番外編
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〜Half-brother〜
ー処分が決まってから半月ー
あの日から半月……
ユーリに探し物を頼まれて、エステルと一緒に第一書庫に来た
なんでも気になることがあるから、家系図を探して来て欲しいと言われた
「それにしても、なんで家系図なんかを見たいんだろ…」
手に取った本をパラパラっと捲りながらエステルに話しかける
「さぁ……私もわからないです…」
脚立に乗って、上の方を探しながらそう言う
それもそうだろう
ただ『探してくれ』としか言われていないのだから
理由聞いても教えてくれないし……
「うー……この中から探し出すってすっごく大変そうだよ……」
「ですね……表紙に題名が書いていないものが多いですし……」
「……二人でなんて無理……絶対無理だよ……」
ため息をつきながら次の本を手に取る
「……フレン……呼びませんか?」
エステルもため息をつきながら本を戻す
「…フレンは呼べないよ……ユーリ執務放棄しちゃいそうだし……」
「それもそうですね…」
「………探すの、諦めちゃ駄目……?」
「さ、流石にそれは駄目ですよ…!」
見つかりそうになくてもう諦めたい
もうかれこれ二時間程探し続けているが、一向に見つからない
そもそも、まだ書庫の六分の一程度しか探せていないのだ
量が多すぎて本当に嫌になる
……確かに暇だとは言ったけれど、これは流石に辛い
「はぁ……並べてある本の種類もバラバラだし、ちゃんと整理して欲しいよね……」
「ですね……探しにくいですし……」
「「……まぁ、だからと言ってこの量を整理するのは嫌(だけど/ですが)……」」
エステルとほぼ同時に同じことを言ってため息をつく
…確かに整理して欲しいが、自分でやるのは嫌だ……
面倒だし……
そもそも、なんで表紙に題名が書いていないのだろうか…
探すのがとてつもなく大変なうえに面倒じゃないか
中身を見ては戻して、別のものを手に取って、また中身を見て……
そんな途方もない作業を延々と続けている
正直言って、集中力が切れてきた
それは、エステルも同じだったようで…
「……アリシア、少し休憩しませんか?」
「……賛成、糖分が欲しい…」
手に持っていた本を棚に戻しながらそう答えた
すると、少し嬉しそうにしながら梯子から降りてきた
…なんで梯子をそんなに簡単に降りられるのか不思議なんだけど…
「アリシア、隣の部屋でお茶しましょう?」
「いいね、それ!しよしよ!」
そんな会話をしながら、書庫を後にした
ーーーーーーー
「ふっ……あぁぁぁーっ!!つっかれたぁぁぁ……」
椅子に座るなり、背もたれに体重を預けた
ずっと本を見続けていたせいか、少し目がチカチカする
それはエステルも同じようで、少しぐったりしているように見えた
「流石に……ちょっと大変です……」
「ちょっとってレベルじゃないよ…あれ……」
「お疲れねぇ…お二人さん」
エステルと話していると、レイヴンがティーポットやらクッキーやらを持って来てくれた
「……レイヴン……そのクッキー……」
じとーっと疑いの目を向ける
前回みたいな事がまた起こるのは絶対に嫌だ
今日はリンクとラピードも傍に居ないし、ジュディスやリタも居ない
ユーリとフレンの居る執務室はここからかなり距離が離れているし…
「そんな目しなくても……今回はおっさん、手つけてないわよん」
苦笑いしながら、テーブルの上にそれを置く
……うん、確かに前回みたいな変な色はしてないみたい…
食べようか迷っていると、エステルが何の迷いもなくクッキーを手にした
…あの……エステルは疑うことを覚えて……
前回も最初に食べて撃沈してたじゃない…
「あ、今回は美味しいですよ!」
嬉しそうに微笑んでそう言ってきた
エステルがそう言うなら……と、一つ手に取る
「……ん、今回は普通に美味しい」
「あのー…おっさん手つけてないって言ったわよね…?」
「ユーリが『レイヴンの言うことは信用すんな』って」
「たはは~……おっさん信用されてないのね……」
がっくりと肩を落としているが、きっとそこまで気にしてない
…だって、笑ってるし……
「あ!そうですよ!アリシア、レイヴンにも手伝ってもらいましょう!」
「え?でも、レイヴンにもやる事あるでしょ…?」
「んー?おっさん、ユーリに暇してるなら手伝って来いって言われたばっかなのよん」
「本当ですか!?アリシア!きっと探すペースあがりますよ!」
「えっと……うん…そう……だね…?」
……本当に大丈夫……かな……?
ー休憩から一時間後ー
「はぁ………」
ため息をつきながら本を閉じる
…確かに効率は上がったかもしれない
いや、上がったよ……?
上がったけどさぁ………
「アリシアちゃーんっ!そーんなにため息つかないの~!」
ものすごいハイテンションでそう言ってくる
…このテンションに合わせるのが疲れました
ただでさえ探すのが一苦労なのに、これだけハイテンションで話しかけられると、更に疲れる…
しかも、本棚の上の方探してくれるかなとか思ってたら下の方ばっかだし…
上の方全部エステル一人で探してくれてるし……
無駄にハイテンションなレイヴンが次から次へと本漁ってくから、下の方もう終わりそうだし…
かと言って、フレンに梯子登っちゃ駄目って言われてるから上の方探せないし…
…いつの間にかレイブンどっか行っちゃったし…
はぁ…とため息をついて、何となく上を見上げた
すると、上の方になんとなく見たことのある本が見えた
…実家にも似たようなものがあった気がする…
ちょっと気になったが、近くにエステルは居ない
レイヴンもどこ行ったかわからないし…
…フレン、ごめんなさい、多分今回は降りれる気がするから……!!
近くにあった梯子を取ってきて登る
…フレンにバレたら絶対怒られるけど…
一番上まで登ってその本を手に取る
やはり表紙には何も書いていない
表紙を開いて、パラッとページを一ページ捲ると、昔使われていた文字で何か書かれていた
流石に文字の形が異なり過ぎてて読めそうにない
更にページを捲っていくと、徐々に見慣れた文字になった
本の中心近くになると、いつも使っている文字に変わった
目を通すと、沢山の名前が書かれていた
「っ!!あっったぁぁぁ……」
それは、探していた家系図で間違い無さそうだった
ファミリーネームが『ローウェル』だし
ようやく見つけたよ……
「……で、どーやって降りよっかな……」
苦笑いしながら考える
…私自身、なんで登れるのに降りれないのかがわからない
ただ、どうしても降りることが昔から出来ないのだ
レイヴンを呼ぼうかと思ったが、あまり気が進まない……
大体、何処に居るかすらわからない
エステルも何処に居るかわからないし、そもそも彼女に頼むのは少々気が引ける
……意外とフレンやユーリと似たような思考をしている部分があるし……
「ワンッ!」
不意に鳴き声が聞こえて下を見ると、何をしているんだとでも言いたげな目でリンクが見上げていた
「リ、リンク…いつからそこに……………てっ!?ちょっ!?リンクっ!!?」
何を思ったのか梯子に体当たりされた
…まぁ、当然バランスが崩れるわけでして……
グラッと梯子が傾くと同時に落下する
「きゃあっ!?!!」
前回はフレンが居たが、今回は誰も居ないんですけど…!?
そのうえ、前回よりも高さがある
間違いなく怪我する
フレンだけじゃなくて、ユーリにも怒られるじゃん…っ!!
流石に怖くってぎゅっと目を瞑ってしまう
せめて打撲程度ですんで……!!
本を胸の前で抱えて、次に来るはずの衝撃を待つが一向に来ない
代わりに、誰かに抱きとめられる感覚と呆れた様な声が聞こえた
「……あのなぁ……何危ないことしてんだよ…」
目を開けて見上げると、そこに居たのはユーリだった
「ふぇっ!?あ…えっ!?ユ、ユーリっ!!?」
ここに居るはずのない彼が居たことに驚く
「なーるほどな、フレンがこの前梯子片手に持ってたのはこうゆうことだったのな」
少し怒った目で私を見詰めてくる
「あぅ…ご、ごめんなさい……」
「ったく、なんで登れんのに降りられないんかねぇ…」
はぁ……とため息をつかれるが、それは私自身が1番知りたい
「……でも、なんでわかったの?」
「ん?リンクが教えてくれたからな、アリシアが梯子登れっけど降りられねぇって
おっさん、上の方探さなさそうだったし、アリシアならエステル頼りそうにねぇかんな」
……バレてる、全部バレてる……
そしてめっちゃ怒ってるよ……
目が笑ってないもん……
「もう……リンクー……なんで梯子倒すのよ…」
じとーっとリンクを見ると、知らないとでも言わんばかりに目線を逸らされた
「はぁ……んで?なーに取ろうと降りられねぇのに梯子登ったんだ?」
じっとリンクを見つめていると、私を降ろしながらユーリが聞いてきた
「あ、そうそう!ユーリの探しもの見つけたよっ!」
ニコッと微笑みながら本を差し出すと、ポンッと頭に手を乗せてくる
「ん、サンキュな。でも、次からはおっさんとかに頼んでくれよ?」
「だって……レイブンに頼もうとしたら、どっか行っちゃうし……」
「……おっさんに頼んだオレが馬鹿だったわ……今度からフレンにするわ…」
項垂れながらユーリはそう言った
「でも、なんで家系図なんて探してたの?」
「あー…いや、デュークに似たような奴を昔親戚で見かけた気がしてさ。最初に会ったときも初めてな気がしなくってな」
私から本を受け取りながら答える
…あんまり似てない気がするけどね…
デュークさんの方が大人っぽいし
「アリシアっ!!大丈夫ですかっ!?」
そんな話をしていると、エステルが慌てて走ってきた
恐らく、先程の私の悲鳴を聞いて心配して駆け付けたのだろう
ただ、お願いだから思い切り抱きつくのだけはやめて欲しい…
意外と力強いんだから…っ!
「エ、エステル…っ!大丈夫っ!大丈夫だからっ!痛いって…っ!」
「あ、ごっ、ごめんなさいっ!」
謝りながら慌てて私から離れる
エステルも相当な心配性だなぁ、と苦笑いする
「あ、家系図見つかったんです?」
ユーリの手にある本を見ながら聞いてくる
「おう、エステルもサンキュな」
少々苦笑いしながらお礼を言ってくる
「いえ!このくらいいいですよ!」
「んじゃアリシア、探しもんも見つかったし戻るぜ」
「えっ…私も……?」
あからさまに嫌そうに言うと、不思議そうな顔をして当たり前だと言われる
……確かにやる事があるから暇ではない
暇ではないんだ
でも……また一人で待たなければいけないのか……
一人で待つのが嫌だから、エステルと一緒にお茶してようとか思ってたのに…!
…と、そんなことを考えつつ、徐々に後退していたがあっさり捕まってしまった
軽々と私を片手で抱き上げる
確かに身長三十cmくらい違うけどさ…!
片手で抱き上げるとか腕力凄すぎるでしょ…!
……そんなこと言ったらフレンもだけど…
「んじゃエステル、またな」
「ちょっ!ユーリっ!たまにはエステルと居させてよー!」
「あ、あはは……」
バシバシッと肩を叩くが全く効果がない
いや、むしろ逆効果な気がしてきた
苦笑いしながら見ているエステルに助けを求めようとしたが、恐らくどうにもならないだろう
結局、抵抗も虚しく歩くのが面倒だったのか、テレポートでいつも居る執務室横に戻ってしまった
「む……久々にエステルとお茶出来そうだったのに…」
「まだ当分は心配だから我慢してくれって」
私を降ろしながらそう言ってくる
じとーっと不満たっぷりにユーリを見つめる
「……そんな目で見んなっての…そんなにここ嫌いか?」
「………そうじゃない………昨日言ったばっかなのにもう忘れたの……?」
むっと頬を膨らませて言うが、当の本人は何のことかわからないと言わんばかりに首を傾げている
…ねぇ、昨日言ったじゃん…
一人になるの嫌だって……
「……………もういいもん……ユーリのバーカ」
そう言って、ユーリに背を向けていつもの机の椅子に座って突っ伏す
「は…?え?ちょっ、アリシア?!」
すっごい間の抜けた声で私を呼んでくるが、しばらく無視だ、無視
突っ伏してるから、ユーリの正確な位置はわからないけど、近くにいるのはわかる
「アリシアっ!何のことだって!?」
ギャーギャーわーわーと聞いてくるが、答える気はゼロだ
「……うっさい……早く執務戻りなよ……」
「アリシアがそんなに機嫌悪い理由わかんねぇと集中出来ねぇって!」
「……いつも集中してないじゃん……それに、たまには理由くらい自分で考えてよ……」
突っ伏したままそう言うが、一向に戻らない
…早く戻りなよ……
そんなことを考えていると、不意にノックが聞こえた
「……魔王よ、お前の付きの者が鬼の形相で探していたぞ。早く戻った方がいい」
その声はデュークさんのものだった
あの日以来、私は会ってなかったからとっても久々にその声を聞いた
たまにユーリの手伝いをしに来ているというのは聞いてたけど……
「………ほら、さっさと行ってきなよ……」
「うっ……フレンが探してるとか面倒だな……じゃあせめて機嫌悪い理由教えてくれよ…」
「……昨日の夜の会話思い出してよ、バカユーリ……」
そう言うと、隣で思い出そうとし出したのか唸り声が微かに聞こえる
……いや、執務に戻ってよ……
「ユーリっ!やっと見つけたっ!!」
フレンの怒鳴り声が聞こえてきた
どうやらやっと来てくれたらしい
「うげっ!?ちょっ、ちょっと待ってくれっ!今アリシアの機嫌悪い理由考えてっからっ!」
「君がアリシアが1人になるのは嫌だと言っていたのにエステリーゼ様と一緒に居させてあげなかったからだろっ!?」
あ、さらっと答え言われちゃった……
……フレンのバカ……
ユーリはそれだっ!とか隣で叫ぶし……
「…………なら、私がここに居よう。アリシア、お前もそれなら構わないであろう?」
「「「え?」」」
デュークさんの突然の申し入れに三人揃ってデュークさんを見つめたまま固まってしまった
…だって、まさかデュークさんからそんなこと言われるなんて思ってなかったし……
「……どうなのだ?」
中々答えないからか、デュークさんが聞いてくる
「え?あ……私はデュークさんさえ良ければそれで構いませんが……」
チラッと傍に居たフレンとユーリを見る
二人とも何かヒソヒソと相談しているみたいだが、何を話しているかはわからない
少ししてようやく相談が終わったみたいで、フレンがゆっくりと口を開いた
「まぁ…あなたさえ良ければ僕もそれで構わないと思うのですが…」
「…………アリシアに手出したらその首ぶっ飛ばす………」
不機嫌な時の低トーンな声でユーリがボソッと言った
…だからね……デュークさんはそんな人じゃないって……
「…そんなことをするはずがないだろう?」
そんなユーリに怯みもせずにデュークさんはそう言った
デュークさんはデュークさんで凄いと思う
肝が据わってるって言うか、度胸があるって言うか…
二、三度私とデュークさんを見た後、私の真正面に来て、目線を合わせるようにしゃがむと、しつこいくらい『大丈夫だよな!?』とか聞かれた
何度も大丈夫だって言ってるのに…
私の機嫌が悪いからか、半分涙目だし……
結局いつまで経っても戻りそうにないから、私が折れて機嫌直してあげた
速攻終わらせる、とだけ最後に言ってようやく戻って行った
「はぁ……全くもう……」
ユーリが出て行った扉を見ながら苦笑いする
「……いつもこうなのか?」
ユーリが用意してくれた椅子に座りながら聞いてきた
「はい、いつもですよ」
クスクスっと笑いながら答える
「……サボり癖は昔から変わらない……か……」
「え??」
「…………なんでもない、気にするな」
今……一瞬笑っていた……?
ううん、それ以前に……
『昔から』……って……
まるでユーリのことを知っているみたいな口ぶりだった
……もしかして、本当にユーリの親戚……?
デュークさんに聞こうと思ったけど、何も教えてくれなさそうな雰囲気だし……
なんとなく視線を机に戻すと、先程見つけてユーリに渡したはずの家系図が置きっぱなしになっていた
「あっ!ユーリ置いてっちゃってるよ……」
手に取りながら呟く
「……それは家系図か?」
「?はい、そうですよ」
「…何故そんなものを持っているのだ?」
「ユーリが調べたいことがあると言うので先程見つけて来たのですが……置いて行ってしまったみたいなんですよ…」
ため息をつきながら答える
…でも、なんでそんなこと聞くんだろ…?
「……そうか……」
どこか寂しそうにそう呟く
そして目線を執務室に繋がる扉に向けたまま何も言わなくなってしまった
……本当、不思議な人だなぁ……
それからしばらく沈黙の時間が続いた
シンとした部屋に聞こえるのは、またカリカリっとまた文字を書き始めた私のペンの音くらい
……でも、癖字過ぎてわからない所多いのよね……
机に肘をついて頭を抱える
…この日記書いた人……なんでこんなに癖字なの……
うーっと唸っていると、ガタッと立ち上がる音が聞こえた
日記から目を離して顔をあげると、すぐ近くにデュークさんが来ていた
「………何をずっとしているのだ?」
「え?…あ、これですか?この部屋でたまたま見つけた日記なのですが、人間が書いたものっぽくて…私、昔から人間とか、人間界に興味があったので、何とかして読めないかなぁ……っと思って」
あんまり解読進んでないんですけどね、と付け足して苦笑いする
すると、無言で日記を手に取ってパラパラと捲り始める
首を傾げてその様子を見る
少ししてパタンと日記を閉じて返してくれた
「……かなりの癖字だな……少々読みにくいが全く読めないわけではないな」
「えっ!?何が書いてあるかわかるんですか?!」
驚いてガタッと音を立てて立ち上がる
「……何が書いてあるかはわからぬが、文字の読み方だけであればおおよそわかる」
そう言って傍にあった紙にペンで何か書き始めた
何か表のようなものだとはわかる
「………これを見れば少しははかどるのではないか?」
しばらくして、書いていた紙を渡してきた
その紙には、凄く綺麗な字で私達が普段使っている文字と、日記で見た文字が五十音順に書かれていた
「っ!!凄い!デュークさんって物知りですね!」
デュークさんを見つめながら言うと、何故か顔を逸らされてしまった
「………昔、父から少し教えて貰った程度だ。詳しくはない」
「それでも凄いですよ!ありがとうございます!」
笑顔でそうお礼を言った
その後は特に会話もなく、淡々と解読をしていた
デュークさんのお陰で大分翻訳も進んだ
ユーリの方はあまり手が付いていないらしくて、フレンに先に部屋に戻ってていいと言われた
デュークさんも帰ったし、私も日記やペンを片付けて部屋に戻った
部屋について早々寝巻きに着替えてベットにうつ伏せで倒れ込んだ
「ふっ……あぁぁ……疲れた……」
デュークさんのお陰で大分スラスラ解読出来てるけど、やはり長時間同じ作業をしているのはつらい
流石に目が疲れてしまった
このままだと寝てしまいそうだが、一人で寝るのは未だに怖い
少し気怠い体を起こして近くの棚に置いた家系図を手に取ってみた
先程見つけた時はよく見ていなかったし、ちょっと見てみたかったのだ
パラパラっと読めるところまでページを捲る
昔、お父様から勉強を教わっていた時に聞いた歴代の魔王様の名前や王妃様、そしてそのご子息様やご息女様なんかが、事細かく書いてある
聞いたのある名前もあるし、聞いたことない名前もある
パラパラっとゆっくり目を通しながらページを捲っていく
何ページか見ていくと、見覚えのある名前を見つけた
「……父上様の名前だ……」
そう、見つけたのは父上様の名前
ということは、ユーリの名前もあるはず…
ユーリの名前を探そうとした時、違和感を感じた
普通、結婚していた場合相手を繋ぐ線は1つなはずだ
でも、どう見ても父上様は2つ線が伸びている
片方には母上様とその間にユーリの名前が
もう片方は黒く塗りつぶされている
首を傾げていると、すっと本を取られた
「ったく、こんな時間までなーに読んでんだ?」
驚いて振り向くと、ユーリが呆れたような顔をして立っていた
「っ!?ユ、ユーリ……いつからそこにいたの……?」
「ついさっき戻って来たとこ、呼んでも返事ねぇから寝てんのかと思ってたんだがな…」
ふぅっとため息をつきながら本を傍にある棚に置くと、私の隣に寝そべっていつものように抱きついてくる
「……ごめん、全然気づかなかった…」
「そんなにあれ、面白かったか?」
「うーん……面白かったっていうか……ちょっと気になったところがあったから…」
「ん?気になったとこ?」
「うん、父上様のところ、線が2本伸びてて、片方黒く塗りつぶされてたの」
そう言うと少し考え込みだしたが、すぐにそれをやめた
「ま、明日あいつに直接聞きゃいいか。…んで、本当にあいつと何もなかったんだよな?」
私の顎を軽くあげながらそう聞いてくる
「あのね…ユーリ?デュークさんは何かするような人じゃないって、何度も言ってるじゃん…」
呆れ気味にそう言うが、納得していないようで、少し不機嫌な顔でじっと見つめてくる
そんなにあの人が気に入らないのか……
はぁ…っと軽くため息をついてから、触れるだけのキスをした
すると、ガバッと起き上がって左手で口元を隠しながら、驚いた目をして私を見下ろしてくる
「……えっと……アリシア?」
「あのね…いつも言ってるでしょ?私が好きなのはユーリだけだって…こうでもしないと納得してくれないじゃん」
私からキスするなんて滅多にないから、未だに驚いてるみたいで、その場に固まってしまっている
「ほーら、もう寝よ?」
腕をユーリの方に伸ばしながら言うと、嬉しそうに微笑んでまた隣に横になった
そのままぎゅっと抱きつく
「ユーリ、おやすみ」
「おやすみ、アリシア」
ー次の日ー
「あれ?ユーリ、執務室に行かなくていいの?」
昼過ぎ、昼食を食べた後いつものように執務室に行くのかと思いきや、何故か応接室に向かっている
「ああ、デュークが話したいことがあんだってよ」
「デュークさんが……?」
「おう。オレが呼び出す手間が省けたぜ」
…あの無口なデュークさんが自分から話があるだなんて……
どうしたんだろ…?
「えーっと……私、一緒に行ったら邪魔じゃない?」
「いーの、いーの。気にすんなって」
………そうゆう問題じゃないよ……ユーリ…
コンコンコン
「入るぞー」
応接室について、扉を開けると既にデュークさんが待っていた
「……やはりアリシアも連れて来たか……」
「ご、ごめんなさい…邪魔じゃないかと言ったんですけどね…」
苦笑いしながらそう言うと、別に構わない、と言われた
「んで、話ってなんだ?」
ソファーに腰掛けながら、ユーリは聞く
「………もう気づいているのであろう?私が誰なのか」
そう言いながら、テーブルの上に短剣を置いた
……その短剣の柄の部分には王家の紋章が刻み込まれていた
驚いた
何故デュークさんがそれを持っているのか…
それに、その短剣には少し見覚えがあった
お父様が昔、父上様の短剣が消えたって大騒ぎしている時期があった
その時にチラッと見た資料の絵とほぼ同じ物だったから
「……父上の、だな」
「…私の母親が持ち出した物だ」
「デュークさんのお母様って…お城の人だったのですか?」
恐る恐る聞くと、返ってきた答えは以外なものだった
「……前魔王の最初の妻だった」
「っ!?」
ということは……つまり……
デュークさんも王族だと言うことだ
ユーリが親戚で見た気がするって言ってたの……あたったよ……
いや、あたりって言うか異母兄弟なんだけど……
そのユーリはじっとデュークさんを見つめて黙って話を聞いている
「……母親は国政に携わることが苦悩になり、私を産んでからしばらくして、一人何処かへと消えてしまった
……その数年後に別の女と父上は再婚し、お前が産まれた
お前が五歳になる時までは私もここに住んで居たが、お前の誕生パーティの日……本当の母親が私と父上の短剣を盗んで遠く離れた場所に行った
…………これが、答えだ」
デュークさんの話を聞いて言葉を無くす
だって……あまりにも酷すぎる
自分が耐えられなかったからって、勝手に何処かに行ってしまって、数年してからまた勝手に連れ出して……
自分勝手にも程がある
「……なるほどな、だから見覚えがあったわけだ。昔と雰囲気変わりすぎて気づかなかったわ」
ようやく合点がいったとユーリは少しだけ嬉しそうだ
「んで?どうしたいんだよ。このままここに留まるって言うんなら手配はするけど」
「いや……そのつもりはない。私はただ、見極めたかっただけなのだ」
「見極めるって何をだ?」
「…………お前の選んだ女が、私の母親のようにならないかを、だ」
私に目線を送りながら、そう告げられる
……どう反応すればいいかわからなくて、その場で固まってしまう
「私のように親に振り回されるような者は……私一人でもう充分だ」
真っ直ぐに私を見つめてそう言う
…それは、デュークさんなりにユーリや産まれてくる子に対しての優しさなのかもしれない……
……まだ当分予定ないけど……
「……見極めきれたのか?」
ユーリがそう聞くと、私へ向けていた目線をユーリへ戻した
「…………あぁ、彼女なら大丈夫そうだな」
「だってよ?アリシア」
「あ…えぇっと……ありがとうございます…?」
ちょっと首を傾げながらそう言うと、デュークさんの表情が少し緩んだ
「ふっ……不思議だな、何処かユーリの母親に似ているな」
初めて『お前』ではなく、ユーリと呼んだ
ユーリはそうかぁ?と驚きもせずに話し始めてるけど、私はびっくりした
話には参加しなかったけど、ユーリとデュークさんが話しているのをずっと聞いていた
子供頃の話を沢山していて、時折デュークさんも笑顔になっていた
…なんかちょっとだけ、羨ましいな…
母親が違えど、二人は兄弟で
一人っ子の私にはちょっと羨ましかった
「……さて、長居してしまったな…ユーリ、執務をしに戻らなければまた怒られるのではないか?」
「うげっ…そうだったぜ……うあー……だりぃ……」
「…ユーリ………怠くても行くよ?フレンばかりにやらせちゃ駄目じゃない…」
コツンとユーリの頭を小突きながら言う
仕方ねぇな……と呟きながら渋々立ち上がった
「……では私もそろそろ帰るとしよう」
そう言ってデュークさんも立ち上がり扉へと向かった
「…………なぁ、また来てくれるか?兄様」
ユーリがそう問いかけると、扉の前で一度止まって、振り返った
「……あぁ、ちゃんと執務さえやっていれば、また話そう」
ちょっと意地悪そうにそう言うと、振り返らずに帰って行った
「…アリシアみたいなこと言いやがって……」
「ふふ、でもいいなぁ…あーやって話せる兄弟がいて」
「あん?兄弟って言っても母親違うぜ?」
「『兄様』って呼んでたじゃん、何回も、ね?」
悪戯っぽく笑って言うと、みるみるうちに顔が赤くなる
…本当、ユーリってこういう時可愛いなぁ
「ほーら、執務室行こ行こ!ユーリがやること終わらせてくれないと、いつまで経っても二人きりで出掛けられないんだからっ!」
「うわっ!?ちょっ!アリシアっ!!」
クスクス笑いながらユーリの手を引いて応接室を後にした
後で聞いたことだけど、ユーリとデュークさんは昔、とっても仲が良かったらしい
異母兄弟とは思えないくらいに…
……また会えて良かったね、ユーリ
ーーーーーーーーー
(あ、ユーリのお兄さんってことはデュークさんじゃなくて、お兄様って呼んだ方がいいのかな?)
(……なんでそんなに嬉しそうにそんなこと言ってくんだよ……)
(え?だって今までずっとお兄様とかお姉様が居たらなぁって思ってたから)
(…………あっそ…………)
ー処分が決まってから半月ー
あの日から半月……
ユーリに探し物を頼まれて、エステルと一緒に第一書庫に来た
なんでも気になることがあるから、家系図を探して来て欲しいと言われた
「それにしても、なんで家系図なんかを見たいんだろ…」
手に取った本をパラパラっと捲りながらエステルに話しかける
「さぁ……私もわからないです…」
脚立に乗って、上の方を探しながらそう言う
それもそうだろう
ただ『探してくれ』としか言われていないのだから
理由聞いても教えてくれないし……
「うー……この中から探し出すってすっごく大変そうだよ……」
「ですね……表紙に題名が書いていないものが多いですし……」
「……二人でなんて無理……絶対無理だよ……」
ため息をつきながら次の本を手に取る
「……フレン……呼びませんか?」
エステルもため息をつきながら本を戻す
「…フレンは呼べないよ……ユーリ執務放棄しちゃいそうだし……」
「それもそうですね…」
「………探すの、諦めちゃ駄目……?」
「さ、流石にそれは駄目ですよ…!」
見つかりそうになくてもう諦めたい
もうかれこれ二時間程探し続けているが、一向に見つからない
そもそも、まだ書庫の六分の一程度しか探せていないのだ
量が多すぎて本当に嫌になる
……確かに暇だとは言ったけれど、これは流石に辛い
「はぁ……並べてある本の種類もバラバラだし、ちゃんと整理して欲しいよね……」
「ですね……探しにくいですし……」
「「……まぁ、だからと言ってこの量を整理するのは嫌(だけど/ですが)……」」
エステルとほぼ同時に同じことを言ってため息をつく
…確かに整理して欲しいが、自分でやるのは嫌だ……
面倒だし……
そもそも、なんで表紙に題名が書いていないのだろうか…
探すのがとてつもなく大変なうえに面倒じゃないか
中身を見ては戻して、別のものを手に取って、また中身を見て……
そんな途方もない作業を延々と続けている
正直言って、集中力が切れてきた
それは、エステルも同じだったようで…
「……アリシア、少し休憩しませんか?」
「……賛成、糖分が欲しい…」
手に持っていた本を棚に戻しながらそう答えた
すると、少し嬉しそうにしながら梯子から降りてきた
…なんで梯子をそんなに簡単に降りられるのか不思議なんだけど…
「アリシア、隣の部屋でお茶しましょう?」
「いいね、それ!しよしよ!」
そんな会話をしながら、書庫を後にした
ーーーーーーー
「ふっ……あぁぁぁーっ!!つっかれたぁぁぁ……」
椅子に座るなり、背もたれに体重を預けた
ずっと本を見続けていたせいか、少し目がチカチカする
それはエステルも同じようで、少しぐったりしているように見えた
「流石に……ちょっと大変です……」
「ちょっとってレベルじゃないよ…あれ……」
「お疲れねぇ…お二人さん」
エステルと話していると、レイヴンがティーポットやらクッキーやらを持って来てくれた
「……レイヴン……そのクッキー……」
じとーっと疑いの目を向ける
前回みたいな事がまた起こるのは絶対に嫌だ
今日はリンクとラピードも傍に居ないし、ジュディスやリタも居ない
ユーリとフレンの居る執務室はここからかなり距離が離れているし…
「そんな目しなくても……今回はおっさん、手つけてないわよん」
苦笑いしながら、テーブルの上にそれを置く
……うん、確かに前回みたいな変な色はしてないみたい…
食べようか迷っていると、エステルが何の迷いもなくクッキーを手にした
…あの……エステルは疑うことを覚えて……
前回も最初に食べて撃沈してたじゃない…
「あ、今回は美味しいですよ!」
嬉しそうに微笑んでそう言ってきた
エステルがそう言うなら……と、一つ手に取る
「……ん、今回は普通に美味しい」
「あのー…おっさん手つけてないって言ったわよね…?」
「ユーリが『レイヴンの言うことは信用すんな』って」
「たはは~……おっさん信用されてないのね……」
がっくりと肩を落としているが、きっとそこまで気にしてない
…だって、笑ってるし……
「あ!そうですよ!アリシア、レイヴンにも手伝ってもらいましょう!」
「え?でも、レイヴンにもやる事あるでしょ…?」
「んー?おっさん、ユーリに暇してるなら手伝って来いって言われたばっかなのよん」
「本当ですか!?アリシア!きっと探すペースあがりますよ!」
「えっと……うん…そう……だね…?」
……本当に大丈夫……かな……?
ー休憩から一時間後ー
「はぁ………」
ため息をつきながら本を閉じる
…確かに効率は上がったかもしれない
いや、上がったよ……?
上がったけどさぁ………
「アリシアちゃーんっ!そーんなにため息つかないの~!」
ものすごいハイテンションでそう言ってくる
…このテンションに合わせるのが疲れました
ただでさえ探すのが一苦労なのに、これだけハイテンションで話しかけられると、更に疲れる…
しかも、本棚の上の方探してくれるかなとか思ってたら下の方ばっかだし…
上の方全部エステル一人で探してくれてるし……
無駄にハイテンションなレイヴンが次から次へと本漁ってくから、下の方もう終わりそうだし…
かと言って、フレンに梯子登っちゃ駄目って言われてるから上の方探せないし…
…いつの間にかレイブンどっか行っちゃったし…
はぁ…とため息をついて、何となく上を見上げた
すると、上の方になんとなく見たことのある本が見えた
…実家にも似たようなものがあった気がする…
ちょっと気になったが、近くにエステルは居ない
レイヴンもどこ行ったかわからないし…
…フレン、ごめんなさい、多分今回は降りれる気がするから……!!
近くにあった梯子を取ってきて登る
…フレンにバレたら絶対怒られるけど…
一番上まで登ってその本を手に取る
やはり表紙には何も書いていない
表紙を開いて、パラッとページを一ページ捲ると、昔使われていた文字で何か書かれていた
流石に文字の形が異なり過ぎてて読めそうにない
更にページを捲っていくと、徐々に見慣れた文字になった
本の中心近くになると、いつも使っている文字に変わった
目を通すと、沢山の名前が書かれていた
「っ!!あっったぁぁぁ……」
それは、探していた家系図で間違い無さそうだった
ファミリーネームが『ローウェル』だし
ようやく見つけたよ……
「……で、どーやって降りよっかな……」
苦笑いしながら考える
…私自身、なんで登れるのに降りれないのかがわからない
ただ、どうしても降りることが昔から出来ないのだ
レイヴンを呼ぼうかと思ったが、あまり気が進まない……
大体、何処に居るかすらわからない
エステルも何処に居るかわからないし、そもそも彼女に頼むのは少々気が引ける
……意外とフレンやユーリと似たような思考をしている部分があるし……
「ワンッ!」
不意に鳴き声が聞こえて下を見ると、何をしているんだとでも言いたげな目でリンクが見上げていた
「リ、リンク…いつからそこに……………てっ!?ちょっ!?リンクっ!!?」
何を思ったのか梯子に体当たりされた
…まぁ、当然バランスが崩れるわけでして……
グラッと梯子が傾くと同時に落下する
「きゃあっ!?!!」
前回はフレンが居たが、今回は誰も居ないんですけど…!?
そのうえ、前回よりも高さがある
間違いなく怪我する
フレンだけじゃなくて、ユーリにも怒られるじゃん…っ!!
流石に怖くってぎゅっと目を瞑ってしまう
せめて打撲程度ですんで……!!
本を胸の前で抱えて、次に来るはずの衝撃を待つが一向に来ない
代わりに、誰かに抱きとめられる感覚と呆れた様な声が聞こえた
「……あのなぁ……何危ないことしてんだよ…」
目を開けて見上げると、そこに居たのはユーリだった
「ふぇっ!?あ…えっ!?ユ、ユーリっ!!?」
ここに居るはずのない彼が居たことに驚く
「なーるほどな、フレンがこの前梯子片手に持ってたのはこうゆうことだったのな」
少し怒った目で私を見詰めてくる
「あぅ…ご、ごめんなさい……」
「ったく、なんで登れんのに降りられないんかねぇ…」
はぁ……とため息をつかれるが、それは私自身が1番知りたい
「……でも、なんでわかったの?」
「ん?リンクが教えてくれたからな、アリシアが梯子登れっけど降りられねぇって
おっさん、上の方探さなさそうだったし、アリシアならエステル頼りそうにねぇかんな」
……バレてる、全部バレてる……
そしてめっちゃ怒ってるよ……
目が笑ってないもん……
「もう……リンクー……なんで梯子倒すのよ…」
じとーっとリンクを見ると、知らないとでも言わんばかりに目線を逸らされた
「はぁ……んで?なーに取ろうと降りられねぇのに梯子登ったんだ?」
じっとリンクを見つめていると、私を降ろしながらユーリが聞いてきた
「あ、そうそう!ユーリの探しもの見つけたよっ!」
ニコッと微笑みながら本を差し出すと、ポンッと頭に手を乗せてくる
「ん、サンキュな。でも、次からはおっさんとかに頼んでくれよ?」
「だって……レイブンに頼もうとしたら、どっか行っちゃうし……」
「……おっさんに頼んだオレが馬鹿だったわ……今度からフレンにするわ…」
項垂れながらユーリはそう言った
「でも、なんで家系図なんて探してたの?」
「あー…いや、デュークに似たような奴を昔親戚で見かけた気がしてさ。最初に会ったときも初めてな気がしなくってな」
私から本を受け取りながら答える
…あんまり似てない気がするけどね…
デュークさんの方が大人っぽいし
「アリシアっ!!大丈夫ですかっ!?」
そんな話をしていると、エステルが慌てて走ってきた
恐らく、先程の私の悲鳴を聞いて心配して駆け付けたのだろう
ただ、お願いだから思い切り抱きつくのだけはやめて欲しい…
意外と力強いんだから…っ!
「エ、エステル…っ!大丈夫っ!大丈夫だからっ!痛いって…っ!」
「あ、ごっ、ごめんなさいっ!」
謝りながら慌てて私から離れる
エステルも相当な心配性だなぁ、と苦笑いする
「あ、家系図見つかったんです?」
ユーリの手にある本を見ながら聞いてくる
「おう、エステルもサンキュな」
少々苦笑いしながらお礼を言ってくる
「いえ!このくらいいいですよ!」
「んじゃアリシア、探しもんも見つかったし戻るぜ」
「えっ…私も……?」
あからさまに嫌そうに言うと、不思議そうな顔をして当たり前だと言われる
……確かにやる事があるから暇ではない
暇ではないんだ
でも……また一人で待たなければいけないのか……
一人で待つのが嫌だから、エステルと一緒にお茶してようとか思ってたのに…!
…と、そんなことを考えつつ、徐々に後退していたがあっさり捕まってしまった
軽々と私を片手で抱き上げる
確かに身長三十cmくらい違うけどさ…!
片手で抱き上げるとか腕力凄すぎるでしょ…!
……そんなこと言ったらフレンもだけど…
「んじゃエステル、またな」
「ちょっ!ユーリっ!たまにはエステルと居させてよー!」
「あ、あはは……」
バシバシッと肩を叩くが全く効果がない
いや、むしろ逆効果な気がしてきた
苦笑いしながら見ているエステルに助けを求めようとしたが、恐らくどうにもならないだろう
結局、抵抗も虚しく歩くのが面倒だったのか、テレポートでいつも居る執務室横に戻ってしまった
「む……久々にエステルとお茶出来そうだったのに…」
「まだ当分は心配だから我慢してくれって」
私を降ろしながらそう言ってくる
じとーっと不満たっぷりにユーリを見つめる
「……そんな目で見んなっての…そんなにここ嫌いか?」
「………そうじゃない………昨日言ったばっかなのにもう忘れたの……?」
むっと頬を膨らませて言うが、当の本人は何のことかわからないと言わんばかりに首を傾げている
…ねぇ、昨日言ったじゃん…
一人になるの嫌だって……
「……………もういいもん……ユーリのバーカ」
そう言って、ユーリに背を向けていつもの机の椅子に座って突っ伏す
「は…?え?ちょっ、アリシア?!」
すっごい間の抜けた声で私を呼んでくるが、しばらく無視だ、無視
突っ伏してるから、ユーリの正確な位置はわからないけど、近くにいるのはわかる
「アリシアっ!何のことだって!?」
ギャーギャーわーわーと聞いてくるが、答える気はゼロだ
「……うっさい……早く執務戻りなよ……」
「アリシアがそんなに機嫌悪い理由わかんねぇと集中出来ねぇって!」
「……いつも集中してないじゃん……それに、たまには理由くらい自分で考えてよ……」
突っ伏したままそう言うが、一向に戻らない
…早く戻りなよ……
そんなことを考えていると、不意にノックが聞こえた
「……魔王よ、お前の付きの者が鬼の形相で探していたぞ。早く戻った方がいい」
その声はデュークさんのものだった
あの日以来、私は会ってなかったからとっても久々にその声を聞いた
たまにユーリの手伝いをしに来ているというのは聞いてたけど……
「………ほら、さっさと行ってきなよ……」
「うっ……フレンが探してるとか面倒だな……じゃあせめて機嫌悪い理由教えてくれよ…」
「……昨日の夜の会話思い出してよ、バカユーリ……」
そう言うと、隣で思い出そうとし出したのか唸り声が微かに聞こえる
……いや、執務に戻ってよ……
「ユーリっ!やっと見つけたっ!!」
フレンの怒鳴り声が聞こえてきた
どうやらやっと来てくれたらしい
「うげっ!?ちょっ、ちょっと待ってくれっ!今アリシアの機嫌悪い理由考えてっからっ!」
「君がアリシアが1人になるのは嫌だと言っていたのにエステリーゼ様と一緒に居させてあげなかったからだろっ!?」
あ、さらっと答え言われちゃった……
……フレンのバカ……
ユーリはそれだっ!とか隣で叫ぶし……
「…………なら、私がここに居よう。アリシア、お前もそれなら構わないであろう?」
「「「え?」」」
デュークさんの突然の申し入れに三人揃ってデュークさんを見つめたまま固まってしまった
…だって、まさかデュークさんからそんなこと言われるなんて思ってなかったし……
「……どうなのだ?」
中々答えないからか、デュークさんが聞いてくる
「え?あ……私はデュークさんさえ良ければそれで構いませんが……」
チラッと傍に居たフレンとユーリを見る
二人とも何かヒソヒソと相談しているみたいだが、何を話しているかはわからない
少ししてようやく相談が終わったみたいで、フレンがゆっくりと口を開いた
「まぁ…あなたさえ良ければ僕もそれで構わないと思うのですが…」
「…………アリシアに手出したらその首ぶっ飛ばす………」
不機嫌な時の低トーンな声でユーリがボソッと言った
…だからね……デュークさんはそんな人じゃないって……
「…そんなことをするはずがないだろう?」
そんなユーリに怯みもせずにデュークさんはそう言った
デュークさんはデュークさんで凄いと思う
肝が据わってるって言うか、度胸があるって言うか…
二、三度私とデュークさんを見た後、私の真正面に来て、目線を合わせるようにしゃがむと、しつこいくらい『大丈夫だよな!?』とか聞かれた
何度も大丈夫だって言ってるのに…
私の機嫌が悪いからか、半分涙目だし……
結局いつまで経っても戻りそうにないから、私が折れて機嫌直してあげた
速攻終わらせる、とだけ最後に言ってようやく戻って行った
「はぁ……全くもう……」
ユーリが出て行った扉を見ながら苦笑いする
「……いつもこうなのか?」
ユーリが用意してくれた椅子に座りながら聞いてきた
「はい、いつもですよ」
クスクスっと笑いながら答える
「……サボり癖は昔から変わらない……か……」
「え??」
「…………なんでもない、気にするな」
今……一瞬笑っていた……?
ううん、それ以前に……
『昔から』……って……
まるでユーリのことを知っているみたいな口ぶりだった
……もしかして、本当にユーリの親戚……?
デュークさんに聞こうと思ったけど、何も教えてくれなさそうな雰囲気だし……
なんとなく視線を机に戻すと、先程見つけてユーリに渡したはずの家系図が置きっぱなしになっていた
「あっ!ユーリ置いてっちゃってるよ……」
手に取りながら呟く
「……それは家系図か?」
「?はい、そうですよ」
「…何故そんなものを持っているのだ?」
「ユーリが調べたいことがあると言うので先程見つけて来たのですが……置いて行ってしまったみたいなんですよ…」
ため息をつきながら答える
…でも、なんでそんなこと聞くんだろ…?
「……そうか……」
どこか寂しそうにそう呟く
そして目線を執務室に繋がる扉に向けたまま何も言わなくなってしまった
……本当、不思議な人だなぁ……
それからしばらく沈黙の時間が続いた
シンとした部屋に聞こえるのは、またカリカリっとまた文字を書き始めた私のペンの音くらい
……でも、癖字過ぎてわからない所多いのよね……
机に肘をついて頭を抱える
…この日記書いた人……なんでこんなに癖字なの……
うーっと唸っていると、ガタッと立ち上がる音が聞こえた
日記から目を離して顔をあげると、すぐ近くにデュークさんが来ていた
「………何をずっとしているのだ?」
「え?…あ、これですか?この部屋でたまたま見つけた日記なのですが、人間が書いたものっぽくて…私、昔から人間とか、人間界に興味があったので、何とかして読めないかなぁ……っと思って」
あんまり解読進んでないんですけどね、と付け足して苦笑いする
すると、無言で日記を手に取ってパラパラと捲り始める
首を傾げてその様子を見る
少ししてパタンと日記を閉じて返してくれた
「……かなりの癖字だな……少々読みにくいが全く読めないわけではないな」
「えっ!?何が書いてあるかわかるんですか?!」
驚いてガタッと音を立てて立ち上がる
「……何が書いてあるかはわからぬが、文字の読み方だけであればおおよそわかる」
そう言って傍にあった紙にペンで何か書き始めた
何か表のようなものだとはわかる
「………これを見れば少しははかどるのではないか?」
しばらくして、書いていた紙を渡してきた
その紙には、凄く綺麗な字で私達が普段使っている文字と、日記で見た文字が五十音順に書かれていた
「っ!!凄い!デュークさんって物知りですね!」
デュークさんを見つめながら言うと、何故か顔を逸らされてしまった
「………昔、父から少し教えて貰った程度だ。詳しくはない」
「それでも凄いですよ!ありがとうございます!」
笑顔でそうお礼を言った
その後は特に会話もなく、淡々と解読をしていた
デュークさんのお陰で大分翻訳も進んだ
ユーリの方はあまり手が付いていないらしくて、フレンに先に部屋に戻ってていいと言われた
デュークさんも帰ったし、私も日記やペンを片付けて部屋に戻った
部屋について早々寝巻きに着替えてベットにうつ伏せで倒れ込んだ
「ふっ……あぁぁ……疲れた……」
デュークさんのお陰で大分スラスラ解読出来てるけど、やはり長時間同じ作業をしているのはつらい
流石に目が疲れてしまった
このままだと寝てしまいそうだが、一人で寝るのは未だに怖い
少し気怠い体を起こして近くの棚に置いた家系図を手に取ってみた
先程見つけた時はよく見ていなかったし、ちょっと見てみたかったのだ
パラパラっと読めるところまでページを捲る
昔、お父様から勉強を教わっていた時に聞いた歴代の魔王様の名前や王妃様、そしてそのご子息様やご息女様なんかが、事細かく書いてある
聞いたのある名前もあるし、聞いたことない名前もある
パラパラっとゆっくり目を通しながらページを捲っていく
何ページか見ていくと、見覚えのある名前を見つけた
「……父上様の名前だ……」
そう、見つけたのは父上様の名前
ということは、ユーリの名前もあるはず…
ユーリの名前を探そうとした時、違和感を感じた
普通、結婚していた場合相手を繋ぐ線は1つなはずだ
でも、どう見ても父上様は2つ線が伸びている
片方には母上様とその間にユーリの名前が
もう片方は黒く塗りつぶされている
首を傾げていると、すっと本を取られた
「ったく、こんな時間までなーに読んでんだ?」
驚いて振り向くと、ユーリが呆れたような顔をして立っていた
「っ!?ユ、ユーリ……いつからそこにいたの……?」
「ついさっき戻って来たとこ、呼んでも返事ねぇから寝てんのかと思ってたんだがな…」
ふぅっとため息をつきながら本を傍にある棚に置くと、私の隣に寝そべっていつものように抱きついてくる
「……ごめん、全然気づかなかった…」
「そんなにあれ、面白かったか?」
「うーん……面白かったっていうか……ちょっと気になったところがあったから…」
「ん?気になったとこ?」
「うん、父上様のところ、線が2本伸びてて、片方黒く塗りつぶされてたの」
そう言うと少し考え込みだしたが、すぐにそれをやめた
「ま、明日あいつに直接聞きゃいいか。…んで、本当にあいつと何もなかったんだよな?」
私の顎を軽くあげながらそう聞いてくる
「あのね…ユーリ?デュークさんは何かするような人じゃないって、何度も言ってるじゃん…」
呆れ気味にそう言うが、納得していないようで、少し不機嫌な顔でじっと見つめてくる
そんなにあの人が気に入らないのか……
はぁ…っと軽くため息をついてから、触れるだけのキスをした
すると、ガバッと起き上がって左手で口元を隠しながら、驚いた目をして私を見下ろしてくる
「……えっと……アリシア?」
「あのね…いつも言ってるでしょ?私が好きなのはユーリだけだって…こうでもしないと納得してくれないじゃん」
私からキスするなんて滅多にないから、未だに驚いてるみたいで、その場に固まってしまっている
「ほーら、もう寝よ?」
腕をユーリの方に伸ばしながら言うと、嬉しそうに微笑んでまた隣に横になった
そのままぎゅっと抱きつく
「ユーリ、おやすみ」
「おやすみ、アリシア」
ー次の日ー
「あれ?ユーリ、執務室に行かなくていいの?」
昼過ぎ、昼食を食べた後いつものように執務室に行くのかと思いきや、何故か応接室に向かっている
「ああ、デュークが話したいことがあんだってよ」
「デュークさんが……?」
「おう。オレが呼び出す手間が省けたぜ」
…あの無口なデュークさんが自分から話があるだなんて……
どうしたんだろ…?
「えーっと……私、一緒に行ったら邪魔じゃない?」
「いーの、いーの。気にすんなって」
………そうゆう問題じゃないよ……ユーリ…
コンコンコン
「入るぞー」
応接室について、扉を開けると既にデュークさんが待っていた
「……やはりアリシアも連れて来たか……」
「ご、ごめんなさい…邪魔じゃないかと言ったんですけどね…」
苦笑いしながらそう言うと、別に構わない、と言われた
「んで、話ってなんだ?」
ソファーに腰掛けながら、ユーリは聞く
「………もう気づいているのであろう?私が誰なのか」
そう言いながら、テーブルの上に短剣を置いた
……その短剣の柄の部分には王家の紋章が刻み込まれていた
驚いた
何故デュークさんがそれを持っているのか…
それに、その短剣には少し見覚えがあった
お父様が昔、父上様の短剣が消えたって大騒ぎしている時期があった
その時にチラッと見た資料の絵とほぼ同じ物だったから
「……父上の、だな」
「…私の母親が持ち出した物だ」
「デュークさんのお母様って…お城の人だったのですか?」
恐る恐る聞くと、返ってきた答えは以外なものだった
「……前魔王の最初の妻だった」
「っ!?」
ということは……つまり……
デュークさんも王族だと言うことだ
ユーリが親戚で見た気がするって言ってたの……あたったよ……
いや、あたりって言うか異母兄弟なんだけど……
そのユーリはじっとデュークさんを見つめて黙って話を聞いている
「……母親は国政に携わることが苦悩になり、私を産んでからしばらくして、一人何処かへと消えてしまった
……その数年後に別の女と父上は再婚し、お前が産まれた
お前が五歳になる時までは私もここに住んで居たが、お前の誕生パーティの日……本当の母親が私と父上の短剣を盗んで遠く離れた場所に行った
…………これが、答えだ」
デュークさんの話を聞いて言葉を無くす
だって……あまりにも酷すぎる
自分が耐えられなかったからって、勝手に何処かに行ってしまって、数年してからまた勝手に連れ出して……
自分勝手にも程がある
「……なるほどな、だから見覚えがあったわけだ。昔と雰囲気変わりすぎて気づかなかったわ」
ようやく合点がいったとユーリは少しだけ嬉しそうだ
「んで?どうしたいんだよ。このままここに留まるって言うんなら手配はするけど」
「いや……そのつもりはない。私はただ、見極めたかっただけなのだ」
「見極めるって何をだ?」
「…………お前の選んだ女が、私の母親のようにならないかを、だ」
私に目線を送りながら、そう告げられる
……どう反応すればいいかわからなくて、その場で固まってしまう
「私のように親に振り回されるような者は……私一人でもう充分だ」
真っ直ぐに私を見つめてそう言う
…それは、デュークさんなりにユーリや産まれてくる子に対しての優しさなのかもしれない……
……まだ当分予定ないけど……
「……見極めきれたのか?」
ユーリがそう聞くと、私へ向けていた目線をユーリへ戻した
「…………あぁ、彼女なら大丈夫そうだな」
「だってよ?アリシア」
「あ…えぇっと……ありがとうございます…?」
ちょっと首を傾げながらそう言うと、デュークさんの表情が少し緩んだ
「ふっ……不思議だな、何処かユーリの母親に似ているな」
初めて『お前』ではなく、ユーリと呼んだ
ユーリはそうかぁ?と驚きもせずに話し始めてるけど、私はびっくりした
話には参加しなかったけど、ユーリとデュークさんが話しているのをずっと聞いていた
子供頃の話を沢山していて、時折デュークさんも笑顔になっていた
…なんかちょっとだけ、羨ましいな…
母親が違えど、二人は兄弟で
一人っ子の私にはちょっと羨ましかった
「……さて、長居してしまったな…ユーリ、執務をしに戻らなければまた怒られるのではないか?」
「うげっ…そうだったぜ……うあー……だりぃ……」
「…ユーリ………怠くても行くよ?フレンばかりにやらせちゃ駄目じゃない…」
コツンとユーリの頭を小突きながら言う
仕方ねぇな……と呟きながら渋々立ち上がった
「……では私もそろそろ帰るとしよう」
そう言ってデュークさんも立ち上がり扉へと向かった
「…………なぁ、また来てくれるか?兄様」
ユーリがそう問いかけると、扉の前で一度止まって、振り返った
「……あぁ、ちゃんと執務さえやっていれば、また話そう」
ちょっと意地悪そうにそう言うと、振り返らずに帰って行った
「…アリシアみたいなこと言いやがって……」
「ふふ、でもいいなぁ…あーやって話せる兄弟がいて」
「あん?兄弟って言っても母親違うぜ?」
「『兄様』って呼んでたじゃん、何回も、ね?」
悪戯っぽく笑って言うと、みるみるうちに顔が赤くなる
…本当、ユーリってこういう時可愛いなぁ
「ほーら、執務室行こ行こ!ユーリがやること終わらせてくれないと、いつまで経っても二人きりで出掛けられないんだからっ!」
「うわっ!?ちょっ!アリシアっ!!」
クスクス笑いながらユーリの手を引いて応接室を後にした
後で聞いたことだけど、ユーリとデュークさんは昔、とっても仲が良かったらしい
異母兄弟とは思えないくらいに…
……また会えて良かったね、ユーリ
ーーーーーーーーー
(あ、ユーリのお兄さんってことはデュークさんじゃなくて、お兄様って呼んだ方がいいのかな?)
(……なんでそんなに嬉しそうにそんなこと言ってくんだよ……)
(え?だって今までずっとお兄様とかお姉様が居たらなぁって思ってたから)
(…………あっそ…………)