第1部〜水道魔導器魔核奪還編〜
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新興都市『ヘリオード』
「うー………フレン……怖い…」
馬車を降りてからの第一声はそれだった
「怖いって、アリシアがいけないんだろう?」
結局、ヘリオードにつくまで説教された
ヨーデル様がいるのもお構い無しに…
…まぁ、いっか、半分くらい聞き流してたし
他愛のない、普通の会話も出来たし…ね
騎士団の派出所についてからは、フレンと別れて親衛隊の人について行く
執務室の前まで来て止まる
コンコンッ
「騎士団長、お連れしました」
「うむ、入っていいぞ」
「アリシア様、どうぞ」
「………ありがとう」
ガチャッと扉を開けて入る
入ってすぐの机に『あの人』は座っていた
「探したぞ、アリシア」
後ろ手に扉を閉めながらそう言ってきた人物を睨みつける
「……何?いつもは探しなんてしない癖に…どうゆう要件ですかね、『お兄様』?」
『お兄様』と呼んだその人は如何にも嫌そうな顔をする
「その呼び方はやめろと言ったではないか」
私が世界で一番大嫌いな人物…騎士団長であり、私の遠縁で兄のような人……アレクセイは不機嫌そうに言ってくる
「私を呼び出すのを止めたらやめるよ。……で?話は何?」
近寄りたくもないから扉の前で動かずに聞く
私が一族で最も強い力を持ってると知った時から、この人の目はまるで私をもののように見てくる
だから嫌い
会いたくなかった
「そんなところに居ないで、椅子に座れ。そこじゃまともに話も出来ぬだろう?」
そう言われて、向かい合うように置かれた椅子を指さす
正直行きたくないが、話が進まないのも嫌なので渋々その椅子に座る
「……で、要件は?」
「うむ、前々から言ってる『あの件』についてだが…」
「……………言ったよね?それは絶対、死んでも手伝わないって」
睨みつけながらそう言うとため息をつく
「何故だ?」
「お兄様もお父様との約束は知ってるでしょ?それを守ってるだけ
それに、『あれ』は兵器じゃないって再三言ってるでしょ」
「…素直に手伝ってくれぬのは…まだ、怒っているからか?」
「『まだ』?私は一生かかっても許す気なんてないわ!」
バンッと机を叩いて立ち上がる
なんでみんなして『まだ』だなんて言うの?
許すわけがないでしょ?
私は家族を取られたも同然なんだから
「…………そうか………」
「お話終わり?それならもう帰りた」
コンコンッ
「お話中すみません、ヨーデル殿下とエステリーゼ様が騎士団長閣下にお話が…と」
「……よい、お通ししろ。……アリシア、また連絡する、今度は約束通りに会いに来てくれ」
「……絶対、お断りさせていただきます、お兄様」
冷たくそう言い放って扉に向かう
入って来たヨーデル様とエステルに一礼してから振り向かずにその場を後にした
「……エステルが居るってことは……」
嫌な予感がして下にあった取り調べ室に向かう
案の定、ユーリ達は捕まっていたらしくルブランの声が聞こえる
おそらく、エステルとヨーデル様はユーリの罪の帳消しをお兄様に頼みに行ったのだろう
「…お話は終わったのかい?アリシア」
「フレン……ヨーデル様とエステルが来たから中止、また連絡するとか言われたよ」
何処から出てきたのか、フレンが少し心配そうに聞いてくる
「そうか…」
「絶っっ対、会わないけどね」
「あはは……まぁ、それは仕方ないね」
取り調べ室から少し離れたところで話していると、お兄様が上から降りてくるのが見えた
それを見た瞬間逃げ出したくなったが、取り調べ室に向かっていたから恐らく、ユーリの話をするのだろう
「アリシア……落ち着いて?そんな不機嫌そうな顔をしないでくれ……」
「………ちょっと、迎えに行ってくる」
「け、喧嘩はしないでくれよ……?」
コクンと頷いてユーリの居るところへ足を向ける
ノックもせずに扉をあけると、何やらユーリもお兄様と揉めてるようだ
「………お兄様、邪魔、そこ退いて、そしてどっか行って」
あからさまに不機嫌な声を出してお兄様を退けて、ユーリに抱きつく
突然のことに理解出来ていないのは、ユーリだけでなく他のメンバーも同じらしい
「シア……?どうしたんだよ、急に」
「…………………」
無言でユーリに抱きついたままお兄様を睨みつける
「アリシア…いい加減睨むのをやめてくれないか?」
「………やだ、無理、絶対無理、一生かかっても無理、とにかくどっか行って、私の目の届かない所に行ってよ」
ユーリの胸に顔を押し付けて、もう見ないようにする
「おいおい…今度はシアに何言ったんだよ……」
ようやく状況を把握したらしく、ユーリが少し困ったようにお兄様に聞く
…答える筈はないだろうけどね
「少し手伝いをしてくれと言っただけなのだが…」
こちらも少し困ったように答えてるが、そんなの私の知ったことじゃない
「あー……とりあえず、要件済んだなら出て行って貰ってもいいか?」
「致し方あるまい………アリシア、次はちゃんと約束した日に会いに来てくれ」
「丁重にお断り致しますよ、お兄様っ!何度言われようとも、嫌と言ったら嫌なのです!」
冷たい声で睨みつけながら言う
これ以上話が出来ないと悟ったようで、ようやく出て行った
「ったく、ほーらシア、退いてくれねぇとオレ、動けねぇんだけど?」
ポンポンと頭を撫でながら言ってくる
顔は見えないが、多分苦笑いしているだろう
「えーっと……状況が掴めないんだけど……」
「アリシア、あんたとりあえず離れなさいよ!エステリーゼのとこ今から行くんだから!」
リタの言葉に渋々離れるが、機嫌が悪いことに変わりはないだろう
鏡を見なくてもわかるくらい、険しい顔をしていると思う
「はぁ……ほら、エステルんとこ言ったら、約束してたもん作ってやっからさ」
頬を撫でながら優しく言ってくる
「……ごめん、機嫌悪いのは諦めて、しばらくは無理、あの人と居たってだけでも無理なのに、また連絡するとか……」
「後でちゃんと話聞いてやっからさ、な?」
ここじゃ話も出来ないから、渋々頷く
行こうぜ?と差し出された手を取って、エステルの元へ向かった
エステルのいる宿屋に向かう途中、お兄様からエステルは帝都に帰ることを了承した、と言っていたという話を聞いた
リタは納得いかない顔をしていたけど、ユーリはオレが決めることじゃねぇ、としか言わない
宿屋の前に行くと、フレンとヨーデル様が居た
機嫌悪い中、話すなんて出来ないからユーリの後ろでそっと話を聞く
星たちが教えてくれた通り、エステルも皇族らしくて次期皇帝候補の一人だそうだ
ユーリにそれを指摘されて、ヨーデル様は隠さずにそれを話した
フレンは静止したが、ここまでわかっていて隠せるものじゃないと言って続ける
ヨーデル様が騎士団の後ろ盾を、エステルが評議会の後ろ盾を受けていることも聞いた
「……そんな話、して大丈夫なのですか?」
「あなた方は誰かに漏らしたりしそうにありませんから」
ニコッと笑ってそう言われる
…勝てない気がする…この人には…
「んじゃ、オレら用事あっから。…またな、フレン」
「あぁ」
そう言って宿屋に入った
入ったまでは良かったのだが、どうやら出かけてしまっているらしい
「エステル…皇族の人なのに勝手にうろつくなんて……」
はぁ…っとため息をつく
それは、ユーリやリタ達も同じなようだ
「ったく、何処行ったんだよ」
そんな話をしてると、外から大きな音がした
「何っ!?今の音っ!?」
「これ…!もしかして結界魔導器っ!?」
「ちょっ!リタっ!!駄目だって!!」
リタが真っ先に外に出てしまい、カロルもそれを追いかけてしまう
「…本当、何処に行っても災難続きだね」
「だな……本当勘弁して欲しいぜ…」
二人して苦笑いしながらリタ達の後を追いかけた
結界魔導器の近くに行くと、そこにはエステルも居た
「エステル、こんな所に居ていいの?」
「あ……アリシア……えっと…本当は駄目なんですけど……気になって…」
「うー、調べたいけど、また文句言われるのは面倒ね…」
「なら、フレンにでも頼めばいいだろ?」
「うげ、また行くの……?私、ここいる」
ユーリの手を離して、近くの建物の壁に寄りかかる
少し呆れた顔をして、絶対動くなよ?とだけ言って派出所に戻って行った
『アリシア、そこ危ないよ』
不意にベガの声が聞こえる
空を見るともう日が落ち始めていた
「危ない…?」
首を傾げるとベガは少し早口で話し始める
『その結界魔導器、暴走しかけてる。アリシアなら平気だと思うけど、あのお兄さんに何言われるかわかんないよ』
「……それもそうね……」
ふぅ…と一息ついて離れようとした瞬間、結界魔導器が強く光出した
「……へ?」
それと同時に、周りのエアルの濃度が限りなく濃くなる
これは、まずい
非常にまずい
このままでは大変なことに……
「って、リタっ!!」
結界魔導器に迷うことなく駆け寄るリタの姿が見えた
そして、それに続いてエステルも駆け寄る
『あーあ……あんなに力使って……まずいよ?』
「はぁ……もう……ベガ、ちょっと力貸して」
『……いいの?』
「……緊急自体だもん」
『……わかった、程々にね』
そう話し合うと二人に駆け寄って、私の力で変換した『マナ』で薄い膜を貼る
……エアルをマナに変換できることを、リタはまだ知らないけど…バレたら何言われるかわかんないなぁ
そんなふうに苦笑いしてたのは私だけで、突然私が来たことにエステルは驚いたけ
が、リタは気にせずに続ける
「リタ、なるべく早く、ね?」
「わかってるわよ!これがこうで……あれが………これでどうだっ!」
ピッと音が止まった途端、エアルの爆発が起こった
「「きゃあっ!?」」「うわっ!?」
爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされる
幸い、私の貼った膜があったから軽傷だったものの、リタはまともに食らっていて、気を失っていた
「いったぁぁ……」
「リタっ!!今、治癒術を…!」
「エステル!そんなふらふらなのにやってどーするのっ!」
自身も倒れそうだというのに、治癒術を行使しようとするエステルを静止する
「……っ!!!」
が、私自身も今ので体に相当な負荷がかかったのか、酷い痛みに襲われる
それと同時に、眠気に襲われた
「すぐに宿屋の用意を!!」
霞んだ意識の中で、お兄様がそう叫んだのが微かに聞こえた
「ったく、三人揃って無茶しやがって」
「あはは……流石に今回は私が悪かった…ごめん……」
苦笑いしながら隣にいるユーリに謝る
あの後、フレンとお兄様が宿を取ってくれて、今はそこで休んでいる
リタはもうだいぶ落ち着いてて、後は目が覚めるのを待つだけ
エステルはそんなリタを見て安心して眠ってしまっている
私は体の負荷だけだったから、すぐに目を覚ますことが出来た
だからこうしてユーリと一緒に二人を見ている
因みに、カロルも既に熟睡している
「にしても、本当シアの術は便利だな」
「そんなことないよ、星が見えてる時間じゃなきゃ、まともに制御出来ないもん」
関心しているユーリに、苦笑いしながら肩を竦める
「それでもすげぇだろ?ま、魔導器不必要ってなら、エステルも同じだがな」
「ん……?あれ………あたし………」
「あ、リタ!大丈夫?」
ユーリと他愛ない話をしてると、リタが目覚めた
ついでそれに気づいたエステルも目を覚まして、リタに抱きつく
「良かった!本当に良かったです!」
「わ、わかったから…!……ありがと……」
「いえ!気にしないで下さい!それと、リタ?エステルって呼んで下さい!」
「う……わかったわよ。それと、もう魔導器使ってる振り、しなくていいよ」
「な、なんのこと…です?」
「いや、凄いよな、魔導器無しで出来るなんてな」
「……ユーリも気づいていたんです……?」
「まあな、因みに、シアもだぜ?」
そう言うと凄く驚いた顔をする
…いや、隠せてたと思ってる方が不思議だよ……
そんなことを考えてるとパリィンッと突然窓が割れる
何事かと窓を見ると、あの時の竜使いが居た
「なっ!?ったく!」
「っ!?!!」
《ごめんね、彼から伝言だよ姫様、もう待てないところまで来てるって…》
頭の中に響く声、これは目の前の始祖の隷長の声
一瞬頭が真っ白になりかける
そんな……タイムアウト……なの?
始祖の隷長に乗った人……恐らく女性は、どうしたらいいかわからないのか固まってしまっている
きっと、彼女も状況を理解出来てないんだろう
飛び去ろうとするから、慌てて窓に近寄る
「待って!」
《……ごめんね、彼は君の方が大事みたいなんだ、それ以上、彼女と居てはいけないよ》
「っ!!!駄目……!まだ駄目だって伝えて!!」
本当なら声に出さずに会話しないといけないのだろうけど、今の私にそんな余裕はなかった
《……伝えるだけ……ね?》
そう言って飛び去ってしまう
悔しくって手すりを思いっきり殴る
ちょっと血が滲んできて痛いけど、そんなこと気にならなかった
「……………『フェロー』の………馬鹿……………」
ボソリと呟いた言葉は誰に聞かれることもなく、夜の暗闇に消えていった
「……で、リタ達にはまだ内緒にしてくれってことか?」
コクリと力なく頷く
今はユーリと二人、宿の外に居る
リタ達にはまだ知られたくなかったから…
ユーリには今、話せる範囲で話した
エステルの力を使いすぎると、エアルが乱れてしまうこと
そして、それをよく思って居ない者達がいること
……そして、私のこと
私は昔から身体が弱くって、それが原因で、濃いエアルの近くにいると徐々に弱っていってしまうらしい
それは、エステルの近くに居る時も同じ(流石にこれはまだ伝えられないけど…)
そして、自分自身の力を使った時も同様なんだ
俯いていると、ギュッと抱きしめられた
「…いいのか?喋っちまってよ?」
「…うん、いいの、ユーリには隠してたくないから…」
「の、割にゃまーだなんか話せねぇことがあるって顔してんな?」
その言葉に、ビクッと肩が反応してしまう
図星だ
まだ、話したいことはあるんだ…
エステルの力の事だって、ちゃんと説明したい…
「しゃーねぇよ、一番話したいのはお前だもんな。ゆっくりでいいさ」
頭を撫でながら言ってくれる
…優しいんだ、ユーリは
絶対、話せないことは無理に聞いてこない
そっとユーリの背中に手を回す
「……ユーリ、私…さ……どうすればいいか分かんないの……」
「?何がだ?」
「……私……仮でも星暦の姫って呼ばれて、慕われてるくらい、エステルを敵対視してる彼らに大事にされてる……だから……」
「……どっちに付きゃいいか、わかんねぇってか?」
コクンと頷く
「それはシア次第だな。ま、オレはどっち選んでも責めねぇさ。ただ、やれる事は全部試してから、な?」
私が言いたいことを簡単に見抜いて、欲しい言葉をくれる
何も言ってなくても、言わなくても、ユーリには伝わっていて…
それが限りなく嬉しかった
「シア」
名前を呼ばれて顔をあげると、チュッと唇が重なる
触れるだけですぐ離れてしまったが、ニコッと優しい笑みをユーリは浮かべている
それに応えるように私も笑う
……今、この時間だけは嫌なことも全部忘れられた
…だからお願い、もう少しだけ忘れさせて……
「うー………フレン……怖い…」
馬車を降りてからの第一声はそれだった
「怖いって、アリシアがいけないんだろう?」
結局、ヘリオードにつくまで説教された
ヨーデル様がいるのもお構い無しに…
…まぁ、いっか、半分くらい聞き流してたし
他愛のない、普通の会話も出来たし…ね
騎士団の派出所についてからは、フレンと別れて親衛隊の人について行く
執務室の前まで来て止まる
コンコンッ
「騎士団長、お連れしました」
「うむ、入っていいぞ」
「アリシア様、どうぞ」
「………ありがとう」
ガチャッと扉を開けて入る
入ってすぐの机に『あの人』は座っていた
「探したぞ、アリシア」
後ろ手に扉を閉めながらそう言ってきた人物を睨みつける
「……何?いつもは探しなんてしない癖に…どうゆう要件ですかね、『お兄様』?」
『お兄様』と呼んだその人は如何にも嫌そうな顔をする
「その呼び方はやめろと言ったではないか」
私が世界で一番大嫌いな人物…騎士団長であり、私の遠縁で兄のような人……アレクセイは不機嫌そうに言ってくる
「私を呼び出すのを止めたらやめるよ。……で?話は何?」
近寄りたくもないから扉の前で動かずに聞く
私が一族で最も強い力を持ってると知った時から、この人の目はまるで私をもののように見てくる
だから嫌い
会いたくなかった
「そんなところに居ないで、椅子に座れ。そこじゃまともに話も出来ぬだろう?」
そう言われて、向かい合うように置かれた椅子を指さす
正直行きたくないが、話が進まないのも嫌なので渋々その椅子に座る
「……で、要件は?」
「うむ、前々から言ってる『あの件』についてだが…」
「……………言ったよね?それは絶対、死んでも手伝わないって」
睨みつけながらそう言うとため息をつく
「何故だ?」
「お兄様もお父様との約束は知ってるでしょ?それを守ってるだけ
それに、『あれ』は兵器じゃないって再三言ってるでしょ」
「…素直に手伝ってくれぬのは…まだ、怒っているからか?」
「『まだ』?私は一生かかっても許す気なんてないわ!」
バンッと机を叩いて立ち上がる
なんでみんなして『まだ』だなんて言うの?
許すわけがないでしょ?
私は家族を取られたも同然なんだから
「…………そうか………」
「お話終わり?それならもう帰りた」
コンコンッ
「お話中すみません、ヨーデル殿下とエステリーゼ様が騎士団長閣下にお話が…と」
「……よい、お通ししろ。……アリシア、また連絡する、今度は約束通りに会いに来てくれ」
「……絶対、お断りさせていただきます、お兄様」
冷たくそう言い放って扉に向かう
入って来たヨーデル様とエステルに一礼してから振り向かずにその場を後にした
「……エステルが居るってことは……」
嫌な予感がして下にあった取り調べ室に向かう
案の定、ユーリ達は捕まっていたらしくルブランの声が聞こえる
おそらく、エステルとヨーデル様はユーリの罪の帳消しをお兄様に頼みに行ったのだろう
「…お話は終わったのかい?アリシア」
「フレン……ヨーデル様とエステルが来たから中止、また連絡するとか言われたよ」
何処から出てきたのか、フレンが少し心配そうに聞いてくる
「そうか…」
「絶っっ対、会わないけどね」
「あはは……まぁ、それは仕方ないね」
取り調べ室から少し離れたところで話していると、お兄様が上から降りてくるのが見えた
それを見た瞬間逃げ出したくなったが、取り調べ室に向かっていたから恐らく、ユーリの話をするのだろう
「アリシア……落ち着いて?そんな不機嫌そうな顔をしないでくれ……」
「………ちょっと、迎えに行ってくる」
「け、喧嘩はしないでくれよ……?」
コクンと頷いてユーリの居るところへ足を向ける
ノックもせずに扉をあけると、何やらユーリもお兄様と揉めてるようだ
「………お兄様、邪魔、そこ退いて、そしてどっか行って」
あからさまに不機嫌な声を出してお兄様を退けて、ユーリに抱きつく
突然のことに理解出来ていないのは、ユーリだけでなく他のメンバーも同じらしい
「シア……?どうしたんだよ、急に」
「…………………」
無言でユーリに抱きついたままお兄様を睨みつける
「アリシア…いい加減睨むのをやめてくれないか?」
「………やだ、無理、絶対無理、一生かかっても無理、とにかくどっか行って、私の目の届かない所に行ってよ」
ユーリの胸に顔を押し付けて、もう見ないようにする
「おいおい…今度はシアに何言ったんだよ……」
ようやく状況を把握したらしく、ユーリが少し困ったようにお兄様に聞く
…答える筈はないだろうけどね
「少し手伝いをしてくれと言っただけなのだが…」
こちらも少し困ったように答えてるが、そんなの私の知ったことじゃない
「あー……とりあえず、要件済んだなら出て行って貰ってもいいか?」
「致し方あるまい………アリシア、次はちゃんと約束した日に会いに来てくれ」
「丁重にお断り致しますよ、お兄様っ!何度言われようとも、嫌と言ったら嫌なのです!」
冷たい声で睨みつけながら言う
これ以上話が出来ないと悟ったようで、ようやく出て行った
「ったく、ほーらシア、退いてくれねぇとオレ、動けねぇんだけど?」
ポンポンと頭を撫でながら言ってくる
顔は見えないが、多分苦笑いしているだろう
「えーっと……状況が掴めないんだけど……」
「アリシア、あんたとりあえず離れなさいよ!エステリーゼのとこ今から行くんだから!」
リタの言葉に渋々離れるが、機嫌が悪いことに変わりはないだろう
鏡を見なくてもわかるくらい、険しい顔をしていると思う
「はぁ……ほら、エステルんとこ言ったら、約束してたもん作ってやっからさ」
頬を撫でながら優しく言ってくる
「……ごめん、機嫌悪いのは諦めて、しばらくは無理、あの人と居たってだけでも無理なのに、また連絡するとか……」
「後でちゃんと話聞いてやっからさ、な?」
ここじゃ話も出来ないから、渋々頷く
行こうぜ?と差し出された手を取って、エステルの元へ向かった
エステルのいる宿屋に向かう途中、お兄様からエステルは帝都に帰ることを了承した、と言っていたという話を聞いた
リタは納得いかない顔をしていたけど、ユーリはオレが決めることじゃねぇ、としか言わない
宿屋の前に行くと、フレンとヨーデル様が居た
機嫌悪い中、話すなんて出来ないからユーリの後ろでそっと話を聞く
星たちが教えてくれた通り、エステルも皇族らしくて次期皇帝候補の一人だそうだ
ユーリにそれを指摘されて、ヨーデル様は隠さずにそれを話した
フレンは静止したが、ここまでわかっていて隠せるものじゃないと言って続ける
ヨーデル様が騎士団の後ろ盾を、エステルが評議会の後ろ盾を受けていることも聞いた
「……そんな話、して大丈夫なのですか?」
「あなた方は誰かに漏らしたりしそうにありませんから」
ニコッと笑ってそう言われる
…勝てない気がする…この人には…
「んじゃ、オレら用事あっから。…またな、フレン」
「あぁ」
そう言って宿屋に入った
入ったまでは良かったのだが、どうやら出かけてしまっているらしい
「エステル…皇族の人なのに勝手にうろつくなんて……」
はぁ…っとため息をつく
それは、ユーリやリタ達も同じなようだ
「ったく、何処行ったんだよ」
そんな話をしてると、外から大きな音がした
「何っ!?今の音っ!?」
「これ…!もしかして結界魔導器っ!?」
「ちょっ!リタっ!!駄目だって!!」
リタが真っ先に外に出てしまい、カロルもそれを追いかけてしまう
「…本当、何処に行っても災難続きだね」
「だな……本当勘弁して欲しいぜ…」
二人して苦笑いしながらリタ達の後を追いかけた
結界魔導器の近くに行くと、そこにはエステルも居た
「エステル、こんな所に居ていいの?」
「あ……アリシア……えっと…本当は駄目なんですけど……気になって…」
「うー、調べたいけど、また文句言われるのは面倒ね…」
「なら、フレンにでも頼めばいいだろ?」
「うげ、また行くの……?私、ここいる」
ユーリの手を離して、近くの建物の壁に寄りかかる
少し呆れた顔をして、絶対動くなよ?とだけ言って派出所に戻って行った
『アリシア、そこ危ないよ』
不意にベガの声が聞こえる
空を見るともう日が落ち始めていた
「危ない…?」
首を傾げるとベガは少し早口で話し始める
『その結界魔導器、暴走しかけてる。アリシアなら平気だと思うけど、あのお兄さんに何言われるかわかんないよ』
「……それもそうね……」
ふぅ…と一息ついて離れようとした瞬間、結界魔導器が強く光出した
「……へ?」
それと同時に、周りのエアルの濃度が限りなく濃くなる
これは、まずい
非常にまずい
このままでは大変なことに……
「って、リタっ!!」
結界魔導器に迷うことなく駆け寄るリタの姿が見えた
そして、それに続いてエステルも駆け寄る
『あーあ……あんなに力使って……まずいよ?』
「はぁ……もう……ベガ、ちょっと力貸して」
『……いいの?』
「……緊急自体だもん」
『……わかった、程々にね』
そう話し合うと二人に駆け寄って、私の力で変換した『マナ』で薄い膜を貼る
……エアルをマナに変換できることを、リタはまだ知らないけど…バレたら何言われるかわかんないなぁ
そんなふうに苦笑いしてたのは私だけで、突然私が来たことにエステルは驚いたけ
が、リタは気にせずに続ける
「リタ、なるべく早く、ね?」
「わかってるわよ!これがこうで……あれが………これでどうだっ!」
ピッと音が止まった途端、エアルの爆発が起こった
「「きゃあっ!?」」「うわっ!?」
爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされる
幸い、私の貼った膜があったから軽傷だったものの、リタはまともに食らっていて、気を失っていた
「いったぁぁ……」
「リタっ!!今、治癒術を…!」
「エステル!そんなふらふらなのにやってどーするのっ!」
自身も倒れそうだというのに、治癒術を行使しようとするエステルを静止する
「……っ!!!」
が、私自身も今ので体に相当な負荷がかかったのか、酷い痛みに襲われる
それと同時に、眠気に襲われた
「すぐに宿屋の用意を!!」
霞んだ意識の中で、お兄様がそう叫んだのが微かに聞こえた
「ったく、三人揃って無茶しやがって」
「あはは……流石に今回は私が悪かった…ごめん……」
苦笑いしながら隣にいるユーリに謝る
あの後、フレンとお兄様が宿を取ってくれて、今はそこで休んでいる
リタはもうだいぶ落ち着いてて、後は目が覚めるのを待つだけ
エステルはそんなリタを見て安心して眠ってしまっている
私は体の負荷だけだったから、すぐに目を覚ますことが出来た
だからこうしてユーリと一緒に二人を見ている
因みに、カロルも既に熟睡している
「にしても、本当シアの術は便利だな」
「そんなことないよ、星が見えてる時間じゃなきゃ、まともに制御出来ないもん」
関心しているユーリに、苦笑いしながら肩を竦める
「それでもすげぇだろ?ま、魔導器不必要ってなら、エステルも同じだがな」
「ん……?あれ………あたし………」
「あ、リタ!大丈夫?」
ユーリと他愛ない話をしてると、リタが目覚めた
ついでそれに気づいたエステルも目を覚まして、リタに抱きつく
「良かった!本当に良かったです!」
「わ、わかったから…!……ありがと……」
「いえ!気にしないで下さい!それと、リタ?エステルって呼んで下さい!」
「う……わかったわよ。それと、もう魔導器使ってる振り、しなくていいよ」
「な、なんのこと…です?」
「いや、凄いよな、魔導器無しで出来るなんてな」
「……ユーリも気づいていたんです……?」
「まあな、因みに、シアもだぜ?」
そう言うと凄く驚いた顔をする
…いや、隠せてたと思ってる方が不思議だよ……
そんなことを考えてるとパリィンッと突然窓が割れる
何事かと窓を見ると、あの時の竜使いが居た
「なっ!?ったく!」
「っ!?!!」
《ごめんね、彼から伝言だよ姫様、もう待てないところまで来てるって…》
頭の中に響く声、これは目の前の始祖の隷長の声
一瞬頭が真っ白になりかける
そんな……タイムアウト……なの?
始祖の隷長に乗った人……恐らく女性は、どうしたらいいかわからないのか固まってしまっている
きっと、彼女も状況を理解出来てないんだろう
飛び去ろうとするから、慌てて窓に近寄る
「待って!」
《……ごめんね、彼は君の方が大事みたいなんだ、それ以上、彼女と居てはいけないよ》
「っ!!!駄目……!まだ駄目だって伝えて!!」
本当なら声に出さずに会話しないといけないのだろうけど、今の私にそんな余裕はなかった
《……伝えるだけ……ね?》
そう言って飛び去ってしまう
悔しくって手すりを思いっきり殴る
ちょっと血が滲んできて痛いけど、そんなこと気にならなかった
「……………『フェロー』の………馬鹿……………」
ボソリと呟いた言葉は誰に聞かれることもなく、夜の暗闇に消えていった
「……で、リタ達にはまだ内緒にしてくれってことか?」
コクリと力なく頷く
今はユーリと二人、宿の外に居る
リタ達にはまだ知られたくなかったから…
ユーリには今、話せる範囲で話した
エステルの力を使いすぎると、エアルが乱れてしまうこと
そして、それをよく思って居ない者達がいること
……そして、私のこと
私は昔から身体が弱くって、それが原因で、濃いエアルの近くにいると徐々に弱っていってしまうらしい
それは、エステルの近くに居る時も同じ(流石にこれはまだ伝えられないけど…)
そして、自分自身の力を使った時も同様なんだ
俯いていると、ギュッと抱きしめられた
「…いいのか?喋っちまってよ?」
「…うん、いいの、ユーリには隠してたくないから…」
「の、割にゃまーだなんか話せねぇことがあるって顔してんな?」
その言葉に、ビクッと肩が反応してしまう
図星だ
まだ、話したいことはあるんだ…
エステルの力の事だって、ちゃんと説明したい…
「しゃーねぇよ、一番話したいのはお前だもんな。ゆっくりでいいさ」
頭を撫でながら言ってくれる
…優しいんだ、ユーリは
絶対、話せないことは無理に聞いてこない
そっとユーリの背中に手を回す
「……ユーリ、私…さ……どうすればいいか分かんないの……」
「?何がだ?」
「……私……仮でも星暦の姫って呼ばれて、慕われてるくらい、エステルを敵対視してる彼らに大事にされてる……だから……」
「……どっちに付きゃいいか、わかんねぇってか?」
コクンと頷く
「それはシア次第だな。ま、オレはどっち選んでも責めねぇさ。ただ、やれる事は全部試してから、な?」
私が言いたいことを簡単に見抜いて、欲しい言葉をくれる
何も言ってなくても、言わなくても、ユーリには伝わっていて…
それが限りなく嬉しかった
「シア」
名前を呼ばれて顔をあげると、チュッと唇が重なる
触れるだけですぐ離れてしまったが、ニコッと優しい笑みをユーリは浮かべている
それに応えるように私も笑う
……今、この時間だけは嫌なことも全部忘れられた
…だからお願い、もう少しだけ忘れさせて……