第1部〜水道魔導器魔核奪還編〜
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強行突破
街につくと、またティグルさんがリブガロを狩りに行こうとケラスさんと言い合いをしていた
見兼ねたユーリはあっさりとリブガロの角を渡してしまい、カロルにぶーぶー文句を言われている
「最初からこうするつもりだったんですね」
エステルはニコニコしながらユーリに聞く
「思いつき思いつき」
と手をひらひらさせるが、彼のことだからきっと最初からそのつもりだったんだろう
「その思いつきで、献上品がなくなっちゃったわよ。どうすんの?」
「別の方法で乗り込めばいいだろ?」
リタの問にユーリはニヤッとして答える
すると、ならフレンがどうなったか確認に戻ろう、とエステルは言い出す
「とっくにラゴウの屋敷に入って、解決してるかもしれないしね」
「だといいけどな」
「フレンに会うんだったら私はパス、此処で待ってるから行ってきなよ」
そう言って近くの壁に寄りかかる
「駄目に決まってるじゃない。そんなとこいたら風邪ひくわよ」
「じゃあ百歩譲って部屋の前まで。それ以上は嫌よ」
「アリシアはフレンが嫌いなんですか?」
少し心配そうにエステルは尋ねてくる
まぁ、フレンお気に入りみたいだし、誰かから嫌われてるの嫌なんだろうけどさ…
「彼自身は嫌いじゃないよ、でも、騎士としての彼は嫌いかな。法に取り憑かれすぎだもの」
エステルに顔を向けずに淡々と伝える
「そう……ですか」
「心配すんなよエステル、今に始まったことじゃねぇからフレンは慣れてるさ」
すかさずユーリがフォローに入ってくる
とりあえず、宿屋に入って部屋の前まで行く
「じゃ、待ってるから」
「おう」
ガチャっと、ノックせずにユーリはまた扉を開け中へ入っていく
エステル達も中に入ったところで聞き耳を立てる
どうやら執政官にあっさりと弾き飛ばされたみたいだ
(結局そんなもんよね)
ふーっと息をはく
「なんだとっ!?」
「……?」
突然女性の叫ぶ声が聞こえたが、ユーリとフレンの会話からして、自身あるなら乗り込めと言った執政官にユーリが同調したのが原因だろう
その程度で怒るとか……
最近の騎士は気性が荒いなぁ……
「ラゴウ執政官も評議会の人間なんです?」
「ええ……騎士団も評議会も帝国を支える重要な組織です。なのに、ラゴウはそれを忘れている」
「………」
飽きれた、ラゴウだけなわけが無いのに
評議会の半分以上がそうだ
だから法が変わらない
ユーリに次の手考えてあんのか?と聞かれ、フレンは黙ってしまう
このままじゃ埒が明かない
ただ一言、中で騒ぎを起こしてきてくれって言えばいいだけなのに
はぁ……とため息をついてドアノブに手をかける
会うのは気が引けるが仕方ない
ガチャっと扉を開け、中に入る
「中で騒ぎでも起きたら、騎士団の有事特権で強行突破できるけどね」
「シア?」
「っ!?アリシアっ!!!」
突然私が入って来たことにユーリ達は驚いているが、フレンは恐らく別の意味で叫んだんだろう
「つまり、ドロボウが入るか中でボヤ騒ぎが起きさえすればいいのよ」
「アリシア……!それ以上は…!!」
フレンが静止するように名前を呼んでくるが、そんなこと気にもとめずに私は言葉を続ける
「ま、私的には評議会の腐った連中なんてどうでもいいし、一般人を魔物と戦わせて楽しんでる奴なんて、死んでしまってもいいって思うけど?」
「アリシアっ!それは……っ!」
「駄目だって言うんでしょう?でも、彼らだって直接手を下してなくても人殺しているのと変わらないのよ」
フレンの方は向かずに淡々と告げていく
実際そうなのだ
何人もの市民を彼は魔物を使って殺しているのだ
それは人殺しと同じでしょう?
エステルは私とフレンを見て慌て、カロルは唖然とし、リタとユーリはただただ黙って聞いている
「…まさか……君は、まだ……」
「忘れるわけがないでしょ?私の両親はね…帝国の人間が殺したも同然なのよ。助けられたはずなのに、評議会も騎士団も誰一人動こうとなんてしなかった。騎士団長が……お兄様は私だけを連れていこうとした時、まだお父様達は動けていたのよ?それをいい事に魔物を引きつける餌同然にあいつらは扱ったのよっ!?
……それで?私には助かって良かったです?ふざけるのも大概にしてよ!誰のせいであんなことになったかなんて、あいつらが一番よく知ってることよ!」
溜め込んだ怒りが爆発する
抑えきれる筈がない
『まだ』?何を言ってるの?私は一生あいつらを、帝国を許さない
貴族も、あの時、あの場にいた騎士も
全員殺してしまいたいくらいに私の中の闇は大きい
「…っ!だとしてもだっ!アリシア……っ!」
「別に手を下すつもりなんてないわよ。ただ、ちょっと派手にやって死んでしまったっていいって思ってるだけよ
ラゴウだって『あの場』にいたんだから、あいつだって私の両親を殺したも同然なのよ」
「そんな…っ!!」
今まで黙っていたエステルが口を開く
相当驚いたのだろう
チラリとフレンの方を見ると、小柄な魔道師らしき男の子と、フレンと同じ隊服を着た女性がいる
二人共口元を隠して驚いている
「…シア、フレンに言ったって仕方ねぇよ」
私を宥めるようにユーリは声をかけてくる
「…わかってるよ、でも覚えておいた方がいいよ。綺麗事だけじゃ、帝国は変わらない。誰かが裏で汚いことしなきゃ、本当に正しいことをしたってねじ曲げられてしまうんだから」
フレンが悪くないだなんて、私が一番よくわかっている
それでも、現実はフレンが考えているほど、甘くないんだ
甘ったるい考えなフレンを見ていると、どうしてもイライラしてしまうんだ
「…………」
「……それとフレン、悪いけれど私は一生かかっても評議会も騎士団も許すことは出来ない。例え法が変わったとしても、人が変わったとしても…一生、許すことは出来ない」
それだけ言って部屋を出る
ユーリも後から続いて出てきた
「ったく、フレンに八つ当たりすんなっての」
軽く小突きながらそう言ってくる
「…事実だもん、あいつらは自分が同じ状況にならなきゃわからないよ」
相変わらず冷めた声で告げる
そう、変わらないのだ
いつまでたっても、あいつらは改心しないだろう
その結果がこれなのだから
「ま、それもそうだな」
「二人共っ!待ってよ!」
カロル達が後ろから追いかけてくる
「アリシア、あんた大丈夫なの?」
追いついたリタは少し心配そうに聞いてくる
「…大丈夫、あいつの家で派手に暴れて憂さ晴らしするから」
背を向けたまま言う
今は誰にも顔を見せたくなかった
「えっと……とりあえず、執政官邸まで行きましょう?」
「だな。行くとすっか」
そう言ってユーリは私の手を引いて歩き出した
執政官邸の前へつくと、少し影になったところへと身を隠した
「ほんとにおっきな屋敷だよね…そんなに評議会のお役人って偉いの?」
「評議会は皇帝を政治面で補佐する機関であり、貴族の有力者により構成されている、です」
エステルが言った言葉をあまり理解出来ていないようでカロルは『?』と首を傾げている
「簡単に言えば皇帝の代理人よ」
と、リタが補足する
「へぇ、そうなんだ」
「どうやって入るの?」
「裏口からはどうです?」
「残念、外壁に囲まれてるからあそこしか入り口はないのよ」
突然後ろから声が聞こえ、振り向くと見知らぬ男が立っていた
が、どこかで見たことがあるようなきがする
「よっ、また会ったわね、青年」
「ユーリ、知り合い?」
「あー?誰だったかな?」
「そりゃないわよ…牢獄で助けてあげたじゃないユーリ・ローウェル君よぉ」
「あん?名乗ってなかった筈だが?」
見知らぬ男はピラっとユーリの指名手配書を出した
あぁ、それでユーリの名前知ったのね
「あの屋敷に用があんなら、おっさん手伝ってあげるけ」
「気持ちだけで結構、アテはあるから」
ユーリが答える前に言う
するとみんな不思議そうな顔をして私を見る
「なんか秘策でもあんのか?」
「まぁ見ててよ?」
ニヤっと不敵な笑みを浮かべて橋の近くへ行く
エステルが心配そうにこちらを見つめてくる
「あぁ?なんの用だっ!」
門の近くにいた傭兵に気付かれたが好都合だ
「あなた達に恨みはないけど……邪魔だからさ
………………ごめんね?」
ニッコリと笑って指をパチンッと、鳴らせば先ほどドサクサに紛れて仕掛けた仕掛けが作動し、爆音とともに傭兵は吹っ飛ばされ当たりは煙で覆われる
「さ、今のうちにさっさと行こう?」
「おいおい…なんちゅうもん仕掛けてんだよ…」
「暴れるなら派手な方がいいじゃない?」
ニコッと笑って見せれば、困ったようにユーリも笑う
「行くなら行きましょうよ」
リタに促され私達は屋敷の中へと飛び込んだ
「先に証拠の確認がしてぇ、正面じゃなくて裏から行こうぜっ!」
ユーリの言葉に賛同し正面玄関を無視して裏手へ回るが、そこには二台の昇降機が置いてあるだけだった
「これ…両方上に行くのでしょうか?」
「よっと!ゴメンね、お嬢ちゃん」
先ほどの男が片方の昇降機に飛び乗り、勝手に行ってしまった
「あっ!さっきの胡散臭い人勝手に乗ってっちゃったよ…」
はぁ…とため息をつく
「アリシア!早く乗んなさいよ!」
リタに呼ばれる急いで昇降機に乗る
が、
「「「「「え??」」」」」
上に行くと思ったが何故か下へ降りてしまった………
「ダメね…全く動きそうにないわ」
「やっぱり駄目?」
「ええ……あいつ…!次会ったらただじゃおかないわっ!」
「うっ……!」
「なんか……臭いね、ここ……」
あの男のせいで私達は屋敷の地下へ来てしまった
そこは何かものすごく異臭が漂っている
「……血と、あとはなんだ?何かが腐った臭いだな」
「………ふーん、そうゆうカラクリ、ね。ラゴウ執政官殿はどうも、人を痛めつけるのが大好きみたいよ」
剣を鞘から抜きながら言う
すると、暗がりの中から2体の魔物が出てきた
「魔物を飼う趣味でもあんのかね?」
「かもね、リブガロも飼ってたし」
そんなことを言ってると何処からか助けを求める声が聞こえてきた
「……それだけならいいけどね……」
ボソッと呟いて目の前魔物を瞬殺する
「さ、声のした方へ行こう」
剣についた魔物の血を振り払いながら言う
「えぇ、行きましょう!」
そうして、声の聞こえた方向へみんなで駆け出した
少し進むと少し開けた場所に出た
あたりには恐らく人のものであろう骨や、『人だった』であろう肉片が散乱していた
「うぅ……ひっく……パパ……ママ……」
部屋の隅の方に丸くなって泣いている子供がいた
エステルがすぐに駆け寄って話を聞くと、どうやら両親が税金を払えないからと連れてこられたようだ
「じゃあ……ここの人達ってみんな……!」
「………」
「パパ……ママ……帰りたいよ……」
「もう大丈夫だからね?お名前は?」
エステルが優しく聞くと「ポリー」と男の子は答えた
「ポリー、男ならめそめそ泣くな、すぐに父ちゃんと母ちゃんに会わせてやっから」
ユーリがその子の傍に行ってしゃがみ優しく言う
本当、子供にはすごく優しいのに…
ふっとため息をついてあたりに落ちている骨を見る
ここの異臭の原因は血と………死んだ人が腐ったもの……
そう考えるだけでラゴウに虫唾が走る
「………フレン、悪いけれどもう手加減は出来ないよ」
誰にも聞こえないように、ここにいるはずのない彼に向かって呟く
自然と剣を握る手に力が入る
ここまで酷いことをしておいて、逃がすなんて絶対にさせない
……いや、絶対に、逃がさない
ポリーを連れて進んで行くと大きな鉄格子で分断された部屋へと辿り着いた
どうやって出ようかと考えていると、反対側から誰かが近づいているのが見える
「っ!!!」
「はて?おいしそうな餌が増えているじゃないですか」
それはまさしく、ラゴウだった
「あんたがラゴウさん?随分胸糞悪い趣味をお持ちだな?」
「これは私のような高雅な者にしか理解出来ない楽しみなのですよ。ひょう」
ガッシャァァァァァンッ!!!!
「「「「っ!?!!」」」」
ラゴウが喋っているのにも関わらず、鉄格子を思い切り叩き斬る
「な、なななっ!?」
「楽しみ?はっ、ふざけるの大概にしてよね、ラゴウ」
腕に少し痛みを感じたが今はそんなことどうでもいい
ラゴウの目の前に剣を突きつける
「あ、ああ…っ!あなた様は…っ!!」
「何?今更媚でも売るつもりなの?だったら残念、私は貴族という地位も評議会議員という特権も全部捨てた。あんたらに両親を殺されたあの日から、私はもう貴族じゃない」
怯えたようにラゴウは後退してくがそんなこと知ったことじゃない
「人の命を弄んでおいて『楽しみ』?いつからあんたは神様にでもなったつもりなの?ここに住んでる市民はあんたのおかげで生まれてきてるわけでも、あんたの為に生まれてきてるのでもないのよ?」
蔑んだ声で、ラゴウを見下ろしながら、ただ、淡々と言葉を繋げていく
「わ、わわ…っ!私は決してそのようなことは…っ!」
「へぇ?税金あげて、払えないと無理矢理連れてこさせて魔物の『餌』?ふざけるのも大概にしようか?……帝国の法が許そうが、評議会が許そうが、騎士団が許そうが、私はあんたを許さない。一生、何があっても絶対に」
そう言って剣を振り上げる
止める声が聞こえてきたがそんなもの耳に入ってこない
勢いよく振りかざした……が、寸前のところで駆けつけた傭兵によってラゴウは後ろへひっぱられてしまった
だが、避けきれなかったようで彼の腕を軽く切り裂いた
「くっ………!!!お、お前達っ!!奴らを捕らえなさいっ!」
そう言ってラゴウはそそくさと逃げ出す
「っ!逃がすわけないでしょ…っ!」
周りにいた傭兵を全てぶっ飛ばして、私は一人、ラゴウの後を追いかけた
「あー!もうっ!あのキモオヤジっ!どこに行ったっ!?」
流石に広い屋敷なだけあって何処に行ったか検討がつかない
キョロキョロとあたりを見回していると不意に後ろから肩を掴まれて、思わず剣を振ってしまったが、当の本人に当たる前に弾かれた
「おっとっ!?…っ!危ねぇっての!」
「ユー……リ………?」
ポカーンとしていると結構強い力で頭を叩かれた
「いっ…!?」
「ったく、何してんだよ!鉄格子ぶっ飛ばすわ、ラゴウに剣向けるわ、振り下ろすわ…!おまけに人の話を聞かずに飛び出すわ、あっちゃこっちゃ怪我してるわ…っ!!!!」
ガシッと両肩を掴まれて怒鳴られる
言われてから気付いたが、腕以外に足やら頬やらにも少し痛みを感じた
「ありゃりゃ、案外怪我してたのね」
頬を血が伝う感覚がして、手の甲で拭う
怒りが痛みを凌駕してるのか全く気にならなかった
「マジで頼むから…無茶しねぇでくれよ…」
はぁ…と息を吐きながら抱きしめてくる
いつもなら『ごめんね』と素直に謝るのだが、今はそんな気にはなれなかった
「…エステル達まだ来てねぇから聞くけど、さっき…本気でラゴウ殺す気だったか?」
少し遠慮気味だけど、はっきりした声で聞いてくる
「…うん、その気だった。というか、今もそうだよ」
冷たいかもしれないが淡々と言う
怒りがおさまらない以上、彼に優しく出来そうにない
「…シア…」
「法では裁けないんだもの、それでもどっからどう見てもあいつは悪人よ
なら、どう裁けばいいの?あーゆーバカは死ななきゃ直らないのよ」
「何もシアがやる必要はねぇだろ?」
少し抱きしめてくる腕に力が入ったのがわかった
ユーリはもしかしたら怖いのかもしれない
私が罪人になることが
ユーリと同じく、ううん、ユーリ以上の罪を犯すことが
「そうだね…でも、私はそうしたいって思ったから剣を突きつけた」
憎かった、人の命を道具のように扱うあいつが
重なってしまう、生き残ったポリーがあの時の私に
「…本気でその気ならオレも一緒に背負ってやるさ」
不意に言われた言葉に耳を疑う
そんな返答がくるとは思ってなかった
「だから一人で抱えんのなしな?」
苦笑いしながらそう言ってくる彼の真意はわからない
少なくとも、その言葉で少しだが私の心が落ち着くような感覚がしたのは事実だ
…が、それでも、私は…
「…ん」
短く答えれば頭を優しく撫でてくる
怒りの火種はまだ消えそうにない
だからごめんね、まだしばらくは機嫌悪いままかな
「ユーリっ!!アリシア見つかった!?」
後ろからカロルの声が聞こえると、ユーリは私から少し離れた
「おう、見つけたぜ」
「もうっ!あんたはっ!ムカつくのはわかるけどだからってあんな無茶する必要ないでしょっ!?」
私を見るなり、リタはすっ飛んできた
バチンッと頬を叩かれたのには本気でびっくりした
いつものリタなら絶対にしない行動に頭が追いつかない
「ちょっとは頭冷えた?」
ムスッとしながら言ってくる
頭冷やさせるにも他に方法があったでしょ…と心の中で悪態をついたが、リタのおかげでだいぶ冷静にはなった
「……おかげさまで」
苦笑いしながらそう言う
すると、今まで気にならなかった体の傷みが急に襲ってきて思わずバランスが崩れる
「おいおい…大丈夫かよ」
そう言いながらユーリは私を支えてくれる
「うーん……もしかして結構重症?めっちゃ痛い」
「はぁ…今更かよ…」
「アリシア、今治しますね」
エステルも近くに来ていて、私に治癒術をかけた
『あぁ……また使ってるよ……始祖の隷長が怒り出さなきゃいいけど……』
ふと、星の、リゲルの声がした
(もうそんな時間?)
『ううん、ただこの辺がずっと雨でやけに暗いから聞こえるんじゃない?』
そう言ってる彼の声は少し不安そうだ
「アリシア、終わりましたよ」
「……ありがとう、エステル」
ニコッ笑ってお礼を言ったつもりなのだが、笑えていただろうか
「さ、さっさと証拠見つけて大暴れするとしますかね」
「ん、そうだね」
ユーリから少し離れてそう言うと、彼を先頭に更に奥へと進み出した
「……」
私はエステルの後ろ姿を見つめたまま、その場に立ち止まっていた
『あー!やばいよ、やばいよ!!竜使いが向かってるよ!!アリシア、気をつけて!あのドラゴン、まだ未熟だけど始祖の隷長だよ!』
「……エステルに反応したか……あるいはここに彼女の仇の魔導器があるか……ってことね…」
ボソッと呟く
もし、エステルが『彼ら』にとって邪魔な存在だとしたら
私は………どちらにつけばいいのだろうか…
『アリシア……』
「…リゲル、心配しないで、私は大丈夫。もう行くね」
見えない影にそう言ってユーリ達を小走りで追いかけた
街につくと、またティグルさんがリブガロを狩りに行こうとケラスさんと言い合いをしていた
見兼ねたユーリはあっさりとリブガロの角を渡してしまい、カロルにぶーぶー文句を言われている
「最初からこうするつもりだったんですね」
エステルはニコニコしながらユーリに聞く
「思いつき思いつき」
と手をひらひらさせるが、彼のことだからきっと最初からそのつもりだったんだろう
「その思いつきで、献上品がなくなっちゃったわよ。どうすんの?」
「別の方法で乗り込めばいいだろ?」
リタの問にユーリはニヤッとして答える
すると、ならフレンがどうなったか確認に戻ろう、とエステルは言い出す
「とっくにラゴウの屋敷に入って、解決してるかもしれないしね」
「だといいけどな」
「フレンに会うんだったら私はパス、此処で待ってるから行ってきなよ」
そう言って近くの壁に寄りかかる
「駄目に決まってるじゃない。そんなとこいたら風邪ひくわよ」
「じゃあ百歩譲って部屋の前まで。それ以上は嫌よ」
「アリシアはフレンが嫌いなんですか?」
少し心配そうにエステルは尋ねてくる
まぁ、フレンお気に入りみたいだし、誰かから嫌われてるの嫌なんだろうけどさ…
「彼自身は嫌いじゃないよ、でも、騎士としての彼は嫌いかな。法に取り憑かれすぎだもの」
エステルに顔を向けずに淡々と伝える
「そう……ですか」
「心配すんなよエステル、今に始まったことじゃねぇからフレンは慣れてるさ」
すかさずユーリがフォローに入ってくる
とりあえず、宿屋に入って部屋の前まで行く
「じゃ、待ってるから」
「おう」
ガチャっと、ノックせずにユーリはまた扉を開け中へ入っていく
エステル達も中に入ったところで聞き耳を立てる
どうやら執政官にあっさりと弾き飛ばされたみたいだ
(結局そんなもんよね)
ふーっと息をはく
「なんだとっ!?」
「……?」
突然女性の叫ぶ声が聞こえたが、ユーリとフレンの会話からして、自身あるなら乗り込めと言った執政官にユーリが同調したのが原因だろう
その程度で怒るとか……
最近の騎士は気性が荒いなぁ……
「ラゴウ執政官も評議会の人間なんです?」
「ええ……騎士団も評議会も帝国を支える重要な組織です。なのに、ラゴウはそれを忘れている」
「………」
飽きれた、ラゴウだけなわけが無いのに
評議会の半分以上がそうだ
だから法が変わらない
ユーリに次の手考えてあんのか?と聞かれ、フレンは黙ってしまう
このままじゃ埒が明かない
ただ一言、中で騒ぎを起こしてきてくれって言えばいいだけなのに
はぁ……とため息をついてドアノブに手をかける
会うのは気が引けるが仕方ない
ガチャっと扉を開け、中に入る
「中で騒ぎでも起きたら、騎士団の有事特権で強行突破できるけどね」
「シア?」
「っ!?アリシアっ!!!」
突然私が入って来たことにユーリ達は驚いているが、フレンは恐らく別の意味で叫んだんだろう
「つまり、ドロボウが入るか中でボヤ騒ぎが起きさえすればいいのよ」
「アリシア……!それ以上は…!!」
フレンが静止するように名前を呼んでくるが、そんなこと気にもとめずに私は言葉を続ける
「ま、私的には評議会の腐った連中なんてどうでもいいし、一般人を魔物と戦わせて楽しんでる奴なんて、死んでしまってもいいって思うけど?」
「アリシアっ!それは……っ!」
「駄目だって言うんでしょう?でも、彼らだって直接手を下してなくても人殺しているのと変わらないのよ」
フレンの方は向かずに淡々と告げていく
実際そうなのだ
何人もの市民を彼は魔物を使って殺しているのだ
それは人殺しと同じでしょう?
エステルは私とフレンを見て慌て、カロルは唖然とし、リタとユーリはただただ黙って聞いている
「…まさか……君は、まだ……」
「忘れるわけがないでしょ?私の両親はね…帝国の人間が殺したも同然なのよ。助けられたはずなのに、評議会も騎士団も誰一人動こうとなんてしなかった。騎士団長が……お兄様は私だけを連れていこうとした時、まだお父様達は動けていたのよ?それをいい事に魔物を引きつける餌同然にあいつらは扱ったのよっ!?
……それで?私には助かって良かったです?ふざけるのも大概にしてよ!誰のせいであんなことになったかなんて、あいつらが一番よく知ってることよ!」
溜め込んだ怒りが爆発する
抑えきれる筈がない
『まだ』?何を言ってるの?私は一生あいつらを、帝国を許さない
貴族も、あの時、あの場にいた騎士も
全員殺してしまいたいくらいに私の中の闇は大きい
「…っ!だとしてもだっ!アリシア……っ!」
「別に手を下すつもりなんてないわよ。ただ、ちょっと派手にやって死んでしまったっていいって思ってるだけよ
ラゴウだって『あの場』にいたんだから、あいつだって私の両親を殺したも同然なのよ」
「そんな…っ!!」
今まで黙っていたエステルが口を開く
相当驚いたのだろう
チラリとフレンの方を見ると、小柄な魔道師らしき男の子と、フレンと同じ隊服を着た女性がいる
二人共口元を隠して驚いている
「…シア、フレンに言ったって仕方ねぇよ」
私を宥めるようにユーリは声をかけてくる
「…わかってるよ、でも覚えておいた方がいいよ。綺麗事だけじゃ、帝国は変わらない。誰かが裏で汚いことしなきゃ、本当に正しいことをしたってねじ曲げられてしまうんだから」
フレンが悪くないだなんて、私が一番よくわかっている
それでも、現実はフレンが考えているほど、甘くないんだ
甘ったるい考えなフレンを見ていると、どうしてもイライラしてしまうんだ
「…………」
「……それとフレン、悪いけれど私は一生かかっても評議会も騎士団も許すことは出来ない。例え法が変わったとしても、人が変わったとしても…一生、許すことは出来ない」
それだけ言って部屋を出る
ユーリも後から続いて出てきた
「ったく、フレンに八つ当たりすんなっての」
軽く小突きながらそう言ってくる
「…事実だもん、あいつらは自分が同じ状況にならなきゃわからないよ」
相変わらず冷めた声で告げる
そう、変わらないのだ
いつまでたっても、あいつらは改心しないだろう
その結果がこれなのだから
「ま、それもそうだな」
「二人共っ!待ってよ!」
カロル達が後ろから追いかけてくる
「アリシア、あんた大丈夫なの?」
追いついたリタは少し心配そうに聞いてくる
「…大丈夫、あいつの家で派手に暴れて憂さ晴らしするから」
背を向けたまま言う
今は誰にも顔を見せたくなかった
「えっと……とりあえず、執政官邸まで行きましょう?」
「だな。行くとすっか」
そう言ってユーリは私の手を引いて歩き出した
執政官邸の前へつくと、少し影になったところへと身を隠した
「ほんとにおっきな屋敷だよね…そんなに評議会のお役人って偉いの?」
「評議会は皇帝を政治面で補佐する機関であり、貴族の有力者により構成されている、です」
エステルが言った言葉をあまり理解出来ていないようでカロルは『?』と首を傾げている
「簡単に言えば皇帝の代理人よ」
と、リタが補足する
「へぇ、そうなんだ」
「どうやって入るの?」
「裏口からはどうです?」
「残念、外壁に囲まれてるからあそこしか入り口はないのよ」
突然後ろから声が聞こえ、振り向くと見知らぬ男が立っていた
が、どこかで見たことがあるようなきがする
「よっ、また会ったわね、青年」
「ユーリ、知り合い?」
「あー?誰だったかな?」
「そりゃないわよ…牢獄で助けてあげたじゃないユーリ・ローウェル君よぉ」
「あん?名乗ってなかった筈だが?」
見知らぬ男はピラっとユーリの指名手配書を出した
あぁ、それでユーリの名前知ったのね
「あの屋敷に用があんなら、おっさん手伝ってあげるけ」
「気持ちだけで結構、アテはあるから」
ユーリが答える前に言う
するとみんな不思議そうな顔をして私を見る
「なんか秘策でもあんのか?」
「まぁ見ててよ?」
ニヤっと不敵な笑みを浮かべて橋の近くへ行く
エステルが心配そうにこちらを見つめてくる
「あぁ?なんの用だっ!」
門の近くにいた傭兵に気付かれたが好都合だ
「あなた達に恨みはないけど……邪魔だからさ
………………ごめんね?」
ニッコリと笑って指をパチンッと、鳴らせば先ほどドサクサに紛れて仕掛けた仕掛けが作動し、爆音とともに傭兵は吹っ飛ばされ当たりは煙で覆われる
「さ、今のうちにさっさと行こう?」
「おいおい…なんちゅうもん仕掛けてんだよ…」
「暴れるなら派手な方がいいじゃない?」
ニコッと笑って見せれば、困ったようにユーリも笑う
「行くなら行きましょうよ」
リタに促され私達は屋敷の中へと飛び込んだ
「先に証拠の確認がしてぇ、正面じゃなくて裏から行こうぜっ!」
ユーリの言葉に賛同し正面玄関を無視して裏手へ回るが、そこには二台の昇降機が置いてあるだけだった
「これ…両方上に行くのでしょうか?」
「よっと!ゴメンね、お嬢ちゃん」
先ほどの男が片方の昇降機に飛び乗り、勝手に行ってしまった
「あっ!さっきの胡散臭い人勝手に乗ってっちゃったよ…」
はぁ…とため息をつく
「アリシア!早く乗んなさいよ!」
リタに呼ばれる急いで昇降機に乗る
が、
「「「「「え??」」」」」
上に行くと思ったが何故か下へ降りてしまった………
「ダメね…全く動きそうにないわ」
「やっぱり駄目?」
「ええ……あいつ…!次会ったらただじゃおかないわっ!」
「うっ……!」
「なんか……臭いね、ここ……」
あの男のせいで私達は屋敷の地下へ来てしまった
そこは何かものすごく異臭が漂っている
「……血と、あとはなんだ?何かが腐った臭いだな」
「………ふーん、そうゆうカラクリ、ね。ラゴウ執政官殿はどうも、人を痛めつけるのが大好きみたいよ」
剣を鞘から抜きながら言う
すると、暗がりの中から2体の魔物が出てきた
「魔物を飼う趣味でもあんのかね?」
「かもね、リブガロも飼ってたし」
そんなことを言ってると何処からか助けを求める声が聞こえてきた
「……それだけならいいけどね……」
ボソッと呟いて目の前魔物を瞬殺する
「さ、声のした方へ行こう」
剣についた魔物の血を振り払いながら言う
「えぇ、行きましょう!」
そうして、声の聞こえた方向へみんなで駆け出した
少し進むと少し開けた場所に出た
あたりには恐らく人のものであろう骨や、『人だった』であろう肉片が散乱していた
「うぅ……ひっく……パパ……ママ……」
部屋の隅の方に丸くなって泣いている子供がいた
エステルがすぐに駆け寄って話を聞くと、どうやら両親が税金を払えないからと連れてこられたようだ
「じゃあ……ここの人達ってみんな……!」
「………」
「パパ……ママ……帰りたいよ……」
「もう大丈夫だからね?お名前は?」
エステルが優しく聞くと「ポリー」と男の子は答えた
「ポリー、男ならめそめそ泣くな、すぐに父ちゃんと母ちゃんに会わせてやっから」
ユーリがその子の傍に行ってしゃがみ優しく言う
本当、子供にはすごく優しいのに…
ふっとため息をついてあたりに落ちている骨を見る
ここの異臭の原因は血と………死んだ人が腐ったもの……
そう考えるだけでラゴウに虫唾が走る
「………フレン、悪いけれどもう手加減は出来ないよ」
誰にも聞こえないように、ここにいるはずのない彼に向かって呟く
自然と剣を握る手に力が入る
ここまで酷いことをしておいて、逃がすなんて絶対にさせない
……いや、絶対に、逃がさない
ポリーを連れて進んで行くと大きな鉄格子で分断された部屋へと辿り着いた
どうやって出ようかと考えていると、反対側から誰かが近づいているのが見える
「っ!!!」
「はて?おいしそうな餌が増えているじゃないですか」
それはまさしく、ラゴウだった
「あんたがラゴウさん?随分胸糞悪い趣味をお持ちだな?」
「これは私のような高雅な者にしか理解出来ない楽しみなのですよ。ひょう」
ガッシャァァァァァンッ!!!!
「「「「っ!?!!」」」」
ラゴウが喋っているのにも関わらず、鉄格子を思い切り叩き斬る
「な、なななっ!?」
「楽しみ?はっ、ふざけるの大概にしてよね、ラゴウ」
腕に少し痛みを感じたが今はそんなことどうでもいい
ラゴウの目の前に剣を突きつける
「あ、ああ…っ!あなた様は…っ!!」
「何?今更媚でも売るつもりなの?だったら残念、私は貴族という地位も評議会議員という特権も全部捨てた。あんたらに両親を殺されたあの日から、私はもう貴族じゃない」
怯えたようにラゴウは後退してくがそんなこと知ったことじゃない
「人の命を弄んでおいて『楽しみ』?いつからあんたは神様にでもなったつもりなの?ここに住んでる市民はあんたのおかげで生まれてきてるわけでも、あんたの為に生まれてきてるのでもないのよ?」
蔑んだ声で、ラゴウを見下ろしながら、ただ、淡々と言葉を繋げていく
「わ、わわ…っ!私は決してそのようなことは…っ!」
「へぇ?税金あげて、払えないと無理矢理連れてこさせて魔物の『餌』?ふざけるのも大概にしようか?……帝国の法が許そうが、評議会が許そうが、騎士団が許そうが、私はあんたを許さない。一生、何があっても絶対に」
そう言って剣を振り上げる
止める声が聞こえてきたがそんなもの耳に入ってこない
勢いよく振りかざした……が、寸前のところで駆けつけた傭兵によってラゴウは後ろへひっぱられてしまった
だが、避けきれなかったようで彼の腕を軽く切り裂いた
「くっ………!!!お、お前達っ!!奴らを捕らえなさいっ!」
そう言ってラゴウはそそくさと逃げ出す
「っ!逃がすわけないでしょ…っ!」
周りにいた傭兵を全てぶっ飛ばして、私は一人、ラゴウの後を追いかけた
「あー!もうっ!あのキモオヤジっ!どこに行ったっ!?」
流石に広い屋敷なだけあって何処に行ったか検討がつかない
キョロキョロとあたりを見回していると不意に後ろから肩を掴まれて、思わず剣を振ってしまったが、当の本人に当たる前に弾かれた
「おっとっ!?…っ!危ねぇっての!」
「ユー……リ………?」
ポカーンとしていると結構強い力で頭を叩かれた
「いっ…!?」
「ったく、何してんだよ!鉄格子ぶっ飛ばすわ、ラゴウに剣向けるわ、振り下ろすわ…!おまけに人の話を聞かずに飛び出すわ、あっちゃこっちゃ怪我してるわ…っ!!!!」
ガシッと両肩を掴まれて怒鳴られる
言われてから気付いたが、腕以外に足やら頬やらにも少し痛みを感じた
「ありゃりゃ、案外怪我してたのね」
頬を血が伝う感覚がして、手の甲で拭う
怒りが痛みを凌駕してるのか全く気にならなかった
「マジで頼むから…無茶しねぇでくれよ…」
はぁ…と息を吐きながら抱きしめてくる
いつもなら『ごめんね』と素直に謝るのだが、今はそんな気にはなれなかった
「…エステル達まだ来てねぇから聞くけど、さっき…本気でラゴウ殺す気だったか?」
少し遠慮気味だけど、はっきりした声で聞いてくる
「…うん、その気だった。というか、今もそうだよ」
冷たいかもしれないが淡々と言う
怒りがおさまらない以上、彼に優しく出来そうにない
「…シア…」
「法では裁けないんだもの、それでもどっからどう見てもあいつは悪人よ
なら、どう裁けばいいの?あーゆーバカは死ななきゃ直らないのよ」
「何もシアがやる必要はねぇだろ?」
少し抱きしめてくる腕に力が入ったのがわかった
ユーリはもしかしたら怖いのかもしれない
私が罪人になることが
ユーリと同じく、ううん、ユーリ以上の罪を犯すことが
「そうだね…でも、私はそうしたいって思ったから剣を突きつけた」
憎かった、人の命を道具のように扱うあいつが
重なってしまう、生き残ったポリーがあの時の私に
「…本気でその気ならオレも一緒に背負ってやるさ」
不意に言われた言葉に耳を疑う
そんな返答がくるとは思ってなかった
「だから一人で抱えんのなしな?」
苦笑いしながらそう言ってくる彼の真意はわからない
少なくとも、その言葉で少しだが私の心が落ち着くような感覚がしたのは事実だ
…が、それでも、私は…
「…ん」
短く答えれば頭を優しく撫でてくる
怒りの火種はまだ消えそうにない
だからごめんね、まだしばらくは機嫌悪いままかな
「ユーリっ!!アリシア見つかった!?」
後ろからカロルの声が聞こえると、ユーリは私から少し離れた
「おう、見つけたぜ」
「もうっ!あんたはっ!ムカつくのはわかるけどだからってあんな無茶する必要ないでしょっ!?」
私を見るなり、リタはすっ飛んできた
バチンッと頬を叩かれたのには本気でびっくりした
いつものリタなら絶対にしない行動に頭が追いつかない
「ちょっとは頭冷えた?」
ムスッとしながら言ってくる
頭冷やさせるにも他に方法があったでしょ…と心の中で悪態をついたが、リタのおかげでだいぶ冷静にはなった
「……おかげさまで」
苦笑いしながらそう言う
すると、今まで気にならなかった体の傷みが急に襲ってきて思わずバランスが崩れる
「おいおい…大丈夫かよ」
そう言いながらユーリは私を支えてくれる
「うーん……もしかして結構重症?めっちゃ痛い」
「はぁ…今更かよ…」
「アリシア、今治しますね」
エステルも近くに来ていて、私に治癒術をかけた
『あぁ……また使ってるよ……始祖の隷長が怒り出さなきゃいいけど……』
ふと、星の、リゲルの声がした
(もうそんな時間?)
『ううん、ただこの辺がずっと雨でやけに暗いから聞こえるんじゃない?』
そう言ってる彼の声は少し不安そうだ
「アリシア、終わりましたよ」
「……ありがとう、エステル」
ニコッ笑ってお礼を言ったつもりなのだが、笑えていただろうか
「さ、さっさと証拠見つけて大暴れするとしますかね」
「ん、そうだね」
ユーリから少し離れてそう言うと、彼を先頭に更に奥へと進み出した
「……」
私はエステルの後ろ姿を見つめたまま、その場に立ち止まっていた
『あー!やばいよ、やばいよ!!竜使いが向かってるよ!!アリシア、気をつけて!あのドラゴン、まだ未熟だけど始祖の隷長だよ!』
「……エステルに反応したか……あるいはここに彼女の仇の魔導器があるか……ってことね…」
ボソッと呟く
もし、エステルが『彼ら』にとって邪魔な存在だとしたら
私は………どちらにつけばいいのだろうか…
『アリシア……』
「…リゲル、心配しないで、私は大丈夫。もう行くね」
見えない影にそう言ってユーリ達を小走りで追いかけた