第3部〜星喰みの帰還と星暦の使命〜
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最終決戦に向けて〜それぞれの思い〜
バウルに乗って私たちはノードポリカにやって来た
つい先ほどまでいたあの場所で、ギルドと帝国、両方のトップを交えての話し合いをするらしい
世界の今後について……どうしていくのか、私達のしようとしていることを話すんだと
ギルドはユニオンと戦士の殿堂に分かれているから、まずは近場のノードポリカに来たというわけだ
「承知した。じゃあ、そちらの手配が済むまで待ってるとするよ」
「はい。ありがとうございます」
事情を説明すると彼はすぐに了承して去って行った
「ナッツ、話が早くて助かるわ」
「あっさり了承したわね」
「彼は世界の移り変わりを目の当たりにしているようなものだから、囚われない心を持っているのね」
「ユニオンと戦士の殿堂ももっと仲良くなれるかな」
「なれるさ、同じギルドなんだ」
「そうですね。今はわだかまりを捨てて力を合わせるべき時ですからきっと仲良しになれます」
「のじゃ、いがみ合った後にこそ、お互いを深く知ることが出来て、真の友情が生まれるのじゃ。うちらが海の上の架け橋になるのじゃ!」
「そうだね!」
そう言ってみんなは微笑んでいた
……確かに、そうなったらきっとこの世界はもっと良くなる
本当に争いのない世界になると思う
そこまで行く道は、遠いかもしれないけど…
ノードポリカの次にダングレストにやって来た
ハリー達に話をするとあまりいい顔はされなかった
「……それで、その片田舎まででていけってのか?」
「ここではダメなのかね」
「ああ。ザーフィアスもここもダメだ」
「そういうこった。どっちにも勘ぐられないようにしないといかんのよ」
「重要な話らしいな。帝国、ギルド関係ない……」
「はん。そんなお使いみたいなマネ、オレはごめんだぜ」
「私も今ダングレストを離れたくない。ハリー。お前に任せよう」
「オレが行く」
「もう!重要な話なんだよ!そんな適当で良いの!」
「いいんだよ。ハリーがそこで判断したことに文句を言うつもりはねぇ」
「うむ」
言い方は荒いけどこれがユニオンなりの信頼の証なんだろう
「ならそれでいいさ。じゃあ天然殿下の都合がついたらまた来る」
「わかった」
「それじゃ戻ろ、なんか進展あるかもよ」
「だな。戻るか」
先程の砦に戻ると、大分町らしい姿になっていた
「……すげえな、もうこんなに……」
「短期間で町がここまで……信じられません」
「どうやら魔法じゃないみたいよ。ホレ」
レイヴンの視線の先には、ぐったりとした人々の姿があった
かなり頑張ったらしく、地べたにそのまま寝転んで寝ているようだ
「完徹で燃え尽き~、ってかんじ」
「騎士団も頑張って戦ったようね」
ジュディスの視線の先にはこれまた騎士が地べたで眠っていた
「みんなで力を合わせたらこんなことさえできちゃうんだね」
「人は、いざという、釣り糸を引くシイラのごとくすごい力を発揮するのじゃ」
「ああ、確かにこの状況を見たら、人の力って侮れねぇと思うな」
「…そうだね」
そんな話をしているとフレンとカウフマンさんがこちらに来るのが見えた
「どう?お気に召して?」
「正直、脱帽だ」
「ユーリ、どうだい?そっちの方は」
「ああ。話しつけてきた。後は殿下の都合がついたら迎えに行くと伝えてある」
「わかった。殿下にも連絡がついたよ。来ていただけることになった。船でこちらに向かわれている」
「まぁ、のんびり屋さんね。バウルにお願いして連れてくるわ。ハリーもナッツも、ね」
「いいの?バウル、怒らない?」
そんな運び屋みたいなことやりたがらないと思うんだよなぁ……
「一刻を争うんでしょう?バウルもわかってくれるわ」
「そうしてもらえると助かる」
フレンの言葉に頷くと、ジュディスは街の外へと歩いて行った
「……もう時間は残されていない」
「ついに世界の首脳陣が集まるのですね」
「後はわかってもらいるかどうかだね」
「とことん話し合ってそれでもダメなら、殴り合いなのじゃ」
「みんな色んなことを乗り越えてきた人たちです。大丈夫、きっとわかってくれます」
「ああ」
ユーリ達はそう言って頷き合った
ー数時間後ー
集まった首脳陣に今の世界の状態、そして、私達のしようとしていることを話した
全員難しい顔をして考え事をしていた
「精霊……星喰み……デューク……」
「世界中の魔核を精霊に変える……」
「……途方もない話ですね……」
「信じがたいだろうがな。これが今オレ達のぶつかってる現実だ」
「魔導器がこの世からなくなる……結界もなくなる。大混乱になるな」
「でなきゃデュークか星喰みにやられて一巻の終わり」
「選択の余地はないが……果たして受け入れられるか?」
「誰も破滅の未来を望んでいないと思います。つらくても生きていれば前に進めます」
「うん。だから僕達はやるんだ」
エステルとカロルは目を閉じ俯いているヨーデル様に向かってそう訴えた
「……人々の混乱を防ぎ、明日へ導くのは帝国の務め。今こそ人々の為の治世を敷く時なのですね」
「我々も忙しくなりますね」
「人々の生活基盤を整えて魔導器に代わる産業を確立……燃えるわね」
「結界なしで魔物を退けるための方法も考えなければ」
「傭兵ギルドや魔狩りの剣だけじゃまかなえねぇしな」
「騎士団の再編成をギルドと合同で行うというのはどうでしょう?」
「おもしろい試みだけど、すんなりいくかしら?」
首脳陣だけでの会話が盛り上がって来るとユーリ達は外に出た
その後を追うように、フレンも外に出る
……今しか、タイミングはないか……
「……あの、少しだけいいですか?」
私が声をかけると四人は私の方を向いた
「アリシアさん……彼らと行かなくて、いいのですか?」
「……少し、伝えておきたいことがありまして……」
「あら、あの子たちには教えられないことなのかしら?」
カウフマンさんの言葉に頷いて答えると四人は互いに見合う
「あいつらには、言うなって事だな?」
「……はい」
「…………わかりました。それで、話というのは?」
「それは…………」
「……ふぅ…………」
伝えなきゃいけないことは伝えた
…あの情報をどう使うかは彼ら次第だ
「ワンッ!ワンッ!」
「?ラピード?」
空を見上げているとラピードが声をかけてくる
動きからするに、ついてこいと言うことみたいだ
後について行くと、何故か街の外に向かっていた
外に出て、少し離れたところに見慣れた黒色と金色が寝そべっているのが見えた
何しているだか……
そう思って二人に近づく
「剣でも……負けてしまったな」
「はっはっは。ざまぁみろ」
そんな会話が聞こえてくる
どうやら二人で剣を交えていたらしい
「……腕を上げたな、ユーリ」
「……おまえもな。昔のままのお前だったら楽勝だったはずなんだがな」
「……昔、剣に誓ったっけ。人々の笑顔のために戦うのだと」
「ああ。例え歩む道が違っても」
「背負うものが違っても」
「賛辞を受けても、罵られても……」
「騎士もギルドもそれは変わらない。そうだね?」
「オレ達は互いに手の届かないところがある」
「だから僕達はひとりではない」
二人はそう言い合って剣を合わせていた
そして嬉しそうでいて、楽し気に笑い合っていた
……やっぱり、フレンの隣にはユーリが居なくちゃ
そして、ユーリの隣にはフレンが居ないと
…それでこその二人なんだから
「…全くもう、二人してそんなところに寝そべらないの」
そう言いながら二人に近づいた
「アリシア…!いつからそこに?」
「二人が話してる時。何してるの?」
「ん?まぁ、ちょっとな」
「えー、何?私には言えないことなの?」
そう言って二人を見下ろすと、二人は顔を見合わせてクスクスと笑い始めた
「もう!またそうやって笑うんだから…ユーリもフレンも意地悪!」
「はははっ、ったく、そんな大したことしてねえぜ?なぁ、フレン」
「フッ、そうだね。いつも通りさ」
「…この期に及んで喧嘩?」
「してねーよ。そんなんじゃねえから安心しろって」
「…そう?ならいいけどさ。…ほら、ユーリ、フレン、もう戻ろう?そろそろ日がくれるよ」
そう言って二人に手を差し出した
二人はちょっと困ったように笑うと、私の手を取って起き上がった
街に戻るとリタが宿屋の方から飛び出してきた
「いけるわ!!精霊たちと魔核を直結して励起させるの!その力を四精霊を介して明星壱号に収束する。それを星喰みにぶつけるの」
「ぼくが見付けたんですよ」
「この装置を各地の結界魔導器を同期させて、結界魔導器を中継して周囲のま魔導器に干渉するのよ」
「???」
「リタ姐の話が、タコの足よりも難解すぎてカロルが理解しとらんのじゃ」
「今の、パティわかった?」
カロルがそう聞くと彼女はほんの少し首を傾げた
どうやら彼女も理解していないようだ
「……要するに魔核を精霊に変えることができるんだな?」
「だからそういってるじゃない」
「流石です!リタ!」
「問題は時間がないことと、まだ発掘されきっていない魔核ね。魔核のネットワーク作るのと、収束する用意は同時にやらないと。発掘されていないものに関してはネットワークの組みようがないし…」
「ネットワークの構築はぼくがします。アスピオからの避難者もいるし」
「学者たちだけじゃ護衛が必要だろ。魔物も星喰みも結構やばいぜ」
「そこは騎士団がやりましょう」
「命に換えても守り抜きます」
「足りない分はギルドが援護するわ。技術者だっていないわけじゃないし」
「後は未発掘のものね…なくてもいけるけど、あるにこしたことはないし…」
「…カープノス、いける?」
『……俺を誰だと思ってるんだ。出来ないわけがないだろ』
「そっか。じゃ、任せるからね?」
『………ふん』
「そっちは星がバックアップしてくれるみたいだから、ほっといて大丈夫だよ」
ニコッと笑ってリタを見るとほんの少し肩を竦めていた
「誰と話してるのかと思えば…星だったのね」
ふぅ…と小さくため息をつきながらリタは言う
…そう言えば、聞こえないようにしてたっけ
「なんとかなりそうだね!」
「けど…肝心の明星壱号は直ってんの?」
「それはまだよ。筐体に使える部品が揃ってないの。必要な計算は済ませてあるから、あとはそれに適合した部品を見つけるだけなんだけど…」
「それならいっそ、新たに作ってしまってはどうでしょう?今ならここには人も資材も豊富にあるはずです」
「あら良い案ね。ネットワーク構築の前哨戦ってとこかしら。どう?」
「確かに…それが出来るならその方が早いかも」
「決まりね。後で人を集めるから詳しい説明をして頂戴」
「星喰みに挑む武器を、みんなで作るんだね」
「この街を作ったようにじゃな」
「そう考えると不思議な感じね」
「後は精霊の力が確実に星喰みに届くように出来るだけ近づいて明星壱号を起動させるだけよ」
「つまり、あそこだな」
「……タルカロンの塔、だね」
そう言うとみんなタルカロンのある方をみつめた
…何としても、止めないと
戦うことになってでも、絶対に
「それじゃ、あたしは明星壱号の修理に取りかかるわね」
「頼むぜ。出来れば明日には出発したいからな」
ユーリがそう言うとリタは頷いて宿屋へと戻って行った
そして、明日に備えてみんな休むことになった
夜、中々寝付けなくて街中を散歩しているとフレンに出会った
「やあ、アリシア。どうしたんだい?こんな時間に」
「フレン…。寝付けないからちょっと散歩。…そう言うフレンは見回りかな?」
「ああ。この街は結界がないからね」
「そのくらい部下に任せればいいのに」
「そう言うわけにもいかないよ。彼らも疲弊しているんだから」
「そっか。…騎士団、随分変わったね」
「そうだね。…まだ納得してくれない人もいるけど、いい方に向いてくれていると思うよ」
「そう。…お兄様の時に、そう変わっていけていれば、もう少しいい結果になっていたかもしれないなぁ…」
「……ああ、そうだね。…彼は少し、やり方を間違えてしまっていたのかもしれない」
「………うん、そうだと思う。けど、お兄様なりに頑張っていたんだと思いたいな」
「アリシアがそう思うならきっとそうだよ。…僕の中では、今でも彼は憧れだ。やり方に問題はあったけど、それでも帝国の在り方を必死で変えようとしていたのは事実だ。…彼を歪ませたのは帝国そのものだ」
「……ねぇ、フレンは、今のままでいてくれる?帝国に……歪まされたりしない?」
「当たり前だろう?…結局のところ、法だけでは善悪は決められない。その都度全力で悩むしかない。…それがようやくわかったんだ。辛い道のりになるだろうけど、僕はもう逃げない。そういう覚悟を決めたんだ」
「ん、そっか。…でも、一人で抱え込むのはよくないよ?ちゃんと頼ってね?…ユーリも私も、みんなだっているんだから」
「はははっ、わかっているよ。君も、一人で抱え込まないでくれよ」
「私だってわかってるよ。…ちゃんと頼るって、約束したもん」
「そうだったね。…さて、そろそろ戻るよ。アリシアも、早めに寝るんだよ」
「もう、そんなに子供じゃないよ?…おやすみ、フレン」
「ああ、おやすみ」
そう言ってフレンと別れた
…フレンが騎士団長にそのままなれば、もう私みたいな想いをする人はいなくなるだろう
きっと、フレンならそうしてくれる
…そう、信じてる
「むむ?なにしているのじゃ?シア姐」
「パティ。パティこそどうしたの?」
「ユーリを探しておったのじゃが見つからなくての。諦めて寝に行くところじゃ」
「そっか。…ねえ、パティ、少しだけいい?」
「む?」
「…海精の牙のこと、ごめんなさい。私が原因で巻き込んじゃったね」
「それはシア姐が謝る事ではないのじゃ」
「わかってるよ。…でも、伝えておきたかったんだ」
「わかっているんならいいのじゃ。うちが元気でいられるのは、シア姐達が傍にいてくれるからじゃ。だから、何も気にすることはないのじゃ」
「そう?」
「そうなのじゃ。記憶が戻った時も、サイファーの時も、シア姐達がいてくれたからこそ、頑張れたのじゃ。みんながいたからこそ、うちは今ここに居られているのじゃ」
「…そっか、そう思ってくれているんだね」
「のじゃ。うちはシア姐が悪いなんて思っとらんぞ。…うちらはずっと、これからも、仲間じゃよ」
「……うん、もちろんだよ!」
「でも、ユーリの事は譲らないのじゃ!いつか絶対に振り返らせてみせるのじゃ!」
「ちょっ!ユーリは駄目だよ!私のなんだから!」
「むむ、恋愛に関しては敵同士じゃの」
「そうだね。私、絶対に負けないよ!」
「む、うちだって負けないのじゃ!」
そう言って言い合って少し互いを見つめ合った後、二人揃ってクスッと笑った
まさかパティとこんな言い合いする日が来るなんて思ってなかったや
「ふわわ…それじゃ、うちはもう行くのじゃ」
「また明日ね、パティ。おやすみ」
「うむ。おやすみなのじゃ」
パティに恨まれてるかも、なんて杞憂だったみたい
そんなこと全然なかったみたいで、ちょっと安心した
ユーリの事はあれだけど…
でも、この先も仲間だと言ってもらえて、本当に嬉しかった
「あ、ジュディス」
「あら、アリシア。寝付けないのかしら?」
「そう言うジュディスこそ」
「さっきまでバウルと話し込んでいたから」
「そうなんだ。…ジュディスは魔導器がなくなったら、どうするの?」
「そうね…このままあなた達と一緒にギルドをやっていくつもりよ」
「それでいいの?」
「ええ。…ヘルメス式魔導器を壊すことが、ずっと目的だった。でも、もうどうでもよくなってしまったから」
「あはは…いい加減だなぁ」
「あなたこそどうするの?魔導器がなくなれば、星暦としてやるべきことも減るでしょう?」
「…そんなことはないよ。始祖の隷長だってほとんどいなくなっちゃてるんだもん。やることいっぱいだよ。…でも、私もジュディス達とギルド、続けるつもりだよ」
「そう。…でも、世界を救ったら、最初にバウルと色んな所へ行こうと思うの。エステルとリタを連れて。あなたも来ない?」
「…!行っても、いいの?」
「ええ、もちろん」
「それじゃ、あいつをどうにかしないとね」
「うふふ、そうね」
「…さてと、それじゃあ、そろそろ行くね」
「あら、まだ寝ないのかしら?」
「うん。…おやすみ、ジュディス」
「ええ。おやすみなさい」
ジュディス達と世界を回る…
それもきっと、楽しいだろう
「あれ…?リタ?」
「アリシア…あんた、起きてたのね」
「リタこそ。まだ研究中?」
「もう終わるわよ。…あんたがさっきくれたデータ、結構役に立ったわ。これだけ未発掘の魔核があれば計算的には足りそうよ」
「それならよかったよ」
「…これで、あんたが命削る必要もないわね」
「…うん、そうだね」
「……ホント、もう無茶しないでよね?あたしの一番の親友は…あんただけなんだから」
「そこまで言わなくても…エステルだっているじゃん」
「そういう意味じゃなくて…!あたしを昔から知ってる親友は、あんただけって意味よ!…あんたまでいなくなったら、本当に昔のあたしを知ってる人、いなくなっちゃうじゃない」
「リタ…」
「信じられるものが魔導器だけじゃないって、初めて教えてくれたのはアリシアだった。…あんたがいてくれたから、あたしは人を信じられるようになった。…だから、感謝、してんのよ?…いなくなる、なんてこと絶対許さないんだから!」
「…もう…わかってるよ。大丈夫、居なくなったりなんてしないよ」
「…約束よ?破ったらひどいんだから!」
「約束するよ、ちゃんと」
「…明日、早いんだから、もう休みなさいよ。身体持たないわよ?」
「力使ってるわけじゃないし、大丈夫だよ。…リタも早めに休みなね?…おやすみ」
「わかってるわよ。…おやすみ」
なんだかんだ言って、やっぱりリタは優しいなぁ
普段は扱い酷かったりしてるけど…
ま、照れ隠しなの知ってるし、ね
触れないでおいてあげよっと
「あれ?アリシア、どうしたの?」
「カロル…寝付けないから、ちょっと散歩。カロルは?」
「僕はちょっとお手伝いしてたんだ。これでも、ギルドの人間だからね」
「そっか。偉いね」
「…僕ね、今までやってみせたいことばかりやろうとしてたからそれを夢だって思ってたんだけど、違ったみたい。人のために、何かをするのって、嬉しいね」
「ふふ、そうだね。…誰かのためにできることがあって、それをする。…とっても立派なことでもあるよ」
「ずーっと、一人で出来なきゃ意味がない、格好悪いって思ってた。でも、一人じゃ出来ないことだってあって、みんながいてくれるから出来ることがあるんだって、みんなと旅して思ったんだ。やれることも、喜ぶ人も増えるならその方がいいなって」
「今のカロル、とっても格好いいよ。…ちょっと大人になったんじゃない?」
「えへへ、そうかな?…アリシアの夢は?」
「私?うーん…そうだなぁ…。星喰み倒して、みんなと綺麗な星空を見ること…かな?」
「えー?そんなことでいいの?」
「いいんだよ。…私のもう一つの家族を、みんなと一緒に見たいんだ」
「あ、そっか…。…うん!そうだね!星はアリシアにとって大事な家族だもんね!」
「うん。自慢の家族だよ」
「じゃあ、その為にも、明日、勝とうね!」
「ええ、もちろん!」
「…ふぁ…それじゃ、僕もう寝るね。アリシアも、早めに寝てね?」
「了解。おやすみ、カロル」
「うん、おやすみ」
最初に出会った時と比べて、随分大人になったなぁ
あの頃のカロルが嘘みたい
…こうやって、大きくなっていくんだなぁ
「…いつまで隠れてるの?レイヴン」
「ありゃ、バレちゃってたか」
「わかるよ…隠れ方、シュバーンの時と同じなんだもん」
「あっちゃぁ、こりゃ参った。隠れ方練習しなきゃだわね」
「そんな必要ある?」
「ん?んーそうさねえ…ま、特に理由はないわね」
「あはは、なにそれ」
「…アリシアちゃん、もう、怒ってないわけ?」
「ん?何に対して?」
「シュバーンの時のことをよ。色々酷いことしちゃったしね」
「別に怒ってないよ。今はレイヴン、でしょ?」
「…はは、参った参った。降参よ」
「あー、でも」
「ん?何…あでぇ!?」
「…みんなもしてたって言うから、これでチャラね?」
「…ちょっと、容赦なさすぎでないかい…?」
「そんなことないって」
「全く…凜々の明星の面々には敵わんな」
「…ほら、レイヴンも年なんだからそろそろ休みなよ」
「その言い方はおっさんショックだわ…ま、正しいんだけどね」
「ふふ、おやすみ、レイヴン」
「おやすみ、アリシア」
本当は、ずっと前から知ってたんだ
レイヴンが『シュバーン』として動いてた時からずっと、過去を捨てたがっていたこと
だから、敢えて忘れてあげることにした
レイヴンなりに前を向いて進もうとしているんだから
…そこに、過去は必要ないんだって
今は、そう思うから
「あ…アリシア」
「エステル…こんな時間に外に出ちゃ危ないよ?」
「…寝付けなくて…」
「…そっか。まぁ、それは私もなんだけどね」
「…あの、アリシア」
「ん?」
「…私、アリシアと出会えて、よかったです」
「あはは、どうしたの?急に」
「アリシアと、みんなと一緒に旅をして、たくさんの風景を見て、たくさんの人と出会って、色んなことを経験して…辛いこともありましたが、でも、本当によかったです」
「…私も、エステルに、みんなに出会えてよかったよ」
「私達、これからもずっと、友達ですよね?」
「あはは、パティにも似たような事言われたよ。…もちろん、ずーっと友達だよ」
「……この旅が終わったら…私、絵本を書こうと思うんです。この旅で見てきたことを…本にまとめようと思うんです」
「本に、か…。エステルらしいね」
「そうでしょうか?」
「うん、すごくエステルっぽいよ。…でも、いいと思うよ」
「ありがとうございます!」
「エステルが絵本描くためにも、星喰み、倒そうね」
「ええ。頑張りましょう!…それでは、私はもう寝ますね」
「うん。また明日ね。おやすみ」
「おやすみなさい。…あ、ユーリなら外にいますよ」
エステルはそうクスッと笑って去って行く
…私の一番最初の目標だった満月の子との共存…
ちゃんと、叶ったんだって、エステルと話して改めて思う
「こんな時間にこんなところで何してるの?ユーリ」
「シア…お前こそ何してんだ?」
「寝付けなかったから散歩。途中でみんなに会って話したよ」
「そっか。オレもついさっきまでエステルと話してたとこだ」
「…こんなところで二人きりで?」
「なんもなかたっての…」
「ふーん…?」
「信じてねえだろ…?」
「別に?そんなことないもんねー」
「ったく…仕方ねえ奴」
そう言うと、ユーリは私を抱き寄せた
「わっ」
「こんなことすんの、お前だけだぜ?」
「もう…私以外にしてたら泣くよ?」
「わかってるっての。…シア、少し話しようぜ」
「ん?なぁに?」
「…今日まで、色々あったな」
「…ん、そうだね」
「アレクセイのことも、星暦のことも…沢山あったな」
「あはは、ユーリらしくないなぁ。どうしたの?」
「…色々あったが…それでも、シアのこと好きなことにゃ変わりねえな、と思ってな」
「…っ!」
「お前は、オレの隣にはフレン、フレンの隣にゃオレにいて欲しいって言うが…オレはお前が隣にいてくれりゃそれで十分だぜ?」
「…ユーリ…」
「んで?お前の中の決心とかいうのは崩れてくれたか?」
「…そんなに簡単に、崩れると思う?」
「…ま、そうだとは思ってたぜ。なぁ、なんでそんなに頑ななんだよ?」
「…やっぱり、ユーリだけには言わないとだね」
スッと深呼吸をしてからもう一度口を開いた
「…星喰みを形成してる一部の始祖の隷長たちの魂が怨霊になり掛けているみたいなんだ」
「オンリョウ…?」
「まぁ…簡単に言えば憎しみとか恨みとか…そう言う感情が形になったもの…かな。…それをほっとくと、人に危害を加え始める。…星暦の中でも、力の強い人だけが、それを浄化することが出来るんだってさ」
「…もしかして、デュークがお前を世界に必要な存在だって言ったのは…」
「多分、そのことをどこかで知ったんだと思う。私はシリウス達に聞いて、初めて知ったけど…」
「んで?それとお前の覚悟、なんの関係があるんだ?」
「…普通の怨霊なら、私一人の力でなんとかできる。…でもね、今回のは規模が違うんだ。私の力ではどうにもできない…。…だから、星の命を使うことになると思う」
「…!!」
「シリウスを含めて…レグルスも、みんなの命を使うことになる。……もしかしたら、私の命かもしれない」
「…他に、方法はねえのか?」
「こればかりはリタでもどうにも出来ないと思う…。今はまだレグルスが抑えてくれているみたいだけど、それも、長くは持たないみたい。デュークさんのやり方じゃ、星喰みの憎しみを増してしまうかもしれない…。あれは始祖の隷長にとって憎しみの対象だから……」
「…なるほど。だからあんなに焦ったわけか」
「うん…。今ならまだ、間に合うから……」
「…さっさと倒せば、そうならない。そう言うことでいいのか?」
「まあそうだね」
「んじゃ、やるとたぁ一つだな。明日、さくっと行って、さくっと倒す。…だろ?」
「…!ん、そうだね」
「きっと間に合わせてみせる。…絶対にだ」
「ユーリ…」
「オレは誰にもシアを渡さねえ。例えそれが人間以外でもだ。…絶対にだぜ?」
そう言って、ユーリは私を強く抱きしめる
絶対に離さないと、強く抱きしめてくる
回された細くて、それでいてがっしりとした腕に自分の手を添える
…やっぱり、ここに居るのが一番好きなんだ、私
「…うん。絶対…絶対、だよ?」
「当たり前だ。…もし、万が一にでもそうなった時にゃ、オレも傍にいる。シアやシリウス達に止められても離れねえからな?」
「あはは…ユーリらしい」
「嫌か?」
「…まさか。そんなことあるわけないじゃん。…私だって、ずっとユーリと一緒に居たいもん」
「ははっ、それ聞けて安心だわ」
「…明日、絶対にみんなでここに戻って来ようね」
「おう。もちろんだ」
顔を上げてユーリを見ると、とても優しく微笑んで私を見つめていた
軽く目を瞑ると、ユーリの唇が触れる感覚がした
最後にこうしたのなんて、いつだっけ?
最近だったかもしれないけど、随分昔のことにも思える
…やっぱり、離れられないや
ユーリから離れるなんて不可能なんだ
それだけユーリが好きで、言い方を変えれば依存してる
繋いだこの手を離して欲しくなくて
離したくなくて…
…それでも、決意は変えられない
どんな結果になっても受け入れるって、決めたんだ
…でも、今だけは…
それを忘れて、ユーリのことだけを考えていても、いいかな…?
私の思いを肯定するかのように、空で瞬く星がキラリと光った
バウルに乗って私たちはノードポリカにやって来た
つい先ほどまでいたあの場所で、ギルドと帝国、両方のトップを交えての話し合いをするらしい
世界の今後について……どうしていくのか、私達のしようとしていることを話すんだと
ギルドはユニオンと戦士の殿堂に分かれているから、まずは近場のノードポリカに来たというわけだ
「承知した。じゃあ、そちらの手配が済むまで待ってるとするよ」
「はい。ありがとうございます」
事情を説明すると彼はすぐに了承して去って行った
「ナッツ、話が早くて助かるわ」
「あっさり了承したわね」
「彼は世界の移り変わりを目の当たりにしているようなものだから、囚われない心を持っているのね」
「ユニオンと戦士の殿堂ももっと仲良くなれるかな」
「なれるさ、同じギルドなんだ」
「そうですね。今はわだかまりを捨てて力を合わせるべき時ですからきっと仲良しになれます」
「のじゃ、いがみ合った後にこそ、お互いを深く知ることが出来て、真の友情が生まれるのじゃ。うちらが海の上の架け橋になるのじゃ!」
「そうだね!」
そう言ってみんなは微笑んでいた
……確かに、そうなったらきっとこの世界はもっと良くなる
本当に争いのない世界になると思う
そこまで行く道は、遠いかもしれないけど…
ノードポリカの次にダングレストにやって来た
ハリー達に話をするとあまりいい顔はされなかった
「……それで、その片田舎まででていけってのか?」
「ここではダメなのかね」
「ああ。ザーフィアスもここもダメだ」
「そういうこった。どっちにも勘ぐられないようにしないといかんのよ」
「重要な話らしいな。帝国、ギルド関係ない……」
「はん。そんなお使いみたいなマネ、オレはごめんだぜ」
「私も今ダングレストを離れたくない。ハリー。お前に任せよう」
「オレが行く」
「もう!重要な話なんだよ!そんな適当で良いの!」
「いいんだよ。ハリーがそこで判断したことに文句を言うつもりはねぇ」
「うむ」
言い方は荒いけどこれがユニオンなりの信頼の証なんだろう
「ならそれでいいさ。じゃあ天然殿下の都合がついたらまた来る」
「わかった」
「それじゃ戻ろ、なんか進展あるかもよ」
「だな。戻るか」
先程の砦に戻ると、大分町らしい姿になっていた
「……すげえな、もうこんなに……」
「短期間で町がここまで……信じられません」
「どうやら魔法じゃないみたいよ。ホレ」
レイヴンの視線の先には、ぐったりとした人々の姿があった
かなり頑張ったらしく、地べたにそのまま寝転んで寝ているようだ
「完徹で燃え尽き~、ってかんじ」
「騎士団も頑張って戦ったようね」
ジュディスの視線の先にはこれまた騎士が地べたで眠っていた
「みんなで力を合わせたらこんなことさえできちゃうんだね」
「人は、いざという、釣り糸を引くシイラのごとくすごい力を発揮するのじゃ」
「ああ、確かにこの状況を見たら、人の力って侮れねぇと思うな」
「…そうだね」
そんな話をしているとフレンとカウフマンさんがこちらに来るのが見えた
「どう?お気に召して?」
「正直、脱帽だ」
「ユーリ、どうだい?そっちの方は」
「ああ。話しつけてきた。後は殿下の都合がついたら迎えに行くと伝えてある」
「わかった。殿下にも連絡がついたよ。来ていただけることになった。船でこちらに向かわれている」
「まぁ、のんびり屋さんね。バウルにお願いして連れてくるわ。ハリーもナッツも、ね」
「いいの?バウル、怒らない?」
そんな運び屋みたいなことやりたがらないと思うんだよなぁ……
「一刻を争うんでしょう?バウルもわかってくれるわ」
「そうしてもらえると助かる」
フレンの言葉に頷くと、ジュディスは街の外へと歩いて行った
「……もう時間は残されていない」
「ついに世界の首脳陣が集まるのですね」
「後はわかってもらいるかどうかだね」
「とことん話し合ってそれでもダメなら、殴り合いなのじゃ」
「みんな色んなことを乗り越えてきた人たちです。大丈夫、きっとわかってくれます」
「ああ」
ユーリ達はそう言って頷き合った
ー数時間後ー
集まった首脳陣に今の世界の状態、そして、私達のしようとしていることを話した
全員難しい顔をして考え事をしていた
「精霊……星喰み……デューク……」
「世界中の魔核を精霊に変える……」
「……途方もない話ですね……」
「信じがたいだろうがな。これが今オレ達のぶつかってる現実だ」
「魔導器がこの世からなくなる……結界もなくなる。大混乱になるな」
「でなきゃデュークか星喰みにやられて一巻の終わり」
「選択の余地はないが……果たして受け入れられるか?」
「誰も破滅の未来を望んでいないと思います。つらくても生きていれば前に進めます」
「うん。だから僕達はやるんだ」
エステルとカロルは目を閉じ俯いているヨーデル様に向かってそう訴えた
「……人々の混乱を防ぎ、明日へ導くのは帝国の務め。今こそ人々の為の治世を敷く時なのですね」
「我々も忙しくなりますね」
「人々の生活基盤を整えて魔導器に代わる産業を確立……燃えるわね」
「結界なしで魔物を退けるための方法も考えなければ」
「傭兵ギルドや魔狩りの剣だけじゃまかなえねぇしな」
「騎士団の再編成をギルドと合同で行うというのはどうでしょう?」
「おもしろい試みだけど、すんなりいくかしら?」
首脳陣だけでの会話が盛り上がって来るとユーリ達は外に出た
その後を追うように、フレンも外に出る
……今しか、タイミングはないか……
「……あの、少しだけいいですか?」
私が声をかけると四人は私の方を向いた
「アリシアさん……彼らと行かなくて、いいのですか?」
「……少し、伝えておきたいことがありまして……」
「あら、あの子たちには教えられないことなのかしら?」
カウフマンさんの言葉に頷いて答えると四人は互いに見合う
「あいつらには、言うなって事だな?」
「……はい」
「…………わかりました。それで、話というのは?」
「それは…………」
「……ふぅ…………」
伝えなきゃいけないことは伝えた
…あの情報をどう使うかは彼ら次第だ
「ワンッ!ワンッ!」
「?ラピード?」
空を見上げているとラピードが声をかけてくる
動きからするに、ついてこいと言うことみたいだ
後について行くと、何故か街の外に向かっていた
外に出て、少し離れたところに見慣れた黒色と金色が寝そべっているのが見えた
何しているだか……
そう思って二人に近づく
「剣でも……負けてしまったな」
「はっはっは。ざまぁみろ」
そんな会話が聞こえてくる
どうやら二人で剣を交えていたらしい
「……腕を上げたな、ユーリ」
「……おまえもな。昔のままのお前だったら楽勝だったはずなんだがな」
「……昔、剣に誓ったっけ。人々の笑顔のために戦うのだと」
「ああ。例え歩む道が違っても」
「背負うものが違っても」
「賛辞を受けても、罵られても……」
「騎士もギルドもそれは変わらない。そうだね?」
「オレ達は互いに手の届かないところがある」
「だから僕達はひとりではない」
二人はそう言い合って剣を合わせていた
そして嬉しそうでいて、楽し気に笑い合っていた
……やっぱり、フレンの隣にはユーリが居なくちゃ
そして、ユーリの隣にはフレンが居ないと
…それでこその二人なんだから
「…全くもう、二人してそんなところに寝そべらないの」
そう言いながら二人に近づいた
「アリシア…!いつからそこに?」
「二人が話してる時。何してるの?」
「ん?まぁ、ちょっとな」
「えー、何?私には言えないことなの?」
そう言って二人を見下ろすと、二人は顔を見合わせてクスクスと笑い始めた
「もう!またそうやって笑うんだから…ユーリもフレンも意地悪!」
「はははっ、ったく、そんな大したことしてねえぜ?なぁ、フレン」
「フッ、そうだね。いつも通りさ」
「…この期に及んで喧嘩?」
「してねーよ。そんなんじゃねえから安心しろって」
「…そう?ならいいけどさ。…ほら、ユーリ、フレン、もう戻ろう?そろそろ日がくれるよ」
そう言って二人に手を差し出した
二人はちょっと困ったように笑うと、私の手を取って起き上がった
街に戻るとリタが宿屋の方から飛び出してきた
「いけるわ!!精霊たちと魔核を直結して励起させるの!その力を四精霊を介して明星壱号に収束する。それを星喰みにぶつけるの」
「ぼくが見付けたんですよ」
「この装置を各地の結界魔導器を同期させて、結界魔導器を中継して周囲のま魔導器に干渉するのよ」
「???」
「リタ姐の話が、タコの足よりも難解すぎてカロルが理解しとらんのじゃ」
「今の、パティわかった?」
カロルがそう聞くと彼女はほんの少し首を傾げた
どうやら彼女も理解していないようだ
「……要するに魔核を精霊に変えることができるんだな?」
「だからそういってるじゃない」
「流石です!リタ!」
「問題は時間がないことと、まだ発掘されきっていない魔核ね。魔核のネットワーク作るのと、収束する用意は同時にやらないと。発掘されていないものに関してはネットワークの組みようがないし…」
「ネットワークの構築はぼくがします。アスピオからの避難者もいるし」
「学者たちだけじゃ護衛が必要だろ。魔物も星喰みも結構やばいぜ」
「そこは騎士団がやりましょう」
「命に換えても守り抜きます」
「足りない分はギルドが援護するわ。技術者だっていないわけじゃないし」
「後は未発掘のものね…なくてもいけるけど、あるにこしたことはないし…」
「…カープノス、いける?」
『……俺を誰だと思ってるんだ。出来ないわけがないだろ』
「そっか。じゃ、任せるからね?」
『………ふん』
「そっちは星がバックアップしてくれるみたいだから、ほっといて大丈夫だよ」
ニコッと笑ってリタを見るとほんの少し肩を竦めていた
「誰と話してるのかと思えば…星だったのね」
ふぅ…と小さくため息をつきながらリタは言う
…そう言えば、聞こえないようにしてたっけ
「なんとかなりそうだね!」
「けど…肝心の明星壱号は直ってんの?」
「それはまだよ。筐体に使える部品が揃ってないの。必要な計算は済ませてあるから、あとはそれに適合した部品を見つけるだけなんだけど…」
「それならいっそ、新たに作ってしまってはどうでしょう?今ならここには人も資材も豊富にあるはずです」
「あら良い案ね。ネットワーク構築の前哨戦ってとこかしら。どう?」
「確かに…それが出来るならその方が早いかも」
「決まりね。後で人を集めるから詳しい説明をして頂戴」
「星喰みに挑む武器を、みんなで作るんだね」
「この街を作ったようにじゃな」
「そう考えると不思議な感じね」
「後は精霊の力が確実に星喰みに届くように出来るだけ近づいて明星壱号を起動させるだけよ」
「つまり、あそこだな」
「……タルカロンの塔、だね」
そう言うとみんなタルカロンのある方をみつめた
…何としても、止めないと
戦うことになってでも、絶対に
「それじゃ、あたしは明星壱号の修理に取りかかるわね」
「頼むぜ。出来れば明日には出発したいからな」
ユーリがそう言うとリタは頷いて宿屋へと戻って行った
そして、明日に備えてみんな休むことになった
夜、中々寝付けなくて街中を散歩しているとフレンに出会った
「やあ、アリシア。どうしたんだい?こんな時間に」
「フレン…。寝付けないからちょっと散歩。…そう言うフレンは見回りかな?」
「ああ。この街は結界がないからね」
「そのくらい部下に任せればいいのに」
「そう言うわけにもいかないよ。彼らも疲弊しているんだから」
「そっか。…騎士団、随分変わったね」
「そうだね。…まだ納得してくれない人もいるけど、いい方に向いてくれていると思うよ」
「そう。…お兄様の時に、そう変わっていけていれば、もう少しいい結果になっていたかもしれないなぁ…」
「……ああ、そうだね。…彼は少し、やり方を間違えてしまっていたのかもしれない」
「………うん、そうだと思う。けど、お兄様なりに頑張っていたんだと思いたいな」
「アリシアがそう思うならきっとそうだよ。…僕の中では、今でも彼は憧れだ。やり方に問題はあったけど、それでも帝国の在り方を必死で変えようとしていたのは事実だ。…彼を歪ませたのは帝国そのものだ」
「……ねぇ、フレンは、今のままでいてくれる?帝国に……歪まされたりしない?」
「当たり前だろう?…結局のところ、法だけでは善悪は決められない。その都度全力で悩むしかない。…それがようやくわかったんだ。辛い道のりになるだろうけど、僕はもう逃げない。そういう覚悟を決めたんだ」
「ん、そっか。…でも、一人で抱え込むのはよくないよ?ちゃんと頼ってね?…ユーリも私も、みんなだっているんだから」
「はははっ、わかっているよ。君も、一人で抱え込まないでくれよ」
「私だってわかってるよ。…ちゃんと頼るって、約束したもん」
「そうだったね。…さて、そろそろ戻るよ。アリシアも、早めに寝るんだよ」
「もう、そんなに子供じゃないよ?…おやすみ、フレン」
「ああ、おやすみ」
そう言ってフレンと別れた
…フレンが騎士団長にそのままなれば、もう私みたいな想いをする人はいなくなるだろう
きっと、フレンならそうしてくれる
…そう、信じてる
「むむ?なにしているのじゃ?シア姐」
「パティ。パティこそどうしたの?」
「ユーリを探しておったのじゃが見つからなくての。諦めて寝に行くところじゃ」
「そっか。…ねえ、パティ、少しだけいい?」
「む?」
「…海精の牙のこと、ごめんなさい。私が原因で巻き込んじゃったね」
「それはシア姐が謝る事ではないのじゃ」
「わかってるよ。…でも、伝えておきたかったんだ」
「わかっているんならいいのじゃ。うちが元気でいられるのは、シア姐達が傍にいてくれるからじゃ。だから、何も気にすることはないのじゃ」
「そう?」
「そうなのじゃ。記憶が戻った時も、サイファーの時も、シア姐達がいてくれたからこそ、頑張れたのじゃ。みんながいたからこそ、うちは今ここに居られているのじゃ」
「…そっか、そう思ってくれているんだね」
「のじゃ。うちはシア姐が悪いなんて思っとらんぞ。…うちらはずっと、これからも、仲間じゃよ」
「……うん、もちろんだよ!」
「でも、ユーリの事は譲らないのじゃ!いつか絶対に振り返らせてみせるのじゃ!」
「ちょっ!ユーリは駄目だよ!私のなんだから!」
「むむ、恋愛に関しては敵同士じゃの」
「そうだね。私、絶対に負けないよ!」
「む、うちだって負けないのじゃ!」
そう言って言い合って少し互いを見つめ合った後、二人揃ってクスッと笑った
まさかパティとこんな言い合いする日が来るなんて思ってなかったや
「ふわわ…それじゃ、うちはもう行くのじゃ」
「また明日ね、パティ。おやすみ」
「うむ。おやすみなのじゃ」
パティに恨まれてるかも、なんて杞憂だったみたい
そんなこと全然なかったみたいで、ちょっと安心した
ユーリの事はあれだけど…
でも、この先も仲間だと言ってもらえて、本当に嬉しかった
「あ、ジュディス」
「あら、アリシア。寝付けないのかしら?」
「そう言うジュディスこそ」
「さっきまでバウルと話し込んでいたから」
「そうなんだ。…ジュディスは魔導器がなくなったら、どうするの?」
「そうね…このままあなた達と一緒にギルドをやっていくつもりよ」
「それでいいの?」
「ええ。…ヘルメス式魔導器を壊すことが、ずっと目的だった。でも、もうどうでもよくなってしまったから」
「あはは…いい加減だなぁ」
「あなたこそどうするの?魔導器がなくなれば、星暦としてやるべきことも減るでしょう?」
「…そんなことはないよ。始祖の隷長だってほとんどいなくなっちゃてるんだもん。やることいっぱいだよ。…でも、私もジュディス達とギルド、続けるつもりだよ」
「そう。…でも、世界を救ったら、最初にバウルと色んな所へ行こうと思うの。エステルとリタを連れて。あなたも来ない?」
「…!行っても、いいの?」
「ええ、もちろん」
「それじゃ、あいつをどうにかしないとね」
「うふふ、そうね」
「…さてと、それじゃあ、そろそろ行くね」
「あら、まだ寝ないのかしら?」
「うん。…おやすみ、ジュディス」
「ええ。おやすみなさい」
ジュディス達と世界を回る…
それもきっと、楽しいだろう
「あれ…?リタ?」
「アリシア…あんた、起きてたのね」
「リタこそ。まだ研究中?」
「もう終わるわよ。…あんたがさっきくれたデータ、結構役に立ったわ。これだけ未発掘の魔核があれば計算的には足りそうよ」
「それならよかったよ」
「…これで、あんたが命削る必要もないわね」
「…うん、そうだね」
「……ホント、もう無茶しないでよね?あたしの一番の親友は…あんただけなんだから」
「そこまで言わなくても…エステルだっているじゃん」
「そういう意味じゃなくて…!あたしを昔から知ってる親友は、あんただけって意味よ!…あんたまでいなくなったら、本当に昔のあたしを知ってる人、いなくなっちゃうじゃない」
「リタ…」
「信じられるものが魔導器だけじゃないって、初めて教えてくれたのはアリシアだった。…あんたがいてくれたから、あたしは人を信じられるようになった。…だから、感謝、してんのよ?…いなくなる、なんてこと絶対許さないんだから!」
「…もう…わかってるよ。大丈夫、居なくなったりなんてしないよ」
「…約束よ?破ったらひどいんだから!」
「約束するよ、ちゃんと」
「…明日、早いんだから、もう休みなさいよ。身体持たないわよ?」
「力使ってるわけじゃないし、大丈夫だよ。…リタも早めに休みなね?…おやすみ」
「わかってるわよ。…おやすみ」
なんだかんだ言って、やっぱりリタは優しいなぁ
普段は扱い酷かったりしてるけど…
ま、照れ隠しなの知ってるし、ね
触れないでおいてあげよっと
「あれ?アリシア、どうしたの?」
「カロル…寝付けないから、ちょっと散歩。カロルは?」
「僕はちょっとお手伝いしてたんだ。これでも、ギルドの人間だからね」
「そっか。偉いね」
「…僕ね、今までやってみせたいことばかりやろうとしてたからそれを夢だって思ってたんだけど、違ったみたい。人のために、何かをするのって、嬉しいね」
「ふふ、そうだね。…誰かのためにできることがあって、それをする。…とっても立派なことでもあるよ」
「ずーっと、一人で出来なきゃ意味がない、格好悪いって思ってた。でも、一人じゃ出来ないことだってあって、みんながいてくれるから出来ることがあるんだって、みんなと旅して思ったんだ。やれることも、喜ぶ人も増えるならその方がいいなって」
「今のカロル、とっても格好いいよ。…ちょっと大人になったんじゃない?」
「えへへ、そうかな?…アリシアの夢は?」
「私?うーん…そうだなぁ…。星喰み倒して、みんなと綺麗な星空を見ること…かな?」
「えー?そんなことでいいの?」
「いいんだよ。…私のもう一つの家族を、みんなと一緒に見たいんだ」
「あ、そっか…。…うん!そうだね!星はアリシアにとって大事な家族だもんね!」
「うん。自慢の家族だよ」
「じゃあ、その為にも、明日、勝とうね!」
「ええ、もちろん!」
「…ふぁ…それじゃ、僕もう寝るね。アリシアも、早めに寝てね?」
「了解。おやすみ、カロル」
「うん、おやすみ」
最初に出会った時と比べて、随分大人になったなぁ
あの頃のカロルが嘘みたい
…こうやって、大きくなっていくんだなぁ
「…いつまで隠れてるの?レイヴン」
「ありゃ、バレちゃってたか」
「わかるよ…隠れ方、シュバーンの時と同じなんだもん」
「あっちゃぁ、こりゃ参った。隠れ方練習しなきゃだわね」
「そんな必要ある?」
「ん?んーそうさねえ…ま、特に理由はないわね」
「あはは、なにそれ」
「…アリシアちゃん、もう、怒ってないわけ?」
「ん?何に対して?」
「シュバーンの時のことをよ。色々酷いことしちゃったしね」
「別に怒ってないよ。今はレイヴン、でしょ?」
「…はは、参った参った。降参よ」
「あー、でも」
「ん?何…あでぇ!?」
「…みんなもしてたって言うから、これでチャラね?」
「…ちょっと、容赦なさすぎでないかい…?」
「そんなことないって」
「全く…凜々の明星の面々には敵わんな」
「…ほら、レイヴンも年なんだからそろそろ休みなよ」
「その言い方はおっさんショックだわ…ま、正しいんだけどね」
「ふふ、おやすみ、レイヴン」
「おやすみ、アリシア」
本当は、ずっと前から知ってたんだ
レイヴンが『シュバーン』として動いてた時からずっと、過去を捨てたがっていたこと
だから、敢えて忘れてあげることにした
レイヴンなりに前を向いて進もうとしているんだから
…そこに、過去は必要ないんだって
今は、そう思うから
「あ…アリシア」
「エステル…こんな時間に外に出ちゃ危ないよ?」
「…寝付けなくて…」
「…そっか。まぁ、それは私もなんだけどね」
「…あの、アリシア」
「ん?」
「…私、アリシアと出会えて、よかったです」
「あはは、どうしたの?急に」
「アリシアと、みんなと一緒に旅をして、たくさんの風景を見て、たくさんの人と出会って、色んなことを経験して…辛いこともありましたが、でも、本当によかったです」
「…私も、エステルに、みんなに出会えてよかったよ」
「私達、これからもずっと、友達ですよね?」
「あはは、パティにも似たような事言われたよ。…もちろん、ずーっと友達だよ」
「……この旅が終わったら…私、絵本を書こうと思うんです。この旅で見てきたことを…本にまとめようと思うんです」
「本に、か…。エステルらしいね」
「そうでしょうか?」
「うん、すごくエステルっぽいよ。…でも、いいと思うよ」
「ありがとうございます!」
「エステルが絵本描くためにも、星喰み、倒そうね」
「ええ。頑張りましょう!…それでは、私はもう寝ますね」
「うん。また明日ね。おやすみ」
「おやすみなさい。…あ、ユーリなら外にいますよ」
エステルはそうクスッと笑って去って行く
…私の一番最初の目標だった満月の子との共存…
ちゃんと、叶ったんだって、エステルと話して改めて思う
「こんな時間にこんなところで何してるの?ユーリ」
「シア…お前こそ何してんだ?」
「寝付けなかったから散歩。途中でみんなに会って話したよ」
「そっか。オレもついさっきまでエステルと話してたとこだ」
「…こんなところで二人きりで?」
「なんもなかたっての…」
「ふーん…?」
「信じてねえだろ…?」
「別に?そんなことないもんねー」
「ったく…仕方ねえ奴」
そう言うと、ユーリは私を抱き寄せた
「わっ」
「こんなことすんの、お前だけだぜ?」
「もう…私以外にしてたら泣くよ?」
「わかってるっての。…シア、少し話しようぜ」
「ん?なぁに?」
「…今日まで、色々あったな」
「…ん、そうだね」
「アレクセイのことも、星暦のことも…沢山あったな」
「あはは、ユーリらしくないなぁ。どうしたの?」
「…色々あったが…それでも、シアのこと好きなことにゃ変わりねえな、と思ってな」
「…っ!」
「お前は、オレの隣にはフレン、フレンの隣にゃオレにいて欲しいって言うが…オレはお前が隣にいてくれりゃそれで十分だぜ?」
「…ユーリ…」
「んで?お前の中の決心とかいうのは崩れてくれたか?」
「…そんなに簡単に、崩れると思う?」
「…ま、そうだとは思ってたぜ。なぁ、なんでそんなに頑ななんだよ?」
「…やっぱり、ユーリだけには言わないとだね」
スッと深呼吸をしてからもう一度口を開いた
「…星喰みを形成してる一部の始祖の隷長たちの魂が怨霊になり掛けているみたいなんだ」
「オンリョウ…?」
「まぁ…簡単に言えば憎しみとか恨みとか…そう言う感情が形になったもの…かな。…それをほっとくと、人に危害を加え始める。…星暦の中でも、力の強い人だけが、それを浄化することが出来るんだってさ」
「…もしかして、デュークがお前を世界に必要な存在だって言ったのは…」
「多分、そのことをどこかで知ったんだと思う。私はシリウス達に聞いて、初めて知ったけど…」
「んで?それとお前の覚悟、なんの関係があるんだ?」
「…普通の怨霊なら、私一人の力でなんとかできる。…でもね、今回のは規模が違うんだ。私の力ではどうにもできない…。…だから、星の命を使うことになると思う」
「…!!」
「シリウスを含めて…レグルスも、みんなの命を使うことになる。……もしかしたら、私の命かもしれない」
「…他に、方法はねえのか?」
「こればかりはリタでもどうにも出来ないと思う…。今はまだレグルスが抑えてくれているみたいだけど、それも、長くは持たないみたい。デュークさんのやり方じゃ、星喰みの憎しみを増してしまうかもしれない…。あれは始祖の隷長にとって憎しみの対象だから……」
「…なるほど。だからあんなに焦ったわけか」
「うん…。今ならまだ、間に合うから……」
「…さっさと倒せば、そうならない。そう言うことでいいのか?」
「まあそうだね」
「んじゃ、やるとたぁ一つだな。明日、さくっと行って、さくっと倒す。…だろ?」
「…!ん、そうだね」
「きっと間に合わせてみせる。…絶対にだ」
「ユーリ…」
「オレは誰にもシアを渡さねえ。例えそれが人間以外でもだ。…絶対にだぜ?」
そう言って、ユーリは私を強く抱きしめる
絶対に離さないと、強く抱きしめてくる
回された細くて、それでいてがっしりとした腕に自分の手を添える
…やっぱり、ここに居るのが一番好きなんだ、私
「…うん。絶対…絶対、だよ?」
「当たり前だ。…もし、万が一にでもそうなった時にゃ、オレも傍にいる。シアやシリウス達に止められても離れねえからな?」
「あはは…ユーリらしい」
「嫌か?」
「…まさか。そんなことあるわけないじゃん。…私だって、ずっとユーリと一緒に居たいもん」
「ははっ、それ聞けて安心だわ」
「…明日、絶対にみんなでここに戻って来ようね」
「おう。もちろんだ」
顔を上げてユーリを見ると、とても優しく微笑んで私を見つめていた
軽く目を瞑ると、ユーリの唇が触れる感覚がした
最後にこうしたのなんて、いつだっけ?
最近だったかもしれないけど、随分昔のことにも思える
…やっぱり、離れられないや
ユーリから離れるなんて不可能なんだ
それだけユーリが好きで、言い方を変えれば依存してる
繋いだこの手を離して欲しくなくて
離したくなくて…
…それでも、決意は変えられない
どんな結果になっても受け入れるって、決めたんだ
…でも、今だけは…
それを忘れて、ユーリのことだけを考えていても、いいかな…?
私の思いを肯定するかのように、空で瞬く星がキラリと光った