第2部〜満月の子と星暦の真実〜
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~ユーリside~
「……ねぇ、ユーリ、さっきの話…信じられる?」
宿屋へ戻る途中、ふと足を止めてカロルが前にいるユーリに問いかける
『さっきの話』とは、デュークとアリシアが交わした会話のことだろう
星暦の一族の本来の使命は、エアルの乱れの原因を排除すること
それが例え、『人』であったとしても…
「……信じらんねぇよ……シアから今までそんな話、聞いたことねぇし」
カロルが足を止めたのに合わせるように、ユーリもまた足を止め前を向いたまま口を開いた
信じられないのは、この中で彼女と一番一緒にいる時間が長いユーリも同じであった
もちろん、一族の掟上言えなかっただけなのかもしれない
が、星暦でないデュークがその事を知っていたことが彼は腑に落ちなかった
「デュークのあんちゃんは一体どこまで知ってるんだかねぇ…アリシアちゃんの両親の友人だってのは、風の噂で聞いたことあっけどねぇ」
頭の後ろで手を組みながらレイヴンが呟く
「あのねぇ…さっきの会話聞いてれば、誰だってそのくらいわかるわよ!」
少しイラついた口調でリタがレイヴンを睨みつける
「あたしはそんなことより、アリシアが喋れない情報をアイツが勝手に喋ったことの方が気になるわよっ!」
レイヴンから目を離し、あからさまに怒りを露わにした様子で彼がいる家を睨みつけた
リタにとって、唯一無二の親友であるアリシアが、彼のせいで星たちに怒られたりしていないか…それだけがリタにとっては心配だった
「そんなに心配しなくても、彼らは彼女を怒らないんじゃないかしら?いつだって見ているのでしょ?」
少し肩を竦めながらリタを落ち着かせるようにジュディスが言う
「そうじゃのう、うちもそんなに理不尽なことはしないと思うのじゃ」
ジュディスに賛同するように首を縦に振りながらパティが話す
「……まぁ……それもそう、よね…」
リタは少し納得したように呟くが、「いやでも万が一にでも……」と、顎に手をあてながらブツブツ呟きだす
「シアが怒られてるにせよ、怒られてないにせよ、ここにいたってどうしようもねぇんだ。さっさと宿屋に戻ろうぜ」
ユーリが宿屋の方を指差して、再び歩き出す
それに続くように、他のメンバー達も歩き出す
一行が宿屋へ歩き出すのを確認すると、レイヴンは一人立ち止まって空を軽く見上げる
「………さて…………アリシアちゃんはどう動くかねぇ………」
誰に言うわけでもなく小さくそう呟いて、ユーリ達の後を追いかけて走り出した
「あれ?アリシア…戻って来てないのかな?」
宿屋で借りた部屋に入ってすぐにカロルが首を傾げた
アリシアの姿がそこにはないのだ
「おかしいわね…先に帰ったはずだけど…」
ジュディスが不思議そうに部屋を見回しながら呟く
「おいおい…まさか一人で砂漠に行った、なーんてねぇだろうな…?」
苦い顔をして宿屋の入り口の方を見つめながらユーリが言う
大人しくしている、というが全くと言ってもいいくらいに出来ない彼女であれば、一人で砂漠に行ってしまってもおかしくないだろう
「えぇ…いくらなんでも流石にそれはないんじゃないかな??」
まさかそんなこと…と、いった様子でカロルが言うと、すかさずリタが口を開く
「あんたはアリシアのこと全っ然わかってないわね。『大人しく待ってなさい』って言われても、勝手に一人でフラフラとどっかに行くのがアリシアなのよ。危ないから絶対近づくなって言っても、平気で行っちゃうような子なのよ?」
呆れ気味に、そして少し怒り気味にリタはワナワナと拳を震わせながら言う
彼女からしたらアリシアの行動ほど、心配になるようなものはないのだ
「現にカプア・ノールの時もそうだっただろ?」
リタの言葉に付け加えるようにユーリが言うと、カロルとエステルは納得したように「あぁ……」と頷く
「砂漠に一人で行っちゃってるなら、探しに行った方がいいんじゃないの??」
若干眠そうにしながらもレイヴンがそう言う
「それもそうね。一人で砂漠なんて危険すぎるわ」
ジュディスがそう言うと、一同は頷き合い、探しに行く準備を始めようとする
ーーーーーその時だった
ガチャッ「……こんな時間からお出かけ?」
聞き慣れた声に驚き、扉の方を見れば、そこには今探しに行こうとしていたアリシアが、若干不機嫌そうな表情をして立っていた
~アリシアside~
アルタイルと話を終えて、宿屋に戻ったはいいものの…
……こんな時間からみんなして何処に行くつもりなんだろうか……
「アリシア!あんた何処行ってたのよ!先に戻ってると思ったら部屋にいないから、みんなで探しに行こうとしてたとこなのよ!?」
そう言いながらリタが詰め寄ってくる
…あぁ、そう言えばそんなこと言ったっけ……
「…ごめん、ちょっと話してたから」
肩を竦めながらそう答える
実際それ以外に何もしていないわけだし
「……ま、何事もなかったみてぇだし、今回はよしとしていいんじゃねぇか?」
苦い顔でユーリはそうみんなに問いかける
納得はしていないと、すぐにわかった
それでもそう言ったのは、きっとまた、喋れないような内容の話だったんだと思ったんだろう
「そう……ですね。怪我もしてなさそうですし」
「うーん、ユーリがそう言うなら……でもアリシア、今回だけだよ?」
エステルとカロルはユーリに賛同するように頷く
「うん…ごめんね、心配かけて」
苦笑いしながらもう一度みんなに謝る
『もうしないから』とは、言えなかった
だって…もう、当分……いや、もしかしたら一生、みんなと旅をすることは出来ないかもしれないんだから……
「まぁ、アリシアちゃんも無事だったことだし、今日はもう寝ましょーよ」
相変わらずヘラヘラと笑いながらレイヴンが提案する
「そうね、明日はマンタイクに戻らないといけないものね」
ジュディスがそう言うと、みんな頷いてそれぞれに割り当てられたベッドに潜り込んだ
「……灯り、消すね」
みんながベッドに潜り込んだタイミングで、蝋燭の火を消した
そして、足音をたてないように私に割り当てられたベッドに向かう
正直言って全く眠くはないのだけれど、今外に出ればまた心配させてしまう
どうしてもそれだけは避けたい
…特に、今は
かと言って眠れないのにベッドで大人しくしているのは若干無理がある
自分でも自覚しているが、私は落ち着きがない
大人しくしているというのは苦手中の苦手なわけで…
「…………シア、起きてっか?」ボソッ
不意に小声で声をかけられる
振り向くと、薄らと隣にユーリの顔が見える
明かり自体はないものの、窓から入ってくる月明かりでなんとなくは見える
彼もまた寝付けないのだろう
「……ん……起きてるよ」ボソッ
ユーリ同様小声でそう言って苦笑いする
「……こっち来いよ」ボソッ
そう言って手招きしてくる
が、正直言って行こうか迷う
確かにユーリの傍にいる方が寝付けるが、あのユーリだ
万が一にでもここで理性崩壊なんてされたらたまったものじゃない
どうしようかと悩んでいると、ちょっぴり拗ねたような声が聞こえる
「別に手出したりしねぇっての……」ボソッ
「……それ、普段簡単に手出さない人がいう言葉だよ…?」ボソッ
あまりにもあからさまに拗ねるから、仕方なしに自分のベッドから出て、ユーリのベッドに潜り込む
すると、ユーリは嬉しそうに微笑みながらぎゅっと抱きしめてくる
…その笑顔と行動に、ズキっと胸が痛む
……もう、しばらくはこの温もりも感じられないし、声も聞けないんだ……
「シアは相変わらず体温低いよな」
私が考え事をしているのに珍しく気づかないのか、耳元でそう言いながら私を抱きしめる腕に少し力が入った
「………そんなこと、ないよ」
無理矢理笑顔を作ってそう答える
「ふーん……ま、丁度いいんだけどな」
そう言って頬にキスしてくる
月明かりに照らされたユーリの横顔は、眠そうで……それと同時に、どこか寂しそうだった
「ユーリ……?」
少し心配になって声をかけると、顔を見られたくなかったのか、私の頭を自分の胸に当てた
「……なぁ……シア……お前は、オレの傍……離れねぇ……よな……?」
「……っ!!」
眠そうなその声と、言われた言葉に思わずドキッとした
……もしかしたら、気づかれているのかもしれない……
…それでも、私は……
「…………大丈夫、だよ、ちゃんと傍にいるよ」
そう言いながら彼の頭を撫でる
……今の彼を宥めるためについた、最低な嘘……
それでも、身体は傍に居れなくても、心だけは傍にいるつもりなんだ
「……そっか………そう、だよ……な………」
嬉しそうに微笑むと、ユーリはそのまま眠りについた
そのユーリの頭をもう一度、優しく撫でる
「…………ごめんね………ユーリ………」
眠っている彼にも聞こえない程の掠れた小さな声でそう呟いた
~次の日~
「さてと…んじゃマンタイクまで戻るとしますかね」
起きてからみんなで朝食を済ませて、今はもう出発するところだ
結局、フェローに関する情報はゼロだった
……表面上は、だけどね……
私は一度、フェローの姿を見たし……
まぁ、見たからと言って会えるかって言われたら、それはまた別問題だし、みんなには言わないでいっかな
「結局……フェローに会えませんでしたね……」
しょんぼりとしながらエステルは呟く
「…まぁ、満月の子のことならベリウスもわかると思うけど……」
肩を竦めてエステルにそう伝える
彼女が知りたいのは、それだけでなくフェローの心情もなのだとはわかっているが、それでもフェローに会わせるなんてリスクが高いことをこれ以上して欲しくないのだ
「ま、最悪その方がいいんじゃない?」
レイヴンが賛同するようにそう言う
彼の場合…単純にもう砂漠に行きたくないだけだろうけど
「後のことはマンタイクに戻ってから決めましょ。今は戻ることだけ考える!」
リタのお説教じみた声が聞こえてくる
私が、はーい、と若干おどけて言ったのを合図に、いつも通りユーリとジュディスを先頭に歩き出す
私は最後尾をゆっくりとついて行く
…正直、まだ迷っているところはある
このままユーリ達と行動を共にすることだってできる
けど、それはあの人の言いなりになったままになるのも事実だ
かと言って、私が勝手に行動し始めたと知られれば、下町の人達がどうなるかがわからない
………夜までに、結論、ださなきゃ……
「ふぅ……ようやくついたね!」
マンタイクにつくなり、カロルの安堵した声が聞こえる
…確かに無事についた、ついたけど……
「…ユーリ、あれ」
ユーリの隣に行って入口に置いてある馬車の方を指さす
「っ!!あれは…!」
…そこには、キュモールと騎士に無理矢理馬車に載せられている街の人の姿が見えた
嫌な予感はマンタイクを出た時からしていたけど……まさか本当にこんなことしてたなんて……
「……一旦隠れましょ」
ジュディスの言葉に無言で頷き、話し声が聞こえる場所に身を隠した
「ほらほら!早く乗れよ!…全く、これだから庶民は嫌いなんだよ」
キュモールの偉そうな声に怒りを覚える
「キュモール様、全員乗りました!」
「よし、じゃあ、お前も乗れ」
「……は……?」
「作業が遅いノロマには罰を与えないとね」
ニヤニヤと騎士を見下した目で見ながら彼はそう言う
「キュっ、キュモール様!どうかお許しを…!私には妻と娘が…!!」
必死で懇願するが、キュモールは全く聞き入れようとせず、ならば次に行くのはその二人かな?、と脅しをかける
「あのオカマ野郎…!本っ当に最低!」
リタはそう呟いて、思い切りキュモールを睨みつける
「ど、どうしましょう…!」
ワタワタとエステルが慌てている中、ユーリはカロルにヒソヒソと何か伝えたと思うと、伝えられたカロルは素早く動き出した
「ユーリ…カロルに何悪知恵教えたの?」
若干ジト目でユーリを見つめると、首をすぼめて、「まぁ、見てろ」と小さく呟いた
目線を馬車に戻すと、いよいよ動き出そうとしていた
すると突然、馬車の後輪が外れ、身動きが出来ない状態になった
ユーリがカロルに教えたのはこれか……
「キィーーッ!!整備したやつは誰?!さっさと直せよっ!!」
その場で何度か地団駄を踏むと、キュモールは派出所へと戻って行った
「ふぅー…ドッキドキだったよ」
額に滲んだ冷や汗を拭いながらカロルが戻って来た
「ご苦労さん」
そう言いながら、ユーリはカロルの頭にポンッと、手を置いた
「でも、根本的な解決にはならないわよ?」
ユーリを見ながらジュディスが言葉をつなぐ
そう、これはただの時間稼ぎ
なんの解決にもなっていないのだ
「…あぁ、わかってる」
ギュッと左手に持った刀を強く握りしめながら、ユーリはいつもよりも少し低い声で言った
…一拍置いて繋がれたその声は、以前ラゴウを殺そうとした時と同じだった
……恐らく、ユーリの考えはあの時と同じだ
……でも、絶対に、ユーリにはそれをさせられない、させたくない
ユーリだけじゃなく、フレンにも、他の誰にもそんなことさせない
……血に汚れるのは、私一人で充分だ
右手でそっと、自分の愛刀を握りしめる
……これで…ユーリたちから離れるための【材料】は、揃った
マンタイクに来た時から、私に残された選択肢はこれしかなかったんだ
……もう、後戻りは出来ない
一度宿屋に行こうという話になり、私達は宿屋へと足を向けた
~その日の夜~
寝る直前までキュモールをどうするかという会議が続いたが、結局、いい案は出ず…
砂漠を越えて来たこともあり、満身創痍だったメンバー達は寝についた
……起きているのは、私だけ
眠っているみんなを、起こさないように静かに部屋を一人出て行く
外に出れば満天の星空が広がっている
いつものように赤黒くなってしまったマントを取り出して目元まで被る
『アリシア……』
「……ごめん、アリオト……でも、もうこれしかないんだ」
シリウスたちに静止される前にキュモールの元へと走り出す
派出所は警備も全くされてなく、容易に中に入れた
中ではキュモールがすやすやと眠っているのが目に入る
その彼の寝ているベッドを思い切り蹴飛ばせば、何事かと飛び起きる
「だ、だだだだっ!!誰だいっ!」
半分怯えたように問われるがそんなこと知ったこっちゃない
何も言わず、無言で近づく
「くっ、来るなぁぁ!!!」
そう言うと、あっさりと派出所から外へと逃げ出す
その後をゆっくりと追いかける
どうせ腰抜かしてるんだろうし
派出所から出ると、案の定そう離れていないところにキュモールの姿が見えた
やはり腰を抜かしているようで、走って転けて、走って転けてを繰り返している
その後を普段歩くのと同じペースで追いかける
……背後に誰かの気配を感じたけれど、あえて気づかない振りをした
腰の抜けたキュモールにはすぐに追いついた
行き止まりの路地……そして、彼の後ろは蟻地獄
彼はもう、進むことも、戻ることも出来ない
徐々に追い詰めるようにキュモールに歩み寄る
「ま、待てっ!!ぼ、僕は貴族なんだぞ…っ!貴族に手を出したらどうなるかわかっているのか…っ?!」
「………よくもまぁ、いけしゃあしゃあとそんなこと言えるわね」
フードを外しながらそう言うと、青ざめていた顔が更に青ざめる
「アリシア…様……っ!!!?!!な、なぜっ?!!何故、このようなことを…っ!!」
普段、敬語なんて使わない彼が怯えた声でそう問いかけてくる
「何故?何故かなんて、あなたが一番よく理由わかってるわよね?」
そう言いながら、また足を進める
「『貴族に手を出したら』?笑わせないでよ。あんたらや評議会の奴らは、自分達より上の地位の人間見殺しにしてるじゃないの。それでよく威張っていられるわね」
いつもよりも何倍も低い声でそう言いながらキュモールに近寄る
なんでこんな奴らは生きていて、多くの人々の為に働いたお父様とお母様が死ななければいけなかったの?
……今だって疑問に思ってるし、彼らを憎んでる
「ひっ、ひぃぃぃっ!!お、お助けを…!!そ、そうだ!!僕の力でユーリ・ローウェルのこれまでの罪を帳消しにしましょう!!フレン・シーフォにも、もっとより良い環境を与えるように致しますよ!!」
キュモールは、ダラダラと冷や汗を流しながら、ゆっくりと後退して行く
……あぁ、やっぱりこいつにはそのくらいしか考える脳がないのか
「……私が望んでることなんて、たった一つしかないのよ」
そう言って、一気にキュモールとの距離を縮めて、彼の背後にある蟻地獄へと蹴り落とす
「ひぃぃぃっ!!たっ、助けてくれ…っ!!このままでは死んでしまうっ!」
「……あなたは今まで、何度その言葉を聞いてきた?」
ただただ、見下すように彼を見下ろす
抜け出そうともがいているのか、彼の体はすぐに地中へと埋もれて行った
「…………これで、よかったんだ」
自分に言い聞かせるように小さく呟いて、空を見上げる
満天の星空はいつものように綺麗だけれど、どこか寂しそうに見えた
ぼーっと空を眺めていると、カシャッカシャッと、金属音が何処からか鳴り響く
それとほぼ同時に、聞き慣れた二つの声が背後から聞こえてきた
「……ユーリ、後でアリシアも連れて湖に来てくれるね?」
「……あぁ、わーったよ」
ゆっくりと後ろを振り向けば、恐らく私の行動をずっと見ていたであろうユーリと、一部始終を見たと思われるフレンの姿が目に入る
私が二人に気づいたことに気づくと、バツが悪そうにしながらも、フレンは自分の隊を指揮しににか、去っていった
後に残ったのは私と……ユーリだけ
「…見てたでしょ?ずっと」
不意にそう言えばユーリは目を逸らす
さっきから背後に感じていた気配がユーリだということくらい、わかっていた
「……まぁ、何も言えなくなるもの無理ないよね。だって二度目だもんね」
自嘲気味にケラケラ笑いながら言う
「………なんで、笑ってられんだよ……」
掠れた声で、聞き取れるか聞き取れないか、微妙な音量でユーリはそう言った
自分でも、なんでこんなに笑っていられるかなんてわからない
でも自然と笑ってしまうんだ
「ん?んー…なんでだろ?ユーリの手を汚さずに済んだからかな?」
笑顔を崩さずにそう答える
そして、ユーリが口を開く前に言葉をつづけた
「だって、私がやらなかったら、ユーリがやってたでしょ?」
「それは………」
そこでユーリの言葉は止まる
図星だなんてすぐにわかる
だって、誰よりも傍で見てきたんだから…
「……ユーリ、前に言ったよね?ユーリにはここまで堕ちて欲しくないって。それは今も変わらず思ってる」
笑うのをやめて、じっとユーリを見つめながらそう言う
「っ…!だけどな…!オレだって半分背負わせてくれって言ったじゃねぇか…!!」
寂しさや、悲しみに近い声でそう言われ、ズキっと胸が痛む
確かにそうだ
背負わせてくれ、とは言われた
けれど……
「……私は背負ってとはあの時言わなかった。この罪を、ユーリに背負わせるつもりはないよ
……だって私が勝手にしたことなんだから」
羽織っていたローブを脱ぎ、いつもの場所に仕舞いながら、ユーリの方へ歩き出す
「……シア………」
月明かりに照らされているユーリが、何故か遠い存在に感じられる
彼だって色々なことをしてきて、騎士団の厄介になっているけれど
でも、私よりもやってる事は軽い
私はもう、光を浴びることすら許されない程に、この手を汚した
今更彼の傍に居たいと思うのは傲慢だ
「…ほら、戻ろ?カロル達が心配するよ」
ニコッと微笑みながらユーリにそう声をかけて、宿屋へと来た道を戻る
「ユーリ!!外すっごい賑やかだよ!!」
目をキラキラと輝かせたカロルが部屋へと戻ってくる
宿屋に戻って来てから数十分、外はもうお祭り騒ぎだ
理由は単純、キュモールが居なくなったからだ
ようやくこの街の人々に自由が戻ってきたのだから、そりゃこうなるよね
「うふふ、これがこの街の本当の姿なのね」
楽しそうに笑いながらジュディスが言う
エステルとパティ、リタは三人で街に出かけて行ったし、レイヴンは気づいたら居なくなってた
つまり、ここにいるのはカロルとユーリ、ジュディスと私だけだ
「でもキュモールを捕まえられなかったのは残念だよね」
少し悔しそうにしながらカロルがそう言う
今、キュモールは逃走中となっているが、実際は私が手をかけたわけだし、もう二度、会うこともない
「…ちょっとフレンのとこ行ってくるね」
そう言って立ち上がると、同時にユーリも立ち上がる
「んじゃ、オレも一緒に行くとしますかね」
「相変わらず仲が良いわね」
ふふっと羨ましそうにジュディスが微笑む
それに答えるように微笑み返して、宿屋を後にした
殆ど喋ることもなくフレンの待っているはずの湖へとやってきた
「……来たね」
「…来なきゃ更に怒られそうだったしね」
先に来ていたフレンがこっちに来い、と手招きする
それに従ってフレンの隣…を通り過ぎて、湖に近づいた
私から少し離れたところでユーリの足音が止まったのが聞こえた
「さてと……言いたいことは山ほどあるけど……アリシア、なんで手をかけたんだ?彼は法によって裁かれるべきだっただろう」
少し強めの口調で、咎めるように訴えてくる声が後から聞こえてくる
「………うん、そうだね。本来ならそうすべきなんだろうね」
湖の方を見つめながら、振り返らずにそう答える
「っ!!わかっているのならなん」
「貴族を守るための法で、キュモールを裁けるって思ってるの?あのラゴウを守った法が??…くっだらない。守られるはずの人々が守られない法なんて、ある意味がないわ」
フレンの言葉を遮って言う
彼の言いたいことはわかってる
確かに人が人を勝手に裁くなんてしてはいけないんだろう
けれど、その人を裁く法を創るのもまた人だ
その人が作った法ばかりにしたがっていたら、守れるものも守れなくなってしまう
「アリシア……」
寂しそうな声で私の名をフレンは呼ぶ
「……私は自分がしたことが正しいことだとは思っていないよ。むしろ間違ってる。でもさ、どうしてたって許せないものは許せない、許しちゃいけないものは許しちゃいけないんだ
…例えこの手が罪で汚れようとも、私は私の守りたい人達の為に手をかける
それが、たとえ自己満足だったとしても」
振り返りながら二人に向かってそう言った
二人は寂しそうな表情で私を見つめている
「……アリシアがしたことが正しいとは、僕にも言えない。けれど、それで救われた人々がいることも事実なんだっていうことはわかってる。
…でも、なにも手をかけるのが君じゃなくてもよかったじゃないか……
ユーリでも……それに、僕であったって……よかったじゃないか……」
少し泣きそうな声でフレンは訴えてくる
「……ユーリには言ったけどさ、私はユーリに…もちろんフレンにもここまで堕ちて来て欲しくないんだ」
泣きたい気持ちをぐっと抑えて、できるだけいつも通りの調子で言葉を繋ぐ
「…手を汚すのは、私一人だけで充分だから。
……もちろん、私が今まで犯した罪も誰かに一緒に背負ってもらうつもりもないよ」
微笑んでみるが、どうにも目元だけうまく笑えていない気がする
「……なんで、そこまで自分を追い詰めんだよ……シア…お前、何隠してんだよ…?」
歯を食いしばりながらユーリが問いかけてくる
本当は、今すぐにでも怒鳴りたいのであろう
「…………私からは言えない」
そう呟いて、チラッと空を見る
『彼ら』なら後できっとユーリに話してくれるだろうから
「シア……」
「…でもね、一つだけはっきりしてることはあるよ」
宿屋に置きっぱなしの荷物が少しあるけど、必要なものは手元にあるし、『あれ』はユーリからエステルに渡して貰えばいい
「はっきりしていること……かい?」
不思議そうにフレンが聞き返す
「………私はしばらく、みんなと一緒にはいられない。これ以上、一緒に旅を続けることは出来ない」
少し泣きそうになりながらも、しっかりとそう言って、空を見上げる
「っ?!!なんで、なんでだよっ!!」
半分怒鳴りながら、ユーリが問いかけてくる
「……ごめん、ユーリ……でも、キュモールにまで手をかけた以上、みんなとは一緒にいられない
それに、これ以上は私の体も持ちそうにないから…」
「っ!!…だからっつって、身体ボロボロのお前を、一人にしろっつーのかよ…!!」
そう言うユーリの声には怒りと寂しさが混じっているように聞こえた
「…わかってるよ、けど、このままじゃエステルだって危険に晒してしまうから…」
そう、自分の身体が限界に近づいていることくらい…わかってる
その原因の一つのエステルが、フェローに狙われていることだって……
一昨日、フェローの作った幻術に襲われたのは……エステルに、私から、そして、私に『離れろ』っていう、フェローからの警告
「始祖の隷長……フェローが、命を狙うかもしれねぇからか…?」
察したようにユーリが呟く
「……うん、そうだね。それもある。
けど、敵はもっともっと身近にいるよ」
困惑仕切った表情のユーリとフレンが目に入る
「……エステルから目を離さないで。彼女を…一人にしないで。例え何があっても、絶対に」
そう言いながらじっとユーリを見つめる
私が居なくなれば確実に『あの人』が動き出すはずだ
……エステルがユーリの傍にいるかいないかで、帝国の未来が大きく左右される
…いい方向にも、悪い方向にも
「………わかった………」
絞りだすような声でユーリはたった一言そう言った
本当は『行くな』って言いたいんだろうけど
それを言わないのは私の決意が固いってわかったからだろう
「……フレン、下町の人達のこと、注意してみてあげて
私がここから居なくなったら……あの人が何するか、わからないから」
今度はフレンを見つめてそう伝える
下町の人達のことを任せられるのは、フレンしかいない
フレンだけが、頼りだから
「………わかった、約束するよ」
間を置いてからフレンは躊躇いながらもそう答えた
「……ごめんね、二人とも……後、頼んだから
……あ、それと、宿屋に置いてあるペンダント、エステルに渡して
絶対……私が戻ってくるまで、絶対に外させないで」
ユーリにそう伝えると、ただ無言で頷いた
「それじゃあ……」
「待ってくれ、アリシア
……君は、一体、一人で何処に行くと言うんだい…?」
飛び立とうとしたところで、フレンに止められる
不安しきった顔でじっと見つめてくる
「…私は私で、エステルの力を少しでも抑えられる方法を探してくる。……きっと、必ずあるはずだから
……ごめん、もう、行くから……また、ね?」
そう言って地面を蹴りあげる
いつかの時に帝都へこっそり帰った時と同じく、空に舞う
決して振り返らずに、高度をあげる
…振り返ったらきっと、せっかく決心したのに揺らいでしまうかもしれないから
街が見えないくらい上がると、上昇をやめてその場に留まる
『アリシア…よかったの?これで』
アルタイルが問いかけてくる
「……いいんだよ、これで。私がエステルから離れたことで、お兄様の目が私に向くはずだもん…その方が好都合だよ」
苦笑いしながらそう答えた
少しでも、お兄様の目が私に向けば、エステルからお兄様を遠ざけられるかもしれない
…これは賭けだ
けれど、あのままみんなと居てお兄様に従うよりも、離れて行動した方がずっとずっとマシだ
『……で、お前はこれからどうするつもりなのだ?』
「んー、とりあえずはフェローのとこに行こうかなぁ」
シリウスの問いにそう答える
『始祖の隷長に?何故だ??』
「もう一度エステルに会って欲しいって頼んでみようかと思ってさ」
そう言いながらフェローの住んでいる岩場の方を向く
承諾してくれるかはわからないけど、頼んでみる価値はある
『その後はどうするの?』
「エステルの力を少しでも抑えられる方法を探しながら…あの人の、お兄様の計画を潰せないか色々試してみるつもりだよ」
実際のとこ、私一人で何が出来るかなんてわからない
けど、行動してみなきゃ何も変わらない
……最悪……せめて、エステルだけはお兄様から守らないと
じゃなきゃ、始祖の隷長の満月の子への不信感は取り払えない
立ち止まってる暇はない
いつもよりも速度をあげて、フェローの元へと急いだ
「……ねぇ、ユーリ、さっきの話…信じられる?」
宿屋へ戻る途中、ふと足を止めてカロルが前にいるユーリに問いかける
『さっきの話』とは、デュークとアリシアが交わした会話のことだろう
星暦の一族の本来の使命は、エアルの乱れの原因を排除すること
それが例え、『人』であったとしても…
「……信じらんねぇよ……シアから今までそんな話、聞いたことねぇし」
カロルが足を止めたのに合わせるように、ユーリもまた足を止め前を向いたまま口を開いた
信じられないのは、この中で彼女と一番一緒にいる時間が長いユーリも同じであった
もちろん、一族の掟上言えなかっただけなのかもしれない
が、星暦でないデュークがその事を知っていたことが彼は腑に落ちなかった
「デュークのあんちゃんは一体どこまで知ってるんだかねぇ…アリシアちゃんの両親の友人だってのは、風の噂で聞いたことあっけどねぇ」
頭の後ろで手を組みながらレイヴンが呟く
「あのねぇ…さっきの会話聞いてれば、誰だってそのくらいわかるわよ!」
少しイラついた口調でリタがレイヴンを睨みつける
「あたしはそんなことより、アリシアが喋れない情報をアイツが勝手に喋ったことの方が気になるわよっ!」
レイヴンから目を離し、あからさまに怒りを露わにした様子で彼がいる家を睨みつけた
リタにとって、唯一無二の親友であるアリシアが、彼のせいで星たちに怒られたりしていないか…それだけがリタにとっては心配だった
「そんなに心配しなくても、彼らは彼女を怒らないんじゃないかしら?いつだって見ているのでしょ?」
少し肩を竦めながらリタを落ち着かせるようにジュディスが言う
「そうじゃのう、うちもそんなに理不尽なことはしないと思うのじゃ」
ジュディスに賛同するように首を縦に振りながらパティが話す
「……まぁ……それもそう、よね…」
リタは少し納得したように呟くが、「いやでも万が一にでも……」と、顎に手をあてながらブツブツ呟きだす
「シアが怒られてるにせよ、怒られてないにせよ、ここにいたってどうしようもねぇんだ。さっさと宿屋に戻ろうぜ」
ユーリが宿屋の方を指差して、再び歩き出す
それに続くように、他のメンバー達も歩き出す
一行が宿屋へ歩き出すのを確認すると、レイヴンは一人立ち止まって空を軽く見上げる
「………さて…………アリシアちゃんはどう動くかねぇ………」
誰に言うわけでもなく小さくそう呟いて、ユーリ達の後を追いかけて走り出した
「あれ?アリシア…戻って来てないのかな?」
宿屋で借りた部屋に入ってすぐにカロルが首を傾げた
アリシアの姿がそこにはないのだ
「おかしいわね…先に帰ったはずだけど…」
ジュディスが不思議そうに部屋を見回しながら呟く
「おいおい…まさか一人で砂漠に行った、なーんてねぇだろうな…?」
苦い顔をして宿屋の入り口の方を見つめながらユーリが言う
大人しくしている、というが全くと言ってもいいくらいに出来ない彼女であれば、一人で砂漠に行ってしまってもおかしくないだろう
「えぇ…いくらなんでも流石にそれはないんじゃないかな??」
まさかそんなこと…と、いった様子でカロルが言うと、すかさずリタが口を開く
「あんたはアリシアのこと全っ然わかってないわね。『大人しく待ってなさい』って言われても、勝手に一人でフラフラとどっかに行くのがアリシアなのよ。危ないから絶対近づくなって言っても、平気で行っちゃうような子なのよ?」
呆れ気味に、そして少し怒り気味にリタはワナワナと拳を震わせながら言う
彼女からしたらアリシアの行動ほど、心配になるようなものはないのだ
「現にカプア・ノールの時もそうだっただろ?」
リタの言葉に付け加えるようにユーリが言うと、カロルとエステルは納得したように「あぁ……」と頷く
「砂漠に一人で行っちゃってるなら、探しに行った方がいいんじゃないの??」
若干眠そうにしながらもレイヴンがそう言う
「それもそうね。一人で砂漠なんて危険すぎるわ」
ジュディスがそう言うと、一同は頷き合い、探しに行く準備を始めようとする
ーーーーーその時だった
ガチャッ「……こんな時間からお出かけ?」
聞き慣れた声に驚き、扉の方を見れば、そこには今探しに行こうとしていたアリシアが、若干不機嫌そうな表情をして立っていた
~アリシアside~
アルタイルと話を終えて、宿屋に戻ったはいいものの…
……こんな時間からみんなして何処に行くつもりなんだろうか……
「アリシア!あんた何処行ってたのよ!先に戻ってると思ったら部屋にいないから、みんなで探しに行こうとしてたとこなのよ!?」
そう言いながらリタが詰め寄ってくる
…あぁ、そう言えばそんなこと言ったっけ……
「…ごめん、ちょっと話してたから」
肩を竦めながらそう答える
実際それ以外に何もしていないわけだし
「……ま、何事もなかったみてぇだし、今回はよしとしていいんじゃねぇか?」
苦い顔でユーリはそうみんなに問いかける
納得はしていないと、すぐにわかった
それでもそう言ったのは、きっとまた、喋れないような内容の話だったんだと思ったんだろう
「そう……ですね。怪我もしてなさそうですし」
「うーん、ユーリがそう言うなら……でもアリシア、今回だけだよ?」
エステルとカロルはユーリに賛同するように頷く
「うん…ごめんね、心配かけて」
苦笑いしながらもう一度みんなに謝る
『もうしないから』とは、言えなかった
だって…もう、当分……いや、もしかしたら一生、みんなと旅をすることは出来ないかもしれないんだから……
「まぁ、アリシアちゃんも無事だったことだし、今日はもう寝ましょーよ」
相変わらずヘラヘラと笑いながらレイヴンが提案する
「そうね、明日はマンタイクに戻らないといけないものね」
ジュディスがそう言うと、みんな頷いてそれぞれに割り当てられたベッドに潜り込んだ
「……灯り、消すね」
みんながベッドに潜り込んだタイミングで、蝋燭の火を消した
そして、足音をたてないように私に割り当てられたベッドに向かう
正直言って全く眠くはないのだけれど、今外に出ればまた心配させてしまう
どうしてもそれだけは避けたい
…特に、今は
かと言って眠れないのにベッドで大人しくしているのは若干無理がある
自分でも自覚しているが、私は落ち着きがない
大人しくしているというのは苦手中の苦手なわけで…
「…………シア、起きてっか?」ボソッ
不意に小声で声をかけられる
振り向くと、薄らと隣にユーリの顔が見える
明かり自体はないものの、窓から入ってくる月明かりでなんとなくは見える
彼もまた寝付けないのだろう
「……ん……起きてるよ」ボソッ
ユーリ同様小声でそう言って苦笑いする
「……こっち来いよ」ボソッ
そう言って手招きしてくる
が、正直言って行こうか迷う
確かにユーリの傍にいる方が寝付けるが、あのユーリだ
万が一にでもここで理性崩壊なんてされたらたまったものじゃない
どうしようかと悩んでいると、ちょっぴり拗ねたような声が聞こえる
「別に手出したりしねぇっての……」ボソッ
「……それ、普段簡単に手出さない人がいう言葉だよ…?」ボソッ
あまりにもあからさまに拗ねるから、仕方なしに自分のベッドから出て、ユーリのベッドに潜り込む
すると、ユーリは嬉しそうに微笑みながらぎゅっと抱きしめてくる
…その笑顔と行動に、ズキっと胸が痛む
……もう、しばらくはこの温もりも感じられないし、声も聞けないんだ……
「シアは相変わらず体温低いよな」
私が考え事をしているのに珍しく気づかないのか、耳元でそう言いながら私を抱きしめる腕に少し力が入った
「………そんなこと、ないよ」
無理矢理笑顔を作ってそう答える
「ふーん……ま、丁度いいんだけどな」
そう言って頬にキスしてくる
月明かりに照らされたユーリの横顔は、眠そうで……それと同時に、どこか寂しそうだった
「ユーリ……?」
少し心配になって声をかけると、顔を見られたくなかったのか、私の頭を自分の胸に当てた
「……なぁ……シア……お前は、オレの傍……離れねぇ……よな……?」
「……っ!!」
眠そうなその声と、言われた言葉に思わずドキッとした
……もしかしたら、気づかれているのかもしれない……
…それでも、私は……
「…………大丈夫、だよ、ちゃんと傍にいるよ」
そう言いながら彼の頭を撫でる
……今の彼を宥めるためについた、最低な嘘……
それでも、身体は傍に居れなくても、心だけは傍にいるつもりなんだ
「……そっか………そう、だよ……な………」
嬉しそうに微笑むと、ユーリはそのまま眠りについた
そのユーリの頭をもう一度、優しく撫でる
「…………ごめんね………ユーリ………」
眠っている彼にも聞こえない程の掠れた小さな声でそう呟いた
ーー選択まで、後一日ーー
~次の日~
「さてと…んじゃマンタイクまで戻るとしますかね」
起きてからみんなで朝食を済ませて、今はもう出発するところだ
結局、フェローに関する情報はゼロだった
……表面上は、だけどね……
私は一度、フェローの姿を見たし……
まぁ、見たからと言って会えるかって言われたら、それはまた別問題だし、みんなには言わないでいっかな
「結局……フェローに会えませんでしたね……」
しょんぼりとしながらエステルは呟く
「…まぁ、満月の子のことならベリウスもわかると思うけど……」
肩を竦めてエステルにそう伝える
彼女が知りたいのは、それだけでなくフェローの心情もなのだとはわかっているが、それでもフェローに会わせるなんてリスクが高いことをこれ以上して欲しくないのだ
「ま、最悪その方がいいんじゃない?」
レイヴンが賛同するようにそう言う
彼の場合…単純にもう砂漠に行きたくないだけだろうけど
「後のことはマンタイクに戻ってから決めましょ。今は戻ることだけ考える!」
リタのお説教じみた声が聞こえてくる
私が、はーい、と若干おどけて言ったのを合図に、いつも通りユーリとジュディスを先頭に歩き出す
私は最後尾をゆっくりとついて行く
…正直、まだ迷っているところはある
このままユーリ達と行動を共にすることだってできる
けど、それはあの人の言いなりになったままになるのも事実だ
かと言って、私が勝手に行動し始めたと知られれば、下町の人達がどうなるかがわからない
………夜までに、結論、ださなきゃ……
「ふぅ……ようやくついたね!」
マンタイクにつくなり、カロルの安堵した声が聞こえる
…確かに無事についた、ついたけど……
「…ユーリ、あれ」
ユーリの隣に行って入口に置いてある馬車の方を指さす
「っ!!あれは…!」
…そこには、キュモールと騎士に無理矢理馬車に載せられている街の人の姿が見えた
嫌な予感はマンタイクを出た時からしていたけど……まさか本当にこんなことしてたなんて……
「……一旦隠れましょ」
ジュディスの言葉に無言で頷き、話し声が聞こえる場所に身を隠した
「ほらほら!早く乗れよ!…全く、これだから庶民は嫌いなんだよ」
キュモールの偉そうな声に怒りを覚える
「キュモール様、全員乗りました!」
「よし、じゃあ、お前も乗れ」
「……は……?」
「作業が遅いノロマには罰を与えないとね」
ニヤニヤと騎士を見下した目で見ながら彼はそう言う
「キュっ、キュモール様!どうかお許しを…!私には妻と娘が…!!」
必死で懇願するが、キュモールは全く聞き入れようとせず、ならば次に行くのはその二人かな?、と脅しをかける
「あのオカマ野郎…!本っ当に最低!」
リタはそう呟いて、思い切りキュモールを睨みつける
「ど、どうしましょう…!」
ワタワタとエステルが慌てている中、ユーリはカロルにヒソヒソと何か伝えたと思うと、伝えられたカロルは素早く動き出した
「ユーリ…カロルに何悪知恵教えたの?」
若干ジト目でユーリを見つめると、首をすぼめて、「まぁ、見てろ」と小さく呟いた
目線を馬車に戻すと、いよいよ動き出そうとしていた
すると突然、馬車の後輪が外れ、身動きが出来ない状態になった
ユーリがカロルに教えたのはこれか……
「キィーーッ!!整備したやつは誰?!さっさと直せよっ!!」
その場で何度か地団駄を踏むと、キュモールは派出所へと戻って行った
「ふぅー…ドッキドキだったよ」
額に滲んだ冷や汗を拭いながらカロルが戻って来た
「ご苦労さん」
そう言いながら、ユーリはカロルの頭にポンッと、手を置いた
「でも、根本的な解決にはならないわよ?」
ユーリを見ながらジュディスが言葉をつなぐ
そう、これはただの時間稼ぎ
なんの解決にもなっていないのだ
「…あぁ、わかってる」
ギュッと左手に持った刀を強く握りしめながら、ユーリはいつもよりも少し低い声で言った
…一拍置いて繋がれたその声は、以前ラゴウを殺そうとした時と同じだった
……恐らく、ユーリの考えはあの時と同じだ
……でも、絶対に、ユーリにはそれをさせられない、させたくない
ユーリだけじゃなく、フレンにも、他の誰にもそんなことさせない
……血に汚れるのは、私一人で充分だ
右手でそっと、自分の愛刀を握りしめる
……これで…ユーリたちから離れるための【材料】は、揃った
マンタイクに来た時から、私に残された選択肢はこれしかなかったんだ
……もう、後戻りは出来ない
一度宿屋に行こうという話になり、私達は宿屋へと足を向けた
~その日の夜~
寝る直前までキュモールをどうするかという会議が続いたが、結局、いい案は出ず…
砂漠を越えて来たこともあり、満身創痍だったメンバー達は寝についた
……起きているのは、私だけ
眠っているみんなを、起こさないように静かに部屋を一人出て行く
外に出れば満天の星空が広がっている
いつものように赤黒くなってしまったマントを取り出して目元まで被る
『アリシア……』
「……ごめん、アリオト……でも、もうこれしかないんだ」
シリウスたちに静止される前にキュモールの元へと走り出す
派出所は警備も全くされてなく、容易に中に入れた
中ではキュモールがすやすやと眠っているのが目に入る
その彼の寝ているベッドを思い切り蹴飛ばせば、何事かと飛び起きる
「だ、だだだだっ!!誰だいっ!」
半分怯えたように問われるがそんなこと知ったこっちゃない
何も言わず、無言で近づく
「くっ、来るなぁぁ!!!」
そう言うと、あっさりと派出所から外へと逃げ出す
その後をゆっくりと追いかける
どうせ腰抜かしてるんだろうし
派出所から出ると、案の定そう離れていないところにキュモールの姿が見えた
やはり腰を抜かしているようで、走って転けて、走って転けてを繰り返している
その後を普段歩くのと同じペースで追いかける
……背後に誰かの気配を感じたけれど、あえて気づかない振りをした
腰の抜けたキュモールにはすぐに追いついた
行き止まりの路地……そして、彼の後ろは蟻地獄
彼はもう、進むことも、戻ることも出来ない
徐々に追い詰めるようにキュモールに歩み寄る
「ま、待てっ!!ぼ、僕は貴族なんだぞ…っ!貴族に手を出したらどうなるかわかっているのか…っ?!」
「………よくもまぁ、いけしゃあしゃあとそんなこと言えるわね」
フードを外しながらそう言うと、青ざめていた顔が更に青ざめる
「アリシア…様……っ!!!?!!な、なぜっ?!!何故、このようなことを…っ!!」
普段、敬語なんて使わない彼が怯えた声でそう問いかけてくる
「何故?何故かなんて、あなたが一番よく理由わかってるわよね?」
そう言いながら、また足を進める
「『貴族に手を出したら』?笑わせないでよ。あんたらや評議会の奴らは、自分達より上の地位の人間見殺しにしてるじゃないの。それでよく威張っていられるわね」
いつもよりも何倍も低い声でそう言いながらキュモールに近寄る
なんでこんな奴らは生きていて、多くの人々の為に働いたお父様とお母様が死ななければいけなかったの?
……今だって疑問に思ってるし、彼らを憎んでる
「ひっ、ひぃぃぃっ!!お、お助けを…!!そ、そうだ!!僕の力でユーリ・ローウェルのこれまでの罪を帳消しにしましょう!!フレン・シーフォにも、もっとより良い環境を与えるように致しますよ!!」
キュモールは、ダラダラと冷や汗を流しながら、ゆっくりと後退して行く
……あぁ、やっぱりこいつにはそのくらいしか考える脳がないのか
「……私が望んでることなんて、たった一つしかないのよ」
そう言って、一気にキュモールとの距離を縮めて、彼の背後にある蟻地獄へと蹴り落とす
「ひぃぃぃっ!!たっ、助けてくれ…っ!!このままでは死んでしまうっ!」
「……あなたは今まで、何度その言葉を聞いてきた?」
ただただ、見下すように彼を見下ろす
抜け出そうともがいているのか、彼の体はすぐに地中へと埋もれて行った
「…………これで、よかったんだ」
自分に言い聞かせるように小さく呟いて、空を見上げる
満天の星空はいつものように綺麗だけれど、どこか寂しそうに見えた
ぼーっと空を眺めていると、カシャッカシャッと、金属音が何処からか鳴り響く
それとほぼ同時に、聞き慣れた二つの声が背後から聞こえてきた
「……ユーリ、後でアリシアも連れて湖に来てくれるね?」
「……あぁ、わーったよ」
ゆっくりと後ろを振り向けば、恐らく私の行動をずっと見ていたであろうユーリと、一部始終を見たと思われるフレンの姿が目に入る
私が二人に気づいたことに気づくと、バツが悪そうにしながらも、フレンは自分の隊を指揮しににか、去っていった
後に残ったのは私と……ユーリだけ
「…見てたでしょ?ずっと」
不意にそう言えばユーリは目を逸らす
さっきから背後に感じていた気配がユーリだということくらい、わかっていた
「……まぁ、何も言えなくなるもの無理ないよね。だって二度目だもんね」
自嘲気味にケラケラ笑いながら言う
「………なんで、笑ってられんだよ……」
掠れた声で、聞き取れるか聞き取れないか、微妙な音量でユーリはそう言った
自分でも、なんでこんなに笑っていられるかなんてわからない
でも自然と笑ってしまうんだ
「ん?んー…なんでだろ?ユーリの手を汚さずに済んだからかな?」
笑顔を崩さずにそう答える
そして、ユーリが口を開く前に言葉をつづけた
「だって、私がやらなかったら、ユーリがやってたでしょ?」
「それは………」
そこでユーリの言葉は止まる
図星だなんてすぐにわかる
だって、誰よりも傍で見てきたんだから…
「……ユーリ、前に言ったよね?ユーリにはここまで堕ちて欲しくないって。それは今も変わらず思ってる」
笑うのをやめて、じっとユーリを見つめながらそう言う
「っ…!だけどな…!オレだって半分背負わせてくれって言ったじゃねぇか…!!」
寂しさや、悲しみに近い声でそう言われ、ズキっと胸が痛む
確かにそうだ
背負わせてくれ、とは言われた
けれど……
「……私は背負ってとはあの時言わなかった。この罪を、ユーリに背負わせるつもりはないよ
……だって私が勝手にしたことなんだから」
羽織っていたローブを脱ぎ、いつもの場所に仕舞いながら、ユーリの方へ歩き出す
「……シア………」
月明かりに照らされているユーリが、何故か遠い存在に感じられる
彼だって色々なことをしてきて、騎士団の厄介になっているけれど
でも、私よりもやってる事は軽い
私はもう、光を浴びることすら許されない程に、この手を汚した
今更彼の傍に居たいと思うのは傲慢だ
「…ほら、戻ろ?カロル達が心配するよ」
ニコッと微笑みながらユーリにそう声をかけて、宿屋へと来た道を戻る
「ユーリ!!外すっごい賑やかだよ!!」
目をキラキラと輝かせたカロルが部屋へと戻ってくる
宿屋に戻って来てから数十分、外はもうお祭り騒ぎだ
理由は単純、キュモールが居なくなったからだ
ようやくこの街の人々に自由が戻ってきたのだから、そりゃこうなるよね
「うふふ、これがこの街の本当の姿なのね」
楽しそうに笑いながらジュディスが言う
エステルとパティ、リタは三人で街に出かけて行ったし、レイヴンは気づいたら居なくなってた
つまり、ここにいるのはカロルとユーリ、ジュディスと私だけだ
「でもキュモールを捕まえられなかったのは残念だよね」
少し悔しそうにしながらカロルがそう言う
今、キュモールは逃走中となっているが、実際は私が手をかけたわけだし、もう二度、会うこともない
「…ちょっとフレンのとこ行ってくるね」
そう言って立ち上がると、同時にユーリも立ち上がる
「んじゃ、オレも一緒に行くとしますかね」
「相変わらず仲が良いわね」
ふふっと羨ましそうにジュディスが微笑む
それに答えるように微笑み返して、宿屋を後にした
殆ど喋ることもなくフレンの待っているはずの湖へとやってきた
「……来たね」
「…来なきゃ更に怒られそうだったしね」
先に来ていたフレンがこっちに来い、と手招きする
それに従ってフレンの隣…を通り過ぎて、湖に近づいた
私から少し離れたところでユーリの足音が止まったのが聞こえた
「さてと……言いたいことは山ほどあるけど……アリシア、なんで手をかけたんだ?彼は法によって裁かれるべきだっただろう」
少し強めの口調で、咎めるように訴えてくる声が後から聞こえてくる
「………うん、そうだね。本来ならそうすべきなんだろうね」
湖の方を見つめながら、振り返らずにそう答える
「っ!!わかっているのならなん」
「貴族を守るための法で、キュモールを裁けるって思ってるの?あのラゴウを守った法が??…くっだらない。守られるはずの人々が守られない法なんて、ある意味がないわ」
フレンの言葉を遮って言う
彼の言いたいことはわかってる
確かに人が人を勝手に裁くなんてしてはいけないんだろう
けれど、その人を裁く法を創るのもまた人だ
その人が作った法ばかりにしたがっていたら、守れるものも守れなくなってしまう
「アリシア……」
寂しそうな声で私の名をフレンは呼ぶ
「……私は自分がしたことが正しいことだとは思っていないよ。むしろ間違ってる。でもさ、どうしてたって許せないものは許せない、許しちゃいけないものは許しちゃいけないんだ
…例えこの手が罪で汚れようとも、私は私の守りたい人達の為に手をかける
それが、たとえ自己満足だったとしても」
振り返りながら二人に向かってそう言った
二人は寂しそうな表情で私を見つめている
「……アリシアがしたことが正しいとは、僕にも言えない。けれど、それで救われた人々がいることも事実なんだっていうことはわかってる。
…でも、なにも手をかけるのが君じゃなくてもよかったじゃないか……
ユーリでも……それに、僕であったって……よかったじゃないか……」
少し泣きそうな声でフレンは訴えてくる
「……ユーリには言ったけどさ、私はユーリに…もちろんフレンにもここまで堕ちて来て欲しくないんだ」
泣きたい気持ちをぐっと抑えて、できるだけいつも通りの調子で言葉を繋ぐ
「…手を汚すのは、私一人だけで充分だから。
……もちろん、私が今まで犯した罪も誰かに一緒に背負ってもらうつもりもないよ」
微笑んでみるが、どうにも目元だけうまく笑えていない気がする
「……なんで、そこまで自分を追い詰めんだよ……シア…お前、何隠してんだよ…?」
歯を食いしばりながらユーリが問いかけてくる
本当は、今すぐにでも怒鳴りたいのであろう
「…………私からは言えない」
そう呟いて、チラッと空を見る
『彼ら』なら後できっとユーリに話してくれるだろうから
「シア……」
「…でもね、一つだけはっきりしてることはあるよ」
宿屋に置きっぱなしの荷物が少しあるけど、必要なものは手元にあるし、『あれ』はユーリからエステルに渡して貰えばいい
「はっきりしていること……かい?」
不思議そうにフレンが聞き返す
「………私はしばらく、みんなと一緒にはいられない。これ以上、一緒に旅を続けることは出来ない」
少し泣きそうになりながらも、しっかりとそう言って、空を見上げる
「っ?!!なんで、なんでだよっ!!」
半分怒鳴りながら、ユーリが問いかけてくる
「……ごめん、ユーリ……でも、キュモールにまで手をかけた以上、みんなとは一緒にいられない
それに、これ以上は私の体も持ちそうにないから…」
「っ!!…だからっつって、身体ボロボロのお前を、一人にしろっつーのかよ…!!」
そう言うユーリの声には怒りと寂しさが混じっているように聞こえた
「…わかってるよ、けど、このままじゃエステルだって危険に晒してしまうから…」
そう、自分の身体が限界に近づいていることくらい…わかってる
その原因の一つのエステルが、フェローに狙われていることだって……
一昨日、フェローの作った幻術に襲われたのは……エステルに、私から、そして、私に『離れろ』っていう、フェローからの警告
「始祖の隷長……フェローが、命を狙うかもしれねぇからか…?」
察したようにユーリが呟く
「……うん、そうだね。それもある。
けど、敵はもっともっと身近にいるよ」
困惑仕切った表情のユーリとフレンが目に入る
「……エステルから目を離さないで。彼女を…一人にしないで。例え何があっても、絶対に」
そう言いながらじっとユーリを見つめる
私が居なくなれば確実に『あの人』が動き出すはずだ
……エステルがユーリの傍にいるかいないかで、帝国の未来が大きく左右される
…いい方向にも、悪い方向にも
「………わかった………」
絞りだすような声でユーリはたった一言そう言った
本当は『行くな』って言いたいんだろうけど
それを言わないのは私の決意が固いってわかったからだろう
「……フレン、下町の人達のこと、注意してみてあげて
私がここから居なくなったら……あの人が何するか、わからないから」
今度はフレンを見つめてそう伝える
下町の人達のことを任せられるのは、フレンしかいない
フレンだけが、頼りだから
「………わかった、約束するよ」
間を置いてからフレンは躊躇いながらもそう答えた
「……ごめんね、二人とも……後、頼んだから
……あ、それと、宿屋に置いてあるペンダント、エステルに渡して
絶対……私が戻ってくるまで、絶対に外させないで」
ユーリにそう伝えると、ただ無言で頷いた
「それじゃあ……」
「待ってくれ、アリシア
……君は、一体、一人で何処に行くと言うんだい…?」
飛び立とうとしたところで、フレンに止められる
不安しきった顔でじっと見つめてくる
「…私は私で、エステルの力を少しでも抑えられる方法を探してくる。……きっと、必ずあるはずだから
……ごめん、もう、行くから……また、ね?」
そう言って地面を蹴りあげる
いつかの時に帝都へこっそり帰った時と同じく、空に舞う
決して振り返らずに、高度をあげる
…振り返ったらきっと、せっかく決心したのに揺らいでしまうかもしれないから
街が見えないくらい上がると、上昇をやめてその場に留まる
『アリシア…よかったの?これで』
アルタイルが問いかけてくる
「……いいんだよ、これで。私がエステルから離れたことで、お兄様の目が私に向くはずだもん…その方が好都合だよ」
苦笑いしながらそう答えた
少しでも、お兄様の目が私に向けば、エステルからお兄様を遠ざけられるかもしれない
…これは賭けだ
けれど、あのままみんなと居てお兄様に従うよりも、離れて行動した方がずっとずっとマシだ
『……で、お前はこれからどうするつもりなのだ?』
「んー、とりあえずはフェローのとこに行こうかなぁ」
シリウスの問いにそう答える
『始祖の隷長に?何故だ??』
「もう一度エステルに会って欲しいって頼んでみようかと思ってさ」
そう言いながらフェローの住んでいる岩場の方を向く
承諾してくれるかはわからないけど、頼んでみる価値はある
『その後はどうするの?』
「エステルの力を少しでも抑えられる方法を探しながら…あの人の、お兄様の計画を潰せないか色々試してみるつもりだよ」
実際のとこ、私一人で何が出来るかなんてわからない
けど、行動してみなきゃ何も変わらない
……最悪……せめて、エステルだけはお兄様から守らないと
じゃなきゃ、始祖の隷長の満月の子への不信感は取り払えない
立ち止まってる暇はない
いつもよりも速度をあげて、フェローの元へと急いだ