第2部〜満月の子と星暦の真実〜
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「アリシア、そろそろ時間だ」
大嫌いな声に目を薄らと開けると、すぐ近くに見慣れた赤が見えた
「………そう」
「…意外、だな。案外大人しいな」
「………逆らう程の力も体力も、持ち合わせてないもので」
皮肉を込めて目を閉じながらぶっきらぼうに答えた
抵抗する力なんて、とうになかった
カチャリ、カチャリ、と音を立てながら鎖が外されていくのが、目を開けなくてもわかる
全てのの鎖が外されると、支えを無くした私はお兄様に向かって倒れ込む
……自分の体を支えることすら出来ないなんて……
ギリッと歯をくいしばる
自力で何もすることの出来ない自分に腹が立つ
「まぁ、いいだろう。……では、始めるか」
そう言うと、ガサガサと何かを取り出す音が聞こえた
そして、良く分からない呪文を唱え始める
薄らと目を開けると、聖核が私の周りに浮いているのが目に入った
呪文が唱え終わった時には、私の体は聖核で形成された球体の中に浮かんでいた
「上手くいったな。…後は最終調整だな」
そう言って手をかざすと、魔導器を制御する時と同じパネルが出てきた
「………本当にエステルを人として扱うつもりはなかったんですね………」
ジト目で見つめながら言う
……私で良かった
本当に、心からそう思う
もしエステルがこんな状態になっているのを見たら、耐えられる気がしない
「私にとっては、誰も彼も全てが道化だ」
お兄様は無表情で言葉を繋げる
「これで我が偽剣デインノモスが完成したのだ」
開いていた画面を閉じ、ニヤリと笑う
「『宙の宝剣 』……宝剣を、新しく作ったって言いたいのですか?」
「そうだ。お前の力をこの剣と同調させることで、宙の宝剣と同じ力を得たのだ!…これで、御剣の桟橋も開く」
……そんなことの為に、エステルを……
いくら考えても腹が立って仕方ない
「閣下!バクティオン神殿に到着しました!」
「うむ、わかった
……ではアリシア、行くとするか」
「…………どうぞ、ご勝手に」
そう言って目を閉じる
正直言って、目を開けていることすら辛い
……バクティオン……ということは、狙いはアスタルなんだろう
………始祖の隷長を、殺す事にすら、この力が使われるなんて………
「……疲れているのだろう?少し眠っているといい」
そっと頬に触れられ目を開いてみる
慈しむような目で、私を見つめて、頬を撫でてくる
……そんな目をするくらいなら、少しは私の話を聞いて欲しかった……
そう思いながら、ゆっくりと目を閉じた
せめて、抵抗する力が、少しでも戻れば……
そんな淡い期待をもって、再び眠りについた
「ーーーーー!!!!」
「ーー!!ーーーーーー!!」
ドォーーーンッ
………何の、音………?
大きな声と、爆音、そして若干の体の痛みに、薄らと目を開ける
視界に、ユーリ達と思わしき姿が映る
皆、地面に倒れ込んでいる
……まさか、勝手に私の力を使ったの……?
「っ………!!……シア………っ!!!」
私の名前を呼びながら、グッと私に向かってユーリが手を伸ばしているのが目に入る
「…………ユー…………リ…………」
無意識
本当に無意識に、ユーリに向かって手を伸ばしていた
「ん?目が覚めてしまったか……まぁ、いいだろう。奴らのことは任せる。我々は中へと進む」
「はっ!!」
近くに居た騎士の何人かが敬礼をして、ユーリ達の方へ近づいて行く
「…………ユーリ、達に……酷いことしたら……」
ギッとお兄様を睨みつけながら言葉を繋げようとする
「酷い目には合わせんよ。…奴らを守るためのお前の努力は買うと言ったろう?少しの間、大人しくしてもらうらうだけだ」
私の言いたいことがわかったのか、言い切る前にお兄様が言葉を繋げた
「…………嘘は無し……だからね……?」
「あぁ、約束だ」
その言葉を聞いて、軽く目を閉じる
流石にもう寝るつもりは無いが、閉じていた方が落ち着く
……ユーリ達は、大丈夫だろうか……
さっきので大怪我をしていなければいいんだが……
エステルもいるから、流石にそこまでの心配はいらないかもしれない
そんなことを考えていると、不意に進行が止まる
「問題はここ、だな」
お兄様の声に目を開ける
すると、古い結界が目に入る
……アスタルを守るためのものか、あるいは、閉じ込めて置くためのものか……
「まぁ、なんら問題はないに等しいのだが」
お兄様はそう言うと、剣を振り上げる
その瞬間、体から無理矢理力が引き出されるような感覚に襲われる
「……ぅっ………はっ…………」
ぎゅっと胸が苦しくなって、下を向く
限界の体で、無理矢理力を使わされているのだから当たり前だろう
「おぉーー!!!」
騎士の歓喜の声に顔をあげると、結界が無くなっていた
「では、進もうか?」
勝ち誇ったように、お兄様が笑みを浮かべた
~ユーリside~
「くっそ!!あの大馬鹿野郎!!ぜってぇぶっ飛ばす!!」
ガンッと思い切り地面を殴りつける
シアの力を無理矢理使いやがって……!!
眠っていたのだろうが、力を使われた時のあと苦しそうな表情が、目にこびり付いて離れない
「あんなんでよく兄貴を名乗れるわね……!!何がなんでもぶっ飛ばすわよ!!」
俺の隣でリタも怒りを露わにしていた
リタだけじゃない、メンバー全員が怒りを露わにしていた
アレクセイが俺らに仕向けた騎士は、何故か回復だけして、どこかへと行ってしまった
……アレクセイの指示、だったのか?
「…とにかく、後を追いかけよう」
フレンの言葉に、全員が頷き立ち上がる
「急いで彼女を助け出しましょ」
「うん、アリシア、苦しそうだったもん。早く助けないと!」
「こんなの、許せません!」
口々にそう言ってバクティオン神殿の入口を見つめる
「よし、行くぜ」
俺の合図と共にバクティオン神殿の中へと進み始めた
「これ……古い結界みたいね……」
神殿の中心付近まで来ると、結界によって先に進めなくなった
「解けないのか?」
俺が聞くとリタは首を横に振る
「まともに研究すらされてない古代文明のものよ。まともに調べようとしたら、どんだけ時間がかかることか……!!!……アイツら、アリシアの力使って無理矢理こじ開けたのよ…!」
ギリッと悔しそうに歯を食いしばりながらリタは言う
「……こんなしょうもねぇことに、シアの力使いやがって…!」
ぎゅっと手を握り締める
こんなことで、シアの体が弱っていくなんて、耐えられねぇ
「……お前達、ここで何をしている?」
突然聞こえたその声に振り返ると、そこにはデュークがいた
「デューク!!お前こそなんでここに…」
「…………ライラックの娘は、奴に連れて行かれたのだな」
俺の質問には答えず、俺らを見ながらそれだけ言う
「……だったらなんだよ、取り返しに行くとこだっつーの」
「…彼女一人守れなかった癖にか?」
「あんたに、とやかく言われる筋合いはねぇ」
「彼女がどういう存在か、本当に理解しているのか?」
「星暦って一族についてだったら大方の理解は出来たさ。…それでも、シアはシアだ。一族がどうなんて関係ねぇ」
「………彼女は、世界に必要な存在だ。失うわけにはいかない。……私が彼女を救う」
「はぁ?冗談きついっての。シアを助けんのは俺たちだ。あいつは、アレクセイにもお前にも、誰にもくれてやんねぇよ」
バチバチと睨み合いながら話続ける
確かに、俺はシアを守りきれなかった
が、だからと言って、俺以外の誰かにあいつをくれてやるつもりはさらさらねぇ
そもそも、得体の知れねぇ奴にとやかく言われる筋合いもねぇだろ
「…………そこまで言うのであれば、救ってみるのだな」
そう言って、俺の方に向かって剣を投げてきた
「おっと……これは?」
「……『宙の宝剣』だ。それはエアルの流れを正すことが出来る」
『宙の宝剣』、その言葉を聞いた途端に、エステルとフレンは驚きの声をあげた
「それは……!無くなった帝国の宝剣です!!」
「なんだと?」
デュークを見つめた後、もう一度、手の中にある剣を見つめる
ほんのりと、どこか温かさがある
「……剣を振り上げ願え。さすれば、剣はそれに答えよう」
デュークはそれだけ言うと、その場を去って行った
「……結局、なんだったのじゃ?」
ポツリとパティが呟く
「さぁ……な?……まっ、言われた通りにしてみますかね」
そう言って、結界の前で言われた通りに剣を振り上げてみる
すると、デュークがやった時と同じような円が足元に浮かび上がる
それと同時に、目の前にあった結界が綺麗に消え去っていた
「……これが鍵だったってわけね」
何処か納得したようにリタが言う
「進みましょ?あれだけ煽られたんですもの。アリシアを救わないと、ね?」
「だな。さっと行ってさっと奪い返して来ようぜ!」
仲間にそう声をかけて、先へと足を向けた
「……まさか、あっさり渡すなんて、どうゆう風の吹き回しよ?」
ユーリ達の元を去ったデュークの元に、一人の男が話しかける
「……お前こそ、何故ここに?」
不機嫌そうにデュークは男に聞き返す
「半分は仕事……だけど、もう半分はお手伝い、かねぇ……」
ケラケラと笑いながら男はそう言う
……その顔に、以前のような何処か諦めたような雰囲気はなかった
「………迷いは切れたのか?」
「きれいさっぱり、ね。あの子にゃ感謝しかないわ。…お礼ってわけじゃないけど…助けてやらんとね」
そう言って、男はカシャリと音を立てながら歩き始める
「………そうか。」
デュークはそう言うと、彼とは反対方向に向かって進んで行った
~アリシアside~
《……なんと………姫を……つかう……とは………愚かな人間め……》
苦しそうにしながら、アスタルはそう言う
「アスタル……!!…………ごめん………ごめんなさい………!!」
球体の中から出ることの出来ない私は、ただただそう謝ることしか出来なかった
《………姫…………気にしては………ならぬ………気を………強く………もつのだ………》
私を宥めるように、アスタルは言ってくる
「………っ!!……お兄様!!もうやめて!!お願いだから、始祖の隷長に手を出さないで!!」
ガンッと内側から球体を殴りながら、訴える
「これも必要な犠牲なのだよ
……こうして見ると、無様なものだな?自身を祀った神殿で死ねるのであれば、まだ本能であろう?」
ニヤリと笑いながら、お兄様は言う
「………っ!!!貴方って人は………!!」
《ぐぁぁあぁぁぁぁあ………っ!!》
「アスタルっ!!」
お兄様に反論しようとした間際、アスタルは苦しそうにしながら、息絶えた
そして、その場には聖核が一つ、残された
「ふん、この程度……か。まぁ、使い道はいくらでもある」
お兄様はそう言いながら、聖核を懐にしまった
「アスタル…………」
球体に触れながら、ぎゅっと手を握り締める
……始祖の隷長は、殺したくなかった……
幾ら大勢の人間を、私が悪と思った人を殺しても、始祖の隷長だけは、殺したくなかった……
「アレクセイ!!!!」
大好きな声に顔をあげて振り返ると、ユーリ達の姿が見えた
「ユーリ……みんな…」
「ふん、ここまで追いかけて来るとはな」
お兄様はそう言うと、また剣を振り上げる
今度はユーリ達の周りだけ、エアルが濃くなった
「……っ!!!!!だ……め……っ!!そんな……こと、したら……っ!!!」
思い切り胸が締め付けられる
その痛みに耐えながら、お兄様を静止する
それと同時に、必死で抵抗を試みる
が、どれだけ抵抗しても、勝手に力が使われてしまう
「安心しろ。死ぬまでやったりはせんよ。少し気絶してもらうらうだけだ」
そう言うと、更に胸が苦しくなる
「かっ…………は……っ!!」
息が、できない…
「っ!!こんの………ふざけんなぁぁぁ!!!!」
ユーリが叫ぶと同時に、辺りを光が覆う
眩しさに目を瞑る
すると、無理矢理引き出されていた力が収まる感覚があった
「はっ………はぁ………はぁ………」
肩でゆっくりと息をする
息が整ってきたところで目を開くと、ユーリの手には、長年探され続けていた『宙の宝剣』が握られていた
「……ユー、リ……その剣………何処で………?」
体の痛みに耐えながら、ユーリに問いかける
が、私の声は届いていないようで、怒りのこもった目で、お兄様を睨みつけていた
「アレクセイ…てめぇ、ふざけんなよ…!!シアをなんだと思ってやがんだ!!」
そう言って剣を向ける
「……長年探し続けていたが……ここで邪魔になるとは……」
当の本人はユーリの言葉よりも、宙の宝剣の方が気になるようだが…
「…もちろん、人だと認識しておるよ。だが…エステリーゼ様とお前達を守るために、アリシア自身が選んだ選択だ。その結果がこれだ。それの何が悪いと言うのだ?」
悪ぶれもせず、ニヤニヤと笑いながらお兄様は言う
そんなお兄様に、ユーリはただ睨みつけながら歯をくいしばるしかできないようだ
…確かに、こうなることを選択したのは私かもしれない
……それでも、お兄様に人の心があれば、ここまでしなかったかもしれないというのも事実だ
「さて、用事は済んだ。我々は戻るとしようか。……シュヴァーン、後は任せたぞ」
お兄様の呼び声と共に、シュヴァーンは一人で入ってくる
……彼が一人なんて……珍しい
そんなことを考えていると、シュヴァーンはユーリ達ではなく、真っ直ぐにお兄様に向かって来た
それを、予想していたかのようにお兄様は剣を構えた
「……やはり、か」
「……知っていたような口調ですね」
シュヴァーンはそう言うと、ユーリ達の方向へと飛んだ
「……シュヴァーン………なんで………」
じっと彼を見つめると、凍った表情ではなく、よく見ていた表情で話し出した
「……アリシアちゃんにあんな顔されちゃぁ、俺様敵わんのよねぇ。…思い出しちゃったわけよ、楽しかったことを、ね?」
おどけたような、彼の声に、もう迷いはみえなかった
「その声………まさか、レイヴン……?!」
皆が頭にハテナを浮かべている中、カロルは驚いた顔で彼の名を呼びながら、まじまじと顔を見つめていた
そんなカロルに、シュヴァーン………
いや、『レイヴン』は悪戯っ子のように微笑んだ
「おっさんにも言いたいことは山ほどあんだが……今はそれよりも、だな」
ユーリは少し嬉しそうにニヤリと笑うと、再びお兄様の方を向いた
「お小言なら後でたーくさん聞くわよ。……今はアリシアちゃんの方が先でしょ?」
レイヴンはそう言うと、持っていた剣を投げ捨て、いつもの弓を取り出した
「…ふむ、なるほどな……こちらに戻る気は無いということか」
お兄様は至って冷静にそう呟くと、剣を地面に向ける
「っ!!!」
突然の痛みに胸元をぎゅっと握る
それと同時に大きな地鳴りが聞こえてきた
「なっなんだ?!」
フレンが慌てた声をあげる
皆が驚いた隙に、お兄様は一度球体の術を解いて、私を抱えて走り出した
「あっ!!!おい!!待て!!」
ユーリがそう言ったのと同時に、後ろから大きな音がなった
……恐らく、岩が落ちたのだろう
「お兄様……っ!!なんてことを……!!」
抱き抱えられたまま、お兄様を睨む
「彼らのことだ、こんなことで死んだりなどせんだろう」
何処かそれが当たり前かのように、お兄様は言う
……それが癪に触った
いくらなんでも、そんな言い方はない
それでもし、死んだらどうしてくれるんだ
せめてもの抵抗のつもりで、できる限り腕の中で暴れる
が、しっかり掴まれてしまっているため、あまり効果がない
「あまり動くと体に響くぞ?」
そう言って、掴む手の力を強める
流石に体力的に限界だったので、大人しくする事にした
………悔しい………
抵抗すら出来ないことが、悔しい
悔しさと、自分の情けなさに苛立ち、思い切り歯を食いしばった
……これ以上は、本気でユーリ達を傷つけかねない
そんなの……絶対に……嫌だ……
バクティオン神殿から帰還して、私はすぐに眠ってしまった
……いや、眠らされたと言った方が正しいかもしれない
気がついたら帝都のお城にいた
…お城の中に、ヨーデル様達の姿はなかった
大方、私の力を使って、お兄様が追い出したんだろう
「……さて、これで最高出力が出せるな」
嬉しそうなお兄様はの声が耳に入る
結界魔導器とも繋げられ、これから何をするつもりなのか、大方検討はついていた
……帝都を、エアルで充満させる気なんだろう
既に、徐々に帝都がエアルに満ちていっているのが目に入る
………私が、これをやっているんだ
守りたかったはずなのに
守るどころじゃない
むしろ、侵している
「…………守りたかった…………だけだったのに…………」
ポツリと呟くと同時に涙が伝う
ただ、ただ、皆と過ごしたこの街を、皆を守りたかった
……そんな思いで動いたのに………
全く真逆な方向へと進んでしまった
自分で止めることも、制御する事も出来ない
………嫌だ
これ以上、侵したくない
「…………全く、往生際の悪いやつらめ」
呆れたように、遠くを見つめるお兄様
その方向を向くと、バウルの姿が目に入った
「……ユー…………リ………みんな………なんで………」
ポタリと、また、涙が落ちる
何故、自業自得でこうなった私を助けに来るの……
「シアーーーー!!!」
私の名前を叫びながら、船首に身を乗り出しているユーリが目に入る
「ユーリ………!!……怖い、恐いよ……!自分じゃ、もう力を制御出来ない!!」
頭を抱えながらそう訴える
……お兄様は、黙ってそれを、聞いている
「シア!!手伸ばせ!!」
そう言いながら、私の方を目掛けてユーリは飛んだ
伸ばされた手を取ろうと、私も手を伸ばす
後、もう少し
後もう少しで、手が触れそうなタイミングで、お兄様は剣を振った
更に溢れ出した力に、ユーリは押し返された
「……っ!!!…………ねぇ………ユーリ…………お願い…………私を……………殺して……………」
星が、ペンダント伝いにユーリに話しかけるように
私の力が辺りを覆っている今、彼らと同じことが出来る私は、ペンダント伝いにユーリに告げた
………それが、どれだけユーリを苦しめることか
わかった上で言った
私を死なせない為に、ユーリは助けようとしていることも
私が死んだら、一番ユーリが悲しむことも
全部わかった上で言った
………どうせ、力の使いすぎて死ぬのなら
これ以上、誰かを傷つけるなら
その前に…………
風圧で皆はバウルごと、遠くへ飛ばされていった
「全く、大人しくしていればよかったものを……さて、そろそろ潮時だろう。これ以上、彼らに邪魔されては敵わんからな。………恨んでくれても構わん」
お兄様はそう言いながら近づいてくる
……何をしようか、予想はついている
どうにも、出来ない
…せめて、せめて、ユーリ達を傷つける前に、目が覚めることを願って
ゆっくりと、目を閉じた
大嫌いな声に目を薄らと開けると、すぐ近くに見慣れた赤が見えた
「………そう」
「…意外、だな。案外大人しいな」
「………逆らう程の力も体力も、持ち合わせてないもので」
皮肉を込めて目を閉じながらぶっきらぼうに答えた
抵抗する力なんて、とうになかった
カチャリ、カチャリ、と音を立てながら鎖が外されていくのが、目を開けなくてもわかる
全てのの鎖が外されると、支えを無くした私はお兄様に向かって倒れ込む
……自分の体を支えることすら出来ないなんて……
ギリッと歯をくいしばる
自力で何もすることの出来ない自分に腹が立つ
「まぁ、いいだろう。……では、始めるか」
そう言うと、ガサガサと何かを取り出す音が聞こえた
そして、良く分からない呪文を唱え始める
薄らと目を開けると、聖核が私の周りに浮いているのが目に入った
呪文が唱え終わった時には、私の体は聖核で形成された球体の中に浮かんでいた
「上手くいったな。…後は最終調整だな」
そう言って手をかざすと、魔導器を制御する時と同じパネルが出てきた
「………本当にエステルを人として扱うつもりはなかったんですね………」
ジト目で見つめながら言う
……私で良かった
本当に、心からそう思う
もしエステルがこんな状態になっているのを見たら、耐えられる気がしない
「私にとっては、誰も彼も全てが道化だ」
お兄様は無表情で言葉を繋げる
「これで我が偽剣デインノモスが完成したのだ」
開いていた画面を閉じ、ニヤリと笑う
「『
「そうだ。お前の力をこの剣と同調させることで、宙の宝剣と同じ力を得たのだ!…これで、御剣の桟橋も開く」
……そんなことの為に、エステルを……
いくら考えても腹が立って仕方ない
「閣下!バクティオン神殿に到着しました!」
「うむ、わかった
……ではアリシア、行くとするか」
「…………どうぞ、ご勝手に」
そう言って目を閉じる
正直言って、目を開けていることすら辛い
……バクティオン……ということは、狙いはアスタルなんだろう
………始祖の隷長を、殺す事にすら、この力が使われるなんて………
「……疲れているのだろう?少し眠っているといい」
そっと頬に触れられ目を開いてみる
慈しむような目で、私を見つめて、頬を撫でてくる
……そんな目をするくらいなら、少しは私の話を聞いて欲しかった……
そう思いながら、ゆっくりと目を閉じた
せめて、抵抗する力が、少しでも戻れば……
そんな淡い期待をもって、再び眠りについた
「ーーーーー!!!!」
「ーー!!ーーーーーー!!」
ドォーーーンッ
………何の、音………?
大きな声と、爆音、そして若干の体の痛みに、薄らと目を開ける
視界に、ユーリ達と思わしき姿が映る
皆、地面に倒れ込んでいる
……まさか、勝手に私の力を使ったの……?
「っ………!!……シア………っ!!!」
私の名前を呼びながら、グッと私に向かってユーリが手を伸ばしているのが目に入る
「…………ユー…………リ…………」
無意識
本当に無意識に、ユーリに向かって手を伸ばしていた
「ん?目が覚めてしまったか……まぁ、いいだろう。奴らのことは任せる。我々は中へと進む」
「はっ!!」
近くに居た騎士の何人かが敬礼をして、ユーリ達の方へ近づいて行く
「…………ユーリ、達に……酷いことしたら……」
ギッとお兄様を睨みつけながら言葉を繋げようとする
「酷い目には合わせんよ。…奴らを守るためのお前の努力は買うと言ったろう?少しの間、大人しくしてもらうらうだけだ」
私の言いたいことがわかったのか、言い切る前にお兄様が言葉を繋げた
「…………嘘は無し……だからね……?」
「あぁ、約束だ」
その言葉を聞いて、軽く目を閉じる
流石にもう寝るつもりは無いが、閉じていた方が落ち着く
……ユーリ達は、大丈夫だろうか……
さっきので大怪我をしていなければいいんだが……
エステルもいるから、流石にそこまでの心配はいらないかもしれない
そんなことを考えていると、不意に進行が止まる
「問題はここ、だな」
お兄様の声に目を開ける
すると、古い結界が目に入る
……アスタルを守るためのものか、あるいは、閉じ込めて置くためのものか……
「まぁ、なんら問題はないに等しいのだが」
お兄様はそう言うと、剣を振り上げる
その瞬間、体から無理矢理力が引き出されるような感覚に襲われる
「……ぅっ………はっ…………」
ぎゅっと胸が苦しくなって、下を向く
限界の体で、無理矢理力を使わされているのだから当たり前だろう
「おぉーー!!!」
騎士の歓喜の声に顔をあげると、結界が無くなっていた
「では、進もうか?」
勝ち誇ったように、お兄様が笑みを浮かべた
~ユーリside~
「くっそ!!あの大馬鹿野郎!!ぜってぇぶっ飛ばす!!」
ガンッと思い切り地面を殴りつける
シアの力を無理矢理使いやがって……!!
眠っていたのだろうが、力を使われた時のあと苦しそうな表情が、目にこびり付いて離れない
「あんなんでよく兄貴を名乗れるわね……!!何がなんでもぶっ飛ばすわよ!!」
俺の隣でリタも怒りを露わにしていた
リタだけじゃない、メンバー全員が怒りを露わにしていた
アレクセイが俺らに仕向けた騎士は、何故か回復だけして、どこかへと行ってしまった
……アレクセイの指示、だったのか?
「…とにかく、後を追いかけよう」
フレンの言葉に、全員が頷き立ち上がる
「急いで彼女を助け出しましょ」
「うん、アリシア、苦しそうだったもん。早く助けないと!」
「こんなの、許せません!」
口々にそう言ってバクティオン神殿の入口を見つめる
「よし、行くぜ」
俺の合図と共にバクティオン神殿の中へと進み始めた
「これ……古い結界みたいね……」
神殿の中心付近まで来ると、結界によって先に進めなくなった
「解けないのか?」
俺が聞くとリタは首を横に振る
「まともに研究すらされてない古代文明のものよ。まともに調べようとしたら、どんだけ時間がかかることか……!!!……アイツら、アリシアの力使って無理矢理こじ開けたのよ…!」
ギリッと悔しそうに歯を食いしばりながらリタは言う
「……こんなしょうもねぇことに、シアの力使いやがって…!」
ぎゅっと手を握り締める
こんなことで、シアの体が弱っていくなんて、耐えられねぇ
「……お前達、ここで何をしている?」
突然聞こえたその声に振り返ると、そこにはデュークがいた
「デューク!!お前こそなんでここに…」
「…………ライラックの娘は、奴に連れて行かれたのだな」
俺の質問には答えず、俺らを見ながらそれだけ言う
「……だったらなんだよ、取り返しに行くとこだっつーの」
「…彼女一人守れなかった癖にか?」
「あんたに、とやかく言われる筋合いはねぇ」
「彼女がどういう存在か、本当に理解しているのか?」
「星暦って一族についてだったら大方の理解は出来たさ。…それでも、シアはシアだ。一族がどうなんて関係ねぇ」
「………彼女は、世界に必要な存在だ。失うわけにはいかない。……私が彼女を救う」
「はぁ?冗談きついっての。シアを助けんのは俺たちだ。あいつは、アレクセイにもお前にも、誰にもくれてやんねぇよ」
バチバチと睨み合いながら話続ける
確かに、俺はシアを守りきれなかった
が、だからと言って、俺以外の誰かにあいつをくれてやるつもりはさらさらねぇ
そもそも、得体の知れねぇ奴にとやかく言われる筋合いもねぇだろ
「…………そこまで言うのであれば、救ってみるのだな」
そう言って、俺の方に向かって剣を投げてきた
「おっと……これは?」
「……『宙の宝剣』だ。それはエアルの流れを正すことが出来る」
『宙の宝剣』、その言葉を聞いた途端に、エステルとフレンは驚きの声をあげた
「それは……!無くなった帝国の宝剣です!!」
「なんだと?」
デュークを見つめた後、もう一度、手の中にある剣を見つめる
ほんのりと、どこか温かさがある
「……剣を振り上げ願え。さすれば、剣はそれに答えよう」
デュークはそれだけ言うと、その場を去って行った
「……結局、なんだったのじゃ?」
ポツリとパティが呟く
「さぁ……な?……まっ、言われた通りにしてみますかね」
そう言って、結界の前で言われた通りに剣を振り上げてみる
すると、デュークがやった時と同じような円が足元に浮かび上がる
それと同時に、目の前にあった結界が綺麗に消え去っていた
「……これが鍵だったってわけね」
何処か納得したようにリタが言う
「進みましょ?あれだけ煽られたんですもの。アリシアを救わないと、ね?」
「だな。さっと行ってさっと奪い返して来ようぜ!」
仲間にそう声をかけて、先へと足を向けた
「……まさか、あっさり渡すなんて、どうゆう風の吹き回しよ?」
ユーリ達の元を去ったデュークの元に、一人の男が話しかける
「……お前こそ、何故ここに?」
不機嫌そうにデュークは男に聞き返す
「半分は仕事……だけど、もう半分はお手伝い、かねぇ……」
ケラケラと笑いながら男はそう言う
……その顔に、以前のような何処か諦めたような雰囲気はなかった
「………迷いは切れたのか?」
「きれいさっぱり、ね。あの子にゃ感謝しかないわ。…お礼ってわけじゃないけど…助けてやらんとね」
そう言って、男はカシャリと音を立てながら歩き始める
「………そうか。」
デュークはそう言うと、彼とは反対方向に向かって進んで行った
~アリシアside~
《……なんと………姫を……つかう……とは………愚かな人間め……》
苦しそうにしながら、アスタルはそう言う
「アスタル……!!…………ごめん………ごめんなさい………!!」
球体の中から出ることの出来ない私は、ただただそう謝ることしか出来なかった
《………姫…………気にしては………ならぬ………気を………強く………もつのだ………》
私を宥めるように、アスタルは言ってくる
「………っ!!……お兄様!!もうやめて!!お願いだから、始祖の隷長に手を出さないで!!」
ガンッと内側から球体を殴りながら、訴える
「これも必要な犠牲なのだよ
……こうして見ると、無様なものだな?自身を祀った神殿で死ねるのであれば、まだ本能であろう?」
ニヤリと笑いながら、お兄様は言う
「………っ!!!貴方って人は………!!」
《ぐぁぁあぁぁぁぁあ………っ!!》
「アスタルっ!!」
お兄様に反論しようとした間際、アスタルは苦しそうにしながら、息絶えた
そして、その場には聖核が一つ、残された
「ふん、この程度……か。まぁ、使い道はいくらでもある」
お兄様はそう言いながら、聖核を懐にしまった
「アスタル…………」
球体に触れながら、ぎゅっと手を握り締める
……始祖の隷長は、殺したくなかった……
幾ら大勢の人間を、私が悪と思った人を殺しても、始祖の隷長だけは、殺したくなかった……
「アレクセイ!!!!」
大好きな声に顔をあげて振り返ると、ユーリ達の姿が見えた
「ユーリ……みんな…」
「ふん、ここまで追いかけて来るとはな」
お兄様はそう言うと、また剣を振り上げる
今度はユーリ達の周りだけ、エアルが濃くなった
「……っ!!!!!だ……め……っ!!そんな……こと、したら……っ!!!」
思い切り胸が締め付けられる
その痛みに耐えながら、お兄様を静止する
それと同時に、必死で抵抗を試みる
が、どれだけ抵抗しても、勝手に力が使われてしまう
「安心しろ。死ぬまでやったりはせんよ。少し気絶してもらうらうだけだ」
そう言うと、更に胸が苦しくなる
「かっ…………は……っ!!」
息が、できない…
「っ!!こんの………ふざけんなぁぁぁ!!!!」
ユーリが叫ぶと同時に、辺りを光が覆う
眩しさに目を瞑る
すると、無理矢理引き出されていた力が収まる感覚があった
「はっ………はぁ………はぁ………」
肩でゆっくりと息をする
息が整ってきたところで目を開くと、ユーリの手には、長年探され続けていた『宙の宝剣』が握られていた
「……ユー、リ……その剣………何処で………?」
体の痛みに耐えながら、ユーリに問いかける
が、私の声は届いていないようで、怒りのこもった目で、お兄様を睨みつけていた
「アレクセイ…てめぇ、ふざけんなよ…!!シアをなんだと思ってやがんだ!!」
そう言って剣を向ける
「……長年探し続けていたが……ここで邪魔になるとは……」
当の本人はユーリの言葉よりも、宙の宝剣の方が気になるようだが…
「…もちろん、人だと認識しておるよ。だが…エステリーゼ様とお前達を守るために、アリシア自身が選んだ選択だ。その結果がこれだ。それの何が悪いと言うのだ?」
悪ぶれもせず、ニヤニヤと笑いながらお兄様は言う
そんなお兄様に、ユーリはただ睨みつけながら歯をくいしばるしかできないようだ
…確かに、こうなることを選択したのは私かもしれない
……それでも、お兄様に人の心があれば、ここまでしなかったかもしれないというのも事実だ
「さて、用事は済んだ。我々は戻るとしようか。……シュヴァーン、後は任せたぞ」
お兄様の呼び声と共に、シュヴァーンは一人で入ってくる
……彼が一人なんて……珍しい
そんなことを考えていると、シュヴァーンはユーリ達ではなく、真っ直ぐにお兄様に向かって来た
それを、予想していたかのようにお兄様は剣を構えた
「……やはり、か」
「……知っていたような口調ですね」
シュヴァーンはそう言うと、ユーリ達の方向へと飛んだ
「……シュヴァーン………なんで………」
じっと彼を見つめると、凍った表情ではなく、よく見ていた表情で話し出した
「……アリシアちゃんにあんな顔されちゃぁ、俺様敵わんのよねぇ。…思い出しちゃったわけよ、楽しかったことを、ね?」
おどけたような、彼の声に、もう迷いはみえなかった
「その声………まさか、レイヴン……?!」
皆が頭にハテナを浮かべている中、カロルは驚いた顔で彼の名を呼びながら、まじまじと顔を見つめていた
そんなカロルに、シュヴァーン………
いや、『レイヴン』は悪戯っ子のように微笑んだ
「おっさんにも言いたいことは山ほどあんだが……今はそれよりも、だな」
ユーリは少し嬉しそうにニヤリと笑うと、再びお兄様の方を向いた
「お小言なら後でたーくさん聞くわよ。……今はアリシアちゃんの方が先でしょ?」
レイヴンはそう言うと、持っていた剣を投げ捨て、いつもの弓を取り出した
「…ふむ、なるほどな……こちらに戻る気は無いということか」
お兄様は至って冷静にそう呟くと、剣を地面に向ける
「っ!!!」
突然の痛みに胸元をぎゅっと握る
それと同時に大きな地鳴りが聞こえてきた
「なっなんだ?!」
フレンが慌てた声をあげる
皆が驚いた隙に、お兄様は一度球体の術を解いて、私を抱えて走り出した
「あっ!!!おい!!待て!!」
ユーリがそう言ったのと同時に、後ろから大きな音がなった
……恐らく、岩が落ちたのだろう
「お兄様……っ!!なんてことを……!!」
抱き抱えられたまま、お兄様を睨む
「彼らのことだ、こんなことで死んだりなどせんだろう」
何処かそれが当たり前かのように、お兄様は言う
……それが癪に触った
いくらなんでも、そんな言い方はない
それでもし、死んだらどうしてくれるんだ
せめてもの抵抗のつもりで、できる限り腕の中で暴れる
が、しっかり掴まれてしまっているため、あまり効果がない
「あまり動くと体に響くぞ?」
そう言って、掴む手の力を強める
流石に体力的に限界だったので、大人しくする事にした
………悔しい………
抵抗すら出来ないことが、悔しい
悔しさと、自分の情けなさに苛立ち、思い切り歯を食いしばった
……これ以上は、本気でユーリ達を傷つけかねない
そんなの……絶対に……嫌だ……
バクティオン神殿から帰還して、私はすぐに眠ってしまった
……いや、眠らされたと言った方が正しいかもしれない
気がついたら帝都のお城にいた
…お城の中に、ヨーデル様達の姿はなかった
大方、私の力を使って、お兄様が追い出したんだろう
「……さて、これで最高出力が出せるな」
嬉しそうなお兄様はの声が耳に入る
結界魔導器とも繋げられ、これから何をするつもりなのか、大方検討はついていた
……帝都を、エアルで充満させる気なんだろう
既に、徐々に帝都がエアルに満ちていっているのが目に入る
………私が、これをやっているんだ
守りたかったはずなのに
守るどころじゃない
むしろ、侵している
「…………守りたかった…………だけだったのに…………」
ポツリと呟くと同時に涙が伝う
ただ、ただ、皆と過ごしたこの街を、皆を守りたかった
……そんな思いで動いたのに………
全く真逆な方向へと進んでしまった
自分で止めることも、制御する事も出来ない
………嫌だ
これ以上、侵したくない
「…………全く、往生際の悪いやつらめ」
呆れたように、遠くを見つめるお兄様
その方向を向くと、バウルの姿が目に入った
「……ユー…………リ………みんな………なんで………」
ポタリと、また、涙が落ちる
何故、自業自得でこうなった私を助けに来るの……
「シアーーーー!!!」
私の名前を叫びながら、船首に身を乗り出しているユーリが目に入る
「ユーリ………!!……怖い、恐いよ……!自分じゃ、もう力を制御出来ない!!」
頭を抱えながらそう訴える
……お兄様は、黙ってそれを、聞いている
「シア!!手伸ばせ!!」
そう言いながら、私の方を目掛けてユーリは飛んだ
伸ばされた手を取ろうと、私も手を伸ばす
後、もう少し
後もう少しで、手が触れそうなタイミングで、お兄様は剣を振った
更に溢れ出した力に、ユーリは押し返された
「……っ!!!…………ねぇ………ユーリ…………お願い…………私を……………殺して……………」
星が、ペンダント伝いにユーリに話しかけるように
私の力が辺りを覆っている今、彼らと同じことが出来る私は、ペンダント伝いにユーリに告げた
………それが、どれだけユーリを苦しめることか
わかった上で言った
私を死なせない為に、ユーリは助けようとしていることも
私が死んだら、一番ユーリが悲しむことも
全部わかった上で言った
………どうせ、力の使いすぎて死ぬのなら
これ以上、誰かを傷つけるなら
その前に…………
風圧で皆はバウルごと、遠くへ飛ばされていった
「全く、大人しくしていればよかったものを……さて、そろそろ潮時だろう。これ以上、彼らに邪魔されては敵わんからな。………恨んでくれても構わん」
お兄様はそう言いながら近づいてくる
……何をしようか、予想はついている
どうにも、出来ない
…せめて、せめて、ユーリ達を傷つける前に、目が覚めることを願って
ゆっくりと、目を閉じた