第1部〜水道魔導器魔核奪還編〜
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学術閉鎖都市『アスピオ』
「あ!アリシア!何処に行ってたの?エステルすごいんだよっ!ハルルの樹を治しちゃったんだ!」
戻って早々、カロルは興奮気味にそう口にする
「でも私…自分でも何をしたのかわからないです…」
エステルの言葉を聞いて少々驚いた
まさか満月の子のことを、今の皇族達は言っていないの?
けれども、もし『言ってなかった』もしくは『満月の子だということ自体誰も知らない』としても、私から話すことは出来ない
……そうゆう、『約束』だから
「シアにはオレからさっき話したよ。すっげーびっくりしてたぜ」
「え?あぁ、うん…まぁ…植物を治すなんて聞いたことなかったし…ね」
考え事をしていてすぐに返事を返せないでいると、ユーリがフォローしてくれた
「あっ!ユーリ!あの樹の後ろに…!」
突然エステルが私の後ろを指さす
「ちっ、あいつらまで追いかけてきやがったか。とりあえず、ここを急いで離れるぞ!」
ユーリは軽く舌打ちをすると私の手を引いて、突然走り出す
「え?え?ちょっと!二人とも待ってよ!」
「あっ!ちょっ!ユーリっ!?」
ちらっとエステルが指を指した方向を見ると、フードを被った三人組が立っていた
ユーリはそれを見るなり、街の出口の方へと走り出す
エステルもそれに続くように走り出して、少し遅れてカロルとラピードも追いかけてくる
「シアっ!アスピオって街、何処にあるか知らねーかっ!?」
状況を把握出来ずにいると、唐突にユーリに問いかけられる
「え?アスピオならこの街の東側にあるけど…」
何が何だかわからないが、とりあえずその質問に答える
「東ってフレンが向かった方向ですね。行きましょうっ!」
エステルは迷うことなくそう言った
「ぼ、僕ももう少しついて行こうかなっ!僕がいないと、やっぱり頼りないでしょっ!」
なんの説明もなく向かうことになってしまったんだけど…
カロルのついて行く理由は、本当は恐らく怖いからだろうが、きっと強がってそう言っているのだろうなぁっと苦笑する
「んじゃ、改めて宜しくな、カロル」
ニッとユーリはカロルに笑いかける
……こうして、私達はアスピオへと向かうことになった
街を出てアスピオへと向かう途中、先程のフードを被った三人組のことを聞いた
どうやら前に命を狙ってきた男の仲間だったようだ
他の人に危害を加えたくなかったとはいえ、いきなり走り出すのは問題ではないだろうか…
そんな話をしながらしばらく歩いていと、ようやく目的地が見えてきた
「あれがアスピオだよ」
「なんか…薄暗くてジメジメしてるね」
「洞窟の中に街があるからでしょうか…」
「太陽が見えないと心までねじくれるのかね。魔核盗むとか」
「あはは……みんながみんなそうじゃないと思うけど…」
(言いたい放題だなぁ……)
そんなことを考えながら、街の入口へと向かう
ただ、一つだけ不安なことがあった
前に一度、アスピオへ届け物をした時確か通行証がないと入れないと言われて、一度追い返されたような気がするのだが……
…持っているのだろうか…
「通行証の提示をお願いします。ここは帝国の管轄している施設なので、一般人は通せません」
案の定、警備している騎士にそう聞かれてしまう
「通行証…ですか?」
エステルは首を傾げてユーリの方を向く
「持ってるの?」
カロルの問にユーリは肩を竦ませて答える
…やっぱり持ってないよね…
「中に知り合いがいんだけど、通してもらえない?」
ユーリは通行証なんて知ったこっちゃねぇという素振りで騎士に話しかける
「ならば、その知り合いとやらから通行証を貰っていると思うのだか?」
そんなユーリに騎士は更に質問を重ねる
「いーや、何も聞いてない。入れないなら、呼んできてもらえない?」
臆することもなく、ユーリは今度は呼んで来いなんて言い出す
「知り合いの名は?」
半分呆れ気味に騎士は渋々名前を聞いてくる
…え、ちょっ…会わせて貰えるの?
「モルディオ」
「なっ!?も、モルディオっ!?」
その名を聞いた途端、二人の騎士は固まってしまった
そういえば前に仕事に来た時も、モルディオさんの話が出る度に騎士もアスピオの人達も硬直してたなぁ…
…モルディオ……やっぱりどっかで聞いたことあるような気がするんだよなぁ……
「や、やはり駄目だっ!書簡にてやり取りをし、通行証を交付してもらえ」
仕事熱心過ぎて埒があかない
このままでは通れそうにないし、エステルはフレンが来たかを聞き始めているし…
「……あっ」
「ん?どうしたんだシア?」
ふと思い出して服のポケットを探ると、案の定探していたものは簡単に出てきた
「あー…あの、通行証ってもしかして、これ?」
そう言って一枚の紙を騎士に見せる
以前仕事した時に、いつでも来れるように、と依頼人に貰ったものだ
「おぉ、これだよ。なんだ、持っているのなら早く見せれば良かったものを」
呆れた顔をして騎士に言われてしまった
忘れていたのだから仕方ないではないか……
「ん…?お前、よく見たらこの前来た傭兵じゃないか!いやぁ、あのときは助かったよ」
少し嬉しそうな声で騎士に話しかけられる
うげ……なんで覚えてるのさぁ……
「まぁ仕事でしたしね…えっと、とりあえず通ってもいいですか?」
少し遠慮気味にそう聞くと騎士はコクンと頷く
「あぁ、構わないさ」
そう言うと通れるようにと道をあけてくれた
「ありがとう。さ、みんな行こ」
そう言って私はスタスタと騎士の横を通り過ぎていく
その後を慌ててみんなは追いかけてきた
「ったく、持ってるなら先に出せって」
追いついたユーリに呆れ気味にそう言われてしまった
「いやぁ、完全に忘れててさ…」
苦笑いしながらそう答えるが、あまり納得してくれていないような雰囲気だった…
「でも騎士に褒められるなんてすごいですね!」
エステルはすごい!と言わんばかりに目を輝かせている
「んー、そうかな?」
首を竦めながら苦笑いする
実際そこまで大したことをしたわけじゃない
ただ、街の近くで襲われていた魔道師と騎士を助けただけだ
「すごいよ!騎士に褒められるなんてそうそうないよ!」
「ワオーン」
カロルとラピードもすごいと褒めてくれる
「あははっ、ありがとう」
「で、肝心のモルディオは何処にいんだ?」
街の中央まで来てユーリは聞いてきたが、私も知らない
知ってるのはアスピオに住む人だけだろう
「まぁ、そのあたりの人に聞いたらわかるでしょ」
すると、すぐにエステルは近くにいた魔導師に話を聞きに行ってしまった
ユーリとカロルもそれに続くが、どうやらモルディオのことを聞く前にフレンについて聞いているようだ
アスピオの魔導師達は少し変わった格好をしているから話ずらい
前に来た時は仕事だったから我慢していたが、今回は無理だ
少し遠巻きにユーリ達の様子を伺っていると、モルディオの名を聞いた途端逃げ出そうとした
やはりあまり好かれていないのだろう
どうにか引き止めて居場所を聞き出した様で、こちらに戻ってきた
「収穫あった?」
「おぅ、この先の小屋に住んでるんだとよ」
ユーリが指を指した方向を見ると、細い道が続いていた
「じゃ、さっさと行こっか」
そう言ってクルッとその方向へと足を向けて歩き出した
「ここか…」
ガチャガチャ コンコン
「留守かな?」
小屋につくなりユーリがドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かなかった
「ユーリ!順番が違います!」
すかさずエステルが注意するが、ユーリ本人は全く気にしていない
「よしっ!ここは僕に任せて!」
カロルはそう言うとドアの前で何やらゴソゴソし始めた
何をしているのだろうと見ていると、ガチャッと鍵の開く音がした
「開いたよっ!」
得意げ鼻を鳴らすカロルに、ユーリは半分引き気味に話しかける
「お前のギルド、魔物狩るのが専門だよな。盗賊ギルドもかねてんのか?」
ユーリにそう聞かれ、カロルはキョトンとする
「え?ま、まぁ、こんなこと出来るのは僕くらいだよ」
少し照れ臭そうに答える
…いやいや…その特技は流石にダメでしょ…
ま、私は気にしないけどね
「ふーん、そうなんだ、まっ!さっさと入っちゃおっ!」
「だ、駄目ですよ!人様の家に勝手に入るなんて!」
エステルが静止するが、そんなことお構い無しに入っていく
中は本棚が壁一面にあり、その中は本でぎっしり詰まっている
床にも本が散乱しており、恐らく何かの研究に没頭しているところなのだろう
「うわぁ…こんなとこ、住めないよ…」
「存外、どんなとこだって食ったり寝たりしていけるもんなんだよ」
またまた引き気味にユーリはそう呟く
「ユーリ!先に言うことがあります!」
玄関付近でエステルは、それ以上踏み入ることを躊躇しつつも、ユーリを叱る
「こんにちは、お邪魔してますよっと」
「鍵の謝罪もです」
「カロルが勝手に開けました、ごめんなさい」
全く謝罪する気のない声でユーリは淡々と言う
そんなユーリをエステルが説教している間に色々部屋を見てみるが、魔導器や術に関する本、黒板にはたくさんの数式が書かれている
かなり研究熱心な人のようだ
こんな人が本当に魔核を盗むのかなぁ…
ゴソゴソ
「へ?」
床に置いてあった1冊の本を手に取って見ていると、突然本の山から人が出てきた
恐らくこの家の主のモルディオ氏なのだろうが、当然、ものすごく不機嫌だ
「……うっさい」
「……え?」
ユーリの証言から男だと思っていたその人物はやけに声が高く、思っていたよりも小柄だった
でも、それ以前に、私はこの声をどこかで聞いたことがある気がする…
「泥棒は……ふっとべ!」
「ふぎゃぁぁぁ!?」
そう言うと同時に、カロルにファイアーボールが炸裂し、見事に命中
そのまま後ろへ吹っ飛んでしまった…
「へぇ、こんだけやれるんだったらあん時逃げなくても良かったんじゃないか?」
ユーリはそう言いながら剣を突きつける
「はぁ?あたしが?逃げる?何の話?」
首を傾げながら、不機嫌極まりない声でモルディオ氏はそう言い返す
「下町の魔核盗ったろ。そいつの特徴が、小柄!魔導師!名前はモルディオ!だったんだよ」
ユーリは魔核泥棒の特徴を淡々と口にする
「ふーん、確かにあたしはモルディオよ。リタ・モルディオ」
アスピオ独特のフードをとった少女は、剣に怯えることもなく、ユーリ同様淡々と答えた
そして、その顔を見た瞬間、私は持っていた本を落としてしまった
開いた口が塞がらないとはこのことなのかもしれない
「……リタ?」
「あ、アリシアじゃない。あんたの親の葬儀以来かしら?久しぶりね」
何故今まで忘れていたのだろうか
その少女は昔、お母様に連れられてアスピオへ来た時に出会った、初めての女友達だった
「え?え!?リタ!?本当の本当にあのリタっ!?」
驚きのあまり彼女の肩を掴んで前後に思い切り振りながら問いかける
「あーもう!あんたの母親が認めてくれたリタ・モルディオはあたし以外誰がいるっていうのよ!」
鬱陶しそうに私の手を払い除けながらリタは答える
思考がついていけない…
大体、私が最後にアスピオへ来た時にリタが住んでいたところはここではなかったと思う…
それに、リタが魔核ドロボウとか絶対ありえない
研究第一で、ご飯すら食べるのを忘れるようなリタがそんなこと……
「え…えっと…アリシア?知り合い…なんです?」
「あ…うん、まぁ……知り合いっていうか……そ、それより!!ユーリっ!本当にリタだったの?!なんかの間違えじゃない!?」
ユーリの方を向き直して問いかける
絶対何かの間違いだ
リタが魔核泥棒とか、絶対にありえない
「んぁ?いや、確かにモルディオって名乗ってたぜ?体格も似てるし」
ユーリもユーリで、絶対間違っていないというようにそう言う
「ったく、一体なんだっていうのよ」
半ば呆れ気味にリタは私とユーリを交互に見つめる
「えーっと……実は……」
「あ!アリシア!何処に行ってたの?エステルすごいんだよっ!ハルルの樹を治しちゃったんだ!」
戻って早々、カロルは興奮気味にそう口にする
「でも私…自分でも何をしたのかわからないです…」
エステルの言葉を聞いて少々驚いた
まさか満月の子のことを、今の皇族達は言っていないの?
けれども、もし『言ってなかった』もしくは『満月の子だということ自体誰も知らない』としても、私から話すことは出来ない
……そうゆう、『約束』だから
「シアにはオレからさっき話したよ。すっげーびっくりしてたぜ」
「え?あぁ、うん…まぁ…植物を治すなんて聞いたことなかったし…ね」
考え事をしていてすぐに返事を返せないでいると、ユーリがフォローしてくれた
「あっ!ユーリ!あの樹の後ろに…!」
突然エステルが私の後ろを指さす
「ちっ、あいつらまで追いかけてきやがったか。とりあえず、ここを急いで離れるぞ!」
ユーリは軽く舌打ちをすると私の手を引いて、突然走り出す
「え?え?ちょっと!二人とも待ってよ!」
「あっ!ちょっ!ユーリっ!?」
ちらっとエステルが指を指した方向を見ると、フードを被った三人組が立っていた
ユーリはそれを見るなり、街の出口の方へと走り出す
エステルもそれに続くように走り出して、少し遅れてカロルとラピードも追いかけてくる
「シアっ!アスピオって街、何処にあるか知らねーかっ!?」
状況を把握出来ずにいると、唐突にユーリに問いかけられる
「え?アスピオならこの街の東側にあるけど…」
何が何だかわからないが、とりあえずその質問に答える
「東ってフレンが向かった方向ですね。行きましょうっ!」
エステルは迷うことなくそう言った
「ぼ、僕ももう少しついて行こうかなっ!僕がいないと、やっぱり頼りないでしょっ!」
なんの説明もなく向かうことになってしまったんだけど…
カロルのついて行く理由は、本当は恐らく怖いからだろうが、きっと強がってそう言っているのだろうなぁっと苦笑する
「んじゃ、改めて宜しくな、カロル」
ニッとユーリはカロルに笑いかける
……こうして、私達はアスピオへと向かうことになった
街を出てアスピオへと向かう途中、先程のフードを被った三人組のことを聞いた
どうやら前に命を狙ってきた男の仲間だったようだ
他の人に危害を加えたくなかったとはいえ、いきなり走り出すのは問題ではないだろうか…
そんな話をしながらしばらく歩いていと、ようやく目的地が見えてきた
「あれがアスピオだよ」
「なんか…薄暗くてジメジメしてるね」
「洞窟の中に街があるからでしょうか…」
「太陽が見えないと心までねじくれるのかね。魔核盗むとか」
「あはは……みんながみんなそうじゃないと思うけど…」
(言いたい放題だなぁ……)
そんなことを考えながら、街の入口へと向かう
ただ、一つだけ不安なことがあった
前に一度、アスピオへ届け物をした時確か通行証がないと入れないと言われて、一度追い返されたような気がするのだが……
…持っているのだろうか…
「通行証の提示をお願いします。ここは帝国の管轄している施設なので、一般人は通せません」
案の定、警備している騎士にそう聞かれてしまう
「通行証…ですか?」
エステルは首を傾げてユーリの方を向く
「持ってるの?」
カロルの問にユーリは肩を竦ませて答える
…やっぱり持ってないよね…
「中に知り合いがいんだけど、通してもらえない?」
ユーリは通行証なんて知ったこっちゃねぇという素振りで騎士に話しかける
「ならば、その知り合いとやらから通行証を貰っていると思うのだか?」
そんなユーリに騎士は更に質問を重ねる
「いーや、何も聞いてない。入れないなら、呼んできてもらえない?」
臆することもなく、ユーリは今度は呼んで来いなんて言い出す
「知り合いの名は?」
半分呆れ気味に騎士は渋々名前を聞いてくる
…え、ちょっ…会わせて貰えるの?
「モルディオ」
「なっ!?も、モルディオっ!?」
その名を聞いた途端、二人の騎士は固まってしまった
そういえば前に仕事に来た時も、モルディオさんの話が出る度に騎士もアスピオの人達も硬直してたなぁ…
…モルディオ……やっぱりどっかで聞いたことあるような気がするんだよなぁ……
「や、やはり駄目だっ!書簡にてやり取りをし、通行証を交付してもらえ」
仕事熱心過ぎて埒があかない
このままでは通れそうにないし、エステルはフレンが来たかを聞き始めているし…
「……あっ」
「ん?どうしたんだシア?」
ふと思い出して服のポケットを探ると、案の定探していたものは簡単に出てきた
「あー…あの、通行証ってもしかして、これ?」
そう言って一枚の紙を騎士に見せる
以前仕事した時に、いつでも来れるように、と依頼人に貰ったものだ
「おぉ、これだよ。なんだ、持っているのなら早く見せれば良かったものを」
呆れた顔をして騎士に言われてしまった
忘れていたのだから仕方ないではないか……
「ん…?お前、よく見たらこの前来た傭兵じゃないか!いやぁ、あのときは助かったよ」
少し嬉しそうな声で騎士に話しかけられる
うげ……なんで覚えてるのさぁ……
「まぁ仕事でしたしね…えっと、とりあえず通ってもいいですか?」
少し遠慮気味にそう聞くと騎士はコクンと頷く
「あぁ、構わないさ」
そう言うと通れるようにと道をあけてくれた
「ありがとう。さ、みんな行こ」
そう言って私はスタスタと騎士の横を通り過ぎていく
その後を慌ててみんなは追いかけてきた
「ったく、持ってるなら先に出せって」
追いついたユーリに呆れ気味にそう言われてしまった
「いやぁ、完全に忘れててさ…」
苦笑いしながらそう答えるが、あまり納得してくれていないような雰囲気だった…
「でも騎士に褒められるなんてすごいですね!」
エステルはすごい!と言わんばかりに目を輝かせている
「んー、そうかな?」
首を竦めながら苦笑いする
実際そこまで大したことをしたわけじゃない
ただ、街の近くで襲われていた魔道師と騎士を助けただけだ
「すごいよ!騎士に褒められるなんてそうそうないよ!」
「ワオーン」
カロルとラピードもすごいと褒めてくれる
「あははっ、ありがとう」
「で、肝心のモルディオは何処にいんだ?」
街の中央まで来てユーリは聞いてきたが、私も知らない
知ってるのはアスピオに住む人だけだろう
「まぁ、そのあたりの人に聞いたらわかるでしょ」
すると、すぐにエステルは近くにいた魔導師に話を聞きに行ってしまった
ユーリとカロルもそれに続くが、どうやらモルディオのことを聞く前にフレンについて聞いているようだ
アスピオの魔導師達は少し変わった格好をしているから話ずらい
前に来た時は仕事だったから我慢していたが、今回は無理だ
少し遠巻きにユーリ達の様子を伺っていると、モルディオの名を聞いた途端逃げ出そうとした
やはりあまり好かれていないのだろう
どうにか引き止めて居場所を聞き出した様で、こちらに戻ってきた
「収穫あった?」
「おぅ、この先の小屋に住んでるんだとよ」
ユーリが指を指した方向を見ると、細い道が続いていた
「じゃ、さっさと行こっか」
そう言ってクルッとその方向へと足を向けて歩き出した
「ここか…」
ガチャガチャ コンコン
「留守かな?」
小屋につくなりユーリがドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かなかった
「ユーリ!順番が違います!」
すかさずエステルが注意するが、ユーリ本人は全く気にしていない
「よしっ!ここは僕に任せて!」
カロルはそう言うとドアの前で何やらゴソゴソし始めた
何をしているのだろうと見ていると、ガチャッと鍵の開く音がした
「開いたよっ!」
得意げ鼻を鳴らすカロルに、ユーリは半分引き気味に話しかける
「お前のギルド、魔物狩るのが専門だよな。盗賊ギルドもかねてんのか?」
ユーリにそう聞かれ、カロルはキョトンとする
「え?ま、まぁ、こんなこと出来るのは僕くらいだよ」
少し照れ臭そうに答える
…いやいや…その特技は流石にダメでしょ…
ま、私は気にしないけどね
「ふーん、そうなんだ、まっ!さっさと入っちゃおっ!」
「だ、駄目ですよ!人様の家に勝手に入るなんて!」
エステルが静止するが、そんなことお構い無しに入っていく
中は本棚が壁一面にあり、その中は本でぎっしり詰まっている
床にも本が散乱しており、恐らく何かの研究に没頭しているところなのだろう
「うわぁ…こんなとこ、住めないよ…」
「存外、どんなとこだって食ったり寝たりしていけるもんなんだよ」
またまた引き気味にユーリはそう呟く
「ユーリ!先に言うことがあります!」
玄関付近でエステルは、それ以上踏み入ることを躊躇しつつも、ユーリを叱る
「こんにちは、お邪魔してますよっと」
「鍵の謝罪もです」
「カロルが勝手に開けました、ごめんなさい」
全く謝罪する気のない声でユーリは淡々と言う
そんなユーリをエステルが説教している間に色々部屋を見てみるが、魔導器や術に関する本、黒板にはたくさんの数式が書かれている
かなり研究熱心な人のようだ
こんな人が本当に魔核を盗むのかなぁ…
ゴソゴソ
「へ?」
床に置いてあった1冊の本を手に取って見ていると、突然本の山から人が出てきた
恐らくこの家の主のモルディオ氏なのだろうが、当然、ものすごく不機嫌だ
「……うっさい」
「……え?」
ユーリの証言から男だと思っていたその人物はやけに声が高く、思っていたよりも小柄だった
でも、それ以前に、私はこの声をどこかで聞いたことがある気がする…
「泥棒は……ふっとべ!」
「ふぎゃぁぁぁ!?」
そう言うと同時に、カロルにファイアーボールが炸裂し、見事に命中
そのまま後ろへ吹っ飛んでしまった…
「へぇ、こんだけやれるんだったらあん時逃げなくても良かったんじゃないか?」
ユーリはそう言いながら剣を突きつける
「はぁ?あたしが?逃げる?何の話?」
首を傾げながら、不機嫌極まりない声でモルディオ氏はそう言い返す
「下町の魔核盗ったろ。そいつの特徴が、小柄!魔導師!名前はモルディオ!だったんだよ」
ユーリは魔核泥棒の特徴を淡々と口にする
「ふーん、確かにあたしはモルディオよ。リタ・モルディオ」
アスピオ独特のフードをとった少女は、剣に怯えることもなく、ユーリ同様淡々と答えた
そして、その顔を見た瞬間、私は持っていた本を落としてしまった
開いた口が塞がらないとはこのことなのかもしれない
「……リタ?」
「あ、アリシアじゃない。あんたの親の葬儀以来かしら?久しぶりね」
何故今まで忘れていたのだろうか
その少女は昔、お母様に連れられてアスピオへ来た時に出会った、初めての女友達だった
「え?え!?リタ!?本当の本当にあのリタっ!?」
驚きのあまり彼女の肩を掴んで前後に思い切り振りながら問いかける
「あーもう!あんたの母親が認めてくれたリタ・モルディオはあたし以外誰がいるっていうのよ!」
鬱陶しそうに私の手を払い除けながらリタは答える
思考がついていけない…
大体、私が最後にアスピオへ来た時にリタが住んでいたところはここではなかったと思う…
それに、リタが魔核ドロボウとか絶対ありえない
研究第一で、ご飯すら食べるのを忘れるようなリタがそんなこと……
「え…えっと…アリシア?知り合い…なんです?」
「あ…うん、まぁ……知り合いっていうか……そ、それより!!ユーリっ!本当にリタだったの?!なんかの間違えじゃない!?」
ユーリの方を向き直して問いかける
絶対何かの間違いだ
リタが魔核泥棒とか、絶対にありえない
「んぁ?いや、確かにモルディオって名乗ってたぜ?体格も似てるし」
ユーリもユーリで、絶対間違っていないというようにそう言う
「ったく、一体なんだっていうのよ」
半ば呆れ気味にリタは私とユーリを交互に見つめる
「えーっと……実は……」