第1部〜水道魔導器魔核奪還編〜
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不可思議な魔導器
ユーリ達と合流して屋敷内の探索を始めてから少ししたところ
「…あれ?あの子……」
「おぉ、また会ったの」
先程の少女が天井からロープで吊り下げられてるのを見つけた
……結局、捕まっちゃったのね……
「そこで何してんだよ」
少女に近づきながらユーリは聞く
いや…どう見ても捕まってるでしょ……
「見ての通り高みの見物なのじゃ」
「ふーん、オレはてっきり捕まってるのかと思ったぜ」
「あの…捕まってるんだと思います……」
少し遠慮気味にエステルはそう言う
「む、お前知ってるのじゃ!えーと、確か名前は……ジャック!」
そう少女が言うと短くため息をつく
「オレはユーリだ。お前名前は?」
「パティなのじゃ」
……なんか、二人で仲良く会話始めたんだけど……
そんなことしてる暇ないのに…
ふと、次の部屋への扉を見ると一瞬だが、ラゴウの姿が見えた
「…っ!」
チラッとみんなの方を見るが、みんなユーリとパティの話に聞き入っているようだ
「…………」
ごめんなさい、と心の中で謝ってそっとその場を離れ、一人先に進んで行く
さっき怒られたばかりだが、私の中の怒りと憎しみは収まらない
何が何でも、許せない
例え、重い罪を背負うことになったとしても
誰かに蔑まれても
誰かに批判されても
…………絶対に
しばらく一人で進んで行くと、少し広い部屋へ出た
次の部屋へさっさと行こうと扉へ向かうが
「侵入者ぁぁぁぁぁ!」
「っ!?ちっ…!!」
大剣を持った男が襲いかかってきた
こいつも恐らく傭兵なのだろう
振り下ろされた大剣から素早く逃げる
こんなところで時間をくっていられない
「……邪魔、退いて」
冷たくそう言い放つとほぼ同時に、男の頭上に光の剣が現れる
逃げる暇もなくその剣は男に降り注いだ
この天候のおかげか、いつもよりも星たちから借りれる力が強い
詠唱ほぼゼロで術が発動する
男には目もくれず、次の部屋へ急ぐ
逃げられないように
逃がさないように
今度こそ、絶対に
次の部屋に入ると、そこには探していた魔導器が置いてあった
『アリシア!これだよ!これ!』
興奮気味にリゲルが話しかけてきた
「やっぱりこれなの?」
誰も居ないことを確認してから小声で話しかける
『そうだよ!これさえ止めればこの街は開放されるんだ!』
「ふーん……リタなら解析出来たでしょうけど…」
そう言いながら魔導器の近くによる
生憎だが、お母様と違って私には魔導器はさっぱりわからない
システムを開いてみるがちんぷんかんぷんだ
「……ぶっ壊してしまおうか」
『それじゃあラゴウのやってたことの裏がとれなくなるじゃん…!』
「あぁ、それもそうね」
それじゃどうする?
魔導器はぶっ壊したら、恐らくリタも怒るだろう
それでも、早々に止めなければ……
「……うん、怒られるの覚悟でやりますかね」
どちらにせよ怒られるのは確定なんだ
だったらいっそのこと……
『駄目だって!ラゴウ捕まえられなくなっちゃうでしょ!』
「そんなこと知ったこっちゃ」
「なーにが知ったこっちゃねぇってか?」
「っ!?ユ、ユーリ……それにみんな……」
突然後ろから声をかけられて慌てて振り向くと、完全に怒っているオーラを出したユーリとリタ、それにエステル達がいた
「…………来るの早すぎでしょ……」
はぁ…っとため息をついて項垂れる
(リゲル…気づいてたんでしょ)
『ごめん…言ったら強行突破しそうだったから…』
心の中で舌打ちするが、来てしまったものは仕方ない
「アリシア…っ!あんたまたっ!」
「無茶はしてないよ。それと、これがそれっぽいよ、リタ」
そう言うと同時に詠唱を始めた
「ちょっ!?何してんのよ!?」
「証拠は見つけた。ならもう暴れても問題ないでしょう?」
その言葉にユーリ以外が驚いた顔をする
それもそうかもしれない
鏡を見なくってもわかる
今の私の顔は
今までにないくらい
怒りと憎しみで、満ちているであろうから
詠唱が終わると同時に複数の火の玉が飛び交う
もちろん、彼らには向かないように注意してある
それを見てユーリはため息をつきながら、後でちゃんと説明しろよ?とだけ言って、彼自身も暴れだした
それを合図にカロルやリタ達もものを破壊していく
「なっ!何事ですかっ!?」
「っ!!!ラゴウ…っ!!!」
扉からラゴウが入って来ると同時にその頭上に大量の光の剣が降り注ぐ
「なっ!!!!なななっ!!!!」
間一髪という所でよけられてしまったが、そんなことどうでもいい
上から彼を見下す
「くっ!!人の屋敷でなんたる暴挙です…!!あなた方は立場というものを」
「それがわからないのはあんたのほうでしょ?」
ストンっとラゴウの目の前に降り立ち、剣を向ける
「なっ!何のことですかっ!」
「とぼけるの?あんた、自分よりも位の高い人間殺しておいて何様のつもりなのよ?」
ラゴウだけを、ただ見つめる
私の目には最早、目の前で怯えるこいつしか見えていなくて
周りなんてどうでも良かった
リタは少しだけ魔導器を調べ始めたようで、ユーリが退くと言ってるのが聞こえる
でも、私は退く気なんてさらさらなかった
この男に裁きを下すまでは
だが、神様とかいう輩はそんなことも許してくれないらしく
「アリシアっ!!辞めるんだっ!」
もう既に、フレンが来てしまった
「相変わらず行動が早いこった…シアっ!退くぞ!」
パリィィィインっ!
ユーリのその言葉と共に噂の竜使いが入って来た
『あぁ!やばいやばいっ!来ちゃったよ!』
(……リゲル、少し黙ってて)
竜に乗ったその人物は魔導器の魔核だけを正確に破壊した
もちろん、リタが大激怒した
(……ねぇ、あなた、『彼』にあの子のことを言われてきたの?)
《…違うよ、僕は『彼女』の為にここに来た。まだあの子を狙いはしないよ、姫様》
(…そっか、なら『彼』に伝えて、もう少しだけ待ってって)
《いいよ。……それよりも、あんまりその力、使わない方がいいよ》
始祖の隷長になりかけている彼はそう言って竜使いと共に去っていった
とりあえずまだ、『彼』にエステルが狙われていないだけマシだろう
「船の用意を!」
いつの間にか逃げ出していたラゴウが傭兵に向かって叫んでいる
「っ!逃がすかっ!!」
「あっ!おい!シアっ!待てっ!」
ラゴウを追いかけた私の後をユーリ達も追いかけてくる
「くっ…!どっちに」
「待てっつーのっ!シアっ!」
外に出たところでユーリに腕を掴まれた
「っ!?」
そのまま引っ張られて両腕を抑えられる
「お前なぁっ!さっき言った言葉がまだわかんねぇのかっ!?」
さっきよりも真剣な顔で聞いてくる
「…わかってるつもりではいるよ。でも、だからと言って大人しくしてられないの」
ユーリから目線を外しながら言う
タダでさえ冷たく当たってしまうのだから、目線なんて合わせられない
「アリシア…」
少し心配そうに、でも遠慮気味に声をかけてくるエステル
「エステル、私はあなたが嫌いじゃない。でも、それと帝国を好きかは別問題なの。…ごめんなさい、今は優しくしている余裕がないの」
この気持ちは一生かけても変わらないだろう
…ユーリやフレン、エステルには悪いけど…ね
「それよりもあいつよ…っ!魔導器壊してっ!あんな奴竜使いなんて言い方勿体ないわっ!バカドラで充分よっ!」
怒りながらリタはそう言う
それもそうだろう
彼女にとって、魔導器よりも大切なものはないだろうから
「さてと…オレらはこのままさっきの奴を追っかけなきゃなんねぇ。…ちゃんと家に帰れんな?」
私の両腕を離して、ポリーの前まで行って目線を合わせながらユーリは聞く
ポリーうんっ!と元気よく答え、パティもここで別れることになった
「二人とも気をつけてくださいね」
エステルがそう言うと、二人は頷いて真っ直ぐに街へ戻って行った
「さてと、シア、お前は後で話あっから逃げたり勝手に一人で動くなよ?」
「……わかったよ」
背を向けながらユーリに答える
「……そんなことより、早くしなきゃ逃げられるよ」
そう言ってラゴウが向かったであろう方向を見る
「だな、行くぜ、みんなっ!」
ユーリの合図で一気に駆け出す
逃がすわけにはいかないんだ
船着場に着くと、もう船が出航しようとしていた
「よし、行くぜカロルっ!」
「えっ!?ま、待って待ってっ!心の準備がっ!」
カロルを抱き抱えてユーリは船へ飛び込む
それを合図にリタとエステル、私も続く
「ふぅ、なんとか間に合ったな」
「ちょっと…!これ、魔導器の魔核じゃないっ!」
近くにあった箱の中を見ながら、リタは悲鳴に近い声をあげた
「なんでこんなに沢山魔核だけ?」
「あたしが知りたいわよ…!研究所にもこんなに数揃わないのにっ!」
「もしかして魔核ドロボウと関係が?」
「かもしれねぇな」
「え?でも黒幕は隻眼の大男じゃ…」
「………共犯、ってことなのかもね」
大量に集められた魔核を見ながら呟く
十中八九、これは全て盗品なんだろう
じゃなきゃ今の時代、こんな数は揃わないはずだ
自然と右手に力が入る
市民だけでなく、貴族からも盗っているだなんて…
…まぁ、あいつらなら気にはしないだろうけど
リタは今、下町の魔核がないか見てくれてるけど、残念ながらここにはないようだ
「なんと…っ!ここまで追ってくるとは…っ!!」
「………!」
声の聞こえた方を向くと、ラゴウともう一人……探していた隻眼の大男がいた
「あんたか、人使って魔核盗ませてんのは」
ユーリは大男の近くまで行って剣を向ける
「はっ、そうかもしれねぇな」
大男はユーリ目掛けて大剣を振るけど、サッと交わして私の横に戻ってきた
「ほう、いい動きをするな。久々に俺の腕もうずくな。うちのギルドにも欲しいくらいだが、野心のある目をしてる
惜しいな」
「バルボスっ!さっさと始末しなさいっ!」
「金の分は働いた。それにもうじき騎士が来る。鉢合うと面倒だ」
そう言ってバルボスと呼ばれた大男はラゴウを連れて逃げようとする
「…逃がすわけないでしょ…っ!」
剣を抜いて追いかけようとしたが、すぐ側にあった船室から『何か』が飛び出してきた
間一髪で剣でガードして避ける
「……また会ったな」
「ザギっ!後は頼みましたよっ!」
「っ!!」
目の前に現れた男…ザギのせいでラゴウは別の船で逃げてしまった
「…どいてよ、そこ。邪魔よ」
「ふふふ……はははっ!!退く?退かねぇぜ?追いかけたいなら俺を先に倒せよ」
何処か余裕を持ったような不敵な笑みでザギは言ってくる
すると、後ろからユーリのため息が聞こえてきた
「おいおい、またかよ……勘弁してくれよな…」
「刃が疼く……殺らせろ…殺らせろぉぉ!」
そう言って、躊躇なく突っ込んでくる
複雑な動きがあるわけでもないから避けるのは簡単だった
「おっと、御手柔らかに頼むぜ」
攻撃を避けながらユーリはザギ向かって言う
同時に地面を蹴って彼もまた戦闘に入る
それを合図に私達も戦闘体型に入った
「蒼波っ!」
「臥竜アッパーっ!」
「ふははははっ!お前らの攻撃なんてきかねぇ!」
「ならもう遠慮しねぇよっ!」
「あーもうっ!なんなのよっ!」
こいつ……相当体力があるか、あるいは体に神経通ってないか、もしくは痛みを感じない馬鹿よ……!
かなりダメージを負わせたはずなのにっ!
術の方が効果的だと思って後衛に回ったが、どうやら術もあまり効いていないようだ
術の詠唱をやめて剣を持ち直し、ザギに突っ込む
「はははっ!!お前が相手かっ!?」
「シアっ!ったく!!」
「うっさい、私は早くあいつ追っかけたいのよっ!虎牙破斬っ!!!!」
「蒼破追蓮っ!!」
私の技と、ユーリの技が同時にザギにあたる
「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「勝負ありよ」
「くっ………ふふふ………はははは………退いた………この俺が……退いたっ!はははっ!!お前ら強いなっ!ふははははっ!覚えたぞっ!ユーリ・ローウェル!アリシア・ラグナロクっ!!」
「…名乗った覚え、ないんだけど」
「アハハハハっ!!!殺す、殺してやるっ!お前らそこ動くなよっ!?幾重にも、幾重にも切り刻」
ドォーンッ
爆音と共にザギは海へ落ちていった
もう二度と現れて欲しくないわ…
「てか、これ沈むよ…」
はぁ…とため息をつく
本当余計なことしてくれて…
海へ逃げろっ!と、ユーリが言うとみんな海へ飛び込もうとする
ただ、肝心のユーリは何故か船室の方へ向かってしまった
「ユーリっ!!!」
「エステリーゼ駄目っ!!」
ユーリを追いかけようとしたエステルをリタが止めた
でも……と言ってなかなか飛び込もうとしない
「ユーリなら大丈夫だよ、エステル。行くよ」
無理矢理エステルを連れて海に飛び込む
少し離れたところまで行くと、船は先端を残して沈んでしまっているのが見える
「みんな!大丈夫?」
「私は……でも、ユーリが……」
ボコッ
「ひー、だいぶ飲んじまったよ…」
海の中から、ユーリが顔を出した
腕にはいかにも貴族という雰囲気の少年を抱えている
エステルはその子を見るなり、少しびっくりした顔をしている
「ヨーデル……!」
エステルが少年のものと思わしき名前を呼んだと、ほぼ同時に騎士団の船が近づいてくるのが目に入った
「どうやら平気みたいだな!!」
「うわぁ……フレン来ちゃった……」
船の上からフレンが叫んでいるのを見て思わずうなだれる
説教で終わればいいのだが……
すると、フレンもユーリが抱えている少年を見て血相を変えた
「……!ヨーデル様っ!今引き上げますっ!ソディア、手伝ってくれっ!」
(……ヨーデル……『様』……?)
「まったく!何故あんなことをしたんだっ!僕が来るのが遅かったらどうなっていたことか…っ!!」
「あー……はいはい……わかりましたよー、私が悪かったですー」
タオルで耳を塞ぎつつフレンに答える
今いるのは甲板、そこでユーリとフレンから絶賛お説教中です
もうさ、このお説教のせいで殺意とか怒りとか憎しみとかどっかいったよね…
「わかってねぇだろ?オレ、一人で先行くなって言ったのに、なーんで勝手に先進んでたわけ?」
怒り気味にユーリが問いかけてくる
「だぁって、呑気にお話してるんだもん」
タオルで濡れた髪を拭きながら、若干不機嫌気味に答える
「だってじゃないだろうっ!?ユーリから聞いたけど、僕が見たのは二度目だったんだろうっ!?」
フレンのその言葉に息がつまりかけた
えっ、ちょっ、何余計なことしてるのさ…!
「ちょっ!?ユーリ!なんで言ったの!?」
若干怒り気味にそう言うと、ユーリは呆れたように首を窄めた
「フレンの説教がお前にゃ一番効くからな」
「ユーリ……後で覚えててよね……!」
ギロっとユーリを睨みつけるが、当の本人は全く気にした様子がない
「ユーリは何も間違ったことをしてないだろう?大体アリシアは……」
くどくどとフレンの説教が始まる
時々ユーリがフレンに補足したりしてくるから、すごく面倒
聞く気なんてないから、髪拭く振りしてタオルで耳を塞ぐ
……こうやって、私やユーリに他愛のない事で説教したりとかしてくるフレンは好きなんだけどなぁ……
こんなふうに会話するのも久しぶりで、懐かしくて、ちょっと楽しくて、思わずニヤッとしてしまう
きっと楽しんでるのは私だけだろうけど…
「こーら、耳塞いでんなっての」
「あっ!!」
パッとユーリにタオルを取られてしまった
「さてと……最初から、がいいかい?」
「えっ!?なんで!?」
「聞いてないからだろ…」
「うっ……あーもう…わかったわかった、私が悪かったから…」
頭に手を付きながらうなだれる
最初からもう一度とかマジ勘弁して欲しいよ…
「じゃあもうしないと約束してくれるね?」
「………守るようには努力す」
「「こりゃもう一度だな/これはもう一度だね」」
「う、嘘っ!!約束するって!!」
本気で怒っている時の目をしてユーリとフレンが言ってくるものだから、咄嗟に言ってしまった
……守る気なんてないんだけどなぁ……
まぁそんなこと、きっとニ人はわかってるんだろうね…
…まだ続きそうだし……
ガミガミと言ってくる二人の説教が少しうるさくて、軽く手で耳を塞ぐ
そしたらまた更に怒られるなんてわかっているけど
私を怒っている時は騎士の時のフレンじゃなくなる
私が知ってる幼なじみのフレンになる
恋愛対象としたらユーリの方が好きだけど、親友という意味ではフレンの方が好きだ
そんな二人と居れる時間が一番好きなわけで
嬉しくなって、思わずニヤッとしてしまうと、何笑ってんだっ!ってまた怒られてしまう
それでも、私はこの時間が好きだから
だから二人共、ごめんね
もう少しだけ私のわがままに付き合って
もう少しだけ、トリム港に付くまででいいから
幼なじみのユーリとフレンで居て欲しい
きっとまた、騎士のフレンに戻ったら、私は冷たく当たってしまうだろうから……
ユーリ達と合流して屋敷内の探索を始めてから少ししたところ
「…あれ?あの子……」
「おぉ、また会ったの」
先程の少女が天井からロープで吊り下げられてるのを見つけた
……結局、捕まっちゃったのね……
「そこで何してんだよ」
少女に近づきながらユーリは聞く
いや…どう見ても捕まってるでしょ……
「見ての通り高みの見物なのじゃ」
「ふーん、オレはてっきり捕まってるのかと思ったぜ」
「あの…捕まってるんだと思います……」
少し遠慮気味にエステルはそう言う
「む、お前知ってるのじゃ!えーと、確か名前は……ジャック!」
そう少女が言うと短くため息をつく
「オレはユーリだ。お前名前は?」
「パティなのじゃ」
……なんか、二人で仲良く会話始めたんだけど……
そんなことしてる暇ないのに…
ふと、次の部屋への扉を見ると一瞬だが、ラゴウの姿が見えた
「…っ!」
チラッとみんなの方を見るが、みんなユーリとパティの話に聞き入っているようだ
「…………」
ごめんなさい、と心の中で謝ってそっとその場を離れ、一人先に進んで行く
さっき怒られたばかりだが、私の中の怒りと憎しみは収まらない
何が何でも、許せない
例え、重い罪を背負うことになったとしても
誰かに蔑まれても
誰かに批判されても
…………絶対に
しばらく一人で進んで行くと、少し広い部屋へ出た
次の部屋へさっさと行こうと扉へ向かうが
「侵入者ぁぁぁぁぁ!」
「っ!?ちっ…!!」
大剣を持った男が襲いかかってきた
こいつも恐らく傭兵なのだろう
振り下ろされた大剣から素早く逃げる
こんなところで時間をくっていられない
「……邪魔、退いて」
冷たくそう言い放つとほぼ同時に、男の頭上に光の剣が現れる
逃げる暇もなくその剣は男に降り注いだ
この天候のおかげか、いつもよりも星たちから借りれる力が強い
詠唱ほぼゼロで術が発動する
男には目もくれず、次の部屋へ急ぐ
逃げられないように
逃がさないように
今度こそ、絶対に
次の部屋に入ると、そこには探していた魔導器が置いてあった
『アリシア!これだよ!これ!』
興奮気味にリゲルが話しかけてきた
「やっぱりこれなの?」
誰も居ないことを確認してから小声で話しかける
『そうだよ!これさえ止めればこの街は開放されるんだ!』
「ふーん……リタなら解析出来たでしょうけど…」
そう言いながら魔導器の近くによる
生憎だが、お母様と違って私には魔導器はさっぱりわからない
システムを開いてみるがちんぷんかんぷんだ
「……ぶっ壊してしまおうか」
『それじゃあラゴウのやってたことの裏がとれなくなるじゃん…!』
「あぁ、それもそうね」
それじゃどうする?
魔導器はぶっ壊したら、恐らくリタも怒るだろう
それでも、早々に止めなければ……
「……うん、怒られるの覚悟でやりますかね」
どちらにせよ怒られるのは確定なんだ
だったらいっそのこと……
『駄目だって!ラゴウ捕まえられなくなっちゃうでしょ!』
「そんなこと知ったこっちゃ」
「なーにが知ったこっちゃねぇってか?」
「っ!?ユ、ユーリ……それにみんな……」
突然後ろから声をかけられて慌てて振り向くと、完全に怒っているオーラを出したユーリとリタ、それにエステル達がいた
「…………来るの早すぎでしょ……」
はぁ…っとため息をついて項垂れる
(リゲル…気づいてたんでしょ)
『ごめん…言ったら強行突破しそうだったから…』
心の中で舌打ちするが、来てしまったものは仕方ない
「アリシア…っ!あんたまたっ!」
「無茶はしてないよ。それと、これがそれっぽいよ、リタ」
そう言うと同時に詠唱を始めた
「ちょっ!?何してんのよ!?」
「証拠は見つけた。ならもう暴れても問題ないでしょう?」
その言葉にユーリ以外が驚いた顔をする
それもそうかもしれない
鏡を見なくってもわかる
今の私の顔は
今までにないくらい
怒りと憎しみで、満ちているであろうから
詠唱が終わると同時に複数の火の玉が飛び交う
もちろん、彼らには向かないように注意してある
それを見てユーリはため息をつきながら、後でちゃんと説明しろよ?とだけ言って、彼自身も暴れだした
それを合図にカロルやリタ達もものを破壊していく
「なっ!何事ですかっ!?」
「っ!!!ラゴウ…っ!!!」
扉からラゴウが入って来ると同時にその頭上に大量の光の剣が降り注ぐ
「なっ!!!!なななっ!!!!」
間一髪という所でよけられてしまったが、そんなことどうでもいい
上から彼を見下す
「くっ!!人の屋敷でなんたる暴挙です…!!あなた方は立場というものを」
「それがわからないのはあんたのほうでしょ?」
ストンっとラゴウの目の前に降り立ち、剣を向ける
「なっ!何のことですかっ!」
「とぼけるの?あんた、自分よりも位の高い人間殺しておいて何様のつもりなのよ?」
ラゴウだけを、ただ見つめる
私の目には最早、目の前で怯えるこいつしか見えていなくて
周りなんてどうでも良かった
リタは少しだけ魔導器を調べ始めたようで、ユーリが退くと言ってるのが聞こえる
でも、私は退く気なんてさらさらなかった
この男に裁きを下すまでは
だが、神様とかいう輩はそんなことも許してくれないらしく
「アリシアっ!!辞めるんだっ!」
もう既に、フレンが来てしまった
「相変わらず行動が早いこった…シアっ!退くぞ!」
パリィィィインっ!
ユーリのその言葉と共に噂の竜使いが入って来た
『あぁ!やばいやばいっ!来ちゃったよ!』
(……リゲル、少し黙ってて)
竜に乗ったその人物は魔導器の魔核だけを正確に破壊した
もちろん、リタが大激怒した
(……ねぇ、あなた、『彼』にあの子のことを言われてきたの?)
《…違うよ、僕は『彼女』の為にここに来た。まだあの子を狙いはしないよ、姫様》
(…そっか、なら『彼』に伝えて、もう少しだけ待ってって)
《いいよ。……それよりも、あんまりその力、使わない方がいいよ》
始祖の隷長になりかけている彼はそう言って竜使いと共に去っていった
とりあえずまだ、『彼』にエステルが狙われていないだけマシだろう
「船の用意を!」
いつの間にか逃げ出していたラゴウが傭兵に向かって叫んでいる
「っ!逃がすかっ!!」
「あっ!おい!シアっ!待てっ!」
ラゴウを追いかけた私の後をユーリ達も追いかけてくる
「くっ…!どっちに」
「待てっつーのっ!シアっ!」
外に出たところでユーリに腕を掴まれた
「っ!?」
そのまま引っ張られて両腕を抑えられる
「お前なぁっ!さっき言った言葉がまだわかんねぇのかっ!?」
さっきよりも真剣な顔で聞いてくる
「…わかってるつもりではいるよ。でも、だからと言って大人しくしてられないの」
ユーリから目線を外しながら言う
タダでさえ冷たく当たってしまうのだから、目線なんて合わせられない
「アリシア…」
少し心配そうに、でも遠慮気味に声をかけてくるエステル
「エステル、私はあなたが嫌いじゃない。でも、それと帝国を好きかは別問題なの。…ごめんなさい、今は優しくしている余裕がないの」
この気持ちは一生かけても変わらないだろう
…ユーリやフレン、エステルには悪いけど…ね
「それよりもあいつよ…っ!魔導器壊してっ!あんな奴竜使いなんて言い方勿体ないわっ!バカドラで充分よっ!」
怒りながらリタはそう言う
それもそうだろう
彼女にとって、魔導器よりも大切なものはないだろうから
「さてと…オレらはこのままさっきの奴を追っかけなきゃなんねぇ。…ちゃんと家に帰れんな?」
私の両腕を離して、ポリーの前まで行って目線を合わせながらユーリは聞く
ポリーうんっ!と元気よく答え、パティもここで別れることになった
「二人とも気をつけてくださいね」
エステルがそう言うと、二人は頷いて真っ直ぐに街へ戻って行った
「さてと、シア、お前は後で話あっから逃げたり勝手に一人で動くなよ?」
「……わかったよ」
背を向けながらユーリに答える
「……そんなことより、早くしなきゃ逃げられるよ」
そう言ってラゴウが向かったであろう方向を見る
「だな、行くぜ、みんなっ!」
ユーリの合図で一気に駆け出す
逃がすわけにはいかないんだ
船着場に着くと、もう船が出航しようとしていた
「よし、行くぜカロルっ!」
「えっ!?ま、待って待ってっ!心の準備がっ!」
カロルを抱き抱えてユーリは船へ飛び込む
それを合図にリタとエステル、私も続く
「ふぅ、なんとか間に合ったな」
「ちょっと…!これ、魔導器の魔核じゃないっ!」
近くにあった箱の中を見ながら、リタは悲鳴に近い声をあげた
「なんでこんなに沢山魔核だけ?」
「あたしが知りたいわよ…!研究所にもこんなに数揃わないのにっ!」
「もしかして魔核ドロボウと関係が?」
「かもしれねぇな」
「え?でも黒幕は隻眼の大男じゃ…」
「………共犯、ってことなのかもね」
大量に集められた魔核を見ながら呟く
十中八九、これは全て盗品なんだろう
じゃなきゃ今の時代、こんな数は揃わないはずだ
自然と右手に力が入る
市民だけでなく、貴族からも盗っているだなんて…
…まぁ、あいつらなら気にはしないだろうけど
リタは今、下町の魔核がないか見てくれてるけど、残念ながらここにはないようだ
「なんと…っ!ここまで追ってくるとは…っ!!」
「………!」
声の聞こえた方を向くと、ラゴウともう一人……探していた隻眼の大男がいた
「あんたか、人使って魔核盗ませてんのは」
ユーリは大男の近くまで行って剣を向ける
「はっ、そうかもしれねぇな」
大男はユーリ目掛けて大剣を振るけど、サッと交わして私の横に戻ってきた
「ほう、いい動きをするな。久々に俺の腕もうずくな。うちのギルドにも欲しいくらいだが、野心のある目をしてる
惜しいな」
「バルボスっ!さっさと始末しなさいっ!」
「金の分は働いた。それにもうじき騎士が来る。鉢合うと面倒だ」
そう言ってバルボスと呼ばれた大男はラゴウを連れて逃げようとする
「…逃がすわけないでしょ…っ!」
剣を抜いて追いかけようとしたが、すぐ側にあった船室から『何か』が飛び出してきた
間一髪で剣でガードして避ける
「……また会ったな」
「ザギっ!後は頼みましたよっ!」
「っ!!」
目の前に現れた男…ザギのせいでラゴウは別の船で逃げてしまった
「…どいてよ、そこ。邪魔よ」
「ふふふ……はははっ!!退く?退かねぇぜ?追いかけたいなら俺を先に倒せよ」
何処か余裕を持ったような不敵な笑みでザギは言ってくる
すると、後ろからユーリのため息が聞こえてきた
「おいおい、またかよ……勘弁してくれよな…」
「刃が疼く……殺らせろ…殺らせろぉぉ!」
そう言って、躊躇なく突っ込んでくる
複雑な動きがあるわけでもないから避けるのは簡単だった
「おっと、御手柔らかに頼むぜ」
攻撃を避けながらユーリはザギ向かって言う
同時に地面を蹴って彼もまた戦闘に入る
それを合図に私達も戦闘体型に入った
「蒼波っ!」
「臥竜アッパーっ!」
「ふははははっ!お前らの攻撃なんてきかねぇ!」
「ならもう遠慮しねぇよっ!」
「あーもうっ!なんなのよっ!」
こいつ……相当体力があるか、あるいは体に神経通ってないか、もしくは痛みを感じない馬鹿よ……!
かなりダメージを負わせたはずなのにっ!
術の方が効果的だと思って後衛に回ったが、どうやら術もあまり効いていないようだ
術の詠唱をやめて剣を持ち直し、ザギに突っ込む
「はははっ!!お前が相手かっ!?」
「シアっ!ったく!!」
「うっさい、私は早くあいつ追っかけたいのよっ!虎牙破斬っ!!!!」
「蒼破追蓮っ!!」
私の技と、ユーリの技が同時にザギにあたる
「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「勝負ありよ」
「くっ………ふふふ………はははは………退いた………この俺が……退いたっ!はははっ!!お前ら強いなっ!ふははははっ!覚えたぞっ!ユーリ・ローウェル!アリシア・ラグナロクっ!!」
「…名乗った覚え、ないんだけど」
「アハハハハっ!!!殺す、殺してやるっ!お前らそこ動くなよっ!?幾重にも、幾重にも切り刻」
ドォーンッ
爆音と共にザギは海へ落ちていった
もう二度と現れて欲しくないわ…
「てか、これ沈むよ…」
はぁ…とため息をつく
本当余計なことしてくれて…
海へ逃げろっ!と、ユーリが言うとみんな海へ飛び込もうとする
ただ、肝心のユーリは何故か船室の方へ向かってしまった
「ユーリっ!!!」
「エステリーゼ駄目っ!!」
ユーリを追いかけようとしたエステルをリタが止めた
でも……と言ってなかなか飛び込もうとしない
「ユーリなら大丈夫だよ、エステル。行くよ」
無理矢理エステルを連れて海に飛び込む
少し離れたところまで行くと、船は先端を残して沈んでしまっているのが見える
「みんな!大丈夫?」
「私は……でも、ユーリが……」
ボコッ
「ひー、だいぶ飲んじまったよ…」
海の中から、ユーリが顔を出した
腕にはいかにも貴族という雰囲気の少年を抱えている
エステルはその子を見るなり、少しびっくりした顔をしている
「ヨーデル……!」
エステルが少年のものと思わしき名前を呼んだと、ほぼ同時に騎士団の船が近づいてくるのが目に入った
「どうやら平気みたいだな!!」
「うわぁ……フレン来ちゃった……」
船の上からフレンが叫んでいるのを見て思わずうなだれる
説教で終わればいいのだが……
すると、フレンもユーリが抱えている少年を見て血相を変えた
「……!ヨーデル様っ!今引き上げますっ!ソディア、手伝ってくれっ!」
(……ヨーデル……『様』……?)
「まったく!何故あんなことをしたんだっ!僕が来るのが遅かったらどうなっていたことか…っ!!」
「あー……はいはい……わかりましたよー、私が悪かったですー」
タオルで耳を塞ぎつつフレンに答える
今いるのは甲板、そこでユーリとフレンから絶賛お説教中です
もうさ、このお説教のせいで殺意とか怒りとか憎しみとかどっかいったよね…
「わかってねぇだろ?オレ、一人で先行くなって言ったのに、なーんで勝手に先進んでたわけ?」
怒り気味にユーリが問いかけてくる
「だぁって、呑気にお話してるんだもん」
タオルで濡れた髪を拭きながら、若干不機嫌気味に答える
「だってじゃないだろうっ!?ユーリから聞いたけど、僕が見たのは二度目だったんだろうっ!?」
フレンのその言葉に息がつまりかけた
えっ、ちょっ、何余計なことしてるのさ…!
「ちょっ!?ユーリ!なんで言ったの!?」
若干怒り気味にそう言うと、ユーリは呆れたように首を窄めた
「フレンの説教がお前にゃ一番効くからな」
「ユーリ……後で覚えててよね……!」
ギロっとユーリを睨みつけるが、当の本人は全く気にした様子がない
「ユーリは何も間違ったことをしてないだろう?大体アリシアは……」
くどくどとフレンの説教が始まる
時々ユーリがフレンに補足したりしてくるから、すごく面倒
聞く気なんてないから、髪拭く振りしてタオルで耳を塞ぐ
……こうやって、私やユーリに他愛のない事で説教したりとかしてくるフレンは好きなんだけどなぁ……
こんなふうに会話するのも久しぶりで、懐かしくて、ちょっと楽しくて、思わずニヤッとしてしまう
きっと楽しんでるのは私だけだろうけど…
「こーら、耳塞いでんなっての」
「あっ!!」
パッとユーリにタオルを取られてしまった
「さてと……最初から、がいいかい?」
「えっ!?なんで!?」
「聞いてないからだろ…」
「うっ……あーもう…わかったわかった、私が悪かったから…」
頭に手を付きながらうなだれる
最初からもう一度とかマジ勘弁して欲しいよ…
「じゃあもうしないと約束してくれるね?」
「………守るようには努力す」
「「こりゃもう一度だな/これはもう一度だね」」
「う、嘘っ!!約束するって!!」
本気で怒っている時の目をしてユーリとフレンが言ってくるものだから、咄嗟に言ってしまった
……守る気なんてないんだけどなぁ……
まぁそんなこと、きっとニ人はわかってるんだろうね…
…まだ続きそうだし……
ガミガミと言ってくる二人の説教が少しうるさくて、軽く手で耳を塞ぐ
そしたらまた更に怒られるなんてわかっているけど
私を怒っている時は騎士の時のフレンじゃなくなる
私が知ってる幼なじみのフレンになる
恋愛対象としたらユーリの方が好きだけど、親友という意味ではフレンの方が好きだ
そんな二人と居れる時間が一番好きなわけで
嬉しくなって、思わずニヤッとしてしまうと、何笑ってんだっ!ってまた怒られてしまう
それでも、私はこの時間が好きだから
だから二人共、ごめんね
もう少しだけ私のわがままに付き合って
もう少しだけ、トリム港に付くまででいいから
幼なじみのユーリとフレンで居て欲しい
きっとまた、騎士のフレンに戻ったら、私は冷たく当たってしまうだろうから……