張本人、で、間違いないですね?」
ニコッと何処か威圧とも取れる笑みを浮かべながら、ヨーデルは聞き返す
「よ、ヨーデル様、何を…?!」
『ふむ…気づいておったのか』
悪びれることもなく、何処か関心したようにレグルスは答える
「ユーリさんは、何も考えずに感情だけで無闇矢鱈に動く方ではありませんから。唆した誰かが居るのでは、と昨日から思っておりましたので」
「えっと…ユーリ、どういう事ですか…?」
おずおずとエステルはユーリに問いかけるが、本人は答える気がないようで、ふっと顔を背ける
『昨日、この者は白雷を通じてアリシアの会話を聞いたから、彼女を探し回ったと言っていたが…それは動機の半分に過ぎない』
「あら、ならもう半分はなんなのかしら?」
『…我がこやつに頼んだのだ。探してやって欲しい、と』
「ユーリ…?!!」
フレンはそう幼馴染の名前を叫ぶと、ガタッと大きな音を立てて立ち上がる
未だにこちらを見ない彼の元へ向かうと、その両肩を掴み大きく揺さぶる
「何故昨日黙っていたんだ!?」
そう詰め寄るが、依然ユーリは口を開かない
『本来であれば、昨日の会議の際に我の方からお主達に声をかけるつもりだったのだ。それを遮ったのはそなた…フレン、と言ったか?お前であるぞ』
レグルスの答えに一瞬なんの事かと思ったフレンだか、昨日、寝ていなかったユーリを寝かす為に会議を中断させたのは他でもない、フレン本人だった
言われてみれば、確かにユーリが何か言おうとしていたような気がしないでもない
そう気づいたフレンはユーリの肩から手を退ける
「ですが、元はと言えば、貴方がユーリさんに彼女を探すこと頼んだから、彼は無理をして探し回っていたのですよね?」
ヨーデルはレグルスを容赦なく問い詰める
確かに頼んだのはレグルスかもしれないが、彼とてここまで休まないなどとは夢にも思わなかっただろう
『……まさかここまでするとは思わなかったのだ。…いや、これは言い訳だな。我が休むよう伝えればよかったのだ。…すまなかった』
レグルスはあっさりと自分の非を認め、ユーリに謝罪の言葉をかける
「…いや、体調管理ができてなかったのはオレが悪かった。あんたが謝る必要はねーよ」
ユーリは再びゆっくりと口を開く
滅多に出てこない自分の非を認める言葉に、フレンは少し驚いた
「んで?いい加減、なんであんただけ残ってるのか、話して欲しいんっすけどね」
『…あぁ、その為にこうして言葉を交わしているのだ』
レグルスはそう言うと大きく息って吐く
そして、静かに語り始めた
『…あの時、我も黒雷に力と魂を宿したが、どうも星喰みの憎悪は我の事が気に食わなかったのか…いや、あるいは始祖の隷長の時の記憶が微かに残っていたのか、真意は定かではないが、奴は我を拒絶したのだ』
「拒絶…?」
『左様だ。拒絶された我は黒雷から魂と力事追い出された。…それさえなければ、アリシアがあの場で消えることもなかったのだ』
レグルスのその一言に、全員が絶句した
つまるところ、彼女は本来、消えるはずがなかったのだ
『我が拒絶されたのは、我も含め、全員が想定外だった。…結果、憎悪を完全に消しきることもできず、空間の狭間に留まる結果となってしまった』
「…なによ、空間の狭間…って…」
聞き慣れない言葉に、リタはゆっくりと聞き返す
『フェローの岩場でお主達は見ただろう?過去の姿を残したままの里を。フェローが作り出したものではあるが、あれがあったのも空間の狭間。我ら星暦が星になった際に行き着く場所だ。…まぁ、本来であれば暗く、なにもない空間ではあるがな』
「何も無い、空間……アリシアは今、そんなところにいるのですね…」
エステルはぎゅっと胸の前で手を握る
『…我とて彼女をいつまでもそんな空間に置いておくつもりはない。ただ、我だけでは、あの子は救えぬ。彼女を救うには、新たな体と分離して行った力を集める必要がある』
「なんか、ものすごく無茶なこと言ってなーい?」
「じゃの…新しい体なんて、一体どうやって用意すればいいのじゃ?」
レイヴンとパティは腕を組んで首を傾げる
『体の方は問題ない。我の方で準備をしている。…お主達には分離した力を集めて欲しいのだ』
「準備してるって…サラッととんでもない事言うわね」
おー怖っ、とでも言いたげにレイヴンは身震いする
「分離した力を集めるって…それだってどうしたらいいんだろ」
うーん、と腕を組んでカロルは唸る
『何、そう難しいことではない。彼女の気配が感じられた場所へ行き、そやつが持っている白雷…それに力を宿すだけでいい』
「あんたオレにもそう言ったけどな?シアの気配があった所に行っても、何もなかったじゃねーか」
ユーリはそう言って白雷を睨みつける
すでに同じことを彼に言われ、その為に一人で行動していたのに…とでも言いたげにユーリは白雷を見つめる
『それはタイミングの問題だ。お主がついた時にはいつも反応が消えていたであろう?白雷が反応している時であれば必ず変化が起きるはずだ』
レグルスは少し呆れたように答える
「つまり…白雷の反応がある時にその場にいれば、力を宿すことができる…と?」
『あぁ、その通りだ』
「じゃ、まずは白雷の反応がある場所を探しましょ」
ジュディスがそう言うと、皆頷き立ち上がる
「もう行かれますか?」
ヨーデルにそう聞かれ、ユーリ以外が顔を見合わせた
そもそも最初に会議を開くと召集をかけたのは他の誰でもない彼なのだから、まだ話したいことがあるのではないか
このまま行っては流石にまずいのでは…と皆が思っている時
「できればこのまま行きたいんだが…まだなんかあるのか?」
悪びれる素振りもなく、ユーリは彼にそう返す
「なっ…!?ユ、ユーリ!」
仲間に話かけるような口調でヨーデルに話しかけるユーリをフレンが咎めようとする
そんなフレンに手を伸ばしヨーデルは首を横に振る
「いいんですよフレン。こうなることはわかっていましたから。あなたも、早く彼女を助けたいでしょう?…私から一つだけ、彼女に伝えて欲しいことがあります」
ヨーデルは真っ直ぐにユーリを見つめる
何かとユーリは首を傾げる
「…以前、我々に教えてくださった方法は、どうやらあなたがいなければ通じないようなので、必ず戻ってきてください。…と、そう伝えてください」
ヨーデルはそう言うとニッコリと微笑んだ
「…なんの話だ?」
「私たちからは言えません。そう言う約束ですから。…彼女が戻ってきた時に聞くのがよろしいかと」
ヨーデルはそう言って、くすくすと笑った
わけが分からず首を傾げていたユーリだったが、今はそれよりもやることがある
彼の言う通り後で本人に直接聞けばいいと気持ちを切り替える
「…んじゃ、オレらはそろそろ行くが…フレン、お前はどーする?」
そう言ってユーリはフレンを見る
今や帝国騎士団団長となった彼に、自由に行動できる時間など殆どないことはわかっている上で、ユーリは彼にどうしたいか問いかけたのだ
ユーリの問いに、フレンは口を閉ざす
開いてしまえば、立場も忘れ行きたい、と言ってしまいそうだったからだ
隊長という立場ならまだしも、今は団長なのだ
騎士団をまとめる義務がある
どう答えようか迷っていると、不意に会議室の扉がノックされた
「失礼します。フレン団長がこちらにいらっしゃると…」
そう言って入って来たのはソディアだった
部屋の中のなんとも言えない空気を感じた彼女は、入ってはまずかったかと、あわあわとあたりを見回す
そんなソディアに、ヨーデルは声をかける
「ソディア、今フレンが必要な緊急の案件はありますか?」
「え…?あ、いえ、特にはありませんが…」
そこまで言って、彼女は状況を察した
そしてヨーデルが何を言いたいのかまで悟った彼女は、フレンの方へと体を向ける
「団長、ここ最近休暇も取れていなかったですよね?今は緊急の案件もありませんし、久々に彼らと過ごされてはいかがですか?」
「ソディア…い、いやしかし…」
「暫く団長がいなくても、我々だけでなんとかなります。もちろん、緊急事態が起きましたら戻って来ていただきますが…仕事ばかりでは、体も持ちませんから」
渋るフレンに彼女はそう伝える
一年半前の彼女なら、まずこんなことは言わないだろう
この一年半で随分と柔軟な考えができるようになったものだと、ユーリはひっそりと感心していた
「…ソディアがそう言うのであれば…ヨーデル様、よろしいでしょうか?」
「私は反対しませんよ」
ニコッと笑う彼に苦笑いしつつフレンはユーリを見る
「そうゆうことだから、僕も一緒にいかせてもらうよ」
「おぅ、頼りにしてるぜ」
そう言って二人は笑い合う
「それでは行って来ます、ヨーデル」
「ええ、皆さんお気をつけて」
ヨーデルの見送りの言葉を背にして、彼らは会議室を後にした
「さてと…まずは何処から向かおうかしらねぇ…」
会議室を出てすぐにレイヴンが呟く
「一番近いのは御剣の階梯だけど…反応ある?」
そう首を傾げながらカロルはユーリを見る
「いや、今は反応がねぇな」
「むむ…ならば何処から行けばいいのか分からないの」
困ったようにパティは腕を組む
『であれば、一度、我が元へ来るが良い』
唐突にレグルスがそう声をかけてきた
「我が元へって…一体どこに行けばいいわけ?」
『…ユルゾレア大陸の東、そこまで来れば道を開こう』
そう言うと、先程まであった彼の気配が消えていく
「相変わらず、言いたいことだけ言っていなくなるわね」
ジュディスはそう言ってふふッと笑う
「星たちがみんな言いたいことだけ言って消えるの、絶対あいつのせいね」
対してリタはどこか気に食わなさそうにため息をついた
「…ま、何はともあれ、今は手がかりもねーんだ。行ってみようぜ、ユルゾレア大陸に」
ユーリの言葉に皆頷き、帝都の入り口の方へと足を向けたのだった
「…………」
目を覚ましたユーリはゆっくりと体を起こす
ゆっくりと辺りを見回すが、部屋には誰も居らず、明かりも消されていた
すっかり日も落ち、月明かりだけが部屋を照らしている
フレンを探しに行こうと、ベットから降りようとした時、ガチャっと音を立てて扉が開いた
「…あぁ、ユーリ、起きたのかい」
部屋に入ってきたのはここの主であるフレンだ
「…おう。あれからどんだけたった?」
「見ての通り、もう夜だよ。今日予定されていた会議は明日に先送りになった」
そう言いながら、フレンはベッドの縁に座っているユーリの隣に腰を下ろした
「…うん、よく眠れたみたいだね」
ユーリの目元を見ながら、フレンは安堵の息を吐いた
「悪ぃ、心配かけた」
「そう思うのであれば、今後はちゃんと寝てくれ。エステリーゼ様とリタを宥めるの、大変だったんだぞ?」
彼によると、心配したエステルが部屋に押し入り、何度も治癒術を使おうとして、止めるのが大変だったらしい
そんなエステルを見て、怒りが頂点に達したリタがユーリ目掛けてファイヤーボールを打とうとしているのを、レイヴンやカロルが必死に止めていた、と
「…悪かったよ」
「まぁ、リタに一発殴られるくらいは覚悟しておきなよ」
「あいつの場合、殴るよりもファイヤーボールが飛んできそうだわ…」
大きくため息をつきながらユーリは肩を落とした
元々自分が悪いことは百も承知だったが、そこまで怒っているリタのファイヤーボールを受けでもすれば、自身の命が危ない
「それはないと思うけど…そうなったら止めてあげるよ」
苦笑いを浮かべながらフレンは答える
流石のフレンもリタのファイヤーボールは危険だと判断したようだ
「とりあえず、今日のところはもう一度寝たらどうだい?ここのベッド、使って構わないからさ」
「……あぁ、そうだな」
そう短く答えると、ユーリは再び横になった
今寝ればもしかしたら、また彼女の声が聞こえるかもしれないと、ほんの少し期待しながら目を閉じる
すると、再び聞き慣れた声の歌が聞こえてくる
心地よい歌を聞きながら、ユーリは意識を手放した
ー翌日ー
「…んで?ちゃんと眠れたわけ?」
翌朝、どうやら他のメンバーも城に泊まって居たようで、全員が食堂に集まっていた
食堂に入ってきたユーリを見るなり、リタは問いかけた
「あぁ。……心配かけて悪かった」
彼女の問いにユーリはそう返した
「ユーリまで倒れたら元も子もないんだから、これからはちゃんと寝てよね」
ムスッと頬を膨らませながら、カロルはユーリを見つめる
「わかってるよ…しっかり寝るよ」
苦笑いしながら、ユーリはそう答える
「さぁ、ユーリも朝食を食べましょう?」
「食べ終わったら、昨日出来なかった会議の続きをやるそうよ」
そう言いながら、エステルとジュディスが手招きする
「おぅ」
たったひと言そう答え、ユーリも席につき、出された朝食に手をつけた
まともに食事を取ったのはいつぶりだろうか?
「…食べ物が喉も通らないって感じじゃなさそーでおっさん安心したわ」
傍に座っていたレイヴンは薄らと微笑みながらユーリを見る
「別に食いたくなかったわけじゃねーって。飯食ってる時間も惜しかっただけで…」
「どんなに焦っていても、食事だけはしっかり取らんと、まともな判断が出来なくなっていくのじゃ。もし今度しっかりと食事を取らないのであれば、ウチがユーリに食べさせてあげるのじゃ!」
どこか嬉しそうにニコニコと笑いながら、パティは言う
「あら、いいわねそれ」
「そうね。アリシアが知ったら、全員揃って怒られそうだけど…ユーリが全く食事取らなくなるよりはいいでしょ」
パティの提案にニコッと笑いながらジュディスとリタは賛成した
「おいおい…それは勘弁してくれって」
そんな二人にユーリは苦笑いした
「ならしっかり食べるんだな」
「へいへい…わーったよ」
そんな会話をしながらユーリ達は朝食を食べた
「さて…そろそろ会議室に行こうか」
朝食を食べ終わった後、食堂でしばらく談笑していた彼らに、フレンがそう声をかける
「…だな」
ユーリはそう言うと立ち上がり、扉の方へと足を進めた
その後に続くように他のメンバーも食堂を後にして行く
会議室まではさほど距離はなく、数分もしない内に辿り着く
ユーリ達が中に入ると、来ることがわかっていたのか、既にヨーデルが席に着いていた
「おはようございます、皆さん」
「ヨーデル陛下…?!もう来ていらしたんですか?!全員が会議室に集合したらお迎えに上がるとお伝えしたはずでしたが…」
先に会議室内にいたヨーデルに対し、フレンは慌てて彼の元へ寄った
「それでは直ぐに話し合いが始められないでしょう?私もつい先程着いたばかりですから」
ニコリと微笑みながらヨーデルはフレンにそう返した
言いたいことはあるが、この方に何を言っても、そんな些細なこと、と軽くあしらわれるのが目に見えているからか、フレンはそれ以上何も言わず、ヨーデルに一礼すると、昨日と同じ場所に腰をかける
それに倣うように他の面々もヨーデルに一礼してから、昨日と同じ場所にそれぞれ腰を下ろした
「さて…では、昨日の話の続きから始めましょうか」
そう言うと、ヨーデルはユーリの方へと顔を向ける
「昨日お伝えした通り、イフリートがアリシアさんの気配をアスピオ付近で感じています。…それは、ユーリさんも同じ、なんですよね?」
「…あぁ、そうだな」
ヨーデルの問にユーリは短く返す
「イフリートによると、彼女の気配は常に動いているそうです。…ですが、闇雲に動いている、という訳ではないそうなのです」
「どういう事だ?」
ほんの少し首を傾げてユーリは聞き返す
「彼女の気配は同じ場所をぐるぐると回っている様なのです」
「同じ場所…ですか?」
「はい。イフリートも半年ほど前から薄らとはアリシアの気配を感じていたみたいなんです。…そして、気配が感じられる場所は全部で十箇所。アスピオ跡地、御剣の階梯、ザウデ不落宮、レレウィーゼ、エレアルーミン、フェローの岩場、ゾフェル氷刃海、ケーブモック大森林、テムザ山山頂……そして、ユルゾレア大陸……この十箇所をぐるぐると回っているみたいなんです」
フレンの問に答えたのはエステルだった
「ユーリさんが探していたのも、この辺りでしたか?」
「…あぁ、そうだな」
またも彼の問にユーリは短く、そう返す
「星暦に関連してる場所が結構あるわな」
ポツリとレイヴンが呟く
「あら、始祖の隷長繋がりの場所も多いわよ?」
レイヴンの呟きにジュディスが反応する
「気になるのはエアルクレーネがある場所にもあの子の気配が感じられてることね」
顎に手を当てながらリタは少し俯く
「む?なんで気になるのじゃ?」
「今エステルが言ったゾフェル氷刃海のエアルクレーネ、ケーブモック大森林のエアルクレーネ、そして枯れていたはずのフェローの岩場のエアルクレーネ…この三箇所は最近、エアルクレーネの暴走が激しいのよ」
少し困った顔をしてリタはそう告げる
「あれ…?フェローの岩場のエアルクレーネって、随分昔に枯れたから、あんな砂漠が出来たんじゃないの?」
そう言ってカロルは首を傾げる
フェローの岩場にあったエアルクレーネは大昔に枯渇し、もう蘇ることはない…一年半前、彼らはイフリートからそう聞いていたのだ
「それが一年前、急にエアルクレーネが復活したのよ。お陰であの辺一帯の気候がめちゃくちゃ。マンタイクも、つい最近までは人が住んでたけど…今じゃ人が住める状態じゃないのよ」
リタの答えにエステルとヨーデル、ユーリ以外が驚いた
それほどの事が起こっているなど、誰も予想などしていなかった
「他の二箇所もそう。ゾフェル氷刃海は元々周りに人里もないから多少気候が荒れても問題ないけど…」
「問題はケーブモック大森林の方だわなぁ…あっこは近くにダングレストがある。最近、妙に魔物の数が増えてるとは思っちゃいたが…まさかあそこのエアルクレーネがまた暴走してるなんてね」
はぁ…っと大きくため息をつき、レイヴンは頭を抱えた
気候変動が起こるのも問題だが、それと同じくらい、魔物の被害も問題だ
既に何度か魔物の襲撃を受けているし、魔狩りの剣や天を射る矢などの戦闘を中心としたギルドが、街を守るためにケーブモック大森林まで狩りに行くことが増えていた
「エアルクレーネの近くにアリシアの気配が感じられるのも気になるけど…後の二箇所の方も気になるね」
「えぇ、それは私も思っていて…」
そう言いながらエステルは地図を取り出す
「テムザ山ははっきりと山頂から気配が感じられるそうなのですが…ユルゾレア大陸の方は、ざっくりとこの大陸のどこか、としかわからないそうなんです」
そう言って地図の左上、温泉郷ユウマンジュのある大陸に印をつける
「こんなに広い範囲なんだ…」
「むむ…これは…もう少し狭められないと見つけられなさそうなのじゃ…」
地図をじっと見つめながらカロルとパティは頭を抱える
「…ユルゾレア大陸の気配が固定されてねぇのは、あの辺は濃い霧に覆われてるからだろうな」
ここまでずっと沈黙していたユーリがゆっくりと口を開く
「濃い霧…?」
「あぁ。…あの辺には大昔、レレウィーゼの星暦の里がめちゃくちゃにされた後に作られた、もう一つの里があったらしい。んで、一族以外の部外者を里に入れさせないように張られた結界が今も生きてるんだと」
「ちょっと待って…!あんた、そんな話どこで…!!」
ユーリの話を遮るように、リタは声を上げる
それを聞きたいのはリタだけではない
他の面々もそう思っていた
何故彼がそんな事を知っているのか、それが気にならない者はいなかった
「……レグルスが、そう言ってたんだよ」
少しバツが悪そうにユーリは答える
「レグルスって…星暦の初代当主…ですよね?でも彼は…」
「一年半前のあの日、彼女達と共に消えた…その筈よね?」
じっと見つめてくる仲間達にユーリは大きくため息をつく
そして白雷にそっと手を触れる
「っつーわけで、いい加減説明して貰いたいんですがね?」
そう上を向いて声をかける
するとどこからともなく、声が辺りに響く
『ふむ……確かにそろそろ説明が必要か』
その声はあの日、タルカロンの頂上で聞いた声であった
「な、、なんで…?!だって、あの時…!アリシアと一緒に、き、消えた筈じゃ…!?」
半分怯えた声でリタは辺りを見回す
皆リタと気持ちは同じだった
あの日、確かにアリシアは星達と共に星喰みの憎悪を自ら諸共、消し去っていた
その中には当然、彼もいた
確かに黒雷に宿っていたはずなのに、と
「…貴方が、星暦の初代当主殿、なのですね」
どこから聞こえたかもわからぬ声に、ヨーデルは驚いた素振りも見せずに話しかける
『…いかにも。我こそが星暦の初代当主、レグルスである、満月の子の新たな皇帝よ』
「…では、貴方がユーリさんに無理をさせてた張本人、で、間違いないですね?」
ニコッと何処か威圧とも取れる笑みを浮かべながら、ヨーデルは聞き返す
「よ、ヨーデル様、何を…?!」
『ふむ…気づいておったのか』
悪びれることもなく、何処か関心したようにレグルスは答える
「ユーリさんは、何も考えずに感情だけで無闇矢鱈に動く方ではありませんから。唆した誰かが居るのでは、と昨日から思っておりましたので」
「えっと…ユーリ、どういう事ですか…?」
おずおずとエステルはユーリに問いかけるが、本人は答える気がないようで、ふっと顔を背ける
『昨日、この者は白雷を通じてアリシアの会話を聞いたから、彼女を探し回ったと言っていたが…それは動機の半分に過ぎない』
「あら、ならもう半分はなんなのかしら?」
『…我がこやつに頼んだのだ。探してやって欲しい、と』
「ユーリ…?!!」
フレンはそう幼馴染の名前を叫ぶと、ガタッと大きな音を立てて立ち上がる
未だにこちらを見ない彼の元へ向かうと、その両肩を掴み大きく揺さぶる
「何故昨日黙っていたんだ!?」
そう詰め寄るが、依然ユーリは口を開かない
『本来であれば、昨日の会議の際に我の方からお主達に声をかけるつもりだったのだ。それを遮ったのはそなた…フレン、と言ったか?お前であるぞ』
レグルスの答えに一瞬なんの事かと思ったフレンだか、昨日、寝ていなかったユーリを寝かす為に会議を中断させたのは他でもない、フレン本人だった
言われてみれば、確かにユーリが何か言おうとしていたような気がしないでもない
そう気づいたフレンはユーリの肩から手を退ける
「ですが、元はと言えば、貴方がユーリさんに彼女を探すこと頼んだから、彼は無理をして探し回っていたのですよね?」
ヨーデルはレグルスを容赦なく問い詰める
確かに頼んだのはレグルスかもしれないが、彼とてここまで休まないなどとは夢にも思わなかっただろう
『……まさかここまでするとは思わなかったのだ。…いや、これは言い訳だな。我が休むよう伝えればよかったのだ。…すまなかった』
レグルスはあっさりと自分の非を認め、ユーリに謝罪の言葉をかける
「…いや、体調管理ができてなかったのはオレが悪かった。あんたが謝る必要はねーよ」
ユーリは再びゆっくりと口を開く
滅多に出てこない自分の非を認める言葉に、フレンは少し驚いた
「んで?いい加減、なんであんただけ残ってるのか、話して欲しいんっすけどね」
『…あぁ、その為にこうして言葉を交わしているのだ』
レグルスはそう言うと大きく息って吐く
そして、静かに語り始めた
『…あの時、我も黒雷に力と魂を宿したが、どうも星喰みの憎悪は我の事が気に食わなかったのか…いや、あるいは始祖の隷長の時の記憶が微かに残っていたのか、真意は定かではないが、奴は我を拒絶したのだ』
「拒絶…?」
『左様だ。拒絶された我は黒雷から魂と力事追い出された。…それさえなければ、アリシアがあの場で消えることもなかったのだ』
レグルスのその一言に、全員が絶句した
つまるところ、彼女は本来、消えるはずがなかったのだ
『我が拒絶されたのは、我も含め、全員が想定外だった。…結果、憎悪を完全に消しきることもできず、空間の狭間に留まる結果となってしまった』
「…なによ、空間の狭間…って…」
聞き慣れない言葉に、リタはゆっくりと聞き返す
『フェローの岩場でお主達は見ただろう?過去の姿を残したままの里を。フェローが作り出したものではあるが、あれがあったのも空間の狭間。我ら星暦が星になった際に行き着く場所だ。…まぁ、本来であれば暗く、なにもない空間ではあるがな』
「何も無い、空間……アリシアは今、そんなところにいるのですね…」
エステルはぎゅっと胸の前で手を握る
『…我とて彼女をいつまでもそんな空間に置いておくつもりはない。ただ、我だけでは、あの子は救えぬ。彼女を救うには、新たな体と分離して行った力を集める必要がある』
「なんか、ものすごく無茶なこと言ってなーい?」
「じゃの…新しい体なんて、一体どうやって用意すればいいのじゃ?」
レイヴンとパティは腕を組んで首を傾げる
『体の方は問題ない。我の方で準備をしている。…お主達には分離した力を集めて欲しいのだ』
「準備してるって…サラッととんでもない事言うわね」
おー怖っ、とでも言いたげにレイヴンは身震いする
「分離した力を集めるって…それだってどうしたらいいんだろ」
うーん、と腕を組んでカロルは唸る
『何、そう難しいことではない。彼女の気配が感じられた場所へ行き、そやつが持っている白雷…それに力を宿すだけでいい』
「あんたオレにもそう言ったけどな?シアの気配があった所に行っても、何もなかったじゃねーか」
ユーリはそう言って白雷を睨みつける
すでに同じことを彼に言われ、その為に一人で行動していたのに…とでも言いたげにユーリは白雷を見つめる
『それはタイミングの問題だ。お主がついた時にはいつも反応が消えていたであろう?白雷が反応している時であれば必ず変化が起きるはずだ』
レグルスは少し呆れたように答える
「つまり…白雷の反応がある時にその場にいれば、力を宿すことができる…と?」
『あぁ、その通りだ』
「じゃ、まずは白雷の反応がある場所を探しましょ」
ジュディスがそう言うと、皆頷き立ち上がる
「もう行かれますか?」
ヨーデルにそう聞かれ、ユーリ以外が顔を見合わせた
そもそも最初に会議を開くと召集をかけたのは他の誰でもない彼なのだから、まだ話したいことがあるのではないか
このまま行っては流石にまずいのでは…と皆が思っている時
「できればこのまま行きたいんだが…まだなんかあるのか?」
悪びれる素振りもなく、ユーリは彼にそう返す
「なっ…!?ユ、ユーリ!」
仲間に話かけるような口調でヨーデルに話しかけるユーリをフレンが咎めようとする
そんなフレンに手を伸ばしヨーデルは首を横に振る
「いいんですよフレン。こうなることはわかっていましたから。あなたも、早く彼女を助けたいでしょう?…私から一つだけ、彼女に伝えて欲しいことがあります」
ヨーデルは真っ直ぐにユーリを見つめる
何かとユーリは首を傾げる
「…以前、我々に教えてくださった方法は、どうやらあなたがいなければ通じないようなので、必ず戻ってきてください。…と、そう伝えてください」
ヨーデルはそう言うとニッコリと微笑んだ
「…なんの話だ?」
「私たちからは言えません。そう言う約束ですから。…彼女が戻ってきた時に聞くのがよろしいかと」
ヨーデルはそう言って、くすくすと笑った
わけが分からず首を傾げていたユーリだったが、今はそれよりもやることがある
彼の言う通り後で本人に直接聞けばいいと気持ちを切り替える
「…んじゃ、オレらはそろそろ行くが…フレン、お前はどーする?」
そう言ってユーリはフレンを見る
今や帝国騎士団団長となった彼に、自由に行動できる時間など殆どないことはわかっている上で、ユーリは彼にどうしたいか問いかけたのだ
ユーリの問いに、フレンは口を閉ざす
開いてしまえば、立場も忘れ行きたい、と言ってしまいそうだったからだ
隊長という立場ならまだしも、今は団長なのだ
騎士団をまとめる義務がある
どう答えようか迷っていると、不意に会議室の扉がノックされた
「失礼します。フレン団長がこちらにいらっしゃると…」
そう言って入って来たのはソディアだった
部屋の中のなんとも言えない空気を感じた彼女は、入ってはまずかったかと、あわあわとあたりを見回す
そんなソディアに、ヨーデルは声をかける
「ソディア、今フレンが必要な緊急の案件はありますか?」
「え…?あ、いえ、特にはありませんが…」
そこまで言って、彼女は状況を察した
そしてヨーデルが何を言いたいのかまで悟った彼女は、フレンの方へと体を向ける
「団長、ここ最近休暇も取れていなかったですよね?今は緊急の案件もありませんし、久々に彼らと過ごされてはいかがですか?」
「ソディア…い、いやしかし…」
「暫く団長がいなくても、我々だけでなんとかなります。もちろん、緊急事態が起きましたら戻って来ていただきますが…仕事ばかりでは、体も持ちませんから」
渋るフレンに彼女はそう伝える
一年半前の彼女なら、まずこんなことは言わないだろう
この一年半で随分と柔軟な考えができるようになったものだと、ユーリはひっそりと感心していた
「…ソディアがそう言うのであれば…ヨーデル様、よろしいでしょうか?」
「私は反対しませんよ」
ニコッと笑う彼に苦笑いしつつフレンはユーリを見る
「そうゆうことだから、僕も一緒にいかせてもらうよ」
「おぅ、頼りにしてるぜ」
そう言って二人は笑い合う
「それでは行って来ます、ヨーデル」
「ええ、皆さんお気をつけて」
ヨーデルの見送りの言葉を背にして、彼らは会議室を後にした
「さてと…まずは何処から向かおうかしらねぇ…」
会議室を出てすぐにレイヴンが呟く
「一番近いのは御剣の階梯だけど…反応ある?」
そう首を傾げながらカロルはユーリを見る
「いや、今は反応がねぇな」
「むむ…ならば何処から行けばいいのか分からないの」
困ったようにパティは腕を組む
『であれば、一度、我が元へ来るが良い』
唐突にレグルスがそう声をかけてきた
「我が元へって…一体どこに行けばいいわけ?」
『…ユルゾレア大陸の東、そこまで来れば道を開こう』
そう言うと、先程まであった彼の気配が消えていく
「相変わらず、言いたいことだけ言っていなくなるわね」
ジュディスはそう言ってふふッと笑う
「星たちがみんな言いたいことだけ言って消えるの、絶対あいつのせいね」
対してリタはどこか気に食わなさそうにため息をついた
「…ま、何はともあれ、今は手がかりもねーんだ。行ってみようぜ、ユルゾレア大陸に」
ユーリの言葉に皆頷き、帝都の入り口の方へと足を向けたのだった
《…ナゼ、こノ者ヲ欲すル?》
《ナぜ、取り戻ソウとスル…?》
《帰っテ来ルかもワカラヌノニ、ナゼ…必死二ナレる…?》
《…何ガ、奴ラをソコまデカリたテル?》
《……ソシテなゼ…コノ者モ、諦メなイノダ…?》
《ナゼ、信頼デキル?祖先ヲ殺シた人間タチを…》
《一体なゼ…繋がリノ深イ我ラを追い詰メタ人間ヲ…信頼デキル……?》
《……我二は…理解デキヌ……》
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