第1部〜水道魔導器魔核奪還編〜
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不穏な街とリブガロ
カロルが言った通り、道なりに進んでいくとようやく目的のカプア・ノールが見えてきた
街につくなり、エステルは不思議そうに首をかしげた
「なんか…思っていた雰囲気と全然違います…」
「だな。港町って言うくらいだからもっと華やかなもんだとおもっていたんだがな」
ユーリも周りを見回しながら言う
空は黒い雲が広がり雨も降っているし、全く人影がないからそう思うのも当然だろう
「でもあんたの探している泥棒が居そうな雰囲気よ?」
「デデッキが向かったのはトリム港の方だろ?」
どっちも変わらないでしょ、と言うリタにカロルがそんなことない、と反論する
「ノール港の方が厄介なだけだよ」
「どうゆうことです?」
エステルの問に答えようとするが、どこからか揉めている声が聞こえた
声の聞こえた方を見ると、役人と市民が何やら話していた
どうやら税金を払えていないらしく、子供を連れて行かれてしまったようだ
役人はリブガロという魔物の角を持ってこいと言うだけ言って立ち去ってしまった
その様子を見て、ユーリは顔をしかめた
「今のがその厄介事か?」
「そ、このノール港は帝国からの圧力が強いらしくってね。特に、最近来た執政官はかなーりお偉いさんみたいでね、やりたい放題なんだってさ。ついこの前仕事で来た時もあんなやりとりあったくらいだよ」
肩を竦めながら私は知っていることを話す
「その役人の部下が横暴しても、誰も文句を言えないのね」
納得したようにリタはそれに捕捉する
「そんな……」
あからさまに不機嫌な顔をしたユーリは先ほど役人と揉めていた人の元へ無言で向かって行った
男は立ち上がり、子供を助けるためにリブガロを狩りに行くつもりらしいが、かなりの大怪我をしている
奥さんであろうケラスと呼ばれた女性は必死で止めようとしているが、ティグルと呼ばれたその男はそれでも向かおうとする
ユーリは自身の足をティグルに引っ掛けてわざと転ばせて歩みを止めさせる
「痛っ…あんた!何すんだ!」
「あー悪ぃ、引っかかっちまった」
全く悪ぶれる様子のないユーリを見てため息が漏れる
すかさずエステルが謝りながら治癒術をかける
「あ、あの……私達払える治癒費が……」
ケラスは真っ先に言った言葉がそれだった
「先に言うことがあんだろ?」
呆れ気味にユーリは二人にそう言う
何のことかわからないと言った様子で二人はユーリを見た
「はぁ…お金と一緒に常識まで搾り取られてるの?」
私がそう言うとケラスはようやくなんのことか分かったようで、立ち上がってエステルにお礼を言った
ティグルが立ち上がるのを手伝っていると、ユーリが近くの路地裏へ向かうのが見えた
エステル達に気づかれないように追いかけて、物陰から様子を伺っていると、ハルルで見かけた赤目が襲ってきていた
助けに行こうとしたが、私が行く前にどこからか出てきたのかフレンが先に飛び出していた
ユーリに切りかかろうとしていた二人をなぎ飛ばし、ユーリを見て大丈夫か?と問いかけている
「おまっ!それはこっちのセリフだ!」
「全く、探したよ」
「それもオレのセリフだっ!」
そう言いながら襲いかかってきた敵を吹っ飛ばすユーリ
先ほど吹っ飛ばされた二人がそれぞれフレンとユーリに襲いかかってきたが、難なく一人ずつ倒し、後ろから襲ってきたもう一人を交わすと合図なしに同時に蒼破刃をくりだし、後ろにあった箱の下敷きにした
のはいいのだが、真上からもう一人襲いかかってきているのには気づいていないようだ
素早く剣を抜いてその敵を切り倒しに行く
「よっと!」
吹っ飛ばしたがまだ動けるようで再び襲いかかってきた
「あーもう!うざいっ!大人しく倒れててよ!スプラッシュっ!」
大量の水が敵に降り注ぎ、ようやくダウンした
「大丈夫?お二人さん」
「アリシア!いつからそこに?」
若干嬉しそうに声をあげて、フレンが話しかけてくる
「赤目が出てきたところから?」
苦笑いしながらそう言うと、ならもっと前に出てきてくれと苦笑いされた
「ありがとな二人とも、マジで焦ったぜ…」
ふーっと一息つくと、フレンは持っていた剣を今度はユーリに向かって我武者羅に振り回す
慌てて剣でガードするユーリ
「ちょっ!?なんだよ!急に!!危ねぇだろっ!?」
「ユーリが結界の外へ出てくれたのは嬉しく思っている!けれど、これを見て素直に喜ぶ気が失せたっ!」
そう言って近くの壁を剣で指す
そこにはユーリの手配書が貼ってあった
「ありゃりゃ、こんなところにまで…」
苦笑いしながら私はその手配書を見る
「お、一万ガルドに上がってる。やり」
そんなことは気にしない、というように賞金が上がっていることに喜ぶユーリ
いやいや…そこは喜ばないで欲しいんだけど…
犯罪者になるために騎士団を辞めたのかと、フレンは問かけるが、色々あったと、当の本人は真面目に応えようとしない
「ユーリ、さっきそこで事件があったみたいですけど…」
そう言いながらエステルがやってきた
エステルはフレンを見るなり彼に飛びついた
やはり付き合っているようにしか私には見えないのだが……
そんなことを考えていると、フレンはエステルを連れて宿屋へと向かってしまった
「あ~あ、行っちゃったよ。相変わらず仕事熱心なことで…」
苦笑いしながらそう言う
ユーリも同感だというように肩をすくめる
「じゃあ、先にリタとカロル拾いに行こっか」
「あー、まぁ、その前に、な?」
「んー?どうし…っ!?」
「次、いつ二人っきりになれっかわかんねぇから、今のうちに充電だな」
路地裏から出ようとしたところを腕を引っ張られてしまい、いつものように抱きしめられてしまう
最後に抱きしめられてからまだそれほど時間は経っていない筈なのだが…
「もう…リタとカロル来ちゃったらどーするの?」
「あん?そんときゃ、ちゃんと説明するしかねーだろ?いつかは言わなきゃなんねぇんだしさ」
「それはそうだけどさ…フレンはどーするのさ」
「あん?あいつのことなんか知ったこっちゃないね。シアはオレのもんだから何があっても絶対誰にもやらねーよ」
「あ…うん……そうだね」
そうゆう意味で言ったつもりじゃないんだけどなぁ…と苦笑する
ユーリには周りの目なんか気にならないんだろう
「あん?なんか不満か?」
「はいはい、私もユーリ以外と付き合うつもりなんてないよ」
よしよし、と彼の頭を撫でなら言うと少し不満そうな顔をする
「もう…そんな顔しなくったって、私だってユーリ手放す気ないよ」
「ん…それ聞けてちと安心したわ」
抱き締めてくる力が少し強くなる
彼は彼なりに不安なんだろう
「でも、そろそろ戻らないとリタに雷落とされるよ?」
「あー…もう少しこのまんまがいいんだけど?」
「このまま外いたら風邪引いちゃうよ?」
「オレ、丈夫だから平気だっての。シアもオレが影になって濡れねーだろ?」
確かに私はユーリのおかげで濡れていないが…
「丈夫だからって問題じゃないよ…いくら丈夫でも風邪引くときは引くの!だからそろそろ宿屋行こ?」
「ん…もう少し抱きついていたかったんだが…」
「ユーリが風邪引いたら嫌だから今はダーメ。」
「へいへい…んじゃ、また二人きりになったら、な?」
にやりと不敵な笑みを浮かべて私の頬にキスすると、あっさりと離れるユーリ
まぁ何を考えているかなんとなく予想がつくけれど…
「さ、さっさとリタとカロル拾って宿屋行くぞー」
「あっ、先に行かないでよ、ユーリ!!」
先に歩いて行ってしまったユーリを小走りで追いかけた
「ほらよ」
そう言って右手を差し出してくる
今繋いだらリタ達に見られるじゃん……
そう思いつつも彼の手を取ってしまうのは長い間の習慣のせいだと思いたい
宿屋の前に行くと、軒下でリタとカロル、ラピードが雨宿りしていた
「なんかエステルが引っぱって行かれちゃったけど…あれがフレン?」
「あー…うん」
カロルが少々引き気味に聞いてきたので思わず苦笑いする
「今行っても話し込んでるみたいだからやめといた方がいいわよ」
ユーリが宿屋に入ろうとしたところをリタが止めた
「ありゃ、そなの?じゃー今のうちにちょっと街の探索にでも行ってくるかな~」
頭の後ろで手を組みながら冗談交じりにそう言う
「じゃあオレもそーすっかな」
「あんた…本当にアリシア大好きね…ま、彼女が一人でフラフラしてたら心配よね」
「ちょっ!?リタ!?なんで知ってるの!?」
リタの爆弾発言に心臓が止まりそうになる
確かに好きだとは言ったけど、付き合ってるなんて言ってない…
「えっ!?二人ってそうゆう関係!?」
カロルもびっくりしたように目を見開く
「あぁ、悪ぃ、そーいやこの前ハルルでリタに言ってたわー」
全く悪びれる様子もなくユーリはちょっとニヤついて言う
言ってたのは百歩譲っていい、だけど言ったことを教えて欲しかった…
「もうっ!//とりあえず街見てくるっ!//」
そういうなり来た道を全力で戻る
先ほどまでいた路地裏よりも少し進んだところで足を止めた
流石にこの雨の中走るのはつらい
軽く息を整えてから、問題の執政官の家を少し見てみようと進もうとするが
「っ!?」
「ったく、一人で勝手に動くなってのがわからないお嬢さんだこった」
追いついたユーリに腕を掴まれてしまった
顔を後ろに向けて少し睨み気味にユーリを見つめると、バツが悪そうに頭を掻く
「あー、なんだ、言わなかったのはマジで悪かったと思ってる、ごめんな?」
「……パフェ作ってくれたら許す」
「はいよ、パフェでもクレープでもパイでもなんでも作ってやるよ、だから機嫌直してくれって」
「…ん、わかった」
そう言いながらお決まりのように髪にキスしてくる
甘いもので機嫌直してしまう私もまだまだユーリに甘いな…
「さてと、何処に行くとしますかね?」
「じゃあこのまままっすぐ進んで執政官の家にでも行く?見るだけ、ね?」
「お、それいいな」
「決まり、行こっ!」
ニッと笑ってユーリの手を引き執政官の家へと向かった
執政官の家の前につくと、いかにも帝国の人間じゃ無さそうな強面の男二人が門番をしていた
何処かこっそり忍び込めるところがないかな、と見回していると、一人の少女が堂々と中に入ろうとしていた
もちろん入れてもらえる訳はなく、あっさり門番に捕まってしまう
「あう?」
「なんだ?このガキ」
そうゆうと、その少女を投げ飛ばしてしまった
「おっと、っと」
たまたまその少女の着地点にユーリが居たので、なんとか地面と激突することはなかった
「あん?あんたらそいつの親か?」
「冗談よしてくれよ、こんな大きな子どもがいるように見えるか?」
「再チャレンジなのじゃ!」
そう言ってユーリの元から離れると再び通り抜けようとするが門番の男は容赦なく剣を突きつけた
「む…」
「そんな子ども相手に剣向けるなんてどんな神経してるのよ、大人気ないわよ」
「うるせぇ、これが大人のルールだって教えてやるんだよ」
「やめとけって……」
ユーリも呆れ気味にそう忠告するが男は一向に剣を引っ込めようとしない
いっそのことファイヤーボールでも当ててやろうかと思ったが、少女は「えぃ!」と言うと同時に煙玉を投げたようで、あたり一面煙まみれになってしまった
(お!チャンス!)
男達が煙に翻弄されている間に、昔お父様に教えて貰った特殊な術を門の近くと橋の中心付近に仕掛けた(私も原理は良くわかっていないが)
ユーリのことだし、きっと後で強行突破して屋敷に忍び込みそうだから、今のうちに役立ちそうなことはしておかないと
「げほっ!げほっ!くそっ!ガキ!まちやがれ!」
煙が大分晴れるとどうやら先ほどの少女はもう中へ行ってしまったようで、片方の門番はその後を追いかけに行った
「お前らもさっさと消えるんだな」
「たく…やってくれるぜ」
「む?どしたの?その人形」
「さっきのやつ捕まえようとしたら代わりに置いていきやがったんだよ」
「ふふ、ユーリもまだまだってことかな?」
クスっと笑いながらユーリが手にしていた人形を見る
うるせぇよ、と言いたげな目で見られたが気にしないでおこう
「そろそろフレンとエステルの話し合いも終わった頃だろうし、戻るぞ」
「ん、そうだね…あ、」
「ん?どうした?」
「エステル回収したら執政官狩りの前にパフェ、忘れないでね?」
ユーリの耳元で小声でそう言った
それを聞いて呆れたように、へいへいとだけ返してきた
宿屋につくとリタとカロルが待ちくたびれたように、遅いとぶーぶー文句を言ってきた
確かにだいぶ時間がかかってしまったから仕方ないのかもしれないが…
「んじゃ、中に入るとしますかね」
「そうね、いい加減風邪引きそうだわ…」
宿屋に入ってフロントの人に聞くと、あっさりと左側の部屋にいると教えてくれた
部屋の前につくなり、ユーリはいつも通りノックせずにズカズカと入ってしまう
またか…と思いつつ軽くため息をついてその後に続く
すると丁度話し合いが終わったところなのか、向かい合わせでソファーに座っているフレンとエステルがいた
「用事は済んだのか?」
唐突にユーリがそう聞くと、エステルは頷いて返事をした
「そっちの秘密のお話も?」
嫌味ったらしくユーリがそう聞くが、その事に関してはフレンも触れるつもりは全くないらしい
「ここまでの事情は聞いた。賞金首になった理由もね。まずは礼を言っておく、彼女をここまで守ってくれてありがとう」
フレンは立ち上がってユーリと向き合いそう言った
エステルも「ありがとうございます」とユーリに礼をした
「なに、魔核ドロボウ探すついでだよ」
ユーリが手をひらひらさせながらそう言うと、真剣そうにフレンは話し出す
「問題はそっちだな。どんな理由にせよ、帝国の法は公務の妨害、脱獄、不法侵入を許していない」
「あーあ、また始まったよ、フレンのお説教が」
やれやれと少し呆れ気味にフレンに背を向けながら言うと、怪訝そうな顔をしたのが見えた
「アリシア、茶化すのはやめてくれないかい?」
そう言ったフレンの声は何処か不機嫌そうだった
「別に茶化してなんてないよ。ただ、貴族様は裁けない法の元で行動してるなんてって思っただけ」
いつもよりも低い声でフレンにそう告げる
不機嫌なのは、フレンだけじゃない
私も充分不機嫌なんだ
私の声のトーンの低さにフレンは驚いた顔をしたのが横目に見えた
「やめとけシア、フレンのせいじゃねぇだろ?」
私を宥めるようにユーリが間に割って入ってくる
「それでもその法の下で動くなんて阿呆らしいでしょ?私ならそんなのに従ってられないね」
それだけ言ってドアの方へと歩き出す
「アリシア……」
少し寂しそうなフレンの声に、ドアの前で一度足を止める
「…フレン、悪いけど私は今の帝国の法に従ってるあなたとは一緒にいる気になれない。貴族ばかり守られている法なんてバカバカしいもの」
背を向けたまま告げ、そのまま宿屋から出ていく
フレンが悪くないことくらいわかっている
彼が法を変えるために出世しようとしていることも
だが、私は知っている
今の騎士団長も必死で法を変えようとしていたことを
そして、その腹心達も…
お父様が騎士団にいた頃からずっと変えようとしていることを
たくさんの人が変えようとしているのに、それでも評議会の圧力には叶わないことも
だからこそ、せめてもの抵抗のつもりで貴族というレッテルを捨てた
だからこそ、帝国との歴史なんて捨てた
まだ二十一の私が評議会に口出ししたところで聞いてなんて貰えないことをわかっているから
貴族としての歴史はすべて捨てた
星暦の一族としての歴史だけを守る
誰もが平等などとやりもしないことを掲げている貴族達など、どうでもいい
……助けられた筈なのに、私の両親を見殺しにしたも同然の貴族も、評議会も、騎士団も、私にはどうでもいい
「さてと、こーやってブラブラするのは尺だし、ちょっと憂さ晴らしがてらやむちゃして来るとしますかね」
ニヤリと笑って街の外へと向かう
確かリブガロは雨の降っている時にしか出てこない珍しい魔物だ
今ならきっといるだろう
倒さなくても最悪、角だけ持って帰れればそれで充分だ
私がいなくなればユーリ達は心配するだろうが、魔物狩りはしょっちゅうしているし、ふらっといなくなることもよくあることだ
また説教されるのは嫌だが、今は体を動かしていたい
ユーリには悪いが、少し無茶をさせてもらおう
リブガロを狩る為に、私は結界の外へと飛び出した
~ユーリside~
フレン達から執政官の悪い噂話を聞いた後、まっすぐ執政官の家まで向かったが、門前払いされた
当然と言われれば当然なのだが、それよりも宿屋にもここにも、シアの姿が見えない方が気がかりだ
ひとまず、献上品としてリブガロを狩りに行こうという話になって街の外へ行くべく、入り口まで戻ってきた
すると、どこかに出かけていたらしいフレンに出くわした
「相変わらず、大人しくしていることが出来ないんだな」
呆れ気味にフレンがそう言ってくる
「人をガキみたいに言うなよ」
こちらも呆れ気味にそう返し、何事もないかのように横を通り過ぎようとする
「ユーリ、これ以上無茶は……」
後ろからフレンの心配する声が聞こえてくる
「オレは生まれてこのかた、無茶なんてしたことないぜ?今だって魔核ドロボウを追いかけてるだけだ」
それはお前もだろ、と言いたかったが、その言葉はギリギリのところで飲み込んだ
「ユーリ……君もアリシアも本当に危なっかしいんだから……」
はぁ……と大きくため息をつきながらフレンは呟く
「あん?なんでシアが出てくんだよ?」
フレンの方を振り向き問いかける
今はシアの話は関係ないと思うんだが…
「街の住人がついさっき、一人で街の外に出ていくのを見かけたそうだよ。小声でリブガロがどうのとか言ってたみたいで、危なそうだから探してみて欲しいと言われたんだ」
心配そうに街の入り口を見つめながら、フレンはそう呟やいた
「っ!?まさかあの馬鹿っ!一人で行きやがったのかよ!カロルっ!さっさと行くぞっ!」
それを聞いて、カロル達の静止も聞かずに真っ先に街の外へ飛び出す
道理で街の中にいないわけだ
オレよりも先にシアを説教しろよ、と心の中で悪態をつきつつ、リブガロがよく出ると聞いた場所まで急ぐ
(頼むから無事でいてくれよ…!)
心の中で、シアの無事だけを祈りながら…
~アリシアside~
「お、みーっけたっ!」
街の近くの海が良く見える丘にリブガロはいた
どうやら街の人にかなり襲われているようで傷だらけになっていた
倒すなら今がチャンスだろう
剣はまだ抜かずにそのままリブガロ目掛けて走り出す
リブガロの方も私に気づいたようで、こちらに突進して来た
リブガロと激突する寸前のところで地面を蹴りあげ、空中へ回避する
「ごめんね………打ち上げろ!アクアレイザー!!」
地面から勢いよく水が吹き上がり、リブガロを浮き上がらせる
着地と同時に剣を抜き、もう一度リブガロへ突っ込む
「爪竜連牙斬っ!」
地面へ戻って来たリブガロに畳み掛けるように技を繰り出した
…つもりだった
「……っ?!」
突然、一瞬だったが脇腹に鋭い痛みが走り、攻撃を躊躇ってしまった
たった数秒、だが、致命的な隙をつかれて頭を大きく振りかざされ、後ろへ吹っ飛ばされてしまった
更に運の悪いのことに、思い切り背中を木にぶつけてしまい、上手く呼吸が出来ない
「かっ……はぁ……」
やってしまった
体調には気をつけていたはずだったが、まさか今『反動』がくると思わなかった
死にかけている魔物程手強い相手はいないな…と呑気に考えているとリブガロは、また突進してこようとしていた
流石に目が霞んでいて上手く避けられる自信がない
かといって防ぐのも無理だろう
終わったなと苦笑いして目を瞑る
(ごめん…ユーリ……)
リブガロが地面を蹴りあげる音がした瞬間
「蒼破刃っ!!!!」
どこからか声が聞こえた
一瞬空耳かと思ったが、待っていた衝撃が来ない代わりに誰かに抱き締められた感覚がした
ゆっくり目を開けると、そこにはユーリ達がいた
「……れ?ユーリ……?」
「っ!!シア!!お前なんで勝手に一人で行くんだよっ!あと少し遅かったら死んでたんだぞ!?」
珍しく本気でユーリが怒っているので少しびっくりしたが、当然だろう
勝手な行動をして死にかけたのだから
「あはは……ごめん…いけると思ったんだけどね…」
力なく笑ってそう言う
「後はオレらでやっから、そこで待ってろ!絶対動くなよ!!」
ユーリはそう言ってカロル達とリブガロに向かって行った
幸い、大きな怪我をしている訳ではなく背中を思い切り打って一時的に身動きが取れなかっただけだった
が、これ以上ユーリに心配かけては次は何を言われるかわからない
彼に言われた通り、大人しく待っていた
その間、痛んだ脇腹のことを考える
…もしも仮に、エステルの力の影響だとしたら…
星達が言うように、始祖の隷長が黙っていないだろう
「……少し厄介なことになってきちゃったなぁ」
苦笑いしながらそう呟いて、戦いが終わるのを待った
程なくしてリブガロを倒したようで、みんなは角だけ取って戻って来た
~ユーリside~
リブガロを狩りに街の外へ向かったシアを見つけるべく、最初に街の人から教えて貰った場所へと急ぐ
いくらシアが、戦闘慣れしているからといって一人で戦うなんて無謀過ぎる
見つけたら今回ばかりは本気で説教してやろうと心の中で悪態をつきつつ、足を進める
「ゆ、ユーリ!待ってよー!」
後ろの方からカロル達が呼んでいるが、悪いが今はそれどころじゃない
教えて貰った場所につくと案の定、リブガロがいた
そして、そのリブガロの目線の先にはシアがいた
「っ!!シア!!!!」
名前を呼んだが返事がない
恐らく気絶しているのだろう
「くそっ!蒼破刃っ!!!!」
通りすがりにリブガロに蒼破刃を放ち、吹っ飛ばしてからシアの元へ駆け寄る
やはり気絶しているだけのようで、目立った外傷はなかった
少しほっとして抱き締めていると気がついたようで
「……れ?ユーリ……?」
「っ!!シア!!お前なんで勝手に一人で行くんだよっ!あと少し遅かったら死んでたんだぞ!?」
起きざまだったが、そんなことお構い無しに怒鳴る
シアは少し驚いた顔をしたがすぐに苦笑いに変わった
「あはは……ごめん…いけると思ったんだけどね…」
力なく笑いながらそう言う
「後はオレらでやっから、そこで待ってろ!絶対動くなよ!!」
そう言って、カロル達と合流してリブガロに向かっていった
「蒼破追蓮!」
「爆砕ロック!」
「ワオーン!!」
「煌めいて、魂揺の光…フォトン!」
「氷結せし刃、鋭く空を翔け抜ける!フリーズランサー!!」
「グォォォォォ………」
元々弱っていたせいもあってあっさりと倒すことが出来た
「やった!さっさと連れて帰ろ!」
「傷だらけ……可哀想……」
「死にものぐるいの街の連中に何度もおいかけまわされたんだろうな。ま、そいつらが悪いわけじゃねーけどな」
おもむろにリブガロに近づいて角だけを、取って離れる
「ユーリ?」
「価値があんのは角だろ?金の亡者共にはこれで充分だ」
「以外ね、あんたが魔物に情けかけるなんて。しかも、アリシア襲ったのに」
リタの言葉に肩を竦めて、シアの元へと戻る
どうやらそこまで酷くなかったようで、いつでも帰れると言わんばかりに木に寄りかかっていた
~アリシアside~
「お疲れ様」
「ったく、何がお疲れ様だよ…こっちは街の外へ一人で行ったって聞いただけで焦ったっていうのに、来てみりゃ死にかけてるってどうゆうことですかね?おじょーさん?」
「あ、あはは………いやぁ、なんというか…油断したっていうか……生きようと必死な魔物は想像以上に手強かったっていうか……」
いまだに腹の虫がおさまらない様子のユーリに苦笑しながら説明するが、当然それでは通用しないわけで…
「今度から一人で行動するの禁止だからな?」
ユーリはニコっとしながら言うが、目が笑っていない…
「うっ…な、なるべく努力します……」
一人で行動しないと、約束出来る自信がないから少しあやふやに答えた
「…次勝手に行動したらしばらくなんも作ってやんねーからな?」
「えっ!それはやだ!!ごめんって!;」
流石にユーリの手料理が食べれないとか死ねる
一人で行動出来ないよりもつらい
「アリシア…食べ物でつられるのもどうかと思うよ…」
「というか、痴話喧嘩なら他所でやってくんない?」
「え?ユーリとアリシア、付き合っているんです!?」
「うっ…あー…えっと……と、とりあえず戻ろっ!?ね?ね?!」
そう言ってリタの手を引いて街の方へと歩き出す
流石にこの状況でユーリと行動するのは恥ずかしい
「あ、おい!シア!ったく…なんでそこでリタなんだよ…」
「って言ってるけど?」
「…あー、あー、きーこーえーなーいー」
わざとらしく耳を塞いで言うとリタはやれやれと手をひらひらさせる
「まぁこの状況じゃ流石にあいつと二人になるのは恥ずかしいわよね、特にアリシアなら」
「うー…わかってるなら言わないでよ…」
「わ、悪かったわよ…ほら、さっさと行」
「おいおい、二人で勝手に先行くなっての」
ガシッと後ろから肩を掴まれびっくりして振り向くとユーリが呆れた顔をしていた
「何よ、この子一人じゃない分マシでしょ?」
「まあな、でもエステルが心配すっから却下だ」
あぁ、なるほどね、とリタは頷く
確かにエステルなら二人だろうが心配するだろう
エステルとカロルも追いつき、早々にエステルに怒られてしまった
「もう!アリシアもリタも、もしまたリブガロのような魔物が出てきたらどうするんですか!」
「「そんなのぶ飛ばすに決まってるよ/じゃない」」
と、リタと息ぴったり言うとそういう問題じゃないと、エステルだけでなくカロルからも怒られてしまった…
カロルが言った通り、道なりに進んでいくとようやく目的のカプア・ノールが見えてきた
街につくなり、エステルは不思議そうに首をかしげた
「なんか…思っていた雰囲気と全然違います…」
「だな。港町って言うくらいだからもっと華やかなもんだとおもっていたんだがな」
ユーリも周りを見回しながら言う
空は黒い雲が広がり雨も降っているし、全く人影がないからそう思うのも当然だろう
「でもあんたの探している泥棒が居そうな雰囲気よ?」
「デデッキが向かったのはトリム港の方だろ?」
どっちも変わらないでしょ、と言うリタにカロルがそんなことない、と反論する
「ノール港の方が厄介なだけだよ」
「どうゆうことです?」
エステルの問に答えようとするが、どこからか揉めている声が聞こえた
声の聞こえた方を見ると、役人と市民が何やら話していた
どうやら税金を払えていないらしく、子供を連れて行かれてしまったようだ
役人はリブガロという魔物の角を持ってこいと言うだけ言って立ち去ってしまった
その様子を見て、ユーリは顔をしかめた
「今のがその厄介事か?」
「そ、このノール港は帝国からの圧力が強いらしくってね。特に、最近来た執政官はかなーりお偉いさんみたいでね、やりたい放題なんだってさ。ついこの前仕事で来た時もあんなやりとりあったくらいだよ」
肩を竦めながら私は知っていることを話す
「その役人の部下が横暴しても、誰も文句を言えないのね」
納得したようにリタはそれに捕捉する
「そんな……」
あからさまに不機嫌な顔をしたユーリは先ほど役人と揉めていた人の元へ無言で向かって行った
男は立ち上がり、子供を助けるためにリブガロを狩りに行くつもりらしいが、かなりの大怪我をしている
奥さんであろうケラスと呼ばれた女性は必死で止めようとしているが、ティグルと呼ばれたその男はそれでも向かおうとする
ユーリは自身の足をティグルに引っ掛けてわざと転ばせて歩みを止めさせる
「痛っ…あんた!何すんだ!」
「あー悪ぃ、引っかかっちまった」
全く悪ぶれる様子のないユーリを見てため息が漏れる
すかさずエステルが謝りながら治癒術をかける
「あ、あの……私達払える治癒費が……」
ケラスは真っ先に言った言葉がそれだった
「先に言うことがあんだろ?」
呆れ気味にユーリは二人にそう言う
何のことかわからないと言った様子で二人はユーリを見た
「はぁ…お金と一緒に常識まで搾り取られてるの?」
私がそう言うとケラスはようやくなんのことか分かったようで、立ち上がってエステルにお礼を言った
ティグルが立ち上がるのを手伝っていると、ユーリが近くの路地裏へ向かうのが見えた
エステル達に気づかれないように追いかけて、物陰から様子を伺っていると、ハルルで見かけた赤目が襲ってきていた
助けに行こうとしたが、私が行く前にどこからか出てきたのかフレンが先に飛び出していた
ユーリに切りかかろうとしていた二人をなぎ飛ばし、ユーリを見て大丈夫か?と問いかけている
「おまっ!それはこっちのセリフだ!」
「全く、探したよ」
「それもオレのセリフだっ!」
そう言いながら襲いかかってきた敵を吹っ飛ばすユーリ
先ほど吹っ飛ばされた二人がそれぞれフレンとユーリに襲いかかってきたが、難なく一人ずつ倒し、後ろから襲ってきたもう一人を交わすと合図なしに同時に蒼破刃をくりだし、後ろにあった箱の下敷きにした
のはいいのだが、真上からもう一人襲いかかってきているのには気づいていないようだ
素早く剣を抜いてその敵を切り倒しに行く
「よっと!」
吹っ飛ばしたがまだ動けるようで再び襲いかかってきた
「あーもう!うざいっ!大人しく倒れててよ!スプラッシュっ!」
大量の水が敵に降り注ぎ、ようやくダウンした
「大丈夫?お二人さん」
「アリシア!いつからそこに?」
若干嬉しそうに声をあげて、フレンが話しかけてくる
「赤目が出てきたところから?」
苦笑いしながらそう言うと、ならもっと前に出てきてくれと苦笑いされた
「ありがとな二人とも、マジで焦ったぜ…」
ふーっと一息つくと、フレンは持っていた剣を今度はユーリに向かって我武者羅に振り回す
慌てて剣でガードするユーリ
「ちょっ!?なんだよ!急に!!危ねぇだろっ!?」
「ユーリが結界の外へ出てくれたのは嬉しく思っている!けれど、これを見て素直に喜ぶ気が失せたっ!」
そう言って近くの壁を剣で指す
そこにはユーリの手配書が貼ってあった
「ありゃりゃ、こんなところにまで…」
苦笑いしながら私はその手配書を見る
「お、一万ガルドに上がってる。やり」
そんなことは気にしない、というように賞金が上がっていることに喜ぶユーリ
いやいや…そこは喜ばないで欲しいんだけど…
犯罪者になるために騎士団を辞めたのかと、フレンは問かけるが、色々あったと、当の本人は真面目に応えようとしない
「ユーリ、さっきそこで事件があったみたいですけど…」
そう言いながらエステルがやってきた
エステルはフレンを見るなり彼に飛びついた
やはり付き合っているようにしか私には見えないのだが……
そんなことを考えていると、フレンはエステルを連れて宿屋へと向かってしまった
「あ~あ、行っちゃったよ。相変わらず仕事熱心なことで…」
苦笑いしながらそう言う
ユーリも同感だというように肩をすくめる
「じゃあ、先にリタとカロル拾いに行こっか」
「あー、まぁ、その前に、な?」
「んー?どうし…っ!?」
「次、いつ二人っきりになれっかわかんねぇから、今のうちに充電だな」
路地裏から出ようとしたところを腕を引っ張られてしまい、いつものように抱きしめられてしまう
最後に抱きしめられてからまだそれほど時間は経っていない筈なのだが…
「もう…リタとカロル来ちゃったらどーするの?」
「あん?そんときゃ、ちゃんと説明するしかねーだろ?いつかは言わなきゃなんねぇんだしさ」
「それはそうだけどさ…フレンはどーするのさ」
「あん?あいつのことなんか知ったこっちゃないね。シアはオレのもんだから何があっても絶対誰にもやらねーよ」
「あ…うん……そうだね」
そうゆう意味で言ったつもりじゃないんだけどなぁ…と苦笑する
ユーリには周りの目なんか気にならないんだろう
「あん?なんか不満か?」
「はいはい、私もユーリ以外と付き合うつもりなんてないよ」
よしよし、と彼の頭を撫でなら言うと少し不満そうな顔をする
「もう…そんな顔しなくったって、私だってユーリ手放す気ないよ」
「ん…それ聞けてちと安心したわ」
抱き締めてくる力が少し強くなる
彼は彼なりに不安なんだろう
「でも、そろそろ戻らないとリタに雷落とされるよ?」
「あー…もう少しこのまんまがいいんだけど?」
「このまま外いたら風邪引いちゃうよ?」
「オレ、丈夫だから平気だっての。シアもオレが影になって濡れねーだろ?」
確かに私はユーリのおかげで濡れていないが…
「丈夫だからって問題じゃないよ…いくら丈夫でも風邪引くときは引くの!だからそろそろ宿屋行こ?」
「ん…もう少し抱きついていたかったんだが…」
「ユーリが風邪引いたら嫌だから今はダーメ。」
「へいへい…んじゃ、また二人きりになったら、な?」
にやりと不敵な笑みを浮かべて私の頬にキスすると、あっさりと離れるユーリ
まぁ何を考えているかなんとなく予想がつくけれど…
「さ、さっさとリタとカロル拾って宿屋行くぞー」
「あっ、先に行かないでよ、ユーリ!!」
先に歩いて行ってしまったユーリを小走りで追いかけた
「ほらよ」
そう言って右手を差し出してくる
今繋いだらリタ達に見られるじゃん……
そう思いつつも彼の手を取ってしまうのは長い間の習慣のせいだと思いたい
宿屋の前に行くと、軒下でリタとカロル、ラピードが雨宿りしていた
「なんかエステルが引っぱって行かれちゃったけど…あれがフレン?」
「あー…うん」
カロルが少々引き気味に聞いてきたので思わず苦笑いする
「今行っても話し込んでるみたいだからやめといた方がいいわよ」
ユーリが宿屋に入ろうとしたところをリタが止めた
「ありゃ、そなの?じゃー今のうちにちょっと街の探索にでも行ってくるかな~」
頭の後ろで手を組みながら冗談交じりにそう言う
「じゃあオレもそーすっかな」
「あんた…本当にアリシア大好きね…ま、彼女が一人でフラフラしてたら心配よね」
「ちょっ!?リタ!?なんで知ってるの!?」
リタの爆弾発言に心臓が止まりそうになる
確かに好きだとは言ったけど、付き合ってるなんて言ってない…
「えっ!?二人ってそうゆう関係!?」
カロルもびっくりしたように目を見開く
「あぁ、悪ぃ、そーいやこの前ハルルでリタに言ってたわー」
全く悪びれる様子もなくユーリはちょっとニヤついて言う
言ってたのは百歩譲っていい、だけど言ったことを教えて欲しかった…
「もうっ!//とりあえず街見てくるっ!//」
そういうなり来た道を全力で戻る
先ほどまでいた路地裏よりも少し進んだところで足を止めた
流石にこの雨の中走るのはつらい
軽く息を整えてから、問題の執政官の家を少し見てみようと進もうとするが
「っ!?」
「ったく、一人で勝手に動くなってのがわからないお嬢さんだこった」
追いついたユーリに腕を掴まれてしまった
顔を後ろに向けて少し睨み気味にユーリを見つめると、バツが悪そうに頭を掻く
「あー、なんだ、言わなかったのはマジで悪かったと思ってる、ごめんな?」
「……パフェ作ってくれたら許す」
「はいよ、パフェでもクレープでもパイでもなんでも作ってやるよ、だから機嫌直してくれって」
「…ん、わかった」
そう言いながらお決まりのように髪にキスしてくる
甘いもので機嫌直してしまう私もまだまだユーリに甘いな…
「さてと、何処に行くとしますかね?」
「じゃあこのまままっすぐ進んで執政官の家にでも行く?見るだけ、ね?」
「お、それいいな」
「決まり、行こっ!」
ニッと笑ってユーリの手を引き執政官の家へと向かった
執政官の家の前につくと、いかにも帝国の人間じゃ無さそうな強面の男二人が門番をしていた
何処かこっそり忍び込めるところがないかな、と見回していると、一人の少女が堂々と中に入ろうとしていた
もちろん入れてもらえる訳はなく、あっさり門番に捕まってしまう
「あう?」
「なんだ?このガキ」
そうゆうと、その少女を投げ飛ばしてしまった
「おっと、っと」
たまたまその少女の着地点にユーリが居たので、なんとか地面と激突することはなかった
「あん?あんたらそいつの親か?」
「冗談よしてくれよ、こんな大きな子どもがいるように見えるか?」
「再チャレンジなのじゃ!」
そう言ってユーリの元から離れると再び通り抜けようとするが門番の男は容赦なく剣を突きつけた
「む…」
「そんな子ども相手に剣向けるなんてどんな神経してるのよ、大人気ないわよ」
「うるせぇ、これが大人のルールだって教えてやるんだよ」
「やめとけって……」
ユーリも呆れ気味にそう忠告するが男は一向に剣を引っ込めようとしない
いっそのことファイヤーボールでも当ててやろうかと思ったが、少女は「えぃ!」と言うと同時に煙玉を投げたようで、あたり一面煙まみれになってしまった
(お!チャンス!)
男達が煙に翻弄されている間に、昔お父様に教えて貰った特殊な術を門の近くと橋の中心付近に仕掛けた(私も原理は良くわかっていないが)
ユーリのことだし、きっと後で強行突破して屋敷に忍び込みそうだから、今のうちに役立ちそうなことはしておかないと
「げほっ!げほっ!くそっ!ガキ!まちやがれ!」
煙が大分晴れるとどうやら先ほどの少女はもう中へ行ってしまったようで、片方の門番はその後を追いかけに行った
「お前らもさっさと消えるんだな」
「たく…やってくれるぜ」
「む?どしたの?その人形」
「さっきのやつ捕まえようとしたら代わりに置いていきやがったんだよ」
「ふふ、ユーリもまだまだってことかな?」
クスっと笑いながらユーリが手にしていた人形を見る
うるせぇよ、と言いたげな目で見られたが気にしないでおこう
「そろそろフレンとエステルの話し合いも終わった頃だろうし、戻るぞ」
「ん、そうだね…あ、」
「ん?どうした?」
「エステル回収したら執政官狩りの前にパフェ、忘れないでね?」
ユーリの耳元で小声でそう言った
それを聞いて呆れたように、へいへいとだけ返してきた
宿屋につくとリタとカロルが待ちくたびれたように、遅いとぶーぶー文句を言ってきた
確かにだいぶ時間がかかってしまったから仕方ないのかもしれないが…
「んじゃ、中に入るとしますかね」
「そうね、いい加減風邪引きそうだわ…」
宿屋に入ってフロントの人に聞くと、あっさりと左側の部屋にいると教えてくれた
部屋の前につくなり、ユーリはいつも通りノックせずにズカズカと入ってしまう
またか…と思いつつ軽くため息をついてその後に続く
すると丁度話し合いが終わったところなのか、向かい合わせでソファーに座っているフレンとエステルがいた
「用事は済んだのか?」
唐突にユーリがそう聞くと、エステルは頷いて返事をした
「そっちの秘密のお話も?」
嫌味ったらしくユーリがそう聞くが、その事に関してはフレンも触れるつもりは全くないらしい
「ここまでの事情は聞いた。賞金首になった理由もね。まずは礼を言っておく、彼女をここまで守ってくれてありがとう」
フレンは立ち上がってユーリと向き合いそう言った
エステルも「ありがとうございます」とユーリに礼をした
「なに、魔核ドロボウ探すついでだよ」
ユーリが手をひらひらさせながらそう言うと、真剣そうにフレンは話し出す
「問題はそっちだな。どんな理由にせよ、帝国の法は公務の妨害、脱獄、不法侵入を許していない」
「あーあ、また始まったよ、フレンのお説教が」
やれやれと少し呆れ気味にフレンに背を向けながら言うと、怪訝そうな顔をしたのが見えた
「アリシア、茶化すのはやめてくれないかい?」
そう言ったフレンの声は何処か不機嫌そうだった
「別に茶化してなんてないよ。ただ、貴族様は裁けない法の元で行動してるなんてって思っただけ」
いつもよりも低い声でフレンにそう告げる
不機嫌なのは、フレンだけじゃない
私も充分不機嫌なんだ
私の声のトーンの低さにフレンは驚いた顔をしたのが横目に見えた
「やめとけシア、フレンのせいじゃねぇだろ?」
私を宥めるようにユーリが間に割って入ってくる
「それでもその法の下で動くなんて阿呆らしいでしょ?私ならそんなのに従ってられないね」
それだけ言ってドアの方へと歩き出す
「アリシア……」
少し寂しそうなフレンの声に、ドアの前で一度足を止める
「…フレン、悪いけど私は今の帝国の法に従ってるあなたとは一緒にいる気になれない。貴族ばかり守られている法なんてバカバカしいもの」
背を向けたまま告げ、そのまま宿屋から出ていく
フレンが悪くないことくらいわかっている
彼が法を変えるために出世しようとしていることも
だが、私は知っている
今の騎士団長も必死で法を変えようとしていたことを
そして、その腹心達も…
お父様が騎士団にいた頃からずっと変えようとしていることを
たくさんの人が変えようとしているのに、それでも評議会の圧力には叶わないことも
だからこそ、せめてもの抵抗のつもりで貴族というレッテルを捨てた
だからこそ、帝国との歴史なんて捨てた
まだ二十一の私が評議会に口出ししたところで聞いてなんて貰えないことをわかっているから
貴族としての歴史はすべて捨てた
星暦の一族としての歴史だけを守る
誰もが平等などとやりもしないことを掲げている貴族達など、どうでもいい
……助けられた筈なのに、私の両親を見殺しにしたも同然の貴族も、評議会も、騎士団も、私にはどうでもいい
「さてと、こーやってブラブラするのは尺だし、ちょっと憂さ晴らしがてらやむちゃして来るとしますかね」
ニヤリと笑って街の外へと向かう
確かリブガロは雨の降っている時にしか出てこない珍しい魔物だ
今ならきっといるだろう
倒さなくても最悪、角だけ持って帰れればそれで充分だ
私がいなくなればユーリ達は心配するだろうが、魔物狩りはしょっちゅうしているし、ふらっといなくなることもよくあることだ
また説教されるのは嫌だが、今は体を動かしていたい
ユーリには悪いが、少し無茶をさせてもらおう
リブガロを狩る為に、私は結界の外へと飛び出した
~ユーリside~
フレン達から執政官の悪い噂話を聞いた後、まっすぐ執政官の家まで向かったが、門前払いされた
当然と言われれば当然なのだが、それよりも宿屋にもここにも、シアの姿が見えない方が気がかりだ
ひとまず、献上品としてリブガロを狩りに行こうという話になって街の外へ行くべく、入り口まで戻ってきた
すると、どこかに出かけていたらしいフレンに出くわした
「相変わらず、大人しくしていることが出来ないんだな」
呆れ気味にフレンがそう言ってくる
「人をガキみたいに言うなよ」
こちらも呆れ気味にそう返し、何事もないかのように横を通り過ぎようとする
「ユーリ、これ以上無茶は……」
後ろからフレンの心配する声が聞こえてくる
「オレは生まれてこのかた、無茶なんてしたことないぜ?今だって魔核ドロボウを追いかけてるだけだ」
それはお前もだろ、と言いたかったが、その言葉はギリギリのところで飲み込んだ
「ユーリ……君もアリシアも本当に危なっかしいんだから……」
はぁ……と大きくため息をつきながらフレンは呟く
「あん?なんでシアが出てくんだよ?」
フレンの方を振り向き問いかける
今はシアの話は関係ないと思うんだが…
「街の住人がついさっき、一人で街の外に出ていくのを見かけたそうだよ。小声でリブガロがどうのとか言ってたみたいで、危なそうだから探してみて欲しいと言われたんだ」
心配そうに街の入り口を見つめながら、フレンはそう呟やいた
「っ!?まさかあの馬鹿っ!一人で行きやがったのかよ!カロルっ!さっさと行くぞっ!」
それを聞いて、カロル達の静止も聞かずに真っ先に街の外へ飛び出す
道理で街の中にいないわけだ
オレよりも先にシアを説教しろよ、と心の中で悪態をつきつつ、リブガロがよく出ると聞いた場所まで急ぐ
(頼むから無事でいてくれよ…!)
心の中で、シアの無事だけを祈りながら…
~アリシアside~
「お、みーっけたっ!」
街の近くの海が良く見える丘にリブガロはいた
どうやら街の人にかなり襲われているようで傷だらけになっていた
倒すなら今がチャンスだろう
剣はまだ抜かずにそのままリブガロ目掛けて走り出す
リブガロの方も私に気づいたようで、こちらに突進して来た
リブガロと激突する寸前のところで地面を蹴りあげ、空中へ回避する
「ごめんね………打ち上げろ!アクアレイザー!!」
地面から勢いよく水が吹き上がり、リブガロを浮き上がらせる
着地と同時に剣を抜き、もう一度リブガロへ突っ込む
「爪竜連牙斬っ!」
地面へ戻って来たリブガロに畳み掛けるように技を繰り出した
…つもりだった
「……っ?!」
突然、一瞬だったが脇腹に鋭い痛みが走り、攻撃を躊躇ってしまった
たった数秒、だが、致命的な隙をつかれて頭を大きく振りかざされ、後ろへ吹っ飛ばされてしまった
更に運の悪いのことに、思い切り背中を木にぶつけてしまい、上手く呼吸が出来ない
「かっ……はぁ……」
やってしまった
体調には気をつけていたはずだったが、まさか今『反動』がくると思わなかった
死にかけている魔物程手強い相手はいないな…と呑気に考えているとリブガロは、また突進してこようとしていた
流石に目が霞んでいて上手く避けられる自信がない
かといって防ぐのも無理だろう
終わったなと苦笑いして目を瞑る
(ごめん…ユーリ……)
リブガロが地面を蹴りあげる音がした瞬間
「蒼破刃っ!!!!」
どこからか声が聞こえた
一瞬空耳かと思ったが、待っていた衝撃が来ない代わりに誰かに抱き締められた感覚がした
ゆっくり目を開けると、そこにはユーリ達がいた
「……れ?ユーリ……?」
「っ!!シア!!お前なんで勝手に一人で行くんだよっ!あと少し遅かったら死んでたんだぞ!?」
珍しく本気でユーリが怒っているので少しびっくりしたが、当然だろう
勝手な行動をして死にかけたのだから
「あはは……ごめん…いけると思ったんだけどね…」
力なく笑ってそう言う
「後はオレらでやっから、そこで待ってろ!絶対動くなよ!!」
ユーリはそう言ってカロル達とリブガロに向かって行った
幸い、大きな怪我をしている訳ではなく背中を思い切り打って一時的に身動きが取れなかっただけだった
が、これ以上ユーリに心配かけては次は何を言われるかわからない
彼に言われた通り、大人しく待っていた
その間、痛んだ脇腹のことを考える
…もしも仮に、エステルの力の影響だとしたら…
星達が言うように、始祖の隷長が黙っていないだろう
「……少し厄介なことになってきちゃったなぁ」
苦笑いしながらそう呟いて、戦いが終わるのを待った
程なくしてリブガロを倒したようで、みんなは角だけ取って戻って来た
~ユーリside~
リブガロを狩りに街の外へ向かったシアを見つけるべく、最初に街の人から教えて貰った場所へと急ぐ
いくらシアが、戦闘慣れしているからといって一人で戦うなんて無謀過ぎる
見つけたら今回ばかりは本気で説教してやろうと心の中で悪態をつきつつ、足を進める
「ゆ、ユーリ!待ってよー!」
後ろの方からカロル達が呼んでいるが、悪いが今はそれどころじゃない
教えて貰った場所につくと案の定、リブガロがいた
そして、そのリブガロの目線の先にはシアがいた
「っ!!シア!!!!」
名前を呼んだが返事がない
恐らく気絶しているのだろう
「くそっ!蒼破刃っ!!!!」
通りすがりにリブガロに蒼破刃を放ち、吹っ飛ばしてからシアの元へ駆け寄る
やはり気絶しているだけのようで、目立った外傷はなかった
少しほっとして抱き締めていると気がついたようで
「……れ?ユーリ……?」
「っ!!シア!!お前なんで勝手に一人で行くんだよっ!あと少し遅かったら死んでたんだぞ!?」
起きざまだったが、そんなことお構い無しに怒鳴る
シアは少し驚いた顔をしたがすぐに苦笑いに変わった
「あはは……ごめん…いけると思ったんだけどね…」
力なく笑いながらそう言う
「後はオレらでやっから、そこで待ってろ!絶対動くなよ!!」
そう言って、カロル達と合流してリブガロに向かっていった
「蒼破追蓮!」
「爆砕ロック!」
「ワオーン!!」
「煌めいて、魂揺の光…フォトン!」
「氷結せし刃、鋭く空を翔け抜ける!フリーズランサー!!」
「グォォォォォ………」
元々弱っていたせいもあってあっさりと倒すことが出来た
「やった!さっさと連れて帰ろ!」
「傷だらけ……可哀想……」
「死にものぐるいの街の連中に何度もおいかけまわされたんだろうな。ま、そいつらが悪いわけじゃねーけどな」
おもむろにリブガロに近づいて角だけを、取って離れる
「ユーリ?」
「価値があんのは角だろ?金の亡者共にはこれで充分だ」
「以外ね、あんたが魔物に情けかけるなんて。しかも、アリシア襲ったのに」
リタの言葉に肩を竦めて、シアの元へと戻る
どうやらそこまで酷くなかったようで、いつでも帰れると言わんばかりに木に寄りかかっていた
~アリシアside~
「お疲れ様」
「ったく、何がお疲れ様だよ…こっちは街の外へ一人で行ったって聞いただけで焦ったっていうのに、来てみりゃ死にかけてるってどうゆうことですかね?おじょーさん?」
「あ、あはは………いやぁ、なんというか…油断したっていうか……生きようと必死な魔物は想像以上に手強かったっていうか……」
いまだに腹の虫がおさまらない様子のユーリに苦笑しながら説明するが、当然それでは通用しないわけで…
「今度から一人で行動するの禁止だからな?」
ユーリはニコっとしながら言うが、目が笑っていない…
「うっ…な、なるべく努力します……」
一人で行動しないと、約束出来る自信がないから少しあやふやに答えた
「…次勝手に行動したらしばらくなんも作ってやんねーからな?」
「えっ!それはやだ!!ごめんって!;」
流石にユーリの手料理が食べれないとか死ねる
一人で行動出来ないよりもつらい
「アリシア…食べ物でつられるのもどうかと思うよ…」
「というか、痴話喧嘩なら他所でやってくんない?」
「え?ユーリとアリシア、付き合っているんです!?」
「うっ…あー…えっと……と、とりあえず戻ろっ!?ね?ね?!」
そう言ってリタの手を引いて街の方へと歩き出す
流石にこの状況でユーリと行動するのは恥ずかしい
「あ、おい!シア!ったく…なんでそこでリタなんだよ…」
「って言ってるけど?」
「…あー、あー、きーこーえーなーいー」
わざとらしく耳を塞いで言うとリタはやれやれと手をひらひらさせる
「まぁこの状況じゃ流石にあいつと二人になるのは恥ずかしいわよね、特にアリシアなら」
「うー…わかってるなら言わないでよ…」
「わ、悪かったわよ…ほら、さっさと行」
「おいおい、二人で勝手に先行くなっての」
ガシッと後ろから肩を掴まれびっくりして振り向くとユーリが呆れた顔をしていた
「何よ、この子一人じゃない分マシでしょ?」
「まあな、でもエステルが心配すっから却下だ」
あぁ、なるほどね、とリタは頷く
確かにエステルなら二人だろうが心配するだろう
エステルとカロルも追いつき、早々にエステルに怒られてしまった
「もう!アリシアもリタも、もしまたリブガロのような魔物が出てきたらどうするんですか!」
「「そんなのぶ飛ばすに決まってるよ/じゃない」」
と、リタと息ぴったり言うとそういう問題じゃないと、エステルだけでなくカロルからも怒られてしまった…