第2部〜満月の子と星暦の真実〜
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「あっつぅぅ………」
額に滲んだ汗を拭いながら、辺りを見渡す
が、右を向けど左を向けど砂だらけ
所々にサボテンはあるけど、全く同じような風景が視界に広がっている
マンタイクを出てからまださほど時間は経っていないはずだけれども、既に皆疲れが顔に出ている
それもそうだ
この日差しの中、日陰も無しにずっと歩き続けているのだから無理もない
「アリシア…あんた…それ何度目よ…」
隣にいるリタが恨めしそうに睨んでくるのはきっと半分八つ当たりなんだろう…
「だって……暑いものは暑いんだから仕方ないじゃんか…!」
若干睨みながら、半分投げやり気味にそう言い返す
「暑い暑い言ってたら余計暑くなるじゃないのよ…!」
負けじとリタも言い返してきて、いよいよ収集がつかなくなる
「じゃあリタの魔術で何とかしてよ…この暑さ…!」
「魔術をなんだと思っているのよ…!大体、その手のことはあんたの方が得意でしょ…!?あたしは水は苦手なのよ…!?」
「私は夜じゃなきゃ無理なの、リタが一番よく知ってるでしょ…!?リタの約立たず…!」
「なっ!?それはあんただっておなj」
「おい、リタ、それにシアも、お前らちょっと黙れ…!お前らの喧嘩が余計暑くさせてるっつーの…!」
先頭を歩いているユーリに呆れられ気味に叱られる
…彼も半分八つ当たりだろうけど
八つ当たりするならば、皆の周りをぴょんぴょん飛び跳ねてるバカレイヴンにして欲しい
…なんで一人だけあんなに元気なのさ…
「おろろ~?元気ないわねぇせーねんっ!もっと明るく楽しく行きやしょーよっ!」
ケラケラと笑いながら、レイヴンはユーリの前を歩く
…いやいや…それ、後で怒られるって…
まぁ、レイヴンだからどうでもいいけど
「ったく…なーんでおっさんはそんなに元気なんだかねぇ…」
「本当…その元気、分けて欲しいわぁ…」
呆れ気味にレイヴンを見つめながらユーリとジュディスが呟く
なーんか…あの二人、息ぴったりなんだよなぁ…
…ま、同じ戦闘狂だからだと思うけど
「おーい、しょーねーん??それと嬢ちゃん??二人ともさっきから無言だけど、生きてるかーい?」
いつの間にかカロルの目の前に来たレイヴンが顔の前で手を振ってみるが、全く返事がない
「暑いから喋りたくないんでしょ…」
喋らないカロルの代わりにそう呟くと、なるほどっ!っと手を合わせる
「リタっちとアリシアちゃんも随分お疲れねぇ~」
ニヤニヤと笑いながら見つめてくるレイヴンに怒りを感じたのはきっと、私だけではないだろう
「……丸焦げにしてやる……」
リタはそう言うと足を止めて詠唱し始める
あーぁ…リタ怒らせるから…
「……レイヴン、ご愁傷さま…」
ポツリと呟いて、何事もなかったように先に進む
「ちょっ!?リタっちタンマっ!!アリシアちゃんも見捨てないでー!!」
レイヴンの必死な助けが聞こえるがそんなの無視だ無視
「おいおい…何余計な事してんだよ…おっさん…」
はぁ……っとため息をつきながらユーリは足を止めて後ろを振り返る
「……知らない……ほっといても問題ないでしょ……」
呆れ気味に後ろを見つめながらそう言うと、軽く肩を竦めてユーリはまた歩き出した
「ちょっ!?せーねんーー!助けてってばーー!!」
「ったく……おーい、カロル…ちょっと行ってやってくれ…」
気怠そうにユーリがカロルの方を向くが、全く声が届いていない雰囲気でぼーっと前を向いている
カロルには流石にキツすぎるんだろうなぁ……
それを言ったらエステルもだろうけど…
「……はぁ……仕方ないなぁ……」
半分諦め気味に肩を落としてリタを止めに行こうと振り返る
…と、同時に
「あーーーーっ!!!!!!!」
突然のカロルの声に何事かと前を向き直すと、エステルとカロルが前方に走り出したのが視界に映った
「え?ちょっ?な、何!?」
慌てて二人が向かった先を見ると、ぼんやりとではあるがオアシスがあるのが目に入った
リタもそれに気づいたようで詠唱をやめて、そちらに駆け出して行った
「おろ?なーによ、まだまだ走れる元気があったんじゃないのよ」
やれやれと苦笑いしながらレイヴンも三人の後を追いかけて行った
「うふふ、まだまだ皆元気ね」
くすっと笑いながらジュディスもゆっくりとその後に続いて歩き始めた
「ったく……あいつら……」
呆れたように苦笑いしてユーリはオアシスの方向を見つめた
「…ほーら、オレらも行こうぜ?シア」
「え?あ、うん…そうだね!」
すっと差し出された手を取り、ユーリと肩を並べて私とラピードも皆の後を追いかけた
……上空にいた『彼』に気付かずに……
「あー……生き返ったぁ…」
口元まで水に浸かりながらカロルは呟いた
その近くにはエステルとリタの姿もある
「こんなとこにオアシスがあるって、案外ラッキーだったね」
ばしゃっと頭から水を被ってから、軽く周りを見渡す
幸いなことに魔物も近くにいないし、日陰もあって、水も補給出来る
休むのには最適な場所だろう
「おーい、休むのはいいがちゃんと水筒に水補給しておけよー」
隣で水を汲んでいたユーリがオアシスに浸かっている三人に声をかける
…ユーリ…めっちゃくちゃ汗かいてて暑そうだなぁ…
…あっ、そうだっ!
「…ね!ユーリ!」
水の中に入ってニッと笑いながらユーリの名前を呼ぶ
「あ?なん…ぅおっ!?!!」
私の方を向いたユーリの手を思い切り引っ張ると、予想通りバランスを崩す
そして、大きな音を立てながら水の中に頭から突っ込んだ
…あ、やりすぎたかも…
「ぷはっ!!おいっ!!シア!?危ねぇだろっ!?」
本気で怒った目で見つめながらユーリが言ってくる
「あはは…ごめんごめん、まさか頭から突っ込むとは思わなくって…でも、ちょっと涼しくなったでしょ?」
ニコッと笑いかけると、怒る気が失せたのか、はぁ……っと大きなため息をつく
「おろ、楽しそうねぇ~おっさんも混ぜてよっ!」
少し離れたところにいたレイヴンが、羨ましそうにしながら近づいてくる
え、そんなの嫌に決まってるじゃんか……
「遊ぶのはいいけれど、そろそろ探すの再開した方がいいんじゃないかしら?」
レイヴンが水に飛び込む前に、ジュディスが苦笑いしながらみんなに声をかける
「だな、遊びに来てるわけじゃねぇしな」
濡れた黒髪を軽く絞りながら、ユーリは頷く
ユーリの言う通り、私達はここに遊びに来たわけじゃない
エステル達も頷くと、みんなフェロー探し再開の為の準備をし始める
私も自分の水筒に水を汲みなおすが、レイヴンだけが納得していないようにムッとしているのが視界の隅に見えた
はぁ…とため息をつきながら、みんなから少し離れたところにいる彼に近づく
正直なところ、彼がどうなろうが知ったこっちゃないが、砂漠のど真ん中でぶっ倒れられたりしても迷惑だし
せめて水の補充くらいはさせておかないと……
「あのさぁ……水くらい汲んでくるとかしなよ」
呆れ気味にそう声をかけると、ゆっくりと振り向く
いつものおどけた顔でなく、何処か真剣味を帯びた表情に、一瞬戸惑った
「………始祖の隷長殺しのこと、いつから気付いていた?」
みんなには聞こえないような小声でそう問いかけてくる
チラッと振り返ってみるが、みんなはまだ準備中のようで、私とレイヴンには気づいていなさそうだった
「………前にあの人が書類整理してる時にその事に関する資料が見えたから。あの人が何しようとしているかも、大方検討はついてる」
彼同様、小声でそう返した
……知らない方が良かったのかもしれない
あの人のやろうとしていることを、理解しない方が良かったのかもしれない……
……後悔しても、もう遅いのだけれど……
「………そう……か………」
『彼』はたった一言そう言うと、私に背を向ける
再び振り返った時には、既にレイヴンに戻っていた
「ジュディスちゃーん!!行くなら早く行きやしょーよー!!」
『彼』はいつものようにおどけた表情で、後ろにいるみんなに声をかける
ユーリ達は呆れたように肩を竦めると、ゆっくりと歩き始める
すると、満足そうにレイヴンは再び先頭を歩き始める
オアシスで休んで少し体力の回復したみんなの後ろを私はゆっくりと付いていく
後ろに付くことに特に意味なんてないけれど…
多分フェローを見付けられるのは、私だけだから…
見逃さないようにと、時折空を見上げる
雲一つなく何処までも青い空には、やはり彼の姿は見えない
……やっぱり、満月の子がいるからなのかなぁ……
そう考えると、エステルを連れて来たのは間違いだったのじゃないかと思ってしまう
彼が満月の子を嫌っている理由なんて…私だって知っているのに…
彼の気持ちをないがしろにしてしまったのではないかと後悔する
が、どう足掻いたところでエステルだって引く気がないのは事実だ
彼女だって、何故自分が世界の毒と言われたのかを知りたいだろうし、彼女には知る権利がある
……会わせないことを決めたとしても、私はきっと後悔した
「………フェロー………一体何処にいるのさ………」
空を見つめながらポツリと呟く
……お願いだから……余計なことはしないで………
心の中でそう祈りながら、目線を前方に戻す
………少しばかり脇腹が痛み出していたのを、みんなに悟られないように注意しながら、歩くスピードを早めた
フェロー探しを再開してから数分……
「あっつい……なんでこんなに暑いのさ……」
半分涙声でカロルが呟く
先程の元気はどこにいったのやら……
……そんなのは私も一緒だけどね……
暑いうえに脇腹がズキズキと痛む
昨日、エアル溜りに突っ込んで行った時の反動が今になってきたんだろう
……タイミング悪過ぎだって……
確かにいつかこうなるだろうとは思っていた
満月の子であるエステルも近くにいるのだから、かなり体に負担がかかっていることくらい、わかっている
……このままだと、レイヴンより先に砂漠で倒れそうだよ…
苦笑いしながら周りを見る
幸い、みんなこの暑さで疲れているようで、私のことには気づいてないみたいだ
ほっと胸を撫で下ろす
今このことがバレたらリタやユーリだけでなく、エステルやカロル達にまで怒られるだろうし…
それに、フェロー探しにも支障が出てしまう
どうしてもそれだけは避けたい
……私も、彼に聞きたいことがあるし……
「あ?なんだあれ?」
不意にユーリの声が聞こえてきて、顔をあげる
「……え??ちょっ……なんで砂が動いてんの……!?」
彼の視線の先を見ると、『何か』が砂の中を移動しているのが目に入る
砂の中を移動するような魔物とか、聞いたことないんだけど……
ユーリの前でそれは止まった
慌てて剣を構えようとする
が、そこから出て来た影に思わず絶句した
「ぷはぁっ!!…おぉ!!ユーリなのじゃ!!」
……砂の中から出てきたのはどう見てもマンタイクで別れた筈のパティだった
いやいや……なんでこの子は砂の中なんかを移動してるのよ……
「うわぁっ!?パッ、パティ!?なんでこんなとこにいるの!?」
かなり驚いたのかカロルが半分悲鳴をあげる
「む?こっちの方からお宝の匂いがした気がするのじゃがのう?」
ひょこっと砂の中から這い出てきながら、パティは首を傾げた
「はぁ?お宝の匂いって何よ?砂の中潜って見つかるもんなの?そもそも、本当にそんなものあるわけ?」
腕を組んでジト目でパティを見ながら、リタは呆れたように言う
「リタ姐は夢がないのぅ…あると言ったらあるのじゃ!」
ビシッとリタを指さしながら、何処か得意気にパティは言う
いや……ある無いはともかくね?
こんな砂漠を子供一人でさ迷ってる方が問題だって、私は思うんだけど…
「えっと…とりあえず、パティも一緒に行きません?」
パティを見詰めながらエステルが提案する
「…その方がいいと思うなぁ。こんなとこに一人にしてなんておけないし」
苦笑いしながらエステルの案に頷いた
「そうねぇ、おっさんもさんせ~」
ニヤニヤと笑いながらレイヴンも賛同する
「だとよ。パティ、どうする?」
「うむ、そうゆうのであれば、一緒に行くのじゃ!」
ユーリが聞くと、嬉しそうに笑いながらパティは頷いた
若干拗ねたくなるが、今はそんな体力もない
「それじゃ行きましょ?」
ジュディスがみんなにそう声をかける
そして、また灼熱の砂漠を歩き出す
「くっそ……本当何処にいんだよ……」
パティと合流してから数分も経たないうちに、ユーリが空を睨みながら悪態づいた
まぁ……ユーリの気持ちが分からないでもない
散々探してるのに、フェローの影一つ見当たらない
時折鳴き声は聞こえるけど……
「……フェロー………どんだけ会うの嫌なのよ……」
誰にも聞こえないような小声で言いながら苦笑いする
会うのが嫌なことくらいわかっているが、そろそろ私の体力が限界だ
本当…お願いだから少しでもいい
せめて満月の子についての説明だけでいいからして欲しいよ……
「ガルルルルルル」
「ん?ラピード…急に唸り出したりして…なんか居たか?」
考え込んでいると、唐突にラピードが立ち止まって前方を睨みだした
ラピードの睨んでいる方向を見ると、見たこともないような魔物がいるのが目に入る
どっからどう見てもこちらを襲って来ようとしているようにしか見えない
「うはぁぁ……最悪なタイミングねぇ……」
少し辛そうな声でレイヴンは言いながら弓を構える
「僕……もう限界だよ……」
半分涙声で言いながら、カロルも渋々ハンマーを構える
他のメンバー達も辛そうにしながらそれぞれ武器を構える
私も剣を構えようと、柄に手をかけた
…が、
「っ!?!!」
ぎゅっと締め付けられるように胸が痛んで、思わずその場に座り込んでしまった
「アリシアっ!?大丈夫です!?」
エステルが慌てて傍に寄ってくる
「っ……ちょっと………大丈夫……じゃ、なさ…そう……」
胸を押さえつけながら苦笑いする
この感じ………力を使いすぎたって感じではない………
それに、あの魔物………どっかで………
「とりあえず、後ろに下がってろ!シア!」
考え事をしていると、ユーリの声が聞こえた
チラッと私の方を見ながらユーリは鞘を飛ばしたのが視界に入る
コクリと頷いて、エステルの肩を借りながら、みんなから少し離れた場所に移動した
「アリシア、すぐに戻りますから、待っててくださいね!」
エステルはそう言うと、私の返事も聞かずにユーリ達の元へ戻って行った
それを合図に、戦闘が始まったようだ
この位置だとあまり様子がわからない
「……ははっ、本当、情けないなぁ……」
自嘲気味に笑いながら、空を見詰める
肝心な時に限って体が動かないとか、本当役立たずにも程がある
そんなことを考えていると、一瞬、見覚えのある影が視界を横切った
「…………フェロー………もしかして、これはあなたの仕業……?」
振り絞るように問いかけると、思っていた通りの声が頭に響く
《…姫、だからあれほどまでに警告したのに……何故……》
何処か寂しそうなその声は、紛れもなくフェローのものだった
「……友達を見捨てられるほど……私は強くないもの…」
軽く目を瞑りながら答える
星と違って、目を瞑ったからと言って姿が見えるわけではないのだが…
《だが、…近くに居れば居るほど、あなたの身が危険なのだぞ?》
「………そんなのどうだっていいよ
…それよりも、さっきの質問…答えは…?」
《………あぁそうだ。少しばかり動けないようにさせてもらった。それに…姫は……『あれ』を見たことがあるのでは?》
悪びれるような様子もなく、フェローは淡々と答えた
…リゲルの言ってた『余計なこと』って、このことだったんだ…
そして、フェローが『あれ』と言った魔物……
それは、多分……
「………うん、そうだね……本で一度見たかな……」
目を開けて、ユーリ達の方を見ながら答える
『あれ』は全くダメージを受けてる様子はなく、ただユーリ達の体力だけを奪っているように見える
「………私が居ないから、まともに戦えないんだろうなぁ………それとも、フェローの幻術だから……?」
自嘲気味に笑いながらフェローに聞く
《どちらも正解だな》
「……やっぱ……そっか……」
徐々に強くなってきている胸の痛みに耐えながら、ユーリ達を見詰める
《…姫、頼むから、これ以上彼女と居るのだけは…!》
縋るような声で、フェローは頼み込んでくる
…分かってる
フェローがそう言ってくる理由を
知ってるよ…
なんでそうして欲しいかなんて……
……それでも、私は……
「………ごめん、フェロー……それは…出来ない………彼女から離れたら……彼女だけじゃなく、下町のみんなまで…………」
最後の方は殆ど聞き取れていないかもしれない
もう、意識が半分飛びかけている
それでも、フェローに伝えないといけない事はまだある
「………フェロー…………お願い………少しだけでいいから………エステルと………話して…………あげ、て………」
力を振り絞って、その言葉を口にする
もしかしたら、フェローに聞こえていないかもしれない
…もう、私には彼の声すら届いてこない
薄れ始めた意識の中、『あれ』が消え、みんなが倒れていくのが目に入った
「……ごめんね………みんな………」
つぅっと涙が頬を伝った
私が砂漠に入る前に、リゲルに言われたことを伝えていれば……
もしかしたら、こんなことにならなかったかもしれない……
もう声は出ないから、心の中で何度も何度もみんなに謝る
そんな後悔を抱いたまま、私の意識は途絶えた
最後に私の視界に入ったのは………
綺麗な赤に包まれた始祖の隷長………
フェローの姿だった……………
《わからない……何故、満月の子を手助けするのだ……?》
フェローは気を失なったアリシアを見つめながら、誰に言うわけでもなく呟いた
彼女の一族も、昔から満月の子のせいで死んだ者が多くいると言うのに……
何故その彼女が今、満月の子と共に行動しているのか、理解出来ずにいた
《………アリシア………何故なのだ………》
もう一度、フェローはそう呟くと、アリシアを背に乗せてその場から飛び去って行った
額に滲んだ汗を拭いながら、辺りを見渡す
が、右を向けど左を向けど砂だらけ
所々にサボテンはあるけど、全く同じような風景が視界に広がっている
マンタイクを出てからまださほど時間は経っていないはずだけれども、既に皆疲れが顔に出ている
それもそうだ
この日差しの中、日陰も無しにずっと歩き続けているのだから無理もない
「アリシア…あんた…それ何度目よ…」
隣にいるリタが恨めしそうに睨んでくるのはきっと半分八つ当たりなんだろう…
「だって……暑いものは暑いんだから仕方ないじゃんか…!」
若干睨みながら、半分投げやり気味にそう言い返す
「暑い暑い言ってたら余計暑くなるじゃないのよ…!」
負けじとリタも言い返してきて、いよいよ収集がつかなくなる
「じゃあリタの魔術で何とかしてよ…この暑さ…!」
「魔術をなんだと思っているのよ…!大体、その手のことはあんたの方が得意でしょ…!?あたしは水は苦手なのよ…!?」
「私は夜じゃなきゃ無理なの、リタが一番よく知ってるでしょ…!?リタの約立たず…!」
「なっ!?それはあんただっておなj」
「おい、リタ、それにシアも、お前らちょっと黙れ…!お前らの喧嘩が余計暑くさせてるっつーの…!」
先頭を歩いているユーリに呆れられ気味に叱られる
…彼も半分八つ当たりだろうけど
八つ当たりするならば、皆の周りをぴょんぴょん飛び跳ねてるバカレイヴンにして欲しい
…なんで一人だけあんなに元気なのさ…
「おろろ~?元気ないわねぇせーねんっ!もっと明るく楽しく行きやしょーよっ!」
ケラケラと笑いながら、レイヴンはユーリの前を歩く
…いやいや…それ、後で怒られるって…
まぁ、レイヴンだからどうでもいいけど
「ったく…なーんでおっさんはそんなに元気なんだかねぇ…」
「本当…その元気、分けて欲しいわぁ…」
呆れ気味にレイヴンを見つめながらユーリとジュディスが呟く
なーんか…あの二人、息ぴったりなんだよなぁ…
…ま、同じ戦闘狂だからだと思うけど
「おーい、しょーねーん??それと嬢ちゃん??二人ともさっきから無言だけど、生きてるかーい?」
いつの間にかカロルの目の前に来たレイヴンが顔の前で手を振ってみるが、全く返事がない
「暑いから喋りたくないんでしょ…」
喋らないカロルの代わりにそう呟くと、なるほどっ!っと手を合わせる
「リタっちとアリシアちゃんも随分お疲れねぇ~」
ニヤニヤと笑いながら見つめてくるレイヴンに怒りを感じたのはきっと、私だけではないだろう
「……丸焦げにしてやる……」
リタはそう言うと足を止めて詠唱し始める
あーぁ…リタ怒らせるから…
「……レイヴン、ご愁傷さま…」
ポツリと呟いて、何事もなかったように先に進む
「ちょっ!?リタっちタンマっ!!アリシアちゃんも見捨てないでー!!」
レイヴンの必死な助けが聞こえるがそんなの無視だ無視
「おいおい…何余計な事してんだよ…おっさん…」
はぁ……っとため息をつきながらユーリは足を止めて後ろを振り返る
「……知らない……ほっといても問題ないでしょ……」
呆れ気味に後ろを見つめながらそう言うと、軽く肩を竦めてユーリはまた歩き出した
「ちょっ!?せーねんーー!助けてってばーー!!」
「ったく……おーい、カロル…ちょっと行ってやってくれ…」
気怠そうにユーリがカロルの方を向くが、全く声が届いていない雰囲気でぼーっと前を向いている
カロルには流石にキツすぎるんだろうなぁ……
それを言ったらエステルもだろうけど…
「……はぁ……仕方ないなぁ……」
半分諦め気味に肩を落としてリタを止めに行こうと振り返る
…と、同時に
「あーーーーっ!!!!!!!」
突然のカロルの声に何事かと前を向き直すと、エステルとカロルが前方に走り出したのが視界に映った
「え?ちょっ?な、何!?」
慌てて二人が向かった先を見ると、ぼんやりとではあるがオアシスがあるのが目に入った
リタもそれに気づいたようで詠唱をやめて、そちらに駆け出して行った
「おろ?なーによ、まだまだ走れる元気があったんじゃないのよ」
やれやれと苦笑いしながらレイヴンも三人の後を追いかけて行った
「うふふ、まだまだ皆元気ね」
くすっと笑いながらジュディスもゆっくりとその後に続いて歩き始めた
「ったく……あいつら……」
呆れたように苦笑いしてユーリはオアシスの方向を見つめた
「…ほーら、オレらも行こうぜ?シア」
「え?あ、うん…そうだね!」
すっと差し出された手を取り、ユーリと肩を並べて私とラピードも皆の後を追いかけた
……上空にいた『彼』に気付かずに……
「あー……生き返ったぁ…」
口元まで水に浸かりながらカロルは呟いた
その近くにはエステルとリタの姿もある
「こんなとこにオアシスがあるって、案外ラッキーだったね」
ばしゃっと頭から水を被ってから、軽く周りを見渡す
幸いなことに魔物も近くにいないし、日陰もあって、水も補給出来る
休むのには最適な場所だろう
「おーい、休むのはいいがちゃんと水筒に水補給しておけよー」
隣で水を汲んでいたユーリがオアシスに浸かっている三人に声をかける
…ユーリ…めっちゃくちゃ汗かいてて暑そうだなぁ…
…あっ、そうだっ!
「…ね!ユーリ!」
水の中に入ってニッと笑いながらユーリの名前を呼ぶ
「あ?なん…ぅおっ!?!!」
私の方を向いたユーリの手を思い切り引っ張ると、予想通りバランスを崩す
そして、大きな音を立てながら水の中に頭から突っ込んだ
…あ、やりすぎたかも…
「ぷはっ!!おいっ!!シア!?危ねぇだろっ!?」
本気で怒った目で見つめながらユーリが言ってくる
「あはは…ごめんごめん、まさか頭から突っ込むとは思わなくって…でも、ちょっと涼しくなったでしょ?」
ニコッと笑いかけると、怒る気が失せたのか、はぁ……っと大きなため息をつく
「おろ、楽しそうねぇ~おっさんも混ぜてよっ!」
少し離れたところにいたレイヴンが、羨ましそうにしながら近づいてくる
え、そんなの嫌に決まってるじゃんか……
「遊ぶのはいいけれど、そろそろ探すの再開した方がいいんじゃないかしら?」
レイヴンが水に飛び込む前に、ジュディスが苦笑いしながらみんなに声をかける
「だな、遊びに来てるわけじゃねぇしな」
濡れた黒髪を軽く絞りながら、ユーリは頷く
ユーリの言う通り、私達はここに遊びに来たわけじゃない
エステル達も頷くと、みんなフェロー探し再開の為の準備をし始める
私も自分の水筒に水を汲みなおすが、レイヴンだけが納得していないようにムッとしているのが視界の隅に見えた
はぁ…とため息をつきながら、みんなから少し離れたところにいる彼に近づく
正直なところ、彼がどうなろうが知ったこっちゃないが、砂漠のど真ん中でぶっ倒れられたりしても迷惑だし
せめて水の補充くらいはさせておかないと……
「あのさぁ……水くらい汲んでくるとかしなよ」
呆れ気味にそう声をかけると、ゆっくりと振り向く
いつものおどけた顔でなく、何処か真剣味を帯びた表情に、一瞬戸惑った
「………始祖の隷長殺しのこと、いつから気付いていた?」
みんなには聞こえないような小声でそう問いかけてくる
チラッと振り返ってみるが、みんなはまだ準備中のようで、私とレイヴンには気づいていなさそうだった
「………前にあの人が書類整理してる時にその事に関する資料が見えたから。あの人が何しようとしているかも、大方検討はついてる」
彼同様、小声でそう返した
……知らない方が良かったのかもしれない
あの人のやろうとしていることを、理解しない方が良かったのかもしれない……
……後悔しても、もう遅いのだけれど……
「………そう……か………」
『彼』はたった一言そう言うと、私に背を向ける
再び振り返った時には、既にレイヴンに戻っていた
「ジュディスちゃーん!!行くなら早く行きやしょーよー!!」
『彼』はいつものようにおどけた表情で、後ろにいるみんなに声をかける
ユーリ達は呆れたように肩を竦めると、ゆっくりと歩き始める
すると、満足そうにレイヴンは再び先頭を歩き始める
オアシスで休んで少し体力の回復したみんなの後ろを私はゆっくりと付いていく
後ろに付くことに特に意味なんてないけれど…
多分フェローを見付けられるのは、私だけだから…
見逃さないようにと、時折空を見上げる
雲一つなく何処までも青い空には、やはり彼の姿は見えない
……やっぱり、満月の子がいるからなのかなぁ……
そう考えると、エステルを連れて来たのは間違いだったのじゃないかと思ってしまう
彼が満月の子を嫌っている理由なんて…私だって知っているのに…
彼の気持ちをないがしろにしてしまったのではないかと後悔する
が、どう足掻いたところでエステルだって引く気がないのは事実だ
彼女だって、何故自分が世界の毒と言われたのかを知りたいだろうし、彼女には知る権利がある
……会わせないことを決めたとしても、私はきっと後悔した
「………フェロー………一体何処にいるのさ………」
空を見つめながらポツリと呟く
……お願いだから……余計なことはしないで………
心の中でそう祈りながら、目線を前方に戻す
………少しばかり脇腹が痛み出していたのを、みんなに悟られないように注意しながら、歩くスピードを早めた
フェロー探しを再開してから数分……
「あっつい……なんでこんなに暑いのさ……」
半分涙声でカロルが呟く
先程の元気はどこにいったのやら……
……そんなのは私も一緒だけどね……
暑いうえに脇腹がズキズキと痛む
昨日、エアル溜りに突っ込んで行った時の反動が今になってきたんだろう
……タイミング悪過ぎだって……
確かにいつかこうなるだろうとは思っていた
満月の子であるエステルも近くにいるのだから、かなり体に負担がかかっていることくらい、わかっている
……このままだと、レイヴンより先に砂漠で倒れそうだよ…
苦笑いしながら周りを見る
幸い、みんなこの暑さで疲れているようで、私のことには気づいてないみたいだ
ほっと胸を撫で下ろす
今このことがバレたらリタやユーリだけでなく、エステルやカロル達にまで怒られるだろうし…
それに、フェロー探しにも支障が出てしまう
どうしてもそれだけは避けたい
……私も、彼に聞きたいことがあるし……
「あ?なんだあれ?」
不意にユーリの声が聞こえてきて、顔をあげる
「……え??ちょっ……なんで砂が動いてんの……!?」
彼の視線の先を見ると、『何か』が砂の中を移動しているのが目に入る
砂の中を移動するような魔物とか、聞いたことないんだけど……
ユーリの前でそれは止まった
慌てて剣を構えようとする
が、そこから出て来た影に思わず絶句した
「ぷはぁっ!!…おぉ!!ユーリなのじゃ!!」
……砂の中から出てきたのはどう見てもマンタイクで別れた筈のパティだった
いやいや……なんでこの子は砂の中なんかを移動してるのよ……
「うわぁっ!?パッ、パティ!?なんでこんなとこにいるの!?」
かなり驚いたのかカロルが半分悲鳴をあげる
「む?こっちの方からお宝の匂いがした気がするのじゃがのう?」
ひょこっと砂の中から這い出てきながら、パティは首を傾げた
「はぁ?お宝の匂いって何よ?砂の中潜って見つかるもんなの?そもそも、本当にそんなものあるわけ?」
腕を組んでジト目でパティを見ながら、リタは呆れたように言う
「リタ姐は夢がないのぅ…あると言ったらあるのじゃ!」
ビシッとリタを指さしながら、何処か得意気にパティは言う
いや……ある無いはともかくね?
こんな砂漠を子供一人でさ迷ってる方が問題だって、私は思うんだけど…
「えっと…とりあえず、パティも一緒に行きません?」
パティを見詰めながらエステルが提案する
「…その方がいいと思うなぁ。こんなとこに一人にしてなんておけないし」
苦笑いしながらエステルの案に頷いた
「そうねぇ、おっさんもさんせ~」
ニヤニヤと笑いながらレイヴンも賛同する
「だとよ。パティ、どうする?」
「うむ、そうゆうのであれば、一緒に行くのじゃ!」
ユーリが聞くと、嬉しそうに笑いながらパティは頷いた
若干拗ねたくなるが、今はそんな体力もない
「それじゃ行きましょ?」
ジュディスがみんなにそう声をかける
そして、また灼熱の砂漠を歩き出す
「くっそ……本当何処にいんだよ……」
パティと合流してから数分も経たないうちに、ユーリが空を睨みながら悪態づいた
まぁ……ユーリの気持ちが分からないでもない
散々探してるのに、フェローの影一つ見当たらない
時折鳴き声は聞こえるけど……
「……フェロー………どんだけ会うの嫌なのよ……」
誰にも聞こえないような小声で言いながら苦笑いする
会うのが嫌なことくらいわかっているが、そろそろ私の体力が限界だ
本当…お願いだから少しでもいい
せめて満月の子についての説明だけでいいからして欲しいよ……
「ガルルルルルル」
「ん?ラピード…急に唸り出したりして…なんか居たか?」
考え込んでいると、唐突にラピードが立ち止まって前方を睨みだした
ラピードの睨んでいる方向を見ると、見たこともないような魔物がいるのが目に入る
どっからどう見てもこちらを襲って来ようとしているようにしか見えない
「うはぁぁ……最悪なタイミングねぇ……」
少し辛そうな声でレイヴンは言いながら弓を構える
「僕……もう限界だよ……」
半分涙声で言いながら、カロルも渋々ハンマーを構える
他のメンバー達も辛そうにしながらそれぞれ武器を構える
私も剣を構えようと、柄に手をかけた
…が、
「っ!?!!」
ぎゅっと締め付けられるように胸が痛んで、思わずその場に座り込んでしまった
「アリシアっ!?大丈夫です!?」
エステルが慌てて傍に寄ってくる
「っ……ちょっと………大丈夫……じゃ、なさ…そう……」
胸を押さえつけながら苦笑いする
この感じ………力を使いすぎたって感じではない………
それに、あの魔物………どっかで………
「とりあえず、後ろに下がってろ!シア!」
考え事をしていると、ユーリの声が聞こえた
チラッと私の方を見ながらユーリは鞘を飛ばしたのが視界に入る
コクリと頷いて、エステルの肩を借りながら、みんなから少し離れた場所に移動した
「アリシア、すぐに戻りますから、待っててくださいね!」
エステルはそう言うと、私の返事も聞かずにユーリ達の元へ戻って行った
それを合図に、戦闘が始まったようだ
この位置だとあまり様子がわからない
「……ははっ、本当、情けないなぁ……」
自嘲気味に笑いながら、空を見詰める
肝心な時に限って体が動かないとか、本当役立たずにも程がある
そんなことを考えていると、一瞬、見覚えのある影が視界を横切った
「…………フェロー………もしかして、これはあなたの仕業……?」
振り絞るように問いかけると、思っていた通りの声が頭に響く
《…姫、だからあれほどまでに警告したのに……何故……》
何処か寂しそうなその声は、紛れもなくフェローのものだった
「……友達を見捨てられるほど……私は強くないもの…」
軽く目を瞑りながら答える
星と違って、目を瞑ったからと言って姿が見えるわけではないのだが…
《だが、…近くに居れば居るほど、あなたの身が危険なのだぞ?》
「………そんなのどうだっていいよ
…それよりも、さっきの質問…答えは…?」
《………あぁそうだ。少しばかり動けないようにさせてもらった。それに…姫は……『あれ』を見たことがあるのでは?》
悪びれるような様子もなく、フェローは淡々と答えた
…リゲルの言ってた『余計なこと』って、このことだったんだ…
そして、フェローが『あれ』と言った魔物……
それは、多分……
「………うん、そうだね……本で一度見たかな……」
目を開けて、ユーリ達の方を見ながら答える
『あれ』は全くダメージを受けてる様子はなく、ただユーリ達の体力だけを奪っているように見える
「………私が居ないから、まともに戦えないんだろうなぁ………それとも、フェローの幻術だから……?」
自嘲気味に笑いながらフェローに聞く
《どちらも正解だな》
「……やっぱ……そっか……」
徐々に強くなってきている胸の痛みに耐えながら、ユーリ達を見詰める
《…姫、頼むから、これ以上彼女と居るのだけは…!》
縋るような声で、フェローは頼み込んでくる
…分かってる
フェローがそう言ってくる理由を
知ってるよ…
なんでそうして欲しいかなんて……
……それでも、私は……
「………ごめん、フェロー……それは…出来ない………彼女から離れたら……彼女だけじゃなく、下町のみんなまで…………」
最後の方は殆ど聞き取れていないかもしれない
もう、意識が半分飛びかけている
それでも、フェローに伝えないといけない事はまだある
「………フェロー…………お願い………少しだけでいいから………エステルと………話して…………あげ、て………」
力を振り絞って、その言葉を口にする
もしかしたら、フェローに聞こえていないかもしれない
…もう、私には彼の声すら届いてこない
薄れ始めた意識の中、『あれ』が消え、みんなが倒れていくのが目に入った
「……ごめんね………みんな………」
つぅっと涙が頬を伝った
私が砂漠に入る前に、リゲルに言われたことを伝えていれば……
もしかしたら、こんなことにならなかったかもしれない……
もう声は出ないから、心の中で何度も何度もみんなに謝る
そんな後悔を抱いたまま、私の意識は途絶えた
最後に私の視界に入ったのは………
綺麗な赤に包まれた始祖の隷長………
フェローの姿だった……………
《わからない……何故、満月の子を手助けするのだ……?》
フェローは気を失なったアリシアを見つめながら、誰に言うわけでもなく呟いた
彼女の一族も、昔から満月の子のせいで死んだ者が多くいると言うのに……
何故その彼女が今、満月の子と共に行動しているのか、理解出来ずにいた
《………アリシア………何故なのだ………》
もう一度、フェローはそう呟くと、アリシアを背に乗せてその場から飛び去って行った