第2部〜満月の子と星暦の真実〜
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ー数十時間後ー
あれから、どれだけの時間が経ったのだろう
お兄様の声と、誰かが言い合う声……
それと、金属音が耳に響く
そして……自分の意思ではなく、勝手に動く体……
……あぁ、結局抗えていないんだな……
意識が徐々にはっきりして、状況が見えてきた
へとへとになったユーリ達……
それと、ニヤニヤとしたお兄様……
私を戦わせて、私に皆を殺させようとしてるのがすぐにわかった
……これ以上、思い通りには、させない……!
ガキィィンッ!!!
と、音を立てて、ユーリの剣が空を舞った
「くっ……!!……シア……!!いい加減、目、覚ませ……っ!!」
ユーリの悲痛な声が耳に入る
「くっくっく……アリシアには、もう私の声しか届かぬよ
……やれ、アリシア」
お兄様の冷たい声と共に、剣を持った右手が勝手に上がる
……ユーリにだけは、振り下ろしたくない
「シア……っ!!!」
私を呼ぶ声と同時に、勝手に腕が降りる
ユーリは、覚悟を決めたように目を瞑る
皆が、私とユーリの名を叫びまくっているのが聞こえる
そして……勝ち誇った笑みを浮かべたお兄様が、視界に映る
………思い通りには、ならないよ
ユーリに、触れるか触れないかのところで腕が止まる
いや、『止めた』の方が、正しいかもしれない
「……何……?」
驚いたようなお兄様の声が聞こえた
「……………ねぇ………お兄様………?一つ………大事なこと………忘れてるよ……?」
お兄様の力に抗うように、途切れ途切れに言葉を繋げる
それに、皆が驚いた顔をする
「……今の時間………星は…………『左だけ』なら、私の身体………使えるんだよ………?」
『………いいんだな?』
私がそう言ったのと同時に、シリウスの声が聞こえた
久しぶり聞いた、その声に、笑って返す
すると、ゆっくりと、隠し持っていた短剣を左手が取り出す
右も左も自分の意思で動かせないのはかなり気持ち悪いが、左に関してはそんなことを言ってられない
一瞬躊躇するような間があったが、その後、迷わずにその短剣を右腕に突き刺した
それと同時に、右に持っていた剣が手から落ちる
「いっ………!!!?」
あまりの痛みに思わず声が出たが、『これで』自由に動ける
「っ!!!何故、何故だ!?完璧だったはずだぞ?!」
突然の事態に困惑した声をお兄様はあげた
「……完……璧……??そんなの、あるわけ、ないじゃないですか……!!」
左側から、『シリウス』は居なくなった
突き刺した短剣は、エアルの流れを正す短剣…
私の中で乱れていたエアルを強制的に正しい流れへと戻したわけだ
突き刺さないと効果がないのがたまにキズだけど…
「完璧なんて………そんなもの、存在していたら……誰も、間違いを侵さないですよ……!」
そう言いながら、短剣を引き抜く
ポタポタと血が溢れ出る
若干貧血で目眩がする
でも、そんなこと気にしていられない
「くっ……!こうなればもう一度…!」
そう言って剣を掲げる
「っ!!!」
一瞬、頭が痛くなったが、それでも、自分でちゃんと体を動かせる
「なっ……!!」
「………約束、破りましたね……?覚悟……出来てますよね」
深呼吸をして、キッとお兄様を睨みつける
「……満ちよ、天光……開け、黄泉の門……この名を持ちて出でよ……!!インディグネイション!!!!」
「ちっ………!!!」
術が発動すると同時に、お兄様はザウデ不落宮の方向へと飛んで行った
それを見届けるのと同時に、私の体は後ろに倒れた
「おっ……と!」
すぐ後ろにいたユーリが、それを受け止める
……もう、体に力が入らない
むしろ今までよく頑張ったと思う
「ナイス、キャッチ~……」
ニコッと笑って言ってみるが、彼は今にも泣きそうな顔をする
「馬鹿野郎……っ!!ふざけてる場合じゃねぇだろ…!!」
「アリシア…っ!今すぐ治癒術を…!!」
「待った待った!!嬢ちゃんの力じゃ、アリシアちゃん、更にバテちゃうわよ
…俺に任せな」
そう言って、レイヴンは慌てるエステルを宥めて、私に治癒術をかけてきた
「流石シュヴァーン隊長、だね」
ケラケラと若干ふざけ気味に言う
すると、明らかに不機嫌そうに顔を歪める
「シュヴァーンじゃなくて、レイヴンよ、レ・イ・ヴ・ン!!」
「あはは……わかってるって……」
右腕の痛みが無くなると同時に、眠気が襲って来た
「……ユーリ……お小言は後でちゃんと聞くから……今は……寝かせて……?」
「…………絶対、だからな?」
ぎゅっと、抱きしめてくる腕に力が入ったのがわかる
コクリと頷いて、目を閉じる
ほんの少しだけ、少しだけでいいから………
今は何も考えずに、眠りたい
~ユーリside~
「……寝たわよ?この子……」
俺の腕の中で眠りについたシアを、呆れたようにリタが見つめる
「ったく……こっちの苦労も知らねぇで」
苦笑いして首を竦める
シアを追いかけてヘラクレスに乗りこみ、そこで因縁とも言うべきか…ザギと戦う羽目に会うわ
フレンと別れて、バウルで帝都に来て見りゃ、シアに吹き飛ばされ
カプア・ノームまで戻され、しかもヘラクレスの攻撃のせいで真っ直ぐ帝都に行けないときた
遠回りの挙句の果てには、魔物に襲われ死にかけるし
なんとか逃げ切ったら頑張ったカロル先生が熱出すときた
んで、帝都手前にゃ機械兵が彷徨いてやがるし
帝都はエアルまみれで住める状況ですらねぇ
なんとかシアの元にたどり着いたと思えば、アレクセイのせいでシアと戦闘……
「もう僕……ヘトヘトだよ……」
地べたに座り込みながら、カロルが言う
「……ユーリ、ちょっといい?」
「あん?なんだよ」
突然リタに話しかけられ、何かと思えば、俺の傍にしゃがんで、魔導器の制御パネルを開いた
「……………やっぱり、まだ繋がってる」
ピコピコとパネルを操作しながらリタは言う
「魔導器との繋がりが残っているのか?」
俺の問にゆっくりと頷く
「一時的にねじ伏せてただけみたい。……よく出来てる、これなら、アリシアへの体の負荷は少ない……けど、こんなの、ただの枷よ…!!」
そう苛立ちながら、リタはパネルをいじる
「…………これで、全部解けたわ」
そう言って、パネルを閉じる
「ようやく、彼女に自由が戻ったのね」
ニッコリとジュディが笑うと、リタは何処か嬉しそうに頷く
「さてと…そろそろ下に降りるとしますかね」
随分下も賑わってきたな、と心の中で思いながら、仲間たちと共に元来た道を戻った
目を開けると、いつもの、真っ暗な闇の中……
ゆっくり体を起こして、辺りを見回す
『『アリシアぁぁぁぁぁーーー!!!!よかったぁぁぁぁぁぁ!!!!』』
「わっ!?!!」
そう叫びながら飛びついてきたのは、カストロとポルックスだった
『よかった…本当に、無事でよかった…!』
ぎゅっと後ろから抱きつきながら、カペラが言う
『アリシア死んじゃったら、どうしようかと思った…』
もう一人、ベガもまた、後ろから抱きついてくる
『全く、無謀にも程があるだろ。……でも、無事でよかったよ、本当に』
ポンッと頭に手を乗せてきたのはカープノスだ
『お前ら、そんなにアリシアに引っ付いていたら、身動きが取れないだろう?』
『嬉しいのはわかりますが、離れましょうか』
『そーだよ!アリシア苦しくなっちゃうよ!』
『そうですね、彼女には話さなければいけないこともあるのですから』
シリウスにアリオト、アルタイルにペテルギウスがそう声をかけてきた
…それでも、離れようとしてくれないんだけどね…
『…それ以上、アリシアに引っ付いちゃ、アリシア苦しくなっちゃうから、だめ!』
『わっ!?』『ひゃっ?!』『『うわっ!!?』』『きゃっ!!』
リゲルがそう言うと同時に、私の周りにバリアーが張られ、五人とも吹っ飛ばされてしまった
「み、みんな、大丈夫?」
『お前は、自分の心配をしろ』
コツンと、頭を叩かれる
見上げると、呆れた顔をしたシリウスの顔が目に入る
「…シリウス、ごめんね…」
そう言って、シリウスの手を握った
「みんなも、心配かけてごめんね」
そう言えば、みんなは抱きつきはしなかったものの、傍に寄ってきて口々に無事でよかったと言ってくれた
『さて…目を覚まさせる前に、アリシア。ユーリさんはフェローとミョルゾで、星暦の話を聞いたみたいですよ』
真剣な顔をして、ペテルギウスは言ってくる
『…時は満ちました。もう話しても大丈夫ですよ』
反対に、ニッコリと微笑みながらアリオトは言ってくる
「……そっか……うん、わかった」
そう言って微笑み返す
『……無理して、話さなくてもいいのだからな?』
心配そうにシリウスはそう声をかけてくる
「……大丈夫、無理はしてないよ。それに、フレンだけ知らないのは可哀想だもん」
『……そうか……』
苦笑いしながら、私が握った手と反対の手でシリウスは頭を撫でてくる
『アリシア、そろそろ行かないと』
『皆も心配してるよ』
『…無理、しないでね?』
『力、使うのだめだからね!』
『少しは大人しくしろよ?』
『ユーリさんに心配かけちゃだめだよ!』
『しばらくは、ゆっくり休んでくださいね』
『私たちは、いつでもあなたの傍にいますよ』
みんなは微笑みながら、そう言ってくる
『さぁ、目を覚ませ。我らの姫よ。……また、星の瞬く夜に会おう』
「…うん、みんな、またね!」
そう答えると、シリウスにトンっと肩を押され、落下する感覚がする
…いつまでも、これにはなれないなぁ……
そんなことを考えながら、ゆっくりと目を閉じた
「……ん………」
優しく頭を撫でられる感覚に目が覚める
「あぁ、起こしてしまったかい?」
目の前には優しく微笑んだフレンの顔があった
「…………フレン………」
ニッコリと、フレンに微笑み返す
「全く、心配したんだよ?」
軽く額を弾きながら言ってくる
「ん………ごめんね、心配かけて」
苦笑いしながらそう答える
「……無事でよかったよ、本当に」
そう言って、また頭を撫でてくる
…ユーリに見られたら怒られそうだなぁ
「……あれ、ユーリは……?」
姿の見えない彼の名を出すと、ちょっと寂しそうにしながら、肩をすくめる
「ユーリなら、皆と明日のことについて、個々に話し合ってるじゃないかな?」
「……明日……?」
「…………逃げたアレクセイを、捕まえに行くんだ」
「………………そっか」
少し遠慮気味にフレンは言った
捕まえる、そう言われても、なんの感情も芽生えなかった
ゆっくりと体を起こす
「アリシア、もう起きて大丈夫なのかい?」
心配そうにフレンが聞いてくる
「…うん、大丈夫だよ……ね、ユーリのとこ、連れてって?」
コテン、と首を傾げながらフレンにねだる
一瞬、困惑したようにフレンは目を見開いた
「……話したいこと、あるんだ。フレンも一緒に……聞いて欲しい」
真面目にそう言うと、若干諦めたようにため息をつく
「……わかったよ、ユーリのところに行こう」
「ありがとう、フレン」
そう言って、立ち上がる
…が、足に上手く力が入らなく、そのまま前に倒れそうになる
「おっと……大丈夫かい?」
「あはは……やっぱりまだ自力じゃ立てないみたい……」
そう苦笑いすると、フレンが肩を貸してくれた
「…本当は抱いてしまいたいけど、それをしたらユーリに怒られそうだからね」
苦笑いしながら彼はそう言う
「間違いなくキレるね『俺のシアに何してんだ!』って」
私がそう言うと、二人して笑い出した
……こうして笑うのも、なんだか懐かしいなぁ……
最後に笑ったのはいつだったろうか
最後に三人で会ったのも、随分昔に感じた
最後に皆で話したのも、遠い昔の気がした
最後に、ユーリと二人で肩を並べたのも……
ずーっと前のような気がした
「ようやく見つけたよ、ユーリ」
お城中探し回って、ようやく庭に居るのを見つけた
途中、カロルやレイヴン、パティにジュディスに会った
……皆、怒りながらも、無事でよかったと言ってくれた
…とっても、嬉しかった
「あ?なん……!!!シア!!もう動いて平気なのか?!」
私を見るなり、私の元にすっ飛んで来た
「ん、大丈夫だよ」
ニコッと笑って言うと、フレンに軽くこずかれた
「一人で立てないのに、大丈夫なわけがないだろう?」
若干怒りの混じった声に苦笑いするしかなかった
「ったく……それなら部屋で待っててくれりゃよかったのに」
そう言いながら、フレンから私を受け取って頭を撫でてくる
「…話したいこと、あったから」
ちょっと真剣に言いながら肩をすくめる
すると、ユーリも真剣そうな表情を見せる
「…エステル、リタ、話はまた後でいいか?」
ユーリは後ろにいた二人に声をかける
「はい、わかりました!」
「えぇ、いいわよ。…アリシア、後で話あるから、終わったらちゃんと来るのよ?」
「ん、わかったよ、リタ」
エステルとリタと一旦別れて、私とユーリ、フレンは御剣の桟橋へと向かった
…そこにしたのは、そこが一番、星に近いから
「んで、話って?」
頂上に着いて早々、ユーリが聞いてくる
一人でもなんとか動けるようになった体で少しユーリとフレンから離れる
「…私と、私の一族のこと、ユーリはもうフェローか、ミョルゾで聞いたでしょ?」
「あん?なんでシアがそれを知ってんだ?」
「…寝てる間に、ちょっとシリウスたちから聞いたの……だから、ちゃんと話そうと思って」
「…いいのかい?」
遠慮気味にフレンが聞いてくる
「…『ダメ』…なんて、もう言わないでしょ?シリウス」
『……あぁ、そうだな……』
風に乗って、シリウスの声が聞こえてくる
ユーリが私の剣を持っているから、この声は二人にも聞こえているはずだ
「いいっつーなら、聞かせてくれよ。お前がずっと隠してたことを」
ユーリは遠慮無しにそう言ってくる
「…そう、だね…じゃあ、まずは一族のことから全部、話すね
私の一族、『星暦』は星との対話と、個々の星たちが持っている力を借りて、魔導器なしに術技を扱うことが可能な一族。本来の存在意義は、始祖の隷長と共にエアルの流れを乱す『もの』を排除すること。…物でも、人でも、魔物でも…」
空を見上げながら淡々と話す
…いつか話したいと思っていた一族のこと…
いざ話すとなると、何故か緊張する
「…星暦に満月の子の力は毒だった。そして……千年前、災厄の襲来時に自分達の身の保身を第一に図った、満月の子の当主らによって、星暦の元いた人数の半分が犠牲になった
以来、満月の子と星暦は対立する仲になってしまった」
ユーリもフレンも何も言わない
あまりにも私が淡々と話すからだろうか?
「帝国が出来てからの歴史では、数百年に一度、必ずどちらかの大量殺戮があった。…そのせいで、満月の子も星暦も激減した。それがよくないと言って、和平を結んだのは百年前。……遅すぎるよね?……今となっては、星暦は私一人。満月の子も、力があるのはエステル一人。……こんな事になるまで、星暦と満月の子は互いを殺しあっていたんだ」
軽く目を瞑る
…星たちが見せてくれたことが、少し前の出来事のように鮮明に目に浮かぶ
「……ちょっと話逸れちゃったね。次は星についてかな。…一重に『星』って言っても、人と同じで色々な星がいてね。星ごとに出来ることも違ってくるんだ。さっき話しかけたシリウスは火を操るのが得意だし、シリウスの次によく話しかけてくるアリオトは治癒術が得意だし。……それぞれに個性があるんだ。性格も声色も、性別も年齢もみんな違うんだ」
そう言ってくるっと二人の方を向く
出来るだけ、笑顔を壊さないように、二人を見る
…何処か寂しそうな表情で二人は私を見つめていた
「………満月の子のこと、シアは恨んでねぇのか?」
遠慮気味にユーリは聞いてくる
「おい、ユーリ…!」
止めるように、フレンはユーリの名を呼んだ
「……そう、だね……星暦が、私のご先祖さま達が死んでも、災厄は引かなかった……結局は満月の子じゃなきゃいけなかった。そう考えたら、恨むのが普通なのかもしれない」
ゆっくり目をつぶって、そう答える
「…でもね、いつまでもいがみ合ってちゃいけないんだよ。…そうしたところで、何も変わらない。過去にあったことは、過去でしかないんだ。それは、変えられない。なら、今をどうしていくかを考えた方がずっといいじゃない?」
そっと胸に手を当てて答える
これは、私が見つけた答え
満月の子と、どう接していくかを、私なりに見つけた答え
星暦と満月の子の共存……
それは、初代当主様が叶えられなかった願いだ
……千年越しになってしまうが、私はそれを叶えたい
「シア……」
「……恨んでばかりってつまらないよ?…それに、私は満月の子に何かされたわけじゃない。エステルは私の友達だよ?恨むも何もないよ」
ニコッと笑って言う
エステルは大切な友達だ
フェローに散々文句を言われたが、それが変わることはない
「………じゃあ、最後に、私の話」
笑顔を崩して、真っ直ぐに人を見る
……多分、一番知りたいのは私の事だろうから
「……私は産まれた時から星と対話出来るだけの力があった。『姫』って呼ばれる理由の一つ、産まれた時から対話できる人って初代当主様くらいだったから。もう一つの理由は、星たちの力を使いこなすのが上手かったから。四歳の時には、一人で自由に星たちの力を扱えてた。……でもね、一つだけ大きな欠点がある。私はエアルに異常な程敏感で、長時間この力を使う事も、魔導器を使う事も出来ないの」
肩をすくめながら苦笑いする
…二人はまだ、何も言わない
「原因は分からない。お医者さんには、両親の体があまり強くないのが原因かもしれないけど、それ以前の問題かもしれないとも言われた。……原因がなんであれ、星たちの力を借りるのも武醒魔導器を使うのも最小限にしなさいって、お父様にもお母様にも言われた。外からのエアルの干渉が最小限に抑えられるようにって、お父様は私に剣とネックレスを渡してくれた。絶対に外しちゃいけないと言われて………でも、私は二人の約束を破った。もう知ってると思うけど、私はお父様達が亡くなった後、お兄様の手伝いと称して、今まで色んな事をしてきた。ただの伝達役をしたり、街の護衛をしたり……時には人にてをかけることだってあった。」
「アリシア……それ以上は……!」
「フレン、やめろって」
私を静止しようとしたフレンを、ユーリが止めた
…全部言うと言った
今更無しにしてください、なんて言うつもりはなかった
「……全部、脅されてって、いうもの確かにある。でも、脅されても最終的にやるって言ったのは私の判断だ。
…皆の為って、自己満足でやってきた。ネックレスのこともそう、少しでもエステルの力が、エアルに干渉しないように、元々かかっていた術の逆の術を仕込んだ。剣だってそう。私が持っていれば、お兄様が無理矢理星たちと会話しようとすると思ったから、あの場所に隠した。
……その結果が今のこの状態。正直に言って、一人で立ってるのがやっとだよ。これ以上、星たちの力を借りることは出来ない。本来ならエステルの傍にいることさえしちゃいけない。もっと言えば、お守りをエステルに渡したままの状態自体が自殺行為なんだ」
自嘲気味に笑いながら、二人を見つめる
フレンはなんと言っていいか分からないと言うような顔をしている
ユーリは、ただただ、無表情のまま、私を見つめている
「…………お前が話したかったのは、それだけか?」
ゆっくりとユーリが口を開いた
「…私と私の一族についてはこれが全て、だよ」
「……まだ、何か隠してるって顔してるぜ」
「………フェローに、何か聞いた?」
私がそう聞き返すと、ユーリは気まづそうに俯いた
「…そっか、フェロー、話したんだ」
そう言って、上着を脱ぐ
下はチューブトップだから、両肩と両腕がハッキリ見える
「………アリオト、もういいよ」
空に向かってそう声をかけた
アリオトは何も言わないで、今まで私にかけていた術を解いた
すると、左の肩から手首にかけて、大きな傷跡が浮かび上がる
「…………っ!!!」
「なっ………!!!」
二人とも、大きく目を見開く
まさかこんなになってるなんて思わなかったのだろう
「………五年前、だったかな。評議会の集まりに参加して、ハルルから帝都への帰路についた時だった。…時期でもないのに草原の主がやって来て、乗ってた馬車ごと吹っ飛ばされた。もちろん、周りに騎士は居たよ。指揮してたのはお兄様だった……私だけ助けると、お父様達には目もくれずに逃げ去り出した。私の、お父様達を助けてって声は無視されて……」
ぎゅっと左腕を握り締めて俯く
未だに残っているあの時の轟音と、お父様達の声……
それが、耳から離れない
「…これはその時に出来た傷。傷が出来た時に、神経まで傷ついたみたいで、動かせはするけど、こっちはあまり感覚がないんだ。…まぁ、そのおかげ、って言ったらあれだけど、シリウスやアリオトたちが私の体を通して、少しだけこっちに干渉出来るようになったわけだけどね。
………これが、私が評議会を嫌う理由。……私はずっと、許すことは出来ない。こればかりは、許せない。私から、大切な人を奪った彼らを、許すことは出来ない」
顔を上げて、真っ直ぐ二人を見つめる
…ねぇ、二人は今、これを見て、私の話を聞いて、何を思う?
何を、思ってる?
私は悲劇のヒロインを演じるつもりはない
……けど、知って欲しかった
私が今まで、どんな目にあって、どうゆう人達と関わって
そして………
何を失ったか
…これは全て、お兄様のせいかもしれない
けど、そのお兄様に賛同して、協力した者もいることは事実だ
だから、だからこそ、今のそんな帝国の在り方そのものを変えて欲しい
………それは、私には出来ないことだから
「………私のことは、本当に、これで全部だよ」
そう言って、脱ぎ捨てた上着を取ろうとしゃがむ
若干、目眩がして体がよろめく
倒れる、と思ったが、すぐに誰かに受け止められた
『誰か』なんてわかっている
「……大丈夫か?」
「大丈夫、ちょっと目眩がしただけだから……ありがとう、ユーリ」
ニコッと笑って、私を支えてくれたユーリにお礼を言う
が、当の本人はそれよりも、と言いたげな表情で見つめてきていた
すっと、おもむろに左の腕の傷跡に触れてくる
「…これ、痛くねぇのか?」
「大丈夫、痛くはないよ」
「……出来た時は、痛かったんだよな…」
「…まぁ、そうだね」
苦笑いしてそう答えると、ぎゅっと抱きしめてきた
「ユーリ?」
「………ずっと、一人で抱え込んできたんだよな…」
私の首元に顔を埋めて、ユーリはそうつぶやく
「………そう、だね」
「……もう、いいだろ?」
「……………え?」
「もう、充分だろ?」
そう言いながら、顔を上げた
「もう、一人で抱え込まなくったっていいだろ?……いい加減、俺にその肩の荷、半分でもいいから寄こせよ」
真剣な目でユーリは私を見つめてくる
「……それじゃあ、もう半分は僕がもらって行こうかな?ユーリ一人にまかせてなんておけないからね」
そう言いながら、フレンが近づいてくる
「あん?お前にゃ帝国引っ張ってくっつー仕事があんだろ?シアの荷は俺が丸ごと全部もってくっつーの」
「その荷の中に、評議会のことも混じっているだろう?帝国のことは、僕の担当だ。ユーリに全部渡したら、それこそ血祭りしにかねないだろ?」
「んなっ!?俺だってんなことしねぇよ!!」
私の意見なんて聞かずに、二人だけで、どちらが私の荷を持っていくかの喧嘩を始めた
……私はもとより、どちらにもこの荷を渡すつもりなんてないのだが……
まともに動くことの出来ない今の私には、これをどうすることも出来ない
「………全くもう…………前に渡す気はないって言ったの、忘れてるでしょ」
ギャーギャーと言い合いをしている二人にそう言うと、ピタリと言い合いをやめた
「…………それ、まだ言うのかよ」
若干寂しそうにユーリは見つめてくる
「もちろん……って本当は言いたいとこだけど……私ももう疲れちゃったし、これ以上一人でなにかする事も出来ないし、三分の一ずつだけ持ってってよ。流石に全部は渡しませんー!」
笑いながら、二人にそう言う
二人は顔を見合わせて、困ったように苦笑いする
が、すぐにお互い頷き合う
「…しゃーねぇな、全部は諦めるさ」
「アリシアが、三分の一だけでも持って行ってって言ったんだ。まだ進歩した方だよ」
「ちょっ、フレン!進歩した方って何よ!!」
ユーリの腕の中でパタパタと腕を振る
が、当然ながらフレンに届くわけもなく、そんな私を見てくすくす笑い出す始末だ
「もー!!!ユーリもなんとか言ってよーー!」
ムッとしてそう言ってみるが、ユーリもフレンと同じ意見らしく
フレン同様くすくすと笑うだけだった
「むぅ………二人してひどーい!」
パタパタ振っていた腕を下ろして、明後日の方向を向く
「ははっ、ごめんごめん、アリシアがあんまりにも可愛いことをするものだからつい、ね」
「おいこらフレン、人の彼女に手ぇ出すなよな?」
先程までフレンと一緒になって笑っていたユーリが、急に真面目な声でフレンに言う
「流石に僕はそんなことはしないさ」
フレンは至って冷静にそう答えた
「…その俺ならやりかねねぇみたいな目で見てくんのやめろ、俺だってやんねぇよ!」
再び口喧嘩を始めた二人を、笑いながら見る
ユーリとフレンがこうして他愛もないことで喧嘩しているのを見るのが好き
ユーリとフレンと、三人で一緒に居られる時間が好き
二人と過ごす時間が、私にはとても大切で、一番好きな時間だ
「………ユーリ、フレン」
二人の名前を呼ぶと、すぐに言い合いをやめて、私の方を見る
こうゆうところも、昔から変わらないんだなぁ
「…ありがとう」
ニコッと笑ってみせる
ユーリとフレン、二人のおかげで私は今、こうしてここにいることが出来る
二人が居たから、頑張ってこれた
…今までも、そして、これからも
二人は私の心の支えだ
「唐突だな…別にお礼言われるような事なんてしてねぇぜ?」
少し驚いた顔をしてユーリは言う
「だね、僕らはたいした事は何もしていないよ」
ユーリと同じように、フレンも答えた
「私が言いたかっただけだから」
ユーリとフレンは顔を見合わせて肩をすくめる
そして、二人も笑顔で私の方を見た
「「どういたしまして」」
二人同時にそう言った
目を細めて笑いかける
この時間が、いつまでも続けばいいのになぁ……
あれから、どれだけの時間が経ったのだろう
お兄様の声と、誰かが言い合う声……
それと、金属音が耳に響く
そして……自分の意思ではなく、勝手に動く体……
……あぁ、結局抗えていないんだな……
意識が徐々にはっきりして、状況が見えてきた
へとへとになったユーリ達……
それと、ニヤニヤとしたお兄様……
私を戦わせて、私に皆を殺させようとしてるのがすぐにわかった
……これ以上、思い通りには、させない……!
ガキィィンッ!!!
と、音を立てて、ユーリの剣が空を舞った
「くっ……!!……シア……!!いい加減、目、覚ませ……っ!!」
ユーリの悲痛な声が耳に入る
「くっくっく……アリシアには、もう私の声しか届かぬよ
……やれ、アリシア」
お兄様の冷たい声と共に、剣を持った右手が勝手に上がる
……ユーリにだけは、振り下ろしたくない
「シア……っ!!!」
私を呼ぶ声と同時に、勝手に腕が降りる
ユーリは、覚悟を決めたように目を瞑る
皆が、私とユーリの名を叫びまくっているのが聞こえる
そして……勝ち誇った笑みを浮かべたお兄様が、視界に映る
………思い通りには、ならないよ
ユーリに、触れるか触れないかのところで腕が止まる
いや、『止めた』の方が、正しいかもしれない
「……何……?」
驚いたようなお兄様の声が聞こえた
「……………ねぇ………お兄様………?一つ………大事なこと………忘れてるよ……?」
お兄様の力に抗うように、途切れ途切れに言葉を繋げる
それに、皆が驚いた顔をする
「……今の時間………星は…………『左だけ』なら、私の身体………使えるんだよ………?」
『………いいんだな?』
私がそう言ったのと同時に、シリウスの声が聞こえた
久しぶり聞いた、その声に、笑って返す
すると、ゆっくりと、隠し持っていた短剣を左手が取り出す
右も左も自分の意思で動かせないのはかなり気持ち悪いが、左に関してはそんなことを言ってられない
一瞬躊躇するような間があったが、その後、迷わずにその短剣を右腕に突き刺した
それと同時に、右に持っていた剣が手から落ちる
「いっ………!!!?」
あまりの痛みに思わず声が出たが、『これで』自由に動ける
「っ!!!何故、何故だ!?完璧だったはずだぞ?!」
突然の事態に困惑した声をお兄様はあげた
「……完……璧……??そんなの、あるわけ、ないじゃないですか……!!」
左側から、『シリウス』は居なくなった
突き刺した短剣は、エアルの流れを正す短剣…
私の中で乱れていたエアルを強制的に正しい流れへと戻したわけだ
突き刺さないと効果がないのがたまにキズだけど…
「完璧なんて………そんなもの、存在していたら……誰も、間違いを侵さないですよ……!」
そう言いながら、短剣を引き抜く
ポタポタと血が溢れ出る
若干貧血で目眩がする
でも、そんなこと気にしていられない
「くっ……!こうなればもう一度…!」
そう言って剣を掲げる
「っ!!!」
一瞬、頭が痛くなったが、それでも、自分でちゃんと体を動かせる
「なっ……!!」
「………約束、破りましたね……?覚悟……出来てますよね」
深呼吸をして、キッとお兄様を睨みつける
「……満ちよ、天光……開け、黄泉の門……この名を持ちて出でよ……!!インディグネイション!!!!」
「ちっ………!!!」
術が発動すると同時に、お兄様はザウデ不落宮の方向へと飛んで行った
それを見届けるのと同時に、私の体は後ろに倒れた
「おっ……と!」
すぐ後ろにいたユーリが、それを受け止める
……もう、体に力が入らない
むしろ今までよく頑張ったと思う
「ナイス、キャッチ~……」
ニコッと笑って言ってみるが、彼は今にも泣きそうな顔をする
「馬鹿野郎……っ!!ふざけてる場合じゃねぇだろ…!!」
「アリシア…っ!今すぐ治癒術を…!!」
「待った待った!!嬢ちゃんの力じゃ、アリシアちゃん、更にバテちゃうわよ
…俺に任せな」
そう言って、レイヴンは慌てるエステルを宥めて、私に治癒術をかけてきた
「流石シュヴァーン隊長、だね」
ケラケラと若干ふざけ気味に言う
すると、明らかに不機嫌そうに顔を歪める
「シュヴァーンじゃなくて、レイヴンよ、レ・イ・ヴ・ン!!」
「あはは……わかってるって……」
右腕の痛みが無くなると同時に、眠気が襲って来た
「……ユーリ……お小言は後でちゃんと聞くから……今は……寝かせて……?」
「…………絶対、だからな?」
ぎゅっと、抱きしめてくる腕に力が入ったのがわかる
コクリと頷いて、目を閉じる
ほんの少しだけ、少しだけでいいから………
今は何も考えずに、眠りたい
~ユーリside~
「……寝たわよ?この子……」
俺の腕の中で眠りについたシアを、呆れたようにリタが見つめる
「ったく……こっちの苦労も知らねぇで」
苦笑いして首を竦める
シアを追いかけてヘラクレスに乗りこみ、そこで因縁とも言うべきか…ザギと戦う羽目に会うわ
フレンと別れて、バウルで帝都に来て見りゃ、シアに吹き飛ばされ
カプア・ノームまで戻され、しかもヘラクレスの攻撃のせいで真っ直ぐ帝都に行けないときた
遠回りの挙句の果てには、魔物に襲われ死にかけるし
なんとか逃げ切ったら頑張ったカロル先生が熱出すときた
んで、帝都手前にゃ機械兵が彷徨いてやがるし
帝都はエアルまみれで住める状況ですらねぇ
なんとかシアの元にたどり着いたと思えば、アレクセイのせいでシアと戦闘……
「もう僕……ヘトヘトだよ……」
地べたに座り込みながら、カロルが言う
「……ユーリ、ちょっといい?」
「あん?なんだよ」
突然リタに話しかけられ、何かと思えば、俺の傍にしゃがんで、魔導器の制御パネルを開いた
「……………やっぱり、まだ繋がってる」
ピコピコとパネルを操作しながらリタは言う
「魔導器との繋がりが残っているのか?」
俺の問にゆっくりと頷く
「一時的にねじ伏せてただけみたい。……よく出来てる、これなら、アリシアへの体の負荷は少ない……けど、こんなの、ただの枷よ…!!」
そう苛立ちながら、リタはパネルをいじる
「…………これで、全部解けたわ」
そう言って、パネルを閉じる
「ようやく、彼女に自由が戻ったのね」
ニッコリとジュディが笑うと、リタは何処か嬉しそうに頷く
「さてと…そろそろ下に降りるとしますかね」
随分下も賑わってきたな、と心の中で思いながら、仲間たちと共に元来た道を戻った
目を開けると、いつもの、真っ暗な闇の中……
ゆっくり体を起こして、辺りを見回す
『『アリシアぁぁぁぁぁーーー!!!!よかったぁぁぁぁぁぁ!!!!』』
「わっ!?!!」
そう叫びながら飛びついてきたのは、カストロとポルックスだった
『よかった…本当に、無事でよかった…!』
ぎゅっと後ろから抱きつきながら、カペラが言う
『アリシア死んじゃったら、どうしようかと思った…』
もう一人、ベガもまた、後ろから抱きついてくる
『全く、無謀にも程があるだろ。……でも、無事でよかったよ、本当に』
ポンッと頭に手を乗せてきたのはカープノスだ
『お前ら、そんなにアリシアに引っ付いていたら、身動きが取れないだろう?』
『嬉しいのはわかりますが、離れましょうか』
『そーだよ!アリシア苦しくなっちゃうよ!』
『そうですね、彼女には話さなければいけないこともあるのですから』
シリウスにアリオト、アルタイルにペテルギウスがそう声をかけてきた
…それでも、離れようとしてくれないんだけどね…
『…それ以上、アリシアに引っ付いちゃ、アリシア苦しくなっちゃうから、だめ!』
『わっ!?』『ひゃっ?!』『『うわっ!!?』』『きゃっ!!』
リゲルがそう言うと同時に、私の周りにバリアーが張られ、五人とも吹っ飛ばされてしまった
「み、みんな、大丈夫?」
『お前は、自分の心配をしろ』
コツンと、頭を叩かれる
見上げると、呆れた顔をしたシリウスの顔が目に入る
「…シリウス、ごめんね…」
そう言って、シリウスの手を握った
「みんなも、心配かけてごめんね」
そう言えば、みんなは抱きつきはしなかったものの、傍に寄ってきて口々に無事でよかったと言ってくれた
『さて…目を覚まさせる前に、アリシア。ユーリさんはフェローとミョルゾで、星暦の話を聞いたみたいですよ』
真剣な顔をして、ペテルギウスは言ってくる
『…時は満ちました。もう話しても大丈夫ですよ』
反対に、ニッコリと微笑みながらアリオトは言ってくる
「……そっか……うん、わかった」
そう言って微笑み返す
『……無理して、話さなくてもいいのだからな?』
心配そうにシリウスはそう声をかけてくる
「……大丈夫、無理はしてないよ。それに、フレンだけ知らないのは可哀想だもん」
『……そうか……』
苦笑いしながら、私が握った手と反対の手でシリウスは頭を撫でてくる
『アリシア、そろそろ行かないと』
『皆も心配してるよ』
『…無理、しないでね?』
『力、使うのだめだからね!』
『少しは大人しくしろよ?』
『ユーリさんに心配かけちゃだめだよ!』
『しばらくは、ゆっくり休んでくださいね』
『私たちは、いつでもあなたの傍にいますよ』
みんなは微笑みながら、そう言ってくる
『さぁ、目を覚ませ。我らの姫よ。……また、星の瞬く夜に会おう』
「…うん、みんな、またね!」
そう答えると、シリウスにトンっと肩を押され、落下する感覚がする
…いつまでも、これにはなれないなぁ……
そんなことを考えながら、ゆっくりと目を閉じた
「……ん………」
優しく頭を撫でられる感覚に目が覚める
「あぁ、起こしてしまったかい?」
目の前には優しく微笑んだフレンの顔があった
「…………フレン………」
ニッコリと、フレンに微笑み返す
「全く、心配したんだよ?」
軽く額を弾きながら言ってくる
「ん………ごめんね、心配かけて」
苦笑いしながらそう答える
「……無事でよかったよ、本当に」
そう言って、また頭を撫でてくる
…ユーリに見られたら怒られそうだなぁ
「……あれ、ユーリは……?」
姿の見えない彼の名を出すと、ちょっと寂しそうにしながら、肩をすくめる
「ユーリなら、皆と明日のことについて、個々に話し合ってるじゃないかな?」
「……明日……?」
「…………逃げたアレクセイを、捕まえに行くんだ」
「………………そっか」
少し遠慮気味にフレンは言った
捕まえる、そう言われても、なんの感情も芽生えなかった
ゆっくりと体を起こす
「アリシア、もう起きて大丈夫なのかい?」
心配そうにフレンが聞いてくる
「…うん、大丈夫だよ……ね、ユーリのとこ、連れてって?」
コテン、と首を傾げながらフレンにねだる
一瞬、困惑したようにフレンは目を見開いた
「……話したいこと、あるんだ。フレンも一緒に……聞いて欲しい」
真面目にそう言うと、若干諦めたようにため息をつく
「……わかったよ、ユーリのところに行こう」
「ありがとう、フレン」
そう言って、立ち上がる
…が、足に上手く力が入らなく、そのまま前に倒れそうになる
「おっと……大丈夫かい?」
「あはは……やっぱりまだ自力じゃ立てないみたい……」
そう苦笑いすると、フレンが肩を貸してくれた
「…本当は抱いてしまいたいけど、それをしたらユーリに怒られそうだからね」
苦笑いしながら彼はそう言う
「間違いなくキレるね『俺のシアに何してんだ!』って」
私がそう言うと、二人して笑い出した
……こうして笑うのも、なんだか懐かしいなぁ……
最後に笑ったのはいつだったろうか
最後に三人で会ったのも、随分昔に感じた
最後に皆で話したのも、遠い昔の気がした
最後に、ユーリと二人で肩を並べたのも……
ずーっと前のような気がした
「ようやく見つけたよ、ユーリ」
お城中探し回って、ようやく庭に居るのを見つけた
途中、カロルやレイヴン、パティにジュディスに会った
……皆、怒りながらも、無事でよかったと言ってくれた
…とっても、嬉しかった
「あ?なん……!!!シア!!もう動いて平気なのか?!」
私を見るなり、私の元にすっ飛んで来た
「ん、大丈夫だよ」
ニコッと笑って言うと、フレンに軽くこずかれた
「一人で立てないのに、大丈夫なわけがないだろう?」
若干怒りの混じった声に苦笑いするしかなかった
「ったく……それなら部屋で待っててくれりゃよかったのに」
そう言いながら、フレンから私を受け取って頭を撫でてくる
「…話したいこと、あったから」
ちょっと真剣に言いながら肩をすくめる
すると、ユーリも真剣そうな表情を見せる
「…エステル、リタ、話はまた後でいいか?」
ユーリは後ろにいた二人に声をかける
「はい、わかりました!」
「えぇ、いいわよ。…アリシア、後で話あるから、終わったらちゃんと来るのよ?」
「ん、わかったよ、リタ」
エステルとリタと一旦別れて、私とユーリ、フレンは御剣の桟橋へと向かった
…そこにしたのは、そこが一番、星に近いから
「んで、話って?」
頂上に着いて早々、ユーリが聞いてくる
一人でもなんとか動けるようになった体で少しユーリとフレンから離れる
「…私と、私の一族のこと、ユーリはもうフェローか、ミョルゾで聞いたでしょ?」
「あん?なんでシアがそれを知ってんだ?」
「…寝てる間に、ちょっとシリウスたちから聞いたの……だから、ちゃんと話そうと思って」
「…いいのかい?」
遠慮気味にフレンが聞いてくる
「…『ダメ』…なんて、もう言わないでしょ?シリウス」
『……あぁ、そうだな……』
風に乗って、シリウスの声が聞こえてくる
ユーリが私の剣を持っているから、この声は二人にも聞こえているはずだ
「いいっつーなら、聞かせてくれよ。お前がずっと隠してたことを」
ユーリは遠慮無しにそう言ってくる
「…そう、だね…じゃあ、まずは一族のことから全部、話すね
私の一族、『星暦』は星との対話と、個々の星たちが持っている力を借りて、魔導器なしに術技を扱うことが可能な一族。本来の存在意義は、始祖の隷長と共にエアルの流れを乱す『もの』を排除すること。…物でも、人でも、魔物でも…」
空を見上げながら淡々と話す
…いつか話したいと思っていた一族のこと…
いざ話すとなると、何故か緊張する
「…星暦に満月の子の力は毒だった。そして……千年前、災厄の襲来時に自分達の身の保身を第一に図った、満月の子の当主らによって、星暦の元いた人数の半分が犠牲になった
以来、満月の子と星暦は対立する仲になってしまった」
ユーリもフレンも何も言わない
あまりにも私が淡々と話すからだろうか?
「帝国が出来てからの歴史では、数百年に一度、必ずどちらかの大量殺戮があった。…そのせいで、満月の子も星暦も激減した。それがよくないと言って、和平を結んだのは百年前。……遅すぎるよね?……今となっては、星暦は私一人。満月の子も、力があるのはエステル一人。……こんな事になるまで、星暦と満月の子は互いを殺しあっていたんだ」
軽く目を瞑る
…星たちが見せてくれたことが、少し前の出来事のように鮮明に目に浮かぶ
「……ちょっと話逸れちゃったね。次は星についてかな。…一重に『星』って言っても、人と同じで色々な星がいてね。星ごとに出来ることも違ってくるんだ。さっき話しかけたシリウスは火を操るのが得意だし、シリウスの次によく話しかけてくるアリオトは治癒術が得意だし。……それぞれに個性があるんだ。性格も声色も、性別も年齢もみんな違うんだ」
そう言ってくるっと二人の方を向く
出来るだけ、笑顔を壊さないように、二人を見る
…何処か寂しそうな表情で二人は私を見つめていた
「………満月の子のこと、シアは恨んでねぇのか?」
遠慮気味にユーリは聞いてくる
「おい、ユーリ…!」
止めるように、フレンはユーリの名を呼んだ
「……そう、だね……星暦が、私のご先祖さま達が死んでも、災厄は引かなかった……結局は満月の子じゃなきゃいけなかった。そう考えたら、恨むのが普通なのかもしれない」
ゆっくり目をつぶって、そう答える
「…でもね、いつまでもいがみ合ってちゃいけないんだよ。…そうしたところで、何も変わらない。過去にあったことは、過去でしかないんだ。それは、変えられない。なら、今をどうしていくかを考えた方がずっといいじゃない?」
そっと胸に手を当てて答える
これは、私が見つけた答え
満月の子と、どう接していくかを、私なりに見つけた答え
星暦と満月の子の共存……
それは、初代当主様が叶えられなかった願いだ
……千年越しになってしまうが、私はそれを叶えたい
「シア……」
「……恨んでばかりってつまらないよ?…それに、私は満月の子に何かされたわけじゃない。エステルは私の友達だよ?恨むも何もないよ」
ニコッと笑って言う
エステルは大切な友達だ
フェローに散々文句を言われたが、それが変わることはない
「………じゃあ、最後に、私の話」
笑顔を崩して、真っ直ぐに人を見る
……多分、一番知りたいのは私の事だろうから
「……私は産まれた時から星と対話出来るだけの力があった。『姫』って呼ばれる理由の一つ、産まれた時から対話できる人って初代当主様くらいだったから。もう一つの理由は、星たちの力を使いこなすのが上手かったから。四歳の時には、一人で自由に星たちの力を扱えてた。……でもね、一つだけ大きな欠点がある。私はエアルに異常な程敏感で、長時間この力を使う事も、魔導器を使う事も出来ないの」
肩をすくめながら苦笑いする
…二人はまだ、何も言わない
「原因は分からない。お医者さんには、両親の体があまり強くないのが原因かもしれないけど、それ以前の問題かもしれないとも言われた。……原因がなんであれ、星たちの力を借りるのも武醒魔導器を使うのも最小限にしなさいって、お父様にもお母様にも言われた。外からのエアルの干渉が最小限に抑えられるようにって、お父様は私に剣とネックレスを渡してくれた。絶対に外しちゃいけないと言われて………でも、私は二人の約束を破った。もう知ってると思うけど、私はお父様達が亡くなった後、お兄様の手伝いと称して、今まで色んな事をしてきた。ただの伝達役をしたり、街の護衛をしたり……時には人にてをかけることだってあった。」
「アリシア……それ以上は……!」
「フレン、やめろって」
私を静止しようとしたフレンを、ユーリが止めた
…全部言うと言った
今更無しにしてください、なんて言うつもりはなかった
「……全部、脅されてって、いうもの確かにある。でも、脅されても最終的にやるって言ったのは私の判断だ。
…皆の為って、自己満足でやってきた。ネックレスのこともそう、少しでもエステルの力が、エアルに干渉しないように、元々かかっていた術の逆の術を仕込んだ。剣だってそう。私が持っていれば、お兄様が無理矢理星たちと会話しようとすると思ったから、あの場所に隠した。
……その結果が今のこの状態。正直に言って、一人で立ってるのがやっとだよ。これ以上、星たちの力を借りることは出来ない。本来ならエステルの傍にいることさえしちゃいけない。もっと言えば、お守りをエステルに渡したままの状態自体が自殺行為なんだ」
自嘲気味に笑いながら、二人を見つめる
フレンはなんと言っていいか分からないと言うような顔をしている
ユーリは、ただただ、無表情のまま、私を見つめている
「…………お前が話したかったのは、それだけか?」
ゆっくりとユーリが口を開いた
「…私と私の一族についてはこれが全て、だよ」
「……まだ、何か隠してるって顔してるぜ」
「………フェローに、何か聞いた?」
私がそう聞き返すと、ユーリは気まづそうに俯いた
「…そっか、フェロー、話したんだ」
そう言って、上着を脱ぐ
下はチューブトップだから、両肩と両腕がハッキリ見える
「………アリオト、もういいよ」
空に向かってそう声をかけた
アリオトは何も言わないで、今まで私にかけていた術を解いた
すると、左の肩から手首にかけて、大きな傷跡が浮かび上がる
「…………っ!!!」
「なっ………!!!」
二人とも、大きく目を見開く
まさかこんなになってるなんて思わなかったのだろう
「………五年前、だったかな。評議会の集まりに参加して、ハルルから帝都への帰路についた時だった。…時期でもないのに草原の主がやって来て、乗ってた馬車ごと吹っ飛ばされた。もちろん、周りに騎士は居たよ。指揮してたのはお兄様だった……私だけ助けると、お父様達には目もくれずに逃げ去り出した。私の、お父様達を助けてって声は無視されて……」
ぎゅっと左腕を握り締めて俯く
未だに残っているあの時の轟音と、お父様達の声……
それが、耳から離れない
「…これはその時に出来た傷。傷が出来た時に、神経まで傷ついたみたいで、動かせはするけど、こっちはあまり感覚がないんだ。…まぁ、そのおかげ、って言ったらあれだけど、シリウスやアリオトたちが私の体を通して、少しだけこっちに干渉出来るようになったわけだけどね。
………これが、私が評議会を嫌う理由。……私はずっと、許すことは出来ない。こればかりは、許せない。私から、大切な人を奪った彼らを、許すことは出来ない」
顔を上げて、真っ直ぐ二人を見つめる
…ねぇ、二人は今、これを見て、私の話を聞いて、何を思う?
何を、思ってる?
私は悲劇のヒロインを演じるつもりはない
……けど、知って欲しかった
私が今まで、どんな目にあって、どうゆう人達と関わって
そして………
何を失ったか
…これは全て、お兄様のせいかもしれない
けど、そのお兄様に賛同して、協力した者もいることは事実だ
だから、だからこそ、今のそんな帝国の在り方そのものを変えて欲しい
………それは、私には出来ないことだから
「………私のことは、本当に、これで全部だよ」
そう言って、脱ぎ捨てた上着を取ろうとしゃがむ
若干、目眩がして体がよろめく
倒れる、と思ったが、すぐに誰かに受け止められた
『誰か』なんてわかっている
「……大丈夫か?」
「大丈夫、ちょっと目眩がしただけだから……ありがとう、ユーリ」
ニコッと笑って、私を支えてくれたユーリにお礼を言う
が、当の本人はそれよりも、と言いたげな表情で見つめてきていた
すっと、おもむろに左の腕の傷跡に触れてくる
「…これ、痛くねぇのか?」
「大丈夫、痛くはないよ」
「……出来た時は、痛かったんだよな…」
「…まぁ、そうだね」
苦笑いしてそう答えると、ぎゅっと抱きしめてきた
「ユーリ?」
「………ずっと、一人で抱え込んできたんだよな…」
私の首元に顔を埋めて、ユーリはそうつぶやく
「………そう、だね」
「……もう、いいだろ?」
「……………え?」
「もう、充分だろ?」
そう言いながら、顔を上げた
「もう、一人で抱え込まなくったっていいだろ?……いい加減、俺にその肩の荷、半分でもいいから寄こせよ」
真剣な目でユーリは私を見つめてくる
「……それじゃあ、もう半分は僕がもらって行こうかな?ユーリ一人にまかせてなんておけないからね」
そう言いながら、フレンが近づいてくる
「あん?お前にゃ帝国引っ張ってくっつー仕事があんだろ?シアの荷は俺が丸ごと全部もってくっつーの」
「その荷の中に、評議会のことも混じっているだろう?帝国のことは、僕の担当だ。ユーリに全部渡したら、それこそ血祭りしにかねないだろ?」
「んなっ!?俺だってんなことしねぇよ!!」
私の意見なんて聞かずに、二人だけで、どちらが私の荷を持っていくかの喧嘩を始めた
……私はもとより、どちらにもこの荷を渡すつもりなんてないのだが……
まともに動くことの出来ない今の私には、これをどうすることも出来ない
「………全くもう…………前に渡す気はないって言ったの、忘れてるでしょ」
ギャーギャーと言い合いをしている二人にそう言うと、ピタリと言い合いをやめた
「…………それ、まだ言うのかよ」
若干寂しそうにユーリは見つめてくる
「もちろん……って本当は言いたいとこだけど……私ももう疲れちゃったし、これ以上一人でなにかする事も出来ないし、三分の一ずつだけ持ってってよ。流石に全部は渡しませんー!」
笑いながら、二人にそう言う
二人は顔を見合わせて、困ったように苦笑いする
が、すぐにお互い頷き合う
「…しゃーねぇな、全部は諦めるさ」
「アリシアが、三分の一だけでも持って行ってって言ったんだ。まだ進歩した方だよ」
「ちょっ、フレン!進歩した方って何よ!!」
ユーリの腕の中でパタパタと腕を振る
が、当然ながらフレンに届くわけもなく、そんな私を見てくすくす笑い出す始末だ
「もー!!!ユーリもなんとか言ってよーー!」
ムッとしてそう言ってみるが、ユーリもフレンと同じ意見らしく
フレン同様くすくすと笑うだけだった
「むぅ………二人してひどーい!」
パタパタ振っていた腕を下ろして、明後日の方向を向く
「ははっ、ごめんごめん、アリシアがあんまりにも可愛いことをするものだからつい、ね」
「おいこらフレン、人の彼女に手ぇ出すなよな?」
先程までフレンと一緒になって笑っていたユーリが、急に真面目な声でフレンに言う
「流石に僕はそんなことはしないさ」
フレンは至って冷静にそう答えた
「…その俺ならやりかねねぇみたいな目で見てくんのやめろ、俺だってやんねぇよ!」
再び口喧嘩を始めた二人を、笑いながら見る
ユーリとフレンがこうして他愛もないことで喧嘩しているのを見るのが好き
ユーリとフレンと、三人で一緒に居られる時間が好き
二人と過ごす時間が、私にはとても大切で、一番好きな時間だ
「………ユーリ、フレン」
二人の名前を呼ぶと、すぐに言い合いをやめて、私の方を見る
こうゆうところも、昔から変わらないんだなぁ
「…ありがとう」
ニコッと笑ってみせる
ユーリとフレン、二人のおかげで私は今、こうしてここにいることが出来る
二人が居たから、頑張ってこれた
…今までも、そして、これからも
二人は私の心の支えだ
「唐突だな…別にお礼言われるような事なんてしてねぇぜ?」
少し驚いた顔をしてユーリは言う
「だね、僕らはたいした事は何もしていないよ」
ユーリと同じように、フレンも答えた
「私が言いたかっただけだから」
ユーリとフレンは顔を見合わせて肩をすくめる
そして、二人も笑顔で私の方を見た
「「どういたしまして」」
二人同時にそう言った
目を細めて笑いかける
この時間が、いつまでも続けばいいのになぁ……