第3部〜星喰みの帰還と星暦の使命〜
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精霊:ノーム
「ユーリ、そろそろ戻ろう?」
背を撫でながら問いかける
レイヴンは時間かかってもいい、なんて言ってたけどもう随分長いことこうしてしまっている
いい加減戻らないと、リタあたりに怒られそうだ
「…もう少しだけ…」
ポツリと私の耳元で呟くと、甘えるように肩口に額を擦り付けてくる
…可愛い…
いや、待って、そんなこと考えてる場合じゃない
可愛いんだけど今はそれよりも大事なことがあるし…
「もう…見られるよ?」
「知らねえ、気にしねえ、見せつけてやりゃいーんだよ」
「そういう問題じゃないよ?…ね、早めに精霊化終わらせてさ、少しゆっくりしよう?星喰みに挑みに行く前に、リタが精霊の力を集める装置を作る時間欲しがると思うしさ」
それじゃダメ?なんて言って首を傾げる
これで動かなかったら諦めよう
そんなこと考えていると、勢いよくユーリが離れる
「…その言葉、忘れんなよ?」
意地悪そうな笑みを浮かべたユーリの顔が視界いっぱいに映る
嬉しそうなその顔に息を呑む
私にしか見せないその笑顔が眩しすぎて、息が詰まりそうになる
「…忘れないよ。…約束ね?」
そう言ってニコリと微笑み返した
薄っすらと目を閉じて背伸びする
一瞬だけユーリの唇が触れて離れる
「…さて、戻るか」
「ん、戻ろう」
そう言ってユーリの手を握る
握った手にユーリから指を絡めてくる
それが嬉しくて思わず口角が上がった
そんな私を見てなのか、ユーリも嬉しそうに頬を緩めた
「全くもう…!あんたってやつはこんな時まで…!」
「だから、悪かったって言ってるだろ?」
ワナワナと拳を震わせているリタにユーリは大きくため息をつく
バウルに乗った私達は、次の場所に向かっている
確かエレアルーミン…だったかな
…ため息つきたいのは、きっとユーリじゃなくてみんなの方だと思うんだけどなぁ…
「アリシアものんびりしすぎだよ」
ムッと頬を膨らませたカロルがジッと私を見つめてくる
「あはは…ごめんねカロル」
苦笑いして答えながらカロルの頭の上に手を乗せた
子ども扱いして…なんて小声で文句言ってるけど、その口元はすごく緩み切っていてニヤニヤと嬉しそうにしているのが見える
まだまだ子どもなんだし、無理しなくたっていいのに
クスッと笑いながら、目線をユーリたちの方に向けた
二人はいまだに言い合いをしているらしい
「ユーリ、リタ。そろそろ喧嘩辞めたら?」
私がそう声をかけると、ものすごい勢いでリタが振り返って来た
「べ、別に喧嘩なんて…!こいつがこんな大事な時までアリシアを独り占めしようとするから…!!」
「ふーん…。つまり、シアを独り占めされんのが嫌なのか」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたユーリがリタを見る
かぁ…っと顔を真っ赤に染めながら肩を震わせてユーリを睨みつける
「ユーリ、リタを虐めないの」
ジト目で彼を見ると、ほんの少し拗ねたように口を閉じてそっぽを向いてしまった
カロルよりも子どもっぽいなぁ…けど、それがまた可愛いんだよね
…本人には絶対に言わないし、言えないけど…
クスリと小さく笑って、カロルから離れる
「ジュディス、あとどのくらいかわかる?」
そう言いながらリタの傍に行く
そっと背を撫でてて宥めようとしてみる
「そうね…もうそろそろみたいよ」
「ん、わかった。…リタそろそろつくみたいだから、機嫌直してよー!」
そう言ってがバッとリタに飛びつく
「んな…っ!?ちょっ…!!は、離れなさいよ…っ!!」
私の腕の中でジタバタと暴れながらリタは離せと言ってくる
離す気はないし、そもそも本気で嫌がっていないことくらいわかってるし
「えー…じゃあリタが機嫌直してくれたら仕方ないから離れてあげる」
ぎゅっと回した腕に力を入れながら答える
正直な話、リタ丁度いい大きさだから離したくないんだよね
「わ、わかった!もう怒んない!怒んないから離れなさいっ!」
照れて顔を真っ赤に染めたリタが半ば投げやりにそう言った
…可愛いだとか、口が裂けても言えない…
名残り惜しいけどリタを開放してあげると、もうすごい勢いで私から離れていった
…そんな反応されると傷つく…
リタは私から離れたところで大きくため息をついていた
「全くもう…相変わらずあんたは…」
俯きながら発された言葉はかろうじて聞き取れる程度だったけど、ほんの少し嬉しそうに口角が上がっているのが目に入った
「あの…アリシア…?」
「ん?どうしたのエステル」
おずおずと声をかけてきたエステルに首を傾げる
「えっと…ほっといていいんですか…?」
言いづらそうに小さな声で言いながらチラッとユーリの方に視線を投げた
エステルに合わせてチラッと見ると仏頂面した彼が目に入った
…あー、アレ駄目なやつだ…
滅茶苦茶拗ねてるよ…
「もう…ユーリったら…」
クスッと苦笑いしながらユーリの方に歩み寄る
「ユーリ?」
「…なんだよ」
ぶっきらばうに答えながらユーリは私から顔を背けた
「…ユーリ」
それが腑に落ちなくて、わざとユーリの前で体を屈めてユーリの顔を覗き込む
「…っ…!…だ、から、なんだよ」
一瞬ものすごく動揺したユーリだけど、すぐにまた不機嫌に戻って顔を背けられた
…さっきまで自分の方から構って構ってって来てたくせに…
「……ユーリ…っ!」
頬を膨らませながらユーリに抱き着いた
「おわっ!?…ったく…なんだよ急に…」
いつもなら背に手を回してくれるのに、それすらない
なんか悔しくて、無言のままユーリの胸元に顔を埋めた
「…本当になんなんだよ…」
はぁ…っとユーリのため息が聞こえてくる
…ため息つきたいのは私の方だ
「せーねんが拗ねてるからじゃないの?」
レイヴンの少し呆れたような苦い声が聞こえた
「…はぁ…あのなぁ…」
ため息とともに頭の上に手を乗せられた
それがユーリのだなんてすぐにわかった
「…悪かったよ、シア。もう喧嘩しねえよ」
そのユーリの言葉に顔を上げると、困ったように苦笑いしているのが目に入った
「夫婦喧嘩は犬も食わないわよ?」
「ワフゥン…」
ジュディスの言葉にラピードが反応するように一声鳴いた
「ふ、夫婦って…!」
思わずジュディスの言葉に反応してしまった
だって夫婦って…まだ結婚してないのに
「おろ?いつの間に籍入れたわけよ?」
ニヤニヤと挑発するようにレイヴンが笑う
「なんだよおっさん、羨ましいのか?」
意地の悪い笑みを浮かべたユーリがぎゅっと抱きしめてくる
…いやいやいやいや…!!!
ちょっと待って…!
「ちょ…!ユーリまで…」
「嘘にはなんねぇだろ?」
そう言ったユーリの表情は何となく寂しそうに見えた
私にしかわからないくらいの変化だけど…
そんな顔見たらもう言い返せなかった
「ほら、二人ともそろそろ準備!」
「はいよ、首領 」
何事もなかったかのように答えたユーリは、私を軽く引きはがした
目的地は、もう目の前だ
「うわっ…眩し…」
クリスタルで覆われた洞窟の中は光の反射で以上に眩しい
「ここが結晶の中みたいだな」
「綺麗……夢の中にいるみたいです」
「低密度で結晶化したエアルか。……むしろマナ?」
「むむ…森全体がお宝じゃが、船に乗りきらないのじゃ…」
「なんでこうも反応が違うかねえ」
「バリバリ砕けるよ、あはは面白い」
私以外はみんな興味深々に辺りを見回している
私…それよりも目が痛い…
「のんきなもんね。これ自然にできたんじゃないわよ?」
「え?どういうこと?」
リタの言葉にカロルが首を傾げる
《…ひ……め……?》
「…!この、声……」
聞こえてきた声に辺りを見回してみるけど、誰もいない
「シア?」
キョトンと首を傾げてユーリが名前を呼んでくる
ユーリの反応を見る限りじゃみんなには聞こえていないらしい
「…ううん、なんでもないよ」
ニコリと笑って返す
「…そうか?きつくなったらすぐ言えよ?」
ほんの少し眉を下げてユーリは言う
《…ひ……め………たの……む…わ…れ……を……》
「…(大丈夫、必ず星喰みになる前に止めるから)」
また聞こえてきた声に心の中でそう声をかける
『彼』を星喰みになんて、絶対にさせない
させて、たまるか
「…先客がいるみたいだな。みんな、用心して行こう」
ラピードが見つめている場所を見ながらそう言ったユーリに頷いて、私達は奥へと足を進め始めた
エレアルーミンの中を歩き始めて数分、なんの前触れもなく前方から何かが飛んできた
「うわっ!危なっ!」
私の真横を通ったそれは、見覚えのあるものだった
「この武器…!」
どうやらみんなもそれに気づいたらしい
「ナン!」
カロルはこの武器の持ち主である少女の名を呼ぶ
前方には今にも倒れそうなナンの姿があった
「……警告する。ここは魔狩りの剣が活動中だ。すぐに立ち去り……」
彼女はそこまで言ってその場に倒れ込んでしまった
「ナン!?」
真っ先に倒れた彼女の元にカロルとエステルが向かう
その後を追いかける
「ひどいケガ……」
エステルはそう呟きながら治癒術をかける
…この怪我の状態…まさか…
「しっかり!ナン!」
彼女の隣に座っていたカロルがそう呼びかける
「カロル……」
「一人でどうしたんだよ!首領 やティソン達は?」
カロルが問いかけると、ナンはゆっくりと起き上がりながら口を開く
「……師匠達は奥に……」
「え!?ナンを置いて!?」
あり得ないと言いたげに若干叫びながらカロルは立ち上がる
「首領 はともかく、ティソンがナンを連れて行かないなんて……一体何があったのさ!」
「不意に標的とここで戦いになって。あたし、いつもみたいに出来なくて……師匠が、迷いがあるからだって」
ナンは少し寂しそうに俯きながら言葉を繋いでいく
「魔物は憎い。許せない。その気持ちは変わらない。でも今はこんなところにまで来て魔物を狩る事よりもしなきゃいけないことがあるんじゃないかって……それを離したら……」
「置いて行かれたってか」
レイヴンの言葉に力なく彼女は頷く
…魔狩りの剣の標的…
やっぱり、ここに居るのは…
《ひ……め……はや……く……!》
不意にまた聞こえてきた声に思わず先を見つめる
「アリシア?」
「……聞こえた。やっぱり、この声……」
リタの呼び声には返さず小さく呟いた
「声?」
「……ごめん。私先に行く」
「は…?おい!ちょっと待て!」
走り出そうとした私の腕をガっとユーリが掴む
「お前、一人で行動するなって散々言っただろ!?」
「…ごめん、それはわかってる。…でも、呼んでるんだ。私のこと」
ユーリの目を見つめながらそう言う
ここで止まっているわけにはいかない
…魔狩りの剣が動いているなら、尚更だ
「呼んでるって、誰がじゃ?」
「…グシオスが、呼んでる。星喰みになる前に、助けてくれって、呼んでるんだ」
私がそう言えば、ユーリ達は少し驚いたように目を見開いて私を見る
ほんの少しユーリの手が緩んだ隙に彼の手を払って走り出す
約束を破ることはわかってる
でも、手遅れになる前に止めないと…
…これは、私の使命だから
「グシオス!」
エレアルーミンの最深部
エアルの濃度がかなり高いらしいここは地面が赤く染まっている
そのグシオスの前に二人の人影があった
「く……なぜ攻撃が効かんのだ…!?」
魔狩りの剣の首領 、クリントは恨めしそうにグシオスを見つめていた
それもそのはずだ
だって、今の彼は暴走しているんだから
「無理だよ。あなた達に彼は倒せない」
静かにそう言いながら彼らの傍を通り過ぎる
「なんだと…!?貴様…俺様達を誰だと…」
「知ってるよ。けど、あなた達には無理よ。暴走した始祖の隷長は、私にしか止められない」
《…姫……すまない……我は……》
「…謝らないで。あなたのせいじゃない。……大丈夫、その苦しみから、私が解放してあげる」
そう言いながら愛刀を抜く
本当は、やりたくない
手をかけるなんてしたくない
でも、暴走した彼を止めるには、もうこれしか…
『…無理をする必要はないのですよ?アリシア』
ほんの少し躊躇っていると、アリオトの声が聞こえてきた
「…無理なんてしてないよ。……アリオト、それよりも手伝ってくれる?」
『…ええ、それはもちろん。ですが……』
何処か不安の混じった声でアリオトは何かを言いかけた
『大丈夫だよアリオト!なんたって今回は僕らもいるんだから!』
『そうそう!攻撃なら任せてよ!』
そう言ったのはカストロとポルックスだ
アリオトのことだ
自分だと攻撃に回れないことを心配してくれたんだろう
「…ありがとう、三人とも」
少し俯いて少しだけ笑みを浮かべる
軽く深呼吸をして、しっかりとグシオスを見つめる
「…行くよ、グシオス!」
私の掛け声を合図に戦いの火蓋が落とされた
「グオオオォォ!!!!」
「はぁっ!!!」
ガキィィィンッ
グシオスの尾と私の愛刀が勢いよくぶつかる
戦い始めてからどれだけこうしたことか…
一思いにやってあげたいけど、詠唱の隙を与えてくれない
カストロやポルックスが力を貸してくれてるから、まだなんとか戦えてるけど…
『アリシアどーしよ!このままじゃキリがないよ!』
「わかってる…!でも…!」
後ろに飛んでグシオスの攻撃をかわしながらポルックスの声に答える
一瞬でもいいからグシオスの注意を避けられれば…
『…だってさ、ユーリさん!』
「え?ユーリ…?」
カストロの声にほんの少し首を傾げると、私の真横を蒼破刃の青い光が横切った
「…え?」
「ったく、結局オレらが居ないとだめなんじゃねぇかよ」
呆れたような声に後ろを振り返ると、やはりと言うべきかユーリ達の姿があった
…みんなが来る前に終わらせておく筈だったのに…
「あっちゃぁ…」
小さく呟きながら苦笑いする
後でお説教だなぁ…
…まぁ、それは元々か
「全くあんたって子は…!」
ずかずかとリタが近づいてくる
「リタっち、今はアリシアちゃんのお説教よりも始祖の隷長でしょーよ」
「そうだよ!お説教は後でみんなで!だよ!」
「…わかったわよ」
レイヴンとカロルの掛け声でリタの足は止まった…けど…
…みんなはちょっときついなぁ…
「シア姐、それでうちらはどうすればいいのじゃ?」
コテンと首を傾げながらパティが聞いてくる
「…私が詠唱してる間、グシオスの気を引いていて欲しい」
「あら、それだけでいいの?」
「んじゃま、さくっと終わらせようぜ?」
ゆっくりと私の横を通り過ぎながら、ユーリとジュディスは武器を構えた
それに倣うように、他のメンバーも武器を構えて私の前に出る
「行きましょう、アリシア」
隣にきたエステルがそう言ってニッコリと笑う
「…うん。…ありがとう、みんな…」
私の前に出た仲間達に小さな声でお礼を言う
きっと聞こえていないだろうけど、聞こえていなくたっていい
だって、みんなは多分、お礼を言われることを望んでないから
「よし!行くぜっ!」
ユーリの掛け声でみんなが一斉に戦闘を始める
それを合図に、私も詠唱を始める
「…天光満つる所我はあり…」
「虎牙破斬!」
「臥龍アッパー!」
一人で突っ走っちゃったのに手伝ってくれる仲間の為にも
「黄泉の門開く所汝あり…」
「鋭く!早く!フリーズランサー!」
「聖なる槍よ、貫け。ホーリィランス!」
いつだって味方になってくれる友達の為にも
「出でよ、神の雷…」
「月牙!」
「ポン・チー・カン・ローンー・ツモ!ジャンパイ!!」
そして…私を慕ってくれた、彼の為にも
「…これで、終わりにしよう」
「時間よ止まれ!お代は見てのお帰り!…ストップフロウ!」
私の詠唱が終わるタイミングで、レイヴンの術が発動する
グシオスの動きがピタリと止まる
「…インディグ、ネイション」
その声と共にグシオスに雷が降り注ぐ
本当はこんな術、使いたくなかった
…それでも、きっとこれが最善策だから…
《…ありがとう。姫…》
何処か安心したようなグシオスの声が頭に響いた
「…ううん。こんな形でしか、救ってあげられなかったのにお礼なんて…。ごめんね、グシオス…」
《姫は、何も悪くない。…さぁ、我の聖核…使うとよい。…姫なら…姫達ならば、託そう……我が、命…》
その声と共に光が強くなった
光が収まった時には、聖核だけが残っていた
「…グシオス…」
そっと聖核を抱き上げて胸の前で抱きしめる
「ったく、まだこいつに恨みがあんのか?」
ユーリの呆れた声に振り返ると、クリントが恨めしそうに聖核を睨みつけていた
「…そいつはあの化け物の魂だ。砕かずにはすまさん」
「化け物じゃ」
「この期に及んでまだそんなこと言うの?」
エステルの言葉を遮って彼を見る
「世界がこんな状態になって、滅ぶか滅ばないかの危機に瀕してるっていう時に、まだそんなこと言うの?」
「始祖の隷長の役目など知ったことではない!!」
クリントは私に向かってそう叫ぶ
…折角キレないであげていたって言うのに…
「知ったことじゃない?元はと言えば彼らの忠告を無視して彼らを殺そうとした人間が悪いんじゃない。…魔物は彼らを守る為に動いていたのにすぎないわ。それで?彼らの忠告を無視してどうなったと思ってるの?そのせいで世界が滅びそうになっているって言うのに」
半分睨みながら彼を見る
「…俺の家族は始祖の隷長に殺された。魔狩りの剣のメンバーは魔物に大切な者を奪われた者達…。奴らを憎む気持ちは世界がどうなろうと変わるものではない!」
クリントも負けじと私を睨みつけてくる
「……それでも、間違ってるよ」
私が反論する前にカロルが口を開いた
静かに、でも何か決意の籠ったような声で言う
「なに…?」
「そんなこと続けたって、何も帰ってこないのに」
「あの戦争で身内失ったのは、あんたらだけじゃないでしょ」
「そうね。それでも前向きに生きようとする人もいる」
「憎しみだけでぶつかっていっても、誰も…自分も救われないのじゃ。それよりも残った者を大切にした方がよいのじゃ」
「街を守って魔物と戦う、立派なことだと思います。けど…」
「世界がどうにかなりそうってな時だ。意地になってんじゃねぇよ」
一人一人、クリントに向かって言う
…みんなの言う通りだと私も思う
私が、言えた口ではないかもしれないけど…
「…今更、生き方を変えられん」
「ふん。どうしても邪魔するってんなら…」
「…そういう考えをしていいなら、魔物におそわれている家族を人に見殺しにされた私は、人と魔物両方殺していいの?」
今にも戦闘を始めそうになったユーリの言葉を遮る
「アリシア…」
「人も魔物も両方恨んで、気が済むまで殺せばいい?」
真っすぐにクリントだけを見つめる
彼は何も言わずにただ私を見つめ返してくる
「…そういうわけにはいかないでしょ?憎くても、してはいけないこともある。…いつまでも、憎しみから前に進まないわけにはいかない。そんなことしても、帰ってこないものは帰ってこない。…また、大切な人を失うだけよ」
彼に対して…ーーいや、これは私自身に対してもかーー…言い聞かせるように言う
…そう、また、失うだけだ
クリントは暫く私を見つめた後、出口の方へと踵を返した
その後を魔狩りの剣のメンバーがついて行った
ナンが去り際にカロルに何か言ってたけど、私には聞き取れなかった
「…アリシアちゃん、さっきの…」
何処かさみし気な表情でレイヴンが見つめてくる
「…本当にそんなことするつもりはないよ。…わかってる、してはいけないことだって…。私と彼は、憎む対象が違うだけで少し似てるところがあるように思えたから言っただけだよ?」
苦笑いして答える
彼にはああ言ったけど、私だって彼とあまり変わらないもの…
「…さ、エステル、始めよう!」
ニッコリと笑ってエステルを見る
…今はこんな感情に浸ってる場合じゃない
成すべきことを、やらないと
「成功…?」
精霊化の終わったグシオスを見つめてリタが首を傾げる
「でも目を閉じたままぴくりとも動かんのじゃ」
《意識すら飲まれかけていたのだ。しばらくは目覚めまい。さぁ、名付けてやるがよい》
「…地の精霊…根を張る者、ノーム」
《目覚めたら、伝えておこう》
ウンディーネがそう言うと精霊たちの気配が消えた
「……星喰みがエアルを調整してくれようとした始祖の隷長のなれの果てなんて」
「まったく人間って奴は本当に自分の目で見えることしかわからないもんだな」
「んで、巡り巡って結局一番悪いのは人間ってか…。笑えないねぇ」
「いつだって何かやらかすのは人間なのじゃ」
「……そう、だね」
星喰みのことは、恐らくイフリート達が教えたんだろう
なんだって悪いことが起こる前提に人間が関わっている
始祖の隷長達が人を毛嫌いするのも無理はないだろう
「じゃ、尚の事頑張らないといけませんね」
そう言ってエステルは微笑んだ
「…そうだな、その通りだ」
エステルのその言葉にみんなも微笑む
「さ、次の場所に行きましょ」
「そうね。でもその前に…」
ジッとリタが私のことを見つめてくる
「アリシア、あんた、自分が何したかわかってる?」
半分咎めるような声でリタが聞いてくる
「一人で行動しないって約束、忘れたの?」
ムッと頬を膨らませたカロルも私をジーっと見つめてくる
「…ごめん」
たった一言そう言って肩を竦めた
「次は本当の本当に怒るのじゃ!」
「だそうよ?」
怒っているみんなとは違って、ジュディスとレイヴンは苦笑いして私を見ていた
「ま、そんくらいにしてあげなさいな。アリシアちゃんだって、可愛がってくれた始祖の隷長が苦しんでるの、ほっとけなかったのよ」
レイヴンはそう言ってリタ達を見た
…私の味方してくれるなんて珍しい…
「ほーら、早く行きましょーよ。精霊化さえ終わらせられれば、アリシアちゃん休ませられるじゃない」
ニヤリ、と笑ってレイヴンは言う
…あれ、待って、それ私遠回しに強制的に休ませるって言われてない…!?
「…それもそうね」
「じゃの!」
「行きましょう!」
「よーし!しゅっぱーつ!!」
リタにパティ、それにカロルとエステルは生き生きと出口の方へと歩いて行った
「えぇ…なんであんなに嬉しそうなの…」
「シアのこと、休ませられるからだろ?」
半分ため息をつきながら言うと、ユーリが頭に手を乗せてくる
「…まだ無理してないもん」
「そうゆう問題じゃねーの。…いい加減わかれよ」
そう言うユーリの顔は何処か寂しげだった
「ほら!アリシアちゃんと青年も行くわよ!」
少し離れたところでレイヴンがパタパタと手を振ってきていた
「だとよ。…シア、行こうぜ」
「ん、そうだね」
そう言って、レイヴン達の後を追いかける
…残るはあと一体
彼女は相当手強いだろうなぁ……
……それまで、持ってくれるよね…?
私の、身体……
ほんの少し痛くなり出していたのを隠しながら、みんなの後を追いかけた
「ユーリ、そろそろ戻ろう?」
背を撫でながら問いかける
レイヴンは時間かかってもいい、なんて言ってたけどもう随分長いことこうしてしまっている
いい加減戻らないと、リタあたりに怒られそうだ
「…もう少しだけ…」
ポツリと私の耳元で呟くと、甘えるように肩口に額を擦り付けてくる
…可愛い…
いや、待って、そんなこと考えてる場合じゃない
可愛いんだけど今はそれよりも大事なことがあるし…
「もう…見られるよ?」
「知らねえ、気にしねえ、見せつけてやりゃいーんだよ」
「そういう問題じゃないよ?…ね、早めに精霊化終わらせてさ、少しゆっくりしよう?星喰みに挑みに行く前に、リタが精霊の力を集める装置を作る時間欲しがると思うしさ」
それじゃダメ?なんて言って首を傾げる
これで動かなかったら諦めよう
そんなこと考えていると、勢いよくユーリが離れる
「…その言葉、忘れんなよ?」
意地悪そうな笑みを浮かべたユーリの顔が視界いっぱいに映る
嬉しそうなその顔に息を呑む
私にしか見せないその笑顔が眩しすぎて、息が詰まりそうになる
「…忘れないよ。…約束ね?」
そう言ってニコリと微笑み返した
薄っすらと目を閉じて背伸びする
一瞬だけユーリの唇が触れて離れる
「…さて、戻るか」
「ん、戻ろう」
そう言ってユーリの手を握る
握った手にユーリから指を絡めてくる
それが嬉しくて思わず口角が上がった
そんな私を見てなのか、ユーリも嬉しそうに頬を緩めた
「全くもう…!あんたってやつはこんな時まで…!」
「だから、悪かったって言ってるだろ?」
ワナワナと拳を震わせているリタにユーリは大きくため息をつく
バウルに乗った私達は、次の場所に向かっている
確かエレアルーミン…だったかな
…ため息つきたいのは、きっとユーリじゃなくてみんなの方だと思うんだけどなぁ…
「アリシアものんびりしすぎだよ」
ムッと頬を膨らませたカロルがジッと私を見つめてくる
「あはは…ごめんねカロル」
苦笑いして答えながらカロルの頭の上に手を乗せた
子ども扱いして…なんて小声で文句言ってるけど、その口元はすごく緩み切っていてニヤニヤと嬉しそうにしているのが見える
まだまだ子どもなんだし、無理しなくたっていいのに
クスッと笑いながら、目線をユーリたちの方に向けた
二人はいまだに言い合いをしているらしい
「ユーリ、リタ。そろそろ喧嘩辞めたら?」
私がそう声をかけると、ものすごい勢いでリタが振り返って来た
「べ、別に喧嘩なんて…!こいつがこんな大事な時までアリシアを独り占めしようとするから…!!」
「ふーん…。つまり、シアを独り占めされんのが嫌なのか」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたユーリがリタを見る
かぁ…っと顔を真っ赤に染めながら肩を震わせてユーリを睨みつける
「ユーリ、リタを虐めないの」
ジト目で彼を見ると、ほんの少し拗ねたように口を閉じてそっぽを向いてしまった
カロルよりも子どもっぽいなぁ…けど、それがまた可愛いんだよね
…本人には絶対に言わないし、言えないけど…
クスリと小さく笑って、カロルから離れる
「ジュディス、あとどのくらいかわかる?」
そう言いながらリタの傍に行く
そっと背を撫でてて宥めようとしてみる
「そうね…もうそろそろみたいよ」
「ん、わかった。…リタそろそろつくみたいだから、機嫌直してよー!」
そう言ってがバッとリタに飛びつく
「んな…っ!?ちょっ…!!は、離れなさいよ…っ!!」
私の腕の中でジタバタと暴れながらリタは離せと言ってくる
離す気はないし、そもそも本気で嫌がっていないことくらいわかってるし
「えー…じゃあリタが機嫌直してくれたら仕方ないから離れてあげる」
ぎゅっと回した腕に力を入れながら答える
正直な話、リタ丁度いい大きさだから離したくないんだよね
「わ、わかった!もう怒んない!怒んないから離れなさいっ!」
照れて顔を真っ赤に染めたリタが半ば投げやりにそう言った
…可愛いだとか、口が裂けても言えない…
名残り惜しいけどリタを開放してあげると、もうすごい勢いで私から離れていった
…そんな反応されると傷つく…
リタは私から離れたところで大きくため息をついていた
「全くもう…相変わらずあんたは…」
俯きながら発された言葉はかろうじて聞き取れる程度だったけど、ほんの少し嬉しそうに口角が上がっているのが目に入った
「あの…アリシア…?」
「ん?どうしたのエステル」
おずおずと声をかけてきたエステルに首を傾げる
「えっと…ほっといていいんですか…?」
言いづらそうに小さな声で言いながらチラッとユーリの方に視線を投げた
エステルに合わせてチラッと見ると仏頂面した彼が目に入った
…あー、アレ駄目なやつだ…
滅茶苦茶拗ねてるよ…
「もう…ユーリったら…」
クスッと苦笑いしながらユーリの方に歩み寄る
「ユーリ?」
「…なんだよ」
ぶっきらばうに答えながらユーリは私から顔を背けた
「…ユーリ」
それが腑に落ちなくて、わざとユーリの前で体を屈めてユーリの顔を覗き込む
「…っ…!…だ、から、なんだよ」
一瞬ものすごく動揺したユーリだけど、すぐにまた不機嫌に戻って顔を背けられた
…さっきまで自分の方から構って構ってって来てたくせに…
「……ユーリ…っ!」
頬を膨らませながらユーリに抱き着いた
「おわっ!?…ったく…なんだよ急に…」
いつもなら背に手を回してくれるのに、それすらない
なんか悔しくて、無言のままユーリの胸元に顔を埋めた
「…本当になんなんだよ…」
はぁ…っとユーリのため息が聞こえてくる
…ため息つきたいのは私の方だ
「せーねんが拗ねてるからじゃないの?」
レイヴンの少し呆れたような苦い声が聞こえた
「…はぁ…あのなぁ…」
ため息とともに頭の上に手を乗せられた
それがユーリのだなんてすぐにわかった
「…悪かったよ、シア。もう喧嘩しねえよ」
そのユーリの言葉に顔を上げると、困ったように苦笑いしているのが目に入った
「夫婦喧嘩は犬も食わないわよ?」
「ワフゥン…」
ジュディスの言葉にラピードが反応するように一声鳴いた
「ふ、夫婦って…!」
思わずジュディスの言葉に反応してしまった
だって夫婦って…まだ結婚してないのに
「おろ?いつの間に籍入れたわけよ?」
ニヤニヤと挑発するようにレイヴンが笑う
「なんだよおっさん、羨ましいのか?」
意地の悪い笑みを浮かべたユーリがぎゅっと抱きしめてくる
…いやいやいやいや…!!!
ちょっと待って…!
「ちょ…!ユーリまで…」
「嘘にはなんねぇだろ?」
そう言ったユーリの表情は何となく寂しそうに見えた
私にしかわからないくらいの変化だけど…
そんな顔見たらもう言い返せなかった
「ほら、二人ともそろそろ準備!」
「はいよ、
何事もなかったかのように答えたユーリは、私を軽く引きはがした
目的地は、もう目の前だ
「うわっ…眩し…」
クリスタルで覆われた洞窟の中は光の反射で以上に眩しい
「ここが結晶の中みたいだな」
「綺麗……夢の中にいるみたいです」
「低密度で結晶化したエアルか。……むしろマナ?」
「むむ…森全体がお宝じゃが、船に乗りきらないのじゃ…」
「なんでこうも反応が違うかねえ」
「バリバリ砕けるよ、あはは面白い」
私以外はみんな興味深々に辺りを見回している
私…それよりも目が痛い…
「のんきなもんね。これ自然にできたんじゃないわよ?」
「え?どういうこと?」
リタの言葉にカロルが首を傾げる
《…ひ……め……?》
「…!この、声……」
聞こえてきた声に辺りを見回してみるけど、誰もいない
「シア?」
キョトンと首を傾げてユーリが名前を呼んでくる
ユーリの反応を見る限りじゃみんなには聞こえていないらしい
「…ううん、なんでもないよ」
ニコリと笑って返す
「…そうか?きつくなったらすぐ言えよ?」
ほんの少し眉を下げてユーリは言う
《…ひ……め………たの……む…わ…れ……を……》
「…(大丈夫、必ず星喰みになる前に止めるから)」
また聞こえてきた声に心の中でそう声をかける
『彼』を星喰みになんて、絶対にさせない
させて、たまるか
「…先客がいるみたいだな。みんな、用心して行こう」
ラピードが見つめている場所を見ながらそう言ったユーリに頷いて、私達は奥へと足を進め始めた
エレアルーミンの中を歩き始めて数分、なんの前触れもなく前方から何かが飛んできた
「うわっ!危なっ!」
私の真横を通ったそれは、見覚えのあるものだった
「この武器…!」
どうやらみんなもそれに気づいたらしい
「ナン!」
カロルはこの武器の持ち主である少女の名を呼ぶ
前方には今にも倒れそうなナンの姿があった
「……警告する。ここは魔狩りの剣が活動中だ。すぐに立ち去り……」
彼女はそこまで言ってその場に倒れ込んでしまった
「ナン!?」
真っ先に倒れた彼女の元にカロルとエステルが向かう
その後を追いかける
「ひどいケガ……」
エステルはそう呟きながら治癒術をかける
…この怪我の状態…まさか…
「しっかり!ナン!」
彼女の隣に座っていたカロルがそう呼びかける
「カロル……」
「一人でどうしたんだよ!
カロルが問いかけると、ナンはゆっくりと起き上がりながら口を開く
「……師匠達は奥に……」
「え!?ナンを置いて!?」
あり得ないと言いたげに若干叫びながらカロルは立ち上がる
「
「不意に標的とここで戦いになって。あたし、いつもみたいに出来なくて……師匠が、迷いがあるからだって」
ナンは少し寂しそうに俯きながら言葉を繋いでいく
「魔物は憎い。許せない。その気持ちは変わらない。でも今はこんなところにまで来て魔物を狩る事よりもしなきゃいけないことがあるんじゃないかって……それを離したら……」
「置いて行かれたってか」
レイヴンの言葉に力なく彼女は頷く
…魔狩りの剣の標的…
やっぱり、ここに居るのは…
《ひ……め……はや……く……!》
不意にまた聞こえてきた声に思わず先を見つめる
「アリシア?」
「……聞こえた。やっぱり、この声……」
リタの呼び声には返さず小さく呟いた
「声?」
「……ごめん。私先に行く」
「は…?おい!ちょっと待て!」
走り出そうとした私の腕をガっとユーリが掴む
「お前、一人で行動するなって散々言っただろ!?」
「…ごめん、それはわかってる。…でも、呼んでるんだ。私のこと」
ユーリの目を見つめながらそう言う
ここで止まっているわけにはいかない
…魔狩りの剣が動いているなら、尚更だ
「呼んでるって、誰がじゃ?」
「…グシオスが、呼んでる。星喰みになる前に、助けてくれって、呼んでるんだ」
私がそう言えば、ユーリ達は少し驚いたように目を見開いて私を見る
ほんの少しユーリの手が緩んだ隙に彼の手を払って走り出す
約束を破ることはわかってる
でも、手遅れになる前に止めないと…
…これは、私の使命だから
「グシオス!」
エレアルーミンの最深部
エアルの濃度がかなり高いらしいここは地面が赤く染まっている
そのグシオスの前に二人の人影があった
「く……なぜ攻撃が効かんのだ…!?」
魔狩りの剣の
それもそのはずだ
だって、今の彼は暴走しているんだから
「無理だよ。あなた達に彼は倒せない」
静かにそう言いながら彼らの傍を通り過ぎる
「なんだと…!?貴様…俺様達を誰だと…」
「知ってるよ。けど、あなた達には無理よ。暴走した始祖の隷長は、私にしか止められない」
《…姫……すまない……我は……》
「…謝らないで。あなたのせいじゃない。……大丈夫、その苦しみから、私が解放してあげる」
そう言いながら愛刀を抜く
本当は、やりたくない
手をかけるなんてしたくない
でも、暴走した彼を止めるには、もうこれしか…
『…無理をする必要はないのですよ?アリシア』
ほんの少し躊躇っていると、アリオトの声が聞こえてきた
「…無理なんてしてないよ。……アリオト、それよりも手伝ってくれる?」
『…ええ、それはもちろん。ですが……』
何処か不安の混じった声でアリオトは何かを言いかけた
『大丈夫だよアリオト!なんたって今回は僕らもいるんだから!』
『そうそう!攻撃なら任せてよ!』
そう言ったのはカストロとポルックスだ
アリオトのことだ
自分だと攻撃に回れないことを心配してくれたんだろう
「…ありがとう、三人とも」
少し俯いて少しだけ笑みを浮かべる
軽く深呼吸をして、しっかりとグシオスを見つめる
「…行くよ、グシオス!」
私の掛け声を合図に戦いの火蓋が落とされた
「グオオオォォ!!!!」
「はぁっ!!!」
ガキィィィンッ
グシオスの尾と私の愛刀が勢いよくぶつかる
戦い始めてからどれだけこうしたことか…
一思いにやってあげたいけど、詠唱の隙を与えてくれない
カストロやポルックスが力を貸してくれてるから、まだなんとか戦えてるけど…
『アリシアどーしよ!このままじゃキリがないよ!』
「わかってる…!でも…!」
後ろに飛んでグシオスの攻撃をかわしながらポルックスの声に答える
一瞬でもいいからグシオスの注意を避けられれば…
『…だってさ、ユーリさん!』
「え?ユーリ…?」
カストロの声にほんの少し首を傾げると、私の真横を蒼破刃の青い光が横切った
「…え?」
「ったく、結局オレらが居ないとだめなんじゃねぇかよ」
呆れたような声に後ろを振り返ると、やはりと言うべきかユーリ達の姿があった
…みんなが来る前に終わらせておく筈だったのに…
「あっちゃぁ…」
小さく呟きながら苦笑いする
後でお説教だなぁ…
…まぁ、それは元々か
「全くあんたって子は…!」
ずかずかとリタが近づいてくる
「リタっち、今はアリシアちゃんのお説教よりも始祖の隷長でしょーよ」
「そうだよ!お説教は後でみんなで!だよ!」
「…わかったわよ」
レイヴンとカロルの掛け声でリタの足は止まった…けど…
…みんなはちょっときついなぁ…
「シア姐、それでうちらはどうすればいいのじゃ?」
コテンと首を傾げながらパティが聞いてくる
「…私が詠唱してる間、グシオスの気を引いていて欲しい」
「あら、それだけでいいの?」
「んじゃま、さくっと終わらせようぜ?」
ゆっくりと私の横を通り過ぎながら、ユーリとジュディスは武器を構えた
それに倣うように、他のメンバーも武器を構えて私の前に出る
「行きましょう、アリシア」
隣にきたエステルがそう言ってニッコリと笑う
「…うん。…ありがとう、みんな…」
私の前に出た仲間達に小さな声でお礼を言う
きっと聞こえていないだろうけど、聞こえていなくたっていい
だって、みんなは多分、お礼を言われることを望んでないから
「よし!行くぜっ!」
ユーリの掛け声でみんなが一斉に戦闘を始める
それを合図に、私も詠唱を始める
「…天光満つる所我はあり…」
「虎牙破斬!」
「臥龍アッパー!」
一人で突っ走っちゃったのに手伝ってくれる仲間の為にも
「黄泉の門開く所汝あり…」
「鋭く!早く!フリーズランサー!」
「聖なる槍よ、貫け。ホーリィランス!」
いつだって味方になってくれる友達の為にも
「出でよ、神の雷…」
「月牙!」
「ポン・チー・カン・ローンー・ツモ!ジャンパイ!!」
そして…私を慕ってくれた、彼の為にも
「…これで、終わりにしよう」
「時間よ止まれ!お代は見てのお帰り!…ストップフロウ!」
私の詠唱が終わるタイミングで、レイヴンの術が発動する
グシオスの動きがピタリと止まる
「…インディグ、ネイション」
その声と共にグシオスに雷が降り注ぐ
本当はこんな術、使いたくなかった
…それでも、きっとこれが最善策だから…
《…ありがとう。姫…》
何処か安心したようなグシオスの声が頭に響いた
「…ううん。こんな形でしか、救ってあげられなかったのにお礼なんて…。ごめんね、グシオス…」
《姫は、何も悪くない。…さぁ、我の聖核…使うとよい。…姫なら…姫達ならば、託そう……我が、命…》
その声と共に光が強くなった
光が収まった時には、聖核だけが残っていた
「…グシオス…」
そっと聖核を抱き上げて胸の前で抱きしめる
「ったく、まだこいつに恨みがあんのか?」
ユーリの呆れた声に振り返ると、クリントが恨めしそうに聖核を睨みつけていた
「…そいつはあの化け物の魂だ。砕かずにはすまさん」
「化け物じゃ」
「この期に及んでまだそんなこと言うの?」
エステルの言葉を遮って彼を見る
「世界がこんな状態になって、滅ぶか滅ばないかの危機に瀕してるっていう時に、まだそんなこと言うの?」
「始祖の隷長の役目など知ったことではない!!」
クリントは私に向かってそう叫ぶ
…折角キレないであげていたって言うのに…
「知ったことじゃない?元はと言えば彼らの忠告を無視して彼らを殺そうとした人間が悪いんじゃない。…魔物は彼らを守る為に動いていたのにすぎないわ。それで?彼らの忠告を無視してどうなったと思ってるの?そのせいで世界が滅びそうになっているって言うのに」
半分睨みながら彼を見る
「…俺の家族は始祖の隷長に殺された。魔狩りの剣のメンバーは魔物に大切な者を奪われた者達…。奴らを憎む気持ちは世界がどうなろうと変わるものではない!」
クリントも負けじと私を睨みつけてくる
「……それでも、間違ってるよ」
私が反論する前にカロルが口を開いた
静かに、でも何か決意の籠ったような声で言う
「なに…?」
「そんなこと続けたって、何も帰ってこないのに」
「あの戦争で身内失ったのは、あんたらだけじゃないでしょ」
「そうね。それでも前向きに生きようとする人もいる」
「憎しみだけでぶつかっていっても、誰も…自分も救われないのじゃ。それよりも残った者を大切にした方がよいのじゃ」
「街を守って魔物と戦う、立派なことだと思います。けど…」
「世界がどうにかなりそうってな時だ。意地になってんじゃねぇよ」
一人一人、クリントに向かって言う
…みんなの言う通りだと私も思う
私が、言えた口ではないかもしれないけど…
「…今更、生き方を変えられん」
「ふん。どうしても邪魔するってんなら…」
「…そういう考えをしていいなら、魔物におそわれている家族を人に見殺しにされた私は、人と魔物両方殺していいの?」
今にも戦闘を始めそうになったユーリの言葉を遮る
「アリシア…」
「人も魔物も両方恨んで、気が済むまで殺せばいい?」
真っすぐにクリントだけを見つめる
彼は何も言わずにただ私を見つめ返してくる
「…そういうわけにはいかないでしょ?憎くても、してはいけないこともある。…いつまでも、憎しみから前に進まないわけにはいかない。そんなことしても、帰ってこないものは帰ってこない。…また、大切な人を失うだけよ」
彼に対して…ーーいや、これは私自身に対してもかーー…言い聞かせるように言う
…そう、また、失うだけだ
クリントは暫く私を見つめた後、出口の方へと踵を返した
その後を魔狩りの剣のメンバーがついて行った
ナンが去り際にカロルに何か言ってたけど、私には聞き取れなかった
「…アリシアちゃん、さっきの…」
何処かさみし気な表情でレイヴンが見つめてくる
「…本当にそんなことするつもりはないよ。…わかってる、してはいけないことだって…。私と彼は、憎む対象が違うだけで少し似てるところがあるように思えたから言っただけだよ?」
苦笑いして答える
彼にはああ言ったけど、私だって彼とあまり変わらないもの…
「…さ、エステル、始めよう!」
ニッコリと笑ってエステルを見る
…今はこんな感情に浸ってる場合じゃない
成すべきことを、やらないと
「成功…?」
精霊化の終わったグシオスを見つめてリタが首を傾げる
「でも目を閉じたままぴくりとも動かんのじゃ」
《意識すら飲まれかけていたのだ。しばらくは目覚めまい。さぁ、名付けてやるがよい》
「…地の精霊…根を張る者、ノーム」
《目覚めたら、伝えておこう》
ウンディーネがそう言うと精霊たちの気配が消えた
「……星喰みがエアルを調整してくれようとした始祖の隷長のなれの果てなんて」
「まったく人間って奴は本当に自分の目で見えることしかわからないもんだな」
「んで、巡り巡って結局一番悪いのは人間ってか…。笑えないねぇ」
「いつだって何かやらかすのは人間なのじゃ」
「……そう、だね」
星喰みのことは、恐らくイフリート達が教えたんだろう
なんだって悪いことが起こる前提に人間が関わっている
始祖の隷長達が人を毛嫌いするのも無理はないだろう
「じゃ、尚の事頑張らないといけませんね」
そう言ってエステルは微笑んだ
「…そうだな、その通りだ」
エステルのその言葉にみんなも微笑む
「さ、次の場所に行きましょ」
「そうね。でもその前に…」
ジッとリタが私のことを見つめてくる
「アリシア、あんた、自分が何したかわかってる?」
半分咎めるような声でリタが聞いてくる
「一人で行動しないって約束、忘れたの?」
ムッと頬を膨らませたカロルも私をジーっと見つめてくる
「…ごめん」
たった一言そう言って肩を竦めた
「次は本当の本当に怒るのじゃ!」
「だそうよ?」
怒っているみんなとは違って、ジュディスとレイヴンは苦笑いして私を見ていた
「ま、そんくらいにしてあげなさいな。アリシアちゃんだって、可愛がってくれた始祖の隷長が苦しんでるの、ほっとけなかったのよ」
レイヴンはそう言ってリタ達を見た
…私の味方してくれるなんて珍しい…
「ほーら、早く行きましょーよ。精霊化さえ終わらせられれば、アリシアちゃん休ませられるじゃない」
ニヤリ、と笑ってレイヴンは言う
…あれ、待って、それ私遠回しに強制的に休ませるって言われてない…!?
「…それもそうね」
「じゃの!」
「行きましょう!」
「よーし!しゅっぱーつ!!」
リタにパティ、それにカロルとエステルは生き生きと出口の方へと歩いて行った
「えぇ…なんであんなに嬉しそうなの…」
「シアのこと、休ませられるからだろ?」
半分ため息をつきながら言うと、ユーリが頭に手を乗せてくる
「…まだ無理してないもん」
「そうゆう問題じゃねーの。…いい加減わかれよ」
そう言うユーリの顔は何処か寂しげだった
「ほら!アリシアちゃんと青年も行くわよ!」
少し離れたところでレイヴンがパタパタと手を振ってきていた
「だとよ。…シア、行こうぜ」
「ん、そうだね」
そう言って、レイヴン達の後を追いかける
…残るはあと一体
彼女は相当手強いだろうなぁ……
……それまで、持ってくれるよね…?
私の、身体……
ほんの少し痛くなり出していたのを隠しながら、みんなの後を追いかけた