第2部〜満月の子と星暦の真実〜
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「うっ………」
脇腹の痛みに目を開けると、そのには見慣れた闇が広がっている
「……あちゃぁ………これは………あれ、かな……?」
苦笑いしながら頬を掻いていると、後ろから『誰か』が頭に手を乗せてくる
『誰か』、なんて、そんなのわかってる
『アリシア……!お前と言うやつは……!!!』
その声に、ゆっくりと振り向く
そこには、私の思った通り、シリウスが立っていた
……鬼の形相みたいに怖い顔してることには敢えて触れないでおこう
「あ、あはは……おかしいなぁ……昨日から力使って無いはずなんだけどなぁ……」
私の記憶上、カドスの喉笛を出てから一度も力を使っていないはずなのだ
かなり真面目に
『アリシア……満月の子が近くに居るの、忘れてるでしょ……』
いつの間に来ていたのか、呆れ気味にカストロが話しかけてくる
「あっ、……そーいえば、エステルがめっちゃくちゃ治癒術使ってたような……」
若干シリウスから目を背けながら呟く
…確か、マンタイクの宿屋でエステルがかなり治癒術を使いまくっていたような気もしなくはない
……あの時は考え事してて、それどころじゃなかったし………
『……アリシア?本当にお前は反省しているのか?』
本気で怒った時の低い声でシリウスが問いかけてくる
その声に、思わずビクッと肩があがる
相変わらず、何度聞いてもシリウスのこの声にはなれない
……まぁ、慣れてしまうのも大問題なのだが……
「…………ご、ごめんなさい………」
俯いたまま謝る
今回ばかりは無理し過ぎた私が悪い
『…アリシア、やっぱり始祖の隷長も言ってたけど、これ以上は…』
少し遠慮がちにカストロは言う
…私がその選択を出来ないことを、知っているはずなのに…
『カストロの言う通りだ。………これ以上は、本当にお前が死んでしまう』
カストロに賛同しながらも、シリウスは悔しそうに顔を歪める
星たちからしたら、エステルや下町のみんなよりも私のことの方が大切だろうし、そう言う理由もわかってる
……けど、それでも……
「……ごめん、二人とも…それは……出来ないよ」
ゆっくりと顔をあげて、真っ直ぐに二人を見詰める
『アリシア……』
「…私だってね、二人が……みんなが、私の心配をしてそう言ってくれてることくらい、理解してるよ
……それでも、みんなが、私のことを思ってくれてるのと同じように……私にとって、下町のみんなが大切なの
もちろん、エステルのことだって大切だけど……」
二人から目を逸らさず、真っ直ぐ見つめたまま言う
…目を逸らしてしまったら、私の気持ちが伝わらない気がしたから……
『……わかってる、僕らだってそれくらい……わかってるよ、アリシア』
寂しそうに微笑みながらカストロが答える
『でもアリシア、お願いだからこれ以上、無理だけはしないで……』
「うん…ごめんね、カストロ…もう無理はしないよ」
泣きそうになっている彼の頭を撫でながら、せめてもと微笑みながらそう告げる
『………今度こそ、約束だぞ……?』
絞り出すようにシリウスは言う
「ん…約束、本当の本当に、約束だよ」
私自身に言い聞かせるように、同じ言葉を繰り返す
もう、倒れるようなことは出来ない
…ううん、しちゃいけないんだ
いつも私の心配をしてくれている星たちの為にも
……そして、ユーリ達の為にも……
「…ユーリ、やっぱ怒ってるよなぁ……」
苦笑いしながら肩を竦めて呟く
『そうだな。アリオトが宥めようとしているみたいではあるがな』
怒られて当然、というような口調でシリウスは言う
…うん、まぁ…わかってたけどさ…
「だよねぇ……
ちなみにだけど、今何処に居るの?」
そう首を傾げると、二人は困ったように顔を見合わせる
『うーん……それがなんとも言えないんだよねぇ……』
「え…?それ、どうゆうこと…?」
『まぁ…簡単に説明すれば、お前たちの気配は感じ取れるが、今居る正確な位置まではわからんのだよ』
首を竦めながら、シリウスが答える
今まで私が何処に居るか、正確な位置を的確に当ててきていたシリウスがこんなことを言うなんて……
そんなの、初めてだ
『さしずめ、あの始祖の隷長の仕業だろうけどね』
呆れたようため息をつきながら、カストロが言う
「フェローの?なんでまた……」
『彼には彼なりの考えがあるのだろう
……さぁ、アリシア。そろそろ目を覚ますんだ』
そう言うが早いか、シリウスは私の肩を軽く押す
唐突な出来事にバランスを崩した私の体は、前回同様落下していく
「わ…っ!?ちょっ!!?シリウス!!私、まだ聞きたいこと…っ!!!」
そう言いながらシリウスに向かって手を伸ばしてみるが、その手は彼に届くことはなくて
そのまま、私は意識を手放した
「……っ……!ぅ……わ………」
体が異常な程怠い
ゆっくりと目を開けて見るが、見たことのない天井が広がっている
「……ここ……どこ………?」
小さく呟きながら、ゆっくりと頭を横に動かしてみるが、やはり見たことがない部屋の景色が見える
隣にはベットが何個か並んでいるが、どのベットにも人影はない
気怠い体をなんとか起こして、部屋の中をゆっくり見てみる
が、何度見てもやはり、私が知っているようなものは見当たらない
唯一あるとすれば、ベットの横に立て掛けられた愛刀くらいだろう
「…………ユーリたち………何処居るんだろ………」
そう呟きながら、ベットから立ち上がる
「……っ!!!いっ……たぁ………」
が、脇腹の痛みに耐えきれず、ベットに座り直す
自分でも気づかないうちに、体への負担がかなりかかってしまっていたらしい
「…………本当……これじゃただの足で纏いだ………」
頭に手をついて、自嘲気味に笑う
もっと体調管理を徹底していれば……
……ううん、それ以前に、エステルの力が私にとって良くないものだと、伝えていれば…………
……でも、きっとそれを伝えれば、エステルは自分を責めてしまう
それだけは嫌だ…
だってこれは、彼女のせいではないんだから…
むしろ……私の………
「よーやく起きたか、シア」
考え込んでいると、不意にユーリの声が聞こえた
考えるのをやめて、ゆっくり顔をあげる
予想通り、あからさまに怒ってるユーリが目に入る
「……ん………ごめんね…ユーリ」
俯いたままそう言うが、ユーリは何も言わずにただ黙り込んでいる
沈黙……それは多分、ほんの数秒だっただろう
でも、私には数分に感じられるほど、長かった
「…………その『ごめん』は、何に対してだよ?」
いつもよりも低い声に思わずビクッと肩があがる
当たり前かもしれないが、怒ったユーリはかなり怖い
思わず怯んでしまうくらいに…
…それでも、そうさせたのは私が原因だから……
一瞬頭に浮かんだ『怖い』という感情を押し殺して、顔をあげてユーリを見詰める
「……心配、かけたから……無理しないって約束、破ったから……」
何故か溢れそうになる涙をぐっと堪えて、そう答える
ユーリが怒るのは、本気で私を心配しているから…
だから、怒られて当然なんだ
…最悪、嫌われたって、私が悪い
……なのに、なんでこんなに泣きたくなるの…?
何も言わずに、ただ黙ってユーリは見詰めてくる
それに答えるように、私もユーリを見詰め返していた
けれど、あまりに沈黙が長く、ユーリも微動だにしない
本気で嫌われてしまったんじゃないかと、思わず俯いてしまう
……これ以上、ユーリを見詰めているのが怖かった
もし、本当に嫌われてしまっていたら……
そう考えてしまうと、やっぱり泣きたくなってしまう
必死で涙を堪えるが、もう限界は近くて……
「…………ユーリ……ごめん……今は一人にさせて………」
…そんなこと、本当は思ってなんかいないのに
本当は、いつもみたいに抱きしめて欲しいのに
泣いてるとこなんて見られたくなくって
変な意地を張って、突き放すような言葉が口から出てしまった
もう顔をあげるのも嫌になって、ユーリが扉の前にいるのにも関わらず、枕に顔を埋めてギュッとしがみつく
溜め込んでいた涙はもう抑えるのが限界で、じわっと目から溢れる
……本当、自分で自分が嫌になる
「…………嘘つけ、そんなこと思ってねぇ癖に」
不意にそう言うユーリの声は、さっきまでと違って、何処か優しげに聞こえた
それでも、顔をあげることは出来なかった
…言葉を返すことさえ、出来なかった
まるで体が石になってしまったかのように、動くことが出来なかった
あぁ、このままだと、きっとユーリは部屋を出て行っちゃうよなぁ…
頭ではわかっていても、体は全く動きそうになくて……
また、沈黙が続く
さっきよりも、ずっと長く感じられるくらい、長い気がした
部屋の空気は今までないくらいに重いし、息が詰まりそうになる
…それも全部、私が悪いんだけど…ね…
「……ったく、本当仕方ねぇやつだな」
ユーリの呆れた声に、思わずビクッと肩があがる
…やっぱり嫌われてしまったのだろうか…
そんな言葉が頭を過ぎる
……考えたく、ない……
思わず枕にしがみついている腕に力が入ってしまう
……本当、自分なんて………
そんな考えは、不意に頭を撫でられて、途中でストップした
「シア、顔あげろよ?」
いつの間にか傍に来ていたらしく、ユーリの声がすごく近くで聞こえる
さっきまでの低い声じゃなく、宥めるような優しい声で話しかけてきてくれる
声のする方向をゆっくりと向くと、やっぱりすぐ傍にユーリが居るのが目に入る
「って、なんで泣いてんだっての…」
私の顔を見て、困ったように苦笑いしながら、優しく頬を撫でてくる
つい先程までの反応からは考えられないくらい、あまりにも優しく接してくるから、思考がついていけない
「大方、オレが怒ってるから嫌われたとでも思ったんだろ?」
軽く肩を竦めながらユーリは問いかけてくる
それに頷いて答える
「…バーカ、嫌ったりなんてしねぇよ
ま、無理しすぎてるとこに関しては本気で怒ってたけどな」
「あたっ…」
そう言いながら、軽くおでこを弾いてくる
若干力が強くて、少し痛い
「これ以上は本当に無理無茶は禁止だかんな?」
「……うん……」
おでこを軽く擦りながら、小さく頷いた
これ以上は本当に自分の体が危ないことなんて、私自身が1番よくわかっていることだし…
それに、素直に頷かなかったらまた怒られるのが目に見えている
こうゆう時は、大人しく言う事聞いていた方がいい
「つっーか……エステルと一緒に居ても平気なのか?」
若干小さめの声で、遠慮がちにユーリは聞いてくる
エステルの力が私の体を弱まらせてることは、まだユーリしか知らない
だからこそ、万が一にでも聞かれないようにとユーリなりに配慮してくれたのだろう
「………うん、平気だよ
エステルが力使ってる時に傍に居なければいいだけだからさ」
顔をあげて、苦笑いしながらユーリを見詰める
実際、それは不可能に近いだろう
かすり傷ですら、治癒術を使って治そうとするようなお姫様だ
戦闘に参加するとなると怪我は付き物だし、当然近距離メインの私は怪我をしやすい
つまり、彼女が力を使っている時に傍に居ないというのはほぼ不可能だ
「おいおい…それ、幾ら何でも無理なんじゃねぇか?」
流石のユーリもそれをわかっていて、怪訝そうに顔を歪める
「大丈夫だよ。私、当分は戦闘に参加出来ないし、巻き込まれないように注意してれば早々怪我なんてしないよ」
そう言いながら肩を竦める
戦闘に参加するなんて出来ないのは事実だし…
「…本当に大丈夫なのかよ?」
納得していなさそうに顔を歪めながらユーリは聞いてくる
「大丈夫、大丈夫だよ」
そう言って、ニコッと笑って見せる
ユーリが心配なのはわかるが、今エステルから離れるわけにはいかない
だから、少しでも安心させたくて
精一杯笑って見せる
「……シアがそこまで言うなら信じっけど…マジで無茶すんなよな…?」
あまり納得はしていないようだが、渋々という感じでユーリが言う
「わかってるよ。辛くなったら今度はちゃんと言うからさ」
私がそう言うと、苦笑いしながら少し乱暴に頭を撫でてくる
「約束、だからな?」
「…ん、約束、だよ」
そう答えると、ユーリは立ち上がる
「さてと…んじゃ、そろそろあいつらの所に行くとでもしますかね…
シア、行けそうか?」
クルッと私の方を向きながらそう聞いてくる
「歩くくらいなら全然平気だよ!」
そう言って、私もベッドから降りる
…が、そうは言ったもののやはり脇腹がかなり痛む
「いっ…!?!!」
急に体を動かしたせいで、余計に痛みが強くなる
あまりの痛さに思わずバランスが崩れてしまう
「っと!!…おいおい、それのどこが平気なんだよ…」
片手で私を支えながらため息をつく
「あ、あはは…あれ……おっかしいなぁ……」
誤魔化すように笑ってみるが、あからさまに不自然な笑い方になってるのが目に見える
実際、ユーリが呆れた顔して見下ろしてるし…
「はぁ…ったく、デュークに連れて来いって言われたけど、こりゃあいつ来させた方がよさげだな」
ボソッと呟いたユーリの言葉に一瞬、耳を疑った
「…えっ!?デュークさん…っ!?」
思わず大きな声を出して聞き返してしまった
…何故、彼がここに居て、しかも私を探しているのだろうか…
「んな大声だすなっての…まぁ、詳しい話は後ですっけど…どうする?辛いならあいつの方連れてくっけど」
「…ううん、大丈夫、行くよ」
ユーリの問に首を振って、ゆっくり離れる
脇腹の痛みにも大分慣れたし、ゆっくり動く分には問題ないだろう
「…本当に平気か?」
確認するように問いかけてくる
それに首を縦に振って、ゆっくり歩き出す
デュークさんが、私を呼ぶ理由……
それは、以前の約束を果たす為なのか…
…それとも、他に何かあるのか…
シリウス達の言葉も気になるけど、今はとりあえず、デュークさんの方が先だ
心配しているユーリを余所に、私はゆっくりと部屋を後にした
デュークさんの元に向かう途中、ユーリに私が寝ている間のことを聞いた
今、私たちが居るのはエステルが届けたがっていた箱の持ち主がいるヨームゲンという村らしい
運良く通りがかった村の人達が倒れていた私達を、親切に看病してくれたみたいだ
そして、箱の持ち主…
千年もの月日が経っているというのにも関わらず、その人を見つけたうえに、箱も開けてもらったようだ
中身は私が思った通り、聖核が入っていたようで、賢人と呼ばれる人が魔導器を作れる…というのだ
半信半疑でその人の家に行けば、そこに待って居たのがデュークさん
聖核の話はデュークさんが教えてくれたみたい
「……それで、聖核壊した後に私を連れて来いって言われたんだ」
聞いたことを確認するように復唱する
それに、隣にいるユーリは頷く
…聖核を壊したのは、間違いなくお兄様の邪魔をするためだろうけど…
…やっぱり私を呼ぶ理由がわからない…
「ま、詳しいことは本人に直接聞こうぜ?…ようやく到着だよ、お嬢さん」
少し俯いた状態で考えていたが、彼の声に顔をあげる
目の前には周りの家よりも遥かに大きな家が建っている
…ユーリの言う通り、本人に直接聞いた方が早そうだ
コクン、と頷くと、ユーリが家の扉を開ける
先に入ったユーリの後に続くように中に入ると、真正面にデュークさんの姿が
そして、扉の近くにはみんなの姿が目に入る
「アリシア…!あんた、大丈夫なわけっ!?」
入って早々、リタが飛びついてくる
両肩を掴まれて少し乱暴に揺らしてくる
「痛っ!?ちょっ、リタっ!?!!大丈夫だけど痛いからそれやめてっ!?!!」
急に揺さぶられて、つい先程まで気にならなかった脇腹の痛みがまた強くなる
「おい、リタ!やめてやれって!」
私が静止してもやめないリタを、ユーリが無理やり引き剥がす
「おっとっと、アリシアちゃん、大丈夫~?」
ヘラヘラと笑いながら、だけど若干心配気味にレイヴンが少しバランスを崩した私を支えながら聞いてくる
「…ありがと、レイヴン。大丈夫だよ」
そう言って、すぐに彼から離れる
そして、目の前にいるデュークさんを見つめた
「……その様子では、相当体に負担がかかっているようだな」
私を見つめながら、デュークさんはそう言う
その言葉に、ユーリが怪訝そうに顔を顰めたのが視界の隅に見えた
「ふーん、随分わかりきっているような言い方だな」
少し挑発的に言うユーリに、冷静にデュークさんは答える
「……父親がそうだったからな。娘なら尚更だろう。…母親も、随分体が弱かったようだしな」
その言葉に当然ながらみんなは驚く
…もちろん、私もなんだけど
お父様だけじゃなく、お母様のことまで知ってるのは意外だった
「…本当に…貴方はお父様のご友人なんですね…
……貴方はどこまで知ってるんですか?」
ユーリ達の反応を余所に、私はデュークさんに問いかける
「…全て。星暦の事は始祖の隷長が教えてくれた。だからこそ忠告しにお前を呼んだ
…これ以上、満月の子に関わるな」
「……え………?」
デュークさんの言葉に、私よりも先にエステルが反応した
『満月の子』…この単語は、きっと彼が教えたんだろう
ユーリは教えてくれなかったけど…多分そうなんだと思う
「…それは、この子が彼に消されるのを、黙って見てろって言いたいの?」
半分睨み気味に彼を見つめる
こんなことで竦むような人ではないことは、お父様のお話しで充分よくわかっているつもりだ
「………ライラックの死に際に、お前のことを頼まれた以上、お前が死ぬような事はさせられぬからな」
「……それって、あの時、近くに居たってこと?」
半分軽蔑したように冷たく言い放つ
お父様のご友人…だから、疑いたくはない
だけど、もし……彼も関わっていたとしたら……
「…信じるか信じないかはお前次第だ。が、私は奴の様に見殺しにするような真似はせん」
私の言いたい事がわかったからか、デュークさんはそう答える
「……そう………
…それでも、関わらないなんて出来ない」
目を逸らしながらそう答える
「何故だ?星暦として生まれた以上、お前には他にやるべき使命があるのではないか?」
咎める様なデュークさんの言葉に、彼を見ることが出来なくなった
…わかってる
私の本当のやるべき事なんて、知ってる…
「え…?アリシア…?やるべき使命って……?」
黙り込んだ私に、カロルが不安そうな声で話しかけてくる
それでも、言えるはずなんてない…
言えるわけがない…
でも、デュークさんはそんなことお構い無しに、口を開く
「お前の使命は……エアルの循環を始祖の隷長と共に正し、乱す『もの』を排除することだろう」
「………は……?」
「………え……?」
ユーリとエステルがほぼ同時に口を開く
「シア姐……?嘘じゃよな……?」
「排除って……嘘でしょ?そんなことしないよね…?!」
「アリシア……どうなのよ…!!」
「アリシアちゃん…流石にこれは笑えないわよ…?」
ジュディス意外が次々に質問してくるが、私はただ俯くことしか出来ない
だって、それが事実だから
世界にとって危険があるとわかったら、例え人でも魔導器でも排除するのが、私の本当の役目だから
私達星暦は、ただ星の声が聞こえて、彼らの力を借りれるわけじゃない
世界の均衡を乱す『もの』を星が見つけたら、始祖の隷長達と共に対処する…
それが、本来の生き方だから…
今の私のしていることが異常だなんて、わかっている
それでも……
「……そう…だね、否定はしないよ。それが私の使命だし、本来の役目だから
…でも、彼女は殺さない。殺させはしない。それだけが解決策じゃないはずだから」
顔をあげて、真っ直ぐデュークさんをまた見つめる
ここで、引くわけにはいかないから
「それが、自殺行為だとしてもか?」
「友達を殺したくない、死なせたくないって思うのは当たり前でしょ?…例えそれで私自身が死んだとしても、彼女が《世界の毒》だなんてもうフェローに言わせはしない。そのくらいの覚悟もってフェローの忠告無視したんだから、今更放棄するなんてしないわよ」
そう、覚悟なんてとっくの昔に出来てる
昔からずっと、心に決めていたことだったから
何があっても満月の子を殺さない
きっと彼らの力を抑える方法があるはずだから
見つめ返してくるデュークさんから目を背けずに、ただ彼の次の言葉を待つ
「………それが、お前の答えか?」
しばらく沈黙していたデュークさんはたった一言、そう言う
…何処か寂しそうな表情に、一瞬心が痛む
「…そうだよ。もう覚悟は決まってる。……私は星暦が満月の子を殺さなくても世界の均衡を保てる方法を探す。それが…私の昔からの目標だから」
「………そうか、ならば私から言うことはもう何も無い」
そう言って目を背けながら、背後を向いてしまう
…これ以上、質問したとしても答えてくれそうにないね……
「……行こ、みんな」
出口の方に足を向けながらみんなに声をかける
が、ユーリ達は未だに驚いてるようで誰も動こうとはしない
そんなこと気にせずに、一人その場を後にした
「はぁ……まだ時期じゃなかったのに……」
街の入口近くで座り込んで大きくため息をついた
もう大分日が落ちてきている
きっとそろそろ彼らが出てくるだろう
『アリシア…大丈夫?』
そう声を掛けてきたのはアルタイルだ
「ん、へーきへーき~
…それよりも、デュークさんが喋っちゃったけど、大丈夫なの?」
彼女の言葉を軽くあしらって、逆に聞き返す
『まぁ…喋ったのはアリシアじゃないし、シリウス達もこうなるってこと、薄々気付いていたと思うから多分平気だよ』
「ん…そっか、それならいいんだ」
安堵の息をつきながら、空を見上げる
すっかり日の落ちた真っ黒な空には、沢山の星が瞬いている
『…アリシア……?』
黙り込んで空を見つめていると、アルタイルが心配そうに声をかけてくる
「んー?」
『本当に…大丈夫なの…?』
「……大丈夫、大丈夫だよ。もう、みんなして心配症なんだから」
笑いながらそう言ったはいいものの、半分は嘘だ
…大丈夫なわけがない
デュークさんにあのことを言われてしまった以上、彼らが私に不信感を抱いてもおかしくないだろうし
それに、『あの人』のことだ
きっともうお兄様に連絡が行ってるはず…
……連れ戻されるのも時間の問題かもしれない
「…………マンタイクまで………かな……」
下を向いてボソッと小さく呟く
今エステルから離れるわけにはいかない
……でも、もう恐らく……
『??アリシア??』
アルタイルも完全に聞き取れてはいなかったらしく、聞き返してくる
「…んーん、なーんでもないよっ!」
軽く頭を振って、ニッと笑いながら空を見上げる
『……そう……なら、良いんだけど……』
「もう、心配しすぎだって!
…さーてとっ!そろそろ寝よっかな」
心配しているアルタイルを他所に、立ち上がって服についた砂を払う
「…おやすみ、アルタイル」
最後にもう一度、空を見つめて声をかける
『……うん、おやすみ、アリシア…』
寂しそうなアルタイルの声を聞いてから、私は宿屋へと戻った
すぐ近くで、複雑そうに見つめていたフェローに気づかないまま……
脇腹の痛みに目を開けると、そのには見慣れた闇が広がっている
「……あちゃぁ………これは………あれ、かな……?」
苦笑いしながら頬を掻いていると、後ろから『誰か』が頭に手を乗せてくる
『誰か』、なんて、そんなのわかってる
『アリシア……!お前と言うやつは……!!!』
その声に、ゆっくりと振り向く
そこには、私の思った通り、シリウスが立っていた
……鬼の形相みたいに怖い顔してることには敢えて触れないでおこう
「あ、あはは……おかしいなぁ……昨日から力使って無いはずなんだけどなぁ……」
私の記憶上、カドスの喉笛を出てから一度も力を使っていないはずなのだ
かなり真面目に
『アリシア……満月の子が近くに居るの、忘れてるでしょ……』
いつの間に来ていたのか、呆れ気味にカストロが話しかけてくる
「あっ、……そーいえば、エステルがめっちゃくちゃ治癒術使ってたような……」
若干シリウスから目を背けながら呟く
…確か、マンタイクの宿屋でエステルがかなり治癒術を使いまくっていたような気もしなくはない
……あの時は考え事してて、それどころじゃなかったし………
『……アリシア?本当にお前は反省しているのか?』
本気で怒った時の低い声でシリウスが問いかけてくる
その声に、思わずビクッと肩があがる
相変わらず、何度聞いてもシリウスのこの声にはなれない
……まぁ、慣れてしまうのも大問題なのだが……
「…………ご、ごめんなさい………」
俯いたまま謝る
今回ばかりは無理し過ぎた私が悪い
『…アリシア、やっぱり始祖の隷長も言ってたけど、これ以上は…』
少し遠慮がちにカストロは言う
…私がその選択を出来ないことを、知っているはずなのに…
『カストロの言う通りだ。………これ以上は、本当にお前が死んでしまう』
カストロに賛同しながらも、シリウスは悔しそうに顔を歪める
星たちからしたら、エステルや下町のみんなよりも私のことの方が大切だろうし、そう言う理由もわかってる
……けど、それでも……
「……ごめん、二人とも…それは……出来ないよ」
ゆっくりと顔をあげて、真っ直ぐに二人を見詰める
『アリシア……』
「…私だってね、二人が……みんなが、私の心配をしてそう言ってくれてることくらい、理解してるよ
……それでも、みんなが、私のことを思ってくれてるのと同じように……私にとって、下町のみんなが大切なの
もちろん、エステルのことだって大切だけど……」
二人から目を逸らさず、真っ直ぐ見つめたまま言う
…目を逸らしてしまったら、私の気持ちが伝わらない気がしたから……
『……わかってる、僕らだってそれくらい……わかってるよ、アリシア』
寂しそうに微笑みながらカストロが答える
『でもアリシア、お願いだからこれ以上、無理だけはしないで……』
「うん…ごめんね、カストロ…もう無理はしないよ」
泣きそうになっている彼の頭を撫でながら、せめてもと微笑みながらそう告げる
『………今度こそ、約束だぞ……?』
絞り出すようにシリウスは言う
「ん…約束、本当の本当に、約束だよ」
私自身に言い聞かせるように、同じ言葉を繰り返す
もう、倒れるようなことは出来ない
…ううん、しちゃいけないんだ
いつも私の心配をしてくれている星たちの為にも
……そして、ユーリ達の為にも……
「…ユーリ、やっぱ怒ってるよなぁ……」
苦笑いしながら肩を竦めて呟く
『そうだな。アリオトが宥めようとしているみたいではあるがな』
怒られて当然、というような口調でシリウスは言う
…うん、まぁ…わかってたけどさ…
「だよねぇ……
ちなみにだけど、今何処に居るの?」
そう首を傾げると、二人は困ったように顔を見合わせる
『うーん……それがなんとも言えないんだよねぇ……』
「え…?それ、どうゆうこと…?」
『まぁ…簡単に説明すれば、お前たちの気配は感じ取れるが、今居る正確な位置まではわからんのだよ』
首を竦めながら、シリウスが答える
今まで私が何処に居るか、正確な位置を的確に当ててきていたシリウスがこんなことを言うなんて……
そんなの、初めてだ
『さしずめ、あの始祖の隷長の仕業だろうけどね』
呆れたようため息をつきながら、カストロが言う
「フェローの?なんでまた……」
『彼には彼なりの考えがあるのだろう
……さぁ、アリシア。そろそろ目を覚ますんだ』
そう言うが早いか、シリウスは私の肩を軽く押す
唐突な出来事にバランスを崩した私の体は、前回同様落下していく
「わ…っ!?ちょっ!!?シリウス!!私、まだ聞きたいこと…っ!!!」
そう言いながらシリウスに向かって手を伸ばしてみるが、その手は彼に届くことはなくて
そのまま、私は意識を手放した
「……っ……!ぅ……わ………」
体が異常な程怠い
ゆっくりと目を開けて見るが、見たことのない天井が広がっている
「……ここ……どこ………?」
小さく呟きながら、ゆっくりと頭を横に動かしてみるが、やはり見たことがない部屋の景色が見える
隣にはベットが何個か並んでいるが、どのベットにも人影はない
気怠い体をなんとか起こして、部屋の中をゆっくり見てみる
が、何度見てもやはり、私が知っているようなものは見当たらない
唯一あるとすれば、ベットの横に立て掛けられた愛刀くらいだろう
「…………ユーリたち………何処居るんだろ………」
そう呟きながら、ベットから立ち上がる
「……っ!!!いっ……たぁ………」
が、脇腹の痛みに耐えきれず、ベットに座り直す
自分でも気づかないうちに、体への負担がかなりかかってしまっていたらしい
「…………本当……これじゃただの足で纏いだ………」
頭に手をついて、自嘲気味に笑う
もっと体調管理を徹底していれば……
……ううん、それ以前に、エステルの力が私にとって良くないものだと、伝えていれば…………
……でも、きっとそれを伝えれば、エステルは自分を責めてしまう
それだけは嫌だ…
だってこれは、彼女のせいではないんだから…
むしろ……私の………
「よーやく起きたか、シア」
考え込んでいると、不意にユーリの声が聞こえた
考えるのをやめて、ゆっくり顔をあげる
予想通り、あからさまに怒ってるユーリが目に入る
「……ん………ごめんね…ユーリ」
俯いたままそう言うが、ユーリは何も言わずにただ黙り込んでいる
沈黙……それは多分、ほんの数秒だっただろう
でも、私には数分に感じられるほど、長かった
「…………その『ごめん』は、何に対してだよ?」
いつもよりも低い声に思わずビクッと肩があがる
当たり前かもしれないが、怒ったユーリはかなり怖い
思わず怯んでしまうくらいに…
…それでも、そうさせたのは私が原因だから……
一瞬頭に浮かんだ『怖い』という感情を押し殺して、顔をあげてユーリを見詰める
「……心配、かけたから……無理しないって約束、破ったから……」
何故か溢れそうになる涙をぐっと堪えて、そう答える
ユーリが怒るのは、本気で私を心配しているから…
だから、怒られて当然なんだ
…最悪、嫌われたって、私が悪い
……なのに、なんでこんなに泣きたくなるの…?
何も言わずに、ただ黙ってユーリは見詰めてくる
それに答えるように、私もユーリを見詰め返していた
けれど、あまりに沈黙が長く、ユーリも微動だにしない
本気で嫌われてしまったんじゃないかと、思わず俯いてしまう
……これ以上、ユーリを見詰めているのが怖かった
もし、本当に嫌われてしまっていたら……
そう考えてしまうと、やっぱり泣きたくなってしまう
必死で涙を堪えるが、もう限界は近くて……
「…………ユーリ……ごめん……今は一人にさせて………」
…そんなこと、本当は思ってなんかいないのに
本当は、いつもみたいに抱きしめて欲しいのに
泣いてるとこなんて見られたくなくって
変な意地を張って、突き放すような言葉が口から出てしまった
もう顔をあげるのも嫌になって、ユーリが扉の前にいるのにも関わらず、枕に顔を埋めてギュッとしがみつく
溜め込んでいた涙はもう抑えるのが限界で、じわっと目から溢れる
……本当、自分で自分が嫌になる
「…………嘘つけ、そんなこと思ってねぇ癖に」
不意にそう言うユーリの声は、さっきまでと違って、何処か優しげに聞こえた
それでも、顔をあげることは出来なかった
…言葉を返すことさえ、出来なかった
まるで体が石になってしまったかのように、動くことが出来なかった
あぁ、このままだと、きっとユーリは部屋を出て行っちゃうよなぁ…
頭ではわかっていても、体は全く動きそうになくて……
また、沈黙が続く
さっきよりも、ずっと長く感じられるくらい、長い気がした
部屋の空気は今までないくらいに重いし、息が詰まりそうになる
…それも全部、私が悪いんだけど…ね…
「……ったく、本当仕方ねぇやつだな」
ユーリの呆れた声に、思わずビクッと肩があがる
…やっぱり嫌われてしまったのだろうか…
そんな言葉が頭を過ぎる
……考えたく、ない……
思わず枕にしがみついている腕に力が入ってしまう
……本当、自分なんて………
そんな考えは、不意に頭を撫でられて、途中でストップした
「シア、顔あげろよ?」
いつの間にか傍に来ていたらしく、ユーリの声がすごく近くで聞こえる
さっきまでの低い声じゃなく、宥めるような優しい声で話しかけてきてくれる
声のする方向をゆっくりと向くと、やっぱりすぐ傍にユーリが居るのが目に入る
「って、なんで泣いてんだっての…」
私の顔を見て、困ったように苦笑いしながら、優しく頬を撫でてくる
つい先程までの反応からは考えられないくらい、あまりにも優しく接してくるから、思考がついていけない
「大方、オレが怒ってるから嫌われたとでも思ったんだろ?」
軽く肩を竦めながらユーリは問いかけてくる
それに頷いて答える
「…バーカ、嫌ったりなんてしねぇよ
ま、無理しすぎてるとこに関しては本気で怒ってたけどな」
「あたっ…」
そう言いながら、軽くおでこを弾いてくる
若干力が強くて、少し痛い
「これ以上は本当に無理無茶は禁止だかんな?」
「……うん……」
おでこを軽く擦りながら、小さく頷いた
これ以上は本当に自分の体が危ないことなんて、私自身が1番よくわかっていることだし…
それに、素直に頷かなかったらまた怒られるのが目に見えている
こうゆう時は、大人しく言う事聞いていた方がいい
「つっーか……エステルと一緒に居ても平気なのか?」
若干小さめの声で、遠慮がちにユーリは聞いてくる
エステルの力が私の体を弱まらせてることは、まだユーリしか知らない
だからこそ、万が一にでも聞かれないようにとユーリなりに配慮してくれたのだろう
「………うん、平気だよ
エステルが力使ってる時に傍に居なければいいだけだからさ」
顔をあげて、苦笑いしながらユーリを見詰める
実際、それは不可能に近いだろう
かすり傷ですら、治癒術を使って治そうとするようなお姫様だ
戦闘に参加するとなると怪我は付き物だし、当然近距離メインの私は怪我をしやすい
つまり、彼女が力を使っている時に傍に居ないというのはほぼ不可能だ
「おいおい…それ、幾ら何でも無理なんじゃねぇか?」
流石のユーリもそれをわかっていて、怪訝そうに顔を歪める
「大丈夫だよ。私、当分は戦闘に参加出来ないし、巻き込まれないように注意してれば早々怪我なんてしないよ」
そう言いながら肩を竦める
戦闘に参加するなんて出来ないのは事実だし…
「…本当に大丈夫なのかよ?」
納得していなさそうに顔を歪めながらユーリは聞いてくる
「大丈夫、大丈夫だよ」
そう言って、ニコッと笑って見せる
ユーリが心配なのはわかるが、今エステルから離れるわけにはいかない
だから、少しでも安心させたくて
精一杯笑って見せる
「……シアがそこまで言うなら信じっけど…マジで無茶すんなよな…?」
あまり納得はしていないようだが、渋々という感じでユーリが言う
「わかってるよ。辛くなったら今度はちゃんと言うからさ」
私がそう言うと、苦笑いしながら少し乱暴に頭を撫でてくる
「約束、だからな?」
「…ん、約束、だよ」
そう答えると、ユーリは立ち上がる
「さてと…んじゃ、そろそろあいつらの所に行くとでもしますかね…
シア、行けそうか?」
クルッと私の方を向きながらそう聞いてくる
「歩くくらいなら全然平気だよ!」
そう言って、私もベッドから降りる
…が、そうは言ったもののやはり脇腹がかなり痛む
「いっ…!?!!」
急に体を動かしたせいで、余計に痛みが強くなる
あまりの痛さに思わずバランスが崩れてしまう
「っと!!…おいおい、それのどこが平気なんだよ…」
片手で私を支えながらため息をつく
「あ、あはは…あれ……おっかしいなぁ……」
誤魔化すように笑ってみるが、あからさまに不自然な笑い方になってるのが目に見える
実際、ユーリが呆れた顔して見下ろしてるし…
「はぁ…ったく、デュークに連れて来いって言われたけど、こりゃあいつ来させた方がよさげだな」
ボソッと呟いたユーリの言葉に一瞬、耳を疑った
「…えっ!?デュークさん…っ!?」
思わず大きな声を出して聞き返してしまった
…何故、彼がここに居て、しかも私を探しているのだろうか…
「んな大声だすなっての…まぁ、詳しい話は後ですっけど…どうする?辛いならあいつの方連れてくっけど」
「…ううん、大丈夫、行くよ」
ユーリの問に首を振って、ゆっくり離れる
脇腹の痛みにも大分慣れたし、ゆっくり動く分には問題ないだろう
「…本当に平気か?」
確認するように問いかけてくる
それに首を縦に振って、ゆっくり歩き出す
デュークさんが、私を呼ぶ理由……
それは、以前の約束を果たす為なのか…
…それとも、他に何かあるのか…
シリウス達の言葉も気になるけど、今はとりあえず、デュークさんの方が先だ
心配しているユーリを余所に、私はゆっくりと部屋を後にした
デュークさんの元に向かう途中、ユーリに私が寝ている間のことを聞いた
今、私たちが居るのはエステルが届けたがっていた箱の持ち主がいるヨームゲンという村らしい
運良く通りがかった村の人達が倒れていた私達を、親切に看病してくれたみたいだ
そして、箱の持ち主…
千年もの月日が経っているというのにも関わらず、その人を見つけたうえに、箱も開けてもらったようだ
中身は私が思った通り、聖核が入っていたようで、賢人と呼ばれる人が魔導器を作れる…というのだ
半信半疑でその人の家に行けば、そこに待って居たのがデュークさん
聖核の話はデュークさんが教えてくれたみたい
「……それで、聖核壊した後に私を連れて来いって言われたんだ」
聞いたことを確認するように復唱する
それに、隣にいるユーリは頷く
…聖核を壊したのは、間違いなくお兄様の邪魔をするためだろうけど…
…やっぱり私を呼ぶ理由がわからない…
「ま、詳しいことは本人に直接聞こうぜ?…ようやく到着だよ、お嬢さん」
少し俯いた状態で考えていたが、彼の声に顔をあげる
目の前には周りの家よりも遥かに大きな家が建っている
…ユーリの言う通り、本人に直接聞いた方が早そうだ
コクン、と頷くと、ユーリが家の扉を開ける
先に入ったユーリの後に続くように中に入ると、真正面にデュークさんの姿が
そして、扉の近くにはみんなの姿が目に入る
「アリシア…!あんた、大丈夫なわけっ!?」
入って早々、リタが飛びついてくる
両肩を掴まれて少し乱暴に揺らしてくる
「痛っ!?ちょっ、リタっ!?!!大丈夫だけど痛いからそれやめてっ!?!!」
急に揺さぶられて、つい先程まで気にならなかった脇腹の痛みがまた強くなる
「おい、リタ!やめてやれって!」
私が静止してもやめないリタを、ユーリが無理やり引き剥がす
「おっとっと、アリシアちゃん、大丈夫~?」
ヘラヘラと笑いながら、だけど若干心配気味にレイヴンが少しバランスを崩した私を支えながら聞いてくる
「…ありがと、レイヴン。大丈夫だよ」
そう言って、すぐに彼から離れる
そして、目の前にいるデュークさんを見つめた
「……その様子では、相当体に負担がかかっているようだな」
私を見つめながら、デュークさんはそう言う
その言葉に、ユーリが怪訝そうに顔を顰めたのが視界の隅に見えた
「ふーん、随分わかりきっているような言い方だな」
少し挑発的に言うユーリに、冷静にデュークさんは答える
「……父親がそうだったからな。娘なら尚更だろう。…母親も、随分体が弱かったようだしな」
その言葉に当然ながらみんなは驚く
…もちろん、私もなんだけど
お父様だけじゃなく、お母様のことまで知ってるのは意外だった
「…本当に…貴方はお父様のご友人なんですね…
……貴方はどこまで知ってるんですか?」
ユーリ達の反応を余所に、私はデュークさんに問いかける
「…全て。星暦の事は始祖の隷長が教えてくれた。だからこそ忠告しにお前を呼んだ
…これ以上、満月の子に関わるな」
「……え………?」
デュークさんの言葉に、私よりも先にエステルが反応した
『満月の子』…この単語は、きっと彼が教えたんだろう
ユーリは教えてくれなかったけど…多分そうなんだと思う
「…それは、この子が彼に消されるのを、黙って見てろって言いたいの?」
半分睨み気味に彼を見つめる
こんなことで竦むような人ではないことは、お父様のお話しで充分よくわかっているつもりだ
「………ライラックの死に際に、お前のことを頼まれた以上、お前が死ぬような事はさせられぬからな」
「……それって、あの時、近くに居たってこと?」
半分軽蔑したように冷たく言い放つ
お父様のご友人…だから、疑いたくはない
だけど、もし……彼も関わっていたとしたら……
「…信じるか信じないかはお前次第だ。が、私は奴の様に見殺しにするような真似はせん」
私の言いたい事がわかったからか、デュークさんはそう答える
「……そう………
…それでも、関わらないなんて出来ない」
目を逸らしながらそう答える
「何故だ?星暦として生まれた以上、お前には他にやるべき使命があるのではないか?」
咎める様なデュークさんの言葉に、彼を見ることが出来なくなった
…わかってる
私の本当のやるべき事なんて、知ってる…
「え…?アリシア…?やるべき使命って……?」
黙り込んだ私に、カロルが不安そうな声で話しかけてくる
それでも、言えるはずなんてない…
言えるわけがない…
でも、デュークさんはそんなことお構い無しに、口を開く
「お前の使命は……エアルの循環を始祖の隷長と共に正し、乱す『もの』を排除することだろう」
「………は……?」
「………え……?」
ユーリとエステルがほぼ同時に口を開く
「シア姐……?嘘じゃよな……?」
「排除って……嘘でしょ?そんなことしないよね…?!」
「アリシア……どうなのよ…!!」
「アリシアちゃん…流石にこれは笑えないわよ…?」
ジュディス意外が次々に質問してくるが、私はただ俯くことしか出来ない
だって、それが事実だから
世界にとって危険があるとわかったら、例え人でも魔導器でも排除するのが、私の本当の役目だから
私達星暦は、ただ星の声が聞こえて、彼らの力を借りれるわけじゃない
世界の均衡を乱す『もの』を星が見つけたら、始祖の隷長達と共に対処する…
それが、本来の生き方だから…
今の私のしていることが異常だなんて、わかっている
それでも……
「……そう…だね、否定はしないよ。それが私の使命だし、本来の役目だから
…でも、彼女は殺さない。殺させはしない。それだけが解決策じゃないはずだから」
顔をあげて、真っ直ぐデュークさんをまた見つめる
ここで、引くわけにはいかないから
「それが、自殺行為だとしてもか?」
「友達を殺したくない、死なせたくないって思うのは当たり前でしょ?…例えそれで私自身が死んだとしても、彼女が《世界の毒》だなんてもうフェローに言わせはしない。そのくらいの覚悟もってフェローの忠告無視したんだから、今更放棄するなんてしないわよ」
そう、覚悟なんてとっくの昔に出来てる
昔からずっと、心に決めていたことだったから
何があっても満月の子を殺さない
きっと彼らの力を抑える方法があるはずだから
見つめ返してくるデュークさんから目を背けずに、ただ彼の次の言葉を待つ
「………それが、お前の答えか?」
しばらく沈黙していたデュークさんはたった一言、そう言う
…何処か寂しそうな表情に、一瞬心が痛む
「…そうだよ。もう覚悟は決まってる。……私は星暦が満月の子を殺さなくても世界の均衡を保てる方法を探す。それが…私の昔からの目標だから」
「………そうか、ならば私から言うことはもう何も無い」
そう言って目を背けながら、背後を向いてしまう
…これ以上、質問したとしても答えてくれそうにないね……
「……行こ、みんな」
出口の方に足を向けながらみんなに声をかける
が、ユーリ達は未だに驚いてるようで誰も動こうとはしない
そんなこと気にせずに、一人その場を後にした
「はぁ……まだ時期じゃなかったのに……」
街の入口近くで座り込んで大きくため息をついた
もう大分日が落ちてきている
きっとそろそろ彼らが出てくるだろう
『アリシア…大丈夫?』
そう声を掛けてきたのはアルタイルだ
「ん、へーきへーき~
…それよりも、デュークさんが喋っちゃったけど、大丈夫なの?」
彼女の言葉を軽くあしらって、逆に聞き返す
『まぁ…喋ったのはアリシアじゃないし、シリウス達もこうなるってこと、薄々気付いていたと思うから多分平気だよ』
「ん…そっか、それならいいんだ」
安堵の息をつきながら、空を見上げる
すっかり日の落ちた真っ黒な空には、沢山の星が瞬いている
『…アリシア……?』
黙り込んで空を見つめていると、アルタイルが心配そうに声をかけてくる
「んー?」
『本当に…大丈夫なの…?』
「……大丈夫、大丈夫だよ。もう、みんなして心配症なんだから」
笑いながらそう言ったはいいものの、半分は嘘だ
…大丈夫なわけがない
デュークさんにあのことを言われてしまった以上、彼らが私に不信感を抱いてもおかしくないだろうし
それに、『あの人』のことだ
きっともうお兄様に連絡が行ってるはず…
……連れ戻されるのも時間の問題かもしれない
「…………マンタイクまで………かな……」
下を向いてボソッと小さく呟く
今エステルから離れるわけにはいかない
……でも、もう恐らく……
『??アリシア??』
アルタイルも完全に聞き取れてはいなかったらしく、聞き返してくる
「…んーん、なーんでもないよっ!」
軽く頭を振って、ニッと笑いながら空を見上げる
『……そう……なら、良いんだけど……』
「もう、心配しすぎだって!
…さーてとっ!そろそろ寝よっかな」
心配しているアルタイルを他所に、立ち上がって服についた砂を払う
「…おやすみ、アルタイル」
最後にもう一度、空を見つめて声をかける
『……うん、おやすみ、アリシア…』
寂しそうなアルタイルの声を聞いてから、私は宿屋へと戻った
すぐ近くで、複雑そうに見つめていたフェローに気づかないまま……