第3部〜星喰みの帰還と星暦の使命〜
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浮上する古代都市
ー次の日ー
昨日泣き続けて眠ってしまっているパティが起きるのを、私達は静かに待った
エステルとカロルはリタの作った即席の宙の戒典を見つめている
「…」
「起きたわよ、泣き虫が」
「どうだ。ひとしきり泣いたら楽になったか」
「…全然、大丈夫なのじゃ」
「よし…。で、これからパティはどうするんだ」
「そうね、記憶も戻ったようだし会いたい相手にも会えた訳だしね」
「勿論、ユーリ達と一緒に行くのじゃ」
パティはそう言って大きく頷いた
「良いんです、それで?」
「んじゃ。流石に星喰みを放っておく訳にはいかんのじゃ。それに、此処まで来たのじゃ。最後まで付いていかせろ」
「んじゃ、改めてパティ、よろしくな」
「うむ。よろしくするのじゃ」
ニッコリと、パティは笑った
「えっと・・・ちょっと色々聞きづらくて、聞けなかった事があるんだけど・・・」
そんなパティに、カロルは遠慮気味に声をかける
「ま、気になる事はあるだろうけど、おいおい話聞いてこうぜ」
「のじゃ。気が向いたら、話をするのじゃ」
「で、でもさ・・・」
「いいんじゃん、気が向いたら話すって本人が言ってるんだもん。待ってあげようよ?」
カロルを見つめながら苦笑いして私は言う
だって、本人もまだ辛いはずなんだもん
そっとしておいて、あげないと…ね?
「あら、あなたも言うことがあるんじゃないかしら?」
そう言って、ジュディスは私を見つめてくる
…あぁ、そう言えば、まだ話してなかったっけ…
「そうねぇ。聞きたいこと多すぎて、何から説明してもらうか悩む程には、言うことあるんじゃないのよさ?」
ニコッと笑いながら言ってくるレイヴンがやたら怖い…
「そんな顔しなくても全部話すって……」
そう言って肩をすくめる
もうすっかりみんな聞く体制に入ってる
軽く深呼吸してから私は口を開いた
「…まず、私があの時前衛に出なかった理由。あの時、何かから物凄い威圧されていて、息するのもやっとだったくらいなんだ」
「何かって……」
「……多分、ブラックホープ号事件で魔物化してしまった人達の…怨念、みたいなものなんじゃないかな」
「うむ…確かに、奴らは原因となった奴を怨んでいてもおかしくないがの…。でも、なんでシア姐なのじゃ?」
「………あれは、お兄様が仕組んだ事だから、だよ」
パティの言葉にそう返した
私は資料しか見てないけど、あれは、紛れもなくお兄様がやったこと
…思い出すのに、随分時間かかっちゃったけど…
「なるほどな。だからアレクセイはあの時、『アイフリード』って言ったわけか」
ユーリはそれに気づいていたようで、納得したように頷いていた
「彼が最後に、アリシアに向かって言い残したことも納得いきます」
「忘れないようにって、釘を打って起きたかったんだろうね。…そんな事しなくても、もう忘れたりなんてできないのに」
苦笑いしながら肩をすくめる
あんな光景見せられたら、忘れるなんてできるはずがない
「…あたしはそれよりも、あの戦闘であんたがした事の方が気になるわ」
今まで口を閉ざしていたリタが、ゆっくりと口を開いて、そう言った
…まぁ、リタからしたらそっちが本題か
「『レグルス』って、あんたの一族の最初の長なんでしょ?なんでそいつの名前呼んで、術が発動したわけ?それに、あの術は何よ?」
「そんないっぺんに聞かなくったって…ちゃんと全部話すってば」
そう言いながら、リタは詰め寄ってくる
ここまで食いかかってくる親友に、思わず失笑してしまう
研究熱心なのはいいんだけど、こうゆう時少し困る
「リタ、そんなに食いかかったらシアだって話しにくいだろ?」
ユーリのその言葉にリタはほんの少し間を置いてから、私から少し離れた
「…私の先祖の集落の跡地での出来事、覚えてる?」
私がそう聞くと、みんな不思議そうにしながらも首を縦に振った
「あの時、彼らは言ってたでしょ?《其方を天より見守る》、《天空より見守っていよう》って」
「確かに言ってたけど…それが関係あるの?」
「…星暦の中でも、優れた力を持った人は、死んだ後、あの空で輝く星に変わるんだ」
「人が…星に…?!」
私の言葉に、みんな驚きを隠せずにいた
「そ。…だから、シリウスもアリオトも、みんな元は地上で生きてた人なんだよ」
「…そんなことがあるのねぇ……おっさん驚きだわ」
「でも…それなら彼らはずっと、あのままなんです…?」
「うーん……ちょっと違う、かな。前に話した属性があるでしょ?星暦にもそれぞれ得意な属性があって、星暦が死んだ時、星は代替わりするんだ。…まぁ、ここ数百年は、星暦の数も減ってるから、代替わりなんて殆ど出来てないみたいなんだけどさ…」
そう言って少し顔を伏せた
いつ終わるかもわからない、永遠の命を手に入れたのと変わりない彼らは、どんな気分なんだろうか
それは、私にはわからない
「…で、レグルスは彼に相当する人が今までいなかったから、代替わりせず、ずっと空にいるってわけ」
「それはわかったわ。でも、肝心なところがわかってない」
「もう、リタはせっかちだなぁ…。…レグルスは星暦の初代、ってだけあって、その力も物凄く強かった。星になってからは、全ての力を統べる者になった。…まぁ、ようは指導者、だね。で、昨日のはその中でも彼が生前から得意だった浄化だね」
「浄化…?」
「要は、亡くなった人の怨念や未練を消し去る術…って所かな。亡くなった人のそう言う負の感情って、残りやすいものだから。それが稀に生きてる人を傷つけることが、昔はよくあったんだよ」
「そうなる前に消し去ってやるための術、か」
「そうゆうこと」
「…ぼく、頭パンクしそう……」
「むむむ……うちにもわからないのじゃ……」
カロルとパティが頭を抱えているのが視界の隅に映る
二人には難しすぎたかな…
「はいっ!じゃあこの話はここまで!」
パンッと手を合わせながらそう言う
これ以上は話す事も無いし、何よりカロル達がオーバーヒートしかねない
「…わかったわ。でも、今度もっと詳しく聞くわよ?」
じっと私を見つめながらリタは言ってくる
「あ、あはは…お手柔らかにお願いするよ」
そう言って、これからどうするか聞こうとした時だった
物凄い地鳴りが辺りに響き渡った
「っ!?な、何?!」
「外に出てみよう!」
そう言って、私達は宿屋の外へと出た
すると、アスピオの方向から大きな建物が浮上して行っているのが目に入る
あれは……まさか………
「何よ…あれ…!!あれじゃ、アスピオは…」
「山…うんにゃ…建物みたいなのじゃ…」
「…タルカロン……」
ポツリと小さく呟く
あれは、間違いない
家にある資料にあったタルカロンで間違いない
「タルカロンって?」
「…タルカロンの塔。古代ゲライオス文明が終わると同時に埋められた街……」
「そんなものが………」
みんな絶句して空に浮かんだタルカロンを見つめている
…デュークさんは、あれを使うんだ
でも…あれを使ったら……
「なぁそこの長くて黒髪のあんたと、長くて赤髪のあんた、ちょっといいか?」
呆然としていると、一人の男の人が私とユーリに話しかけてきた
「なんだよ?」
「あんた等みたいな風貌の人を見かけたら教えて欲しいって騎士団の人に言われててな。なんでも新しい騎士団長フレン殿について話したい事があるとか」
「なんだと?」
彼の言葉に私とユーリは顔を見合わせた
「人違いじゃなさそうか?」
「はい」
「なぁ、オレ達を探してたヤツって猫みたいなつり目の姉さんとリンゴみたいな頭したガキか?」
「あ? ああ。そうだが」
「……」
ユーリは浮かない顔をして視線を少し反らせた
大方、あの事が気がかりなんだろう
「宿で待ってりゃ良いか?」
「ああ。それで良い。呼んでくる」
そう言うと、彼は走って行ってしまった
「…ユーリ、行こ?」
そう言ってユーリに手を差し出す
少し躊躇いながらも、彼は私の手を取った
いつもは隠しているはずの不機嫌を、今日は隠そうともせず辺りに撒き散らしている
ユーリの纏う重い空気に、他のメンバーは少し離れたところで待機している
暫くして、扉の外から誰かが走ってくる音が聞こえてきた
「ようやく捕まえましたよ! 何処ほっつき歩いてたんですか」
勢いよく扉を開けて入ってきたのはウィチルだった
「ユーリ・・・ローウェル・・・」
その後をゆっくりと、気まづそうにソディアが入ってくる
私達を見ると、彼女は気まづそうに顔を背けた
「ソディア?」
ウィチルは不思議そうに首を傾げながら彼女の名前を呼んだ
「んで、フレンがどうしたってんだよ」
「あん、はい、あの怪物が空を覆ってから、大勢この大陸から避難してるんです。でもギルドの船団で帝国の護衛を拒否するのがいて、隊長はそれを放っておけなくて。魔物に襲われた船団はピピオニアに漂着、僕達は戦ったけど段々、追い詰められて…」
「私達だけが救援を求める為、脱出させられた…でも騎士団は各地に散っていて…」
「もう皆さんにお願いするしか方法はないんです」
「しかし…時が経ち過ぎた…隊長はもう…」
「相変わらずつまんねぇ事しか言えないヤツだな」
「な、なに!」
等々痺れを切らしたらしいユーリが2人に近づいてそう言う
「諦めちまったのか? お前、何の為に今までやってきたんだよ?」
「私は! 私はあの方…フレン隊長の為に! あの時だって…」
最後の言葉は小さく、私とユーリが聞き取れる程度の音量だったら
「ふん。めそめそしててめえの覚悟忘れて諦めちまうやつにフレンの為とか言わせねぇ」
ユーリのその言葉には少しだけ怒りが混じっていた
「覚悟….」
そう呟いて、彼女は項垂れた
「リンゴ頭! ピピオニアだったな」
「え、ええ」
「そう言う訳だ。ちょっと行ってくるわ。みんなはタルカロンに行く準備を…」
「ユーリ、まさか一人で行くつもり?」
一人で出ようとしたユーリを静止する
私には一人で行動するなって言うくせに、自分はしようとするなんてユーリらしいけど…
でも、一人でなんて行かせられない
「私達も行きますよ?」
「そうだよ、悪いクセだよ、ユーリ」
「そう言うけどな、割とヤバそうな感じだぜ?」
「なら、尚更一緒に行かないとだね」
「それにバウルが言う事聞かないと思うけど?」
「一人はギルドの為に、ギルドは一人の為に、なんでしょ」
「時間ないならちゃっちゃと行って片付けようじゃないの」
「だね」
「うちは噛み付いたウツボ以上の勢いで、死ぬまでユーリに着いて回るぞ」
「ったく付き合い良いな。そんじゃ行くか!」
さっきまでの不機嫌はどこに行ったのか、ニヤッといつもの笑みを浮かべてユーリは言う
「おー! 凛々の明星出撃ぃ!」
「ワン!」
ユーリを先頭に、みんな宿屋から出て行った
チラッと後ろを見るが、ソディアはまだ俯いている
…今は、そっとしておこう
そう思って、私もみんなの後を追いかけた
「ユーリ・ローウェル!アリシア殿…!」
街から出ようとしたところで声をかけられる
振り返ると、そこにはソディアがいた
「何故だ! どうしてあの時の事を咎めない? 私はお前を…そして、アリシア殿を…」
「水に流したつもりはねぇ。けどな、オレは諦めちまったヤツに構ってる程暇じゃねぇんだよ」
「諦めてなど…」
「なら何で一人ででもフレンを助けに行かない? オレを消してでも守りたかったあいつの存在をどうして守りにいかねぇ!」
ユーリの鋭く彼女に言い放った
その鋭さに彼女は肩を竦めた
「私では………あの人を守れない………頼む……彼を……助けて……お願い……」
「言われるまでもねぇ」
「お願い……」
か細い声で彼女はそう言った
余程助けられないのが悔しいのか、その両手は思い切り握りしめられていた
「ああ、あんたの言う事で一つだけ同意出来る事があるぜ」
ユーリは彼女に背を向けたまま話しかける
彼女はなんのことかわからないらしくほんの少し首を傾げた
「オレは罪人。いつ斬られても可笑しくない。そしてフレンは騎士の鑑。今後の帝国騎士を導いていく男。その隣に罪人は相応しくない」
そう言い切ったユーリの表情は、どこか清々しさがあった
「オレはさしずめ、あいつに相応しいヤツが現れるまでの、ま、代役ってヤツさ」
そう言うと、ユーリは先に歩いて行った
「…私は、あなたを咎めるつもりはないわ。…だって、なんとなくわかるもの、その気持ち」
そう言うと、彼女は驚いた顔で私を見た
「…大切な人を守るために、そうしないとって思うこと、わかるよ。…けど、少し考えて欲しいんだ。本当にそれが正しいのか。…フレンがそれを望んでいるのかを」
そう言うと彼女は大きく目を見開いた
そして、項垂れる
これ以上私から言うこともないから、みんなの後を追いかけた
追いつくと、一番後ろにユーリがいた
「…ね、ユーリ」
前にいるみんなに聞こえないように、小さく声をかける
「ん?」
「…私はユーリがフレンに相応しい人が見つかるまでの代役だなんて、思ってないよ」
そう言うと、ユーリは少し顔を顰めた
「……フレンの隣には、ユーリにいて欲しい。もちろん、ユーリの隣には、フレンにいて欲しい。……もちろん、私も二人の隣にいるつもりだけど、ね?」
そう言って笑いかけると、ユーリはしかめっ面から驚いた顔に変わる
性格も見た目も正反対な二人だけど…
でも、そんな二人だからこそ、分かり合えるものがあって
そんな二人だからこそ、互いの手の届かないところをカバーし合える
そんな二人だからこそ、時には激しく対立もするけど…
それでも、必ず最後は仲直りできる
ユーリもフレンも目指してる先は同じだから
だからこそ、正反対でも分かり合えているんだ
「…ユーリとフレンが一緒に、何かを成し遂げようとするのを見るのが、私好きだよ。…その二人と一緒になって、何かを成し遂げようとするのも好き。…私の両手は、ユーリとは比べ物にならないくらい汚れちゃったけど…。…それでもね、二人の隣に居たいんだ。…だからさ、ユーリ。フレンの隣にいるのが相応しくないなんて、思わないで」
「…シア……」
「…今は、相応しくないって思ってるのかもしれないけど…でも、きっと。きっと、フレンもそんな風になんて思ってないはずだから。自分の隣にユーリは相応しくない、なんて、絶対思ってないから。…だから」
「わーったよ。…お前の気持ち、ちゃんと伝わってるぜ」
私の言葉をユーリは遮った
そして私の手をしっかりと握りしめてくる
「…シアのこの手も、フレンの手も、オレは絶対離さねぇって、約束するよ」
そう言ってユーリは微笑んだ
とても嬉しそうなその笑顔から、目が離せない
「…だからシア、絶対に、星喰みを倒すのに自分を犠牲になんてすんなよ?」
その言葉はとっても真剣で、しっかりと握られている手からはほんの少し震えが伝わってきている
「…ん、わかってるよ」
ニッコリと笑って私は答える
そうしないで倒せるのが一番だ
私だって、ユーリとまだサヨナラなんてしたくない
…まだまだ、ユーリの傍にいたい
「こらー!そこのバカップル!!いつまで乗らないつもり!?おいて行くわよ!?」
船の上からリタの怒鳴り声が聞こえてくる
いつの間にか、みんな乗り込んでいたみたいだ
「おーおー、怖い怖い。すぐ乗るっての!」
ユーリは苦笑いしながらそう返した
「…シア、行こうぜ」
「…うん!」
ユーリに引かれて、私達も船に乗り込んだ
ー次の日ー
昨日泣き続けて眠ってしまっているパティが起きるのを、私達は静かに待った
エステルとカロルはリタの作った即席の宙の戒典を見つめている
「…」
「起きたわよ、泣き虫が」
「どうだ。ひとしきり泣いたら楽になったか」
「…全然、大丈夫なのじゃ」
「よし…。で、これからパティはどうするんだ」
「そうね、記憶も戻ったようだし会いたい相手にも会えた訳だしね」
「勿論、ユーリ達と一緒に行くのじゃ」
パティはそう言って大きく頷いた
「良いんです、それで?」
「んじゃ。流石に星喰みを放っておく訳にはいかんのじゃ。それに、此処まで来たのじゃ。最後まで付いていかせろ」
「んじゃ、改めてパティ、よろしくな」
「うむ。よろしくするのじゃ」
ニッコリと、パティは笑った
「えっと・・・ちょっと色々聞きづらくて、聞けなかった事があるんだけど・・・」
そんなパティに、カロルは遠慮気味に声をかける
「ま、気になる事はあるだろうけど、おいおい話聞いてこうぜ」
「のじゃ。気が向いたら、話をするのじゃ」
「で、でもさ・・・」
「いいんじゃん、気が向いたら話すって本人が言ってるんだもん。待ってあげようよ?」
カロルを見つめながら苦笑いして私は言う
だって、本人もまだ辛いはずなんだもん
そっとしておいて、あげないと…ね?
「あら、あなたも言うことがあるんじゃないかしら?」
そう言って、ジュディスは私を見つめてくる
…あぁ、そう言えば、まだ話してなかったっけ…
「そうねぇ。聞きたいこと多すぎて、何から説明してもらうか悩む程には、言うことあるんじゃないのよさ?」
ニコッと笑いながら言ってくるレイヴンがやたら怖い…
「そんな顔しなくても全部話すって……」
そう言って肩をすくめる
もうすっかりみんな聞く体制に入ってる
軽く深呼吸してから私は口を開いた
「…まず、私があの時前衛に出なかった理由。あの時、何かから物凄い威圧されていて、息するのもやっとだったくらいなんだ」
「何かって……」
「……多分、ブラックホープ号事件で魔物化してしまった人達の…怨念、みたいなものなんじゃないかな」
「うむ…確かに、奴らは原因となった奴を怨んでいてもおかしくないがの…。でも、なんでシア姐なのじゃ?」
「………あれは、お兄様が仕組んだ事だから、だよ」
パティの言葉にそう返した
私は資料しか見てないけど、あれは、紛れもなくお兄様がやったこと
…思い出すのに、随分時間かかっちゃったけど…
「なるほどな。だからアレクセイはあの時、『アイフリード』って言ったわけか」
ユーリはそれに気づいていたようで、納得したように頷いていた
「彼が最後に、アリシアに向かって言い残したことも納得いきます」
「忘れないようにって、釘を打って起きたかったんだろうね。…そんな事しなくても、もう忘れたりなんてできないのに」
苦笑いしながら肩をすくめる
あんな光景見せられたら、忘れるなんてできるはずがない
「…あたしはそれよりも、あの戦闘であんたがした事の方が気になるわ」
今まで口を閉ざしていたリタが、ゆっくりと口を開いて、そう言った
…まぁ、リタからしたらそっちが本題か
「『レグルス』って、あんたの一族の最初の長なんでしょ?なんでそいつの名前呼んで、術が発動したわけ?それに、あの術は何よ?」
「そんないっぺんに聞かなくったって…ちゃんと全部話すってば」
そう言いながら、リタは詰め寄ってくる
ここまで食いかかってくる親友に、思わず失笑してしまう
研究熱心なのはいいんだけど、こうゆう時少し困る
「リタ、そんなに食いかかったらシアだって話しにくいだろ?」
ユーリのその言葉にリタはほんの少し間を置いてから、私から少し離れた
「…私の先祖の集落の跡地での出来事、覚えてる?」
私がそう聞くと、みんな不思議そうにしながらも首を縦に振った
「あの時、彼らは言ってたでしょ?《其方を天より見守る》、《天空より見守っていよう》って」
「確かに言ってたけど…それが関係あるの?」
「…星暦の中でも、優れた力を持った人は、死んだ後、あの空で輝く星に変わるんだ」
「人が…星に…?!」
私の言葉に、みんな驚きを隠せずにいた
「そ。…だから、シリウスもアリオトも、みんな元は地上で生きてた人なんだよ」
「…そんなことがあるのねぇ……おっさん驚きだわ」
「でも…それなら彼らはずっと、あのままなんです…?」
「うーん……ちょっと違う、かな。前に話した属性があるでしょ?星暦にもそれぞれ得意な属性があって、星暦が死んだ時、星は代替わりするんだ。…まぁ、ここ数百年は、星暦の数も減ってるから、代替わりなんて殆ど出来てないみたいなんだけどさ…」
そう言って少し顔を伏せた
いつ終わるかもわからない、永遠の命を手に入れたのと変わりない彼らは、どんな気分なんだろうか
それは、私にはわからない
「…で、レグルスは彼に相当する人が今までいなかったから、代替わりせず、ずっと空にいるってわけ」
「それはわかったわ。でも、肝心なところがわかってない」
「もう、リタはせっかちだなぁ…。…レグルスは星暦の初代、ってだけあって、その力も物凄く強かった。星になってからは、全ての力を統べる者になった。…まぁ、ようは指導者、だね。で、昨日のはその中でも彼が生前から得意だった浄化だね」
「浄化…?」
「要は、亡くなった人の怨念や未練を消し去る術…って所かな。亡くなった人のそう言う負の感情って、残りやすいものだから。それが稀に生きてる人を傷つけることが、昔はよくあったんだよ」
「そうなる前に消し去ってやるための術、か」
「そうゆうこと」
「…ぼく、頭パンクしそう……」
「むむむ……うちにもわからないのじゃ……」
カロルとパティが頭を抱えているのが視界の隅に映る
二人には難しすぎたかな…
「はいっ!じゃあこの話はここまで!」
パンッと手を合わせながらそう言う
これ以上は話す事も無いし、何よりカロル達がオーバーヒートしかねない
「…わかったわ。でも、今度もっと詳しく聞くわよ?」
じっと私を見つめながらリタは言ってくる
「あ、あはは…お手柔らかにお願いするよ」
そう言って、これからどうするか聞こうとした時だった
物凄い地鳴りが辺りに響き渡った
「っ!?な、何?!」
「外に出てみよう!」
そう言って、私達は宿屋の外へと出た
すると、アスピオの方向から大きな建物が浮上して行っているのが目に入る
あれは……まさか………
「何よ…あれ…!!あれじゃ、アスピオは…」
「山…うんにゃ…建物みたいなのじゃ…」
「…タルカロン……」
ポツリと小さく呟く
あれは、間違いない
家にある資料にあったタルカロンで間違いない
「タルカロンって?」
「…タルカロンの塔。古代ゲライオス文明が終わると同時に埋められた街……」
「そんなものが………」
みんな絶句して空に浮かんだタルカロンを見つめている
…デュークさんは、あれを使うんだ
でも…あれを使ったら……
「なぁそこの長くて黒髪のあんたと、長くて赤髪のあんた、ちょっといいか?」
呆然としていると、一人の男の人が私とユーリに話しかけてきた
「なんだよ?」
「あんた等みたいな風貌の人を見かけたら教えて欲しいって騎士団の人に言われててな。なんでも新しい騎士団長フレン殿について話したい事があるとか」
「なんだと?」
彼の言葉に私とユーリは顔を見合わせた
「人違いじゃなさそうか?」
「はい」
「なぁ、オレ達を探してたヤツって猫みたいなつり目の姉さんとリンゴみたいな頭したガキか?」
「あ? ああ。そうだが」
「……」
ユーリは浮かない顔をして視線を少し反らせた
大方、あの事が気がかりなんだろう
「宿で待ってりゃ良いか?」
「ああ。それで良い。呼んでくる」
そう言うと、彼は走って行ってしまった
「…ユーリ、行こ?」
そう言ってユーリに手を差し出す
少し躊躇いながらも、彼は私の手を取った
いつもは隠しているはずの不機嫌を、今日は隠そうともせず辺りに撒き散らしている
ユーリの纏う重い空気に、他のメンバーは少し離れたところで待機している
暫くして、扉の外から誰かが走ってくる音が聞こえてきた
「ようやく捕まえましたよ! 何処ほっつき歩いてたんですか」
勢いよく扉を開けて入ってきたのはウィチルだった
「ユーリ・・・ローウェル・・・」
その後をゆっくりと、気まづそうにソディアが入ってくる
私達を見ると、彼女は気まづそうに顔を背けた
「ソディア?」
ウィチルは不思議そうに首を傾げながら彼女の名前を呼んだ
「んで、フレンがどうしたってんだよ」
「あん、はい、あの怪物が空を覆ってから、大勢この大陸から避難してるんです。でもギルドの船団で帝国の護衛を拒否するのがいて、隊長はそれを放っておけなくて。魔物に襲われた船団はピピオニアに漂着、僕達は戦ったけど段々、追い詰められて…」
「私達だけが救援を求める為、脱出させられた…でも騎士団は各地に散っていて…」
「もう皆さんにお願いするしか方法はないんです」
「しかし…時が経ち過ぎた…隊長はもう…」
「相変わらずつまんねぇ事しか言えないヤツだな」
「な、なに!」
等々痺れを切らしたらしいユーリが2人に近づいてそう言う
「諦めちまったのか? お前、何の為に今までやってきたんだよ?」
「私は! 私はあの方…フレン隊長の為に! あの時だって…」
最後の言葉は小さく、私とユーリが聞き取れる程度の音量だったら
「ふん。めそめそしててめえの覚悟忘れて諦めちまうやつにフレンの為とか言わせねぇ」
ユーリのその言葉には少しだけ怒りが混じっていた
「覚悟….」
そう呟いて、彼女は項垂れた
「リンゴ頭! ピピオニアだったな」
「え、ええ」
「そう言う訳だ。ちょっと行ってくるわ。みんなはタルカロンに行く準備を…」
「ユーリ、まさか一人で行くつもり?」
一人で出ようとしたユーリを静止する
私には一人で行動するなって言うくせに、自分はしようとするなんてユーリらしいけど…
でも、一人でなんて行かせられない
「私達も行きますよ?」
「そうだよ、悪いクセだよ、ユーリ」
「そう言うけどな、割とヤバそうな感じだぜ?」
「なら、尚更一緒に行かないとだね」
「それにバウルが言う事聞かないと思うけど?」
「一人はギルドの為に、ギルドは一人の為に、なんでしょ」
「時間ないならちゃっちゃと行って片付けようじゃないの」
「だね」
「うちは噛み付いたウツボ以上の勢いで、死ぬまでユーリに着いて回るぞ」
「ったく付き合い良いな。そんじゃ行くか!」
さっきまでの不機嫌はどこに行ったのか、ニヤッといつもの笑みを浮かべてユーリは言う
「おー! 凛々の明星出撃ぃ!」
「ワン!」
ユーリを先頭に、みんな宿屋から出て行った
チラッと後ろを見るが、ソディアはまだ俯いている
…今は、そっとしておこう
そう思って、私もみんなの後を追いかけた
「ユーリ・ローウェル!アリシア殿…!」
街から出ようとしたところで声をかけられる
振り返ると、そこにはソディアがいた
「何故だ! どうしてあの時の事を咎めない? 私はお前を…そして、アリシア殿を…」
「水に流したつもりはねぇ。けどな、オレは諦めちまったヤツに構ってる程暇じゃねぇんだよ」
「諦めてなど…」
「なら何で一人ででもフレンを助けに行かない? オレを消してでも守りたかったあいつの存在をどうして守りにいかねぇ!」
ユーリの鋭く彼女に言い放った
その鋭さに彼女は肩を竦めた
「私では………あの人を守れない………頼む……彼を……助けて……お願い……」
「言われるまでもねぇ」
「お願い……」
か細い声で彼女はそう言った
余程助けられないのが悔しいのか、その両手は思い切り握りしめられていた
「ああ、あんたの言う事で一つだけ同意出来る事があるぜ」
ユーリは彼女に背を向けたまま話しかける
彼女はなんのことかわからないらしくほんの少し首を傾げた
「オレは罪人。いつ斬られても可笑しくない。そしてフレンは騎士の鑑。今後の帝国騎士を導いていく男。その隣に罪人は相応しくない」
そう言い切ったユーリの表情は、どこか清々しさがあった
「オレはさしずめ、あいつに相応しいヤツが現れるまでの、ま、代役ってヤツさ」
そう言うと、ユーリは先に歩いて行った
「…私は、あなたを咎めるつもりはないわ。…だって、なんとなくわかるもの、その気持ち」
そう言うと、彼女は驚いた顔で私を見た
「…大切な人を守るために、そうしないとって思うこと、わかるよ。…けど、少し考えて欲しいんだ。本当にそれが正しいのか。…フレンがそれを望んでいるのかを」
そう言うと彼女は大きく目を見開いた
そして、項垂れる
これ以上私から言うこともないから、みんなの後を追いかけた
追いつくと、一番後ろにユーリがいた
「…ね、ユーリ」
前にいるみんなに聞こえないように、小さく声をかける
「ん?」
「…私はユーリがフレンに相応しい人が見つかるまでの代役だなんて、思ってないよ」
そう言うと、ユーリは少し顔を顰めた
「……フレンの隣には、ユーリにいて欲しい。もちろん、ユーリの隣には、フレンにいて欲しい。……もちろん、私も二人の隣にいるつもりだけど、ね?」
そう言って笑いかけると、ユーリはしかめっ面から驚いた顔に変わる
性格も見た目も正反対な二人だけど…
でも、そんな二人だからこそ、分かり合えるものがあって
そんな二人だからこそ、互いの手の届かないところをカバーし合える
そんな二人だからこそ、時には激しく対立もするけど…
それでも、必ず最後は仲直りできる
ユーリもフレンも目指してる先は同じだから
だからこそ、正反対でも分かり合えているんだ
「…ユーリとフレンが一緒に、何かを成し遂げようとするのを見るのが、私好きだよ。…その二人と一緒になって、何かを成し遂げようとするのも好き。…私の両手は、ユーリとは比べ物にならないくらい汚れちゃったけど…。…それでもね、二人の隣に居たいんだ。…だからさ、ユーリ。フレンの隣にいるのが相応しくないなんて、思わないで」
「…シア……」
「…今は、相応しくないって思ってるのかもしれないけど…でも、きっと。きっと、フレンもそんな風になんて思ってないはずだから。自分の隣にユーリは相応しくない、なんて、絶対思ってないから。…だから」
「わーったよ。…お前の気持ち、ちゃんと伝わってるぜ」
私の言葉をユーリは遮った
そして私の手をしっかりと握りしめてくる
「…シアのこの手も、フレンの手も、オレは絶対離さねぇって、約束するよ」
そう言ってユーリは微笑んだ
とても嬉しそうなその笑顔から、目が離せない
「…だからシア、絶対に、星喰みを倒すのに自分を犠牲になんてすんなよ?」
その言葉はとっても真剣で、しっかりと握られている手からはほんの少し震えが伝わってきている
「…ん、わかってるよ」
ニッコリと笑って私は答える
そうしないで倒せるのが一番だ
私だって、ユーリとまだサヨナラなんてしたくない
…まだまだ、ユーリの傍にいたい
「こらー!そこのバカップル!!いつまで乗らないつもり!?おいて行くわよ!?」
船の上からリタの怒鳴り声が聞こえてくる
いつの間にか、みんな乗り込んでいたみたいだ
「おーおー、怖い怖い。すぐ乗るっての!」
ユーリは苦笑いしながらそう返した
「…シア、行こうぜ」
「…うん!」
ユーリに引かれて、私達も船に乗り込んだ