第1章
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〜対面〜
最初についたのは書庫だった
「わぁ……すごい本の量……!」
部屋いっぱいに並べられた本棚と、隙間なく敷き詰められている本に心が踊る
「ここが第一書庫よ。よく使われる本はここにあるわ。第二書庫もあるのだけれど…離れにあって少し遠いから、また今度連れて行ってあげるわね」
ジュディスにそう説明されながら本棚を見て回る
歴史書に、精霊術の仕組み、霊力野 関連の本、おとぎ話……様々な分野の本が所狭しと並んでいる
お城の書庫なだけはある
ただ気になるのは……本の数が多いせいなのか、ちゃんと分類がされていない点だ
これ……目当ての本を探すのに苦労しそうね……
「おかしいわね、今の時間ならここにいるはずなのだけれど」
ジュディスはそう言って辺りを見回す
「?いるって、誰が」
「誰よ、そこにいるの」
私が聞き返すよりも前に、別の声が聞こえた
上を見上げると、二階部分の手すりに女の子が座っているのが目に入る
「あら、そこにいたのね、リタ」
ジュディスがそう言うと、リタと呼ばれた女の子は私の目の前に飛び降りて来た
「ジュディス、この子誰よ」
私のことを指さしながら彼女はジュディスに問いかける
「あら、ユーリの話を聞いてなかったのかしら?」
悪戯そうにジュディスがそう言うと、どこか納得したような表情を浮かべる
「ああ、この子がそうなのね」
そう言って顎に手を当てながら、ジッと私の顔を見詰めてくる
「あ……あの……えっと……」
人付き合いなんて殆どしたことがなくて、こうゆう時どうすればいいかわからず、言葉に詰まる
「……なんか、イメージと違ったわ。てっきりあいつと同じで図々しいのが来るのかと思ってたわ」
そう言って、彼女は腰に手をやる
「そうね、彼とは真逆ね」
ふふっと笑いながら、ジュディスは言った
「…ま、いいわ、あたしはリタ・モルディオ。霊力野研究者よ。あいつとは……親繋がりの腐れ縁って思って頂戴」
最後の方は少し嫌そうにリタは言った
そのファミリーネームには聞き覚えがある
「モルディオ……お父様がよくお話してた方……ですか?」
「正確にはあたしの父さんね。あんたの親と面識はないけど、しょっちゅう父さんと自慢話しあってたってのは聞いてるわ」
呆れたようにため息を付きながら、リタは項垂れた
「私もお父様からよく自慢話し合っていたと聞いています。知っているとは思いますが、アリシア・リベリット・ラグナロクと言います。よろしくお願いします、リタ」
そう言って微笑むと、何故かリタはそっぽを向いてしまった
「さ、アリシア、そろそろ次の所へ行きましょう?」
「あ、はい!」
「…あんた、様付けしなくていいわけ?」
ジュディスに呼ばれて返事をすると、リタは不思議そうに聞いてくる
「…?でも、様付けされてしまうと、なんか距離感を感じませんか?」
首を傾げてそう言うと、リタは苦笑いする
「…そーゆーとこは、あいつに似てんのね…ま、いいわ。じゃあたしもアリシアって呼ばせてもらうわ。…んで、次はどこ行くのよ?」
そう言って、リタはジュディスを見る
「エステルの所へ行こうと思うわ」
腕を前に組みながらジュディスはリタに答えた
「そ、じゃああたしも行く。あんた一人じゃ不安だし」
そう言ってリタは扉に向かって歩き出す
「あら、心強いわね」
ニコッとジュディスは微笑む
「ほら、行きましょ、アリシア」
少し顔を赤らめながらリタは手を差し伸べてくる
「…!はい!」
手を差し伸べられたのが嬉しくて、ニコッと笑いながらその手を取った
そして、三人で『エステル』の元へ向かった
……ところで、『エステル』…って……誰……?
ーーーーーーー
「次はここね」
リタの足が止まると同時に足を止める
目の前に見えるのはガラス張りの建物
次についたのは植物園……かな?
「ここは…?」
「温室ね。色々な花や植物を育てている所よ」
「温室って言うか、植物園でしょ」
ジュディスとリタの説明を聞きながら扉を開けると、視界に沢山の色とりどりな植物が入ってくる
「わぁ……!綺麗……!」
こんなに沢山の植物は初めて見た
見たことのあるものから無いものまで
沢山の植物が植えられている
「ま、最初はそんな反応よね」
微笑みながらリタが呟いたのが聞こえた
「ふふ、いいじゃない、嬉しそうなのだから」
「あれ…?ジュディス!それにリタも!」
植物の間から声が聞こえてくる
その方向を見ると、桃色髪の女の子と、オレンジ髪の男の子の姿が目に入る
「2人ともどうしたの?……って、あれ?そっちの人は??」
男の子は駆け寄って来ながら私を見て首を傾げる
「あ!もしかして、ユーリが言っていた方です?」
キラキラと目を輝かせながら女の子は言う
服装からすると、同じ貴族の子だろう
…ユーリが貴族を傍に置くのは珍しいかも
「ええ、そうよ」
私が答えるよりも前にジュディスが答える
「初めまして!エステリーゼ・シデス・ヒュラッセインです!エステルって呼んでください!」
私の両手を握りながら、桃色髪の女の子……エステリーゼはそう言った
「えっと…ボ、ボクはカロル・カペル!よ、よろしくね!!」
ほんのりと顔を赤くさせながら、男の子…カロルはそう言った
「あ………えと………アリシア・リベリット・ラグナロク、です。よろしくお願いします」
ニコッと微笑んでそう返す
正直、エステリーゼの勢いが強すぎて驚いた
「んで?後は誰に会ってないわけ?」
リタがそう聞いてくるが、私にはわからないので首を傾げる
「おじ様だけ、ね」
困ったようにジュディスがそれに答えた
「え……レイヴン、最後に残したの…?」
うわぁ……と、あからさまに嫌そうな顔をしてカロルは呟く
「みんなで行った方が守れると思って」
「……あの、最後の方って……そんなに危険…なのですか…?」
恐る恐る聞いてみる
すると、みんな顔を見合わせて困ったように笑う
「えっと…危険と言いますか…」
「女好きが激しいだけって言うか…」
「ま、どうしようもない奴ってことね」
どこか怒りの篭った様な声でそれぞれ答える
「さっきも言ったけど、あなたに被害が出ないようにはするから安心して?」
ジュディスだけが微笑みながら、私にそう言った
「会わせなくてもいいんじゃない?アリシアが可愛そうよ」
リタが心底あんなのどうでもいい、と言いたげな声でそう言う
「駄目よ、彼も一応、ユーリの側近なのだから」
肩を竦めながらジュディスは答えた
「アリシア、私の後ろに居てくださいね?絶対離れちゃ駄目ですよ??」
「え??あ……は、はい!」
余りにもエステリーゼが必死に言ってくるので、大きく頷く
「ユーリの婚約者でも、これだけ可愛いとレイヴン、何するかわかんないもんね……」
遠い目をしながらカロルが言う
…『レイヴン』って人よりも、カロルの方が私は心配だ……
「じゃ、行こうかしら?」
そう言って、ジュディスを先頭に歩き出した
……余りにもガードされすぎて、向かってる最中、周りの視線が痛かった……
ーーーーーーーー
ジュディス達に連れられてきたのは、騎士の訓練場だった
「ジュディス殿!お疲れ様です!」
一人の見張りの騎士がジュディスに敬礼する
「お疲れ様」
ニコッと微笑みながら、彼女は返した
「…?リタ殿にカロル殿…それに、エステリーゼ様もお揃いで、どうなされたのですか?」
ユーリの側近と呼ばれる方々が勢揃いしているのに驚いたのか、彼は不思議そうに首を傾げる
「ユーリ……魔王様の婚約者様が来たから、レイヴンに会わせてあげようと思って」
ジュディスが答えるよりも前に、カロルがそう答える
やっぱり、ほかの騎士の前では魔王様って呼ぶのね
すると、騎士はさらに驚いた顔をする
「な、なんと…!ついにいらっしゃったのですね!すぐにレイヴン隊長をお呼びします!」
そう言って、騎士は走って行ってしまった
「……私……歓迎されてる……のでしょうか……?」
そう言って首を傾げる
「もちろんです!お城の人はみんな楽しみにしていたんですよ!」
ニコッと笑いながらエステリーゼはそう言ってくれた
……それなら、いいんだけど……
…きっと、良く思っていない人たちもいるんだろうなぁ…
「ジューディースーちゃぁぁぁぁん!!!!!」
不意に聞こえた大きな声にびっくりして肩があがる
声の聞こえた方向を見ると、ものすごい勢いで走ってくる人影が見えた
「……来たわね」
そう言って、リタが帯を広げたのが目に入る
…なんか、嫌な予感がする
「青年の婚約者殿はどこn」
「うっさぁぁぁぁい!!!!!」
リタがそう叫ぶと、人影に向かって火の玉が飛んでいく
「ぐわぁあぁぁ!?!!」
見事火の玉が命中した人影は、その場で転けて、スライディングしてジュディスの足元で止まった
「あ、あの……大丈夫…なのですか?」
リタの方を向いてそう聞く
「おぉ!!!この子が青年の婚約者殿か!!」
リタが答えるよりも前に先程と同じ声が聞こえ、肩を掴まれる
驚いて振り向くと、すぐ近くに顔が見えた
「きゃっ……!!!」
「ウーーワンッ!!!」
「うぎゃぁぁっ!!?」
小さく悲鳴をあげると、私とレイヴン(?)の間にリンクが割って入り、彼の腕を思い切り噛んだ
そのおかげで、彼の手は私の肩から退かされた
同時に勢いよく後ろに引っ張られる
誰かと思って振り向くと、エステリーゼだった
彼女の腕の中に収まると、リタとジュディス、それにカロルがレイヴン(?)に思い切り攻撃しまくっているのが目に映った
「あっ……えと………そこまでしなくても……」
「…あれだけしないと、レイヴン、わからないんですよ……これでも、ユーリよりはマシだと思います…」
顔をあげると、エステリーゼが苦笑いしているのが目に入った
「………御愁傷様です……」
そう言って軽く手を合わせる
「まっ………まだ……しんで……ない、から………」ガクッ
最後の力を振り絞る様にレイヴン(?)は呟き、そのまま動かなくなってしまった
「アリシア、大丈夫だったかしら」
心配そうにジュディスが顔を覗き込んでくる
「ええ、ちょっと驚きましたが……大丈夫、です」
ニコッと微笑んでそう答える
「おっさん相手に優しくなんてしなくていいのよ?」
リタも心配そうにそう言ってくる
「本人、自己紹介出来なさそうだからボクからしておくと、この人がレイヴン!騎士団の隊長首席だよ!…一応」
最後の一応、という言葉が気になるのだが…
なんとなく、今の対応でわかる気がする
「これで一通りかしら?」
「ですね。フレンとラピードには会っていると思いますから」
「それはそうと、この犬は??」
リタはリンクを見ながら首を傾げる
「この子はリンクです。私が飼っている子です」
「ワンッ!」
リンクは一声鳴くと私の足元に擦り寄ってくる
「ふーん……」
リタはじーっとリンクを見詰める
「小さくてふわふわで、なんだかアリシアに似ていますね!」
エステリーゼは私から離れながらそう言う
「…??そう、ですか??」
足元にいるリンクを抱き上げながら私は聞き返す
「エステルの言ってることなんかわかる気がする!アリシアも小さいもんね!」
「……あんた、本当にユーリと同い歳なの?」
少し疑ったような目でリタは見てくる
「同じ歳ですよ??」
「その割りには色々未発達って感じよね。どっちかって言うとガキンチョと同い歳って感じ」
そう言いながら、リタはカロルを見た
「ちょっ、リタ……アリシアに失礼だって!」
「……大丈夫ですよ、カロル。………成長が止まってしまったのは事実ですし……」
ポツリと呟く
リンクを抱く腕に少しだけ、力が入ってしまった
「リタ、気に触ること言ったみたいよ?」
悪戯そうにジュディスはリタに言った
「うっ………わ、悪かったわよ……」
頭を書きながら、リタはそう言う
「い、いえ!本当に大丈夫ですから!!」
そう言って、笑ってみせる
が、上手く笑えてる自信はあまりない
しん……と静まってしまった
「…あ、夕食までまだ時間がありますし…もう少しみんなでお城の中を見て回りませんか??」
沈黙を崩すようにエステリーゼが提案する
「いい考えね。アリシア、それでいいかしら?」
「あ、はい!お願いします!」
「じゃあ行こう!」
カロルの合図でお城の案内が再スタートした
レイヴンのことを忘れていたのは内緒だ
ーーーーーーーーー
一通り案内が終わった頃にはもうすっかり夜になっていた
夕食には迎え行くから、と言ってたユーリだったが、結局今日やるべき事が終わらなかったらしく、みんなと一緒に夕食を食べた
夕食も食べ終え、部屋に戻って寝巻きに着替え、大きな窓に近づく
今まで家の窓から見ていた景色とここから見える景色は随分違う
明日はエステリーゼとお茶会をする約束をしているが、今日はいろいろありすぎてまだ心臓がドキドキしている
窓の淵に寄りかかって、空を見上げる
真っ黒で明かりがない空は、何処かユーリに似ている気がする
そんな事を考えながら空を見つめているとキィっと、扉の開く音が聞こえてくる
誰が来たのかは予想がついていたからあえて振り向かなかった
「空なんて見てて楽しいか?」
そう声をかけられたところで、ようやく扉の方を向く
「楽しいわけじゃないですが、こうしていると落ち着くんです」
ニコッと笑って言うと、ユーリは部屋の扉を閉めて私の横に腰を降ろした
「ふーん、落ち着く、ね」
「はい、今日一日でいろんな事がたくさんありましたから…まだ心臓がドキドキしているんです」
窓の外に視線を戻しつつ言う
「へぇ?何にドキドキしたわけ?」
スッと私との距離を縮めてニヤリと笑って聞いてくる
「新しい環境に、です。私が住んでいたところよりもずっと賑やかで、人もたくさんいてワクワクするんです」
ニコッと微笑んで言うと、ふーん、と少し残念そうにユーリは言う
「それよりも…えっと……あの、ユーリ…?」
「ん?何?」
「えーっと…その、この体制…どうにかなりませんか…?//」
今私は、窓の端に追いやられて右手で退路を塞がれ、下からユーリが見上げるように見つめてきている
恥ずかしくて両手で顔を隠すが、あっさり退けられてしまう
「恥ずかしいってか?顔真っ赤だぜ?」
ニヤニヤしながらユーリは言ってくる
「っ///うるさいっ…です!//」
「ふーん……?うるさいとか言う口はこれか?」
左手の親指で唇をなぞるように触れてくると、先ほどフレンさんに止められて出来なかったキスをしてくる
「んっ……」
触れるだけなのだが、経験が全く無い私にとっては長い間キスしているのは少しつらいわけで
頭が酸素を欲しがって少し口を開くと、ユーリの舌が待ってましたと言わんばかりに侵入してきた
「ふっ……あっ……」
初めての感覚に頭がおかしくなりそうだ
なんとも言えない甘い感覚に耐えるようにもユーリにしがみつくが、体にうまく力が入らない
「ふぅっ……!ユー…リぃ…っ」
「はっ……キスだけでそんな顔すんなって…歯止め効かなくなんだろ」
優しく頬を包み込みながらユーリは言う
多分、今鏡を見たら相当とろけた顔をしているんだろう
ただ、初めての感覚で未だに余韻が残っていて肩で息をしていると、彼の唇が首筋をなぞるように触れてきた
「ん…っ!」
「あんま煽んなっての…//」
どうやらユーリも少し顔が赤くなっているようだ
まぁ、あまり顔は見えないのだが
そんなことを考えていると、不意にチクッと首筋に痛みが走ると同時に、チュッとリップ音が聞こえた
「…っ!?…ユーリ?」
頭に?を浮かべつつユーリを見ると、意地悪そうな笑顔を浮かべている
そして先ほどチクッと痛んだところを指でなぞられる
「やっと付けられたな、所有印」
「っ…!!///」
耳元で呟かれた言葉に耳を疑ったが、ユーリが嬉しそうにしていることや、先ほどリップ音からして本気で付けたのだろう
せめて首はやめて欲しかったなぁ…と思うが、言うのはグッと堪える
恥ずかしくて顔を赤くしていると、唐突にひょいっと持ち上げられた
「わっ…!」
「ほら、明日はエステルとお茶すんだろ?もう寝ろって」
そう言ってベッドまで来ると私を抱えたままベッドにダイブした
「ユーリ、執務は?」
「また明日、だよ。忙しいが昼頃にはこの部屋にいてくれよ?何が何でも会いに来っから」
「もう…あんまりサボって他の人困らせないでくださいね?」
コツンと軽く小突いて言うとへいへい、と絶対わかっていないだろうという返事が返ってきた
「アリシア、おやすみ、また明日…な?」
ニコッと笑って言うユーリに微笑み返して
「ええ。ユーリ、おやすみなさい」
そう言い合って、抱き合ったまま眠りについた
最初についたのは書庫だった
「わぁ……すごい本の量……!」
部屋いっぱいに並べられた本棚と、隙間なく敷き詰められている本に心が踊る
「ここが第一書庫よ。よく使われる本はここにあるわ。第二書庫もあるのだけれど…離れにあって少し遠いから、また今度連れて行ってあげるわね」
ジュディスにそう説明されながら本棚を見て回る
歴史書に、精霊術の仕組み、
お城の書庫なだけはある
ただ気になるのは……本の数が多いせいなのか、ちゃんと分類がされていない点だ
これ……目当ての本を探すのに苦労しそうね……
「おかしいわね、今の時間ならここにいるはずなのだけれど」
ジュディスはそう言って辺りを見回す
「?いるって、誰が」
「誰よ、そこにいるの」
私が聞き返すよりも前に、別の声が聞こえた
上を見上げると、二階部分の手すりに女の子が座っているのが目に入る
「あら、そこにいたのね、リタ」
ジュディスがそう言うと、リタと呼ばれた女の子は私の目の前に飛び降りて来た
「ジュディス、この子誰よ」
私のことを指さしながら彼女はジュディスに問いかける
「あら、ユーリの話を聞いてなかったのかしら?」
悪戯そうにジュディスがそう言うと、どこか納得したような表情を浮かべる
「ああ、この子がそうなのね」
そう言って顎に手を当てながら、ジッと私の顔を見詰めてくる
「あ……あの……えっと……」
人付き合いなんて殆どしたことがなくて、こうゆう時どうすればいいかわからず、言葉に詰まる
「……なんか、イメージと違ったわ。てっきりあいつと同じで図々しいのが来るのかと思ってたわ」
そう言って、彼女は腰に手をやる
「そうね、彼とは真逆ね」
ふふっと笑いながら、ジュディスは言った
「…ま、いいわ、あたしはリタ・モルディオ。霊力野研究者よ。あいつとは……親繋がりの腐れ縁って思って頂戴」
最後の方は少し嫌そうにリタは言った
そのファミリーネームには聞き覚えがある
「モルディオ……お父様がよくお話してた方……ですか?」
「正確にはあたしの父さんね。あんたの親と面識はないけど、しょっちゅう父さんと自慢話しあってたってのは聞いてるわ」
呆れたようにため息を付きながら、リタは項垂れた
「私もお父様からよく自慢話し合っていたと聞いています。知っているとは思いますが、アリシア・リベリット・ラグナロクと言います。よろしくお願いします、リタ」
そう言って微笑むと、何故かリタはそっぽを向いてしまった
「さ、アリシア、そろそろ次の所へ行きましょう?」
「あ、はい!」
「…あんた、様付けしなくていいわけ?」
ジュディスに呼ばれて返事をすると、リタは不思議そうに聞いてくる
「…?でも、様付けされてしまうと、なんか距離感を感じませんか?」
首を傾げてそう言うと、リタは苦笑いする
「…そーゆーとこは、あいつに似てんのね…ま、いいわ。じゃあたしもアリシアって呼ばせてもらうわ。…んで、次はどこ行くのよ?」
そう言って、リタはジュディスを見る
「エステルの所へ行こうと思うわ」
腕を前に組みながらジュディスはリタに答えた
「そ、じゃああたしも行く。あんた一人じゃ不安だし」
そう言ってリタは扉に向かって歩き出す
「あら、心強いわね」
ニコッとジュディスは微笑む
「ほら、行きましょ、アリシア」
少し顔を赤らめながらリタは手を差し伸べてくる
「…!はい!」
手を差し伸べられたのが嬉しくて、ニコッと笑いながらその手を取った
そして、三人で『エステル』の元へ向かった
……ところで、『エステル』…って……誰……?
ーーーーーーー
「次はここね」
リタの足が止まると同時に足を止める
目の前に見えるのはガラス張りの建物
次についたのは植物園……かな?
「ここは…?」
「温室ね。色々な花や植物を育てている所よ」
「温室って言うか、植物園でしょ」
ジュディスとリタの説明を聞きながら扉を開けると、視界に沢山の色とりどりな植物が入ってくる
「わぁ……!綺麗……!」
こんなに沢山の植物は初めて見た
見たことのあるものから無いものまで
沢山の植物が植えられている
「ま、最初はそんな反応よね」
微笑みながらリタが呟いたのが聞こえた
「ふふ、いいじゃない、嬉しそうなのだから」
「あれ…?ジュディス!それにリタも!」
植物の間から声が聞こえてくる
その方向を見ると、桃色髪の女の子と、オレンジ髪の男の子の姿が目に入る
「2人ともどうしたの?……って、あれ?そっちの人は??」
男の子は駆け寄って来ながら私を見て首を傾げる
「あ!もしかして、ユーリが言っていた方です?」
キラキラと目を輝かせながら女の子は言う
服装からすると、同じ貴族の子だろう
…ユーリが貴族を傍に置くのは珍しいかも
「ええ、そうよ」
私が答えるよりも前にジュディスが答える
「初めまして!エステリーゼ・シデス・ヒュラッセインです!エステルって呼んでください!」
私の両手を握りながら、桃色髪の女の子……エステリーゼはそう言った
「えっと…ボ、ボクはカロル・カペル!よ、よろしくね!!」
ほんのりと顔を赤くさせながら、男の子…カロルはそう言った
「あ………えと………アリシア・リベリット・ラグナロク、です。よろしくお願いします」
ニコッと微笑んでそう返す
正直、エステリーゼの勢いが強すぎて驚いた
「んで?後は誰に会ってないわけ?」
リタがそう聞いてくるが、私にはわからないので首を傾げる
「おじ様だけ、ね」
困ったようにジュディスがそれに答えた
「え……レイヴン、最後に残したの…?」
うわぁ……と、あからさまに嫌そうな顔をしてカロルは呟く
「みんなで行った方が守れると思って」
「……あの、最後の方って……そんなに危険…なのですか…?」
恐る恐る聞いてみる
すると、みんな顔を見合わせて困ったように笑う
「えっと…危険と言いますか…」
「女好きが激しいだけって言うか…」
「ま、どうしようもない奴ってことね」
どこか怒りの篭った様な声でそれぞれ答える
「さっきも言ったけど、あなたに被害が出ないようにはするから安心して?」
ジュディスだけが微笑みながら、私にそう言った
「会わせなくてもいいんじゃない?アリシアが可愛そうよ」
リタが心底あんなのどうでもいい、と言いたげな声でそう言う
「駄目よ、彼も一応、ユーリの側近なのだから」
肩を竦めながらジュディスは答えた
「アリシア、私の後ろに居てくださいね?絶対離れちゃ駄目ですよ??」
「え??あ……は、はい!」
余りにもエステリーゼが必死に言ってくるので、大きく頷く
「ユーリの婚約者でも、これだけ可愛いとレイヴン、何するかわかんないもんね……」
遠い目をしながらカロルが言う
…『レイヴン』って人よりも、カロルの方が私は心配だ……
「じゃ、行こうかしら?」
そう言って、ジュディスを先頭に歩き出した
……余りにもガードされすぎて、向かってる最中、周りの視線が痛かった……
ーーーーーーーー
ジュディス達に連れられてきたのは、騎士の訓練場だった
「ジュディス殿!お疲れ様です!」
一人の見張りの騎士がジュディスに敬礼する
「お疲れ様」
ニコッと微笑みながら、彼女は返した
「…?リタ殿にカロル殿…それに、エステリーゼ様もお揃いで、どうなされたのですか?」
ユーリの側近と呼ばれる方々が勢揃いしているのに驚いたのか、彼は不思議そうに首を傾げる
「ユーリ……魔王様の婚約者様が来たから、レイヴンに会わせてあげようと思って」
ジュディスが答えるよりも前に、カロルがそう答える
やっぱり、ほかの騎士の前では魔王様って呼ぶのね
すると、騎士はさらに驚いた顔をする
「な、なんと…!ついにいらっしゃったのですね!すぐにレイヴン隊長をお呼びします!」
そう言って、騎士は走って行ってしまった
「……私……歓迎されてる……のでしょうか……?」
そう言って首を傾げる
「もちろんです!お城の人はみんな楽しみにしていたんですよ!」
ニコッと笑いながらエステリーゼはそう言ってくれた
……それなら、いいんだけど……
…きっと、良く思っていない人たちもいるんだろうなぁ…
「ジューディースーちゃぁぁぁぁん!!!!!」
不意に聞こえた大きな声にびっくりして肩があがる
声の聞こえた方向を見ると、ものすごい勢いで走ってくる人影が見えた
「……来たわね」
そう言って、リタが帯を広げたのが目に入る
…なんか、嫌な予感がする
「青年の婚約者殿はどこn」
「うっさぁぁぁぁい!!!!!」
リタがそう叫ぶと、人影に向かって火の玉が飛んでいく
「ぐわぁあぁぁ!?!!」
見事火の玉が命中した人影は、その場で転けて、スライディングしてジュディスの足元で止まった
「あ、あの……大丈夫…なのですか?」
リタの方を向いてそう聞く
「おぉ!!!この子が青年の婚約者殿か!!」
リタが答えるよりも前に先程と同じ声が聞こえ、肩を掴まれる
驚いて振り向くと、すぐ近くに顔が見えた
「きゃっ……!!!」
「ウーーワンッ!!!」
「うぎゃぁぁっ!!?」
小さく悲鳴をあげると、私とレイヴン(?)の間にリンクが割って入り、彼の腕を思い切り噛んだ
そのおかげで、彼の手は私の肩から退かされた
同時に勢いよく後ろに引っ張られる
誰かと思って振り向くと、エステリーゼだった
彼女の腕の中に収まると、リタとジュディス、それにカロルがレイヴン(?)に思い切り攻撃しまくっているのが目に映った
「あっ……えと………そこまでしなくても……」
「…あれだけしないと、レイヴン、わからないんですよ……これでも、ユーリよりはマシだと思います…」
顔をあげると、エステリーゼが苦笑いしているのが目に入った
「………御愁傷様です……」
そう言って軽く手を合わせる
「まっ………まだ……しんで……ない、から………」ガクッ
最後の力を振り絞る様にレイヴン(?)は呟き、そのまま動かなくなってしまった
「アリシア、大丈夫だったかしら」
心配そうにジュディスが顔を覗き込んでくる
「ええ、ちょっと驚きましたが……大丈夫、です」
ニコッと微笑んでそう答える
「おっさん相手に優しくなんてしなくていいのよ?」
リタも心配そうにそう言ってくる
「本人、自己紹介出来なさそうだからボクからしておくと、この人がレイヴン!騎士団の隊長首席だよ!…一応」
最後の一応、という言葉が気になるのだが…
なんとなく、今の対応でわかる気がする
「これで一通りかしら?」
「ですね。フレンとラピードには会っていると思いますから」
「それはそうと、この犬は??」
リタはリンクを見ながら首を傾げる
「この子はリンクです。私が飼っている子です」
「ワンッ!」
リンクは一声鳴くと私の足元に擦り寄ってくる
「ふーん……」
リタはじーっとリンクを見詰める
「小さくてふわふわで、なんだかアリシアに似ていますね!」
エステリーゼは私から離れながらそう言う
「…??そう、ですか??」
足元にいるリンクを抱き上げながら私は聞き返す
「エステルの言ってることなんかわかる気がする!アリシアも小さいもんね!」
「……あんた、本当にユーリと同い歳なの?」
少し疑ったような目でリタは見てくる
「同じ歳ですよ??」
「その割りには色々未発達って感じよね。どっちかって言うとガキンチョと同い歳って感じ」
そう言いながら、リタはカロルを見た
「ちょっ、リタ……アリシアに失礼だって!」
「……大丈夫ですよ、カロル。………成長が止まってしまったのは事実ですし……」
ポツリと呟く
リンクを抱く腕に少しだけ、力が入ってしまった
「リタ、気に触ること言ったみたいよ?」
悪戯そうにジュディスはリタに言った
「うっ………わ、悪かったわよ……」
頭を書きながら、リタはそう言う
「い、いえ!本当に大丈夫ですから!!」
そう言って、笑ってみせる
が、上手く笑えてる自信はあまりない
しん……と静まってしまった
「…あ、夕食までまだ時間がありますし…もう少しみんなでお城の中を見て回りませんか??」
沈黙を崩すようにエステリーゼが提案する
「いい考えね。アリシア、それでいいかしら?」
「あ、はい!お願いします!」
「じゃあ行こう!」
カロルの合図でお城の案内が再スタートした
レイヴンのことを忘れていたのは内緒だ
ーーーーーーーーー
一通り案内が終わった頃にはもうすっかり夜になっていた
夕食には迎え行くから、と言ってたユーリだったが、結局今日やるべき事が終わらなかったらしく、みんなと一緒に夕食を食べた
夕食も食べ終え、部屋に戻って寝巻きに着替え、大きな窓に近づく
今まで家の窓から見ていた景色とここから見える景色は随分違う
明日はエステリーゼとお茶会をする約束をしているが、今日はいろいろありすぎてまだ心臓がドキドキしている
窓の淵に寄りかかって、空を見上げる
真っ黒で明かりがない空は、何処かユーリに似ている気がする
そんな事を考えながら空を見つめているとキィっと、扉の開く音が聞こえてくる
誰が来たのかは予想がついていたからあえて振り向かなかった
「空なんて見てて楽しいか?」
そう声をかけられたところで、ようやく扉の方を向く
「楽しいわけじゃないですが、こうしていると落ち着くんです」
ニコッと笑って言うと、ユーリは部屋の扉を閉めて私の横に腰を降ろした
「ふーん、落ち着く、ね」
「はい、今日一日でいろんな事がたくさんありましたから…まだ心臓がドキドキしているんです」
窓の外に視線を戻しつつ言う
「へぇ?何にドキドキしたわけ?」
スッと私との距離を縮めてニヤリと笑って聞いてくる
「新しい環境に、です。私が住んでいたところよりもずっと賑やかで、人もたくさんいてワクワクするんです」
ニコッと微笑んで言うと、ふーん、と少し残念そうにユーリは言う
「それよりも…えっと……あの、ユーリ…?」
「ん?何?」
「えーっと…その、この体制…どうにかなりませんか…?//」
今私は、窓の端に追いやられて右手で退路を塞がれ、下からユーリが見上げるように見つめてきている
恥ずかしくて両手で顔を隠すが、あっさり退けられてしまう
「恥ずかしいってか?顔真っ赤だぜ?」
ニヤニヤしながらユーリは言ってくる
「っ///うるさいっ…です!//」
「ふーん……?うるさいとか言う口はこれか?」
左手の親指で唇をなぞるように触れてくると、先ほどフレンさんに止められて出来なかったキスをしてくる
「んっ……」
触れるだけなのだが、経験が全く無い私にとっては長い間キスしているのは少しつらいわけで
頭が酸素を欲しがって少し口を開くと、ユーリの舌が待ってましたと言わんばかりに侵入してきた
「ふっ……あっ……」
初めての感覚に頭がおかしくなりそうだ
なんとも言えない甘い感覚に耐えるようにもユーリにしがみつくが、体にうまく力が入らない
「ふぅっ……!ユー…リぃ…っ」
「はっ……キスだけでそんな顔すんなって…歯止め効かなくなんだろ」
優しく頬を包み込みながらユーリは言う
多分、今鏡を見たら相当とろけた顔をしているんだろう
ただ、初めての感覚で未だに余韻が残っていて肩で息をしていると、彼の唇が首筋をなぞるように触れてきた
「ん…っ!」
「あんま煽んなっての…//」
どうやらユーリも少し顔が赤くなっているようだ
まぁ、あまり顔は見えないのだが
そんなことを考えていると、不意にチクッと首筋に痛みが走ると同時に、チュッとリップ音が聞こえた
「…っ!?…ユーリ?」
頭に?を浮かべつつユーリを見ると、意地悪そうな笑顔を浮かべている
そして先ほどチクッと痛んだところを指でなぞられる
「やっと付けられたな、所有印」
「っ…!!///」
耳元で呟かれた言葉に耳を疑ったが、ユーリが嬉しそうにしていることや、先ほどリップ音からして本気で付けたのだろう
せめて首はやめて欲しかったなぁ…と思うが、言うのはグッと堪える
恥ずかしくて顔を赤くしていると、唐突にひょいっと持ち上げられた
「わっ…!」
「ほら、明日はエステルとお茶すんだろ?もう寝ろって」
そう言ってベッドまで来ると私を抱えたままベッドにダイブした
「ユーリ、執務は?」
「また明日、だよ。忙しいが昼頃にはこの部屋にいてくれよ?何が何でも会いに来っから」
「もう…あんまりサボって他の人困らせないでくださいね?」
コツンと軽く小突いて言うとへいへい、と絶対わかっていないだろうという返事が返ってきた
「アリシア、おやすみ、また明日…な?」
ニコッと笑って言うユーリに微笑み返して
「ええ。ユーリ、おやすみなさい」
そう言い合って、抱き合ったまま眠りについた
