第2部〜満月の子と星暦の真実〜
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手紙
カプア・トリムについてから宿をとって、そこでこれまでの経緯をリタとレイヴンに話した
「ふーん……」
「……で、レイヴンはなんで追っかけて来たの?」
「ドンのお使いがてら、嬢ちゃんを見て来いってね。お姫様がうろうろしてちゃ、流石のドンも気になるみたいよ」
不機嫌気味にレイヴンに聞くが、当の本人はそんなこと気にする素振りもなくヘラヘラしている
「ドンはご存知なんですね……私のことを…」
エステルはボソリと呟くと項垂れてしまう
「おっさん的には、このまま帝都に戻って欲しいんだけどねぇ」
その言葉はレイヴンとしてそう思っているのか……それとも、『あの人』として思っているのか……
私にはわからない
けれど、エステルを帝都に返しちゃいけない気がしてきている
「ごめんなさい、私フェローに会いたいんです。彼の真意が知りたいんです」
「話はまとまった?じゃあ私もう寝るから」
そう言うと、リタは一人先に寝に行ってしまった
「リタ……どうするんだろ?」
「明日の朝にでも聞いて見りゃいいだろ?」
「…それもそうだね」
それからは自由時間になって、私は一人宿屋の外に出て、船乗り場の近くに来た
薄らと暗くなり始めた空に、星が瞬き始めている
アリオト達に相談しようかと思ったが、今はそれよりも一人で居たい
彼らに聞いても、恐らくお兄様の動向はわからないだろうし…
レイヴン呼び出そうにも、殆ど接点のない私達が二人で居たら怪しまれるし…
大きなため息をついて空を見上げる
「本当……何が目的なのよ……お兄様……」
誰に聞く理由でもなく呟く
聞いたってわかる人なんて居ないだろうし……
直接聞いたところで答えてなんて貰えない
それでも考えずにはいられない
わからなくても考えてしまう
……何か大変なことが起こるような気がしてならない……
……嫌な予感がする
何かはわからないけど、とっても嫌な予感がする
ブレスレット式の武醒魔導器に触れる
これは元々、お父様のものだ
お兄様が私が持っていろと言って渡してくれた、大事な形見……
魔導器として使うことはほとんど無いけど、とっても大事なお守りみたいなもの
不安な時はいつも触れている
…こうしていると、少しだけお父様が傍に居てくれているような気がするから
「アリシア様」
不意に後ろから声をかけられて振り向くと、親衛隊の隊服を着た人が立っていた
「……なんですか……?」
「閣下からお手紙を預かって来ました。大至急、返事が欲しいとの事です」
一度私に向かって敬礼すると、騎士団の紋章の入った封筒を手渡された
『大至急返事が欲しい』
それはつまり、今すぐ読めということだ
嫌々ながら封を切って中身を取り出して広げる
《『あれ』の位置が示された古文書、何処にしまったのだ?》
たった一言、それだけが綺麗に整った字で書かれていた
「……はぁ………自分でお城に持って行ったじゃないの……」
「なんとお伝えすれば良いですか?」
「…………自分の部屋を探して見てください、と伝えてもらえますか?」
「はっ!」
ビシッと敬礼すると、走り去っていく
騎士を黙って見送った後、もう一度手紙に目を向けた
短文な割に、やけに上の方に書かれている
普段ならこうゆう時、真ん中に書くのに……
首を傾げながら、なんとなく余白の部分に触れてみる
ほんの少しだけだけれど凸凹がある気がする
……まさか、炙り出しだとか……?
………試しにやってみようかな……
手紙を右手に持って左手に意識を集中させると、小さな炎が出来る
その炎に手紙をかざすと、案の定文字が浮かび上がった
手の平に出来ていた炎を消してから、その文字を読む
《次に会う時までにエステリーゼ様をとるか、下町の人々をとるか決めておけ。先に言っておくが、お前がエステリーゼ様の代わりになるというのは出来ぬからな?お前のその体では、もう満足に力を使うことも出来ぬだろう。それと、この事は他言無用だ。この手紙は読み終え次第、すぐに捨てることだな》
「……っ!!!」
ぐしゃっと手紙を握り締める
お兄様……っ!まだそんなことを言っているの……っ!?
ビリビリッと手紙を小さく破る
小さくなった紙切れは急に吹いた強い風に飛ばされて海の方へと飛んで行った
「………どうしろって言うのよ………」
頭に手を当てて上を向く
折角肩の荷が降りたと思ってたのに…
思わずため息が出る
私じゃなくても、今ここには『あの人』が居る
それでいいじゃない……
私が手伝う必要なんてないのに……
そもそも、しばらく頼まないって言ってたのに……
……いや、これは頼んでるんじゃなくて、脅迫してるのかな……
言うことに従わないといけない自分に腹が立つ
お兄様に従うしか為す術がない自分に嫌気がさす
もう嫌だ……
ぎゅっと胸が締め付けられる
また、隠し事が増えちゃった……
「お、ようやく見つけた」
大好きな声が後ろから聞こえて振り向くと、ユーリが近寄って来ていた
暗闇に紛れていて目を凝らさないとよく見えない
「また話してんのか?」
「ん、そんなとこだよ」
ニコッと笑うと優しく微笑み返してきて、ぎゅっと後ろから抱きついてくる
「毎日毎日話してて飽きねぇのか?」
「ぜーんぜん!むしろ楽しいよ?」
「ふーん…オレは話せねぇからわかんねぇや」
「話してみたいなら話す?」
少し顔を上げて聞くと、ちょっとだけ驚いた顔をする
「出来んのか?」
「うーん…私に引っ付いてたら多分話せると思うけど……シリウスー、居る?」
『あぁ、居るぞ?』
ユーリとは違った低トーンな声
私には聞こえてて当たり前の声
でも、ユーリには普段聞こえない声
何も言わないけど、ものすごく驚いた顔をしているから、きっと聞こえたんだろう
「……シア、今の声って……」
『お、どうやら聞こえている様だな』
普段よりも少し明るい声から、彼も話せることが嬉しいのだろうと思った
それもそうかもしれない
今となっては、地上で話せるのは私しか居ないのだ
他の人とも話したいと思うだろう
……決して口にはそんなこと出さないけれどね
「シリウスだよ。私のニ人目のお父さんみたいな感じかな」
「あぁ、そういやその名前、たまに話に出てたな。滅多に話すことはねぇと思うがよろくし頼むわ。特に、シアが無理無茶しねぇようにさ」
『これでも注意して見ているつもりなのだがな…そのことについては我ら星達からも頼むとしよう。我らが見れない日中は頼む』
「おう、任されとくぜ」
……なんか、意気投合するの早くない……?
しかも、なんで私要注意人物みたいな扱い受けてるの…!?
不満げにユーリをじっと見るが、当の本人は全く気づいてない
気づいてないというか、気にされてない……
『それにしてもアリシア、まだ渡していないのか?』
「へ?何を??」
シリウスの質問に首を傾げると、盛大にため息をつかれた
『忘れたのか?お前の母親から昔渡されたあのペンダントのことを』
「……あ、やっば……取り行こうとしてたの忘れてた!!」
シリウスに言われてようやく思い出した
ユーリに渡そうと思ってて取りに帰ろうとしていたのをすっかり忘れてしまってた
「ん?何の話だ?」
「いやぁ…なんて言うかね…星暦の中にも稀に星と話せない人が居るんだよね。お兄様みたいに遠縁ならともかく、本家筋の人間はそれじゃ困るからって、大昔のご先祖さまが作ったペンダントがあるの…身につけてれば星と会話出来るっていうすっごい便利なペンダントがね」
「ふーん…で、オレとそのペンダントにどんな関係があんだよ?」
うっ…っと言葉に詰まってしまう
……だって、言えるわけないじゃん……
シリウス達がユーリとの連絡手段あった方が私の行動制限出来るからとか言ってたからなんて、口が裂けても言えない
どう説明しようかと迷って居ると、隠す必要ないだろうとでも言うかの如く、シリウスが口を開いた
『お前と連絡が取れた方が都合がいいのだよ、我らも毎日アリシアのことを見てるわけにはいかぬからな』
「あぁ!?シリウスっ!!なんで言っちゃうのっ!?」
慌てて声をかき消そうとするけど、時既に遅く……
ばっちりユーリに聞かれてしまった
「あぁなるほどな、つまりあんたらが見てないところでシアが無理無茶したら、連絡してくれってことか」
納得した顔で頷く
……これ、無理無茶したら真っ先にユーリとシリウスに怒られちゃうじゃん……
『そうゆうことだ。そうすれば少しはアリシアも大人しくなるであろう?』
何処か嬉しそうな口調でシリウスはそう告げる
まるで、これで言うこと聞くよな?とでも言いたげに……
……シリウスと話させたの、大失敗だったかも……
「だな、オレもこれ以上シアに無理無茶されんのはごめんだわ。またぶっ倒れられたらオレの心臓が持たねぇよ」
少し不機嫌そうな口調で言いながら、抱きしめてくる腕の力が強くなる
あちゃぁ……前回のが相当きてるよこれ……
何も言い返せなくて、苦笑いしながら二人の会話を聞く
たまにはこうやって、ユーリとシリウスが話してるのを聞くのもいいかもしれない
『それでアリシア、どうする?取りに行くと言うのであれば手伝わせるが?』
ユーリと話していたはずのシリウスに不意に声をかけられる
「えぇ……今から帝都に戻るの……?」
「出来んのか?そんなこと」
『あぁ、風を操れるアルタイルに任せれば一瞬だ』
「……あんたら、そんなことまで出来んだな……」
『まぁ、アリシアを通してだがな』
苦い声でシリウスは言う
「あんたには出来ねぇのか?」
「シリウスの得意分野は火だからね」
首を傾げるユーリにシリウスの代わりに答える
「星達にはそれぞれ得意分野があるの。例えばさっき言ったように、シリウスは火を操るのに特化してるし、アルタイルは風を操るのに特化してる。他にもアリオトは治癒が得意だし、リゲルはバリアを張ったりするいわゆる守護が得意だったり…みんな出来ることが違うから、その場の状況に応じて頼むんだけど……」
「ふーん、なら呼べばいいんじゃねぇか?」
『そう簡単に呼んで出てくれば苦労しないのだよ…』
困ったような声とため息が聞こえる
私も苦笑いして肩を竦めた
「シリウス以外、みーんな自由気ままだからさ、声掛けても返事してくれないこと多いいんだよね……」
そう言うとなるほどな…と納得したようで、ユーリも苦笑いした
『駄目元で呼びに行ってみるか?』
「えぇ……いいよ……今から戻ったって最低でも半日は往復でかかるし……」
「半日って……夜明けるだろ?そしたらまた夜まで戻って来れねぇんじゃねーの?」
不安気にユーリが聞いてくるが、別にそこは問題ではないんだ…
『そこは問題ないぞ?日中でも移動程度ならば出来る』
「ん?じゃあなんでそんなに嫌そうなんだよ?」
ちょっと顔を背けていると、すっと離れて私と向き合うように真正面に来ると、顔を背けられないように両手で頬を包んで額を合わせてくる
「シア、なんでだよ?」
もう一度そう聞いてくる
……言わなくてもわかるでしょ……
帝都に戻りたくない理由なら、たった一つだけある
『安心しろアリシア、今帝都にあの男は居ないぞ』
「…あぁ、察したよ、アレクセイのことか」
合わせていた額を離すと、また抱きついてきた
「……居ないなら一度戻るかな」
半ば諦め気味に答える
ここで戻りたくないなんて言い出したら、問い詰められるのが目に見えてる
…シリウス達とユーリが連絡取れるようになったら嫌だとか、絶対言えないし……
『ならば呼んでみるとしよう』
『大丈夫、もう居るよ』
シリウスとは別のトーンの高い、少女の声が聞こえた
いつから聞いてたのか分からないが、アルタイルが既に居たようだ
『アルタイル…珍しいな?自ら来るなど』
『だって珍しくアリシアが彼氏にも私達の声聞かせてるんだよ??これはもう大人しく出てくるしかないよ!』
「そんな理由で素直に来られても複雑なんだけど……」
思わず苦笑いしてしまう
彼らが前々からユーリと話したがっていたのは知っているが、まさかここまでだったとは……
『全く……そんな変な所でやる気を出すな!』
少々怒り気味にシリウスが注意するが、それで彼らが素直に手伝ってくれてたらこれまで苦労してないだろう
「んで?行くのか?」
「…そーゆー雰囲気になっちゃったからねぇ……」
「なら、ここでオレら待ってた方がいいか」
「ん、先に行ってて大丈夫だよ。次の目的地は多分デズエール大陸でしょ?ノードポリカで落ち合おうよ」
「シアがそう言うならそうしますかね」
顔をあげてニコッと微笑むと、ちょっと心配そうに微笑みながら、頭を撫でてくる
『話は決まったみたいだね?』
「ん、アルタイル行こっか」
あまり気は乗らないが、ここまできた以上戻らないわけにはいかない
「んじゃ、ノードポリカでな?」
そっと額にキスを落としてくる
言葉の代わりに私もユーリの頬にキスしてからユーリから離れる
『行くよ、アリシア』
「了解、アルタイル!……ユーリ、また明日!」
トンッと地面を軽く蹴ると、ふわっと体が浮き上がる
夜とはいえ、誰かに見られでもしたら大騒ぎは間違いない
そのまま振り返らずに一気に上昇した
……振り返ったら行きたくなくなるし……
『アリシア?よかったの??』
「…いいの、いいの。行きたくなくなるじゃん……」
ボソッと呟くと、それもそっか、と何処か楽しげにアルタイルは言う
雲の上まで出たところで体を帝都の方に向けた
『アルタイル、後は任せるぞ?』
『はいはーい、お任せっ!』
「シリウス、またね」
軽く目を瞑ると、少し離れた所でシリウスが微笑んでいるのが一瞬だけ見えた
目を開ければ映るのは満天の星空
何処にシリウスが居るかなんて、ここだとよく分からない
『さーてと、帝都まで急ぐ??アレクセイ帰ってきたら面倒でしょ?』
「…本当、アルタイルってやな事言うよねぇ……そうならないように、飛ばして行きますか!」
ニッと口元を緩めると、少しだけスピードが上がる
帝都につくまでに、それ程時間はかからないだろう
夜が明ける前には貴族街の自身の家についていた
カプア・トリムについてから宿をとって、そこでこれまでの経緯をリタとレイヴンに話した
「ふーん……」
「……で、レイヴンはなんで追っかけて来たの?」
「ドンのお使いがてら、嬢ちゃんを見て来いってね。お姫様がうろうろしてちゃ、流石のドンも気になるみたいよ」
不機嫌気味にレイヴンに聞くが、当の本人はそんなこと気にする素振りもなくヘラヘラしている
「ドンはご存知なんですね……私のことを…」
エステルはボソリと呟くと項垂れてしまう
「おっさん的には、このまま帝都に戻って欲しいんだけどねぇ」
その言葉はレイヴンとしてそう思っているのか……それとも、『あの人』として思っているのか……
私にはわからない
けれど、エステルを帝都に返しちゃいけない気がしてきている
「ごめんなさい、私フェローに会いたいんです。彼の真意が知りたいんです」
「話はまとまった?じゃあ私もう寝るから」
そう言うと、リタは一人先に寝に行ってしまった
「リタ……どうするんだろ?」
「明日の朝にでも聞いて見りゃいいだろ?」
「…それもそうだね」
それからは自由時間になって、私は一人宿屋の外に出て、船乗り場の近くに来た
薄らと暗くなり始めた空に、星が瞬き始めている
アリオト達に相談しようかと思ったが、今はそれよりも一人で居たい
彼らに聞いても、恐らくお兄様の動向はわからないだろうし…
レイヴン呼び出そうにも、殆ど接点のない私達が二人で居たら怪しまれるし…
大きなため息をついて空を見上げる
「本当……何が目的なのよ……お兄様……」
誰に聞く理由でもなく呟く
聞いたってわかる人なんて居ないだろうし……
直接聞いたところで答えてなんて貰えない
それでも考えずにはいられない
わからなくても考えてしまう
……何か大変なことが起こるような気がしてならない……
……嫌な予感がする
何かはわからないけど、とっても嫌な予感がする
ブレスレット式の武醒魔導器に触れる
これは元々、お父様のものだ
お兄様が私が持っていろと言って渡してくれた、大事な形見……
魔導器として使うことはほとんど無いけど、とっても大事なお守りみたいなもの
不安な時はいつも触れている
…こうしていると、少しだけお父様が傍に居てくれているような気がするから
「アリシア様」
不意に後ろから声をかけられて振り向くと、親衛隊の隊服を着た人が立っていた
「……なんですか……?」
「閣下からお手紙を預かって来ました。大至急、返事が欲しいとの事です」
一度私に向かって敬礼すると、騎士団の紋章の入った封筒を手渡された
『大至急返事が欲しい』
それはつまり、今すぐ読めということだ
嫌々ながら封を切って中身を取り出して広げる
《『あれ』の位置が示された古文書、何処にしまったのだ?》
たった一言、それだけが綺麗に整った字で書かれていた
「……はぁ………自分でお城に持って行ったじゃないの……」
「なんとお伝えすれば良いですか?」
「…………自分の部屋を探して見てください、と伝えてもらえますか?」
「はっ!」
ビシッと敬礼すると、走り去っていく
騎士を黙って見送った後、もう一度手紙に目を向けた
短文な割に、やけに上の方に書かれている
普段ならこうゆう時、真ん中に書くのに……
首を傾げながら、なんとなく余白の部分に触れてみる
ほんの少しだけだけれど凸凹がある気がする
……まさか、炙り出しだとか……?
………試しにやってみようかな……
手紙を右手に持って左手に意識を集中させると、小さな炎が出来る
その炎に手紙をかざすと、案の定文字が浮かび上がった
手の平に出来ていた炎を消してから、その文字を読む
《次に会う時までにエステリーゼ様をとるか、下町の人々をとるか決めておけ。先に言っておくが、お前がエステリーゼ様の代わりになるというのは出来ぬからな?お前のその体では、もう満足に力を使うことも出来ぬだろう。それと、この事は他言無用だ。この手紙は読み終え次第、すぐに捨てることだな》
「……っ!!!」
ぐしゃっと手紙を握り締める
お兄様……っ!まだそんなことを言っているの……っ!?
ビリビリッと手紙を小さく破る
小さくなった紙切れは急に吹いた強い風に飛ばされて海の方へと飛んで行った
「………どうしろって言うのよ………」
頭に手を当てて上を向く
折角肩の荷が降りたと思ってたのに…
思わずため息が出る
私じゃなくても、今ここには『あの人』が居る
それでいいじゃない……
私が手伝う必要なんてないのに……
そもそも、しばらく頼まないって言ってたのに……
……いや、これは頼んでるんじゃなくて、脅迫してるのかな……
言うことに従わないといけない自分に腹が立つ
お兄様に従うしか為す術がない自分に嫌気がさす
もう嫌だ……
ぎゅっと胸が締め付けられる
また、隠し事が増えちゃった……
「お、ようやく見つけた」
大好きな声が後ろから聞こえて振り向くと、ユーリが近寄って来ていた
暗闇に紛れていて目を凝らさないとよく見えない
「また話してんのか?」
「ん、そんなとこだよ」
ニコッと笑うと優しく微笑み返してきて、ぎゅっと後ろから抱きついてくる
「毎日毎日話してて飽きねぇのか?」
「ぜーんぜん!むしろ楽しいよ?」
「ふーん…オレは話せねぇからわかんねぇや」
「話してみたいなら話す?」
少し顔を上げて聞くと、ちょっとだけ驚いた顔をする
「出来んのか?」
「うーん…私に引っ付いてたら多分話せると思うけど……シリウスー、居る?」
『あぁ、居るぞ?』
ユーリとは違った低トーンな声
私には聞こえてて当たり前の声
でも、ユーリには普段聞こえない声
何も言わないけど、ものすごく驚いた顔をしているから、きっと聞こえたんだろう
「……シア、今の声って……」
『お、どうやら聞こえている様だな』
普段よりも少し明るい声から、彼も話せることが嬉しいのだろうと思った
それもそうかもしれない
今となっては、地上で話せるのは私しか居ないのだ
他の人とも話したいと思うだろう
……決して口にはそんなこと出さないけれどね
「シリウスだよ。私のニ人目のお父さんみたいな感じかな」
「あぁ、そういやその名前、たまに話に出てたな。滅多に話すことはねぇと思うがよろくし頼むわ。特に、シアが無理無茶しねぇようにさ」
『これでも注意して見ているつもりなのだがな…そのことについては我ら星達からも頼むとしよう。我らが見れない日中は頼む』
「おう、任されとくぜ」
……なんか、意気投合するの早くない……?
しかも、なんで私要注意人物みたいな扱い受けてるの…!?
不満げにユーリをじっと見るが、当の本人は全く気づいてない
気づいてないというか、気にされてない……
『それにしてもアリシア、まだ渡していないのか?』
「へ?何を??」
シリウスの質問に首を傾げると、盛大にため息をつかれた
『忘れたのか?お前の母親から昔渡されたあのペンダントのことを』
「……あ、やっば……取り行こうとしてたの忘れてた!!」
シリウスに言われてようやく思い出した
ユーリに渡そうと思ってて取りに帰ろうとしていたのをすっかり忘れてしまってた
「ん?何の話だ?」
「いやぁ…なんて言うかね…星暦の中にも稀に星と話せない人が居るんだよね。お兄様みたいに遠縁ならともかく、本家筋の人間はそれじゃ困るからって、大昔のご先祖さまが作ったペンダントがあるの…身につけてれば星と会話出来るっていうすっごい便利なペンダントがね」
「ふーん…で、オレとそのペンダントにどんな関係があんだよ?」
うっ…っと言葉に詰まってしまう
……だって、言えるわけないじゃん……
シリウス達がユーリとの連絡手段あった方が私の行動制限出来るからとか言ってたからなんて、口が裂けても言えない
どう説明しようかと迷って居ると、隠す必要ないだろうとでも言うかの如く、シリウスが口を開いた
『お前と連絡が取れた方が都合がいいのだよ、我らも毎日アリシアのことを見てるわけにはいかぬからな』
「あぁ!?シリウスっ!!なんで言っちゃうのっ!?」
慌てて声をかき消そうとするけど、時既に遅く……
ばっちりユーリに聞かれてしまった
「あぁなるほどな、つまりあんたらが見てないところでシアが無理無茶したら、連絡してくれってことか」
納得した顔で頷く
……これ、無理無茶したら真っ先にユーリとシリウスに怒られちゃうじゃん……
『そうゆうことだ。そうすれば少しはアリシアも大人しくなるであろう?』
何処か嬉しそうな口調でシリウスはそう告げる
まるで、これで言うこと聞くよな?とでも言いたげに……
……シリウスと話させたの、大失敗だったかも……
「だな、オレもこれ以上シアに無理無茶されんのはごめんだわ。またぶっ倒れられたらオレの心臓が持たねぇよ」
少し不機嫌そうな口調で言いながら、抱きしめてくる腕の力が強くなる
あちゃぁ……前回のが相当きてるよこれ……
何も言い返せなくて、苦笑いしながら二人の会話を聞く
たまにはこうやって、ユーリとシリウスが話してるのを聞くのもいいかもしれない
『それでアリシア、どうする?取りに行くと言うのであれば手伝わせるが?』
ユーリと話していたはずのシリウスに不意に声をかけられる
「えぇ……今から帝都に戻るの……?」
「出来んのか?そんなこと」
『あぁ、風を操れるアルタイルに任せれば一瞬だ』
「……あんたら、そんなことまで出来んだな……」
『まぁ、アリシアを通してだがな』
苦い声でシリウスは言う
「あんたには出来ねぇのか?」
「シリウスの得意分野は火だからね」
首を傾げるユーリにシリウスの代わりに答える
「星達にはそれぞれ得意分野があるの。例えばさっき言ったように、シリウスは火を操るのに特化してるし、アルタイルは風を操るのに特化してる。他にもアリオトは治癒が得意だし、リゲルはバリアを張ったりするいわゆる守護が得意だったり…みんな出来ることが違うから、その場の状況に応じて頼むんだけど……」
「ふーん、なら呼べばいいんじゃねぇか?」
『そう簡単に呼んで出てくれば苦労しないのだよ…』
困ったような声とため息が聞こえる
私も苦笑いして肩を竦めた
「シリウス以外、みーんな自由気ままだからさ、声掛けても返事してくれないこと多いいんだよね……」
そう言うとなるほどな…と納得したようで、ユーリも苦笑いした
『駄目元で呼びに行ってみるか?』
「えぇ……いいよ……今から戻ったって最低でも半日は往復でかかるし……」
「半日って……夜明けるだろ?そしたらまた夜まで戻って来れねぇんじゃねーの?」
不安気にユーリが聞いてくるが、別にそこは問題ではないんだ…
『そこは問題ないぞ?日中でも移動程度ならば出来る』
「ん?じゃあなんでそんなに嫌そうなんだよ?」
ちょっと顔を背けていると、すっと離れて私と向き合うように真正面に来ると、顔を背けられないように両手で頬を包んで額を合わせてくる
「シア、なんでだよ?」
もう一度そう聞いてくる
……言わなくてもわかるでしょ……
帝都に戻りたくない理由なら、たった一つだけある
『安心しろアリシア、今帝都にあの男は居ないぞ』
「…あぁ、察したよ、アレクセイのことか」
合わせていた額を離すと、また抱きついてきた
「……居ないなら一度戻るかな」
半ば諦め気味に答える
ここで戻りたくないなんて言い出したら、問い詰められるのが目に見えてる
…シリウス達とユーリが連絡取れるようになったら嫌だとか、絶対言えないし……
『ならば呼んでみるとしよう』
『大丈夫、もう居るよ』
シリウスとは別のトーンの高い、少女の声が聞こえた
いつから聞いてたのか分からないが、アルタイルが既に居たようだ
『アルタイル…珍しいな?自ら来るなど』
『だって珍しくアリシアが彼氏にも私達の声聞かせてるんだよ??これはもう大人しく出てくるしかないよ!』
「そんな理由で素直に来られても複雑なんだけど……」
思わず苦笑いしてしまう
彼らが前々からユーリと話したがっていたのは知っているが、まさかここまでだったとは……
『全く……そんな変な所でやる気を出すな!』
少々怒り気味にシリウスが注意するが、それで彼らが素直に手伝ってくれてたらこれまで苦労してないだろう
「んで?行くのか?」
「…そーゆー雰囲気になっちゃったからねぇ……」
「なら、ここでオレら待ってた方がいいか」
「ん、先に行ってて大丈夫だよ。次の目的地は多分デズエール大陸でしょ?ノードポリカで落ち合おうよ」
「シアがそう言うならそうしますかね」
顔をあげてニコッと微笑むと、ちょっと心配そうに微笑みながら、頭を撫でてくる
『話は決まったみたいだね?』
「ん、アルタイル行こっか」
あまり気は乗らないが、ここまできた以上戻らないわけにはいかない
「んじゃ、ノードポリカでな?」
そっと額にキスを落としてくる
言葉の代わりに私もユーリの頬にキスしてからユーリから離れる
『行くよ、アリシア』
「了解、アルタイル!……ユーリ、また明日!」
トンッと地面を軽く蹴ると、ふわっと体が浮き上がる
夜とはいえ、誰かに見られでもしたら大騒ぎは間違いない
そのまま振り返らずに一気に上昇した
……振り返ったら行きたくなくなるし……
『アリシア?よかったの??』
「…いいの、いいの。行きたくなくなるじゃん……」
ボソッと呟くと、それもそっか、と何処か楽しげにアルタイルは言う
雲の上まで出たところで体を帝都の方に向けた
『アルタイル、後は任せるぞ?』
『はいはーい、お任せっ!』
「シリウス、またね」
軽く目を瞑ると、少し離れた所でシリウスが微笑んでいるのが一瞬だけ見えた
目を開ければ映るのは満天の星空
何処にシリウスが居るかなんて、ここだとよく分からない
『さーてと、帝都まで急ぐ??アレクセイ帰ってきたら面倒でしょ?』
「…本当、アルタイルってやな事言うよねぇ……そうならないように、飛ばして行きますか!」
ニッと口元を緩めると、少しだけスピードが上がる
帝都につくまでに、それ程時間はかからないだろう
夜が明ける前には貴族街の自身の家についていた