第3部〜星喰みの帰還と星暦の使命〜
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新たな事実
「さてと……んじゃ、どっから話してもらおうか」
フェルティア号に乗るやいなや、ユーリは私をじっと見つめる
「『初代様が』って言ってたわね。どういう意味かしら?」
ジュディスは首を傾げながらそう聞いてきた
「私もつい最近、シリウスたちに聞いたんだけど…星暦の初代当主、レグルスは始祖の隷長の生み出す聖核が満月の子と星暦の力を合わせることで、新しい生命……精霊を生み出すことを発見していたの」
「それじゃあ、千年前には既に精霊は存在することが可能だったわけ?!」
リタの問いにゆっくりと頷いた
「そして…その精霊が星喰みに有効なことも……理解してた」
「え?じゃあなんで星喰みはまだいるの??」
「……精霊は、満月の子と星暦と始祖の隷長が協力しないと生み出せない。始祖の隷長はそれを自分たちの使命だと言って自ら志願した。星暦に友好的だった満月の子は協力を快諾してくれたみたいだけど……満月の子の指導者……最初の皇帝がそれを許さなかった」
ユーリたちに背を向けて、空を見上げた
…正直、これは話すのがつらい
……それは、エステルにとってもつらい話になるから
「……どうして、ですか…?」
何かを察したように、震えた声でエステルは問いかけてくる
「…………初代皇帝は、星暦に友好的じゃなかった。始祖の隷長の肩を持つ星暦を悪くさえ思ってた……つまり、ね?星暦の言うことを聞くのを嫌がったんだよ。……それでも、私の祖先は精霊化を推し進めようとした………。で、起こったのが世界を守るためって名義の星暦の殺戮」
「……なるほど。始祖の隷長の精霊化が両者の溝を更に深めたってわけね」
「そうゆうこと。…それを聞くまでは満月の子の身代わりにされたって教えられてきたから、それが真実だと思ってた。けど……違った」
ギリッと奥歯を噛み締める
共に生きて行くことを望んだレグルス
共に生きていくことを拒んだ皇帝
交わることの無いすれ違った思いが引き起こした悲劇
「……災厄の及ぼす影響が酷くなってから、初代皇帝はようやく過ちに気づいた。やっと星暦の言葉に耳を貸した。……けど、精霊化には断固反対し続けた」
「何故?精霊化をすれば、自分たちの命を削らずに済んだのに」
不思議そうにジュディスが口を開く
「……星暦の命を奪っておいて、更に奪うようなことは出来ない。…そう言ったんだって」
「待てよ、それ、どういう意味だ?」
『更に奪うような』…その言葉にユーリは反応した
「……満月の子がマナにより近い状態に再構成したエアルを聖核に導くのに、物凄い力を使う。…生命力を使ってなくても、削られるくらいに」
「あんた……まさか、それをわかっててさっき……!!」
「精霊化には絶対に星暦の力は必要だよ。多かれ少なかれ、私は干渉しないといけない。……まぁ、リタがいい方法見つけてくれたから、最後の後押しだけで済みそうだけどさ」
そう言いながら振り返る
みんな困惑した顔で私を見つめてきていた
「……そんな顔しないでよ。それが、私の使命なんだから」
苦笑いしながらみんなを見た
まぁ正直、割り切れって言う方が難しいか
「シア姐は……怖くないのかの?もしかしたら、死んでしまうかもしれないのじゃぞ?」
沈黙を破ったのはパティだった
「……怖いよ。怖くないわけじゃない。………でも、自分が死ぬことよりもみんなが居なくなる事の方が何倍も怖いよ」
ぎゅっと手を握り締める
確かにお兄様の時は刺し違えてでも……って思ってた
…でも、怖くなかったわけじゃない
怖くても…立ち向かわないと大切なものなんて守れないから……
「…………それでも……そんなの、あんまりだよ……」
振り絞るような声でカロルは言う
「大丈夫だって!…昔と違って精霊化を急ぐ必要はないし、休みながらなら大丈夫だよ」
軽く肩を竦めながらそう答える
それでも、みんなの顔は沈んだままだ
もう一度、大丈夫だと伝えようと口を開いた
その時……
ゴゴゴゴゴ………ドォーンッ!!!!!!
「っ!?なんだ!?」
大きな地響きと、何かが落ちる音……
慌てて音の聞こえた方角を見る
「……嘘…………」
ボソッと小さく呟いた
私の目に入ったのは、ザウデの頂上にあったはずの魔核が海に落ちていくところだった
……急がなくてもいい、唯一の切り札だったザウデが機能を完全に失った
空を覆っていたはずの結界は消え、星喰みからいつか見た魔物のような何かが降りてくる
《姫様、ジュディス、あれに襲われてる街があるよ》
不意にバウルの声が聞こえてきた
「えぇ、わかったわ」
「どうした?ジュディ」
「あの降りてきたのに襲われてる街があるみたいよ」
私が伝えるより早く、ジュディスが口を開いた
「聞いちゃったら行くしかないよね」
カロルがそう言うと、みんな一斉に頷く
「方角は……ノードポリカの方ね」
「んじゃ、さくっと行きますか!」
「見て!街に取り付いてる!」
ノードポリカにつくと、砂漠で見た『あいつ』が結界に張り付いていた
「あの黒いの……前にコゴール砂漠で見たやつか!」
「…だね。あの時はフェローの幻影だったけど…今回は本物だよ。……誰が結界の出力でもあげたのかな……」
苦笑いしながら呟く
大方、危険を察知して防衛に当たったんだろうけど…
「結界のエアルを食べようとしてるみたいです!」
「星喰みはエアルに引き寄せられる…?」
「こいつは中々やばそうね」
「やばくてもやるしかない。一本釣りにしてくれるのじゃ」
パティはそう言って意気込むと、クルクルっと銃を取り出す
『どうする?アリシア』
みんなが戦闘態勢に入ってすぐにシリウスが話しかけてくる
「……どうするも何も、ね」
そう呟きながらゆっくり近づきながら短剣を取り出す
「おい、シア!」
先に行こうとする私をユーリが止めようとする
本当は戦わせてあげた方が精霊の凄さもわかるだろうけど、エアルを食べようとしてるのはいただけない
「…さっと倒さないと困るから」
『全く………仕方ないな……』
シリウスは呆れ気味にため息をつきながら力を貸してくれる
「焔、其は乱れ狂う龍神の咆哮……焼き尽くせ、バーンストライク」
私が詠唱すると、火の玉が『あいつ』目掛けて降り注いだ
当たり前だけどそれだけじゃ当然倒せなくて、こちらの方を敵意丸出しで振り返ってくる
「やっぱ一撃は無理、かぁ」
『シリウス、交代よ』
シリウスの気配が消えたと同時にペテルギウスの気配がした
「……凍牙、其は結集せし無限の刃……貫け、アイススパイン」
今度はいくつもの氷の刃が『あいつ』を貫く
…そろそろ流石に倒れてくれないと困る
氷の刃が消えるのと同時にそれは地に伏した
そして煙のように姿を消した
「はい、終了」
「ちょっ!終了じゃないわよ!最後の術は何?!それに、バーンストライクは詠唱違うじゃない!なんなのよアレ?!」
くるっと振り返ると、とんでもない勢いでリタがすっ飛んで来て両肩を掴まれた
「何って言われても……星暦の力としかいいようないんだけど……」
苦笑いしながらそう答えた
実際そうとしか言いようがないし…
「あなた…そんなに使って平気なの?魔導器 もその力も、使い過ぎれば体に毒なのでしょ?」
「そうだよ!精霊化にも必要なら、今そんなに使ってちゃ駄目だって!」
ジュディスとカロルが諭すようにそう言ってくる
「ごめん。でも、エアル食べられるのは困るから」
肩を竦めながらそう答えた
「なんでです?」
エステルが問いかけてくるけど、それには答えずに肩を竦めた
「さ、街の様子見に行こ」
そう言って街に向かって歩き出した
「退くな!ここで食い止めるんだ!」
中に入って早々、そんな声が聞こえた
どうやら既に中に入られてしまっていたらしい
「アリシア、退きなさい!」
後ろからリタの声が聞こえて振り返ると、詠唱を始めている彼女が目に入った
大人しく道を開けると、『あいつ』目掛けてファイヤーボールが飛んでいく
幾つか当たると、すぐに地に伏して煙のように姿を消した
「おーお、ものものしいねぇ」
ナッツさんたちの方に駆け寄りながら、レイヴンは言う
「あ、あんたたちは……!」
私たちを見て、彼は驚いた声をあげる
「話は後だな。先にこいつら、どうにかしねぇと」
そう言ってユーリがナッツさんに背を向ける
背後には、どっから沸いてきたのかもう何体か居るのが目に入った
「さくっと終わらせよっか」
私がそう言ったと同時に、みんな動き出した
「またあんたたちに助けられたな」
『あいつ』を倒した後、ナッツさんが統領 の部屋へと案内してくれた
……前は、ベリウスが居た部屋……
そう考えると、何処か懐かしく思える
「この街だけ襲われるなんてほんと運が悪いよね」
「運じゃないわ」
部屋に入って来ながら、リタがカロルの言葉を否定した
「…原因、わかった?」
少し微笑みながらリタに聞く
「ええ。あんたの言った通り、結界魔導器 の出力が上げられていたわ。だから、あの化け物が引き寄せられたみたいね。通常の出力に戻させてもらったわよ」
「万が一に備えたんだが……裏目になってしまったんだな。自分は住民の様子を見に行く。あんたたちは好きなだけゆっくりしてってくれ」
少し肩を落としながらも、ナッツさんはそう言ってくれる
「ありがとう。でも、私たちも急いでるんだ」
「そうか…あんたたちならいつでも歓迎する
また寄ってくれ」
「サンキュ」
ユーリがそう返すと、みんな扉の方に向いて歩き始めた
《……姫、ナッツを元気づけてやってくれぬか?》
ウンディーネの声が聞こえて、扉の前まで来て私は足を止めた
彼女のことだから、どこか寂しそうな雰囲気の彼が気がかりになっているのだろう
深呼吸をしてから振り返る
「ナッツさん」
「なんだ?」
「…ベリウス、きっと喜んでると思うよ。あなたが立派に自分の跡を継いでくれてるって」
ニッコリと笑ってそう言った
「…………そう、だろうか……自分は……ベリウス様のように、まとめていられているだろうか……」
「ベリウスだって、自分みたいに完璧にやれなんて思ってないよ。…彼女は長い時を生きた始祖の隷長 なんだもん。……ずーっと、ノードポリカを束ねてきてた。そんな彼女と同じようにやれ、なーんて出来なくて当然だよ。……ナッツさんはナッツさんの出来ることを、出来るようにやればいいんだよ」
「…………そうだな。ベリウス様ならば、きっとそのようには言わないな」
少し表情を緩めてナッツさんはそう言った
「アリシアちゃーん!早く来なさいなー」
「それじゃ、私ももう行くね」
外から聞こえてきたレイヴンの声に肩を竦めながら、彼に軽く頭を下げて今度こそ扉の方へ向かった
「あら、やっと降りてきたわね」
みんなに追いつくと、少し意地悪気にジュディスが声をかけてきた
「ごめんごめん、ちょっとナッツさんと話してたから」
苦笑いしながらそう答える
「ナッツさん、頑張ってたね」
「ああ、ベリウス亡き後、うまくまとめてるみたいだな」
「本人は自信なさげだったけどね。ま、ベリウスの後だし、プレッシャーだよね」
頭の後ろで手を組みながら二人に相槌を打った
「あんた、それで残ってたわけ?」
「そうだよ?ベリウス……ウンディーネが元気づけてあげてくれって言うから」
「…ウンディーネと会わせてあげたいです。きっと喜びます」
エステルはユーリを見つめながらそう言う
確かに会わせてあげれば喜ぶだろうけど…
「今はまだその時じゃないよ。ナッツさんなりに頑張ってる時なんだから」
私がそう言うと、エステルは残念そうに肩を落とした
「全部ケリがついた時に驚かせてやろうぜ」
フォローするようにユーリは言葉を繋ぐと、彼女は力強く頷いた
「にしても、あの化け物……戦士の殿堂 の手練れが太刀打ちできてなかったな。どうも解せないねぇ」
思い出すように顎に手を当てて目を軽く閉じながら、レイヴンは言う
「僕らは倒せたのにね」
同意するように頷きながらカロルも言う
「何か違いがあるとしたら……」
「アリシアと精霊、かしらね?」
私とエステルを交互に見ながらジュディスが言う
「星喰みがエアルに近いってんなら精霊の力が影響した可能性はあるけど……アリシアはどちらかというと、エステルに近いはずじゃ…」
じっと私を見つめながらリタは言う
自然とみんなの視線が私に集まってくる
「んー…エステルに近いとも言えるけど、精霊に近いとも言えるかな」
腕を組みながら少し首を傾げる
「どいうことなのじゃ?」
パティの問いかけに一瞬答えようか迷ったけど、どうせ言わなきゃ文句言われるのが目に見えてる
「……私が使う術技には三つのパターンがある。一つ目は魔導器 を使うこと。二つ目は満月の子と同じようにエアルを直接使うこと。違うのは直接エアルを身体に通すんじゃなくて、星たちを経由してからってところかな。それで三つ目、これはエアルを使わないで、星たちが作り出してくれるマナを使うこと」
「星がマナを作り出す……?!」
「そ、って言っても精霊みたいに純度が高いものじゃないけどさ。…それが、さっきの術」
「よくわかんねぇが……つまり、シアはマナも使えるってことか?」
首を傾げながらユーリが聞いてくる
それにゆっくりと頷いて答えた
「んで、精霊もあの化け物に有効なんだとしたら…三体揃えばもっと対抗できるってことか?」
「それはどうだろう……」
「エアルを抑えるだけなら、属性揃えれば十分だろうけど相手はあの星喰みだからなんとも言えないわ」
難しそうに考え込みながらリタは答える
確かに四属性だけでは無理だろう
レイヴンとエステルが聖核 と始祖の隷長 について話している間、ユーリは顎に手を当てて考え込んでいた
…何を考えてるかは大方わかる
「……まぁ、世界中にある魔導器 の魔核 も同じ方法で精霊に変えることはできるけど、多分それだけじゃ足りないだろうね」
頭の後ろで手を組みながらそう言うと、ユーリは驚いた顔をして私を見た
「…魔核 を精霊に変えればって考えてたでしょ、ユーリ」
ニヤッと笑いながらユーリを見つめる
「あ、あぁ……」
「無茶なこと考えるわね。だいたいそんなのどうやってやるのよ」
呆れ気味にリタはため息をつく
「精霊化の方法は基本同じだよ。それに、お兄様の研究資料の中に、魔導器 ネットワークを一つに纏めるための研究資料があったと思う。今誰がそれ持ってるかはわかんないけど、それ使えば一気に出来るはずだよ」
「仮にできたとしても、それだけでは足りないのかもしれないのでしょう?」
「ま、そこはやってみないとわかんないかな。
……それに……………」
「アリシア……?」
「……ううん!なんでもない!」
『足らせる方法ならあるし』なんて、言えなかった
…だって、それをすることは……
「…でも、もしそれが実現したとして……そしたら、魔導器 は全部使えなくなっちゃわない?」
カロルは不安そうにそう呟く
それもそうだ
魔導器 が世界からなくなるということは、相当不便な生活が強いられることになるのだ
そして、今まで約束されていた安全もなくなる
……精霊次第…というところはあるけど……ね
不安そうな声が相次ぐ中、パティだけは前向きな意見を言う
「…まぁ、みんながよくても、嫌がる人は大勢いるだろうね」
私がそう言うと、みんな少し落ち込んだ顔をする
「……でも、やらなきゃ世界は星喰みに滅ぼされる。それなら、やるべきだって私は思うよ」
「だな。例え仲間以外の誰にも理解されなくても、世界が滅ぶよりはよっぽどマシだ」
私の答えに、ユーリは力強く頷いた
「……ま、とにかくまずは四属性の精霊を生みだそうせ」
レイブンの言葉にみんな頷いて、フェルティア号へと歩き始めた
「……つーか、今の今まで忘れてたが……」
ユーリと一緒に一番後ろを歩いていると、唐突に私の頭の上に手を乗せてくる
「ふぇ??」
「…オレがいつ、お前と同じように倒れるまで無茶したっけ?アリシアさん??」
……そーいえば、シリウスと喧嘩したときにそんなこと言った気がしなくもない……
なんで今思い出すかな……
「た……倒れなくても、無茶してるのは同じじゃ」
「一緒にすんなっつーの。お前の方がよっぽど人に心配かけてんだろうが」
そう言って髪をぐしゃぐしゃにしてくる
「わっ!!ちょっ!!やーめーてって!ごめんごめん!私が悪かった!」
ユーリの手を掴もうとしながらそう言うと、何故か私の方が手を掴まれた
「…………平気、なんだよな?体」
手首を掴んだまま、真剣な表情で私を見つめてくる
「平気だって。今までと同じようにエアルを通してたわけじゃないし、身体にかかる負担は前よりもグッと下がってるから」
微笑みながらそう答えるが、ユーリは納得してなさそうだった
「……なぁ、さっき言おうとしたの、まさかとは思うが……仮に魔核だけじゃ足りなかったとした時、お前、自分のその力足しにしようなんざ考えてねぇよな…?」
少し不安そうな声でユーリは問いかけてくる
……あぁ、なんでユーリはそうやって、私の考えてること当ててくるんだろ
……NOだなんて、答えられない
だって、シリウスたちに聞かれたらわかっちゃうもん
「…………仮にそうだったとしたら、ユーリはどうする?」
若干冗談混じりにそう言った
決して冗談なんかじゃないけど…さ
「…絶対に、そんなことさせねぇ。シアが力使わなくても、星喰みを倒す方法を見つけてやる」
「……………ん、そっか。じゃー見つけてくれることに期待してる」
ニコッと笑って答えた
ユーリなら、見つけてくれそうな気がする
…だって、やるって言ったらなんだってやり遂げてきたんだから
今まで、ずーっと……
「そこのバカップル!早くしないと置いてくわよ!?」
船着き場の方から、リタの呼ぶ声が聞こえてくる
「……ほら!行こう、ユーリ!」
「……………そう、だな」
依然納得していなさそうなユーリの手を引いて、フェルティア号の方へと二人で駆け出した
ユーリの手が、少し震えていた事には、敢えて気づかないフリをした
……だって、そうしないと…
折角決意したことが、揺らいでしまいそうだったから
「さてと……んじゃ、どっから話してもらおうか」
フェルティア号に乗るやいなや、ユーリは私をじっと見つめる
「『初代様が』って言ってたわね。どういう意味かしら?」
ジュディスは首を傾げながらそう聞いてきた
「私もつい最近、シリウスたちに聞いたんだけど…星暦の初代当主、レグルスは始祖の隷長の生み出す聖核が満月の子と星暦の力を合わせることで、新しい生命……精霊を生み出すことを発見していたの」
「それじゃあ、千年前には既に精霊は存在することが可能だったわけ?!」
リタの問いにゆっくりと頷いた
「そして…その精霊が星喰みに有効なことも……理解してた」
「え?じゃあなんで星喰みはまだいるの??」
「……精霊は、満月の子と星暦と始祖の隷長が協力しないと生み出せない。始祖の隷長はそれを自分たちの使命だと言って自ら志願した。星暦に友好的だった満月の子は協力を快諾してくれたみたいだけど……満月の子の指導者……最初の皇帝がそれを許さなかった」
ユーリたちに背を向けて、空を見上げた
…正直、これは話すのがつらい
……それは、エステルにとってもつらい話になるから
「……どうして、ですか…?」
何かを察したように、震えた声でエステルは問いかけてくる
「…………初代皇帝は、星暦に友好的じゃなかった。始祖の隷長の肩を持つ星暦を悪くさえ思ってた……つまり、ね?星暦の言うことを聞くのを嫌がったんだよ。……それでも、私の祖先は精霊化を推し進めようとした………。で、起こったのが世界を守るためって名義の星暦の殺戮」
「……なるほど。始祖の隷長の精霊化が両者の溝を更に深めたってわけね」
「そうゆうこと。…それを聞くまでは満月の子の身代わりにされたって教えられてきたから、それが真実だと思ってた。けど……違った」
ギリッと奥歯を噛み締める
共に生きて行くことを望んだレグルス
共に生きていくことを拒んだ皇帝
交わることの無いすれ違った思いが引き起こした悲劇
「……災厄の及ぼす影響が酷くなってから、初代皇帝はようやく過ちに気づいた。やっと星暦の言葉に耳を貸した。……けど、精霊化には断固反対し続けた」
「何故?精霊化をすれば、自分たちの命を削らずに済んだのに」
不思議そうにジュディスが口を開く
「……星暦の命を奪っておいて、更に奪うようなことは出来ない。…そう言ったんだって」
「待てよ、それ、どういう意味だ?」
『更に奪うような』…その言葉にユーリは反応した
「……満月の子がマナにより近い状態に再構成したエアルを聖核に導くのに、物凄い力を使う。…生命力を使ってなくても、削られるくらいに」
「あんた……まさか、それをわかっててさっき……!!」
「精霊化には絶対に星暦の力は必要だよ。多かれ少なかれ、私は干渉しないといけない。……まぁ、リタがいい方法見つけてくれたから、最後の後押しだけで済みそうだけどさ」
そう言いながら振り返る
みんな困惑した顔で私を見つめてきていた
「……そんな顔しないでよ。それが、私の使命なんだから」
苦笑いしながらみんなを見た
まぁ正直、割り切れって言う方が難しいか
「シア姐は……怖くないのかの?もしかしたら、死んでしまうかもしれないのじゃぞ?」
沈黙を破ったのはパティだった
「……怖いよ。怖くないわけじゃない。………でも、自分が死ぬことよりもみんなが居なくなる事の方が何倍も怖いよ」
ぎゅっと手を握り締める
確かにお兄様の時は刺し違えてでも……って思ってた
…でも、怖くなかったわけじゃない
怖くても…立ち向かわないと大切なものなんて守れないから……
「…………それでも……そんなの、あんまりだよ……」
振り絞るような声でカロルは言う
「大丈夫だって!…昔と違って精霊化を急ぐ必要はないし、休みながらなら大丈夫だよ」
軽く肩を竦めながらそう答える
それでも、みんなの顔は沈んだままだ
もう一度、大丈夫だと伝えようと口を開いた
その時……
ゴゴゴゴゴ………ドォーンッ!!!!!!
「っ!?なんだ!?」
大きな地響きと、何かが落ちる音……
慌てて音の聞こえた方角を見る
「……嘘…………」
ボソッと小さく呟いた
私の目に入ったのは、ザウデの頂上にあったはずの魔核が海に落ちていくところだった
……急がなくてもいい、唯一の切り札だったザウデが機能を完全に失った
空を覆っていたはずの結界は消え、星喰みからいつか見た魔物のような何かが降りてくる
《姫様、ジュディス、あれに襲われてる街があるよ》
不意にバウルの声が聞こえてきた
「えぇ、わかったわ」
「どうした?ジュディ」
「あの降りてきたのに襲われてる街があるみたいよ」
私が伝えるより早く、ジュディスが口を開いた
「聞いちゃったら行くしかないよね」
カロルがそう言うと、みんな一斉に頷く
「方角は……ノードポリカの方ね」
「んじゃ、さくっと行きますか!」
「見て!街に取り付いてる!」
ノードポリカにつくと、砂漠で見た『あいつ』が結界に張り付いていた
「あの黒いの……前にコゴール砂漠で見たやつか!」
「…だね。あの時はフェローの幻影だったけど…今回は本物だよ。……誰が結界の出力でもあげたのかな……」
苦笑いしながら呟く
大方、危険を察知して防衛に当たったんだろうけど…
「結界のエアルを食べようとしてるみたいです!」
「星喰みはエアルに引き寄せられる…?」
「こいつは中々やばそうね」
「やばくてもやるしかない。一本釣りにしてくれるのじゃ」
パティはそう言って意気込むと、クルクルっと銃を取り出す
『どうする?アリシア』
みんなが戦闘態勢に入ってすぐにシリウスが話しかけてくる
「……どうするも何も、ね」
そう呟きながらゆっくり近づきながら短剣を取り出す
「おい、シア!」
先に行こうとする私をユーリが止めようとする
本当は戦わせてあげた方が精霊の凄さもわかるだろうけど、エアルを食べようとしてるのはいただけない
「…さっと倒さないと困るから」
『全く………仕方ないな……』
シリウスは呆れ気味にため息をつきながら力を貸してくれる
「焔、其は乱れ狂う龍神の咆哮……焼き尽くせ、バーンストライク」
私が詠唱すると、火の玉が『あいつ』目掛けて降り注いだ
当たり前だけどそれだけじゃ当然倒せなくて、こちらの方を敵意丸出しで振り返ってくる
「やっぱ一撃は無理、かぁ」
『シリウス、交代よ』
シリウスの気配が消えたと同時にペテルギウスの気配がした
「……凍牙、其は結集せし無限の刃……貫け、アイススパイン」
今度はいくつもの氷の刃が『あいつ』を貫く
…そろそろ流石に倒れてくれないと困る
氷の刃が消えるのと同時にそれは地に伏した
そして煙のように姿を消した
「はい、終了」
「ちょっ!終了じゃないわよ!最後の術は何?!それに、バーンストライクは詠唱違うじゃない!なんなのよアレ?!」
くるっと振り返ると、とんでもない勢いでリタがすっ飛んで来て両肩を掴まれた
「何って言われても……星暦の力としかいいようないんだけど……」
苦笑いしながらそう答えた
実際そうとしか言いようがないし…
「あなた…そんなに使って平気なの?
「そうだよ!精霊化にも必要なら、今そんなに使ってちゃ駄目だって!」
ジュディスとカロルが諭すようにそう言ってくる
「ごめん。でも、エアル食べられるのは困るから」
肩を竦めながらそう答えた
「なんでです?」
エステルが問いかけてくるけど、それには答えずに肩を竦めた
「さ、街の様子見に行こ」
そう言って街に向かって歩き出した
「退くな!ここで食い止めるんだ!」
中に入って早々、そんな声が聞こえた
どうやら既に中に入られてしまっていたらしい
「アリシア、退きなさい!」
後ろからリタの声が聞こえて振り返ると、詠唱を始めている彼女が目に入った
大人しく道を開けると、『あいつ』目掛けてファイヤーボールが飛んでいく
幾つか当たると、すぐに地に伏して煙のように姿を消した
「おーお、ものものしいねぇ」
ナッツさんたちの方に駆け寄りながら、レイヴンは言う
「あ、あんたたちは……!」
私たちを見て、彼は驚いた声をあげる
「話は後だな。先にこいつら、どうにかしねぇと」
そう言ってユーリがナッツさんに背を向ける
背後には、どっから沸いてきたのかもう何体か居るのが目に入った
「さくっと終わらせよっか」
私がそう言ったと同時に、みんな動き出した
「またあんたたちに助けられたな」
『あいつ』を倒した後、ナッツさんが
……前は、ベリウスが居た部屋……
そう考えると、何処か懐かしく思える
「この街だけ襲われるなんてほんと運が悪いよね」
「運じゃないわ」
部屋に入って来ながら、リタがカロルの言葉を否定した
「…原因、わかった?」
少し微笑みながらリタに聞く
「ええ。あんたの言った通り、
「万が一に備えたんだが……裏目になってしまったんだな。自分は住民の様子を見に行く。あんたたちは好きなだけゆっくりしてってくれ」
少し肩を落としながらも、ナッツさんはそう言ってくれる
「ありがとう。でも、私たちも急いでるんだ」
「そうか…あんたたちならいつでも歓迎する
また寄ってくれ」
「サンキュ」
ユーリがそう返すと、みんな扉の方に向いて歩き始めた
《……姫、ナッツを元気づけてやってくれぬか?》
ウンディーネの声が聞こえて、扉の前まで来て私は足を止めた
彼女のことだから、どこか寂しそうな雰囲気の彼が気がかりになっているのだろう
深呼吸をしてから振り返る
「ナッツさん」
「なんだ?」
「…ベリウス、きっと喜んでると思うよ。あなたが立派に自分の跡を継いでくれてるって」
ニッコリと笑ってそう言った
「…………そう、だろうか……自分は……ベリウス様のように、まとめていられているだろうか……」
「ベリウスだって、自分みたいに完璧にやれなんて思ってないよ。…彼女は長い時を生きた
「…………そうだな。ベリウス様ならば、きっとそのようには言わないな」
少し表情を緩めてナッツさんはそう言った
「アリシアちゃーん!早く来なさいなー」
「それじゃ、私ももう行くね」
外から聞こえてきたレイヴンの声に肩を竦めながら、彼に軽く頭を下げて今度こそ扉の方へ向かった
「あら、やっと降りてきたわね」
みんなに追いつくと、少し意地悪気にジュディスが声をかけてきた
「ごめんごめん、ちょっとナッツさんと話してたから」
苦笑いしながらそう答える
「ナッツさん、頑張ってたね」
「ああ、ベリウス亡き後、うまくまとめてるみたいだな」
「本人は自信なさげだったけどね。ま、ベリウスの後だし、プレッシャーだよね」
頭の後ろで手を組みながら二人に相槌を打った
「あんた、それで残ってたわけ?」
「そうだよ?ベリウス……ウンディーネが元気づけてあげてくれって言うから」
「…ウンディーネと会わせてあげたいです。きっと喜びます」
エステルはユーリを見つめながらそう言う
確かに会わせてあげれば喜ぶだろうけど…
「今はまだその時じゃないよ。ナッツさんなりに頑張ってる時なんだから」
私がそう言うと、エステルは残念そうに肩を落とした
「全部ケリがついた時に驚かせてやろうぜ」
フォローするようにユーリは言葉を繋ぐと、彼女は力強く頷いた
「にしても、あの化け物……
思い出すように顎に手を当てて目を軽く閉じながら、レイヴンは言う
「僕らは倒せたのにね」
同意するように頷きながらカロルも言う
「何か違いがあるとしたら……」
「アリシアと精霊、かしらね?」
私とエステルを交互に見ながらジュディスが言う
「星喰みがエアルに近いってんなら精霊の力が影響した可能性はあるけど……アリシアはどちらかというと、エステルに近いはずじゃ…」
じっと私を見つめながらリタは言う
自然とみんなの視線が私に集まってくる
「んー…エステルに近いとも言えるけど、精霊に近いとも言えるかな」
腕を組みながら少し首を傾げる
「どいうことなのじゃ?」
パティの問いかけに一瞬答えようか迷ったけど、どうせ言わなきゃ文句言われるのが目に見えてる
「……私が使う術技には三つのパターンがある。一つ目は
「星がマナを作り出す……?!」
「そ、って言っても精霊みたいに純度が高いものじゃないけどさ。…それが、さっきの術」
「よくわかんねぇが……つまり、シアはマナも使えるってことか?」
首を傾げながらユーリが聞いてくる
それにゆっくりと頷いて答えた
「んで、精霊もあの化け物に有効なんだとしたら…三体揃えばもっと対抗できるってことか?」
「それはどうだろう……」
「エアルを抑えるだけなら、属性揃えれば十分だろうけど相手はあの星喰みだからなんとも言えないわ」
難しそうに考え込みながらリタは答える
確かに四属性だけでは無理だろう
レイヴンとエステルが
…何を考えてるかは大方わかる
「……まぁ、世界中にある
頭の後ろで手を組みながらそう言うと、ユーリは驚いた顔をして私を見た
「…
ニヤッと笑いながらユーリを見つめる
「あ、あぁ……」
「無茶なこと考えるわね。だいたいそんなのどうやってやるのよ」
呆れ気味にリタはため息をつく
「精霊化の方法は基本同じだよ。それに、お兄様の研究資料の中に、
「仮にできたとしても、それだけでは足りないのかもしれないのでしょう?」
「ま、そこはやってみないとわかんないかな。
……それに……………」
「アリシア……?」
「……ううん!なんでもない!」
『足らせる方法ならあるし』なんて、言えなかった
…だって、それをすることは……
「…でも、もしそれが実現したとして……そしたら、
カロルは不安そうにそう呟く
それもそうだ
そして、今まで約束されていた安全もなくなる
……精霊次第…というところはあるけど……ね
不安そうな声が相次ぐ中、パティだけは前向きな意見を言う
「…まぁ、みんながよくても、嫌がる人は大勢いるだろうね」
私がそう言うと、みんな少し落ち込んだ顔をする
「……でも、やらなきゃ世界は星喰みに滅ぼされる。それなら、やるべきだって私は思うよ」
「だな。例え仲間以外の誰にも理解されなくても、世界が滅ぶよりはよっぽどマシだ」
私の答えに、ユーリは力強く頷いた
「……ま、とにかくまずは四属性の精霊を生みだそうせ」
レイブンの言葉にみんな頷いて、フェルティア号へと歩き始めた
「……つーか、今の今まで忘れてたが……」
ユーリと一緒に一番後ろを歩いていると、唐突に私の頭の上に手を乗せてくる
「ふぇ??」
「…オレがいつ、お前と同じように倒れるまで無茶したっけ?アリシアさん??」
……そーいえば、シリウスと喧嘩したときにそんなこと言った気がしなくもない……
なんで今思い出すかな……
「た……倒れなくても、無茶してるのは同じじゃ」
「一緒にすんなっつーの。お前の方がよっぽど人に心配かけてんだろうが」
そう言って髪をぐしゃぐしゃにしてくる
「わっ!!ちょっ!!やーめーてって!ごめんごめん!私が悪かった!」
ユーリの手を掴もうとしながらそう言うと、何故か私の方が手を掴まれた
「…………平気、なんだよな?体」
手首を掴んだまま、真剣な表情で私を見つめてくる
「平気だって。今までと同じようにエアルを通してたわけじゃないし、身体にかかる負担は前よりもグッと下がってるから」
微笑みながらそう答えるが、ユーリは納得してなさそうだった
「……なぁ、さっき言おうとしたの、まさかとは思うが……仮に魔核だけじゃ足りなかったとした時、お前、自分のその力足しにしようなんざ考えてねぇよな…?」
少し不安そうな声でユーリは問いかけてくる
……あぁ、なんでユーリはそうやって、私の考えてること当ててくるんだろ
……NOだなんて、答えられない
だって、シリウスたちに聞かれたらわかっちゃうもん
「…………仮にそうだったとしたら、ユーリはどうする?」
若干冗談混じりにそう言った
決して冗談なんかじゃないけど…さ
「…絶対に、そんなことさせねぇ。シアが力使わなくても、星喰みを倒す方法を見つけてやる」
「……………ん、そっか。じゃー見つけてくれることに期待してる」
ニコッと笑って答えた
ユーリなら、見つけてくれそうな気がする
…だって、やるって言ったらなんだってやり遂げてきたんだから
今まで、ずーっと……
「そこのバカップル!早くしないと置いてくわよ!?」
船着き場の方から、リタの呼ぶ声が聞こえてくる
「……ほら!行こう、ユーリ!」
「……………そう、だな」
依然納得していなさそうなユーリの手を引いて、フェルティア号の方へと二人で駆け出した
ユーリの手が、少し震えていた事には、敢えて気づかないフリをした
……だって、そうしないと…
折角決意したことが、揺らいでしまいそうだったから