第3部〜星喰みの帰還と星暦の使命〜
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精霊:シルフ
グシオスの精霊化を終えた私達は、レレウィーゼへと向かっている
精霊になれそうな始祖の隷長は私の知る限りは、そこにいる彼女だけだろう
なってくれるかは別問題だけど…
「それにしても、まさかイリキア大陸のすぐそばに未開の大陸があったなんて知らなかった」
レレウィーゼのあるウェケア大陸の上空でカロルは興味深々に下を覗いている
「…アリシア、あんた、ここにもあいつの頼みできたの?」
表情を歪めてリタが聞いてくる
「え…?なんで?」
「あまり行きたくなさそうな顔してるわよ」
首を傾げた私にリタはそう言った
…行きたくない、は少し正解かも
「まさか。流石にこんな人のいないところにまで目を向けてる余裕はなかったよ、お兄様」
「じゃあ、なんでそんな顔してるのよ」
「…行けばわかるよ、嫌でも、ね」
たった一言そう言って口を閉じた
行きたくないと思う反面、行きたいとも思ってる
だって、あそこは…
「リタ、やめてやれっての」
後ろから聞こえたユーリの声に振り替えると、リタがレイヴンに抑えられているのが目に入った
…え、まっ…なに、この状況
「アリシアにも話したくない事情があるんですよきっと」
「それにレレウィーゼに着けばわかるって、彼女言っていたわ。無理に聞き出そうとしない方がいいんじゃないかしら?」
エステルとジュディスの言葉で何となく察した
…そんなに今すぐ知りたいのかな…
「聞かんでおいてあげるから、そろそろ元気になってくれるかのう、シア姐」
「…へ?」
「おりょ、その様子じゃ気づいてなさそーね…」
「え?何が?私は別に…」
「泣きそうな顔しているわよ。さっきからずっと」
みんなに言われて目元に触れると、ほんの少し濡れていた
あれ、いつの間に…
「…ごめん、気にしないで?」
ニコッと笑ってみるが、笑えているんだろうか…
「バーカ、無理して笑おうとすんな」
そう言いながらユーリが軽く頭を小突いて来た
…やっぱり笑えていなかったか…
小さくごめんって呟いて肩を竦めた
「さ、この話は終わりにしようじゃないの。もうそろそろつくんでしょ?」
手をたたく乾いた音が辺りに響いた
レイヴンの掛け声とともにみんなそれぞれ降りる準備を始める
「…進むの、嫌だと思ったら早めに言えよ?」
優しく頭を撫でながらユーリが言ってくる
…あーもう…そうやって優しくされると、その優しさに甘えたくなるじゃんか
…でも、今回は甘えちゃだめだ
これは…乗り切らないといけない、『試練』みたいなものなんだから
「ん、わかった」
ギブアップなんて言うつもりはないけど、一応そう言った
私の心の中を覗いたかのようにユーリが少し寂し気に笑っていたことに、気づいていないフリをして私も降りる準備を始めた
「ここがレレウィーゼか?」
断崖絶壁、どこまでも下に続く岩場の広がっているここがレレウィーゼ
パッと見ただけではただ岩が広がっている場所だ
リタが不思議がって首を傾げる
…うん、とりあえずまだここには『なさそう』
ほっとして小さく息をついた
レイヴンが下に降りれそうな場所を見つけるが、あまり気乗りはしていないらしい
「深そうね」
周りを見ながらジュディスは言う
「…降りよう」
そう言って、坂道の方へと足を進める
まだ嫌な感じもしない
…だから、大丈夫
「待ちなさいよ。…ここに来れば、あんたが嫌がってる理由わかるんじゃなかったの?」
少しきつい口調でリタが聞いてくる
…確かにそう言ったっけ…
「…下に進むうちにわかるよ」
少し後ろを振り返ってそう答える
笑えていないなんてわかってる
むしろ、今まで以上に引き攣ってるはずだ
「…行こうぜ」
何かを察したユーリがそう言って私の方へ近づいてくる
「ねぇ、バウルでまで降りた方が良くない?」
「ちょっと危険ね。狭いし、気流の乱れも強すぎるわ」
ジュディスの言う通りだ
バウルで行ったら最悪全員生きて帰ってこれないと思う
「確かに風が強いのじゃ。ここは、きっと風の生まれ故郷なのじゃ」
「じゃあ、この谷は風のお母さんなんですね」
「風のお母さんかぁ」
パティとエステル、カロルはそんなのんきな話を始める
…『お母さん』…か…
「すごい!ずっと下に河が見えるよ!」
「河が長い時間をかけて少しずつ地面を削っていって、このような地形になるんですね」
「まさに大自然の力。いったいどれ程の時間をかけて作られていったのかねぇ」
みんなは楽しそうに話を繋げていく
…混ざりたいけど、そういう気持ちにあまりなれない
『…アリシア、無理をして行く必要はないのだぞ?』
久しぶりに聞こえてきたシリウスの声
ユーリの反応を見る限り私だけに話しかけて来ているんだろう
「…(ううん。大丈夫。…受け入れなきゃいけないから…)」
『…無理はするなよ』
絶対に納得はしていないであろう口調でシリウスはそう言っていなくなった
…無理だってするよ…
「足滑らせないように気を付けながら進もうぜ」
ユーリのその言葉を合図に私達は歩き始めた
進みたくは、ない
…でも、このタイミングでここに行くのは何かの運命なんだろう
…自分の目で、ちゃんと確かめなきゃ
魔物を倒しながら下に進んで行くこと数十分
「ほれ、がんばるのじゃ、進むのじゃ」
パティの声に振り替えると、レイヴンが膝に手をついて立ち止まっていた
「ひいこら、こりゃ年寄りには堪えるわ」
「しっかりしろよ、おっさん」
「そうよ、帰りはこれを登らなきゃならないんだから」
リタのその言葉に、ついにレイヴンが倒れた
…あ、これダメだ
「死んじゃった?」
レイヴンの方を見ながら首を傾げた
「ウウウウウウ」
すると突然、ラピードが唸りだした
「誰か来ます!」
エステルが下に続く道の方を見つめながら言う
こんなところに…?
「お前たち…!」
下の道から出てきたのはデュークさんだった
「デューク!あんたか。相変わらず、神出鬼没だな」
「…ここで何をしている?」
問いかけてくる彼の声は、限りなく冷たかった
…それはそうだよね、だってここには始祖の隷長がいるんだから
案の定、精霊化の話に彼はいい顔をしなかった
…まぁ、彼の言う通りなんだけどね
人を嫌っている彼が、それを認めることもないだろうし
「…星暦よ、お前は納得しているのか」
デュークさんは私の方を見ながら言う
「…初めに星喰みが生まれたときに、始祖の隷長が精霊へと転生する選択肢があった。…それが今行われるだけだよ」
「認めるのか、人のせいで起きた問題を世界を作り替えることで解決させることを」
「彼らが拒絶すれば他の道を探したよ。強制はしないよ」
「…お前は、人を恨んではいないのか?一族を殺され、哀れな姿で放置されても尚、恨まないと言うのか?」
ジッと見つめてくるデュークさんの目は寂しさがにじみ出ていた
「…人間全員恨んでも、何も変わらない。…憎みたい相手はもう生きていないんだから」
「…そうか。受け入れるのだな、この先にある惨状を。満月の子が人と共に犯した悲惨な罪を」
「…それが、当主としての…私の務めだから」
そう答えると、デュークさんはそれ以上何も言わずに歩き始める
「この先はこの世界でもっとも古くから存在する泉の一つ。相応の敬意を払うがいい。…そして、知るといい。満月の子が人と共に犯した罪を」
そう言い残すと彼は去って行った
「…アリシア…さっきのは…?」
不安そうな声でエステルが聞いてくる
「…見えてから話すよ」
私はそう言って歩き出した
デュークさんと別れてから数分
…そろそろ嫌な空気で溢れてきた
…よくこんなところに彼女は居られるなぁ…
「…なんか、大分雰囲気が変わって来たね」
ポツリとカロルが呟いた
「ですね…何というかこう…空気が重いって言いますか…」
「いい気分にはなれないわね」
私よりは感じていないらしいが、みんなも違和感は感じているみたいだ
「シア、大丈夫か?」
隣にいるユーリが不安そうに話しかけてくる
「…大丈夫…ではないけど、まだ平気」
不快感に耐えながら答える
「むむ…?これは…?」
不意に何かを見つけたらしいパティの声が聞こえた
「ん?何見つけ…って、パティちゃん!?それどうしたのよ!?」
それに続いてレイヴンの驚いた声が聞こえてくる
「二人ともどうしたんです?」
「ちょっ、パティちゃん!早く元に戻しなさいって!」
「むむ…じゃが、取れてしまったものは取れてしまったのじゃ。どうにも出来んのじゃ」
「はぁ?あんたら何して………」
不吉な会話に二人の方を振り向けば、そこには石像のようなものがあった
「な、ななななっ、なにこれ!?」
半分悲鳴に近いカロルの声が響く
…まぁ、そうなるよね
「自然に出来たってわけじゃなさそうだな」
「そうね、そうにしてはよく出来過ぎね」
驚いているみんなを無視してユーリとジュディスは言う
「これ…本当に人…なわけない…」
「人だよ」
カロルが言いかけていた言葉をバッサリと切る
「え…?」
「…正真正銘、人だよ。生きていたのはもう千年以上前だけど」
「あんた…何言って…」
「…ここ、昔星暦の集落があったの。もう随分昔に壊されて、面影なんてないけど」
そう言って前を向く
よく見れば、ポツリポツリと同じものが見えてきている
「どうしてこうなっているのか、説明してもらえるかしら」
ジュディスが優しく問いかけてくる
「…千年前、星暦が虐殺された話はしたよね?」
「あぁ、意見が食い違った満月の子に殺されたって話だよな」
「そ。…それがここ。満月の子と彼らを慕っていた人間達が星暦を殺した。…それも、ただ殺すんじゃなくこうやって後世に見せ占めるように石化させて」
ゆっくり歩きながら話を続ける
星達が見せてくれた記憶をそのまま伝えていく
みんなは黙って私についてきている
「その時始祖の隷長達との話し合いに世界に散っていてウェケア大陸にいなかった本家と、少数の分家の星暦だけが生き残った。…本家達にすぐに戻って来られたら石化を解かれると思った彼らは、すぐには近づけないようにザウデと同じ仕掛けを施して」
「ちょい待った。それじゃアリシアちゃんが近づいたら…」
私の話を遮ってレイヴンは言ってくる
「今は平気だよ。ちゃんと作動してないの確認したし…。…それよりも…」
足を止めて後ろを振り返る
「この先、あるのは満月の子が行ったことの全てだよ。…残酷で非情な現実が待ってる。エステルは…それでもこの先に進む?」
エステルを見つめて問いかける
先に進むのがつらいのは私だけじゃない
きっとエステルもつらいはずだ
だからこそ、今ここで聞く
進んだことを後悔しないように
「…行きます。私も…自分の目で確かめたいんです」
真剣な目で彼女は私を見つめてくる
「ん…わかった。…行こうか」
そう答えて前に進む
集落の入り口はもう少しだったはず…
そんなことを考えながら歩く
「…ついた」
小さくそう呟いた
私の目の前には集落の入り口だったと思われる門のようなものがあった
「…酷い有様ね…」
辺りを見回しながらジュディスが呟いた
千年もの間放置されていたはずなのに、それでもまだ家の原型や当時の生活の様子、それに襲われた時の様子がわかる程に風化していない
…見せしめにしては酷すぎる
「…いくら嫌っていたからってここまでするかよ…」
何処か悔しそうにユーリが呟いた
「酷い…」
「ここまでとはね…」
家も人も当時のままで残っている現状にみんな息を呑んでいた
私は何も言わずにゆっくりと先に進んだ
恐れ、逃げようとしている人達、そんな人達を助けようと立ち向かおうと剣を構えてる人、術を唱えようとしている人…
表情すらそのままで…
「助けてあげられないのかな…?」
カロルが小さく呟いた
「むむ…石化が解けても、生きているかどうか怪しいのじゃ…」
「流石にそれは無理よ。生命活動は止まってるはず」
パティの言葉にリタは呆れ気味に返した
「…そうだね。私に出来ることは…」
愛刀を抜きながら呟く
そう、出来ることは…たった一つ…
「…黒雷よ、我が命の元、千年もの間放置されし我らが祖先の亡骸を今、エアルへと返せ」
そう唱えると、術式が辺りに広がっていく
ゆっくりと家や人がエアルへと返っていく
《…ありがとう》
《我らを開放してくれたこと、感謝する》
《これでようやく、先に進める》
「これは…!?」
辺りから聞こえてくる声は、どうやら私以外にも聞こえているらしい
みんな驚いた顔で辺りを見回している
《我らが子孫よ、どうか無理はせんでおくれ》
《話せずとも、我ら其方を天より見守ろうぞ》
「これは…ここに居る奴らの声…なのか?」
「かもしれんの。ここで子孫と呼ばれるのはシア姐じゃろうしのう」
落ち着いた声でパティとユーリが話している
《我らの加護を其方に…いや、其方らに与えよう》
《我らが子孫を守りし其方らにも、我らの加護を授けよう》
《其方らが成すべきことを成せるよう、天空より見守っていよう》
ふんわりと私達を包むような暖かい光が辺りに溢れる
眩しさにほんの少し目を閉じた
《満月の子の子孫よ。我らのことをお主が気に病む必要は無い》
《これは我らを理解しなかった彼らと、彼らに理解してもらおうとしなかった我らの問題》
《故に、お主のせいではない》
《我らが願うは、我らが子孫と友として未来永劫助け合いながら共に生きていってくれることのみぞ》
《我ら星暦の永年の夢、お主らで築きあげて欲しい》
風に乗って遠くに行くように離れていく声と共に光が収まった
ゆっくり目を開けると、そこにはもう何も残っていなかった
「…終わった、わけ?」
「…うん、終わったよ」
リタの問いに剣を収めながら答える
そう、終わったんだ
これでようやく、星暦と満月の子の争いの種が無くなったんだ
「…お願い、されちゃいましたね」
「…だね。仲良くしないと、ね?」
ニコッと笑いながらエステルを見れば、彼女も嬉しそうに笑い返してきた
「それもだけど、僕らがやってることも知ってるような口ぶりだったね」
「そうね。彼らの加護ももらってしまったし、全力を尽くさないと、ね?」
「そうねぇ。おっさんのキャラじゃないけど、頑張らんといけないわね」
「ゥワン!」
「んじゃ、頑張る為にもさっさと始祖の隷長のとこに行こうぜ」
そう言ってユーリは下へ続く道を指さした
「うげぇ…まだ降りるの…!?」
「ふふ、頑張れレイヴン。もう少しのはずだから」
クスッと笑いながらそう言って歩き始めた
「シア、平気か?」
隣を歩くユーリが少し遠慮気味に問いかけてくる
「…今は立ち止まっていられないでしょ?」
そう答えるとユーリは何かを察したかのように少し寂しそうに表情を歪めた
「…後で、二人きりで話聞いてくれる?」
「…おう、もちろんだ」
ニコッと笑いかけてきたユーリに同じように笑って返す
つらくないはずがない
つらいよ、私だって…
でも、今は甘えて立ち止まっていられないから…
…だから、今だけ強がるのを許して
あの場所から数分、ようやく一番下まで降りてこられた
そこには洞窟があって、私達はその中に入って行く
「ほわ〜」
洞窟の中には真っ白な花と綺麗な泉があった
「これがもっとも古くから存在する泉…」
「とても静か…空気も澄んでて、なんだか神聖な雰囲気です」
「あの岩山の下にこんなところがあるなんてな」
感心したようにユーリは呟いた
…確かに外はあれだけ荒れてるのに…
「そこに溜まってるのはエアルよ。相当濃いわ、近づかないで」
泉に近づこうとしたカロルをリタが静止する
こんな場所にもエアル溜まりがあるんだ…
「来ましたね」
やけに聞き覚えのある女性の声に振り向くと、青い髪の女性が立っていた
…随分長い間会話してなかったから一瞬忘れかけていた
ユーリ達も面識はあったらしく、彼女に問いかける
けど、彼女はその問いかけには答えずに問いで返してきた
デュークさんが何をしようと知ってるらしく、カロルがそれに食い付いた
「あの人は世界の為に、全ての人間の命を引き換えにしようとしています」
彼女の言葉に衝撃が走る
だって、まさか、その方法を取るだなんて思っていなかったから
「何故デュークはそんなことを?!」
「あの人は人間を信じていないのです」
エステルの問いに彼女はそう答える
それにカロルとパティは反発するように言い返した
…人間を、信じていない…か…
…もしかして…
「オレたちにデュークのこと話してどうしようってんだ?いい加減正体をあらわしな。始祖の隷長さんよ」
話を中断させるようにユーリは彼女に言う
…あーもう、そんな喧嘩腰にならなくても…
彼女…クロームは何も言わずにその姿を始祖の隷長のものへと変化させた
「あんたの目的はなんだ?遠回しに協力するつもりはねぇって言いたいのか?」
《私も人間は信用出来ません。…それでもあの人が同族に仇なす姿は見たくない。世界を救えるというのなら協力を拒むつもりはありません。ですが、あの人と違う方法を選ぶということは対決することになるでしょう》
「…そうかもしれないね」
《もしあなた達があの人に力及ばなければ、あの人を止めるものが居なくなる。あなた達の力、試させてもらいます!…ですが姫、あの人は恐らく、あなたには手を出さないでしょう》
襲いかかってくると思っていたクロームが私に話しかけてくる
「え…?」
《それに、ここはエアルが非常に濃いです。あなたは下がっていてください》
って言われても…
「シア、あいつの言う通りだ!お前は下がってろ!」
「っ!でも、ユーリ!」
「たまにゃ俺様達でなんとかしてみせるわよん。アリシアちゃんはこの後の為に休んでいなさいな」
反論しようとした私にレイヴンがパチンッとウィンクをしながら言ってくる
よくみんなを見れば、任せろと言いたげな表情で私を見てきていた
…本当、いい仲間をもったんだなぁ、私
「…わかった。けど、みんなも無理しないでね!」
私がそう言えば、みんなは少し嬉しそうに笑いかけてきてくれる
そして、クロームの方へと突っ込んでいく
…大丈夫、みんなならきっと勝てる
そう信じて、少しだけ離れたところで戦いを見守った
どのくらい時間がたっただろうか
もう長い間みんなは戦っている
みんな必死で戦っているのに、私はここで見ているだけっていう状況にいい加減嫌気がさしてきた
「…やっぱり私も…!」
『駄目だと言われたではないか。大人しく待たんか』
みんなの元に行こうとした私をシリウスが止めに入って来た
「十分待った!もういいじゃん!」
『駄目だ。…よく見ろ、もう終わるぞ』
そう言われてみんなの方を見るとクロームが倒れるところだった
《…見事です…あなた達なら…救えるかも…しれない…》
ゆっくり近づいていくとクロームのそんな声がした
「クローム…」
《あなた達の…望むように…》
たった一言そう言い残すと彼女は聖核へと変化した
みんなは黙ってそれを見つめている
「エステル、アリシア…やりましょ」
「…うん、やろっか」
「……はい」
「頼むぜ」
私達に向かってユーリはそう言った
「やった!」
精霊化が成功してカロルが声を上げる
精霊となったクロームは宙に浮いたまま眠っていた
「眠ってる…」
「ノームの時と同じですね」
エステルがそう言うと、イフリート達が姿を現した
《また新たな同志が生まれたのじゃな》
《…時に凪ぎ、時に荒ぶる風を統べる者か》
《ノームの時のようにエアルに侵されている訳ではない。程なく目覚めよう》
「ありがとう、ウンディーネ」
《…して、姫よ》
イフリートは私の方を見ながら話しかけてくる
…言いたいことは何となくわかるけど…
「…何…?」
《いい加減に休んだらどうだ?そろそろ限界のはずだ》
彼の言葉にみんなの視線が私に集まる
「まだ平気だって。そんなに無理なんてしてないし…」
《無理をしていなくても精霊化をする際のダメージは溜まっているだろう。後のことは彼らに任せて休息を取るべきだ》
「いやここでは無理だって…。上に戻るくらいは全然余裕で…」
そう言って振り返ろうとした瞬間、全身に激痛が走った
「い…ッ…!?」
あまりの痛みにその場に倒れそうになる
それを支えてくれたのは誰でもないユーリだった
「ったく、それの何処が余裕なんだよ?」
「…ごめん、ついに揃ったなぁって思ったらなんか急に…」
「上までくらいオレが連れて行ってやるって。お前はもう休んどけ」
そう言って頭を優しく撫でてきた
「そそ、それ以上動くとリタっちの鉄拳が落ちてくるわよ?」
「鉄拳は落とさないわよ、ちょっと気絶させるだけ」
冗談交じりに言ったはずのレイヴンの言葉にリタは真顔で返した
「本気だよ…。…えっと、ユーリの分レイヴンに働いてもらうからアリシアは休んでいて大丈夫だよ!」
「そうね。あなたにこれ以上無理をさせてしまったら精霊達に怒られてしまいそうだもの」
「ですね。ゆっくり休んでください!」
ユーリの言葉に賛同するようにみんなもそう言って休むように促してくる
…まぁ、散々休ませようとしてきていたし、ね
「…わかった。じゃあ…少しだけ…寝かせて…」
そう言って目を閉じる
自分の限界なんて、私自身一番よくわかっていて…
ゆっくりと、意識を手放した
グシオスの精霊化を終えた私達は、レレウィーゼへと向かっている
精霊になれそうな始祖の隷長は私の知る限りは、そこにいる彼女だけだろう
なってくれるかは別問題だけど…
「それにしても、まさかイリキア大陸のすぐそばに未開の大陸があったなんて知らなかった」
レレウィーゼのあるウェケア大陸の上空でカロルは興味深々に下を覗いている
「…アリシア、あんた、ここにもあいつの頼みできたの?」
表情を歪めてリタが聞いてくる
「え…?なんで?」
「あまり行きたくなさそうな顔してるわよ」
首を傾げた私にリタはそう言った
…行きたくない、は少し正解かも
「まさか。流石にこんな人のいないところにまで目を向けてる余裕はなかったよ、お兄様」
「じゃあ、なんでそんな顔してるのよ」
「…行けばわかるよ、嫌でも、ね」
たった一言そう言って口を閉じた
行きたくないと思う反面、行きたいとも思ってる
だって、あそこは…
「リタ、やめてやれっての」
後ろから聞こえたユーリの声に振り替えると、リタがレイヴンに抑えられているのが目に入った
…え、まっ…なに、この状況
「アリシアにも話したくない事情があるんですよきっと」
「それにレレウィーゼに着けばわかるって、彼女言っていたわ。無理に聞き出そうとしない方がいいんじゃないかしら?」
エステルとジュディスの言葉で何となく察した
…そんなに今すぐ知りたいのかな…
「聞かんでおいてあげるから、そろそろ元気になってくれるかのう、シア姐」
「…へ?」
「おりょ、その様子じゃ気づいてなさそーね…」
「え?何が?私は別に…」
「泣きそうな顔しているわよ。さっきからずっと」
みんなに言われて目元に触れると、ほんの少し濡れていた
あれ、いつの間に…
「…ごめん、気にしないで?」
ニコッと笑ってみるが、笑えているんだろうか…
「バーカ、無理して笑おうとすんな」
そう言いながらユーリが軽く頭を小突いて来た
…やっぱり笑えていなかったか…
小さくごめんって呟いて肩を竦めた
「さ、この話は終わりにしようじゃないの。もうそろそろつくんでしょ?」
手をたたく乾いた音が辺りに響いた
レイヴンの掛け声とともにみんなそれぞれ降りる準備を始める
「…進むの、嫌だと思ったら早めに言えよ?」
優しく頭を撫でながらユーリが言ってくる
…あーもう…そうやって優しくされると、その優しさに甘えたくなるじゃんか
…でも、今回は甘えちゃだめだ
これは…乗り切らないといけない、『試練』みたいなものなんだから
「ん、わかった」
ギブアップなんて言うつもりはないけど、一応そう言った
私の心の中を覗いたかのようにユーリが少し寂し気に笑っていたことに、気づいていないフリをして私も降りる準備を始めた
「ここがレレウィーゼか?」
断崖絶壁、どこまでも下に続く岩場の広がっているここがレレウィーゼ
パッと見ただけではただ岩が広がっている場所だ
リタが不思議がって首を傾げる
…うん、とりあえずまだここには『なさそう』
ほっとして小さく息をついた
レイヴンが下に降りれそうな場所を見つけるが、あまり気乗りはしていないらしい
「深そうね」
周りを見ながらジュディスは言う
「…降りよう」
そう言って、坂道の方へと足を進める
まだ嫌な感じもしない
…だから、大丈夫
「待ちなさいよ。…ここに来れば、あんたが嫌がってる理由わかるんじゃなかったの?」
少しきつい口調でリタが聞いてくる
…確かにそう言ったっけ…
「…下に進むうちにわかるよ」
少し後ろを振り返ってそう答える
笑えていないなんてわかってる
むしろ、今まで以上に引き攣ってるはずだ
「…行こうぜ」
何かを察したユーリがそう言って私の方へ近づいてくる
「ねぇ、バウルでまで降りた方が良くない?」
「ちょっと危険ね。狭いし、気流の乱れも強すぎるわ」
ジュディスの言う通りだ
バウルで行ったら最悪全員生きて帰ってこれないと思う
「確かに風が強いのじゃ。ここは、きっと風の生まれ故郷なのじゃ」
「じゃあ、この谷は風のお母さんなんですね」
「風のお母さんかぁ」
パティとエステル、カロルはそんなのんきな話を始める
…『お母さん』…か…
「すごい!ずっと下に河が見えるよ!」
「河が長い時間をかけて少しずつ地面を削っていって、このような地形になるんですね」
「まさに大自然の力。いったいどれ程の時間をかけて作られていったのかねぇ」
みんなは楽しそうに話を繋げていく
…混ざりたいけど、そういう気持ちにあまりなれない
『…アリシア、無理をして行く必要はないのだぞ?』
久しぶりに聞こえてきたシリウスの声
ユーリの反応を見る限り私だけに話しかけて来ているんだろう
「…(ううん。大丈夫。…受け入れなきゃいけないから…)」
『…無理はするなよ』
絶対に納得はしていないであろう口調でシリウスはそう言っていなくなった
…無理だってするよ…
「足滑らせないように気を付けながら進もうぜ」
ユーリのその言葉を合図に私達は歩き始めた
進みたくは、ない
…でも、このタイミングでここに行くのは何かの運命なんだろう
…自分の目で、ちゃんと確かめなきゃ
魔物を倒しながら下に進んで行くこと数十分
「ほれ、がんばるのじゃ、進むのじゃ」
パティの声に振り替えると、レイヴンが膝に手をついて立ち止まっていた
「ひいこら、こりゃ年寄りには堪えるわ」
「しっかりしろよ、おっさん」
「そうよ、帰りはこれを登らなきゃならないんだから」
リタのその言葉に、ついにレイヴンが倒れた
…あ、これダメだ
「死んじゃった?」
レイヴンの方を見ながら首を傾げた
「ウウウウウウ」
すると突然、ラピードが唸りだした
「誰か来ます!」
エステルが下に続く道の方を見つめながら言う
こんなところに…?
「お前たち…!」
下の道から出てきたのはデュークさんだった
「デューク!あんたか。相変わらず、神出鬼没だな」
「…ここで何をしている?」
問いかけてくる彼の声は、限りなく冷たかった
…それはそうだよね、だってここには始祖の隷長がいるんだから
案の定、精霊化の話に彼はいい顔をしなかった
…まぁ、彼の言う通りなんだけどね
人を嫌っている彼が、それを認めることもないだろうし
「…星暦よ、お前は納得しているのか」
デュークさんは私の方を見ながら言う
「…初めに星喰みが生まれたときに、始祖の隷長が精霊へと転生する選択肢があった。…それが今行われるだけだよ」
「認めるのか、人のせいで起きた問題を世界を作り替えることで解決させることを」
「彼らが拒絶すれば他の道を探したよ。強制はしないよ」
「…お前は、人を恨んではいないのか?一族を殺され、哀れな姿で放置されても尚、恨まないと言うのか?」
ジッと見つめてくるデュークさんの目は寂しさがにじみ出ていた
「…人間全員恨んでも、何も変わらない。…憎みたい相手はもう生きていないんだから」
「…そうか。受け入れるのだな、この先にある惨状を。満月の子が人と共に犯した悲惨な罪を」
「…それが、当主としての…私の務めだから」
そう答えると、デュークさんはそれ以上何も言わずに歩き始める
「この先はこの世界でもっとも古くから存在する泉の一つ。相応の敬意を払うがいい。…そして、知るといい。満月の子が人と共に犯した罪を」
そう言い残すと彼は去って行った
「…アリシア…さっきのは…?」
不安そうな声でエステルが聞いてくる
「…見えてから話すよ」
私はそう言って歩き出した
デュークさんと別れてから数分
…そろそろ嫌な空気で溢れてきた
…よくこんなところに彼女は居られるなぁ…
「…なんか、大分雰囲気が変わって来たね」
ポツリとカロルが呟いた
「ですね…何というかこう…空気が重いって言いますか…」
「いい気分にはなれないわね」
私よりは感じていないらしいが、みんなも違和感は感じているみたいだ
「シア、大丈夫か?」
隣にいるユーリが不安そうに話しかけてくる
「…大丈夫…ではないけど、まだ平気」
不快感に耐えながら答える
「むむ…?これは…?」
不意に何かを見つけたらしいパティの声が聞こえた
「ん?何見つけ…って、パティちゃん!?それどうしたのよ!?」
それに続いてレイヴンの驚いた声が聞こえてくる
「二人ともどうしたんです?」
「ちょっ、パティちゃん!早く元に戻しなさいって!」
「むむ…じゃが、取れてしまったものは取れてしまったのじゃ。どうにも出来んのじゃ」
「はぁ?あんたら何して………」
不吉な会話に二人の方を振り向けば、そこには石像のようなものがあった
「な、ななななっ、なにこれ!?」
半分悲鳴に近いカロルの声が響く
…まぁ、そうなるよね
「自然に出来たってわけじゃなさそうだな」
「そうね、そうにしてはよく出来過ぎね」
驚いているみんなを無視してユーリとジュディスは言う
「これ…本当に人…なわけない…」
「人だよ」
カロルが言いかけていた言葉をバッサリと切る
「え…?」
「…正真正銘、人だよ。生きていたのはもう千年以上前だけど」
「あんた…何言って…」
「…ここ、昔星暦の集落があったの。もう随分昔に壊されて、面影なんてないけど」
そう言って前を向く
よく見れば、ポツリポツリと同じものが見えてきている
「どうしてこうなっているのか、説明してもらえるかしら」
ジュディスが優しく問いかけてくる
「…千年前、星暦が虐殺された話はしたよね?」
「あぁ、意見が食い違った満月の子に殺されたって話だよな」
「そ。…それがここ。満月の子と彼らを慕っていた人間達が星暦を殺した。…それも、ただ殺すんじゃなくこうやって後世に見せ占めるように石化させて」
ゆっくり歩きながら話を続ける
星達が見せてくれた記憶をそのまま伝えていく
みんなは黙って私についてきている
「その時始祖の隷長達との話し合いに世界に散っていてウェケア大陸にいなかった本家と、少数の分家の星暦だけが生き残った。…本家達にすぐに戻って来られたら石化を解かれると思った彼らは、すぐには近づけないようにザウデと同じ仕掛けを施して」
「ちょい待った。それじゃアリシアちゃんが近づいたら…」
私の話を遮ってレイヴンは言ってくる
「今は平気だよ。ちゃんと作動してないの確認したし…。…それよりも…」
足を止めて後ろを振り返る
「この先、あるのは満月の子が行ったことの全てだよ。…残酷で非情な現実が待ってる。エステルは…それでもこの先に進む?」
エステルを見つめて問いかける
先に進むのがつらいのは私だけじゃない
きっとエステルもつらいはずだ
だからこそ、今ここで聞く
進んだことを後悔しないように
「…行きます。私も…自分の目で確かめたいんです」
真剣な目で彼女は私を見つめてくる
「ん…わかった。…行こうか」
そう答えて前に進む
集落の入り口はもう少しだったはず…
そんなことを考えながら歩く
「…ついた」
小さくそう呟いた
私の目の前には集落の入り口だったと思われる門のようなものがあった
「…酷い有様ね…」
辺りを見回しながらジュディスが呟いた
千年もの間放置されていたはずなのに、それでもまだ家の原型や当時の生活の様子、それに襲われた時の様子がわかる程に風化していない
…見せしめにしては酷すぎる
「…いくら嫌っていたからってここまでするかよ…」
何処か悔しそうにユーリが呟いた
「酷い…」
「ここまでとはね…」
家も人も当時のままで残っている現状にみんな息を呑んでいた
私は何も言わずにゆっくりと先に進んだ
恐れ、逃げようとしている人達、そんな人達を助けようと立ち向かおうと剣を構えてる人、術を唱えようとしている人…
表情すらそのままで…
「助けてあげられないのかな…?」
カロルが小さく呟いた
「むむ…石化が解けても、生きているかどうか怪しいのじゃ…」
「流石にそれは無理よ。生命活動は止まってるはず」
パティの言葉にリタは呆れ気味に返した
「…そうだね。私に出来ることは…」
愛刀を抜きながら呟く
そう、出来ることは…たった一つ…
「…黒雷よ、我が命の元、千年もの間放置されし我らが祖先の亡骸を今、エアルへと返せ」
そう唱えると、術式が辺りに広がっていく
ゆっくりと家や人がエアルへと返っていく
《…ありがとう》
《我らを開放してくれたこと、感謝する》
《これでようやく、先に進める》
「これは…!?」
辺りから聞こえてくる声は、どうやら私以外にも聞こえているらしい
みんな驚いた顔で辺りを見回している
《我らが子孫よ、どうか無理はせんでおくれ》
《話せずとも、我ら其方を天より見守ろうぞ》
「これは…ここに居る奴らの声…なのか?」
「かもしれんの。ここで子孫と呼ばれるのはシア姐じゃろうしのう」
落ち着いた声でパティとユーリが話している
《我らの加護を其方に…いや、其方らに与えよう》
《我らが子孫を守りし其方らにも、我らの加護を授けよう》
《其方らが成すべきことを成せるよう、天空より見守っていよう》
ふんわりと私達を包むような暖かい光が辺りに溢れる
眩しさにほんの少し目を閉じた
《満月の子の子孫よ。我らのことをお主が気に病む必要は無い》
《これは我らを理解しなかった彼らと、彼らに理解してもらおうとしなかった我らの問題》
《故に、お主のせいではない》
《我らが願うは、我らが子孫と友として未来永劫助け合いながら共に生きていってくれることのみぞ》
《我ら星暦の永年の夢、お主らで築きあげて欲しい》
風に乗って遠くに行くように離れていく声と共に光が収まった
ゆっくり目を開けると、そこにはもう何も残っていなかった
「…終わった、わけ?」
「…うん、終わったよ」
リタの問いに剣を収めながら答える
そう、終わったんだ
これでようやく、星暦と満月の子の争いの種が無くなったんだ
「…お願い、されちゃいましたね」
「…だね。仲良くしないと、ね?」
ニコッと笑いながらエステルを見れば、彼女も嬉しそうに笑い返してきた
「それもだけど、僕らがやってることも知ってるような口ぶりだったね」
「そうね。彼らの加護ももらってしまったし、全力を尽くさないと、ね?」
「そうねぇ。おっさんのキャラじゃないけど、頑張らんといけないわね」
「ゥワン!」
「んじゃ、頑張る為にもさっさと始祖の隷長のとこに行こうぜ」
そう言ってユーリは下へ続く道を指さした
「うげぇ…まだ降りるの…!?」
「ふふ、頑張れレイヴン。もう少しのはずだから」
クスッと笑いながらそう言って歩き始めた
「シア、平気か?」
隣を歩くユーリが少し遠慮気味に問いかけてくる
「…今は立ち止まっていられないでしょ?」
そう答えるとユーリは何かを察したかのように少し寂しそうに表情を歪めた
「…後で、二人きりで話聞いてくれる?」
「…おう、もちろんだ」
ニコッと笑いかけてきたユーリに同じように笑って返す
つらくないはずがない
つらいよ、私だって…
でも、今は甘えて立ち止まっていられないから…
…だから、今だけ強がるのを許して
あの場所から数分、ようやく一番下まで降りてこられた
そこには洞窟があって、私達はその中に入って行く
「ほわ〜」
洞窟の中には真っ白な花と綺麗な泉があった
「これがもっとも古くから存在する泉…」
「とても静か…空気も澄んでて、なんだか神聖な雰囲気です」
「あの岩山の下にこんなところがあるなんてな」
感心したようにユーリは呟いた
…確かに外はあれだけ荒れてるのに…
「そこに溜まってるのはエアルよ。相当濃いわ、近づかないで」
泉に近づこうとしたカロルをリタが静止する
こんな場所にもエアル溜まりがあるんだ…
「来ましたね」
やけに聞き覚えのある女性の声に振り向くと、青い髪の女性が立っていた
…随分長い間会話してなかったから一瞬忘れかけていた
ユーリ達も面識はあったらしく、彼女に問いかける
けど、彼女はその問いかけには答えずに問いで返してきた
デュークさんが何をしようと知ってるらしく、カロルがそれに食い付いた
「あの人は世界の為に、全ての人間の命を引き換えにしようとしています」
彼女の言葉に衝撃が走る
だって、まさか、その方法を取るだなんて思っていなかったから
「何故デュークはそんなことを?!」
「あの人は人間を信じていないのです」
エステルの問いに彼女はそう答える
それにカロルとパティは反発するように言い返した
…人間を、信じていない…か…
…もしかして…
「オレたちにデュークのこと話してどうしようってんだ?いい加減正体をあらわしな。始祖の隷長さんよ」
話を中断させるようにユーリは彼女に言う
…あーもう、そんな喧嘩腰にならなくても…
彼女…クロームは何も言わずにその姿を始祖の隷長のものへと変化させた
「あんたの目的はなんだ?遠回しに協力するつもりはねぇって言いたいのか?」
《私も人間は信用出来ません。…それでもあの人が同族に仇なす姿は見たくない。世界を救えるというのなら協力を拒むつもりはありません。ですが、あの人と違う方法を選ぶということは対決することになるでしょう》
「…そうかもしれないね」
《もしあなた達があの人に力及ばなければ、あの人を止めるものが居なくなる。あなた達の力、試させてもらいます!…ですが姫、あの人は恐らく、あなたには手を出さないでしょう》
襲いかかってくると思っていたクロームが私に話しかけてくる
「え…?」
《それに、ここはエアルが非常に濃いです。あなたは下がっていてください》
って言われても…
「シア、あいつの言う通りだ!お前は下がってろ!」
「っ!でも、ユーリ!」
「たまにゃ俺様達でなんとかしてみせるわよん。アリシアちゃんはこの後の為に休んでいなさいな」
反論しようとした私にレイヴンがパチンッとウィンクをしながら言ってくる
よくみんなを見れば、任せろと言いたげな表情で私を見てきていた
…本当、いい仲間をもったんだなぁ、私
「…わかった。けど、みんなも無理しないでね!」
私がそう言えば、みんなは少し嬉しそうに笑いかけてきてくれる
そして、クロームの方へと突っ込んでいく
…大丈夫、みんなならきっと勝てる
そう信じて、少しだけ離れたところで戦いを見守った
どのくらい時間がたっただろうか
もう長い間みんなは戦っている
みんな必死で戦っているのに、私はここで見ているだけっていう状況にいい加減嫌気がさしてきた
「…やっぱり私も…!」
『駄目だと言われたではないか。大人しく待たんか』
みんなの元に行こうとした私をシリウスが止めに入って来た
「十分待った!もういいじゃん!」
『駄目だ。…よく見ろ、もう終わるぞ』
そう言われてみんなの方を見るとクロームが倒れるところだった
《…見事です…あなた達なら…救えるかも…しれない…》
ゆっくり近づいていくとクロームのそんな声がした
「クローム…」
《あなた達の…望むように…》
たった一言そう言い残すと彼女は聖核へと変化した
みんなは黙ってそれを見つめている
「エステル、アリシア…やりましょ」
「…うん、やろっか」
「……はい」
「頼むぜ」
私達に向かってユーリはそう言った
「やった!」
精霊化が成功してカロルが声を上げる
精霊となったクロームは宙に浮いたまま眠っていた
「眠ってる…」
「ノームの時と同じですね」
エステルがそう言うと、イフリート達が姿を現した
《また新たな同志が生まれたのじゃな》
《…時に凪ぎ、時に荒ぶる風を統べる者か》
《ノームの時のようにエアルに侵されている訳ではない。程なく目覚めよう》
「ありがとう、ウンディーネ」
《…して、姫よ》
イフリートは私の方を見ながら話しかけてくる
…言いたいことは何となくわかるけど…
「…何…?」
《いい加減に休んだらどうだ?そろそろ限界のはずだ》
彼の言葉にみんなの視線が私に集まる
「まだ平気だって。そんなに無理なんてしてないし…」
《無理をしていなくても精霊化をする際のダメージは溜まっているだろう。後のことは彼らに任せて休息を取るべきだ》
「いやここでは無理だって…。上に戻るくらいは全然余裕で…」
そう言って振り返ろうとした瞬間、全身に激痛が走った
「い…ッ…!?」
あまりの痛みにその場に倒れそうになる
それを支えてくれたのは誰でもないユーリだった
「ったく、それの何処が余裕なんだよ?」
「…ごめん、ついに揃ったなぁって思ったらなんか急に…」
「上までくらいオレが連れて行ってやるって。お前はもう休んどけ」
そう言って頭を優しく撫でてきた
「そそ、それ以上動くとリタっちの鉄拳が落ちてくるわよ?」
「鉄拳は落とさないわよ、ちょっと気絶させるだけ」
冗談交じりに言ったはずのレイヴンの言葉にリタは真顔で返した
「本気だよ…。…えっと、ユーリの分レイヴンに働いてもらうからアリシアは休んでいて大丈夫だよ!」
「そうね。あなたにこれ以上無理をさせてしまったら精霊達に怒られてしまいそうだもの」
「ですね。ゆっくり休んでください!」
ユーリの言葉に賛同するようにみんなもそう言って休むように促してくる
…まぁ、散々休ませようとしてきていたし、ね
「…わかった。じゃあ…少しだけ…寝かせて…」
そう言って目を閉じる
自分の限界なんて、私自身一番よくわかっていて…
ゆっくりと、意識を手放した