第4部~星暦の行方と再会そして…~
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ーー星喰みが去ってから一年と数ヶ月ーー
あれから一年と数ヶ月が過ぎ
世界は以前と比べて大きく変化した
魔核で動いていた魔導器は、今は精霊の力で動いている
リタいわく、『魔導器』であって『魔導器』ではない、らしい
精霊が生み出す『マナ』によって動く、『別の物』だと
人間を恨んでいた始祖の隷長達から生まれた精霊達が手を貸してくれるのは、他でもない、アリシアのお陰であった
始祖の隷長との繋がりの深い、星暦という一族の生まれである彼女が、自身らが作り出してしまった憎悪により姿を消した
その瞬間を間近で彼らは見てしまったのだ
そんな罪悪感から、彼らは進んで人に手を差し伸べることを選んだ
彼女への、せめてもの償いとして…
彼女が命を落とさずとも、彼らは彼女が頼めば手を貸してくれたであろう
だが、すぐに、ということにはならなかったかもしれない
人の暮らしの発展の為に、人の手で殺された始祖の隷長達…
時代は違うとはいえ、自らを殺した人間という生きものに、幾ら数千年の付き合いのある一族の末裔が頼んだとて簡単に手を差し伸べることは無かっただろう
結果的に、『アリシア』という犠牲は人が今までと同じだけの生活を保つ為には必要だったのだ
だが、彼女が居なくなったことで弊害も出た
それは、世界各地でエアルクレーネの暴走が頻繁に起こるようになった事だ
生活に潜む、彼女が鎮めていた小さな歪みが、誰にも鎮められる事がなく、エアルクレーネにまで影響を及ぼすようになった
大気中のエアルを消費して動かす魔導器よりはエアルの消費量が緩和されているとはいえ、幾つも動かしたらそうなるのは必然のことだ
故に、ヨーデル、ハリー、ナッツは動かす魔導器の数を最小限に抑えることを決定した
当然、反発は酷かった
が、突然荒れる気候、肥大化した植物、凶暴化した魔物…
日常生活に支障が出るだけの光景を目の当たりにし、人々は魔導器の使用を控えるようになった
現在は結界魔導器や光照魔導器、武醒魔導器、水道魔導器のみの使用が許されている
一刻も早く、エアルの歪みを鎮める方法を見つけ出すのが一番の課題である
だが、世界の重鎮達や魔道士、精霊が集まりいくつもの方法を試したが、どれも失敗に終わっている
エアルの歪みを鎮められる宙の宝剣は、先の戦いで消滅した
アリシアが持っていた短剣もタルカロンと共に地に埋まってしまった
そして、残っている始祖の隷長は二体のみ
現状では歪みを鎮めることは不可能なのだ
八方塞がりの中、打開策の見えぬ会議が今日も始まろうとしていた
ヨーデルから呼ばれ、凛々の明星の面々も城へと集まっていた
星喰みを倒して以来、全員が集まるのは久しぶりであった
席には既にヨーデル、エステリーゼ、フレン、レイヴン、カロル、ジュディス、リタ、そしてパティが腰掛けていた
本来であれば、この場にはカウフマンやハリー、ナッツも居るはずだが、ヨーデルの意向により三人は後から参加する手筈となっている
到着していない一人と一匹…ユーリとラピードを、彼らは待っていた
「ったく、遅いわねぇ…あいつはいつまで待たせるつもりなのよ?!」
待つことに痺れを切らしたリタが不機嫌を隠そうともせず声を上げた
「おかしいなぁ…ちゃんと時間は伝えたんだけど…」
不安そうにカロルが扉を見つめた
彼が不安そうにしているのは、あの戦い以来、ユーリの様子があからさまにおかしいからだった
まるでそこに居るのに心だけが何処かに行ってしまったかのように遠くを見つめる事が多くなったユーリ…
そんな状態の彼が心配で心配で、カロルは仕方がないのだ
「…申し訳ありません、ヨーデル様。少々様子を見に行ってもよろしいでしょうか?」
苛立ちを覚えていたのはリタだけでなく、当然フレンもであった
至って平然を装いながらも、その笑顔からはドス黒い何かが滲み出ていた
「落ち着いて下さい、フレン。ユーリさんのことですから、もう暫くで到着するでしょう」
にっこりと笑いながら、ヨーデルはフレンを宥める
ユーリのことに関してはフレンの方が彼より多くを知っているが、彼もまた、当てずっぽうなどでそう言った訳では無い
面倒がっていても、約束は守る彼の性格を知っていたからこそ、ヨーデルはそう言ったのだ
「しかし…」
フレンが反論しよう身を乗り出した、その時だった
ギィっと音を立てて扉が開く
「あ、ユーリ!」
扉の向こうの人影を見て、エステルが嬉しそうに声を上げる
「…悪ぃ、遅くなった」
そう言いながら、彼は室内へと入ってくる
いつもの彼であればフレンも文句の一つや二つ言うのであるが、今の彼はあからさまに元気がない
元よりスラリとした体格の彼だったが、この数ヶ月で以前よりもだいぶ痩せた印象であった
目元には薄らとクマができており、ほんの少し泥の付いた服、いつも使っている愛刀…そして、それとは別に腰に一本の刀を付けていた
その横をラピードは離れまいとぴったりと並んで歩いていた
様子のおかしい彼の姿を見たフレンは口を閉ざし、ゆっくりと腰を下ろした
「さて、メンバーも揃った事ですし、会議を始めましょう」
ユーリが席に腰掛けたタイミングでヨーデルは立ち上がる
「まずは今日、凛々の明星の皆さんに集まっていただいたのには訳があります」
そう言って、ヨーデルはユーリを見つめた
「これは、エステリーゼがイフリートから得た情報ですが…つい先日、アスピオ跡地で、アリシアさんの気配を感じたそうです」
ガタッと、大きな音を立てて、ユーリが立ち上がる
見開かれた目から驚いた事が伺える
「……それ、本当なのか…?」
いつもの彼とは思えないような弱気な質問だった
「はい。ですが、移動しているのか、直ぐに感じることが出来なくなってしまったそうです」
ヨーデルが答えると、彼はゆっくりと腰を下ろした
『アリシアの気配があった』…それは、彼女が生きている可能性がある事を示していた
「でも…あの子はあの時、確かに……」
「えぇ。『消えてしまった』、と伺っています。ですが、『死んでしまった』、という報告を私は受けていません。…ユーリさんは彼女と約束をされたのでしょう?また戻ってくる、と」
首を傾げながらヨーデルはユーリを見つめる
「……あぁ」
小さく答えたユーリに、いつもの自信に満ちた声はなかった
「…ったくもう、あの子と約束したあんたが一番自信なさげでどうすんのよ」
呆れ気味にリタはユーリを見る
以前の彼ならばすぐに探しに行こうとしたはずだ
だが、今の彼からはそんな素振りは全く見られない
「なのじゃ。ユーリなら、真っ先に探しに行くっ!!と、言い出すはずなのじゃ」
不思議そうに首を傾げ、パティはじっとユーリを見つめる
「………てんだよ」
「??ユーリ、今なんて??」
「…探してんだよ、ずっと」
「ずっとって…いつから探していたのかしら?」
「……半年前…くらいか?」
小さく呟かれた言葉にその場に居る全員が驚く
ユーリであれば必ず探すであろうと思っていた者たちも、まさか半年も一人で探し続けているとは思わなかったようだ
「じ、じゃあ、最近ギルドの依頼受けてないのも、ずっとアリシアを探してたから…?!」
カロルの問いにユーリは頷く
「…ここ最近、家にほとんどいないのもかい?」
フレンの問いにも彼は頷く
「ついこの間、一人でアスピオ跡地に居たのもそういう事なわけ?」
リタの問いにも彼は頷く
「まさかとは思うけど…ユーリ、貴方ちゃんと食事取っているのかしら?」
「……一日一回くらいは」
「一日一食は少なすぎます!!もっとちゃんと食べないと体が持ちませんよ!」
「大将…まさかとは思うけど、ちゃんと寝てる?」
恐る恐るレイヴンが問いかけると、ユーリ黙ったまま項垂れる
「どうなんだい、ユーリ」
フレンがユーリをじっと見つめ問いただす
彼の威圧に観念したのか、ゆっくりとユーリは口を開く
「……あんまり寝てねぇ」
「あんまりってどのくらいだい?」
「………二日三日寝ないとかザラだし、寝ても一、二時間てい」
そう言った途端、ガタンッと大きな音を立ててフレンが立ち上がり、ズカズカとユーリに歩み寄る
そしてユーリの腕を掴むと無理矢理立ち上がらせ会議室から出ようとする
「お、おい!フレン!!何すんだよ!!」
「ラピードが全く君の傍から離れない理由が良くわかったよ。そんな状態じゃ正常な判断が出来る訳がない。どうせ無茶苦茶して、ラピードに心配かけたんだろ?」
キツい口調でフレンは問いかける
フレンの言った通りだったのか、ユーリは気まづそうに口を閉ざ顔を逸らす
「…とりあえず、今は説教はしない。どうしてそんな無茶をしたのかも聞かない。とにかく休むんだ」
「…………ねぇだろ」
「会議の内容なら後で知らせ」
「シアが関係してる会議なのに休んでられるわけねぇだろ!!!」
唐突にそう叫ぶと、ユーリはフレンの手を思い切り振り払う
「…約束したんだよ、あいつと。ぜってぇ見つけてやるって。迎えに行くって。休んでなんてられねぇだろ…!!」
フレンを睨みつけながらユーリはそう告げる
絶対にこの場から動かないと言わんばかりの目に、フレンは思わずため息をつく
彼が彼女のことを何よりも大切にしてるのは知っていたが、今はあまりにも無理をしすぎている
仲間たちはどうにかしてユーリを休ませたい気持ちであった
「約束してるのは知ってるわよ。でも、そんなに無理して探して、アリシアが喜ぶって本気で思ってるわけ?」
「アリシアが今のユーリを見たらきっと怒りますよ?なんでこんなになるまで休まなかったんだって」
リタとエステルの言葉にユーリはほんの少し反応する
「怒るってよりも、あの子の事だから泣いてしまうんじゃないかしら?」
「じゃのう…シア姐は心配症じゃから、ユーリの体の心配して泣いてしまうかもしれん」
ジュディスとパティの言葉に彼は肩を竦める
「大体ねぇ、そんな状態で探し続けてみなさいよ?確実にユーリがぶっ倒れるわよ。下手したら死んじまうかもしれないのよ?」
「そうなったらアリシア、絶対自分を責めるよね…。私のせいでユーリがって」
レイヴンとカロルの言葉がトドメとなったのかすっかりとユーリは大人しくなる
誰一人として間違ったことは言っていない
むしろ正論だろう
戻って来たアリシアが今のユーリを見ればどんな反応をするか…そんなことはユーリ本人が一番良くわかっているはずだ
「ユーリ、そんなことは君が一番良く知っているだろう?」
先程とは打って変わっていつもの口調でフレンは声を掛ける
「……わかってる。………んなこと、わかってるさ」
「なら尚更だ。どうしてそんなに無理をするんだ?」
フレンの問いかけにユーリは口を閉ざしてしまう
そして自分の後ろにいる仲間をチラリと見る
その仕草でフレンは何かを察する
「とりあえず、一度寝に行こう。今の状態で会議に出続けてもいい結果は出ないぞ」
「では一度、この会議は保留としましょう。ユーリさんが居た方がいいのは事実ですから」
フレンに合わせるようにヨーデルはそう提案する
「宜しいのですか?ヨーデル様」
「ええ。イフリートによると、そんなに急がなくても大丈夫との事ですから。ユーリさんが休む時間はありますよ」
ニコリといつもの笑顔を浮かべてヨーデルは答える
フレンは一礼すると、ユーリを連れて会議室を後にする
二人の後を追いかけるようにラピードも会議室を出て行った
会議室を後にした二人と一匹はフレンの私室へとやってきた
隊長の時よりも広くなった部屋のベッドに、フレンはユーリを無理矢理座らせる
「さて、ユーリ。しばらくの間誰も来ないように伝えたから、ここなら誰にも聞かれる心配はないよ」
フレンはそう伝え、椅子を取ってくるとユーリの前に座る
「どうしたんだい?アリシアのことを一番良くわかっている君らしくない行動をして」
そう言ってフレンはじっとユーリを見つめる
彼が自ら話し出すまで、口を開かず待ち続けた
長い沈黙の後、ユーリはゆっくりと話し出す
「……丁度半年前、シアから渡された白雷がすっげー光り出したんだよ。…んで、何事かと思って触ったら、シアと星たちと…星喰みの憎悪の姿が見えたんだよ」
腰に付けていた刀を撫でながらユーリは話す
それがアリシアの刀だと、フレンはそこで気が付いた
自分の愛刀よりも大切そうに、ユーリは白雷を握る
「…初めは声は聞こえなかった。なんか喋ってるってことしかわかんなかった。…けどそれが頻繁に見えるようになって……段々声が聞こえて来るようになった。………んで、たまたま聞こえたんだよ、シアがそろそろ、こっちに戻れるって……」
そう言ってぎゅっと白雷を握りしめる
「だから…一番最初に、あいつに会うのはオレであって欲しいから…誰よりも先に会いたいから……白雷が反応する場所に手当り次第に向かった。…もし、まだ出て来られなくても、会えるかもしれねぇと思ったら、自然と足が動いてた。休まなきゃいけねぇ事だってわかってんだ……でも、休んでる間にシアが戻って来たら……って、考えちまって、休んでなんていられなかったんだよ……」
寂しげに項垂れたユーリをフレンは呆れたように見つめていた
ユーリのアリシアへの想いがこれ程まで強いとは流石のフレンも思っていなかった
しかも理由が理由なだけに呆れることしかできなかったのだ
「全く……そんな理由で無理してたってアリシアが知ったら怒るぞ?」
「………わーってるよ、んなこと……」
「ユーリ、仮に君が一番にアリシアに会えなかったとしよう。だからと言って彼女が君を嫌いになると思うかい?僕は絶対にそれはありえないと思うよ。…誰が一番に会ったとしても、君に会えた時の彼女の喜びは誰にも負けないさ」
まるで幼子をあやすかのようにフレンは喋り続ける
「彼女が君に会った時に、今の状態だったら喜びよりも心配が勝ってしまうだろ?早く見付けたい気持ちはわかったが、今は一度休むことが必要だ。……アリシアも、きっとそれを望んでる」
「………おぅ…………。わーったよ。……とりあえず、少し寝るわ…」
そう言うとユーリは二本の刀をベッドの脇に立て掛け、靴を脱ぐとフレンに背を向けて横になった
「あぁ、そうしてくれ。…僕はここで少し書類の整理をしてるから」
フレンは立ち上がって椅子を元の場所へ戻そうとする
「……フレン」
フレンに背を向けたまま、ユーリはぶっきらぼうに声を掛ける
「なんだい?」
「…サンキュな」
ひらりと手を振りながら彼はそう伝える
「どういたしまして。…おやすみ」
そう告げると、フレンは机に向かって書類の整理を始める
カリカリと紙とペンの擦れる音だけが部屋に響く
静かな部屋の中でユーリは眠る事だけに意識を集中させようとする
休むこともアリシアの為だと心の中で言い聞かせ、何とか寝ようとするが中々上手くいかない
いっそ寝たフリだけして、しばらくしたら起きようかと考え始めた時だった
『……よ、ユーリ』
「……?」
『大丈夫だよ、ユーリ』
「………!」
『まだ大丈夫。…だから、ゆっくり休んで?』
「(……シア……?)」
アリシアによく似た声がユーリの脳内に響く
そして彼女によく似た声は歌を歌い始めた
会いたいと思う気持ちからくる幻聴かと最初は戸惑うユーリだったが、聞き覚えのある歌に次第に眠気が襲い始めた
その歌は二人が眠れなかった時にシリウスが歌っていたものと同じ歌だった
その事に気が付く前にユーリは意識を手放していた
ーーー?????ーーー
『全くもう……無茶するんだから……』
光の差さない真っ暗な空間、辺りには所々水晶が生えている
その内の一つに、眠りについたユーリの姿が映し出されていた
それを見ながら、クスリと彼女は苦笑いを零す
『えぇ……ーーーーがそれ言う?』
『確かにお前が言える口ではないな』
『向こうにいた頃よりは、無茶してないもん』
背後にいるシリウス達に彼女は不服そうにそう告げる
『全く……向こうに戻れても、頼むから無茶だけはもうしないでくれよ…?』
『わかってるよ、シリウス』
心配そうにしているシリウスに向かってそう答えると、再び水晶に目を戻す
誰よりも大切で愛おしい彼の寝顔を見ながら、彼女は寂しげに微笑む
『……私も、早く会いたいよ、ユーリ』
そう言って水晶に手を伸ばす
触れることは出来ないが、せめて触れている気になれるようにと、水晶に写った彼を撫でる
『……後、もう少し、もう少しだから』
もう少しと言った彼女の声はどこか嬉しそうだった
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