第2部〜満月の子と星暦の真実〜
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頼み事という名の脅迫
ノードポリカにつくと、パティはすぐにアイフリードの宝を探しに行くと言って、また一人何処かへ行ってしまった
カウフマンさん達とは、駆動魔導器の交換をして貰う約束をして、すぐに別れた
レイヴンがドンから頼まれた手紙は、戦士の殿堂 の統領 であるベリウスに直接渡さないといけないらしい
ベリウスもフェローと同じく始祖の隷長で、私も何度か会ったことがある
…まぁ、言えないけどさ…
ただ、彼女のことだ
恐らく今はここに居ないだろう
そんなことを考えながらみんなの後について行った
闘技場について、統領代理のナッツという男の人に会った
「生憎だが、ベリウス様は今いらっしゃならい。要件なら私が受けよう」
「すまんね、ドンから直接渡せって言われてるのよ」
手紙をヒラヒラさせながらレイヴンはナッツにそう告げる
やはり留守……か
まぁ、私にはわかりきってたことだけど…
ナッツさんはしばらく顎に手を当てて何か考えていた
「……ならば、次の新月の夜に来てくれ」
そう言われ、渋々その場を後にする
「おっさん、先に宿行ってていいかしら?ドンに手紙出さなきゃいけないのよ」
「あ、うん!わかった!!」
レイヴンはそう言い残すと先に宿屋に向かって行った
「オレらも宿屋でこれからどうするか考えますかね」
ユーリの提案に頷き、私達も宿屋へ向かった
「ったく……あのおっさん何処に行きやがったんだよ……」
宿屋の前で呆れ気味にユーリが呟く
それもそうだ、先に来ている筈のレイヴンが居ないんだから
「探しに行きます?」
「そうね、彼が居ないと入れないもの」
エステルの意見にジュディスも賛同する
まぁ、確かにそれがいいんだろうけどさ……
「私はパース。此処で待ってるよ。流石にちょっと疲れたし……」
ふぁ…っと欠伸をしながらそう伝える
流石にオールで続いた戦闘に体が悲鳴をあげていた
「了解、その代わり、ここ動くなよ?」
少し心配そうにユーリがそう言ってくる
「大丈夫大丈夫、動かないって」
ヘラっと笑ってそう伝えると何度か私をチラ見してからようやく動き始めた
外に向かっていくユーリ達が見えなくなるまで手を振る
「……さてと……そこに居るんでしょ?」
少し低めの声で後ろに感じた気配に、声をかける
「……いつ気がついた?」
聞こえたのは『あの人』の声
私がお兄様の次に嫌いな人の声
「ついさっき、ユーリ達がここを離れた辺りで。………それで?」
振り向きはせずに、彼の要件を聞く
「……伝言だ。『今日が約束の日だ。真夜中に街の入口に』……だそうだ」
「…………はぁ……どうせ行かなきゃまた追っかけて来るんでしょ……もう…何であなたがここに居るのに私なのよ……」
悪態づくように『あの人』に言う
役に立たない私は、本来必要無いはずだ
なのに、何故ここまで必要とされるのだろうか……
「……閣下に聞かなければわかりません……私は伝言を伝えただけですので……」
「…いつまでそうやって腐ってるつもりなのさ、貴方だって仮初の心臓でも生きているんだから、自分の意思くらい持ったらどうなの?」
キッと睨みつけながら、後ろに居るその人に問いかける
もちろん、答えなんて返って来ない
人として生きる価値を、この人は見い出せてないのだろう
『あの戦争』で死んだ筈なのに、今を生きている彼には、お兄様に従うことしか出来ないのだろう
わかっているつもりではあるが、どうしても理解しようと出来ない
……だって、あんな人の言う事聞くだけだなんて、つまらないじゃない……
私も、それは同じなのだが……
「…ま、いいや……」
一息ついて、くるっと体の向きを変える
「……ねぇレイヴン、部屋何処ー?」
コロッと声色を変えて話しかける
「ん?あぁ、奥からニ番目よん」
レイヴンはくいっと後ろを指さす
「ん、じゃあ先に寝てるから。もう眠くて眠くて」
わざと欠伸をしながら横を通り過ぎた
そうでもしないと、彼を殴ってしまいそうだから
自分の中で芽生えた怒りの感情に、頑張って蓋をした
部屋に入るなり愛刀を外してベッドの脇に立て掛け、ボスっと横になる
夜中には起きて出掛けないと……
ユーリには申し訳ないけど、今お兄様に追いかけられるわけにはいかない
ユーリやエステルを会わせるような状況を作るなんてそれこそ出来ない
「………『不義には罰を』……か……」
凛々の明星の掟……
黙っているのは『不義』かもしれない
でも、話せる訳がない
「……ごめん、みんな……」
ポツリと呟いて目を閉じる
前日から眠っていなかった体は既に限界だった
すぐに眠気が襲ってきて、私の意識はフェイドアウトしていった
~数時間後~
パチッと目を開けると、既に部屋の中は真っ暗だった
ゆっくりと体を起こすと、みんなそれぞれベッドに横になって眠っている
一番起きていそうだったユーリも、珍しくベッドに横になっていた
代わりにレイヴンがドアの横に座っている
恐らく、彼が私が出やすいように配慮してくれたんだろう
静かにベッドを抜け出してそっと部屋を出た
宿屋の外に出ると、綺麗な星空に満月が浮かんでいる
「……アリオト、お兄様が何処に居るかわかる?」
『…街の入口の近くですよ。……本当に行くのですか…?』
「………ありがとう……ごめんね」
問いには答えずにお礼だけして走り出す
あまり長い間外に居たら怪しまれる
早々に話を終わらせないと…
入口の近くに来れば、見覚えのある赤が見える
「………来たか」
くるっと振り向いたお兄様は、ニヤッと笑う
「…………何ですか……?当分呼び出しも頼み事もしないと、言っていたではないですか」
睨みつけながらそう言う
が、そんなことも無意味なんだろう
「あぁ、そうだったな。だがアリシア、お前に聞きたいことがあってな」
「…何?」
「先日帝都に戻って何を持って行ったのだ?」
やっぱり思っていた通りのことを聞かれた
『あの人』のせいで情報、筒抜けなんだよなぁ…
「……ペンダントを持って行っただけですよ……いつか勝手に開けられてしまいそうでしたしね」
皮肉を込めて言う
どうせバレているんだろうけど…
「ほう…ローウェル君に渡していたと報告があったが?」
「……私の両親は『お兄様だけ』にはと仰っていましたので」
「…そうか。まぁいいだろう」
ふっと笑ってそう言ってくる
あっさり認めるなんて……お兄様らしくもない
…いや、他に何か用事があるからか…
「さてアリシア、呼び出した理由がそのことについてではないことはわかっているな?」
「…………えぇ、私がどちらを選択するかわかっているような嫌なニ択でしたね。……彼らを見捨てるなんて出来ません」
「ふっ、だろうな。ならば引き続き監視を頼むぞ。『奴』も居るが、お前のように細かい変化には気づかないだろう」
「………………分かりましたよ………それではもう戻りますので」
話を聞き終えて冷たく突き放すように言うと、くるっと宿屋の方へ振り向く
「アリシア、体は平気なのか?」
歩きだそうとしたところで引き止められる
「………あなたが心配するようなことは何もありませんので」
吐き捨てるようにそう言って振り返らずに足を進めた
…結局、私も『あの人』と同じ、言う事を聞くことしか出来ないんだ
宿屋に近づくと、アリオトの話し声が聞こえて来た
……宿屋から出たの、ユーリに気づかれたな……これ……
星達とは夜ならいつでも話せるけど、呼んだ本人とその近くに居る星暦にしか声が聞こえないのが少しだけ不便だ
少しって言うか、かなりだけど…
『ふふ、戻って来たみたいですよ』
アリオトがそう言うのが聞こえるのと同時にユーリがこっちを向いた
「シア、急に居なくなんなっての。焦ったじゃねぇか」
小走りで駆け寄って来てポンッと頭を撫でられる
「ん、ごめんごめん」
(アリオト……何言ったのさ……)
『私と話している途中でデュークさんを見かけて追いかけた、と』
頭の中にアリオトの声が反響する
内緒話をする時の聞こえ方と同じだ
「ったく、なんでまたデュークなんか追いかけたんだよ?」
ムスッと少し拗ねたように頬を膨らませる
きっとデュークさんに嫉妬してるんだろうなぁ…
ちょっと嬉しくってくすっと笑ってしまう
「あん?なーに笑ってんだよ?」
「ふふ、嫉妬してるユーリが可愛くてつい…ね?…デュークさんがお父様の知り合いに似ていたから、ずーっと話を聞こうとしてるだけだよ」
ニコッと笑うと、少し安心したように顔が緩む
「…そっか、でもそれならそうと言ってくれよ」
「寝てるみたいだったし、起こしたら悪いと思って」
髪を解いてくる手の感覚が心地よくて目を細める
こうして居られるのが嬉しい反面、罪悪感に胸がぎゅっと締め付けられる
「ほら、昨日から寝てねぇんだろ?もう宿屋戻ろうぜ?」
「ん…そうだね」
「アリオト、サンキュな」
『いえいえ、それではおやすみなさい、お二人とも』
アリオトに一言そう言うと、私の手を引いて中に入った
……何話してたのか気になるけど、それよりもすごくいまは眠い
部屋に戻ってベッドにまた倒れ込むように寝転ぶ
「そんなに眠いんなら無理して追っかけんなっての」
ユーリはベッドの淵に座りながら苦笑いする
でも、私の耳にはもうそんな声も殆ど届いていない
ゆっくりと薄れていく意識の中で最後に見えたのは、苦い顔をしたユーリだった
「……嘘ついてんのも、無理してんのも、バレバレだっつーの……」
ポンッとシアの頭に手を乗せる
目が覚めてシアのベッドを見たら姿が見えねぇし
おっさんはドアの傍で眠ってて、叩き起こしてみりゃ気づかなかったとか言いやがる
外に出て、試しにペンダント使ってみたら、シリウスじゃなくてアリオトってやつが話しかけてきた
聞いたら話してる途中でデュークを追いかけたって言われるし
星が言うんだからそうなんだと思っていたが、シアに会ったらあからさまに様子がおかしいときた
どっからどう見てもありゃアレクセイに会った時の反応だ
きっと、今追いかけられるのは困るからって嫌々会いに行ったんだろうが…
確実にまたなんか言われたんだろうな…
「……一人で抱え込み過ぎなんだよ、お前は」
頭を撫でていた手を頬にもってきてそっと撫でる
徹夜したせいだろうが、目の下には薄らと隈が出来ている
ぐっすり眠っているようで、そう簡単には起きなさそうだ
まぁ、帝都で逃げ回った挙句、アーセルム号でのあの騒ぎの後だし、疲れているのは当然だろう
ベッドに倒れ込んだのと、ほぼ同時に眠りについたし…
やはりオレ以上に、こいつは無理無茶している気がする
それも理由があってなのはわかるが…
「………さてと…オレもそろそろもう一眠りしますかね…」
流石に今日はくたびれた
自分に割り振られたベッドに戻ろうと、シアの頬から手を離して立ち上がろうとする
が、その時に問題がおきた
グッと服の端を引っ張られバランスが崩れる
先程と同じようにベッドの淵に腰掛ける形になる
何事かと振り向いて、思わすため息がでた
「おいおい……勘弁してくれっての……」
苦笑いしながらオレがバランスを崩した原因、シアを見る
ぎゅっとオレの服の裾を掴んでいて離しそうにない
流石にこれには困った
下町の自室とかシアの家とか…仲間が別室だったら気にせずにこのまま隣で寝るんだが…
流石に今日は無理だ
ただでさえめんどくさいおっさんだけでなく、ジュディやリタだって居るのだ
おっさんとジュディにはおちょくられるのが目に見えてるし、リタには最悪丸焦げにされるの未来が見えてる
いや、オレだけがおちょくられるのならまだいいが、最悪シアもおちょくられかねない
流石にそれだけはいただけない
が、無理矢理引き剥がして起こしてしまうのは可哀想だ
どうしたものかと唸っていると、後ろに引っ張られる
「うおっ!?」
慌てて手をついたからシアに激突はしなかつたが、いよいよ状況がまずくなる
完全に抱きつかれた
引き剥がすとか完全にできない
いやもう、なんか、色々崩壊しそうなんだが…
「……ん………ゆー…………り………」
名前を呼びながらぎゅっとシアの腕に力が入る
「……っ!!//あー、くっそ……っ!///」
なんでこいつこんなに無防備なんだよ…っ!!
マジで襲いたくなっちまうじゃねえかよ…っ!!
「…………しゃーねぇな………」
苦笑いしながら頭を撫でる
こんなに気持ちよさそうに眠っているシアを起こすなんて出来ない
もうあいつらに何言われるのも覚悟するしかないだろう
「……おやすみ、シア」
そっと頭にキスしてそのまま目を閉じた
~次の日~
「……さて、どうしたものか……」
「ここまで気持ちよさそうに寝ていると、起こすのも癪ねぇ…」
「この子、一度熟睡すると中々起きないうえに、起こしにくい寝顔してるのよね」
オレとリタ、ジュディは苦笑いしながらシアを見つめる
朝になったというのに、中々目を覚ましてくれないのだ
「あー……もう少し寝かせてあげたらどう?」
「おっさん、オレにそれまで動くなって言ってんのか?」
遠慮気味に言ってきたおっさんにジト目で問いかける
相変わらずオレに引っ付いたままなのだ
しかも、引き剥がすに剥せねぇときた
結局、シアが起きるまでずっと横に居ることになった
……まぁ、別にいいんだけどな
ノードポリカにつくと、パティはすぐにアイフリードの宝を探しに行くと言って、また一人何処かへ行ってしまった
カウフマンさん達とは、駆動魔導器の交換をして貰う約束をして、すぐに別れた
レイヴンがドンから頼まれた手紙は、
ベリウスもフェローと同じく始祖の隷長で、私も何度か会ったことがある
…まぁ、言えないけどさ…
ただ、彼女のことだ
恐らく今はここに居ないだろう
そんなことを考えながらみんなの後について行った
闘技場について、統領代理のナッツという男の人に会った
「生憎だが、ベリウス様は今いらっしゃならい。要件なら私が受けよう」
「すまんね、ドンから直接渡せって言われてるのよ」
手紙をヒラヒラさせながらレイヴンはナッツにそう告げる
やはり留守……か
まぁ、私にはわかりきってたことだけど…
ナッツさんはしばらく顎に手を当てて何か考えていた
「……ならば、次の新月の夜に来てくれ」
そう言われ、渋々その場を後にする
「おっさん、先に宿行ってていいかしら?ドンに手紙出さなきゃいけないのよ」
「あ、うん!わかった!!」
レイヴンはそう言い残すと先に宿屋に向かって行った
「オレらも宿屋でこれからどうするか考えますかね」
ユーリの提案に頷き、私達も宿屋へ向かった
「ったく……あのおっさん何処に行きやがったんだよ……」
宿屋の前で呆れ気味にユーリが呟く
それもそうだ、先に来ている筈のレイヴンが居ないんだから
「探しに行きます?」
「そうね、彼が居ないと入れないもの」
エステルの意見にジュディスも賛同する
まぁ、確かにそれがいいんだろうけどさ……
「私はパース。此処で待ってるよ。流石にちょっと疲れたし……」
ふぁ…っと欠伸をしながらそう伝える
流石にオールで続いた戦闘に体が悲鳴をあげていた
「了解、その代わり、ここ動くなよ?」
少し心配そうにユーリがそう言ってくる
「大丈夫大丈夫、動かないって」
ヘラっと笑ってそう伝えると何度か私をチラ見してからようやく動き始めた
外に向かっていくユーリ達が見えなくなるまで手を振る
「……さてと……そこに居るんでしょ?」
少し低めの声で後ろに感じた気配に、声をかける
「……いつ気がついた?」
聞こえたのは『あの人』の声
私がお兄様の次に嫌いな人の声
「ついさっき、ユーリ達がここを離れた辺りで。………それで?」
振り向きはせずに、彼の要件を聞く
「……伝言だ。『今日が約束の日だ。真夜中に街の入口に』……だそうだ」
「…………はぁ……どうせ行かなきゃまた追っかけて来るんでしょ……もう…何であなたがここに居るのに私なのよ……」
悪態づくように『あの人』に言う
役に立たない私は、本来必要無いはずだ
なのに、何故ここまで必要とされるのだろうか……
「……閣下に聞かなければわかりません……私は伝言を伝えただけですので……」
「…いつまでそうやって腐ってるつもりなのさ、貴方だって仮初の心臓でも生きているんだから、自分の意思くらい持ったらどうなの?」
キッと睨みつけながら、後ろに居るその人に問いかける
もちろん、答えなんて返って来ない
人として生きる価値を、この人は見い出せてないのだろう
『あの戦争』で死んだ筈なのに、今を生きている彼には、お兄様に従うことしか出来ないのだろう
わかっているつもりではあるが、どうしても理解しようと出来ない
……だって、あんな人の言う事聞くだけだなんて、つまらないじゃない……
私も、それは同じなのだが……
「…ま、いいや……」
一息ついて、くるっと体の向きを変える
「……ねぇレイヴン、部屋何処ー?」
コロッと声色を変えて話しかける
「ん?あぁ、奥からニ番目よん」
レイヴンはくいっと後ろを指さす
「ん、じゃあ先に寝てるから。もう眠くて眠くて」
わざと欠伸をしながら横を通り過ぎた
そうでもしないと、彼を殴ってしまいそうだから
自分の中で芽生えた怒りの感情に、頑張って蓋をした
部屋に入るなり愛刀を外してベッドの脇に立て掛け、ボスっと横になる
夜中には起きて出掛けないと……
ユーリには申し訳ないけど、今お兄様に追いかけられるわけにはいかない
ユーリやエステルを会わせるような状況を作るなんてそれこそ出来ない
「………『不義には罰を』……か……」
凛々の明星の掟……
黙っているのは『不義』かもしれない
でも、話せる訳がない
「……ごめん、みんな……」
ポツリと呟いて目を閉じる
前日から眠っていなかった体は既に限界だった
すぐに眠気が襲ってきて、私の意識はフェイドアウトしていった
~数時間後~
パチッと目を開けると、既に部屋の中は真っ暗だった
ゆっくりと体を起こすと、みんなそれぞれベッドに横になって眠っている
一番起きていそうだったユーリも、珍しくベッドに横になっていた
代わりにレイヴンがドアの横に座っている
恐らく、彼が私が出やすいように配慮してくれたんだろう
静かにベッドを抜け出してそっと部屋を出た
宿屋の外に出ると、綺麗な星空に満月が浮かんでいる
「……アリオト、お兄様が何処に居るかわかる?」
『…街の入口の近くですよ。……本当に行くのですか…?』
「………ありがとう……ごめんね」
問いには答えずにお礼だけして走り出す
あまり長い間外に居たら怪しまれる
早々に話を終わらせないと…
入口の近くに来れば、見覚えのある赤が見える
「………来たか」
くるっと振り向いたお兄様は、ニヤッと笑う
「…………何ですか……?当分呼び出しも頼み事もしないと、言っていたではないですか」
睨みつけながらそう言う
が、そんなことも無意味なんだろう
「あぁ、そうだったな。だがアリシア、お前に聞きたいことがあってな」
「…何?」
「先日帝都に戻って何を持って行ったのだ?」
やっぱり思っていた通りのことを聞かれた
『あの人』のせいで情報、筒抜けなんだよなぁ…
「……ペンダントを持って行っただけですよ……いつか勝手に開けられてしまいそうでしたしね」
皮肉を込めて言う
どうせバレているんだろうけど…
「ほう…ローウェル君に渡していたと報告があったが?」
「……私の両親は『お兄様だけ』にはと仰っていましたので」
「…そうか。まぁいいだろう」
ふっと笑ってそう言ってくる
あっさり認めるなんて……お兄様らしくもない
…いや、他に何か用事があるからか…
「さてアリシア、呼び出した理由がそのことについてではないことはわかっているな?」
「…………えぇ、私がどちらを選択するかわかっているような嫌なニ択でしたね。……彼らを見捨てるなんて出来ません」
「ふっ、だろうな。ならば引き続き監視を頼むぞ。『奴』も居るが、お前のように細かい変化には気づかないだろう」
「………………分かりましたよ………それではもう戻りますので」
話を聞き終えて冷たく突き放すように言うと、くるっと宿屋の方へ振り向く
「アリシア、体は平気なのか?」
歩きだそうとしたところで引き止められる
「………あなたが心配するようなことは何もありませんので」
吐き捨てるようにそう言って振り返らずに足を進めた
…結局、私も『あの人』と同じ、言う事を聞くことしか出来ないんだ
宿屋に近づくと、アリオトの話し声が聞こえて来た
……宿屋から出たの、ユーリに気づかれたな……これ……
星達とは夜ならいつでも話せるけど、呼んだ本人とその近くに居る星暦にしか声が聞こえないのが少しだけ不便だ
少しって言うか、かなりだけど…
『ふふ、戻って来たみたいですよ』
アリオトがそう言うのが聞こえるのと同時にユーリがこっちを向いた
「シア、急に居なくなんなっての。焦ったじゃねぇか」
小走りで駆け寄って来てポンッと頭を撫でられる
「ん、ごめんごめん」
(アリオト……何言ったのさ……)
『私と話している途中でデュークさんを見かけて追いかけた、と』
頭の中にアリオトの声が反響する
内緒話をする時の聞こえ方と同じだ
「ったく、なんでまたデュークなんか追いかけたんだよ?」
ムスッと少し拗ねたように頬を膨らませる
きっとデュークさんに嫉妬してるんだろうなぁ…
ちょっと嬉しくってくすっと笑ってしまう
「あん?なーに笑ってんだよ?」
「ふふ、嫉妬してるユーリが可愛くてつい…ね?…デュークさんがお父様の知り合いに似ていたから、ずーっと話を聞こうとしてるだけだよ」
ニコッと笑うと、少し安心したように顔が緩む
「…そっか、でもそれならそうと言ってくれよ」
「寝てるみたいだったし、起こしたら悪いと思って」
髪を解いてくる手の感覚が心地よくて目を細める
こうして居られるのが嬉しい反面、罪悪感に胸がぎゅっと締め付けられる
「ほら、昨日から寝てねぇんだろ?もう宿屋戻ろうぜ?」
「ん…そうだね」
「アリオト、サンキュな」
『いえいえ、それではおやすみなさい、お二人とも』
アリオトに一言そう言うと、私の手を引いて中に入った
……何話してたのか気になるけど、それよりもすごくいまは眠い
部屋に戻ってベッドにまた倒れ込むように寝転ぶ
「そんなに眠いんなら無理して追っかけんなっての」
ユーリはベッドの淵に座りながら苦笑いする
でも、私の耳にはもうそんな声も殆ど届いていない
ゆっくりと薄れていく意識の中で最後に見えたのは、苦い顔をしたユーリだった
「……嘘ついてんのも、無理してんのも、バレバレだっつーの……」
ポンッとシアの頭に手を乗せる
目が覚めてシアのベッドを見たら姿が見えねぇし
おっさんはドアの傍で眠ってて、叩き起こしてみりゃ気づかなかったとか言いやがる
外に出て、試しにペンダント使ってみたら、シリウスじゃなくてアリオトってやつが話しかけてきた
聞いたら話してる途中でデュークを追いかけたって言われるし
星が言うんだからそうなんだと思っていたが、シアに会ったらあからさまに様子がおかしいときた
どっからどう見てもありゃアレクセイに会った時の反応だ
きっと、今追いかけられるのは困るからって嫌々会いに行ったんだろうが…
確実にまたなんか言われたんだろうな…
「……一人で抱え込み過ぎなんだよ、お前は」
頭を撫でていた手を頬にもってきてそっと撫でる
徹夜したせいだろうが、目の下には薄らと隈が出来ている
ぐっすり眠っているようで、そう簡単には起きなさそうだ
まぁ、帝都で逃げ回った挙句、アーセルム号でのあの騒ぎの後だし、疲れているのは当然だろう
ベッドに倒れ込んだのと、ほぼ同時に眠りについたし…
やはりオレ以上に、こいつは無理無茶している気がする
それも理由があってなのはわかるが…
「………さてと…オレもそろそろもう一眠りしますかね…」
流石に今日はくたびれた
自分に割り振られたベッドに戻ろうと、シアの頬から手を離して立ち上がろうとする
が、その時に問題がおきた
グッと服の端を引っ張られバランスが崩れる
先程と同じようにベッドの淵に腰掛ける形になる
何事かと振り向いて、思わすため息がでた
「おいおい……勘弁してくれっての……」
苦笑いしながらオレがバランスを崩した原因、シアを見る
ぎゅっとオレの服の裾を掴んでいて離しそうにない
流石にこれには困った
下町の自室とかシアの家とか…仲間が別室だったら気にせずにこのまま隣で寝るんだが…
流石に今日は無理だ
ただでさえめんどくさいおっさんだけでなく、ジュディやリタだって居るのだ
おっさんとジュディにはおちょくられるのが目に見えてるし、リタには最悪丸焦げにされるの未来が見えてる
いや、オレだけがおちょくられるのならまだいいが、最悪シアもおちょくられかねない
流石にそれだけはいただけない
が、無理矢理引き剥がして起こしてしまうのは可哀想だ
どうしたものかと唸っていると、後ろに引っ張られる
「うおっ!?」
慌てて手をついたからシアに激突はしなかつたが、いよいよ状況がまずくなる
完全に抱きつかれた
引き剥がすとか完全にできない
いやもう、なんか、色々崩壊しそうなんだが…
「……ん………ゆー…………り………」
名前を呼びながらぎゅっとシアの腕に力が入る
「……っ!!//あー、くっそ……っ!///」
なんでこいつこんなに無防備なんだよ…っ!!
マジで襲いたくなっちまうじゃねえかよ…っ!!
「…………しゃーねぇな………」
苦笑いしながら頭を撫でる
こんなに気持ちよさそうに眠っているシアを起こすなんて出来ない
もうあいつらに何言われるのも覚悟するしかないだろう
「……おやすみ、シア」
そっと頭にキスしてそのまま目を閉じた
~次の日~
「……さて、どうしたものか……」
「ここまで気持ちよさそうに寝ていると、起こすのも癪ねぇ…」
「この子、一度熟睡すると中々起きないうえに、起こしにくい寝顔してるのよね」
オレとリタ、ジュディは苦笑いしながらシアを見つめる
朝になったというのに、中々目を覚ましてくれないのだ
「あー……もう少し寝かせてあげたらどう?」
「おっさん、オレにそれまで動くなって言ってんのか?」
遠慮気味に言ってきたおっさんにジト目で問いかける
相変わらずオレに引っ付いたままなのだ
しかも、引き剥がすに剥せねぇときた
結局、シアが起きるまでずっと横に居ることになった
……まぁ、別にいいんだけどな