第1章
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〜対面〜
ー次の日ー
「ワンッ!ワンッ!」
「んっ……んー……」
「ウー…ワンッ!!」
「う、うわぁぁぁ!?」
ドサッ!っと大きな音をたててベッドから転落した
「いっつぅぅぅ……リンク?」
「ワンッ!ワンッ!ワンッ!」
落ちた原因、リンクは私の横でいつまで寝ているんだ、と目で訴えてきた
「ふっ……うーんっ…もう…リンクったら…」
苦笑いしながら頭を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らす
ドタドタッと音が聞こえてきて、ガチャッと部屋の扉がいきなり開かれる
「アリシア様…っ!どうなされましたかっ!?」
「あ…いえ…寝ていたら急にリンクに吠えられてびっくりしてベッドから落ちてしまっただけです。心配かけてしまってすみません」
扉の前に来ていた数人のメイドと執事は揃って安堵の息をつく
申し訳ないことをしたなと、俯いていると、メイド長が近くまで来て
「ご無事でなによりです。さ、お嬢様、お着替えしましょう?」
とニコッと笑って手を差し出してきた
ありがとう、と声をかけてその手をとり立ち上がった
時間はまだ朝早いが、彼のことだからいつ来るかなんてわかったもんじゃない
ささっと、寝巻きからドレスに着替えた
髪を解いたりしていると、窓の外からチラッと馬車が見えた気がした
まさか、とは思ったがその数秒後、お父様の慌てた声が聞こえてきた
お父様が慌てる人物なんて、ユーリ以外思いつかない
早すぎだよ…と、心の中で苦笑しつつも彼らしいなと自然と顔が緩む
そんな呑気にしているのは私くらいでメイドや執事、お母様達はあたふたとしている
「アリシアーっ!」
「はーい、今行きますよーっ!」
下から叫んでくるお父様に答えて、リンクを抱えて部屋を出る
扉を閉める前にもう一度部屋の中を見る
一人にしては少々広すぎた部屋には本やら家具やらがそのままにしてある
私がお父様にたまに帰って来た時に自分の部屋が無かったら寂しいからと、我儘を言ったからだ
まぁ、お父様のことだからそんな事を言わなくても残してくれただろうが…
当分帰って来ることのない部屋にいってきますと、呟いて部屋の扉を閉めた
少し駆け足で階段を降りると、玄関前でお父様とユーリが話しているのが見えた
意気投合しているんだか、随分話が盛り上がっているようだ
だが、ユーリは私を見るなり嬉しそうな顔をしそれに気づいたお父様がスッと道をあけると走ってやって来た
なんて余計なことをするのだ、お父様…←
「アリシアっ!」
「ぅわっ!?ユ、ユーリっ!苦しいですって!」
抱き寄せられて思い切りぎゅっと抱きつかれる
流石に少し痛苦しくてケホッと咳き込むと慌てて離れてくれた
「ちょっと強すぎたか…?」
「もう…ちょっとじゃなくてかなりです…リンクだっているのに…大丈夫?」
「ク、クゥン……」
リンクも少し苦しそうな顔をしている
よしよしと背中を摩っていると、何かを見つけたのか私の腕から飛び出して外へ一直線に走り出す
「あっ!リンクっ!もう…何処かの誰かさんと同じで、自由奔放なんだから…」
「だーれのこと言ってんだ?」
肩を抱き寄せて耳元で呟いてくる
少しこそばゆいが、こうして彼が傍にいるのがわかるのは嬉しい
「ユーリのことですよ?会議中でも勝手に抜け出してフラフラしているでしょう?」
クスッと笑いながらそう答える
「そーゆこと、言わねーでいいっつーの」
苦笑いしながらユーリにコツンと頭を小突かれた
「ユーリ…ゆっくりするのは後にしてくれないか?君はまだ仕事が残っているだろう?」
玄関前でフレンさんが呆れたように、だが少し強い口調でユーリに言う
ユーリは少しむっとして私の肩から手を離す
「わーったよ…アリシア行こう」
スッと手を差し出してくる
「ん…わかりました」
なんの躊躇もなくその手を取った
「アリシア…会いに来れる時はいつでも来ていいですからね」
「はい!…お母様、お父様、いってきます」
ニッコリと笑って告げるとお父様は泣きそうになっていた
ユーリに連れられて馬車の側まで歩いて行く
馬車の前でもう一度振り返って見送る為に扉の前まで出てきていたお母様とお父様に手を振ると、限界だったらしく泣いてしまっていた
「アリシアの父親は本当に溺愛しているんだな…」
少し困ったような顔でユーリはそう言うので、私もも思わず苦笑いする
「ワンッ!」
「あ、リンク!もう、勝手に乗っちゃダメでしょう」
馬車の中を見ると、リンクが既に乗っていた
リンクの隣に綺麗な青い毛並みの獣がいるのには驚いたが、2匹は仲良さそうに寄り添っている
「なんだ?ラピード、もう気に入ったのか?」
「ラピード?」
「そ、オレの相棒」
馬車に乗り込みながら聞く
ユーリの相棒だから仲が良いのかもしれないなと、微笑みながら二匹を見る
「普段気安く尻尾降ったりなんてしねぇのにな、まったく懐かねぇし」
ラピードの背をポンポンと叩きながらユーリは言う
「君と同じで、アリシア様のご愛犬に夢中になっているんじゃないかい?」
やれやれと、後から乗り込んで来たフレンさんが言う
それは一理あると言って笑っていると真正面に座ったユーリが不服そうに顔を歪めた
「なーんか、やけにフレンと意気投合してねぇか?」
「そんなことないですよ?」
ニコニコと笑ってそう答えるが、まだ納得いかないのかムスッとしている
「君の婚約者をとるわけがないだろう?」
フレンさんは冗談言うなとユーリを見据えながら、御者さんに進むように合図を出していた
それと同時に馬車が動き出す
が、相変わらずお互いバチバチと火花を散らしている
お願いだから私のいるところで喧嘩始めないで……怖いから……
「ワフゥン…」
先ほどまでラピードと一緒にいたはずのリンクが傍にやってきた
「リンクー…ユーリとフレンさんが怖いよ……」
小声で呟いて、ぎゅっとリンクに抱きつき顔を真っ白でふわふわな毛にうずくめる
私が少し怖がっているのにようやく気づいたようで、とりあえず2人共落ち着いてくれたようだ
「あ…アリシア様、もう少しで王都に付きますよ」
フレンさんの声に窓の外をチラッと見ると、華やかな街並みが見えてきた
ここに来るのは何年ぶりだろうか
だいぶ景色が変わっていて違う街のようにも見える
「ここに来んの、久々だろ?」
「ん…だいぶ変わりましたね。私が覚えている景色がほとんどないですよ」
リンクの背を撫でながら外を眺める
すると、リンクが私に引っ付いているのが不満なのか、もしくはリンクが羨ましいのかラピードも寄り添って来た
「珍しいな…ラピードがすぐ懐くなんて」
「え…?これ、懐いているんですか?」
懐いているのだとしたら相当驚きだ
先ほど中々懐かないと言ってたのはなんだったのだろうか←
「おう、珍しいこともあるんだな」
「ふーん……そうなんですね」
そう言いながらラピードの背を撫でると少し嬉しそうにしている気がした
「……」
「ユーリ…あからさまに不機嫌にならないでくれ…ラピードにまで嫉妬しているのかい?」
「ユーリ?嫉妬してるんですか?」
「…うっさい」
私が聞くとぷぃっと顔を背ける
そうゆう反応が可愛いなぁと思いながらリンクを降ろす
そして、目の前に座っているユーリに飛びつく
「うぉっ!?ったく…アリシア…いきなりは駄目だって、昨日言ったばかりだろ?それに、ここ馬車ん中だし余計危ねぇだろ」
「だって、こうでもしないと納得してくれないでしょう?私が好きなのはユーリだけですよ」
ぎゅっと抱きしめる力を強める
「ったく、しょうがねぇお嬢さんなことだな」
苦笑いしながらフレンさんは向かいの席へ移り、ユーリは飛びついた私を膝の上へと乗せ腰に手を回してきた
「もーすぐ着くんだがな…いいのか?」
「何がです?私は何も気にしませんよ?」
「あー…いや、多分かなりの野次馬いるぜ?」
オレが堂々と出掛けたから…と小声で付け足す
「……それはちょっと面倒ですね…」
まぁ、だからといって離れたくはないのだが…
確かに先ほどから少し外が騒がしい気がする
「一応カーテンは閉めてあるけどどうする?やはり門の奥まで入ってもらもうか?」
「それがいいな。オレ、まだアリシアを城に住んでる奴ら以外に会わせる気ねーぞ?」
ユーリは軽く抱きしめてくる力を強めてきた
「そう言うと思っていたよ。じゃあ、そうしてもらおう」
そう言ってフレンさんは小窓から、御者さんに小声でなにやら話しかけている
ユーリに引っ付いているとリンクがピョンっと膝の上に乗ってきた
それに合わせるようにラピードもまた、寄り添ってきた
「随分とまぁモテモテだな、アリシア」
ニヤニヤとしながらユーリは言ってくる
「む…モテるのは私、ユーリだけでいいのですが…それと、リンクとラピードは別ですよ?」
むっとして腰あたりに回していた腕を首元の方へ回し直した
「へいへい、わかってるっての」
腰に回してきている手と反対の手で、そっと頬に触れてきた
目元をなぞるように親指で撫でてくる
くすぐったくて肩をすくめるが、それと同時に嬉しくて微笑むと、すっとその手が顎をクイッとあげられ、唇が重なりそうになるが…
「はいはい、そこまで。もう着くから」
パンパンっと手を鳴らしてフレンさんに止められてしまう
ユーリはあからさまに不機嫌にフレンさんを睨みつける
呆れたように頭を抱えて、後でも出来るだろう…と呟く
「わーったよ…」
チュッと頬にキスして、また後でな?と耳元で言われたと同時に、馬車が止まった
「うわぁ……相変わらず広い…」
久しぶりに来たお城の中は昔と変わらずとても広かった
「はっはっは、そりゃんな簡単に小さくなったりしねぇっての」
隣にいるユーリがそう笑う
確かにそれもそうだが、久しぶりに見ると驚くものだ
「さてと、んじゃ先に一応案内しとかなきゃなんだが……」
そう言いながらチラッとフレンさんの方を見る
「君は執務がまだまだ残っているだろ?案内はジュディスに頼めばいい」
少し怒り気味にユーリを見詰める
「ジュディス……?」
首を傾げてそう言うと、ユーリが口を開こうとする
「私のことよ」
が、それよりも前に柱の後ろから青い髪の女性がそう言いながら出てきた
「なんだジュディ、もう居たのか」
「ええ、あなたには執務に戻って貰わないと困るもの。ここから先は、私の仕事よ」
ユーリに向かって微笑みながら言うと、今度は私の方を向く
「初めまして、ジュディスよ。ユーリからあなたの護衛役を頼まれたわ。よろしくね」
ニッコリと笑いながら手を差し出してくる
「あ…アリシア・リベリット・ラグナロクです。よ、よろしくお願いします!」
そう言って、彼女の手を握った
護衛役……か……
なんとなくわかってはいたが、やっぱり私にも付けられるんだなぁ
「……んじゃぁ……ジュディ、悪ぃけど頼む」
ものすごく嫌そうな顔をしながらユーリは行った
「ええ、任せて頂戴」
そんな事気にもせずにジュディスは返事を返した
「アリシア、夕飯前には迎え行くから、それまで色々連れてってもらってこい」
ポンポンっと頭を撫でながらユーリは少し寂しそうにほほ笑む
「はい、わかりました」
ニコッと笑って答える
「んじゃ、オレ行くわ……あー、ジュディ、おっさんだけは気をつけてくれよな…?」
「ふふ、大丈夫よ、わかってるわ」
ジュディスの返事を聞くと、ユーリは半分フレンさんに引きずられるようにして、去って行った
「それじゃ、行きましょうか?」
「はい!…あの、ユーリが言ってた方はそんなに危険なのですか…?」
そう聞くと、彼女はクスッと笑う
「そうね、あなたにはちょっと危ない人になるかもしれないわね。けど大丈夫よ、そのための私だから」
私にとっては……って、どうゆうことだろう…?
「さ、日が暮れてしまう前に行きましょう。ユーリと仲の良い人達も紹介したいから」
「あ…はい、わかりました!」
そう言って、少し前を歩き出したジュディスの後をついて行く
ユーリと仲の良い人……どんな人達なんだろう
最初についたのは書庫だった
「わぁ……すごい本の量……!」
部屋いっぱいに並べられた本棚と、隙間なく敷き詰められている本に心が踊る
「ここが第一書庫、よく使われる本はここにあるわ。第二書庫もあるのだけれど…離れにあって少し遠いから、また今度連れて行ってあげるわ」
ジュディスにそう説明されながら本棚を見て回る
歴史書に、精霊術の仕組み、霊力野 、おとぎ話……様々な分野の本が所狭しと並んでいる
「おかしいわね、今の時間ならここにいるはずなのだけれど」
ジュディスはそう言って辺りを見回す
「?いるって、誰が」
「誰よ、そこにいるの」
私が聞き返すよりも前に、別の声が聞こえた
上を見上げると、二階部分の手すりに女の子が座っているのが目に入る
「あら、そこにいたのね、リタ」
ジュディスがそう言うと、リタと呼ばれた女の子は私の目の前に飛び降りて来た
「ジュディス、この子誰よ」
私のことを指さしながら彼女はジュディスに問いかける
「あら、ユーリの話を聞いてなかったのかしら?」
悪戯そうにジュディスがそう言うと、どこか納得したような表情を浮かべる
「ああ、この子がそうなのね」
そう言って顎に手を当てながら、じっと私の顔を見詰めてくる
「あ……あの……えっと……」
人付き合いなんて殆どしたことがなくて、こうゆう時どうすればいいかわからず、言葉に詰まる
「……なんか、イメージと違ったわ。てっきりあいつと同じで図々しいのが来るのかと思ってたわ」
そう言って、彼女は腰に手をやる
「そうね、彼とは真逆ね」
ふふっと笑いながら、ジュディスは言った
「…ま、いいわ、あたしはリタ・モルディオ。霊力野研究者よ。あいつとは…ま、親繋がりの腐れ縁って思って頂戴」
最後の方は少し嫌そうにリタは言った
「モルディオ……お父様がよくお話してた方……ですか?」
「ま、正確にはあたしの父さんね。あんたの親と面識はないけど、しょっちゅう父さんと自慢話しあってたってのは聞いてるわ」
呆れたようにため息を付きながら、リタは項垂れた
「私もお父様からよく自慢話し合っていたと聞いています。知っているとは思いますが、アリシア・リベリット・ラグナロクと言います。よろしくお願いします、リタ」
そう言って微笑むと、何故かリタはそっぽを向いてしまった
「さ、アリシア、そろそろ次の所へ行きましょう?」
「あ、はい!」
「…あんた、様付けしなくていいわけ?」
ジュディスに呼ばれて返事をすると、リタは不思議そうに聞いてくる
「…?でも、様付けされてしまうと、なんか距離感を感じませんか?」
首を傾げてそう言うと、リタは苦笑いする
「…そーゆーとこは、あいつに似てんのね…ま、いいわ。じゃあたしもアリシアって呼ばせてもらうわ。…んで、次はどこ行くのよ?」
そう言って、リタはジュディスを見る
「エステルの所へ行こうと思うわ」
腕を前に組みながらジュディスはリタに答えた
「そ、じゃああたしも行く。あんた一人じゃ不安だし」
そう言ってリタは扉に向かって歩き出す
「あら、心強いわね」
ニコッとジュディスは微笑む
「ほら、行きましょ、アリシア」
少し顔を赤らめながらリタは手を差し伸べてくる
「…!はい!」
手を差し伸べられたのが嬉しくて、ニコッと笑いながらその手を取った
そして、三人で『エステル』の元へ向かった
……ところで、『エステル』…って……誰……?
「次はここね」
リタの足が止まると同時に足を止める
次についたのは植物園……かな?
「ここは…?」
「温室ね。色々な花や植物を育てている所よ」
「温室って言うか、植物園でしょ」
ジュディスとリタの説明を聞きながら扉を開けると、視界に沢山の色とりどりな植物が入ってくる
「わぁ……!綺麗……!」
こんなに沢山の植物は初めて見た
見たことのあるものから無いものまで
沢山の植物が植えられている
「ま、最初はそんな反応よね」
微笑みながらリタが呟いたのが聞こえた
「ふふ、いいじゃない、嬉しそうなのだから」
「あれ…?ジュディス!それにリタも!」
植物の間から声が聞こえてくる
その方向を見ると、桃色髪の女の子と、オレンジ髪の男の子の姿が目に入る
「二人ともどうしたの?……って、あれ?そっちの人は??」
男の子は駆け寄って来ながら私を見て首を傾げる
「あ!もしかして、ユーリが言っていた方です?」
キラキラと目を輝かせながら女の子は言う
服装からすると、同じ貴族の子だろう
…ユーリが貴族を傍に置くのも珍しいなぁ
「ええ、そうよ」
私が答えるよりも前にジュディスが答える
「初めまして!エステリーゼ・シデス・ヒュラッセインです!エステルって呼んでください!」
私の両手を握りながら、桃色髪の女の子……エステリーゼはそう言った
「えっと…ぼ、僕はカロル・カペル!よ、よろしくね!!」
顔を赤くさせながら、男の子…カロルはそう言った
「あ………えと………アリシア・リベリット・ラグナロク、です。よろしくお願いします」
ニコッと微笑んでそう返す
正直、エステリーゼの勢いが強すぎて驚いた
「んで?後は誰に会ってないわけ?」
リタがそう聞いてくるが、私にはわからないので首を傾げる
「おじ様だけ、ね」
困ったようにジュディスがそれに答えた
「え……レイヴン、最後に残したの…?」
うわぁ……と、あからさまに嫌そうな顔をしてカロルは呟く
「みんなで行った方が守れると思って」
「……あの、最後の方って……そんなに危険…なのですか…?」
恐る恐る聞いてみる
すると、みんな顔を見合わせて困ったように笑う
「えっと…危険と言いますか…」
「女好きが激しいだけって言うか…」
「ま、どうしようもない奴ってことね」
どこか怒りの篭った様な声でそれぞれ答える
「さっきも言ったけど、あなたに被害が出ないようにはするから安心して?」
ジュディスだけが微笑みながら、私にそう言った
「会わせなくてもいいんじゃない?アリシアが可愛そうよ」
リタが心底あんなのどうでもいい、と言いたげな声でそう言う
「駄目よ、彼も一応、ユーリの側近なのだから」
肩を竦めながらジュディスは答えた
「アリシア、私の後ろに居てくださいね?絶対離れちゃ駄目ですよ??」
「え??あ……は、はい!」
余りにもエステリーゼが必死に言ってくるので、大きく頷く
「ユーリの婚約者でも、これだけ可愛いとレイヴン、何するかわかんないもんね……」
遠い目をしながらカロルが言う
…『レイヴン』って人よりも、カロルの方が私は心配だ……
「じゃ、行こうかしら?」
そう言って、ジュディスを先頭に歩き出した
……余りにもガードされすぎて、向かってる最中、周りの視線が痛かった……
ジュディス達に連れられてきたのは、騎士の訓練場だった
「ジュディス殿!お疲れ様です!」
一人の見張りの騎士がジュディスに敬礼する
「お疲れ様」
ニコッと微笑みながら、彼女は返した
「…?リタ殿にカロル殿…それに、エステリーゼ様もお揃いで、どうなされたのですか?」
ユーリの側近と呼ばれる方々が勢揃いしているのに驚いたのか、首を傾げる
「ユーリ……魔王様の婚約者様が来たから、レイヴンに会わせてあげようと思って」
ジュディスの代わりに、カロルがそう答える
…やっぱり、ほかの騎士の前では魔王様って呼ぶんだ…
すると、騎士はさらに驚いた顔をする
「な、なんと…!ついにいらっしゃったのですね!すぐにレイヴン隊長をお呼びします!」
そう言って、騎士は走って行ってしまった
「……私……歓迎されてる……のでしょうか……?」
そう言って首を傾げる
「もちろんです!お城の人はみんな楽しみにしていたんですよ!」
ニコッと笑いながらエステリーゼはそう言ってくれた
……それなら、いいんだけど……
…きっと、良く思っていない人たちもいるんだろうなぁ…
「ジューディースーちゃぁぁぁぁぁん!!!!!」
大きな声にびっくりして肩があがる
声の聞こえた方向を見ると、ものすごい勢いで走ってくる人影が見えた
「……来たわね」
そう言って、リタが帯を広げたのが目に入る
…なんか、嫌な予感がする
「青年の婚約者どのはどこn」
「うっさぁぁぁぁい!!!!!」
リタがそう叫ぶと、人影に向かって火の玉が飛んでいく
「ぐわぁあぁぁ!?!!」
見事火の玉が命中した人影は、その場で転けて、スライディングしてジュディスの足元で止まった
「あ、あの……大丈夫…なのですか?」
リタの方を向いてそう聞く
「おぉ!!!この子が青年の婚約者殿か!!」
リタが答えるよりも前に先程と同じ声が聞こえ、肩を掴まれる
驚いて振り向くと、すぐ近くに顔が見えた
「きゃっ……!!!」
「ウーーワンッ!!!」
「うぎゃぁぁっ!!?」
小さく悲鳴をあげると、私とレイヴン(?)の間にリンクが割って入り、彼の腕を思い切り噛んだ
そのおかげで、彼の手は私の肩から退かされた
同時に勢いよく後ろに引っ張られる
誰かと思って振り向くと、エステリーゼだった
彼女の腕の中に収まると、リタとジュディス、それにカロルがレイヴン(?)に思い切り攻撃しまくっているのが目に映った
「あっ……えと………そこまでしなくても……」
「…あれだけしないと、レイヴン、わからないんですよ……これでも、ユーリよりはマシだと思います…」
顔をあげると、エステリーゼが苦笑いしているのが目に入った
「………御愁傷様です……」
そう言って軽く手を合わせる
「まっ………まだ……しんで……ない、から………」ガクッ
最後の力を振り絞る様にレイヴン(?)は呟き、そのまま動かなくなってしまった
「アリシア、大丈夫だったかしら」
心配そうにジュディスが顔を覗き込んでくる
「ええ、ちょっと驚きましたが……大丈夫、です」
ニコッと微笑んでそう答える
「おっさん相手に優しくなんてしなくていいのよ?」
リタも心配そうにそう言ってくる
「本人、自己紹介出来なさそうだから僕からしておくと、この人がレイヴン!騎士団の隊長首席だよ!…一応」
最後の一応、という言葉が気になるのだが…
なんとなく、今の対応でわかる気がする
「これで一通りかしら?」
「ですね。フレンとラピードには会っていると思いますから」
「それはそうと、この犬は??」
リタはリンクを見ながら首を傾げる
「この子はリンクです。私が飼っている子です」
「ワンッ!」
リンクは一声鳴くと私の足元に擦り寄ってくる
「ふーん……」
リタはじーっとリンクを見詰める
「小さくてふわふわで、なんだかアリシアに似ていますね!」
エステリーゼは私から離れながらそう言う
「…??そう、ですか??」
足元にいるリンクを抱き上げながら私は聞き返す
「エステルの言ってることなんかわかる気がする!アリシアも小さいもんね!」
「……あんた、本当にユーリと同い歳なの?」
少し疑ったような目でリタは見てくる
「同じ歳ですよ??」
「その割りには色々未発達って感じよね。どっちかって言うとガキンチョと同い歳って感じ」
そう言いながら、リタはカロルを見た
「ちょっ、リタ……アリシアに失礼だって!」
「……大丈夫ですよ、カロル。………成長が止まってしまったのは事実ですし……」
ポツリと呟く
リンクを抱く腕に少しだけ、力が入ってしまった
「リタ、気に触ること言ったみたいよ?」
悪戯そうにジュディスはリタに言った
「うっ………わ、悪かったわよ……」
頭を書きながら、リタはそう言う
「い、いえ!本当に大丈夫ですから!!」
そう言って、笑ってみせる
が、上手く笑えてる自信はあまりない
しん……と静まってしまった
「…あ、夕食までまだ時間がありますし…もう少しみんなでお城の中を見て回りませんか??」
沈黙を崩すようにエステリーゼが提案する
「いい考えね。アリシア、それでいいかしら?」
「あ、はい!お願いします!」
「じゃあ行こう!」
カロルの合図でお城の案内が再スタートした
レイヴンのことを忘れていたのは内緒だ
ーーーーーーーーー
一通り案内が終わった頃にはもうすっかり夜になっていた
夕食には迎え行くから、と言ってたユーリだったが、結局今日やるべき事が終わらなかったらしく、みんなと一緒に夕食を食べた
夕食も食べ終え、部屋に戻って寝巻きに着替え、大きな窓に近づく
今まで家の窓から見ていた景色とここから見える景色は随分違う
明日はエステリーゼとお茶会をする約束をしているが、今日はいろいろありすぎてまだ心臓がドキドキしている
窓の淵に寄りかかって、空を見上げる
真っ黒で明かりがない空は、何処かユーリに似ている気がする
キィっと、音をたてて扉が開いた
誰が来たのかは予想がついていたからあえて振り向かなかった
「空なんて見てて楽しいか?」
声をかけられたところで、ようやく扉の方を向く
「楽しいわけじゃないですが、こうしていると落ち着くんです」
ニコッと笑って言うと、ユーリは部屋の扉を閉めて私の横に腰を降ろした
「ふーん、落ち着く、ね」
「はい、今日一日でいろんな事がたくさんありましたから…まだ心臓がドキドキしているんです」
窓の外に視線を戻しつつ言う
「へぇ?何にドキドキしたわけ?」
スッと私との距離を縮めてニヤリと笑って聞いてくる
「新しい環境に、です。私が住んでいたところよりもずっと賑やかで、人もたくさんいてワクワクするんです」
ニコッと微笑んで言うと、ふーん、と少し残念そうにユーリは言う
「それよりも…えっと……あの、ユーリ…?」
「ん?何?」
「えーっと…その、この体制…どうにかなりませんか…?//」
今私は、窓の端に追いやられて右手で退路を塞がれ、下からユーリが見上げるように見つめてきている
恥ずかしくて両手で顔を隠すが、あっさり退けられてしまう
「恥ずかしいってか?顔真っ赤だぜ?」
ニヤニヤしながらユーリは言ってくる
「っ///うるさいっ…です!//」
「うるさいとか言う口はこれか?」
左手の親指で唇をなぞるようにふれ、先ほどフレンさんに止められて出来なかったキスをしてくる
「んっ……」
触れるだけなのだが、経験が全く無い私にとっては長い間キスしているのは少しつらいわけで
頭が酸素を欲しがって少し口を開くと、ユーリの舌が待ってましたと言わんばかりに侵入してきた
「ふっ……あっ……」
初めての感覚に頭がおかしくなりそうだ
なんとも言えない甘い感覚に耐えるようにもユーリにしがみつくが、体にうまく力が入らない
「あっ…ふぅっ……!ユー…リぃ…っ」
「はっ……キスだけでそんな顔すんなって…歯止め効かなくなんだろ」
優しく頬を包み込みながらユーリは言う
多分、今鏡を見たら相当とろけた顔をしているんだろう
ただ、初めての感覚で未だに余韻が残っていて肩で息をしていると、彼の唇が首筋をなぞるように触れてきた
「ん…っ!」
「あんま煽んなっての…//」
どうやらユーリも少し顔が赤くなっているようだ
まぁ、あまり顔は見えないのだが
そんなことを考えていると、不意にチクッと首筋に痛みが走ると同時に、チュッとリップ音が聞こえた
「…っ!?…ユーリ?」
頭に?を浮かべつつユーリを見ると、意地悪そうな笑顔を浮かべている
そして先ほどチクッと痛んだところを指でなぞられる
「やっと付けられたな、所有印」
「っ…!!///」
耳元で呟かれた言葉に耳を疑ったが、ユーリが嬉しそうにしていることや、先ほどリップ音からして本気で付けたのだろう
せめて首はやめて欲しかったなぁ…と思うが、言うのはグッと堪える
恥ずかしくて顔を赤くしていると、唐突にひょいっと持ち上げられた
「わっ…!」
「ほら、明日はエステルとお茶すんだろ?もう寝ろって」
そう言ってベッドまで来ると私を抱えたままベッドにダイブした
「ユーリ、執務は?」
「また明日、だよ。忙しいが昼頃にはこの部屋にいてくれよ?何が何でも会いに来っから」
「もう…あんまりサボって他の人困らせないでくださいね?」
コツンと軽く小突いて言うとへいへい、と絶対わかっていないだろうという返事が返ってきた
「アリシア、おやすみ、また明日…な?」
ニコッと笑って言うユーリに微笑み返して
「ユーリ、おやすみ」
と言って、抱き合ったまま眠りについた
ー次の日ー
「ワンッ!ワンッ!」
「んっ……んー……」
「ウー…ワンッ!!」
「う、うわぁぁぁ!?」
ドサッ!っと大きな音をたててベッドから転落した
「いっつぅぅぅ……リンク?」
「ワンッ!ワンッ!ワンッ!」
落ちた原因、リンクは私の横でいつまで寝ているんだ、と目で訴えてきた
「ふっ……うーんっ…もう…リンクったら…」
苦笑いしながら頭を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らす
ドタドタッと音が聞こえてきて、ガチャッと部屋の扉がいきなり開かれる
「アリシア様…っ!どうなされましたかっ!?」
「あ…いえ…寝ていたら急にリンクに吠えられてびっくりしてベッドから落ちてしまっただけです。心配かけてしまってすみません」
扉の前に来ていた数人のメイドと執事は揃って安堵の息をつく
申し訳ないことをしたなと、俯いていると、メイド長が近くまで来て
「ご無事でなによりです。さ、お嬢様、お着替えしましょう?」
とニコッと笑って手を差し出してきた
ありがとう、と声をかけてその手をとり立ち上がった
時間はまだ朝早いが、彼のことだからいつ来るかなんてわかったもんじゃない
ささっと、寝巻きからドレスに着替えた
髪を解いたりしていると、窓の外からチラッと馬車が見えた気がした
まさか、とは思ったがその数秒後、お父様の慌てた声が聞こえてきた
お父様が慌てる人物なんて、ユーリ以外思いつかない
早すぎだよ…と、心の中で苦笑しつつも彼らしいなと自然と顔が緩む
そんな呑気にしているのは私くらいでメイドや執事、お母様達はあたふたとしている
「アリシアーっ!」
「はーい、今行きますよーっ!」
下から叫んでくるお父様に答えて、リンクを抱えて部屋を出る
扉を閉める前にもう一度部屋の中を見る
一人にしては少々広すぎた部屋には本やら家具やらがそのままにしてある
私がお父様にたまに帰って来た時に自分の部屋が無かったら寂しいからと、我儘を言ったからだ
まぁ、お父様のことだからそんな事を言わなくても残してくれただろうが…
当分帰って来ることのない部屋にいってきますと、呟いて部屋の扉を閉めた
少し駆け足で階段を降りると、玄関前でお父様とユーリが話しているのが見えた
意気投合しているんだか、随分話が盛り上がっているようだ
だが、ユーリは私を見るなり嬉しそうな顔をしそれに気づいたお父様がスッと道をあけると走ってやって来た
なんて余計なことをするのだ、お父様…←
「アリシアっ!」
「ぅわっ!?ユ、ユーリっ!苦しいですって!」
抱き寄せられて思い切りぎゅっと抱きつかれる
流石に少し痛苦しくてケホッと咳き込むと慌てて離れてくれた
「ちょっと強すぎたか…?」
「もう…ちょっとじゃなくてかなりです…リンクだっているのに…大丈夫?」
「ク、クゥン……」
リンクも少し苦しそうな顔をしている
よしよしと背中を摩っていると、何かを見つけたのか私の腕から飛び出して外へ一直線に走り出す
「あっ!リンクっ!もう…何処かの誰かさんと同じで、自由奔放なんだから…」
「だーれのこと言ってんだ?」
肩を抱き寄せて耳元で呟いてくる
少しこそばゆいが、こうして彼が傍にいるのがわかるのは嬉しい
「ユーリのことですよ?会議中でも勝手に抜け出してフラフラしているでしょう?」
クスッと笑いながらそう答える
「そーゆこと、言わねーでいいっつーの」
苦笑いしながらユーリにコツンと頭を小突かれた
「ユーリ…ゆっくりするのは後にしてくれないか?君はまだ仕事が残っているだろう?」
玄関前でフレンさんが呆れたように、だが少し強い口調でユーリに言う
ユーリは少しむっとして私の肩から手を離す
「わーったよ…アリシア行こう」
スッと手を差し出してくる
「ん…わかりました」
なんの躊躇もなくその手を取った
「アリシア…会いに来れる時はいつでも来ていいですからね」
「はい!…お母様、お父様、いってきます」
ニッコリと笑って告げるとお父様は泣きそうになっていた
ユーリに連れられて馬車の側まで歩いて行く
馬車の前でもう一度振り返って見送る為に扉の前まで出てきていたお母様とお父様に手を振ると、限界だったらしく泣いてしまっていた
「アリシアの父親は本当に溺愛しているんだな…」
少し困ったような顔でユーリはそう言うので、私もも思わず苦笑いする
「ワンッ!」
「あ、リンク!もう、勝手に乗っちゃダメでしょう」
馬車の中を見ると、リンクが既に乗っていた
リンクの隣に綺麗な青い毛並みの獣がいるのには驚いたが、2匹は仲良さそうに寄り添っている
「なんだ?ラピード、もう気に入ったのか?」
「ラピード?」
「そ、オレの相棒」
馬車に乗り込みながら聞く
ユーリの相棒だから仲が良いのかもしれないなと、微笑みながら二匹を見る
「普段気安く尻尾降ったりなんてしねぇのにな、まったく懐かねぇし」
ラピードの背をポンポンと叩きながらユーリは言う
「君と同じで、アリシア様のご愛犬に夢中になっているんじゃないかい?」
やれやれと、後から乗り込んで来たフレンさんが言う
それは一理あると言って笑っていると真正面に座ったユーリが不服そうに顔を歪めた
「なーんか、やけにフレンと意気投合してねぇか?」
「そんなことないですよ?」
ニコニコと笑ってそう答えるが、まだ納得いかないのかムスッとしている
「君の婚約者をとるわけがないだろう?」
フレンさんは冗談言うなとユーリを見据えながら、御者さんに進むように合図を出していた
それと同時に馬車が動き出す
が、相変わらずお互いバチバチと火花を散らしている
お願いだから私のいるところで喧嘩始めないで……怖いから……
「ワフゥン…」
先ほどまでラピードと一緒にいたはずのリンクが傍にやってきた
「リンクー…ユーリとフレンさんが怖いよ……」
小声で呟いて、ぎゅっとリンクに抱きつき顔を真っ白でふわふわな毛にうずくめる
私が少し怖がっているのにようやく気づいたようで、とりあえず2人共落ち着いてくれたようだ
「あ…アリシア様、もう少しで王都に付きますよ」
フレンさんの声に窓の外をチラッと見ると、華やかな街並みが見えてきた
ここに来るのは何年ぶりだろうか
だいぶ景色が変わっていて違う街のようにも見える
「ここに来んの、久々だろ?」
「ん…だいぶ変わりましたね。私が覚えている景色がほとんどないですよ」
リンクの背を撫でながら外を眺める
すると、リンクが私に引っ付いているのが不満なのか、もしくはリンクが羨ましいのかラピードも寄り添って来た
「珍しいな…ラピードがすぐ懐くなんて」
「え…?これ、懐いているんですか?」
懐いているのだとしたら相当驚きだ
先ほど中々懐かないと言ってたのはなんだったのだろうか←
「おう、珍しいこともあるんだな」
「ふーん……そうなんですね」
そう言いながらラピードの背を撫でると少し嬉しそうにしている気がした
「……」
「ユーリ…あからさまに不機嫌にならないでくれ…ラピードにまで嫉妬しているのかい?」
「ユーリ?嫉妬してるんですか?」
「…うっさい」
私が聞くとぷぃっと顔を背ける
そうゆう反応が可愛いなぁと思いながらリンクを降ろす
そして、目の前に座っているユーリに飛びつく
「うぉっ!?ったく…アリシア…いきなりは駄目だって、昨日言ったばかりだろ?それに、ここ馬車ん中だし余計危ねぇだろ」
「だって、こうでもしないと納得してくれないでしょう?私が好きなのはユーリだけですよ」
ぎゅっと抱きしめる力を強める
「ったく、しょうがねぇお嬢さんなことだな」
苦笑いしながらフレンさんは向かいの席へ移り、ユーリは飛びついた私を膝の上へと乗せ腰に手を回してきた
「もーすぐ着くんだがな…いいのか?」
「何がです?私は何も気にしませんよ?」
「あー…いや、多分かなりの野次馬いるぜ?」
オレが堂々と出掛けたから…と小声で付け足す
「……それはちょっと面倒ですね…」
まぁ、だからといって離れたくはないのだが…
確かに先ほどから少し外が騒がしい気がする
「一応カーテンは閉めてあるけどどうする?やはり門の奥まで入ってもらもうか?」
「それがいいな。オレ、まだアリシアを城に住んでる奴ら以外に会わせる気ねーぞ?」
ユーリは軽く抱きしめてくる力を強めてきた
「そう言うと思っていたよ。じゃあ、そうしてもらおう」
そう言ってフレンさんは小窓から、御者さんに小声でなにやら話しかけている
ユーリに引っ付いているとリンクがピョンっと膝の上に乗ってきた
それに合わせるようにラピードもまた、寄り添ってきた
「随分とまぁモテモテだな、アリシア」
ニヤニヤとしながらユーリは言ってくる
「む…モテるのは私、ユーリだけでいいのですが…それと、リンクとラピードは別ですよ?」
むっとして腰あたりに回していた腕を首元の方へ回し直した
「へいへい、わかってるっての」
腰に回してきている手と反対の手で、そっと頬に触れてきた
目元をなぞるように親指で撫でてくる
くすぐったくて肩をすくめるが、それと同時に嬉しくて微笑むと、すっとその手が顎をクイッとあげられ、唇が重なりそうになるが…
「はいはい、そこまで。もう着くから」
パンパンっと手を鳴らしてフレンさんに止められてしまう
ユーリはあからさまに不機嫌にフレンさんを睨みつける
呆れたように頭を抱えて、後でも出来るだろう…と呟く
「わーったよ…」
チュッと頬にキスして、また後でな?と耳元で言われたと同時に、馬車が止まった
「うわぁ……相変わらず広い…」
久しぶりに来たお城の中は昔と変わらずとても広かった
「はっはっは、そりゃんな簡単に小さくなったりしねぇっての」
隣にいるユーリがそう笑う
確かにそれもそうだが、久しぶりに見ると驚くものだ
「さてと、んじゃ先に一応案内しとかなきゃなんだが……」
そう言いながらチラッとフレンさんの方を見る
「君は執務がまだまだ残っているだろ?案内はジュディスに頼めばいい」
少し怒り気味にユーリを見詰める
「ジュディス……?」
首を傾げてそう言うと、ユーリが口を開こうとする
「私のことよ」
が、それよりも前に柱の後ろから青い髪の女性がそう言いながら出てきた
「なんだジュディ、もう居たのか」
「ええ、あなたには執務に戻って貰わないと困るもの。ここから先は、私の仕事よ」
ユーリに向かって微笑みながら言うと、今度は私の方を向く
「初めまして、ジュディスよ。ユーリからあなたの護衛役を頼まれたわ。よろしくね」
ニッコリと笑いながら手を差し出してくる
「あ…アリシア・リベリット・ラグナロクです。よ、よろしくお願いします!」
そう言って、彼女の手を握った
護衛役……か……
なんとなくわかってはいたが、やっぱり私にも付けられるんだなぁ
「……んじゃぁ……ジュディ、悪ぃけど頼む」
ものすごく嫌そうな顔をしながらユーリは行った
「ええ、任せて頂戴」
そんな事気にもせずにジュディスは返事を返した
「アリシア、夕飯前には迎え行くから、それまで色々連れてってもらってこい」
ポンポンっと頭を撫でながらユーリは少し寂しそうにほほ笑む
「はい、わかりました」
ニコッと笑って答える
「んじゃ、オレ行くわ……あー、ジュディ、おっさんだけは気をつけてくれよな…?」
「ふふ、大丈夫よ、わかってるわ」
ジュディスの返事を聞くと、ユーリは半分フレンさんに引きずられるようにして、去って行った
「それじゃ、行きましょうか?」
「はい!…あの、ユーリが言ってた方はそんなに危険なのですか…?」
そう聞くと、彼女はクスッと笑う
「そうね、あなたにはちょっと危ない人になるかもしれないわね。けど大丈夫よ、そのための私だから」
私にとっては……って、どうゆうことだろう…?
「さ、日が暮れてしまう前に行きましょう。ユーリと仲の良い人達も紹介したいから」
「あ…はい、わかりました!」
そう言って、少し前を歩き出したジュディスの後をついて行く
ユーリと仲の良い人……どんな人達なんだろう
最初についたのは書庫だった
「わぁ……すごい本の量……!」
部屋いっぱいに並べられた本棚と、隙間なく敷き詰められている本に心が踊る
「ここが第一書庫、よく使われる本はここにあるわ。第二書庫もあるのだけれど…離れにあって少し遠いから、また今度連れて行ってあげるわ」
ジュディスにそう説明されながら本棚を見て回る
歴史書に、精霊術の仕組み、
「おかしいわね、今の時間ならここにいるはずなのだけれど」
ジュディスはそう言って辺りを見回す
「?いるって、誰が」
「誰よ、そこにいるの」
私が聞き返すよりも前に、別の声が聞こえた
上を見上げると、二階部分の手すりに女の子が座っているのが目に入る
「あら、そこにいたのね、リタ」
ジュディスがそう言うと、リタと呼ばれた女の子は私の目の前に飛び降りて来た
「ジュディス、この子誰よ」
私のことを指さしながら彼女はジュディスに問いかける
「あら、ユーリの話を聞いてなかったのかしら?」
悪戯そうにジュディスがそう言うと、どこか納得したような表情を浮かべる
「ああ、この子がそうなのね」
そう言って顎に手を当てながら、じっと私の顔を見詰めてくる
「あ……あの……えっと……」
人付き合いなんて殆どしたことがなくて、こうゆう時どうすればいいかわからず、言葉に詰まる
「……なんか、イメージと違ったわ。てっきりあいつと同じで図々しいのが来るのかと思ってたわ」
そう言って、彼女は腰に手をやる
「そうね、彼とは真逆ね」
ふふっと笑いながら、ジュディスは言った
「…ま、いいわ、あたしはリタ・モルディオ。霊力野研究者よ。あいつとは…ま、親繋がりの腐れ縁って思って頂戴」
最後の方は少し嫌そうにリタは言った
「モルディオ……お父様がよくお話してた方……ですか?」
「ま、正確にはあたしの父さんね。あんたの親と面識はないけど、しょっちゅう父さんと自慢話しあってたってのは聞いてるわ」
呆れたようにため息を付きながら、リタは項垂れた
「私もお父様からよく自慢話し合っていたと聞いています。知っているとは思いますが、アリシア・リベリット・ラグナロクと言います。よろしくお願いします、リタ」
そう言って微笑むと、何故かリタはそっぽを向いてしまった
「さ、アリシア、そろそろ次の所へ行きましょう?」
「あ、はい!」
「…あんた、様付けしなくていいわけ?」
ジュディスに呼ばれて返事をすると、リタは不思議そうに聞いてくる
「…?でも、様付けされてしまうと、なんか距離感を感じませんか?」
首を傾げてそう言うと、リタは苦笑いする
「…そーゆーとこは、あいつに似てんのね…ま、いいわ。じゃあたしもアリシアって呼ばせてもらうわ。…んで、次はどこ行くのよ?」
そう言って、リタはジュディスを見る
「エステルの所へ行こうと思うわ」
腕を前に組みながらジュディスはリタに答えた
「そ、じゃああたしも行く。あんた一人じゃ不安だし」
そう言ってリタは扉に向かって歩き出す
「あら、心強いわね」
ニコッとジュディスは微笑む
「ほら、行きましょ、アリシア」
少し顔を赤らめながらリタは手を差し伸べてくる
「…!はい!」
手を差し伸べられたのが嬉しくて、ニコッと笑いながらその手を取った
そして、三人で『エステル』の元へ向かった
……ところで、『エステル』…って……誰……?
「次はここね」
リタの足が止まると同時に足を止める
次についたのは植物園……かな?
「ここは…?」
「温室ね。色々な花や植物を育てている所よ」
「温室って言うか、植物園でしょ」
ジュディスとリタの説明を聞きながら扉を開けると、視界に沢山の色とりどりな植物が入ってくる
「わぁ……!綺麗……!」
こんなに沢山の植物は初めて見た
見たことのあるものから無いものまで
沢山の植物が植えられている
「ま、最初はそんな反応よね」
微笑みながらリタが呟いたのが聞こえた
「ふふ、いいじゃない、嬉しそうなのだから」
「あれ…?ジュディス!それにリタも!」
植物の間から声が聞こえてくる
その方向を見ると、桃色髪の女の子と、オレンジ髪の男の子の姿が目に入る
「二人ともどうしたの?……って、あれ?そっちの人は??」
男の子は駆け寄って来ながら私を見て首を傾げる
「あ!もしかして、ユーリが言っていた方です?」
キラキラと目を輝かせながら女の子は言う
服装からすると、同じ貴族の子だろう
…ユーリが貴族を傍に置くのも珍しいなぁ
「ええ、そうよ」
私が答えるよりも前にジュディスが答える
「初めまして!エステリーゼ・シデス・ヒュラッセインです!エステルって呼んでください!」
私の両手を握りながら、桃色髪の女の子……エステリーゼはそう言った
「えっと…ぼ、僕はカロル・カペル!よ、よろしくね!!」
顔を赤くさせながら、男の子…カロルはそう言った
「あ………えと………アリシア・リベリット・ラグナロク、です。よろしくお願いします」
ニコッと微笑んでそう返す
正直、エステリーゼの勢いが強すぎて驚いた
「んで?後は誰に会ってないわけ?」
リタがそう聞いてくるが、私にはわからないので首を傾げる
「おじ様だけ、ね」
困ったようにジュディスがそれに答えた
「え……レイヴン、最後に残したの…?」
うわぁ……と、あからさまに嫌そうな顔をしてカロルは呟く
「みんなで行った方が守れると思って」
「……あの、最後の方って……そんなに危険…なのですか…?」
恐る恐る聞いてみる
すると、みんな顔を見合わせて困ったように笑う
「えっと…危険と言いますか…」
「女好きが激しいだけって言うか…」
「ま、どうしようもない奴ってことね」
どこか怒りの篭った様な声でそれぞれ答える
「さっきも言ったけど、あなたに被害が出ないようにはするから安心して?」
ジュディスだけが微笑みながら、私にそう言った
「会わせなくてもいいんじゃない?アリシアが可愛そうよ」
リタが心底あんなのどうでもいい、と言いたげな声でそう言う
「駄目よ、彼も一応、ユーリの側近なのだから」
肩を竦めながらジュディスは答えた
「アリシア、私の後ろに居てくださいね?絶対離れちゃ駄目ですよ??」
「え??あ……は、はい!」
余りにもエステリーゼが必死に言ってくるので、大きく頷く
「ユーリの婚約者でも、これだけ可愛いとレイヴン、何するかわかんないもんね……」
遠い目をしながらカロルが言う
…『レイヴン』って人よりも、カロルの方が私は心配だ……
「じゃ、行こうかしら?」
そう言って、ジュディスを先頭に歩き出した
……余りにもガードされすぎて、向かってる最中、周りの視線が痛かった……
ジュディス達に連れられてきたのは、騎士の訓練場だった
「ジュディス殿!お疲れ様です!」
一人の見張りの騎士がジュディスに敬礼する
「お疲れ様」
ニコッと微笑みながら、彼女は返した
「…?リタ殿にカロル殿…それに、エステリーゼ様もお揃いで、どうなされたのですか?」
ユーリの側近と呼ばれる方々が勢揃いしているのに驚いたのか、首を傾げる
「ユーリ……魔王様の婚約者様が来たから、レイヴンに会わせてあげようと思って」
ジュディスの代わりに、カロルがそう答える
…やっぱり、ほかの騎士の前では魔王様って呼ぶんだ…
すると、騎士はさらに驚いた顔をする
「な、なんと…!ついにいらっしゃったのですね!すぐにレイヴン隊長をお呼びします!」
そう言って、騎士は走って行ってしまった
「……私……歓迎されてる……のでしょうか……?」
そう言って首を傾げる
「もちろんです!お城の人はみんな楽しみにしていたんですよ!」
ニコッと笑いながらエステリーゼはそう言ってくれた
……それなら、いいんだけど……
…きっと、良く思っていない人たちもいるんだろうなぁ…
「ジューディースーちゃぁぁぁぁぁん!!!!!」
大きな声にびっくりして肩があがる
声の聞こえた方向を見ると、ものすごい勢いで走ってくる人影が見えた
「……来たわね」
そう言って、リタが帯を広げたのが目に入る
…なんか、嫌な予感がする
「青年の婚約者どのはどこn」
「うっさぁぁぁぁい!!!!!」
リタがそう叫ぶと、人影に向かって火の玉が飛んでいく
「ぐわぁあぁぁ!?!!」
見事火の玉が命中した人影は、その場で転けて、スライディングしてジュディスの足元で止まった
「あ、あの……大丈夫…なのですか?」
リタの方を向いてそう聞く
「おぉ!!!この子が青年の婚約者殿か!!」
リタが答えるよりも前に先程と同じ声が聞こえ、肩を掴まれる
驚いて振り向くと、すぐ近くに顔が見えた
「きゃっ……!!!」
「ウーーワンッ!!!」
「うぎゃぁぁっ!!?」
小さく悲鳴をあげると、私とレイヴン(?)の間にリンクが割って入り、彼の腕を思い切り噛んだ
そのおかげで、彼の手は私の肩から退かされた
同時に勢いよく後ろに引っ張られる
誰かと思って振り向くと、エステリーゼだった
彼女の腕の中に収まると、リタとジュディス、それにカロルがレイヴン(?)に思い切り攻撃しまくっているのが目に映った
「あっ……えと………そこまでしなくても……」
「…あれだけしないと、レイヴン、わからないんですよ……これでも、ユーリよりはマシだと思います…」
顔をあげると、エステリーゼが苦笑いしているのが目に入った
「………御愁傷様です……」
そう言って軽く手を合わせる
「まっ………まだ……しんで……ない、から………」ガクッ
最後の力を振り絞る様にレイヴン(?)は呟き、そのまま動かなくなってしまった
「アリシア、大丈夫だったかしら」
心配そうにジュディスが顔を覗き込んでくる
「ええ、ちょっと驚きましたが……大丈夫、です」
ニコッと微笑んでそう答える
「おっさん相手に優しくなんてしなくていいのよ?」
リタも心配そうにそう言ってくる
「本人、自己紹介出来なさそうだから僕からしておくと、この人がレイヴン!騎士団の隊長首席だよ!…一応」
最後の一応、という言葉が気になるのだが…
なんとなく、今の対応でわかる気がする
「これで一通りかしら?」
「ですね。フレンとラピードには会っていると思いますから」
「それはそうと、この犬は??」
リタはリンクを見ながら首を傾げる
「この子はリンクです。私が飼っている子です」
「ワンッ!」
リンクは一声鳴くと私の足元に擦り寄ってくる
「ふーん……」
リタはじーっとリンクを見詰める
「小さくてふわふわで、なんだかアリシアに似ていますね!」
エステリーゼは私から離れながらそう言う
「…??そう、ですか??」
足元にいるリンクを抱き上げながら私は聞き返す
「エステルの言ってることなんかわかる気がする!アリシアも小さいもんね!」
「……あんた、本当にユーリと同い歳なの?」
少し疑ったような目でリタは見てくる
「同じ歳ですよ??」
「その割りには色々未発達って感じよね。どっちかって言うとガキンチョと同い歳って感じ」
そう言いながら、リタはカロルを見た
「ちょっ、リタ……アリシアに失礼だって!」
「……大丈夫ですよ、カロル。………成長が止まってしまったのは事実ですし……」
ポツリと呟く
リンクを抱く腕に少しだけ、力が入ってしまった
「リタ、気に触ること言ったみたいよ?」
悪戯そうにジュディスはリタに言った
「うっ………わ、悪かったわよ……」
頭を書きながら、リタはそう言う
「い、いえ!本当に大丈夫ですから!!」
そう言って、笑ってみせる
が、上手く笑えてる自信はあまりない
しん……と静まってしまった
「…あ、夕食までまだ時間がありますし…もう少しみんなでお城の中を見て回りませんか??」
沈黙を崩すようにエステリーゼが提案する
「いい考えね。アリシア、それでいいかしら?」
「あ、はい!お願いします!」
「じゃあ行こう!」
カロルの合図でお城の案内が再スタートした
レイヴンのことを忘れていたのは内緒だ
ーーーーーーーーー
一通り案内が終わった頃にはもうすっかり夜になっていた
夕食には迎え行くから、と言ってたユーリだったが、結局今日やるべき事が終わらなかったらしく、みんなと一緒に夕食を食べた
夕食も食べ終え、部屋に戻って寝巻きに着替え、大きな窓に近づく
今まで家の窓から見ていた景色とここから見える景色は随分違う
明日はエステリーゼとお茶会をする約束をしているが、今日はいろいろありすぎてまだ心臓がドキドキしている
窓の淵に寄りかかって、空を見上げる
真っ黒で明かりがない空は、何処かユーリに似ている気がする
キィっと、音をたてて扉が開いた
誰が来たのかは予想がついていたからあえて振り向かなかった
「空なんて見てて楽しいか?」
声をかけられたところで、ようやく扉の方を向く
「楽しいわけじゃないですが、こうしていると落ち着くんです」
ニコッと笑って言うと、ユーリは部屋の扉を閉めて私の横に腰を降ろした
「ふーん、落ち着く、ね」
「はい、今日一日でいろんな事がたくさんありましたから…まだ心臓がドキドキしているんです」
窓の外に視線を戻しつつ言う
「へぇ?何にドキドキしたわけ?」
スッと私との距離を縮めてニヤリと笑って聞いてくる
「新しい環境に、です。私が住んでいたところよりもずっと賑やかで、人もたくさんいてワクワクするんです」
ニコッと微笑んで言うと、ふーん、と少し残念そうにユーリは言う
「それよりも…えっと……あの、ユーリ…?」
「ん?何?」
「えーっと…その、この体制…どうにかなりませんか…?//」
今私は、窓の端に追いやられて右手で退路を塞がれ、下からユーリが見上げるように見つめてきている
恥ずかしくて両手で顔を隠すが、あっさり退けられてしまう
「恥ずかしいってか?顔真っ赤だぜ?」
ニヤニヤしながらユーリは言ってくる
「っ///うるさいっ…です!//」
「うるさいとか言う口はこれか?」
左手の親指で唇をなぞるようにふれ、先ほどフレンさんに止められて出来なかったキスをしてくる
「んっ……」
触れるだけなのだが、経験が全く無い私にとっては長い間キスしているのは少しつらいわけで
頭が酸素を欲しがって少し口を開くと、ユーリの舌が待ってましたと言わんばかりに侵入してきた
「ふっ……あっ……」
初めての感覚に頭がおかしくなりそうだ
なんとも言えない甘い感覚に耐えるようにもユーリにしがみつくが、体にうまく力が入らない
「あっ…ふぅっ……!ユー…リぃ…っ」
「はっ……キスだけでそんな顔すんなって…歯止め効かなくなんだろ」
優しく頬を包み込みながらユーリは言う
多分、今鏡を見たら相当とろけた顔をしているんだろう
ただ、初めての感覚で未だに余韻が残っていて肩で息をしていると、彼の唇が首筋をなぞるように触れてきた
「ん…っ!」
「あんま煽んなっての…//」
どうやらユーリも少し顔が赤くなっているようだ
まぁ、あまり顔は見えないのだが
そんなことを考えていると、不意にチクッと首筋に痛みが走ると同時に、チュッとリップ音が聞こえた
「…っ!?…ユーリ?」
頭に?を浮かべつつユーリを見ると、意地悪そうな笑顔を浮かべている
そして先ほどチクッと痛んだところを指でなぞられる
「やっと付けられたな、所有印」
「っ…!!///」
耳元で呟かれた言葉に耳を疑ったが、ユーリが嬉しそうにしていることや、先ほどリップ音からして本気で付けたのだろう
せめて首はやめて欲しかったなぁ…と思うが、言うのはグッと堪える
恥ずかしくて顔を赤くしていると、唐突にひょいっと持ち上げられた
「わっ…!」
「ほら、明日はエステルとお茶すんだろ?もう寝ろって」
そう言ってベッドまで来ると私を抱えたままベッドにダイブした
「ユーリ、執務は?」
「また明日、だよ。忙しいが昼頃にはこの部屋にいてくれよ?何が何でも会いに来っから」
「もう…あんまりサボって他の人困らせないでくださいね?」
コツンと軽く小突いて言うとへいへい、と絶対わかっていないだろうという返事が返ってきた
「アリシア、おやすみ、また明日…な?」
ニコッと笑って言うユーリに微笑み返して
「ユーリ、おやすみ」
と言って、抱き合ったまま眠りについた