番外編
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〜Return&Nightmare twe〜
『真っ暗』……一言で言えばその表現が正しいだろう
上も下も、右も左もわからない
この一週間で、何度この空間に来ただろう……
そんなことをぼーっと考えいると、後ろに気配を感じた
クルッと振り向くと、私の大好きなユーリが見えた
「っ!ユーリ…っ!!」
名前を呼びながら手を伸ばして駆け寄ろうとする
だが、一向に進んでいる気配がない
むしろ、どんどん遠ざかって行ってしまう
「……っ!いや……っ!ユーリ…待って…っ!!」
必死で伸ばした手も届かなくて、遂に見えなくなってしまう
寂しさや不安、恐怖でもう動けそうにない
へなへなとその場に座り込んで、両手で腕を抱える
ーーユーリにまで置いていかれてしまったら、私はどうすればいいの…?ーー
そんな言葉が頭を過ぎる
ユーリまで、何処かに行ってしまったら……
私の手の届かない場所へ行ってしまったら……
……きっと耐えられない……
そんなの、嫌だ
私はユーリの隣に居たい……
……もう、リゲルみたいに大切な人居なくなるのは嫌……
なら、今すべきことは?
そんなの、追いかけることに決まってる
…でも、立ち上がれない
…足が動かない
「……ユーリ…………リゲル…………」
ここにいない一人と一匹の名前を呟く
ねぇユーリ………抱きしめてよ………
リゲル…………もう一度会いたいよ……
……お願い……一人は嫌だよ……
つぅっと頬に涙が伝う
……ごめんなさい………ごめんなさい…リゲル………
あなたを死なせたも同然の私が、今幸せそうにしていて…
ごめんなさい………ユーリ……………
話さなきゃいけない事まで話さずに隠していて……
……ごめんなさい……ごめんなさい……………
爪がくい込むくらい強く、両手に力が入る
わがままかもしれない
ユーリとリゲルに許して欲しいだなんて、わがままかもしれない…
ユーリが怒っているかすらわからないけど、それでも言ってない事が多すぎて、ユーリを傷つけたのは事実だ
今日のだって、すごく心配してるはずだ
リゲルだって、謝りたくてももう会えない
会いたくても、もう会えない
……許してなんて、貰えないだろう……
『そんなことないよ』
不意に声が聞こえた気がした
…でも、ここは私の空間…
…私の、心の中の空間…
だから、ここで見えたものは全部、私が創り出した虚像なわけで…
…喋るはずが無い…
あくまで『偽物』……
…だからきっと、今のも幻聴…
『アリシア…こっち向いてよ…』
また、聞こえた気がする…
それに、私の名前を呼んだ……?
……違う……そんなことない……
……そんなの…有り得ない……
『あーもう!変なとこで意地張るんだからっ!』
バシッと頭を叩かれて顔をあげると、何故かリゲルの姿が見える
「……え……?」
あまりにも急な出来事に頭が追いつかない
……なんで……?
姿が見えるのは百歩譲ってわかる
でも、喋るなんてありえない……
『もう、アリシアは気にしすぎなの!僕がアリシアを助けたくてやった事だし、探検だって一緒に行きたかったからついて行ったの!』
「……でも……私………っ!」
『でもも何もないの!僕はアリシアが大好きで、アリシアのこと守ってあげたかったの!……僕が死んじゃったのは、アリシアのせいじゃないよ。アリシアのこと、嫌いにだってなってないよ。僕はずっとずっと、アリシアが大好きだよ!』
…昔みたいに、膝の上にちょこんと座って尻尾を振る
……昔みたいに、腕に擦り寄ってくる
………もう、幻でもいい
私の創り出した『偽物』でもいい
ぎゅっと膝に乗ったリゲルを抱きしめる
「……リゲル…………ごめんね……」
ポロポロとまた、涙が溢れる
……ずっとリゲルに、こう言って欲しかったのかもしれない……
『嫌いになってない』って
『大好き』だって
…そう、言って欲しかったのかもしれない
『アリシア、そろそろ起きないと…大事な人が待ってるよ?』
「……でも………」
『大丈夫、僕はいつでもアリシアの傍に居るよ!
……アリシアは全く気づいてくれてないけどさ』
「……え?」
ちょっぴり拗ね気味に言われた最後の言葉が気になって首を傾げるが、リゲルはするっと腕の中から抜け出してしまう
それと同時に、体が引っ張られるような感覚がする
「リゲル…っ!」
『大丈夫、また会えるよ!アリシア、何度も言うけど、僕はアリシアが大好きだよ!』
「っ!!わた…しもっ!リゲル!大好きだよっ!」
……ねぇ、リゲル……
私は今、ちゃんと笑えてる?
『目が覚めたら、ちゃんとユーリさんに話すんだよー!?』
「うん……うん…っ!話す…っ!話すよ……っ!」
……わかってる、きっと笑えてなんてない
それでも、めいいっぱい笑おうとする
…例え、私の創った幻でも…
…リゲルに心配かけちゃ駄目だ…
……ありがとう、リゲル……
目が覚めたら……ユーリにちゃんと話さなきゃ……
……もう聞いてるかもしれないけど……ちゃんと話さなきゃ……
そんなことを考えながら、私の意識は真っ暗な空間からフェイドアウトしていった
ーーーーーー
『…もう、本当に危なっかしいなぁ…』
真っ暗な空間に残った、真っ赤な毛並みの犬は、小さくため息をつく
彼女が八歳の頃から、ずっと隣で見守ってきていた
好奇心旺盛で自分に素直、やりたいことは駄目と止められてもやってしまうおてんば少女
……そんな彼女が無茶をしなくなったのは自分が居なくなってからだ
勝手に外に出てしまう癖も、それ以来無くなってしまった
部屋に閉じ込もってぼーっと窓の外を、ただ見詰める有り様だ
そんな彼女が見ていられなかった
傍に居てあげられないのがもどかしかった
…彼女を変えたのは、間違いなくあの真っ黒な男だろう
……大好きな友達の、大事な人
だから、僕にとっても大事な人
彼が傍に居れば、アリシアももう大丈夫
……まだ、あの魔獣のことは忘れられないかもしれない
また、悪夢として出てくるかもしれない
でもアリシアは、ちゃんと前に進んでる
ゆっくりだけど、ちゃんと進んでいる
……だからきっと、もう出てくることもないだろう
『…アリシア、もうここに来ちゃ駄目だからね?』
もう目覚めたであろう、大好きな友達に向かって呟く
今回は、たまたま『見つけ出せた』けど毎回は見つけ出せないから…
だから、もう来ちゃ駄目だよ
……さてと、そろそろ僕も戻らないと
きっとアリシアが心配する
今の僕は『リゲル』じゃないけど、アリシアが大好きなのは今も変わらない
僕はずーっと、アリシアが大好きだ
ーーーーーーーーーー
「……ん……」
暖かい感覚に目を覚ますと、ユーリの腕の中に居た
どうやらいつの間にか抱きついていたようだ
「おはよ、アリシア。少しは落ち着いたか?」
「…おはよう、ユーリ……心配かけてごめんね…もう、大丈夫」
ニコッと笑うと、ユーリも優しく微笑んでくれる
「……なぁアリシア、お前どんな夢見たんだ?」
ユーリから離れて、体を起こして伸びをしていると、突然そんなことを聞いてきた
「え?」
「あー…いや…腕ん中で寝てる時にな、泣いたり笑ったり表情がコロコロ変わってたからさ」
ちょっとだけ言いにくそうに聞いてくる
……寝てた時そんなにころころ表情変わってたんだ……
苦笑いしながらユーリの方を向くように座る
「……ねぇユーリ……?話……聞いてくれる?」
ちょっとだけ遠慮気味に聞くと、一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに嬉しそうに口元を緩ませて抱き寄せてくる
…それは、ちゃんと聞いてやるって合図
言葉に出さなくてもわかる
それから、沢山話した
夢の中の出来事も、幻覚のことも……
全部話した
流石に夢にリゲルが出てきたことを話した時は泣いちゃったけど、それでもあの魔獣の幻覚を見た時のことはもう怯えずに話せた
それが、ユーリが傍に居たからなのか……それとも、リゲルと会ったからなのかはわからなかったけど……
全部話し終えたら、ようやく話してくれたって、嬉しそうにしている
「オレ、頼られてねぇのかと思ってた」
私を膝の上に乗せて、ぎゅっと抱きついてくる
「…そうゆうわけじゃないよ…ただ、話すのが怖かっただけだよ」
ユーリに答えるように首に腕を回す
やっぱりここが、一番落ち着く…
「ならよかったぜ、リンクよりも頼りがいがねぇのかと思ってちと焦ったわ…」
そう言いながら、左手で私の髪を溶いていく
頭皮に触れてくる指が心地よくて目を細めると、不意に顎を上げられてそのまま唇が重なった
一瞬の出来事に頭が追いつかない
そんなことお構い無しにユーリは舌を絡めてくる
逃れようにも腰と頭を抑えられてて逃げられない
下にお父様達居るんだけどなぁ……
「ふぁ…っ!もう…お父様達来たらどうするのさ…」
「はっ……悪ぃ悪ぃ、アリシアが可愛すぎてついな」
悪びれる様子もなく不敵な笑みを浮かべている
……お父様に見られたら嫉妬されかねないよ……
心の中で苦笑しながら、ユーリの肩に頭を乗せる
「……クゥン……」
「ん…?リンク、どうしたの?」
ぴょんっと膝の上に乗ってきたリンクは何処か不服そうに見上げてくる
「拗ねてるんじゃねぇか?アリシアが構ってくれねぇってさ」
ま、オレは離すつもりねえけどな、と首元に顔を埋めてくる
「…ガゥッ!」
それが気に食わなかったのか、リンクがユーリの腕に噛み付いた
珍しいことをするから私も驚いた
「いだっ!?おい、リンクっ!!」
顔をあげて、半分涙目になってリンクを睨みつける
が、リンクはそんなこと知ったこっちゃないという素振りで私に擦り寄ってくる
その仕草が一瞬、リゲルと重なった
(……まさか、ね……)
軽く頭を振って一瞬浮かんだ考えを振り払う
仮に考えが合ってたとしても、確かめる術はないし、リンクはリンクだ
未だにリンクを睨んでるユーリと、呆れた目をしてユーリを見るリンク
思わずクスッと笑ってしまった
本当、ユーリは人でも人じゃなくても嫉妬しやすいなぁ
「…何笑ってんだよ、アリシア」
ムスッとした顔で不機嫌そうに聞いてくる
「ふふ…だってユーリもリンクもお互いヤキモチ妬いてるんだもん」
クスクス笑ってると、笑い事じゃねえって拗ねてしまった
……拗ねてる時のユーリは可愛いと思う←
こんなこと言ったら襲われそうだけどね…
「もう、リンクにまで嫉妬しないの!私の大好きな旦那様はユーリだけだよ?」
ちゅっと頬にキスすると、少しだけ顔を赤くさせる
「キュウゥゥ……」
「リンクも…私の大好きな友達はリンクだけだよ?」
頭を撫でると嬉しそう喉を鳴らす
「おいおい、リゲルはどうしたんだよ?」
「今ここに居るのはリンクだけだもん…それに、リゲルは大好きな大親友だもん」
微笑みながらそう言うと、呆れた様に苦笑いしながら頭を撫でてくる
「……グルルルル………」
他愛のない話をしてると、いきなりリンクが扉の方を向いて唸り出した
「リンク?どうしたの?」
「………リ……………な…」
「………なく……ガ……え…」
「…ら……オト………う…」
「……ルが………る………………か」
……なんか、嫌な予感がするんだけど…
はぁ…っと軽くため息をついてユーリの膝の上から降りてそっと扉に近づく
ユーリも音を立てないようにそっと近づいてくる
「……そんな所で何をしてるのですか?」
扉に近づいたところでお兄様の声が聞こえた
「バっ!?デューク!!静かにしろ!」
「ユリシス!!お前もだろっ!?」
「あなたもですわよ?レオル」
「あらあら、バレちゃったんじゃないかしら?」
クスクスと楽しそうな笑い声が外から聞こえてきて、私の中で何かがぷっつりと切れる音がした
「お、おい……アリシア……?」
小声で後ろからユーリが呼んでいるが、そんなの後回しだ
ドアノブを捻って勢いよく扉を開けると、喧嘩でもしてたのかお父様と父上様は揉み合っているし、お母様と母上様はちょっと残念そうにしているし、お兄様は呆れたように腰に手を当てて立っている
「…何していらっしゃるのですか?」
ニコッと笑って言うと、お父様とお母様がピタッと動きを止めて私を見る
父上様は不思議そうにしているが、母上様は未だにクスクス笑っている
「あ、あらぁ……アリシア……聞こえていたかしら……?」
「えぇ、そうですね。バレるだのとか、静かにしろだとか聞こえていましたね」
依然ニコニコしながらお父様達を見ていると、ようやく父上様は状況を把握したらしい
「あらあら、アリシアはアリオトの血を引いちゃったのねぇ」
……母上様はあれだ、もう何言ってもダメな気がする
「お、落ち着こうか…?アリシア…?」
「あら?私は充分落ち着いていますよ?」
青ざめてジリジリと後退していくお父様にゆっくり近づいて行く
「あ、あー……アリシア…?」
「父上様、申し訳ありませんが少し黙ってて頂いてもよろしいですか?」
「………はい………」
「さて…お父様?私から逃げようとするなんていい度胸ですね?」
お父様を追いかけようとする私を静止した父上様を一喝して、再びお父様の方を向く
「い、いやっ!!そそっ、そんなつもりではないんだぞっ!?」
「でしたら足を止めましょうか?」
首を傾げてそう言うと、等々観念したらしく後退するのをやめた
「あー………アリシア……これはだな…」
「言い訳無用っ!!そこに並びなさいっ!!」
笑顔を崩して睨み付けるように言うと、大人しく私の前に並んだ
そこからユーリとお兄様に止められるまでお父様達に説教が続いたのは言うまでもないだろう
ーーーーそれから更に一週間後ーーーー
「それではお父様、お母様、お城に戻りますけど泣かないでくださいよ?」
振り返って冗談交じりに笑って言う
結局最後の一週間は二家族揃って過ごした
とっても楽しい一週間だったが、どっかの誰かさんが執務をフレンに任せっきりだから、早く帰らないと大変なことになっていそうだ
「私は泣かないですよ。…たまには顔を見せに来てくださいね、アリシア」
「わ、私…だって泣かぬぞっ!?」
「アリシアよ、先に乗っているからな」
「だあぁぁっ!兄様っ!!引っ張んなって!!」
中々帰りたがらならないユーリをお兄様が引っ張って先に馬車に乗り込みに行った
リンクも既に乗りに行っている
父上様と母上様は別の馬車でもう先に帰っていらっしゃる
「全くもう………早く行かないと逃げ出しそうなので、私ももう行きますね」
苦笑いしながらお父様とお母様の頬にそれぞれキスする
「あぁ……またな、アリシアよ」
必死で泣きそうなのを堪えているお父様がいたたまれなくて、一度軽く抱きついてから小走りで馬車に向かった
馬車に乗ると、ものすごく不機嫌そうに顔を歪めたユーリと、そのユーリを呆れたように見るお兄様、それにものすごく疲れた顔をしたフレンが居た
「アリシア、もういいのか?」
「はい……あんまり長居すると、お父様が泣きそうなので」
肩を竦めてそう言うと、なるほどな、と納得してくれた
フレンが小窓から御者さんに合図すると馬車が動き出す
窓からお父様達に手を振ると、やっぱり泣き出したのが見えた←
「アリシア、久々の団欒をこの馬鹿が邪魔しに行ってすまない」
苦笑いしながら外を見ていると、申し訳なさそうにフレンが言ってくる
「大丈夫だよ、フレン。それよりもすっごい疲れた顔してるけど、大丈夫?」
「あぁ……帰りたがらないユーリを抑えるのに疲れただけだから気にしないでくれ」
ユーリ………どんだけ暴れたのよ……
「……帰りたくねぇ……」
「はいはい、わがまま言わないの」
隣に座っているユーリの頭を撫でながら言う
いつまでもブツブツと文句を言うユーリにフレンがキレかけて、馬車の中だというのにも関わらず取っ組み合いを始めようとする
そんな二人をお兄様が止めて、珍しくお兄様の説教が始まった
苦笑いしながらその会話を聞きつつ、窓の外を視線を移す
あの日の光景はいつまでも忘れることは無いだろう
でも、悪夢として出てくることは、きっとない
…ようやく、一つの思い出として受け入れられたから
きっと来年は、笑顔でリゲルのお墓に行けるよ
~あとがき~
とってもお久しぶりなあとがきです!
今回のお話、如何だったでしょうか?
本編には出てこなかったユーリの両親を、勢いで書いてしまいました←
気づいた方もいると思いますが、アリシアの母親もユーリの母親も、星の名前を付けさせてもらってます←
どちらの両親も言えることは父親<母親なんですよ(笑)
さて、今回の内容……一章で里帰りフラグが立っていたのをようやくここで回収しました←
そしてタイトルが『Return&Nightmare』ということで、悪夢……もとい、幻覚という形をとってみました
アリシアちゃんの後悔はそれほど根深いものだったんですよ←
さてさて、リゲルについてですが……
一応設定は雌なんです(笑)
僕っ子なんですよ、僕っ子!(笑)
彼女の言動を見ればわかるかもしれませんが、リンクはリゲルの生まれ変わりです←
アリシアちゃん大好き過ぎて生まれ変わって帰って来たんですよ…!
因みに、アリシアちゃんはまだ半信半疑で気づいてないです
いつかは気づく……かも?
登場メンバー的には今回、かなり少なかったですが、あれもこれもと詰め込んだ結果、過去最多ページとなりました(笑)
その分、話も内容も一部グダグダしているかと思いますが、楽しんで頂けて居たら幸いです!
ここまで読んで頂きありがとうございます&お疲れ様でした!
それではまた別のお話&作品でお会いしましょう!
『真っ暗』……一言で言えばその表現が正しいだろう
上も下も、右も左もわからない
この一週間で、何度この空間に来ただろう……
そんなことをぼーっと考えいると、後ろに気配を感じた
クルッと振り向くと、私の大好きなユーリが見えた
「っ!ユーリ…っ!!」
名前を呼びながら手を伸ばして駆け寄ろうとする
だが、一向に進んでいる気配がない
むしろ、どんどん遠ざかって行ってしまう
「……っ!いや……っ!ユーリ…待って…っ!!」
必死で伸ばした手も届かなくて、遂に見えなくなってしまう
寂しさや不安、恐怖でもう動けそうにない
へなへなとその場に座り込んで、両手で腕を抱える
ーーユーリにまで置いていかれてしまったら、私はどうすればいいの…?ーー
そんな言葉が頭を過ぎる
ユーリまで、何処かに行ってしまったら……
私の手の届かない場所へ行ってしまったら……
……きっと耐えられない……
そんなの、嫌だ
私はユーリの隣に居たい……
……もう、リゲルみたいに大切な人居なくなるのは嫌……
なら、今すべきことは?
そんなの、追いかけることに決まってる
…でも、立ち上がれない
…足が動かない
「……ユーリ…………リゲル…………」
ここにいない一人と一匹の名前を呟く
ねぇユーリ………抱きしめてよ………
リゲル…………もう一度会いたいよ……
……お願い……一人は嫌だよ……
つぅっと頬に涙が伝う
……ごめんなさい………ごめんなさい…リゲル………
あなたを死なせたも同然の私が、今幸せそうにしていて…
ごめんなさい………ユーリ……………
話さなきゃいけない事まで話さずに隠していて……
……ごめんなさい……ごめんなさい……………
爪がくい込むくらい強く、両手に力が入る
わがままかもしれない
ユーリとリゲルに許して欲しいだなんて、わがままかもしれない…
ユーリが怒っているかすらわからないけど、それでも言ってない事が多すぎて、ユーリを傷つけたのは事実だ
今日のだって、すごく心配してるはずだ
リゲルだって、謝りたくてももう会えない
会いたくても、もう会えない
……許してなんて、貰えないだろう……
『そんなことないよ』
不意に声が聞こえた気がした
…でも、ここは私の空間…
…私の、心の中の空間…
だから、ここで見えたものは全部、私が創り出した虚像なわけで…
…喋るはずが無い…
あくまで『偽物』……
…だからきっと、今のも幻聴…
『アリシア…こっち向いてよ…』
また、聞こえた気がする…
それに、私の名前を呼んだ……?
……違う……そんなことない……
……そんなの…有り得ない……
『あーもう!変なとこで意地張るんだからっ!』
バシッと頭を叩かれて顔をあげると、何故かリゲルの姿が見える
「……え……?」
あまりにも急な出来事に頭が追いつかない
……なんで……?
姿が見えるのは百歩譲ってわかる
でも、喋るなんてありえない……
『もう、アリシアは気にしすぎなの!僕がアリシアを助けたくてやった事だし、探検だって一緒に行きたかったからついて行ったの!』
「……でも……私………っ!」
『でもも何もないの!僕はアリシアが大好きで、アリシアのこと守ってあげたかったの!……僕が死んじゃったのは、アリシアのせいじゃないよ。アリシアのこと、嫌いにだってなってないよ。僕はずっとずっと、アリシアが大好きだよ!』
…昔みたいに、膝の上にちょこんと座って尻尾を振る
……昔みたいに、腕に擦り寄ってくる
………もう、幻でもいい
私の創り出した『偽物』でもいい
ぎゅっと膝に乗ったリゲルを抱きしめる
「……リゲル…………ごめんね……」
ポロポロとまた、涙が溢れる
……ずっとリゲルに、こう言って欲しかったのかもしれない……
『嫌いになってない』って
『大好き』だって
…そう、言って欲しかったのかもしれない
『アリシア、そろそろ起きないと…大事な人が待ってるよ?』
「……でも………」
『大丈夫、僕はいつでもアリシアの傍に居るよ!
……アリシアは全く気づいてくれてないけどさ』
「……え?」
ちょっぴり拗ね気味に言われた最後の言葉が気になって首を傾げるが、リゲルはするっと腕の中から抜け出してしまう
それと同時に、体が引っ張られるような感覚がする
「リゲル…っ!」
『大丈夫、また会えるよ!アリシア、何度も言うけど、僕はアリシアが大好きだよ!』
「っ!!わた…しもっ!リゲル!大好きだよっ!」
……ねぇ、リゲル……
私は今、ちゃんと笑えてる?
『目が覚めたら、ちゃんとユーリさんに話すんだよー!?』
「うん……うん…っ!話す…っ!話すよ……っ!」
……わかってる、きっと笑えてなんてない
それでも、めいいっぱい笑おうとする
…例え、私の創った幻でも…
…リゲルに心配かけちゃ駄目だ…
……ありがとう、リゲル……
目が覚めたら……ユーリにちゃんと話さなきゃ……
……もう聞いてるかもしれないけど……ちゃんと話さなきゃ……
そんなことを考えながら、私の意識は真っ暗な空間からフェイドアウトしていった
ーーーーーー
『…もう、本当に危なっかしいなぁ…』
真っ暗な空間に残った、真っ赤な毛並みの犬は、小さくため息をつく
彼女が八歳の頃から、ずっと隣で見守ってきていた
好奇心旺盛で自分に素直、やりたいことは駄目と止められてもやってしまうおてんば少女
……そんな彼女が無茶をしなくなったのは自分が居なくなってからだ
勝手に外に出てしまう癖も、それ以来無くなってしまった
部屋に閉じ込もってぼーっと窓の外を、ただ見詰める有り様だ
そんな彼女が見ていられなかった
傍に居てあげられないのがもどかしかった
…彼女を変えたのは、間違いなくあの真っ黒な男だろう
……大好きな友達の、大事な人
だから、僕にとっても大事な人
彼が傍に居れば、アリシアももう大丈夫
……まだ、あの魔獣のことは忘れられないかもしれない
また、悪夢として出てくるかもしれない
でもアリシアは、ちゃんと前に進んでる
ゆっくりだけど、ちゃんと進んでいる
……だからきっと、もう出てくることもないだろう
『…アリシア、もうここに来ちゃ駄目だからね?』
もう目覚めたであろう、大好きな友達に向かって呟く
今回は、たまたま『見つけ出せた』けど毎回は見つけ出せないから…
だから、もう来ちゃ駄目だよ
……さてと、そろそろ僕も戻らないと
きっとアリシアが心配する
今の僕は『リゲル』じゃないけど、アリシアが大好きなのは今も変わらない
僕はずーっと、アリシアが大好きだ
ーーーーーーーーーー
「……ん……」
暖かい感覚に目を覚ますと、ユーリの腕の中に居た
どうやらいつの間にか抱きついていたようだ
「おはよ、アリシア。少しは落ち着いたか?」
「…おはよう、ユーリ……心配かけてごめんね…もう、大丈夫」
ニコッと笑うと、ユーリも優しく微笑んでくれる
「……なぁアリシア、お前どんな夢見たんだ?」
ユーリから離れて、体を起こして伸びをしていると、突然そんなことを聞いてきた
「え?」
「あー…いや…腕ん中で寝てる時にな、泣いたり笑ったり表情がコロコロ変わってたからさ」
ちょっとだけ言いにくそうに聞いてくる
……寝てた時そんなにころころ表情変わってたんだ……
苦笑いしながらユーリの方を向くように座る
「……ねぇユーリ……?話……聞いてくれる?」
ちょっとだけ遠慮気味に聞くと、一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに嬉しそうに口元を緩ませて抱き寄せてくる
…それは、ちゃんと聞いてやるって合図
言葉に出さなくてもわかる
それから、沢山話した
夢の中の出来事も、幻覚のことも……
全部話した
流石に夢にリゲルが出てきたことを話した時は泣いちゃったけど、それでもあの魔獣の幻覚を見た時のことはもう怯えずに話せた
それが、ユーリが傍に居たからなのか……それとも、リゲルと会ったからなのかはわからなかったけど……
全部話し終えたら、ようやく話してくれたって、嬉しそうにしている
「オレ、頼られてねぇのかと思ってた」
私を膝の上に乗せて、ぎゅっと抱きついてくる
「…そうゆうわけじゃないよ…ただ、話すのが怖かっただけだよ」
ユーリに答えるように首に腕を回す
やっぱりここが、一番落ち着く…
「ならよかったぜ、リンクよりも頼りがいがねぇのかと思ってちと焦ったわ…」
そう言いながら、左手で私の髪を溶いていく
頭皮に触れてくる指が心地よくて目を細めると、不意に顎を上げられてそのまま唇が重なった
一瞬の出来事に頭が追いつかない
そんなことお構い無しにユーリは舌を絡めてくる
逃れようにも腰と頭を抑えられてて逃げられない
下にお父様達居るんだけどなぁ……
「ふぁ…っ!もう…お父様達来たらどうするのさ…」
「はっ……悪ぃ悪ぃ、アリシアが可愛すぎてついな」
悪びれる様子もなく不敵な笑みを浮かべている
……お父様に見られたら嫉妬されかねないよ……
心の中で苦笑しながら、ユーリの肩に頭を乗せる
「……クゥン……」
「ん…?リンク、どうしたの?」
ぴょんっと膝の上に乗ってきたリンクは何処か不服そうに見上げてくる
「拗ねてるんじゃねぇか?アリシアが構ってくれねぇってさ」
ま、オレは離すつもりねえけどな、と首元に顔を埋めてくる
「…ガゥッ!」
それが気に食わなかったのか、リンクがユーリの腕に噛み付いた
珍しいことをするから私も驚いた
「いだっ!?おい、リンクっ!!」
顔をあげて、半分涙目になってリンクを睨みつける
が、リンクはそんなこと知ったこっちゃないという素振りで私に擦り寄ってくる
その仕草が一瞬、リゲルと重なった
(……まさか、ね……)
軽く頭を振って一瞬浮かんだ考えを振り払う
仮に考えが合ってたとしても、確かめる術はないし、リンクはリンクだ
未だにリンクを睨んでるユーリと、呆れた目をしてユーリを見るリンク
思わずクスッと笑ってしまった
本当、ユーリは人でも人じゃなくても嫉妬しやすいなぁ
「…何笑ってんだよ、アリシア」
ムスッとした顔で不機嫌そうに聞いてくる
「ふふ…だってユーリもリンクもお互いヤキモチ妬いてるんだもん」
クスクス笑ってると、笑い事じゃねえって拗ねてしまった
……拗ねてる時のユーリは可愛いと思う←
こんなこと言ったら襲われそうだけどね…
「もう、リンクにまで嫉妬しないの!私の大好きな旦那様はユーリだけだよ?」
ちゅっと頬にキスすると、少しだけ顔を赤くさせる
「キュウゥゥ……」
「リンクも…私の大好きな友達はリンクだけだよ?」
頭を撫でると嬉しそう喉を鳴らす
「おいおい、リゲルはどうしたんだよ?」
「今ここに居るのはリンクだけだもん…それに、リゲルは大好きな大親友だもん」
微笑みながらそう言うと、呆れた様に苦笑いしながら頭を撫でてくる
「……グルルルル………」
他愛のない話をしてると、いきなりリンクが扉の方を向いて唸り出した
「リンク?どうしたの?」
「………リ……………な…」
「………なく……ガ……え…」
「…ら……オト………う…」
「……ルが………る………………か」
……なんか、嫌な予感がするんだけど…
はぁ…っと軽くため息をついてユーリの膝の上から降りてそっと扉に近づく
ユーリも音を立てないようにそっと近づいてくる
「……そんな所で何をしてるのですか?」
扉に近づいたところでお兄様の声が聞こえた
「バっ!?デューク!!静かにしろ!」
「ユリシス!!お前もだろっ!?」
「あなたもですわよ?レオル」
「あらあら、バレちゃったんじゃないかしら?」
クスクスと楽しそうな笑い声が外から聞こえてきて、私の中で何かがぷっつりと切れる音がした
「お、おい……アリシア……?」
小声で後ろからユーリが呼んでいるが、そんなの後回しだ
ドアノブを捻って勢いよく扉を開けると、喧嘩でもしてたのかお父様と父上様は揉み合っているし、お母様と母上様はちょっと残念そうにしているし、お兄様は呆れたように腰に手を当てて立っている
「…何していらっしゃるのですか?」
ニコッと笑って言うと、お父様とお母様がピタッと動きを止めて私を見る
父上様は不思議そうにしているが、母上様は未だにクスクス笑っている
「あ、あらぁ……アリシア……聞こえていたかしら……?」
「えぇ、そうですね。バレるだのとか、静かにしろだとか聞こえていましたね」
依然ニコニコしながらお父様達を見ていると、ようやく父上様は状況を把握したらしい
「あらあら、アリシアはアリオトの血を引いちゃったのねぇ」
……母上様はあれだ、もう何言ってもダメな気がする
「お、落ち着こうか…?アリシア…?」
「あら?私は充分落ち着いていますよ?」
青ざめてジリジリと後退していくお父様にゆっくり近づいて行く
「あ、あー……アリシア…?」
「父上様、申し訳ありませんが少し黙ってて頂いてもよろしいですか?」
「………はい………」
「さて…お父様?私から逃げようとするなんていい度胸ですね?」
お父様を追いかけようとする私を静止した父上様を一喝して、再びお父様の方を向く
「い、いやっ!!そそっ、そんなつもりではないんだぞっ!?」
「でしたら足を止めましょうか?」
首を傾げてそう言うと、等々観念したらしく後退するのをやめた
「あー………アリシア……これはだな…」
「言い訳無用っ!!そこに並びなさいっ!!」
笑顔を崩して睨み付けるように言うと、大人しく私の前に並んだ
そこからユーリとお兄様に止められるまでお父様達に説教が続いたのは言うまでもないだろう
ーーーーそれから更に一週間後ーーーー
「それではお父様、お母様、お城に戻りますけど泣かないでくださいよ?」
振り返って冗談交じりに笑って言う
結局最後の一週間は二家族揃って過ごした
とっても楽しい一週間だったが、どっかの誰かさんが執務をフレンに任せっきりだから、早く帰らないと大変なことになっていそうだ
「私は泣かないですよ。…たまには顔を見せに来てくださいね、アリシア」
「わ、私…だって泣かぬぞっ!?」
「アリシアよ、先に乗っているからな」
「だあぁぁっ!兄様っ!!引っ張んなって!!」
中々帰りたがらならないユーリをお兄様が引っ張って先に馬車に乗り込みに行った
リンクも既に乗りに行っている
父上様と母上様は別の馬車でもう先に帰っていらっしゃる
「全くもう………早く行かないと逃げ出しそうなので、私ももう行きますね」
苦笑いしながらお父様とお母様の頬にそれぞれキスする
「あぁ……またな、アリシアよ」
必死で泣きそうなのを堪えているお父様がいたたまれなくて、一度軽く抱きついてから小走りで馬車に向かった
馬車に乗ると、ものすごく不機嫌そうに顔を歪めたユーリと、そのユーリを呆れたように見るお兄様、それにものすごく疲れた顔をしたフレンが居た
「アリシア、もういいのか?」
「はい……あんまり長居すると、お父様が泣きそうなので」
肩を竦めてそう言うと、なるほどな、と納得してくれた
フレンが小窓から御者さんに合図すると馬車が動き出す
窓からお父様達に手を振ると、やっぱり泣き出したのが見えた←
「アリシア、久々の団欒をこの馬鹿が邪魔しに行ってすまない」
苦笑いしながら外を見ていると、申し訳なさそうにフレンが言ってくる
「大丈夫だよ、フレン。それよりもすっごい疲れた顔してるけど、大丈夫?」
「あぁ……帰りたがらないユーリを抑えるのに疲れただけだから気にしないでくれ」
ユーリ………どんだけ暴れたのよ……
「……帰りたくねぇ……」
「はいはい、わがまま言わないの」
隣に座っているユーリの頭を撫でながら言う
いつまでもブツブツと文句を言うユーリにフレンがキレかけて、馬車の中だというのにも関わらず取っ組み合いを始めようとする
そんな二人をお兄様が止めて、珍しくお兄様の説教が始まった
苦笑いしながらその会話を聞きつつ、窓の外を視線を移す
あの日の光景はいつまでも忘れることは無いだろう
でも、悪夢として出てくることは、きっとない
…ようやく、一つの思い出として受け入れられたから
きっと来年は、笑顔でリゲルのお墓に行けるよ
~あとがき~
とってもお久しぶりなあとがきです!
今回のお話、如何だったでしょうか?
本編には出てこなかったユーリの両親を、勢いで書いてしまいました←
気づいた方もいると思いますが、アリシアの母親もユーリの母親も、星の名前を付けさせてもらってます←
どちらの両親も言えることは父親<母親なんですよ(笑)
さて、今回の内容……一章で里帰りフラグが立っていたのをようやくここで回収しました←
そしてタイトルが『Return&Nightmare』ということで、悪夢……もとい、幻覚という形をとってみました
アリシアちゃんの後悔はそれほど根深いものだったんですよ←
さてさて、リゲルについてですが……
一応設定は雌なんです(笑)
僕っ子なんですよ、僕っ子!(笑)
彼女の言動を見ればわかるかもしれませんが、リンクはリゲルの生まれ変わりです←
アリシアちゃん大好き過ぎて生まれ変わって帰って来たんですよ…!
因みに、アリシアちゃんはまだ半信半疑で気づいてないです
いつかは気づく……かも?
登場メンバー的には今回、かなり少なかったですが、あれもこれもと詰め込んだ結果、過去最多ページとなりました(笑)
その分、話も内容も一部グダグダしているかと思いますが、楽しんで頂けて居たら幸いです!
ここまで読んで頂きありがとうございます&お疲れ様でした!
それではまた別のお話&作品でお会いしましょう!
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