第2部〜満月の子と星暦の真実〜
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~ユーリside~
シアが行くのを、止められなかった
あんなに真剣な顔で言われてしまったら、何も言えねぇじゃねぇかよ…
シアが消えて行った方向を、じっと無言で見つめる
「……ユーリ、君にも言いたいことは沢山あるけど、今はやめておくよ
………エステリーゼ様のことは頼んだ」
「…おう、任せとけって。シアにも頼まれちまったしな……お前も、下町のやつらのこと、頼んだぜ」
フレンの方は向かずにそう言う
なんでシアがそんなことを頼んできたのかはわからないが、恐らくまたあの兄貴絡みなんだろう
……騎士であるフレンが何処まで動けるかねぇ……
「フレン隊長!ここにおられましたか!……!!ユーリ・ローウェル…!何故貴様が!!」
後からフレンの隊に入ってる女騎士、ソディアの声が聞こえてくる
何故だが知らねぇが、オレのことを目の敵にしていて、フレンとオレが一緒にいることに、あまりいい印象は持たれていない
「ソディア、そんなことよりもどうしたんだい?」
話を遮るようにフレンが彼女に話しかける
その間に余計ないちゃもんつけられる前にその場を離れようと、フレン達とは反対方向へ歩き出す
「あ、はい!カドスの喉笛ですが、封鎖の準備が整いました。いつでも実行出来ます」
そんな不吉な会話が耳に入ってくる
封鎖の準備……ねぇ?
騎士団は一体何を考えているんだか…
そんなことを考えながら、宿屋へ戻ろうと歩いていると、近くの茂みからガサガサッと物音がした
足を止めてその方向を見る
「ゥワンッ!!ワンッ!」
「あっ!ラピード!まだダメです!」
そう言って茂みから出てきたのは、ラピードとエステルだった
「コソコソ覗き見とは感心しねぇよ?」
苦笑いしながらそう言うと、エステルは申し訳なさそうに俯く
「ごめんなさい…たまたま見かけたのでつい……」
「ま、別に聞かれて困るようなことは話してねぇしな
…どっからどこまで聞いてた?」
そう聞くと、「最初から…」、と少し小さな声で答える
「っつーことは…シアが一人でどっか行っちまったことも知ってるんだな」
そう聞くと小さく頷く
「はい……でも、アリシアが一人でどこかに行ってしまったなんて、まだ実感が湧かないです……」
しょんぼりと俯きながら、エステルは言う
「ま、そうだよな。あいつのことだから案外すぐ合流しそうな気もすっけどな…
…とりあえずエステル、先に宿屋に戻っててくれねぇか?」
そう言うと、ゆっくりと顔をあげて頷く
「…わかりました。
ユーリも…早めに戻って来てくださいね」
その返事に頷き返すと、ラピードを連れてエステルは戻って行く
そして、周りに人がいないことを確認してから空を見上げる
「…さてと、『私は』っつーことは、お前らの誰かが教えてくれんのか?」
誰に話しかけるわけでもなく、ただ空を見つめて小さく呟いてみる
『……あぁ、答えられる範囲であれば教えよう』
割と聞き慣れた声がそう答えた
この声は、確かシリウスだったはずだ
「…シアの頼み事っつーのは、またあの兄貴絡みなのか?」
そう聞くと、少し間があった後に、苦いものでも口に含んでいるかのような、悔しそうな声で話し始めた
『……あぁ…その通りだ。…何故かはわからぬが、満月の子の見張りと報告をしろ、と言われていたようだな。
それが嫌ならば下町の人への税の徴収の強化する、と脅されてな』
「っ!?そんな条件、シアが選べるわけがねぇじゃねぇかよ…!!」
思わず少し大きな声で言ってしまった
が、こればかりはどうしようもないだろう
どちらの選択肢も、シアにとっては選びたくないもののはずだ
そんな選択肢しか出さないなんて、一体何を考えてんだよ…
『……アリシアは前者をとった。無論反発はしたようだが、あやつがそれを聞き入れるわけがない
…一度は終わった話だったが、彼女がお前と旅を続ける選択をした途端、手紙で再び脅しにかかっている
全く…遠縁とはいえ、少なからずとも血が繋がっているというのに……』
半ば諦めたように、呆れたようなため息をシリウスはつく
「……マジで信じらんねぇよ、あの騎士団長はよ……次会ったら一発ぶん殴らねぇと気がすまねぇ」
歯ぎしりしながらそう呟いて、右手を見つめる
自然と右手には力が入っていた
少なくとも、シアはあいつのことを信頼していたはずなのに
信頼して、本当の兄のように慕っていたのに
それを、真正面から否定するような行動に虫唾が走る
何を考えていて、何をしようとしていて、そして……何をするつもりなのか、全く持って検討がつかない
……一つわかることは、それにエステルが関係していることだけだ
『…我らからも、彼女のことを頼む。…絶対に、目を離さないでくれ』
「……あぁ、わかった。絶対に目離さねぇよ」
そう言って右手から視線を外して、空を見上げる
いつもシアが好きだといっている真っ黒な夜の空
その黒の上で輝いている星が、何処と無く寂しそうに光っているように見えた
…それが、オレがシアが居なくなって寂しいからなのか、星が彼女の行動に傷ついているからなのか、オレにはわからねぇけど……
「…んじゃ、もう戻るわ。あんま戻んのが遅せぇと面倒なのがいるんでね」
そう言って宿屋の方向を向いて、歩き出そうと足を踏み出す
『…あぁ…………気をつけるんだぞ。……アリシアが言ったように、敵は身近に潜んでいるのだから……』
シリウスのその言葉にその足を止めて、振り返って空を見上げる
…が、当然の事だが姿は見えねぇし、こちらが話しかけて返事が戻ってくるかもわからない
『身近に潜んでいる』……その言葉が、頭に突っかかる
…シアもシリウスも、一体…誰のことを言っているんだ…?
怪しいと言われりゃあ確かにおっさんが怪しかったりもするが……
そうゆう風にみたら誰も彼も全員が怪しく見えちまう
……いや、今はそれよりも状況を説明しねぇと……
頭から余計な考えを追い出すように、首を振る
そして、宿屋に小走りで戻った
「ふーん……で?止めもせずに行かせちゃったわけ??」
「いや…止めるには止めたんだけどな……」
怒りの篭った目でオレを睨みながらリタが言う
全員が宿屋に集まったところで、オレからちゃんと説明をした
…シアがキュモールとラゴウを殺してしまったこと以外だけ、な
「なんで行かせちゃったのさ!アリシアの体調が悪かったのなんて、みんな知ってるし、それこそ一人にさせちゃ駄目じゃんか!」
珍しく怒りながらカロルが言う
「カロルの言う通りね。彼女を一人にさせるなんて、それこそエステルと一緒にいるよりも危険じゃないかしら?」
咎めるように、ジュディがそう付け加える
「……オレだってそんくらいわかってるっつーの……でも、あんだけ真剣な顔されちまったら、行くななんて言えねぇよ…」
そう言いながら、目を逸らす
誰だって、強い決意を持った目で見られたら、止めるものも止められねぇだろ…
「……言い訳は終わった?」
リタのその声が聞こえたのと同時に足音が聞こえてくる
何かと思ってその音の方向を向くと、思い切り頬をひっぱたかれた
「痛っ!?何すんだよ!リタ!!」
「リタっ!幾らなんでも叩く必要はないじゃないですか!!」
叩かれた場所がヒリヒリと痛む
そのことに対して、エステルがリタに反論する
「……あたしだって、あんたと同じ状況になったら、あの子を止められるかなんてわからないわよ。でも、あんただからこそ、止めなきゃ行けなかったんじゃないの!?あんたなら止めらたんじゃないの?!!」
エステルの言葉など、耳に入っていないかのように、リタはオレに対してそう言ってくる
「止めるには止めたって言ったの聞いてなかったのかよ?オレの言葉ですら、あいつは、シアは一人で行くって言い張ったんだよ!!オレが本気で、あいつを一人で行動させることに賛成するって思ったのかよ?!反対に決まってるだろ!?」
あまりにも言いたい放題言われてしまって、思わず怒鳴ってしまった
まさかオレが怒鳴るだなんて思っていなかったようで、全員が驚いたようにオレを見つめてくる
オレなら止められるだなんて、高望みしすぎじゃないか
必ず止められるなんて、あるわけないじゃないか
むしろ、オレだからこそ、止められないんじゃないか
シアの意思を出来るだけ尊重したいと思っているオレだからこそ、止められないんだ
確かに彼女の意思だけを尊重するのは駄目だとは思うが……
自由気ままな、猫みたいな性格のあいつの意思を否定するのはオレが嫌なんだ
「…まぁ…もう行っちゃったことに対してグダグダ言ってもしょうがないじゃない??アリシアちゃんが一人で行動しちゃって、一番辛い気持ちになってるのは、青年だとおっさん思うし」
オレとリタの間に、割って入るようにおっさんが口を挟んだ
「じゃのう。ユーリだけを責めるのは間違っておるのじゃ。シア姐が行ってしまった時に、傍にはフレンだっていたのじゃろ?フレンが責められないのは可笑しいのじゃ」
それに合わせるように、パティが不服そうにリタをジト目で見つめる
「うっ………それも、そうよね…………悪かったわよ……」
言葉につまりながらも、気まづそうにしながらリタが謝ってくる
「……いや、オレも怒鳴ったりして悪かったな」
リタに悪気がないことくらい分かっているつもりだ
初めて会った時から、こいつがシアのことを大切に思っていることなんて、理解していた
だから、感情的になってキレるんじゃないかとは予想出来ていた
ただ、あまりにの言い草に思わずこっちもキレちまったが……
「…これから、どうしようか?」
重い沈黙を破ったのはカロルだった
「どうするも何も、おっさん達はおっさん達でやることやらなきゃなんじゃないの?」
少し眠そうに欠伸をしながらレイヴンが言う
…おっさんにしちゃずいぶんとまともな意見だな…
「うーん、じゃあ、予定通りベリウスのところに行く?」
「そう、ですね。そうしましょう」
カロルの意見に賛成するようにエステルが頷く
「そう言えば、アリシアちゃんが嬢ちゃんに渡してって頼んだものって、一体なんなのよ?」
首を傾げながらレイヴンが言う
「そーいやぁ、シアの荷物ん中にあるっつってたけど……」
そう言いながら、シアの荷物を漁る
…っつってもそんなに量があるわけでもねぇが……
確か『ペンダント』とか言ってたよな……
「あっ、ユーリ、これじゃない??」
そう言ってカロルが、荷物の横から紫色の飾りの付いたペンダントを出した
「あー、多分それだな。……って、これシアがいつも付けてたやつじゃねぇか」
そう言いながらカロルからペンダントを受け取る
「あら、そんなの付けていたかしら?」
「あー、いつも服の下に隠してたから気づかなかったんだろ。ほい、エステル
…シアがぜってぇ外すなってよ」
ジュディの問にそう答えながら、エステルにペンダントを渡した
「わかりました、約束します!」
そう言って、エステルはペンダントを首にかけた
「んじゃ、今日はとっとと寝るとしますかね」
オレがそう言うと、各々割り当てられた寝床に入っていく
本来なら扉の横に座って寝るはずだったが……
エステルに促されて、シアが寝るはずだった寝床に入る
光照魔導器を消して、しばらくするとおっさんのいびきが聞こえてくる
シン……と静まり帰った部屋
少し耳を澄ませると、さっきのシアの少し悲しそうな声が聞こえてくるような気がした
「……あんなに寂しそうにすんなら、一人で行くんじゃねぇよ………」
誰に告げる訳でもなく、小さくそう呟いて、目を閉じる
砂漠を越えたことで疲れていた体はすぐに眠気に襲われて、そのまま意識はフェイドアウトしていた
「………」
ユーリが眠りに入ってから少しして、怠そうにしながらムクっと起き上がる人影があった
その人物は音を立てずに、静かに宿屋を抜け出すと、湖の方へと歩き出す
湖には三人の人影があった
「…ご報告を」
一人が静かにそう口を開く
「……アリシアが単独行動に出た。……閣下の指示を」
いつもとは違う、真剣な声で彼はそう告る
「…わかりました。…次はアスピオで落ち合いましょう……」
三人の内の一人がそう言うと、さっとその場から立ち去った
後に残された『彼』は大きくため息をついて空を見上げた
「………何考えてるのよ……アリシアちゃん……」
悔しそうに歯ぎしりしながら、ここには居ない彼女の名前を呟く
そして、何事もなかったかのように、宿屋へと戻った……
~アリシアside~
「……で、フェロー。会ってくれる気になった?」
今居るのはフェローの岩場
腕組みをして仁王立ちしている私の目の前には、少ししょんぼりと羽根を竦めているフェローがいる
《……どうしても、彼女と会えと言うのか?》
静かに、フェローはそう口を開いた
口調からも嫌なことがわかる
が、私だって引くわけにはいかないんだ
「会って満月の子のことと、あなたの気持ちを伝えるだけでいいの。……それだけでいいから、お願い」
組んでいた腕を崩して、頭を下げる
……散々一昨日のことについて言いまくってしまった後だが、頼み事をしている側だし、それが礼儀だろう
《…それだけでいいのだな?》
嫌そうにしながらもそう言ったフェローに、ゆっくりと頷き返した
《……姫の頼みだ、一度だけ会おう》
渋々といった様子ではあるがフェローは引き受けてくれた
「ありがとう、フェロー」
そう言って微笑みかける
なんとか、といった感じではあるが、これでエステルが知りたいことが聞けるはずだ
《して、これからどこに行くのだ?》
不意にフェローはそう聞いてくる
「…エステルの力は、私が『していた』ペンダントで、少しは抑えられるはずだから…私はお兄様の計画を潰す為に動こうと思う」
そう言うと、驚いたような、そして少し怒りの篭った声で話しかけてくる
《あのペンダントを渡したのか!?》
「…それしか、今は方法がないから……」
そう言いながら心臓の当たりをぎゅっと抑える
正直言って、あのペンダントがないと少しキツいが、これ以外に方法が思いつかないのだ
《それが自分自身を破滅に導いていることを、理解してなのか……?》
寂しそうな声でフェローが問いかけてくる
…力を持っている星暦は、もう私しかいない
だから、という訳でもないかもしれないが、一番の理由は少なくともそれだろう
どれだけフェローや他の始祖の隷長が、私を大事に思っているかなんて、わかっているつもりだ
それでも…そうだとしても、私にだって譲れない信念がある
……守りたい人がいるのだ
「……理解してるよ、フェロー。…それでも、私は彼女を……彼女『も』守りたい。あなた達が私を守ろうとしてくれているのと同じように、私も彼女『たち』を守りたい
………それが、自分自身を殺す結果になったとしても」
そう言って、真っ直ぐフェローを見つめる
怒っている彼には、何を言っても火に油かもしれないが…
…理解してくれなくてもいい、ただ私の気持ちを聞いてくれれば、それでいい
《…………それが、姫の意思だと言うのだな…?》
力なくそう問いかけてくる
それに、力強く頷いて返した
《…ならば、貫き通してみせよ、その意思を》
半分投げやり気味に、フェローはそう言った
…納得はしてくれていないのだろう
それでも、私の意思を尊重してくれる所はユーリと少し似ている
「ありがとう、フェロー」
そう言って微笑む
「…そろそろ行くね?」
もう大分当たりが明るくなり始めている
少し長居しすぎてしまった
《もう行くのか?》
少し残念そうな声でフェローが問いかけてくる
「うん、ユーリ達がベリウスに会いに行く前に、私も一度会っておきたいし…」
背を向けながらそう告げて空を見上げる
流石にもう星は見えないし、この時間に飛ぶとなると、かなり力を使わなきゃいけない
ヘリオードには簡単に着くかもしれないけど、少し休憩する時間が必要そうだ
《…ベリウスに会うというのならば、もう少ししてから送ろう》
後ろからフェローにそう告げられ、驚いて振り向く
まさかそんなこと言うなんて、思ってもいなかった
「…いいの?」
《その身体で力を使われるよりは、送る方が安全だ
…今は時間まで休め》
そう言うとその場に座り込んで、私にこっちに来いと、目で合図してくる
……本当に、私は彼らにも大事にされているんだね……
始祖の隷長達が、私『個人』を大事に思っているのか、私が『星暦だから』大事に思っているのか、それはさっきも言った通りわからないけど…
それでも、大事に思われていることは変わらないから
そう思われてることはやっぱり嬉しい
ゆっくりフェローの近くまで行って、彼の体に身を預ける
暖かい……
ユーリとはまた違って、どちらかと言えばお日様のように暖かい
「……懐かしい、昔はたまにこうやってお昼寝してたっけ……」
少しうとうとしながら呟く
私がまだ幼かった時、お父様やお母様が忙しい時は、よくフェローが代わりに面倒を見ていてくれた
空から世界を見て回ったり、こうやってお昼寝したり……
《そうだな…あの頃と比べると、大きくなったな》
そう言いながらフワッと尾を掛け布団のように私に乗せてくる
「…ちゃんと時間になったら起こしてね?」
悪戯っぽくそういいながら目を閉じる
流石に一睡もせずの移動と、ペンダントなしで力を使ったことで、体力的にも体調的にも限界だった
《わかっている、安心して眠れ》
優しい声でそう言ってくる
それと同時に眠気が襲ってくる
久々にフェローに寄りかかりながら、私は眠りについた
《……全く、無茶ばかりするのだから》
自身に身を預けて眠りについたアリシアを見つめながら、フェローは呟く
彼女が想像以上に無理をしていることなど、誰よりも彼がわかっているつもりでいた
…が、まさか自身の身を削ってまで、『敵でもある』満月の子を守ろうとするなど、想定外であった
《……姫、お主は、先祖が彼らにされた仕打ちを、忘れたと言うのか……?》
眠りについている彼女に問いかけても、返事は返ってこない
少しの間じっとアリシアを見つめていたフェローだったが、彼も眠気に襲われ、そのまま眠りについた
シアが行くのを、止められなかった
あんなに真剣な顔で言われてしまったら、何も言えねぇじゃねぇかよ…
シアが消えて行った方向を、じっと無言で見つめる
「……ユーリ、君にも言いたいことは沢山あるけど、今はやめておくよ
………エステリーゼ様のことは頼んだ」
「…おう、任せとけって。シアにも頼まれちまったしな……お前も、下町のやつらのこと、頼んだぜ」
フレンの方は向かずにそう言う
なんでシアがそんなことを頼んできたのかはわからないが、恐らくまたあの兄貴絡みなんだろう
……騎士であるフレンが何処まで動けるかねぇ……
「フレン隊長!ここにおられましたか!……!!ユーリ・ローウェル…!何故貴様が!!」
後からフレンの隊に入ってる女騎士、ソディアの声が聞こえてくる
何故だが知らねぇが、オレのことを目の敵にしていて、フレンとオレが一緒にいることに、あまりいい印象は持たれていない
「ソディア、そんなことよりもどうしたんだい?」
話を遮るようにフレンが彼女に話しかける
その間に余計ないちゃもんつけられる前にその場を離れようと、フレン達とは反対方向へ歩き出す
「あ、はい!カドスの喉笛ですが、封鎖の準備が整いました。いつでも実行出来ます」
そんな不吉な会話が耳に入ってくる
封鎖の準備……ねぇ?
騎士団は一体何を考えているんだか…
そんなことを考えながら、宿屋へ戻ろうと歩いていると、近くの茂みからガサガサッと物音がした
足を止めてその方向を見る
「ゥワンッ!!ワンッ!」
「あっ!ラピード!まだダメです!」
そう言って茂みから出てきたのは、ラピードとエステルだった
「コソコソ覗き見とは感心しねぇよ?」
苦笑いしながらそう言うと、エステルは申し訳なさそうに俯く
「ごめんなさい…たまたま見かけたのでつい……」
「ま、別に聞かれて困るようなことは話してねぇしな
…どっからどこまで聞いてた?」
そう聞くと、「最初から…」、と少し小さな声で答える
「っつーことは…シアが一人でどっか行っちまったことも知ってるんだな」
そう聞くと小さく頷く
「はい……でも、アリシアが一人でどこかに行ってしまったなんて、まだ実感が湧かないです……」
しょんぼりと俯きながら、エステルは言う
「ま、そうだよな。あいつのことだから案外すぐ合流しそうな気もすっけどな…
…とりあえずエステル、先に宿屋に戻っててくれねぇか?」
そう言うと、ゆっくりと顔をあげて頷く
「…わかりました。
ユーリも…早めに戻って来てくださいね」
その返事に頷き返すと、ラピードを連れてエステルは戻って行く
そして、周りに人がいないことを確認してから空を見上げる
「…さてと、『私は』っつーことは、お前らの誰かが教えてくれんのか?」
誰に話しかけるわけでもなく、ただ空を見つめて小さく呟いてみる
『……あぁ、答えられる範囲であれば教えよう』
割と聞き慣れた声がそう答えた
この声は、確かシリウスだったはずだ
「…シアの頼み事っつーのは、またあの兄貴絡みなのか?」
そう聞くと、少し間があった後に、苦いものでも口に含んでいるかのような、悔しそうな声で話し始めた
『……あぁ…その通りだ。…何故かはわからぬが、満月の子の見張りと報告をしろ、と言われていたようだな。
それが嫌ならば下町の人への税の徴収の強化する、と脅されてな』
「っ!?そんな条件、シアが選べるわけがねぇじゃねぇかよ…!!」
思わず少し大きな声で言ってしまった
が、こればかりはどうしようもないだろう
どちらの選択肢も、シアにとっては選びたくないもののはずだ
そんな選択肢しか出さないなんて、一体何を考えてんだよ…
『……アリシアは前者をとった。無論反発はしたようだが、あやつがそれを聞き入れるわけがない
…一度は終わった話だったが、彼女がお前と旅を続ける選択をした途端、手紙で再び脅しにかかっている
全く…遠縁とはいえ、少なからずとも血が繋がっているというのに……』
半ば諦めたように、呆れたようなため息をシリウスはつく
「……マジで信じらんねぇよ、あの騎士団長はよ……次会ったら一発ぶん殴らねぇと気がすまねぇ」
歯ぎしりしながらそう呟いて、右手を見つめる
自然と右手には力が入っていた
少なくとも、シアはあいつのことを信頼していたはずなのに
信頼して、本当の兄のように慕っていたのに
それを、真正面から否定するような行動に虫唾が走る
何を考えていて、何をしようとしていて、そして……何をするつもりなのか、全く持って検討がつかない
……一つわかることは、それにエステルが関係していることだけだ
『…我らからも、彼女のことを頼む。…絶対に、目を離さないでくれ』
「……あぁ、わかった。絶対に目離さねぇよ」
そう言って右手から視線を外して、空を見上げる
いつもシアが好きだといっている真っ黒な夜の空
その黒の上で輝いている星が、何処と無く寂しそうに光っているように見えた
…それが、オレがシアが居なくなって寂しいからなのか、星が彼女の行動に傷ついているからなのか、オレにはわからねぇけど……
「…んじゃ、もう戻るわ。あんま戻んのが遅せぇと面倒なのがいるんでね」
そう言って宿屋の方向を向いて、歩き出そうと足を踏み出す
『…あぁ…………気をつけるんだぞ。……アリシアが言ったように、敵は身近に潜んでいるのだから……』
シリウスのその言葉にその足を止めて、振り返って空を見上げる
…が、当然の事だが姿は見えねぇし、こちらが話しかけて返事が戻ってくるかもわからない
『身近に潜んでいる』……その言葉が、頭に突っかかる
…シアもシリウスも、一体…誰のことを言っているんだ…?
怪しいと言われりゃあ確かにおっさんが怪しかったりもするが……
そうゆう風にみたら誰も彼も全員が怪しく見えちまう
……いや、今はそれよりも状況を説明しねぇと……
頭から余計な考えを追い出すように、首を振る
そして、宿屋に小走りで戻った
「ふーん……で?止めもせずに行かせちゃったわけ??」
「いや…止めるには止めたんだけどな……」
怒りの篭った目でオレを睨みながらリタが言う
全員が宿屋に集まったところで、オレからちゃんと説明をした
…シアがキュモールとラゴウを殺してしまったこと以外だけ、な
「なんで行かせちゃったのさ!アリシアの体調が悪かったのなんて、みんな知ってるし、それこそ一人にさせちゃ駄目じゃんか!」
珍しく怒りながらカロルが言う
「カロルの言う通りね。彼女を一人にさせるなんて、それこそエステルと一緒にいるよりも危険じゃないかしら?」
咎めるように、ジュディがそう付け加える
「……オレだってそんくらいわかってるっつーの……でも、あんだけ真剣な顔されちまったら、行くななんて言えねぇよ…」
そう言いながら、目を逸らす
誰だって、強い決意を持った目で見られたら、止めるものも止められねぇだろ…
「……言い訳は終わった?」
リタのその声が聞こえたのと同時に足音が聞こえてくる
何かと思ってその音の方向を向くと、思い切り頬をひっぱたかれた
「痛っ!?何すんだよ!リタ!!」
「リタっ!幾らなんでも叩く必要はないじゃないですか!!」
叩かれた場所がヒリヒリと痛む
そのことに対して、エステルがリタに反論する
「……あたしだって、あんたと同じ状況になったら、あの子を止められるかなんてわからないわよ。でも、あんただからこそ、止めなきゃ行けなかったんじゃないの!?あんたなら止めらたんじゃないの?!!」
エステルの言葉など、耳に入っていないかのように、リタはオレに対してそう言ってくる
「止めるには止めたって言ったの聞いてなかったのかよ?オレの言葉ですら、あいつは、シアは一人で行くって言い張ったんだよ!!オレが本気で、あいつを一人で行動させることに賛成するって思ったのかよ?!反対に決まってるだろ!?」
あまりにも言いたい放題言われてしまって、思わず怒鳴ってしまった
まさかオレが怒鳴るだなんて思っていなかったようで、全員が驚いたようにオレを見つめてくる
オレなら止められるだなんて、高望みしすぎじゃないか
必ず止められるなんて、あるわけないじゃないか
むしろ、オレだからこそ、止められないんじゃないか
シアの意思を出来るだけ尊重したいと思っているオレだからこそ、止められないんだ
確かに彼女の意思だけを尊重するのは駄目だとは思うが……
自由気ままな、猫みたいな性格のあいつの意思を否定するのはオレが嫌なんだ
「…まぁ…もう行っちゃったことに対してグダグダ言ってもしょうがないじゃない??アリシアちゃんが一人で行動しちゃって、一番辛い気持ちになってるのは、青年だとおっさん思うし」
オレとリタの間に、割って入るようにおっさんが口を挟んだ
「じゃのう。ユーリだけを責めるのは間違っておるのじゃ。シア姐が行ってしまった時に、傍にはフレンだっていたのじゃろ?フレンが責められないのは可笑しいのじゃ」
それに合わせるように、パティが不服そうにリタをジト目で見つめる
「うっ………それも、そうよね…………悪かったわよ……」
言葉につまりながらも、気まづそうにしながらリタが謝ってくる
「……いや、オレも怒鳴ったりして悪かったな」
リタに悪気がないことくらい分かっているつもりだ
初めて会った時から、こいつがシアのことを大切に思っていることなんて、理解していた
だから、感情的になってキレるんじゃないかとは予想出来ていた
ただ、あまりにの言い草に思わずこっちもキレちまったが……
「…これから、どうしようか?」
重い沈黙を破ったのはカロルだった
「どうするも何も、おっさん達はおっさん達でやることやらなきゃなんじゃないの?」
少し眠そうに欠伸をしながらレイヴンが言う
…おっさんにしちゃずいぶんとまともな意見だな…
「うーん、じゃあ、予定通りベリウスのところに行く?」
「そう、ですね。そうしましょう」
カロルの意見に賛成するようにエステルが頷く
「そう言えば、アリシアちゃんが嬢ちゃんに渡してって頼んだものって、一体なんなのよ?」
首を傾げながらレイヴンが言う
「そーいやぁ、シアの荷物ん中にあるっつってたけど……」
そう言いながら、シアの荷物を漁る
…っつってもそんなに量があるわけでもねぇが……
確か『ペンダント』とか言ってたよな……
「あっ、ユーリ、これじゃない??」
そう言ってカロルが、荷物の横から紫色の飾りの付いたペンダントを出した
「あー、多分それだな。……って、これシアがいつも付けてたやつじゃねぇか」
そう言いながらカロルからペンダントを受け取る
「あら、そんなの付けていたかしら?」
「あー、いつも服の下に隠してたから気づかなかったんだろ。ほい、エステル
…シアがぜってぇ外すなってよ」
ジュディの問にそう答えながら、エステルにペンダントを渡した
「わかりました、約束します!」
そう言って、エステルはペンダントを首にかけた
「んじゃ、今日はとっとと寝るとしますかね」
オレがそう言うと、各々割り当てられた寝床に入っていく
本来なら扉の横に座って寝るはずだったが……
エステルに促されて、シアが寝るはずだった寝床に入る
光照魔導器を消して、しばらくするとおっさんのいびきが聞こえてくる
シン……と静まり帰った部屋
少し耳を澄ませると、さっきのシアの少し悲しそうな声が聞こえてくるような気がした
「……あんなに寂しそうにすんなら、一人で行くんじゃねぇよ………」
誰に告げる訳でもなく、小さくそう呟いて、目を閉じる
砂漠を越えたことで疲れていた体はすぐに眠気に襲われて、そのまま意識はフェイドアウトしていた
「………」
ユーリが眠りに入ってから少しして、怠そうにしながらムクっと起き上がる人影があった
その人物は音を立てずに、静かに宿屋を抜け出すと、湖の方へと歩き出す
湖には三人の人影があった
「…ご報告を」
一人が静かにそう口を開く
「……アリシアが単独行動に出た。……閣下の指示を」
いつもとは違う、真剣な声で彼はそう告る
「…わかりました。…次はアスピオで落ち合いましょう……」
三人の内の一人がそう言うと、さっとその場から立ち去った
後に残された『彼』は大きくため息をついて空を見上げた
「………何考えてるのよ……アリシアちゃん……」
悔しそうに歯ぎしりしながら、ここには居ない彼女の名前を呟く
そして、何事もなかったかのように、宿屋へと戻った……
~アリシアside~
「……で、フェロー。会ってくれる気になった?」
今居るのはフェローの岩場
腕組みをして仁王立ちしている私の目の前には、少ししょんぼりと羽根を竦めているフェローがいる
《……どうしても、彼女と会えと言うのか?》
静かに、フェローはそう口を開いた
口調からも嫌なことがわかる
が、私だって引くわけにはいかないんだ
「会って満月の子のことと、あなたの気持ちを伝えるだけでいいの。……それだけでいいから、お願い」
組んでいた腕を崩して、頭を下げる
……散々一昨日のことについて言いまくってしまった後だが、頼み事をしている側だし、それが礼儀だろう
《…それだけでいいのだな?》
嫌そうにしながらもそう言ったフェローに、ゆっくりと頷き返した
《……姫の頼みだ、一度だけ会おう》
渋々といった様子ではあるがフェローは引き受けてくれた
「ありがとう、フェロー」
そう言って微笑みかける
なんとか、といった感じではあるが、これでエステルが知りたいことが聞けるはずだ
《して、これからどこに行くのだ?》
不意にフェローはそう聞いてくる
「…エステルの力は、私が『していた』ペンダントで、少しは抑えられるはずだから…私はお兄様の計画を潰す為に動こうと思う」
そう言うと、驚いたような、そして少し怒りの篭った声で話しかけてくる
《あのペンダントを渡したのか!?》
「…それしか、今は方法がないから……」
そう言いながら心臓の当たりをぎゅっと抑える
正直言って、あのペンダントがないと少しキツいが、これ以外に方法が思いつかないのだ
《それが自分自身を破滅に導いていることを、理解してなのか……?》
寂しそうな声でフェローが問いかけてくる
…力を持っている星暦は、もう私しかいない
だから、という訳でもないかもしれないが、一番の理由は少なくともそれだろう
どれだけフェローや他の始祖の隷長が、私を大事に思っているかなんて、わかっているつもりだ
それでも…そうだとしても、私にだって譲れない信念がある
……守りたい人がいるのだ
「……理解してるよ、フェロー。…それでも、私は彼女を……彼女『も』守りたい。あなた達が私を守ろうとしてくれているのと同じように、私も彼女『たち』を守りたい
………それが、自分自身を殺す結果になったとしても」
そう言って、真っ直ぐフェローを見つめる
怒っている彼には、何を言っても火に油かもしれないが…
…理解してくれなくてもいい、ただ私の気持ちを聞いてくれれば、それでいい
《…………それが、姫の意思だと言うのだな…?》
力なくそう問いかけてくる
それに、力強く頷いて返した
《…ならば、貫き通してみせよ、その意思を》
半分投げやり気味に、フェローはそう言った
…納得はしてくれていないのだろう
それでも、私の意思を尊重してくれる所はユーリと少し似ている
「ありがとう、フェロー」
そう言って微笑む
「…そろそろ行くね?」
もう大分当たりが明るくなり始めている
少し長居しすぎてしまった
《もう行くのか?》
少し残念そうな声でフェローが問いかけてくる
「うん、ユーリ達がベリウスに会いに行く前に、私も一度会っておきたいし…」
背を向けながらそう告げて空を見上げる
流石にもう星は見えないし、この時間に飛ぶとなると、かなり力を使わなきゃいけない
ヘリオードには簡単に着くかもしれないけど、少し休憩する時間が必要そうだ
《…ベリウスに会うというのならば、もう少ししてから送ろう》
後ろからフェローにそう告げられ、驚いて振り向く
まさかそんなこと言うなんて、思ってもいなかった
「…いいの?」
《その身体で力を使われるよりは、送る方が安全だ
…今は時間まで休め》
そう言うとその場に座り込んで、私にこっちに来いと、目で合図してくる
……本当に、私は彼らにも大事にされているんだね……
始祖の隷長達が、私『個人』を大事に思っているのか、私が『星暦だから』大事に思っているのか、それはさっきも言った通りわからないけど…
それでも、大事に思われていることは変わらないから
そう思われてることはやっぱり嬉しい
ゆっくりフェローの近くまで行って、彼の体に身を預ける
暖かい……
ユーリとはまた違って、どちらかと言えばお日様のように暖かい
「……懐かしい、昔はたまにこうやってお昼寝してたっけ……」
少しうとうとしながら呟く
私がまだ幼かった時、お父様やお母様が忙しい時は、よくフェローが代わりに面倒を見ていてくれた
空から世界を見て回ったり、こうやってお昼寝したり……
《そうだな…あの頃と比べると、大きくなったな》
そう言いながらフワッと尾を掛け布団のように私に乗せてくる
「…ちゃんと時間になったら起こしてね?」
悪戯っぽくそういいながら目を閉じる
流石に一睡もせずの移動と、ペンダントなしで力を使ったことで、体力的にも体調的にも限界だった
《わかっている、安心して眠れ》
優しい声でそう言ってくる
それと同時に眠気が襲ってくる
久々にフェローに寄りかかりながら、私は眠りについた
《……全く、無茶ばかりするのだから》
自身に身を預けて眠りについたアリシアを見つめながら、フェローは呟く
彼女が想像以上に無理をしていることなど、誰よりも彼がわかっているつもりでいた
…が、まさか自身の身を削ってまで、『敵でもある』満月の子を守ろうとするなど、想定外であった
《……姫、お主は、先祖が彼らにされた仕打ちを、忘れたと言うのか……?》
眠りについている彼女に問いかけても、返事は返ってこない
少しの間じっとアリシアを見つめていたフェローだったが、彼も眠気に襲われ、そのまま眠りについた