第1章
Name Change
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〜目覚〜
ーユーリsideー
アリシアが大怪我を負ってから、半月が過ぎた
……未だに、目を覚ます気配がない
あの時、相当な量の血が流れてしまったのだろう
何故、もっと早くに助けられなかったのだろうか……
そんな罪悪感だけが、胸を支配する
「……アリシア………早く目ぇ覚ましてくれよ………」
手を握ったまま、ボブっとベットに顔を埋める
少し顔をあげると、目の前にはアリシアの顔が見える
体を起こして、彼女の隣に寝そべる
赤く、綺麗な長髪は手に取ると、するっと指の間をすり抜けていく
真っ白な肌に細い手足…綺麗に整った顔立ち、そして、ジュディほどとは言わないが、その身体にしてはそこそこ胸がある
かと言って太っているわけでもなく、むしろスラッとしている
何を食べたらこんな身体になるのか知りたい
本当に、それだけアリシアは綺麗だ
本人は背が低いことを気にしているが、オレにはそんなこと関係ない
いやむしろこのくらいの身長差がいい
小さくて、誰が見ても美人で、オレの腕の中に納まる大きさで…何よりも、守りたいと思える存在
そんなの、アリシア以外、この世界探し回っても誰一人としていねぇ
「……アリシア……」
名前を呼びながら、そっと頬を撫でる
…この半月、名前呼んだり、抱きしめたりしてみたが、キスだけは一度もしなかった
…それでも、オレの中で我慢っていうものが、もう出来なくなっていたわけで
軽く身体を起こして、アリシアの顔が目の前に来るように、自分の身体を動かす
頬に手を添えたまま
唇に、触れるだけのキスをする
相変わらず、柔らかくて
…離したくなくなる
が、アリシアが息が出来なくなってしまうのも嫌なので、少ししてからゆっくりと離れる
離れて、頬を撫でていた時だった
「……ん…………ぅ……」
「……!?アリシア……っ?!」
小さな呻き声と同時にゆっくりと、アリシアの目が開かれる
「ぅっ……ぁ…………ゆ……り………?」
掠れた声で、微かにだったが、オレの名前を呼ぶ
「アリシア…っ!!よかっ……た…っ!!」
ガラにもないが今まで溜め込んだものが一気に決壊したらしく、目から涙が流れる
見られたくねーからアリシアに抱きついて顔を隠す
顔を隠したところで、体は震えてっから泣いてるのなんてバレバレだろうが……
「……ごめん……ね………ゆー…り………」
小さな声でそう言って、まだ力が入っていないであろう手で、ゆっくりとオレの頭を撫でてくる
よくよく考えるとこうして彼女に撫でられるのは初めてな気がする
だが、今のオレにはそんな事考えている余裕なんてなくて
抱きしめる腕に少し力が入る
アリシアが愛おしくて
離したら消えてしまいそうで
またいなくなるのが怖くて
また、目を覚まさなくならないか不安で
それだけで自然と強く抱きしめてしまう
少し痛いかもしれないが、今のオレには手加減なんて出来なかった
「……?ゆーり…?」
何も言わないオレを心配したのか、少し不安そうな声で呼んでくる
「…アリシア……」
「……ゆーり………だいすき」
その言葉に驚いて顔を上げると、アリシアは目覚めたばかりだからかまだ少し虚ろな目をしているが、しっかりとオレを見て微笑んでいる
傷は治っているとはいえ、まだ痛い筈なのに…
オレのためにと笑顔をつくる彼女がどうしようもないくらいに好きで、愛おしくて
完全に溺れきっているんだ、アリシアに
言葉で返す変わりに深く口付けをする
今はきっと掠れた声しか出ないから
あまり体に負担掛けないようにいつもよりも少し早く唇を離した
「ふっ……ぁ…」
毎回毎回、その反応が可愛過ぎるんだって…
本気で襲いそうになるからそろそろ慣れてくれと、心の中で悪態を付きながら、苦笑いする
「はっ…アリシア、愛してる」
微笑んでそう言ってやれば、ようやく笑ったとでも言いたそうな目を一瞬したが、すぐに嬉しそうに微笑む
「アリシア、おはよう」
「……おはよう、ゆーり…」
再び抱きしめながら、アリシアにそう言うと、彼女もオレの背中に手を回してくる
…久しぶりだな、アリシアにこうして抱きつかれるのは
久しぶりなことが全て嬉しい
そっと頭を撫でる
もう離さないように、少し腕に力を入れて、抱きしめながら
「……ユーリ……エステリーゼたち……よばなくて、いいの…?」
おずおずとアリシアはそう聞いてくる
「……オレ、こっから動きたくねぇ」
少し間を空けてそう答えた
…アリシアの事だから、駄目とか言われんだろうなぁ…
「…そっか………わたし…も……もうすこし……このままがいい…な…/////」
そんな風に言いながら、よりアリシアの方から身を寄せてくるから、本気で理性が飛びそうになった
いや、まぁ、流石に怪我人相手に襲ったりなんて死んでも出来ないが…
「んじゃ、このまま二人でもう一眠りするか?」
優しくそう聞くと、コクンと大きく頷く
そっと頭を撫でていると、まだ眠かったようですぐに規則正しい寝息が聞こえてくる
「………おやすみ、アリシア」
そう呟いて、オレもゆっくり目を閉じた
この後、起きてからすぐにフレンたちにめっちゃくちゃ怒られた
ーそれから一週間後(アリシアside)ー
「うーんっ!!ようやく動けるよ!リンクっ!」
「ワンッ!」
ベッドの端に腰掛けて背伸びをしているとリンクが膝の上に乗ってきた
私が目を覚ましてから一週間、色々あった
一日に一回お医者様の検査受けないといけなかったり、部屋(いや、ベッドか)から出られないし…
ユーリはフレンに連れてかれちゃうし
エステリーゼ達もあの日以来、評議会の議員が相当な数変わったらしいからすごい忙しそうだし
ジュディスも他にやらないといけないことが出来てしまったらしくて、話し相手がリンクとラピードしかいなかった
肝心なその二匹もすぐにどっかに行ってしまうのだか…
だから最近はほぼ一人で過ごしてる
正午丁度と、三時、夜にはユーリがいてくれるけど、圧倒的に一人の時間が長い
…流石に寂しいよ、これは
退屈しないようにって、ユーリやレイヴン、フレンが書庫から本を沢山持ってきてくれるけど、殆ど読み切ってしまった
そうそう、これはユーリから聞いたんだけどお父様が評議会に復帰なされたらしい
私のお見舞いにも何度かいらっしゃって、その度に泣かれてしまった
…まぁ、ユーリも未だに泣きそうになっているから、そこは慣れている
が、今日はそのお父様も他のご用事で忙しいらしい
つまり、現在進行形で暇なのだ
今日からもう動いても大丈夫だと言われているから少し庭に出たい
まぁ一人じゃ出れないね…
一週間、実際には一ヶ月くらい歩いていないわけだ
目覚めてすぐは、うまく喋れないうえに、一人じゃ何も出来なかったのが、遠い昔のような気がした
絶対一人だとコケる、というか立てるのだろうか…
「ワフン!」
「あっ!リンクっ!…もう、本当自由な子ね…」
恐らくラピードの元へ行ったのだろう
何処に居てもリンクの性格は変わらなさそうだ
「さて…と!」
思い切って床に足を付けてみる
本当はスリッパ履いた方がいいのだろうけど、コケる気がする
ヒヤッとした冷たい感覚が伝わってくる
「せー…の……っ!?ひゃっ!?」
案の定上手く力が入らなくて転んでしまった
だが、痛みはこない
誰かに受け止められたようだ
すぐに誰かは検討がついた
「ったく、一人で何してんだよ…」
「ユーリっ!」
私を受け止めてくれた本人は呆れたような顔をして私を見ていた
「オレが来るまで待ってろって、朝言ったばっかじゃねーか」
「だって…暇なんだもん」
ムスッとしてユーリに訴える
「絶対安静って言われたから仕方ねーだろ」
はぁ…っとため息を付きながら頭を撫でてくる
「むぅ……」
ポスっとまたベッドに戻される
「今日、もう少しで終わっからそれまで待っててくれ」
「?いつもの休憩じゃないの?」
「まだ正午前だっての…」
え!?と時計を見ると確かにまだ正午前…いや前と言うか後三時間ほど時間がある
「今日正午前には急ぎの執務全部終わりそうなんだよ。さっと終わらせようと思ったけど、なんか嫌な予感してお前んとこ来たの」
「あ、あはは……ユーリの嫌な感は当たるからねぇ……」
「笑い事じゃねぇよ馬鹿、また怪我したらどうするつもりだったんだよ」
苦笑いしていると、少し怒った顔でコツンと、軽く頭を小突かれる
あの日以来、ユーリの心配性度が増した…というか増しすぎて困ってる
「そんな簡単に怪我しないと思うんだけどなぁ…」
「そう言って一昨日、本取るのに横着してあの大量の本ぶっ倒れてきて窒息しかけてたのは何処の誰だよ?」
そう言ってベッドから少し離された位置に置いてある本の山を指さす
一昨日までは私がすぐに取れる位置にあったのだけど……
真ん中らへんの本をめんどくさいからってそのまま引き抜こうとしたら、案の定本が崩れてきた
いや本当にあれは死ぬかと思った…
「うっ……」
何も言い返せなくて言葉に詰まり、目をそらす
「頼むからもう少し待っててくれよ」
優しく頭を撫でながら、心配そうな顔して言ってくるから渋々了承した
「ユーリっ!!君はまた勝手に抜け出して…っ!!!」
バタンっ!と大きな音をたててフレンが扉から物凄く不機嫌な顔をして入ってきた
うわっ、もう来やがった、とフレンに聞こえないように小声で言うと軽く頬にキスして、また後でと言ってすっと離れていく
「へいへい、もう戻るっつーの」
「まったく…今日後少し頑張ればしばらくは何もないっていうのに……」
頭を抱えながらフレンはブツブツと文句を言いながらユーリと共に部屋を出て行った
「はぁ……三時間…か…」
ボスっとそのまま後ろに倒れ込む
もうこのままユーリが来るまで寝てしまえ
他にやる事もないのだから
そんなことを考えていると徐々に瞼が重くなってきて
そのまま意識を手放した
ーユーリsideー
「Zzzzz……」
「……はぁ……ったく、このお嬢さんはおとなしく待ってるのはいいんだけどなぁ…」
「ワ…ワフゥン……」
「クゥ………」
二時間程で執務を終わらせきって急いで戻って来てみれば、アリシアはラピードとリンクを抱えて眠っていた
二匹とも抱きしめる腕が強いのか、少し苦しそうにしている
「おーい、アリシア、起きろっての。ラピードとリンクが苦しがってるぞ?」
「にゅぅ……ゆーりー………」
「ワフンッ!?」
「キャンッ!?」
肩を揺すって声をかけるがまったく起きない
その上更に力が強まったらしく、ジタバタと二匹は暴れだした
っつーか、ラピードとリンクをオレを間違えてんのか……?
「ったく……」
苦笑いしながらチュッとわざと音をたててキスした
何故だか知らんがそうすりゃ起きるんだよなぁ…
「ん……にゃぁ……?……れ…?ユーリ……??」
うっすらと目を開けてオレを見て不思議そうな顔をする
多分抱きついてるつもりでいるからだろう
「おはよ、アリシア。ラピードとリンク、いい加減離してやれって」
トロンとした目をしていたがラピードとリンクの鳴き声が聞こえると慌てて腕を退ける
「わっ…!ご、ごめんねっ!!ラピード、リンク…っ!」
「ワフゥ……」
「クゥ……」
ようやく解放されて二匹はほっとしている
「ユーリだと思ってた……」
体を起こしながからアリシアは言う
「おいおい、オレ執務中だったんだぜ?」
「いつもみたいに抜け出して来たのかと…」
ため息をついて腰に手を当て項垂れる
オレ、さっきさっさと終わらせてから戻るっつったよな……?
「オレとラピード達を間違えんなよな…」
「あぅ……ごめん……」
顔を逸らしながらアリシア気まづそうにする
そんなことオレが許す筈はなく、アリシアの前にしゃがんで両手で頬を包み無理やり目線を合わせる
「つーか、ラピードとリンクをオレと間違える程、オレお前のこと放置した覚えねぇんだけど?そんなにオレ不足か?」
「っ!////」
ニヤっと笑って言うと顔を真っ赤にさせる
ホントに可愛い、可愛すぎる
「っ~~っ!/////」
恥ずかしいんだか、足をバタバタさせて逃げようとしているが、オレにかなうはずはなく
「にゃっ!?//」
そのままベッドに逆戻りするが……
「っ//その、『にゃ』っていうのやめろ…//マジで襲いそうになっから//」
左手で口元を隠しながら少し顔をそらす
アリシアはというとこの状態そのものが恥ずかしいらしく耳まで赤くなってる
自分で言うのもあれだが、一回二回とかじゃなくかなり押し倒してる気がする
いい加減慣れないものかねとは思うものの、可愛いからいいか
「っと、こんなことするつもりで来たんじゃねーよ、ほら、庭出たいんだろ?」
このままじゃホントに襲いかねない
さっとアリシアの上から退いて手を差し出す
「…!うん!」
パァっと嬉しそうに笑ってオレの手をとる
その手をしっかり握って引っ張る
「あー、服、どうする?」
「ん…着替えた方がいい……のかな?」
彼女が着ているのは寝巻き
オレ的には気しないが、周りが何を言うかわからないし……
「まぁ、だな。動きやすい方がいいよな?」
そう言ってクローゼットを開ける
中は彼女にと、オレが選んで買った服で溢れている
執務の途中でしょっちゅう抜け出してあーでもないこーでもないっと選んだものだ
フレン達には絶対に言うなって言ってたあったが、あっさりジュディスに言われてしまった
まぁ、別に隠すつもりなど元々無かったが
「ん、これでいっか」
取り出したのは膝丈の赤を基調としたワンピース
ボタン前だし、この方がいいだろう
「ほい、これなら一人でも着られんだろ?」
「うん!ありがとう!」
アリシアはそう言ってワンピースを受け取る
「…オレ、外で待ってっから、終わったら呼んでくれ」
流石に着替えてる時まで一緒にいるわけには……
と、思っていたのだが、袖を掴まれて動けなくなる
「……アリシア?」
引き止めたのは、どっからどう見てもアリシアだ
俯いていて、表情はよく見えないが、手が少し震えている
「………………いて…………」
「……ん???」
「………傍………いて………?」
掠れた声でそう言ったのが聞こえた
当然ながら、オレの頭はフリーズした
「………一人………やだから………お願い…」
上目遣いでオレを見詰めながら、アリシアは言う
その目には若干、涙で潤んでいた
「ーーーーっ!//////…あー、わかった、わかったから、んな目で見詰めてくんなっての…//」
にやけかけた口元を左手で隠しながら、頭を撫でる
すると、とても嬉しそうにアリシアは笑う
……お察しだろうが、この可愛さに負けましたよ……
なんでこんなに可愛いんだよ…
「…んじゃ、オレ後ろ向いてるから、終わったら呼んでくれ」
「ん…わかった」
クルっと後ろを向いて着替え終えるのを待つ
…大丈夫、煽って来なきゃ耐えられる
……多分……
ーアリシアsideー
「ユーリ、着替え終わったよ?」
着替え終わり、声をかけるとユーリは少し間をおいて振り返った
「ん、やっぱアリシアは何着てても可愛いわ」
そう言って頬にキスしてくる
「えへへ…ありがとう」
ニコッと笑えばユーリも優しく微笑む
「さてと、行きますかね」
そう言ってヒョイっと私をお姫様抱っこする
「……??何処に行くの??」
ユーリの首に手を回しながら首を傾げる
「庭だよ。あそこなら転んだって怪我しにくいだろうし、人も少ないだろ?」
ニコッと笑って、ユーリはそう言うと、真っ直ぐ扉の方へと歩いて行く
「……このまま、行くの……?」
「ん?そのつもりだけど……嫌か?」
「………だって、すごく目立つから……」
そう言うと、私が言いたいことがわかったのか、あぁ…と呟く
んーー、っとしばらく唸った後、今度は窓の方へと歩き始める
「…なら、飛ぶとしますかね」
そう言って、私を片手で抱きながら窓を開ける
「フレンに怒られちゃいそうだけどね」
苦笑いして肩をすくめる
でも、他に方法はないのだ
…正確にはテレポートっていう方法もあるけど、距離的にそれを使うような距離じゃない
「…しっかり捕まっててくれよ?おじょーさん」
いたずらっ子の様な笑みを浮かべたユーリに、微笑んで答えると同時に、彼は窓から飛び出した
一瞬降下する感覚に襲われるが、次の瞬間には上昇していた
屋根の上まで飛び上がると、庭の方へとユーリは身体を傾けた
「………こうして空飛ぶの、楽しいかも」
ポツリとそう呟く
「はっはっは、アリシアがこうしたいっつーんだったら、何時だって飛んでやるよ」
そう言いながら、ユーリは軽く頬にキスしてくる
「やったぁ!……でも、ちゃんと執務終わらせてからにして欲しいなぁ」
クスッと笑うと、ちょっぴり不機嫌そうな顔をする
嘘、と言いながら、今度は私がユーリの頬にキスをする
それだけで、すぐに機嫌が治る
単純だなぁ、と思うが、それはそれで嬉しい
そんなやり取りをしていると、いつの間にか庭に降り立っていた
「ほい、到着っと」
ユーリの足が地面につくと、先程まで見えていた翼が見えなくなる
「本当、こんなに綺麗なとこなのに誰もいないね」
キョロキョロと辺りを見回しながら言う
「でも、ま、その方が都合いいだろ?」
「うん!」
ニコッと笑うとゆっくりと地面に下ろしてくれる
地面に足を付けて立つこと自体久々だから、思うようにバランスが取れず、また倒れそうになる
「わっ…」
「っと…まだちと厳しいか?」
私を片手で支えながらユーリはそう聞いてくる
正直かなり厳しい
が、もうじっとしてるのは飽きたから早く動き回れるようになりたい
「ううん、大丈夫だよ」
「そうか?…ま、とりあえず立つことから練習した方がいいだろ」
「あはは…だよね」
立てないことに思わず苦笑する
どうやら足の怪我が一番酷かったみたいで、目が覚めても一週間大人しくしていろと言われたのはそれが原因らしい
まだ上手く足に力が入らないから、殆どユーリに体を預けきってしまう
「…やっぱキュモールの野郎死刑にしとくべきだったか…」
「耳元で恐ろしいこと呟かないでよ……確かにムカつくけど、そんなこと言い出したらキリがないもん」
軽くユーリの頭を小突いて言うと、それもそうだけど…とブツブツ言い出した
「もう……よっ…と……ぅにゃっ!?」
そんなユーリをおいといて一人、もう一度立とうとする
が、一瞬立てたと思ったものの、すぐ倒れてしまった
「うぉっ!?……ったく…頼むから急にはやめてくれ…」
「うぅ……あ!でも一瞬立てたよ!」
ユーリの腕のなかで、ニコニコと笑って言えば苦笑して頭を撫でてくる
「あ、居たわよバカップル」
「あっ!本当です!」
リタとエステリーゼの声が聞こえて振り向くと、そこには二人だけでなくジュディスとカロル、レイヴンの姿もあった
「みんな揃ってどうしたんだよ?」
不思議そうにユーリが首を傾げながら聞く
「今日、みんなやること終わるのが早かったから、アリシアが歩けるように練習するの手伝おうと思ってさ!」
「んで、みんなで部屋行ったら居ないもんだから、あちこち探し回っちゃったわけよ」
カロルとレイヴンがそう言いながら、ジト目でユーリを見る
「ったく、こんなとこでもイチャついてんじゃないわよ」
はぁ、っとため息をつきながら、リタはそう言った
「あー、いや…そうゆうわけじゃねぇよ。アリシア、今一人じゃ立つのも出来ねぇんだよ」
苦笑いしながらユーリは答えた
「あら、そうだったのね。納得だわ」
ジュディスは傍に来ると、そっと私の頭を撫でてくる
「痛みはしないのかしら?」
心配そうに聞いてくる
「大丈夫、痛くはないよ」
ニコッと微笑んでそう答える
「アリシア、無理は駄目ですからね!少しずつ、ゆっくり練習していきましょう?私たちも手伝いますから」
優しい微笑みながら、エステリーゼは隣に来る
「ありがとう、えっと……エス、テル…?」
少し首を傾げながらそう言うと、エステリーゼ………いや、エステルはとても嬉しそうに笑う
「ジュディス、聞きました!?今!今、アリシアがエステルって呼んでくれたんですよ!」
「ふふ、聞いていたわ。まだ少し、ぎこちなさそうだけれども」
微笑みながら、ジュディスはエステルに言った
「これから慣れていくでしょ、この子にしては大分進歩したんじゃない?」
いつの間に目の前に来ていたのか、リタが顔を覗き込みながら言う
「おいおい、そんなに囲まれたら練習出来ねぇっての」
ユーリの一声で、三人とも少し離れる
「ったく…んじゃ、もう一回始」
「その前にユーリ、ちょっと話をしようか?」
突然聞こえた、今この場に居ないはずのフレンの声にユーリの肩から後ろを見ると、あからさまに怒っているフレンが目に入った
「うぉっ!?フレン、いつからそこに……って、話ってなんだよ?」
驚きながらもユーリはそう聞き返す
……私、なんのことかおおよそ検討ついちゃったかも……
「まさか、忘れました、なんて言うつもりはないだろうね?」
剣の柄にてをかけながら、フレンはゆっくり歩み寄ってくる
「やっべ!!ジュディっ!アリシア頼むっ!!」
「ええ、任せて」
私をジュディスに預けるとフレンがいる方向と逆方向へ逃げ出す
「逃がさないからな!ユーリっ!!」
思い切り剣を抜くと、逃げて行ったユーリを追いかける
「あーぁ…始まっちゃったよ…鬼ごっこ」
「え……?あれ、鬼ごっこなの…?」
どっからどう見ても、ユーリが襲われてるようにしか見えないのだけれども…
「あの二人、しょっちゅうあーやってなんかある事にユーリが逃げ回って、フレンが剣持って追いかけ回してるのよ」
「理由は全部くっだらないものだけどね」
カロルとレイヴン、リタはそう言って呆れたようにため息をつく
エステルは苦笑いしながらそんな二人を見詰めていた
「でも、なんでフレンはユーリ追いかけ回してるんだろう」
ふとカロルが首を傾げる
「ふふ、きっとアリシアの為に窓から外に出て、ここへ来たのがいけなかったんじゃないかしら?」
私を見ながら、ジュディスは笑う
「んー…そうかもしれないね」
肩をすくめながら、ユーリとフレンの方に目を向ける
普通なら剣を持っていないユーリの方が不利なはずだが、ここから見る限りだとそんなこともなさそうだ
むしろ、ユーリはどこか楽しそうに見える
「んで?肝心なあいつはあんなんだけど、どうすんのよ?」
「俺らだけで手伝ってあげりゃいーんじゃない??アリシアちゃんも、そろそろ大人しくしてるのは退屈でしょーよ」
リタの質問に、レイヴンがさらっと答える
「そうね、じゃ勝手に手伝っちゃいましょ」
そう言ってジュディスもすでにやる気満々な様子だ
「ありがとう!みんな!」
こうしてその日はジュディス達が手伝ってくれた
付きっきりで何時間も手伝ってくれたおかけで、どうにか一人で立てるところまではいった
ユーリとフレンは、途中でリタにうるさい!と怒られ、二人とも頭から水を被せられていた
ーユーリsideー
アリシアが大怪我を負ってから、半月が過ぎた
……未だに、目を覚ます気配がない
あの時、相当な量の血が流れてしまったのだろう
何故、もっと早くに助けられなかったのだろうか……
そんな罪悪感だけが、胸を支配する
「……アリシア………早く目ぇ覚ましてくれよ………」
手を握ったまま、ボブっとベットに顔を埋める
少し顔をあげると、目の前にはアリシアの顔が見える
体を起こして、彼女の隣に寝そべる
赤く、綺麗な長髪は手に取ると、するっと指の間をすり抜けていく
真っ白な肌に細い手足…綺麗に整った顔立ち、そして、ジュディほどとは言わないが、その身体にしてはそこそこ胸がある
かと言って太っているわけでもなく、むしろスラッとしている
何を食べたらこんな身体になるのか知りたい
本当に、それだけアリシアは綺麗だ
本人は背が低いことを気にしているが、オレにはそんなこと関係ない
いやむしろこのくらいの身長差がいい
小さくて、誰が見ても美人で、オレの腕の中に納まる大きさで…何よりも、守りたいと思える存在
そんなの、アリシア以外、この世界探し回っても誰一人としていねぇ
「……アリシア……」
名前を呼びながら、そっと頬を撫でる
…この半月、名前呼んだり、抱きしめたりしてみたが、キスだけは一度もしなかった
…それでも、オレの中で我慢っていうものが、もう出来なくなっていたわけで
軽く身体を起こして、アリシアの顔が目の前に来るように、自分の身体を動かす
頬に手を添えたまま
唇に、触れるだけのキスをする
相変わらず、柔らかくて
…離したくなくなる
が、アリシアが息が出来なくなってしまうのも嫌なので、少ししてからゆっくりと離れる
離れて、頬を撫でていた時だった
「……ん…………ぅ……」
「……!?アリシア……っ?!」
小さな呻き声と同時にゆっくりと、アリシアの目が開かれる
「ぅっ……ぁ…………ゆ……り………?」
掠れた声で、微かにだったが、オレの名前を呼ぶ
「アリシア…っ!!よかっ……た…っ!!」
ガラにもないが今まで溜め込んだものが一気に決壊したらしく、目から涙が流れる
見られたくねーからアリシアに抱きついて顔を隠す
顔を隠したところで、体は震えてっから泣いてるのなんてバレバレだろうが……
「……ごめん……ね………ゆー…り………」
小さな声でそう言って、まだ力が入っていないであろう手で、ゆっくりとオレの頭を撫でてくる
よくよく考えるとこうして彼女に撫でられるのは初めてな気がする
だが、今のオレにはそんな事考えている余裕なんてなくて
抱きしめる腕に少し力が入る
アリシアが愛おしくて
離したら消えてしまいそうで
またいなくなるのが怖くて
また、目を覚まさなくならないか不安で
それだけで自然と強く抱きしめてしまう
少し痛いかもしれないが、今のオレには手加減なんて出来なかった
「……?ゆーり…?」
何も言わないオレを心配したのか、少し不安そうな声で呼んでくる
「…アリシア……」
「……ゆーり………だいすき」
その言葉に驚いて顔を上げると、アリシアは目覚めたばかりだからかまだ少し虚ろな目をしているが、しっかりとオレを見て微笑んでいる
傷は治っているとはいえ、まだ痛い筈なのに…
オレのためにと笑顔をつくる彼女がどうしようもないくらいに好きで、愛おしくて
完全に溺れきっているんだ、アリシアに
言葉で返す変わりに深く口付けをする
今はきっと掠れた声しか出ないから
あまり体に負担掛けないようにいつもよりも少し早く唇を離した
「ふっ……ぁ…」
毎回毎回、その反応が可愛過ぎるんだって…
本気で襲いそうになるからそろそろ慣れてくれと、心の中で悪態を付きながら、苦笑いする
「はっ…アリシア、愛してる」
微笑んでそう言ってやれば、ようやく笑ったとでも言いたそうな目を一瞬したが、すぐに嬉しそうに微笑む
「アリシア、おはよう」
「……おはよう、ゆーり…」
再び抱きしめながら、アリシアにそう言うと、彼女もオレの背中に手を回してくる
…久しぶりだな、アリシアにこうして抱きつかれるのは
久しぶりなことが全て嬉しい
そっと頭を撫でる
もう離さないように、少し腕に力を入れて、抱きしめながら
「……ユーリ……エステリーゼたち……よばなくて、いいの…?」
おずおずとアリシアはそう聞いてくる
「……オレ、こっから動きたくねぇ」
少し間を空けてそう答えた
…アリシアの事だから、駄目とか言われんだろうなぁ…
「…そっか………わたし…も……もうすこし……このままがいい…な…/////」
そんな風に言いながら、よりアリシアの方から身を寄せてくるから、本気で理性が飛びそうになった
いや、まぁ、流石に怪我人相手に襲ったりなんて死んでも出来ないが…
「んじゃ、このまま二人でもう一眠りするか?」
優しくそう聞くと、コクンと大きく頷く
そっと頭を撫でていると、まだ眠かったようですぐに規則正しい寝息が聞こえてくる
「………おやすみ、アリシア」
そう呟いて、オレもゆっくり目を閉じた
この後、起きてからすぐにフレンたちにめっちゃくちゃ怒られた
ーそれから一週間後(アリシアside)ー
「うーんっ!!ようやく動けるよ!リンクっ!」
「ワンッ!」
ベッドの端に腰掛けて背伸びをしているとリンクが膝の上に乗ってきた
私が目を覚ましてから一週間、色々あった
一日に一回お医者様の検査受けないといけなかったり、部屋(いや、ベッドか)から出られないし…
ユーリはフレンに連れてかれちゃうし
エステリーゼ達もあの日以来、評議会の議員が相当な数変わったらしいからすごい忙しそうだし
ジュディスも他にやらないといけないことが出来てしまったらしくて、話し相手がリンクとラピードしかいなかった
肝心なその二匹もすぐにどっかに行ってしまうのだか…
だから最近はほぼ一人で過ごしてる
正午丁度と、三時、夜にはユーリがいてくれるけど、圧倒的に一人の時間が長い
…流石に寂しいよ、これは
退屈しないようにって、ユーリやレイヴン、フレンが書庫から本を沢山持ってきてくれるけど、殆ど読み切ってしまった
そうそう、これはユーリから聞いたんだけどお父様が評議会に復帰なされたらしい
私のお見舞いにも何度かいらっしゃって、その度に泣かれてしまった
…まぁ、ユーリも未だに泣きそうになっているから、そこは慣れている
が、今日はそのお父様も他のご用事で忙しいらしい
つまり、現在進行形で暇なのだ
今日からもう動いても大丈夫だと言われているから少し庭に出たい
まぁ一人じゃ出れないね…
一週間、実際には一ヶ月くらい歩いていないわけだ
目覚めてすぐは、うまく喋れないうえに、一人じゃ何も出来なかったのが、遠い昔のような気がした
絶対一人だとコケる、というか立てるのだろうか…
「ワフン!」
「あっ!リンクっ!…もう、本当自由な子ね…」
恐らくラピードの元へ行ったのだろう
何処に居てもリンクの性格は変わらなさそうだ
「さて…と!」
思い切って床に足を付けてみる
本当はスリッパ履いた方がいいのだろうけど、コケる気がする
ヒヤッとした冷たい感覚が伝わってくる
「せー…の……っ!?ひゃっ!?」
案の定上手く力が入らなくて転んでしまった
だが、痛みはこない
誰かに受け止められたようだ
すぐに誰かは検討がついた
「ったく、一人で何してんだよ…」
「ユーリっ!」
私を受け止めてくれた本人は呆れたような顔をして私を見ていた
「オレが来るまで待ってろって、朝言ったばっかじゃねーか」
「だって…暇なんだもん」
ムスッとしてユーリに訴える
「絶対安静って言われたから仕方ねーだろ」
はぁ…っとため息を付きながら頭を撫でてくる
「むぅ……」
ポスっとまたベッドに戻される
「今日、もう少しで終わっからそれまで待っててくれ」
「?いつもの休憩じゃないの?」
「まだ正午前だっての…」
え!?と時計を見ると確かにまだ正午前…いや前と言うか後三時間ほど時間がある
「今日正午前には急ぎの執務全部終わりそうなんだよ。さっと終わらせようと思ったけど、なんか嫌な予感してお前んとこ来たの」
「あ、あはは……ユーリの嫌な感は当たるからねぇ……」
「笑い事じゃねぇよ馬鹿、また怪我したらどうするつもりだったんだよ」
苦笑いしていると、少し怒った顔でコツンと、軽く頭を小突かれる
あの日以来、ユーリの心配性度が増した…というか増しすぎて困ってる
「そんな簡単に怪我しないと思うんだけどなぁ…」
「そう言って一昨日、本取るのに横着してあの大量の本ぶっ倒れてきて窒息しかけてたのは何処の誰だよ?」
そう言ってベッドから少し離された位置に置いてある本の山を指さす
一昨日までは私がすぐに取れる位置にあったのだけど……
真ん中らへんの本をめんどくさいからってそのまま引き抜こうとしたら、案の定本が崩れてきた
いや本当にあれは死ぬかと思った…
「うっ……」
何も言い返せなくて言葉に詰まり、目をそらす
「頼むからもう少し待っててくれよ」
優しく頭を撫でながら、心配そうな顔して言ってくるから渋々了承した
「ユーリっ!!君はまた勝手に抜け出して…っ!!!」
バタンっ!と大きな音をたててフレンが扉から物凄く不機嫌な顔をして入ってきた
うわっ、もう来やがった、とフレンに聞こえないように小声で言うと軽く頬にキスして、また後でと言ってすっと離れていく
「へいへい、もう戻るっつーの」
「まったく…今日後少し頑張ればしばらくは何もないっていうのに……」
頭を抱えながらフレンはブツブツと文句を言いながらユーリと共に部屋を出て行った
「はぁ……三時間…か…」
ボスっとそのまま後ろに倒れ込む
もうこのままユーリが来るまで寝てしまえ
他にやる事もないのだから
そんなことを考えていると徐々に瞼が重くなってきて
そのまま意識を手放した
ーユーリsideー
「Zzzzz……」
「……はぁ……ったく、このお嬢さんはおとなしく待ってるのはいいんだけどなぁ…」
「ワ…ワフゥン……」
「クゥ………」
二時間程で執務を終わらせきって急いで戻って来てみれば、アリシアはラピードとリンクを抱えて眠っていた
二匹とも抱きしめる腕が強いのか、少し苦しそうにしている
「おーい、アリシア、起きろっての。ラピードとリンクが苦しがってるぞ?」
「にゅぅ……ゆーりー………」
「ワフンッ!?」
「キャンッ!?」
肩を揺すって声をかけるがまったく起きない
その上更に力が強まったらしく、ジタバタと二匹は暴れだした
っつーか、ラピードとリンクをオレを間違えてんのか……?
「ったく……」
苦笑いしながらチュッとわざと音をたててキスした
何故だか知らんがそうすりゃ起きるんだよなぁ…
「ん……にゃぁ……?……れ…?ユーリ……??」
うっすらと目を開けてオレを見て不思議そうな顔をする
多分抱きついてるつもりでいるからだろう
「おはよ、アリシア。ラピードとリンク、いい加減離してやれって」
トロンとした目をしていたがラピードとリンクの鳴き声が聞こえると慌てて腕を退ける
「わっ…!ご、ごめんねっ!!ラピード、リンク…っ!」
「ワフゥ……」
「クゥ……」
ようやく解放されて二匹はほっとしている
「ユーリだと思ってた……」
体を起こしながからアリシアは言う
「おいおい、オレ執務中だったんだぜ?」
「いつもみたいに抜け出して来たのかと…」
ため息をついて腰に手を当て項垂れる
オレ、さっきさっさと終わらせてから戻るっつったよな……?
「オレとラピード達を間違えんなよな…」
「あぅ……ごめん……」
顔を逸らしながらアリシア気まづそうにする
そんなことオレが許す筈はなく、アリシアの前にしゃがんで両手で頬を包み無理やり目線を合わせる
「つーか、ラピードとリンクをオレと間違える程、オレお前のこと放置した覚えねぇんだけど?そんなにオレ不足か?」
「っ!////」
ニヤっと笑って言うと顔を真っ赤にさせる
ホントに可愛い、可愛すぎる
「っ~~っ!/////」
恥ずかしいんだか、足をバタバタさせて逃げようとしているが、オレにかなうはずはなく
「にゃっ!?//」
そのままベッドに逆戻りするが……
「っ//その、『にゃ』っていうのやめろ…//マジで襲いそうになっから//」
左手で口元を隠しながら少し顔をそらす
アリシアはというとこの状態そのものが恥ずかしいらしく耳まで赤くなってる
自分で言うのもあれだが、一回二回とかじゃなくかなり押し倒してる気がする
いい加減慣れないものかねとは思うものの、可愛いからいいか
「っと、こんなことするつもりで来たんじゃねーよ、ほら、庭出たいんだろ?」
このままじゃホントに襲いかねない
さっとアリシアの上から退いて手を差し出す
「…!うん!」
パァっと嬉しそうに笑ってオレの手をとる
その手をしっかり握って引っ張る
「あー、服、どうする?」
「ん…着替えた方がいい……のかな?」
彼女が着ているのは寝巻き
オレ的には気しないが、周りが何を言うかわからないし……
「まぁ、だな。動きやすい方がいいよな?」
そう言ってクローゼットを開ける
中は彼女にと、オレが選んで買った服で溢れている
執務の途中でしょっちゅう抜け出してあーでもないこーでもないっと選んだものだ
フレン達には絶対に言うなって言ってたあったが、あっさりジュディスに言われてしまった
まぁ、別に隠すつもりなど元々無かったが
「ん、これでいっか」
取り出したのは膝丈の赤を基調としたワンピース
ボタン前だし、この方がいいだろう
「ほい、これなら一人でも着られんだろ?」
「うん!ありがとう!」
アリシアはそう言ってワンピースを受け取る
「…オレ、外で待ってっから、終わったら呼んでくれ」
流石に着替えてる時まで一緒にいるわけには……
と、思っていたのだが、袖を掴まれて動けなくなる
「……アリシア?」
引き止めたのは、どっからどう見てもアリシアだ
俯いていて、表情はよく見えないが、手が少し震えている
「………………いて…………」
「……ん???」
「………傍………いて………?」
掠れた声でそう言ったのが聞こえた
当然ながら、オレの頭はフリーズした
「………一人………やだから………お願い…」
上目遣いでオレを見詰めながら、アリシアは言う
その目には若干、涙で潤んでいた
「ーーーーっ!//////…あー、わかった、わかったから、んな目で見詰めてくんなっての…//」
にやけかけた口元を左手で隠しながら、頭を撫でる
すると、とても嬉しそうにアリシアは笑う
……お察しだろうが、この可愛さに負けましたよ……
なんでこんなに可愛いんだよ…
「…んじゃ、オレ後ろ向いてるから、終わったら呼んでくれ」
「ん…わかった」
クルっと後ろを向いて着替え終えるのを待つ
…大丈夫、煽って来なきゃ耐えられる
……多分……
ーアリシアsideー
「ユーリ、着替え終わったよ?」
着替え終わり、声をかけるとユーリは少し間をおいて振り返った
「ん、やっぱアリシアは何着てても可愛いわ」
そう言って頬にキスしてくる
「えへへ…ありがとう」
ニコッと笑えばユーリも優しく微笑む
「さてと、行きますかね」
そう言ってヒョイっと私をお姫様抱っこする
「……??何処に行くの??」
ユーリの首に手を回しながら首を傾げる
「庭だよ。あそこなら転んだって怪我しにくいだろうし、人も少ないだろ?」
ニコッと笑って、ユーリはそう言うと、真っ直ぐ扉の方へと歩いて行く
「……このまま、行くの……?」
「ん?そのつもりだけど……嫌か?」
「………だって、すごく目立つから……」
そう言うと、私が言いたいことがわかったのか、あぁ…と呟く
んーー、っとしばらく唸った後、今度は窓の方へと歩き始める
「…なら、飛ぶとしますかね」
そう言って、私を片手で抱きながら窓を開ける
「フレンに怒られちゃいそうだけどね」
苦笑いして肩をすくめる
でも、他に方法はないのだ
…正確にはテレポートっていう方法もあるけど、距離的にそれを使うような距離じゃない
「…しっかり捕まっててくれよ?おじょーさん」
いたずらっ子の様な笑みを浮かべたユーリに、微笑んで答えると同時に、彼は窓から飛び出した
一瞬降下する感覚に襲われるが、次の瞬間には上昇していた
屋根の上まで飛び上がると、庭の方へとユーリは身体を傾けた
「………こうして空飛ぶの、楽しいかも」
ポツリとそう呟く
「はっはっは、アリシアがこうしたいっつーんだったら、何時だって飛んでやるよ」
そう言いながら、ユーリは軽く頬にキスしてくる
「やったぁ!……でも、ちゃんと執務終わらせてからにして欲しいなぁ」
クスッと笑うと、ちょっぴり不機嫌そうな顔をする
嘘、と言いながら、今度は私がユーリの頬にキスをする
それだけで、すぐに機嫌が治る
単純だなぁ、と思うが、それはそれで嬉しい
そんなやり取りをしていると、いつの間にか庭に降り立っていた
「ほい、到着っと」
ユーリの足が地面につくと、先程まで見えていた翼が見えなくなる
「本当、こんなに綺麗なとこなのに誰もいないね」
キョロキョロと辺りを見回しながら言う
「でも、ま、その方が都合いいだろ?」
「うん!」
ニコッと笑うとゆっくりと地面に下ろしてくれる
地面に足を付けて立つこと自体久々だから、思うようにバランスが取れず、また倒れそうになる
「わっ…」
「っと…まだちと厳しいか?」
私を片手で支えながらユーリはそう聞いてくる
正直かなり厳しい
が、もうじっとしてるのは飽きたから早く動き回れるようになりたい
「ううん、大丈夫だよ」
「そうか?…ま、とりあえず立つことから練習した方がいいだろ」
「あはは…だよね」
立てないことに思わず苦笑する
どうやら足の怪我が一番酷かったみたいで、目が覚めても一週間大人しくしていろと言われたのはそれが原因らしい
まだ上手く足に力が入らないから、殆どユーリに体を預けきってしまう
「…やっぱキュモールの野郎死刑にしとくべきだったか…」
「耳元で恐ろしいこと呟かないでよ……確かにムカつくけど、そんなこと言い出したらキリがないもん」
軽くユーリの頭を小突いて言うと、それもそうだけど…とブツブツ言い出した
「もう……よっ…と……ぅにゃっ!?」
そんなユーリをおいといて一人、もう一度立とうとする
が、一瞬立てたと思ったものの、すぐ倒れてしまった
「うぉっ!?……ったく…頼むから急にはやめてくれ…」
「うぅ……あ!でも一瞬立てたよ!」
ユーリの腕のなかで、ニコニコと笑って言えば苦笑して頭を撫でてくる
「あ、居たわよバカップル」
「あっ!本当です!」
リタとエステリーゼの声が聞こえて振り向くと、そこには二人だけでなくジュディスとカロル、レイヴンの姿もあった
「みんな揃ってどうしたんだよ?」
不思議そうにユーリが首を傾げながら聞く
「今日、みんなやること終わるのが早かったから、アリシアが歩けるように練習するの手伝おうと思ってさ!」
「んで、みんなで部屋行ったら居ないもんだから、あちこち探し回っちゃったわけよ」
カロルとレイヴンがそう言いながら、ジト目でユーリを見る
「ったく、こんなとこでもイチャついてんじゃないわよ」
はぁ、っとため息をつきながら、リタはそう言った
「あー、いや…そうゆうわけじゃねぇよ。アリシア、今一人じゃ立つのも出来ねぇんだよ」
苦笑いしながらユーリは答えた
「あら、そうだったのね。納得だわ」
ジュディスは傍に来ると、そっと私の頭を撫でてくる
「痛みはしないのかしら?」
心配そうに聞いてくる
「大丈夫、痛くはないよ」
ニコッと微笑んでそう答える
「アリシア、無理は駄目ですからね!少しずつ、ゆっくり練習していきましょう?私たちも手伝いますから」
優しい微笑みながら、エステリーゼは隣に来る
「ありがとう、えっと……エス、テル…?」
少し首を傾げながらそう言うと、エステリーゼ………いや、エステルはとても嬉しそうに笑う
「ジュディス、聞きました!?今!今、アリシアがエステルって呼んでくれたんですよ!」
「ふふ、聞いていたわ。まだ少し、ぎこちなさそうだけれども」
微笑みながら、ジュディスはエステルに言った
「これから慣れていくでしょ、この子にしては大分進歩したんじゃない?」
いつの間に目の前に来ていたのか、リタが顔を覗き込みながら言う
「おいおい、そんなに囲まれたら練習出来ねぇっての」
ユーリの一声で、三人とも少し離れる
「ったく…んじゃ、もう一回始」
「その前にユーリ、ちょっと話をしようか?」
突然聞こえた、今この場に居ないはずのフレンの声にユーリの肩から後ろを見ると、あからさまに怒っているフレンが目に入った
「うぉっ!?フレン、いつからそこに……って、話ってなんだよ?」
驚きながらもユーリはそう聞き返す
……私、なんのことかおおよそ検討ついちゃったかも……
「まさか、忘れました、なんて言うつもりはないだろうね?」
剣の柄にてをかけながら、フレンはゆっくり歩み寄ってくる
「やっべ!!ジュディっ!アリシア頼むっ!!」
「ええ、任せて」
私をジュディスに預けるとフレンがいる方向と逆方向へ逃げ出す
「逃がさないからな!ユーリっ!!」
思い切り剣を抜くと、逃げて行ったユーリを追いかける
「あーぁ…始まっちゃったよ…鬼ごっこ」
「え……?あれ、鬼ごっこなの…?」
どっからどう見ても、ユーリが襲われてるようにしか見えないのだけれども…
「あの二人、しょっちゅうあーやってなんかある事にユーリが逃げ回って、フレンが剣持って追いかけ回してるのよ」
「理由は全部くっだらないものだけどね」
カロルとレイヴン、リタはそう言って呆れたようにため息をつく
エステルは苦笑いしながらそんな二人を見詰めていた
「でも、なんでフレンはユーリ追いかけ回してるんだろう」
ふとカロルが首を傾げる
「ふふ、きっとアリシアの為に窓から外に出て、ここへ来たのがいけなかったんじゃないかしら?」
私を見ながら、ジュディスは笑う
「んー…そうかもしれないね」
肩をすくめながら、ユーリとフレンの方に目を向ける
普通なら剣を持っていないユーリの方が不利なはずだが、ここから見る限りだとそんなこともなさそうだ
むしろ、ユーリはどこか楽しそうに見える
「んで?肝心なあいつはあんなんだけど、どうすんのよ?」
「俺らだけで手伝ってあげりゃいーんじゃない??アリシアちゃんも、そろそろ大人しくしてるのは退屈でしょーよ」
リタの質問に、レイヴンがさらっと答える
「そうね、じゃ勝手に手伝っちゃいましょ」
そう言ってジュディスもすでにやる気満々な様子だ
「ありがとう!みんな!」
こうしてその日はジュディス達が手伝ってくれた
付きっきりで何時間も手伝ってくれたおかけで、どうにか一人で立てるところまではいった
ユーリとフレンは、途中でリタにうるさい!と怒られ、二人とも頭から水を被せられていた