第2部〜満月の子と星暦の真実〜
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想定外な遭遇
「……よし、誰も居なさそうだね……」
貴族街にある家の鍵を開けて少しだけ扉を開いて、中を覗く
見た感じ明かりもついていなかったし、多分大丈夫だろう
静かに中に入って後ろ手に扉をそっとし閉じ、鍵をかける
玄関脇に置いていた持ち運び式の光照魔導器を手に取って、スイッチを入れるとぼうっと光り出す
その光を頼りに家の中を進んで行く
階段を上がってすぐの自室の扉の鍵を開けて中に入って、内側から鍵を掛けた
有り得ないとは思うが念には念を
いつお兄様が来るかなんてわからないし…
机の上に光照魔導器を置いてから、窓辺に近づいてカーテンを閉める
遮光カーテンだから、中の光は外に漏れはしない
扉も下から光が漏れないようになってるし
『用心しすぎじゃないかな?』
部屋が真っ暗なお陰か、アルタイルの姿が見えた
見た目的にはカロルと同じくらいの少女は、苦笑いしながら私を見ている
「…だって、帰ってきたら嫌だもん…」
小声で呟いてから部屋の光照魔導器を付ける
明るくなった部屋は、最後訪れた時と何ら変わりない状態だった
一人にしては広すぎる部屋
壁いっぱいに並んだ本棚に、沢山の本
大きすぎるベッド…
やはり居心地がいまいち悪い
さっさと目当てのものを取ってユーリの元に戻ろう
机に付いている引き出しの一番上……鍵のかかった場所の鍵を外して開けると、探していたものはすぐに見つかった
淡い赤い色をしたペンダント…
赤は私達星暦の色…
そのペンダントをぎゅっと握りしめる
(お母様……ご先祖様……このペンダント、お借りします……一族の血を引かない人に貸すことを許してください……)
心の中で謝る
本当ならば貸せるものではない
……でも、シリウス達が貸していいってしつっこく言ってくるし……
『……アリシア、別に余計なこと言わなくていいんだよ?どうせ気にしてないって!』
ヘラヘラとアルタイルが言う声が聞こえたが、そんな言葉、私の耳には届いていなかった
…ほんの僅かにだが、下から物音が聞こえた気がしたからだ
引き出しを閉めて鍵をかけ直してから、部屋の明かりを消して腰に付けていた双剣を外し、手に持ってベッドの下に隠れた
ここは家の中、星達には誰が来たかなんて見えない
でも、確かに誰かが歩く音とカシャッと金属が擦れる音が聞こえている
その音は、私が大嫌いな音
『…もしかして、帰ってきた…?』
(……多分……)
声に出さずにアルタイルに答える
足音は私の部屋の前で止まった
嫌な汗が額を伝う
コンコンッとノックして、扉を開けようとされたが、鍵が掛かっているから開くはずがない
「ふむ……確かに帰って居るのを見たと報告があったのだがな……」
大っ嫌いな声が聞こえてゴクッと生唾を飲み込む
帝都に居るじゃん……っ!
しかも、誰かに見られてたんじゃん……っ!
最悪な展開に冷や汗が止まらない
誰かに見られていたのは完全に私のミスだ
確か合鍵を持っていたはずだがら、鍵を開けて入って来ることが目に見えてる
玄関に無ければいけない光照魔導器は机の上……
ここに居ることはすぐにバレてしまうだろう
一度ベッドの下から抜け出そうと少し体を動かすが、扉の前でまた金属音が聞こえ、ピタッと止まる
「ん…?あぁ、そういえばアリシアの部屋の鍵は別に置いていたな」
ボソッと呟いたと思えば、また足音が聞こえて今度は遠ざかって行った
今がチャンスだ
素早くベッドの下から抜け出して、光照魔導器を引っ掴む
そして、暖炉に駆け寄って中のレンガを一つ押し込むと、底が動いて隠し通路が現れる
これを進めば下町にある家に見つかることなく行ける
昔はよく、ここから抜け出して下町でユーリ達と遊んでいたなぁ……
そんな思い出に長い間浸ってる時間なんて無くて、人一人が通れる程度の穴に迷わず飛び込んだ
下に着いてから、梯子近くの飛び出ているレンガを押し込むと、上から入ってきていた光が遮断された
先ほど取った光照魔導器のスイッチを入れて、愛刀達を再び腰に付け直す
『相変わらずここも暗いね』
「ん、でももう慣れたよ」
短く返事をして小走りで通路を進む
多分部屋に居たことはバレるのに時間がかからないはずだ
遮光カーテン開け忘れてるし……
そもそも玄関脇に常備してる光照魔導器がないんだ
この時点で隠し切れないだろう
なら、私が今しなきゃいけない最善策は、逃げること
逃げて、ユーリ達と合流しないと
このペンダントを私が持っていることをお兄様に知られたら、間違いなく渡せと要求されるだろう
何があっても、それだけは阻止しないと…
これだけは、絶対にお兄様に渡してはいけない
渡すわけにはいかない
追手が来る前に帝都から逃げ出すべく、先を急いだ
~同時刻、アリシアの部屋~
ガチャリと鍵を開けて部屋の中に入れば、昨日の昼頃に部屋に入った時と少々状態が変わっていた
開けられていたはずの遮光カーテンは閉まっているし、机の椅子は多少位置がズレている
明らかに誰かがここに居た証拠だ
「…ふむ……」
暖炉に近寄って中を覗けば、底が少し動いた跡がある
アリシアが『何か』をしに来て、ここから出たのだろう
「閣下……?ここはアリシア様のお部屋では…?」
付き添いの騎士が部屋の入口で遠慮気味に話しかけてくる
女性の部屋に鍵を開けて勝手に入っているのだから、当たり前の反応だろう
「問題ない、普段この部屋にアリシアが居ることはないのでな。…それより、『ヤツ』から連絡はないのか?」
「はっ……つい今しがた、アリシア様がお一人で帝都に戻られているとの報告がありました!」
「ふむ……大至急下町に兵を回してくれ、まだそう遠くには行っていないはずだ」
「はっ!」
礼儀正しく敬礼すると、走り去って行く
理由を聞かずに私に言われた通りに動く我が親衛隊…
アリシアよりも使い勝手がいい
だが、彼女にはまだやって貰わなければならない事がある
……全ては、私の大望の為に
ガタッ!
「ふぁっ!ようやく開いたぁぁ……」
ポッカリと開いた床の穴から体を半分出して、ベタッと這いつくばる
建付けが悪いせいで中々開かなかったのだ
力技で何とかこじ開けたけど……
『早くしないと、もう朝よ!』
「うげぇ……アルタイルと話出来なくなると、移動中すっごい暇になるじゃん……」
少し気怠い体を起こして完全に通路の入口から抜け出して立ち上がり、服についた埃を軽くはたく
床板を戻すだけ戻して、玄関から外に出る
私の家は市民街の入り口から離れた位置にあって、あまり人が居ないところにある
大分明るくなってきている空を見て苦笑いする
『アリシア!早く!』
「了解っ!」
地面を思いっきり蹴って急上昇する
チラッと下を見ると、市民街から数名の騎士が走って来ていたのが見えた
間一髪のところで逃げ出せたようだ
来た時と同じように雲の上まで出てから、トリム港の方向へ体を向ける
今ならまだギリギリ間に合うかもしれないからね
~一方、ユーリ達は~
以前、デイドン砦で出会ったカウフマンとギルド同士の協力という名目で、オレ達はノードポリカへと向かっている
オレらは船が欲しかったし、カウフマンは別の街に行きたかったみたいだったからな
何だかんだでリタもエアルクレーネの調査をしたいからと言って、一緒に旅に付いてくることになった
まぁ…本音はエステルの事が気になるんだろうけどな
船を出して早々魚人に襲われたが、その魚人の中から、何故かパティが出てきて、その場の成り行きで一緒にノードポリカに行くことになった
シアのことは船の上でみんなに説明した
当たり前ではあるが、ものすっごく驚いていた
「なんか…星暦って本当に凄いね…!」
「はい!魔導器なしで術や技を使えるだけじゃなくて、飛んだり出来てしまうなんて…!!」
興奮気味に話すエステルとカロル
「大丈夫なの?またぶっ倒れたら洒落になんないわよ?」
リタは顔をしかめて怪訝そうにしている
シアの大親友らしいから、相当心配なんだろう
「でも、空を飛んだ方が早い気がするわね。案外もう先に付いてしまっているんじゃないかしら?」
「いやいや!もしかしたら、ノードポリカにつく前に合流出来ちゃったりするんじゃない?」
ケラケラと笑いながらジュディとおっさんはそんなことを言っている
「おいおい…流石にそれはねぇと思うぜ?」
「あら、あるかもしれないわよ?」
「そうね、あの子意外と目良いし、案外あっさり見つけて降りて来たりするんじゃない?」
……そう言われると、シアの性格上有り得そうなんだが……
「えぇ…?幾らアリシアでも、流石にそれは」
「呼んだ?カロル」
頭上から聞こえた声に驚いて見上げると、いつの間に来たのか、船室の屋根の上に堂々と座っているシアが居た
…おいおい……本気で降りて来たのかよ……
唖然とするオレらを尻目に、ストンッと屋根の上から降りて来る
「ふあ~……疲れたぁ……もう当分帝都には戻りたくないよ…」
軽く伸びをしながらオレに歩み寄ってくる
「あ、あんた……いつからあそこに居たのよ…!」
みんなが黙っていた中、ようやく口を開いたのはリタだった
「んー?ついさっきだよ?雲の上飛んでたけど、あの高度だと気温低いから寒くってさぁ…海の上だろうからって雲の下に出たらたまたま見つけたってわけ
……はい、ユーリ。取ってきたよ」
ポケットから赤い飾りのついたペンダントを取り出すとオレの手の平に乗せてきた
「ん、サンキュ」
「それにしてもアリシアちゃん、随分お疲れの様子ね??空飛ぶのってそんなに体力使うの?」
「寝てないからってだけじゃないの?」
不思議そうに首を傾げるおっさんに、カロルが呆れ気味にそう言うが、それはない
「違うと思うわよ?この子、元々夜行性だし、寝ないことなんてしょっちゅうあるもの」
「夜行性って……リタひどーい、もーちょっと言い方あるでしょ…」
心外だとでも言いたげに顔を歪めるが、オレもそうだと思う
でも、おっさんの言う通り何処か疲れているように見える
「アリシア、本当に何も無かったんです?」
エステルが心配そうに聞くと、言いにくそうに頬をかきだす
…こりゃなんかあったって感じだな
「あー……まぁ、大したことじゃ無いけどさ……」
「大したことじゃねぇんだったら、教えてくれるよな?」
「………帝都に戻ったこと…お兄様にバレた……」
少し間を置いて申し訳なさそうにボソッと言う
「はぁ?居ないから戻ったんじゃ無かったの?」
「そのはずだったんだけど……いつの間にか帰ってきてたみたい……」
「バレたらなんかまずいの?」
「………まずい、すっごい今やばい……絶対今騎士に会いたくない……」
大きなため息をついて項垂れてしまう
何がそんなにまずいのかがわからなくて、オレらはみんな首を傾げる
「えっと……何がまずいんです?」
「…ユーリに渡したペンダント…ずーっと貸してくれって言われてたものなの…でも、お父様とお母様から、絶対にアイツに貸すなっ!って昔言われたからさ…ユーリに渡したのバレたら何言われるかわかったもんじゃないよ…いや、もう多分バレてるけどさぁ…捕まったら最後だよ…」
また、ため息をついて今度は頭を抱える
…そんなにやばいのかよ…
「騎士に会うのもまずいのかしら?」
「親衛隊に会うのはまずい…!あとシュバーン隊ね…あいつらは私のこと知ってるから…」
「ありゃあ、アリシアちゃんも大変ねぇ…親衛隊とシュバーン隊って騎士団の中でもトップの隊じゃないのよ」
「シュバーン隊はぶっちゃけどーでもいいのよ…あの隊の騎士、私より弱いのばっかだし……親衛隊の方が面倒なのよ……無駄に強いし、無駄にしつこいし、無駄に忠誠心高いし……」
「つーか、おっさんなんでそんなこと知ってんだよ?」
「まぁ、しょっちゅう捕まってたからねぇ、色んな騎士さんとお話してたのよ」
「……ふーん……」
シアは怪しげにおっさんをチラ見する
ケーブ・モック辺りからずっと思っていたことだが、シアのレイヴンに対する目が厳しい気がする
気がするというか、ものすごく嫌そうな目してる
何処かで会ったことがあるんじゃないかって思えるくらいに
(……いや、流石にそれはねぇか)
軽く頭を振ってその考えを吹き飛ばす
知り合いだったら、初めて会ったときにもっと会話があったはずだ
短い間しか行動を共にしていないが、あのおしゃべりなレイヴンのことだ
知ってたら確実になんか言ってるだろう
「あら、いつの間にか人が増えて居るわね」
「あ…えーっと……これはその…」
首を傾げるカウフマンに、エステルが説明しようとするが、なんて言えばいいのかわからないというようにわたわたしている
…まぁ、空から飛んで来ましたなんて言えねぇよな……
「別にいいわよ、詮索したりしないわ。それに、人手は多い方がいいもの」
ニコッと微笑むと、船首の方に向かって行った
流石五大ギルドの社長 と言うべきか……肝が座ってるというか…
「それで、結局リタもついてくることにしたの?」
「そうよ、エアルクレーネの調査したかったし、こんな危なっかしい連中ほっとけないもの」
「ふふっ、何だかんだリタも心配症だよねぇ。でも、リタとまだまだ旅出来るのはすっごく嬉しいよ!」
ニカッと笑ってリタに飛びつきに行ってしまう
……オレにはそれ、なかったじゃねえかよ……
そんな話をしていると、急に辺りに霧がかかり出した
「うっわ、何これ……」
「前が全く見えませんね……」
「こうゆうのって、何かの前触れって言うわよね」
「そんなこと言ってると、本気でなんか起こっちまうぜ?」
余計なことを言ったレイヴンに呆れ気味にそう言うが……
「ちょっ!!前っ!前!」
「これは…ぶつかるわね」
カロルの指さす方向を見れば、フェルティア号よりも大きな船が前から来ていた
ジュディの言う通り、回避出来なくてぶつかってしまう
ここでまた、厄介事に巻き込まれるなんて思ってもみなかったぜ……
「……よし、誰も居なさそうだね……」
貴族街にある家の鍵を開けて少しだけ扉を開いて、中を覗く
見た感じ明かりもついていなかったし、多分大丈夫だろう
静かに中に入って後ろ手に扉をそっとし閉じ、鍵をかける
玄関脇に置いていた持ち運び式の光照魔導器を手に取って、スイッチを入れるとぼうっと光り出す
その光を頼りに家の中を進んで行く
階段を上がってすぐの自室の扉の鍵を開けて中に入って、内側から鍵を掛けた
有り得ないとは思うが念には念を
いつお兄様が来るかなんてわからないし…
机の上に光照魔導器を置いてから、窓辺に近づいてカーテンを閉める
遮光カーテンだから、中の光は外に漏れはしない
扉も下から光が漏れないようになってるし
『用心しすぎじゃないかな?』
部屋が真っ暗なお陰か、アルタイルの姿が見えた
見た目的にはカロルと同じくらいの少女は、苦笑いしながら私を見ている
「…だって、帰ってきたら嫌だもん…」
小声で呟いてから部屋の光照魔導器を付ける
明るくなった部屋は、最後訪れた時と何ら変わりない状態だった
一人にしては広すぎる部屋
壁いっぱいに並んだ本棚に、沢山の本
大きすぎるベッド…
やはり居心地がいまいち悪い
さっさと目当てのものを取ってユーリの元に戻ろう
机に付いている引き出しの一番上……鍵のかかった場所の鍵を外して開けると、探していたものはすぐに見つかった
淡い赤い色をしたペンダント…
赤は私達星暦の色…
そのペンダントをぎゅっと握りしめる
(お母様……ご先祖様……このペンダント、お借りします……一族の血を引かない人に貸すことを許してください……)
心の中で謝る
本当ならば貸せるものではない
……でも、シリウス達が貸していいってしつっこく言ってくるし……
『……アリシア、別に余計なこと言わなくていいんだよ?どうせ気にしてないって!』
ヘラヘラとアルタイルが言う声が聞こえたが、そんな言葉、私の耳には届いていなかった
…ほんの僅かにだが、下から物音が聞こえた気がしたからだ
引き出しを閉めて鍵をかけ直してから、部屋の明かりを消して腰に付けていた双剣を外し、手に持ってベッドの下に隠れた
ここは家の中、星達には誰が来たかなんて見えない
でも、確かに誰かが歩く音とカシャッと金属が擦れる音が聞こえている
その音は、私が大嫌いな音
『…もしかして、帰ってきた…?』
(……多分……)
声に出さずにアルタイルに答える
足音は私の部屋の前で止まった
嫌な汗が額を伝う
コンコンッとノックして、扉を開けようとされたが、鍵が掛かっているから開くはずがない
「ふむ……確かに帰って居るのを見たと報告があったのだがな……」
大っ嫌いな声が聞こえてゴクッと生唾を飲み込む
帝都に居るじゃん……っ!
しかも、誰かに見られてたんじゃん……っ!
最悪な展開に冷や汗が止まらない
誰かに見られていたのは完全に私のミスだ
確か合鍵を持っていたはずだがら、鍵を開けて入って来ることが目に見えてる
玄関に無ければいけない光照魔導器は机の上……
ここに居ることはすぐにバレてしまうだろう
一度ベッドの下から抜け出そうと少し体を動かすが、扉の前でまた金属音が聞こえ、ピタッと止まる
「ん…?あぁ、そういえばアリシアの部屋の鍵は別に置いていたな」
ボソッと呟いたと思えば、また足音が聞こえて今度は遠ざかって行った
今がチャンスだ
素早くベッドの下から抜け出して、光照魔導器を引っ掴む
そして、暖炉に駆け寄って中のレンガを一つ押し込むと、底が動いて隠し通路が現れる
これを進めば下町にある家に見つかることなく行ける
昔はよく、ここから抜け出して下町でユーリ達と遊んでいたなぁ……
そんな思い出に長い間浸ってる時間なんて無くて、人一人が通れる程度の穴に迷わず飛び込んだ
下に着いてから、梯子近くの飛び出ているレンガを押し込むと、上から入ってきていた光が遮断された
先ほど取った光照魔導器のスイッチを入れて、愛刀達を再び腰に付け直す
『相変わらずここも暗いね』
「ん、でももう慣れたよ」
短く返事をして小走りで通路を進む
多分部屋に居たことはバレるのに時間がかからないはずだ
遮光カーテン開け忘れてるし……
そもそも玄関脇に常備してる光照魔導器がないんだ
この時点で隠し切れないだろう
なら、私が今しなきゃいけない最善策は、逃げること
逃げて、ユーリ達と合流しないと
このペンダントを私が持っていることをお兄様に知られたら、間違いなく渡せと要求されるだろう
何があっても、それだけは阻止しないと…
これだけは、絶対にお兄様に渡してはいけない
渡すわけにはいかない
追手が来る前に帝都から逃げ出すべく、先を急いだ
~同時刻、アリシアの部屋~
ガチャリと鍵を開けて部屋の中に入れば、昨日の昼頃に部屋に入った時と少々状態が変わっていた
開けられていたはずの遮光カーテンは閉まっているし、机の椅子は多少位置がズレている
明らかに誰かがここに居た証拠だ
「…ふむ……」
暖炉に近寄って中を覗けば、底が少し動いた跡がある
アリシアが『何か』をしに来て、ここから出たのだろう
「閣下……?ここはアリシア様のお部屋では…?」
付き添いの騎士が部屋の入口で遠慮気味に話しかけてくる
女性の部屋に鍵を開けて勝手に入っているのだから、当たり前の反応だろう
「問題ない、普段この部屋にアリシアが居ることはないのでな。…それより、『ヤツ』から連絡はないのか?」
「はっ……つい今しがた、アリシア様がお一人で帝都に戻られているとの報告がありました!」
「ふむ……大至急下町に兵を回してくれ、まだそう遠くには行っていないはずだ」
「はっ!」
礼儀正しく敬礼すると、走り去って行く
理由を聞かずに私に言われた通りに動く我が親衛隊…
アリシアよりも使い勝手がいい
だが、彼女にはまだやって貰わなければならない事がある
……全ては、私の大望の為に
ガタッ!
「ふぁっ!ようやく開いたぁぁ……」
ポッカリと開いた床の穴から体を半分出して、ベタッと這いつくばる
建付けが悪いせいで中々開かなかったのだ
力技で何とかこじ開けたけど……
『早くしないと、もう朝よ!』
「うげぇ……アルタイルと話出来なくなると、移動中すっごい暇になるじゃん……」
少し気怠い体を起こして完全に通路の入口から抜け出して立ち上がり、服についた埃を軽くはたく
床板を戻すだけ戻して、玄関から外に出る
私の家は市民街の入り口から離れた位置にあって、あまり人が居ないところにある
大分明るくなってきている空を見て苦笑いする
『アリシア!早く!』
「了解っ!」
地面を思いっきり蹴って急上昇する
チラッと下を見ると、市民街から数名の騎士が走って来ていたのが見えた
間一髪のところで逃げ出せたようだ
来た時と同じように雲の上まで出てから、トリム港の方向へ体を向ける
今ならまだギリギリ間に合うかもしれないからね
~一方、ユーリ達は~
以前、デイドン砦で出会ったカウフマンとギルド同士の協力という名目で、オレ達はノードポリカへと向かっている
オレらは船が欲しかったし、カウフマンは別の街に行きたかったみたいだったからな
何だかんだでリタもエアルクレーネの調査をしたいからと言って、一緒に旅に付いてくることになった
まぁ…本音はエステルの事が気になるんだろうけどな
船を出して早々魚人に襲われたが、その魚人の中から、何故かパティが出てきて、その場の成り行きで一緒にノードポリカに行くことになった
シアのことは船の上でみんなに説明した
当たり前ではあるが、ものすっごく驚いていた
「なんか…星暦って本当に凄いね…!」
「はい!魔導器なしで術や技を使えるだけじゃなくて、飛んだり出来てしまうなんて…!!」
興奮気味に話すエステルとカロル
「大丈夫なの?またぶっ倒れたら洒落になんないわよ?」
リタは顔をしかめて怪訝そうにしている
シアの大親友らしいから、相当心配なんだろう
「でも、空を飛んだ方が早い気がするわね。案外もう先に付いてしまっているんじゃないかしら?」
「いやいや!もしかしたら、ノードポリカにつく前に合流出来ちゃったりするんじゃない?」
ケラケラと笑いながらジュディとおっさんはそんなことを言っている
「おいおい…流石にそれはねぇと思うぜ?」
「あら、あるかもしれないわよ?」
「そうね、あの子意外と目良いし、案外あっさり見つけて降りて来たりするんじゃない?」
……そう言われると、シアの性格上有り得そうなんだが……
「えぇ…?幾らアリシアでも、流石にそれは」
「呼んだ?カロル」
頭上から聞こえた声に驚いて見上げると、いつの間に来たのか、船室の屋根の上に堂々と座っているシアが居た
…おいおい……本気で降りて来たのかよ……
唖然とするオレらを尻目に、ストンッと屋根の上から降りて来る
「ふあ~……疲れたぁ……もう当分帝都には戻りたくないよ…」
軽く伸びをしながらオレに歩み寄ってくる
「あ、あんた……いつからあそこに居たのよ…!」
みんなが黙っていた中、ようやく口を開いたのはリタだった
「んー?ついさっきだよ?雲の上飛んでたけど、あの高度だと気温低いから寒くってさぁ…海の上だろうからって雲の下に出たらたまたま見つけたってわけ
……はい、ユーリ。取ってきたよ」
ポケットから赤い飾りのついたペンダントを取り出すとオレの手の平に乗せてきた
「ん、サンキュ」
「それにしてもアリシアちゃん、随分お疲れの様子ね??空飛ぶのってそんなに体力使うの?」
「寝てないからってだけじゃないの?」
不思議そうに首を傾げるおっさんに、カロルが呆れ気味にそう言うが、それはない
「違うと思うわよ?この子、元々夜行性だし、寝ないことなんてしょっちゅうあるもの」
「夜行性って……リタひどーい、もーちょっと言い方あるでしょ…」
心外だとでも言いたげに顔を歪めるが、オレもそうだと思う
でも、おっさんの言う通り何処か疲れているように見える
「アリシア、本当に何も無かったんです?」
エステルが心配そうに聞くと、言いにくそうに頬をかきだす
…こりゃなんかあったって感じだな
「あー……まぁ、大したことじゃ無いけどさ……」
「大したことじゃねぇんだったら、教えてくれるよな?」
「………帝都に戻ったこと…お兄様にバレた……」
少し間を置いて申し訳なさそうにボソッと言う
「はぁ?居ないから戻ったんじゃ無かったの?」
「そのはずだったんだけど……いつの間にか帰ってきてたみたい……」
「バレたらなんかまずいの?」
「………まずい、すっごい今やばい……絶対今騎士に会いたくない……」
大きなため息をついて項垂れてしまう
何がそんなにまずいのかがわからなくて、オレらはみんな首を傾げる
「えっと……何がまずいんです?」
「…ユーリに渡したペンダント…ずーっと貸してくれって言われてたものなの…でも、お父様とお母様から、絶対にアイツに貸すなっ!って昔言われたからさ…ユーリに渡したのバレたら何言われるかわかったもんじゃないよ…いや、もう多分バレてるけどさぁ…捕まったら最後だよ…」
また、ため息をついて今度は頭を抱える
…そんなにやばいのかよ…
「騎士に会うのもまずいのかしら?」
「親衛隊に会うのはまずい…!あとシュバーン隊ね…あいつらは私のこと知ってるから…」
「ありゃあ、アリシアちゃんも大変ねぇ…親衛隊とシュバーン隊って騎士団の中でもトップの隊じゃないのよ」
「シュバーン隊はぶっちゃけどーでもいいのよ…あの隊の騎士、私より弱いのばっかだし……親衛隊の方が面倒なのよ……無駄に強いし、無駄にしつこいし、無駄に忠誠心高いし……」
「つーか、おっさんなんでそんなこと知ってんだよ?」
「まぁ、しょっちゅう捕まってたからねぇ、色んな騎士さんとお話してたのよ」
「……ふーん……」
シアは怪しげにおっさんをチラ見する
ケーブ・モック辺りからずっと思っていたことだが、シアのレイヴンに対する目が厳しい気がする
気がするというか、ものすごく嫌そうな目してる
何処かで会ったことがあるんじゃないかって思えるくらいに
(……いや、流石にそれはねぇか)
軽く頭を振ってその考えを吹き飛ばす
知り合いだったら、初めて会ったときにもっと会話があったはずだ
短い間しか行動を共にしていないが、あのおしゃべりなレイヴンのことだ
知ってたら確実になんか言ってるだろう
「あら、いつの間にか人が増えて居るわね」
「あ…えーっと……これはその…」
首を傾げるカウフマンに、エステルが説明しようとするが、なんて言えばいいのかわからないというようにわたわたしている
…まぁ、空から飛んで来ましたなんて言えねぇよな……
「別にいいわよ、詮索したりしないわ。それに、人手は多い方がいいもの」
ニコッと微笑むと、船首の方に向かって行った
流石五大ギルドの
「それで、結局リタもついてくることにしたの?」
「そうよ、エアルクレーネの調査したかったし、こんな危なっかしい連中ほっとけないもの」
「ふふっ、何だかんだリタも心配症だよねぇ。でも、リタとまだまだ旅出来るのはすっごく嬉しいよ!」
ニカッと笑ってリタに飛びつきに行ってしまう
……オレにはそれ、なかったじゃねえかよ……
そんな話をしていると、急に辺りに霧がかかり出した
「うっわ、何これ……」
「前が全く見えませんね……」
「こうゆうのって、何かの前触れって言うわよね」
「そんなこと言ってると、本気でなんか起こっちまうぜ?」
余計なことを言ったレイヴンに呆れ気味にそう言うが……
「ちょっ!!前っ!前!」
「これは…ぶつかるわね」
カロルの指さす方向を見れば、フェルティア号よりも大きな船が前から来ていた
ジュディの言う通り、回避出来なくてぶつかってしまう
ここでまた、厄介事に巻き込まれるなんて思ってもみなかったぜ……