第2章
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〜日常〜
「んー…………」
唸りながら書類と睨めっこをする
ユーリと結婚してからもう一ヶ月近く経ち、少しずつではあるが、私も執務をこなすようになった
とはいえ、まだまだ慣れないことばかりで頭はパンクしそうだ
誰かに頼りたいが、生憎今は傍に頼れる人たちがいない
ユーリはとても忙しいらしく、フレンに連れてかれちゃうし…
他のみんなも忙しいみたいで、最近全く会えていない
「……はぁ……やっと終わったぁ……」
椅子の背もたれに寄りかかればギシッと音が鳴る
「終わったみたいだな」
「!ユーリっ!!」
いつの間に入って来たのか、扉の近くの壁にユーリが寄りかかっているのが目に入った
ガタッと音をたてて立ち上がり、ユーリの元へ行く
「執務終わったの?」
ぎゅっとユーリに抱きつきながら聞いた
「終わんねぇから抜け出してきた」
「もう…またそうゆうことして…」
「仕方ねぇじゃん、アリシアに会いたかったんだから」
私の腰に手を回しながらユーリは言う
「ん、それはそうかもしれない」
ニコッと笑って言うとユーリも笑って、だろ?と言ってきた
「…にしても」
「ん?」
「なーんで最近、ずっと髪おろしてんの?執務中は邪魔だから結ぶっ!とか言ってた癖に」
「うっ……そ、それは………」
ユーリの質問に困っていると、ニヤッと笑ってわざと前に流していた髪を後ろへやる
髪がどかされた場所には複数の所有印がついている
結婚して以来、何かあるとすぐつけてくるから少し困ってしまう
「折角見えるとこにわざとつけてんのにな」
不敵な笑みを浮かべたまま首筋につけた所有印をなぞるようにそっと触れてくる
「~~~~っ!////」
どうやら私は首が弱いらしく、触られただけでビクッとしてしまう
「ふっ、次は見えるとこにつけなきゃな?」
相変わらずいじわるそうにニヤニヤしながら、耳元でそう言ってくる
「っ!!////見えるとこはやだっ!////」
「へぇ?じゃあ見えないとこならいいんだ?」
「ひゃっ……!?」
そう言うなりユーリは耳の後ろに吸い付いてくる
誰かこのキス魔をなんとかしてください……
「んっ………!」
耳の後ろだからか、いつもよりもやけにチュッという音が響いてくる
それだけで反応してしまう私も私だが……
「ん…よし、ついた」
「『よし、ついた』じゃないのっ!もー……そんなにあっちこっちつけないでってばぁ…」
少し頬を膨らませて言えば悪ぃ悪ぃと、全然悪いと思ってない返事が返ってくる
「アリシアの反応が可愛いからついつけたくなんだよ」
と頭を撫でてくる
「むぅ……キスするならさ……」
背伸びをして軽くユーリの唇に触れる
…ユーリが少し屈んでいてくれて良かった…
突然のことにびっくりしたのか、驚いた顔をしている
恥ずかしくなってさっとユーリの胸元に顔を押し当てるが、それを彼が許すはずもなく
「こっちがいいってか?」
左手で顎をあげられ、親指で私の唇をなぞりながらそう言う
目線をそらして、ん、と短く答えれば、そっと唇が重なる
触れるだけの短いキスを数回繰り返した後、深いキスに変わる
未だにこのとろけそうな感覚にはあまり慣れない
「ふっ……んっ…!!」
息が少し苦しくなって、離れようとしてみるが、ユーリに頭の後ろを抑えられてしまってそれは叶わない
キスをねだったのは間違いだったか…と心の中で後悔する
「ん……っ!!んぅ……っ!」
「ん……」
ユーリの胸を叩くと、ようやく気づいたのか、少し名残惜しそうにしながらも離れる
「ふぁ…………ユーリっ……!!」
「はぁ……アリシア……本当その顔反則だわ…////」
唇が離れると少し私から離れて顔をそらしながら口元を左手で隠す
マジで襲いそうだった、と小声で呟いていたのは聞こえなかったことにしよう
「もぅ……フレン来ちゃってたらどうするつもりだったの?」
少しムスッとして聞く
「あん?そんときゃお前連れて逃げる」
きっぱりと正々堂々と言うユーリはすごいと思う、色んな意味で
「私ユーリに拉致られるんだ」
クスクスと笑えば、拉致ゆーな馬鹿、と苦笑いしながら軽く小突かれた
「そろそろ戻らなくていいの?」
「いーのいーの、めんどうな執務はあいつらに任せときゃ、オレはアリシアと居てぇ」
そうしてまた抱きしめられる
それも、先ほどよりも少し強めの力で
「フレンに怒られるよ?」
「気にしねぇさそんなこと」
「ん、そっか」
「ん?やけに潔いいな…なんかあったか?」
「一度言い出したらテコでも言うこと聞かないの知ってるもん」
一ヶ月、正確には三ヶ月以上、ユーリと生活を送ってきてわかったことだ
一度言い出したら、絶対に人の話聞かない
何度か説得を試みたけれど、全くと言っていいほどに、言うことを聞いてくれなかった
これは駄目だなぁ、と諦めるスイッチが入ったのはつい最近のことだ
「ふーん…ま、オレはオレでそれでいいんだけどn」
「良くないだろっ!?」
バンッと大きな音とともにフレンが中へ入ってくる
「うげっ!?おまっ!?いつからそこにっ!?」
「ついさっきだよ。その様子じゃ随分長い間ここにいるみたいだね?」
いつもの明るい声なのだが、目が笑ってない
これ、ガチギレしてるんじゃ……
「アリシアも、言うこと聞かないからってそうしているのはどうかと思うけれど?」
「うっ……」
やっぱり本気で怒ってるよ!
「ユーリ、まだまだやらなければいけないことがあると言うのに君は…っ!」
「へいへい、勝手に抜け出してどーもすんませんっと」
全く謝る気ゼロの返事に、フレンの怒りが爆発した
それから、夕方頃までフレンの説教は続いた
………私を巻き込んで……
ーーーーー
「うー……………フレン………怖い……」
ユーリの後ろに引っ付きながら、ボソリと呟く
「おいおい、アリシアに怒鳴んなって言ってるじゃねぇか」
半ば怒り気味に、ユーリはフレンに向かって言った
「…すまない、君にイライラしてて完全に忘れていたよ」
その後に、本当に申し訳なさそうなフレンの声が聞こえた
説教は夕食の時間になってもなかなか私たちが来ないと、心配して探しに来たエステルたちのおかげでようやく終わった
怒ったフレンを止めるのにレイヴンやカロルも駆けつけた
それでも止まらないからって、リタが精霊術で大量の水をフレンにかけたのはつい数分前の話
未だに髪から水滴が滴っている
そんなフレンを見てユーリは少しニヤニヤ笑ってるし…
…元はと言えばユーリが執務サボったのが悪いんだけどね…
「フレンは怒ると我を忘れますからね…」
「どっかのおサボり魔王と同じよね」
「そうねぇ…青年もアリシアちゃんのことになると冷静になれないからねぇ」
「「…………」」
二人とも本当のことを言われてしまって無言になる
「でも、いい加減その癖直した方がいいわ」
「うん、そうだよね、特にユーリは一番冷静にならなきゃいけない時に冷静に慣れなさそうだよ…」
みんなに注意され、ユーリはショックだったのかしょんぼりとしてしまう
「あ、あの…あんまり言わないであげて…??確かに事実だけど、それだけ心配してくれてるってことだし…!」
そうフォローしたつもりだったのだが、何故かユーリは止まって壁に手をついて項垂れてしまった
「あんた……何トドメ差してんのよ…」
「…………へ??」
頭に?を浮かべていると、レイブンが『天然ちゃんは怖いわ…』と小声で言ってるのが聞こえたが、わけがわからない
「……私、言っちゃいけないこと言っちゃった…?」
首を傾げるとみんなは顔を見合わせて苦笑いする
「とりあえず、ユーリの傍に行ってあげたらどうかしら?」
ジュディスの言葉に頷き、ユーリの傍へ行く
「ユーリ?」
「アリシア……オレ、そんなに冷静じゃねぇか…?」
凄く傷ついたような声で、ユーリは問いかけてくる
「え…??えー……っと……まぁ、もう少し落ち着いた方がいいんじゃないかなぁ……とは思うよ?…あ!でも!!私のこと心配してそうなっちゃうってこと、わかってるからね!!」
そう言うと、ユーリは苦笑いして頭を撫でてくる
何故撫でられたのかわからず首を傾げる
「ほら、いい加減行こうぜ?」
急かすようにユーリに手を引かれ、食堂へと向かった
ー更に一週間後ー
「ふぅ……終わった……。あ、これ、ユーリに回してください」
パラッと書類の束を取りに来た兵に渡す
フレンから説教を受けてから一週間、あれ以来みんなとあまり会えていない
本当に忙しくて、ユーリとも朝と夜しか会ってない
「ありがとうございます」
「それと、ユーリに書類渡してからでいいんですけど……なんでもいいから甘いもの持ってきて欲しいって、ジュディスに伝えて貰ってもいいですか?」
「かしこまりました」
失礼いたしました、とお辞儀して兵は出て行った
はぁ……と、ため息をついて椅子を背にもたれかかって、左腕で目を隠す
忙しすぎる…
だいぶ慣れてきたとはいえ、私にはまだ量が多い
でも、このくらいの量で弱音を吐いていられない
きっとユーリたちの方が、もっともっと量が多いから
エステル達も忙しいのだろうけど、それでもたまに顔を出してくれる
だが、フレンは本当に忙しいんだろう
あれ以来本気で一度も会っていない
ユーリは本当に時々勝手に抜け出して来るけど、それを探しに来るのはレイヴンだし…
「……アリシア?」
「っ!?ふぁっ!?ユ……きゃぁっ!?」
突然声が聞こえて慌てて振り向こうとしたらバランスを崩して椅子から落ちてしまった
「おっと…んなに驚かねぇでくれよ…」
来る筈の傷みはなく、代わりに抱きしめられる感覚がした
顔をあげると、少し呆れた顔をしたユーリが見下ろしていた
どうやらユーリが受け止めてくれたみたいだ
「だって…!いきなりだったから…!」
「ん?ちゃんとノックしてから入ったんだが…それに、何度か声かけてたし」
「……え?」
「お前がジュディに甘いもの持ってきて欲しいって頼んでたって聞いたから、オレが持ってきてみりゃ返事ないし、椅子に寄っかかったまんま動かねぇし」
ちょっと心配そうに頬を除きながら言ってくる
確かに、さっきまでなかったクッキーとティーポットが置いてある
「あ、あはは……ちょっと考え事してたから…」
頬を掻きながら苦笑いする
「考え事?」
「最近、フレンの『ユーリっ!君はまた…!!』を聞いてないなぁって」
イタズラそうな顔をして言えばユーリは少し不機嫌になる
「なんだよ?そんなにフレンに会いたいのか?」
「なんでそうなるの……レイヴンだと、ユーリ連れ戻すの途中で諦めちゃうから言ってるの。一緒に居てくれようとするのは嬉しいけど、執務さっさと終わらせてから来てくれた方が嬉しい」
ふぃっと顔を背けながら言う
「…アリシア、最後のもう一回」
「へ?」
ポカーンとしてユーリを見上げると、ちょっと嬉しそうな顔をして、もう一回言って?と頼んでくる
本当に機嫌取るのがすごく簡単だなぁ…と心の中で苦笑いする
「まったくもう……抜け出して来るよりも執務終わらせてから来てくれた方が嬉しいよ」
次は笑顔で頬に軽くキスしながら言った
すると少しムッとして
「キスしてくんならさ…」
そう言いながら私の顎を持って触れるだけのキスをしてきた
「こっちの方がいいんだろ?」
ニヤッと悪戯っぽく笑ってそう言ってくる
……そういえば先週、そんなこと言った気がする…
「もう……それよりも、戻らなくていいの?」
「ん、もうちょい居させてくれ」
そう言ってギュッと抱きしめてくる腕に力が入っている
「私は別に構わないけ」
「良くないだろっ!?」
バンッという音が響いてくると同時にフレンが……って、先週も同じことがあったよね……
「うげっ!?フレンっ!?」
「君に書類を持っていったらレイヴンさんからアリシアのところから帰って来ないと言われたから来てみれば…!!
アリシアも、さっさと帰らせてくれっ!」
うわぁ……フレン怒ってる……
「全く!僕にばかり執務を押し付けてくるから最近全く休めていないというのに、これ以上心配事を増やさないでくれっ!!」
「ばっ!?フレンっ!!!」
私から離れてフレンの元へ行くと、何かヒソヒソと話していたがそんなことしなくてもバレバレですよ…?
フレンが最近中々来ないのはそうゆうことね……
「ユーリ?」
「っ!?な、なんだ?アリシア…?」
「ちょっとここ、座りましょうか?」
ニッコリと有無を言わさない笑顔で言うとユーリは渋々、私の前に座る
小一時間程ユーリに説教した後、一週間会うの禁止っ!と言って、初めてここに来た時に通された部屋にフレンにやらせようとしていた書類の半分を持って閉じ篭ったのは言うまでもないかもしれない
…会うのを許すまで、部屋の前で何度も『アリシアーっ!』と呼ばれるのはちょっとうるさかった
「んー…………」
唸りながら書類と睨めっこをする
ユーリと結婚してからもう一ヶ月近く経ち、少しずつではあるが、私も執務をこなすようになった
とはいえ、まだまだ慣れないことばかりで頭はパンクしそうだ
誰かに頼りたいが、生憎今は傍に頼れる人たちがいない
ユーリはとても忙しいらしく、フレンに連れてかれちゃうし…
他のみんなも忙しいみたいで、最近全く会えていない
「……はぁ……やっと終わったぁ……」
椅子の背もたれに寄りかかればギシッと音が鳴る
「終わったみたいだな」
「!ユーリっ!!」
いつの間に入って来たのか、扉の近くの壁にユーリが寄りかかっているのが目に入った
ガタッと音をたてて立ち上がり、ユーリの元へ行く
「執務終わったの?」
ぎゅっとユーリに抱きつきながら聞いた
「終わんねぇから抜け出してきた」
「もう…またそうゆうことして…」
「仕方ねぇじゃん、アリシアに会いたかったんだから」
私の腰に手を回しながらユーリは言う
「ん、それはそうかもしれない」
ニコッと笑って言うとユーリも笑って、だろ?と言ってきた
「…にしても」
「ん?」
「なーんで最近、ずっと髪おろしてんの?執務中は邪魔だから結ぶっ!とか言ってた癖に」
「うっ……そ、それは………」
ユーリの質問に困っていると、ニヤッと笑ってわざと前に流していた髪を後ろへやる
髪がどかされた場所には複数の所有印がついている
結婚して以来、何かあるとすぐつけてくるから少し困ってしまう
「折角見えるとこにわざとつけてんのにな」
不敵な笑みを浮かべたまま首筋につけた所有印をなぞるようにそっと触れてくる
「~~~~っ!////」
どうやら私は首が弱いらしく、触られただけでビクッとしてしまう
「ふっ、次は見えるとこにつけなきゃな?」
相変わらずいじわるそうにニヤニヤしながら、耳元でそう言ってくる
「っ!!////見えるとこはやだっ!////」
「へぇ?じゃあ見えないとこならいいんだ?」
「ひゃっ……!?」
そう言うなりユーリは耳の後ろに吸い付いてくる
誰かこのキス魔をなんとかしてください……
「んっ………!」
耳の後ろだからか、いつもよりもやけにチュッという音が響いてくる
それだけで反応してしまう私も私だが……
「ん…よし、ついた」
「『よし、ついた』じゃないのっ!もー……そんなにあっちこっちつけないでってばぁ…」
少し頬を膨らませて言えば悪ぃ悪ぃと、全然悪いと思ってない返事が返ってくる
「アリシアの反応が可愛いからついつけたくなんだよ」
と頭を撫でてくる
「むぅ……キスするならさ……」
背伸びをして軽くユーリの唇に触れる
…ユーリが少し屈んでいてくれて良かった…
突然のことにびっくりしたのか、驚いた顔をしている
恥ずかしくなってさっとユーリの胸元に顔を押し当てるが、それを彼が許すはずもなく
「こっちがいいってか?」
左手で顎をあげられ、親指で私の唇をなぞりながらそう言う
目線をそらして、ん、と短く答えれば、そっと唇が重なる
触れるだけの短いキスを数回繰り返した後、深いキスに変わる
未だにこのとろけそうな感覚にはあまり慣れない
「ふっ……んっ…!!」
息が少し苦しくなって、離れようとしてみるが、ユーリに頭の後ろを抑えられてしまってそれは叶わない
キスをねだったのは間違いだったか…と心の中で後悔する
「ん……っ!!んぅ……っ!」
「ん……」
ユーリの胸を叩くと、ようやく気づいたのか、少し名残惜しそうにしながらも離れる
「ふぁ…………ユーリっ……!!」
「はぁ……アリシア……本当その顔反則だわ…////」
唇が離れると少し私から離れて顔をそらしながら口元を左手で隠す
マジで襲いそうだった、と小声で呟いていたのは聞こえなかったことにしよう
「もぅ……フレン来ちゃってたらどうするつもりだったの?」
少しムスッとして聞く
「あん?そんときゃお前連れて逃げる」
きっぱりと正々堂々と言うユーリはすごいと思う、色んな意味で
「私ユーリに拉致られるんだ」
クスクスと笑えば、拉致ゆーな馬鹿、と苦笑いしながら軽く小突かれた
「そろそろ戻らなくていいの?」
「いーのいーの、めんどうな執務はあいつらに任せときゃ、オレはアリシアと居てぇ」
そうしてまた抱きしめられる
それも、先ほどよりも少し強めの力で
「フレンに怒られるよ?」
「気にしねぇさそんなこと」
「ん、そっか」
「ん?やけに潔いいな…なんかあったか?」
「一度言い出したらテコでも言うこと聞かないの知ってるもん」
一ヶ月、正確には三ヶ月以上、ユーリと生活を送ってきてわかったことだ
一度言い出したら、絶対に人の話聞かない
何度か説得を試みたけれど、全くと言っていいほどに、言うことを聞いてくれなかった
これは駄目だなぁ、と諦めるスイッチが入ったのはつい最近のことだ
「ふーん…ま、オレはオレでそれでいいんだけどn」
「良くないだろっ!?」
バンッと大きな音とともにフレンが中へ入ってくる
「うげっ!?おまっ!?いつからそこにっ!?」
「ついさっきだよ。その様子じゃ随分長い間ここにいるみたいだね?」
いつもの明るい声なのだが、目が笑ってない
これ、ガチギレしてるんじゃ……
「アリシアも、言うこと聞かないからってそうしているのはどうかと思うけれど?」
「うっ……」
やっぱり本気で怒ってるよ!
「ユーリ、まだまだやらなければいけないことがあると言うのに君は…っ!」
「へいへい、勝手に抜け出してどーもすんませんっと」
全く謝る気ゼロの返事に、フレンの怒りが爆発した
それから、夕方頃までフレンの説教は続いた
………私を巻き込んで……
ーーーーー
「うー……………フレン………怖い……」
ユーリの後ろに引っ付きながら、ボソリと呟く
「おいおい、アリシアに怒鳴んなって言ってるじゃねぇか」
半ば怒り気味に、ユーリはフレンに向かって言った
「…すまない、君にイライラしてて完全に忘れていたよ」
その後に、本当に申し訳なさそうなフレンの声が聞こえた
説教は夕食の時間になってもなかなか私たちが来ないと、心配して探しに来たエステルたちのおかげでようやく終わった
怒ったフレンを止めるのにレイヴンやカロルも駆けつけた
それでも止まらないからって、リタが精霊術で大量の水をフレンにかけたのはつい数分前の話
未だに髪から水滴が滴っている
そんなフレンを見てユーリは少しニヤニヤ笑ってるし…
…元はと言えばユーリが執務サボったのが悪いんだけどね…
「フレンは怒ると我を忘れますからね…」
「どっかのおサボり魔王と同じよね」
「そうねぇ…青年もアリシアちゃんのことになると冷静になれないからねぇ」
「「…………」」
二人とも本当のことを言われてしまって無言になる
「でも、いい加減その癖直した方がいいわ」
「うん、そうだよね、特にユーリは一番冷静にならなきゃいけない時に冷静に慣れなさそうだよ…」
みんなに注意され、ユーリはショックだったのかしょんぼりとしてしまう
「あ、あの…あんまり言わないであげて…??確かに事実だけど、それだけ心配してくれてるってことだし…!」
そうフォローしたつもりだったのだが、何故かユーリは止まって壁に手をついて項垂れてしまった
「あんた……何トドメ差してんのよ…」
「…………へ??」
頭に?を浮かべていると、レイブンが『天然ちゃんは怖いわ…』と小声で言ってるのが聞こえたが、わけがわからない
「……私、言っちゃいけないこと言っちゃった…?」
首を傾げるとみんなは顔を見合わせて苦笑いする
「とりあえず、ユーリの傍に行ってあげたらどうかしら?」
ジュディスの言葉に頷き、ユーリの傍へ行く
「ユーリ?」
「アリシア……オレ、そんなに冷静じゃねぇか…?」
凄く傷ついたような声で、ユーリは問いかけてくる
「え…??えー……っと……まぁ、もう少し落ち着いた方がいいんじゃないかなぁ……とは思うよ?…あ!でも!!私のこと心配してそうなっちゃうってこと、わかってるからね!!」
そう言うと、ユーリは苦笑いして頭を撫でてくる
何故撫でられたのかわからず首を傾げる
「ほら、いい加減行こうぜ?」
急かすようにユーリに手を引かれ、食堂へと向かった
ー更に一週間後ー
「ふぅ……終わった……。あ、これ、ユーリに回してください」
パラッと書類の束を取りに来た兵に渡す
フレンから説教を受けてから一週間、あれ以来みんなとあまり会えていない
本当に忙しくて、ユーリとも朝と夜しか会ってない
「ありがとうございます」
「それと、ユーリに書類渡してからでいいんですけど……なんでもいいから甘いもの持ってきて欲しいって、ジュディスに伝えて貰ってもいいですか?」
「かしこまりました」
失礼いたしました、とお辞儀して兵は出て行った
はぁ……と、ため息をついて椅子を背にもたれかかって、左腕で目を隠す
忙しすぎる…
だいぶ慣れてきたとはいえ、私にはまだ量が多い
でも、このくらいの量で弱音を吐いていられない
きっとユーリたちの方が、もっともっと量が多いから
エステル達も忙しいのだろうけど、それでもたまに顔を出してくれる
だが、フレンは本当に忙しいんだろう
あれ以来本気で一度も会っていない
ユーリは本当に時々勝手に抜け出して来るけど、それを探しに来るのはレイヴンだし…
「……アリシア?」
「っ!?ふぁっ!?ユ……きゃぁっ!?」
突然声が聞こえて慌てて振り向こうとしたらバランスを崩して椅子から落ちてしまった
「おっと…んなに驚かねぇでくれよ…」
来る筈の傷みはなく、代わりに抱きしめられる感覚がした
顔をあげると、少し呆れた顔をしたユーリが見下ろしていた
どうやらユーリが受け止めてくれたみたいだ
「だって…!いきなりだったから…!」
「ん?ちゃんとノックしてから入ったんだが…それに、何度か声かけてたし」
「……え?」
「お前がジュディに甘いもの持ってきて欲しいって頼んでたって聞いたから、オレが持ってきてみりゃ返事ないし、椅子に寄っかかったまんま動かねぇし」
ちょっと心配そうに頬を除きながら言ってくる
確かに、さっきまでなかったクッキーとティーポットが置いてある
「あ、あはは……ちょっと考え事してたから…」
頬を掻きながら苦笑いする
「考え事?」
「最近、フレンの『ユーリっ!君はまた…!!』を聞いてないなぁって」
イタズラそうな顔をして言えばユーリは少し不機嫌になる
「なんだよ?そんなにフレンに会いたいのか?」
「なんでそうなるの……レイヴンだと、ユーリ連れ戻すの途中で諦めちゃうから言ってるの。一緒に居てくれようとするのは嬉しいけど、執務さっさと終わらせてから来てくれた方が嬉しい」
ふぃっと顔を背けながら言う
「…アリシア、最後のもう一回」
「へ?」
ポカーンとしてユーリを見上げると、ちょっと嬉しそうな顔をして、もう一回言って?と頼んでくる
本当に機嫌取るのがすごく簡単だなぁ…と心の中で苦笑いする
「まったくもう……抜け出して来るよりも執務終わらせてから来てくれた方が嬉しいよ」
次は笑顔で頬に軽くキスしながら言った
すると少しムッとして
「キスしてくんならさ…」
そう言いながら私の顎を持って触れるだけのキスをしてきた
「こっちの方がいいんだろ?」
ニヤッと悪戯っぽく笑ってそう言ってくる
……そういえば先週、そんなこと言った気がする…
「もう……それよりも、戻らなくていいの?」
「ん、もうちょい居させてくれ」
そう言ってギュッと抱きしめてくる腕に力が入っている
「私は別に構わないけ」
「良くないだろっ!?」
バンッという音が響いてくると同時にフレンが……って、先週も同じことがあったよね……
「うげっ!?フレンっ!?」
「君に書類を持っていったらレイヴンさんからアリシアのところから帰って来ないと言われたから来てみれば…!!
アリシアも、さっさと帰らせてくれっ!」
うわぁ……フレン怒ってる……
「全く!僕にばかり執務を押し付けてくるから最近全く休めていないというのに、これ以上心配事を増やさないでくれっ!!」
「ばっ!?フレンっ!!!」
私から離れてフレンの元へ行くと、何かヒソヒソと話していたがそんなことしなくてもバレバレですよ…?
フレンが最近中々来ないのはそうゆうことね……
「ユーリ?」
「っ!?な、なんだ?アリシア…?」
「ちょっとここ、座りましょうか?」
ニッコリと有無を言わさない笑顔で言うとユーリは渋々、私の前に座る
小一時間程ユーリに説教した後、一週間会うの禁止っ!と言って、初めてここに来た時に通された部屋にフレンにやらせようとしていた書類の半分を持って閉じ篭ったのは言うまでもないかもしれない
…会うのを許すまで、部屋の前で何度も『アリシアーっ!』と呼ばれるのはちょっとうるさかった
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