第3部〜星喰みの帰還と星暦の使命〜
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仲間のために
「あれか!?」
ヒピオニア大陸の上空に着くと、物凄い土煙が上がっているのが目に映った
「すごい土煙だよ。あれ全部魔物!?」
「この辺り一帯の魔物をアスタルが統治してたから…彼が居なくなった反動だね…」
「大陸中の魔物が殺到しているみたいよ」
こんなところで、アスタルを殺してしまったつけがまわって来るなんて…
「シア」
私の肩に手を乗せながら、ユーリが声をかけてくる
…わかってる、今は後悔している余裕はない
「本当にあのどこかにフレンがいるんです?」
「多分な」
「どうすんのよ?まさか全部倒していくつもり?」
「平気なのじゃ、二日ほどあれば、全部倒せるのじゃ、多分」
「二日って、そんなのんきな」
カロルの言う通り、そんなのんきなことは言っていられない
「…もう少し日が落ちれば、星の力借りて全部吹っ飛ばせるけど…」
「それは駄目です!そんなことしたらまた動けなくなってしまいます!」
「動けなくなるどころか、下手したらアリシアちゃんが死にかねないわ」
…まぁ、そうなるよね
わかっていたけどさ
「…リタ、例のリタ製宙の戒典、使えないか?」
「星喰みぶっ飛ばすみたいに魔物蹴散らかすってか?」
「そうね……。精霊の力に指向性を持たせて結界状のフィールドを展開し、魔物だけを排除、か…出来るはずよ」
「でも、それは星喰みに対するためのものでしょう?」
「けどそれしか何とかする方法思い付かないよ。アリシアに力使わせるわけにもいかないんだから」
「今使うか、後で使うか、悩ましいところじゃの」
「使わせてくれないか。頼む」
「私からもお願いします。宙の戒典は……人を救えるものって信じたいから…」
エステルの言葉にリタは小さく頷くと、走って船室へと戻って行った
そしてすぐにリタ製宙の戒典を持って出てきた
「そうね。これぐらいバーンと出来ちゃわないと星喰みになんて通用しないわ。アリシアが力使わないためにもね」
「そう。ならそうしましょうか」
「ユーリのあんちゃんがわがまま言うのも珍しいしな」
「シア姐のこともあるから、余計わがまま言いたかったんじゃのう」
「だね。たまには聞いてあげないとね!」
「ったく。茶化すんじゃねぇっての」
「…私にはしょっちゅうわがまま言ってると思うけど…」
ポツリと呟くと、傍にいたユーリに軽く小突かれた
その顔は、余計なこと言うなと言わんばかりに歪められていた
「それで、具体的にどうするの?」
「魔物が一番集まってる所で起動、これだけ。簡単でしょ?」
「簡単だな」
「おいおい…」
簡単だと言い合うリタとユーリに、レイヴンは呆れた顔をする
…まぁ、確かに手順事態は簡単だと思うな
そんなこと考えていると、どうやらリタ製宙の戒典に名前を付けるらしい
…名前つけようとしてるのがカロルなのがちょっと不安…
「うーん、うんとね、うん!明星壱号!どう!?」
やっぱりというか…うん、カロルらしい…
「……やめればよかった」
「あはは…まぁ、シンプルな方なんじゃない、かな…?」
最初のギルド名と比べたら…ね…
「バウルでも下手に近づくと危険ね。少し離れたところで降りるわ」
「よし、いっちょ行くか」
土煙の上がっている場所から少し離れたところで私達は降りた
地上に降りてから、その状態に絶句した
今までに見たことのない程の魔物がそこにいるんだから
「すごい状態……」
「あの中に突っ込むんだ……」
あまりのすごさに、みんなも絶句している
「…!ユーリ!あそこ!」
私の視線の先、魔物の群れの隙間からフレンが居るのが見えた
「フレン!」
ユーリが声をかけるが、フレンには届かなかったらしい
「おいおい。相当追い込まれてるぜ」
「見えなくなってしまったのじゃ」
「急いだほうが良さそうね。思い切って突っ切りましょう」
「行くぞ!はぐれるなよ!」
刀の鞘を飛ばしながらユーリは言う
そう、ここからが本番だ
私達は各々武器を持って土煙の中へと突っ込んだ
魔物を倒しながら突き進んでいく
これは…キリがないな……
「…!見えた……!」
魔物と戦うフレンの姿が見えて小さく呟く
大分疲弊しているようで、フレン以外の騎士達も疲れが見えていた
そんなフレンの真上を魔物が通過していこうとしている
「っ!させるか…ッ!」
その場で足を止めて詠唱を始める
「焼き尽くせ、ファイヤーボール!」
突然の出来事にフレンが驚いているのが見えた
「生きてるか?」
「ユーリ!どうしてここに!?」
「上官想いの副官さんに感謝しないとね」
「アリシア!…そうか、ソディアが……。だが、こんな状況だ。このままではいつかやられてしまう」
「切り札は我にありってね」
「なんだって?」
「こいつを、敵の真っ直中でスイッチポン。するとボン!ってわけだ」
「敵の中心で、か。この数だ、簡単じゃないよ」
「簡単さ、オレとお前がやるんだぜ?」
「ワォン!」
ユーリの言葉に、忘れるなと言わんばかりにラピードが鳴いた
「私だっているんだけどなぁ」
存在を忘れられているような気がして、少しムッとして二人を見る
「…分かった、やってみよう!」
そう言ってフレンはフッと笑う
下町でよく見ていたその笑顔に少しほっとした
「みんな、こいつの起動はオレたちがやる。ここは頼んだぜ!」
「あんたらだけで行く気?!無茶でしょ!」
「ここの守りを手薄にするわけにはいかない。ここを守り抜かねば僕達が魔物を退ける意味すらなくなるんだ」
「魔物を倒すためじゃなくてみんなを守るためだもんね」
「そゆこと」
「…それに、私達だけの方が連携取りやすいからね」
「アリシア、君のは連携とは言わないだろう?」
そう言ってフレンが軽く小突いて来た
…なんか私、今日小突かれてばっかじゃない…?
「頑張ってね、三人とも」
「いくぜ!」
「ああ!」「うん!」「ワン!」
ユーリの掛け声で、私達は魔物の群れの中心目掛けて走り出した
襲い掛かってくる魔物を倒しながら突き進む
三人でこうして進んで行くのなんて本当に久しぶりで、ほんの少し楽しいと思ってしまう
それは、多分、ユーリとフレンも同じなんだと思う
だって、時折見える二人の顔が楽しそうだから
「そろそろ群れの中心だ!」
「まだ戦い足りねぇけどな!」
「フッ、こんな時だというのに君は楽しそうだな」
「そう言うフレンも、楽しそうじゃんか」
「それはシアもだろ?」
「ワンワン!」
走りながらでも、私達の会話は変わらない
こうしていると似た者同士なんだと、改めて実感する
群れの中心で足を止める
「さぁ!ユーリ!」
「サクッとお願いね!」
「おう!」
明星壱号起動させるとそれを地面に突き立てる
「くらいな!」
ユーリがそう叫ぶと、辺りを眩い光が覆って行った
ー数時間後ー
魔物もだいぶ落ち着いてきて、辺りは暗くなってきていた
リタは明星壱号をジッと見つめながら何か考え事をしていた
「明星壱号、壊れちまったか。悪いことしたな」
「うん……筐体に使ってた素材が脆すぎたみたい」
「すまない、僕らのために」
「大丈夫、魔核も無事だし、修理は出来るわ。ただ……」
「思った以上にけが人が多いのじゃ」
「エステルのお陰で、みんな命は取り留めたけど、すぐには動かさない方がいいわね」
「しばらくここで守り抜くしかないか」
辺りを見回すと、確かに地べたに座り込んでいる人が多い
でも、このままで守り抜くのは少し難しい気が……
「それなら、ここを砦にしてしまえばいいんじゃない?」
背後から聞こえた声に振り返ると、カロルとカウフマンさんの姿が見えた
「お久しぶりね、ユーリ君。凛々の明星の噂、聞いているわよ。手配してた傭兵では十分じゃなかったようね。こちらの不手際で迷惑かけたわ」
「いえ、ギルドも今混乱しているでしょう。ご助力感謝します」
「お詫びと言ってはなんだけど、ここの防衛に協力するわ」
「あんたが戦うってのか?」
「まさか。私は商人よ。まあ見てらっしゃいな」
そう言うと彼女は去って行った
入れ違う形でウィチルとソディアが走って来るのが視界に映る
「フレン隊長、無事でよかった!」
「ウィチル!……なにかあったのか」
「はい、例のアスピオの側に出現した塔ですが、妙な術式を周囲に展開し始めました。紋章から推測するに、何か力を吸収しているようです」
「…!!」
ウィチルの言葉に息を呑む
まずい……デュークさんがついに動き始めたんだ
「それに合わせて、イリキア全土で住民が体調に異変を感じだしています」
「…っ!アルタイル!」
思わず彼女の名前を呼ぶ
今の時間なら、恐らくユーリが黒雷を持っていなくても聞こえるだろう
『そんなに大声で呼ばなくても…えっと、どうし』
「デュークさんのとこまで行くよ!早く辞めさせなと、取り返しがつかなくなる!」
『わわわっ!ちょ、待って!ストップ!まだみんなの準備整ってないでしょ!?』
「そんなのんきなこと言ってる暇ある!?あれが動いたら、もっと酷いことになるのわかってるでしょ!?」
『待てアリシア、落ち着くのだ。ユーリ達が方法を見つけた今急ぐことは』
「シリウスだって、のんびりしてたらイリキア以外にも広がるのわかってるでしょ!?そうなったら私達が今頑張ってるの、全部無駄に」
「待てってシア、少し落ち着け!誰一人話ついていけてねぇだろ?!」
ユーリに半強制的に会話を止められる
そんな事言われても、早くしないといけないんだ
「…夜だと、ユーリが黒雷持ってなくても聞こえるのね」
『いや…アリシアがそうなるように無意識下でしているのだ』
「悪ぃフレン、そっちの二人には後で説明してやってくれ。…んで、シリウス。なんでシアはこんなに焦ってんだ?」
『リタ・モルディオは既に気づいているかも知れぬが…タルカロンは今、人間の生命力を吸収している。生命とは、純度の高いマナだ。…そして星喰みにはエアルの攻撃は効かず、マナでのみ攻撃が可能だ。…この意味がわかるか?』
「人間の生命を、攻撃に使うつもり…?!」
「前に言ってた人間すべての命と引き換えに星喰みを倒すってのはこういう事だったのね」
「ちょっと待て。あいつはシアには危害を加えるつもりはねえって言ってたぜ。星暦は世界に必要だってな。人間すべての生命力を使うってことは、シアまで巻き込む気なのか?」
『…アリシアには……いや、お前達にはと言うべきか………あの術式は通じんよ。お前達にはこの子の先祖の加護がついている。…それは絶対的な守りとも言えるものだ。物理攻撃や寿命はどうにも出来ないが…大抵の術からはその身を守るはずだ』
「なるほどな…デュークの奴はそれを知ってるわけか」
『恐らくはそうだろう。ライラックと仲の良かった奴ならありえない話ではないな』
「ったく、面倒なことしてくれやがって…」
そう言ったユーリの心底イラついた様な表情を浮かべていた
そんなことよりも、私は早く行かせて欲しいんだけど…
「ね、ユーリ…!もういいでしょ?!アルタイ」
「駄目だっての!お前一人で行ってどうするつもりだよ?!とにかく一旦落ち着け!」
そう言ってユーリは私の腕を掴む
絶対に離さないと言わんばかりに強く掴まれた腕は、私の力では振りほどけそうにない
「こりゃウダウダしてられねえぜ」
「でも、思った通りこのままだと精霊の力が足りないわ。明星壱号を修理してもそれだけじゃ駄目ね」
「ええ?あんなすごい威力なのに!?」
「星喰みの大きさからすると、あれの何百倍もの力が必要になるわね」
「何百倍~?そりゃまた……」
「やっぱり災厄相手ともなると途方もない力がいるんじゃの」
「……やっぱ魔核を精霊に変えるしかないか」
淡々とみんなは話を続けていく
抵抗したところで離して貰えないから、私は黙って俯いた
……例え魔核を精霊に変えたって、倒せかなんてわからないのに
私の……私“達”の方が、何も心配なく倒せるのに……
『アリシア、そう卑屈になるな』
頭の中にシリウスの声が響く
(そう言われても……そうだと言ったのはシリウス達でしょ)
『あの段階ではな。…だが、今はどうだ?希望は見えているだろう?』
(そう…だけど…)
『…信じているのではないか?彼らを』
(……信じてる。信じてるよ。……でも、だからこそ怖い……。もし、もしも、星喰みが……)
『…アリシア……』
(……そうならないためにも、デュークさんを止めないといけないのに……)
『……だが、焦ってはいけないぞ。焦りは何もいい結果を生まない』
(……そう、だね……。ごめん、シリウス。…ありがとう)
「シア?」
ユーリの声にゆっくりと顔を上げる
「……ごめん。ちょっと取り乱した。……もう、大丈夫だから」
そう言って肩を竦めた
「……もう勝手に一人で勝手に行こうとしないって、誓えるか?」
「うん、もちろん。……ちゃんとみんなで一緒に行くよ」
「…そっか、ならいい。…ほら、行くぜ。ノードポリカとダングレストに行かねえと」
「…?うん、わかった」
なぜそこに行くのかはわからないけど、一緒に行動してればわかるだろう
私が頷くと、ユーリは私の手を握って歩き始めた
「アリシア殿!ユーリ…殿」
フェルティア号に戻る途中、ソディアが後ろから声をかけてきた
私達はそれに振り返る
「隊長を助けてくれて、その……感謝している。…………」
そう言った彼女は何とも言えない表情を浮かべていた
「みんな、ちょっと先に行っててくれ」
ユーリがそう言うと、みんなは先に歩いて行った
私の手を離すと、彼はそっとソディアに近づいた
「別に誰にも話しゃしねえよ」
「……なぜ?」
「あんたがあの時何故オレを殺そうとしたのか、わかっちまうからだよ。自分の手を汚してでも守りたいものがある。激しい感情にとらわれて自分でも思いがけないことをしちまう」
「……許されないことをしたのはわかっている。罪になんの咎めもないなんて、いっそ恨まれた方が……」
「甘ったれんな!オレは別にあんたのために恨まないわけじゃないし、あんたを楽にしてやるために恨むつもりもねえ」
鋭い口調でユーリは彼女に言い放った
確かに、恨まれた方が、なんて、ただの甘えだとは思う
……もう少し言い方ないのかな…
「私は……どうすれば……」
「オレはあんたにけじめをつけることなんざ何もねえからな。てめえで考えな」
そう言って彼女から視線を外す
その顔はあからさまに嫌悪していますよと言わんばかりに歪められていた
「……」
ソディアは黙ったまま俯く
「わかんねえなら……オレじゃなくて全てを話せる仲間と考えてみな。その上でフレンを守るってんならダチとして感謝すさ」
ユーリは最後にそう言って去って行こうとする
「あ………」
「……最後のはユーリなりの優しさだよ」
「…………あなたも、彼と同じ考えなのですか……?」
「私?うーん…そう、だね。前にも言ったけどあなたを恨む気はないわ。それは変わらない。私があなたの立場だったら……きっと同じことをするから」
「…………」
「…でも、後悔はしないかも」
「…………え?」
「大切な人を守るためなら、たとえどんな結果になったとしても後悔はしないわ。…後悔しても、やったことは変わらないから……」
「…………」
「……もし、後悔したなら……反省してこの先どうふるまえばいいのか……それを考えると思う。…一人でダメなら、信頼できる人と、一緒になって、ね」
「……あなたは…強いですね……。私にはそんな覚悟……」
「強くなんてないわ。……そうしないと、守りたい人たちを守れなかっただけ。…ゆっくりでもいいから考えればいいと思うわ。…自分の納得できる答えを」
「……はい……」
彼女の返事を聞いてから、私はその場を後にした
みんなが、待ってる
『……アリシア……』
「…どうしたの?アリオト」
『………時が、近付いています。我らが説得を続けていますが……彼でももう、抑えることが難しい段階まで来てしまいました』
「……っ!」
『…長くは持ちません。出来るだけ早く……かの者を精霊の力で……でないと、あなたが……』
「…………大丈夫だよ、アリオト。……きっと、何とかなるから」
『………お願いしましたよ』
「…………きっと、大丈夫。……どんな結果になっても、受け入れるよ。……覚悟は、してるから……」
「あれか!?」
ヒピオニア大陸の上空に着くと、物凄い土煙が上がっているのが目に映った
「すごい土煙だよ。あれ全部魔物!?」
「この辺り一帯の魔物をアスタルが統治してたから…彼が居なくなった反動だね…」
「大陸中の魔物が殺到しているみたいよ」
こんなところで、アスタルを殺してしまったつけがまわって来るなんて…
「シア」
私の肩に手を乗せながら、ユーリが声をかけてくる
…わかってる、今は後悔している余裕はない
「本当にあのどこかにフレンがいるんです?」
「多分な」
「どうすんのよ?まさか全部倒していくつもり?」
「平気なのじゃ、二日ほどあれば、全部倒せるのじゃ、多分」
「二日って、そんなのんきな」
カロルの言う通り、そんなのんきなことは言っていられない
「…もう少し日が落ちれば、星の力借りて全部吹っ飛ばせるけど…」
「それは駄目です!そんなことしたらまた動けなくなってしまいます!」
「動けなくなるどころか、下手したらアリシアちゃんが死にかねないわ」
…まぁ、そうなるよね
わかっていたけどさ
「…リタ、例のリタ製宙の戒典、使えないか?」
「星喰みぶっ飛ばすみたいに魔物蹴散らかすってか?」
「そうね……。精霊の力に指向性を持たせて結界状のフィールドを展開し、魔物だけを排除、か…出来るはずよ」
「でも、それは星喰みに対するためのものでしょう?」
「けどそれしか何とかする方法思い付かないよ。アリシアに力使わせるわけにもいかないんだから」
「今使うか、後で使うか、悩ましいところじゃの」
「使わせてくれないか。頼む」
「私からもお願いします。宙の戒典は……人を救えるものって信じたいから…」
エステルの言葉にリタは小さく頷くと、走って船室へと戻って行った
そしてすぐにリタ製宙の戒典を持って出てきた
「そうね。これぐらいバーンと出来ちゃわないと星喰みになんて通用しないわ。アリシアが力使わないためにもね」
「そう。ならそうしましょうか」
「ユーリのあんちゃんがわがまま言うのも珍しいしな」
「シア姐のこともあるから、余計わがまま言いたかったんじゃのう」
「だね。たまには聞いてあげないとね!」
「ったく。茶化すんじゃねぇっての」
「…私にはしょっちゅうわがまま言ってると思うけど…」
ポツリと呟くと、傍にいたユーリに軽く小突かれた
その顔は、余計なこと言うなと言わんばかりに歪められていた
「それで、具体的にどうするの?」
「魔物が一番集まってる所で起動、これだけ。簡単でしょ?」
「簡単だな」
「おいおい…」
簡単だと言い合うリタとユーリに、レイヴンは呆れた顔をする
…まぁ、確かに手順事態は簡単だと思うな
そんなこと考えていると、どうやらリタ製宙の戒典に名前を付けるらしい
…名前つけようとしてるのがカロルなのがちょっと不安…
「うーん、うんとね、うん!明星壱号!どう!?」
やっぱりというか…うん、カロルらしい…
「……やめればよかった」
「あはは…まぁ、シンプルな方なんじゃない、かな…?」
最初のギルド名と比べたら…ね…
「バウルでも下手に近づくと危険ね。少し離れたところで降りるわ」
「よし、いっちょ行くか」
土煙の上がっている場所から少し離れたところで私達は降りた
地上に降りてから、その状態に絶句した
今までに見たことのない程の魔物がそこにいるんだから
「すごい状態……」
「あの中に突っ込むんだ……」
あまりのすごさに、みんなも絶句している
「…!ユーリ!あそこ!」
私の視線の先、魔物の群れの隙間からフレンが居るのが見えた
「フレン!」
ユーリが声をかけるが、フレンには届かなかったらしい
「おいおい。相当追い込まれてるぜ」
「見えなくなってしまったのじゃ」
「急いだほうが良さそうね。思い切って突っ切りましょう」
「行くぞ!はぐれるなよ!」
刀の鞘を飛ばしながらユーリは言う
そう、ここからが本番だ
私達は各々武器を持って土煙の中へと突っ込んだ
魔物を倒しながら突き進んでいく
これは…キリがないな……
「…!見えた……!」
魔物と戦うフレンの姿が見えて小さく呟く
大分疲弊しているようで、フレン以外の騎士達も疲れが見えていた
そんなフレンの真上を魔物が通過していこうとしている
「っ!させるか…ッ!」
その場で足を止めて詠唱を始める
「焼き尽くせ、ファイヤーボール!」
突然の出来事にフレンが驚いているのが見えた
「生きてるか?」
「ユーリ!どうしてここに!?」
「上官想いの副官さんに感謝しないとね」
「アリシア!…そうか、ソディアが……。だが、こんな状況だ。このままではいつかやられてしまう」
「切り札は我にありってね」
「なんだって?」
「こいつを、敵の真っ直中でスイッチポン。するとボン!ってわけだ」
「敵の中心で、か。この数だ、簡単じゃないよ」
「簡単さ、オレとお前がやるんだぜ?」
「ワォン!」
ユーリの言葉に、忘れるなと言わんばかりにラピードが鳴いた
「私だっているんだけどなぁ」
存在を忘れられているような気がして、少しムッとして二人を見る
「…分かった、やってみよう!」
そう言ってフレンはフッと笑う
下町でよく見ていたその笑顔に少しほっとした
「みんな、こいつの起動はオレたちがやる。ここは頼んだぜ!」
「あんたらだけで行く気?!無茶でしょ!」
「ここの守りを手薄にするわけにはいかない。ここを守り抜かねば僕達が魔物を退ける意味すらなくなるんだ」
「魔物を倒すためじゃなくてみんなを守るためだもんね」
「そゆこと」
「…それに、私達だけの方が連携取りやすいからね」
「アリシア、君のは連携とは言わないだろう?」
そう言ってフレンが軽く小突いて来た
…なんか私、今日小突かれてばっかじゃない…?
「頑張ってね、三人とも」
「いくぜ!」
「ああ!」「うん!」「ワン!」
ユーリの掛け声で、私達は魔物の群れの中心目掛けて走り出した
襲い掛かってくる魔物を倒しながら突き進む
三人でこうして進んで行くのなんて本当に久しぶりで、ほんの少し楽しいと思ってしまう
それは、多分、ユーリとフレンも同じなんだと思う
だって、時折見える二人の顔が楽しそうだから
「そろそろ群れの中心だ!」
「まだ戦い足りねぇけどな!」
「フッ、こんな時だというのに君は楽しそうだな」
「そう言うフレンも、楽しそうじゃんか」
「それはシアもだろ?」
「ワンワン!」
走りながらでも、私達の会話は変わらない
こうしていると似た者同士なんだと、改めて実感する
群れの中心で足を止める
「さぁ!ユーリ!」
「サクッとお願いね!」
「おう!」
明星壱号起動させるとそれを地面に突き立てる
「くらいな!」
ユーリがそう叫ぶと、辺りを眩い光が覆って行った
ー数時間後ー
魔物もだいぶ落ち着いてきて、辺りは暗くなってきていた
リタは明星壱号をジッと見つめながら何か考え事をしていた
「明星壱号、壊れちまったか。悪いことしたな」
「うん……筐体に使ってた素材が脆すぎたみたい」
「すまない、僕らのために」
「大丈夫、魔核も無事だし、修理は出来るわ。ただ……」
「思った以上にけが人が多いのじゃ」
「エステルのお陰で、みんな命は取り留めたけど、すぐには動かさない方がいいわね」
「しばらくここで守り抜くしかないか」
辺りを見回すと、確かに地べたに座り込んでいる人が多い
でも、このままで守り抜くのは少し難しい気が……
「それなら、ここを砦にしてしまえばいいんじゃない?」
背後から聞こえた声に振り返ると、カロルとカウフマンさんの姿が見えた
「お久しぶりね、ユーリ君。凛々の明星の噂、聞いているわよ。手配してた傭兵では十分じゃなかったようね。こちらの不手際で迷惑かけたわ」
「いえ、ギルドも今混乱しているでしょう。ご助力感謝します」
「お詫びと言ってはなんだけど、ここの防衛に協力するわ」
「あんたが戦うってのか?」
「まさか。私は商人よ。まあ見てらっしゃいな」
そう言うと彼女は去って行った
入れ違う形でウィチルとソディアが走って来るのが視界に映る
「フレン隊長、無事でよかった!」
「ウィチル!……なにかあったのか」
「はい、例のアスピオの側に出現した塔ですが、妙な術式を周囲に展開し始めました。紋章から推測するに、何か力を吸収しているようです」
「…!!」
ウィチルの言葉に息を呑む
まずい……デュークさんがついに動き始めたんだ
「それに合わせて、イリキア全土で住民が体調に異変を感じだしています」
「…っ!アルタイル!」
思わず彼女の名前を呼ぶ
今の時間なら、恐らくユーリが黒雷を持っていなくても聞こえるだろう
『そんなに大声で呼ばなくても…えっと、どうし』
「デュークさんのとこまで行くよ!早く辞めさせなと、取り返しがつかなくなる!」
『わわわっ!ちょ、待って!ストップ!まだみんなの準備整ってないでしょ!?』
「そんなのんきなこと言ってる暇ある!?あれが動いたら、もっと酷いことになるのわかってるでしょ!?」
『待てアリシア、落ち着くのだ。ユーリ達が方法を見つけた今急ぐことは』
「シリウスだって、のんびりしてたらイリキア以外にも広がるのわかってるでしょ!?そうなったら私達が今頑張ってるの、全部無駄に」
「待てってシア、少し落ち着け!誰一人話ついていけてねぇだろ?!」
ユーリに半強制的に会話を止められる
そんな事言われても、早くしないといけないんだ
「…夜だと、ユーリが黒雷持ってなくても聞こえるのね」
『いや…アリシアがそうなるように無意識下でしているのだ』
「悪ぃフレン、そっちの二人には後で説明してやってくれ。…んで、シリウス。なんでシアはこんなに焦ってんだ?」
『リタ・モルディオは既に気づいているかも知れぬが…タルカロンは今、人間の生命力を吸収している。生命とは、純度の高いマナだ。…そして星喰みにはエアルの攻撃は効かず、マナでのみ攻撃が可能だ。…この意味がわかるか?』
「人間の生命を、攻撃に使うつもり…?!」
「前に言ってた人間すべての命と引き換えに星喰みを倒すってのはこういう事だったのね」
「ちょっと待て。あいつはシアには危害を加えるつもりはねえって言ってたぜ。星暦は世界に必要だってな。人間すべての生命力を使うってことは、シアまで巻き込む気なのか?」
『…アリシアには……いや、お前達にはと言うべきか………あの術式は通じんよ。お前達にはこの子の先祖の加護がついている。…それは絶対的な守りとも言えるものだ。物理攻撃や寿命はどうにも出来ないが…大抵の術からはその身を守るはずだ』
「なるほどな…デュークの奴はそれを知ってるわけか」
『恐らくはそうだろう。ライラックと仲の良かった奴ならありえない話ではないな』
「ったく、面倒なことしてくれやがって…」
そう言ったユーリの心底イラついた様な表情を浮かべていた
そんなことよりも、私は早く行かせて欲しいんだけど…
「ね、ユーリ…!もういいでしょ?!アルタイ」
「駄目だっての!お前一人で行ってどうするつもりだよ?!とにかく一旦落ち着け!」
そう言ってユーリは私の腕を掴む
絶対に離さないと言わんばかりに強く掴まれた腕は、私の力では振りほどけそうにない
「こりゃウダウダしてられねえぜ」
「でも、思った通りこのままだと精霊の力が足りないわ。明星壱号を修理してもそれだけじゃ駄目ね」
「ええ?あんなすごい威力なのに!?」
「星喰みの大きさからすると、あれの何百倍もの力が必要になるわね」
「何百倍~?そりゃまた……」
「やっぱり災厄相手ともなると途方もない力がいるんじゃの」
「……やっぱ魔核を精霊に変えるしかないか」
淡々とみんなは話を続けていく
抵抗したところで離して貰えないから、私は黙って俯いた
……例え魔核を精霊に変えたって、倒せかなんてわからないのに
私の……私“達”の方が、何も心配なく倒せるのに……
『アリシア、そう卑屈になるな』
頭の中にシリウスの声が響く
(そう言われても……そうだと言ったのはシリウス達でしょ)
『あの段階ではな。…だが、今はどうだ?希望は見えているだろう?』
(そう…だけど…)
『…信じているのではないか?彼らを』
(……信じてる。信じてるよ。……でも、だからこそ怖い……。もし、もしも、星喰みが……)
『…アリシア……』
(……そうならないためにも、デュークさんを止めないといけないのに……)
『……だが、焦ってはいけないぞ。焦りは何もいい結果を生まない』
(……そう、だね……。ごめん、シリウス。…ありがとう)
「シア?」
ユーリの声にゆっくりと顔を上げる
「……ごめん。ちょっと取り乱した。……もう、大丈夫だから」
そう言って肩を竦めた
「……もう勝手に一人で勝手に行こうとしないって、誓えるか?」
「うん、もちろん。……ちゃんとみんなで一緒に行くよ」
「…そっか、ならいい。…ほら、行くぜ。ノードポリカとダングレストに行かねえと」
「…?うん、わかった」
なぜそこに行くのかはわからないけど、一緒に行動してればわかるだろう
私が頷くと、ユーリは私の手を握って歩き始めた
「アリシア殿!ユーリ…殿」
フェルティア号に戻る途中、ソディアが後ろから声をかけてきた
私達はそれに振り返る
「隊長を助けてくれて、その……感謝している。…………」
そう言った彼女は何とも言えない表情を浮かべていた
「みんな、ちょっと先に行っててくれ」
ユーリがそう言うと、みんなは先に歩いて行った
私の手を離すと、彼はそっとソディアに近づいた
「別に誰にも話しゃしねえよ」
「……なぜ?」
「あんたがあの時何故オレを殺そうとしたのか、わかっちまうからだよ。自分の手を汚してでも守りたいものがある。激しい感情にとらわれて自分でも思いがけないことをしちまう」
「……許されないことをしたのはわかっている。罪になんの咎めもないなんて、いっそ恨まれた方が……」
「甘ったれんな!オレは別にあんたのために恨まないわけじゃないし、あんたを楽にしてやるために恨むつもりもねえ」
鋭い口調でユーリは彼女に言い放った
確かに、恨まれた方が、なんて、ただの甘えだとは思う
……もう少し言い方ないのかな…
「私は……どうすれば……」
「オレはあんたにけじめをつけることなんざ何もねえからな。てめえで考えな」
そう言って彼女から視線を外す
その顔はあからさまに嫌悪していますよと言わんばかりに歪められていた
「……」
ソディアは黙ったまま俯く
「わかんねえなら……オレじゃなくて全てを話せる仲間と考えてみな。その上でフレンを守るってんならダチとして感謝すさ」
ユーリは最後にそう言って去って行こうとする
「あ………」
「……最後のはユーリなりの優しさだよ」
「…………あなたも、彼と同じ考えなのですか……?」
「私?うーん…そう、だね。前にも言ったけどあなたを恨む気はないわ。それは変わらない。私があなたの立場だったら……きっと同じことをするから」
「…………」
「…でも、後悔はしないかも」
「…………え?」
「大切な人を守るためなら、たとえどんな結果になったとしても後悔はしないわ。…後悔しても、やったことは変わらないから……」
「…………」
「……もし、後悔したなら……反省してこの先どうふるまえばいいのか……それを考えると思う。…一人でダメなら、信頼できる人と、一緒になって、ね」
「……あなたは…強いですね……。私にはそんな覚悟……」
「強くなんてないわ。……そうしないと、守りたい人たちを守れなかっただけ。…ゆっくりでもいいから考えればいいと思うわ。…自分の納得できる答えを」
「……はい……」
彼女の返事を聞いてから、私はその場を後にした
みんなが、待ってる
『……アリシア……』
「…どうしたの?アリオト」
『………時が、近付いています。我らが説得を続けていますが……彼でももう、抑えることが難しい段階まで来てしまいました』
「……っ!」
『…長くは持ちません。出来るだけ早く……かの者を精霊の力で……でないと、あなたが……』
「…………大丈夫だよ、アリオト。……きっと、何とかなるから」
『………お願いしましたよ』
「…………きっと、大丈夫。……どんな結果になっても、受け入れるよ。……覚悟は、してるから……」