番外編
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〜Party〜
「はぁ………」
「…そんなに嫌そうな顔しないでよ…」
「そうね、主役がそんな絶望したような顔しちゃ駄目よ」
「そうですよ!アリシア、笑顔です!笑顔!」
「じゃのう、アリシア姐は笑顔が一番なのじゃ!」
「……そんなこと言われたってぇ……」
グスッと半分泣きながら答える
部屋に閉じこもって数十分、ずっとこんな状態だ
理由は単純、今日が私の誕生日だから
いや、誕生日なのはいいんだ
ユーリなんて朝起きてすぐに、おめでとうっ!って抱きついて来たり、洋服くれたり(しょっちゅうだが)、髪飾りくれたりと、私よりも嬉しそうにしているし
ラピードとリンクもいつも二匹で何処か行ってしまうのに今日はずっと一緒にいてくれてるし
フレンもすっごい笑顔でおめでとうって言いながら以前欲しがってた本くれたし
レイブンなんか、沢山甘いスイーツを作って持ってきてくれて、おめでとうって声かけてくれたし(抱きつかれそうになったけど…)
カロルもちょっと照れながらおめでとうって、私の好きな花をいっぱいくれた(因みに自分で育ててたらしい)
リタ達だって、五人でお揃いのアクセサリーくれたりとか、本に挟む栞くれたりとかいろいろしてくれてる
……いや、もう、私的にはそれで充分なのよ……
パーティとかしなくていいのよ……
ただみんなと過ごせればいいんだけど……
「ユーリはあなたのそのドレス姿、見るの楽しみにしていたわよ?」
「うっ……」
「そうよ、今日の為にってわざわざあいつ買ったのよ?…執務抜け出してまでね…!」
「フレンに散々追いかけられたのをなんとか振り払って行ってたのじゃ!」
「アリシア、そんなユーリの努力を無駄にするんです?」
みんなの言葉が容赦なく心に突き刺さる
…なんのいじめなの……!
人前が駄目なの知ってるでしょ……!
「うー…………だってぇ………」
「ほーら、もう着てるんだし、行くわよ」
「リタの横暴っ!!」グスッ
「あら、じゃ私がユーリとパーティにでて」
「うわぁぁぁんっ!ジュディスのばかぁぁぁぁ!!出たくない理由知ってるくせにぃぃ…っ!!」
等々本気で泣いてしまった
誰にだって譲れないものって言うのがある
私は人前にだけは出たくないんだ
……結婚式はあれでも頑張ったほうなんだ……
終わってから速攻逃げたけど←
二次会もユーリとお父様の後ろにほとんど隠れてたけど←
そのくらい人が苦手
人と言うよりも貴族なのだけど…
「もう……リタ!無理矢理は駄目だとユーリに言われてるじゃないですか!
ジュディスも、そんなこと言ったら可哀想です!」
泣いている私の背中を擦りながらエステルは2人に言う
顔を伏せているから表情なんてわからないけど、ジュディスもリタも苦笑いしているんだろうなぁ…
「おいおい…人の嫁さん泣かせたやつぁ誰だよ?」
少し呆れたような声が聞こえて、扉の方をチラッと見るとユーリが立っていた
「あぅ………ユーリ………リタとジュディスがいじめてくる………」
「ちょっ!?あ、あたしはジュディスみたいになんて言ってないわよっ!?」
「あら?私だってそんな酷いこと言ったつもりないけれど」
二人の言い分にため息をつくユーリ
泣いてるところを見られたくなかったから、顔を伏せていると足音が聞こえて、私の隣で音が聞こえなくなった
そして、そっと頭を撫でなれる感覚がした
「ったく……お前ら、先に行っててくれよ」
「ふふ、わかったわ、それじゃ行きましょ?」
ジュディスの合図にガタガタッと椅子を引いた音がした後、足音と扉の閉まる音が聞こえた
「……ほーら、あいつらもう行ったぜ?」
その声にゆっくりと顔をあげると、椅子ごとクルッと後ろに向けられて、私の目の前に視線を合わせるようにしゃがんだ
多分、今相当酷い顔をしているだろう
右手で涙を拭おうとすると、手を掴まれた
何事かと思って驚いていると、目元に沢山キスされた
どうやらそれで泣き止ませようとしたらしい←
「ん………」
「…んな不機嫌そうな顔すんなっての」
少し頬を膨らませると困った顔をして頭を撫でてくる
「ったく…そんなに嫌か?」
「……やだ……多人数の前に私に出ろなんて鬼畜だよ……しかも主役だなんて……」
「んじゃ今回だけ、もうあいつらやる気満々だからよ…な?」
子供をあやす様に頭撫でたりしてくる
いつもなら私がユーリにやってること
でも、私だって今日は引く気はない
嫌なものは嫌だ
「…本当、今日だけでいいっての」
そう言って頬にキスしてから唇に軽くキスしてくる
「……駄目か?」
「…………今回だけ………」
ボソッと呟くと嬉しそうにニコッと笑ってくる
「ほら、行こうぜ?」
「ん……わかった」
椅子から立ち上がろうとする…が
「わ…っ!」
「よっと、オレ的にゃこっちの方がいいわ」
ヒョイッと軽々私を抱き上げる
私に急に抱きついてくるなと散々言ってくるが、ユーリも急に抱き上げるのをやめないからお互い様だろうと思う
「…本当、アリシアにはこの色が一番似合うわ」
頬にキスしながらそう言ってくる
この日の為にってユーリがくれたこのドレス……
ベースは白だけど、足元にいくにつれて、徐々に淡い赤色になっている
「…ありがとう、ユーリ」
首に手を回して頬にキスし返して微笑むと、ようやく笑ったと言わんばかりに目を細めた
「さてと、行くとしますかね」
「…ん、そうだね」
そう言って、ユーリにお姫様抱っこされたまま部屋を出た
会場へ向かってる途中、ユーリの足がピタッと止まった
「?ユーリ?」
声をかけるが返事がない
顔の前で手を振ってみるがそれでも反応がない
どうしたものかと少し顔を歪ませていると、突然方向を変えた
「ふぇ!?あ、ユーリっ!?」
「やっぱ気が変わった」
「…へ?」
「こんな可愛いアリシアあいつらに見せられっかよ…!」
と、会場と反対方向に走ってくんだけど……
…さっき今回だけ出てくれって言ったのはユーリじゃなかったっけ……?
……まぁ、いっか!
「でも、何処に行くの?」
「んなもん、決まってんだろ?」
ニヤッといたずらっ子の笑みを浮かべる
…なんか、どこ行こうとしてるか予想ついた
向かったのはあの扉
「あっちなら追っかけて来られねぇだろ?」
「いいの?本当に」
「いーのいーの。オレが出させたくなくなったから」
ニコッと優しく微笑んで言ってくる
きっと、本当は私の為
会場に近づく度に少しだけ肩が震えてるのがバレてしまったのだろう
…そりゃこれだけ引っ付いてたらバレるか
私を抱えたまま、指を鳴らす
「…行くぜ?」
コクンと頷くと扉の向こう側へ走り出す
ーーーーーーーー
「ほいっ!到着っ!」
「まだそんなに経ってないのに、ちょっと久しぶりな感じがするね!」
ふわっと心地よい風が吹く
魔界と時間の流れがどうやらほぼ同じらしく、まだ明るい
ふと、『エステル』が帝都と呼んでいた最初に見た街の方向を見ていると、見知った人が見えた
「あれ……?ね、ユーリ!あそこにいるのって…」
「あん?……あ、」
「!!アリシア!!また来てくれたんですね!!」
そこに居たのは、こっちの世界の『エステル』だった
『フレン』と『リタ』がいるのも見える
チラッとユーリを見ると、私を地面に降ろしてくれた
「『エステル』っ!久しぶり!」
「また会えて嬉しいです!」
走ってきた『エステル』と手を取り合って喜んだ
「以外と来るのが早かったね」
「ん?あー、まぁ、な?本当なら一週間くらいは向こう居なきゃなんねぇんだけど…」
「何よ、なんかあったの?」
「…今日アリシア、誕生日なんだけどな人多いとこ駄目なんだよ…んで、パーティ嫌がったから逃げて来た」
『フレン』がいるからか、ちょっとバツが悪そうにユーリは言う
すると、それを聞いて『エステル』達は驚いた
「アリシア、今日誕生日なんです?」
「ん、そうだよ。今日で二十二」
「……ちょっと、あいつが聞いたら固まるわよ、それ」
『リタ』の言葉に私もユーリも『?』を浮かべていると、気まづそうに『フレン』が教えてくれた
「……こっちに居た『アリシア』も今日が誕生日なんだ
歳も同じだしね」
「おいおい、マジかよ…」
ちょっと怪訝そうな顔をしてユーリは言う
私だって驚いた
まさか年齢すら同じだなんて…
「…なぁ、まさかとは思うけど『フレン』とこっちの『オレ』って…」
「幼なじみだよ、『アリシア』もね」
「えっ!!ユーリ達も年同じなの…?」
「……どうやら、魔界とこちらでは同時期に同じ姿形をしたのが産まれるようだね…ようやく納得出来たよ」
『フレン』と『リタ』、それにユーリは原理がわかったみたいだけど、私と『エステル』はちんぷんかんぷんだ
「それよりも、こんなとこで立ち話なんてしてないでどっか行きましょうよ」
「それもそうだね、まぁ…とりあえず」
「ほらアリシア、帽子」
ポンっと頭に帽子を被せてきた
前回とはちょっと違うタイプなんだけど……
「…えっと…今何処から帽子出てきたんです?」
「ん?企業秘密、だな」
ニヤッと笑いながら、ユーリはそう答えた
ー数分後ー
「……で?オレ達が呼び出された理由は?」
「オレがお前と話したかったから」
「私は単純にこっちのみんなとお話したかっただけなんだけど…」
はぁ…と深くため息をついたのはこっちの世界の『ユーリ』
今私達がいるのは帝都『ザーフィアス』にあるお城の『エステル』の部屋
私がみんなと話したいって言ったら『フレン』が呼びかけてくれた
『ユーリ』は来るの嫌がったみたいなんだけど……
ユーリが思いっきり無理矢理連れてきた←
それを私が怒ったのはついさっきの話(思いっきりひっぱたきました←)
「っつーかアリシア…本気で痛かったんだけど…」
「知らない知らない。駄目だって言ったのに言う事聞かなかったユーリが悪い」
「すっごくいい音鳴ったよね……」
「…オレ、『アリシア』そこまで怒らせたことねぇや…」
「オレだって引っぱたかれたのは初めてだよ…」
頬を擦りながらちょっと拗ね気味に言う
そりゃ怒るでしょ…いくら姿が似てるからって、容赦なく首根っこ持って連れてくるんだもん……
可哀想すぎるよ…
「つーか、いいのかよパーティ出なくてよ。あんたら仮にも国を収めてんだろ?」
「「貴族ばっか集まるパーティなんかに興味(ないもん/ねーよ)」」
「ありゃぁ…自分達も王族なのに…」
『レイヴン』の言葉が少し頭にきてしまった
目線だけ下に向けて口を開く
「……あんな自分の利益しか考えられない自分勝手で図々しくて、媚び売らなきゃ生きていけないような人達と長時間同じ空間に居るなんて無理、絶対無理。そもそも人を物みたいに見るあの目自体が嫌いな」
「ストップ、アリシア、ストップ。自由トーク一旦やめような?」
横からユーリに止められて目線を戻すと、みんな唖然としていた
「そ、そんなに嫌いなんです…?」
「うん、嫌い、大っ嫌い、本当もう一度全員じ」
「わーたっからそれ以上言うなっての」
不満げにユーリを見上げると、頼むから落ち着いてくれ…とうなだれてしまった
仕方ないじゃないか…
嫌いなものは嫌い、大っ嫌いなんだから
「ふふ、やっぱり姿形や声色、思考が似ててもちょっと違うんですね」
クスッと笑いながら『エステル』は言ってきた
「そうね、あの子はそこまで自由トークする子じゃなかったし、いつまで経っても敬語だったわね」
『リタ』も懐かしそうに言う
「生活環境とかがどうやら違うみたいだしね、当然かもしれないよ」
「そうかもしんねぇな。はぁ…あいつもこっちの『フレン』と同じくらい温厚だったら良かったんだけどなぁ…」
椅子の背もたれに少し体重を掛けながらユーリは言う
ちょっとそれはわかる…きっと今も怒って探し待ってるんだろうなぁ…
「そんなにやばいのかよ?」
「キレると問答無用で剣振り下ろして来るぜ?精霊術使いまくってくるし、一回城にある温室吹っ飛ばした」
ピシッとこっちの世界のみんなが固まる音がした
そりゃ……そうだよね……
だってこっちの『フレン』からじゃ想像出来ないもん……
「意外ね……」
「……オレ、そっちに産まれなくてよかったわ…」
硬直が溶けた人から次々と安堵の言葉が漏れた
…『フレン』は硬直したままだけど…
「でも、やっぱり一度お会いしたいですね!」
「そうね、面白そうだもの」
「おっさんはやーよ…」
「……僕も遠慮したいかな……」
「……ちょっとそっちのあたしと話はしてみたいわね、どんなこと研究してるかとか」
「うちも一度会ってみたいのぅ!」
みんなが言うことは魔界のみんなと似たようなことで、思わずクスッと笑ってしまった
「あん?どうしたんだよ、お嬢様?」
「ふふ…ちょっと可笑しくって
みんなが言ってることが、向こうのみんなと同じことだからつい」
ニコッと笑って『ユーリ』を見ると、あっそと言ってふぃっとそっぽ向いてしまった
ただ、一瞬見えた顔は少し赤くて
口元を左手で隠す仕草はユーリと同じなんだなぁ…
「『ユーリ』、もしかして照れてる?」
「なっ!?」
「さては、『アリシア』と間違えそうになってるね?」
「ばっ!んなわけっ!」
「そんなに慌ててると、肯定してるようにしか見えないわよん」
「だからっ!違うって!」
「『ユーリ』…ますますいじられるだけなんだから、素直に言ったら?」
「『カロル』…お前までっ!」
「……………………」
そんなやり取りをしていると、あからさまにユーリの機嫌が悪くなった
「……そんなに機嫌悪くしないの、ユーリ」
「…アリシア、ちょいこいつ借りてくぞ」
そう言って『ユーリ』の傍に行くと、右腕を掴んでテレポートして何処かへ行ってしまった
「えっ!?居なくなっちゃった!」
「…今のがテレポートかい?」
「ん…そうだよ、こっちの世界の地理、ある程度掴めちゃったから……」
苦笑いしながら、ユーリ達がいた場所を見つめる
「何処へ行ったのかしら…」
「……ねぇ、こっちの『私』も今日誕生日なんだよね?」
「え?えぇ…そうですけど……」
あぁ、ユーリが話したかったって言うのはそうゆうことなんだね
こっちはマナがそんなに濃くないから、倒れなきゃいいけど……
「まぁ……ユーリだし、大丈夫だよ。それよりもさ!『エステル』達の冒険の続き、聞かせて!」
ニコッと笑って言うと、一瞬顔を見合わせたけど、すぐ笑顔でうん!とみんな言ってくれた
パーティよりもここにいた方が何倍も楽しいや
ーーーーーーーー
「よっと…ふぅ、流石に……マナが……薄い所では…キツいな」
『オレ』を連れてきたのは鬱蒼とした森の中の少し開けた空間
アリシアと初めてあった庭に少し似ている気がする
「……おい、なんでここに連れてきたんだよ」
ものすごく不機嫌な声で聞いてくる
そりゃそうか、こっちの『アリシア』が死んだ場所だもんな
嫌がんのも無理ねぇか
「…確か半年前だって聞いたけど?こっちの『アリシア』が死んだの」
「…………それが、関係あんのかよ」
「それは肯定ってみていいんだな?んじゃ、まだ間に合うか」
「はぁ?あんた本当に主語がねぇよな」
掴んでいた腕を離して意識をマナに集中させる
ここは少し、他のところよりもマナの量が多い
だから、『探してたもの』はすぐに見つかった
「……先に言っとくが、今からやんのはこの前お前が見た小鳥と同じ原理のもんだ。だが、この前と違って集めるマナの種類が違う。その集合体には自分の意志がある」
『オレ』の方は向かずにマナに意識を集中させたまま、淡々と喋る
「……?!」
集まりきったマナが光を放って当たりが一瞬白くなる
「…………は………?」
「……ふぅ………なんとか……か」
《……ユー……リ……?》
光の中心、そこにはこちらの『アリシア』がいる
詳しい原理なんてオレも理解してねぇが、こっちの『アリシア』を形成してたマナを出来る限り集めて形を成した……としか言えねぇ
「え……は………?なんで………」
クルッと『オレ』の方を向いて歩み寄る
突然の出来事に頭が追いついていないのだろう
「……そんなに長く持たねぇ、言いたいことあんなら言ってきてやれよ」
軽く背中を押して、近くの木に寄りかかって見守る
流石にマナが薄いこの世界じゃちとキツい
チラッと見ると顔は見えねぇが、お互い泣いてるようだった
苦笑いして視線を上へ向ける
木の枝の隙間から見える空は、前回よりも一層青く見えた
「……言いたいこと、言えたのか?」
しばらくして『オレ』の気配が近くに感じられたから、上を向いたまま話しかける
「……おぅ…………サンキュな、お陰でちょい気持ちが楽になったわ」
視線を向けるとやはり泣いたようで、少し目が赤くなっていた
「なら良かったよ。お前、アリシアをこっちの『アリシア』と間違えてそうだったからな」
「…まぁ……な……あいつが死んだって実感がなかったしな……」
「だろうな、オレも多分同じこと考えるさ」
木から離れて『オレ』の近くへ行く
「でも、お前は立ち直ったんだからすげぇよ。オレはあーやって会ったとしても絶対無理だな」
苦笑いしながら言う
例え怒られても、周りにあいつらが居ても、オレには立ち直れる気がしない
「そうかぁ?オレと思考回路似てるあんたなら立ち直れそうだけどな
……にしても、なんで今日なんだ?」
「『フレン』に『アリシア』も誕生日だって聞いたからな。人を形成してるマナはそいつが生まれた日に一番強いエネルギーを発するんだ。それにアリシアから、死んだのは半年前だって言ってたって聞いてたし。人を形成してたマナが自然に帰んのは大体半年が目あすなんだよ。んで、もろもろ重なって今日がたまたまそのタイムリミットってわけだ」
「ふーん……なるほどね。だからアリシアがパーティ出たくねぇって言ったのに便乗してこっち来たのか」
「そゆこと。ま、今日がタイムリミットって確信したのはこっちついてからだけどな」
オレがくくっと笑い出すと『オレ』の方も苦笑いする
何もかもそっくりだと思っていたが、こっちの『オレ』の方が相当心が強いらしい
立ち上がれないような暗闇から這い上がったんだ、こいつは
そんな『オレ』の方が何倍もすごいと思う
「んで、どーやって帰るよ?」
「テレポートする」
「……本当、なんでも簡単そうに言うな…あんた……」
来た時と同じように腕を掴む
そして、アリシアがいる帝都へとテレポートした
「ほいっ、到着」
一瞬にして鬱蒼とした森から、アリシア達がいる部屋へ飛んだ
「お、おかえりなさい……」
「?『ユーリ』なんかスッキリした顔してる…」
「せ、青年何かあったの?」
「ん?あぁ、まぁ…ちょっとな」
「つうか、何でそんなにあおざ」
「さてと、帰ってきたところで説明して貰おうか?ユーリ」
その声に肩がビクッと震える
恐る恐る声の聞こえてきた方向を向くと……
……オレのよく知ったフレンがアリシアの横にいた……
「!?!!!フ、フレンっ!?!!なっ!おまっ!?どうやって!?!」
「君が扉を締め切ってなかったお陰でどうにか来れたよ。さて……」
ゆっくりと剣を抜こうとする
「馬鹿っ!?ここは魔界じゃねぇんだぞっ!?」
「問答無用っ!!何度言ったらわかるんだっ!!!」
すぐさまフレンを囲うように逆結界を貼った
「あっぶねぇ…………」
額に嫌な冷や汗が伝う
フレンはこの手のものに弱い
だから解けるわけもなく、ギャーギャー喚いている
「……本当に剣出そうとしたよ……」
「…………ここまで気性が荒いとは流石に思わなかったよ……」
「本当に、マジでこっちのフレンで良かったわ……」
フレンを見ながら口々にそう言い出す
流石に疲れた……マナの少ないところで、精霊術を使い過ぎた
「ユーリ…大丈夫?」
フレンから離れても大丈夫だと認識したらしく、アリシアがオレの傍に寄ってきた
額に滲んだ汗をハンカチで拭いてくる
「ちとキツいわ……なーんで……こんなに精霊術……使う羽目に……なったんだかねぇ……」
「君がっ!アリシアを連れてこっちへ来たからだろうっ!?」
「…おい、オレが会議に連れて行こうとした時にお前が言った言葉は何処に消えたんだよ」
ちょっと声を低くして言うと、ピタッとフレンの動きが止まる
「……そ、それは覚えているが……今回はそれとはまた別」
「別じゃねぇだろ?会議だって重要だよな?本来ならアリシアだって出る必要あったろ?それをお前は『人が多いところが苦手なのを忘れたのか!?』だとか言って出させなかったじゃねぇかよ。それと同じだわ」
うぐっ……と言葉に詰まってうなだれる
恐らくもう斬りかかっては来ないだろう
指を鳴らすとふっと逆結界が消える
だいぶ頭が冷えたのか今度はため息をついて頭を抱える
「……だとしてもだ、頼むから急に居なくならないでくれ……」
へいへいっと適当にあしらって、こっちの世界の奴らを見る
「あー…こいつが何言ったとかわかんねぇけど、悪かったな」
「い、いえ!大丈夫です!」
「私達に、と言うよりもアリシアにって感じだったわね」
「そうねぇ………アリシアちゃん、大丈夫…?」
「……いい、当分フレンの書類手つけないから」
むすっとして抱きついてくる
その彼女の頭をそっと撫でてやる
「本当に何言ったんだよ…フレン…」
呆れ気味に聞くとバツが悪そうな顔をする
「……いや……色々……としか……」
「……思い出したら思いっきり殴っちゃいそうだらか、後でフレン問いただして」
相当言われたなこりゃ…
珍しく不機嫌全開なアリシアに、了解っと言って髪にキスする
「よくまぁ人前で出来るな…」
顔をあげると、『オレ』は呆れ顔してるし、『エステル』や『リタ』は自分がされたわけじゃないのに顔を赤くしてるし、『フレン』達は唖然としてるし
「普通、だよな?」
「日常茶飯事、だね」
「いい加減やめて欲しい癖だね…」
「……あっそ……」
腰に手を当ててため息をつきながらうなだれる『オレ』
……そんなにおかしいか?
「ユーリ……とりあえず、みんなに報告しに僕は戻るから、なるべく早く帰って来てくれよ…?」
「気が向いたら帰る」
「…………もう一度キレて」
「フレンが暴れかけたせいでユーリ、マナ少ないのに精霊術使って倒れそうなんだけど?」
ニコッと有無を言わさせない笑顔をフレンに向けるアリシア
傍から見たら可愛い笑顔だが、その笑顔の裏に隠されてる本当の意味を知っているからか、フレンは素直にその怒りを引っ込めた
「……あ、フレン、扉開いてるんでしょ?ならみんな連れてきてよ」
「「へ?」」
アリシアの発言にフレンと同時に間抜けた声が出た
驚いたのはオレらだけでなく、こっちのやつらも同じみたいで驚いている
アリシアは1人ニコニコしながらフレンに伝える
「だって、折角の誕生日だもん、魔界のみんなとも人間界のみんなとも一緒に祝って貰いたいから!」
たまにはわがまま言っても良いでしょ?と、普段わがままなど殆ど言わないアリシアは笑顔で言う
ーーーーーーーー
結局普段わがままを言わないアリシアにフレンが折れて、今回だけと言ってみんなを呼びに行った
こっちの世界の『エステル』達は大はしゃぎで準備を始めた
オレとアリシア、そしてこっちの世界の『オレ』は部屋の隅に座ってそんなみんなの様子を見ている
「ったく……はしゃぎすぎじゃねぇか?」
「同感だよ、誕生日祝う方にはしゃいでんだか、魔界のやつらに会えんのが楽しみなのかわかんねぇな」
「…私はどっちが喋ってるかわかんないよ……なんで私の両脇に座るのさ」
「「ここが定位置だから」」
「…聞いた私が馬鹿だったよ…」
呆れ気味にため息をアリシアはつく
定位置だからって理由じゃ駄目なのか?
「にしても、どーやって来るつもりなんだ?まさか帝都ん中堂々歩いては来られねぇだろ?」
「フレンとリタが居りゃテレポートで来れるさ。意外と難しいんだぜ?あれ」
「ふーん、すっげえ簡単そうにやってたように見えたけど?」
「ユーリは感覚でやってるからね……」
「おう、だから難しい原理とかはリタに聞いてくれ」
「いや、オレそうゆうの聞いてもわかんねぇから遠慮しとくわ」
そんな他愛のない話をずっとしていた
アリシアのことがあっていけ好かなかったが、少し打ち解けたような気がした
《ユーリ、そろそろつくよ》
「了解っ……おーい、お前らそろそろつくらしいから急に出てきても驚くなよー」
「…何、さらっと難しいこと言ってるのさ…」
隣で苦笑いして見つめてくるアリシア
すると、窓の開いていないはずの部屋にふわっと軽く風が吹いた
部屋の扉の近くに目を向ければ、待っていた魔界のみんなが来ていた
アリシアはみんなを見るなり、エステルたちの元へ行ってしまった
「エステルー!」
「アリシアっ!もう、心配したんですよ!!」
「あはは…ごめんなさい…」
「ふふ、でもあなたらしくて私はいいと思うけど」
「そんなことより、あの馬鹿魔王は何処よ、一発ぶっ飛ばさないと気が済まないわっ!」
リタの発言に体が強ばる
あいつはあいつで、フレンよりもタチが悪い
「って、言ってるぜ?魔王様?」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべて言う『オレ』に少し怒りを感じたが、今はそんなこと言ってられない
とりあえずリタの目当てをどうにか変えなくては……
「あ!ねぇみんな見てよ!」
カロルの声が聞こえた方に顔を向けると、二人が並んでいた
「すごいよ!服と頭くらいしか見分けらんないよ!」
「声も顔も体格も一緒だなんてすごくないっ!?」
二人とも目をキラキラさせて言う
オレですら声では識別出来そうにない
まぁ、気配で判別は出来るんだが…
……これ、思ってた以上にすごいことになんじゃねぇのか……?
ーあれから数十分ー
パーティの準備は殆ど終わりに近づいた
みんな私のためにってやってくれてる
…ただ一つだけ問題なのは……
「あ、リタ!」
「「ん?何よ」」
「いえ…魔族の方のリタ…を呼んだつもりなんですけど…」
そう、これ
名前だけだと両方振り向いちゃうからとっても面倒
ユーリは魔王様って呼べばいいから、みんなそう呼んでるけど、後のみんなはどうしようもない
フレン達は『フレン』の方が騎士団長って呼び名で呼ばれてるけど…
レイヴンとかジュディスは特にこれと言って何かあるわけじゃないから、どうしようもない
……頼んだの、私なんだけどね…←
「ははっ、これはこれでおもしれぇからいいじゃねぇか」
くくっと楽しそうに笑いながらユーリが傍に来た
『ユーリ』の方は『リタ』に言われて渋々手伝っている
「…ん、それもそうだね!」
ニコッと笑う
みんなが私のために祝ってくれる誕生日
本当はもう一人いた筈なんだけどね……
でも、見えなくてもきっといつでも傍にいると思うんだ
………『ユーリ』の、ね
「「こっち終わったわよん!」」
「「こっちも!」」
「「準備OK、だね?」」
「「ええ、もちろん」」
「「なら始めましょ」」
「「はいっ!」」
「「なのじゃ!」」
「「「ワオーン」」」
「「んじゃまぁ………」」
《アリシア、お誕生日おめでとう!》
クラッカーのパンッと言う音と一緒に、紙吹雪が中を舞う
お城の豪華なパーティよりも
みんながこうして笑って祝ってくれるパーティの方が何百倍も素敵で嬉しい
すっと息を吸ってみんなにちゃんと聞こえるように
「ありがとうっ!!みんなっ!!!」
誰にもまだ見せたことのないくらいの笑顔で言う
『心から笑う』ってきっとこうゆう時なんだろうね
今までで、一番、最っ高の誕生日だ
ーーーーーーーー
(……悪ぃ、やっぱ一回抱きしめさせて)
(あっ!てめぇ!人の嫁さんに何してんだよっ!)
((ユーリっ!!))
(あ、ハモった)
(魔王様っていつもあんな感じ?)
(毎日です…)
(大変…ですね…)
(あら、面白そうじゃない)
(ふふ、楽しいわよ)
((それ…ジュディスちゃんだけよ…))
(そんなことより、エアルについて教えてよ)
(あたしも、マナについて教えてよ)
((楽しそうじゃのう))
(……わかったから、二人とも一度離れよっか?)
「はぁ………」
「…そんなに嫌そうな顔しないでよ…」
「そうね、主役がそんな絶望したような顔しちゃ駄目よ」
「そうですよ!アリシア、笑顔です!笑顔!」
「じゃのう、アリシア姐は笑顔が一番なのじゃ!」
「……そんなこと言われたってぇ……」
グスッと半分泣きながら答える
部屋に閉じこもって数十分、ずっとこんな状態だ
理由は単純、今日が私の誕生日だから
いや、誕生日なのはいいんだ
ユーリなんて朝起きてすぐに、おめでとうっ!って抱きついて来たり、洋服くれたり(しょっちゅうだが)、髪飾りくれたりと、私よりも嬉しそうにしているし
ラピードとリンクもいつも二匹で何処か行ってしまうのに今日はずっと一緒にいてくれてるし
フレンもすっごい笑顔でおめでとうって言いながら以前欲しがってた本くれたし
レイブンなんか、沢山甘いスイーツを作って持ってきてくれて、おめでとうって声かけてくれたし(抱きつかれそうになったけど…)
カロルもちょっと照れながらおめでとうって、私の好きな花をいっぱいくれた(因みに自分で育ててたらしい)
リタ達だって、五人でお揃いのアクセサリーくれたりとか、本に挟む栞くれたりとかいろいろしてくれてる
……いや、もう、私的にはそれで充分なのよ……
パーティとかしなくていいのよ……
ただみんなと過ごせればいいんだけど……
「ユーリはあなたのそのドレス姿、見るの楽しみにしていたわよ?」
「うっ……」
「そうよ、今日の為にってわざわざあいつ買ったのよ?…執務抜け出してまでね…!」
「フレンに散々追いかけられたのをなんとか振り払って行ってたのじゃ!」
「アリシア、そんなユーリの努力を無駄にするんです?」
みんなの言葉が容赦なく心に突き刺さる
…なんのいじめなの……!
人前が駄目なの知ってるでしょ……!
「うー…………だってぇ………」
「ほーら、もう着てるんだし、行くわよ」
「リタの横暴っ!!」グスッ
「あら、じゃ私がユーリとパーティにでて」
「うわぁぁぁんっ!ジュディスのばかぁぁぁぁ!!出たくない理由知ってるくせにぃぃ…っ!!」
等々本気で泣いてしまった
誰にだって譲れないものって言うのがある
私は人前にだけは出たくないんだ
……結婚式はあれでも頑張ったほうなんだ……
終わってから速攻逃げたけど←
二次会もユーリとお父様の後ろにほとんど隠れてたけど←
そのくらい人が苦手
人と言うよりも貴族なのだけど…
「もう……リタ!無理矢理は駄目だとユーリに言われてるじゃないですか!
ジュディスも、そんなこと言ったら可哀想です!」
泣いている私の背中を擦りながらエステルは2人に言う
顔を伏せているから表情なんてわからないけど、ジュディスもリタも苦笑いしているんだろうなぁ…
「おいおい…人の嫁さん泣かせたやつぁ誰だよ?」
少し呆れたような声が聞こえて、扉の方をチラッと見るとユーリが立っていた
「あぅ………ユーリ………リタとジュディスがいじめてくる………」
「ちょっ!?あ、あたしはジュディスみたいになんて言ってないわよっ!?」
「あら?私だってそんな酷いこと言ったつもりないけれど」
二人の言い分にため息をつくユーリ
泣いてるところを見られたくなかったから、顔を伏せていると足音が聞こえて、私の隣で音が聞こえなくなった
そして、そっと頭を撫でなれる感覚がした
「ったく……お前ら、先に行っててくれよ」
「ふふ、わかったわ、それじゃ行きましょ?」
ジュディスの合図にガタガタッと椅子を引いた音がした後、足音と扉の閉まる音が聞こえた
「……ほーら、あいつらもう行ったぜ?」
その声にゆっくりと顔をあげると、椅子ごとクルッと後ろに向けられて、私の目の前に視線を合わせるようにしゃがんだ
多分、今相当酷い顔をしているだろう
右手で涙を拭おうとすると、手を掴まれた
何事かと思って驚いていると、目元に沢山キスされた
どうやらそれで泣き止ませようとしたらしい←
「ん………」
「…んな不機嫌そうな顔すんなっての」
少し頬を膨らませると困った顔をして頭を撫でてくる
「ったく…そんなに嫌か?」
「……やだ……多人数の前に私に出ろなんて鬼畜だよ……しかも主役だなんて……」
「んじゃ今回だけ、もうあいつらやる気満々だからよ…な?」
子供をあやす様に頭撫でたりしてくる
いつもなら私がユーリにやってること
でも、私だって今日は引く気はない
嫌なものは嫌だ
「…本当、今日だけでいいっての」
そう言って頬にキスしてから唇に軽くキスしてくる
「……駄目か?」
「…………今回だけ………」
ボソッと呟くと嬉しそうにニコッと笑ってくる
「ほら、行こうぜ?」
「ん……わかった」
椅子から立ち上がろうとする…が
「わ…っ!」
「よっと、オレ的にゃこっちの方がいいわ」
ヒョイッと軽々私を抱き上げる
私に急に抱きついてくるなと散々言ってくるが、ユーリも急に抱き上げるのをやめないからお互い様だろうと思う
「…本当、アリシアにはこの色が一番似合うわ」
頬にキスしながらそう言ってくる
この日の為にってユーリがくれたこのドレス……
ベースは白だけど、足元にいくにつれて、徐々に淡い赤色になっている
「…ありがとう、ユーリ」
首に手を回して頬にキスし返して微笑むと、ようやく笑ったと言わんばかりに目を細めた
「さてと、行くとしますかね」
「…ん、そうだね」
そう言って、ユーリにお姫様抱っこされたまま部屋を出た
会場へ向かってる途中、ユーリの足がピタッと止まった
「?ユーリ?」
声をかけるが返事がない
顔の前で手を振ってみるがそれでも反応がない
どうしたものかと少し顔を歪ませていると、突然方向を変えた
「ふぇ!?あ、ユーリっ!?」
「やっぱ気が変わった」
「…へ?」
「こんな可愛いアリシアあいつらに見せられっかよ…!」
と、会場と反対方向に走ってくんだけど……
…さっき今回だけ出てくれって言ったのはユーリじゃなかったっけ……?
……まぁ、いっか!
「でも、何処に行くの?」
「んなもん、決まってんだろ?」
ニヤッといたずらっ子の笑みを浮かべる
…なんか、どこ行こうとしてるか予想ついた
向かったのはあの扉
「あっちなら追っかけて来られねぇだろ?」
「いいの?本当に」
「いーのいーの。オレが出させたくなくなったから」
ニコッと優しく微笑んで言ってくる
きっと、本当は私の為
会場に近づく度に少しだけ肩が震えてるのがバレてしまったのだろう
…そりゃこれだけ引っ付いてたらバレるか
私を抱えたまま、指を鳴らす
「…行くぜ?」
コクンと頷くと扉の向こう側へ走り出す
ーーーーーーーー
「ほいっ!到着っ!」
「まだそんなに経ってないのに、ちょっと久しぶりな感じがするね!」
ふわっと心地よい風が吹く
魔界と時間の流れがどうやらほぼ同じらしく、まだ明るい
ふと、『エステル』が帝都と呼んでいた最初に見た街の方向を見ていると、見知った人が見えた
「あれ……?ね、ユーリ!あそこにいるのって…」
「あん?……あ、」
「!!アリシア!!また来てくれたんですね!!」
そこに居たのは、こっちの世界の『エステル』だった
『フレン』と『リタ』がいるのも見える
チラッとユーリを見ると、私を地面に降ろしてくれた
「『エステル』っ!久しぶり!」
「また会えて嬉しいです!」
走ってきた『エステル』と手を取り合って喜んだ
「以外と来るのが早かったね」
「ん?あー、まぁ、な?本当なら一週間くらいは向こう居なきゃなんねぇんだけど…」
「何よ、なんかあったの?」
「…今日アリシア、誕生日なんだけどな人多いとこ駄目なんだよ…んで、パーティ嫌がったから逃げて来た」
『フレン』がいるからか、ちょっとバツが悪そうにユーリは言う
すると、それを聞いて『エステル』達は驚いた
「アリシア、今日誕生日なんです?」
「ん、そうだよ。今日で二十二」
「……ちょっと、あいつが聞いたら固まるわよ、それ」
『リタ』の言葉に私もユーリも『?』を浮かべていると、気まづそうに『フレン』が教えてくれた
「……こっちに居た『アリシア』も今日が誕生日なんだ
歳も同じだしね」
「おいおい、マジかよ…」
ちょっと怪訝そうな顔をしてユーリは言う
私だって驚いた
まさか年齢すら同じだなんて…
「…なぁ、まさかとは思うけど『フレン』とこっちの『オレ』って…」
「幼なじみだよ、『アリシア』もね」
「えっ!!ユーリ達も年同じなの…?」
「……どうやら、魔界とこちらでは同時期に同じ姿形をしたのが産まれるようだね…ようやく納得出来たよ」
『フレン』と『リタ』、それにユーリは原理がわかったみたいだけど、私と『エステル』はちんぷんかんぷんだ
「それよりも、こんなとこで立ち話なんてしてないでどっか行きましょうよ」
「それもそうだね、まぁ…とりあえず」
「ほらアリシア、帽子」
ポンっと頭に帽子を被せてきた
前回とはちょっと違うタイプなんだけど……
「…えっと…今何処から帽子出てきたんです?」
「ん?企業秘密、だな」
ニヤッと笑いながら、ユーリはそう答えた
ー数分後ー
「……で?オレ達が呼び出された理由は?」
「オレがお前と話したかったから」
「私は単純にこっちのみんなとお話したかっただけなんだけど…」
はぁ…と深くため息をついたのはこっちの世界の『ユーリ』
今私達がいるのは帝都『ザーフィアス』にあるお城の『エステル』の部屋
私がみんなと話したいって言ったら『フレン』が呼びかけてくれた
『ユーリ』は来るの嫌がったみたいなんだけど……
ユーリが思いっきり無理矢理連れてきた←
それを私が怒ったのはついさっきの話(思いっきりひっぱたきました←)
「っつーかアリシア…本気で痛かったんだけど…」
「知らない知らない。駄目だって言ったのに言う事聞かなかったユーリが悪い」
「すっごくいい音鳴ったよね……」
「…オレ、『アリシア』そこまで怒らせたことねぇや…」
「オレだって引っぱたかれたのは初めてだよ…」
頬を擦りながらちょっと拗ね気味に言う
そりゃ怒るでしょ…いくら姿が似てるからって、容赦なく首根っこ持って連れてくるんだもん……
可哀想すぎるよ…
「つーか、いいのかよパーティ出なくてよ。あんたら仮にも国を収めてんだろ?」
「「貴族ばっか集まるパーティなんかに興味(ないもん/ねーよ)」」
「ありゃぁ…自分達も王族なのに…」
『レイヴン』の言葉が少し頭にきてしまった
目線だけ下に向けて口を開く
「……あんな自分の利益しか考えられない自分勝手で図々しくて、媚び売らなきゃ生きていけないような人達と長時間同じ空間に居るなんて無理、絶対無理。そもそも人を物みたいに見るあの目自体が嫌いな」
「ストップ、アリシア、ストップ。自由トーク一旦やめような?」
横からユーリに止められて目線を戻すと、みんな唖然としていた
「そ、そんなに嫌いなんです…?」
「うん、嫌い、大っ嫌い、本当もう一度全員じ」
「わーたっからそれ以上言うなっての」
不満げにユーリを見上げると、頼むから落ち着いてくれ…とうなだれてしまった
仕方ないじゃないか…
嫌いなものは嫌い、大っ嫌いなんだから
「ふふ、やっぱり姿形や声色、思考が似ててもちょっと違うんですね」
クスッと笑いながら『エステル』は言ってきた
「そうね、あの子はそこまで自由トークする子じゃなかったし、いつまで経っても敬語だったわね」
『リタ』も懐かしそうに言う
「生活環境とかがどうやら違うみたいだしね、当然かもしれないよ」
「そうかもしんねぇな。はぁ…あいつもこっちの『フレン』と同じくらい温厚だったら良かったんだけどなぁ…」
椅子の背もたれに少し体重を掛けながらユーリは言う
ちょっとそれはわかる…きっと今も怒って探し待ってるんだろうなぁ…
「そんなにやばいのかよ?」
「キレると問答無用で剣振り下ろして来るぜ?精霊術使いまくってくるし、一回城にある温室吹っ飛ばした」
ピシッとこっちの世界のみんなが固まる音がした
そりゃ……そうだよね……
だってこっちの『フレン』からじゃ想像出来ないもん……
「意外ね……」
「……オレ、そっちに産まれなくてよかったわ…」
硬直が溶けた人から次々と安堵の言葉が漏れた
…『フレン』は硬直したままだけど…
「でも、やっぱり一度お会いしたいですね!」
「そうね、面白そうだもの」
「おっさんはやーよ…」
「……僕も遠慮したいかな……」
「……ちょっとそっちのあたしと話はしてみたいわね、どんなこと研究してるかとか」
「うちも一度会ってみたいのぅ!」
みんなが言うことは魔界のみんなと似たようなことで、思わずクスッと笑ってしまった
「あん?どうしたんだよ、お嬢様?」
「ふふ…ちょっと可笑しくって
みんなが言ってることが、向こうのみんなと同じことだからつい」
ニコッと笑って『ユーリ』を見ると、あっそと言ってふぃっとそっぽ向いてしまった
ただ、一瞬見えた顔は少し赤くて
口元を左手で隠す仕草はユーリと同じなんだなぁ…
「『ユーリ』、もしかして照れてる?」
「なっ!?」
「さては、『アリシア』と間違えそうになってるね?」
「ばっ!んなわけっ!」
「そんなに慌ててると、肯定してるようにしか見えないわよん」
「だからっ!違うって!」
「『ユーリ』…ますますいじられるだけなんだから、素直に言ったら?」
「『カロル』…お前までっ!」
「……………………」
そんなやり取りをしていると、あからさまにユーリの機嫌が悪くなった
「……そんなに機嫌悪くしないの、ユーリ」
「…アリシア、ちょいこいつ借りてくぞ」
そう言って『ユーリ』の傍に行くと、右腕を掴んでテレポートして何処かへ行ってしまった
「えっ!?居なくなっちゃった!」
「…今のがテレポートかい?」
「ん…そうだよ、こっちの世界の地理、ある程度掴めちゃったから……」
苦笑いしながら、ユーリ達がいた場所を見つめる
「何処へ行ったのかしら…」
「……ねぇ、こっちの『私』も今日誕生日なんだよね?」
「え?えぇ…そうですけど……」
あぁ、ユーリが話したかったって言うのはそうゆうことなんだね
こっちはマナがそんなに濃くないから、倒れなきゃいいけど……
「まぁ……ユーリだし、大丈夫だよ。それよりもさ!『エステル』達の冒険の続き、聞かせて!」
ニコッと笑って言うと、一瞬顔を見合わせたけど、すぐ笑顔でうん!とみんな言ってくれた
パーティよりもここにいた方が何倍も楽しいや
ーーーーーーーー
「よっと…ふぅ、流石に……マナが……薄い所では…キツいな」
『オレ』を連れてきたのは鬱蒼とした森の中の少し開けた空間
アリシアと初めてあった庭に少し似ている気がする
「……おい、なんでここに連れてきたんだよ」
ものすごく不機嫌な声で聞いてくる
そりゃそうか、こっちの『アリシア』が死んだ場所だもんな
嫌がんのも無理ねぇか
「…確か半年前だって聞いたけど?こっちの『アリシア』が死んだの」
「…………それが、関係あんのかよ」
「それは肯定ってみていいんだな?んじゃ、まだ間に合うか」
「はぁ?あんた本当に主語がねぇよな」
掴んでいた腕を離して意識をマナに集中させる
ここは少し、他のところよりもマナの量が多い
だから、『探してたもの』はすぐに見つかった
「……先に言っとくが、今からやんのはこの前お前が見た小鳥と同じ原理のもんだ。だが、この前と違って集めるマナの種類が違う。その集合体には自分の意志がある」
『オレ』の方は向かずにマナに意識を集中させたまま、淡々と喋る
「……?!」
集まりきったマナが光を放って当たりが一瞬白くなる
「…………は………?」
「……ふぅ………なんとか……か」
《……ユー……リ……?》
光の中心、そこにはこちらの『アリシア』がいる
詳しい原理なんてオレも理解してねぇが、こっちの『アリシア』を形成してたマナを出来る限り集めて形を成した……としか言えねぇ
「え……は………?なんで………」
クルッと『オレ』の方を向いて歩み寄る
突然の出来事に頭が追いついていないのだろう
「……そんなに長く持たねぇ、言いたいことあんなら言ってきてやれよ」
軽く背中を押して、近くの木に寄りかかって見守る
流石にマナが薄いこの世界じゃちとキツい
チラッと見ると顔は見えねぇが、お互い泣いてるようだった
苦笑いして視線を上へ向ける
木の枝の隙間から見える空は、前回よりも一層青く見えた
「……言いたいこと、言えたのか?」
しばらくして『オレ』の気配が近くに感じられたから、上を向いたまま話しかける
「……おぅ…………サンキュな、お陰でちょい気持ちが楽になったわ」
視線を向けるとやはり泣いたようで、少し目が赤くなっていた
「なら良かったよ。お前、アリシアをこっちの『アリシア』と間違えてそうだったからな」
「…まぁ……な……あいつが死んだって実感がなかったしな……」
「だろうな、オレも多分同じこと考えるさ」
木から離れて『オレ』の近くへ行く
「でも、お前は立ち直ったんだからすげぇよ。オレはあーやって会ったとしても絶対無理だな」
苦笑いしながら言う
例え怒られても、周りにあいつらが居ても、オレには立ち直れる気がしない
「そうかぁ?オレと思考回路似てるあんたなら立ち直れそうだけどな
……にしても、なんで今日なんだ?」
「『フレン』に『アリシア』も誕生日だって聞いたからな。人を形成してるマナはそいつが生まれた日に一番強いエネルギーを発するんだ。それにアリシアから、死んだのは半年前だって言ってたって聞いてたし。人を形成してたマナが自然に帰んのは大体半年が目あすなんだよ。んで、もろもろ重なって今日がたまたまそのタイムリミットってわけだ」
「ふーん……なるほどね。だからアリシアがパーティ出たくねぇって言ったのに便乗してこっち来たのか」
「そゆこと。ま、今日がタイムリミットって確信したのはこっちついてからだけどな」
オレがくくっと笑い出すと『オレ』の方も苦笑いする
何もかもそっくりだと思っていたが、こっちの『オレ』の方が相当心が強いらしい
立ち上がれないような暗闇から這い上がったんだ、こいつは
そんな『オレ』の方が何倍もすごいと思う
「んで、どーやって帰るよ?」
「テレポートする」
「……本当、なんでも簡単そうに言うな…あんた……」
来た時と同じように腕を掴む
そして、アリシアがいる帝都へとテレポートした
「ほいっ、到着」
一瞬にして鬱蒼とした森から、アリシア達がいる部屋へ飛んだ
「お、おかえりなさい……」
「?『ユーリ』なんかスッキリした顔してる…」
「せ、青年何かあったの?」
「ん?あぁ、まぁ…ちょっとな」
「つうか、何でそんなにあおざ」
「さてと、帰ってきたところで説明して貰おうか?ユーリ」
その声に肩がビクッと震える
恐る恐る声の聞こえてきた方向を向くと……
……オレのよく知ったフレンがアリシアの横にいた……
「!?!!!フ、フレンっ!?!!なっ!おまっ!?どうやって!?!」
「君が扉を締め切ってなかったお陰でどうにか来れたよ。さて……」
ゆっくりと剣を抜こうとする
「馬鹿っ!?ここは魔界じゃねぇんだぞっ!?」
「問答無用っ!!何度言ったらわかるんだっ!!!」
すぐさまフレンを囲うように逆結界を貼った
「あっぶねぇ…………」
額に嫌な冷や汗が伝う
フレンはこの手のものに弱い
だから解けるわけもなく、ギャーギャー喚いている
「……本当に剣出そうとしたよ……」
「…………ここまで気性が荒いとは流石に思わなかったよ……」
「本当に、マジでこっちのフレンで良かったわ……」
フレンを見ながら口々にそう言い出す
流石に疲れた……マナの少ないところで、精霊術を使い過ぎた
「ユーリ…大丈夫?」
フレンから離れても大丈夫だと認識したらしく、アリシアがオレの傍に寄ってきた
額に滲んだ汗をハンカチで拭いてくる
「ちとキツいわ……なーんで……こんなに精霊術……使う羽目に……なったんだかねぇ……」
「君がっ!アリシアを連れてこっちへ来たからだろうっ!?」
「…おい、オレが会議に連れて行こうとした時にお前が言った言葉は何処に消えたんだよ」
ちょっと声を低くして言うと、ピタッとフレンの動きが止まる
「……そ、それは覚えているが……今回はそれとはまた別」
「別じゃねぇだろ?会議だって重要だよな?本来ならアリシアだって出る必要あったろ?それをお前は『人が多いところが苦手なのを忘れたのか!?』だとか言って出させなかったじゃねぇかよ。それと同じだわ」
うぐっ……と言葉に詰まってうなだれる
恐らくもう斬りかかっては来ないだろう
指を鳴らすとふっと逆結界が消える
だいぶ頭が冷えたのか今度はため息をついて頭を抱える
「……だとしてもだ、頼むから急に居なくならないでくれ……」
へいへいっと適当にあしらって、こっちの世界の奴らを見る
「あー…こいつが何言ったとかわかんねぇけど、悪かったな」
「い、いえ!大丈夫です!」
「私達に、と言うよりもアリシアにって感じだったわね」
「そうねぇ………アリシアちゃん、大丈夫…?」
「……いい、当分フレンの書類手つけないから」
むすっとして抱きついてくる
その彼女の頭をそっと撫でてやる
「本当に何言ったんだよ…フレン…」
呆れ気味に聞くとバツが悪そうな顔をする
「……いや……色々……としか……」
「……思い出したら思いっきり殴っちゃいそうだらか、後でフレン問いただして」
相当言われたなこりゃ…
珍しく不機嫌全開なアリシアに、了解っと言って髪にキスする
「よくまぁ人前で出来るな…」
顔をあげると、『オレ』は呆れ顔してるし、『エステル』や『リタ』は自分がされたわけじゃないのに顔を赤くしてるし、『フレン』達は唖然としてるし
「普通、だよな?」
「日常茶飯事、だね」
「いい加減やめて欲しい癖だね…」
「……あっそ……」
腰に手を当ててため息をつきながらうなだれる『オレ』
……そんなにおかしいか?
「ユーリ……とりあえず、みんなに報告しに僕は戻るから、なるべく早く帰って来てくれよ…?」
「気が向いたら帰る」
「…………もう一度キレて」
「フレンが暴れかけたせいでユーリ、マナ少ないのに精霊術使って倒れそうなんだけど?」
ニコッと有無を言わさせない笑顔をフレンに向けるアリシア
傍から見たら可愛い笑顔だが、その笑顔の裏に隠されてる本当の意味を知っているからか、フレンは素直にその怒りを引っ込めた
「……あ、フレン、扉開いてるんでしょ?ならみんな連れてきてよ」
「「へ?」」
アリシアの発言にフレンと同時に間抜けた声が出た
驚いたのはオレらだけでなく、こっちのやつらも同じみたいで驚いている
アリシアは1人ニコニコしながらフレンに伝える
「だって、折角の誕生日だもん、魔界のみんなとも人間界のみんなとも一緒に祝って貰いたいから!」
たまにはわがまま言っても良いでしょ?と、普段わがままなど殆ど言わないアリシアは笑顔で言う
ーーーーーーーー
結局普段わがままを言わないアリシアにフレンが折れて、今回だけと言ってみんなを呼びに行った
こっちの世界の『エステル』達は大はしゃぎで準備を始めた
オレとアリシア、そしてこっちの世界の『オレ』は部屋の隅に座ってそんなみんなの様子を見ている
「ったく……はしゃぎすぎじゃねぇか?」
「同感だよ、誕生日祝う方にはしゃいでんだか、魔界のやつらに会えんのが楽しみなのかわかんねぇな」
「…私はどっちが喋ってるかわかんないよ……なんで私の両脇に座るのさ」
「「ここが定位置だから」」
「…聞いた私が馬鹿だったよ…」
呆れ気味にため息をアリシアはつく
定位置だからって理由じゃ駄目なのか?
「にしても、どーやって来るつもりなんだ?まさか帝都ん中堂々歩いては来られねぇだろ?」
「フレンとリタが居りゃテレポートで来れるさ。意外と難しいんだぜ?あれ」
「ふーん、すっげえ簡単そうにやってたように見えたけど?」
「ユーリは感覚でやってるからね……」
「おう、だから難しい原理とかはリタに聞いてくれ」
「いや、オレそうゆうの聞いてもわかんねぇから遠慮しとくわ」
そんな他愛のない話をずっとしていた
アリシアのことがあっていけ好かなかったが、少し打ち解けたような気がした
《ユーリ、そろそろつくよ》
「了解っ……おーい、お前らそろそろつくらしいから急に出てきても驚くなよー」
「…何、さらっと難しいこと言ってるのさ…」
隣で苦笑いして見つめてくるアリシア
すると、窓の開いていないはずの部屋にふわっと軽く風が吹いた
部屋の扉の近くに目を向ければ、待っていた魔界のみんなが来ていた
アリシアはみんなを見るなり、エステルたちの元へ行ってしまった
「エステルー!」
「アリシアっ!もう、心配したんですよ!!」
「あはは…ごめんなさい…」
「ふふ、でもあなたらしくて私はいいと思うけど」
「そんなことより、あの馬鹿魔王は何処よ、一発ぶっ飛ばさないと気が済まないわっ!」
リタの発言に体が強ばる
あいつはあいつで、フレンよりもタチが悪い
「って、言ってるぜ?魔王様?」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべて言う『オレ』に少し怒りを感じたが、今はそんなこと言ってられない
とりあえずリタの目当てをどうにか変えなくては……
「あ!ねぇみんな見てよ!」
カロルの声が聞こえた方に顔を向けると、二人が並んでいた
「すごいよ!服と頭くらいしか見分けらんないよ!」
「声も顔も体格も一緒だなんてすごくないっ!?」
二人とも目をキラキラさせて言う
オレですら声では識別出来そうにない
まぁ、気配で判別は出来るんだが…
……これ、思ってた以上にすごいことになんじゃねぇのか……?
ーあれから数十分ー
パーティの準備は殆ど終わりに近づいた
みんな私のためにってやってくれてる
…ただ一つだけ問題なのは……
「あ、リタ!」
「「ん?何よ」」
「いえ…魔族の方のリタ…を呼んだつもりなんですけど…」
そう、これ
名前だけだと両方振り向いちゃうからとっても面倒
ユーリは魔王様って呼べばいいから、みんなそう呼んでるけど、後のみんなはどうしようもない
フレン達は『フレン』の方が騎士団長って呼び名で呼ばれてるけど…
レイヴンとかジュディスは特にこれと言って何かあるわけじゃないから、どうしようもない
……頼んだの、私なんだけどね…←
「ははっ、これはこれでおもしれぇからいいじゃねぇか」
くくっと楽しそうに笑いながらユーリが傍に来た
『ユーリ』の方は『リタ』に言われて渋々手伝っている
「…ん、それもそうだね!」
ニコッと笑う
みんなが私のために祝ってくれる誕生日
本当はもう一人いた筈なんだけどね……
でも、見えなくてもきっといつでも傍にいると思うんだ
………『ユーリ』の、ね
「「こっち終わったわよん!」」
「「こっちも!」」
「「準備OK、だね?」」
「「ええ、もちろん」」
「「なら始めましょ」」
「「はいっ!」」
「「なのじゃ!」」
「「「ワオーン」」」
「「んじゃまぁ………」」
《アリシア、お誕生日おめでとう!》
クラッカーのパンッと言う音と一緒に、紙吹雪が中を舞う
お城の豪華なパーティよりも
みんながこうして笑って祝ってくれるパーティの方が何百倍も素敵で嬉しい
すっと息を吸ってみんなにちゃんと聞こえるように
「ありがとうっ!!みんなっ!!!」
誰にもまだ見せたことのないくらいの笑顔で言う
『心から笑う』ってきっとこうゆう時なんだろうね
今までで、一番、最っ高の誕生日だ
ーーーーーーーー
(……悪ぃ、やっぱ一回抱きしめさせて)
(あっ!てめぇ!人の嫁さんに何してんだよっ!)
((ユーリっ!!))
(あ、ハモった)
(魔王様っていつもあんな感じ?)
(毎日です…)
(大変…ですね…)
(あら、面白そうじゃない)
(ふふ、楽しいわよ)
((それ…ジュディスちゃんだけよ…))
(そんなことより、エアルについて教えてよ)
(あたしも、マナについて教えてよ)
((楽しそうじゃのう))
(……わかったから、二人とも一度離れよっか?)