第1部〜水道魔導器魔核奪還編〜
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エアルクレーネ
~ケーブ・モック大森林にて~
ダングレストから出てしばらくして、目的のケーブ・モック大森林に到着した
「うっわ……何これ……」
あまりの光景に唖然とする
木々や植物の成長の仕方がとてつもなくおかしい
ありえないくらいに巨大化している
「ここまで成長してっと、なんか不健康って感じだな」
「カロルが言ってた通り、ヘリオードの時と同じ現象みたいね」
リタがそう呟くと、ガサガサッと後ろの方から物音がした
「気をつけて…誰かいるよ」
武器に手をかけながら、カロルが言う
みんなで周りを警戒していると、いつかのあのおじさんがいた
「よっ!偶然」
「こんなとこで何してんだよ」
「自然観察と森林浴って感じだな」
「……嘘くさ………」
ジト目で見ながらそう言う
……何故だろう、前回会った時もそうだったが、何処かで会ったことのあるような気がする
その本人……レイヴンは、歓迎されるとでも思っていたらしく、一緒に来たいと遠回しに言ってくる
「背後には気をつけてね。変なことしたら殺すから」
そう言ってリタはスタスタと先に歩いて行ってしまう
「リタ……それは言い過ぎ……それに、一人は駄目だって!」
苦笑いしながら、先に歩いて行ったリタを追いかける
少し会話が聞こえていたが、ユーリ達もすぐに後を追いかけて来た
……何故かレイヴンも居るようなのだが……
クルッとみんな揃って後ろを向いて顔を見合わせる
「まぁ、俺のことは気にしないでよ」
「どうします?」
みんなに問いかけるようにエステルが聞くと、はぁ…っとため息を付きながらユーリが口を開いた
「おっさん、オレらを納得させる芸とかないの?」
「俺を大道芸人かなんかと間違えてない?」
そう言いながら少し考え込むと、何か思いついたらしく、脇道に少し入ってカロルを手招きして呼ぶ
渋々レイヴンの後を追って、何処かへ行ってしまう
「……何、する気なの……?」
ボソッとそう呟くと、すぐにレイヴンだけ戻って来た
「ん?おっさん、カロルはどうした?」
ユーリがそう聞いた直後
「う、う、うわぁあっ!ちょっと一人にしないで~!」
カロルがちょっと涙目になりながら、巨大化した虫に追いかけられていた
…ちょっと、この人…何子供虐めてるの……
本人は楽しそうに、頑張れ少年~!とか呑気に言ってるし……
なんとか倒そうとカロルが奮闘していると、虫目掛けて弓を放った
「……?」
…何ともなさそうだけど……
「もうそろそろかねぇ」
腕を頭の後ろで組みながらそうボソッと呟く
すると、ボンッという音と共に虫は内側から破裂した
「うわっ!?」
「中で爆発した!?」
「な、何したんです!?」
「防御が崩れた瞬間、打ち込んで中から……ボンてね!」
ちょっと誇らしげにそう言う
なんだかんだ言いながら、少しは見直したようにみんなは話し出す
…私は一人、浮かない顔をしてレイヴンを見詰める
……今の芸当、そんじょそこらの人間が出来るものではないはずだ
お父様も弓を扱う事もあったし、騎士団きっての凄腕だった
今の技に似たようなものも見せてくれた
…その時に言っていた、簡単に出来るものではない、と……
…………この人…………一体何者なの……?
「……ねぇ、アリシア、ずっと思ってたけど、あんたちょっと様子可笑しいわよ?」
「え……?そう…かな?」
少し奥に進んだところで、唐突にリタがそう聞いてきた
……それも、わざわざ小声で
一番後ろに居るのに…
「そうよ、あの偽兄貴のとこ行ってから、ずっと可笑しいわよ」
「に、偽兄貴って……別に偽物ってわけじゃないんだけど…」
苦笑しながら言うが、問題はそこじゃない
…バレてる、なんかあったって、完全にバレてる……
昔から、隠し事だけは本当に苦手なんだよな…と心の中で苦笑する
が、今はそれよりもどうにかして誤魔化さないと…
「なんでもないよ、ただのいつもの喧嘩、だからさ」
そう笑って言うが、上手く笑えている自信はない
「……本当に?」
疑いぶかい目でもう1度聞いてくる
こうなったら意地でも聞き出そうとしてくるのがリタだ
どうしようかと迷っていると、前から声が聞こえてきた
「うわぁあっ!!寄るなっ!近づくなぁっ!あっちいけぇっ!!」
何事かと前を向くと、カロルが必死に武器を振り回して虫を追い払おうとしている
「カロル、カロル、大丈夫ですよ、もうあっち行っちゃいましたから」
エステルがそう呼びかけると、ようやく武器を降ろした
「……は、ははっな、なーんだ…さ、先急ご」
そう言ってスタスタ先に歩き出す
「……なんか、カロル変……」
「そう?いつものダメガキっぷりじゃない」
「いや……シアの言う通り変だぜ、いつもなら腰抜かしてるぜ?」
「それもそうですよね…」
そんなことを話して、先に進んだカロルを追いかけようと歩き出すと、何か思いついたようにレイヴンが叫んだ
「うわ~!!虫の大群だぁぁっ!!」
「ぎゃぁぁあっ!?く、来るなぁっ!!」
カロルはその場にしゃがみ込んでブンブンと武器を振り回す
…あぁ、虫嫌いなんだ…
って、レイヴン…わかってて言ったのね…
呆れてため息をついていると、リタが懐からスプレー缶を取り出してレイヴン目掛けてその中身を噴射した
「うわっぷ……ちょい!ななな、なにすんの……うわわっ、目痛っ……」
「虫の大群追い払うために、薬かけてやったんでしょ」
悪びれる様子もなく、リタはそう言ってなんとか虫嫌いなのを誤魔化そうとするカロルに近づく
「これ持ってなさいよ、アスピオ製撃虫水溶薬。ただし、人に向けて噴射しないでよ」
「リタ……それ、レイヴンのこと人として見てないって解釈でいいの…?」
苦笑いしながら聞くと、当たり前でしょ?と、顔をこちらに向けて平然と言ってくる
…いや、リタの言い分がわからない訳ではないのだが…
とほほ……っと項垂れるレイヴンを放置して、みんなは先に進み出す
慌てた様にレイヴンもその後を追いかけて行く
私は一人、その場に止まってレイヴンとエステルを交互に見ていた
……あからさまに可笑しいのだ、レイヴンの行動が
さっきから後ろから見ていたが、チラチラとエステルを見ている
それに、先程の技も気になるところだ
彼がギルドの人間…だとすればかなりの凄腕だ
でも、それ以前に…………私は、多分彼を知っている
一度や二度ではなく、何度も会っている気がする
会っているだけでなく、会話をしている気がするのだ
……ただの、勘にしか過ぎない
だが、それでもやはり、頭が考えることを辞めようとしてくれない
むしろ、警告し続けてきている
……レイブンは危険だと……
「…………ねぇ、教えてよ……みんな……」
ここからでは見えない空を思い出しながら呟く
きっと彼らなら知っているのだろう
……でも、だからと言って教えてくれるかは別問題だ
私と同じ………時が来るまで話せないことだってある
……だから、今はじっと、耐えるしかない
「おーい!シアっ!!早く来ねぇと置いてくぞっ!?」
遠くからユーリが呼ぶ声が聞こえる
軽く深呼吸してから、彼の方へ駆け足で向かう
「ったく、なーに呆けっとしてんだぁ?」
追いついた私の頭に手を乗せながら呆れたように聞いてくる
「んー……なーんでもないよ」
ニコッと笑って誤魔化す
きっと誤魔化しきれてなんていないだろうけど…
いつも、聞いて来ないからきっと大丈夫
「…嘘だな、世界の終わりって顔してるぜ?」
「っ……!」
珍しくユーリにそう言われてドキッとしてしまう
「詮索する気はねぇけどさ、流石にそんな顔されてたらこっちも気になんだよ」
優しく頭を撫でながら苦笑いして言ってくる
…言ってくれって、遠回しに言ってきてるってわかってる
…話して欲しいだなんて、わかってる
…頼られたいんだって……心配なんだってことも、全部、わかってる
わかってても言えない
言いたくても、言えない
頼りたいよ、私だって…
…でも、あの人の手がどこまで伸びてるかわからない
レイヴンもすっごく怪しいし……
……話したいことも、頼りたいことも、沢山ある
…一人じゃもう、抱え切れそうにない…
………………でも………………
ゆっくり深呼吸してから口を開く
「…大丈夫、大丈夫だよ。ちょっとあの人と大喧嘩して、めんどくさいことになったなぁ…ってだけだからさ!」
これ以上、心配させない為に
せめてものつもりで精一杯笑う
誤魔化すのが苦手な私のことなんて、ユーリにはきっとバレバレだろうけど
それでも、これ以上聞かれない様に
「……そっか、ならいいんだけどな……なんかあったら言ってくれよ?」
寂しそうに言うユーリを見てズキッと心が痛む
……ごめんね……ユーリ……
「……ん、わかった!」
そう言って頭に置かれたユーリの手を取って引っ張る
「ほらっ!早くみんなのとこ行こっ!!」
そう言ってそのまま駆け出す
「あっ!?おいっシア!!」
ユーリの手を引いて前方に居るみんなの元へ向かう
後ろでブツブツ危ねぇだろっ!?とか文句が聞こえてくるけど、クスクス笑って誤魔化す
……ずっと、このままがいい
あの人のことも考えずに、このままで居たい
嫌な仕事も忘れて、こうして笑っていたい
ただ無邪気に、みんなと楽しく笑っていたい
…ユーリとフレンと、何も隠さずに話せていたあの頃のように…
……自然とユーリの手を握った手に力が入って、震えていたことに、私は気づかなかった
~ユーリside~
「……ねぇ、あんたアリシアからなんか聞いてないの?」
シアがはぐれかけてしばらく鬱蒼とした森を歩いていると、先程まで彼女と歩いていたはずのリタが何故か隣に来ていた
シアに聞かれたくないのか、わざわざ小声で聞いてくる
チラッ後ろを見ると、今はエステルやカロルと楽しそうに話している
時折レイヴンがちょっかいを出しているが、その度に蹴られている
「……なんもだよ、そうゆうリタはどうなんだ?」
リタの方に視線をずらしながらそう聞く
「あたしにも言ってこないから聞いてんのよ。ただ喧嘩しただけ…それしか言わないのよ」
お手上げだと言うようにため息をつく
「オレの方も同じこと言われたよ。でも、ありゃ喧嘩しただけって雰囲気じゃねぇよな」
「そうなのよ、絶対他に何かあったって顔してるのに話さないのよ」
「だよなぁ…どう見ても無理に笑ってるっつーのにな。……それに、さっきオレの手ぇ握ってきた時、思い切り震えてたぜ」
ため息をつきながらもう一度振り返る
やはり何度見ても笑顔がぎこちない
確かに昔から嘘つくのも誤魔化すのも苦手な彼女だが、ここまで隠せずにいることは初めてだ
それに、あの震え方……あれはシアが怖がっている時のものと全く同じだ
「あの子……しきたりとかで話せないことあるけど、あんなに無理に笑ってるとこなんて見たことないわよ」
「同感だ、ここまで酷いってことはやっぱなんかあったんだろうな」
「……あんたは、知ってるの?あの子があの偽兄貴に色々やらされてること」
「………知ってるよ。本人から何してるとか聞いたりした訳じゃねぇけどな」
「あたし、今回もその事だと思うのよ……多分……」
心配そうにシアの方を見ながらリタは言う
『多分』、それ以上は何も言わないがこの言葉には続きがあるのだろう
恨めしそうに顔を歪めているリタを見てそう思った
…それは、オレもヘリオードを離れてから……いや、シアが結界の外へ出るようになってから、ずっと思っていた言葉と同じだと確信があった
「……脅されてるんじゃねぇかって、言いたいのか?」
ボソッと呟くと、声は出さないがゆっくりと頷く
確かにそんな雰囲気はある
だが、聞いたところで彼女は答えないのだろう
はぁ……と深くため息をつく
「……ねぇ、なんか声聞こえなかった?」
不意に後ろにいるシアがそう言う
「あん?なんも聞こえなかったと思ったが…」
そう答えると、聞き慣れた声がした
「うちをどこへ連れてってくれるのかのー」
きょろきょろと当たりを見渡すと、何故か魔物に捕まってるパティを見つけた
……何してんだよ……あいつ……
助けなきゃ!とカロルが言うと、レイヴンが弓を取り出して魔物目掛けて矢を放つ
すると見事に命中して、パティが放り出される
駆け足で落下点に向かうと、タイミング良くパティが腕の中に落ちてくる
「ナイスキャッチなのじゃ!」
ちょっと嬉しそうにそう言ってくるパティ
そっと降ろしてやっても良かったが、少し痛い目を見ておいた方がいいだろうとおもって、パッと手を離してそのまま仲間の元へ踵を返した
「ユーリ…可哀想だよ?」
苦笑いしながらシアはそう言ってくる
軽く肩を竦めてパティの方を向く
「で?やっぱりアイフリードのお宝って奴を探してるのか?」
「のじゃ!ユーリも一緒に探すかの?」
「ちょっ!ユーリ連れてこうとしないでよ」
そう言うが早いか、シアが抱きついてくる
普段人前じゃ絶対にやらないような行動に少し驚く
…珍しいこともあるもんだな
「むむっ…別にいいではないかの」
「駄目だって!」
少し腕に力を入れてきながら、パティをじっと睨んでそう言う
パティも負けじとシアを見詰める
「ありゃりゃ、青年はモテモテねぇ」
「アホくさ……痴話喧嘩なら他所でやってよね」
「あ、あの……アリシア?パティ…?穏便に行きましょう?穏便に……ね?」
茶化したようにレイヴンは言い、リタは呆れたように早く終わらせろと言いたげな目をして言う
かと思えば、エステルはわたわたと二人を宥めようとしているし、カロルはどうしたものかと黙ってことの成り行きを見守ってるし、ラピードは少し離れたところで欠伸してるし……
いつまでもバチバチと睨み合いを続けている二人に呆れてため息が出る
……単純に嫉妬してるであろうシアの反応が可愛いから自然にとまるのを待ちたいのだが……
魔物のいるこの場所では流石に危ない
「ほら二人とも、そんなに睨み合ってんなっての。パティ、悪ぃけど他にやんなきゃなんねぇことがあんだ、宝探しはまた今度な?
シアも、お前置いてなんて行かねぇから安心しろって」
そう言うとようやく睨み合いを辞めた
~アリシアside~
「む……残念なのじゃ……じゃが、うちは行くのじゃ!さらばじゃ!」
そう言ってクルッと反対方向へ去って行った
……なんなの、あの子……
「…で、シア?そろそろ離れてくんねぇとオレ、歩けねぇんですけどねぇ」
そう言われて、そういえば反射的に抱きついていた事を思い出した
…なんで抱きついちゃったんだよ、ちょっと前の私……
…きっと、無意識のうちにユーリに甘えたくなっていたのかもしれないな…と心の中で苦笑する
とりあえず、今はリタの用事があるし名残惜しいが離れることにした
「にしても、青年と嬢ちゃんはそういう関係だったのね~おっさん羨ましいわ」
ニヤニヤしながらレイヴンがそう言ってくる
「もう、さっさと行きましょ」
そう言って来た道と逆方向にリタは歩いて行く
「あっ!リタ!待って下さい!」
慌ててエステルとカロルも後を追いかける
「ったく、騒がしい奴らだな」
「…いいじゃん、楽しくてさ」
苦笑いしながらそう言うと、ユーリは少し肩を竦めて歩き出す
少し距離を置いてレイヴンもその後について行く
ゆっくりと、私も歩き出した
今までと違って、レイヴンだけを見詰める
……さっき、パティがアイフリードの名前を出した時にレイヴンがボソッと言った声……
『アイフリード……?』
あの声……ダングレストでも聞いた声だ
……まさか、『あの人』……?
いや、でも確認のしようがないし……
……本人に聞いたところではぐらかされて終わりだろうなぁ…
「アリシアちゃ~ん、そんなにぼーっとしてたら置いてかれちゃうわよ?」
おどけたような声が聞こえて顔を上げると、目の前にレイヴンの顔が見えて思わず後ろに下がってしまう
「うわっ!?ちょっ、レイヴン……びっくりしたじゃん…」
少し睨みながら言うが、本人は気にした素振りも見せずにニヤニヤしている
「ありゃ?驚かせちゃった??」
「当たり前でしょ……」
はぁ…っとため息をつきながらレイヴンの横を通り過ぎようとした
「……そんなに思い詰めた顔してたら、すぐにバレるぞ?」
「っ!!」
聞き慣れた、お兄様の次に嫌いな声
思わずレイヴンの方を向くと、先程までのおどけた表情ではなく、見慣れたような無機質な表情をしていた
「……あの人の命令だ、余計なことは言うなよ…?」
「………うっさいわよ……そんなこと、わかってる、わかってるわよ……あなたこそ、私に正体明かしていいの?」
「……元々気づきかけていただろう?いずれバレるのなら関係ない」
淡々といつもの調子でそう言う
見た目は違うのに、声だけが『あの人』と同じで少し不気味だ
「……あっそ……」
「おーい!シア!おっさん!何ぼけっとしてんだよっ!!」
「ありゃりゃ、ばーれちゃった」
ユーリに呼ばれるとすぐにレイヴンの顔に戻った
ちょっと怒ったような顔をしてこちらに近づいてくる
「二人揃って立ち止まりやがって、なーにしてたんだよ?」
「いやぁ?ちょっとアリシアちゃんを口説こうとしてただけよん?」
チラッと横目で私を見ながらおどけた調子でレイヴンはそう言う
…一瞬合った目は、余計なことは言うなよって訴えかけてきていた
……言われなくたって、わかってるわよ……
「ふーん…?人の彼女口説こうなんて、いい度胸してんな?」
「わ…っ!?」
急に腕を引っ張られてバランスが崩れると、そのままユーリの腕の中に倒れ込んでしまう
そして、さも当たり前のようにぎゅっと抱きしめてくる
「悪ぃけど、こいつはオレのだからくれてやんねぇよ」
そう言うユーリの声は何処か自慢げに聞こえた
見えないけど、きっといつもの悪戯っ子みたいな笑みを浮かべてるんだろうなぁ…
そう考えるとちょっと嬉しくって、つい口元が緩む
「うっはぁ…おっさんはお邪魔って感じねぇ…」
「…邪魔なのは元々でしょ?」
ユーリの胸元に顔を押し付けたままそう言うと、少し残念そうに唸るような声が聞こえた
「ま、そーゆうこった、オレはこいつの面倒見んので忙しいんで、おっさんは構ってらんねぇの」
軽く私を離すと、今度は左手を握って少し小走りで歩き出す
後ろからレイヴンが待ってくれと言う声が聞こえたが無視だ
「…シア、大丈夫だったか?」
「ん、大丈夫だよ」
「本当にか?」
「本当だよ」
エステル達の元に向かいながらそう聞いてくる
……まぁ、ここ最近すぐはぐれちゃってるから仕方ないか……
「…そっか、でもしばらくはオレの傍から離れんじゃねぇぞ?」
そう言って左手を握ってくる手に少し力が入った
…言葉や顔には出さないが、相当心配だったんだろう
「わかったよ」
そう答えて私も手に少し力を入れる
すると、少し嬉しそうに目を細めてくる
…本当、いつもそうやって笑ってくれればいいのになぁ
「あっ!アリシア!大丈夫でしたか!?」
エステル達の元につくと、心配そうにエステルが駆け寄って来た
「心配かけてごめんね、大丈夫だよ」
ガバッと抱きついてきたエステルの背を撫でながらそう言う
「まったくもう!ちょっと呆けっとしすぎよっ!」
腕を組みながらリタの説教が始まる
……一度始まったらなかなか終わらないからとっても面倒……
苦笑いしながらその説教を聞くが、半分以上頭になんて入ってきていない
「リ、リタ……もう探してたものはすぐそこにあるんだし、先に調査終わらせて帰ろうよ……」
ちょっと涙目になりながらカロルがそう訴えると、渋々ではあったが一時中断された
そして、リタは近くに見えたエアルの溜まり場のようなところにゆっくり近づいて行く
……これは……もしかして……
「…これ、ヘリオードの時と同じ現象ね、あの時よりもエアルが弱いけど間違いないわ」
そう言って更に近づこうとした時、後から物音が聞こえた
振り向くと、ダングレストを襲った魔物と同じ雰囲気の魔物が沢山寄って来ていた
「ちっ、囲まれてやがるぜ」
ユーリは舌打ちしながら、剣を鞘から抜く
「こりゃやばそうねぇ…」
そう言いながらレイヴンも弓を構える
「来るよ…っ!」
鞘から双剣を抜きながら言うと、一気に魔物が襲って来た
「くっそっ!!きりがねぇっ!」
悪態をつきながらユーリは剣を振り下ろす
だが、彼の言う通りだ
倒しても倒しても、一向に減る気配がない
それ以前に増えてる気がする…
流石にこれはかなりまずい
「ちょっと………やばいんじゃないの……?」
少し息を切らせながらリタが言う
「流石に……これは……」
エステルもカロルも肩で息をしている
レイヴンもかなり疲労が溜まってきているように見える
このままでは本当にみんな倒れてしまう
(……ねぇ……聞こえているのなら、私に力を貸して……)
見えない星たちに必死に心の中で声を掛ける
すると、途切れ途切れだが、声が聞こえた
『……が………力を…………えば………た…………るぞ………』
よく聞こえないが、きっとこの声はシリウスだ
恐らく、私の体のことを言っているのだろう
……確かに、今使ったら倒れるかもしれない
でも、ここで共倒れするよりかは私一人の方がましだろう
(……大丈夫……大丈夫だから……お願い……)
そう告げると、声は聞こえなかったものの、いつも力を借りた時に感じる暖かい感覚が体に広がる
同時に右の脇腹に痛みがはしるが、そんなことを気にしている場合ではない
少し後退して詠唱を始めた
「貪欲な闇界ここに下り、邪を打ち砕かん!ネガティブゲイトっ!!!」
詠唱が終わると同時にかなりの量の魔物を倒せたが、まだ残ってしまっている
生憎だがもうその魔物を倒せる程、私にも余裕がない
右の脇腹だけだった痛みが、今の一瞬で腹部全体に広がってしまった
ユーリ達ももう疲労困憊という感じで、もはや打つ手立てがない
どうしようかと悩んでいると、見知った銀髪が目の前に現れた
突然現れたことに驚いていると、軽く持っていた剣を1振りした
すると、今まで目の前にいたはずの魔物が一瞬にして消え去ってしまった
背後にあるエアル溜りも濃度が薄くなったように見える
「あんた……一体……?」
ユーリがそう声を掛けると、その人はゆっくりと振り向く
「……エアルクレーネには近づくな」
デュークさんはただ一言そう言うと、踵を返して何処かへ行こうとする
「待って!あんた、今何したのよ…っ!?」
リタが慌ててそう聞くと、立ち止まって振り返らずに淡々と話し出した
「…エアルのひずみを沈めただけだ。エアルクレーネは世界のエアルの源泉。私から言えるのはこれだけだ」
言うだけ言って、また歩き出す
「…っ!!待ってっ!!私は…まだ、あなたに聞きたいことが…っ!!」
慌てて追いかけようとするが、先程力を使った影響で思うように足が動かず、そのまま倒れそうになる
「おっと!おい、シア…大丈夫かよっ!?」
ユーリがなんとか受け止めてくれたが、体に力が入らない
「……今の状態のお前には話せぬ。その体が癒えてからにしろ
…………その力も、もう使わぬ方が良いだろう。そして、決してエアルクレーネに近づくな」
そう言ってデュークさんは立ち去ってしまう
痛みに耐えきれず、徐々に意識が遠のいていく
ユーリやエステルが呼んでいるような声が聞こえるが、最早何を言っているかまではわからない
………ごめんね、ユーリ……みんな……
…今は………少しだけ、休ませて……
~ケーブ・モック大森林にて~
ダングレストから出てしばらくして、目的のケーブ・モック大森林に到着した
「うっわ……何これ……」
あまりの光景に唖然とする
木々や植物の成長の仕方がとてつもなくおかしい
ありえないくらいに巨大化している
「ここまで成長してっと、なんか不健康って感じだな」
「カロルが言ってた通り、ヘリオードの時と同じ現象みたいね」
リタがそう呟くと、ガサガサッと後ろの方から物音がした
「気をつけて…誰かいるよ」
武器に手をかけながら、カロルが言う
みんなで周りを警戒していると、いつかのあのおじさんがいた
「よっ!偶然」
「こんなとこで何してんだよ」
「自然観察と森林浴って感じだな」
「……嘘くさ………」
ジト目で見ながらそう言う
……何故だろう、前回会った時もそうだったが、何処かで会ったことのあるような気がする
その本人……レイヴンは、歓迎されるとでも思っていたらしく、一緒に来たいと遠回しに言ってくる
「背後には気をつけてね。変なことしたら殺すから」
そう言ってリタはスタスタと先に歩いて行ってしまう
「リタ……それは言い過ぎ……それに、一人は駄目だって!」
苦笑いしながら、先に歩いて行ったリタを追いかける
少し会話が聞こえていたが、ユーリ達もすぐに後を追いかけて来た
……何故かレイヴンも居るようなのだが……
クルッとみんな揃って後ろを向いて顔を見合わせる
「まぁ、俺のことは気にしないでよ」
「どうします?」
みんなに問いかけるようにエステルが聞くと、はぁ…っとため息を付きながらユーリが口を開いた
「おっさん、オレらを納得させる芸とかないの?」
「俺を大道芸人かなんかと間違えてない?」
そう言いながら少し考え込むと、何か思いついたらしく、脇道に少し入ってカロルを手招きして呼ぶ
渋々レイヴンの後を追って、何処かへ行ってしまう
「……何、する気なの……?」
ボソッとそう呟くと、すぐにレイヴンだけ戻って来た
「ん?おっさん、カロルはどうした?」
ユーリがそう聞いた直後
「う、う、うわぁあっ!ちょっと一人にしないで~!」
カロルがちょっと涙目になりながら、巨大化した虫に追いかけられていた
…ちょっと、この人…何子供虐めてるの……
本人は楽しそうに、頑張れ少年~!とか呑気に言ってるし……
なんとか倒そうとカロルが奮闘していると、虫目掛けて弓を放った
「……?」
…何ともなさそうだけど……
「もうそろそろかねぇ」
腕を頭の後ろで組みながらそうボソッと呟く
すると、ボンッという音と共に虫は内側から破裂した
「うわっ!?」
「中で爆発した!?」
「な、何したんです!?」
「防御が崩れた瞬間、打ち込んで中から……ボンてね!」
ちょっと誇らしげにそう言う
なんだかんだ言いながら、少しは見直したようにみんなは話し出す
…私は一人、浮かない顔をしてレイヴンを見詰める
……今の芸当、そんじょそこらの人間が出来るものではないはずだ
お父様も弓を扱う事もあったし、騎士団きっての凄腕だった
今の技に似たようなものも見せてくれた
…その時に言っていた、簡単に出来るものではない、と……
…………この人…………一体何者なの……?
「……ねぇ、アリシア、ずっと思ってたけど、あんたちょっと様子可笑しいわよ?」
「え……?そう…かな?」
少し奥に進んだところで、唐突にリタがそう聞いてきた
……それも、わざわざ小声で
一番後ろに居るのに…
「そうよ、あの偽兄貴のとこ行ってから、ずっと可笑しいわよ」
「に、偽兄貴って……別に偽物ってわけじゃないんだけど…」
苦笑しながら言うが、問題はそこじゃない
…バレてる、なんかあったって、完全にバレてる……
昔から、隠し事だけは本当に苦手なんだよな…と心の中で苦笑する
が、今はそれよりもどうにかして誤魔化さないと…
「なんでもないよ、ただのいつもの喧嘩、だからさ」
そう笑って言うが、上手く笑えている自信はない
「……本当に?」
疑いぶかい目でもう1度聞いてくる
こうなったら意地でも聞き出そうとしてくるのがリタだ
どうしようかと迷っていると、前から声が聞こえてきた
「うわぁあっ!!寄るなっ!近づくなぁっ!あっちいけぇっ!!」
何事かと前を向くと、カロルが必死に武器を振り回して虫を追い払おうとしている
「カロル、カロル、大丈夫ですよ、もうあっち行っちゃいましたから」
エステルがそう呼びかけると、ようやく武器を降ろした
「……は、ははっな、なーんだ…さ、先急ご」
そう言ってスタスタ先に歩き出す
「……なんか、カロル変……」
「そう?いつものダメガキっぷりじゃない」
「いや……シアの言う通り変だぜ、いつもなら腰抜かしてるぜ?」
「それもそうですよね…」
そんなことを話して、先に進んだカロルを追いかけようと歩き出すと、何か思いついたようにレイヴンが叫んだ
「うわ~!!虫の大群だぁぁっ!!」
「ぎゃぁぁあっ!?く、来るなぁっ!!」
カロルはその場にしゃがみ込んでブンブンと武器を振り回す
…あぁ、虫嫌いなんだ…
って、レイヴン…わかってて言ったのね…
呆れてため息をついていると、リタが懐からスプレー缶を取り出してレイヴン目掛けてその中身を噴射した
「うわっぷ……ちょい!ななな、なにすんの……うわわっ、目痛っ……」
「虫の大群追い払うために、薬かけてやったんでしょ」
悪びれる様子もなく、リタはそう言ってなんとか虫嫌いなのを誤魔化そうとするカロルに近づく
「これ持ってなさいよ、アスピオ製撃虫水溶薬。ただし、人に向けて噴射しないでよ」
「リタ……それ、レイヴンのこと人として見てないって解釈でいいの…?」
苦笑いしながら聞くと、当たり前でしょ?と、顔をこちらに向けて平然と言ってくる
…いや、リタの言い分がわからない訳ではないのだが…
とほほ……っと項垂れるレイヴンを放置して、みんなは先に進み出す
慌てた様にレイヴンもその後を追いかけて行く
私は一人、その場に止まってレイヴンとエステルを交互に見ていた
……あからさまに可笑しいのだ、レイヴンの行動が
さっきから後ろから見ていたが、チラチラとエステルを見ている
それに、先程の技も気になるところだ
彼がギルドの人間…だとすればかなりの凄腕だ
でも、それ以前に…………私は、多分彼を知っている
一度や二度ではなく、何度も会っている気がする
会っているだけでなく、会話をしている気がするのだ
……ただの、勘にしか過ぎない
だが、それでもやはり、頭が考えることを辞めようとしてくれない
むしろ、警告し続けてきている
……レイブンは危険だと……
「…………ねぇ、教えてよ……みんな……」
ここからでは見えない空を思い出しながら呟く
きっと彼らなら知っているのだろう
……でも、だからと言って教えてくれるかは別問題だ
私と同じ………時が来るまで話せないことだってある
……だから、今はじっと、耐えるしかない
「おーい!シアっ!!早く来ねぇと置いてくぞっ!?」
遠くからユーリが呼ぶ声が聞こえる
軽く深呼吸してから、彼の方へ駆け足で向かう
「ったく、なーに呆けっとしてんだぁ?」
追いついた私の頭に手を乗せながら呆れたように聞いてくる
「んー……なーんでもないよ」
ニコッと笑って誤魔化す
きっと誤魔化しきれてなんていないだろうけど…
いつも、聞いて来ないからきっと大丈夫
「…嘘だな、世界の終わりって顔してるぜ?」
「っ……!」
珍しくユーリにそう言われてドキッとしてしまう
「詮索する気はねぇけどさ、流石にそんな顔されてたらこっちも気になんだよ」
優しく頭を撫でながら苦笑いして言ってくる
…言ってくれって、遠回しに言ってきてるってわかってる
…話して欲しいだなんて、わかってる
…頼られたいんだって……心配なんだってことも、全部、わかってる
わかってても言えない
言いたくても、言えない
頼りたいよ、私だって…
…でも、あの人の手がどこまで伸びてるかわからない
レイヴンもすっごく怪しいし……
……話したいことも、頼りたいことも、沢山ある
…一人じゃもう、抱え切れそうにない…
………………でも………………
ゆっくり深呼吸してから口を開く
「…大丈夫、大丈夫だよ。ちょっとあの人と大喧嘩して、めんどくさいことになったなぁ…ってだけだからさ!」
これ以上、心配させない為に
せめてものつもりで精一杯笑う
誤魔化すのが苦手な私のことなんて、ユーリにはきっとバレバレだろうけど
それでも、これ以上聞かれない様に
「……そっか、ならいいんだけどな……なんかあったら言ってくれよ?」
寂しそうに言うユーリを見てズキッと心が痛む
……ごめんね……ユーリ……
「……ん、わかった!」
そう言って頭に置かれたユーリの手を取って引っ張る
「ほらっ!早くみんなのとこ行こっ!!」
そう言ってそのまま駆け出す
「あっ!?おいっシア!!」
ユーリの手を引いて前方に居るみんなの元へ向かう
後ろでブツブツ危ねぇだろっ!?とか文句が聞こえてくるけど、クスクス笑って誤魔化す
……ずっと、このままがいい
あの人のことも考えずに、このままで居たい
嫌な仕事も忘れて、こうして笑っていたい
ただ無邪気に、みんなと楽しく笑っていたい
…ユーリとフレンと、何も隠さずに話せていたあの頃のように…
……自然とユーリの手を握った手に力が入って、震えていたことに、私は気づかなかった
~ユーリside~
「……ねぇ、あんたアリシアからなんか聞いてないの?」
シアがはぐれかけてしばらく鬱蒼とした森を歩いていると、先程まで彼女と歩いていたはずのリタが何故か隣に来ていた
シアに聞かれたくないのか、わざわざ小声で聞いてくる
チラッ後ろを見ると、今はエステルやカロルと楽しそうに話している
時折レイヴンがちょっかいを出しているが、その度に蹴られている
「……なんもだよ、そうゆうリタはどうなんだ?」
リタの方に視線をずらしながらそう聞く
「あたしにも言ってこないから聞いてんのよ。ただ喧嘩しただけ…それしか言わないのよ」
お手上げだと言うようにため息をつく
「オレの方も同じこと言われたよ。でも、ありゃ喧嘩しただけって雰囲気じゃねぇよな」
「そうなのよ、絶対他に何かあったって顔してるのに話さないのよ」
「だよなぁ…どう見ても無理に笑ってるっつーのにな。……それに、さっきオレの手ぇ握ってきた時、思い切り震えてたぜ」
ため息をつきながらもう一度振り返る
やはり何度見ても笑顔がぎこちない
確かに昔から嘘つくのも誤魔化すのも苦手な彼女だが、ここまで隠せずにいることは初めてだ
それに、あの震え方……あれはシアが怖がっている時のものと全く同じだ
「あの子……しきたりとかで話せないことあるけど、あんなに無理に笑ってるとこなんて見たことないわよ」
「同感だ、ここまで酷いってことはやっぱなんかあったんだろうな」
「……あんたは、知ってるの?あの子があの偽兄貴に色々やらされてること」
「………知ってるよ。本人から何してるとか聞いたりした訳じゃねぇけどな」
「あたし、今回もその事だと思うのよ……多分……」
心配そうにシアの方を見ながらリタは言う
『多分』、それ以上は何も言わないがこの言葉には続きがあるのだろう
恨めしそうに顔を歪めているリタを見てそう思った
…それは、オレもヘリオードを離れてから……いや、シアが結界の外へ出るようになってから、ずっと思っていた言葉と同じだと確信があった
「……脅されてるんじゃねぇかって、言いたいのか?」
ボソッと呟くと、声は出さないがゆっくりと頷く
確かにそんな雰囲気はある
だが、聞いたところで彼女は答えないのだろう
はぁ……と深くため息をつく
「……ねぇ、なんか声聞こえなかった?」
不意に後ろにいるシアがそう言う
「あん?なんも聞こえなかったと思ったが…」
そう答えると、聞き慣れた声がした
「うちをどこへ連れてってくれるのかのー」
きょろきょろと当たりを見渡すと、何故か魔物に捕まってるパティを見つけた
……何してんだよ……あいつ……
助けなきゃ!とカロルが言うと、レイヴンが弓を取り出して魔物目掛けて矢を放つ
すると見事に命中して、パティが放り出される
駆け足で落下点に向かうと、タイミング良くパティが腕の中に落ちてくる
「ナイスキャッチなのじゃ!」
ちょっと嬉しそうにそう言ってくるパティ
そっと降ろしてやっても良かったが、少し痛い目を見ておいた方がいいだろうとおもって、パッと手を離してそのまま仲間の元へ踵を返した
「ユーリ…可哀想だよ?」
苦笑いしながらシアはそう言ってくる
軽く肩を竦めてパティの方を向く
「で?やっぱりアイフリードのお宝って奴を探してるのか?」
「のじゃ!ユーリも一緒に探すかの?」
「ちょっ!ユーリ連れてこうとしないでよ」
そう言うが早いか、シアが抱きついてくる
普段人前じゃ絶対にやらないような行動に少し驚く
…珍しいこともあるもんだな
「むむっ…別にいいではないかの」
「駄目だって!」
少し腕に力を入れてきながら、パティをじっと睨んでそう言う
パティも負けじとシアを見詰める
「ありゃりゃ、青年はモテモテねぇ」
「アホくさ……痴話喧嘩なら他所でやってよね」
「あ、あの……アリシア?パティ…?穏便に行きましょう?穏便に……ね?」
茶化したようにレイヴンは言い、リタは呆れたように早く終わらせろと言いたげな目をして言う
かと思えば、エステルはわたわたと二人を宥めようとしているし、カロルはどうしたものかと黙ってことの成り行きを見守ってるし、ラピードは少し離れたところで欠伸してるし……
いつまでもバチバチと睨み合いを続けている二人に呆れてため息が出る
……単純に嫉妬してるであろうシアの反応が可愛いから自然にとまるのを待ちたいのだが……
魔物のいるこの場所では流石に危ない
「ほら二人とも、そんなに睨み合ってんなっての。パティ、悪ぃけど他にやんなきゃなんねぇことがあんだ、宝探しはまた今度な?
シアも、お前置いてなんて行かねぇから安心しろって」
そう言うとようやく睨み合いを辞めた
~アリシアside~
「む……残念なのじゃ……じゃが、うちは行くのじゃ!さらばじゃ!」
そう言ってクルッと反対方向へ去って行った
……なんなの、あの子……
「…で、シア?そろそろ離れてくんねぇとオレ、歩けねぇんですけどねぇ」
そう言われて、そういえば反射的に抱きついていた事を思い出した
…なんで抱きついちゃったんだよ、ちょっと前の私……
…きっと、無意識のうちにユーリに甘えたくなっていたのかもしれないな…と心の中で苦笑する
とりあえず、今はリタの用事があるし名残惜しいが離れることにした
「にしても、青年と嬢ちゃんはそういう関係だったのね~おっさん羨ましいわ」
ニヤニヤしながらレイヴンがそう言ってくる
「もう、さっさと行きましょ」
そう言って来た道と逆方向にリタは歩いて行く
「あっ!リタ!待って下さい!」
慌ててエステルとカロルも後を追いかける
「ったく、騒がしい奴らだな」
「…いいじゃん、楽しくてさ」
苦笑いしながらそう言うと、ユーリは少し肩を竦めて歩き出す
少し距離を置いてレイヴンもその後について行く
ゆっくりと、私も歩き出した
今までと違って、レイヴンだけを見詰める
……さっき、パティがアイフリードの名前を出した時にレイヴンがボソッと言った声……
『アイフリード……?』
あの声……ダングレストでも聞いた声だ
……まさか、『あの人』……?
いや、でも確認のしようがないし……
……本人に聞いたところではぐらかされて終わりだろうなぁ…
「アリシアちゃ~ん、そんなにぼーっとしてたら置いてかれちゃうわよ?」
おどけたような声が聞こえて顔を上げると、目の前にレイヴンの顔が見えて思わず後ろに下がってしまう
「うわっ!?ちょっ、レイヴン……びっくりしたじゃん…」
少し睨みながら言うが、本人は気にした素振りも見せずにニヤニヤしている
「ありゃ?驚かせちゃった??」
「当たり前でしょ……」
はぁ…っとため息をつきながらレイヴンの横を通り過ぎようとした
「……そんなに思い詰めた顔してたら、すぐにバレるぞ?」
「っ!!」
聞き慣れた、お兄様の次に嫌いな声
思わずレイヴンの方を向くと、先程までのおどけた表情ではなく、見慣れたような無機質な表情をしていた
「……あの人の命令だ、余計なことは言うなよ…?」
「………うっさいわよ……そんなこと、わかってる、わかってるわよ……あなたこそ、私に正体明かしていいの?」
「……元々気づきかけていただろう?いずれバレるのなら関係ない」
淡々といつもの調子でそう言う
見た目は違うのに、声だけが『あの人』と同じで少し不気味だ
「……あっそ……」
「おーい!シア!おっさん!何ぼけっとしてんだよっ!!」
「ありゃりゃ、ばーれちゃった」
ユーリに呼ばれるとすぐにレイヴンの顔に戻った
ちょっと怒ったような顔をしてこちらに近づいてくる
「二人揃って立ち止まりやがって、なーにしてたんだよ?」
「いやぁ?ちょっとアリシアちゃんを口説こうとしてただけよん?」
チラッと横目で私を見ながらおどけた調子でレイヴンはそう言う
…一瞬合った目は、余計なことは言うなよって訴えかけてきていた
……言われなくたって、わかってるわよ……
「ふーん…?人の彼女口説こうなんて、いい度胸してんな?」
「わ…っ!?」
急に腕を引っ張られてバランスが崩れると、そのままユーリの腕の中に倒れ込んでしまう
そして、さも当たり前のようにぎゅっと抱きしめてくる
「悪ぃけど、こいつはオレのだからくれてやんねぇよ」
そう言うユーリの声は何処か自慢げに聞こえた
見えないけど、きっといつもの悪戯っ子みたいな笑みを浮かべてるんだろうなぁ…
そう考えるとちょっと嬉しくって、つい口元が緩む
「うっはぁ…おっさんはお邪魔って感じねぇ…」
「…邪魔なのは元々でしょ?」
ユーリの胸元に顔を押し付けたままそう言うと、少し残念そうに唸るような声が聞こえた
「ま、そーゆうこった、オレはこいつの面倒見んので忙しいんで、おっさんは構ってらんねぇの」
軽く私を離すと、今度は左手を握って少し小走りで歩き出す
後ろからレイヴンが待ってくれと言う声が聞こえたが無視だ
「…シア、大丈夫だったか?」
「ん、大丈夫だよ」
「本当にか?」
「本当だよ」
エステル達の元に向かいながらそう聞いてくる
……まぁ、ここ最近すぐはぐれちゃってるから仕方ないか……
「…そっか、でもしばらくはオレの傍から離れんじゃねぇぞ?」
そう言って左手を握ってくる手に少し力が入った
…言葉や顔には出さないが、相当心配だったんだろう
「わかったよ」
そう答えて私も手に少し力を入れる
すると、少し嬉しそうに目を細めてくる
…本当、いつもそうやって笑ってくれればいいのになぁ
「あっ!アリシア!大丈夫でしたか!?」
エステル達の元につくと、心配そうにエステルが駆け寄って来た
「心配かけてごめんね、大丈夫だよ」
ガバッと抱きついてきたエステルの背を撫でながらそう言う
「まったくもう!ちょっと呆けっとしすぎよっ!」
腕を組みながらリタの説教が始まる
……一度始まったらなかなか終わらないからとっても面倒……
苦笑いしながらその説教を聞くが、半分以上頭になんて入ってきていない
「リ、リタ……もう探してたものはすぐそこにあるんだし、先に調査終わらせて帰ろうよ……」
ちょっと涙目になりながらカロルがそう訴えると、渋々ではあったが一時中断された
そして、リタは近くに見えたエアルの溜まり場のようなところにゆっくり近づいて行く
……これは……もしかして……
「…これ、ヘリオードの時と同じ現象ね、あの時よりもエアルが弱いけど間違いないわ」
そう言って更に近づこうとした時、後から物音が聞こえた
振り向くと、ダングレストを襲った魔物と同じ雰囲気の魔物が沢山寄って来ていた
「ちっ、囲まれてやがるぜ」
ユーリは舌打ちしながら、剣を鞘から抜く
「こりゃやばそうねぇ…」
そう言いながらレイヴンも弓を構える
「来るよ…っ!」
鞘から双剣を抜きながら言うと、一気に魔物が襲って来た
「くっそっ!!きりがねぇっ!」
悪態をつきながらユーリは剣を振り下ろす
だが、彼の言う通りだ
倒しても倒しても、一向に減る気配がない
それ以前に増えてる気がする…
流石にこれはかなりまずい
「ちょっと………やばいんじゃないの……?」
少し息を切らせながらリタが言う
「流石に……これは……」
エステルもカロルも肩で息をしている
レイヴンもかなり疲労が溜まってきているように見える
このままでは本当にみんな倒れてしまう
(……ねぇ……聞こえているのなら、私に力を貸して……)
見えない星たちに必死に心の中で声を掛ける
すると、途切れ途切れだが、声が聞こえた
『……が………力を…………えば………た…………るぞ………』
よく聞こえないが、きっとこの声はシリウスだ
恐らく、私の体のことを言っているのだろう
……確かに、今使ったら倒れるかもしれない
でも、ここで共倒れするよりかは私一人の方がましだろう
(……大丈夫……大丈夫だから……お願い……)
そう告げると、声は聞こえなかったものの、いつも力を借りた時に感じる暖かい感覚が体に広がる
同時に右の脇腹に痛みがはしるが、そんなことを気にしている場合ではない
少し後退して詠唱を始めた
「貪欲な闇界ここに下り、邪を打ち砕かん!ネガティブゲイトっ!!!」
詠唱が終わると同時にかなりの量の魔物を倒せたが、まだ残ってしまっている
生憎だがもうその魔物を倒せる程、私にも余裕がない
右の脇腹だけだった痛みが、今の一瞬で腹部全体に広がってしまった
ユーリ達ももう疲労困憊という感じで、もはや打つ手立てがない
どうしようかと悩んでいると、見知った銀髪が目の前に現れた
突然現れたことに驚いていると、軽く持っていた剣を1振りした
すると、今まで目の前にいたはずの魔物が一瞬にして消え去ってしまった
背後にあるエアル溜りも濃度が薄くなったように見える
「あんた……一体……?」
ユーリがそう声を掛けると、その人はゆっくりと振り向く
「……エアルクレーネには近づくな」
デュークさんはただ一言そう言うと、踵を返して何処かへ行こうとする
「待って!あんた、今何したのよ…っ!?」
リタが慌ててそう聞くと、立ち止まって振り返らずに淡々と話し出した
「…エアルのひずみを沈めただけだ。エアルクレーネは世界のエアルの源泉。私から言えるのはこれだけだ」
言うだけ言って、また歩き出す
「…っ!!待ってっ!!私は…まだ、あなたに聞きたいことが…っ!!」
慌てて追いかけようとするが、先程力を使った影響で思うように足が動かず、そのまま倒れそうになる
「おっと!おい、シア…大丈夫かよっ!?」
ユーリがなんとか受け止めてくれたが、体に力が入らない
「……今の状態のお前には話せぬ。その体が癒えてからにしろ
…………その力も、もう使わぬ方が良いだろう。そして、決してエアルクレーネに近づくな」
そう言ってデュークさんは立ち去ってしまう
痛みに耐えきれず、徐々に意識が遠のいていく
ユーリやエステルが呼んでいるような声が聞こえるが、最早何を言っているかまではわからない
………ごめんね、ユーリ……みんな……
…今は………少しだけ、休ませて……