第1部〜水道魔導器魔核奪還編〜
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
デイドン砦
デイドン砦につくと最初に目に入ったのは、沢山の騎士達だった
「おっかしいなぁ…一昨日来た時は数人しかいなかったのにな…」
キョロキョロと見回しながらそう呟く
「ユーリを追ってきた騎士達でしょうか?」
不安そうにエステルは首を傾げる
まぁ…そりゃそうだろうなぁ…
ユーリが追いかけられてるのって、半分エステルのせいでもあるし…ね?
「さぁな?ま、あんま目立たないようにな」
そんなこと気にしていないのか、ユーリは軽く肩を竦めると出口の方へ躊躇なく足を進める
「わかりました」
エステルもそれに続くように歩き出す
「だね。ここはさっさと抜けちゃおっか」
私も賛同して二人の後に続いて砦の出口へと向かうが、途中でエステルが旅商人の元へと行ってしまった
「あ、ちょっ、エステルー!?」
慌てて呼び戻すが本人には全く聞こえていないようで、熱心に旅商人の話を聞いているのが目に入る
「……ほんとにわかってるのかねぇ」
「ワフ……」
小さくため息をつき、ユーリとラピードと一緒にエステルの元へと行く
そこにいた商人は、私が帝都に帰る途中で会った人だった
「いらっしゃい。……おや、嬢ちゃん、また会ったね」
どうやらおじさんの方も覚えていたようで、ニコッと笑いかけてきた
「こんにちは、おじさん。ハルルに行くんじゃなかったの?」
エステルの隣にしゃがんでおじさんに問いかける
一昨日会った時はこれからハルルに向かうと言っていたはずなんだけどなぁ…
「あぁ、それなんだが…なんでも、砦の向こうで魔物が出るってんで、向こうに行けなくて此処で足止めを食ってるんだ」
困ったように肩を竦めておじさんはそう言った
「魔物、ね…」
「あぁ、なんでも凶暴な魔物らしくてな。此処にいる奴はみんな足止めを食ってるんだ」
おじさんの言葉にあたりを見渡す
商人、旅人、家族連れ、旅行者…確かに、どう見ても戦えるような人達ではなかった
凶暴な魔物が出た、となれば身動きが取れないだろう
「ありがとございます。それじゃあ、私達、もう行きますね」
「あぁ、気をつけてな」
おじさんにお礼をいい、ユーリとエステルに声をかけて私はその場を離れた
エステルはおじさんに本を貰ったらしく、お礼をしてから後を追いかけて来た
「さて、どうするか」
「どうって何がです?」
エステルの疑問にユーリは呆れた顔をした
「…さっきの話、聞いてなかったのか?」
ユーリがそう言うとエステルは苦笑いする
「えっと…本に夢中で…」
「あ、あはは……やっぱりかぁ……」
私は苦笑いして、簡潔に先程の話をする
「この先、魔物が出てて通れないんだってさ」
「そんな、フレンはこの先の花の街ハルルに向かったのに…」
エステルは肩を落とし落ち込む
それもそうか、エステルは今すぐにでもフレンに会いたいんだろうし…
「……ねぇ、少し情報収集しない?」
少し間を置いてからユーリにそう提案する
「それもそうだな。此処でじっとしてたら、誰かさんがフレンを一人で追っかけそうだしな」
横目でエステルを見ながらユーリも私の提案に賛成した
「じゃあ、手分けして情報集めよ!私、向こうの方行くから、ユーリ達はあっちをお願い!」
言うだけ言って、私は騎士の派出所の方へと走り出した
特に砦は広い訳じゃないけど、敢えて別行動にした
…それは、昨日カペラに言われたことが少し気になったから
もし、本当に私の一族のことを知っている人が居るのであれば会ってみたい
…まだ、エステルにはこのことを『話せない』
だから、別行動にした
……正直ユーリとエステルを二人きりにさせるのは嫌だけど…ね
「ったく……相変わらず自由奔放だな…」
派出所の方へ走っていくシアの後ろ姿を見て、呆れ気味にため息をつく
「あっ!アリシア!!待ってください!」
「あっちはシアに任せて、オレらはこっちに行こうぜ、エステル」
シアの後を追いかけようとしたエステルを止めて、反対方向を指さす
「えっ、で、でも…」
おどおどとシアが向かった先を見つめながらエステルは戸惑う
「シアのことだ。一人で行くって事はあっちになんかあんだろ。それに、オレらはあんまそっちに近づかねぇ方がいいんじゃねぇの?」
シアが向かった方には騎士の派出所が見える
お嬢様のエステルが行けばそれこそやばいだろう
しばらく躊躇していたエステルだったが、渋々と頷いてシアの向かった方向に背を向ける
それを確認してから、オレはシアとは反対方向に歩き出した
ユーリ達と別れた後、私は砦の上へとやってきた
ここから見ると、魔物の集団がハルルとデイドン砦の間にいるのが良く見える
これでは通れないな…と苦笑いしつつ、他に行けそうなところがないかあたりを見渡す
すると、砦の左手側に森が見えた
「あそこはクオイの森…あそこからなら反対側へ行けたはずだけど…」
ポツリと呟いて顎に手を添えて考え始める
確かに抜けられるはずだけど、正直クオイの森にはあまりいい噂がない
むしろろくでもない噂の方が多い
確かに少し森の中に入ったことはあるけれど、通り抜けたことはないし…
どうするべきかと頭を悩ませていると、不意に後ろから物音がした
騎士が上がってきたのかと思い、慌てて振り返ると、そこに居たのは銀髪の長髪の男性が立っていた
(この人……何処かで見たことがある気がする……)
そんなこと考えながら見つめていると、
「……ライラックの娘か。」
と、不意に言われた
「…!?な、なんでお父様の名前を知っているの…!?」
『ライラック』………私の、亡くなったお父様の名前
何故、この人はお父様の名前を知っていて、更には自分のことも知っているの……?
それを考えている時、昨日の星達との会話を思い出した
《白髪の男に気をつけて》
(白髪……でもこの人は白というよりも、銀に近い気がする…)
「……………」
男はそれっきり何も言わない
ただ、無言で私を見つめている
「……あなた…いった」
カーンカーンカーンカーン
問いかけようと口を開いた時、突然警報を知らせる鐘が鳴った
それと同時に物凄い地響きが聞こえた
振り返ると、平原から先程から見えていた魔物の群れが、この砦目掛けて走ってきていた
「なっ……!あれは、平原の主…!?なんでこの時期に…!」
驚いて砦の外へと身を乗り出す
まだ平原の主が来る時期ではないはずなのに…!
「急いで!!門が閉まるわ!」
ふと女性の声が聞こえ、下を見ると人々が次々と砦の中に入って来ていた
が、騎士はそんなことお構い無しに門を閉めようとしていた
平原にはまだ、少女と怪我をした男性がいるのに…!
(このままじゃ二人が危ない…!)
後のことなんて考えずに、砦の淵に足をかけ、勢いよく飛び降りる
その途中、ユーリがエステルの横をすり抜け、男性の方へと向かうのが見えた
地面に着地したところで、後ろを振り返ってみるが、先ほどの男の姿はなかった
(居ない…っ!?……ううん、今はそんなことよりも、助けに行かなきゃ…!)
軽く頭を振って先ほどの男のことを頭の外においやる
そして、そのままユーリの方へと走って行く
「ユーリ!!」
「シアっ!?おまっ、どっから!?」
私が後ろから声をかけると、驚いたように見つめてくる
「今はそれよりもその人、連れて行ってあげて!」
「おぅ!」
ユーリは男性を支えながら先に砦へと向かう
私は少女を抱きかかえ、ユーリの後に続くように砦へと戻る
が、途中で人形を落としてしまった
それを見たユーリは、私達の横をすり抜け人形を取りに戻る
「ちょっ!?ユーリ!?」「ユーリ!」
私とエステルはユーリの名前を呼んだが、そんなのお構い無しにユーリは人形を拾いに行く
人形を手に取ると、踵を返して砦へと戻ってくる
「ユーリ!!急いで!」
閉めるのを中断していた門がまた閉まり始めた
砦の入口で私が叫ぶと、隣に居たエステルも心配そうな顔で叫ぶ
そんな私達を見て苦笑して、ユーリは走るスピードをあげた
門が閉まるギリギリのところでユーリは門の中へと入った
数秒後、平原の主達は門に体当たりするように、次々と門にぶつかってきた
「間一髪だったね…」
私は横目で門を見て言った
ふぅ…と息を吐くと、ユーリは少女に目線を合わせるようにしゃがんで人形を渡した
「ほら、人形。もう手離すんじゃねぇよ」
「お兄ちゃんありがとう!」
少女は嬉しそな笑顔を浮かべ、近くにいた母親と、先程助けてエステルに治癒した男性がお礼を言った
「なんとお礼を言えばいいのか…」
「怪我まで治癒して頂いて、本当に助かりました」
「いえ!皆さんが無事で何よりです」
エステルは笑顔でそういうと、母親と男性は再度お礼を言い、少女は人形を大事そうに抱えユーリに手を振って、母親と手を繋ぎ歩いて行った
その姿を見てエステルは嬉しそうに言った
「みんなが無事でよかった…あ、あれ?」
安心して力が抜けたのか、エステルはその場に座り込んでしまう
「ったく、安心した途端それかよ」
ユーリと私は苦笑して、エステルと同じようにその場に座った
「結界の外ってこんなに危険だったんですね…」
「あんな魔物が大量に来るんじゃ、結界が欲しくなるよな」
「此処に結界を設置することはできないのでしょうか?」
エステルは首を傾げる
その問に、私は首を横に振りながら答える
「それは無理だよ。結界は貴重だし、今の技術じゃ作れないから。もし仮にそんな技術があったら、もっと暮らしのいい生活が出来ていると思うけど…」
「帝国が民衆の為にってのは、想像しにくいな」
「同感」
ユーリと私の言葉に、エステルは残念そうに肩を落とした
そんな話をしていると、一人の騎士がこちらへやって来るのが見えた
「そこの三人、少し話を聞きたい」
そう言われどうしようかと迷っていると
「何故に通さないのだっ!?魔物などこの俺様の拳で倒すというものを!!」
と、門の方から怒鳴り声が聞こえた
門の方を向くと、騎士と一人の男が言い争いをしていた
近くには他に、背中に大きな大剣を掛けている腕を組んだ男と、少し離れたところに大きな円盤状の刃を持った少女が立っているのが目に入る
「だからっ!そう簡単に倒せるようなやつじゃないと言ってるじゃないか!!」
「貴様、我々の実力を侮ると言うのだな?」
そうフードの男が言うと、そばにいた男が背中の大剣に手を掛けた
その騒動を見て、他の見張りの騎士達が門へと集まって来た
「今のうちに逃げちゃおっ!」
私がそう提案するとユーリ達は賛成して早足でその場を後にする
「あの調子じゃ、当分通れそうにないな…」
「ねぇ、あなた達、私の下で働かない?」
そんな話をしてると声を掛けられた
声が聞こえた方を向くと、赤髪の眼鏡をかけた女性と、サングラスを掛けた男性が立っていた
「報酬は弾むわよ?」
ユーリを見ながら、お金の入った袋を見せそう言った
ユーリは興味無さそうに視線を外し、その場を去ろうとした
「おい、お前等社長 に対して失礼だぞ。返事はどうした」
「名乗らずに金で吊るのは失礼って言わないんだな、勉強になった」
「その言い方は失礼だよ、事実ではあるけどさ」
ユーリは視線を向けず、私は呆れ気味に言った
「お前等っ!」
痺れを切らせたのか、男がこちらへと足を踏み出したが、女性によって遮られた
「予想通り面白い子達だわ。私は幸福の市場 のカウフマンよ。商売から流通まで仕切らせて貰っているわ」
「ふーん、ギルド、ね」
相変わらず興味無さそうにユーリは小さく呟いた
すると、大きな地響きがなった
「私、今困ってるのよ。この地響きの元凶のせいで」
「平原の主…ですか?」
「平原の主?」
私の言葉に、ユーリ達は首を傾げ、カウフマンさんは嬉しそうに微笑んだ
「あら、よく知ってるじゃない」
「あの…平原の主って?」
「ここら一帯の魔物の親玉だよ。さっき突っ込んで来た大群の中にいるよ」
「あの大群の親玉って…すげぇのがいるんだな」
関心するユーリに苦笑いしていると、困ったようにエステルがカウフマンさんに聞いた
「何処か別の道から平原を越えられないでしょうか?先を急いでいるんです」
「さぁ?平原の主が去るのを気長に待つしかないんじゃない?」
「ま、焦っても仕方ねーってことだろ」
「そんなの待っていられませんっ!私、他の人にも聞いてみます!」
と言い、他の人達に聞きに行ってしまった
「あ、エステルー!?もう…大人しくすることが出来ないんだから…」
呆れ気味に言うと、ラピードはエステルのあとを追いかけて行った
「んで?流通まで仕切ってるのにほんとに他の道知らないの?」
ユーリがカウフマンさんの方を向き直して問いかける
「主さえ居なくなればあなた達を雇って強行突破っていうのもあるけど、協力する気はなさそうね」
「護衛なら騎士に頼ってくれよ」
ユーリが手をひらひらさせながらそう答えると、彼女はあからさまに嫌そうに顔を歪めた
「帝国の市民権を捨てたギルドの人間を騎士団が護衛してくれるわけないし、今更頼る気もないわ」
「へぇ、そうゆうとこは自分の意思を貫くんだ」
「そうでもしないとギルドなんてやっていけないもの」
これ以上収穫がないと思ったのかユーリはその場を立ち去ろうとする
私は、反対にカウフマンさんに近づく
「あの、ちょっと聞きたいんですけど…クオイの森から、平原の向こうへ行くことは出来ますか?」
私がそう聞くと、カウフマンさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに微笑む
「そうね、クオイの森からなら平原の向こうへ行けるわ」
「でも、あんた達はそこから行かない。ってことは何かお楽しみがあるってわけか」
いつの間にか傍に来ていたユーリがそう言う
「察しのいい子は好きよ。先行投資を受け取る子はもっと好きだけど」
彼女は満足そうにユーリを見詰める
「一応、礼は言っとくよ。ありがとな、お姉さん。仕事の話はまた縁があったらな」
そう伝え、私達はエステルの元へと向かった
「エステルー!平原を抜ける方法、見つけたよっ!」
「本当ですか!」
道を見つけたと聞いてエステルはすごく嬉しそうな顔をした
「んじゃ、行くとしますか」
そして私達は西にあるクオイの森へと向かった
デイドン砦につくと最初に目に入ったのは、沢山の騎士達だった
「おっかしいなぁ…一昨日来た時は数人しかいなかったのにな…」
キョロキョロと見回しながらそう呟く
「ユーリを追ってきた騎士達でしょうか?」
不安そうにエステルは首を傾げる
まぁ…そりゃそうだろうなぁ…
ユーリが追いかけられてるのって、半分エステルのせいでもあるし…ね?
「さぁな?ま、あんま目立たないようにな」
そんなこと気にしていないのか、ユーリは軽く肩を竦めると出口の方へ躊躇なく足を進める
「わかりました」
エステルもそれに続くように歩き出す
「だね。ここはさっさと抜けちゃおっか」
私も賛同して二人の後に続いて砦の出口へと向かうが、途中でエステルが旅商人の元へと行ってしまった
「あ、ちょっ、エステルー!?」
慌てて呼び戻すが本人には全く聞こえていないようで、熱心に旅商人の話を聞いているのが目に入る
「……ほんとにわかってるのかねぇ」
「ワフ……」
小さくため息をつき、ユーリとラピードと一緒にエステルの元へと行く
そこにいた商人は、私が帝都に帰る途中で会った人だった
「いらっしゃい。……おや、嬢ちゃん、また会ったね」
どうやらおじさんの方も覚えていたようで、ニコッと笑いかけてきた
「こんにちは、おじさん。ハルルに行くんじゃなかったの?」
エステルの隣にしゃがんでおじさんに問いかける
一昨日会った時はこれからハルルに向かうと言っていたはずなんだけどなぁ…
「あぁ、それなんだが…なんでも、砦の向こうで魔物が出るってんで、向こうに行けなくて此処で足止めを食ってるんだ」
困ったように肩を竦めておじさんはそう言った
「魔物、ね…」
「あぁ、なんでも凶暴な魔物らしくてな。此処にいる奴はみんな足止めを食ってるんだ」
おじさんの言葉にあたりを見渡す
商人、旅人、家族連れ、旅行者…確かに、どう見ても戦えるような人達ではなかった
凶暴な魔物が出た、となれば身動きが取れないだろう
「ありがとございます。それじゃあ、私達、もう行きますね」
「あぁ、気をつけてな」
おじさんにお礼をいい、ユーリとエステルに声をかけて私はその場を離れた
エステルはおじさんに本を貰ったらしく、お礼をしてから後を追いかけて来た
「さて、どうするか」
「どうって何がです?」
エステルの疑問にユーリは呆れた顔をした
「…さっきの話、聞いてなかったのか?」
ユーリがそう言うとエステルは苦笑いする
「えっと…本に夢中で…」
「あ、あはは……やっぱりかぁ……」
私は苦笑いして、簡潔に先程の話をする
「この先、魔物が出てて通れないんだってさ」
「そんな、フレンはこの先の花の街ハルルに向かったのに…」
エステルは肩を落とし落ち込む
それもそうか、エステルは今すぐにでもフレンに会いたいんだろうし…
「……ねぇ、少し情報収集しない?」
少し間を置いてからユーリにそう提案する
「それもそうだな。此処でじっとしてたら、誰かさんがフレンを一人で追っかけそうだしな」
横目でエステルを見ながらユーリも私の提案に賛成した
「じゃあ、手分けして情報集めよ!私、向こうの方行くから、ユーリ達はあっちをお願い!」
言うだけ言って、私は騎士の派出所の方へと走り出した
特に砦は広い訳じゃないけど、敢えて別行動にした
…それは、昨日カペラに言われたことが少し気になったから
もし、本当に私の一族のことを知っている人が居るのであれば会ってみたい
…まだ、エステルにはこのことを『話せない』
だから、別行動にした
……正直ユーリとエステルを二人きりにさせるのは嫌だけど…ね
「ったく……相変わらず自由奔放だな…」
派出所の方へ走っていくシアの後ろ姿を見て、呆れ気味にため息をつく
「あっ!アリシア!!待ってください!」
「あっちはシアに任せて、オレらはこっちに行こうぜ、エステル」
シアの後を追いかけようとしたエステルを止めて、反対方向を指さす
「えっ、で、でも…」
おどおどとシアが向かった先を見つめながらエステルは戸惑う
「シアのことだ。一人で行くって事はあっちになんかあんだろ。それに、オレらはあんまそっちに近づかねぇ方がいいんじゃねぇの?」
シアが向かった方には騎士の派出所が見える
お嬢様のエステルが行けばそれこそやばいだろう
しばらく躊躇していたエステルだったが、渋々と頷いてシアの向かった方向に背を向ける
それを確認してから、オレはシアとは反対方向に歩き出した
ユーリ達と別れた後、私は砦の上へとやってきた
ここから見ると、魔物の集団がハルルとデイドン砦の間にいるのが良く見える
これでは通れないな…と苦笑いしつつ、他に行けそうなところがないかあたりを見渡す
すると、砦の左手側に森が見えた
「あそこはクオイの森…あそこからなら反対側へ行けたはずだけど…」
ポツリと呟いて顎に手を添えて考え始める
確かに抜けられるはずだけど、正直クオイの森にはあまりいい噂がない
むしろろくでもない噂の方が多い
確かに少し森の中に入ったことはあるけれど、通り抜けたことはないし…
どうするべきかと頭を悩ませていると、不意に後ろから物音がした
騎士が上がってきたのかと思い、慌てて振り返ると、そこに居たのは銀髪の長髪の男性が立っていた
(この人……何処かで見たことがある気がする……)
そんなこと考えながら見つめていると、
「……ライラックの娘か。」
と、不意に言われた
「…!?な、なんでお父様の名前を知っているの…!?」
『ライラック』………私の、亡くなったお父様の名前
何故、この人はお父様の名前を知っていて、更には自分のことも知っているの……?
それを考えている時、昨日の星達との会話を思い出した
《白髪の男に気をつけて》
(白髪……でもこの人は白というよりも、銀に近い気がする…)
「……………」
男はそれっきり何も言わない
ただ、無言で私を見つめている
「……あなた…いった」
カーンカーンカーンカーン
問いかけようと口を開いた時、突然警報を知らせる鐘が鳴った
それと同時に物凄い地響きが聞こえた
振り返ると、平原から先程から見えていた魔物の群れが、この砦目掛けて走ってきていた
「なっ……!あれは、平原の主…!?なんでこの時期に…!」
驚いて砦の外へと身を乗り出す
まだ平原の主が来る時期ではないはずなのに…!
「急いで!!門が閉まるわ!」
ふと女性の声が聞こえ、下を見ると人々が次々と砦の中に入って来ていた
が、騎士はそんなことお構い無しに門を閉めようとしていた
平原にはまだ、少女と怪我をした男性がいるのに…!
(このままじゃ二人が危ない…!)
後のことなんて考えずに、砦の淵に足をかけ、勢いよく飛び降りる
その途中、ユーリがエステルの横をすり抜け、男性の方へと向かうのが見えた
地面に着地したところで、後ろを振り返ってみるが、先ほどの男の姿はなかった
(居ない…っ!?……ううん、今はそんなことよりも、助けに行かなきゃ…!)
軽く頭を振って先ほどの男のことを頭の外においやる
そして、そのままユーリの方へと走って行く
「ユーリ!!」
「シアっ!?おまっ、どっから!?」
私が後ろから声をかけると、驚いたように見つめてくる
「今はそれよりもその人、連れて行ってあげて!」
「おぅ!」
ユーリは男性を支えながら先に砦へと向かう
私は少女を抱きかかえ、ユーリの後に続くように砦へと戻る
が、途中で人形を落としてしまった
それを見たユーリは、私達の横をすり抜け人形を取りに戻る
「ちょっ!?ユーリ!?」「ユーリ!」
私とエステルはユーリの名前を呼んだが、そんなのお構い無しにユーリは人形を拾いに行く
人形を手に取ると、踵を返して砦へと戻ってくる
「ユーリ!!急いで!」
閉めるのを中断していた門がまた閉まり始めた
砦の入口で私が叫ぶと、隣に居たエステルも心配そうな顔で叫ぶ
そんな私達を見て苦笑して、ユーリは走るスピードをあげた
門が閉まるギリギリのところでユーリは門の中へと入った
数秒後、平原の主達は門に体当たりするように、次々と門にぶつかってきた
「間一髪だったね…」
私は横目で門を見て言った
ふぅ…と息を吐くと、ユーリは少女に目線を合わせるようにしゃがんで人形を渡した
「ほら、人形。もう手離すんじゃねぇよ」
「お兄ちゃんありがとう!」
少女は嬉しそな笑顔を浮かべ、近くにいた母親と、先程助けてエステルに治癒した男性がお礼を言った
「なんとお礼を言えばいいのか…」
「怪我まで治癒して頂いて、本当に助かりました」
「いえ!皆さんが無事で何よりです」
エステルは笑顔でそういうと、母親と男性は再度お礼を言い、少女は人形を大事そうに抱えユーリに手を振って、母親と手を繋ぎ歩いて行った
その姿を見てエステルは嬉しそうに言った
「みんなが無事でよかった…あ、あれ?」
安心して力が抜けたのか、エステルはその場に座り込んでしまう
「ったく、安心した途端それかよ」
ユーリと私は苦笑して、エステルと同じようにその場に座った
「結界の外ってこんなに危険だったんですね…」
「あんな魔物が大量に来るんじゃ、結界が欲しくなるよな」
「此処に結界を設置することはできないのでしょうか?」
エステルは首を傾げる
その問に、私は首を横に振りながら答える
「それは無理だよ。結界は貴重だし、今の技術じゃ作れないから。もし仮にそんな技術があったら、もっと暮らしのいい生活が出来ていると思うけど…」
「帝国が民衆の為にってのは、想像しにくいな」
「同感」
ユーリと私の言葉に、エステルは残念そうに肩を落とした
そんな話をしていると、一人の騎士がこちらへやって来るのが見えた
「そこの三人、少し話を聞きたい」
そう言われどうしようかと迷っていると
「何故に通さないのだっ!?魔物などこの俺様の拳で倒すというものを!!」
と、門の方から怒鳴り声が聞こえた
門の方を向くと、騎士と一人の男が言い争いをしていた
近くには他に、背中に大きな大剣を掛けている腕を組んだ男と、少し離れたところに大きな円盤状の刃を持った少女が立っているのが目に入る
「だからっ!そう簡単に倒せるようなやつじゃないと言ってるじゃないか!!」
「貴様、我々の実力を侮ると言うのだな?」
そうフードの男が言うと、そばにいた男が背中の大剣に手を掛けた
その騒動を見て、他の見張りの騎士達が門へと集まって来た
「今のうちに逃げちゃおっ!」
私がそう提案するとユーリ達は賛成して早足でその場を後にする
「あの調子じゃ、当分通れそうにないな…」
「ねぇ、あなた達、私の下で働かない?」
そんな話をしてると声を掛けられた
声が聞こえた方を向くと、赤髪の眼鏡をかけた女性と、サングラスを掛けた男性が立っていた
「報酬は弾むわよ?」
ユーリを見ながら、お金の入った袋を見せそう言った
ユーリは興味無さそうに視線を外し、その場を去ろうとした
「おい、お前等
「名乗らずに金で吊るのは失礼って言わないんだな、勉強になった」
「その言い方は失礼だよ、事実ではあるけどさ」
ユーリは視線を向けず、私は呆れ気味に言った
「お前等っ!」
痺れを切らせたのか、男がこちらへと足を踏み出したが、女性によって遮られた
「予想通り面白い子達だわ。私は
「ふーん、ギルド、ね」
相変わらず興味無さそうにユーリは小さく呟いた
すると、大きな地響きがなった
「私、今困ってるのよ。この地響きの元凶のせいで」
「平原の主…ですか?」
「平原の主?」
私の言葉に、ユーリ達は首を傾げ、カウフマンさんは嬉しそうに微笑んだ
「あら、よく知ってるじゃない」
「あの…平原の主って?」
「ここら一帯の魔物の親玉だよ。さっき突っ込んで来た大群の中にいるよ」
「あの大群の親玉って…すげぇのがいるんだな」
関心するユーリに苦笑いしていると、困ったようにエステルがカウフマンさんに聞いた
「何処か別の道から平原を越えられないでしょうか?先を急いでいるんです」
「さぁ?平原の主が去るのを気長に待つしかないんじゃない?」
「ま、焦っても仕方ねーってことだろ」
「そんなの待っていられませんっ!私、他の人にも聞いてみます!」
と言い、他の人達に聞きに行ってしまった
「あ、エステルー!?もう…大人しくすることが出来ないんだから…」
呆れ気味に言うと、ラピードはエステルのあとを追いかけて行った
「んで?流通まで仕切ってるのにほんとに他の道知らないの?」
ユーリがカウフマンさんの方を向き直して問いかける
「主さえ居なくなればあなた達を雇って強行突破っていうのもあるけど、協力する気はなさそうね」
「護衛なら騎士に頼ってくれよ」
ユーリが手をひらひらさせながらそう答えると、彼女はあからさまに嫌そうに顔を歪めた
「帝国の市民権を捨てたギルドの人間を騎士団が護衛してくれるわけないし、今更頼る気もないわ」
「へぇ、そうゆうとこは自分の意思を貫くんだ」
「そうでもしないとギルドなんてやっていけないもの」
これ以上収穫がないと思ったのかユーリはその場を立ち去ろうとする
私は、反対にカウフマンさんに近づく
「あの、ちょっと聞きたいんですけど…クオイの森から、平原の向こうへ行くことは出来ますか?」
私がそう聞くと、カウフマンさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに微笑む
「そうね、クオイの森からなら平原の向こうへ行けるわ」
「でも、あんた達はそこから行かない。ってことは何かお楽しみがあるってわけか」
いつの間にか傍に来ていたユーリがそう言う
「察しのいい子は好きよ。先行投資を受け取る子はもっと好きだけど」
彼女は満足そうにユーリを見詰める
「一応、礼は言っとくよ。ありがとな、お姉さん。仕事の話はまた縁があったらな」
そう伝え、私達はエステルの元へと向かった
「エステルー!平原を抜ける方法、見つけたよっ!」
「本当ですか!」
道を見つけたと聞いてエステルはすごく嬉しそうな顔をした
「んじゃ、行くとしますか」
そして私達は西にあるクオイの森へと向かった