第1部〜水道魔導器魔核奪還編〜
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カプア・トリム
「うー……頭痛い……」
「シアがもっとちゃんと話聞いてれば良かったんだろ?」
トリム港について最初に口から出たのはその一言
結局、トリム港までずーっと続いてしまった
途中、エステル達が止めに入ってきたけど、そんなのお構い無しに続いた
フレンはまだ怒ってるみたいで、後でまた話が……とか言われたし
…ま、いいんだけどさ
騎士のフレンじゃなくなるんだったら、お説教でもいい
そのフレンはと言うと、ユーリが先程助けた少年と共に、宿屋へ行ってしまった
先に行ってるから、と言われたから、きっとついてこいって意味なんだろう
「…ごめん、先に言っておく、きっとまた機嫌悪くなる」
「さっきまであんなに楽しそうだったのにです?」
宿屋へ向かう途中で、先に謝っておくとエステルが首をかしげながら聞いてきた
「うーん…あーやって説教してくる時のフレンは昔と変わらないからいいんだけどね…」
苦笑いしながら答える
「確かに、あんたらと話してる時はちょっと雰囲気違うわよね」
「うん、なんか楽しそうだよね!」
「そうかぁ?ほら、んなこといいからさっさと行くぜ」
そう言って先にスタスタと歩いて行ってしまう
「あ、ユーリ!待ってよ!」
少し駆け足で、私達はユーリの後を追いかけた
~宿屋にて~
「来たぜ、フレン」
「ユーリ……またノックして……っ!!?」
宿屋について受付の人に部屋を聞いてそこに行くと、フレンと先程の少年、更には何故かラゴウがいる
「っ!?」
ユーリがノックしなかったことを注意するのすら忘れて、ラゴウを睨みつける
「おや?この方々は?」
「なっ!さっきノール港で会ったじゃんか!」
「はて…?何のことやら」
「都合の良い記憶喪失か?」
「記憶喪失も何も、あなた方とは今初めてお会いしましたからねぇ」
勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべたままラゴウは言う
最早みんなの会話が頭に入って来ないくらいに頭にきた
また始まったよ、貴族の言い訳が
だから嫌いなんだ
自分達の都合のいいように解釈して、都合のいい法律を作るこいつらが
会話が頭に入って来ないうちに、ラゴウは帰ろうとしだした
多分、権力にものを言わせて…だろう
「では、私はこれで…」
「……ラゴウ殿、一つだけ言わさせて頂きますが……」
突然、敬語を使って喋り出したことにみんなは驚いて私を見る
もちろん、ラゴウも
「あなたが覚えていらっしゃらなくても、被害にあった方はいつまでも覚えています」
ゆっくりと近づきながら淡々と喋る
「…………いつか、天罰が下りますよ。そんなに余裕で居られるのは今だけだと、宣言させていただきます」
ニコッと笑って耳元で言う
「………私はあなたを許さない。たとえ、法を侵すような事をしてでも、絶対にその座から引きずり落としてあげますよ」
それだけ言って背を向けて離れる
バタンッと扉の閉まる音が聞こえたから、恐らく出ていったのだろう
「アリシア………一体何を言ったんだい……?」
ちょっと遠慮気味にフレンが聞いてくる
「……ひ・み・つ、それよりも、話すことあるんじゃないの?」
これ以上私が何も言わないとわかったのか、フレンは一度深くため息をついてからいつもの騎士の時の顔つきになる
「そう…だね、この方は………」
「次期皇帝候補のヨーデル殿下です」
言葉に詰まったフレンの代わりにエステルが言う
……つまり、この方も皇族か……
見た感じエステルのように力が使える雰囲気はないけど
冗談だと思っているカロルにヨーデル殿下は、あくまで候補の1人だと言う
「本当なんだ。先代皇帝の甥御にあたられるヨーデル殿下だ」
「殿下ともあられる方が、執政官に捕まる理由をオレは知りたいね」
呆れたようにユーリが言うが、フレンもエステルも黙りだ
「市民には聞かせられねぇってか、ま、好きにすりゃいいさ」
蔑んだように顔を背ける
「そうやって帝国から目を背けて何か変わったかい?」
問いただすようにフレンは問いかける
あぁ、このままじゃ言い合いになるな……
「じゃあフレンが理由話せばいいだけでしょ?それをしないからこうなるんじゃん」
ユーリとフレンが言い合っているのなんて見たくないから、思わず口を挟んでしまった
「アリシア……僕にだって職務上の事情が」
またいつものように話せないと言い出す
「何よ、言えない癖に目を背けるな?横暴も程々にしてよね。誰のおかげで下町のみんなは安心して暮らせてるの?税の徴収から下町を守ってるのは誰?フレンだけじゃないでしょ」
「っ!だからと言って」
『だからと言って』
何度も聞いたその言い回しに、遂に今まで溜め込んでしまっていた言葉がでてしまった
「また始まったよ、フレンのだからと言ってが。何も変わらなくて悔しい思いしてんのはフレンだけじゃないの!ユーリも私もなんだって!それでも下町に居ることを決めたのは、フレンが法を変えられるくらい地位が高くなるまで、下町守るためでしょっ!?」
思わず声を荒らげて反論してしまった
だが、こればかりはフレンが悪い
私やユーリがどんな気持ちなのかも知らないで……
「アリシア……僕はただ……」
「あのねぇ…心配してくれるのはいいんだけど、毎回毎回そんな言い方ないでしょっ!?どんだけユーリが気にしてると思ってんのよっ!!」
心配してくれている事なんて知っている
だからこそ、前に進んでほしいと願ってついきついことを言ってしまうことも
それでも、私にはもう我慢が出来なかった
「大体っ!フレンだって何も変えられてない癖に」
「シア、言い過ぎ…ちょいこっち来い」
喋っている途中で、グイッとユーリに腕を引っ張られる
「ちょっ!ユーリっ!離してよっ!まだ言いたい事」
「わーったわーった、その頭冷やしてからな」
そう言いながら、私を連れて部屋を出る
絶対わかってない……!!
これ絶対わかってないよ…!!
宿屋の外に出てすぐの壁を思いっきり殴る
「落ち着けよ……」
「ユーリこそ、イライラしてるのバレバレなんだから」
「あん?なーんでだよ?」
「左手、思いっきり力入ってる」
「……………」
無言で壁に近づいたと思ったら、私よりも強い力で壁を殴った
「痛いとこつきやがって……」
「本当、私達だってつらい思いしてるのに」
壁に寄りかかりながら言う
右手を見つめて握りしめる
私もユーリも、ただ目を背けている訳ではない
今出来ることを精一杯しているつもりだ
……それなのに、あんな言い方はないだろう
「…ふぅ、魔核の手がかり探しに行かない?」
少し落ち着いてきたところで、ユーリを見てそう提案する
「だな、大人しく待ってるとかガラじゃねぇしな」
二人揃ってニヤッと笑う
「行こうぜ?シア」
「うんっ!」
差し出された手を取って歩き出す
歩き出して少しするとラゴウの屋敷の前で会った人がいた
「あっ!あの人っ!」
「おいっ!ちょっと待とうぜ?おっさん」
「ん?よ、よぉ」
「挨拶より先に言う事あんじゃねぇの?」
「俺って誤解されやすいのよね…」
うなだれながらおっさんはそう言う
「ふーん、誤解されやすいね」
「そういえば、おじさんの名前聞いてなかったね」
「ん?そうねぇ…レイヴンとでも呼んでよ
お、そうそう、さっき北西の方に怪しいギルドの一団が向かってくの見かけたわよ」
「あん?なーんでそんなこと教えてくれんのさ」
「あー、さっきのお詫びがてらってね。おたくら、魔核盗んだギルド探してるんでしょ?それかはちょっとわからんけどね」
「………」
すっごい胡散臭い
っと言うか、嘘ついてるようにしか見えない
……それに、さっきは気にしなかったけど、やっぱりなんかずっと前にも会ったことのあるような気がする…
「あ!ユーリ!アリシア!」
「あのおっさんっ!!」
そう言いながら、リタが駆け寄ってくるのが目に入った
「ありゃ、こりゃ逃げた方がいいかね?」
「一人好戦的なのがいるからな」
ユーリがそう言うと、レイヴンは逆方向に逃げて行く
「よかったの?」
「なにがだ?」
「……ま、ユーリが良いならいいよ」
「アリシア……あの、フレンが探していましたよ……?」
エステルがちょっと遠慮気味に話しかけてくる
先程あれだけキレていればそうなるのも無理ないか、と一人苦笑いする
「フレンが?」
「そ、なーんかあの後、他の騎士がフレンに誰かからの伝言伝えに来て、それ聞いたら慌てて探してくれって言われたわよ」
「………その伝言伝えに来た騎士の服……どんな色してた?」
「え?赤…だったかな?」
「……あぁ、そうゆうことね……」
はぁ……っとため息をつく
多分、『あの人』が私に用があるんだろう
そういえば、帝都に帰った次の日に会う約束してたっけ……
完っ全に忘れてたよ……
また逃げたら今度は何言われるか分かったもんじゃないや……
「ユーリ、私一旦離脱する…多分呼んでるの『あの人』だ……」
「『あの人』……?」
「あ?なんか約束でもしてたのか?」
「……帝都飛び出した日に会う約束あったの、今思い出した…」
「おいおい……それ、やばいんじゃねぇの?」
「やばい、すっごいやばい。だから、後で合流しよ」
「了解、ここでいいか?」
「ん、構わないよ」
じゃあ後で、と言って宿屋へ戻る
正直会いたくないのだが、後々面倒だから仕方なく会いに行くことにした
…………本当、会いたくないんだけどね…………
ユーリ達と別れて、宿屋に戻って来た
が、正直中に入る気になれない
また喧嘩して飛び出しそうだ
だが、入らなければ始まらない
はぁ……と深くため息をついてから、渋々中に入る
「アリシア様!お戻りになられましたか!」
カウンターの近くに居た騎士がおもむろに駆け寄ってくる
……バレてるよね……そりゃ……
「さっ!こちらに!フレン小隊長が待っておられます」
「……ん、わかった。後、様付やめて」
「は……?いえ、しかし……」
言うだけ言って、なにか言おうとしていた騎士をスルーして、先程まで居た部屋の前に向かう
ドアの前で軽く深呼吸をして、ノックしてから入る
「……………」
「……はぁ……あからさまに不機嫌そうな顔をしないでくれよ……」
「フレンが悪い」
部屋に入るなりフレンはため息をつく
この際、不機嫌なのは諦めて欲しい
「騎士団長閣下が、血相変えて君を探してると伝令があったんだ。……まさかとは思うけど、また会う約束を無視したのかい?」
「……忘れてユーリと帝都前の日に飛び出してただーけ」
そう言って顔を逸らす
いや本当に、ユーリのことしか頭になかったんだもん
「まったく……いつもいつも、何かしら理由をつけて会おうとしないんだから」
「だって嫌いだもん、騎士として動いてる時のフレン以上に嫌いだもん」
「…………流石にそろそろ傷つくよ………」
頭に手を当ててうなだれるフレン
そんなこと言われても嫌いなのだから仕方ない
トンっと近くの壁に寄りかかって腕を組む
「ライラックの娘さん……でしたね」
唐突にヨーデル殿下に声をかけられて少し焦った
「……はい」
不意に聞かれたから、答えるのに少し間が空いてしまう
「やはりそうでしたか…船でお会いした時にまさかとは思っていましたけど…」
そう言ってゆっくりと歩み寄ってくる
何かと思ったら真正面まで来て、急に頭を下げるから驚いてしまう
「あの時の騎士達の対応、謝って済まされるものではありませんが、先帝の甥御として謝罪させてください」
突然過ぎる出来事に頭がついていかない
思考回路が停止しかける
この人は何も悪くないのにこうして謝ってくる
……今まで会ったことがなかった、そんな貴族に
「あ……っと………ヨーデル様が悪いわけじゃありませんっ!それに、私はあの日に貴族という地位を捨てたも同然なんです!……顔を上げてください……」
組んでいた手を解いてそう言うと、ゆっくりと顔を上げてニコッと微笑む
私よりもまだ若いはず
なのにこうして自分が悪くなくても人に謝ってくる
初めて、貴族の見方が変わった
こんな人も居るんだと、改めて実感させられた
「それで、一つお願いしたいのですが」
「……?」
「あまり、フレンに冷たい態度を取らないであげてください。あなたの居ないところで、とても気に病んでいるので」
「ヨ、ヨーデル様っ!!それは言わないで下さいとあれほど言ったじゃないですかっ!」
慌ててヨーデル様に言うフレンにニコニコと笑っていらっしゃるヨーデル様
そんな二人を見ているとちょっと可笑しくって、クスッと笑ってしまう
「ふふ……大丈夫ですよ、ヨーデル様。別にフレンが嫌いなわけじゃないことは、本人が1番よく知っている筈ですから……まぁ、今回の呼び出しにはちょっと不満ありますけど…」
チラッとフレンを見ながら言う
…リタやカロルならほっといて大丈夫、で返したけどエステルにあんな顔されて言われたら、断るに断れないじゃないか
と、目で訴える
「悪かったね、ユーリとの邪魔をして」
ちょっと拗ね気味にフレンに言われて、その場に固まってしまう
……私……言ってないよ?
なら誰が?
ユーリ……はない、絶対ない
……まさか……
「エステリーゼ様が、先程口を滑らせていたからね」
「……やっぱり……………だからあれほど言うなってユーリに言ったのに……」
大きくため息をつきながら項垂れる
一番厄介なのに知られてしまったじゃないか……
「君が隠したいのはわかるけど、僕にまで秘密にしていたのは心外だな」
「……………誰よ、遠まわしに告白してきた人は………言うに言えないでしょ………ただでさえユーリと同じで気性が荒いのに…」
「なっ!?僕はユーリ程じゃ」
コンコンッ
不意にノックされてビクッとしてしまう
「フレン小隊長殿、馬車が到着しました」
フレンと同じ隊服を着た騎士が呼びに来た
……え、移動するのか……
面倒だなぁ……
「あ、あぁ!今行く!……アリシア、今からヘリオードに向かうよ、その間、さっきの続きの話をしようか?」
私の横を通りながらそう言ってくる
「うわぁ……そーくるのね……御手柔らかに…ね?」
苦笑いして、先に出たヨーデル様の後に続いて部屋を後にした
「うー……頭痛い……」
「シアがもっとちゃんと話聞いてれば良かったんだろ?」
トリム港について最初に口から出たのはその一言
結局、トリム港までずーっと続いてしまった
途中、エステル達が止めに入ってきたけど、そんなのお構い無しに続いた
フレンはまだ怒ってるみたいで、後でまた話が……とか言われたし
…ま、いいんだけどさ
騎士のフレンじゃなくなるんだったら、お説教でもいい
そのフレンはと言うと、ユーリが先程助けた少年と共に、宿屋へ行ってしまった
先に行ってるから、と言われたから、きっとついてこいって意味なんだろう
「…ごめん、先に言っておく、きっとまた機嫌悪くなる」
「さっきまであんなに楽しそうだったのにです?」
宿屋へ向かう途中で、先に謝っておくとエステルが首をかしげながら聞いてきた
「うーん…あーやって説教してくる時のフレンは昔と変わらないからいいんだけどね…」
苦笑いしながら答える
「確かに、あんたらと話してる時はちょっと雰囲気違うわよね」
「うん、なんか楽しそうだよね!」
「そうかぁ?ほら、んなこといいからさっさと行くぜ」
そう言って先にスタスタと歩いて行ってしまう
「あ、ユーリ!待ってよ!」
少し駆け足で、私達はユーリの後を追いかけた
~宿屋にて~
「来たぜ、フレン」
「ユーリ……またノックして……っ!!?」
宿屋について受付の人に部屋を聞いてそこに行くと、フレンと先程の少年、更には何故かラゴウがいる
「っ!?」
ユーリがノックしなかったことを注意するのすら忘れて、ラゴウを睨みつける
「おや?この方々は?」
「なっ!さっきノール港で会ったじゃんか!」
「はて…?何のことやら」
「都合の良い記憶喪失か?」
「記憶喪失も何も、あなた方とは今初めてお会いしましたからねぇ」
勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべたままラゴウは言う
最早みんなの会話が頭に入って来ないくらいに頭にきた
また始まったよ、貴族の言い訳が
だから嫌いなんだ
自分達の都合のいいように解釈して、都合のいい法律を作るこいつらが
会話が頭に入って来ないうちに、ラゴウは帰ろうとしだした
多分、権力にものを言わせて…だろう
「では、私はこれで…」
「……ラゴウ殿、一つだけ言わさせて頂きますが……」
突然、敬語を使って喋り出したことにみんなは驚いて私を見る
もちろん、ラゴウも
「あなたが覚えていらっしゃらなくても、被害にあった方はいつまでも覚えています」
ゆっくりと近づきながら淡々と喋る
「…………いつか、天罰が下りますよ。そんなに余裕で居られるのは今だけだと、宣言させていただきます」
ニコッと笑って耳元で言う
「………私はあなたを許さない。たとえ、法を侵すような事をしてでも、絶対にその座から引きずり落としてあげますよ」
それだけ言って背を向けて離れる
バタンッと扉の閉まる音が聞こえたから、恐らく出ていったのだろう
「アリシア………一体何を言ったんだい……?」
ちょっと遠慮気味にフレンが聞いてくる
「……ひ・み・つ、それよりも、話すことあるんじゃないの?」
これ以上私が何も言わないとわかったのか、フレンは一度深くため息をついてからいつもの騎士の時の顔つきになる
「そう…だね、この方は………」
「次期皇帝候補のヨーデル殿下です」
言葉に詰まったフレンの代わりにエステルが言う
……つまり、この方も皇族か……
見た感じエステルのように力が使える雰囲気はないけど
冗談だと思っているカロルにヨーデル殿下は、あくまで候補の1人だと言う
「本当なんだ。先代皇帝の甥御にあたられるヨーデル殿下だ」
「殿下ともあられる方が、執政官に捕まる理由をオレは知りたいね」
呆れたようにユーリが言うが、フレンもエステルも黙りだ
「市民には聞かせられねぇってか、ま、好きにすりゃいいさ」
蔑んだように顔を背ける
「そうやって帝国から目を背けて何か変わったかい?」
問いただすようにフレンは問いかける
あぁ、このままじゃ言い合いになるな……
「じゃあフレンが理由話せばいいだけでしょ?それをしないからこうなるんじゃん」
ユーリとフレンが言い合っているのなんて見たくないから、思わず口を挟んでしまった
「アリシア……僕にだって職務上の事情が」
またいつものように話せないと言い出す
「何よ、言えない癖に目を背けるな?横暴も程々にしてよね。誰のおかげで下町のみんなは安心して暮らせてるの?税の徴収から下町を守ってるのは誰?フレンだけじゃないでしょ」
「っ!だからと言って」
『だからと言って』
何度も聞いたその言い回しに、遂に今まで溜め込んでしまっていた言葉がでてしまった
「また始まったよ、フレンのだからと言ってが。何も変わらなくて悔しい思いしてんのはフレンだけじゃないの!ユーリも私もなんだって!それでも下町に居ることを決めたのは、フレンが法を変えられるくらい地位が高くなるまで、下町守るためでしょっ!?」
思わず声を荒らげて反論してしまった
だが、こればかりはフレンが悪い
私やユーリがどんな気持ちなのかも知らないで……
「アリシア……僕はただ……」
「あのねぇ…心配してくれるのはいいんだけど、毎回毎回そんな言い方ないでしょっ!?どんだけユーリが気にしてると思ってんのよっ!!」
心配してくれている事なんて知っている
だからこそ、前に進んでほしいと願ってついきついことを言ってしまうことも
それでも、私にはもう我慢が出来なかった
「大体っ!フレンだって何も変えられてない癖に」
「シア、言い過ぎ…ちょいこっち来い」
喋っている途中で、グイッとユーリに腕を引っ張られる
「ちょっ!ユーリっ!離してよっ!まだ言いたい事」
「わーったわーった、その頭冷やしてからな」
そう言いながら、私を連れて部屋を出る
絶対わかってない……!!
これ絶対わかってないよ…!!
宿屋の外に出てすぐの壁を思いっきり殴る
「落ち着けよ……」
「ユーリこそ、イライラしてるのバレバレなんだから」
「あん?なーんでだよ?」
「左手、思いっきり力入ってる」
「……………」
無言で壁に近づいたと思ったら、私よりも強い力で壁を殴った
「痛いとこつきやがって……」
「本当、私達だってつらい思いしてるのに」
壁に寄りかかりながら言う
右手を見つめて握りしめる
私もユーリも、ただ目を背けている訳ではない
今出来ることを精一杯しているつもりだ
……それなのに、あんな言い方はないだろう
「…ふぅ、魔核の手がかり探しに行かない?」
少し落ち着いてきたところで、ユーリを見てそう提案する
「だな、大人しく待ってるとかガラじゃねぇしな」
二人揃ってニヤッと笑う
「行こうぜ?シア」
「うんっ!」
差し出された手を取って歩き出す
歩き出して少しするとラゴウの屋敷の前で会った人がいた
「あっ!あの人っ!」
「おいっ!ちょっと待とうぜ?おっさん」
「ん?よ、よぉ」
「挨拶より先に言う事あんじゃねぇの?」
「俺って誤解されやすいのよね…」
うなだれながらおっさんはそう言う
「ふーん、誤解されやすいね」
「そういえば、おじさんの名前聞いてなかったね」
「ん?そうねぇ…レイヴンとでも呼んでよ
お、そうそう、さっき北西の方に怪しいギルドの一団が向かってくの見かけたわよ」
「あん?なーんでそんなこと教えてくれんのさ」
「あー、さっきのお詫びがてらってね。おたくら、魔核盗んだギルド探してるんでしょ?それかはちょっとわからんけどね」
「………」
すっごい胡散臭い
っと言うか、嘘ついてるようにしか見えない
……それに、さっきは気にしなかったけど、やっぱりなんかずっと前にも会ったことのあるような気がする…
「あ!ユーリ!アリシア!」
「あのおっさんっ!!」
そう言いながら、リタが駆け寄ってくるのが目に入った
「ありゃ、こりゃ逃げた方がいいかね?」
「一人好戦的なのがいるからな」
ユーリがそう言うと、レイヴンは逆方向に逃げて行く
「よかったの?」
「なにがだ?」
「……ま、ユーリが良いならいいよ」
「アリシア……あの、フレンが探していましたよ……?」
エステルがちょっと遠慮気味に話しかけてくる
先程あれだけキレていればそうなるのも無理ないか、と一人苦笑いする
「フレンが?」
「そ、なーんかあの後、他の騎士がフレンに誰かからの伝言伝えに来て、それ聞いたら慌てて探してくれって言われたわよ」
「………その伝言伝えに来た騎士の服……どんな色してた?」
「え?赤…だったかな?」
「……あぁ、そうゆうことね……」
はぁ……っとため息をつく
多分、『あの人』が私に用があるんだろう
そういえば、帝都に帰った次の日に会う約束してたっけ……
完っ全に忘れてたよ……
また逃げたら今度は何言われるか分かったもんじゃないや……
「ユーリ、私一旦離脱する…多分呼んでるの『あの人』だ……」
「『あの人』……?」
「あ?なんか約束でもしてたのか?」
「……帝都飛び出した日に会う約束あったの、今思い出した…」
「おいおい……それ、やばいんじゃねぇの?」
「やばい、すっごいやばい。だから、後で合流しよ」
「了解、ここでいいか?」
「ん、構わないよ」
じゃあ後で、と言って宿屋へ戻る
正直会いたくないのだが、後々面倒だから仕方なく会いに行くことにした
…………本当、会いたくないんだけどね…………
ユーリ達と別れて、宿屋に戻って来た
が、正直中に入る気になれない
また喧嘩して飛び出しそうだ
だが、入らなければ始まらない
はぁ……と深くため息をついてから、渋々中に入る
「アリシア様!お戻りになられましたか!」
カウンターの近くに居た騎士がおもむろに駆け寄ってくる
……バレてるよね……そりゃ……
「さっ!こちらに!フレン小隊長が待っておられます」
「……ん、わかった。後、様付やめて」
「は……?いえ、しかし……」
言うだけ言って、なにか言おうとしていた騎士をスルーして、先程まで居た部屋の前に向かう
ドアの前で軽く深呼吸をして、ノックしてから入る
「……………」
「……はぁ……あからさまに不機嫌そうな顔をしないでくれよ……」
「フレンが悪い」
部屋に入るなりフレンはため息をつく
この際、不機嫌なのは諦めて欲しい
「騎士団長閣下が、血相変えて君を探してると伝令があったんだ。……まさかとは思うけど、また会う約束を無視したのかい?」
「……忘れてユーリと帝都前の日に飛び出してただーけ」
そう言って顔を逸らす
いや本当に、ユーリのことしか頭になかったんだもん
「まったく……いつもいつも、何かしら理由をつけて会おうとしないんだから」
「だって嫌いだもん、騎士として動いてる時のフレン以上に嫌いだもん」
「…………流石にそろそろ傷つくよ………」
頭に手を当ててうなだれるフレン
そんなこと言われても嫌いなのだから仕方ない
トンっと近くの壁に寄りかかって腕を組む
「ライラックの娘さん……でしたね」
唐突にヨーデル殿下に声をかけられて少し焦った
「……はい」
不意に聞かれたから、答えるのに少し間が空いてしまう
「やはりそうでしたか…船でお会いした時にまさかとは思っていましたけど…」
そう言ってゆっくりと歩み寄ってくる
何かと思ったら真正面まで来て、急に頭を下げるから驚いてしまう
「あの時の騎士達の対応、謝って済まされるものではありませんが、先帝の甥御として謝罪させてください」
突然過ぎる出来事に頭がついていかない
思考回路が停止しかける
この人は何も悪くないのにこうして謝ってくる
……今まで会ったことがなかった、そんな貴族に
「あ……っと………ヨーデル様が悪いわけじゃありませんっ!それに、私はあの日に貴族という地位を捨てたも同然なんです!……顔を上げてください……」
組んでいた手を解いてそう言うと、ゆっくりと顔を上げてニコッと微笑む
私よりもまだ若いはず
なのにこうして自分が悪くなくても人に謝ってくる
初めて、貴族の見方が変わった
こんな人も居るんだと、改めて実感させられた
「それで、一つお願いしたいのですが」
「……?」
「あまり、フレンに冷たい態度を取らないであげてください。あなたの居ないところで、とても気に病んでいるので」
「ヨ、ヨーデル様っ!!それは言わないで下さいとあれほど言ったじゃないですかっ!」
慌ててヨーデル様に言うフレンにニコニコと笑っていらっしゃるヨーデル様
そんな二人を見ているとちょっと可笑しくって、クスッと笑ってしまう
「ふふ……大丈夫ですよ、ヨーデル様。別にフレンが嫌いなわけじゃないことは、本人が1番よく知っている筈ですから……まぁ、今回の呼び出しにはちょっと不満ありますけど…」
チラッとフレンを見ながら言う
…リタやカロルならほっといて大丈夫、で返したけどエステルにあんな顔されて言われたら、断るに断れないじゃないか
と、目で訴える
「悪かったね、ユーリとの邪魔をして」
ちょっと拗ね気味にフレンに言われて、その場に固まってしまう
……私……言ってないよ?
なら誰が?
ユーリ……はない、絶対ない
……まさか……
「エステリーゼ様が、先程口を滑らせていたからね」
「……やっぱり……………だからあれほど言うなってユーリに言ったのに……」
大きくため息をつきながら項垂れる
一番厄介なのに知られてしまったじゃないか……
「君が隠したいのはわかるけど、僕にまで秘密にしていたのは心外だな」
「……………誰よ、遠まわしに告白してきた人は………言うに言えないでしょ………ただでさえユーリと同じで気性が荒いのに…」
「なっ!?僕はユーリ程じゃ」
コンコンッ
不意にノックされてビクッとしてしまう
「フレン小隊長殿、馬車が到着しました」
フレンと同じ隊服を着た騎士が呼びに来た
……え、移動するのか……
面倒だなぁ……
「あ、あぁ!今行く!……アリシア、今からヘリオードに向かうよ、その間、さっきの続きの話をしようか?」
私の横を通りながらそう言ってくる
「うわぁ……そーくるのね……御手柔らかに…ね?」
苦笑いして、先に出たヨーデル様の後に続いて部屋を後にした