第3部〜星喰みの帰還と星暦の使命〜
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
精霊の誕生
〜アスピオにて〜
「わかったぁぁぁぁ!!!!」
アスピオの広場について早々、何処からともなくリタの叫び声が聞こえてきた
何事かと思えば、ものすごい勢いでリタが書庫から飛び出してくる
「あ、リタ!」
エステルが声をかけるが、それにさえ気づかずに走って自分の小屋へと戻って行く
「……なんか、いい事でもあったのかな」
苦笑いして彼女の小屋の方を見つめる
昔からリタのこの癖は変わっていないんだなとつくづく思う
「うちらに気づきもしなかったのぅ…」
「…まぁ、研究熱心なリタだからねぇ…」
若干不服そうなパティにそう言って、彼女の小屋の方へと足を向ける
小屋の前についてガチャっとドアノブを回して中に入ると、部屋の中をうろつきながらリタがブツブツと呟いているのが目に入る
「リタ、リータ!!!」
「だぁぁぁぁ!!!もう!!誰よ!!!!!うっさいわ……ね………」
私の呼び声に怒鳴りながら振り向く
そして、私とユーリを見た瞬間にポカーンとして私たちを交互に見つめる
「よ、元気してたか?」
「ごめんね、リタ。心配かけて」
呑気にそう言ったユーリとは対照的に、私は苦笑いして肩を竦めた
リタは一瞬嬉しそうに笑ったが、すぐに頭を振って今度は怒ったような表情を浮かべる
「もう!!!こんな大変な時に今まで何処に居たのよ!!生きてるんだったら生きてるって、ちゃんと知らせなさいよ!!」
そう言いながら私とユーリを交互に見る
素直に無事で良かったって言えない彼女なりの表現なんだろう
「悪かったよ、心配かけてさ」
ユーリがそう言うと、少し顔を赤くしてそっぽを向く
「べ、別にあんたの心配はしてないわよ。アリシアよりも頑丈だもの」
「待ってリタ、その私は貧弱みたいな言い方は納得いかない!」
「事実じゃない。…身体、本当に大丈夫なの?動いて平気なわけ??」
そう言って私に近づくと、あちこち調べるように触れてくる
「だっ、大丈夫だって!動いてもなんともないよ!」
そう言ってリタから少し距離を取る
腹部に出来た傷は完全に消えているわけじゃない
…バレたら絶対根掘り葉掘り聞かれるに決まってる
流石に彼女を陥れるようなことをするつもりはさらさらないから、この傷がバレるのはちょっと困る
「…………絶対、大丈夫なのね?」
「…私、そんなに信用ない?」
あまりにも疑い深い目で見られるので、苦笑いしながら隣に居るユーリに問いかける
「おぅ、ねぇな。平気って言っといて、何度ぶっ倒れたと思ってんだ?」
「……その節はご心配お掛けして申し訳ありませんでしたっ!」
あまりにも低トーンでユーリにまでそう言われてしまった
…そう言われてみれば、何度倒れたか自分でもわからないや…
「……まぁ、本当に大丈夫そうだから、今日のところはそうゆうことにしといてあげるわ」
渋々…という感じではあるが、リタはそう言って薄らと笑みを浮かべた
「それで、何かわかったのかしら?」
「え…えぇ!エステルの力を制御出来るかもしれない方法、見つけたのよ!」
ジュディスが聞くと、リタは嬉しそうにそう答えた
「流石天才魔導士のリタ、だね!」
ニコッとリタを見て笑いかける
やっぱりリタを信じて良かった
「あっ、当たり前でしょ!このあたしに、不可能なんてないんだから」
照れ臭そうにしながら頬を掻く
褒められなれてないリタを褒めると、案外面白い反応が返ってくるからちょっと楽しかったりする
…本人に言ったら確実に丸焼きにされるけど…
「リタ、それ今すぐ出来んのか?」
「今すぐは無理ね。エアルクレーネと聖核がないと……ってことで、ドンに渡した蒼穹の水玉 が必要なんだけど」
「リタ……サラッと無茶言ってない…?」
ドンに渡したって…渡したものをやっぱり返してください、は駄目でしょ…
「あら、丁度いいわね。おじ様とカロルをダングレストに迎えに行く予定だったもの」
「のじゃ、一石二鳥なのじゃ!」
「んじゃ、行くとしますかね」
ユーリがそう言うと、みんな出口の方へ歩き始める
…駄目だ、みんな返してもらえるって思ってそう…
まぁ確かにドンが亡くなった後だし、もしかしたらいけるかもしれないけど…
「おーい、シア!早く来いって!」
「……今行く!」
呼びかけてきたユーリの声に答えて、リタの家を後にする
……デュークさんのしようとしてる事が少し気になるから、ちょっとだけ『あれ』を見ておきたかったけど……
今はエステルの方が先かな
「さてと…まずは、おっさんとカロル探しだな」
相変わらずの夕焼け空のダングレスト…
街には前よりも活気が無いように見える
…これが、ドンが亡くなった後遺症なのかな
「二人なら、ユニオン本部に居るんじゃないかしら?」
「じゃの。行ってみよう!なのじゃ!」
ジュディスの意見でユニオン本部に向かおうと、ユーリとジュディス先頭に歩き始める
いつものように最後尾をついて行こうとすると、リタに背中を押される
「わっ!?ちょっ、リタ!危ないって!」
「アリシア、あんたはあたしの前歩きなさいよ。また一人でフラフラされたら堪らないから」
「………ねぇ、私そんなに信用されてないの……?レイヴンより酷くない…!?」
若干涙目になりながらそう訴える
ここまで行動を制限されると流石に傷つく
「あんたの信用がないのと、おっさんの信用がないのは別よ、別。あんたは心配だからあたしの目の届くとこに置いてるの。おっさんはロクでもないことしでかして、周りに迷惑かけないように見張ってんの」
「…だとしてもレイヴンと同じ扱いされるのは癪だって…」
はぁ……っと大きくため息をつく
よりにもよってレイヴンと同じ扱いうけるとは…
「はいはい、いーからさっさと歩きなさい」
そう言って、リタは私の手を引っ張る
若干引き摺られるような状態で、四人と一匹の後に続いた
「あっ!アリシア!!」
カロルの声が聞こえてその方向を見ると、カロルの姿が見えた
ユーリたちから大分離れてついてきたから、彼らとはもう既に合流してたらしい
「カロル、心配かけてごめんね」
「ううん、二人が無事で良かったよ!」
「おいおい…オレの時とは大分態度違うな…」
ため息をつきながら、ユーリはカロルを見つめる
…あの様子だと色々言われたんだろうなぁ…
「あれ?レイヴンは??」
「おっさんなら、ハリーの野郎を探し行ったよ」
「ハリー……?」
誰のことかわからなくて、一人首を傾げる
「あぁ、そういやシアは一人で無茶してた最中だから、知らねぇのか」
若干嫌味っぽくユーリは言ってくる
「はいはい…その節はすみませんでしたー!…で、誰なの?」
「ドンのお孫さんです」
……孫、居たんだ……あの人
「おりょ?アリシアちゃーん!無事だったのね!」
後ろから声が聞こえて振り返ると、レイヴンと……多分ハリーって人が歩いてくるのが見えた
「…相変わらずそっちの方だと元気だねぇ」
「んー?オレさまはいっつもこうよ?」
ヘラヘラと笑いながらレイヴンは言う
…まぁ、確かにシュヴァーンの時よりはマシだけどさ
「ねぇ、あんた、蒼穹の水玉 譲ってくれない?」
二人が来てそうそう、リタは無茶苦茶を言う
「リタ……唐突に言うのはどうかと思う」
「ダメだ、あれはドンの跡を継ぐやつのもんだ。勝手には渡せない」
きっぱりと彼はそう言った
…って、ハリーが継ぐんじゃないの?
それ以上は何も言わずに、彼はユニオン本部の中へ入って行った
「オレらも行くとしますか」
「……私、外で待っててもいい?街の外には出ないから」
なんだか……中には入りにくい
「…勝手に居なくならないって約束出来るか?」
「大丈夫、ここの前から離れないから」
「……わかった」
ユーリはそう言うと、中へ入って行く
他のメンバーもその後に続いた
残ったのは私一人
「…………シリウス、リタの話……どう思う?」
『聖核を使う話か?』
私が声をかけると、すぐに返事をしてくれた
「うん。……もし、リタのやろうとしていることが、みんなが見せてくれた『あの計画』と同じなら……」
『……あぁ、この世界のあり方を変えかねないな』
「…デュークさん、怒りそうだね」
苦笑いしながら肩を竦めた
この世界を誰よりも大切にしているデュークさんのことだ
世界のあり方を変えるなんて知ったら、絶対止められる
止められるっていうか……多分批判されるんだろうなぁ…
『だが、いつまでも今と同じ生活は続けられぬ。いつかは、この世界も変わらなければいけない。エアルは無限ではないのだから』
「そうだけど…それを受け入れられない人もいる」
『それを支えるのも、受け入れたもの達の使命だろう?』
「……シリウスきーびしい」
『厳しくしなければ、あまえるだろう?』
「まっ、そうなんだけどね」
頭の後ろで手を組んで空を見上げる
少し暗くなってきた空に星が見え隠れしている
「……ね、ユーリの方聞きにいけない??」
『………無茶苦茶言うな……』
「えー、ダメ?ユーリペンダント持ってるんだから行けるでしょ」
『駄目だ。勝手にいくなど出来ない』
「……私のとこには呼ばなくても来るくせに」
『お前はすぐに無茶するからだ!ユーリはそんなことしないだろう!?』
「そんなことないですー!同じだって!」
そんないつもの言い合いが始まる
これが始まると、誰かが止めに入るまで止まらない
まぁ大抵、シリウスが無理矢理強制退場させられるんだけどね
『大体、あの時だって何度も』
「そんなこと言ったらシリウスたちだって」
『シリウス、いい加減やめろ』
「シアも、やめろっての」
カープノスの声と何故かユーリの声が聞こえてきた
『カ、カープノス……いつからいた?』
『お前らがが言い合い始めた頃から。カストロがユーリを呼びに行ってる間聞いてたが……どっちもどっちな言い合いだったな』
うぐっ…っとシリウスは言葉に詰まる
…いやまぁ、確かにそうだけどさ…
「お前もだぞ。無茶して周りに心配かけさせてんだから」
「……ユーリに言われたくない!」
『アリシア、そっちで言い合い始めるなよ?この親馬鹿は俺が引き取ってやるから』
『だっ、誰が親馬鹿だっ!!カープノス!!離せ!!離さんかぁぁぁ!!』
そんなシリウスの悲鳴じみた声が遠ざかっていった
……カープノス、アリオトよりも乱暴だからなぁ……
「……お前ら、言い合いはじめっといつもあんなんなのか?」
「あんなんって?」
「カープノス伝いに聞いてたが……どんぐりの背比べみたいな言い合い、いつもしてんのかって」
「あー………まぁ、うん。あんな感じかなぁ」
ちょっと顔を逸らしながら頬を掻く
…気まづい……
どっから何処まで聞かれてたんだか……
「…後でちょっと、ゆっくり話そうか?アリシアさん?」
「あ、あはは……それはちょっと勘弁して欲しいかなぁ……」
苦笑いしながら、ちょっとユーリから距離をとる
『アリシアさん』とか……絶対これ怒ってる
これ絶対怒った時のだ……!
「あ、ユーリ!アリシア!」
「…しゃーねぇ、また後で、だな」
少し残念そうにユーリは言う
…いや、私的にはすっごく有難いんだけどね
「聖核の方、どうだった?」
「それが…今はちょっと……」
エステルはちょっとしょんぼりとしながら答えた
「そっか……まぁでも、リタが聖核以外の方法考えてくれるでしょ!」
「簡単に言ってくれるわね……」
「リタに不可能はないでしょ?」
当たり前のようにそう聞くと、大きくため息するつきながら項垂れてしまった
「とりあえず、これからどうしますかねぇ」
ユーリはそう言って腕を組む
…まぁ、空の上のあれをどうにかする方法も、簡単に見つかりそうにはないしなぁ…
「あんたら、ここにいたのか」
「おろ?ハリーじゃないのよ」
レイヴンの言葉に振り返ると、何かを決心したような表情のハリーがその場にいた
「なんか用か?」
腕を解きながら、ユーリは聞いた
「…これ、持ってけよ」
そう言ってハリーは聖核をユーリの方へと投げてきた
「…いいのか?」
「バーカ、これは盗まれるんだよ」
背を向けながら、ハリーは言葉を繋ぐ
「……さっさと行けよ。バレたら面倒だぞ」
「サンキュ、恩に着る」
ユーリは素直にそう言って、街の入り口の方へ走り出す
……何故か、私の手を取って
「ちょっ!!ユーリ!!早い早いっ!!」
半分引きずられるようにしながら、私とユーリはフェルティア号へと戻った
エステルとリタもすぐ後を追いかけて来てた
レイヴンたちが戻ってきたのは、少ししてたからだった
「うっわ、寒っ!!」
両腕を擦りながら呟く
私たちがいるのは、氷刃海に浮かぶ氷の上
なんか、ここにあるエアルクレーネにリタは行きたいらしい
……私、そんなことよりも寒さで死にそーなんだけど……
「は、早く行きましょーよ……おっさん……寒さで…死ねる……」
「……悔しいけど……同感………早く行こ………」
「あら、珍しいわね。アリシアとおじ様の意見が合うなんて」
茶化すようにジュディスは言う
「………………私……………寒いとこ、駄目なの………」
「アリシア…平気?」
いつもと様子の違う私を心配してカロルが聞いてくる
……やっぱり、寒いのは駄目だ
「シア、小さい時に雪ん中で迷子になって死にかけたことあるらしいんだよ。だから、こうゆう寒いとこ、駄目なんだよ」
いつの間にかいつもの呼び方に戻っていて、どっから出したのか懐かしいローブを掛けてくれた
「どうせ持ってくんの忘れるだろうと思ってたが…駄目なんだから忘れんなよ」
「……ありがとう」
「アリシアが動けなくなる前に、さっさと片付けましょ」
リタはそう言うと、先頭を歩き始めた
エステルたちがそれに続いて、私とユーリは一番最後を歩く
ちゃんと歩けるように、ユーリは私に歩幅を合わせて歩いてくれる
…さっきまで怒ってたくせに
「……大丈夫か?」
「え?……あー、うん……今はまだ大丈夫」
ユーリがローブを掛けてくれたおかげで、大分落ち着いた
寒いことに変わりはないけど…
「ここ、ですね」
そう言ってエステルたちは止まった
薄い緑色をした氷の結晶……
これが、ここのエアルクレーネか…
「それじゃエステルは、私の前に立って。いまから抑制術式を解除する。そしたら、エステルに反応してエアルが放出される。エステルにはエアルの術式を、よりマナに近い安定した術式に再構成してほしいの」
「えっと……よくわかりません……」
少し戸惑うようにエステルはリタを見た
「そうね…水面をよく見て」
「流れる水をイメージするの。エアルの流れに身を任せるように」
「わかりました」
「ぼくらに出来ることある?」
「ないわ、昼寝でもしてて」
「…ここで寝たら死ぬって…」
さらっと寝ててと言ったリタに苦笑いする
いや、本当死ねるから…
「おい、リタ、失言だぞ今の」
ユーリはそう言ってリタに釘をさす
「…悪かったわ、今のは。じゃあ成功すること祈ってて」
「あら、他にもあるじゃない。ザウデで見つけた変換術式を使えばいい」
ジュディスがそう言うと、リタはありえないという表情を見せた
「あれは命をエアルの代用にするものよ?そんなの使ったら、あんたたち死ぬかもしれないのよ?!」
「でも、失敗すれば暴走したエアルに飲まれる。危険なことに変わりはないわ」
ジュディスの言葉にリタは大きくため息をついた
「…わかった。あたしが蒼穹の水玉 にエアルを導くのに、あんたらの生命力を使う。そうすれば、エステルはあたしにエアルを干渉されないで、流れを掌握できると思う」
「うっし、んじゃま、いっちょ気合い入れてやりますか!」
ユーリの言葉にみんなが意気込んだ
「…でも、アリシア、あんた大丈夫なの?」
「え?私?」
「そ、あんたよ。あんだけ生命力使いまくってぶっ倒れてたんだから」
「あー……そんなこともあったっけ……」
苦笑いしながら答える
「アリシアちゃん、無理はよくないわよ?」
「んー、別に平気だけど…」
チラッとユーリを見ながら呟く
「やめとけ、って言っても納得しねぇだろ?」
呆れ気味にユーリは私を見つめる
それには肩を竦めるだけで答える
まぁ確かに納得はしないかな
「生命力は貸せなくても、リタの手伝いならできるよ」
そう言って、リタの隣に並んだ
「ペテルギウス、手伝って」
左手の甲に右手を当てながら呼びかける
すると、リタが広げているのと同じ術式が展開される
違うのは、私の方は変換術式を使っていないことかな
「私は星の力を借りてリタのサポートをする。そうしたら、みんなの負担が少し和らぐはずだから」
「アリシア……でも、使いすぎるのは良くないのでは?」
「平気平気、この程度なら大丈夫。…ほーら!私の心配するんだったら、早く早く!」
私がそう言うと、みんな一瞬顔を見合わせるけど、すぐに準備を始めた
「いい?エステル、いくわよ」
リタが術式を展開させると、エステルの抑制術式が解除された
「あたしの術式に同調して…………そう、いいわよ」
「う……く…」
少し苦しむようなユーリたちの声が後ろから聞こえてくる
生命力を抜かれる……それがどれだけ苦しいことか
そんなの、私が一番よく知っている
「まだ………もっと………」
小さく呟いて左手に意識を集中させる
私から蒼穹の水玉 に送られるエアルが増加する
『アリシア、それ以上は危険ですよ』
ペテルギウスが心配そうに制止してくる
「………だめ………」
小さく呟いて左手に意識を集中力させる
私から供給されるエアルの量が増える
それと同時に少し息苦しくなる
「……く…………」
ギリッと奥歯を噛んで痛みを堪える
『アリシア……!』
「…っ!!シア……っ!!」
ペテルギウスの呼び声に反応して、ユーリも私の名前を呼ぶ
でも、やめるわけにいかない
あと……もう少し……!
「ちゃんと同調してる。力場も安定してる……いける!」
「く……う………」
エステルの苦しそうな声が聞こえたのと同時に聖核が強く光を放った
あまりの眩しさに反射的に目を閉じる
目を開けると、エステルが薄らと光を放っていた
「なんだ!」
「まさか……失敗?」
「違うわ!ちゃんと抑制されてる。でも、これは……」
リタの展開していた術式は解けていた
けど、私のはそのまま残っている
……もしかして……
「く………っ」
「アリシア!もうやめなさい!あんた、それ以上は!」
「だ……めっ!」
制止も聞かずに、聖核をじっと見つめる
「聖核を形作る術式を再構成してる…?!」
「あと……もう、少し…っ」
そう呟いたのと同時に、再び強い光を放った
光の中から出てきたのは、水色の人の形をした影だった
《わらわは………?》
「こんなことが………」
その声は始祖の隷長であった時のベリウスの声そのものだった
ゆっくりと長い髪を揺らしながら、彼女は私を見る
《姫……そなたが手助けしてくれたのだな?》
その問いにニッコリと笑って答えた
「………久しぶり、ベリウス」
ゆっくりと呼吸を整えながら彼女の名を呼ぶ
《ベリウス……そうわらわは………いや違う。かつてはベリウスであった。しかし、もはや違う》
彼女はゆっくりと首を横に振る
「どういうことだ?」
「…聖核に宿っていたベリウスの意思だよ」
首を傾げたユーリに、手短にそう答えた
《すべての水がわらわに従うのがわかる。わらわは水を統べるもの》
「なんかわからんけど…」
「これって成功なの?」
レイヴンとカロルは同時に首を傾げた
「成功っていうか……それ以上の結果……。まさか、意志を宿すなんて」
「驚け!自然の神秘は常に人の想像を遥かに超越するのじゃ!」
「そうね…。どうやら認めざるおえないわ」
リタは驚きを隠さずに、ただただ彼女を見つめている
………本当に、存在することができるなんて……
「ベリウス……」
《姫、わらわはなんであろう?もはや始祖の隷長でもベリウスでもないわらわは。そなたらがわらわを生み出した。どうか名を与えて欲しい》
「急に言われてもな…」
「……精霊、《ウンディーネ》……古代の言葉で水を統べる者。……私たちの初代様が、そう名づけるつもりだった名前」
じっと彼女を見つめて言う
「え?それって…どうゆう……」
「後で、ちゃんと話すよ」
《ウンディーネ……ではわらわは今より精霊ウンディーネ》
この名前を気に入ったのか、彼女は少し嬉しそうに言葉を繋いた
「ウンディーネ!オレたちは世界のエアルを抑えたい!力を貸してくれないか?」
生まれたばかりのウンディーネにユーリはそう問いかけた
《承知しよう。だが、わらわだけでは足りぬ
わらわが司るのは水のみじゃ。他の属性を司る者も揃わねば、充分とは言えぬ》
「物質の基本属性、地、水、火、風……少なくとも後三体か……」
「それってやっぱり始祖の隷長をどうにかしないといけないの…?」
「素直に精霊になってくれればいいのじゃが…」
パティとカロルは少し心配そうに顔を歪める
「それ以前に存在している始祖の隷長に限りがあるわ」
「聖核を生成できる始祖の隷長はフェローとグシオスくらいかな、私が知る限り」
「ウンディーネ、心当たりはないか?」
ユーリが問いかけると、彼女はゆっくり口を開いた
《輝ける森エレアルーミン、世界の根たるレレウィーゼ。場所はそなたの友、バウルが知っておろう》
ウンディーネはそう言うと、姿を消してしまった
「あれ?いなくなっちゃった?!」
「ううん、ちゃんと居るよ。エステルの傍に」
私がそう言うと、エステルはゆっくりと頷いた
「はい……感じます」
「エアルクレーネも落ち着いたみたいね…エステルの力を抑制していないのに」
ジュディスがそう言うと、リタは急いでエステルのことを調べ始める
「これって…ウンディーネがエステルの力を抑制してくれてる…?」
「じゃあ、エステルは本当に自由になったの?」
「えぇ…えぇ!!」
リタが力強く何度も頷く
みんな、自分の事のように嬉しそうにはしゃいだりしている
「これで、アリシアちゃんとも一緒に居られるわね」
ポンッと私の肩に手を乗せながら、レイブンが話しかけてくる
「…うん、そうだね」
嬉しそうにしているエステルを遠目からじっと見つめる
…初代様の夢、これで、叶えることが出来たのだろうか……
「想像もしてなかったことだが……光が見えてきたな」
「僅かな光なのじゃ。でも、深海から見える太陽の光くらい眩しいのじゃ!」
パティの言葉にみんなが頷いた
まだ、ほんの一欠片の光…
だけど、強く、明るい光だ
「さてと……シア、戻ったらお前が知ってること、はなしてもらうからな」
少し真面目な表情でユーリは私を見つめてきた
「うん、わかってるよ」
そう言って、来た道をゆっくりと引き返し始める
とりあえず、早くこの寒い場所から出たい…
…さっきまで必死だったから忘れてたけど
『………アリシア…………』
(………シリウス、大丈夫、わかってるよ)
何かを言いたげなシリウスの声に心の中でそう答えた
………ごめんね、ユーリ…………
私はまた……………
〜アスピオにて〜
「わかったぁぁぁぁ!!!!」
アスピオの広場について早々、何処からともなくリタの叫び声が聞こえてきた
何事かと思えば、ものすごい勢いでリタが書庫から飛び出してくる
「あ、リタ!」
エステルが声をかけるが、それにさえ気づかずに走って自分の小屋へと戻って行く
「……なんか、いい事でもあったのかな」
苦笑いして彼女の小屋の方を見つめる
昔からリタのこの癖は変わっていないんだなとつくづく思う
「うちらに気づきもしなかったのぅ…」
「…まぁ、研究熱心なリタだからねぇ…」
若干不服そうなパティにそう言って、彼女の小屋の方へと足を向ける
小屋の前についてガチャっとドアノブを回して中に入ると、部屋の中をうろつきながらリタがブツブツと呟いているのが目に入る
「リタ、リータ!!!」
「だぁぁぁぁ!!!もう!!誰よ!!!!!うっさいわ……ね………」
私の呼び声に怒鳴りながら振り向く
そして、私とユーリを見た瞬間にポカーンとして私たちを交互に見つめる
「よ、元気してたか?」
「ごめんね、リタ。心配かけて」
呑気にそう言ったユーリとは対照的に、私は苦笑いして肩を竦めた
リタは一瞬嬉しそうに笑ったが、すぐに頭を振って今度は怒ったような表情を浮かべる
「もう!!!こんな大変な時に今まで何処に居たのよ!!生きてるんだったら生きてるって、ちゃんと知らせなさいよ!!」
そう言いながら私とユーリを交互に見る
素直に無事で良かったって言えない彼女なりの表現なんだろう
「悪かったよ、心配かけてさ」
ユーリがそう言うと、少し顔を赤くしてそっぽを向く
「べ、別にあんたの心配はしてないわよ。アリシアよりも頑丈だもの」
「待ってリタ、その私は貧弱みたいな言い方は納得いかない!」
「事実じゃない。…身体、本当に大丈夫なの?動いて平気なわけ??」
そう言って私に近づくと、あちこち調べるように触れてくる
「だっ、大丈夫だって!動いてもなんともないよ!」
そう言ってリタから少し距離を取る
腹部に出来た傷は完全に消えているわけじゃない
…バレたら絶対根掘り葉掘り聞かれるに決まってる
流石に彼女を陥れるようなことをするつもりはさらさらないから、この傷がバレるのはちょっと困る
「…………絶対、大丈夫なのね?」
「…私、そんなに信用ない?」
あまりにも疑い深い目で見られるので、苦笑いしながら隣に居るユーリに問いかける
「おぅ、ねぇな。平気って言っといて、何度ぶっ倒れたと思ってんだ?」
「……その節はご心配お掛けして申し訳ありませんでしたっ!」
あまりにも低トーンでユーリにまでそう言われてしまった
…そう言われてみれば、何度倒れたか自分でもわからないや…
「……まぁ、本当に大丈夫そうだから、今日のところはそうゆうことにしといてあげるわ」
渋々…という感じではあるが、リタはそう言って薄らと笑みを浮かべた
「それで、何かわかったのかしら?」
「え…えぇ!エステルの力を制御出来るかもしれない方法、見つけたのよ!」
ジュディスが聞くと、リタは嬉しそうにそう答えた
「流石天才魔導士のリタ、だね!」
ニコッとリタを見て笑いかける
やっぱりリタを信じて良かった
「あっ、当たり前でしょ!このあたしに、不可能なんてないんだから」
照れ臭そうにしながら頬を掻く
褒められなれてないリタを褒めると、案外面白い反応が返ってくるからちょっと楽しかったりする
…本人に言ったら確実に丸焼きにされるけど…
「リタ、それ今すぐ出来んのか?」
「今すぐは無理ね。エアルクレーネと聖核がないと……ってことで、ドンに渡した
「リタ……サラッと無茶言ってない…?」
ドンに渡したって…渡したものをやっぱり返してください、は駄目でしょ…
「あら、丁度いいわね。おじ様とカロルをダングレストに迎えに行く予定だったもの」
「のじゃ、一石二鳥なのじゃ!」
「んじゃ、行くとしますかね」
ユーリがそう言うと、みんな出口の方へ歩き始める
…駄目だ、みんな返してもらえるって思ってそう…
まぁ確かにドンが亡くなった後だし、もしかしたらいけるかもしれないけど…
「おーい、シア!早く来いって!」
「……今行く!」
呼びかけてきたユーリの声に答えて、リタの家を後にする
……デュークさんのしようとしてる事が少し気になるから、ちょっとだけ『あれ』を見ておきたかったけど……
今はエステルの方が先かな
「さてと…まずは、おっさんとカロル探しだな」
相変わらずの夕焼け空のダングレスト…
街には前よりも活気が無いように見える
…これが、ドンが亡くなった後遺症なのかな
「二人なら、ユニオン本部に居るんじゃないかしら?」
「じゃの。行ってみよう!なのじゃ!」
ジュディスの意見でユニオン本部に向かおうと、ユーリとジュディス先頭に歩き始める
いつものように最後尾をついて行こうとすると、リタに背中を押される
「わっ!?ちょっ、リタ!危ないって!」
「アリシア、あんたはあたしの前歩きなさいよ。また一人でフラフラされたら堪らないから」
「………ねぇ、私そんなに信用されてないの……?レイヴンより酷くない…!?」
若干涙目になりながらそう訴える
ここまで行動を制限されると流石に傷つく
「あんたの信用がないのと、おっさんの信用がないのは別よ、別。あんたは心配だからあたしの目の届くとこに置いてるの。おっさんはロクでもないことしでかして、周りに迷惑かけないように見張ってんの」
「…だとしてもレイヴンと同じ扱いされるのは癪だって…」
はぁ……っと大きくため息をつく
よりにもよってレイヴンと同じ扱いうけるとは…
「はいはい、いーからさっさと歩きなさい」
そう言って、リタは私の手を引っ張る
若干引き摺られるような状態で、四人と一匹の後に続いた
「あっ!アリシア!!」
カロルの声が聞こえてその方向を見ると、カロルの姿が見えた
ユーリたちから大分離れてついてきたから、彼らとはもう既に合流してたらしい
「カロル、心配かけてごめんね」
「ううん、二人が無事で良かったよ!」
「おいおい…オレの時とは大分態度違うな…」
ため息をつきながら、ユーリはカロルを見つめる
…あの様子だと色々言われたんだろうなぁ…
「あれ?レイヴンは??」
「おっさんなら、ハリーの野郎を探し行ったよ」
「ハリー……?」
誰のことかわからなくて、一人首を傾げる
「あぁ、そういやシアは一人で無茶してた最中だから、知らねぇのか」
若干嫌味っぽくユーリは言ってくる
「はいはい…その節はすみませんでしたー!…で、誰なの?」
「ドンのお孫さんです」
……孫、居たんだ……あの人
「おりょ?アリシアちゃーん!無事だったのね!」
後ろから声が聞こえて振り返ると、レイヴンと……多分ハリーって人が歩いてくるのが見えた
「…相変わらずそっちの方だと元気だねぇ」
「んー?オレさまはいっつもこうよ?」
ヘラヘラと笑いながらレイヴンは言う
…まぁ、確かにシュヴァーンの時よりはマシだけどさ
「ねぇ、あんた、
二人が来てそうそう、リタは無茶苦茶を言う
「リタ……唐突に言うのはどうかと思う」
「ダメだ、あれはドンの跡を継ぐやつのもんだ。勝手には渡せない」
きっぱりと彼はそう言った
…って、ハリーが継ぐんじゃないの?
それ以上は何も言わずに、彼はユニオン本部の中へ入って行った
「オレらも行くとしますか」
「……私、外で待っててもいい?街の外には出ないから」
なんだか……中には入りにくい
「…勝手に居なくならないって約束出来るか?」
「大丈夫、ここの前から離れないから」
「……わかった」
ユーリはそう言うと、中へ入って行く
他のメンバーもその後に続いた
残ったのは私一人
「…………シリウス、リタの話……どう思う?」
『聖核を使う話か?』
私が声をかけると、すぐに返事をしてくれた
「うん。……もし、リタのやろうとしていることが、みんなが見せてくれた『あの計画』と同じなら……」
『……あぁ、この世界のあり方を変えかねないな』
「…デュークさん、怒りそうだね」
苦笑いしながら肩を竦めた
この世界を誰よりも大切にしているデュークさんのことだ
世界のあり方を変えるなんて知ったら、絶対止められる
止められるっていうか……多分批判されるんだろうなぁ…
『だが、いつまでも今と同じ生活は続けられぬ。いつかは、この世界も変わらなければいけない。エアルは無限ではないのだから』
「そうだけど…それを受け入れられない人もいる」
『それを支えるのも、受け入れたもの達の使命だろう?』
「……シリウスきーびしい」
『厳しくしなければ、あまえるだろう?』
「まっ、そうなんだけどね」
頭の後ろで手を組んで空を見上げる
少し暗くなってきた空に星が見え隠れしている
「……ね、ユーリの方聞きにいけない??」
『………無茶苦茶言うな……』
「えー、ダメ?ユーリペンダント持ってるんだから行けるでしょ」
『駄目だ。勝手にいくなど出来ない』
「……私のとこには呼ばなくても来るくせに」
『お前はすぐに無茶するからだ!ユーリはそんなことしないだろう!?』
「そんなことないですー!同じだって!」
そんないつもの言い合いが始まる
これが始まると、誰かが止めに入るまで止まらない
まぁ大抵、シリウスが無理矢理強制退場させられるんだけどね
『大体、あの時だって何度も』
「そんなこと言ったらシリウスたちだって」
『シリウス、いい加減やめろ』
「シアも、やめろっての」
カープノスの声と何故かユーリの声が聞こえてきた
『カ、カープノス……いつからいた?』
『お前らがが言い合い始めた頃から。カストロがユーリを呼びに行ってる間聞いてたが……どっちもどっちな言い合いだったな』
うぐっ…っとシリウスは言葉に詰まる
…いやまぁ、確かにそうだけどさ…
「お前もだぞ。無茶して周りに心配かけさせてんだから」
「……ユーリに言われたくない!」
『アリシア、そっちで言い合い始めるなよ?この親馬鹿は俺が引き取ってやるから』
『だっ、誰が親馬鹿だっ!!カープノス!!離せ!!離さんかぁぁぁ!!』
そんなシリウスの悲鳴じみた声が遠ざかっていった
……カープノス、アリオトよりも乱暴だからなぁ……
「……お前ら、言い合いはじめっといつもあんなんなのか?」
「あんなんって?」
「カープノス伝いに聞いてたが……どんぐりの背比べみたいな言い合い、いつもしてんのかって」
「あー………まぁ、うん。あんな感じかなぁ」
ちょっと顔を逸らしながら頬を掻く
…気まづい……
どっから何処まで聞かれてたんだか……
「…後でちょっと、ゆっくり話そうか?アリシアさん?」
「あ、あはは……それはちょっと勘弁して欲しいかなぁ……」
苦笑いしながら、ちょっとユーリから距離をとる
『アリシアさん』とか……絶対これ怒ってる
これ絶対怒った時のだ……!
「あ、ユーリ!アリシア!」
「…しゃーねぇ、また後で、だな」
少し残念そうにユーリは言う
…いや、私的にはすっごく有難いんだけどね
「聖核の方、どうだった?」
「それが…今はちょっと……」
エステルはちょっとしょんぼりとしながら答えた
「そっか……まぁでも、リタが聖核以外の方法考えてくれるでしょ!」
「簡単に言ってくれるわね……」
「リタに不可能はないでしょ?」
当たり前のようにそう聞くと、大きくため息するつきながら項垂れてしまった
「とりあえず、これからどうしますかねぇ」
ユーリはそう言って腕を組む
…まぁ、空の上のあれをどうにかする方法も、簡単に見つかりそうにはないしなぁ…
「あんたら、ここにいたのか」
「おろ?ハリーじゃないのよ」
レイヴンの言葉に振り返ると、何かを決心したような表情のハリーがその場にいた
「なんか用か?」
腕を解きながら、ユーリは聞いた
「…これ、持ってけよ」
そう言ってハリーは聖核をユーリの方へと投げてきた
「…いいのか?」
「バーカ、これは盗まれるんだよ」
背を向けながら、ハリーは言葉を繋ぐ
「……さっさと行けよ。バレたら面倒だぞ」
「サンキュ、恩に着る」
ユーリは素直にそう言って、街の入り口の方へ走り出す
……何故か、私の手を取って
「ちょっ!!ユーリ!!早い早いっ!!」
半分引きずられるようにしながら、私とユーリはフェルティア号へと戻った
エステルとリタもすぐ後を追いかけて来てた
レイヴンたちが戻ってきたのは、少ししてたからだった
「うっわ、寒っ!!」
両腕を擦りながら呟く
私たちがいるのは、氷刃海に浮かぶ氷の上
なんか、ここにあるエアルクレーネにリタは行きたいらしい
……私、そんなことよりも寒さで死にそーなんだけど……
「は、早く行きましょーよ……おっさん……寒さで…死ねる……」
「……悔しいけど……同感………早く行こ………」
「あら、珍しいわね。アリシアとおじ様の意見が合うなんて」
茶化すようにジュディスは言う
「………………私……………寒いとこ、駄目なの………」
「アリシア…平気?」
いつもと様子の違う私を心配してカロルが聞いてくる
……やっぱり、寒いのは駄目だ
「シア、小さい時に雪ん中で迷子になって死にかけたことあるらしいんだよ。だから、こうゆう寒いとこ、駄目なんだよ」
いつの間にかいつもの呼び方に戻っていて、どっから出したのか懐かしいローブを掛けてくれた
「どうせ持ってくんの忘れるだろうと思ってたが…駄目なんだから忘れんなよ」
「……ありがとう」
「アリシアが動けなくなる前に、さっさと片付けましょ」
リタはそう言うと、先頭を歩き始めた
エステルたちがそれに続いて、私とユーリは一番最後を歩く
ちゃんと歩けるように、ユーリは私に歩幅を合わせて歩いてくれる
…さっきまで怒ってたくせに
「……大丈夫か?」
「え?……あー、うん……今はまだ大丈夫」
ユーリがローブを掛けてくれたおかげで、大分落ち着いた
寒いことに変わりはないけど…
「ここ、ですね」
そう言ってエステルたちは止まった
薄い緑色をした氷の結晶……
これが、ここのエアルクレーネか…
「それじゃエステルは、私の前に立って。いまから抑制術式を解除する。そしたら、エステルに反応してエアルが放出される。エステルにはエアルの術式を、よりマナに近い安定した術式に再構成してほしいの」
「えっと……よくわかりません……」
少し戸惑うようにエステルはリタを見た
「そうね…水面をよく見て」
「流れる水をイメージするの。エアルの流れに身を任せるように」
「わかりました」
「ぼくらに出来ることある?」
「ないわ、昼寝でもしてて」
「…ここで寝たら死ぬって…」
さらっと寝ててと言ったリタに苦笑いする
いや、本当死ねるから…
「おい、リタ、失言だぞ今の」
ユーリはそう言ってリタに釘をさす
「…悪かったわ、今のは。じゃあ成功すること祈ってて」
「あら、他にもあるじゃない。ザウデで見つけた変換術式を使えばいい」
ジュディスがそう言うと、リタはありえないという表情を見せた
「あれは命をエアルの代用にするものよ?そんなの使ったら、あんたたち死ぬかもしれないのよ?!」
「でも、失敗すれば暴走したエアルに飲まれる。危険なことに変わりはないわ」
ジュディスの言葉にリタは大きくため息をついた
「…わかった。あたしが
「うっし、んじゃま、いっちょ気合い入れてやりますか!」
ユーリの言葉にみんなが意気込んだ
「…でも、アリシア、あんた大丈夫なの?」
「え?私?」
「そ、あんたよ。あんだけ生命力使いまくってぶっ倒れてたんだから」
「あー……そんなこともあったっけ……」
苦笑いしながら答える
「アリシアちゃん、無理はよくないわよ?」
「んー、別に平気だけど…」
チラッとユーリを見ながら呟く
「やめとけ、って言っても納得しねぇだろ?」
呆れ気味にユーリは私を見つめる
それには肩を竦めるだけで答える
まぁ確かに納得はしないかな
「生命力は貸せなくても、リタの手伝いならできるよ」
そう言って、リタの隣に並んだ
「ペテルギウス、手伝って」
左手の甲に右手を当てながら呼びかける
すると、リタが広げているのと同じ術式が展開される
違うのは、私の方は変換術式を使っていないことかな
「私は星の力を借りてリタのサポートをする。そうしたら、みんなの負担が少し和らぐはずだから」
「アリシア……でも、使いすぎるのは良くないのでは?」
「平気平気、この程度なら大丈夫。…ほーら!私の心配するんだったら、早く早く!」
私がそう言うと、みんな一瞬顔を見合わせるけど、すぐに準備を始めた
「いい?エステル、いくわよ」
リタが術式を展開させると、エステルの抑制術式が解除された
「あたしの術式に同調して…………そう、いいわよ」
「う……く…」
少し苦しむようなユーリたちの声が後ろから聞こえてくる
生命力を抜かれる……それがどれだけ苦しいことか
そんなの、私が一番よく知っている
「まだ………もっと………」
小さく呟いて左手に意識を集中させる
私から
『アリシア、それ以上は危険ですよ』
ペテルギウスが心配そうに制止してくる
「………だめ………」
小さく呟いて左手に意識を集中力させる
私から供給されるエアルの量が増える
それと同時に少し息苦しくなる
「……く…………」
ギリッと奥歯を噛んで痛みを堪える
『アリシア……!』
「…っ!!シア……っ!!」
ペテルギウスの呼び声に反応して、ユーリも私の名前を呼ぶ
でも、やめるわけにいかない
あと……もう少し……!
「ちゃんと同調してる。力場も安定してる……いける!」
「く……う………」
エステルの苦しそうな声が聞こえたのと同時に聖核が強く光を放った
あまりの眩しさに反射的に目を閉じる
目を開けると、エステルが薄らと光を放っていた
「なんだ!」
「まさか……失敗?」
「違うわ!ちゃんと抑制されてる。でも、これは……」
リタの展開していた術式は解けていた
けど、私のはそのまま残っている
……もしかして……
「く………っ」
「アリシア!もうやめなさい!あんた、それ以上は!」
「だ……めっ!」
制止も聞かずに、聖核をじっと見つめる
「聖核を形作る術式を再構成してる…?!」
「あと……もう、少し…っ」
そう呟いたのと同時に、再び強い光を放った
光の中から出てきたのは、水色の人の形をした影だった
《わらわは………?》
「こんなことが………」
その声は始祖の隷長であった時のベリウスの声そのものだった
ゆっくりと長い髪を揺らしながら、彼女は私を見る
《姫……そなたが手助けしてくれたのだな?》
その問いにニッコリと笑って答えた
「………久しぶり、ベリウス」
ゆっくりと呼吸を整えながら彼女の名を呼ぶ
《ベリウス……そうわらわは………いや違う。かつてはベリウスであった。しかし、もはや違う》
彼女はゆっくりと首を横に振る
「どういうことだ?」
「…聖核に宿っていたベリウスの意思だよ」
首を傾げたユーリに、手短にそう答えた
《すべての水がわらわに従うのがわかる。わらわは水を統べるもの》
「なんかわからんけど…」
「これって成功なの?」
レイヴンとカロルは同時に首を傾げた
「成功っていうか……それ以上の結果……。まさか、意志を宿すなんて」
「驚け!自然の神秘は常に人の想像を遥かに超越するのじゃ!」
「そうね…。どうやら認めざるおえないわ」
リタは驚きを隠さずに、ただただ彼女を見つめている
………本当に、存在することができるなんて……
「ベリウス……」
《姫、わらわはなんであろう?もはや始祖の隷長でもベリウスでもないわらわは。そなたらがわらわを生み出した。どうか名を与えて欲しい》
「急に言われてもな…」
「……精霊、《ウンディーネ》……古代の言葉で水を統べる者。……私たちの初代様が、そう名づけるつもりだった名前」
じっと彼女を見つめて言う
「え?それって…どうゆう……」
「後で、ちゃんと話すよ」
《ウンディーネ……ではわらわは今より精霊ウンディーネ》
この名前を気に入ったのか、彼女は少し嬉しそうに言葉を繋いた
「ウンディーネ!オレたちは世界のエアルを抑えたい!力を貸してくれないか?」
生まれたばかりのウンディーネにユーリはそう問いかけた
《承知しよう。だが、わらわだけでは足りぬ
わらわが司るのは水のみじゃ。他の属性を司る者も揃わねば、充分とは言えぬ》
「物質の基本属性、地、水、火、風……少なくとも後三体か……」
「それってやっぱり始祖の隷長をどうにかしないといけないの…?」
「素直に精霊になってくれればいいのじゃが…」
パティとカロルは少し心配そうに顔を歪める
「それ以前に存在している始祖の隷長に限りがあるわ」
「聖核を生成できる始祖の隷長はフェローとグシオスくらいかな、私が知る限り」
「ウンディーネ、心当たりはないか?」
ユーリが問いかけると、彼女はゆっくり口を開いた
《輝ける森エレアルーミン、世界の根たるレレウィーゼ。場所はそなたの友、バウルが知っておろう》
ウンディーネはそう言うと、姿を消してしまった
「あれ?いなくなっちゃった?!」
「ううん、ちゃんと居るよ。エステルの傍に」
私がそう言うと、エステルはゆっくりと頷いた
「はい……感じます」
「エアルクレーネも落ち着いたみたいね…エステルの力を抑制していないのに」
ジュディスがそう言うと、リタは急いでエステルのことを調べ始める
「これって…ウンディーネがエステルの力を抑制してくれてる…?」
「じゃあ、エステルは本当に自由になったの?」
「えぇ…えぇ!!」
リタが力強く何度も頷く
みんな、自分の事のように嬉しそうにはしゃいだりしている
「これで、アリシアちゃんとも一緒に居られるわね」
ポンッと私の肩に手を乗せながら、レイブンが話しかけてくる
「…うん、そうだね」
嬉しそうにしているエステルを遠目からじっと見つめる
…初代様の夢、これで、叶えることが出来たのだろうか……
「想像もしてなかったことだが……光が見えてきたな」
「僅かな光なのじゃ。でも、深海から見える太陽の光くらい眩しいのじゃ!」
パティの言葉にみんなが頷いた
まだ、ほんの一欠片の光…
だけど、強く、明るい光だ
「さてと……シア、戻ったらお前が知ってること、はなしてもらうからな」
少し真面目な表情でユーリは私を見つめてきた
「うん、わかってるよ」
そう言って、来た道をゆっくりと引き返し始める
とりあえず、早くこの寒い場所から出たい…
…さっきまで必死だったから忘れてたけど
『………アリシア…………』
(………シリウス、大丈夫、わかってるよ)
何かを言いたげなシリウスの声に心の中でそう答えた
………ごめんね、ユーリ…………
私はまた……………